国土破壊に「待った!」 再エネ問題連絡会が発足


メガソーラーや大規模風力発電設置工事に伴う環境破壊に反対する全国ネットワーク「全国再エネ問題連絡会」が、7月18日発足した。同会の共同代表で、「函南町のメガソーラーを考える会」代表の山口雅之氏は「森林法に基づく林地開発許可制度や、市町の再エネ条例など法制度に不備がある。全国の皆さまとつながり、土砂災害など、被害の現状を踏まえ関係法令の改正などを具体的に提言したい」と意気込んだ。

同連絡会には、全国で反対運動を行う26都道府県の30団体、約2万8000人が参加。弁護士や電気管理技術者などの専門家も支援を行う。事業者の中には、住民への説明が不十分なまま工事を強行する者や、FIT法が保証する20年だけを想定し、ずさんな工事を行う悪質な業者も多い。

共通する問題は①行政の事なかれ主義、②住民の意識の差―だ。自治体によっては、悪質な事業者を規制する条例の適用に及び腰なケースもある。また「テレビで報道されないから」と、反対運動に対して懐疑的な住民も存在し、問題に対する認識の違いもあるという。全国各地で反対運動が本格化する中、専門的な知見を互いに深め合うことが求められる。

【コラム/8月10日】賃借人向け太陽光発電供給


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

内外で、再生可能エネルギー(再エネ)電源の促進策として、固定価格買取制度(Feed-in Tariff: FIT)やフィードインプレミアム制度(Feed-in Premium: FIP)などが導入されているが、これら支援制度による恩恵を、再エネ電源を設置する戸建て住宅所有者は受けることができるが、賃貸住宅住人は受けることはできない。しかし、再エネ賦課金は、全世帯にkWh当たり一律に課金されるため、後者から前者への所得再分配効果があるとの問題指摘が、再エネ電源支援策の導入当初からあった。さらに、最近では、環境意識の高まりから、再エネ電源からの電力を選好する電力需要家は戸建て住宅所有者のみにとどまらない。このような問題を解決するために、「賃借人電力」という制度をドイツでは導入している。本コラムでは、この制度について解説してみたい。

 ドイツでは、「賃借人電力」の導入以前でも、建物の所有者が太陽光パネルを設置して、発電した電力を賃借人に売ることは可能であった。しかし、同一建物の住人に売電する場合は、送配電料金、電気税、公道使用料の支払いは免除されるというメリットがあるものの、運転、計量、決済、電源開示義務の履行などにかなりの追加的なコストがかかり、建物所有者にとっては、発電した電力を固定価格買取制度のスキームの下で、電力会社に売るほうが、利益が大きかった。このため、2017年の再生可能エネルギー法の改正( Erneurbare- Energien-Gestz-2017: EEG 2017)で、賃借人向け電力にkWh当たり一定の補助金を付与し、その促進を図っていくことにした。

補助金は、EEG2017制定時には、出力10kWまでについては、3.7ct/kWhと設定され、その後低減し、2021年には終了するはずであったが、2021年1月に施行されたEEG2021で2021年1月から、3.79ct/kWhと設定された。現在、「賃借人電力」の供給を受ける住人は5万戸にとどまっており、補助金のレベルが低いことが、その拡大を妨げていると考えられたためである。ドイツでは、「賃借人電力」の対象となる戸数は、380万と見積もられており、その拡大ポテンシャルは大きい。

賃借人向けの再エネ電源は、建物当たり100kW以下の太陽光電源に限定されており、供給される電力には、再生可能エネルギー賦課金が課せられる。余剰電力は、電力会社に固定買取価格で売ることができる。またEEG2021では、近隣の建物(クオーター)にも「賃借人電力」を供給することが可能となった(現在のところ、クオーターの法的定義は存在していない)。さらに、EEG 2021により賃借人向け太陽光発電供給には営業税が免除されることになった。多くの場合、「賃借人電力」のシステムの建設や運営は、シュタットヴェルケなどの専門組織に委託されている。 わが国では、現在、「エネルギー基本計画」の改定に向けての議論の中で、政府は、2030年度の新たな電源構成について、再生可能エネルギー電源の割合を36~38%とする方向である。現在の目標は、総発電電力量に占める割合は、22~24%にするもので、大幅な引き上げとなり、2019年度の実績の約18%と比べると倍増となる。その際、再エネ拡大に伴う所得再分配効果の問題を解決し、多くの国民に再エネ電力を選択可能とするために、ドイツで採用されている「賃借人電力」のような新たな制度を検討してみたらどうだろうか。また、「賃借人電力」は、電力会社にとっても新たなビジネスチャンスを提供することになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

動き出したEV充電ビジネス 脱炭素を足掛かりに事業化加速


EVの普及とともに、整備が進んでいるのが充電設備だ。その数は全国で3万5000台以上に及ぶ。

充電設備は設置するだけでなく、使用電気を再エネにしたり、特長を生かすことが求められている。

EV普及とともにこうした充電風景が広まりそうだ

 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及に伴い、充電インフラの整備が進んでいる。富士経済によると、国内では普通充電器が2万7600台、急速充電器が7835台設置されており、合計3万5000台超に上る。拠点数で換算すると約2万カ所に及ぶ。ガソリンスタンド(SS)が2019年に3万カ所を切るなど減少の一途をたどっているのに対し、インフラが徐々に整備されつつある。世界的な脱炭素化の流れもあり、自動車のEVシフトは急速に進むものとみられる。

EV充電サービスが拡充 合わせて新ビジネス始まる

そうした中、EVやその充電を巡る新ビジネスの動きが活発だ。コスモ石油マーケティングは、e-Mobility Powerと協業し、系列SSに急速充電器を設置。EVカーシェアリングとともに、充電スタンドを運営する。電気は、自社サービスの「コスモでんきビジネスグリーン」を使用。グループ会社のコスモエコパワーの風力由来のCO2実質フリー電力により、EVを走らせることができる。

伊藤忠エネクスは、自社レンタカーサービスにEVを加え、EVカーシェアリングサービスを開始する。さらに、家庭向けに電力とセットでV2H(ビークルtoホーム)システムを電力とセットで販売するほか、小型EVのサブスクサービスも計画する。

デルタ電子は独自の次世代型EVステーション「Delta EV Charging Station(Yokohama)」をオープンした。同店舗は自社のEV関連設備を導入し、ショールームのような役割を果たす。充電用決済システムも独自に立ち上げ、プラットフォーム提供に注力する。

現在、EVシフトが活発なのは欧州や中国だ。今後、日本も車種のラインアップが増えてくると、この流れはさらに進んでいくだろう。その時、多くのEVや充電を巡る新ビジネスが生まれてくるとみられる。

【INTERVIEW】/四ツ柳尚子 e-Mobility Power社長

先行投資でインフラ整備進める 白地解消とキャパ増強へ

充電インフラの整備を担うe-Mobility Power。初代の社長に就任した四ツ柳さんに話を聞いた。

―会社のコンセプトとビジネスモデルを教えてください。

四ツ柳 充電インフラの整備・拡充と充電サービスを行う会社です。インフラ事業としての性格が強く、事業モデルとしては、先行投資モデルになります。現在は、先行投資のフェーズで、充電器の拡充を進めています。売上は、個人・法人含めたプラグインハイブリッドやEVユーザーの会員からの月額料金になります。最大の販売チャネルは自動車ディーラーであり、料金プランは各社さまざまですが、当社の直営会員向けには「急速充電」「普通充電」「併用」の三つのプランを用意し、月会費と使用に応じた従量費をいただいています。また、非会員向けにビジターメニューも用意しています。

