全電源vs火力の神学論争再燃 省エネ法改正論が引き金に


経済産業省・資源エネルギー庁が、省エネ法の合理化の対象に非化石を加える方向で制度の体系見直しに乗り出している。

これを機に水面下で再燃しているのが、「全電源」対「火力」の係数を巡る神学論争だ。

政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向け、資源エネルギー庁が省エネ法の体系を見直す検討に乗り出している。同法が定義する「エネルギー」の対象を、非化石を含む全エネルギーに広げることが柱で、実現すれば、化石エネルギーの使用合理化を目的としてきた同法の本質が大きく変容することになる。

エネルギーの定義変更 業界内外から疑問の声

省エネ法の正式名は、「エネルギー使用の合理化等に関する法律」。石油危機を契機に、化石燃料の消費抑制を目的として1979年に制定された。同法で合理化が求められているエネルギーは、あくまでも化石燃料や化石燃料由来の熱・電気であり、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電気や、水素・アンモニアといった非化石エネルギーは含まれていない。

これまでは、同法に基づく規制と補助金などによる支援を通じて、事業者の高効率機器・設備への投資を後押しすることで省エネを推進してきた。ここに来てエネ庁が見直しを急ぐのは、エネルギーが脱炭素化に向かおうとする中で「使用の合理化=使用を減らす」という考えに基づくこうした取り組みが、もはや時代遅れとなりつつあることを意味する。

とはいえ、「所管する省エネルギー課にとってはレーゾンデートル(存在意義)」(大手エネルギー会社関係者)ともいえる省エネ法をおいそれとなくすわけにもいかず、脱炭素に向けた「非化石エネルギーの利用促進」という新たな役割を持たせることで、同法を「延命」させようとしているとみる向きも少なくない。

有識者の一人は、「非化石エネルギーには再エネのみならず原子力も含まれるのだろうが、次期エネルギー基本計画で新設・リプレースがどう位置付けられるかもあやふやな状況下で、電化を強力に推進するような省エネ法見直しの検討がなされることに違和感がある」と疑問を呈す。

前出の大手エネルギー関係者も、「非化石の合理化(低減)と促進を一つの法律で進めようとすることに無理がある。『非化石エネルギー推進法』にでも衣替えし、現行の省エネ法は資源・燃料部に移管してはどうか」と皮肉を込めて提案する。

いずれにしても、5月21日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)において、省エネ法におけるエネルギーの定義見直しとともに、非化石化・エネルギー転換を促す制度や、デマンド・レスポンス(DR)など需要側の最適化を図る枠組みを検討していく方向性が示され、見直しに向けた議論は着実に進み出したといえる。

今後、白熱化が必至の論点がある。次回の小委でエネ庁事務局が満を持して提案するであろう、電力の一次エネルギー換算係数の見直しだ。現行では、節電によって稼働が減るのは火力発電であるとの考えから「火力平均係数」が採用されているが、これを地球温暖化対策推進法(温対法)と同じ「全電源平均係数」に変更することが検討されようとしている。

省エネ法の新たな体系 (出展:資源エネルギー庁)

「系統経由の電気を一律火力発電所の熱効率係数で報告する現行の評価方法では、再エネ100%の電気料金メニューなどに対応できない」として、かねてから全電源平均への変更を主張してきた電力業界はこれを歓迎。

一方、都市ガス業界は「これまで省エネ対策として導入されてきたコージェネレーションや燃料電池などのガスシステムが、実態とは異なる評価方法への変更で増エネになる」と危機感を強める。

昨今のエネルギー情勢を念頭に、慎重論を唱えるのは元官僚。「今の時点でコージェネや燃料電池の評価が変わることは大きな問題。足元の厳しい電力需給状況を踏まえれば、換算係数の変更で需要側の電化が進めば、老朽火力の稼働増や温存につながりかねない」と指摘する。係数の変更は供給サイドの非化石化、安定性向上と歩調を合わせる必要があるとの見方だ。

こうした意見に対し、大手電力関係者は「電源ごとの一次エネルギー換算係数を求め電源構成比率(ミックス)を掛ければ、実態に合った係数が算出できる。省エネを推進しながら低炭素に誘導していくには、今スタートして早すぎるということはない」と反論。事態は、かつて温対法のCO2排出係数を巡って電力業界とガス業界が繰り広げた、いわゆる「神学論争」再燃の様相を呈している。

エネ庁が旗振り役 関連制度への影響も

全電源平均化に賛同する一部審議会委員の間でも、「長期的には全電源平均だが、高度化法目標を達成した時点での採用がよい」(飛原英治・東京大学大学院教授)、「このタイミングで全電源平均というあるべき姿にするのがよい」(林泰弘・早稲田大学大学院教授)といったように、導入のタイミングを巡っては意見が分かれる。

とはいえ、「全てのエネルギーが合理化の対象となるのであれば、換算係数は全電源平均とするのが妥当」とするエネ庁こそが、実は全電源平均化への強力な旗振り役であることから、既に決定事項との見方も。そうであれば、今後の議論は双方納得できるよう落としどころを探るものになるだろう。

この省エネ法上のエネルギーの定義見直しと一次エネルギー換算係数変更議論は、同じ換算係数を採用する国土交通省所管の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」にも影響が及ぶ可能性が高い。

省エネ法の目的を変えるのであれば、そこから派生した建築物省エネ法も見直しを検討し、ともに非化石エネルギーの利用促進を目指していくべきではないか。

【省エネ】経産省の組織改編 電化促進で必須


【業界スクランブル/省エネ】

2030年の温室効果ガス削減目標が13年度比46%削減に引き上げられた。また、米国は目標を05年比50~52%削減に引き上げ、米大統領の施政方針演説でも、雇用を考慮した気候変動対策に注力することを示した。英国は35年目標を1990年比78%削減に引き上げ、英国気候変動委員会の提言を踏まえた実現方策を検討している。実現不可能との声も聞こえるが、50年の脱炭素社会を担保するには、革新的技術の開発と大規模普及が極めて困難な事実を直視し、世代間の努力量の均等化のためにも、既存技術で最大限の削減努力をする30年目標の引き上げは妥当である。

