まん延する誤情報と印象操作 処理水の次は「処理土」が標的に


【今そこにある危機】林 智裕/ジャーナリス

福島第一原発事故以降、原子力を巡る悪質な言説が後を絶たない。

国内の一部政治家までが加担する「風評加害」は続きそうだ。

多核種除去設備(ALPS)処理水海洋放出開始から1年以上経った。「汚染」は無論、漁業者や福島県民が懸念した風評被害も起きなかった。ただし、これで解決とみなし問題を「過去」にすべきではない。そもそも、処理水放出がなぜ「汚染」と喧伝されたのか。空費された時間もリソースも、山積した莫大な補償も、代償は今後時間をかけてわれわれが支払わされる。

原発事故後、特に原子力関連のイシューは偽・誤情報と恣意的な印象操作にゆがめられてきた。それらが世論を不安に沈め、復興の遅延と原子力産業の荒廃を招いた。処理水放出の社会問題化の背景を分析・対策する必要がある。


中国や北朝鮮が加担 メディアの責任大

「風評加害」とは何か。風評「被害」があれば原因の「加害」も必ずあるとの観点から、主に「事実に反した流言飛語の拡散」「科学的知見の無視や結論が出ている議論の不当な蒸し返し」「不適切な因果関係のほのめかし」「正確な事実の伝達妨害などによる印象操作や不安の扇動」などを指す。

処理水の汚染喧伝は、まさに風評「加害」の典型例と言えた。外務省はホームページで、「汚染喧伝の背景には国家及び非国家主体が日本の政策に対する信頼を損なわせる、民主的プロセスや国際協力を阻害するといった目的の為に、偽情報やナラティブを意図的に流布するプロパガンダ、情報戦の側面があった」と異例の言及をした。

NHKも、「外交戦と偽情報 処理水めぐる攻防を追う」との特集で中国の「汚染水」プロパガンダやネット上の偽情報拡散を取り上げた。韓国公安が逮捕した北朝鮮スパイからは、処理水の偽情報を用いた日韓離間工作の指令書が押収されている。

つまり、処理水問題は無知不安に基づく風評「被害」ではなく、「何らかの目的の為に正確な情報が確信的に無視された」風評「加害」こそ本質であった。

誤った情報は復興の遅れにつながる(相馬港)

こうした状況は、鳥海不二夫・東京大学大学院教授が処理水放出直前の昨年7月、1カ月間にSNS(X)上における「汚染水」「処理水」を含む投稿101万件以上を対象とした調査からも示唆される。放出反対の主張は立憲民主党・共産党・れいわ新選組の支持層に極端に偏っており、政治党派性との強い相関が確認された。

主要論点も当事者最大の懸念であった「風評と偏見差別」とは乖離していた。むしろ非科学・差別的かつ当事者に直接不利益をもたらしかねない「汚染水が海洋放出される」に類した、関東大震災時の「井戸に毒」を彷彿させる流言拡散が相次いだ。立憲・共産・社民・れいわの議員や一部著名人には、自ら直接加担した者さえ少なくない。不祥事は野放しにされ、党や業界からの処分抑制もなかった。

報道も沈黙、処理水の理解醸成が必要な時期の周知も怠った。新聞は「汚染水」(北海道、赤旗、社会新報、桐生タイムス、中外日報)、「処理済み汚染水」(朝日)、

「放射能汚染水」(東京)、「汚染処理水、処理汚染水」(朝日、東京、中国、毎日、北海道、河北新報、共同通信)「Radio Active Water」(NHK)、「Fuku-shima Water」(共同、毎日、Japan Today News)などの表記を執拗に続け、読者に「汚染」の認知固着を招いた。世論の理解合意を自ら妨げ、その理解合意不足を盾に反対した。少なからぬ処理水放出反対論が「当事者のため」を目的とせず、「風評加害」を用いて解決を妨げ続けた実態は明らかだ。 「汚染」の予言が外れた後も「風評加害者」らは謝罪一つなく、社会から何ら責任を問われぬまま次の問題に標的を変えた。すでに一部は福島県内の除染で発生した除去土壌の減容化・再生処理を施した処理土に対して「汚染土」と喧伝する、処理水の二番煎じの社会運動に移った。

【コラム/11月28日】地方創生戦略とその体制を考える~違和感伴走の10年


飯倉 穣/エコノミスト

1、地方の低迷継続

日本の地方の多くは、経済停滞や人口減少に悩む。人口戦略会議は消滅可能性地方自治体(744)を予測する。2014年まち・ひと・しごと創生総合戦略が策定され、地方創生の言葉が生まれて10年を経た。毎年基本方針が作成され、石破内閣は、改めて地方創生を基本政策に掲げた。報道もあった。

「地方創生問われる実効性「2.0」始動 首相、交付金倍増方針」(朝日2024年11月9日)