―インフラの整備状況は。

四ツ柳 急速充電は全国に7000台程度、普通充電は1万8000台程度が当社の充電ネットワークに接続されています。代表的な設置場所は自動車ディーラー、高速道路、コンビニ、ショッピングモールなどです。

―充電時におけるガソリンとの違いは。

四ツ柳 危険物の取り扱い対象ではないのでセルフ充電が基本です。

―充電渋滞が発生するケースがあります。時間帯別メニューの値差によって渋滞は回避できますか。

四ツ柳 ダイナミックプライシングによって多少の緩和は可能かもしれません。しかし、高速道路が混雑する日に充電器も混みますので、充電インフラ拡充の方が効果的だと考えています。年末年始の高速道路が混み合うように、人間の行動が伴う以上、行動変容での対処は限界があります。充電のためだけに生活様式を変える人は少ないのではないでしょうか。

適材適所の整備が肝要 規制緩和で普及に期待

―充電器拡充の具体策は。

四ツ柳 ユーザー利便性の向上に向け、大きく二つの考え方があります。一つは全国津々浦々、面的にカバーし、白地を解消すること。もう一つは需要密度に応じて充電設備のキャパシティーを増強すること。前者は、これまでの政府補助金の後押しもあり、現時点で世界屈指のカバー水準にありますが、残る一部の白地エリアを着実に埋めていきます。他方、渋滞の発生エリアでは、充電口数を増やすなどの対応が必要です。1スポットに6口配置し、複数の自動車に最適給電できる新しい充電器の設置も進めています。

 また、EV普及には適材適所での整備が肝要です。大型のショッピングモールやゴルフ場は滞在時間が長く、時間をかけて充電する普通充電の方が適切です。急速充電の場合、充電後、次のユーザーに充電場所を譲らないといけません。

―急速充電が増えすぎてしまうと、既存の電力系統に大きな影響を与えることになりませんか。

四ツ柳 現状の電気自動車の普及台数は30万台程度。仮に10倍普及しても、いまの日本の電力系統網なら、問題はないでしょう。

―今後の課題は。

四ツ柳 規制上、充電器設置が困難なケースがあります。電気事業法上、「一需要場所には一電気引き込み線」という規制がありましたが、自動車向けの給電設備を整備する際に、その規制が緩和されたことで、設置しやすくなった事例があります。電気に限らず、土地活用などの規制緩和は、マンション向けの設置や土地制限のある都心部での整備における課題解決につながることが期待できます。

 昨今は技術発展が目覚ましく、今後、自動運転が普及すれば、就寝中の夜間に車が勝手に動き出してステーションで充電する。そんな世界を夢想したりします。

自家発の再エネ転換が鍵 紙パの「カーボンゼロ」産業化


【業界紙の目】本田敦彦/紙業タイムス社 取締役・編集部長

紙パルプは鉄鋼や化学ほどではないが、エネルギー多消費型産業と言われている。

その紙パが「2050年のCO2排出ゼロ」という野心的な目標を掲げた。成算はあるのだろうか。

 国立環境研究所によると、産業部門のCO2排出比率(2019年度速報)は鉄鋼が断トツの40%で、以下化学の14.4%、機械の12.8%、窯業土石の7.7%と来て、紙パは5番目の5.5%。エネルギーを多く使うということは、少なくとも現状では(原子力などに依存するのでない限り)、それだけCO2の排出量が多いことを意味する。

だから今年1月、日本製紙連合会が「50年までにCO2の排出量を実質ゼロとする」という長期ビジョンを発表した時には、業界内からも驚きの声が上がった。意欲的な目標だが、ハードルが高すぎると危惧する向きもあった。

内需先細りの中挑戦 2100万t削減へ

というのもデジタル化の進展に伴い「紙離れ」が目立つようになり、紙の国内需要は2000年の3200万tをピークに減少を続け、昨年は2240万tにとどまった。需要が右肩上がりならば生産設備の増強と合わせて環境対策にも十分な投資を行えるが、今はそんな状況ではない。

紙には大きく分けて、商業印刷や新聞・出版などに使う「洋紙」と、段ボールや紙箱に使われる「板紙」の2種類がある。衰退が著しいのは洋紙で、前記のような構造的要因から過去20年間に需要が4割超も減少。対して板紙は、物流や宅配サービスに欠かせない包装材料を提供しているので需要は底堅く、20年は00年比12%程度の減少にとどまる。紙は重量取引なので12%のマイナスは大きいようにみえるが、実際は技術の進歩などで単位面積当たりの軽量化が進み、実質的には横ばいといえる。ただ、いずれにせよ量的に多くの成長は望めない。

洋紙と板紙を原料面からみると、主として前者には新規のパルプ、後者には古紙が使われる。パルプは木材からセルロースを取り出して紙の原料とするものだが、製造工程ではリグニンなど紙の原料とならないものも抽出される。パルプ工場では、この非セルロース部分も燃料として活用。「黒液」と呼ばれるこの燃料は、新たなCO2が発生しないカーボンニューラルのバイオマスエネルギーだ。

パルプ設備を併設する洋紙工場(紙パルプ一貫工場。大手製紙会社の大半の工場はこのタイプ)は、パルプの生産が増えるほど黒液をたくさん使えるので、CO2の排出原単位が改善され、同時にエネルギーコストも抑えられるという理屈になる。だが、この排出削減の切り札ともいうべきパルプの生産が、洋紙需要の衰退につれて減少傾向をたどり、同じく00年比で昨年のパルプ生産量は36%減の720万tと落ち込んでいる。

製紙産業はこうした困難な条件下で50年排出ゼロを宣言したのであり、業界内から達成を危ぶむ声が上がったのも無理はない。

では、どのようにして目標を達成するのか。まず削減量の目安だが、製紙産業は13年度から「低炭素社会実行計画」に取り組んでおり、この年に生産活動と廃棄物からの排出を合わせ約2100万tのCO2を排出。この2100万tの削減をもって実質ゼロを達成するとした。

この内訳について製造工程では、分野ごとに次のような削減の目安を立てている。①最新の省エネルギー設備・技術の積極的導入などによる省エネの推進で、13年度排出量の20%(420万t)程度削減、②自家発電設備における再生可能エネルギーの利用比率拡大で、同40%(840万t)削減、③製紙関連の革新的技術の実用化への挑戦で、同10%(210万t)削減、④エネルギー関連の革新的技術の積極的採用で同30%(630万t)削減――。

こう書くといかにもすっきりしているが、これは削減可能な数量を地道に積み上げたというより、2100万tを各分野で案配よく割り振った印象も否めない。そもそも製紙連自身、「本ビジョンにおける50年までの道筋は必ずしも明確なものではなく、掲げた内訳の数値も『目安』」 と断り書きを入れている。

それでも本格的な議論を巻き起こすには十分なたたき台だし、何より自らの縛りにもなる公約を内外に宣言したという点で意義深いものがある。

バイオマスボイラーは削減効果が高い

アウトラインは提示 具体策に落とし込めるか

ここで個々の課題の詳細に触れる紙数はないが、①では最新の省エネ設備・技術の導入、製造工程の見直し、エネルギー管理の徹底などを挙げるほか、「新規または老朽化設備の更新に当たって、従来型の石炭ボイラー導入は行わない」とした。

