【電力】戦後国際秩序の崩壊 気になるイランとの関係


【業界スクランブル/電力】

10月7日、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、イスラエルに対し大規模な奇襲攻撃を行ったことを契機に、両者は戦闘状態に入っている。ロシア軍による隣国ウクライナへの侵略行為に続き、第二次世界大戦後に構築されてきた国際秩序が大きく揺さぶられる事態が続いている。

ハマスが今回行ったイスラエル民間人に対する残虐行為は、歴史が数百年戻ったような蛮行だ。民主主義の価値観の中で育った日本人には、この蛮行はあまりにも現実感がない。そのため、教条的な平和主義と一知半解なマスコミ報道を基に、ただ停戦を主張する向きも目立つが、自分は中立なのだという自意識を満足させるだけで、問題は何も解決しない。イスラエルに戦時国際法を守れと言ったところで、ガザ市民を守る気がなく、むしろ人間の盾とするハマスに対峙するには、国際法の限界は明らかだ。

一部の人質が解放されるにつれて、国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の腐敗、ハマスとの癒着も表面化している。UNRWAには日本も含めて各国から多額の資金が流入しているが、資金を引き上げるべきだ。

ロシアの蛮行への対応を含め、もはや国連の限界は明らかだ。世界の人口の7割は民主主義でない国で暮らしている。そのうちの2カ国は、国連安保理で拒否権を持つ。

そして、気になるのが、資源外交の一環なのか、日本が昔から友好国としてきたイランとの関係である。世界が比較的平和な時代なら見逃しもされようが、ハマスやヒズボラなど世界中のテロ組織を支援している国家と有効関係を標榜することが、平和と人権を尊ぶ国にとって国益になるか。(V)

台湾総統選とエネルギー 野党候補は〝脱〟脱原発


【ワールドワイド/経営】

2024年1月13日、台湾で総統選挙が実施される。与党・民進党からは頼清徳氏、野党からは国民党の侯友宜氏と民衆党の柯文哲氏が立候補し三つ巴の選挙戦となっている。

今回の選挙戦では各候補者の中国への姿勢に注目が集まっているが、エネルギー政策においても台湾は岐路に立たされている。選挙や住民投票を経て脱原子力政策にかじを切ったが、エネルギー危機や中国による台湾周辺での軍事演習を契機にエネルギー安全保障が大きな課題となり、選挙戦では原子力の是非も再び争点となっている。頼氏は蔡政権の脱原子力政策を継承しているのに対し、侯氏と柯氏はともに〝脱〟脱原子力政策を主張している。

民進党の頼氏は現・副総統でもあり、エネルギー政策では蔡政権の路線を引き継ぎ、脱原子力、再エネ拡大をエネルギー政策に掲げている。原子力では25年に原子炉全基停止による「非核家園」の実現が目標とされ、唯一稼働している第三(馬鞍山)原発は25年5月までに停止する予定である。

他方、原子力に頼らない50年カーボンニュートラル(CN)達成に向けて大規模な再エネ開発を推進し、30年に発電電力量ベースで30%を達成することを目標としている。ただし、天然ガス火力への依存も高まり、30年に同50%に達する見通しである。

国民党の侯氏は 〝脱〟脱原子力政策や天然ガス火力への依存度の低減を掲げている。天然ガスを全量海外からの輸入に依存しているため、天然ガス火力の増加はエネルギーの海外依存度を高めると批判し、原子力の利用によって50年CNの達成とエネルギー安全保障を両立させる政策を発表した。当選した暁には第一(金山)・第二(国聖)・第三南原発の再稼働・運転期間延長を行い、さらに中断した第四(龍門)原発の建設を再開するとしている。

民衆党の柯氏も侯氏ほど積極的ではないが、原子力の利用を自らの政策に取り込んでいる。原子力の利用は再エネ拡大の過渡期には合理的・現実的な選択肢であるとして、第二・第三原発を再稼働し、運転期間を延長させると表明しているのだ。

今回の選挙戦では頼氏のみが脱原子力の方針を堅持する一方、野党候補はそろって原子力にポジティブな政策を発表している。50年CNとエネルギー安全保障の両立に向けて、台湾市民の選択と台湾が原子力の是非を含む政策課題にどう取り組んでいくのか注目していきたい。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

メジャーが大型M&A その背景事情を探る


【ワールドワイド/資源】

2023年、エクソンモービルとシェブロンが大型M&A(企業の合併・買収)を相次ぎ発表した。エクソンモービルは、CCS(CO2回収貯留)やEOR(石油増進回収)を操業するデンベリー(米)を49億ドルで買収したのに続き、10月中旬、米国南部に広がるパーミヤン盆地を拠点とするシェール会社パイオニア・ナチュラル・リソーシズ(米)を買収する630億ドルの巨額買収合意を発表した。

一方のシェブロンは、8月に76億ドルでシェール会社PDCエナジー(米)を買収したのに続き、10月下旬にシェールおよび南米ガイアナの複数油田を保有するヘス(米)を600億ドルで買収すると発表した。

これらの買収により、エクソンモービルはパーミヤン盆地最大の生産者となり、社としても27年までに世界で日量500万バレルを産出する石油メジャー史上最大の生産者になると見込まれる。同時に取得したメキシコ湾沿岸部のCO2輸送網やCCSを自前の下流資産と連結させ、効率的な低炭素エネルギーの供給網構築を促進させる。シェブロンは国内シェール資産を補充するとともに、ガイアナ資産を確保でき、将来の石油生産増強を確実にする。

米国メジャーが大型M&Aを繰り返す背景に何があるのだろうか。

第一に、企業の戦略面である。近年、脱炭素化重視のため余剰資金は配当や自社株買いに優先的に回し、新たな探鉱を抑制していたが22年、エネルギー危機によって一転し、原油・天然ガスが高騰して記録的な収益を上げ、同時に脱炭素化と安定供給の両立が戦略化された。

