【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年1月号)


NEWS 01:大間原発の基準津波了承 安全対策工事開始に前進も

原子力規制委員会は2024年11月29日、大間原子力発電所の審査で基準津波を7・1mとするJパワー側の説明を了承した。大間原発は出力が国内最大級(138万kW)で、完成すれば世界で唯一MOX燃料だけで運転できる最新鋭の発電所。まさに日本の未来を担う原発と言っていい。

Jパワーはこれまでに6度、安全対策工事の開始時期を延期してきた。基準津波や基準地震動が未策定のままでは、工事に取り掛かれないからだ。ただ大型クレーン設置の基礎工事を事前に進めるなど、工事開始から運転開始までの時間を短くする方針を打ち出している。大間原発は地元にとっても、財政や雇用に影響を与える「最重要課題」(大間町の野﨑尚文町長)だ。

規制委は24年秋、大間原発以外にも浜岡原発と泊原発の基準津波を了承した。どのサイトも審査申請から10年が経過している。もちろん審査の進展は歓迎すべきだが、事業者が地元の同意を得て建設に動く中で、災害時に最大でどれくらいの津波が押し寄せるかの判断に10年掛かる─。行政手続法上の標準処理期間2年を持ち出す前に、常識的に考えて異常ではないか。安全性の重要性は語るまでもないが、これでは民間企業の収益機会や地域の経済活動を制限していると見られても仕方ない。

こうした現状に政治がメスを入れてほしいのだが、それどころではなさそうだ。

着工から16年が経過した大間原発
提供:Jパワー


NEWS 02:第7次エネ基原案を提示 複数シナリオ用い抜本見直し

資源エネルギー庁は12月17日の総合エネ調・基本政策分科会で、第7次エネルギー基本計画の原案を提示した。30年度のエネルギーミックスは維持しつつ、40年度は複数シナリオを用いた見通しを提示した。

40年度に13年度比73%減の方向で検討が進む新たなNDCを念頭に置きつつも、自給率や発電電力量、電源構成、最終エネルギー消費量など各項目に幅を持たせる。電源構成では再エネ4~5割、原子力2割、火力3~4割程度などとした。

今回は、地政学リスクの高まり、データセンターや半導体製造などで電力需要増に転じる可能性にフォーカス。第6次から軌道修正し、第7次では野心的なCN目標は維持しつつ、多様かつ現実的なアプローチを拡大する。S+3Eは、安全性を大前提に、「エネルギー安定供給を第一とし」と表現が変化した。

さらに、「再エネか原子力かといった二項対立的な議論でなく、あらゆる選択肢を追及する」と強調。再エネは引き続き主力電源として最大限導入しながら、特定の電源に過度に依存しないよう、バランスの取れた電源構成を目指す。原子力も「最大限活用する」とし、第6次の「可能な限り原発依存度を低減」という一文は姿を消した。

加えて原子力政策の変更点が、リプレース方針だ。これまでは「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する」としていたところ、今回は「廃炉を決定した原発を有する事業者の原発のサイト内」と修正。つまり同じ事業者なら廃炉とは別のサイトでの建て替えも可能となる。

エネ庁は24年内にもう一度会合を開き、ミックスに関する複数シナリオや、NDCを実現できなかった場合のリスクシナリオなども提示する予定だ。


NEWS 03:排出量取引制度の論点整理 25年通常国会で法改正へ

26年度に本格稼働する排出量取引制度(ETS)の概要が固まった。内閣官房GX実行推進室は12月19日、ETSの論点の整理案を提示した。制度の基本フレームを書き込んだGX推進法改正案を、25年初頭の通常国会に提出する予定だ。

対象は、直近3カ年平均でCO2の直接排出量が10万t以上の法人で、当面は排出枠を全量無償で割り当てる。発電事業者は、33年度から一部有償割当となる。対象者は毎年度自らの排出量を算定し、排出枠の償却義務量を確保。過不足分は市場で取引し、余剰分は翌年度に持ち越し可能だ。義務未履行の場合は、応分の負担金を支払う。

EUのような強力な規制は避け、排出枠はNDCとリンクさせない方針だ。他方、NDCとの整合性は、削減目標などを掲げる移行計画の提出を毎年度求めることでバランスを取る。目標年度は当面30年とする。

割当量については、エネルギー多消費分野は業種別のベンチマーク方式で算定し、他分野は、基準から毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング方式とする。電力会社や石油元売り、そしてガス会社の発電事業についてはベンチマークとなる。ただし、ガス事業自体は直接排出量がそれほどの規模ではないため、別途28年度から化石燃料賦課金を徴収する。

排出枠価格の安定化に向け、上限・下限価格を設定。価格高騰時は、上限価格を支払うことで義務の履行を可能とする。他方、一定期間下限価格を下回る場合は、リバースオークションを実施し需給を引き締める。

ただし、具体的な業種別の割当量や、上限・下限価格の水準は今回示さなかった。規制の強度を左右するこれらの水準は、25年度引き続き専門家を交え検討する。


NEWS 04:電源別発電コストを試算 エネ政策への影響は?

40年度の電源構成比(エネルギーミックス)はどうあるべきか―。資源エネルギー庁は12月16日、その議論の叩き台となる電源種類別発電コストの試算結果を公表した。

注目すべきは、新たな発電設備を建設・運転した際の1kW時当たりのコストに加え、総発電設備容量に占める変動再生可能エネルギー比率が4、5、6割の3ケースについて、統合コストの一部を考慮し算出していることだ。

それによると、事業用太陽光のコストは「4割」のケースで15・3円と全ての電源の中で最も安くなるが、5割を超えると原子力、LNGよりも高くなる。電力システム内に変動再エネが増加するほど、火力の効率的運転が困難となり燃料使用量が増加するためだという。

再エネのコストは安いのか?

一方、21年度に試算した30年度の試算では、コスト優位性が高かったLNGにはCO2対策費を反映。これにより、専焼で20・2~22・2円、水素10%混焼で20・9~23円と、原子力の16・4~18・9円よりもコスト高になるとの結果が示された。

こうした情報が出ると、ともすると世間では電源間の優位性を巡る議論に陥りがちだ。だが、この試算が示すのはあくまでも一定の前提を置いた上での経済性という一面に過ぎない。電力システム全体で安定供給性、環境性をいかに追求するべきかという視点を持ち、今後の政策議論を見守る必要がある。

NUMOの展示が子どもに大人気 核廃棄物の地層処分を考える契機に


【エコプロ2024】

日本経済新聞社は2024年12月4~6日、東京ビッグサイトで日本最大級の環境展示会「エコプロ2024」を開催した。

持続可能な開発目標(SDGs)達成に取り組む企業や団体の展示が目白押しで、小・中学校の課外学習の現場としても人気を博した。

NUMOのブースには4000人以上が来場した
提供:NUMO

原子力発電環境整備機構(NUMO)は2年連続で出展。使用済み燃料の高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定を巡っては、11月に北海道寿都町と神恵内村で実施した文献調査の報告書を関係自治体に提出したばかり。現在、報告書の説明会が道内で行われている。次のステップである概要調査に進むには、2町村だけでなく北海道知事の同意が必要となるが、鍵となるのは「国民の理解醸成」だ。今回の展示会はその好機となった。

