【需要家】子供と大人の対話 気候変動問題こそ重要


【業界スクランブル/需要家】

先日、小中学校で環境教育をしている学校の先生と話す機会があった。例えばプラスチック問題について授業で取り上げ、「なるべく使わない」「リサイクルする」といった話をしても、スーパーに行くと圧倒的な量のプラスチックを目にし、どうにもならない現実を子供たちは思い知るのだそうだ。そのため今の環境教育は自己満足に陥っているとの危機感を覚えるのだという。

これは環境問題だけではないだろう。世の中に重大な問題が多くあることを伝えても、ではどうしたらよいのか、現時点では答えのない問いを皆で議論する経験は、従来の学校教育ではなかなか得られない。「こういう技術や制度があればよいのではないか」という議論を起こし、その道の専門家とも対話できれば、将来のイノベーションにもつながる可能性があると思う。しかし、これを学校だけに求めることは妥当だろうか。本来は、日本社会でそうした議論の土壌を醸成すべきではないか。

「1・5℃目標」は社会構造そのものを作り変えなければ到底達成できない。だからこそ本当は、大人と子供が一緒に「これからの社会をどうしたいか」「そもそも社会はどうあるべきか」という根源的な問いに向き合うべきだし、ともに答えのない解決策を考えるべきだ。これは、通常の学校教育の範囲に留まっていては実現できない。

脱炭素は容易ではないが、だからこそイノベーションの源泉にもなり得る。子供たちとそのことをポジティブに話し合うことは、学校というよりも大人に託されていることだろう。今のインターネット技術があれば、ある程度トライできると思う。それができなければ、いずれAIネイティブの子供世代に「大人は不要」という烙印を押されるかもしれない。(O)

自動運転への思いを胸に EV充電インフラを支える


【エネルギービジネスのリーダー達】四ツ柳 尚子/e―Mobility Power 代表取締役社長

日本のEV充電サービスをけん引してきたイーモビリティパワー。

電気料金の高騰や急速充電器の高出力化などの課題に挑む。

よつやなぎ・しょうこ 仙台市出身。早稲田大学卒業後、東京電力入社。主にオール電化住宅の普及に向けた企画などに携わる。2018年経営技術戦略研究所リソースアグリゲーション推進室室長補佐。19年から現職。

電気自動車(EV)の充電インフラ整備を手掛けるイーモビリティパワー。東京電力と中部電力に加えて、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、三菱自動車といった自動車メーカーなどを株主として、2019年10月に設立した。代表取締役社長を務めるのは東電出身の四ツ柳尚子氏だ。


EVの進化とつながり深く 正解がすぐには分からない仕事

「思い返してみれば、EV充電につながる仕事をしていた」と振り返る東電時代。オール電化への切り替えプロモーション「スイッチキャンペーン」のリアルプロモーションの責任者を務め、ショールームにはEVや充電器を展示していた。

かねて四ツ柳氏が強い関心を寄せるのが自動運転だ。現在も駐車サポートや衝突回避などコンピューターが自動車の運転をサポートするが、その先には運転手を必要としない完全な自動運転時代が到来すると期待している。

16年には、東電の「次世代リーダー研修(NLT研修)」に参加した。「30年の東電の新たな収益の一つの軸となるようなビジネスを提案する」という課題に対して、チームで提案したのは「モビリティ事業」だった。自動運転は制御性に優れるEVとの相性が良く、「EVの背中を押すのは自動運転だと思った」。福島第一原子力発電所の構内で自動運転のプロジェクトを行ったこともある。

自動運転への熱い想いを胸に秘めながらも「目指すべきゴールは一緒」との思いでイーモビリティパワーの社長に就任した。「電力業界は脱炭素や原発の再稼働などの難題に立ち向かっている。日本経済も成熟期を迎えた中で、EVは数少ない右肩上がりの領域」と充電インフラ事業のポジティブな要素を語る。一方で、自動車の電動化はどの国も経験したことがない未知の領域。EVの普及スピードには違いがあり、「軽自動車大国」の日本では、流通する車体も異なる。何をするにも「正解」はもちろん、ベンチマークとなる事例も少なく、常に手探り状態。それが事業の難しさであり、やりがいにもつながる。

