【覆面ホンネ座談会】大型交付金にCP要望も 「脱炭素予算」に物申す


テーマ:エネルギー環境予算と税制

2022年度予算要求のエネルギー・環境関連では「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」(再エネ交付金)や、税制改正要望に盛り込まれたカーボンプライシング(CP)が注目されている。業界関係者の見解はどうか。

〈出席者〉 A電力  B都市ガス  C石油

―今回の目玉の一つが、環境省の再エネ交付金だ。地域脱炭素ロードマップの具体化に向け、200億円もの予算を要求している。

A 地域密着型の事業に対し交付金が有効活用されることに期待しているが、環境省には、真に脱炭素化に資する制度化を求めたい。そのために事業の選定過程で必要なのは、費用対効果で評価することだ。

 太陽光発電の拡大は重要だが、非現実的なエネルギー基本計画の目標ありきで太陽光の導入量だけを追求すべきではない。30年温暖化ガス46%減にこだわりすぎると、逆に脱炭素化が遠のきかねない。CO2排出量全体に占める電力の割合は4割にも満たず、電力の供給側の対策が貢献するのはごく一部だ。脱炭素化には需要側の電化が必須で、住宅なら30年、ビルは50~100年ほどストックするから建て替えのタイミングで電化を進める必要がある。交付金では、高効率ヒートポンプや、ZEB・ZEH(ネットゼロエネルギービル・ハウス)といった需要側の対策とセットで、中長期的に脱炭素にどれだけ寄与するかを評価軸としてほしい。交付金以外でも全ての政策に同じ評価軸を導入すべきだ。

B 都市ガス業界も再エネ交付金の新設に期待しているし、環境省幹部からも業界への期待をよく聞く。ただ、対象事業について問うと、漠然とした答えが返ってくる。運用が分かりにくいと結局バラマキとなり、先進地域で事例が少し出てきて終了、となりかねない。ロードマップでは100カ所での導入を目標にしているのだから、実行性が出るような運用にすべきだ。既存の類似の補助金とのすみ分けも明確にしてほしい。中堅都市には必ず都市ガス事業者がいて、常日ごろ自治体から相談事が寄せられている。

 ただ、両者とも何をすべきかピンときていない。そして現状、都市ガス事業者の貢献も限定的だ。再生可能エネルギーやEVなど複合的な提案力を身に付ける必要があり、地方事業者の支援や人材育成が急務となっている。

C 石油の場合、元売り会社は全国区だが、地域ではSS(サービスステーション)が電力や食品、介護などさまざまなビジネスを展開している。地域特性は十把一絡げではなく、ゼロカーボンシティの担い手はやはり地元に根差した企業がふさわしい。そのためのエネルギー供給と需要側への対応というセットで考えると、SSの役割も期待でき、彼らの知見を活用してほしい。ただ、SSの取り組みとしては運輸部門からEVやFCVという発想になりがちだが、台数が少なく、課金ビジネスとして自立できない。太陽光発電事業への参入も同様で、SSの売り上げの9割は燃料油であり、これが地域の実態だ。地域で自立したビジネスが育てられるかが大切で、まずは環境省のお手並みを拝見したい。正直200億円程度では大した役に立たず、気合を入れなければモデル事業止まりだろう。

環境省は地域の太陽光導入などを支援するため大型交付金を新設する

太陽光偏重でバランス欠く トランジション対策も軽視

―交付金以外の環境省事業はどうか。

B これまでも指摘されてきたが、気候変動関連補助金の経済産業省と環境省のすみ分けがさらに分かりにくくなってきた。国策として取り組む以上、役割分担の明示化か、事業の統合を進めるべきだ。ほかには、サーキュラーエコノミー関連でエアコンのサブスクリプション(定額制利用)事業も、予算規模は小さいが目の付け所が良い。給湯器などに展開させても面白そうだ。

C 石油関係ではトランジション(移行期)の対応が重要であり、その点はすみ分けはできていると思う。ただし、環境省にトランジション的な事業があまりなく、経産省と連携してもっと充実化を図ってほしい。46%減目標に関しては化石燃料対策をやらざるを得ない。電源構成の8割を占める化石燃料に関する議論こそ必要なのに、注目が低すぎる。予算のバランスの悪さにもそれが見て取れる。

A その通りで、目玉事業は太陽光ばかりだ。太陽光事業者はFIT(固定価格買い取り制度)初期に大もうけし、今回の予算はFITの代わりの補助の仕組みをつくるからなんとかパネルを設置せよ、というように見えるが、お金のかけ方が間違っている。恩恵はほぼ中国に行き、グリーンリカバリーには全く寄与しない。全てエネ基のゆがみのせいであり、「小泉環境相が数字を積ませたのだから環境省が責任を取れ」という経産省の思惑もありそうだ。しかし長期スパンなら水素やSMR(小型モジュール炉)などにもっと予算をつけるべき。今後経産省に期待したい。

規制庁職員が誤廃棄 身内に甘い体質明らかに


醜態と言っていいだろう。原子力規制庁の職員が非公開の審査ガイドを誤って廃棄し、さらに保障措置を行う査察官3人が身分証を紛失していたことが、8月に明らかになっている。職員が廃棄した審査ガイドは、特定重大施設等対処施設(特重施設)に関するもので、中国電力が誤って廃棄したのと同じものだ。

原子力規制委員会は中国電力には厳しく対応した

中国電が6月に誤廃棄を原子力規制委員会に報告すると、規制委側はこれを問題視。山中伸介委員、石渡明委員は、島根原発2号機の審査について、中国電の文書管理の状況が明らかになるまで中断すべきだと主張した。大手新聞などのマスコミは、この中国電の過失を伝えている。

その後、中国電は調査を行い、廃棄に至った経緯と再発防止策を規制委側に提示。了解を得ている。しかし、規制庁職員の誤廃棄・身分書紛失について、その原因や再発防止策の詳細は明らかになっていない。規制委の「身内に甘い」体質は批判を免れないだろう。

