【識者の視点】中上英俊/住環境計画研究所会長
前編の需要側対策を踏まえ、後編では既存集合住宅の課題を考察する。
既存のガスインフラを活用可能なメタネーションや水素利用にも期待が高まる。
2000万戸以上に及ぶストックがある既存集合住宅では、全電化への設備変更は簡単ではない。中でも家庭の給湯用設備の大半は、ガスや灯油による化石燃料由来の燃焼型機器だ。特に都市部ではガス給湯器が圧倒的な普及率を誇る。風呂釜と小型湯沸かし器でスタートしたわが国のガス給湯器はセントラル給湯システムに置き換わり、小型で高性能な瞬間型湯沸かし器にとって代わっている。
高性能エコキュートを望む 既存ガスインフラの有効活用
この既存集合住宅の「給湯電化」は、現状では不可能に近い。戸建てと違い住宅まわりには余裕のスペースはない。小型で高性能なガス湯沸かし器が集合住宅の給湯システムを席巻したのは、一つには高性能化と省スペース化という相反する条件を巧みにクリアしたからだ。近年新築着工が増えている超高層マンションと呼ばれる集合住宅などでは、ガス給湯システムからエコキュートと呼ばれる、電気温水器ほどではないにしてもガス湯沸かし器には見られない貯湯タンクを抱えたヒートポンプ式給湯機への置換は至難の業になりかねない。50年でも、このような既存集合住宅は現役に違いない。すぐにでもこのような物件に対する対応モデルの開発を急ぐべきだ。願わくは限りなく瞬間湯沸かし器に近い性能を備え、貯湯機能を最小に抑えた超コンパクトなエコキュートの出現を望みたい。
潜在需要は数千万台に及び、かつ数十兆円に及ぶであろう規模の一大マーケットになり得るだけに、メーカー、デベロッパー、住宅産業、エネルギー事業等、関係業界を巻き込んで一体となった開発を望みたい。その市場はわが国にとどまらず、全世界に展開可能な商品になるに違いない。
他方で「電化困難」な既存集合住宅での脱炭素化には、既存ガス導管を活用可能なメタネーション等によるガス代替エネルギーの一日も早い実現を望みたい。
電化改修に伴う経済的な課題について改めて触れると、給湯設備一つとってもその交換費用を負担するのは居住者である一般消費者だ。現在市販されているエコキュートのカタログ価格は約100万円前後だが、実際の市場では工事費込みで40~50万円程度で取り付け可能ともいわれている。これに電化のIHコンロにすると約10万円程度だろう。暖冷房等は除いても、少なくとも交換費が50万円以上に及ぶと考えられる。壊れて取り換えるのではなく、まだ使えるのに脱炭素化への追加コスト負担は合意されにくいだろう。そのためのインセンティブや社会的な責務について50年に向けて合意形成を図る必要がある。
また、前述のように膨大な市場が出現することに鑑みても、売り手側の大幅なコストダウン開発が望まれる。こうした課題に対し、まさに官民を挙げた対応策の検討をいち早く進めるべきだ。
全国で1億kWのPV設置? 再エネだけでは不可能
家庭のエネルギー消費原単位のエネルギー別の内訳をみると、48%が電気以外は都市ガスが25・8%、LPガスが8・9%、灯油が17・3%だ(図参照)。すなわち現在のわが国の家庭の電化率は48%で、年間の電気消費量は3・9
38kW時/年・世帯である。残りのエネルギーを全て電気で置き換えると、熱量での単純計算では8・425 kW時/年・世帯となる。
用途別のエネルギー利用の実態を考慮し、ガス機器や灯油機器から電気機器への置き換えを機器別のエネルギー効率を考慮して試算すると6188kW時/年・世帯程度に抑えられると試算された。純増分の2250kW時/年・世帯の全てを再生可能エネルギーの太陽光発電(PV)で賄おうとすると、約2kW/世帯相当のPVを全家庭に設置する計算だ。換言すると住宅だけで全国で1億kW以上の新たなPVの設置が求められる。わが国の住宅の約半数が集合住宅であることを考えると、住宅建築だけで賄うことは不可能だ。

出所:環境省「平成31年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査(確報値)」2021年3月
オール電化へのハードル メタネーションへの期待
家庭部門のCN化への対応として最も期待されている電化シナリオを考察したが、実現には想定を上回るハードルが立ちはだかる。最大の課題は消費者の経済的負担だ。この課題は設備変換などに伴う初期投資と、光熱費負担をいかに最小化するかである。ついで化石燃料由来の住宅設備機器の脱炭素化が主として、既存集合住宅では極めて困難な課題であること。さらに電化シナリオによって増加するだろう電力需要を賄う脱炭素電源の確保だ。
電化だけで克服できないハードルに対してはどうするか。他のエネルギー源のCN化が必須の課題となる。特に既存住宅対策では、集合住宅のガス設備対応としてメタネーション、水素利用などといった既存インフラ活用型の対策が避けて通れない課題となる。
それでもなおエネルギーコストの増大も避けられない見通しである。となると利用者としての対応は、本来の省エネルギー・エネルギーの合理的利用ではない生活レベルの引き下げにつながる節約・我慢を強いられることになりかねない。やはり暮らしにおけるエネルギーとの付き合い方を徹底して見直す必要がありそうだ。すなわち家庭におけるさらなる省エネの追求だ。エネルギー消費が半減すれば再エネのシェアは2倍になる。50年まで、まだ時間がある。二度の石油危機からわが国の脱石油政策は、30年かけて成功を収めてきた。今後の30年間でどんな省エネ技術開発が可能なのか。
脱炭素問題はわれわれの暮らしに対しても極めて大きな課題を突き付けていることをみんなで共有すべきだと考える。家庭部門だけでもこれだけの課題だ。CN対策はあらゆる部門で不可避だ。総論レベルではなく、あらゆる業種で解決策を模索する必要があることを強調したい(参考文献1、2)。
〈参考文献〉
1 中上英俊「脱炭素社会の実現に向けて」月刊「省エネルギー」知のコンパス、Vol.72 No.12,2020,㈶省エネルギーセンター
2 中上英俊「カーボンニュートラル下における家庭用エネルギー消費構造はどうなるのか?」月刊「省エネルギー」知のコンパス、Vol.73 No.6,2021,㈶省エネルギーセンター

・需要側のカーボンニュートラル対策 家庭部門の課題点と解決策 〈前編〉https://energy-forum.co.jp/online-content/9809/




