【石油】迫る米大統領選 水圧破砕とEV


【業界スクランブル/石油】

共和党現職トランプ対民主党前副大統領バイデンの米国大統領選挙も残り1カ月となった。各種世論調査ではバイデンのリードが伝えられているが、トランプの追い上げもあり、専門家の予想は慎重である。隠れトランプ支持者の存在やテレビ討論、さらに、各州選挙人総取りという制度的バイアスもあることから、この段階で勝者を判断するのは早計であろう。

ただ、民主党が政権を奪回する場合、石油業界から見ると、パリ協定やイラン核合意への復帰の問題だけでなく、多くの懸念事項が出てくる。

まず気になるのは、水圧破砕技術の使用制限である。シェールオイル生産技術の中核である水圧破砕法は、地下水汚染の懸念があるとして民主党は一貫して反対している。カリフォルニア州やニューヨーク州では禁止、前回の大統領選の候補となったヒラリークリントンも禁止を公約としていた。

しかし、バイデン候補は、オバマ政権の副大統領時代も、今回の選挙戦でも、水圧破砕には何ら言及していない。シェール生産は米国の国際競争力の根源であり、外交上の武器でもある。バイデン候補のこうした現実的な姿勢、バランス感覚に期待する声は多いといわれている。

電気自動車(EV)の導入政策も懸念される問題である。EUでは、コロナ禍からの経済再建策として、「グリーンリカバリー」が提唱され、再生可能エネルギーや水素エネルギーの拡大がうたわれている。ドイツでは既存SS(サービスステーション)への充電設備の設置が義務付けられた。今後、米国でEVの普及政策がどのように展開されるか気になる。

EVの導入政策は、石油消費のピーク時期にも関わる大問題だ。また、どちらが勝利しても、対中政策は大きく変わらないといわれているが、中国が力を入れている蓄電池技術や次世代自動車技術は、情報通信と並ぶ世界の技術覇権に関わる問題であろう。こうした地球温暖化対策と対中政策が交錯する問題からも目が離せない。(H)

【火力】フェードアウト 穴だらけの議論


【業界スクランブル/火力】

非効率石炭火力のフェードアウトに関し、国の委員会での検討が始まった。

国からの説明によると、全部で140基ある石炭火力のうち114基が非効率石炭火力とされ、そのフェードアウトについてはエネルギー基本計画に明記されているという。確かにエネ基には「非効率な石炭火力発電(超臨界以下)のフェードアウトに向けて取り組んでいく」という記載がある。

2000年以降に建設されている大型設備は、ほぼ高効率の超々臨界圧発電(USC)となっており、「超臨界圧(SC)以下は非効率」という定義は、新設の規制としては分かりやすく、エネ基の「新設の制限」という文言にも合致している。しかし今回の検討で、この定義をいきなり既設にも当てはめようとしたことが大きな混乱の元となっている。

USCは、SCの中で蒸気温度が593℃以上のものを指すとJISで決められているが、両者にそれ以外の差異はない。実際、事業者からのヒアリングでも設備構成の違いや改造により熱効率が逆転する場合があると報告されており、国からも「非効率」石炭火力の定義を型式から熱効率ベースに見直すという方針が示された。この方針転換は、極めて妥当なものであるが、ではなぜ最初からそうしなかったのだろうか? 性能差はほとんどないにせよ、型式として区別されるSC20基余りを非効率とすることで「100基超フェードアウト」というインパクトを優先させたのではと邪推してしまう。

さて、指標を熱効率にしたとしても、バイオマスや副生ガスの混焼、熱の利用などをどのように補正するか、また再エネ拡大のための出力抑制による熱効率低下を正当に評価できるのかなどについて、以前から省エネ法の議論で指摘されていたにもかかわらず結論を出すに至っていない。

立ち止まらず前に進んで行けと言われても、過去の議論を蒸し返すばかりでルールすら決まらないのでは、事業者として対応のしようがない。 (M)

【原子力】特措法期限切れ 問われる本気度


【業界スクランブル/原子力】

来年、エネルギー基本計画の改定の年を迎えるが、最も行き詰まっているのが原子力政策である。2030年20~22%という原発ウエートも非現実化し、稼働率も低下傾向にあり、5兆円以上もの膨大な安全対策費をかけて将来的に原子力は成り立つのか、40年超運転問題も立法化をどうするか、など課題は多い。