第二に、シェールに関する事情である。優良アセットのポテンシャルは限界にあるため、資産統合による開発最適化が求められる。長期的にもノウハウ統合によって生産効率のさらなる引き上げが期待できる。

第三に、脱炭素戦略上でのM&Aの活用。エクソンモービルが買収したデンベリーは国内最大のCO2パイプライン保有者だった。

第四に、米国における石油需要見通し。米国では政府支援もあり自動車のEV化や充てん所設置が進むとみられるが、長距離走行を得意とするエンジン自動車の購買力も根強い。

第五に、10月初旬のイスラエル・パレスチナ衝突により、中東情勢悪化に伴う石油価格の高騰を忌避し交渉中のM&Aを急いだ可能性である。中小含めて、M&Aはまだ続きそうだ。

(高木路子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

再エネ拡大で過剰に増える電柱 原因に触れない読売報道に疑問


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

読後のモヤモヤ感が生成AIのお陰で解消された。

読売12月2日夕刊「無電柱化、費用の壁、現存3600万本なお増加中」である。「電線を地中に埋める『無電柱化』が進んでいない。道路の安全確保や良好な景観形成につながることから、普及が期待されているが、多額の工事費などがネックになり、目標を盛り込んだ推進計画を策定済みの自治体は約1割。電柱のない区間は道路全体の1%にとどまる」とある。

まず海外との比較に首をひねる。「無電柱化は世界的潮流。ロンドンやパリなど欧州の主要都市は100%で、アジアでも台北96%、ソウル49%で実現」というが、日本の1%は「全道路に対する電柱のない区間の割合」だ。比較の意味がない。記事は遅れの原因は多額の工事費と書く。国内全域で無電柱化を目指すつもりか。

電子版タイトルに至っては「空が狭い日本『無電柱化』で世界から遅れ…整備は道路全体の1%、ロンドンやパリは100%」だ。さらに事実誤認の恐れがある。

記事にある「災害時に倒れて電力供給が止まったり、道路を塞いだりする被害も危惧」もうなずけない。水害で地下の電線が浸水すれば、電柱を立ててケーブルを張り直すより復旧は大変だろう。

最近のグーグル検索は生成AIが組み込まれている。「電柱、地中化、災害」で調べると、デメリットは「浸水リスク」「トラブル復旧に時間がかかる」「標識や防犯カメラを設置できない」と表示される。多くの人がこうした問題点を指摘しているので、AIが自動学習したのだろう。

最大のモヤッは、見出しの通り電柱が増えていることだ。「国土交通省の21年度調査では、老朽化などで全国で年間約20万5000本が撤去されたが、約25万3000本を新設。4万8000本増えた計算で、現在の本数は3600万本」とある。

理由が書かれていないので検索すると、経済産業省などが昨春、分析を公表していた。それによると最大要因の一つは「再エネ発電所の建設に伴う電柱の新設」で約1万本だという。「高圧と比べ低圧の方が保安規制等が少なく、柵などで発電設備を分割する事業者が存在。必要以上に電柱が増加」との解説がある。実態は、記事の印象にそぐわない。

読売は生成AIへの警戒感が強い。5日朝刊「AI規制、日本は『消極的』、米大教授」には、「デジタル規制論の第一人者とされる米コロンビア大教授が(中略)生成AIの差し迫った脅威として偽情報の拡散」を挙げたとある。AIだけが脅威なのか。今のメディアの誤誘導や偽情報、プロパガンダも油断はできない。

11月6日中日スポーツ電子版は「5日朝に放送されたTBS系情報番組『サンデーモーニング』が物議。パレスチナのハマス指導者の画像を『生成AIで作られたフェイク画像』と報じたが、9~10年前からネット上に掲載されていた画像が含まれており、SNSでは『2014年に生成AIあったのかな?』と疑問の声」と伝える。

残虐テロを実行したハマスについては、清貧であり、虐げられた住民のために闘っていると解説する国内メディア、研究者がいる。ところが、件の画像は高級ホテルで豪華な食事を楽しむハマス幹部の金満生活を示す。

TBSは12日、ウェブサイトで公式に訂正したが、原因の説明はない。ハマスを応援するつもりだったか。AIは人間の営みやたくらみから学ぶ。それが怖い。


いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年1月号)


【東京電力ホールディングス/世界で初めてペロブスカイト太陽電池が高層ビルで発電】

東京電力ホールディングスは、建設中の高層ビル「サウスタワー」(東京・内幸町)で積水化学工業が開発したフィルム型ペロブスカイト太陽電池(PSC)を設置する。従来の太陽電池は、耐荷重や風圧への対応、高額な更新コストなどの課題があり高層ビルなどでの設置が進んでいなかったが、次世代の太陽電池であるPSCは、「薄い」「軽い」「曲げられる」などの特徴を生かし、技術的・経済的な課題を解決できる見込みとなった。サウスタワーでの太陽電池の発電容量は定格で1000kW超を計画しており、実現すると世界初の「PSCによるメガソーラー発電機能を実装した高層ビル」となる予定だ。都心部で導入が限定的な太陽電池を飛躍的に拡大できるものと期待される。

【積水化学工業/ペロブスカイト太陽電池などの技術で社会課題の解決に寄与】

積水化学工業は2023年11月15日、中期経営計画「Dri-ve 2.0」の進捗と社会課題の解決に寄与するイノベーションについて発表した。ESG経営基盤強化を土台に、新事業領域の創出を目指す戦略的創造と着実な成長を目指す現有事業強化に取り組む。戦略的創造では、ペロブスカイト太陽電池の30cm幅でのロール・ツー・ロール製造プロセスを構築。発電効率15%と耐久性10年相当も達成した。25年の事業化を目指し、東京都の下水処理施設や大阪・関西万博などで開発・実証が進行中だ。今後、1m幅での製造プロセス確立や発電効率と耐久性のさらなる向上を目指す。COP28ではプレゼンを実施。エネルギー安全保障の観点からオールジャパンで推進していく方針だ。