各展示では、紹介する取り組みがSDGsの何番に該当するかが示されている。例えば12番の「つくる責任つかう責任」はNUMOの取り組みにぴったりとマッチ。9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、11番の「住み続けられるまちづくりを」の実現も目指している。


VRでオンカロに潜入 想像以上の広さにびっくり

NUMOの展示では、地層処分の基礎知識や国内外の最新情報をクイズ形式で説明。分かりやすいイラストや展示車「ジオ・ラボ号」での解説も好評だった。特に人気だったのは、24年8月に試験操業を開始したフィンランドの最終処分場「オンカロ」の中を探索できる仮想現実(VR)ゴーグル。体験者からは「思ったより広くてびっくりした」といった声が上がった。

特に力を入れたのが、国内の調査状況を伝えるコーナーだ。地層処分に関する地域の科学的特性を色分けしたマップの展示では、来場者が自分の住んでいる地域が適地なのかを確認。また寿都町と神恵内村での文献調査の結果やそれを取り巻く北海道の状況を、大きなパネルで解説した。

来場者から多く聞かれたのは「みんなで考えなければならない問題だと思った」という感想だ。「北海道に押し付けるのではなく、大都市の人こそ考えるべきではないか」(中学生)―。選定プロセス進展のためには、こうした意識の広がりが欠かせない。

NUMOの展示には3日間で4000人以上が来場した。そのうち、小学生から高校生までの次世代層は3000人超。伊藤友宣広報部長は、「来場者が地層処分を自分事として考える機会となったのではないか。出展した意義は大きく、手応えを感じている」と力強く語った。

「トランプ2・0」で世界激震 日本は脱炭素分野の好機逃すな


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説委員

各国のエネルギー・環境政策を揺るがしそうな第二次トランプ政権。

日本は潮目を踏まえた賢明な脱炭素対策で発言力を高めるべきだ。

①米国の石油・天然ガスプロジェクトを停滞させている政府の制限を全て撤廃、②バイデン政権下で実施された自動車の排ガス規制の強化など車産業の発展を妨げる規制を撤廃、③(米民主党の)過激な左派が掲げるグリーン・ニューディール政策に反対―。

トランプ次期米大統領の公約集「アジェンダ47」は、民主党のバイデン政権による脱炭素政策をことごとく覆す内容だ。米議会も与党・共和党が上下両院多数を占める「トリプルレッド」を追い風に、「化石燃料回帰」にまい進する構えだ。

第二次政権は、新設の国家エネルギー会議議長に石油産出地であるノースダコタ州知事を、エネルギー長官には油田開発サービス会社トップを、それぞれ起用するなど、石油・天然ガス重視の姿勢を鮮明にしている。「ドリル、ベイビー、ドリル!(掘って掘って掘りまくれ!)」と連呼するトランプ氏は、バイデン政権時代の米国産液化天然ガス(LNG)の輸出許可停止措置も打ち切る考えだ。

見逃せないのは、この政策大転換が「気候変動はでまかせだ」とするトランプ氏の心情を反映するだけでなく、通商政策や外交・安全保障政策とも密接に絡んでいることだ。

アンモニア利用が進む日本の火力発電所


バイデン政権から大転換 ディール外交とも連動

「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、国内産業の保護を理由に中国だけでなく、同盟国の日欧にも追加関税を課す方針を打ち出す。ただ、輸入品全てを米企業が代替供給できるわけではなく、トランプ氏が毛嫌いする貿易赤字の解消にどこまでつながるかは不透明だ。追加関税分が最終価格に転嫁されれば、米消費者の負担が増し、インフレ圧力を再燃させるリスクもある。

そこで登場するのが、お得意の「ディール」だ。日欧などに追加関税を減免する代わりに、米国製品を大量に買うように迫ることが予想される。取引額の大きい石油・天然ガスの輸出拡大はディールの柱となるだろう。米エネルギー業界を潤し、貿易赤字の削減効果も大きい。シェール革命で世界最大の産油・産ガス国となった米国の「エネルギー・ドミナンス」を強化し、外交・安全保障上の影響力を高めることにも役立つ。

日欧にとって必ずしも悪い話ではない。日本は、地政学的緊張が高まる中東への化石燃料の依存度を下げたいのが本音だ。欧州は、ウクライナ侵攻を続けるロシアへのガス依存脱却を急いでいる。いずれも大口の代替調達先は、米国をおいて他にない。「予測不可能」なトランプ流に注意すべきだが、米国産石油・ガス輸入拡大で追加関税を交わせるなら「渡りに船」(経済産業省筋)とも言える。

一方、気候変動問題に対する国際的な機運は後退しそうだ。

トランプ氏は2025年1月20日の大統領就任早々、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明する方針だ。「米国第一主義」を掲げ、何事も損得勘定が先立つ同氏にとって「産業革命以来の排出責任」を理由に50年までのカーボン・ニュートラルを押し付けられた上、途上国の脱炭素化への資金拠出まで求められる国際公約は許せない存在なのだろう。

パリ協定の枠組み自体は残るが、世界第2位の温暖化ガス排出国の退場で、地球の気温上昇を産業革命前から1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成は一層危うくなる。気候変動対策に熱心なバイデン政権と協調し大幅な排出削減の必要性を訴えてきた欧州は、環境外交で主導権を失うことを懸念する。

パリ協定を漂流させないよう国際協調の立て直しが迫られる局面だが、日本には発言力を高めるチャンスとも言える。再生可能エネルギーや原発の活用が停滞する日本は石炭など火力依存度が高く、G7(主要7カ国)首脳会議などで米欧の挟み撃ちに遭い、批判の矢面に立たされてきた。仮に米国でグリーン志向が強い民主党政権が続けば、米欧主導で過度に厳しい排出削減ルールを課せられ、電力の安定供給や産業競争力を脅かされる恐れがあった。

だが、今後は米国の離脱がゲームチェンジャーとなり、地球温暖化防止国際会議(COP)で、欧州の発言力は低下する。一方で最大の排出国の中国を含むグローバル・サウスの影響力が高まると見られる。脱炭素一辺倒の欧州流の上から目線の排出削減圧力は弱まり、途上国の成長にも配慮した現実的な脱炭素対策が求められそうだ。そうなれば、日本が国際的なルールづくりに積極的に関与できる好機となる。


