【巻頭インタビュー】岩城 智香子/日本機械学会 会長・代表理事 東芝 首席技監
機械総合技術の中核団体たる日本機械学会では、今春歴代2人目の女性会長が就任した。
複雑な社会課題の解決にどう尽力するのか、また原子力技術開発への問題意識などを聞いた。

―2017年に設立120年周年を迎えました。特に今求められる役割をどう考えますか。
岩城 本会は機械工学の学術的進展や機械産業の発展を目的とし、現在約3万2000人の会員が所属しています。部門が活動の基本で、機械の四力学(材料・熱・流体・機械)、エネルギー、交通・物流、宇宙、バイオなどの産業展開、さらに技術と社会、安全を扱う部門など22部門が存在します。多様な専門家を擁し、産官学バランス良く活動している点が特徴です。各専門技術の深化と同時に、部門横断的な活動でイノベーション創出を促すことを意識しています。例えば、年次大会では3年前から部門横断型のセッションを推奨しており、新たな視点での議論が生まれたという多くの声が上がっています。
昨今の社会課題は複雑・多様化していますが、いずれの解決にも機械技術が欠かせません。その上で、さらなる多角的な視点と分野融合に向け、複数の他学協会と横断テーマを設定して協同し、相互の強みを生かした技術の発展を目指しています。
―エネルギー・環境部門で力を入れている点は?
岩城 本会の重点分野であり、動力・エネルギーシステム部門や環境工学部門などが中心となっています。前者の部門では、カーボンニュートラル(CN)やGX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)などの政府方針を踏まえ、新たな課題への対応に向けた取り組みを進めています。再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、重要性が高まるエネルギー貯蔵技術に焦点を当てた研究会を設置。第7次エネルギー基本計画の策定に資するべく、「CN達成に向けたエネルギーストレージベストミックスのための提言」を取りまとめ、社会に向けて発信しました。
また、部門横断で取り組んでいるロードマップの策定も本会の重要なミッションです。現在は、持続可能で豊かな社会の実現に向けて50年の社会像を設定し、バックキャスティングで必要な技術や研究課題を示すアプローチを取っています。
原子力技術開発の停滞 遅れの取り戻しが急務
―ご自身の研究の歩みを教えてください。東芝で原子炉コアキャッチャーの設計などに携わったと聞いています。
岩城 専門は熱流動、特に気液二相流です。沸騰型原子炉における二相流現象の解明とモデル化を通じて、既設炉の安全性向上に貢献する機器の開発や、新型炉の研究開発に携わりました。東芝グループでは、長年にわたり原子力発電プラントの安全系、特に静的冷却システムの研究開発に注力。コアキャッチャーは代表的な成果の一つで、炉心が溶融して圧力容器を貫通し落下した場合に溶融物を受け止め、沸騰による自然対流冷却で拡散を防ぐ技術です。欧州でのシビアアクシデント対策導入を踏まえ、早期に開発に着手しました。長年培った知見と技術を生かし、現在は規制基準を踏まえた革新軽水炉に求められる要件に沿って実機設計への展開を進めています。
―これからの原子力利用に向けて、特に日本の技術開発が抱える課題をどう捉えていますか。
岩城 大型研究施設の老朽化による廃止や、福島第一原子力発電所事故後の環境変化により、技術的・人的リソースの確保が大きな課題です。一方、国内の電力需要見通しが増加に転じ、脱炭素電源の供給力強化に貢献する原子力への期待が高まっています。第7次エネ基でも原子力の積極活用方針が明示されており、大学や研究機関の協力体制の構築が不可欠です。学術的知見の共有のみならず連携の在り方を議論する場としても、学会の役割は重要です。
例えばSMR(小型モジュール炉)は従来の大型原子炉とは異なる設計思想で、高い安全性、短い工期、立地条件の柔軟性などの利点があります。日本におけるSMRの開発は諸外国に比べ著しく遅れているという問題意識の下、本会では研究会を立ち上げました。若手人材の参画を促進しつつ、次世代の原子力技術の発展に向けて、組織の枠を超えた議論の場の構築を目指します。
長期・継続的な技術変革を 在るべき機械工学の姿提示
岩城 50年のCN達成やGX・DXの推進は、新たな産業創出によるビジネスチャンスとも言えます。国際情勢や市場など将来的な見通しは不透明な状況ですが、高い安全性と経済性を有する安定性に優れたエネルギーの供給に向けて、技術変革を長期的・継続的に進める必要があります。特にエネルギー問題に対しては、材料・熱・流体などの基盤技術をベースに、機器・システム設計や社会実装までのプロセスでは計算工学・設計工学・環境工学など、幅広い機械工学の技術領域を総動員する必要があります。
加えてデジタル分野などの新技術の導入も不可欠です。中長期的な技術課題の検討には、ロードマップの継続的なローリングを通じた議論も重要です。
―今後学会で強化、改善すべき点はありますか。
岩城 社会ニーズや技術革新に応じた機械工学の目指すべき姿や取り組むべき課題を提示し、社会に向けて積極的に発信することを推進していきます。そして、やはり人材育成が大きな課題。本会の若手会員数も減少する中、多様な教育プログラムの提供や若手支援策の充実化を、他学協会とも連携しながら取り組みたいと考えています。