②では、全体の4割に当たる最大の削減量を見込んでいる。紙パの自家発電比率は、もともと産業界の中でも図抜けて高いが、20年は過去最高の81%を記録。黒液のほか、紙の原料にはなりにくい木くず、RPF(廃プラスチック固形燃料)などの再エネ比率を高めることは、確かに削減効果が高い。

③は専門的な領域だが、紙づくりの中で最もエネルギーを消費するのが大量の水分を含んだシート状の紙を乾燥させる工程(ドライパート)であり、ここで革新的な省エネ技術の導入が期待される。

最後に④では、他産業において検証が進んでいるCCS(CO2回収・貯留技術)の導入や、水素、メタンガスおよびプラスチック廃棄物のエネルギー利用などが課題に上っている。

製造工程以外の領域では、環境対応素材の開発を通じたライフサイクルにおけるCO2の排出削減を追求し、2100万tに上乗せする形で420万tの削減を見込んでいる。具体的には、最近話題のセルロースナノファイバー(CNF)の社会実装を通じた省エネへの貢献、化石由来のプラスチック包材に代わる紙素材の利用拡大などを想定している。

以上、おおよそのアウトラインは出来上がったが、本格的なロードマップづくりはまだ緒に就いたばかりである。50年まであと30年足らず。紙の内需が先細る中、時間とも闘いながら産業としての存在感をどれだけ社会に示せるか、真価が問われている。

〈紙業タイムス〉○1949年創刊○発行部数:1万2000部○読者層:製紙、紙流通、紙加工、外資系商社、民間シンクタンク、官公庁など

ガス2社の料金規制解除 公取委調査の電力は困難か


東京、大阪の大手都市ガス2社に課されている経過措置料金規制が、10月1日付で解除されることになった。2017年の全面自由化を機に、多くの都市ガス会社に自由な料金設定が認められたが、両社を含む12社が需要家保護を目的に経過措置規制の対象となっていた。電力・ガスを通じて、大手既存事業者の料金規制が解除されるのは初めてのことだ。

規制解除は、市場競争が十分に進展していることや、新規事業者側に十分な供給余力があり解除基準を満たしているとの判断を受け決定したもの。ただし、両社とも10月以降の料金戦略について「一般料金と選択約款料金という体系は変わらない。今後も柔軟な料金メニューで顧客ニーズに対応していく」としており、需要家への影響は軽微と見られる。

今後注目されるのは、全既存事業者に規制が残る電気料金への波及だが、今回、公正取引委員会の立ち入り検査を理由に東邦ガスの解除が見送られている。電力業界では、関西、中部、中国、九州の4社に検査が入っており、規制解除に向けた議論が進むことは当面難しいかもしれない。

鉄鋼業界が直面するハードル ゼロカーボン・スチールは可能か


【論説室の窓】関口博之/NHK解説委員

カーボンニュートラルが宣言され、鉄鋼各社はCO2を排出しない製鉄法に取り組んでいる。

しかし、まだ存在しない技術への挑戦であり、実現には高いハードルが横たわっている。

 「Make Our Earth Green」このキーフレーズと、緑色の“0”をかたどったロゴマークまで作ったという。日本製鉄は今年3月「カーボンニュートラルビジョン2050~ゼロカーボン・スチールへの挑戦」という目標を経営の最重要課題として打ち出した。先日、その説明を受ける機会を得たが、恥ずかしながら認識を新たにする内容ばかりだった。

脱炭素のカギになるのが「水素還元製鉄」であることは知っていたつもりだった。だが、それも石炭を蒸し焼きにしたコークスの代わりに水素を使えば鉄鉱石から銑鉄ができる、という程度の認識だった。ところが、その実現がいかに長く険しい道のりかを思い知らされた。

現在、高炉各社が業界を挙げて取り組んでいるのが、試験高炉に一部コークスの代わりに水素(製鉄所内の副生水素を使う)を吹き込み、鉄鉱石から酸素を取り除く還元を行うもの。「COURSE50」プロジェクトとして国の支援を受け進めている。試験高炉が作られたのは日本製鉄東日本製鉄所君津地区だ。水素を加えることによってCO2の排出を10%削減、あわせて同じサイトでCO2の分離回収の技術開発も行っていて、こちらで20%減、あわせて30%の二酸化炭素の削減を目指している。

ただ水素による還元は「吸熱反応」、反応が起こると温度が低下するそうで、反応を継続させるには加熱した水素を使わなければならないという。このあたりで既に、文系人間としてはついて行きづらくなる。スケールアップも課題で、試験高炉は日量30tの生産規模だが、これを1000tに増やさなければ実機にならないという。

今はあくまで過渡的技術 最終的には100%水素利用

ただ、ゼロカーボンを目指すうえではこれはあくまで過渡的技術だ。最終的には100%水素による「直接還元」が目指すべきものになる。これならCO2の排出はなくなるが、一方でここでも先ほどの「吸熱反応」が難題になる。還元された鉄は固体、しかも気泡があいたようなスカスカの鉄ができるそうだ。なので、これを改めて高炉や電炉に入れて溶かし、不純物の除去や成形を行わないといけないというのだ。このいわば後工程では若干だがCO2が発生するため、その分はCCUS(CO2の回収・貯留・利用)に頼らざるをえない。こうした複雑なプロセスによって水素還元製鉄が成り立つということを初めて知った。

それならば、いっそ鉄鋼供給を全面的に電炉に移行すればいいのではないかという疑問もわく。鉄スクラップが原料の電炉なら、還元反応が要らずCO2の排出もわずかだ。

ただ、この再生産を成り立たせるには、世界の鉄鋼蓄積量が十分にないといけない。蓄積量とはビルや橋、工場、船や自動車、家電製品などの形で社会にいまある鉄鋼のことだ。足元で約300億tあるが、今後の世界の人口増加や新興国の経済成長を見込むと、50年には約700億t、今の倍以上の鉄鋼蓄積量が必要になると試算されているという。人類は“いま既にある鉄”だけでやり繰りすることはできず、やはり鉄鉱石から鉄を作るという方法を続けざるを得ないらしい。

夢の製鉄方法、水素還元製鉄の開発には各国メーカーも血眼だ。特に欧州は気候変動問題に関心が高く、再生可能エネルギーによる水素が比較的入手しやすいこともあって、こうした開発も盛んだろうとイメージしがちだが、それは“欧州のPRが巧み”なのだそうだ。アルセロール・ミタルはドイツで今の天然ガスによる還元法のプラントを、水素還元製鉄に転用すべく研究中だが、実情はまだパイロットプラントを作った程度。技術開発としては08年に始まった日本のCOURSE50の方が先行しているという。

むしろこれからのライバルとして挙げたのは、中国の宝武鋼鉄だった。国営企業として国からの潤沢な資金が見込めるだけに侮れないのだという。日本にそれに対抗する国家戦略と覚悟があるのかも問われそうだ。

「COURSE50」プロジェクの試験高炉

コスト面で大きな課題 大量の水素が必要に

ゼロカーボン・スチールを実現するには、技術面だけでなく経済面での課題も多い。そもそもCO2の排出なしで水素還元製鉄を成り立たせるには、再エネなどから作ったカーボンフリーの水素が、それも大量に要る。また同じくカーボンフリーの電力も不可欠。それをいかに低コストで調達できるかが決定的に重要だ。日本製鉄の試算によれば、コークスによる還元に見合う水素のコスト水準はNm³当たり8円だという。