中国電の誤廃棄が全国に報道されたのに対し、規制庁職員のミスを報じた大手紙は皆無。更田豊志委員長の記者会見でも、質問はまばらだった。規制委・規制庁とマスコミとの癒着も、改めて浮き彫りになっている。

水道メーターをスマート化 電力インフラで管理コストを低減


【中部電力】

 中部電力、豊橋技術科学大学、東京設計事務所、静岡県湖西市は、水道スマートメーターや各種センサーなどのビッグデータを収集および解析して事業に活用する共同研究の基本合意書を締結している。

水道を管理する自治体では、少子高齢化による人口減少や節水型機器が普及したことで、水需要が減少する課題に直面している。各自治体いずれも運営基盤強化に向けて業務の効率化が求められており、同様の問題を抱える湖西市は課題解決に向けて2020年11月に基本合意書を締結し、データ利活用の調査・研究に向けて取り組みを開始した。

共同研究では、①利用者の水道メーターをスマート化し、使用量などの情報を取得するための新たな情報通信ネットワークを構築、②水道スマートメーターの情報から水の流れ(使用状況に即した管網解析)を予測、③水の流れから得られる流量・流速・水圧に加え、配管状況や水温などから水質の状況(残留塩素濃度)を分析し、濃度変化のメカニズムを解明、④水の流れや水質状況を元に、管路の合理的な更新計画(アセットマネジメント)の検討を実施―を目標に掲げ、21年度からさまざまな取り組みを開始する。

自動検針のイメージ図

通信に電力インフラを活用 DX化で維持管理を高度化

この共同研究の一環として、4者は9月から、研究パイロットエリアである同市の一部地区で、水道スマートメーターと通信端末の設置を開始した。

対象エリアは湖西市知波田および入出地区の1890戸。これまで水道メーターの検針業務は検針員が人力で行ってきたが、水道メーターに通信端末を設置することでスマート化し、得られた情報は中部電力が保有する電力スマートメーター通信網とMDMS(メーターデータ管理システム)を利用して湖西市水道課のデータ収集サーバーに転送。検針データ、警報情報などの各種データをリアルタイムで取得することで、水質管理や施設更新など維持管理業務に活用することが期待されている。

水道スマートメーターと通信端末は両地区に9月から順次設置され、研究も併せて開始する予定。また、研究以外でも市営住宅の水道メーター320戸をスマート化とする予定であり、湖西市水道課が実施するSMSなどを活用した利用者へのきめ細かな情報提供や電子申請・電子決済などと連携したデジタルトランスフォーメーション(DX)推進による市民サービスへの貢献にも鋭意取り組んでいく構えだ。

既にほかの地域でも、電力スマートメーターの通信網を他事業者に貸し出すことで、ガス・水道の検針業務を高度化する事業が行われている。全国各地で整備が進められる新たな電力インフラは、地域の悩みを解決する有用なソリューションになりそうだ。

【イニシャルニュース】 海洋放出へ慎重姿勢 高市氏に元夫の影


 海洋放出へ慎重姿勢 高市氏に元夫の影

自民党総裁選の泡沫候補と称されながらも、アベノミクス路線の継承や論理明快な主張などで、党員の支持を着実に広げてきた高市早苗前総務相。エネルギー政策については、原子力推進の立場を明確に打ち出している。そんな高市氏が唯一慎重な姿勢を見せているのが、東京電力福島第一原発から出る処理水の海洋放出だ。

高市氏はメディアのインタビューなどで繰り返し、海外で日本産食品に対する輸入規制が続く現状を指摘しながら、「風評被害を払拭する外交がまず先だ」と強調。「建屋の止水工事などで汚染水をこれ以上増やさない取り組みをやるべきだ」「農林水産業全体に大きな影響が出るので、漁業関係者の理解をきちんと得てからだ」「2年後は(海洋放出の)タイムリミットではない」などと指摘している。

実は、高市氏の海洋放出慎重論に少なからぬ影響を与えているとみられる人物がいる。元夫のY氏だ。Y氏は党の総合エネルギー戦略調査会会長代理を務めるなど、原子力政策の理解派として知られるが、処理水の海洋放出には一貫して反対の立場。二次処理後も汚染物質が残存することなどを理由に、新規汚染水を発生させない完全循環(閉ループ)の冷却システムの構築を訴え続けている。

「Y氏ほど強硬ではないが、高市氏の主張を聞いていると、重なる部分が見受けられる。処理水問題を巡っても、やはり元夫婦間で意見交換をしているのかなと思ったよ」(大手電力会社関係者)

Y氏は9月初旬の段階でいち早く派閥の長である二階俊博氏の同意を取り付けた上で、高市氏の支持を表明。関係者によれば、さまざまな場で「私の元嫁をよろしく」と触れて回っているとのこと。世間一般的には離婚すれば絶縁と思われがちだが、両者の場合は「政治的な関係」が続いているのか。

パワハラが要因か 広域機関人事の混乱

8月20日、一人の経産官僚を巡る人事が電力業界に波紋を呼んだ。この日開かれた電力広域的運営推進機関の理事会において、同機関の理事で事務局長を務めていたT氏が同月28日付けで退任することが決まったのだ。

業界関係者が驚いたのは、その辞任が唐突ともいえるタイミングだったことだ。T氏の就任は2019年8月。丸2年が経過し表向きは任期満了に伴うものとしているが、在職期間は前任のS氏の4年と比較して明らかに短く、代わりにI氏を昇格させるという後任人事を見ても不測の事態であることは明らかだ。

実は、突然の辞任劇の要因は、T氏のパワハラにあるというのがエネルギー業界関係者の大方の見方だ。経産省時代にもそうした風聞は聞こえてきていたため、もともとそのような気質の持ち主なのだろう。

だが、広域機関には、大手電力会社や新電力など民間企業からの出向者も多く、役所内ではまかり通った振る舞いが通じなかったのかもしれない。「T氏がいる限り、社員を出向させたくない」――。そんな声も企業側から出てしまっていたという。