【再エネ】自治体が直面 再エネ導入の壁


【業界スクランブル/再エネ】

最大50億円、そんな大規模な補助事業に注目する自治体が増えている。環境省主導の交付金における「脱炭素先行地域づくり事業」では、地域特性に応じて脱炭素に向かう先進的な取り組みを行う地域を少なくとも100カ所選定する。現時点で第4回の選定を終え、36都道府県95市町村による74提案が選定されている。

重視されるのは、他地域のモデルとなるような先進性と計画の実現性だ。この両立が非常に難しい。すでに多くの取り組みが採択される中、既存の内容と重複せず先進性を打ち出しながらも、地域の合意形成を含めて実現可能性を高めることが求められるからだ。他方、同交付金で補助金上限が20億円の「重点対策加速化事業」については、比較的要件が緩やかで申請数が少ないこともあり、今までは穴場の補助事業と言われてきた。だが、脱炭素先行地域への採択を断念する自治体が駆け込みで申請すると見込まれており、今後の採択に向けた競争率は急激に高まっているように思う。

国は自治体に対して地域の特色を生かした再エネ導入と活用を促すものの、カーボンニュートラルの実現に向けて面的に再エネを普及させるための費用負担を考えると、こうした補助金に頼らざるを得ないのが現実だ。加えて、太陽光発電や陸上風力発電はこれまで比較的大規模な開発が容易なエリアから導入されてきたが、今後はより小規模かつ分散型での電源開発、つまり住宅地に近いエリアでの開発の機会が増えることになる。いくら環境意識が高まりつつあるとはいえ、住民との合意形成のハードルはますます上がっていくだろう。地域の合意形成をいかにスムーズに進め、同時に財源を確保することができるか。それが今まさに自治体が直面している課題なのである。(K)

【火力】将来の需給シナリオ 大切な責任と覚悟


【業界スクランブル/火力】

経済産業省の発表によると、今冬の電力需給は、全国的に必要となる予備力を確保できる見込みであり、2年ぶりに節電要請を行わない方針とのことだ。電力の安定供給に関しては、多種多様な対策が講じられるわけだが、昨年春以降に全国で300万kWを超える新設火力が運転を開始した効果が最も大きいと考えてよいだろう。

このようにこの1年は供給力が増加したが、その先は供給力減少の傾向が避けられそうにない。昨年運転を開始した火力設備は、東日本大震災直後の電力不足時に計画されたものであり、その先の2026年から30年にかけては、火力の新設がなくなる一方で、運開後45年を経過する設備が1200万kW以上もあり、これらが順次停止していくことが想定されている。

現在、長期脱炭素電源オークションや予備電源などの制度整備が進められているが、大型電源投資を判断する上で必要となる長期の予見性が十分確保されておらず、それに対応するため「将来の電力需給シナリオに関する検討会」が広域機関を事務局として立ち上げられている。

これにより、発電部門として計画的な発電設備の新陳代謝や既設設備の脱炭素化が進むことを大いに期待するところではあるが、不安の方が大きいというのが本音だ。当然のことながら、20年後30年後を正しく想定することは容易ではなく、幅広の検討結果は、単なる評論で終わってしまう恐れが強い。

大切なのは予測を当てることではなく、予測が外れた時の対応策をどれだけ準備できるかに加え、何よりそれをやり抜く責任と覚悟を固めることだ。国もエネ基と切り離して自由に検討してくれと逃げを打つのではなく、エネ基の策定により国益を確保するとの気概を持ってもらいたいものだ。(N)

【マーケット情報/1月19日】欧米原油が上昇、供給逼迫感を反映


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物が小幅上昇。供給不安や生産減が、価格に対する強材料となった。

イエメンを拠点とする武装集団フーシは18日、クウェイトに向かって航行中だったケミカルタンカーに対して、対艦弾道ミサイルを発射。怪我人や船舶の損傷はなかったものの、中東地域における情勢が一段と悪化したとみられ、供給不安が強まった。また、最低でも4隻の中東積み原油を載せたタンカーが、紅海およびスエズ運河を避け、南アフリカの喜望峰経由で欧州に向かっているようだ。

米国およびカナダでは、寒波により原油の生産が一時停止。米国ノースダコタ州では17日、50%以上の原油および天然ガス生産が止まった。ただ、その後は徐々に再稼働し、19日時点での稼働停止は、30%程度となっている。加えて、米国では輸入減を受け、週間在庫が減少している。