英国の産業脱炭素戦略でも、「比較的低い温熱需要の電化技術は商業的に確立しており、世界の産業燃料消費量の最大半分の電化が技術的に可能」と記載している通り、さまざまな電化技術の中でも、低コストな電化技術の普及促進が重要である。英国では28年までに暖房・給湯ヒートポンプを毎年60万台設置という目標を掲げており、当該分野で技術的優位性を持つ日本の三菱電機やダイキンの機器が導入されつつある。英国気候変動委員会がガスボイラー新設禁止を提言しているように、都市ガス託送原価に組み込まれているガス需要開発費の役割は実質的に終了している。当該使途を「暖房・給湯電化補助」に変更し、脱炭素実現のために世界的に導入拡大が見込まれる電化機器の国内導入支援制度として、国内雇用拡大、国内メーカーの国際競争力向上に戦略的に活用するのも一案だ。

30年目標実現には、供給側の電力低炭素化、需要側の省エネ・再エネ導入拡大・電化に注力する必要がある。再エネが主力電源となる以上、経済産業省の組織改編も必須だ。省エネ・新エネ部に所属する新エネ課は電力・ガス事業部に再エネ政策課として移管し、供給側の再エネ大幅拡大に注力。省エネ・新エネ部の省エネ課は省エネ・再エネ課に発展させ、省エネ法を実質的な需要側脱炭素法に衣替えし、需要側の省エネ強化と再エネ導入拡大、電化推進を一体的に推進する組織に改編するべきではないか。(Y)

【マーケット情報/6月25日】原油上昇、需給逼迫観一段と強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減少の予測と燃料需要の増加で、需給逼迫観が一段と強まった。

米国とイランの、核合意復帰に向けた協議に不透明感。米国は、深刻な意見の相違があると表明した。このため、米国の対イラン経済制裁は続き、イラン産原油の供給増加は当分見込めないとの悲観が台頭した。また、米国の週間在庫統計は5週連続で減少し、2020年3月以来の最低を記録した。

供給減少の見通しに加え、燃料用需要の回復も需給を引き締めた。欧州では6月、航空機の稼働数が増加。米国では、航空機の4月搭乗者数が、過去14カ月で最高を記録した。欧米では、新型コロナウイルスのワクチン普及が進み、石油需要が増加するとの楽観が広がっている。さらに、インドでは、新型ウイルスの感染拡大が減速。各地でロックダウンが緩和され、6月中旬時点の車両の運転者数は、前月比で増加した。

一方、OPEC+は、8月に日量50万バレルの増産を検討している。原油価格の続伸と、OECD加盟国の原油在庫減少が背景にある。ただ、需要回復が増産を上回るとの見方が大勢で、価格に対する弱材料にはならなかった。

【6月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.05ドル(前週比2.41ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.18ドル(前週比2.67ドル高)、オマーン先物(DME)=73.41ドル(前週比2.45ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.57ドル(前週比2.70ドル安)

【住宅】脱炭素化の波紋 義務化の正当性は


【業界スクランブル/住宅】

4月から国土交通省で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が始まった。昨年10月に菅義偉首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を踏まえ、住宅・建築分野の脱炭素化を推進することが狙いだ。4月22日に行われた気候変動サミットで、日本は「30年46%減」も宣言。現行政策における住宅・建築分野の30年削減率目安は40%だが、新目標の達成には単純計算で倍近い削減が必要となる。今回の検討会の争点は、新築の省エネ基準と、住宅屋根の太陽光発電の二つの義務化だ。これまでも日本の住宅は省エネ性能が低いことが問題となっていた。元々20年に省エネ基準義務化が予定されていたが、小規模事業者の技術的対応の事情を踏まえ、先送りされた経緯がある。

新築一戸建て住宅のうち、省エネ基準に適合する住宅は80%超(19年時点)となっており、その義務化は不可能なレベルではない。4月28日に行われたヒアリングで、全国建設労働組合総連合は、経験不足の施工者が一定数存在し、教育訓練は必要としながらも、義務化に関して「問題ない」との認識を示している。

しかし、脱炭素目標の達成には、約5000万戸ある既設住宅の88%を占める省エネ基準非適合住宅の扱いが課題である。また、現行の省エネ基準は海外と比べ低すぎるため、基準自体の見直しも急務だ。

一方、住宅屋根の太陽光発電の義務化は、小泉進次郎環境相の発言でも注目されたが、FIT買い取り価格が安くなって設置が低迷する中で、義務化における消費者の負担をどう措置するのかが課題である。

省エネ住宅も屋根上設置太陽光も、従来は補助金などの促進政策が基本だった。一律義務化になると平等性・公平性の観点からさまざまな問題が出てくる。例えば、省エネ住宅の施工能力のない事業者が撤退を余儀なくされたり、太陽光の屋根上設置に不向きな立地にも設置を求めることもあり得る。二つの義務化に際し、消費者の負担や不公平性・非合理性を軽減するための、きめ細かな制度設計が望まれる。(Z)

【太陽光】低圧設備の保守 長期安定へ強化


【業界スクランブル/太陽光】

今年も台風の季節が訪れようとしている。近年、風雨災害が激甚化し、太陽光発電の事故事例も増えつつある。そうした中、政府や業界関係者は太陽光発電システムの保安強化を図るためのさまざまな取り組みを進めている。太陽光発電が主力電源として長期安定的なエネルギー供給を担うために、効果的な保安と保守の実施は、大変重要なことである。

最近の取り組み事例として、太陽光発電設備の事故報告義務の範囲が、10kW以上の一般電気工作物(50kW未満)に広がったことがある。従来、この範囲の低圧設備は、一般電気工作物であることから事故報告の義務はなかったが、近年の風雨災害などで被災太陽光発電システムが増加し、発電事業者としての自覚を促す意味でも重要な取り組みである。一般工作物として導入された低圧設備の太陽光発電設備は、高圧設備や特別高圧設備としての太陽光発電に比べて、それほど高い保安技術や対応を求められない。このため、関係者の保安への関心が薄くなる傾向があるのではないかと思われる。

保安に関してはもう一つ大きな取り組みがあった。太陽光発電システムの技術基準の改正が行われたのだ。低圧設備による発電事業を行う関係者を大いに助けてくれることになると期待している。より体系的に正確な保安知識を広めるためにも大いに役立つことであろう。こうした保安促進の取り組みや知識のインフラ整備は、適切な保守にもつながるといえる。また、こうした整備は実際に現場で電気保安の業務に当たる技術者の新たな仕組みづくりにも役立つことを期待したい。