「政府、地方創生に5本柱 東京一極集中是正やデジタル活用 閣僚会議初会合 首相「付加価値を創出」」(日経同)

施政方針演説(10月4日)で「(五)地方を守る」があった。「地方創生の原点に立ち返り、地方を守り抜きます・・「産官学金労言」・・こうした地域の多様なステークホルダーが知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し・・すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会。それが地方創生の精神です・・「地方こそ成長の主役」です・・これまでの成果と反省を活かし、地方創生2.0として再起動させます。全国各地の取組を一層強力に支援するため、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指します・・私が先頭に立って、国・地方・国民が一丸となって地方創生に永続的に取り組む機運を高めてまいります」と述べた。そして地方経済・生活環境創生本部を設置し議論を始めた。地方開発担当で過去経企庁・国土庁という担当官庁があった。永続的課題である地方創生・地方開発の取組みを考える。


2、ローカル・アベノミクス

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(閣議決定14年12月27日)は、人口減少と地域経済縮小の克服を謳い、東京一極集中是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望実現、地域特性に即した地域課題解決を目指した。しごとの創生で雇用量の確保・拡大、ひとの創生で若者の地方就労を促し、まちの創生で都市のコンパクト化と公共交通網の再構築等を例示した。基本方針は、縦割り、全国一律、バラマキ、表面的、短期的政策を改め、政策5原則として自立性(地公体・民間事業者・個人等に自立)、将来性(前向き取組支援)、地域性(各地域の実態実態適合施策支援)、直接性(直接的支援かつ産官学金労連携)、結果重視(PDCA採用:計画・実施・評価・改善)を挙げた。

政策の基本目標は、4つである。①地方で安定した雇用創出(30万人)、②地方への新しい人の流れをつくる(地方雇用年10万人増で、東京転入年6万人減少、東京から地方への転出4万人増加で転出入均衡)、③結婚出産・子育ての希望実現(出生率1.8)、④時代にあった地域つくり・暮らしの安心・地域連携(まちの活性化:小さな拠点整備、地域連携推進)だった。担当は、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、内閣府地方創生推進事務局だった。今回前者は、何故か「新しい地方経済・生活環境創生本部」に名称を変更した(24年10月)。

政府の支援策は、情報支援(地域経済分析システム)、人材支援(地方創生人材支援制度)、財政支援(地方創生交付金)である。そして強調する。日本を変えてきたのは、地方である。地方が自ら考え、責任をもって自ら取り組むことが何よりも重要である。全国一律でなく、地方による裁量性と責任ある地方主導の政策づくりを全力で支援していくと。政治的プロパガンダである。当初から時代や経済の流れに浮かぶ大風呂敷で実効性に疑問があった。


3、5年経過して~2019年見直し

第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(19年12月20日)は、5年間の実績を検証した。基本の流れ(人口減少、東京一極集中)は変わらないが、起業、副業・兼業、サテライトオフィスで動意もみられる。また各地域の取組みで地域により,観光、経済産業、移住・定住、子ども・子育て、交通ネットワークの目標設定(KPI)を達成・進捗した例もあるという。好評価を言えず、多くで効果不鮮明を印象づけた。成果は乏しかったが、行政の仕事作りは継続する。

第2期は従来の4基本目標に加え、横断的な目標を追加した。①多様な人材の活躍を推進する(地方創生を担う人材確保等)、②新しい時代の流れ(Soceity5.0やSDGs)を力にするという2つである。政策5原則は、①自立性、②将来性、③地域性、④総合性、⑤結果重視となった。当初の5原則のうち④の直接性を総合性にかえた。多様な主体・地域連携等で総合的な施策に取組みつつ、直接的に支援する施策に取り組むとした。

地方創生を、地域活性化と捉えた場合、5年程度の政府誘導で、地方の活力(雇用確保、生活条件、地域魅力等)を取り戻す、あるいは向上することは容易でないことを示した。毎年1000億円の予算が注ぎ込まれた。勿論生活環境等の整備・改善例もある。ただ従来の地域行政の取組みとの違いが分かりにくい。

光学と音速のセンサー融合 独自開発の演算手法を駆使


【技術革新の扉】混合ガスの連続モニタリングシステム/理研計器

複数の成分を常時モニタリングする革新技術を実用化した理研計器。

脱炭素化の潮流を背景に高度化する濃度検知のニーズに応える構えだ。

複数の成分が混合するガスの状態をリアルタイムで精緻に把握できる―。そんな革新的な機能を備える「リアルタイムガスモニタリングシステム(RTGMS)」を実用化したのが、産業向けガス検知・警報器市場でトップシェアを誇る理研計器だ。

エネルギーや半導体などの基幹産業がカーボンニュートラル(CN)時代を見据えた取り組みを加速する中、脱炭素化に欠かせないガス濃度のセンシングニーズが高度化。得意のガス検知技術で産業界に新風を注ぎ込む挑戦の最前線に迫った。