原子力の一番安い利用方法は既設原発の長期運転であり、米国は既に80年超運転にかじを切っている。日本の原発低迷は、自由化の導入が原因といえる。自由化は原子力には決定的にマイナス要因であり、自由化市場の中では、原子力の長期投資は進まないのが世界の潮流だ。米英はその点をカバーするためにさまざまな補完策を設けているが、日本はまだ何もやっていない。

そうした中、原子力発電施設等立地地域の振興に関する特措法が、来年3月に期限切れになる。都道府県が原子力施設立地地域の避難道路の予算をきちんと付けておらず、その点をカバーするべく立法化されたものだ。

期限切れを前に今春から自民党が検討を重ね、地元への資金援助のかさ上げという案をまとめた。国庫負担率を50~55%に引き上げ、年8億円程度のかさ上げを目指す。既に、美浜・高浜・大飯の各町が特措法延長の要請を行った。原発立地の地元支援の象徴的なものであり、絶対に終わらせてはいけない。

しかし、その実現化が暗礁に乗り上げている。議員立法には野党の理解・協力が不可欠だ。しかし、野党は原発ゼロ基本法案という課題も持っており、むしろそちらの優先度の方が高く、同じ国会(恐らく通常国会)で、両法案を議論するのは論理的矛盾ともいえる。そこで、「閣法」で特措法を成立するという方法も考えられるが、これまでの政府反応ははかばかしくない。

次期自民党総裁に菅義偉氏が就任したが、どう対応するかは全くの未知数だ。来年3月までに立法が必須だが、もしそれが実現しないと、与党・政府の原子力に対する本気度が大きく問われることになる。(Q)

【LPガス】持続可能性確保へ 官民一体で議論を


【業界スクランブル/LPガス】

人口減少、過疎化が進み、さらには人手不足に伴う物流配送の困難化など、これからの家庭用LPガス販売事業を支えていく供給インフラの維持が徐々に困難になりつつある。2年前に開かれた経済産業省の「次世代燃料供給インフラ研究会」において、ガソリン・灯油を中心とした燃料供給のインフラの在り方が検討され、目指すべき将来像を記載した報告書がまとめられている。

さらにSS(サービスステーション)過疎化問題に関して、総務省消防庁が「過疎地域等における燃料供給インフラの維持に向けた安全対策の在り方に関する検討会」を開催し、SS維持に向けた規制緩和策の検討が行われている。

電力や都市ガスも次世代のインフラ事業の在り方に関する検討が始まっている。しかし、ほかのインフラ事業と比較してLPガス事業は労働集約的要素が最も強く、人手不足、厳しい労働環境(約90kgの充てん容器を運ぶ重労働であり、保安関係資格と知見・経験が必要)により、安定した供給インフラ維持が困難になる可能性が高いといえる。上記の「次世代燃料供給インフラ研究会」では、3回目の会合に全国LPガス協会が提出した「LPガス供給継続の課題と対応、地域への供給継続のための対応策」が課題まとめとして参考になる。

下流の物流供給議論と併せて、LPガスの長期視点に立った上流側の分野である日本LPガス協会がまとめた「LPガスが果たす環境・レジリエンス等への長期貢献について」に記述されている事柄の具現化の可能性とその実行プロセスなど、上流・下流の諸問題を論じ合える場を官民一体となって、学識者、事業者(元売り、卸売り、小売り)、消費者代表を交えて議論する研究会をつくったらどうだろうか。

今までそのような論議の場所がなかった。業界がインテグレーテッド・ユーティリティーとして存在意義を保てるか重要な岐路に立っている中、そのような場であるべき姿を語り合ってほしい。(D)

【新電力】緩やかに進む統廃合 経営環境への影響は


【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者を買収したい。何か良い案件はないか―。最近、新電力からこのような声が多く聞こえるようになった。背景には、価格下落により法人需要の獲得が進んでいないこと、全面自由化から4年経ち、低圧需要の獲得ペースが鈍化していることもあるようだが、最も大きな要因として、低位で推移した5~7月のスポット価格の影響で新電力各社の収益が好調だったことにあるようだ。

