業界からは、大幅な制度変更の弊害を懸念する声が聞こえてくる。
こうした声を踏まえ議論をどう進めるべきか。キーパーソンが意見を交わした。
【出席者】
石坂匡史/東京ガス 執行役員電力事業部長
市村 健/エナジープールジャパン 代表取締役社長兼CEO
市村拓斗/森・濱田松本事務所 パートナー弁護士
岡本 浩/東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員
―同時市場改革の必要性について、どのように考えますか。
市村(健) 電力システム改革以降、それまで電力会社に課されていた供給義務が供給能力確保義務に形を変え、送配電事業が分離された中でも、バランシンググループ(BG)に30分計画値同時同量を課すことで安定供給確保を目指してきました。ですが実態ではそれが誠実に履行されておらず、そのしわ寄せを一般送配電事業者(TSO)が受けています。そうであるならば、供給と需要のリソース情報をTSOに集約しようという議論になることは至極合理的です。これに加え、対策を必要としているのが太陽光発電です。大量導入が進めば系統の混雑管理をしきれなくなりますから、TSOがワンストップで管理するという、同時市場の考え方に合理的なソリューションを見出すことは理解できます。
岡本 TSOの立場として、同時市場の議論が始まったことを歓迎しています。需給ひっ迫を何度か経験する中で、最も怖かったことが、情報が足りず打つ手がなかったことです。2021年1月上旬のひっ迫時は、連絡できる自家発電のお客さま全てに電話で協力を求めましたが、対応いただけるのは三が日明けの1月4日になってしまうなど、当時は何ができるのかさえ分からない状況でした。こうした経験から、同時市場の中で需給に関わる情報をTSOや電力広域的運営推進機関に集約し共有することが必要だと強く感じています。ただ、供給力確保策としてはこれで十分ではありません。容量を確保するには、日々の需給運用の前提となるユニットの起動が可能であることと、そのための燃料が確保されていること、さらに長期的な燃料契約や設備投資が促されなくてはなりません。同時市場の議論を端緒に、全体の議論をしていただければと思います。
予見性失うことに危機感 供給力確保の仕組みは別途必要
石坂 20年度冬季の需給ひっ迫時は、LNGが不足していて設備が足りないということではなかったのですが、TSOと発電事業者双方がより効率的な仕組みを考えなければならないという問題意識を持つきっかけとなりました。需給調整市場が始まると、三次調整力①の不足と価格高騰というさらなる問題が発生し、同時市場の勉強会が始まったことは歓迎すべきです。とはいえ、事業者からすると、急激に制度が変更されると予見性を失いかねません。他のソリューションも含めて検討した結果、最終的に同時市場がふさわしいというのであれば、事業に大きな影響が出ない形で進めていただきたいと考えています。
市村(拓) 同時市場において実現すべきことは、電源情報の一元的把握と短期市場の効率化と考えています。前者は岡本さんコメントの通りですが、後者はkW時と⊿kWを別々の時間軸で調達することの非効率や、卸電力市場におけるブロック入札の精緻化の限界があるため、スリーパート情報に基づき市場運営者が落札していく方が、短期市場がより効率化されます。よく申し上げているのは、同時市場は供給力があることを前提として機能する仕組みということです。容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの整備が進んでいますが、それだけでは十分ではないため、同時市場は価格・量両面での安定的な燃料・供給力確保を阻害しないような仕組みを追求していくべきです。