発電や都市ガスから自動車や製鉄に至るまで、多様な業種の現場をガス検知・警報器事業を通じて支えてきたのが同社だ。

理研計器創業の基となった検定器

都市ガス一つとっても、原料となるLNGの受け入れから貯蔵や気化を経てガス受給者に届けるまでの一連のプロセスで、各工程に多くのガス検知器が設置されている。安全性を確保する観点から、微量のガス漏えいを食い止めることが狙いだ。

幅広い業界で培ったガス検知のノウハウや技術を駆使して満を持して開発したのが、二つのセンサーを組み合わせて混合ガスを構成する成分の状態を把握できるようにしたRTGMSだ。

同社によると、組み合わせるセンサーを追加することで多くの成分をモニタリング可能で、特に3~5成分への対応で優位性を発揮する。


創業からの蓄積を反映 逆転の発想で新たな価値

具体的には、ガス中を伝わる光と音の速度を「光波干渉式センサー」と「超音波式センサー」を用いてそれぞれ測定。その結果を基に独自開発した演算方法で、ガスの熱量や燃焼速度などを算出するという仕組み。1秒に4回という頻度で連続して計測できることも売りだ。

中でも光波干渉式センサーは、理化学研究所で発明され創業の礎となった中核技術で、気体の屈折率の変化を捉える役割を担う。光の干渉によって生じるしま模様を示す「干渉縞」の移動量を読み取ることで、各種ガスの濃度を算出するセンサーだ。

このセンサーに超音波式センサーを組み合わせた熱量計「OHC―800」を開発し、これをベースにRTGMSに仕上げた。この熱量計は、可燃性のガスが発生する空間でも稼働できる防爆型のため、安全確保が必須の産業界に応用できる範囲は幅広いという。

開発の原点は、それぞれのセンサーが備える長所と短所を見つめ直す取り組み。開発担当者が、単一のセンサーだと検知してほしくない「雑ガス」にも反応してしまうといった弱点に着目。その反応をセンサーの特性として前向きに捉え、異なる特性を持つ別のセンサーと組み合わせるという考えに行き着いた。

そうした逆転の発想で編み出した技術が、雑ガスの影響を演算処理で除去できる「オプトソニック演算」で、その方式を採用した熱量計を2013年に開発した。その技術をベースに複数センサーを融合するシステムづくりを進め、検証を経てRTGMSに生かした経緯だ。

RTGMSのベースとなる熱量計

RTGMSの展開先として有望視されているのが、水素とCO2を原料に環境にやさしい都市ガス原料を合成する次世代技術「メタネーション」の生産工程。各工程で利用する3種類(水素、CO2、メタン)のガス組成に絞って測定できる。

鉄鋼産業も威力を発揮できる応用先だ。製鉄所で発生する副生ガスは、水素とメタンを主成分としながらも、N2(窒素)とCO2、CO(一酸化炭素)も含み、組成全体が大きく変動する。そうした環境下であっても、発熱量や比重、濃度をリアルタイムでつかめる。 同社が混合ガスのモニタリングを追求する背景には、CN社会を見据えた基幹産業の動きがある。エネルギー業界では、火力発電の燃料をクリーンな水素やアンモニアに置き換える取り組みが活発化しているほか、水素のサプライチェーン構築に向けた動きも広がっている。


次世代エネ市場へ攻勢 社会実装の支援に力

脱炭素を巡る商機を取り込もうと、20年に立ち上げたのが市場戦略課だ。同課は、営業部隊から顧客情報を吸い上げて分析したり製品開発やシステム提案につなげたりする役割を担う部署で、RTGMSを実用化する展開で存在感を放った。

営業推進部副部長で市場戦略課長の寺本考平氏は「顧客の困りごとに関する情報を開発部門に反映し、複数センサーの融合システムを事業化に結びつけた」と振り返る。システム全体の品質を保証・管理する体制づくりにも力を入れたという。

寺本氏は「脱炭素化につながる次世代エネルギーのフェーズが、研究開発や実証試験から社会実装のフェーズに移行しつつある。これに伴い、混合ガスをモニタリングする技術の出番が増えるだろう」と予測。その上で、「エネルギー事業者や産業装置メーカーなどの幅広い業種をターゲットに提案活動を強化していきたい」と意欲を示す。

課題は、RTGMSの普及を促すために必要な導入コストの低減だ。このため、各種センサーの仕様を統合し1台に仕上げる展開を視野に入れている。引き続き用途の可能性も探る方針で、アンモニアの合成・分解反応制御やバイオガスの組成モニタリングへの展開も期待している。ガス検知のイノベーションに果敢に挑む同社の展開から、今後も目が離せない。

【青山繁晴 自由民主党 参議院議員】海洋資源の実用化を


あおやま・しげはる 1952年、神戸市生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、共同通信社に入社。事件記者を経て経済部、政治部に所属。98年、三菱総合研究所に入所。2002年、独立総合研究所を創立。16年、参議院議員に当選。議員集団「日本の尊厳と国益を護る会」代表。

