経済産業省・資源エネルギー庁が、省エネ法の合理化の対象に非化石を加える方向で制度の体系見直しに乗り出している。
これを機に水面下で再燃しているのが、「全電源」対「火力」の係数を巡る神学論争だ。
政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向け、資源エネルギー庁が省エネ法の体系を見直す検討に乗り出している。同法が定義する「エネルギー」の対象を、非化石を含む全エネルギーに広げることが柱で、実現すれば、化石エネルギーの使用合理化を目的としてきた同法の本質が大きく変容することになる。
エネルギーの定義変更 業界内外から疑問の声
省エネ法の正式名は、「エネルギー使用の合理化等に関する法律」。石油危機を契機に、化石燃料の消費抑制を目的として1979年に制定された。同法で合理化が求められているエネルギーは、あくまでも化石燃料や化石燃料由来の熱・電気であり、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電気や、水素・アンモニアといった非化石エネルギーは含まれていない。
これまでは、同法に基づく規制と補助金などによる支援を通じて、事業者の高効率機器・設備への投資を後押しすることで省エネを推進してきた。ここに来てエネ庁が見直しを急ぐのは、エネルギーが脱炭素化に向かおうとする中で「使用の合理化=使用を減らす」という考えに基づくこうした取り組みが、もはや時代遅れとなりつつあることを意味する。
とはいえ、「所管する省エネルギー課にとってはレーゾンデートル(存在意義)」(大手エネルギー会社関係者)ともいえる省エネ法をおいそれとなくすわけにもいかず、脱炭素に向けた「非化石エネルギーの利用促進」という新たな役割を持たせることで、同法を「延命」させようとしているとみる向きも少なくない。
有識者の一人は、「非化石エネルギーには再エネのみならず原子力も含まれるのだろうが、次期エネルギー基本計画で新設・リプレースがどう位置付けられるかもあやふやな状況下で、電化を強力に推進するような省エネ法見直しの検討がなされることに違和感がある」と疑問を呈す。
前出の大手エネルギー関係者も、「非化石の合理化(低減)と促進を一つの法律で進めようとすることに無理がある。『非化石エネルギー推進法』にでも衣替えし、現行の省エネ法は資源・燃料部に移管してはどうか」と皮肉を込めて提案する。
いずれにしても、5月21日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)において、省エネ法におけるエネルギーの定義見直しとともに、非化石化・エネルギー転換を促す制度や、デマンド・レスポンス(DR)など需要側の最適化を図る枠組みを検討していく方向性が示され、見直しに向けた議論は着実に進み出したといえる。
今後、白熱化が必至の論点がある。次回の小委でエネ庁事務局が満を持して提案するであろう、電力の一次エネルギー換算係数の見直しだ。現行では、節電によって稼働が減るのは火力発電であるとの考えから「火力平均係数」が採用されているが、これを地球温暖化対策推進法(温対法)と同じ「全電源平均係数」に変更することが検討されようとしている。

「系統経由の電気を一律火力発電所の熱効率係数で報告する現行の評価方法では、再エネ100%の電気料金メニューなどに対応できない」として、かねてから全電源平均への変更を主張してきた電力業界はこれを歓迎。
一方、都市ガス業界は「これまで省エネ対策として導入されてきたコージェネレーションや燃料電池などのガスシステムが、実態とは異なる評価方法への変更で増エネになる」と危機感を強める。
昨今のエネルギー情勢を念頭に、慎重論を唱えるのは元官僚。「今の時点でコージェネや燃料電池の評価が変わることは大きな問題。足元の厳しい電力需給状況を踏まえれば、換算係数の変更で需要側の電化が進めば、老朽火力の稼働増や温存につながりかねない」と指摘する。係数の変更は供給サイドの非化石化、安定性向上と歩調を合わせる必要があるとの見方だ。
こうした意見に対し、大手電力関係者は「電源ごとの一次エネルギー換算係数を求め電源構成比率(ミックス)を掛ければ、実態に合った係数が算出できる。省エネを推進しながら低炭素に誘導していくには、今スタートして早すぎるということはない」と反論。事態は、かつて温対法のCO2排出係数を巡って電力業界とガス業界が繰り広げた、いわゆる「神学論争」再燃の様相を呈している。
エネ庁が旗振り役 関連制度への影響も
全電源平均化に賛同する一部審議会委員の間でも、「長期的には全電源平均だが、高度化法目標を達成した時点での採用がよい」(飛原英治・東京大学大学院教授)、「このタイミングで全電源平均というあるべき姿にするのがよい」(林泰弘・早稲田大学大学院教授)といったように、導入のタイミングを巡っては意見が分かれる。
とはいえ、「全てのエネルギーが合理化の対象となるのであれば、換算係数は全電源平均とするのが妥当」とするエネ庁こそが、実は全電源平均化への強力な旗振り役であることから、既に決定事項との見方も。そうであれば、今後の議論は双方納得できるよう落としどころを探るものになるだろう。
この省エネ法上のエネルギーの定義見直しと一次エネルギー換算係数変更議論は、同じ換算係数を採用する国土交通省所管の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」にも影響が及ぶ可能性が高い。
省エネ法の目的を変えるのであれば、そこから派生した建築物省エネ法も見直しを検討し、ともに非化石エネルギーの利用促進を目指していくべきではないか。