太陽光発電システムの機会創出にもつながるさまざまな設置形態、傾斜地や水上での設置、農地での発電などへの対応のための設計ガイドラインの策定も進みつつある。さまざまな場面での太陽光発電システムの利用を想定し、より安全に設計、施工がなされ、適切な保守と組み合わせて、長期安定電源の普及につながることを期待したい。(T)

【メディア放談】CO2排出削減目標引き上げ 原発は「46%」で復活するか


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

政府は欧米と足並みを揃えるためCO2排出削減目標を46%に引き上げた。

ゼロエミ電源として原子力発電の重要性は増すが、マスコミの応援は期待できそうもない。

  

――菅義偉首相が2030年のCO2排出削減目標を、13年度比で46%に引き上げた。産業界からは異論が出ているが、マスコミは歓迎ムードだ。

電力 アメリカが気候変動問題に熱心な民主党政権に代わり、議会も民主党が上下両院で過半数を占めた。46%がかなり無理な数字なことは、経済産業省、環境省、それに政権首脳も分かっていたはずだ。しかし、アメリカの方針転換で欧米が温暖化防止で一枚岩になった。それで外交を進める上で、首相は引き上げを政治決断せざるを得なかった。

石油 問題はこれからだ。50年カーボンニュートラルを打ち出したときは、「まだ当分先の話」と切迫感がなかった。だが、30年は9年先のこと。役所はしゃかりきになって、産業界に排出削減を押し付けてくるだろう。

 長く続く低成長で、経営を維持するためコストを減らそうと省エネに取り組んで、「もう雑巾は絞り切った」という企業は多い。そういう会社は「何をすればいいんだ」とあきれ気味だ。

マスコミ 手っ取り早いのは、再エネ電源を増やして、需要家に買わせることだ。ただ、企業からすると、「一体いくら払えばいいんだ」となる。

 エネルギー基本計画を議論する審議会で出た数字だと、50年に電源を再エネ100%にした場合、需要家のコスト負担は4倍になる。再エネ50%強でも2倍だ。要するに、再エネを増やせば負担は増す。46%減を目指して30年までに再エネを増やしても、同じことが起きる。

増え続ける国の借金 再エネ支援の余裕なし

――再エネの価格を引き下げるには、政府の財政支援が欠かせない。でも、国にそんな余裕があるとは思えない。

ガス 財務省の発表によると、今年3月末の時点で国債や借入金など「国の借金」は、1216兆円だ。アベノミクスで大胆な財政出動を始め、新型コロナ対策でさらに膨らんだ。もう感覚がまひしたのか、新聞もあまり取り上げないようになった。

 これから団塊の世代が「後期高齢者」になる。社会保障費が減る見通しはない。かといって、経済成長が伸びず、格差社会が広がる中、消費税や所得税の増税は難しい。環境税は入れられるかもしれないが、再エネを主力電源にするだけの規模の財源になるとは思えない。

石油 産業界にとって、脱炭素化は存続が危ぶまれるような膨大な費用がかかることだ。経産省はトランジション・ファイナンスを普及させて、企業に資金供給をするとしているが、あまり期待はしていない。

マスコミ 欧米の金融機関は、脱炭素をビジネスにしようとしている。政治を動かして、自分たちに都合のよい国際ルールをつくってしまう。日本の46%はどう考えても無理。また彼らのいいなりになって、30年に大量のクレジットを買う羽目になるかもしれない。

―すると、やはり原子力に期待するしかない。だが、相変わらず産経を除くとマスコミの「応援」は期待できない。

電力 朝日、毎日、東京ははじめから諦めている。本来ならば、日経に期待したい。だが、もう何回もこのコーナーで話題になったが、日経は「再エネ盲従・反原発」新聞となりつつある。

ガス 日経も現場の記者は、再エネだけで脱炭素が難しいことは分かっている。ところが、編集局の幹部クラスはそれを無視する。環境省の首脳はそれがよく分かっていて、書かせたいネタがあると直接、編集幹部に連絡する。それで幹部から記者に「こう書け」と指示がくる。

マスコミ 46%が打ち出されて、さすがに日経も再エネだけでは無理だと思ったようだ。普段は再エネしか眼中にない気候変動担当のHエディターが「脱炭素電源、6割視野に」(5月14日)で原子力について触れている。

 H氏も46%達成が原発抜きでは難しいことは認めている。一方、廃棄物とコストで「課題山積」としている。確かに、高レベル放射性廃棄物の処分は難題だ。北海道の寿都町、神恵内村が文献調査に応募したが、これは「長期戦」で取り組まざるを得ない。

 しかし、原発のコストについては、何を基に書いているんだと思った。単に再エネと原発の発電コストを比べても意味がない。再エネ普及拡大で問題なのは、太陽光などの単体の発電コストではない。不安定電源のため調整電源や系統の整備などが必要で、発受電システムの全体コストが上がってしまうことだ。

企業泣かせの日経新聞 連日の「SDGsセミナー」

電力 H氏は、再エネを「最も安価な電源になりつつある」とし、原発のコストについては「競争力が低下している」という。確かに福島事故で膨大な安全対策費用がかかっている。だが、それでも、お天気任せで低稼働の再エネを無理やり大量導入するよりも、はるかに安いコストで電力供給ができる。きちんと説明すれば、そんなことは小学生でも分かる。

――ところで最近の日経は、自社が主催するSDGs関連のセミナーなどの広告がやたらと目立つ。

マスコミ セミナーは無料だが、企業や団体からはしっかり協賛金などを取っている。経団連加盟企業でSDGsに賛同しない会社はない。でも、いくら一流企業でも予算に限度がある。毎回、日経にお付きはできない。それで「今回は見送りたい」と言うと、新聞の紙面で意地悪をされるらしい。

――それじゃ、高杉良の経済小説『濁流』(講談社文庫)の「帝都経済」誌と同じ商法だよ。

【再エネ】地熱発電への期待 伸び悩み打破なるか


【業界スクランブル/再エネ】

菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル宣言以降、再生可能エネルギーへの期待が高まっている。再エネの各電源には、それぞれ特徴がありメリット、デメリットがある。各電源の特徴を見据えて推進を図る必要がある。