一方、国際エネルギー機関は、2024年の原油供給量が、過去最高の日量1億305万バレルに上り、供給過多になると予想。米国、カナダ、ブラジル、ギアナからの産油量が増加するとの見方を示した。OPECは、2025年までの需要の伸びを予測するが、2024年における増加は想定のペースを下回るとも言及。 中東原油の指標となるドバイ現物の価格が、需給緩和感を映して小幅下落する要因となった。


【1月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.41ドル(前週比0.73ドル高)、ブレント先物(ICE)=78.56ドル(前週比0.27ドル高)、オマーン先物(DME)=78.79ドル(前週比0.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=78.74ドル(前週比0.21ドル安)

【コラム/1月22日】米国の電力自由化は成功しているか


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国で、電力自由化の成否についての議論が最近活発化している。米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした全面自由化が始まり、その後本格的な電力自由化時代に突入した。同国では、電力自由化開始後、電気料金は上昇基調にあり、とりわけ2022年は、世界的に大きく上昇した化石燃料価格を反映して、全国平均の家庭用電気料金の上昇率は、13%と自由化開始以降最大となった。これを契機に米国では、電力自由化に対する疑問が呈されるようになった。

2023年1月4日のニューヨーク・タイムズ紙には、「なぜエネルギー価格はこれほど高いのか?規制緩和を非難する専門家もいる」と題した記事が掲載された。米国では、電力小売市場が自由化された州と規制されている州があるが、記事では、何人かの専門家の見解を紹介しつつ、自由化州では、非自由化州と比べて電気料金は高くなる傾向があり、自由化州の消費者は、非自由化州の消費者よりも電気代を月約40ドル多く支払っていると指摘している。実際、エネルギー情報局(EIA)のデータで見ると、電力自由化開始当初から自由化州の電気料金は非自由化州と比べて高かったが、その差は現在まで縮小していない。

エネルギーアナリストであるRobert McCullough氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の依頼で電気料金の動向を調査したが、自由化州と非自由化州の料金格差がこれほど長い間縮小しないのは、何か機能不全があるはずだと述べたことを同紙は紹介している。そして、比喩を使って「あなたの車の調子が20年もの間悪ければ、修理工場やディーラーにもっていくでしょう」とも述べたとのことである。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、自由化州の電気料金が高いのは、発電事業者が卸電力市場に電力を販売し獲得した利益が、効率化によるコスト節減分を上回っており、その差額が消費者に還元されていないためである。また、自由化で、発電や小売は、競争にさらされるようになったが、送配電は依然として独占であり、利益の増大のためにネットワークを拡大するインセンティブが生じ、その投資コストが増えていると述べている。そして、自由化州では、規制当局によるネットワークの建設計画や料金の認可は甘くなっているとしている。これに対して、非自由化州では、垂直一貫した電気事業がより厳しい規制を受け、コスト管理もより厳格であるとの見解が述べられている。

消費者団体の見解も紹介されており、わが国でも有名なRalph Naderが設立した消費者権利擁護団体Public Citizenでエネルギー・プログラムを担当するTyson Slocum氏は「こうした市場(自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する市場)は、実はあまり効率的ではない。このような市場は、実は最小コストのオプションではない」と述べている。Tyson Slocum氏には、筆者も何回かお会いする機会があったが、彼は、一貫して、垂直統合され規制された電気事業のほうが、垂直統合が分離され、競争が導入された電気事業よりも効率的だとの見解であった。また、カリフォルニア州の消費者団体TURN (the Utility Reform Network)も同様な見解を示している。筆者が、かつてTURNのダイレクターであったRobert Finkelstein氏にお会いした時、同氏は、「多くの消費者団体がそうであるように、TURNも電力分野は規制のままが(従って垂直統合が)望ましいとの立場である」と述べていた。 そして「知らない悪魔より知っている悪魔のほうがまだましだ」と述べた言葉は印象的であった。

さらに、Harvard Business SchoolのAlexander MacKay教授とFlorida大学のIgnacia Mercadal教授が発表したワーキングペーパー(2023年11月28日にアップデート)でも、発電会社によってチャージされる高いマークアップは、効率化によるコスト削減を上回り、卸売価格が高くなり、これが小売料金を押し上げていると述べている。