ASEANとの連携強化 幅広い協力で利益追求を

カギとなるのは世界の成長センターで、日本と同様に火力依存度が高い東南アジア諸国との連携強化だ。岸田文雄前政権は昨年、東南アジア諸国連合(ASEAN)9カ国などと、各国の事情に応じた多様な道筋で脱炭素を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を立ち上げた。

日本が省エネ・脱炭素技術や、人材育成、ファイナンスなどを支援するのが柱だが、これにとどまっては意味がない。官民あげて日・ASEAN双方の利益となる脱炭素のバリューチェーンを構築することが求められる。

東南アジアが持つ森林吸収源やバイオマスなどの自然資本の利活用、二酸化炭素(CO2)を貯留する地下資源の開発、アンモニアなど脱炭素燃料の製造、エネルギー転換期に必須のLNGの安定調達、電気自動車(EV)に不可欠な鉱物資源の確保など、あらゆる分野で協力を深めるべきだ。環境分野で世界の覇権を目指す中国もASEANに接近しており、日本の外交戦略が問われる。

トランプ2・0とは裏腹に、米国を含めた世界の産業界や市場が脱炭素に向かう大きな流れは変わらない。日本がASEANなどを味方に付け、気候変動対策で実効性ある処方箋を示せれば、国益と地球益の双方にかなうはずだ。

【覆面ホンネ座談会】エネ業界の行く年来る年 局面変わり波乱の幕開けか


テーマ:2024年の振り返りと25年の展望

能登半島地震で幕を開けた2024年。時代が動くとされる「甲辰年」が表す通り、さまざまな転機があった。続く25年は「乙巳年」。成長や再生が暗示される中、電力・ガス・石油業界関係者はそれぞれどう展望するのか。

〈出席者〉A電力関係者 Bガス関係者 C石油関係者

―本座談会は24年12月第2週に開催。エネルギー基本計画の案が明らかになる前だが、これまでの議論の受け止め、そして期待や注文から聞いていきたい。

A 第6次以降の情勢変化を踏まえ、第7次は現実的な議論になってきている。原子力の扱いが前向きになり、ガス火力の役割もきちんと位置付けられそう。一方、前回は水素やCCS(CO2分離・回収)は実装に向けてやや踏み込んだ数字を示したが、この点も後ろ向きではないにせよ、高価格の見通しなどを踏まえた現実的な書きぶりになるのではないか。また、30年の再生可能エネルギーや原子力の数字は据え置き、6割がカーボンニュートラル(CN)との立て付けだが、そこに至る具体的な道筋がぼやっとしたままだ。30年目標を変えないのならば、送電網強化など先々の話だけでなく、短・中期の対策をより具体化すべきだ。蓄電池のさらなる導入促進などの議論がもう少しあっていい。

「甲辰年」→「乙巳年」でエネルギー業界は上向くのか

B 数字的にはNDC(国別目標)の35年60%削減が既定路線だが、CNへのスタンスは変化した。ガス業界にとっては、エネ基策定では原子力と電化の推進ばかりにフォーカスされ、ガスの存在意義を確保することに苦労してきた。翻って今回は、長くなりそうなトランジション期におけるLNGの重要性、そしてe―メタンの位置付けがしっかり描かれるはずだ。過去より良い内容になると受け止めている。ガス体エネルギーという意味では、水素については豪州のプロジェクトからの撤退が出るなど、何度目かの尻すぼみの気配が漂う。一方、e―メタンは30年1%を踏襲しつつ、北米のプロジェクトなどで25年度に重要な意思決定が控えている。e―メタンに加え、バイオメタンでも水素でもあらゆる技術で気体燃料のCN化を目指す、という書き方になれば良い方向に向かい、この点は役所と思惑が一致している。

C ロシア・ウクライナ戦争でエネルギーセキュリティの重要性が表に出て、脱炭素とのバランスには相当配慮されているが、石油的には今回のエネ基にも正直特筆すべき点はない。ただ、脱炭素が達成された後も石油の需要は残り続けるという観点で、サプライチェーンに目配りされるようになったことは評価できる。業界的に一番期待するのは技術開発への政府支援。そして、セットで示される「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」が重要な指針となる。エネルギー転換が起きるなら産業構造の転換も不可避で、勝ち組、負け組が出てくるからだ。その意味で、グリーン政策を環境省から経産省が主導するようになったことは意味がある。


業界がそれぞれ選出 「24年の漢字」と「流行語」

―清水寺で発表された24年の漢字は「金」だが、業界ごとの漢字を挙げるなら?また、それぞれの流行語大賞は?

C 石油業界の漢字としては「断」を選んだ。海外では動乱が加速した一方、日本国内は燃料油補助金のおかげで静かなもので、国際市場と国内市場が完全に分断された。また、海外でもロシア・ウクライナ戦争に伴い、あるいは(温暖化防止国際会議)COP29の場で、先進国と途上国の分断がより鮮明化した。流行語大賞は「激変緩和」しかない。

A 電力で思い浮かべるのは「転」。さまざまな場面で転換する1~2年になりそうだ。

小売面では、市場が以前に比べ落ち着き、新電力シェアが下げ止まった。大型データセンター(DC)や半導体工場などによる需要増で、電力需要も上昇に転ずるとの見通しが示された。原子力では、BWR(沸騰水型炉)がようやく稼働に至り、第7次エネ基では現実的な議論が始まった。政治や金融政策も含め、次のステージに向かうと感じている。

流行語大賞は「想定外」。エネルギー業界が新たな局面を迎える中、「想定外」の事象が数多く発生した。まず、「酷暑」の夏で、10月まで残暑が続き、電力需要が増加。この長期間の暑さは「想定外」だった。さらに、これまで人口減や省エネの普及により予測されていた電力需要の減少が、増加予測に転じたこと。そして、24年は需給調整市場で全商品の取引が開始されたが、早々に全商品で調達量不足となったことも「想定外」だったのではないか。

B ガスは表面的には「凪」だった。ロシア産ガスの供給途絶や燃料価格高騰での右往左往がなくなり、価格の激変緩和も継続。環境対策ではe―メタンを巡り日本でCO2削減量をカウントできるルールが整理された。他方、大手事業者を中心に力点を置いたのは電気の話題ばかりだ。風力開発や系統用蓄電池事業など、バリューチェーンで電気を売ることが今後の経営の共通トレンドだが、インフレによる資材価格高騰もあり、しっかりとした経営の柱が出てこない。こうした動きを別の角度から見ると「焦」も当てはまるかも。

加えて、24年の後半はアクティビストに翻弄された。各社の経営は資本効率を重視する経営指標改善に、配当政策を重視してきたが、さらにエリオットや村上ファンドの動きで株価が急上昇した。故に流行語大賞は「アクティビスト」かな。

C 24年は円安の要素も大きかった。7年前、石油業界が再編した当時は国際競争力や海外製品の流入が懸念されたものだが、今の為替では円安が輸入障壁になり、流通が乱れない。補助金+円安で、元売りが国内市場を完全に押さえることができている。