一方で、電力業界からはT氏の手腕への期待が大きかったのも事実。広域機関にとっては、今年度冬の電力需給のひっ迫に備え、電源入札の詳細設計など、さまざまな課題に関する検討を進めていた矢先のことであり、業界関係者のX氏は「T氏の存在なく、今後の制度設計はうまく進めることができるのか」と不安の声をもらす。T氏本人のキャリアにとっても、ますますかじ取りが難しくなる電気事業制度にとっても、大きな痛手となったことは間違いない。

この件を巡り、経産省内ではかん口令が敷かれているという。奇しくも、週刊誌BでK大臣による経産省幹部へのパワハラ問題が取りざたされたのと同じタイミングで、同省幹部のパワハラ問題が顕在化したのでは、同省としてもきまりが悪い。

今後、注目されるのは、次の事務局長人事。相応の年次であることと、複雑な電気事業制度に詳しいことが求められるとなれば、その候補は自ずと限られてくる。業界関係者が有力視しているのは、内閣府に出向中のH氏、そして資源エネルギー庁のO課長だというが、果たして……。

事務局長の辞任は波紋を呼んだ

事業継承者「該当なし」の衝撃 混迷深める仙台市ガス民営化


仙台市ガスの民営化が、またしても白紙に帰した。市は、2022年度中の譲渡を目指して公募を開始。東北電力、東京ガス、石油資源開発、カメイの4社グループが唯一応募したが、専門家による民営化推進委員会の答申を踏まえ、優先交渉権者は「該当なし」と決定したのだ。

仙台市ガスの民営化はまたしても先送りとなった

市は09年にも入札事業者の辞退によって民営化を断念しており、何とか実現にこぎつけたかったはず。一方、競争相手がなく、譲り受けることを前提に準備を進めてきた企業グループ側にも今回は大きな衝撃だった。東北電力関係者は「市ガス事業民営化計画の趣旨に沿えるよう、多様なサービスなど市民サービスの向上のために最大限の提案をした。市の判断は大変残念」と落胆の色を隠さない。

200満点の審査で評価は85・3点。市が設定した最低譲渡価格400億円と同額の譲り受け希望価格を示したことによる0点評価が大きいが、「譲渡後5年間で2万件もの需要脱落を見込んでいる上、福井や金沢などほかの公営ガスの民営化ではあった値下げの提案すらない。市民サービス向上の取り組みも十分とは言えず、とても議会を通せないと市は判断したようだ」(市関係者)という。

市は民営化の実現に向け再公募を目指す。その際には「複数グループに名乗りを上げてもらいたい」と関係者は強調する。注目されるのは石油資源開発、そして今回応募を見合わせた大阪ガスやLPガス会社TOKAIの動向だ。

ただ、2度のとん挫が公営ガス最大手の民営化がいかに難しいかを浮き彫りにしたのも事実。市も、最低譲渡価格を大幅に引き下げるなどの譲歩が求められる。果たして三度目の正直となるか。

ずさんな工事で法面崩落も 違法メガソーラー開発の実態


再生可能エネルギーの乱開発が全国的な問題となる中、メガソーラーの建設を巡るずさんな工事の実態が明らかになった。

法令違反が指摘されている山梨県甲斐市の太陽光発電所

中央自動車道の韮崎インターチェンジからほど近い山梨県甲斐市菖蒲沢の山間部。FIT認定IDリスト上は複数の太陽光事業者が散見されるが、もともとはブルーキャピタルマネジメントが中心となって大規模太陽光開発を進めてきた案件だ。同社のウェブサイトでは1万7280kWの規模で菖蒲沢の事業が紹介されている。

問題となっているのは、トーエネックがブルー社からIDを譲り受けた1万1990kWの工区だ。調整池や水路、太陽光パネルの設置などで林地開発許可条件に違反する不正工事(写真参照)が行われており、山梨県では昨年来ブルー社に対し繰り返し改善を指導。だがこれまでに適切な対策が講じられた形跡は見られない。

去る8月23日、山梨県、甲斐市の議員や地元住民らが改めて現地調査を行った結果、①調整池などの防災施設に重大な欠陥がある、②太陽光パネル架台の基礎部分の浸食が進んでおり、法面が崩落した痕跡が複数ある―ことなどが確認された。調査に同行した全国再エネ問題連絡会の山口雅之共同代表が言う。

「膨大な山林に複数の事業が近接して展開され、広域に開発が行われることの危険性は計り知れず、住民に取り返しのつかない被害が及ぶ危険が迫っている。こうした事例は一部ではない。全国で多発しているのは明らかだ」

ブルー社を巡っては、大分県杵築市の開発案件でも法令違反が指摘されている。災害を未然に防ぐためにも開発規制の強化など、国レベルの早急な対策が必要だ。

新桂沢・熊追発電所が来春運転開始 100年続く水力発電所を目指す


【Jパワー(電源開発)】

北海道内初の多目的ダムである桂沢ダムのかさ上げに伴い、大規模改修を行う桂沢・熊追発電所。

厳しい自然環境の中、2022年の運転開始を目指して、安全を最優先に着実に工事を進めている。

桂沢系発電所の位置

 北海道のほぼ中央にある三笠市を流れる石狩川水系・幾春別川の上流に、桂沢ダムがある。有効貯水容量は8180万㎥。治水、かんがい、上水道、工業用水、発電を目的とした道内初の多目的ダムだ。1957年にJパワーがこのダムの上流に熊追発電所を、下流に桂沢発電所を建設して電気を供給し、60年以上にわたって地域の産業や生活基盤を支えてきた。

桂沢ダムでは完成後に繰り返し起こった洪水被害に対応すべく、北海道開発局がダムのかさ上げをし、貯水量を増やして治水機能を向上させる工事を行っている。国で行っているダム事業では初めての同軸かさ上げダムで、11・9mのかさ上げ後は高さ75・5m、総貯水量は1・6倍になる。

Jパワーはこれに合わせ、ダムの上流にある熊追発電所をかさ上げし、設備の更新を行っている。高経年化した水路の補強と補修、水車発電機1台と屋外開閉設備の更新などを行い、出力は4900kWから5100kWに増加する。