その中で期待したい電源が「地熱発電」である。世界指折りの火山国である日本は、世界第3位の地熱資源量を誇っている。18年策定の第5次エネルギー基本計画で、地熱は天候の影響を受けない「ベースロード電源」であると明確に示された。蒸気や熱水が主な資源であり、CO2の排出量が極めて少ないクリーンな電源である。また、いったん運転が開始されれば発電コストが安いなどさまざまなメリットがある地熱は、わが国としてもぜひ推進させたい電源である。

しかし、地熱発電は17年長期エネルギー需給見通しで提示された30年エネルギーミックスでの約150万kWに対し、現状は60万kWの導入にとどまっている。地熱が伸び悩んでいる理由を挙げてみる。

地熱資源は地下の割れ目沿いに存在するが、ボーリングで割れ目を通すのは綿密な調査や高度な技術を要し時間やコストがかかる。地熱資源の多くが国立・国定公園内に存在しており、厳しい規制への対応に時間を要する。また、温泉との調整に苦心している。

こうした障壁が存在する地熱であるが、活気づいているのを感じる。新エネルギー財団のホームページに掲載された「地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言」では、新規地熱開発と既設地熱発電所に分けたそれぞれの政策提言が行われているなど、業界団体の動きが活発化しつつある。

河野太郎・行政改革担当相率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、日本地熱協会の要望を受けて、環境省や経済産業省と規制緩和に向けた丁々発止のやり取りをしている。また、NHKでも「世界が注目 地熱発電」という特集が放送された。これらの取り組みが地熱発電の促進につながることを大いに期待したい。(F)

交通や通信とセクターカップリング統合エネルギーマネジメントの実現


【リレーコラム】浅野浩志/東海国立大学機構 岐阜大学高等研究院特任教授

ちまたではエネルギーの地産地消とやや文学的な表現を使うが、電力は地産地消可能な農産物とは異なることは言うまでもない。規模の経済と範囲の経済を生かし、全国的な電力ネットワークで融通・輸送され、消費される。住宅用太陽光発電(PV)システムなど分散型資源も大規模電源とともに電力系統に連系している限り、電源と需要地を含む電力プールとして、最経済かつ安定供給を維持しながら、電力潮流は制御されている。PVを設置し、大容量蓄電池が搭載された電気自動車を所有できる、ごく限られた階層では自立エネルギーシステムを実現できているかもしれないが、途上国を含むグローバルに普及するモデルではない。

それよりは、多様な地域環境で暮らしている人々とインクルーシブ(包摂的)な社会を目指すなら、狭いスマートコミュニティーではなく、地域(基礎自治体)間で再生可能エネルギーを融通しあう地域間連携システムを構築していくのが現実的だろう。これによりローカルはもちろん、日本全体の脱炭素社会への移行を容易にする可能性がある。筆者は、戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」でそうした未来型エネルギーシステムの社会実装を目指した研究開発を進めている。まずはスマートメーターデータに代表されるデジタルデータも活用した地域エネルギー需給データベースを整備するところから始めている。

ICTが電給制御を効率化 

洋上風力に代表されるように地域に偏在する電源を自治体の枠を超えて広域で運用し、地元密着の小規模電源はローカルに消費される階層型グリッドシステムに移行していく。分散型エネルギー資源の普及に伴い、エネルギー需給の地点別・時間帯別価値を可視化し、プロシューマ間で自由に取り引きし、エネルギーシステムとしては自律分散的に運用される姿を長年研究し、提案してきた。ICTの急速な進展とさまざまなプラットフォームを通じた電力取引(市場)環境の整備によって、ようやく実現の目途が見えてきた。

サイバーセキュリテイーを確保するのは言うまでもなく、激甚災害に備えた安全なコミュニティーの維持に高信頼度のエネルギー供給は欠かせない。最も重要なライフラインである電力システムは、交通部門や通信部門、公共部門を核としたセクター間で連携するセクターカップリングによって、日々の暮らしから雇用の場である産業を下支えする地域社会サービスを提供していくのが望ましいのではないか。

あさの・ひろし 東大大学院修了。博士(工学)。現在、電力中央研究所研究アドバイザー、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」サブ・プログラムディレクターを務める。

次回は電源開発執行役員の中山寿美枝さんです。

【石炭】日本に良い参考 ポーランドの政策


【業界スクランブル/石炭】

2018年末にCOP24を開催したポーランドは、脱炭素社会の形成を進める欧州にあって石炭資源に恵まれており、いかに脱炭素化を行っていくか世界中から注目されている。その方法は他国同様、再生可能エネルギーの拡充や原子力の推進にあるが、エネルギーセキュリティーを確保しながらどう達成するかは容易ではない。

ポーランドは49年に全ての国内炭鉱を閉山することで8万人の労組と合意しており、①送発電インフラ網の整備、②再エネ・コージェネなどの進展、③エネルギー効率の向上、④エネルギー経済市場の進展―に配慮した30年必達の「エネルギー計画」の実施が不可欠として公表中の案に対してパブリックコメントを募集中だ。

現在の80%以上の石炭依存率も60%以下とすべく、CCUS(CO2回収・利用・貯留)に配慮した高効率の石炭火力の導入も検討しており、日本技術への関心も高い。ロシアからの天然ガス輸入にこれ以上頼らないために不可欠としている。

しかし、EU全体の低炭素化の動きや金融機関の締め付けによりポーランドのエネルギーコストは他の加盟国の2倍以上、1000kW当たり50ユーロに及びつつある。EUが15年に公表したものに、ポーランドは最後まで反対し、独自に気候変動に対応し70年までに目標達成するとした。上記計画の完遂には7000億~9000億ユーロが必要であり、EUの資金充当が不可欠とみられている。

ポーランドでは現在約16%のグリーンエネルギー産業を育成しているという。例えば炭田地域のシレジア地方に電気自動車工場を誘致し、雇用創出を図るとしている。わがままに映るポーランドだが、環境に配慮せずに経済成長したEU諸国に対して「公正移行」を唱えるものとなっている。現在世界の各方面で日本の石炭産業は批判にさらされているが、ポーランドのエネルギー政策の取り組みは参考になるところが大きいと思う。(C)