国産SAFの製造設備が完成目前 25年度に航空会社への供給見込む


【コスモ石油】

コスモ石油の堺製油所(堺市)内で建設中の国産SAF(持続可能な航空燃料)の製造プラントが、完成を目前に控えている。同社は2024年11月22日、設備を報道陣に公開し、計画の進ちょくを説明。25年度初頭にも本格生産に乗り出す方針を明らかにした。実現すれば、国内初のプロジェクトとなり、国産SAF事業の行方を占う試金石として注目されている。

SAF製造を担うのは、コスモ石油のほか、日揮ホールディングス(HD)、廃食用油回収を手掛けるレボインターナショナルの3社が共同出資して設立した「サファイア・スカイ・エナジー」だ。コスモ石油が航空会社への販売を担当し、レボ社が一般家庭から出る「家庭系」と飲食店などからの「事業系」の2ルートで廃食用油の調達を担当。日揮HDはその原料調達を支援し、3社が連携して国内サプライチェーンを構築する。コスモ石油の髙田岳志次世代プロジェクト推進部長は「販売先は鋭意開拓できている」と、本格生産に向けた確かな手応えを語った。

年間約3万㎘の生産を見込む

プラントの製造能力は年間約3万㎘を見込み、製造過程ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサも副生される。回収した廃食用油を高温・高圧下で水素化処理する「HEFAプロセス」を採用しており、水素は同製油所内の既存設備からの供給で賄う。

廃食用油の受け入れ設備はタンク3基で計2000㎘の貯蔵が可能。既に完成し、試運転に向け国内各地から事業系廃食用油の搬入が始まっている。24年度内の試運転を経て、25年度初頭には各航空会社への国産SAFの供給を開始する予定だ。


府内に回収ボックス設置 空の脱炭素化に市民も協力

また同日には、コスモ石油、日揮HD、レボ社の3社と堺市が、家庭系廃食用油の資源化を促進するため、連携協定を締結した。市の協力の下、大阪府内のイオンモール5施設に常設の廃食用油回収ボックスを順次設置する。その第一弾としてこの日、イオンモール堺鉄砲町(堺市)に回収ボックスが設置され、早くも買い物客が油を持ち寄る姿が見られた。

国内では、家庭から年間約10万tもの廃食用油が排出されているが、そのうち約9割が廃棄している現状がある。これらを有効活用し、原料のサプライチェーンを強化する狙いだ。国産SAFプラントの稼働を機に、多くの生活者を巻き込んだ空の脱炭素化プロジェクトに期待がかかる。

米国がエタノール外交に躍起 虎視眈々とSAF覇権狙う


世界最大のトウモロコシ生産国で知られる米国が、穀物由来エタノールの輸出を拡大しようと躍起になっている。航空業界の脱炭素化を促すSAF(持続可能な航空燃料)向け原料として需要が膨らむ可能性を秘めているからだ。現地で関係者を取材すると、日本を含む各国バイオエタノール市場を開拓する意欲がにじみ出ていた。

「エネルギー・ドミナンス(優勢)」と声高に唱えてきたトランプ次期大統領。エタノール業界は第2次政権発足後もその路線を継承し、SAF生産企業向け税額控除などの支援策を維持することに期待感を示す。

エタノール混合ガソリンを販売するシカゴ近郊のガソリンスタンド

業界が輸出増に気を吐く理由は、エタノール生産能力が国内需要を上回り続けているからだ。ガソリンにエタノールを10%混ぜた自動車燃料「E10」の浸透などを追い風にエタノール生産量は年々増え、23年に世界の5割超を占める約600億ℓを達成。このうち約54億ℓを輸出に振り向けているが、それでも余力がある。原料となるトウモロコシの単収も右肩上がりだ。

エタノール生産団体のグロース・エナジーや再生可能燃料協会は「トウモロコシ由来エタノールの用途をSAFに広げたい」と意気込むが、一筋縄ではいかない。欧州連合(EU)で食料との競合を懸念する声が根強い中、SAF原料として輸出するために必要な国際民間航空機関(ICAO) からの認証を得られていないのだ。

エタノール産業の育成はトランプ支持が多い農家の支援につながる。次期政権のエタノール外交も世界のエネ政策を揺さぶりそうだ。

【イニシャルニュース 】法改正の盲点突く大手 LP競争は新局面に


法改正の盲点突く大手 LP競争は新局面に

液化石油ガス法改正の第一弾として、2024年7月にLPガス事業者による賃貸集合住宅オーナーなどへの契約獲得を目的とした過大な営業行為が禁止された。これを契機に、一時は切り替え競争の主戦場は戸建て住宅に。だが、ここにきて大手N社が首都圏のオーナー向けに新たな提案活動に乗り出し、業界関係者に不安が広がっている。

N社の提案は、ガス料金の低減による入居者メリットを訴求するとともに、オーナーに対しては1戸当たり5万5000円の紹介料支払いのほか、既存ガス会社との残存精算や住宅設備費用などについても「ギリギリの有償販売と金銭的供与の抱き合わせで必ずしも脱法ではない。むしろ正攻法」(業界関係者のK氏)なものになっている。

業界関係者が頭を抱えているのは、提案されている料金だ。基本料金が1500円で、従量料金が10㎥までは1㎥当たり300円、それを超えた場合は250円。中堅以下の事業者にとっては、とても太刀打ちできる水準ではない。

とはいえ、競争上、首都圏の他の事業者も同様の対抗措置を講じるほかなく、そうなれば資本力のない中小は多くの供給先を失うことになるかもしれない。

N社は、営業提案に関する資料を資源エネルギー庁に持ち込み、この戦法に行政のお墨付きを得ようとしているようだ。「法改正の盲点をうまく突き、自社にとって有利な競争市場を醸成しようとしている」(前出のK氏)。25年もLPガス業界にとっては波乱含みの1年となりそうだ。

大手LP攻勢に中小は戦々恐々


エネ政策でブレーン不在 石破政権の不安材料

「石破茂首相の周りに、エネルギー問題を分かる人がいない。心配している」。落選した自民党有力議員のコメントだ。与党が24年10月の総選挙で過半数割れし、政治基盤が脆弱になった石破政権に対して、このような懸念が出ている。

もともと自民党の旧安倍派には経産省出身議員、原子力立地県の議員が多かった。ところが、いわゆる「裏金問題」と石破氏自らの安倍派潰しと言える行動で、同派の有力議員が軒並み落選するか、党籍を離れてしまった。そもそも石破氏は官界にも政界にも「あまり人脈がない」(同)。

かつて環境相を務めたK氏は石破氏の側近だったが、今は政界引退。また経産相などを務めた衆議院議員S氏も、21年に石破氏の派閥の水月会を離れ、「関係が修復されていない」(関係筋)という。