【環境・省エネルギー計算センター/業界初のCASBEE―不動産セルフチェックシステムを提供】

建築物の省エネ計算やBELS・CASBEEの環境性能評価などを手掛ける環境・省エネルギー計算センターは「CASBEE―自己査定システム」を開発した。査定したい不動産の情報を入力すると、CASBEE―不動産の評価基準達成の可否や該当ランクを確認できる。CASBEE―不動産は既存の建築物が環境配慮をしているかどうか4段階で評価。投資家や金融機関、不動産会社など不動産マーケット関係者が参考にする指標だ。同センターの尾熨斗啓介代表取締役は「CASBEEの認証件数は年々増えている。査定前に取得可否やランクの確認をしたいとのリクエストも多く、今回のシステムを開発した。同システムの提供で、スムーズな認証取得に貢献していきたい」と語った。

【レゾナック/ホテルに低炭素水素の供給開始】

レゾナックは、生産過程のCO2排出量を最小限に抑えた「低炭素水素」を、川崎キングスカイフロント東急REIホテルに正式に供給開始した。日本で唯一、家庭ゴミから出る使用済みプラスチックを原料とした低炭素水素であり、商業施設での利用は国内初だ。生産は2015年、環境省の「地域連携・低炭素水素技術実証事業」での取り組みに始まり、18年から同ホテルに供給、22年に実証が終了していた。同社はこの水素生産方法で、循環型社会の構築に貢献する構えだ。

【IHI/大容量水素再循環装置 航空機用に開発】

IHIは、世界最高レベルの水素循環量を実現する大容量再循環装置となる、電動水素ターボブロアを開発し、実証運転に成功した。電動水素ターボブロアは、燃料電池発電時に未反応のまま排出される水蒸気を含む大量の水素を回収し、燃料極に再循環する装置。独自開発のガス軸受超高速モーターを採用することで、大容量化、小型化、軽量化を実現した。航空燃料電池向けに使用する目的で開発し、今後は大出力化が期待される燃料電池モビリティーにおいて、船舶や大型トラックなどの開発にも貢献する。

【LIXIL/窓の新事業戦略発表 エネルギー効率向上】

LIXILは窓・ドアブランド「TOSTEM」の100周年にあたり、窓の新事業戦略「GREEN WINDOW」を発表した。環境負荷を低減する地域に最適な窓と定義し展開する予定だ。窓の断熱性能を高めることで、冷暖房によるエネルギー効率が向上。CO2削減に大きく寄与する。また原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄までのライフサイクル全体でのCO2削減を目指す。原材料としてリサイクル素材を使用し、長寿命化とリサイクル性を考慮した設計を行うなど、責任ある資源の使い方を推進していく方針だ。

【日本冷凍空調工業会/冷媒の最先端技術を集めた展示会開催】

日本冷凍空調工業会は2023年12月、HVAC&R JAPAN 2024の発表会を開いた。開催期間は2024年1月30日から2月2日までの4日間で、会場は東京ビッグサイト。12月11日に来場者受付を開始した。この展示会は、国内唯一の冷凍・空調・暖房機器産業の専門見本市として2年に一度開催されており、今年で43回目を迎える。東京大学公共政策大学院の有馬純教授の基調講演をはじめ、東京ガススマートエネルギーセンタ―(東京都江東区豊洲)の見学会などのイベントも併催。ZEBやBEMSといったエネルギーマネジメント技術やIoT・AIを活用した最新の省エネ製品、システムを展示する。国内外合わせて約200社が出展し、世界トップ水準の省エネ、冷媒技術が集結する。

【Looop/行動変容とピークシフトを促す料金プランが好調】

Looopは2022年12月1日から電力小売事業「Looopでんき」において、料金プラン「スマートタイムONE」を提供している。30分ごとに変わる日本卸売電力取引所(JPX)価格に連動したプランだ。太陽光による発電量が多く市場価値が下がる日中の電力使用を促し、需要が増えて価格が上がる夕方に使用を控えるといった、電気料金の変動に合わせた行動変容によるピークシフトを実現する。ユーザー数も順調に増加。同プランの導入により、再エネ電力の供給がより当たり前になることを目指す。

【大阪府ほか/府内の建物をZEB化 大学キャンパスから推進】

大阪府と大阪大学、ダイキン工業は、府内のZEB化推進に係る連携協定を締結した。大阪府は2023年7月に「今後、新築する府有建築物は、原則ZEB Readyを目指す」方針を決定している。大阪大は、箕面キャンパスでZEB Oriented棟を達成するなど、ZEB 化を推進している。ダイキンは、ZEBプランナーの実績でZEB 化に寄与していく。

【ENEOSグローブほか/CNLPガスの売買契約 国際団体認証で炭素減】

LPガス元売大手のENEOSグローブは、大丸エナウィン社にカーボンニュートラルLPガスを販売する。大丸社は、大阪など西日本を中心にLPガス販売、ミネラルウォーター、リフォーム事業などを手掛けている。エネグロは、国際NGO団体が認証したカーボンクレジットをオフセットすることで、実質的にCO2排出をゼロにする。