【横山信一 公明党 参議院議員】常に人々の代弁者でありたい


よこやま・しんいち 1959年北海道生まれ。北海道大学大学院博士課程で単位取得。90年北海道庁入庁。道議会議員(2期)を経て、10年参院選初当選。参院2期、農林水産大臣政務官を経て、19年から復興副大臣を務める。

復興副大臣として積極的に携わる、「福島イノベーション・コースト構想」。

国会議員唯一の水産学博士として、海洋プラごみ問題の解決にも尽力している。

生まれは北海道帯広市だが、大学入学までの少・青年期を過ごしたのは石狩町(現石狩市)。漁業者や多種多様な海産物が身近な環境で育ち、北海道大学水産学部に進学した。1990年4月、北海道庁に入庁し網走水産試験場に配属。多くの水産業者と関わりながら水産に関する知見を深めた。入庁後も水産学の勉学に励み、92年3月には水産学博士号も取得した。さらなる知識を求め、98年にはアメリカ海洋漁業局で在外研究を行う。

政治の道へ転向するきっかけは、意図しないものだった。親交があった地方議会議員から後任になってほしいと直々に指名があったのだ。周囲からの強い後押しもあり出馬した、2003年の北海道議会選挙で見事トップ当選を果たすと、4年後の2期目も当選。「地方の声の代弁者」として進出した国政でも、参院選に2期連続で当選した。その間数々の要職を歴任し、現在は復興副大臣として、被災地の復興政策などに関わっている。

周囲に推される形で進んだ政治の道は、途切れることなく今年で18年目を迎える。政治家として活動するようになってから特に大切にしてきたことの一つが、「一人一人の声に耳を傾けること」だ。

「人それぞれの考えや主張について、まずはしっかりと聞くことに務めてきた。自分の意見があっても、決して押し付けたりはしない」

政治家とはさまざまな人の声を聴き、社会をより良い方向に変えていく仕事であると考え、常に代弁者であることを心掛けてきた。そうした姿勢が周囲の信頼を集め、政治家として担う役割を大きくしていった。

被災地ならではの産業基盤構築へ 「海ごみ法」改正により脱プラも推進

現在は、福島県・浜通り地域を中心に新たな産業基盤の構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に力を入れている。ロールモデルとしているのが、第二次大戦時「マンハッタン計画」のプルトニウム製造拠点となった米ワシントン州のハンフォード・サイトだ。当時の汚染水などのずさんな管理により、現在も環境再生事業が続いている。

それにもかかわらず、ハンフォード・サイトでは産業が活発で人口も増加している。各機関・団体が相互に協調しながら都市形成を推進し、住民との信頼関係が築かれているからだ。その要となるのが、環境再生事業などを主導する国立パシフィックノースウェスト研究所(PNNL)だ。横山氏もその成功例から学ぶべく、PNNLで最高科学者を務めた大西康夫氏と意見交換を重ねてきた。

「ハンフォード・サイトに倣い、司令塔として国際教育研究拠点の構築を目指している。そして、意見交換を通して浮かび上がってきた研究テーマの一つが『放射線化学』です」

今、世界中の放射線化学の研究者は福島第一原発に注目している。実験室では決して得られない材料が事故炉の中にあり、その物性を調べることが新たなイノベーションにつながる可能性があるからだ。

「悲惨な原発事故を反省し、二度と起こらないよう対策するのは当然です。しかし、ネガティブな部分だけに目を向けることが未来につながるわけではない」。国際教育研究拠点を通じ放射線化学を地域振興の材料にすることは大きな目標の一つであり、復興副大臣を退任した後もフォローを続けていくという。

もう一つ、積極的に関わっているのが「脱プラスチック(脱プラ)」だ。脱プラに関わるようになったきっかけは、山形県酒田市の飛島訪問だという。飛島は、海岸漂着物などの処理を推進する「海岸漂着物処理推進法(海ごみ法)」立法のきっかけとなった場所で、現在も大量のごみが漂着する。

脱プラに関する政策の一つの成果が、19年の「海ごみ法」改正だ。この改正により、回収が困難なマイクロプラスチックに関する規制が加わった。さらに「プラスチック資源循環戦略」や、「プラスチック資源循環促進法」閣議決定につながる流れも作った。

脱プラは世界的な課題の一つであり、G7やG20でも議題に上っている。しかし現状は、まともなごみの回収システムすらない発展途上国も多く存在する。

「日本は3Rのうちリユース、リサイクルに関しては世界でも進んでおり、廃棄物を焼却して得た熱エネルギーを回収するサーマルリカバリー(TR)についても他国にはない技術がある。脱プラや温暖化対策が全く進んでいない国に対していきなり3Rを求めるのは難しく、『その前段階としてのTRの提案』など、もっと国際社会でアピールしていく必要がある」と主張する。

途上国には燃やすしかないプラごみが大量に存在する現実がある。脱炭素社会という世界的目標のために、わが国の技術協力を促進し、途上国のエネルギー効率化やCO2削減に貢献していく構えだ。

【石油】脱炭素化の担い手へ 炭素価格の導入を


【業界スクランブル/石油】

石油連盟は今年3月、政府の方針を踏まえて、「石油産業のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)」を発表している。

これによると、石油産業は、これまでの低炭素化の取り組みに加え、CO2フリー水素、合成燃料、CCUS(CO2回収・利用・貯留)など革新的な脱炭素技術の研究開発と社会実装に積極的にチャレンジし、業界として社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献するとしている。

業界として、将来のジリ貧を回避するために、従来の事業基盤の転換・拡大に加えて、むしろ自ら「脱炭素の担い手」を目指すとの決意表明であろう。

確かに、業界には、製油所における水素の製造・取り扱いへの熟練、基地や給油所など既存インフラの活用といった点で、水素や合成燃料への技術的優位性がある。ENEOSは燃料電池車向けの水素ステーションを積極的に展開してきた。特に、既存自動車や代替燃料の決め手に欠く航空機や船舶の燃料にも利用可能なカーボンフリー水素起源の合成燃料には期待したい。

また、上流では、CCS(CO2回収・貯留)は油田生産の逆の工程であるし、EOR(石油増進回収)といった増産技術への活用も可能である。ENEOSにはベトナムや米テキサス州での実績、石油資源開発があり、出光には苫小牧での経験もある。化石燃料に依存せざるを得ない需要が残る以上、貯留技術は必要不可欠だ。

やはり問題は、コストである。原理的には解明されていても、技術開発で劇的にコストを下げなくては社会実装は無理である。

ある程度までコスト低減が実現すれば、あとはカーボンプライス(炭素価格)でギャップを埋めることができる。その意味で、石油連盟が炭素価格導入を要望する日が早く来ることを期待したい。

同時にこのことは、石油をはじめとする石炭、ガスなどの化石燃料がいかに効率的で経済性があったかを、逆に、脱炭素社会がいかに高コスト社会になるかを示している。(H)

【コラム/6月23日】いい加減にしてくれ、進次郎君!