石破首相はエネルギー問題に関心がないため、官界、学界にもブレーンがいない。ただし「岸田政権で強かった経産省の影響力は薄らぐ」(同)と見られている。

石破首相は10月に岸田政権の打ち出したGX実行会議を開催し、その政策を継続することを表明した。24年度はGXの具体化、さらにはエネルギー基本計画という重要な政治決断が控えるが、「首相は政権運営が大変で、エネルギー面で石破色を出す余裕はなさそう」(同)との見方がある。

規制と支援がGX戦略の要諦 脱炭素と成長の二兎を追う


【巻頭インタビュー】重竹尚基/GX推進機構 専務理事

GX推進法に基づく経済産業相の認可法人として発足したGX推進機構。

脱炭素と産業競争力強化の両立へ同機構が果たす役割とは。

しげたけ・なおき 早稲田大学政治経済学部卒。シカゴ大学経営学修士(MBA)。三井物産を経て1992年ボストン コンサルティング グループに入社。ロンドン勤務などを経て2024年6月まで同社マネージング・ディレクター&シニア・パートナー。同年6月~GX推進機構COO。

―2024年7月の業務開始から5カ月。振り返ってみていかがですか。

重竹 「脱炭素」と「産業競争力強化・経済成長」を同時達成するというGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の実現に向け、民間金融機関では取り切れないリスクを取った金融支援を通じ今後10年間で官民合わせて150兆円超のGX投資を呼び込むことが、当機構の一丁目一番地の役割です。全国の事業者、金融機関などから具体的な相談が次々と来ており、GXへの期待を実感しています。

行政機関から3分の1、残りは金融機関など民間からという職員構成で、当初は「寄せ集め」になってしまわないかと危ぐしましたが全くの杞憂で、各自が得意技を生かしモチベーション高く業務に取り組んでいます。当初は法律に基づく大きな立て付けがあるだけで、ほぼスタートアップ企業のような状態でした。具体的なルールや組織マネジメントに必要な規定などを整備しつつ、一方でGX案件の議論を進めるという二つの流れを同時に進めることはチャレンジングでした。ようやく巡航速度に持ってくることができたのもその頑張りのおかげです。

―日本のGX戦略の中核を担うことへの意気込み。また、課題認識を教えてください。

重竹 当機構は、GX戦略推進のドライビングフォースです。GX投資への金融支援、そして排出量取引などのカーボンプライシング(CP)制度の運営の二つがGX推進法で規定された法定業務であり、これに加えてGXハブとしての戦略機能を有します。戦略を実現するための案件をプロアクティブに探しに行く、そして創りに行く。単独企業で成り立つ案件は少なく、複数企業間や官民、地域の間の連携をサポートしていきます。

課題は、GX市場を創造できるかです。特にCO2排出削減が困難な素材産業などは膨大な投資を必要とし、政府支援や自助努力だけではすぐにコスト増を吸収しきれません。ですが、日本の商慣習や輸入品との競争の観点から簡単に価格転嫁することもできません。だからこそ、需要サイドを巻き込んだ規制や支援が不可欠なのです。これについては現在、GX実行会議で議論されている「GX2040ビジョン」の中でも大きな検討項目の一つとなっています。

―金融支援に向け、産業技術総合研究所と提携しました。

重竹 GX実現には既存技術の導入拡大に加え、産総研が研究開発してきたような新技術を早期に社会実装する必要があります。産総研は学術的な研究開発と、その活用に向けた実装をつなぐ視点での研究開発を行っており、複数の技術オプションがある場合に中立な立場で評価することができます。この二点において、極めて頼もしいパートナーだと考えています。他の研究機関とも連携を深め、金融支援機能を強化していきます。

JERAとBPが洋上風力統合 巨大新会社の向かう先とは


12月9日、JERAと英石油大手・BPが洋上風力発電事業を統合するというビッグニュースが流れた。JERAの再エネ事業子会社とBPが50対50で共同出資し、合弁会社「JERA Nex bp」を設立する。JERAの可児行夫会長は「両社の経営資源、能力、ネットワークを組み合わせた世界トップクラスの洋上風力発電事業社を誕生させ、洋上風力発電事業の長期的な成功に導いてくれるものであると確信している」とコメントした。

基本合意署名式で握手する可児会長(左)とBPのオーキンクロスCEO
提供:JERA

背景には、各所で噴出する事業環境の変化がありそうだ。日本では政府による公募が第2ラウンドまで進み、8件の事業者が決定。24年末にも新たに2件の事業者を選定予定だ。ただ、インフレによる人件費・資材費の高騰といった共通課題に加え、JERAが代表を務める秋田県沖では運転開始予定を2028年6月と設定。第2ラウンドでは評価項目が変更され「迅速性」がより重視され、JERA陣営は最も攻めた計画を掲げたわけだが、今、難しい判断を迫られている。スケジュール的に25年度末までに最終投資決定をしなければ間に合わず、採算性を考えればPPAの価格交渉が必要な可能性もある。

一方のBPは、事業構成の見直しに着手し、高付加価値事業に投資を集中している。脱炭素事業にこれまでより厳しい資本規律を求め、採算性で選別する姿勢を採り、24年9月には米国の陸上風力事業からの撤退を発表。今回の件も、こうした方針の延長線上にあるとみられる。

巨大新会社誕生は好転の足がかりとなるのか、それとも―。

【コラム/1月7日】2025年経済を考える~ミレニアム四半世紀を振り返り、知力、気力、体力、原子力で経済健全化元年に


飯倉 穣/エコノミスト

1、経済政策の転換は

21世紀に入り、四半世紀を経た。経済運営は、経済政策で三度転換の試みがあった。いずれも経済健全化に至らず、三度の乱流に遭遇し挫折する。依然財政や雇用に不安があり、競争力の先細りを抱えながら漂流している。この流れを平時と考えるべきか。これまでと異なる経済運営で、もう少し安定感のある経済状況に到達できるのか。

現政権は、アベノミクスを曖昧に踏襲するも、先行きの展望が暗い。今後その政策変更は可能か。どのような経済運営を目指すべきか。四半世紀の政策を振り返りながら考える。


2、劇場「改革なくして成長なし」

小泉改革は、「新世紀維新、改革なくして成長なし、聖域なき構造改革」等の用語を駆使した。「民で出来ることは民(官から民へ)」で郵政民営化、公的金融縮小、社会福祉への競争原理導入、公務の市場化テスト等を行った。「地方で出来ることは地方(中央から地方へ)」で、国の干渉なき財源確保で地方行政・地方活性化を目指した。その間の経済は、改革と無縁だった。米国サブプライムバブル起因の輸出と国内ミニバブルで膨張した(実質経済成長率00~08年平均0.9%)。そしてリーマンショックで前年比08年△1.0%、09年△5.5%と落ち込む(00~09年平均0.3%)。小泉改革の各政策は、リーマンショックで剝げ落ち、経済健全化に効果がなかった。