【商船三井・九州電力/石炭船「苓明」が運航 LNG燃料でSOX等削減】

商船三井と九州電力が建造した、LNGを主燃料とするパナマックス型石炭専用船が「苓明」と命名され、運航を開始した。商船三井が運航し、九州電力の苓北発電所向けに海外から石炭を輸送する。LNGは従来の船舶燃料油に比べて、CO2は約30%、SOXは約100%、NOXは約80%の排出削減が見込まれる。燃料は陸上のLNG出荷設備から直接供給するShore to Shipと、LNGバンカリング船によるShip to Shipでの供給も想定している。両社は、今後も安定した燃料輸送の継続と環境負荷低減の両立に取り組む。

【マーケット情報/1月12日】先物下落、サウジ調整金の下落が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物が下落。サウジアラビア国営石油会社のサウジ・アラムコ社が2月積み原油の調整金を引き下げたことで、売りが先行した。

アラムコ社は、アジア向け供給の2月積み調整金をすべての油種において前月からバレルあたり2ドル引き下げた。中東原油に対する需要の弱さが、より意識される展開となった。

WTI先物には、米国の原油週間在庫統計が前週から増加を示したことも下方圧力となった。同国では、原油の輸出量が過去3か月で最低水準を示しており、在庫が積み上がっている。

一方、中東原油は堅調。イエメンを拠点とする武装集団フーシ派が紅海で相次いで船舶を攻撃していることで、米英両軍が12日、報復措置として軍事拠点を攻撃。中東情勢のさらなる悪化で、原油供給に対する懸念が強まった。


【1月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=72.68ドル(前週比1.13ドル安)、ブレント先物(ICE)=78.29ドル(前週比0.47ドル安)、オマーン先物(DME)=79.18ドル(前週比1.53ドル高)、ドバイ現物(Argus)=78.95ドル(前週比1.34ドル高)

エネルギー移行への数々の困難 現実を見つめ地道に克服を


【オピニオン】壹岐素巳/海外電力調査会 会長

温室効果ガスの排出を極小化する「Energy Transition(エネルギー移行)」が大きな困難に直面している。近年の気候危機の深刻さを見れば、エネルギー消費の脱炭素を加速する必要があることは間違いない。ただ、昨年はその道の険しさを思い知る事象が相次いだ。

米国のバイデン大統領は任期前半に二つの大きな法律(インフラ投資・雇用法、インフレ抑制法)を成立させ、エネルギー移行への道を整備した。これにより、実際に再エネやEV、蓄電池などへの民間投資が動き出した。しかし、折からの高インフレ、金利上昇による採算性の悪化で、例えば洋上風力では、契約破棄や計画中止、入札不成立などが見られた。建設費が2倍以上に超過した新設原子力が漸く運開したものの、後続の大型炉計画はなく、期待の小型モジュール炉(SMR)先行機建設は電力販路を確保できず中止となった。再エネのさらなる導入には、高経年化した送電網の更新・拡充投資が必要だが、連邦・州・自治体の重畳する規制認可の遅れや、サプライチェーンの制約などから既存の発電容量を遙かにしのぐ20億kW以上が系統接続待ちとなっていると言う。今年11月の大統領選の結果次第では、エネルギー移行がさらに遅れる可能性も否定できない。

欧州に目を転じれば、ロシア産化石燃料依存から脱却するため、再エネ導入の加速化を進めているが、将来の水素置換を前提に当面は天然ガス利用の道は温存する構えだ。またEUは2030年までに2000万tのグリーン水素(域内製造・輸入が半々)の利用を構想するが、ターゲットとなる運輸・産業部門で十分な需要が確保できるかは未知数である。インフレや高金利、熟練労働力不足も影を落とす。英国などでも洋上風力プロジェクトの中止・撤退などが発生、ドイツでは住民の反対や工事力不足などによる陸上風力の建設遅延が問題化している。一方、英仏や東欧では原子炉新設やSMR建設に向けた進展が見られるが、建設コストは不透明である。

そして、中国。国内で毎年1億kWを超える太陽光・風力を運開させ、国際サプライチェーンも席捲しているため、欧米は脱中国・自国製造に動き出している。その中国も足元の発電量の6割は依然として豊富な石炭を利用した火力によるものだ。30年カーボンピークアウト、60年カーボンニュートラルを標榜するものの、最近の電力需給逼迫や国際エネルギー危機を受けてか、石炭火力回帰・復興に向けて政策を転換する動きが色濃い。22年には9000万kW超、23年上期は5000万kW超の石炭火力に新設許可を発給した。

昨年12月のCOP28では、30年までに世界で再エネを3倍に引き上げることが誓約された。エネルギーの世界では残る7年は秒読み段階だ。足元の現実を見つめ、横たわる困難の数々を地道に克服していかなければ、目標は画餅に帰す。各国が今年どのような施策を講じるのか、丹念に追跡する必要がある。

いき・もとみ 1981年国際基督教大学教養学部卒、東京電力入社。企画部総括調整グループマネージャー、グループ事業部長、常務執行役、海外電力調査会常務理事などを経て2023年から現職。

奥日光の価値をアップデート サステナブルリゾート確立へ


【地域エネルギー最前線】 栃木県日光市

修学旅行などで人気の奥日光が、サステナブルという付加価値で地域の魅力を一層高めようとしている。

エネルギーの自立分散化やMaaSなどを実装し、新たな旅行体験を発信したい考えだ。

コロナ禍でのさまざまな行動制限が解除された2023年、観光業はようやく長いトンネルを抜けた。修学旅行などの行事が例年通りに、そしてインバウンドの急拡大もあり、関東有数の観光地である栃木県日光市もかつての賑わいを取り戻している。同年大河ドラマの主役だった徳川家康縁の地であることも、勢いに拍車を掛ける。