2016年の初当選以来、献金を受け取らず、政治資金パーティーも開いていない。

自民党内の議員集団「日本の尊厳と国益を護る会」の代表として存在感を放っている。

小学校入学前から漢字が書かれた本を読む、読書好きだった。作文コンクールでも好成績を収め、自然と作家を志すように。高校卒業後は慶應義塾大学で哲学を学ぶも、現実の世の中を変えたいと思い両親に相談せず中退。早稲田大学政治経済学部へ再入学した。

早大卒業後はラーメン屋台を引きながら小説を書こうかとも考えたが、慶大中退で親に迷惑をかけたとの思いもあり、共同通信の入社試験へ。「編集局長との面接と、社長の最終面接でいずれも大喧嘩した」というが、約400倍の倍率をくぐり抜け内定を勝ち取った。人事部長いわく、「君の反骨精神が買われたと思ったら大間違いだ。編集局長と社長は猛反対だったが、国際局長が『あんな作文を書く男にうちの記事を書かせたいと思わないか』と君の作文を評価した。それが内定の決め手だった」

記者生活は地方支局の事件記者から始まった。警察の発表をうのみにせず、加害者とその家族の元にまで足を運んだ。「警察取材は政治取材と真逆で、地位の低い現場にしか情報がない。都道府県警の本部長や刑事局長といった上層部を取材しても、彼らは何も知らない」。そのため留置所の巡査に食い込んだ。特級の日本酒を片手に訪れた巡査の家は狭く、玄関の近くで夫人と子どもが寝ていた。2人を跨いで居間にいる巡査に日本酒を渡すと、彼は「特級」のラベルを見て涙を流した。警察組織の最下層で働くこの巡査が、重大事件の容疑者が留置所に入ったと教えてくれた。

そこから経済部の配属となった。エネルギー業界も担当したが、「サラリーマン社長が面白くなかった」。そして日銀キャップから助言を得た。「青山ちゃんはもっと面白い、振れ幅の大きい人間を相手にした方がいい。それは政治家だ」。その後、共同通信では初となる経済部から政治部に異動。中曽根康弘、竹下登両氏の総理番を皮切りに昭和天皇の吐血をはじめ歴史的スクープを重ねた。

自然エネルギー財団が情報発信 エネ基議論に疑問を提示


【多事争論】話題:再エネ推進派からのエネ基への意見

政府審議会でのエネルギー基本計画の議論に対し、さまざまな組織が見解を示している。

中でも自然エネルギー財団は政府見解と大きく異なる意見を提示するが―。


〈 オプションの芽摘むのは悪手 長期的な限界費用の意識を 〉

視点A:穴山悌三/長野県立大学グローバルマネジメント学部教授(学部長)

民主主義的な政策決定プロセスにおいて、立場や考え方を異にする政策分析者や集団が政策信念をぶつけ合うことは、より良い政策を志向する上で意義がある。第7次エネルギー基本計画には審議会内外で多様な意見が述べられており、自然エネルギー財団のインフォパック(以下、本資料)もその一つである。本資料では政府資料に対して主に五つの問題点を指摘し、最後に3E(環境性、経済性、供給安定性)を達成するエネルギーミックスについての主張を記している。紙幅の関係もあるため、各論点を簡単に確認していこう。

第一に「日本の排出削減が全くオントラックではない」という指摘である。欧州のように1990年からのトレンドで見ると、わが国は目標値に届かないと指摘する。しかし、日本が基準年とする2013年度以降は省エネが進展しており、22年度は基準年比で最終エネルギー消費が16%少ない。今後の脱炭素目標の達成にはあらゆる部門における不連続の行動変容が求められることを踏まえれば、将来的には過去のトレンド線からの下方屈折が必要であり、より長期のトレンドで延長して論じるだけでは不十分といえよう。ただし、近年の減少トレンドが電気事業者の排出係数(カーボン排出原単位)の低下の恩恵を受けていることは確かであり、今後もさらなる低下を目指すには原子力発電再稼働の着実な進展などが重要であることは間違いない。

第二に「AIの普及は電力需要増を招くのか」という疑問である。国内外の見通しなどを踏まえても過大ではないか、との意見だが、不透明性が高いという点については同意する。中長期的な需要想定は、主要機器の普及・消費電力を積み上げるだけではなく、省エネ・技術開発の進展などの織り込み方も重要なポイントとなる。

ところで、50年のネットゼロ・シナリオのように「あるべき姿」を論じる場合は、1次エネルギーの将来見通しが大きく下方シフトする一方で、電化が進み電力需要は現行対策シナリオに比べて増大する(24年のBPアウトルックでは3割程度の増大)。需要想定は今後の予見性の確保にとって重要な要素ではあるものの、さまざまな不確実性が増しつつあることを念頭に置き、どのようなシナリオにも対応できる柔軟な構えを取ることが求められるだろう。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年11月号)


オゾン層の現状/輸入木質バイオマスの効果

Q 現在、オゾン層の状況はどうなっているのでしょうか?