3、殿ご乱心

民主党政権の取組(コンクリートから人へ)は、公共投資抑制、事業仕分けに象徴的だった。無駄遣いを止め、子育て・教育、年金・医療、地域主権、雇用・経済充実の約束をした。必要財源はなかった。また雇用対応で期待ばかりの介護雇用、グリーン、社会的企業スタートアップを掲げた。一見良さそうだったが、必要な短期政策と乖離した動きだった。そして緊急経済対策連発、円高対策に邁進する。経済の戻りの下で東日本大震災発生に遭遇した(予想経済低下1~2%程度)。恐怖を煽り政権維持で原子力発電を停止した。緊急時の対応不全で国民不安を倍加させた。経済は、震災ショックの落込みもあったが、リーマンショックからの回復過程だった。経済無策の批判以上に経済運営で隅々まで不安を染み込ませた。  


4、老経済学者と狂気に走る

アベノミクスは、キャッチフレーズが素晴らしかった。三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長政策)である。経済論的に見れば、現実を無視し節度を喪失した。内容は、お粗末且つ疑問だった。大丈夫なの?という思いが募った。経済変動的には経済の回復過程であり、財政・金融駆使は特に必要なかった。そして2018年にピーク超えとなる。成長率は2012~2018年で1.2%(~2019年0.9%)。金融緩和の効果も財政出動の効果も薄かった。成長政策と企業は、知力・気力・体力不足だった。技術革新を担う研究開発の人材、推進力、経済力がそもそも橋本・小泉改革で混乱していた。

そして新型コロナ感染ショックで、経済縮小となる。感染防止の行動制限で△2%程度の水準低下が予想された。だがその対策は大仰だった。感染症の専門家の怪しげな見解に引きずられて、冷静な分析なく、機動的でなく膨大な財政出動となった。


5、初めに言葉ありき

新しい資本主義が登場した。言葉の内容が不明で後付けになった。人・技術・スタートアップへの投資実現が副題だった。爾後、賃上げ、資産運用立国、スタートアップ、ジョブ型人事、三位一体労働市場改革、GX等の言葉が印象的である。且つ賃上げ、消費活発化、企業収益上昇、企業投資増、労働生産性上昇、賃金上昇の言い回しで好循環を謳った。そして「コストカット型の経済」から「成長型の新たな経済ステージ」に移行と願望を述べた。経済論的には、とりわけ通常の成長論的に考えれば、賃上げの波及効果について首を傾げる。アベノミクスの亜流だった。
現在少数与党の下で、同じような経済路線を歩んでいる。

【視察②】印象に残った挑戦的取り組み わが国が学ぶべき点とは


【エネルギーフォーラム主催/海外視察・団長印象記】

山地憲治/地球環境産業技術研究機構〈RITE〉理事長

4日で8カ所訪問(キャンベラで3カ所、メルボルンで5カ所)という慌ただしい行程だったが、今回の豪州視察は大変充実した内容で学ぶところが多かった。

豪州では、日本の20倍の面積に約2500万人が住んでいる。天然ガスや石炭など化石燃料資源に恵まれているが、近年は太陽光や風力など再生可能エネルギー利用が急速に伸びている。州によって電源構成は異なるが、人口の多いニューサウスウェールズ(NSW)、ビクトリア(VIC)、クィーンズランド(QLD)の3州は、現状ではまだ石炭火力(ビクトリアは褐炭)が5割を超えている。ただし、この3州に続いて人口の多い西オーストラリア(WA)州では天然ガス火力、続く南オーストラリア(SA)州では風力・太陽光、それに続くタスマニア(TAS)州では水力が圧倒的な主力電源になっている。

山地団長(右)とテッド・オブライエン氏

主要3州でも太陽光や風力の導入は3割程度まで拡大している。面積の大きさに比して意外に感じたが、太陽光は屋根置きの小規模設備が多いのが豪州の特徴である。脱炭素目標はわが国とよく似ており、2030年までに05年比で温室効果ガス43%削減、50年にはネットゼロを掲げている。また、エネルギー起源のCO2が温室効果ガス排出の約85%を占めるところも似ている。ただし、22年の連邦選挙で保守連合から政権を奪った労働党は再エネを主力とした脱炭素実現を目指しており、電源構成では30年までに82%という野心的な目標を掲げている。


野党議員が原子力導入に意欲示すも 実現には険しい道のり

今回の視察先は、政策関連機関、電気事業組織、蓄電所、水素やバッテリーに関するスタートアップとバランス良く構成されていた。訪問順とは少し異なるが、この順番で視察概要と印象を取りまとめておきたい。まず、キャンベラでは連邦政府の気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)と国会を訪問して政策に関する調査を行った。特に国会では、野党の有力議員にインタビューするという貴重な経験をした。

DCCEEWは、老朽化した石炭火力を再エネ+バッテリーで置き換え、水素を活用して脱炭素目標の達成を目指している。洋上風力の開発で雇用や投資の活性化を図り、太陽光発電設備やバッテリー開発でも自国生産による産業創出を目指している。水素戦略についても、需給両面や地域のメリット追求などで具体的目標を掲げ、航空機や大型トラック、農業などの分野での脱炭素化を進めている。水素プロジェクトの価格差支援については、現在の候補を1~3件に絞るとのことだった。原子力導入の可能性について質問したが、野党の政策のため官僚としてはコメントできないが、現状では法律で禁止されているのでハードルは高いとのことだった。

ヘイゼルウッド蓄電所の制御について耳を傾ける

国会では、野党・保守連合の有力国会議員テッド・オブライエン氏と意見交換をした。同氏は、50年カーボンニュートラル(CN)という目標については与野党一致しているが、与党・労働党の政策は風力・太陽光という再エネに依存し過ぎていると、明確で説得力のある主張を展開した。その中で、今後設計寿命で廃止する石炭火力の跡地に新型の原子力(SMRと大型軽水炉)の導入を目指していると明言した。同氏はCN実現には活用できる技術は総動員すべきであり、具体的に、CCS(CO2の回収・貯留)を使った石炭や天然ガス利用、タスマニアの水力資源を活用した水素戦略などにも言及した。また、石炭やガスの輸出は続けるべきであり、日本は重要なパートナーだと述べた。私からは同氏の主張は現実的でわが国の政策と共通していると申し上げた。

【視察①】豪州CN戦略の最前線を行く 再エネ8割目指す資源大国事情


【エネルギーフォーラム主催/海外視察】

カーボンニュートラル(CN)の加速とエネルギー安定供給が大きな課題となる中、小社は、急速な再エネ化に舵を切る資源大国・豪州の取り組みを調査するべく、「豪州カーボンニュートラル戦略視察団」を主催した。本誌記者のレポートと山地憲治・地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長の団長記で、視察の模様を紹介する。

