<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人
容量市場の約定価格が高値になり、「新電力がつぶれる」と新聞各紙が大きく報道している。しかし、新電力に固定費の負担を求めるのは既定路線であり、各紙の記事には勉強不足が目立つ。
―容量市場の約定価格がkW時当たり1万4137円とかなり高額になって、負担が増えて経営が厳しくなる小売り事業者が出てきそうだ。これにマスコミがかみついている。
ガス 各紙の容量市場の記事を見て、あらためてマスコミの勉強不足を痛感した。中でも朝日新聞。再エネ系の新電力を守りたいためか、容量市場の必要性などを詳しく説明しようとしない。とても日本を代表する新聞とはいえない報道だった。
電力 朝日や東京新聞は確かに世論をあおるような、一流メディアとはいえない伝え方だった。エネルギー業界の大部分の人たちは、口には出さなくても容量市場についての報道がおかしいと思っているはずだ。
卸電力取引所から電気を仕入れて小売りをしている新電力は、今まで発電にかかる費用のうち、固定費を払っていなかった。それでは、発電事業者は古い火力を維持できず、新しい発電所もつくれない。すると、将来の電力供給が危うくなる。それで、新電力にも固定費を負担してもらうことにした。別に、難しい話ではない。
今回は初回ということもあって、約定価格が上限に張り付くような高額になった。経産省は新電力の反発も踏まえて、見直しを始めている。この問題は徐々に解決していくと思う。
マスコミ 一部の小売り事業者が見直しを求める要望書を出しているけれど、新電力と一般の国民への対応を分けて考えた方がいい。基本的にこの話はBtoBの話。BtoCへの影響、つまり家庭の料金負担増は限定的になる。新聞はそのことを伝えるべきだよ。
小泉環境相に失望 大手紙記者は勉強を
―小泉進次郎環境相が約定価格が高値になったことに文句を付けて、それをマスコミが大きく報道している。
電力 再エネの普及にブレーキがかかりかねないと思って、小泉さんは敏感に反応したんだろう。将来の総理候補で、期待しているところがあった。しかし、今までも物議を醸す発言があったが、今回は特に失望した。電気事業について勉強していないし、理解しようともしていない。結局、世論に迎合する政治家で終わるのかなと思った。
―新聞各紙は、小泉さんの発言を検証もしないで掲載していた。
マスコミ 朝日や東京だけでなく、大手紙の経済記者は「容量市場って何だ」というレベルの記者ばかり。彼らは、経産省の説明は聞くが、広域機関(電力広域的運営推進機関)に足を運んで取材するようなことはほとんどしない。
容量市場の仕組みは複雑だけど、広域機関はかなり工夫して説明用の資料をつくっている。しかし、それさえ読まずに記事を書いている記者がいる。
石油 容量市場をよく分かっている記者は、電気新聞などの業界紙にしかいない。それで容量市場の必要性や、今年から入札が始まることが、大手紙やテレビを通じて世間に伝わることが、価格発表までまったくなかった。その中で突然、「費用総額は1兆6000億円」という記事が出て、世間もあわてた。「誰がこんなことを決めたんだ」となった。
マスコミ 「電気料金が国民全体で平均500円上昇する」との記事に対して、梶山弘志経産相が会見で「追加の国民負担はない」と火消しに走った。ただ、政権の側には、小売り自由化後に雨後の筍のようにできた新電力が、負担増である程度淘汰されるのは仕方ないと考えている節もある。
菅義偉首相は、「日本経済の停滞は、生産性の低い中小企業が多いからだ」と訴えるデービット・アトキンソン氏の影響を受けている。卸電力だけに頼るような新電力は低生産性の典型的企業。早く撤退して、商売替えした方がいいと考えているんじゃないか。
―容量市場に限らず電力システム改革は複雑になりすぎて、普通の人には分かりづらい。
電力 行政の側に責任があると思う。電力システム改革の中で、広域機関の権限が強くなっている。容量市場や需給調整市場に加え、系統増強やマスタープランの検討なども始めている。
しかし、広域機関には自分たちの検討していることの内容や、これからの議論の方向性を積極的にメディアに伝えようという姿勢が足りない。それでマスコミも、よく理解できないままでいる。
石油 ここが大きな問題。エネ庁の制度改革であれば、経産省は記者クラブを通じて情報発信ができる。だけど、広域機関はそれができない。たまたま関心を持った人が取材するだけだ。容量市場を巡る誤解だらけの記事も、そういった構造的な問題が背景にあるとみている。
電気新聞の秀逸記事 負担増発言を痛烈批判
―すると、業界紙の役割が重要になる。
電力 やはり、さすがだと思ったのは電気新聞。電力自由化については歯切れの悪い記事が多かったけれど、10月5日の「容量市場 どこまで理解?」は分かりやすく、読んでスッキリした。
「(新電力の)分担額は過去1年間の卸市場価格の下落によって、フリーライダーが手にした利益でほぼ賄える水準」と指摘していた。電気新聞だからこそ書けた記事といえる。「大手紙記者はこれを読んで勉強しろ」と思った。
マスコミ 小泉さんの発言への批判もあった。記者会見で「小売り事業者の負担が増える」と述べたのに対して、「本来あるべき負担の在り方を完全に無視した発言」とバッサリ切って捨てた。久しぶりの骨太の記事だった。
―電気新聞に座布団一枚!