国の水素基本戦略が目指す水準が50年に同20円だから大きな開きがある。また今の国内銑鉄生産量を維持するために必要な水素量は700万tと推計され、これは水素基本戦略の50年シナリオの2000万tの3分の1以上を鉄鋼業界が占めてしまうことを意味する。

さらに企業にのしかかるのは多額の研究開発費。当然、国が用意する脱炭素2兆円基金を使った支援も必要になろう。さらに会社側ではゼロカーボン・スチールの生産に必要な設備投資は4~5兆円規模にのぼると見込んでいる。一方で、既存の高炉などの設備は「座礁資産化」し、数千億円規模での特別損失も計上することになると見ている。これをどう賄うのか。製品価格に転嫁して、脱炭素化という社会課題解決に必要なコストとして広く負担してもらうのか。それとも何らかの国の助成や減税などの支援を仰ぐのか。われわれの懐にも関わる問題として考える必要がある。

鉄鋼業界がいま取り組んでいることは、理論的には可能だが、いまだ地球上に存在しない技術への挑戦だという人もいる。日本製鉄の役員が「エネルギー業界にとってのエネルギー転換は、もちろん不透明さもあるが、それでも再エネ・原子力など使える既存技術はある。しかし鉄鋼業界にはそれがまだないのだ」と語っていたのが強く印象に残った。

大型砕氷船の就航で通年航行へ 北極海航路で日ロ関係者が対話


【ロスアトム】

欧州から東アジアに至る北極海航路について、ロスアトム社主催のセミナーが6月に都内で開催された。

さまざまな可能性を持つこの、日ロの関係者がその将来性や利用の見通しなどを話し合った。

 北極海航路――。欧州からロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る輸送ルートで、スエズ運河を通過する南回りルートに対して、航行時間が16~36%短縮される。ロシア側は大型原子力砕氷船団を発展させ、年間を通じて利用できるようインフラの整備に取り組んでいる。

ロシア連邦政府は、国営原子力企業「ロスアトム」を航路開発を担当する機関として任命している。6月24日にオンライン、オフラインの2形式で開かれたセミナーは、ロスアトムが策定した「2035年までの北極海航路インフラ開発計画」について同社幹部らが内容を説明。航路の発展性、効率性、安全性、また日本企業による利用の見通しなどについて、日ロ双方の関係者が協議を行った。

セミナーには、ロスアトム・モスクワ本社から同社副社長・北極海航路局長のヴャチェスラフ・ルクシャ氏、同北極開発特別代表のウラジミール・パノフ氏をはじめ、航路開発に関わる幹部らが参加。日本側からは国土交通省の幹部などの関係者約200人が参加している。

モスクワ本社から参加したロスアトム幹部

ロシア連邦政府は19年、35年までの北極海航路インフラ開発計画を認可した。計画は三つのステージ(①24年まで、②30年まで、③35年まで)に分かれている。各計画には、北極圏への大規模投資のためのインフラ開発と、積替輸送のための環境の整備が盛り込まれている。

インフラ整備に注力 原子力砕氷船を拡充

計画の実現に向けて、ロスアトムはさまざまなインフラ整備に注力している。まず、原子力砕氷船の拡充。砕氷船は氷で覆われる海域を航行する船の前方を進んで氷を砕き、航行の支援を行う。現在、最新の22220型である「The Arctic」をはじめ、5隻の原子力砕氷船を運用。ロシア側は22220型を4隻建造中であり、さらに砕氷力を増した10510型の「Lider」の建設を進めている。

北極海航路でのロスアトムの原子力砕氷船

ロスアトムは、原子力砕氷船を多用途救助船として利用することも重視している。特別な医療設備を備えており、急病人を収容し手当を行う。またヘリコプター発着場を備え、海難事故現場に向かい船舶の救助に当たる。

航路の安全な利用にも力を注ぐ。可能な限りの方法で病人の搬送や海難事故などへの対応に当たる。航海中の船舶で急病人などが出た場合、インマルサット(Inmarsat:通信衛星による移動体通信)、あるいは沿岸の無線局を通じて、海事救援調整センターが連絡を受け、その指令で近くの船舶かヘリコプターが病人を救助し、近くの救助船に搬送する。

海難事故が起きた場合も同様だ。国際コスパス・サーサット・プログラム(International Cospas-Sarsat Programme:衛星を利用して捜索救援活動を率先する政府間組織)などを使用し、速やかに救難を行う体制を整えている。

増加する貨物輸送 LNG輸送で倍増

北極海航路を利用する貨物輸送量は、ここ数年で大きく増えている。14年は年間約400万tだったが、ノバテク社のロシア北部ヤマル基地からのLNG輸送などにより、18年に約2000万tと前年から倍増。20年は約3300万tに増加した。輸送の増加に伴い、船舶の載貨重量も増えている。

現在、LNG輸送は欧州向けが圧倒的に多い。中国・日本・台湾・韓国向けは主に夏から秋に限られ、20年は最大で月約90万tにとどまっている。ロスアトムは、貨物輸送量は24年までに8000万tに増加するとみている。日本を含むアジア向けLNGなどの輸送が増えることへの期待も大きい。

ルクシャ氏はセミナーで日本企業の関係者に対して、「北極圏にはLNG、原油、石炭など鉱物資源が豊富にあり、(北極海航路という)新しい海上輸送の動脈は、われわれにさまざまな可能性を与えてくれるだろう」と話し掛けた。

また、「追加的な機会が生じており、われわれは一緒にそれらを利用できる。強力な砕氷船団を就航させることで、年間を通して北極海航路を安全に航海する機会を提供することができる」と述べた。

一方、国交省総合政策局海洋政策課の久保麻紀子課長は、「北極圏の資源に対する関心は高い。北極海航路を利用するには、安全性と経済的メリットが大切。いまは冬季は通れないが、定期的なコンテナ船の運航ができるかが重要な点になる。課題を一つ一つ解決していくことが、一番の近道になる」と話している。

安全な運航が可能で、経済的にも利点があれば、北極海航路で日本とロシアはウィンウィンの関係になる。今後どう進展していくか、注目する日本側関係者は多い。

【覆面ホンネ座談会】難局のエネ政策のかじ取りは? 経産・環境省人事を裏読み


テーマ:経産省と環境省の人事

エネルギー基本計画、温暖化ガス46%減対応、カーボンプライシングなど、問題山積のエネルギー政策。これらの動向に、今夏の経済産業省、環境省の人事がどう作用するのか。霞が関界隈に詳しい関係者の見解を聞いた。

〈出席者〉A霞が関事情通  Bコンサル  Cマスコミ  D元官僚

――まずは経産省人事のポイントから。脱炭素重視の布陣と捉えたが、どう見ている?