敷地のかさ上げに伴い建屋を新設(熊追発電所)

ダムの下流に位置する桂沢発電所は、貯水位の上昇により有効落差が大きくなる。水車発電機2台、屋外開閉設備などを更新するほか、調圧水槽のかさ上げや水路の補強と補修を行って、新桂沢発電所として生まれ変わり、出力は1万5000kWから1万6800kWに増加する。

2018年に熊追発電所から始まった両発電所の工事は既に7割以上が終了し、熊追発電所は来年4月、新桂沢発電所は同6月の運転開始を目指している。

発電機回転子の吊り込みを実施(新桂沢発電所)

近年の三笠市は夏場の気温が高く、作業では熱中症対策が欠かせない。土地柄、ヒグマ対策も行う。一方、冬は気温がマイナス20℃近くになり、積雪は1・5mを超える豪雪地帯でもある。屋外工事が中心であった2年前までは冬場を休工としていたが、昨年は冬場も一部の屋内工事を継続した。記録的な豪雪があり、大雪に見舞われた日は、道路を除雪するショベルローダーの後ろに列をつくって現場に向かうこともあった。
「道外から赴任してきた所員は雪の多さと寒さに面食らうが、全員一丸となって頑張っている」と、新桂沢建設所総務グループの青柳智士グループリーダーは話す。
現場に通う所員の安全を守るため、工事関係者からの情報を集約し、道路横法面の積雪の亀裂や吹雪、ホワイトアウトなど危険箇所の情報を共有している。最近はドローンを使って上空から雪崩の状況を確認しており、安全に危険箇所を把握することができている。
「安全はすべてに優先する」を工事関係者全員が心掛け、無事故無災害で工程通りの完成に向かって歩を進めている。

次の世代へ技術を継承 100年続く水力発電所へ

更新工事は技術継承の貴重な場としての役割も担っており、新桂沢発電所と熊追発電所の工事でも、幅広い年齢構成の所員が携わっている。またOJTを通じて建設経験が少しでも身に着くよう新入社員が短期間、研修生として配属される。厳しい自然条件の中で、先輩たちの後姿を見ながら土木建築の大規模補修や、水車発電機更新のノウハウを勉強している。
培ってきた技術とJパワーのマインドは確かに受け継がれ、今後の水力発電所の更新工事にも生かされていくだろう。
運転開始まであと半年。新桂沢発電所と熊追発電所は、確かな技術で、100年続く水力発電所を目指し歩んでいく。

【インタビュー】

安全第一で再エネを拡大 地域とともに歩む

――新桂沢・熊追発電所の位置付けは。

河田 2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向けて今年2月、Jパワーは「ブルーミッション2050」を発表しました。発電事業でのCN実現に、再生可能エネルギーである水力発電は重要な役割を担います。今回の大規模更新工事により、両発電所は発電出力が増加します。

――工事が佳境を迎えています。

河田 水車発電機3台同時の更新はJパワーとして初めてのことです。これから運開までは水車発電機の組立や試験が中心になり、工程や人員の点で厳しい局面もありますが、所員一丸となって頑張っています。両発電所は、岩見沢の事務所から車で30分~1時間程度離れています。ここは豪雪地帯の上、一部林道を通行するので、移動途中の雪崩や交通事故が特に心配です。運開まで無事故無災害、安全第一で力を合わせていきたいです。

――地域共生の考えについてお聞かせください。

河田 60年以上事業を続けられたのは、先輩方が地域の皆さんと友好な関係を築いてきたからです。秋の「みかさ桂沢もみじまつり」では、例年発電所の見学会を行っていました。新型コロナウイルスの影響で、地域の行事が中止になり交流の機会が減っていますが、状況が落ち着いたら、新しい発電所と新しいダムをセットで見ていただけることを願っています。2月には所員が三笠市の雪かきボランティアに参加して、高齢の方が住む家や市の施設の雪かきを行います。

これからも地域の皆さんと共に歩んでいきたいと思っています。

河田暢亮(新桂沢水力建設所 所長)

大混戦!自民党総裁選の舞台裏 新政権のエネ政策は吉か凶か


4人の候補が論戦を繰り広げた自民党総裁選。その裏ではさまざまな駆け引きがあった。

環境重視に大きく振れた菅政権に対し、果たして新政権下ではどんな政策が予想されるのか。

菅義偉首相の電撃辞任に端を発した自民党総裁選挙は、群雄割拠の4人による大混戦の様相を見せた。菅政権ではエネルギー政策、とかく原子力政策の前進を期待する向きもあったが、予想に反した尻すぼみに終わった。電力会社にとって最後のとりでとも言える原発の推進が宙に浮く形になったのは大きな落胆を生んだ。今号が出る頃には新総裁が選出されているが、果たして新首相は原発政策を推し進めることができるか。

総裁選の告示日前日の9月16日、エネルギー界隈がざわついた。岸田文雄候補の推薦人名簿に経済産業大臣の「梶山弘志」の名前があったからだ。当初官房長官への打診を受けるほど菅首相に近しいとされてきた梶山氏が、菅首相が支援する河野太郎候補ではなく、しかも最も対立する陣営の推薦人に名を連ねたことは、大きな驚きを持って受け止められた。

告示と重なった17日、閣議後会見で岸田氏の推薦人になったことを問われた梶山氏は「私の手法としては対話の窓口はずっと開いて、業界各社ともいろんな話を聞く機会を設けてきた。そうした対話を重ねる姿勢が見える方を応援したいという点で、岸田氏の推薦者になった」と理由を説明した。

梶山氏の真意を自民党関係者はこう解説する。「この1年はっきりいってコケにされてきた。水面下で丁寧に粘り強く交渉を重ねてきて、いざ固まったという場面で横やりを入れられたことは一度や二度じゃない。相当腹に据えかねてたということでしょう」。梶山氏はわざわざ菅首相のもとに出向き「今回は岸田氏を支援します」と報告に行ったという。菅一派とは完全にたもとを分かったのだ。

