【業界スクランブル/石油】
共和党現職トランプ対民主党前副大統領バイデンの米国大統領選挙も残り1カ月となった。各種世論調査ではバイデンのリードが伝えられているが、トランプの追い上げもあり、専門家の予想は慎重である。隠れトランプ支持者の存在やテレビ討論、さらに、各州選挙人総取りという制度的バイアスもあることから、この段階で勝者を判断するのは早計であろう。
ただ、民主党が政権を奪回する場合、石油業界から見ると、パリ協定やイラン核合意への復帰の問題だけでなく、多くの懸念事項が出てくる。
まず気になるのは、水圧破砕技術の使用制限である。シェールオイル生産技術の中核である水圧破砕法は、地下水汚染の懸念があるとして民主党は一貫して反対している。カリフォルニア州やニューヨーク州では禁止、前回の大統領選の候補となったヒラリークリントンも禁止を公約としていた。
しかし、バイデン候補は、オバマ政権の副大統領時代も、今回の選挙戦でも、水圧破砕には何ら言及していない。シェール生産は米国の国際競争力の根源であり、外交上の武器でもある。バイデン候補のこうした現実的な姿勢、バランス感覚に期待する声は多いといわれている。
電気自動車(EV)の導入政策も懸念される問題である。EUでは、コロナ禍からの経済再建策として、「グリーンリカバリー」が提唱され、再生可能エネルギーや水素エネルギーの拡大がうたわれている。ドイツでは既存SS(サービスステーション)への充電設備の設置が義務付けられた。今後、米国でEVの普及政策がどのように展開されるか気になる。
EVの導入政策は、石油消費のピーク時期にも関わる大問題だ。また、どちらが勝利しても、対中政策は大きく変わらないといわれているが、中国が力を入れている蓄電池技術や次世代自動車技術は、情報通信と並ぶ世界の技術覇権に関わる問題であろう。こうした地球温暖化対策と対中政策が交錯する問題からも目が離せない。(H)