A 多田明弘・前大臣官房長が次官、平井裕秀・前商務情報政策局長が経済産業政策局長、飯田祐二・前資源エネルギー庁次長が大臣官房長と、極めて順当。安藤久佳・前次官の「置き土産人事」だ。キーワードは「継続」で、グリーン成長に加え、デジタル、レジリエンス(強靱化)といったコロナ禍の重要テーマを、政策面でも人事面でも継続することを重視している。山下隆一・前産業技術環境局長がエネ庁次長に、その後任に奈須野太・前中小企業庁次長が就任。一方、原子力を担当する小澤典明・首席エネルギー・地域政策統括調整官は留任となった。エネルギー政策では原子力とカーボンニュートラル(実質ゼロ)を軸とする方針を継続するということだ。
B 今回は本当にサプライズなし。本省の次官も局長級も極めて穏当で、次、その次の次官候補が主要ポストに残っている。あえて言うなら、新原浩朗・前経産局長が内閣官房成長戦略会議事務局長代理、そして前田泰宏・前中企庁長官が2025年日本国際博覧会協会理事・副事務総長というポジションで残ったことには驚いた。それぞれ電通絡みの疑惑が報じられ、民間への天下りが難しくなったのだろうかと受け止めた。
C 新原氏、前田氏が大阪万博に絡むこととなり、特に関西経済界は大阪に赴任する前田氏の動向を気にしている。万博予算は当初の1200億円が1.5倍となり、経済界は3分の1を負担するが、協会の要職に電通とのつながりが深い前田氏が来ると、さらにお金がかかるのでは……なんて声も聞こえてくる。
D 安藤前次官の行動原理を想像するに、安倍政権時代の今井尚哉補佐官・新原氏体制でかき回された官邸主導人事を正常に戻すための道筋を付けようとしたのだろう。前田氏について付け加えるなら、かつて接待問題で苦境にあった安藤氏のピンチを救ったことへのお返しという見方も。学生時代に「浪速お達者くらぶ」というサークルを立ち上げたコテコテの前田氏は水を得た魚になるだろう。
A 若手からは、新原氏が産政局長を退いたのに、内閣官房で成長戦略を仕切られることに落胆する声も出ているようだ。
D 新原氏については政局絡み。多田次官は二階俊博幹事長が経産相時代の秘書官なので、今後、二階氏と3A(安倍晋三氏、麻生太郎氏、甘利明氏)の対峙が激しくなり、二階氏が権力闘争に敗れたときに、経産省が政権の主導権から外されないための保険をかけたとも考えられる。小泉進次郎環境相にやられっぱなしの経産省が、菅政権が倒れたときのプランBを実行するための布陣を今から考えておくことが重要になる。
経産省幹部で目立つバランス型 CP導入のため環境省は財務省シフト
――多田次官についての評価を聞きたい。
C 多田氏はガス事業課の総括班長や電力・ガス事業部長などを歴任。自由化派、規制派といった思想があまり見えず、色がついていないバランス型の人。経産省が決めた方向へ実務を遂行するという面で実行力を発揮するタイプだ。
A 新幹部の中でも特に実直な人で、電力に寄り過ぎず、ガスにも思い入れがある。面白味にはやや欠けるかもしれないが……。
B 皆さんの言う通り、剛腕な安藤氏とは全く違うキャラクター。与えられた課題を期間内に、波風立てずにまとめることにおいて手腕を発揮する。現在の政策課題を強引に解決しようとしたら、結局何もできなくなる。多田氏のような人物は、まさに今求められている次官かもしれない。
D 昭和60年代入省組以降は、旧通商産業省っぽいアクのない人が増えている。バブル時代に野心を持つような人材は役所に来なかったからね。安藤氏が骨太な通産官僚の最後で、今後10年は通産省らしさがなくなっていくのでは。