菅一派―。それは総裁選に立候補した河野太郎氏、そして河野氏を支援する小泉進次郎氏の神奈川人脈を指す。第六次エネルギー基本計画をめぐり、この二人が何かと言いがかりをつけてきたのだ。

「原発は22%『まで』と明記しろ」、「再エネは38%『以上』としろ」。有識者会議を経てパブコメにかけているにもかかわらず、河野、小泉の両氏は経産省を攻め続けた。河野氏が経産省幹部をいじめた話が週刊文春に大々的に報じられたのは記憶に新しい。

出馬を断念した菅首相。続く政権のかじ取りは

河野氏らしい変節ぶり 岸田氏との違いが鮮明に

総裁選に立候補する前、反原発の河野氏は威勢良く「核燃サイクルは廃止。原発の新増設もできない」と持論を展開した。しかし立候補が現実味を帯びると急に「安全が確認された原発を再稼働していくのが現実的だ」と急降下。いかにも彼らしい「変節」ぶりだ。

総裁選で得意のエネルギー政策、脱原発を争点化し、党員票を掘り起こそうとした河野氏のもくろみについて、ある政府関係者は「菅首相も含めて共通するのはセンセーショナルなことを打ち出して一時的に注目を集めるが、警戒感を持たれるとすぐに方針転換する。このパターンが定着して信頼を無くしていることが見えない。彼は菅首相の劣化コピー」と解説する。

むしろ高市早苗氏、野田聖子氏の出馬で河野氏の票は目減りするばかりだ。その焦りからか、情勢を見て寝返る議員に対し「選挙での応援は一切しない」(政府筋)と脅しをかけたという。河野氏の選挙対策本部で先頭に立つ小泉氏が「水面下で強烈な引きはがしをしている」と派閥を批判していたが、「自分らのことを棚に上げてよく言うよ」(自民若手議員)と不評を買う始末だ。

どうやらエネルギー業界が戦々恐々としていた河野首相の誕生は夢と化しそう。100代目の首相に就任するのは岸田氏になりそうだ。岸田氏のエネルギー政策についてはいま一つつかめない。ただ河野氏が核燃サイクル廃止を宣言すると、すぐさま「核燃サイクルは維持」と公言するなど、都合良く持論を押しつける河野氏とは真逆の考えを持つようだ。しかも総裁選中、岸田氏が常に言い続けてきたのは「対話を大事にする」ということだ。冒頭の梶山氏の政治手法と重なり合う。菅政権下で強引な手法に振り回された人たちにとっては福音といえるだろう。

岸田政権に高まる期待 菅政権の負の遺産を修正

そして岸田氏には強烈なブレーンが存在する。経産官僚で前首相秘書官の今井尚哉氏だ。連続在任期間が最長の安倍政権を支えてきたその辣腕ぶりはエネルギー業界でも定評がある。いま一つ自信なさげな様子だった岸田氏が、テレビや討論会に出て堂々としている姿は「今井氏のアドバイスのおかげ」(永田町関係者)というのがもっぱらだ。

今井氏が就いているとすれば、背後には安倍晋三元首相がいる可能性も。岸田氏が総裁選出馬表明をした前日の8月25日。衆院第一議員会館の自室に、安倍元首相に近いNHKの岩田明子氏を招き入れた。政策についての意見交換をしたというのが表向きだが、永田町界隈では「安倍氏の支援意向を岩田氏が伝達したのではないか」との臆測を呼んだ。

いずれにせよ、安倍政権時に活躍したアクターが岸田氏を下支えしているのだ。さらに推薦人には山際大志郎氏、高木毅氏と原発推進派が名を連ねた。岸田政権のエネルギー政策は安倍政権時に戻ることを示唆している。となれば、エネ基の閣議決定が先送りになる可能性も出てきた。特に原発を巡る記述はパブコメを受けて修正される公算が大きい。経産省内では「11月のCOP(気候変動枠組み条約会議)に間に合わなくてもいい」という見方も出ている。

国際的な名声のために性急な気候変動対策を採る裏で、エネルギー政策をないがしろにしてきた菅政権時の混迷が去ることは間違いない。岸田氏はエネルギー業界などさまざまな業界と対話し、日本特有の事情を理解することになるだろう。脱炭素というまやかしに惑わされず、エネルギーの安定供給と気候変動対策を両立する政策を打ち立てるに違いない。

ただ、それは岸田氏が政権維持のため、一部の国民の人気取りに走るという愚を犯さなければの話である。

【マーケット情報/10月1日】原油続伸、需給逼迫感が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需給逼迫観が一段と強まった。

中国は、国慶節休暇に突入。海外旅行の規制を背景に国内移動が増加し、燃料消費が増える見通しだ。また、日本では、9月末を以って緊急事態宣言が解除。経済活動の活性化と、石油需要回復への期待感が高まっている。

供給面では、イラン新政府は依然、核合意復帰を急がないと示唆。イラン産原油の供給増加は、当面見込めないとの予測がさらに広がった。また、OPEC+は、7月時点での合意通り、11月も日量40万バレルを追加増産する可能性が高い。本来なら供給増加の観測が弱材料として働くが、米国やOPEC+の一部加盟国が、これでは供給不足の解消には至らないと主張。前年を15%程度下回る米国の在庫や、欧州における天然ガス価格の上昇にともなう石油需要の強まりを受け、さらなる増産が必要と指摘されており、需給逼迫観を強める要因となった。

一方、米国の週間在庫は、前週比で増加。メキシコ湾を襲ったハリケーンからの復旧が続き、生産が回復。米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した先週の国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から7基増加して428基となり、価格の上昇を幾分か抑制した。

【10月1日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.88ドル(前週比1.90ドル高)、ブレント先物(ICE)=79.28ドル(前週比1.19ドル)、オマーン先物(DME)=75.50ドル(前週比0.61ドル高)、ドバイ現物(Argus)=75.38ドル(前週比0.41ドル高)

選挙争点化するエネ政策 乱開発問題で公開質問状も


自民党総裁選が9月17日に告示され、河野太郎・規制改革相、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、野田聖子・幹事長代行の立候補者4人による論戦が火ぶたを切った。29日投開票のため本号発売時点では新総裁が決定しているわけだが、24日現在は史上まれに見る混戦模様だ。