A「オゾンホール」は南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、地表からの高さ20〜30㎞の成層圏にあるオゾン層に穴の空いたような状態にあることから名付けられました。生物に有害な紫外線をオゾンが吸収することができなくなり、紫外線が地上に届いて悪影響を及ぼす恐れがあります。オゾンホールは8~9月に発生し11~12月に消滅する季節変化が、1980年代から衛星によって観測されています。2023年のオゾンホールは南極上空で8月上旬に現れた後、9月21日に年最大となりました。

電化製品から捨てられたフロンがオゾン層を破壊することが判明した後、フロンの生産は1987年9月に採択されたモントリオール議定書で全世界で禁止されました。日本では2001年4月から家電リサイクル法によりフロンの回収が義務付けられています。23年1月に国連環境計画と世界気象機関は、このままフロンガス規制が続きオゾン層の回復が進めば、南極で66年ごろ、北極で45年ごろにオゾンホールが1980年の水準まで戻ると発表しました。一方、フロンから温室効果の大きい代替フロンへの転換が進んだ結果、地球温暖化を悪化させている負の現象もあります。

南極上空のオゾンホール発見から40年でオゾン層破壊のメカニズムが世界で認知され国際条約にまでこぎつけました。地球温暖化と比較すると、自然現象の理解が容易でコンセンサスが得られやすかったことが規制に成功した理由です。

フロンを生み出したのは人間ですが、その破壊を予測し制御するのも人が生み出した科学の力です。楽観視は禁物ですが規制の成果に期待し、さらなる観測データの収集を待ちたいと思います。

回答者:鎌田浩毅 /京都大学名誉教授 京都大学経営管理大学院客員教授)


Q 輸入木質バイオマスの利用は、日本の温暖化対策にどの程度の効果をもたらしますか?

A 日本で燃やされたバイオマスは、輸入材であっても排出量はゼロとカウントされます。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)ガイドラインにおいて、バイオマス由来のCO2の燃焼はゼロとすることが決まっているからです。ただし、国内の内航船による輸送や港湾・発電所におけるハンドリングに伴う排出は計上されます。原産国でのバイオマス燃料の生産や収穫、加工に伴う排出は、原産国の排出になります。木材の伐採に伴い森林の炭素蓄積が減少した場合は、原産国の土地利用部門において排出と計上されます。

国をまたぐ海上輸送では、排出量の特定の国への帰属が難しいため、国際管理することになっています。海上輸送については国際海事機関の目標「2050年ごろまでにGHG(温室効果ガス)排出ゼロ」に沿って削減を進めることとなります。一方で、地球温暖化防止を法律の目的の一つとしているFIT/FIP制度においては、ライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく評価を行い、火力発電の加重平均である1MJあたり180g-CO2電力に比べて70%以上の削減を求めています。この計算は、IPCCガイドラインなどとは別に、FIT/FIP制度で支援を受けている各発電所が尊守すべき持続可能性の一つの要素として、あるべき姿を求めているものと言えます。

この時のバイオマス発電の排出の計算には、燃料の原産国における栽培・加工から輸送、そして日本での発電工程までのライフサイクルGHGが含まれます。発電工程で発生するバイオマス由来のCO2は、IPCCガイドラインやEUなどの取り扱い同様、ゼロとしていますが、メタンや亜酸化窒素については計上が必要です。

回答者:相川高信 /PwCコンサルティング合同会社マネージャー

【需要家】複雑化する脱炭素対策 自治体の在り方問われる


【業界スクランブル/需要家】

ある自治体の地球温暖化対策に関する委員会を10年ほど前から傍聴している。

委員会には地域のエネルギー事業者、大口需要家、一般市民などが参加し、自治体の区域施策について活発な議論が行われるが、地域の主要なステークホルダーが一堂に会する中で、需要家が直接意見を述べることができる貴重な場となっている。毎回市民からは積極的な意見が寄せられ、自治体の取り組みに対し市民が主体的に関わる機会の重要性を認識している。

10年ほど傍聴を続ける中で、近年は市民の気候変動に対する危機意識が非常に高まっていることを感じている。その一方で、カーボンニュートラル実現に向けてエネルギーミックスや対策の在り方が複雑化しており、自治体の脱炭素対策に対する需要家の理解促進が一層必要であることにも気づく。

この点で、自治体による広報・啓発活動の役割はより大きくなっているが、資料や情報を需要家が認知し、確認、実行してもらうまでのハードルが高い実態もあるだろう。

筆者は最近、コミュニティデザインによるまちづくりの事例を聞く機会があった。コミュニティデザインとは、あるテーマに対するワークショップなどを通じて、住民を主体とした自走的なコミュニティ形成を促す手法である。