これらの自由化への批判に対しては、自由化を推進する立場からは当然反論もある。実際、先述のRobert McCullough氏が過去に同じ趣旨の見解を提示したとき、米国における電力自由化を主導したHarvard大学のWilliam W. Hogan教授は反論し、独立系統運用者が運営する卸電力市場における限界発電プラントによる入札価格で市場が高価格となることは、市場の効率性を意味しており、卸電力市場における市場支配力軽減ルールにより、高価格が市場支配力の行使によるものか、効率的な運営の結果かは、チェックされていると述べている。さらに、自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する広域的な市場において、増大する再生可能エネルギー電源のネットワークへの統合を促進するためにはネットワークの増強は必要であり、地球環境問題の解決の観点からも望ましというのが規制当局の基本的な考えである。

このように、米国では電力自由化を批判する見解とそれを擁護する見解とがあり、議論は平行線である。しかし、自由化が始まり20年以上経過し、自由化州と非自由化州の料金格差が一向に縮小していない事実がある限り、米国の電力自由化が成功したとは言い難く、自由化への批判や懐疑論は根強く存続し続けるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】欧州の模範国 スウェーデンの先進性


【業界スクランブル/原子力】

ウクライナ戦争などを契機に世界的なエネルギー危機の様相を呈する今日、フランスをはじめ、ドイツを除く世界各国が原子力シフトを開始したようだ。

米エネルギー省は2023年12月、「世界全体の原発の発電容量を50年までに3倍に増やす」との宣言に、日本を含む22カ国が賛同したと明らかにした。この宣言には、日米のほか英国やフランス、スウェーデン、フィンランド、韓国、COP28議長国のアラブ首長国連邦(UAE)なども賛同している。

そうした動きの中で特に注目したいのが、政府としてロードマップを策定したスウェーデンの動きだ。議会が原発の新設に向けた法改正を可決し、24年1月1日から施行する。

これにより、総発電量を倍増させるため、遅くとも35年までに大型炉2基分に相当する原子力設備を完成させる。ほかにも45年までに大型炉で最大10基分の設備を追加するなど、原子力の大規模な拡大が実現する。

スウェーデンでは現在、フォルシュマルク、リングハルス、オスカーシャムの各地で合計6基の原発が稼働中。電源構成は水力(45%)、原子力(30%)、風力(17%)で、石油火力はわずかだ。

歴史的な1972年のストックホルム会議を主催するなど、もともと環境先進国だが、エネルギー政策では社民党政権下で脱原発を決めた80年の国民投票の後、一転して現実路線を堅持している。今やヨーロッパで最も熱心な原発国であり、日本にとっても範とするに足る国だ。

国境を接するロシアと対峙するためにも、原子力推進により国力増強を図ることに国の死活的重要性が存すると広く国民が理解しているからだろう。その点は、わが国も見習うべきであることは言うまでもない。(S)

今下す一連の決断が未来の礎 日豪協力の新たな形を思い描く


【リレーコラム】エリザベス・コックス/オーストラリア大使館公使(商務

1年の中で1月は、過去を振り返り未来を見据えるのにふさわしい時です。

2023年10月には、日豪経済界が一堂に会する重要な年次会合にとって記念すべき60周年を迎えることができました。その年次会合に先立って豪産業界300人の聴衆を前に私がお話した際、冒頭にご紹介したこの表現が共感を呼んだように感じられました。

その中で鉄鉱石、石炭、液化天然ガスに端を発した過去60年の日豪通商関係の経緯についてお話しました。そして現在、豪州は日本にとって最大のエネルギー供給国となっています。

豪州が支える日本のエネルギー

こうした点を簡単に説明すると、毎日1隻以上のLNGタンカーが日本の港に向けて出航し、日本のインフラで使われている鉄鋼の半分を豪州産の鉄鉱石、原料炭などが支え、日本の電力の1日当たり8時間分は、豪州が日本に輸出するエネルギー源で生み出されているのです。

一方で、この点と比べて明確に見えないのは、「これから、何をするか」という側面でしょう。日豪両国の政府が同様の排出削減目標を掲げていることは、プラスになるでしょう。ただし、水素、アンモニア、重要鉱物のプロジェクトが必要とする資本の国際争奪が厳しいものであることも理解しています。

豪州は22年、重要鉱物戦略を改訂・公表しました。この戦略の目標は、豪州がESG基準で世界をリードする立場にいることと、より強固なサプライチェーンのための国際的な提携関係を構築することにあります。また、豪州政府は、再生可能水素プロジェクトに対し大規模な投資を継続しています。