福島 伸享/元衆議院議員

 小泉進次郎環境相は6月11日の記者会見で、父である小泉元総理が宣伝塔を務めていた太陽光発電会社の詐欺事件への認識を問われて、「再エネ立地交付金」のような制度を作って、財政基盤が脆弱な事業者を支援していきたいとの認識を示した。そして、その制度は「今までだったら電源立地交付金、これからは「再エネ立地交付金」」と、電源三法交付金制度の根本的な見直しに取り組む意欲を示した。

 しかし、これはまったくの筋違いの素っ頓狂な政策と言わざるを得ない。小泉大臣は「これから再エネを最優先の原則で最大限の導入」と言っているが、市場原理を超えて、国費つまり国民の税金を投入してまで再エネを導入することは、果たして国民の理解と合意を得た政策なのであろうか。電源三法交付金は、一般送配電事業者が販売した電気にかけられる電源開発促進税を財源としており、同税は電気代に転嫁されるから、当然電気利用者たる国民の負担となっている。

 この制度ができた当時は、山奥の大規模ダム開発による水力発電所や大規模原子力発電所の建設に伴って必要となるインフラ整備、さらには発電所が立地する地方自治体と大消費地域の経済的格差の是正を目的としていた。私は、四半世紀前にこの交付金のとりまとめを担当し、新規立地候補地を訪ね回ったが、もんじゅの事故やJCO事故などが相次いだこともあって、原発の新規立地はこの交付金をもってしても経済的魅力が乏しく、住民投票による新潟県の巻原発の撤退などに見られるように新規立地は難航した。結果的に固定資産税收が逓減していく既存の原発立地地域に追加的に交付されていくこととなり、原発の新規立地を促すというよりは、原発の既設地域の自治体の緩み切った財政基盤を温存する役目しか果たしていない、と私は考えていた。

 電源三法交付金の実際の役割は、原子力推進を国策とする国が原発立地に直接関与しているという証文に過ぎず、原発新設にも地域振興にもつながっていないというのが私の結論である。立法当時の田中角栄が力をふるった高度経済成長期から時代は変わり、その在り方の抜本的な見直しが必要であると考えていた。民主党政権時に、特別会計の事業仕分けが鳴り物入りで始まり、私がエネルギー特会担当の「仕分け人」になった時、私のこうした考えを知る原発立地地域のある首長が、連日圧力をかけるために上京し、柱の陰から私を睨んでいた。私は、政治的な実力のない民主党政権では電源三法交付金の抜本的見直しはできないと思っていたので、多くは発言しなかった。

 小泉大臣は、こうした電源三法交付金の政策効果や負の側面を勉強したほうがいい。「原子力にお金を出しているんだから、再エネにも」というような、単純な予算の分捕り合戦の問題ではないのだ。そもそも、原発以外の他の民間事業で、事業に必要な施設を作る時に国からお金が出るようなものは、ない。設備投資や事業の遂行に関する資金を、金融マーケットから調達できないような事業は、そもそもビジネスとして成り立ちえない。資金が調達できない事業者は、マーケットから退場することによって、健全な再エネ発電市場は作られるのだ。

 そもそも再エネは、過疎地の大規模電源から大量の電気を遠隔の大消費地に供給する原発などと異なり、分散型電源として発電する地域のエネルギーを賄ったり、売電の利益を地域に還元し、エネルギー供給システムそのものを転換することこそがウリのはずだ。FIT制度やFIP制度は、そうしたエネルギー供給システムの転換を、極力市場メカニズムを歪めないようにして進めていく政策だったはずだ。この間、こうした制度を進めてきて問題となっているのは、小規模事業者への利益の確保ではなく、環境問題など様々な面でトラブルが続出している地域との共生のルールや、地域への利益還元の仕組みを作ることだ。

 「原発に使われているお金を再エネに」というような利権分捕り合戦の政策では、市場メカニズムが機能する健全な再エネ発電マーケットを歪めるだけでなく、最近自民党内でも跳梁跋扈し始めている「再エネ族議員」のメシの種をつくるだけになるだろう。小泉環境相は、最近も「リモートワークができてるおかげで、公務もリモートでできるものができたというのは、リモートワークのおかげです」と謎の言葉を発しているが、国家権力そのものである国民の税金を使う制度を、大した政策理解力もなく、実現する政策目標もあいまいなまま進めることは、亡国の道と言わざるを得ない。結果的に、国際競争力のない、ガラパゴス化した過保護で歪んだ再エネ市場ができ、自民党の新族議員を肥えさせるだけになるだろう。

 小泉環境相には、残り少ない任期を、得体のしれない新しいことに飛びつくのではなく、福島第1原発の処理水について国内外の理解を得て、風評被害を最小にするために汗を流すことに専念してもらいたい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

米国で初の炉心溶融事故 原子炉反応度の研究進む


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

1961年1月、米海軍の訓練用試験炉SL―1で世界初の炉心溶融事故が起きた。

事故原因の調査・研究が行われた後、解体撤去が行われ、97年に廃炉が完了している。

過去、炉心溶融事故を起こした発電用原子炉は、世界に6基ある。古い順に、米海軍の訓練用試験炉SL―1、スリーマイルアイランド(TMI)、チェルノブイリ、福島第一(3基)である。本稿では、事故炉についての廃炉の現状を、事故の経緯とともに今後述べていく。今回は順序に従ってSL―1の話だ。