自走までの道のりは容易ではないが、人と人が関わりあうことによる取り組みの大きな波及効果が期待できる。

自治体からの一方通行の情報提供ではなく、こうした手法を活用し、需要家がより主体的に対策を取り組むことのできる環境づくりに大きな検討の余地があるのではないかと考えている。(K)

HP応用で効率的に蓄熱蓄電 大規模貯蔵を見据え技術開発


【エネルギービジネスのリーダー達】岩田貴文/ESREE Energy代表取締役

ヒートポンプ技術を活用した蓄熱蓄電システム「PTES」の技術開発を手掛ける。

今年度、環境省のスタートアップ支援を受けたことで、実用化への動きが注目されている。

いわた・たかふみ 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了後、2013年に経済産業省に入省。再生可能エネルギー政策、産業技術政策などを担当した。19年に退職し、起業から売却までを経験した後、23年5月にESREE Energyを設立。

「安価な長期貯蔵向け蓄電システム(LDES)を国内サプライヤーとともに製造して、経済安全保障の強化につなげたい」

こう語るのは、スタートアップ企業であるESREE Energy(エスリーエナジー)の岩田貴文代表取締役だ。昨年5月に創業し、ヒートポンプ(HP)技術を活用した蓄熱蓄電システムPTES(ポンプド・サーマル・エレクトリシティ・ストレージ)の技術開発を手掛ける。


容量1000MW時を構想 三つの課題に着手

同社が開発中のPTESは、HPサイクルとランキンサイクルという熱サイクルを組み合わせていることが特徴だ。再生可能エネルギー由来の余剰電力を活用してCO2のHPサイクルを回し、熱と冷熱を発生させ熱エネルギーとして一時的に保存。電力必要時には、加圧した液体のCO2をその熱で加熱して高圧の気体に変換し、タービンを回すことで発電する。タービン通過後のCO2は冷熱で冷まされ再び液体に戻る。貯蔵した熱と冷熱が蓄熱材に存在する限り、このサイクルを回して電力として取り出せる。

HPを活用することで、少ない電力から多くの熱を生み出せるため、充放電効率は高い。安価な蓄熱材を組み合わせ、低コストかつ高効率なPTESの開発を目指している。

再エネ導入量が拡大する中、効率的に大規模蓄電を可能とする脱炭素社会実現の鍵として、2030年度までの実用化を目標に掲げる。将来的には、1000MW時の蓄電容量を構想する。まずは小型実証でのPTESの原理検証、商用機のプラント設計、要素技術開発の三つに取り組み、足もとの課題をクリアした後に、パイロットプラント実証へと事業を進めていく方針だ。

昨年度始めた原理検証では、エアコンを用いた実験を行っている。原理がHPと同じエアコンは原理検証にはうってつけだという。具体的には、エアコンを冷房運転し、本体と室外機から排出される冷気と廃熱を蓄熱材に貯蔵。この熱エネルギーを用いて発電するというものだ。他方、安価な蓄熱材の開発については、大学と共同で研究を進めている。


官僚時代にエネ貯蔵関心 技術開発で問題解決へ

起業に至る問題意識が芽生えたのは、経済産業省に勤務していた時のことだ。13年に入省。資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部で、再エネの将来導入量の検討や発電コスト検証などを担当した。その頃、九州電力管内で出力抑制が実施される見込みとなったことから、再エネ併設型の蓄電池の導入補助に関する政策の策定にも携わった。その当時の経験から「再エネが増える中、エネルギー貯蔵は重要だ」と考えるようになった。

再エネ政策のほかには、産業技術政策にも携わった。この時、人口減少が進む日本では、技術革新が求められることになるだろうと強く感じるようになった。

再エネ、そして産業技術政策を経験したことで「エネルギー問題をイノベーションで解決することをライフワークにしたい」と思い立った。19年に退職し、障がい者雇用のデジタル化推進事業で起業。22年に同事業を関西電力に売却し、エスリーエナジーを起業した。

一般的にリチウムイオン電池が不向きとされる長時間の蓄電の技術には、揚水発電や圧縮空気貯蔵といった安価な手法があるが、これらには立地制約が伴う。蓄熱蓄電システムに着目したのは、立地制約が少なく、安価な蓄電手法となり得るからだ。ただ、一般に、蓄熱蓄電は安価である反面、充放電効率が低い。そこでHPの原理を活用するPTESに目を付けた。

「長期間、かつ大容量に貯蔵できるLDESは、変動性再エネの普及で増加する余剰電力を吸収するのに最適。競争市場で生き残るには低価格な製品でなければならない」と、安価な蓄熱材を組み合わせることで、トータルの設備コストを抑えられるPTESの可能性を強調する岩田氏。さらには、短期貯蔵向け蓄電システムの代表格であるリチウムイオン電池の生産で中国に依存してしまっていることを踏まえ、「国内サプライチェーンで製造できる体制を整える必要がある。経済・エネルギー安全保障の観点からも貢献したい」という。