そして新たなブランディング戦略も始動した。いろは坂を抜けた先の中禅寺湖などが有名な中宮祠や湯元地区から成る奥日光エリアで脱炭素化などを図り、観光を掛け合わせた「サステナブルリゾート」を目指す計画だ。市と東京電力パワーグリッド(PG)栃木総支社、そして東武鉄道が共同提案し、環境省脱炭素先行地域の第三回で選定されたのだ。

脱炭素で奥日光ブランドの魅力に磨きをかける

市はこれまでも、国策を踏まえて国立公園や奥日光の「ゼロカーボンパーク」化を推進してきたが、脱炭素先行地域の手厚い交付金を生かし、30年度にかけてエネルギーや交通などに関するハード面の対策を実装していく。特に奥日光は一般旅行客の人気もさることながら、修学旅行のメッカでもある。「例えば滞在先の旅館が再生可能エネルギーを導入していれば、学生がその体験を持ち帰ってさらなる学びにつながるのではないか。新たな教育体験の発信を目指したい」(市環境森林課)

また、同省は先行地域の第三回から民間事業者との共同提案を必須とした。エネルギーの面では東電グループ各社のノウハウをフルに活用。そして地域の公共交通を担うほか、多くの観光施設を運営し、需要家としての側面も持つ東武鉄道がグループとして足並みを揃えることで、計画の実現可能性を高める狙いだ。

袖ケ浦LNG基地が50周年 CNに向かい新たな役割発信へ


【東京ガス】

LNG取扱量が国内最大規模で、東京ガスのガス輸送量の4割を担う袖ケ浦LNG基地が、1973年の操業開始から50年を迎えた。時代の移ろいとともに基地に求められる役割も変遷する中、都市ガスの安定供給拠点としての役割を全うし続けてきた同基地。これからは脱炭素への貢献という新たな役割が期待されている。

操業開始当時の基地の様子
提供:東京ガス

国内初のLNG専用基地として73年7月、ブルネイ船のファーストカーゴを受け入れ、同年11月に東地区の操業を開始。このほか、東京電力との共同基地として袖ケ浦火力への燃料ガス送出、LNGローリー出荷、隣接する東京酸素窒素への冷熱供給など「初」づくしの基地でもある。都市ガス需要拡大に伴い基地の設備を拡充し、82年12月には西地区の営業運転も始まった。

2000年代も国内初の取り組みが続き、03年には10万kWのガスタービンコンバインドサイクル発電所が、05年には2000kWの風力発電設備が運開(いずれの設備も現在は廃止)。07年5月にはLNG船4隻同時着桟という瞬間もあった。そして08年3月には単年度LNG受入量1000万t超、さらに21年12月には累計受入量4億tに到達。また、19年には日本初のカーボンニュートラル(CN)LNGを受け入れている。こうした歩みの中でも大きなトラブルはなく、首都圏への安定供給を継続してきた。

次の50年も地域と共に 役割の重要性は不変

23年11月末には、東ガスが50周年記念式典を開催。粕谷智浩・袖ケ浦市長は、この半世紀、目の当たりにしてきた市と基地の発展に思いを馳せつつ、「CN社会実現のためにはエネルギーのリーディングカンパニーである東ガスグループの取り組みがなくてはならず、本市も次の50年を共に歩みたい。取り巻く環境が急速に激しく変化しても、袖ケ浦の地から日本はもとより世界をリードしてもらいたい」と力を込めた。

また東ガスは、隣接地でLNG火力の新設計画を進めており、「将来はCO2排出がない水素を燃料に加えていくという柔軟性を持ったスペックを考えている」(棚澤聡・エネルギートレーディングカンパニー長)。CO2をオフセットしたe―メタンの利用についても、袖ケ浦の地で発展させたいとした。

そして足元ではLNGの調達が多様化している。「今までは長期契約がメインで、決まった産地のLNGを計画的に受け入れることが使命であり、かつ取扱数量が求められた。これからはより機動性、つまり、いつどのような品質のLNGが来てもしっかり受け入れてガス化できる基地が求められる」(同基地の城所秀樹所長)。周辺環境が不透明さを増しても、基地が担う役割の重要性は揺るがない。

「冷房」が初めてCOPで論点に 日本のインバータ技術に商機


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.22】関口博之 /経済ジャーナリスト

「簡単にいえば冷房で地球を冷やそうとすれば、もっと地球が暑くなってしまうということだ」。国連のホームページに12月5日付でこんなコメントが載った。ドバイで開かれたCOP28ではこの日、COPの場で初めてエアコンなどから出る温室効果ガスの削減に焦点が当てられた。議長国のアラブ首長国連邦(UAE)と国連環境計画などが提案した国際協調の枠組み「グローバル・クーリング・プレッジ(誓約)」がそれで、COPの会議終了時点までに66カ国が署名した。主要国では日米独仏英加が賛同したが、中国・インドは加わっていない。

気温上昇が進む中、温暖化への「適応」として冷房の利用拡大は欠かせない。世界で頻発する熱波は生命の危険さえもたらしている。しかしエアコンの使用で電力消費が増えれば「緩和」には逆行する。これを表したのが冒頭のコメントだ。途上国にも広く冷房を行き渡らせることと、CO2の排出を減らすことを両立させなければならない。これが今回の誓約の主旨だ。

エアコンや冷蔵・冷凍用機器はすでに温室効果ガス排出の7%以上を占めている。電力で見ると比率は20%に達し最大の消費源だ。一方、いまだに11億人が冷房を使えないともされる。その多くはアジアやアフリカだ。途上国での人口増や都市化、所得の向上もあって世界のエアコンの保有台数は2050年には現在の3倍になると予想されている。

温室効果ガス排出の7%以上を占めるエアコン

これを持続可能な冷房にするため「グローバル・クーリング・プレッジ」は参加国に冷房・冷却に代わる温室効果ガスの排出を30年に68%削減(22年比)するよう協力を求めている。そして高効率のエアコンの普及を進め、30年までにエアコンのエネルギー効率を世界平均で50%向上させることも呼び掛けている。