A 多田明弘・前大臣官房長が次官、平井裕秀・前商務情報政策局長が経済産業政策局長、飯田祐二・前資源エネルギー庁次長が大臣官房長と、極めて順当。安藤久佳・前次官の「置き土産人事」だ。キーワードは「継続」で、グリーン成長に加え、デジタル、レジリエンス(強靱化)といったコロナ禍の重要テーマを、政策面でも人事面でも継続することを重視している。山下隆一・前産業技術環境局長がエネ庁次長に、その後任に奈須野太・前中小企業庁次長が就任。一方、原子力を担当する小澤典明・首席エネルギー・地域政策統括調整官は留任となった。エネルギー政策では原子力とカーボンニュートラル(実質ゼロ)を軸とする方針を継続するということだ。

B 今回は本当にサプライズなし。本省の次官も局長級も極めて穏当で、次、その次の次官候補が主要ポストに残っている。あえて言うなら、新原浩朗・前経産局長が内閣官房成長戦略会議事務局長代理、そして前田泰宏・前中企庁長官が2025年日本国際博覧会協会理事・副事務総長というポジションで残ったことには驚いた。それぞれ電通絡みの疑惑が報じられ、民間への天下りが難しくなったのだろうかと受け止めた。

C 新原氏、前田氏が大阪万博に絡むこととなり、特に関西経済界は大阪に赴任する前田氏の動向を気にしている。万博予算は当初の1200億円が1.5倍となり、経済界は3分の1を負担するが、協会の要職に電通とのつながりが深い前田氏が来ると、さらにお金がかかるのでは……なんて声も聞こえてくる。

 経産省人事を対環境省という視点で見ると、奈須野産技局長に注目している。奈須野氏はかつてカーボンプライシング(CP)議論を産技局環境政策課長として取りまとめた。環境省内では、CP慎重派の奈須野氏を反撃の旗手として、「中井徳太郎・環境次官の間は炭素税をやらせないということか」といった見方もある。

D 安藤前次官の行動原理を想像するに、安倍政権時代の今井尚哉補佐官・新原氏体制でかき回された官邸主導人事を正常に戻すための道筋を付けようとしたのだろう。前田氏について付け加えるなら、かつて接待問題で苦境にあった安藤氏のピンチを救ったことへのお返しという見方も。学生時代に「浪速お達者くらぶ」というサークルを立ち上げたコテコテの前田氏は水を得た魚になるだろう。

A 若手からは、新原氏が産政局長を退いたのに、内閣官房で成長戦略を仕切られることに落胆する声も出ているようだ。

D 新原氏については政局絡み。多田次官は二階俊博幹事長が経産相時代の秘書官なので、今後、二階氏と3A(安倍晋三氏、麻生太郎氏、甘利明氏)の対峙が激しくなり、二階氏が権力闘争に敗れたときに、経産省が政権の主導権から外されないための保険をかけたとも考えられる。小泉進次郎環境相にやられっぱなしの経産省が、菅政権が倒れたときのプランBを実行するための布陣を今から考えておくことが重要になる。

経産省幹部で目立つバランス型 CP導入のため環境省は財務省シフト

――多田次官についての評価を聞きたい。

C 多田氏はガス事業課の総括班長や電力・ガス事業部長などを歴任。自由化派、規制派といった思想があまり見えず、色がついていないバランス型の人。経産省が決めた方向へ実務を遂行するという面で実行力を発揮するタイプだ。

A 新幹部の中でも特に実直な人で、電力に寄り過ぎず、ガスにも思い入れがある。面白味にはやや欠けるかもしれないが……。

B 皆さんの言う通り、剛腕な安藤氏とは全く違うキャラクター。与えられた課題を期間内に、波風立てずにまとめることにおいて手腕を発揮する。現在の政策課題を強引に解決しようとしたら、結局何もできなくなる。多田氏のような人物は、まさに今求められている次官かもしれない。

D 昭和60年代入省組以降は、旧通商産業省っぽいアクのない人が増えている。バブル時代に野心を持つような人材は役所に来なかったからね。安藤氏が骨太な通産官僚の最後で、今後10年は通産省らしさがなくなっていくのでは。

再エネ公害報道は「風評」 小泉氏のクレームが波紋


静岡県熱海市の土石流に近隣の太陽光発電所が影響したのではないか、といった臆測がくすぶり続けている。小泉進次郎環境相は、両者の因果関係は不明とした上で、国民の不安払しょくのため、再生可能エネルギーを促進すべきでない区域を示す「ネガティブゾーニング」に取り組むと表明。併せて、既存の不適切設備については、設備完成後にも環境アセスメントの仕組みで対応できないか、検討する意向を示した。

再エネ規制緩和に積極的な小泉氏だが……

他方、小泉氏は「再エネ全体に対する過度なネガティブキャンペーンが起きていると思う。そういったことを食い止めたい」と強調。毎日新聞が一面で、太陽光発電設置に伴う景観悪化や自然破壊が各地で深刻化していると報じたことを指し、「公害だとの表現があったが、やり過ぎだと思う。再エネに対する過度な風評を今まき散らすのは、一体何のためなのか」と、報道に苦言を呈した。これに他紙の記者が反発する一幕もあった。

しかし、3年前の西日本豪雨では、神戸市の太陽光パネルが崩落し新幹線が一時ストップするなど、災害時に再エネに起因する実害が各地で起きていることは事実。小泉氏には、「悪い再エネ」を市場から撤退させるような規制にこそ手腕を発揮してもらいたい。

石炭先物が最高値を記録 発電増加や生産減少が影響


世界的な脱炭素化の動きとは裏腹に、石炭の国際価格が暴騰している。米ニューヨーク市場の石炭先物価格は、7月中旬にトン当たり約150ドルと最高値を記録。この1年間で100ドル近くも上昇した。一部報道によると、豪州産のスポット価格もトン140ドル付近まで急騰。昨年末から7割近くも上昇し、2008年9月以来の高水準にある。

ニューヨーク市場の石炭先物価格の推移

市場関係者によれば、石炭暴騰の背景には、中国の事情が大きく関係している。代表的な工業地域である浙江省、江蘇省、広東省を熱波が襲い、電力消費が過去最高水準にまで拡大。その一方で、雲南省の水力発電所が干ばつで停止を余儀なくされているほか、国内の炭鉱が環境規制や事故対応の問題で生産制限に入っていることなどから、輸入量が急増し市場価格を押し上げているもようだ。

中国だけでなく、欧米や韓国でも気温の上昇によって石炭発電の稼働が増加中。そんな状況下、主要産炭国の豪州やインドネシアでは、今春発生した大規模洪水やコロナ禍拡大の影響などによって生産への影響も出ているという。

このまま石炭価格の高騰が続けば世界経済への影響も懸念される事態に。価格低廉化と需給安定化への対応が急務だ。

カーシェアで新しいマイカーの暮らし EVで生活者の脱炭素をスムーズに


【九州電力】

九州電力はテスラなどのEVを、マンションの入居者限定でシェアリングする事業を開始した。

マンションの環境価値を上げ、電化の推進による快適で脱炭素な暮らしが始まっている。

 九電社内で新規事業や新サービスの創出を目指す「KYUDENi―PROJECT」(iプロジェクト)。電気事業に限定せず、世の中の課題に立ち向かい、未来を明るく変える新しい取り組みを形にする目的で始まった。既に複数の案件が事業化され、社内を活気付けている。

iプロジェクトが発足したのは2017年、その初年度の案件として採用されたのが、EVのシェアリングサービスだ。検討を重ね、1年間の実証実験を経て20年12月から、EVシェアリングサービス「weev」として事業を開始した。

weevは、「マンション入居者(we)が利用できる電気自動車(ev)」というコンセプトで名付けられた。新築分譲マンションにEVを導入し、入居者だけが利用できるサービスだ。

weevのコンセプト

敷地内に停めているので、重い荷物がある時や小さい子供がいても階下で乗り降りできる便利さも特長になる。駅までの送迎や買い物など短時間の利用や、休日のレジャーでの活用を想定している。