経済産業省の有識者会議(7月28日)の資料では、小売り電気事業者の登録件数は2020年7月時点で662件だが、事業継承72件、事業廃止・解散件数25件と撤退する事業者が目立ち始めている。筆者はコロナ禍のロックダウン期間中に二つの事象に注目し、データ・情報を整理した。一つは戦前の日本における一般供給事業者数の推移、もう一つは現代の英国における小売り電気事業者数の推移である。

まず、戦前日本の一般供給事業者数について。戦前の日本では一般供給事業者数は関東大震災の翌年1924年に618社とピークを記録したが、その後は大正電力戦、昭和金融恐慌、昭和恐慌の影響で徐々に統合が進み、34年には527社まで減少するが、その減少スピードは緩やかであった。本格的な統廃合が進むのは二・二六事件後に成立した広田弘毅・挙国一致内閣で逓信大臣に電力国家統制を唱える頼母木桂吉が就任した後であり、37年470社、38年407社、39年には352社まで減少した。

一方で、現代の英国。2014年に開始された卸取引活性化策を背景に小売り電気事業者数は順調に増加。18年9月には70社を記録するが、その後プライスキャップ制度の導入により小売り電気事業者の収益性が悪化し、徐々に撤退事業者が目立ち、20年3月には58社まで減少した。

これら事例から鑑みるに、小売り電気事業者の統廃合は急激には進まない。緩やかな減少が続くのみであり、市場環境は急に好転しないものとして収益源を探る努力を続ける必要があると考えられる。(M)

【電力】原子力の前進 新政権への期待


【業界スクランブル/電力】

8月28日、安倍晋三首相が、健康上の理由から辞任の意向を表明した。7年8カ月に及ぶ憲政史上最長政権の功罪については、さまざま語られているが、政権終了に当たって、世界各国からこれだけ感謝のメッセージが寄せられた政権は筆者の記憶にない。最長政権になったのにはそれなりの理由がある。

9月2日、3日に行われた朝日新聞による世論調査結果が筆者には興味深いものであった。それによると、第2次安倍政権の実績評価について、「大いに」17%、「ある程度」54%を合わせて、71%が「評価する」と答えた。また、評価する政策を選んでもらうと、「外交・安全保障」が30%で最も多かった。

安倍政権の外交・安全保障政策といえば、日米豪印による安全保障ダイヤモンド構想や、特定秘密保護法・安保関連法などの一連の法整備が浮かぶ。前者は画期的な中国包囲網だが、マスコミがまともに報じたのを見たことがない。

後者は、逆に「治安維持法の再来」だの「戦争法」だのとマスコミが散々たたいたもので、法が成立した時点での世論はおそらく反対が上回っていただろう。こうした偏った報道に足を引っ張られながらも、国を守るために必要なことをやってくれたと相当数の国民は評価していて、それが、政権総括の世論調査での高評価となったのだろう。

他方、最長政権でも原子力政策にはほとんど進展がなく、率直に言って失望感がある。後を継いだ菅義偉政権で一歩でも二歩でも前に進めばと願っている。具体的には、北海道寿都町が勇気を持って名乗りを上げてくれた高レベル放射性廃棄物最終処分場の文献調査であり、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出であり、現在停止している原子力発電所の再稼働であり、より大きくは今世紀後半に脱炭素社会を実現する上で、原子力技術をどう位置付けるかだ。少なくとも選択肢としてすら維持されないようでは、国の将来は暗い。安倍政権の間に、マスコミのプロパガンダに気付いた国民が少なからずいそうなところが希望だが。(T)

画像からひび割れを自動検知 インフラ点検をAIがアシスト


【東設土木コンサルタント】

道路や橋梁など、社会インフラの老朽化は深刻だ。国土交通省の調べによると、建設後50年経過する道路橋の割合は、73万箇所のうちまだ約25%(2018年時点)にとどまる。しかし23年には約39%、33年には約63%まで急増。トンネル、水門などの河川管理施設も、それぞれ33年には約42%、約62%となるなど、老朽インフラ急増が社会問題化している。

東京電力グループ・東電設計の子会社である東設土木コンサルタントと映像機器メーカーのキヤノンは、これらの問題の解となり得るインフラ点検業務を効率化させる専用AIを共同研究した。