自民党総裁選告示の会見でポーズをとる4候補者(9月17日)

今回は告示前の段階から、原子力や再生可能エネルギーを中心としたエネルギー政策が争点として浮上。メディアでの発言を総括すると、①河野氏=原発再稼働に慎重。新増設・リプレースは否定。核燃料サイクル見直し。再エネは最大限・最優先で導入。②岸田氏=原発再稼働容認も、新増設は運転延長問題との絡みで明言せず。再エネは「大きな柱」。③高市氏=原発再稼働・新増設、新型炉開発は必要。過度な再エネ導入は否定的。④野田氏=原発は重要でゼロは非現実的―といった主張だ。

ただ17日の共同会見を見ると、記者側の認識不足なのか、争点化を避ける思惑があるのか、原発問題などエネ政策に関する発言はほとんどみられなかった。唯一、河野氏が再エネ導入のための政府の役割に言及し、「再エネ100%でこの国を回すことだって絵空事ではない」と明言した。これを受け、ネット上では「よくぞ言った!」「亡国宣言のようで怖い」など賛否両論が飛び交った。

再エネで各党に質問攻勢 次期衆院選で争点化も

再エネ政策を巡っては、経済産業省の提示した第六次エネルギー基本計画の原案が、電源構成に占める再エネ比率を「現在の18%程度から2030年度には36~38%程度へと大幅拡大する」目標を打ち出した中で、乱開発に伴う自然破壊や災害誘発が重大な社会問題として浮上している。

とりわけ深刻なのが、地域共生をなおざりにした太陽光・風力発電所の建設だ。全国レベルの反対運動を展開する「全国再エネ問題連絡会」ではこのほど、共同代表の山口雅之氏が中心となり、再エネ政策の進め方に関する公開質問状を、自民党総裁選候補のほか、公明党や立憲民主党など与野党の代表者宛てに提出した。

〈残念ながら、政府の期待とは裏腹に、全国各地でメガソーラーや風力発電所の建設に対し反対する声が沸き起っている(中略)この再エネ政策を推進する上で、この現状や問題をどの様に受け止められているのか、そして、この問題を、どの様な方法により解決し、真に、国民の理解と協力のもと再エネ政策を推進させようとお考えなのか……(原文ママ)〉

この問い掛けに、各政党代表者はどう答えるのか。少なくとも河野氏は、前出の山口氏が意見陳述した内閣府「再エネ規制総点検タスクフォース」の9月7日会合の場で、乱開発問題に言及。「地域住民の生活が脅かされるようなことがあってはならない」としながらも、「一部の病理的な事象」と言い切った。

だが現実は、一部の事象で片づけられる問題ではない。国民の安全安心を確保するエネ政策について、有権者はどう判断するのか。注目の衆院選は間もなく告示だ。

問われる原子力政策の独自色 国民に支持される政党は?


自民党総裁選が終わり、衆院選を前に政界は一気に「選挙モード」に突入、各党は議席増に向けて目の色を変え始めた。

コロナ・景気対策に隠れるが、各党はエネルギー政策、中でも原発を巡り独自の方針を打ち出し、国民へのアピールを始めている。

自民党総裁選の勝者は現時点(9月24日)で不明だが、場合によっては、自民党のエネルギー政策が大きく方針転換する可能性も否定できない。ある永田町関係者は、「総裁に就くのが河野太郎氏か否かが分水嶺になる」とみる。

河野氏は総裁選を通じ、核燃料サイクル中止との持論を展開。他方、再稼働に関しては発言のトーンを抑え、「既存の再稼働は当面容認」などと報じられた。だが、ある自民中堅議員は「表向きつくろったとしても、本音は即刻脱原発だ。総裁になれば、ガラス細工のエネルギー基本計画を作り直せと言い始めるだろう」と明かす。

党内には真逆の方向性でエネ基の見直しを求める意見も根強い。総合エネルギー戦略調査会幹事で、最新型原子力リプレース推進議員連盟の事務局長を務める滝波宏文参議院議員は、「S+3Eの原則を掲げながら、環境性だけアップグレードするエネ基は赤点」と酷評。「衆院選を控え、多くの議員が地元に張り付いている。国家の大事は拙速なプロセスでなく、衆院選後に皆が落ちついて参加できる形でエネ基を議論すべきだ」と主張する。

新増設・リプレースが盛り込まれず、発電コストの試算で事業用太陽光が原子力より安いかのように報じられたことで、原発立地地域の住民の心が折れかけ、「棄民だ」といった声まで出始めているという。「このままでは将来に禍根を残しかねない。特に今の議論では立地自治体の安全性についての視点が抜けており、原子力の国民理解の前に住民理解の取り組みを率先してほしい」(滝波氏)

ただ一方で、連立相手の公明党は依然として党五大理念の一つに「原発に依存しない社会・原発ゼロ社会」を掲げている。このため、岸田政権になったとしても「連立を解消しない限り、与党が原発推進にかじを切るのは難しい」(政府筋)との見方も少なくない。

対する最大野党・立憲民主党は、綱領で公明同様の「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会の1日も早い実現」を明記。衆院選でも、基本政策である①原発新増設はしない、②全ての原発の速やかな停止と廃炉、③核燃料サイクルを中止し、使用済み核燃料は直接処分とする―を訴えていく。

原発新増設で「肩すかし」 立憲民主は温暖化で独自色

立民をはじめ原発ゼロを掲げる野党にとっての誤算は、自公政権がエネルギー基本計画の素案で、原発新増設を記載しなかったことだ。ある野党関係者は「原子力の当面の課題は、新増設の是非。立民などは衆院選でこの点を重点的に攻める戦略だったが、肩すかしを食らった」と話す。

立民の独自色が発揮されるのが、地球温暖化対策だ。菅政権の2050年カーボンニュートラル宣言や温暖化ガス30年度46%削減目標について、田嶋要・環境・エネルギー調査会長は「消極的評価はしているが、パリ協定の大目標からすれば日本の目標水準が足りないのは明らかだ」と批判する。