日本企業にとってはインバータエアコンの商機だ。エアコンの圧縮機のモーター回転を細かく制御することで、電力を抑えながら快適な温度を保つのがインバータ。世界シェアトップのダイキン工業は07年から、消費電力を50%改善するインバータエアコンの世界普及に取り組んできた。日本ではインバータはおなじみで、住宅用エアコンでは100%。欧州・北米もほぼ同様、中国も急速にインバータ化が進み90%超になっているが、アジアではまだ販売の50%ほどで中南米・アフリカはデータも取れていない。

ダイキン工業顧問の藤本悟さんは「途上国市場では価格がネックになり苦労もした。このため環境技術や商品の普及には、例えば日本の省エネ基準のようなルール作りも必要だと、各国政府に働きかけを地道にしてきた。COPでの誓約でようやく世界が理解してくれるようになったと感じる」と話す。ダイキンは冷媒のフロンでも、温暖化係数を7割下げた新冷媒を開発し、世界に供給している。今回の誓約にも冷媒問題は言及されている。4年連続「化石賞」ばかりが話題になるが、日本の技術の貢献にはもっと胸を張っていい。

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

ビジネス適地として世界が熱視線 「北海道の時代」が来た!


【北海道経済】

―北海道の企業誘致が増えています。

高橋「北海道の時代が来た」と感じています。道庁はこれまで「北海道は可能性に満ちた地域」と宣伝してきましたが、その可能性がいよいよ形になってきたのです。2023年11月には、ソフトバンクが苫小牧市に国内最大級のデータセンターを建設する方針を示しました。

北海道は広大な土地がありながらも首都圏からは距離があり、本州とは海を隔てています。かつてこうした特徴は北海道のウィークポイントでした。しかし、物流技術やデジタル技術の向上でハンデは克服されつつあり、首都圏から離れていることは、企業の「リスク分散」の観点から重要なポイントになっています。

近年の猛暑により、寒冷な気候も企業を誘致する上でプラスに働いています。北海道は冷房に使うエネルギーを節約できるだけでなく、雪氷熱利用など多様なエネルギーを活用できる。こうした北海道ならではの利点は、日本のみならず世界から注目を集めています。

原発再稼働に向け努力を 海底直流送電の実現に期待

―北海道の電力事情をどう見ていますか。

高橋 泊原発については、東日本大震災の直前に北海道電力の電源構成の約半分を占めていましたが、再稼働できないままです。同時期に審査を申請した川内原発や大飯原発に比べて、審査が長期化している苦しい現状にあります。大量の電力を消費するデータセンターや半導体工場には、低廉な電力の安定供給が欠かせません。安全性の確保が大前提ですが、可能な限り早期に再稼働できるよう北海道電力の努力に期待します。

―再生可能エネルギーのポテンシャルの高さも北海道の魅力の一つです。

高橋 北海道は「再エネの宝庫」と言えるでしょう。畜産や林業が盛んなことから、家畜糞尿や森林資源を使ったバイオマス発電のエネルギー源が豊富です。また陸上風力発電所の数も多く、洋上風力のポテンシャルも日本随一を誇ります。石狩湾新港の沖合では、国内最大級の洋上風力発電プロジェクトの建設が始まりました。今後は余剰電力を大消費地へ送るための海底直流送電の実現に大いに期待します。

高橋はるみ(自民党 参議院議員)
たかはし・はるみ 1954年生まれ。富山市出身。76年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(当時)に入省。北海道経済産業局長などを経て、2003年から北海道知事を4期務める。19年7月に参院選に出馬し初当選。当選1回。

中国の輸入規制に法的対抗措置を 「言うだけ番長」では効果なし


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

2023年11月17日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で、福島第一原発の処理水放出に対する中国政府の輸入禁止措置にどのような対応をすべきか議論を行った。同じ時間帯にはサンフランシスコで開催されていたAPECの場を利用して、岸田文雄首相と習近平国家主席の日中首脳会談が開かれていた。

日本政府は、「中国を含む各国の規制について、早期の規制撤廃を一貫して求めてきた」と何度も発言しているが、「規制撤廃せよ」と口で言ったところで対応が変わる相手ではないのは、誰の目にも明らかだ。相手ははじめから科学的根拠など関係なく、日中間の外交関係のカードにしているからだ。

委員会では、外務省経済局審議官が「WTO・SPS協定に基づき中国などに討議要請を行った」と答弁した。相手が外交カードとしてこの問題を扱っている以上、国際的な枠組みを活用した法的アプローチを取ることは有効だ。

確かにSPS協定附属には、緊急的な措置を受けることとなった国が相手国に討議を要請できる規定があるが、いつまでに応じなければならないという規定がない。このため、12月に中国に対し討議要請を行ったが、その後はなしのつぶてだ。

そこで私は、RCEP協定に基づく技術的協議要請は、要請から30日以内に協議を行わなければならないとの規定があるため、こちらを使った方がよいのではと提案をした。

取り締まり強化も 冷静で迫力ある行動を

その他にも、中国はCPTPPへの加入の意思を表明している。このCPTPPは全加入国が認めない限り交渉入りすることはできないルール。そこで非科学的な輸入規制を撤廃しない限り、交渉参加は認められないとジャブをかますのも一策だ。さらに近年の日中関係の悪化により、日中漁業協定による日本の排他的経済水域における中国漁船の操業のための合意は存在しない。すなわち、この水域での中国漁船の操業は違法状況にある。しかし現実には、日本近海に中国漁船が出没して漁獲し、中国に水揚げされた魚は中国市場で流通、日本に水揚げされた魚は輸入が禁止されるという理不尽な状況に。こうした中国漁船に対する取り締まりを強化するのも一策とも提案した。