15分で220円(税込)が最低の時間料金で、この時間料金に加え、1kmの走行につき5.5円の距離料金が加算される。また、6時間、12時間などのパック料金があり、最大3日間の利用が可能。大手カーシェアサービス会社の場合、車を利用しなくても月額の基本料金が必要だが、weevは利用時のみの料金で、距離料金も大手の半分以下というリーズナブルな設定になっている。

利用方法はスマホに専用アプリをダウンロードして、最初に免許証や支払い用のクレジットカード情報など必要事項を登録する。アプリには入居するマンションに配備されている車体が表示され、1カ月先までの予約ができる。鍵の開閉もアプリで行い、利用後に充電ケーブルを車体に挿さないと終了ボタンが押せない仕組み。これにより充電忘れを防ぐ。

アプリの予約画面

満足感と安心感の付加価値 EVでオール電化を進める

導入する車種は、現時点では「テスラモデル3」と「日産リーフ」の2車種。事業の発案者が自分の身近で、利用したいサービスを考えた。そして、社会によい影響を与える取り組みにしたい、とEVにこだわった。テスラモデル3については、国内ではまだ珍しく、カーシェアとはいえ入居者限定で“所有”し利用できることは大きな魅力で、満足度も高い。日産リーフを導入するマンションでは、災害時に放電できる安心感を付加価値としてアピールできる。

weevを導入予定のマンションでは、EV付きのマンションに入るので自家用車を手放す、という声があったそうだ。生活スタイルは変わらず、洗車や車検の手間もかからなくなる上、無理なくCO2削減につなげられる。

weevは首都圏などでも導入が進み、8月からは都内の新築マンションでの利用が始まる。首都圏などの都市部では、数万円単位の駐車場代がかかるため、車を持つことを諦めることも多く、カーシェア自体のニーズが高い。

EV付きマンションは環境価値を高めるので、デベロッパーからの引き合いも多く、今後建設予定の複数のマンションで既に導入が決定している。

コーポレート戦略部門・インキュベーションラボでweevを担当する藤本尚之氏は、24年には少なくとも100台程度は導入したいと話す。「マンションやデベロッパーとの接点を生かした、新しいサービスも作っていきたい」と、weevをきっかけとした展開も考えている。

今後は既設マンションにも専用EVの新しい暮らし

マンションへのEV導入は、充電器の設置も含め建設時に行うのがスムーズだが、九電は今後、既設マンションへの導入も検討する。オール電化の推進という位置付けで、大型電気製品であるEVやEVインフラ設備、スマートメーターの活用も含め、電力会社として今後何が提案できるかを探る。

同ラボの平尾元氏は他業界との連携の中で、「一緒にやってよかったと言ってもらえる事業に発展させていきたい」と意気込む。アメリカではテスラが自宅から目的地までほぼ自動運転することから、「日本の法規制が世界に追いついた時、どんな世の中になるのか。環境適応させながら人々の未来に貢献できたら幸せ」と、weevがともにある未来の暮らしを思い描く。

実証実験では、利用者を限定せずテスラのカーシェアを行ったところ、遠い他県から乗りに来るほど注目を浴びたそうだ。EVに乗りたいというニーズを掘り起こし、EV普及のシーズをつかんだ実証となったに違いない。

weevは2050年カーボンニュートラルの世界に向けて、生活者が快適さを失うことなくCO2削減の暮らしにシフトできる大きなきっかけになることだろう。

九電は“新しいマイカーのある暮らし”をつくり、先駆者の役割を担っていく。

インキュベーションラボの平尾元氏(左)と藤本尚之氏

【イニシャルニュース】再エネ牛耳るI勢力 既存事業介入で利権狙う


 暴走続ける小泉氏 自民重鎮が一喝

菅政権になってから、地球温暖化対策で存在感が増す一方の小泉進次郎環境相。米国主催の気候サミットに合わせて4月に発表された2030年度温暖化ガス削減目標の46%減への大幅引き上げを巡っては、「欧米と肩を並べるには50%」といった主張を繰り広げ、梶山弘志経済産業相らと衝突した。

ただ、小泉氏を苦々しく思っているのは梶山氏ばかりではない。再生可能エネルギーを偏重し、原子力の役割を否定する姿勢に、党内ではエネルギー関係議員を中心に、「調子に乗るな」との雰囲気が充満し始めている。

経産相、経済再生・財政相などを歴任した党の重鎮議員A氏の元に、小泉氏が環境次官をはじめ新幹部とともにあいさつに出向いた際もひと悶着あった。小泉氏は「かつてのA氏がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉に尽力し、功績を残したように、地球環境問題に関する国際交渉は私が一手に担う」と意気込みを伝えた。

この発言を聞いたA氏は激怒。「私は国益を背負って交渉したが、あなたは自分の功績のために外国の利益に寄っているだけだ。一緒にしないでもらいたい」と幹部の眼前で一喝したという。A氏はこの話を、業界関係者が集まる会合などで披歴している。

安倍政権下では、経産省出身のI・T首相秘書官、小泉純一郎元首相の秘書官を務めたI・I内閣官房参与などの「大物」が首相側近にいた。彼らは環境省など各省庁に情報網を持ち、小泉氏などに対しお目付け役を付け、暴走しないようにコントロールしていた。

しかし菅政権で彼らは去った。そのため、官邸のグリップ力が弱まり、小泉氏などは自由な発言を繰り返している。将来の首相候補ともいわれる小泉氏。このままではますます孤立を深めるばかりだ。

太陽光乱開発の懸念で 再エネ規制委待望論

「こんなに危険な開発ばかりしていたのでは、太陽光に主力電源化を期待することなど到底無理だよ」

7月3日に土石流が発生した、静岡県熱海市伊豆山地区の現場の様子を中継するテレビを前にこう語るのは、再エネ事業関係者のX氏だ。土石流の起点のすぐ横の山肌には、太陽光発電設備が見える。今のところ県は、このソーラーと土石流との因果関係を否定しているが、関係者が見ればずさんかつ危険な工事で設置されたものであることは一目瞭然だという。

太陽光の乱開発が止まらない

FIT開始以降、さまざまな企業、個人が相次いで太陽光発電事業に乗り出したが、あくまでも投資目的であり、電気事業という公益事業に携わっているという意識が希薄な事業者も少なくない。その場合、立地の適性など二の次で、いかに安く施工し効率よく投資回収できるかが優先されがちだ。

特に山林を切り開いて設置される大規模な設備に対しては、自然環境破壊や水質汚染、土砂災害などの危険があるとして、全国各地で住民反対運動が巻き起こっている。

こうした状況に危機感を募らせる学識者のY氏は、「原発は、数万年に一度発生するかもしれない地震のために再稼働を止められている。政府が本当に再エネを主力電源化しようというのであれば、再エネ規制委員会を立ち上げて安全規制を強化するべきではないか」と主張する。

「太陽光事業者も実は、政府の再エネ主力電源化の方針を歓迎していない」と明かすのは、新電力関係者のZ氏。「設備容量が増えれば、出力抑制の回数が増えかねない」と考えているようだ。

政府は、第6次エネルギー基本計画で30年度の再エネ比率30%台後半を打ち出したが、その道のりは前途多難と言わざるを得ない。

吹き荒れた反原発デモ 主役の「市民」はいま?