AIによる自動判読で業務効率化を実現する

作業時間を大幅改善 トンネルや発電所にも

東設土木コンサルタントは、橋梁の保守点検時に必要な、微細なひび割れ(クラック)などの変状部位を示した展開図を作成するシステム「CrackDraw21」を販売している。本システムはカメラで撮影した橋梁の床版画像からゆがみなどを補正し、変状部位を見つけ出す作業をアシストする便利な機能を搭載しているが、さらにこれまで人の手で判読していたクラックをAIが自動解析する結果も読み込める機能が追加された。

これは、同社が蓄積するクラック画像をキヤノンに提供し、キヤノンが変状を判読する専用のAIを開発。従来は12時間掛かっていた判読作業を、AIによる作業の自動化により、専門技術者による確認作業を含めて90分まで短縮することに成功。「作業の省力化だけではなく、点検者の技量に左右されない高度な点検を行える」と、同社の島田保之社長はAIのメリットについて説明する。

また国交省は、18年11月に民間企業が持つ道路橋の点検記録の作成支援技術の精度を調査すべく、実際の道路橋を用いた技術試験を実施した。試験には7社が参加しており、同社のクラック判読可能率は7社の中で最も高い「99%」との高い数値を記録。高い精度が評価され、国交省が同月に発表した「点検支援技術の性能カタログ(案)」に同社とキヤノンマーケティングジャパンが共同提供するサービスが掲載された。

他社製品との違いについて事業推進部の野澤英二部長は「クラックなどの変状箇所を判読する技術は多いが、当社のように画像解析から解析後の調書作りまでの一連の業務を含むシステムはほかにない」とアピールする。

既に道路会社などで採用実績もある本システムだが、今後は漏水や剥離も解析できるよう、研究を進めていく。また活用場所もトンネルから火力・水力発電施設など、多くの場所で利用できないかと全国から相談が寄せられているという。点検作業の省力化を果たせる新技術は、今後ますます注目されそうだ。

CO2フリーの水素ステーション FCバスの供給拠点として高稼働


【東京ガス】

一台、また一台と、燃料電池バス(FCバス)がひっきりなしにやって来る。東京ガスが日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)と共同で今年1月に開設した豊洲水素ステーションの稼働が順調だ。

ディスペンサーを2基備え2台同時の充填が可能だ

通常時で1日約20台への供給を見込んでいたが、「多い日には30台以上を受け入れています」と、東京ガス産業エネルギー事業部水素ソリューショングループの石倉威文マネージャーは稼働状況を説明する。

バスがディスペンサーに横付けされると、係員が慣れた手付きで充塡作業を行う。82MPaで毎時300N㎥の充塡能力を持ち、1時間でFCバス3台程度の充塡が可能だ。充塡を終えたバスは、再び市街地へと走っていく。

FCバスの導入台数は都営バス60台のほか、日立自動車交通や東急バスなど民間企業からの参入も進み、街中で目にする機会も増えてきた。同ステーションのFCバスへの充塡実績は8月中旬時点で累計1764台に上っている。

主要設備を2系統設置 不具合時の運用可能に

この高稼働を支えるのが〝フラッグシップ〟仕様設備の数々だ。商用化初となるダイアフラム式の圧縮機や高耐久かつ軽量化を図った82MPa蓄圧器を採用した。中でも水素の圧縮・蓄圧・充塡に関わる主要設備を2系統で構成した。ディスペンサー(トキコシステムソリューションズ製)も2基設置されており、2台同時の充塡が可能だ。仮に1系統で不具合が発生しても運用を継続できる。また、年1回の法定点検では、通常のステーションで2~3週間となる休業を数日程度に短縮することを想定している。

もう一つの特長が「CO2フリー化」を図っている点だ。同ステーションはオンサイト方式で、都市ガスから水素を製造して供給する。東京ガスは、調達先のシェルグループが保有するCO2クレジットで天然ガスの採掘から燃焼までに発生するCO2を相殺した「カーボンニュートラル都市ガス」を調達し、水素の原料に使用している。さらに、エネットが同ステーションに100%再生可能エネルギーによる電力を供給している。これにより、同ステーションで供給する水素の「CO2フリー」を実現している。