こうした議論に対し、答弁に立つ副大臣、政務官らは官僚の作文を読み上げるばかり。同時に行われた日中首脳会談でも、輸入禁止措置について習主席からは前向きな言質を取ることはできなかったようだ。地元の漁業関係者らは「国策としてやらなくてはならないから」という思いで、強硬な反対姿勢の中、処理水放出を受け入れている。そうした人たちに対して、日本国政府は相手国に会談で言うだけの「言うだけ番長」であってはいけない。国際法の枠組みを最大限活用した冷静で迫力のある行動を取ることを求めたい。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

GX投資加速へ政府支援 水素普及に15年で3兆円


政府は12月15日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を持ち回り形式で開き、GX投資促進に向けた20兆円規模の政府支援のうち、16分野の脱炭素化に13兆円を充てる方針を示した。

内訳は、鉄鋼や化学、紙、セメントなど製造業4分野のエネルギー転換のための設備投資支援として10年間で1.3兆円、家庭の断熱窓への改修や高効率給湯器の導入といった、くらし分野のGXに3年間で2兆円(GX経済移行債以外も含む)など。

エネルギーでは、水素燃料の普及やペロブスカイト太陽電池などの次世代再生可能エネルギー、次世代革新炉、CCS(CO2の回収・貯留)の4分野が支援対象。特に既存燃料との値差を支援することで普及を後押しする水素については、供給開始から15年間で3兆円規模の支援を措置する。

政府はGX投資促進支援に充てるため、2024年2月にも、GX経済移行債の発行を始める。23年度は最大1.6兆円を発行。最終的には20兆円規模とし、10年間で150兆円の官民投資の「呼び水」としたい考えだ。

【コラム/1月10日】第7次エネ基で自死しないために NDCとの断絶を


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

パリ協定では2025年に35年以降の数値目標についてのNDC(温室効果ガス削減の国別目標)を提出することとなっている。今年の年明けから、日本政府はエネルギー基本計画の見直しに着手することになっており、それと整合性のあるNDCを提出する、というのが今の行政の考えのようだ。

だが、これは危険極まりない。NDCに関する国際交渉での相場は跳ね上がっているからだ。温暖化防止国際会議・COP28では、35年に世界全体で60%削減(19年比)という数字が打ち出された。EUでは欧州委員会が1990年比で90%削減という無謀な法案をこの春に提出しようとしている。

どちらも産業、なかんずくエネルギー多消費産業に対する死刑宣告に等しい。

すでに2030年目標に向けての現在の政策すら、ドイツでは産業の大脱出(エクソダス)を引き起こしている。ドイツ最大手の化学企業BASFは中国へ100億ユーロ投資して工場を建設する。日本の大手鉄鋼会社もインドで高炉を建設する一方で、米国の鉄鋼会社を2兆円かけて買収すると報じられている。産業、なかんずくエネルギー集約産業は、CO2規制がむやみに強化されつつあるEUや日本から逃げ出している。政府が水素技術開発の補助金などを出したところで引き留めることは出来ない。これは企業判断としてはやむを得ず、ある意味合理的かもしれない。だが国家としては、存亡にかかわる致命的な失敗だ。

温暖化政策が政権支持率に影響 主要国の動向は

ここ数年間、EUでも米国でも左派リベラル的な政策を推進する政権が続いてきた。だがここにきて、まず野放図な移民の受け入れで国民の不満が爆発した。国民に負担を強いる脱炭素の推進も、それに次いで不満の火種になっている。EUでは国政選挙のたびに右派が勝つようになっており、今夏の欧州議会選挙でも右派が躍進するだろう。米国は今年末に共和党の大統領が誕生すれば、トランプであれ誰であれ、パリ協定から離脱し、グリーンディール(脱炭素のこと)を止め、ESG(環境・社会・統治)に反対する。

COP28では、グローバルサウスもロシアも、G7(主要7カ国)の偽善に満ちた「50年脱炭素」のお説教などに従わないことが改めて鮮明になった。グローバルサウスがG7に唯々諾々と従わないのはこの問題だけではない。対ロシア経済制裁でも、イスラエルとハマスの戦争においてもそうだ。

米国バイデン政権、ドイツの信号機連立政権(社会党、緑の党、自由党)のいずれも、支持率が低迷している。国民に支持されない中、国際交渉については行政府が担当しているので、左派リベラルの支持基盤を喜ばすために、これら政権はますますグリーンな方向に先鋭化している。

だが、米国は共和党が大統領選に勝てばグリーン路線は全て180度転換する。

EUはこのままではネットゼロ(脱炭素)による自死に至るであろう。だが今年にも政治の右傾化が進み、やがてネットゼロ目標は放棄されるだろう。

日本はやはり支持率の低い岸田政権の下、脱炭素の制度化が着々と進んでいる。慣性のついてしまった行政府は巨大な船のように方向転換が効かない。今後、その一貫として「野心的な」NDCが設定され、35年の国のCO2数値目標が無謀な数値にピン止めされ、それを各部門に割り当てた「積み上げ」計算をして第7次エネルギー基本計画を策定するとなると、一体どうなるか。

エネルギーコストは高騰し、企業のエクソダスには歯止めが掛からなくなり、日本経済は沈没する。

そのときには日本は中国の影響力を避ける術が無くなる。中国は日本の中立化を狙うだろう。中国は、それをただの中立に留めるのではなく、新中国的な中立化――日本のフィンランド化――を図るだろう。つまり日本は中国の属国になる。そこでは自由、民主といった我々が大事にしている価値が著しく制限される。これは事実上の日本の死である。