SL―1事故を知らない人は多い。だが事故を起こした炉で、廃炉が終了したのはSL―1だけだ。SL―1は、米国アイダホ州の国立原子炉実験場(NRTS)に設置された初期の加圧水型炉(PWR)で、潜水艦の運転訓練に使われていた。カーター元大統領が原子炉を学んだのがここだ。

SL―1事故は単純な反応度事故で、補修員が停止中の原子炉から制御棒を手で引き抜いたことで起きた。理由は失恋による自殺という。巻き添えで、同僚1人が重篤な放射線被ばくで死亡した。

自殺志願者は、制御棒を引き抜いた瞬間、驚いたに違いない。立っている大地(原子炉容器)が、衝撃音と共に突き上がったからだ。原子炉は暴走状態となり、その熱で燃料棒が熔融蒸発して飛び散り、水蒸気爆発が起きて(水素爆発ではない)事故は終了した。

炉心の上部を覆っていた水は、水蒸気爆発によって一塊となって跳ね上がり、原子炉上ぶたを強く叩いた。いわゆるウオーターハンマー(水撃力)の発生である。

水撃力で打たれた原子炉容器は、飛び上がる過程で冷却配管を剪断し、クレーに激突して元の位置に戻った。剥がれた断熱材が、座蒲団のように原子炉の下に敷かれていたという。

冷却配管の剪断によって、粉々になった燃料と冷却水が炉室に噴き出した。幸いにも燃料棒が交換されたばかりだったので、炉心の放射能は暴走による核分裂だけで、外部への放散量も微量であった。

暴走の時間は約100分の1秒、最大出力は約1000万kW、そのエネルギーは13万kW秒(40 kW時)と推定されている。

非現実的な数字を羅列したのは、反応度事故の実体を知ってもらうためだ。核分裂反応がいかに早くて大きいか。原子力は常識を越える存在なのだ。事故の発生は1961年1月、この当時は、反応度事故が原子炉の最悪事故と考えられていた。

余談だがこの頃、日本初の原子力発電所、JPDRの契約が日本原子力研究所と米国GE社の間で結ばれようとしていた。その直前の事故だ。今なら大問題であろうが、当時は小さな記事であった。

困難な事故の原因立証 英国がアメリカに助け舟

短時間に大出力が発生して、原子炉が破壊した。火薬の爆発に似ている。こう考えた米国は、爆薬や火薬を使った再現実験を行った。だが成果は芳しくなかった。圧力容器に残された変形が模擬できず、容器が破裂してしまうのだ。

原子炉で生じる最悪事故の原因が立証できないとなれば、軽水炉の開発は宙に浮く。米国は困ったらしい。この時、イギリスが助け船を出した。電気加熱ヒータで炉心を模擬したモックアップを作り、大電流を流したところヒータが溶けて、水蒸気爆発が発生した。容器の変形も似ている。この実験で、反応度事故の破壊原因は水蒸気爆発と判明した。

ここで一服してクイズを。水蒸気爆発と、福島第一で起きた水素爆発とでは、どちらが怖いか?

答えは、水素爆発。それもけた違いに。水素爆発に較べると、水蒸気爆発など赤ん坊の様に可愛らしい。だから、容器は破壊しないで変形したのだ。これが解答。覚えておいて損はありませんよ。

以降の米国は、暴走の本質を解明するために、「BORAX」「SPERT」の実験を矢継ぎ早に実施する。SL―1の破壊原因は分かったが、水蒸気爆発の発生理由は何か、暴走出力と水蒸気爆発の関係は何か等々、反応度事故の謎を追求し続けた。これがほぼ究明されたのが事故後約10年、1970年ごろのことだ。

SL―1のオフィスを利用 米国が示す解体撤去の本質

僕はSPERT(Special Pow-er Excurtion Test)の暴走実験で留学時代を送った。この縁で、廃炉を担当する以前の30年間は、燃料破壊の実験を本職としていた。

留学時代、偶然に2日ほどをSL―1のオフィスで過ごした。原子炉建屋内側の壁は除染作中で、グラインダーの音が間歇的に響いていたが、きれいに除染された外側はオフィスとして使用していた。

ここに税金の無駄を嫌う米国の国民性が現れている。飛散した燃料の後始末が終われば、原子炉建屋も倉庫として利用する。この発想は、残念ながら日本にはない。

元来、解体撤去の目的は、放射能を取り除いた跡を自由に再利用する所にある。それは、土地だけではない。建物も同じだ。米国が示した解体撤去の本質、読者はしっかりと覚えておいて欲しい。

初の炉心溶融事故を起こしたSL-1

SL―1の廃炉は、主要部分が84年に、最終的なサイトの除染が97年に完了した。廃炉完了まで36年、事故炉としては短い。

理由は、第一に原子炉室の放射線量が低かったこと、第二にBORAX、SPERTの実験により事故を確かめた上で、安心して工事が進められた事が挙げられる。さらに今一つ、事故が単純な暴走事故だけで終わった事実を挙げたい。ほかの事故では、第2、第3のミスが事故を災害にしている。

例えば、TMI事故では、原子炉冷却材ポンプを不用意に回したことで、高温のジルコニウムと水の化学反応が起き、炉心が熔融し、水素爆発が生じた。炉心溶融と爆発は、事故時の対応の不味さが招いた第2の災害といえるのだ。

チェルノブイリも福島第一も、付随災害の発生が事故を災害に仕立てている。事故一つで終れば災害に至らずに済んだ。事故を一つに止め、付随災害を起こさせない、これは国防も安全も同じだ。

原子力安全が援用する米国の国防思想、深層防護哲学(Defense in Depth Philosophy)が教えるところが、これだ。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

賛否両論の処理水海洋放出 求められる地元への配慮


【多事争論】話題:ALPS処理水の海洋放出

政府は、福島第一原子力発電所のALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出を決めた。

決定を巡っては漁業関係者をはじめ、政界からも反対意見が出るなど賛否が分かれている。

〈汚染水増加の阻止が優先 海洋放出の前に止水工事をすべきだ〉

視点A:山本 拓 自民党衆議院議員

菅義偉首相は福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を決めた。私たちは風評被害を心配する漁業関係者などと共に一貫して、今海洋放出を決定することに反対してきた。だが、それらを踏まえて判断されたことであり、あえて反対するつもりはない。しかし、長年にわたって原子力行政を推進してきた政治家として、納得はしていない。この政治判断は国益を大きく損なう可能性があり、今後の原子力行政に不信感を与えかねないとも思っている。