東京ガスは、同社グループの事業活動全体で「CO2ネット・ゼロ」を目標に掲げる。水素への取り組みもその一環として、積極的に進めていく方針だ。

消費者行動からの省エネ対策 生活や暮らし方を見直す機会に


【気候変動・省エネルギー行動会議】

住環境計画研究所が事務局を務める気候変動・省エネルギー行動会議はこのほど、省エネ行動などをテーマとする研究会議「BECC JAPAN2020」を開催した。新型コロナウイルスの感染拡大により、初めてのオンライン開催となる中、エネルギーや住宅・建築をはじめ、メーカーや大学・研究機関、行政など幅広い業界から延べ237人が参加した。

中上英俊所長のあいさつから始まり、続いて京都大学情報学研究科の川上浩司特定教授が基調講演を行った。その後のセッションでは、「HEMS(家庭用エネルギー管理システム)導入世帯のエネルギーの使い方」や「設備・機器の購買の意思決定」、「卒FITやAIによるエネルギー分析」など、多種多様かつ興味深いテーマが発表された。

オンラインによる発表の様子

川上教授は「不便益のススメ」と題し、不便だからこそ得られる価値や効用について講演。不便であることを積極的に活用する事例を紹介した。例えば、山口県のデイサービスセンターでは段差や階段などをあえて設置し、バリアフリーならぬ「バリアアリー」として入居者が体を鍛える機会になっている。

また、ある自動車工場では組み立て作業の分業化を廃止し、複数工程を一人で作業することで社員のモチベーション向上につながっているという。デジタル化や自動化が進む現代において、不便益の発想が行動変容を促すきっかけになることが示された。

実例をもとにした調査報告 具体的な数値を提示

発表セッションでは、東京都市大学大学院環境情報学研究科の吉田一居氏が、全戸にエネファームを設置した分譲マンションでのエネルギー消費を調査した結果を発表した。それによると、夏季に電力使用量がピークになる家庭が8割を占め、12~3月にかけて床暖房の使用頻度が上がり、ガス消費量が多い傾向になるという。

住環境計画研究所の岸田真一主任研究員は、「卒FIT世帯の蓄電・蓄熱設備導入状況に関する調査」について発表。卒FIT家庭では、約4割が家電の使用時間を日中にシフトしていると述べた。また、蓄電池の導入率は約21%、売電先の変更が約18%といった消費者動向の報告が行われた。

いずれも実例をもとにした調査結果による興味深い発表が相次いだ。消費者の行動や暮らし方、意思決定が省エネに及ぼす影響を考える機会となった。

ITで電力の安定供給を守りながら 新規事業など攻めるところは攻める


【中電シーティーアイ/内藤社長】

中電シーティーアイは、今年4月の送配電分離と新たなITの構築をコロナ禍のもと同時並行で対応した。未曽有の事態をどう乗り越えたか。中部電力グループを取り巻くITの現状と今後を内藤雄順社長に聞いた。

ないとう・かつゆき 1978年早稲田大学大学院修了、中部電力入社。系統運用部長、岡崎支店長、監査役、東海コンクリート工業社長を経て、2017年6月より現職。

―今年4月に送配電分離が実施され、中部電力、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズ、JERAの4社に機能分離しました。システム改修を手掛けた貴社の取り組みについてお聞かせください。

内藤 一連の電力システム改革は、「電力ITインフラ改革」でもあります。中部電力と一体となって、既存システムの大規模な開発・改修と新たなITの構築を同時並行で、しかもコロナ禍のもとで進めたため、大きな困難を伴いました。

分社化に合わせ大規模な三つの基幹システムに加え、連係する約150に及ぶシステムを機能分離し、規制・競争分野の行為規制・情報遮断などへの対応を行い、さらに各事業会社間の取引や事業計画策定から財務諸表作成までの個社対応なども行いました。

複数のシステムを同時並行で開発・改修したため、全体のマネジメントに腐心しました。

―新型コロナウイルスの感染拡大の影響はありましたか。

内藤 相当なプレッシャーでした。クラスター感染が発生すると、業務が停止します。とにかく、中部電力グループ、ビジネスパートナーを含めてウェブ会議・リモートワーク環境の増強を急ぎました。感染防止に細心の注意を払い、運用開始にたどりつきました。半年が経過しますが、大きなトラブルもなく、胸をなでおろしています。