21年の夏。新型コロナウイルスと東京五輪・パラリンピックの話題がメディアを独占しているが、10年前は、福島事故後に起きた原発反対デモが世間をにぎわしていた。関心を集めたのは、左翼系労組など従来型の組織ではなく、SNSなどを活用して、フリーターや個人事業主などがデモの中心になったことだ。

例えば、入れ墨の肌をあらわにハンドマイクで反原発を訴えたМ・R氏。デモとは縁遠い風体からマスコミの注目を浴びたが、反対運動の鎮静化とともに、メディアが取り上げることもなくなった。

しかし、昨年1月に開かれた日本共産党の党大会に来賓として招かれあいさつ。「(原発が止まらない状況を)次の選挙で、野党共闘で一緒に頑張って止めていきたい」と健在ぶりをアピールしている。

東京・高円寺で若者が集まり、ゲリラ的に生まれた反原発デモ。トラックの荷台にスピーカーを積み、大音量の音楽を流して大通りを練り歩いた。中心となったのはリサイクルショップを経営していたМ・H氏。その後も区議選に出馬するなど話題を集めたが、「最近の関心は原発から別のテーマに移っている」(マスコミ関係者)という。

10年前の熱気はいまどこに

旧来型の運動家たちは元気がない。反原発活動のシンボル的存在だった高木仁三郎氏が設立した原子力資料情報室は活動を続けているが、「Y・Y氏、N・B氏、B・H氏など幹部の高齢化が進み、存在感が低下している」(同)。龍谷大学のO・K氏が座長を務める原子力市民委員会などが活動を続けているが、世間の認知度は高くない。

一方、反原発がビジネスに結びついている面々は意気軒高としている。静岡県熱海市の土石流被害でも名前が出た弁護士のK・H氏、同じく弁護士で政党党首と事実婚関係にあるK・Y氏などは、各地での原発訴訟や福島事故の賠償問題などを扱っている。弁護費用などで、生活は左うちわのようだ。

再エネ牛耳るI勢力 既存事業介入で利権狙う

50年カーボンニュートラル社会の実現や30年度に温暖化ガスを13年度比46%削減する国の目標達成に向け、再エネ業界が盛り上がりを見せている。そんな中、不穏なうわさが絶えないのが、有力再エネ推進組織のIだ。土石流災害と太陽光発電の関連問題に揺れる静岡県でも、Iの影響力がひたひたと浸透している。再エネ事業者の幹部Z氏が、こう打ち明ける。

「Iの支援を受けたX氏が実態上、静岡の再エネビジネスを仕切っている格好だ。川勝平太知事や県幹部との結び付きが深く、地域の有力エネルギー企業A社ともがっつり手を組んでいる。その影響を被った事業者も少なくない。例えば、N社は県内H市の某地点で再エネ事業を計画していたところ、X氏やA社などのグループに邪魔をされたと怒り心頭だった」

Iグループを巡っては、太陽光事業が全国的に飽和状態となりつつあることから、現在は小水力や地熱、バイオマスなどの事業にも積極的に手を出しつつあるもよう。その際の常とう手段が、別の事業者が手掛けている既存事業に地域金融などを通じて横から割り込むことで、利権獲得を狙っていく手法なのだとか。とりわけ、福島や長野での動きが活発だという。

「再エネビジネスでは、業界団体Cによる国の補助金の私物化問題、再エネファンドOによる資金流用問題、環境省の環境技術実証事業に絡む利益相反問題など、さまざまな疑惑がてんこ盛りの状態。何とかならないものか」(Z氏)

表向きは地球環境に貢献するビジネスも、ひとたび裏側に回れば、ドロドロとした利権や思惑が渦巻く世界。闇は深そうだ。

太陽光の弱点を解説 日経の論説に変化が

日経新聞のエネルギー論説に変化の兆しがある。今まで、温暖化の解決策は再エネの普及拡大のみで、原発は眼中にない論調が目立っていた。

しかし、経産省が「30年に太陽光発電が原発よりも安くなる」と発表した翌日の7月13日の記事では、「(太陽光の)供給不足に火力や揚水発電で備える必要がある。バックアップを担う発電所は効率が悪く、コスト要因になるが試算には織り込んでいない」と解説している。

日経の論説については、「エネルギー担当のM論説委員が、財界の会合などで直接、批判されることがあった」(業界関係者)。そういった苦情が重なって、ようやく変わったのか。

高レベル廃棄物処分で「山場」 寿都町で一騎打ちの町長選


昨年10月、電力業界を悩ましていた高レベル放射性廃棄物の処分問題が、ようやく解決の糸口をつかんだ。北海道寿都町が第一段階の「文献調査」に応募し、同神恵内村が国による調査申し入れを受託したのだ。

寿都町は文献調査を継続できるか(「対話の場」で説明する片岡町長)

しかし今年10月、寿都町では調査を継続できるか、最初の山場を迎える。NUMO(原子力発電環境整備機構)の公募に応募し、自ら先頭に立って町民に理解を求めてきた片岡春雄町長に対して、元同町助役で現町会議員の越前谷由樹氏が、「文献調査の応募撤回」を訴えて町長選への立候補を表明。推進・反対の一騎打ちの選挙が26日に行われることになった。

片岡町長は2001年の町長選に初当選して以来、4回連続無投票で当選を継続。20年間町長を務めている。全国の自治体で初めて風力発電を設置するなど、行政手腕への評価は高い。

だが、町長選の行方について、電力業界は「片岡氏が当選するか楽観はできない」(業界関係者)とみる。町では町議会(定数9)のうち4人が反対派とされる。4月14日から始まった「対話の場」は、町とNUMOが定めた進め方などで紛糾した。会合は反対派町議が欠席したまま続き、「慎重派や反対派の声を封じた」(北海道新聞)と批判を浴びている。

現在のところ文献調査に手を挙げた自治体は寿都町、神恵内村のみ。2町村の住民には、ほかの適地との比較選考がないまま、なし崩し的に「概要調査」「精密調査」へと進んでしまうのではという懸念がある。

電力業界は選挙には不介入。「片岡氏の支援策は、文献調査に応じる自治体を増やすことしかない」と業界関係者は漏らしている。

山間部太陽光「乱開発」の恐怖 土石流災害でリスク浮き彫り


静岡県熱海市の土石流災害は、山間部での太陽光開発のリスクを浮き彫りにした。

盛り土のあった崩落現場周辺で一体何が起きたのか。事実関係を取材した。

 「7月3日の土石流災害を引き起こした伊豆山の盛り土崩落現場の周辺一帯(約120ha規模)は、麦島善光氏が所有している土地だ。その中に、問題の太陽光発電所や計画中の太陽光案件がある」

静岡県熱海市の事情に詳しい関係者はこう話す。メディアではあまり報じられていないが、固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定リストを見ると、伊豆山界隈では麦島氏が関係するZENホールディングスの既存発電所のほかに、グループ企業で二つのソーラー計画が持ち上がっている。