同調査会は数年かけ、30年までに温暖化ガスをどこまで削減できるか検討を続けてきた。その結果は、「13年度比55%以上の削減が可能」。田嶋氏は「これを達成しなければならない」と強調する。「省エネ目標は野心的な水準を目指し、エネルギー多消費の業種を中心に大がかりな設備投資を進めるための大胆な税制や予算措置を講じるべきだ。再エネについては、政治がリードして耕作放棄地や遊休地を積極的に活用し、30年50%を目標に設定すべきだ」と続ける。ただ、この訴えがどこまで票に結び付くかは未知数だ。

新増設を打ち出す主要な党は見当たらない(写真は伊方原発)

国民民主の強い危機感 与野党間で存在埋没も

他方、国民民主党は強い危機感を抱いている。現在、衆院議員8人(山尾志桜里氏は衆院選不出馬を表明)が所属しているが、支持率の低迷に頭を痛めているのだ。

今夏の東京都議選では4人候補を立てたが、全員当選ラインに届かず。4人合わせた得票率は0・67%と、立民(12・34%)に大きく水をあけられた。候補者の少なさを差し引いても、党の知名度不足が影響したことは否めない。

国民には小林正夫氏、浜野喜史氏と二人の電力総連出身の参議院議員がいる。いずれも原子力政策について理解が深い。中道改革政党として、労働組合に限らず、大手電力をはじめ産業界にも同党を支援する関係者は多い。

衆院選を前に、野党では選挙協力を模索する動きが相次いだ。9月8日に立民・共産・社民・れいわ新選組の4党が、野党共闘を呼び掛ける市民連合との政策合意に達し、政策の一つには「原発のない脱炭素社会の追求」が入っている。これに国民は「現実的な政策が党是。今回の野党と市民連合の政策合意のゴールには同意できかねる」(浅野哲・エネルギー調査会長)と加わらず一線を画した。

ただ、国民も他党との違いが際立つような原子力政策を打ち出せたわけではない。9月に発表した重点公約では、原子力を「電力供給基盤における重要な選択肢」に位置付けながらも、新増設については「行わない」と明言。浅野氏は「新増設については記載すべきとの声もあったが、まず信頼と実績を積み上げることが目の前の課題。それを見守る必要がある」と理由を述べる。

一方、「カーボンニュートラル社会実現に向けて、あらゆる手段を確保・活用する」との言葉を盛り込んだ。小林参院議員は、新型炉や高温ガス炉による水素製造など将来の原子力利用への期待を込めたという。

国民の候補は、小選挙区で支持率が上昇に転じた自民、根強い基盤の公明との闘いを余儀なくされる。比例区での復活に期待を掛けるが、それには支持率回復が欠かせない。自公と立民などの間で存在が埋没しないよう、独自の政策をどう打ち出すかが問われる。

衆院選ではコロナや経済対策の影にエネルギー政策が埋もれる可能性も指摘されている。しかし日本のエネルギー政策が転換点を迎える今こそ、各党が具体策を掲げて競い合う姿を望みたい。

【マーケット情報/9月24日】原油上昇、需給逼迫感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫感が強まり、買いが優勢となった。北海原油を代表するブレント先物は、24日時点で78.09ドルとなり、2018年10月下旬以来の高値を付けた。また、米国原油のWTI先物と、中東原油の指標となるドバイ現物は、それぞれ73.98ドルと74.97ドルで、今年7月以来の最高となった。

米国の週間在庫は、製油所の高稼働を要因に、7週連続で減少。また、2018年10月初頭以来の最低を記録した。加えて、マレーシア・サバ州の洋上生産設備で不具合が発生。11月の出荷が一部遅延する見通しで、品薄感が台頭した。

また、米国は、国際便に対する規制を緩和。それにともない、英国の航空会社ヴァージン・アトランティック、およびドイツ航空会社ルフトハンザの、米国向け航空便予約が急伸。英国も、国際便の規制を大幅に緩和し、ジェット燃料需要が増加するとの見込みが広がった。加えて、OECDは、2021~2022年の経済成長予測を上方修正。アジア開発銀行も、来年のアジア太平洋地域内における経済成長予想を小幅に上方修正。経済および石油需要回復への期待感が高まり、買い意欲を強めた。

ただ、アジア開発銀行は、今年の経済成長予測には下方修正を加えている。新型コロナウイルス変異株の感染拡大が収まらないことが背景にある。さらに、米国メキシコ湾での生産は、ハリケーンからの復旧が続いており、23日時点で84%が稼働再開。価格の上昇を幾分か抑制した。

【9月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.98ドル(前週比2.01ドル高)、ブレント先物(ICE)=78.09ドル(前週比2.75ドル)、オマーン先物(DME)=74.89ドル(前週比1.46ドル高)、ドバイ現物(Argus)=74.97ドル(前週比2.02ドル高)

【コラム/9月27日】脱炭素社会実現に求められる「人材の流動化」と「若手育成」


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

 第六次エネルギー基本計画の素案が今年の7月に公表され、2030年度の総発電量のうち再生可能エネルギーで36~38%賄うことが示された。資源エネルギー庁から9月に公表されている「エネルギー基本計画(案)の概要」には、全体像として(スライドp.4)

・2050年カーボンニュートラル(2020年10月表明)、2030年度の46%削減、更に50%の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標(2021年4月表明)の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことが重要テーマ

・同時に、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服が、もう一つの重要なテーマ。安全性の確保を大前提に、気候変動対策を進める中でも、安定供給の確保やエネルギーコストの低減(S+3E)に向けた取組を進める

・エネ基全体は、主として、

①東電福島第一の事故後10年の歩み

②2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応

③2050年を見据えた2030年に向けた政策対応のパートから構成

と記されている。

 さらに、③2050年を見据えた2030年に向けた政策対応のパートから構成には、2030年に向けた政策対応のポイント【再生可能エネルギー】というスライドがあり、「S+3Eを大前提に、再エネの主力電源化を徹底し、再エネに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」とある。