再エネ設備も損壊 記録的暴風がもたらした被害


9月6〜7日にかけて、非常に強い勢力で沖縄から九州に接近した台風10号。当初予想された「特別警報級」の巨大台風とはならなかったものの、各地で大規模な停電や土砂崩れ、家屋の倒壊、樹木の倒壊による道路の寸断に見舞われるなど、大きなつめ跡を残した。

羽根を折られた風力発電機
提供:朝日新聞

台風の接近とともに、広く暴風が吹き荒れ、沖縄県南大東島で51.6m、鹿児島県十島村中之島で46.5m、長崎県長崎市野母崎で59.4m、対馬市鰐浦で48.9mなど観測史上最大瞬間風速を記録。これには、電力設備も無傷ではいられなかった。

鹿児島県内では、南さつま市と枕崎市で風力発電施設の羽根が折れていることが確認された。テレビやSNSには、メガソーラーのパネルが剥がれたり、民家の屋根置き太陽光設備が吹き飛ばされ隣家の車を損壊させたりといった映像が流れ、風雨被害のすさまじさを物語った。

配電設備の損壊で、九州全域で最大約47万件という大規模停電が発生した。だが、予想よりも台風の規模が小さかったこと、九州全域が暴風域に入る予報を受け、九州電力が早期に全社を挙げて非常災害体制を敷き備えたこともあり、9日夕までには全面復旧した。

山下産技局長が環境省に注文 地域循環共生圏の具体化を


地域での分散型エネルギーの実装に向けた、経済産業省と環境省の連携チーム発足から早1年半。この間、大臣や役人の人事があっても、良好な関係が維持されている。7月に着任した山下隆一・経産省産業技術環境局長も、本誌などのインタビューで、環境省との連携の重要性を認識していると強調した。ただ、同省が提唱する「地域循環共生圏」については、そろそろ具体化のステップに移すよう注文を付けた。

昨年来「2050年ゼロカーボンシティ」を表明する自治体が拡大し、小泉進次郎環境相のトップセールスもあって、その数は153に上る(9月16日時点)。これに対して山下氏は「自治体のコミットを需要にまで落とし込み、具体的な形にしてほしい」と強調。例えば公用車を電動車にする、再エネはFITを利用せず地域内で回す、といった取り組みを環境省が後押しすべきだとした。

環境省サイドも、地域循環共生圏を次のステップに移す必要性は認識しており、和田篤也・総合環境政策統括官は着任時の会見で「リアリティーあるプロジェクトとして展開したい」と語った。

新たな布陣の下、地域循環共生圏がビジョン先行の取り組みから脱却できるのか、注目される。

地域循環共生圏の具体化を訴える山下氏

AI搭載のスマートリモコン 好みの温度にエアコンを自動制御


【中部電力ミライズ】

中部電力ミライズは、2018年から提供している家電用のスマートリモコン「ここリモ」に、AI機能を追加した。エアコンの設定温度を利用者の好みに合わせて自動でコントロールする。

AI機能は、データやルールからパターンを見つける機械学習によるもの。機械学習を活用したAI機能を搭載するスマートリモコンは、国内初となる。

ここリモはサービス料無料でスマートホームを実現できる

ここリモは、スマートフォンと連動させて自宅の家電を遠隔操作でき、家電を買い替えることなく手軽にスマートホームを実現するサービス。本体は直径80㎜高さ40㎜の丸みのある円柱形で、360度方向に赤外線を飛ばすため、設置場所の自由度が高い。

専用のスマホアプリをダウンロードしてリモコン登録などの初期設定を行い、スマホからここリモを介してエアコン、テレビ、照明の操作ができる仕組みだ。

従来の主な機能は、①外出先から家電をコントロールする遠隔操作機能、②指定した時刻に家電を操作するスケジュール機能、③エアウィーヴ社と共同で開発し、快適な睡眠のためのエアコンの設定温度を自動でコントロールする快眠コントロール機能、④エアコンの電気代を予測する機能―などがある。