一つは、中央ビルの「47.3kW×14件(662.2kW)」(伊豆山字獄ケ1172ノ1)。もう一つは、ユニホーの「47.3kW×4件(189.2kW)」(伊豆山字獄ケ1172ノ27)。いずれもZEN社と同時期の2013年8~10月にFIT認定を受けたものだ。「当時の買い取り価格はkW時36円と高額。発電事業者にとって、おいしい案件なのは間違いない」(大手電力関係者)

FITリスト上では、まだ運転開始前の状態。ネット上の地図で「伊豆山字獄ケ」を検索したところ、場所を特定できなかったため、法務局に問い合わせると、崩落現場のすぐ北側であることが分かった。改めて空撮写真(左頁写真)で現場付近を確認すると、小規模な太陽光発電所が1地点あり、その西隣には土色の地肌が見える場所が二カ所。さらに北側を大きく蛇行する道路の先には、森林が伐採されたような広い土地がある様子がうかがえる。この辺りが太陽光の計画地点なのだろうか。

宅地開発がなぜ太陽光に? 疑問符だらけの計画

関係者によれば、崩落地の元所有者である新幹線ビルディングでは、伊豆山周辺で大規模な宅地開発を検討していた。麦島氏が同地を購入する2カ月前の10年12月に、現場周辺を撮影した動画がネット上に残っている。その中で、撮影者らは「35万坪の広大な敷地に住宅が建つ」「眺望が最高」「温泉の掘削機もある」などと土地の良さを盛んにアピール。既に盛り土も行われており、周辺一帯で大型リゾートのような開発計画があったことを裏付ける。

そのような土地を麦島氏がなぜ購入し、10年以上たった現在も宅地開発が行われていないのはどうしてか。複数の太陽光発電所がどのように計画され、その一部はなぜいまだ着工していないのか。疑問符だらけの状況について、前出の関係者があくまで個人的見解と断った上で、こう推測する。

「麦島氏が土地を買った経緯は分からないが、ZENグループは不動産事業がメインのため、そもそもは宅地開発を行うつもりだったのだろう。しかし購入後に調べてみたら、地質は火山灰だし、ハザードマップ上の危険エリアだし、保安林指定もあるしと、宅地開発には不向きな場所であることが分かった。ただ全てそのまま放置しておくのももったいないといった理由からか、とりあえず一部の地域に関しては、高収益が期待できる太陽光発電事業を計画したと考えられよう。実際、麦島氏側はメディアの取材に対し、盛り土付近の場所ではさまざまな計画を考えていたと話している。そんなところが裏事情なのではないかな」

今回の盛り土崩落の原因について、現地調査を行った地質学者の塩坂邦雄氏は7月9日の会見で、太陽光パネル造成で尾根が削られたことで、雨水の流れ込む範囲が変化し盛り土側に流入した結果、土石流を誘発したと言及。上部の高い地域からの流入量を考慮すべきだとの見方を示した。

これに対し、静岡県の難波喬司副知事は当初、塩坂氏の見解を真っ向から否定したものの、14日になると一転。「流域外からの地下水を考慮しなければならない」「逢初川源頭部には流域外の地下水が流入した可能性がある」と修正し、塩坂氏に謝罪したのだ。

県側の分析では、現所有者によって盛り土周辺地域で土地の改変が行われた可能性や、上部からの雨水流入が崩落の一因になった可能性を示唆している。太陽光建設計画が何らかの影響を及ぼしたと考えても不思議ではない。

果たして、事実関係はどうなのか。麦島氏の代理人を務める河合弘之弁護士に質問状を送ったところ、次のような回答があった。

Q 盛り土は10年間放置状態だったとの話に間違いはないか。

A 崩落地は一切触っていない。40万坪のほかの部分には施工をしたことがある。

Q ZEN社の太陽光発電所の土地から盛り土方面に雨水は流れていないとしているが、専門家の中には「実際は流出していた」と見る向きもある。

A ソーラー側から崩落地に雨水が流れたことはない、その証拠もないと認識している。

Q 中央ビルとユニホーの太陽光計画の地点は、法務局によれば崩落現場の北側とのこと。計画は現状どうなっているのか。

A 計画は着工していないし、当分そのままになる。

Q 今回の崩落について、麦島氏側は土地所有者としての責任をどう考えているか。

A 崩落の原因が不可抗力とも言うべき天災のためか、ずさんな工事のためか、行政の規制権限不行使のためなのか、分からない現状で、責任問題を軽々に論ずることはできないと考えている。

崩落前の盛り土(写真下側)周辺地。左下に太陽光発電

「伊豆山」は氷山の一角 山間部太陽光を禁止の声

いずれにしても、現在も調査は続いている。梶山弘志・経済産業相は7月16日の会見で、「発災当初から(太陽光発電の)事業者に対し、設備の健全性などの確認を行ってきた」「事業者からは(直接)現地確認はできていないが、太陽光設置現場に損壊はないと判断していること、排水施設等を設けていることなどの回答が得られている」などとした上で、「国土交通省や自治体、特に静岡県が中心となって調査を進める中で、情報提供などで連携しながら対応を検討していく」と強調した。

熱海災害を独自に調査している物理学者の高田純氏(札幌医科大学名誉教授)は、太陽光乱開発全般に警鐘を鳴らす。

「(伊豆山は)氷山の一角にすぎない。全国に同様のリスクがあると考えている。政府は山間部での太陽光開発計画を全て凍結させ、再発防止策を講じるべきだ。最良の策は山間部太陽光開発自体を禁止すること。国土破壊は絶対に許されない。破壊された山は修復できず、さらに災害を誘発する」

本誌では次号以降も、全国で多発する太陽光乱開発の実態を取材し、問題点を検証していく。

新電力決算で影響浮き彫り 尾を引く価格高騰の余波


新電力各社の2021年3月期決算が、5月から7月にかけて続々と発表されている。20年度冬に、電力需給ひっ迫に伴う日本卸電力取引所(JEPX)スポット価格のかつてない高騰と、「玉切れ」によるインバランスの大量発生という二重苦に見舞われた新電力。各社の決算からは、需給ひっ迫が経営に与えた打撃の大きさをうかがい知ることができる。

梅雨明け後の猛暑で、今年夏のスポット価格は上昇傾向だ(東京・銀座)

まず注目されるのが、仕入れにかかる費用に当たる売上原価が売上高を上回った事業者が目立つことだ。たとえばみんな電力は、売上高を昨年度比2・3倍の131億円に伸ばしたものの、売上原価が同2・5倍の135億円となり約3億5000万円の売上総損失を出している。九電みらいエナジーも、売上高を昨年度比倍増させたが、売上原価は同2・7倍に。売上総損失は158億円に上る。

短期の借入金も軒並み増加。価格高騰による調達コスト増に加え、電力供給の計画と実績の同時同量を達成できなかったことに伴うインバランス精算の負担が重くのしかかり、「エナリスやSBパワー、HTBエナジーなど、多くの新電力が親会社や金融機関から資金を借り入れることで苦境をしのいだ」(新電力関係者)ためだ。

その一方で、増収増益の好決算となったのがイーレックスだ。「自社・相対電源を中心に調達コストの低減に努めたほか、冬の価格高騰時には、相対電源を積み増し、一部を卸売りしたことで収益を伸ばした」ことが、他社との明暗を分けたという。

今年度夏・冬も厳しい需給が見通される中、新電力の間では採算性の低い顧客の切り離しや、新規の獲得を控える動きも出ている。価格高騰の爪痕は深い。