 その具体的な取組として、地域と共生する形での適地確保、事業規律の強化、コスト低減・市場への統合、系統制約の克服、規制の合理化、技術開発の推進と記されている。

 どれも至極当然のことだと思うが、そこにもう1つそれらを実現するために必要なこととして、「人材の流動化」と「若手の育成」を加えてみてはどうだろうか。

 これまでの電力システムは、大規模な発電所で大量の電気を発電し、遠距離送電により首都圏などの消費地に届けるという、いわゆるBER(大規模系統電源)ある。従い、発電所の維持管理する電気主任技術者等の人材もおのずとその発電所を所有する会社に集まっていることになる。

 それが今後は、再エネをはじめとしていわゆるDER(分散型電源)になっていくならば、設備というハード面の分散化だけでなく、そこに関わる人材というソフト面も分散化していく必要があるのではないだろうか?

 加えて、それらの人材の担い手は高齢化しているという現状の中、将来を担う若手にそのノウハウを移転していく必要があると思う。具体的にはいわゆる電力会社などで定年間近の現場経験豊富な技術者の方々が、セカンドキャリアとして太陽光発電所などの再エネ発電事業者で活躍するという人材の流動化や、地方の大学・高等専門学校等を卒業した人材、特に女性の活躍する場として、また新卒採用の方々が就職先の選択肢として再エネ業界で働くということを考えてもらうようになることが大切になってくると考えている。

 それらを通じて現場技術者を育成し、地元で長期間、安定的に働くことで、再エネ主導の脱炭素社会の実現を目指すことを考えていくのが良いのではと思う。

 特にこのコロナ禍で先行き不透明な中、電気というエネルギーは誰もが利用するもので、その業界を支える人材というのは、若手や学生にとって魅力的に思えるものではないだろうか?

※出典:エネルギー基本計画(案)の概要」

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/opinion/data/02.pdf

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

【太陽光】休止する揚水発電 調整力として活用


【業界スクランブル/太陽光】

指定電気事業者制度が廃止され、4月1日以降申し込みされる太陽光と風力は全国全て無制限・無補償での出力制御の対象となった。再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り制度)価格も安くなり、発電事業者にとって事業性を確保することが難しくなってきている。出力制御による年間発電量の抑制率を低減するために、既に九州では火力発電所の出力を最低限に絞り込み、連系線を活用して余剰分をほかの地域に流し、揚水発電所を活用して昼間の需要を上げることなどが取り組まれている。このように九州では揚水発電が出力抑制率の低減のため積極的に活用されている。ただ、国内における揚水発電所の設備容量は2750万kWあり、全電源設備の10%の容量を占めているが、利用率は3%程度と諸外国の10%より低い。

揚水発電所の当初の導入目的は原子力発電所の夜間の余剰電力を蓄積し、昼間のピーク需要に向けて発電することであった。だが、東日本大震災以降、多くの原発が停止している状況にあり、中三社の揚水発電所では休止するものが出始めている。長時間、エネルギーが貯蔵できるほかのシステムのコストを十分低減するためには時間が必要であり、せっかく設備としてあるものをこのまま廃止へ移行させることがないようにしていただきたい。そのためには、揚水発電の付加価値を需給調整市場にてマネタイズすること、揚水する際の電気のグリーン度にもよるが、再エネ価値について評価するようにしていくことが必要と思われる。

揚水発電は出力規模および動作時間を十分に取ることができ、経済性の点でも安い電力での充電が可能であれば有望であることが証明されている。今後も太陽光発電の導入量が増加し、FIT期間を終了した電源が増えていくと昼間の電力卸市場価格はさらに下がる可能性が高く、揚水発電が有用となる可能性が高い。2050年のカーボンニュートラルを実現していくためには、調整力として上部調整池を新設し、既設の発電所を揚水発電所に変えたり、海水揚水発電の新規開発をすることなどが一つの策として考えられる。(T)

【再エネ】太陽光偏重に疑問 再エネ熱も活用を


【業界スクランブル/再エネ】

内閣府の再エネ総点検タスクフォースからたびたび厳しい指摘がなされていた、新築住宅での太陽光発電設備の設置義務化は、国土交通省の住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会での大きな論点の一つであった。脱炭素社会に太陽光は必要だが、ここでの議論はあまりにも太陽光偏重に見える。住宅への太陽光発電設備の設置には実現困難なケースがあることにも目を向けるべきではないだろうか。

政府は2030年新築平均ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を目指し、8年前から助成制度を導入している。補助金を交付した物件データを地域別に見ると、東京、神奈川、大阪、京都など狭小住宅の多い都市部と、北海道、東北、北陸、信越、山陰などの低日射・多雪地域でのZEH普及率が低い。これらの地域では住宅に太陽光発電設備が搭載できない場合が多く、それが補助金交付件数と、一戸建て新築住宅着工件数の比率に如実に表れている。狭小住宅での太陽光、太陽熱の利用可能性について、東京都内の全建築物を対象とした都の調査によると、太陽光、太陽熱ともに設置可能な20㎡以上の屋根面積を持つ建物は50%であり、太陽熱のみ設置可能な建物が40%、いずれにも適さない建物が10%となっている。このように太陽光は、利用に当たって自然的・社会的条件の制約を受ける。脱炭素社会の実現には、太陽光以外も動員して、再エネの最大限導入を図るべきではないだろうか。

小さな住宅でパネルは搭載できないが、太陽熱なら積載できる住宅は多数ある。太陽熱のエネルギー利用効率が太陽光に比べ5倍あることなど、昨今では忘れられているようにも思う。また、太陽光や太陽熱が使えない積雪地の住宅では、木質バイオマスを使ったペレットストーブや、地中熱ヒートポンプなどの再エネ熱が活用できる。住宅は再エネ熱が有効に使える分野である。今後新築住宅への再エネ導入の義務化の検討が進むと予想されるが、その際に太陽光だけでなく、再エネ熱を含めて、自然的社会的条件を考慮した計画を作ってほしいものである。(S)