しかし、もっとも重要な点は日本が持つ、両国経済のためだけでなくより広い地域の脱炭素化を後押しする、という大志と緊急性を豪州が共有していることです。

ですから、これから50年、60年後の未来を思い浮かべると、日本のパートナーと共に開発された豪州での再生可能エネルギープロジェクトから生産された液化水素が、日本建造のタンカーによって、豪州の港から地域へと輸出されていきます。また、日豪共同開発プロジェクトでつくられた持続可能な航空燃料で飛ぶ飛行機や、日本製の蓄電池と豪州で精製された鉱物を使った電動航空機に乗って、日豪の観光客が互いの国を訪れている未来も想像できます。さらには、未来のための日豪協力の新たな形を思い描けます。私たちが今下す一連の決断が50年、60年先の未来を形作る礎となるのです。

エリザベス・コックス オーストラリア国立大学で学士号、シドニー工科大学で修士号を取得。2021年にオーストラリア貿易投資促進庁に入庁し、東京に赴任。現在は北東アジア統括ジェネラル・マネージャー、および在日オーストラリア大使館で公使(商務)を務める。

※次回はハイドロジェンエンジニアリングオーストラリアの福間悠子さんです。

【石油】中東対アフリカ OPECプラスで内紛


【業界スクランブル/石油】

OPECプラスは、11月30日、年2回の閣僚級会合(以前のOPEC総会に相当)を開催し、6月に決めた1月からの減産合意を追認したが、追加減産は見送った。ナイジェリア、アンゴラなどのアフリカ諸国が生産量未達を理由に削減された新生産枠を不服として、サウジアラビアなどと対立、新しい合意を決められなかった。

ただ最近の原油価格軟化・2024年の景気後退観測に対応するため、OPECプラスの協調減産とは別途、従来のサウジ日量100万バレル、ロシア30万バレルの自主減産を延長。さらにイラク、UAEなど6カ国で70万バレル、ロシア20万バレルの自主的な追加減産で、計220万バレルを24年第1四半期に実施する旨が発表された。

問題は24年の世界石油需要である。11月中旬時点でIEAは景気減速・EV普及で前年比90万バレル増に伸びが鈍化するのに対し、OPECは前年並みの225万バレル増の伸びを予想している。なお、IEAは24年の非OPECプラスの石油供給を米国、ブラジルを中心に160万バレル増とみており、数字を見る限り、それなりの対応となっている。

追加減産が合意できなかったことでWTI先物価格は会合後2日間で約4ドル下落したが、今回、むしろOPECプラスで注目されるのは、北アフリカ参加国の不満という形の新しいほころびである。過去、OPECでも、北アフリカ諸国の違反増産で原油価格が暴落した例は数多い。今後の展開が気になるところである。

また、今回ブラジルがOPECプラスにオブザーバー参加するという。大統領に復帰したルーラ氏がはしゃいでいるだけだと思うが、24年の大規模増産が計画されているだけにこちらも注目される。(H)

【シン・メディア放談】電力ニュースの陰に隠れた化石業界 2024年の業界展望を占う


<メディア人編> 業界A紙・業界B誌・業界C紙

脱炭素という宿題を抱えつつ、足元は意外にも静かだった化石燃料業界。新たな年の行方はいかに。

 ―2023年は大手電力の不祥事問題や規制料金値上げなどに関する報道でたびたび業界がやり玉に挙げられた。翻って化石燃料業界では電力ニュースほどパンチのある出来事はなかったと思う。

A紙 23年の年明けは、その前年大混乱だったエネルギー価格がどう展開していくのか、心配が強かったが、ふたを開ければ懸念したほどの問題は生じず、意外と静かな年だった。

B誌 原油価格動向からもそれは分かる。年後半のWTIは1バレル70~80ドルの狭いレンジで概ね推移。地政学リスクが騒がれたが、OPEC(石油輸出国機構)の方針がそれなりに機能したといえる。

C紙  LPガスのCP価格も安定していた。さらに22年度に続き23年度補正でも流通合理化で多額の補助金が計上され業界は潤った。

B誌 他方、国内市況は9月4日にレギュラーガソリン全国平均価格が調査開始以来の最高値となった。その後、補助金の延長により1ℓ200円超えといった事態は回避したものの、市場のゆがみは一層拡大している。

―23年はオイルショックから50年だったが、足元では石油の中東依存度が再び高まり、オイルショックの教訓が生かされているとはいい難い。

B誌 ただ、中東比率が高いことは悪いことばかりではない。実際、何かとリスクが指摘されても供給途絶は生じていない。中東はアジアだから、日本人の考え方と似ているといった話も聞く。地政学リスクがなくなることはないのだから、日本はこれまで通り買い続けると言っていけば、中東が減産しても日本との関係を切ることはないだろう。