実用化に向けて注力しているのはパートナー企業探し。1000MW時級では、サッカーコート三面ほどの蓄熱材の面積を必要とするため、大型プラントの建設に向けた技術や設備、知見の積み上げが急務だ。

「課題は山積み……」と苦笑いを浮かべつつ、どこか楽しげな表情で取材に応じた岩田氏は、電力部門の脱炭素化の課題を技術革新で解決へと導くことに強い意欲を見せた。

【再エネ】営農型太陽光の苦悩 基準クリアに壁


【業界スクランブル/再エネ】

昨今、農業分野においてエネルギー代金の高騰やスマート農業による電力需要の増加などを背景に、営農型太陽光発電への期待が高まりつつある。一方、その導入では二の足を踏んでいる。

営農型太陽光は、農地の上に比較的簡易的にパネルを設置するモデル。2013年以降、追尾型・一本足型・垂直型両面パネルなど日本各地で実証レベルの導入が進んだ。設備導入に必要な一時転用許可を得るためには、農作物の生育に適した日照量を保ち、農業機械などの利用が可能な高さであること、といった厳しい基準をクリアする必要がある。特に収穫量は従来の8割以上と定められ、これが難しい。太陽光と光合成に必要なタイミングの重なりや天候によって、想定される発電量に満たないことがあるからだ。

今年8月には許認可を得ずに営農型太陽光を設置する違反が342件に急増。さらに、許可を得た後に作付け作物を変更した割合は半数超という。最近では、パネルに使用される鉛やセレンなどによる土壌汚染防止にも配慮が求められるなど、課題は多い。

今後、より大規模な農地に普及させ事業性を確保していくためには、必要な日照量が少ない作物の上部に設置することがポイントとなる。例えばブドウは温暖化の影響で着色不良を起こす可能性が高いとされ、営農型太陽光との相性が良いと言えるだろう。適する作物や生育条件を明らかにすることが重要だ。ただし他地域で成功したからといってどの地域でも成功するとは限らない。農作物の生育条件は地域や気象条件によって大きく異なり、何より試験データの蓄積とガイドラインの整備が急務なのである。(K)

自前風力の地消目的で新電力参入 九州域内のニーズに手ごたえ


【事業者探訪】ワット

陸上風力発電事業を軌道に乗せ、再エネの地消にこだわる地域新電力として存在感を示す。

手堅いニーズを受け九州域内で供給を拡大。再エネを原資とした地域活性化の絵を描く。

地域新電力の経営モデルでは、自治体が出資するケースが一般的だが、鹿児島県薩摩川内市には一味違った事業者が存在する。九州電力・川内原子力発電所の立地地域で陸上風力12基を運営するワットは、地産地消の本格推進を目的に、2022年に電力小売事業に参入した。市や大手企業などの資本参画なしに、自前で再エネ100%電気の供給拡大を目指している。

久保常務。手元は自社販売の焼酎

同社は06年、環境・リサイクルビジネスを営んでいた永田善三代表が、再生可能エネルギー分野に新規参入すべく設立した。社名は、電力の単位のWと、「Wind(風)、Amuse(楽しませる)、Tackle(取り組む)」に由来する。FIT(固定価格買い取り)制度検討前から風力発電事業を計画し、資金調達や系統接続、環境アセスメントなど建設までに時間を要したが、14年10月に念願の運転開始に至った。

現在グループ会社が運用する「柳山ウインドファーム(WF)」は出力2・76万kW(2300kW×12基)、年間発電量は約5000万kW時で、全量FITで売電する。市内外の視察や環境学習、九電主催の原発と併せた視察ツアーの受け入れ、売電収入の一部地域還元などに取り組み、周辺では風力開発を巡るトラブルも発生しているが、柳山WFは地元に親しまれつつ10年間稼働を続けてきた。

発電事業が軌道に乗る中、ある日見学に来た児童が「この電気はどこに行って誰が使うの?」と質問。この問いかけで、地場電源は地消してこそ、と改めて思い至った。トラッキングの仕組みができたこともあり、2年前、自社再エネを地域に供給する事業基盤を整えた。

県内にはいくつか地域新電力があるが、再エネへのこだわりは同社が随一だと自負する。加えて、原子力や火力なども含めバランスの取れたエネルギーミックスが必要とのスタンスだ。

常務を務める久保信治・企画戦略室長は、市の次世代エネルギー対策監などを経て、数年前に入社。今は民間の立場で、「地域のさまざまな困りごとを再エネ100%の電気を活用して解決したい。そして新ビジネス創出による地域貢献を目指したい」と展望を描く。