例えば、防犯対策として外出先から照明をオンにするほか、出勤時刻に合わせて登録した家電を一括でオフにできる。朝の慌ただしい時間に照明やエアコンを切り忘れて出掛ける心配がなくなる。

また、快眠コントロール機能では、寝入り時の室温を下げ、最初のノンレム睡眠を深い眠りに誘導し、起床時まで快眠できるよう自動で温度を調整する。

AIが快適空間を実現 20分ごとに自動で操作

AI機能を活用するには、約20時間程度、専用アプリからエアコンの設定温度をこまめに変更し、好みの温度を学習させる。学習後は、AIが20分ごとに好みに合わせて設定温度を自動で調整する。

日常ではエアコンの設定温度を手動で変更するのは面倒だと感じ、快適な温度でなくても我慢しがちだが、AI機能により、リモコンやアプリを操作することなく常に快適な温度が実現する。

既にここリモを購入している利用者は、スマホアプリのバージョンアップでAI機能を利用できる。

そのほか、音声コントロール対応の家電でないと利用できないスマートスピーカーも、ここリモと連携させれば音声コントロールが可能になるといった特長も持つ。

同社は今後も、ICTやIoTを活用し、安心で快適な暮らしに貢献できるサービスを提供する考えだ。

里山をぶち壊すメガソーラー FIT制度の欠陥が顕在化


日本三大稲荷や陶器の町として知られる茨城県笠間市。関東北部の市内に広がる四季折々の美しい里山風景がいま、自然破壊を誘引する開発プロジェクトの脅威にさらされていることはあまり知られていない。

ドローンで空撮した笠間市本戸・来栖地区のメガソーラー

「まさか太陽光発電所の建設工事で、山が丸裸になるとは……」。同市の本戸・来栖地区の山間で進むメガソーラーの造成工事を目の当たりにし、ある地元住民は絶句した。切り崩された山林斜面の岩盤をダイナマイトが粉砕、その跡地をショベルカーやブルドーザーが行き交う―。「太陽光発電といえば、空き地にパネルが立ち並んでいるイメージ。それが何だ、このありさまは」

遠目には採石場かと思いたくなるような光景だ。しかし、林地開発許可を記す現場の立て看板にはしっかりと、こう書かれてある。

『開発行為の目的=太陽光発電事業』『許可を受けた者=CS茨城来栖合同会社』『現場管理者=カナディアン・ソーラー・プロジェクト株式会社』―。本誌の調べによると、この事業は2016年3月にFIT認定を受けており、発電規模は1万kW。許可されたCS茨城来栖合同会社とは、カナディアン・ソーラー(CS)の関係会社であり、いずれも代表は同じジェフ・ロイ氏が務めている。

CS社は名の通りカナダに本社があるものの、創業者のショーン・クー会長は中国出身。パネル生産工場も中国にあり、実質的には中国系と言っていい。こうした事情から、地元の一部では「中国企業がソーラー開発の名の下に自然を破壊しまくっている」とのうわさも流れているのだ。

強行された発電所建設 崩壊現場は放置状態

ちなみに、この山では反対側の斜面でも別の中国系企業によってメガソーラーが運営されている。こちらは、急峻な斜面を縫うように太陽光パネルが敷き詰められているのが特徴。「山一帯の地権者のうち売却に応じた3人の土地のみに太陽光発電をつくったことで、実に奇妙な形状になっている」。地権者の一人はこう打ち明ける。「こんなところに発電所をつくるのか」。建設にあたっては周辺住民による反対運動が巻き起こったが、強行された。道路にはいまも「建設反対」の看板が立つ。確かに山崩れでも起きたらどうなるのか、想像もつかない。

そんな不安が現実になった太陽光開発現場が笠間市内にある。やはり山の斜面に建てられた太陽光発電の敷地で昨年、大型台風などの影響によってがけ崩れが発生。流出した土砂は近隣の田んぼを埋め尽くし、周辺の道路にも押し寄せた。しかし、同地の開発業者はその後倒産。責任者不在の中、地元の造園業者によって応急措置が講じられたものの、大半は1年たった現在も放置されたままだ。

「高額な買い取り価格、環境アセス不要、コスト優先の手抜き工事など、欠陥FIT制度のツケが今になって顕在化してきている」(経済産業省OB)