―LPガスでは取引適正化への対応がようやく前進したことも大きかった。

C紙 資源エネルギー庁は今回かなり本気だった。審議会メンバーの選び方、そして公での発言と実態の違いを通報できるフォームの設置は画期的だ。やはり朝日の連続報道が発端となり、その背景としてエネ庁がメディアをうまく使ったことが大きかった。重ねて消費者団体も声高に訴えていた。

A紙 企画官ポストがなくなり課長マターとなったことが、逆にうまく作用したのかもね。

C紙 他方、この問題は国土交通省が重い腰を上げなければ頓挫する。一般紙にはLPガス事業者をいじめるだけでなく、国交省や不動産事業者側の問題にもしっかり切り込んでほしい。

【ガス】二刀流で持続可能に イグニチャーへ期待


【業界スクランブル/ガス】

11月30日、東京ガスは新しいソリューション事業ブランド「イグニチャー」の立ち上げを発表した。今まで培ってきたノウハウにGXやDXなど最新技術を融合させることで、エネルギー分野の枠を超えて、個人・法人・地域社会のお客さまが抱える問題を解決するという。ただ、まだプレスリリースなどには既存ソリューションを超えた内容は示されていない。東ガスが中期経営計画の中で、将来の金のなる木の一つとして位置付けているソリューション事業の「入れ物」が、まずは示されたということだろう。

現在、都市ガス事業者は概ねガス供給の一本足打法だ。しかし、世界中で脱炭素化が叫ばれる中、誰もが「新たな生業を見出して二刀流で持続可能な成長を実現すること」が最重要課題と考えている。幸いにも強固な顧客基盤、信頼ある企業価値、豊富な事業ノウハウがある。特に家庭用の顧客と直接会えることは、他業界にはない強みだが、今まではそうした強みを、エネルギーを超えた分野で生かせないでいる。イグニチャーは、2025年度までに既存ソリューションと合わせて売上高3100億円を目指す。この事業展開は、今後都市ガス事業者にとって大きな示唆となろう。

一方、真にイグニチャーがエネルギー事業からひとり立ちするためには、さまざまな課題を乗り越える必要がある。例えば、家庭用顧客に対しデマンドサイドの発想で供給者の枠を超えて困っている課題を見出し、そこに的確なソリューションを提供できるだろうか。供給者としての強固なDNAを消し去り、急速に変化する将来社会を見据えながら、新事業を展開できるかどうか。これからが正念場だ。決して「仏作って魂入れず」にならないよう、期待を持って注目していきたい。(G)

ウラン市場の構造変化に思う


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ウラン市場が熱い。この2年ほどの間に、ウラン精鉱の価格は約2倍。転換や濃縮加工はさらに凄まじく、ともに3倍近い価格になった。

こうなった要因は三つだ。脱炭素の流れやエネルギー危機を踏まえた原子力回帰への期待、福島事故以降の投資の停滞、それに、転換や濃縮も含め市場占有率の高かったロシア産離れである。

幸い、今すぐ発電所が止まるような供給の支障は発生していない。最近では、精鉱に加え、転換後の六フッ化ウランや濃縮ウランの市場も育ってきて、発電事業者などが各工程で保有する在庫の余裕分などを売却することが可能になった。このため、市場価格の上昇とともに、より切実に不足する事業者にモノが動いているようだ。価格シグナルは、鉱山や加工事業者に増産も促しつつある。ただし、最近公表された仏オラノ社の濃縮設備拡張計画をみても操業開始は2028年。短期的には現有設備の稼働向上は期待できるものの、設備投資による抜本的な供給力の増加には、5年程度はかかるのであろう。

前述のような市場の変化により、日本の発電事業者はウランの在庫の持ち方を見直す機会を得た。かつては精鉱の購入に始まり、転換・濃縮などを順次、限られた事業者と長期に契約せざるを得なかったが、さまざまな工程で多様な相手と取引することで、資産の最適化やリスクの分散などが可能になった。

日本全体の電力安定供給の観点からすれば、現在のような需給ひっ迫時のための国内濃縮事業ではないか。世界のウラン需要は長期的に相当増えそうだが、西側の濃縮事業者は実質2社しかない。国内濃縮需要の一定規模を担うという使命を再認識し、増設を加速するという議論はないのだろうか。日本原燃や発電事業者トップの矜持に期待したい。

【新電力】電力調達の優遇縮小 リスク最小化の正解は?