安保と経済いかに守るか 第7次エネ基に書くべきこと

日本を取り巻く地政学状況は深刻だ。エネルギー自死を避けるため、第7次エネルギー基本計画においては、安全保障と経済を重点とするほかない。経済が重要なのは、それが総合的な国力の基盤であり、国の安全保障に直結するからでもある。

基本計画に書くべきは以下の項目だ。

① 原子力の最大限の活用

再稼働はもちろん、新増設、SMR(小型モジュール炉)の導入、輸出などに踏み込み、原子力についてはリスクゼロを追い求めるのを止めるべきだ。原子力を利用しないことによるエネルギー安全保障上のリスクおよび経済上の不利益の方が大きい。化石燃料は輸入依存であるし、再エネは不安定で高価だからだ。核融合の実証も進めるべきだ。

② エネルギーコストの低減

脱炭素に伴うエネルギーコスト増は国力を毀損し安全保障を損なう。エネルギーコスト、とりわけ電力コストについては低減すべく明確に数値でコミットするべきだ。政府による光熱費補助などではなく、根本的な低コスト化を計るべきである。それには、原子力の活用に加え、再生可能エネルギーの大量導入を止めることや、化石燃料の安定調達を図ることだ。米国共和党のデサンティスはガソリン価格をガロンあたり2ドルに下げることを大統領候補選の公約の柱としている。見習うべきだ。

③ 化石燃料の安定調達

日本のエネルギー供給の柱は今なお化石燃料である。現行の第6次エネルギー基本計画では供給量の見通しが少なすぎて、燃料の調達や利用の妨げになってきた。この愚を避け、石油・石炭・ガスのいずれについても世界各地に多様化された供給源からの安定した調達を実現すべく、政府はコミットすべきだ。

④ 化石燃料代替技術の技術開発

再エネや電気自動車、水素・アンモニア、メタネーションなどの合成燃料については、今なおコストが高いため、そのコストを低減する技術開発に注力し、結果として世界全体で普及させることを目指すべきだ。コストの下がる見込みが無いと判明した技術開発プログラムは中断して基礎研究に戻す。これら技術の国内での導入量拡大については、②のエネルギーコストの低減に寄与する限りにおいて行うべきだ。

以上の計画を進めた場合、うまく行けば、原子力が最大限導入され、電力コストが安価になり、EVやヒートポンプなどの電気利用技術も技術開発によって安価になる。結果、需要部門の電化も進み、日本のCO2は大幅に削減される。

そのような試算をしてもよいが、それはエネルギー基本計画の一部にすべきではない。独立した複数の機関があれこれ試算すればよい。米国はそのようになっている。エネルギー基本計画の一部とすると、そのNDCとの整合性を取るような圧力が働き、計画内のあらゆる数値が「数値目標」として運用されることになり、化石燃料の調達と利用に支障をきたすなど、安全保障と経済を損なう懸念があるからだ。

NDC自体は首相の意思としての国家の数値目標を掲げ、上記1、4などの政策を列挙しておけばよい。NDCとは普通はその程度のものである。エネルギー基本計画で数値を細かく積み上げてそれをNDCにする国など、日本以外にはどこにもない。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

名古屋港のCO2を海外で貯留 BPと協力協定で脱炭素化を支援


【中部電力】

中部電力は海外でのCO2貯留の検討を進める。2023年9月に、英石油大手BPの子会社BPベラウ社と、インドネシア・西パプア州のタングーにあるCO2貯留地を活用する実現可能性調査のための協力協定を締結した。両社はこの協定に基づき、愛知県名古屋港で排出されたCO2をタングーに貯留する事業の実現可能性を調査する。

BPベラウ社は、インドネシア最大のガス生産プロジェクトである「タングーLNG」のオペレーターで、権益保有者の代表を務めている。23年10月には、タングーLNGの第3系列が新たに稼働し、生産能力は年間760万tから年間1140万tに増加、国内の天然ガス生産量の約35%に貢献する予定だ。

BPがタングーLNGで運営するタングーCCUSプロジェクトは、21年にインドネシア政府より承認を受けて進められている。現在最も進んでいるCCUSプロジェクトで、CO2の貯留可能量は約18億t。同国初のCCSハブになる可能性がある。

中部電力グループとBPは、50年までに事業全体におけるCO2排出量をネット・ゼロにすることを目指している。

タングーにCO2輸送 アジアの脱炭素化を促進

中部電力とBPは今回締結した協定以前にも、23年2月に日本とアジア地域の脱炭素化に向けた協力協定を結んでいた。それにより、名古屋港周辺の脱炭素化支援に取り組んでいる。名古屋港は貨物取扱量が日本最大の港で、日本のCO2総排出量の3%を占めており、30年度までに13年度比で46%削減する目標を掲げている。目標達成のため、BPの大規模CCSプロジェクトの開発経験と、中部電力の中部エリアでのエネルギー事業者としての知見を組み合わせ、日本とアジア地域の脱炭素ソリューションの促進に向けて検討を進めていく。

中部電力の岸久嗣氏(右)とBPのキャシー・ウー氏
提供:Indonesia CCS Center

締結に際してBPのキャシー・ウーガス&低炭素エネルギー、アジア太平洋地域社長は、「BPと中部電力は長年にわたり関係を育んできた。この協定はインドネシアと日本のネット・ゼロ目標達成を支援するため、両社がCCUSのイニシアチブを通じて継続的に協力していくことを表している」とコメントしている。

一方、中部電力の佐藤裕紀グローバル事業本部長は、「相当量のCO2貯留が可能だと期待されている、タングーという貯留地を特定して実現可能性を調査できることは、名古屋港CCUS事業にとって、重要なマイルストーンになる。日本政府の掲げる30年のCCS事業の実現に向け、BPと協力してタングーの評価に取り組んでいく」と話している。