視察団には、電力、都市ガス、メーカー、通信、研究機関などから17人が参加。2024年11月17日から22日までの6日間で、豪首都・キャンベラとメルボルン2都市の政府機関やエネルギー事業者、スタートアップ企業などを訪問した。

日本政府は24年度中にも、国の中長期のエネルギー政策の指針として「第7次エネルギー基本計画」を策定する。20年の「カーボンニュートラル(CN)宣言」を境に、脱炭素化の潮流が急加速したが、ウクライナ紛争を契機とした安定供給への懸念、そして足元の物価高を受け、より現実的で受容可能な政策を描けるかが注目される。そういった意味で今回の視察は、非常に示唆に富んだものとなった。


与野党の政策に隔たり 注目の国民の選択

キャンベラに降り立った一団がまず向かった先は、連邦政府の気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)。ここでは、CN戦略の担当官であるヘレン・ベネット氏らと意見を交わした。

DCCEEWのベネット氏らと意見交換した

豪州では、与党・労働党が政権を取った22年以降、30年までに温暖化ガス(GHG)を05年比43%削減し、50年までにネットゼロを達成するという目標を掲げ、強力なCN戦略が進められている。火力設備の老朽化に合わせ、再生可能エネルギーと蓄電池を主軸とした供給構造への転換を成し遂げようという現政権の覚悟は強い。電源構成に占める再エネ比率を30年までに82%に引き上げ、一方で石炭火力は40年までにほぼ廃止することになっている。

こうした、現政権の下でのCNへの非常に高い目標を国民はどう捉えているのだろうか。ベネット氏はアンケート結果を踏まえ、「7~8割がポジティブな意見を持っている」と強調した。とはいえ、既に昨今の燃料価格高騰などに起因するエネルギーコストの増大は、国民生活にマイナスの影響を与え始めている。シドニーとメルボルンに住む人に聞くと、24年4月に多くの電力会社が料金を3割ほど値上げした。22年比では倍増しているといい、少なからず不満があることがうかがえた。

国会議事堂では与野党が政策議論を戦わせている

再エネ一辺倒の現政権の政策ではさらに国民負担が増大しかねないと警鐘を鳴らし、それに待ったをかけようとしているのが、野党・保守連合だ。今回の視察では、国会議事堂において、次期総選挙に向けた公約で原子力発電所の導入を掲げるテッド・オブライエン下院議員と会談する機会を得た。

オブライエン氏は、小型モジュール炉(SMR)と新型軽水炉の導入を念頭に「現政権が掲げる再エネ主軸のCNに比べ、原発を含めたエネルギーミックスによるCNの方がコストは安くなる」とし、既存石炭火力を予定より早めて廃止しようという動きにも懐疑的なスタンスを取る。現在、原発ゼロの豪州において、新たに建設することへの風当たりは強い上に、商用利用については連邦法で禁じられていることもあり、原子力を活用するとなれば再エネ以上の困難が待ち受ける。果たして国民の選択は―。25年の総選挙に関心が高まる。

キャンベラでの最後の訪問先となったのは、米YES Enegyが郊外で建設中の蓄電所「Molonglo BESS」。訪問した際は第一段階として5MW(1MW=1000kW)/7・5MW時が稼働中だったが、24年末には約12‌MW/15‌MW時が稼働するという。説明に当たったリース・ダッティ氏によると、「これまでは、電力需給が厳しい時間帯に放電することで需給バランスの安定化に貢献する役割を担ってきたが、今後は周波数制御にも活用していく」とのことだった。

キャンベラ郊外の蓄電所「Molonglo BESS」

「暫定税率廃止」で3党合意 補助廃止から走行課税に波及か


〈いわゆる『ガソリンの暫定税率』は廃止する〉。自民党の森山裕幹事長、公明党の西田実仁幹事長、国民民主党の榛葉賀津也幹事長が12月11日に国会内で会談し、暫定税率を廃止することで合意した。ただ具体的な時期などへの言及はなく、引き続き協議を進めていく方向だ。

ガソリンを巡っては、本来の「揮発油税」1ℓ当たり28・7円に、「暫定税率」同25・1円が上乗せされている。これとは別に「石油石炭税」2・8円も適用。これらを含めた小売価格に対し、「消費税」10%が課せられ、二重課税となっていることもかねて問題視されているが、今回の合意では触れられていない。

暫定税率廃止などで合意した榛葉氏(左)、森山氏(中)、西田氏
提供:時事通信

政府は総合経済対策の中で、ガソリン補助金について2025年1月以降も規模を段階的に縮小しつつ継続することを打ち出している。現在はガソリン小売価格が175円になるように補助しており、24年12月から2カ月かけて185円程度に移行。その後は、状況を見定めながら補助を縮小するとしているが、「事実上の為替対策と化した現状では円高が進まない限り、完全廃止は難しい」と見る向きも。そうした中で暫定税率の廃止は、止め時を見失ったガソリン補助金を廃止する上での格好の取引材料となろう。 問題は、暫定税率廃止によって国税で1兆円、地方税で5千億円の税収が減ることだ。その代替策として、EVにも課税できる走行税の導入が浮上している。既導入国などを見ても課題は多いが、財務省側は「選択肢の一つ」と前向き。議論が盛り上がるのか、注目される。

諸外国と比較し低い国の関与 事業の信頼性向上へ公的支援強化を


【論点】マスタープランの見直し〈後編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授

海底直流送電整備事業という、一大プロジェクトが計画策定段階に移る。

諸外国制度との比較を踏まえ、現状の問題点と解決策を提示する。

本稿を執筆している2024年12月初旬現在、北海道本州間海底直流送電(HVDC)の整備は、SPC(特別目的会社)を組成し送電事業のライセンスを取得し、プロジェクトファイナンスで資金調達することを軸に検討されている。

しかしながら、11月20日の電力・ガス基本政策小委員会では、「特に一定規模以上の大規模投資については(中略)工期が長く、その費用回収に長期間を要することから、キャッシュ不足に陥ることを懸念し、その結果、必要な投資が停滞する可能性」とされた。また「プロジェクトファイナンスの場合は、金融機関も、費用増額時等の費用回収リスクを踏まえ、大規模な融資を躊躇する傾向」とされ、28日の再エネ大量導入小委員会でも、プロジェクトのリスクに応じた適正なリターンや資金確保の課題について、検討を続けることになった。

各国におけるビルディング・ブロック・モデル/出所:現地政府ヒアリングにより筆者作成

最大の問題点は、資金調達と報酬率である。概算工事費が1・5兆~1・8兆円とされ、資本市場からの調達、特にプロジェクトファイナンスによる調達が困難となっている。報酬率は、一般送配電事業に適用している託送料金を基準に2・25%(1・5%×150%)をベースに議論されているが、プロジェクトリスクを勘案し、期待リターンは、より高い水準に設定されるべきだ。