メガソーラー乱開発問題の実態を、本誌の独自調査で浮き彫りにする。(34頁の調査報道で詳報)

豪雪と向き合い続けて60年 地域に貢献し続ける奥只見発電所


【Jパワー】

三島由紀夫が「超絶的な自然」と評した秘境で、60年前に産声を上げた奥只見発電所。電気の安定供給と地域との共生を続けてきたJパワーの挑戦はこれからも続く。

総貯水量6億100万㎥、堤体高さ157m、使用したコンクリート量163万㎥―。日本最大の重力式コンクリートダム「奥只見発電所」が60周年を迎えた。

60周年を迎えた奥只見発電所

ダムは福島・新潟県にまたがる奥只見湖を形成し、発電所は尾瀬湿原や越後山脈の豊かな雪解け水を力の源として、関東・東北地方に電力を供給し続けている。明治時代から只見川のポテンシャルに関心を寄せる事業者は多かったというが、実際に計画が動き出したのは昭和に入り戦後のこと。建設で最大の障壁となったのが、小出や浦佐といった市街地ですら2m、ダム周辺では3~5mも積もる豪雪。発電所の歴史は、雪と向き合ってきた歴史と言っても過言ではない。

「超絶的な自然」―。奥只見地域の大自然を文豪・三島由紀夫は小説の中でこう評した。市街地の小出地区から建設現場まで、発電所建設前に大量の資材を運ぶルートを築かなければならず、その急峻な山をいくつも越える必要があった。はじめの一歩は資材を搬入する道路工事から始まった。

現場へのルートは、冬季も通行できるよう道路の総延長22㎞のうちトンネル部が18㎞を占めるという独特な構造。この難工事は1954年12月から始まったが、わずか3年弱で完成。現在は新潟県に移譲し、奥只見シルバーラインと名前を変え、ダムや観光地に向かう貴重な交通路として重宝されている。

道路整備後の58年9月より発電所の本工事がスタートし、完成までには延べ数百万人もの労働者が携わった。復興と経済成長の中で早急な電力供給が求められていたため、雪が降りしきる12月中も、コンクリートの凍結を防ぐべく躯体表面に蒸気を当てながら工事を続けた。

こうした努力の甲斐もあり、本工事は約3年で終了。60年12月より、3基36万kWのうち24万kWが運転を開始し、翌年7月より全基が稼働。電力不足を解消し、戦後の経済成長を支えてきた。

冬季はヘリコプターも活用 環境と共生した施工管理

2003年には、出力20万kWの4号機と、河川水量を維持するための放流水を利用して発電する維持流量発電機を増設したため、総出力は56万2800kWにアップ。揚水式を除いた一般水力では日本一の出力規模を誇っている。

深山の同地はイヌワシの生息地であり、貴重な昆虫や植物も生息していて、地元からは釣りの名所として生態系保全の要請も強かった。このため、増設工事の際には、建設工事で日本初のISO14001認証による環境管理を行いながら施工するなど、先進的な環境対策も実施。現在も、景観を崩さないように機材の塗り替えを行い、猛禽類の専門家を招いてイヌワシの生息状況を確認するなど、地域の環境保全にも力を入れ続けている。

観光の中心地の奥只見湖には遊覧船も

そんな日本有数の規模を誇る奥只見発電所周囲には、大津岐、大鳥、田子倉や、信濃川水系の黒又川、破間川などの発電所もある。これらは、埼玉県川越市にある東地域制御所で遠隔制御されている。

とはいえ日常の保守・点検については、JR上越線の小出駅近くにある事務所から各発電所に赴かなければならない。さらに、積雪期においては、奥只見発電所までは冬季閉鎖されるシルバーラインを自社で除雪して移動できるものの、さらに奥地にある大津岐発電所などへは車で移動することすらできない。

そのため、冬季になると同社ではヘリコプターとエンジニアを常駐させ、空路で現地まで赴く。しかし、山の天気は変わりやすいだけに、天候の影響で予定通り点検に行けないケースや、現地に到着してから天候の変化が起きた場合、現地にとどまり休憩施設で朝を迎えることもある。技術が進歩した現在でも、奥只見の冬は過酷だ。