首相は理由として、現状のままでは処理水が増え続け、サイト内のタンクの数が限界に達して、原発の廃炉作業に支障が出ることを理由に挙げた。確かに今は、燃料デブリに接触する汚染水の量が増えている。東京電力は建屋の周りに凍土方式の遮水壁を設置して地下水などが建屋内に入ることを防いでいるが、これが十分に機能していない。原子力規制委員会でも、専門家の会合で凍土壁がうまく働いていないことが指摘されている。

これ以上、汚染水を増やさなければタンクも増えないのに、なぜ汚染水が増えるのを放置しているのか。それを聞いたことがある。すると、「建屋の中に汚染水が多くあり、建屋外の水の水位が低いと汚染水が外に出てしまうので、水を増やしてバランスを取っている。それで汚染水は減らせない」と回答してきた。今もそれを理由にしている。

それならば、建屋の中に水が入り込めないように外壁部を止水すればいい。原子力規制委員会の会合で、ある外部専門家は「完全な構造壁を造ることで、流入水は完全に抑制できる。建屋の周りを防水すればいいだけで、難しい技術ではない。日本の建設技術なら簡単に防水はできる」と言っている。また国際原子力機関(IAEA)も勧告の中で、「まず早く止水をすべきだ」と指摘している。

ゼネコンの関係者に聞くと、止水はどの工事現場でも行われていて十分な経験、実績があり、福島第一原発の建屋の止水工事も長い時間をかけることなくできると言う。事故から10年経って建屋の周囲の放射線量が減ってきたこともあり、「工事はできる」と言うゼネコンは多い。汚染水が増えることを止めれば、今の冷却ループだけで原子炉などを冷やし続けることができる。

海洋放出は2年後というが、なぜ、それまでに止水工事を行わないのか。以前から経済産業省、東京電力に止水工事をしない理由について公開文書で尋ねているが、いまだに回答はない。政府は風評被害を心配して、税金を使い大規模な広報活動をするという。それよりも、本当に漁業関係者のことを考えるならば、まず止水工事を行い、汚染水が増えることを止めるべきではないか。

ほかの原発の処理水とは違う 魚介類の生態系への影響も懸念

世界中どこでも同じだが、原発は微量な放射性物質を含む処理水を放出している。しかし、福島第一原発の処理水は、事故で溶け落ちた燃料デブリに触れた放射性物質を含む汚染水を処理して放出することが、ほかの原発の場合と違う。ALPSでほとんどの核種は取り除くが、トリチウムのほかにも、わずかだが海洋放出する核種がある。東電はこれを十分に薄めて、基準以下にして放出するから人体への影響はないとしている。

だが、影響の対象は人体のみで、魚介類の生態系は対象になっていない。そのことを懸念し、米国のウェブ雑誌『サイエンス』に投稿した学識者もいる。そういったことが、風評被害を招くことを心配している。

海洋放出を韓国、中国が激しく批判している。彼らもトリチウムなどを放出しているから理屈としてはおかしいが、この両国が怒るのは無理もないと思う。福島第一原発は普通の原発と違い、炉心溶融を起こした事故炉だ。溶融デブリに触れた汚染水をALPSで処理はするが、感情的な反発は避けられない。もし韓国が同じことをしたら、日本海に面した私の地元の福井県でも同じように強い反発が起きただろう。いま、従軍慰安婦や徴用工問題、日米同盟強化などで日韓、日中関係は良好な状況ではない。その時期になぜ、あえて反感を買うような判断をしたのか。非常に悪いタイミングだったと思う。

漁業関係者などが反対していることから、自民党の中に、海洋放出に難色を示す議員は多い。中でも福島県をはじめ東北の太平洋岸に選挙区がある議員は、地元の支持者から再考を求められて頭を痛めている。昨年、この問題について議員を集めて勉強会を開くと、代理を含めてだが約50人が参加した。これからも海洋放出を懸念する議員が集まって会合を開き、政府に提言などをしていきたい。

やまもと・たく 法政大学卒。福井県議会議員を経て1990年衆院議員当選。農林水産副大臣、拉致問題等に関する特別委員会委員長などを歴任。当選8回。

【原子力】新増設の位置付け 安倍前首相も懸念


【業界スクランブル/原子力】

第6次エネルギー基本計画の今夏の閣議決定が見込まれている。5月の連休明け、基本計画の作成を踏まえ、資源エネルギー庁幹部が自民党の「最新型原子力リプレース推進議員連盟」の会合で、次のような発言をしている。

「4月22日に米国主催で開かれた「気候変動サミット」で、菅義偉首相が2030年排出目標(NDC)などを報告し、13年比46%削減と50%の高みを目指すと発言した。再生可能エネルギー5~6割、水素・アンモニア1割、CCUS(CO2回収・利用・貯留)+化石火力+原子力で3~4割を50年に達成することをベースケースとしてシミュレーションして試算している」

「再エネを主力電源とする方向が示されているが、お天気任せで、自然・社会・経済性の制約がある。原子力は現在9基が再稼働し、地元了解が4基で得られて、計13基の再稼働の準備が整ったところだが、将来の設備容量の見通しは60年運転シナリオでも50年に23基2374万kWにとどまり、40年代以降、設備容量は大幅に減少する」

「それだけに運転期間の在り方を含めた長期運転は重要で、その方策は政治判断だが、検討を求める声などが審議会などで高まっている。また立地地域からは、地域が将来に希望を持てる計画を求める声が寄せられている。基本計画についてまだ案文はなく、これから調整する。原子力については選択肢としての位置付けにとどまる」

結局、議連の会合で基本計画についての具体的な内容は一切示されなかった。リプレース議連の会合は「今回で終了」との声もあり、「エネ基見直しに合わせて新増設・リプレースを明確に推進する方針を打ち出す」という同議連の趣旨は不発に終わりそうだ。

会合に出席した安倍晋三前首相は、「私の地元のジルコニウム部品製造メーカーは、事業をパイプ椅子メーカーに売却した。このままでは部品を作れるのは中国の会社だけになる。原子力産業界が心配だ」と述べていた。前首相の懸念が杞憂に終わればいいが。(S)