【業界スクランブル/新電力】

2023年度の電力卸市場は、さしたる高騰もなく、安定的に推移している。多くを市場調達に依存している新電力は現時点では安定した収益を上げているものと推察される。そうした中で、某新電力大手が今期上半期で巨額の赤字を計上したというニュースは、驚愕だった。詳細は知る由もないが、前年度の市場高騰を踏まえ、今となっては高額での相対卸電源を大量に確保したということか。

結果論であるが、市場高騰に備えあらかじめ手を打った新電力が損失を抱え、市場の成り行きに委ねた新電力が利益を計上したという側面はあろう。では無策が正解なのか。もちろん、否である。市場の成り行きに委ねていれば、市場高騰時に経営破綻は免れない。電力小売全面自由化から7年が経ち、各社はこれまでの経験を基に独自の調達戦略を構築していくべきだ。

そうした中、北海道電力が24年度から常時バックアップの廃止を発表したことは象徴的である。廃止の理由は内外価格差是正が徹底されたというものであり、いずれ他の旧一電も追従するだろう。ベースロード市場も、同じ運命をたどるのか。いずれにせよ、新電力への優遇措置が今後、縮小あるいは廃止されていくことは確実だ。

電力調達に関する優遇措置が縮小・廃止していく中で、新電力が、リスクを最小化する電源調達手法はあるのか。正解は各社ごと、年度ごとに異なる。確実に言えるのは、各社が調達の適正価格を把握することが不可欠であるということだ。具体的には、太陽光が稼働しない時間帯の各エリアでの電源構成を把握し、発電コストの理論値を計算することだ。適正価格での相対契約で電源を一定量確保すれば、高値づかみによる収益悪化や市場高騰リスクは相当程度排除できるに違いない。(S)

原子力への「理解」深まるも COP28が残した課題


【ワールドワイド/環境】

ドバイで開催されていた気候変動枠組み条約第28回締約国会合(COP28)が閉幕した。初日にCOP27からの宿題となっていた損失と損害(ロス&ダメージ)の資金アレンジメントを採択するなど、順調な滑り出しだった。

しかしCOP28の最大の課題であるグローバルストックテイクでは、化石燃料のフェーズアウトを巡って議論が紛糾した。欧米諸国、島しょ国、NGOなどは1.5℃目標を達成するためには化石燃料フェーズアウトが不可欠であると主張したのに対し、産油国、ロシアなどは目指すのは温室効果ガス削減であり、特定のエネルギー源を狙い撃ちにするべきではないと主張した。最終的には「フェーズアウト」ではなく、「移行」という表現で決着した。ハマス・イスラエル戦争に加え、今回の化石燃料叩きで、中東産油国は欧米諸国への不信感を強めたのではないか。

2035年の次期「国が貢献する貢献(NDC)」設定では1.5℃目標との整合性を取ることが奨励され、COP26以来の1.5℃目標路線がより明確になった。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書に盛り込まれた25年ピークアウト、35年マイナス60%などの数値にも言及したが、いずれも「認識」対象であり、中国、インドが35年全球60%と整合的な削減目標を出す可能性はわずかである。

今回、脱炭素化の手段として原子力、CCUS(CO2回収・利用・貯留)、移行燃料が明確に位置付けられたのは大きな成果である。原子力、CCUSがCOPの決定文書でポジティブに扱われたのは初めてだ。22カ国が参加した50年までに世界の原子力設備容量3倍を目指すとの宣言もあり、原子力への認知が進んだと言える。

グローバルストックテイクには1.5℃と整合的な排出削減数値や野心的なエネルギー転換目標が盛り込まれたが、それを途上国で実現するには巨額な資金が必要となる。インドのモディ首相は「資金援助議論は10億ドル単位ではなく兆ドル単位だ」と述べた。先進国は毎回のCOPで野心的な目標の引き上げを主張しているが、それは途上国からの巨額な請求書になって返ってくる。それに対応できなければ、野心的な目標も絵に描いた餅だ。皮肉的に見れば、COP28は「すでに死んでいる1.5℃目標」を「まだ生きている」ように見せかけたとも言える。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/1月18日】2024年の制度設計を考える