欧州には3種類の規制手段 際立つ日本の報酬率の低さ

欧州では、連系線整備には投資フレームワークおよび資金調達法で三つのタイプがある。その一つが、公営電力の送電オペレーター(TSO)による総括原価の規制事業だ。規制当局が決めた報酬率を与えるケース(ドイツ、オランダ)と、TSO事業の中で混雑レントとして規制当局が承認した投資(送電線拡大、再給電)に使われるケース(ノルウェーTSOのStatnettなど)がある。

二つ目は、事業者がリスクを負担するマーチャント・プロジェクトであり、収益がモチベーションとなる。英国とオランダを結ぶBrit Nedなどがある。三つ目は、これらの折衷案的な英国のCap&Floor制度である。この制度では、Floor(下限)を確保しながらも、事業者の工夫によりCap(上限)の範囲内で最大の利益を上げられる。例えば英独間のノイコネクトは、英国側では同制度により収入が、ドイツ側では連邦ネットワーク規制局(BNetzA)により報酬率が規制される。

これらはいずれも、事業報酬に運営経費、減価償却からなるビルディング・ブロック・モデルでリターンを積み上げる(図参照)。事業報酬率は、RAB(規制資産)に掛けられるものであるが、基本的にWACC(加重平均コスト)の式、もしくはその変形で決められる。ただし、WACCの計算において事業のリスクを評価するβ(ベータ)は英国が発電事業と同じリスクと見て1・25、ドイツは0・81、豪州は0・6を採る。これに対し、同HVDC事業ではβが0・42(22年9月7日料金制度専門会合事務局提出資料)と低く押さえられている。

各プロジェクトの事業報酬率は英国はCapが8・1%、Floorが1・22%、ドイツは4・43%(長山試算)、豪州は3・64%と5・46%となっている。いずれも、北海道本州間HVDCで現時点で想定される2・25%よりも高い。これだけではなく、諸外国の60%に比べ70%と高い負債比率の前提も、同HVDC事業の報酬率の水準を下げる要因となっている。

BNetzAは24年9月、電力会社・再生可能エネルギー電源線・独立連系線の全ての24年以降の新規資産について、21年に決定した24~28年の規制期間の自己資本利益率(ROE)を5・07%から7・1%を適用することを発表した。北海道本州間HVDCは、一般送配電事業者を含む事業者が交渉することになると予想される。だが、巨額の工事費に対する資金調達・回収リスクの議論が進まない中で、応募してから折衝で決めるのでは経営判断が難しい。

さらには、事業者による先行調査の費用についても、当該プロジェクトが広域系統整備計画によって認められる建設に進まない限り、回収する手段がない。


投資先として魅力生かし 海外からも資金呼び込め

わが国においても全体リスクを再検討した上で、報酬率改定の検討を行い、事業者や投資家目線で全体の事業設計を国が主導すべきであろう。この点、豪州のマリナスリンクは連邦政府49%、ヴィククトリア州政府33・3%、タスマニア州政府17%と、3者が出資し事業の信頼性を高めている。わが国も国による資本注入に加え、国策としての財政投融資などが求められる。さらには、工事費の増額など経営判断後に顕在化するリスク、託送料金査定などの規制リスクに一定の柔軟な対応が担保されなければ、事業者は事業への参加意思表明に慎重にならざるを得ない。

ファンドからは、国情の安定した日本のインフラ規制事業は魅力的と聞く。海外からの投資、融資も入るような透明性ある制度設計が望まれる。

ながやま・ひろあき 慶応大学経済学部卒後、三菱総合研究所入所。企業戦略構築のコンサルティングなどに従事。エール大学経営大学院修了(MBA取得)。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了(博士)。2008年から京大国際交流センター教授。20年から現職。

違法解体増加する鉛蓄電池 盲点突く事業者が全国に


【業界紙の目】増田正則/産業新聞社 編集局非鉄部長

使用済み鉛蓄電池を不適切に解体・処理して鉛の陰極板を回収する違法行為が後を絶たない。

違法な輸出業者の摘発も相次いでおり、全国的な規制を求める声が挙がっている。

自動車用の蓄電池といえば最近の話題はもっぱらリチウムイオン電池(LiB)だ。電池正極材に使うリチウムやニッケル、コバルトなどを重要鉱物に指定する動きが相次ぎ、資源獲得競争が熱を帯びている。LiBに使われる天然資源は南米やアフリカ、赤道周辺国などに偏在する場合が多く、天然資源のほぼ全量を輸入する日本にとっては安定調達面に課題を抱える。目を内に転じて「リサイクルによる資源確保が日本の勝ち筋」と指摘する声もあるが、LiBリサイクルは開発途上の技術。品質向上はもとより、発火事故防止など安全性向上を図りながら社会実装されるまでには、10~20年の歳月を要するだろう。

対照的に現在も車載用電池の中心的存在である鉛蓄電池は、蓄電容量こそLiBに劣るが、現時点で安全性や信頼性の面でLiBをはるかに上回る。鉛と聞くと真っ先に有害物質を思い浮かべるかもしれない。実は金属の世界では加工性やリサイクル性に優れた優等生だ。鉛需要の約9割を占めるのが蓄電池で、電池以外には放射線の遮へい材料や太陽光発電パネルにも使われる。そして鉛蓄電池のリサイクル率はほぼ100%。鉛の有害性を否定するわけではないが、適切な管理下では完成された循環型サプライチェーンが整備された脱炭素製品と言っても過言ではない。もちろん日本の製錬所で100%適切にリサイクルできる。

使用済み鉛蓄電池の適切な処理が喫緊の課題


バーゼル法違反疑いが急増 水際対策強化も後絶たず

ところが最近、日本の鉛蓄電池のリサイクル現場で由々しき事態が進行している。「バーゼル法(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)で規制されている巣鉛が輸出されている」。こうした話題が非鉄金属業界でささやかれ始めたのは2022年の秋頃だ。

巣鉛は使用済み鉛蓄電池を切断・解体して取り出した鉛陰極板のスクラップ。巣鉛には電池に使われる電解液の硫酸が染み込んでいるため、厳重に管理された作業環境の中で解体処理をしなければならない。その過程で硫酸が漏れて土壌に浸出すると、鉛以上に毒性の強いヒ素などにも汚染され、周辺の水質に悪影響を及ぼす。従って鉛蓄電池のリサイクル現場には汚染物質が外部流出しない敷地の舗装や排水処理設備の設置など、万全の環境対策が求められる。

使用済み鉛蓄電池や巣鉛はバーゼル法で輸出が規制されている。かつては日本から使用済み鉛蓄電池が韓国に年間10万t規模で輸出され現地で再資源化されていた。ところが16年に韓国で鉛蓄電池由来のヒ素による環境問題が発覚したことをきっかけに、日本は18年に改正バーゼル法を施行。19年以降、使用済み鉛蓄電池関連の輸出がほぼ止まることとなった。