【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.13】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問
福島第一事故での海外の関心は、当初燃料を取り出したのに爆発した4号機にあった。
爆発原因が3号機からの水素流入と分かって、海外の不安は収まった
4号機の爆発は、3号機の水素が漏れ込んで起きた。この事実は今でこそ有名だが、原因が分かるまでは「日本は真実を伝えない」と、世界中から苦情がきた。
事故当時、4号機は原子炉を停止して燃料は貯蔵プールで保管していた。原子力発電所の爆発は、それだけで大ニュースだが、世界を震撼させたのは米国の過剰な懸念にあった。米国はこう考えた。地震で燃料プールが壊れ、水が流出して保管中の燃料棒が溶融し、水素爆発が起きて放射能が漏れ出たと。水のない、裸のプールからの放射能放出となれば、チェルノブイリと同じだ。米国は在日米国人の80㎞ 圏内への立ち入りを禁止し、トモダチ作戦の開始を控えた。TMIの避難騒ぎも同じだが、心配による風評が原子力事故を大騒動に仕立てる。
米国が震えれば世界も震える。英国を除いて、東京駐在の各国外交官やマスコミ記者はわれ勝ちに日本を脱出した。民主党政府もこのうわさを信じて、自衛隊ヘリに海水散布を命じた。家族を外国に避難させた有名議員もいた。
だが、4号機の燃料プールは壊れていなかった。水も十分にあった。調査をすれば直ぐに分かったことだが、調査なしの行動は、全てが無用で、無駄であった。
私事になるが、僕は事故前日の3月10日、福島第一の見学で⒋号機プールを見ている。事故後の3月16日、自衛隊ヘリが天井の壊れた隙間から青い水のあるプールを撮影した映像をテレビで見た。3月23日、ワシントンに行きこの話を原子力規制委員会(NRC)や原子力エネルギー協会(NEI)にしたが、既知のヤッコ委員長を除いて多くは半信半疑で、ではなぜ⒋号機は爆発したのかと、返事のできない逆襲に遭った。当時の世界の関心は、1~3号機よりも4号機にあった。
水素はなぜ流入したか スタックの設計に原因
4号機への水素流入は、3、4号機の建屋排気を1本のスタック(排気筒)から放出する設計に原因があった。排気はスタックの底で合流して大気に放出されていたが、事故当時は停電でファンが停止したため、3号機の排気ガスがスタックの底から4号機建屋に流入して、中の水素が爆発したのだ。
この事実が判明したのが8月末だ。4号機の排気フィルターの汚染が通常とは逆で、出口側が入口側より高いことを測定で見つけたことによる。水素ガスの逆流を証明する動かぬ証拠で、世界はこれで安堵した。発見職員の功績は、昔なら金鵄勲章ものだ。「まだ言い張るのか」との僕への外国メールも9月末に止まった。
福島第一の事故跡を見学できたのは12月、寒い日だった。発電所付近の放射線はまだ高く、バスでの見学だった。構内には津波のつめ跡が点在し、発電所外壁と垂直配管の間には流された自家用車が挟まり、宙づりになっていた。
海水ポンプ近くの岸壁と4号機の入り口では下車を許された。海水ポンプは津波をかぶって停止していた。4号機建屋の放射線量は微量だが、内部の破壊は複雑で、多岐にわたっていた。子どものころの空爆で経験した(500㎏爆弾と聞いた)、家を壊し地面に大穴を開ける単純な爆破とは大違い。水素爆発は複雑ですさまじい。
爆発は4階で始まったらしい。4階の床には大きな球形の浅いへこみの爆心点の跡が明確に残っていた。破壊力の強い水素爆発が、爆心点の痕跡を床に残すとは珍しいと思った。
爆心点の近傍にあった排気ダクトに、燃料プール上面の吸入口がつながっていた。この吸入口にかぶせたゴミよけのネットが、爆発後は吸気とは逆向きに、外側に向かって突き出していたという。
これらの所見から、爆発の経過は次のように説明されている。最初に4階のダクトの中で、水素火災が発生した。この火災で、吸入口のネットが外側に膨らんだ。火災の炎はダクト排気口から外に出て、4階の天井にたまっていた水素ガスに着火して、小さな爆発を起した。その痕跡が前述の爆心跡という。
この小爆発は5階に伝播し、広いフロアの天井にたまっていた大量の水素ガスを爆発させた。5階の壁のほぼ全てが外側に向かって倒れていた事実から見て、爆発の力は肩を突くように、壁の上部を強く押したと思われる。壁がなくなった5階フロアは屋上と変わり、見学では隣の3号機の破壊が目の前に見えた。
5階から1階の出口までの帰路は、破壊跡を避けた曲折の仮設通路で、両手両足を使って体操さながらの全身運動だった。現場に居た時間は30分くらいだったろうか、受けた放射線量は0・01mSvほどの軽微なものだったが、その大部分が5階屋上で浴びた3号機の放射線との話であった。この程度の汚染であれば、4号機の解体工事は早期に可能と思った。
僕のSPERT(Special Power Execurtion Test)留学の昔、日本人が居ると聞いて出張で来た老研究者が訪ねてくれた。爆発についての経験談を話してくれた最後に、「最も恐い水素爆発は横に飛ぶ」と話した。なぜかと問うと、「知らない。水素は怖いから直接触っていない」と笑った。
その言葉通りに、テレビで見た1号機爆発の映像は、5階の天井に沿って横向きに火を吹いた。軽い水素は天井の上部に集まって濃くなり爆発性ガスとなるので、爆発は横に走るのであろう。