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

この度の能登半島地震において被害にあわれた方々に心からお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

また、電力をはじめインフラの復旧活動に尽力されている皆さまには、心よりお礼を申し上げます。

さて、2023年も慌ただしく過ぎ、24年が始まった。今年は、これまで審議を重ねてきた水素などやCCSの関連法案提出、改正再エネ特措法や容量市場、発電側課金など、多くの制度の施行、さらには次期エネルギー基本計画の見直しが着手される見通しとなっている。

今回は、24年に着目される政策・制度について取り上げてみることとする。

エネルギー関連の制度設計は依然として活発

昨年末、特に11月から12月にかけては多くの審議会が開催され、議論の取りまとめも行われている。特に月末に集中して開かれる傾向にあり、筆者が確認している審議会においては1週間で10件近く開催されるケースもあり、それだけ審議が必要な議題が多いということが分かるだろう。

2024年も多くの制度設計が行われる

24年も引き続き多くの制度設計が行われ、実行に移されることが想定されている。

1.GX推進のための施策実行

昨年はGX(グリーン・トランスフォーメーション)について、基本方針から関連法の成立、その具体的な制度設計、重要分野の投資促進策、必要な予算措置に至るまで、一気に政策が推し進められ、いよいよ今年は、その「実行元年」として動くことが期待される。

2月には世界初の国によるトランジションボンドとして、5年及び10年の2種類のクライメート・トランジション利付国債が発行する予定で、調達した資金は分野別投資促進策で整理された施策に投じていくこととなる(閣議決定された令和6年度当初予算では0.7兆円)。予算については今月に開会される通常国会で審議され、3月までに成立する予定となっている。

また、昨年5月に成立したGX推進法に基づき、GX推進機構が設立され、その中で、カーボンプライシングの具体設計が行われることが予定されている。今年度から本格運用したGXリーグでは試行的に排出量取引が始まっているが、26年度以降にその本格化、28年度に化石燃料賦課金、33年度に有償オークションの開始が予定されるところ、その詳細制度設計が着目される。

2.次期エネルギー基本計画の検討

今年は第6次エネルギー基本計画の公表から3年目にあたることから見直しの議論が行われる見込みとなっている。この3年間の変化(例えば、原子力政策の動き、再エネの案件形成や技術開発から系統・需給制約対応、事業規律の強化、需要側に焦点を当てたエネルギー政策など)を踏まえた政策の在り方や第6次計画で取り上げた30年のエネルギーミックス目標見直しの要否、COP28で議論された35年のNDC目標の設定、現在、広域機関で検討されている将来の電力需給のシナリオの反映等、多くの論点がある中で、日本として「あるべき姿」をどう組み立てるか、今後の検討が注目される。

昨年12月18日に開かれた総合資源エネルギー調査会 エネルギー基本政策分科会(第54回会合)では、まずは足元のエネルギー政策の状況と課題・対応策が話し合われている。

資源・燃料分野では、資源外交、水素等の導入促進、SAFなどの導入推進、CCSについて、供給側では、再エネの主力電源化と原子力の活用について、小売では、カーボンニュートラル実現に向けた電力・ガス市場の整備、需要側では徹底した省エネの推進が取り上げられている。それぞれ、既に実施中または検討中の施策がある一方、まだ着手していない課題もあり、エネルギー政策全体をにらみながら確実に対応していくことが求められている。

第一次石油危機から50年が経ち、次の50年をどう構築していくか。村瀬資源エネルギー庁長官の挨拶にも、この50年には当初想定されていなかったこと、例えば、原子力発電の実装、LNG活用のビジネスモデル、省エネなどが当たり前のようになっているとの話があったが、まさにカーボンニュートラルや脱炭素の実現が問われる中、さらには不安定な世界情勢や多発・激甚化する自然災害への対応を含め、あらためてエネルギーと産業・生活の在り方を考え、また新たなビジネスモデル等ができることが重要になるだろう。

3.資源燃料関係

水素などの導入を後押しするための値差支援や拠点整備支援、低炭素水素の基準策定、多用途に対応するための保安規制と、CCSの分離・回収・輸送・貯留というバリューチェーン構築と保安規制、双方に関する関連法案が通常国会に提出される見込みとなっている。

GX戦略における方向性が整理され、予算措置も取られる見通しとなっていることもあり、関連法が成立されれば、その普及に向けた取り組みは加速するだろう。