全量実質CO2ゼロで供給 県外に多くの需要家

小売事業は市場価格高騰という厳しい環境下での船出となったが、同時期に倒産した県内の有力新電力の需要家を受け入れたことが、むしろ事業開始の後押しになった。同社が販売する「W(ダブル)電力」は、特定卸供給で柳山WFの電気を調達し、全量再エネ指定非化石証書付きでCO2排出実質ゼロの電気として供給する。「顔の見える電力」がコンセプトの在京企業のバランシンググループ(BG)を活用している。

柳山WF。すぐそばには原発や火力が立地する

プランは2種類で、「RE100プラン」は原則FIT電気100%で、九電の標準料金を下回る水準に抑えた。もう一方の「バリュープラン」はさらに価格を抑え、電源の2割は市場調達などで賄う。販売量は初年度約680万kW時からスタートし、23年度が約2330万kW時、24年度は約4500万kW(予定)と順調に拡大中だ。契約件数は今年9月時点で1000件超となり、国・県・自治体施設、法人、個人と幅広く供給する。

特徴は、地域新電力でありながら県外の需要家が多い点。グローバル企業にとって再エネ調達が課題となる中、同社のプランが貴重な選択肢となっているのだ。熊本県内の半導体や自動車関連工場、そしてゼロカーボンを目指す佐賀県小城市など、供給先は九州域内に広がっている。逆にお膝元では、地域の雇用に原発が欠かせないこともあり、切り替えに慎重な傾向が強いという実情もある。

【火力】不安残す電力需給対応 最善策の検討重要


【業界スクランブル/火力】

今年は9月に入っても厳しい残暑が続き、第3週には東京エリアで電力需給ひっ迫の可能性があるとして、電力広域的運営推進機関から東京電力パワーグリッドに対し、電源の作業停止計画の調整を行うよう要請が出された。発電事業者の協力もあり電力の供給支障は避けられたが、最善の策だと思えない。

電源の作業停止は、内容がさまざまとはいえ、設備の安定運用に関わるものであり、秋口に需給が緩むのを待ち構えて予定されることも多い。作業停止の日程が変更された場合、延期した作業内容を適切にリカバーしないと、設備の信頼度に悪影響を及ぼすだけでなく、準備作業や技術・作業員を確保するためのコストが無駄になってしまう。

現行の問題点は、一般送配電事業者からの要請が直前にならないと確定しないことだ。時間的余裕があれば、複数の対応策から最善の策を選びだすこともできるだろうが、こんな出たとこ勝負のやり方では融通を利かせることなどできるはずもない。泥縄の安定供給確保策のためのコストは結局、需要家へ負担となって跳ね返ることになる。

発電設備の補修計画を最適化するためには、週間や月間といった時間軸で需給状況を予測・調整する仕組みが必要だ。しかし、調整力の市場改革の議論では、再エネの予測誤差を抑えることばかりに注目が集まり、約定のタイミングを実時間に近づける方向となっている。さらに、システム改革で各部門間の情報が遮断されては、作業日程を調整しようがない。

競争の効果を否定するものではないが、情報共有の在り方について全体最適の視点から再検討をすべきだ。(N)

エネ産業のダイナミズム 過去から現在を振り返る


【リレーコラム】伊藤 剛/EX4Energy株式会社代表取締役社長

2011年の東日本大震災震災前、私は電機メーカーの海外展開支援を担当し、米国や欧州で規制当局と交渉しながら、現地のスタートアップやユーティリティ企業との提携を通じた事業開発を推進していた。

当時、日本では電力自由化の影響は限定的で、主な競争は電気とガスなどエネルギー間競争に限られ、スタートアップの影響は限定的だった。

しかし震災後、状況は一変してしまった。これを契機に日本の電力システム改革は急速に進展し、再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取)制度が導入されたことで、特に太陽光発電を中心に再エネが急速に普及することとなる。

エネルギー市場の自由化が進む中、スタートアップは重要な役割を担うようになり、その変化を実感した。17年には「エネルギー産業の2050年 Utility 3.0へのゲームチェンジ」という書籍の共著者として参加し、その出版記念イベントではサムライインキュベートの榊原健太郎代表取締役に登壇していただいた。この瞬間は、エネルギー産業の変革を象徴するものだった。

その後、私はコンサル業界を離れ、スタートアップとしてエネルギー業界に本格的に関与するようになった。すでに多くの先行スタートアップが業界で重要な役割を果たしており、私たちもまた、より良いエネルギー産業を創出するために活動している。


エネルギー業界は大きく変貌

この道のりを振り返ると、00年代初頭の電力自由化の初期段階を思い出す。当時、情報通信産業が急速に革新を進める一方で、エネルギー業界の変革が遅れていることにいら立ちを感じていた。一方、公益事業者としての責任感や社会インフラを支える企業の重要性に気付かされた。

当時、エネルギー業界は「退屈」と見られ、変化が少ない業界であったが、現在では急速な技術革新と気候変動対策の要請により、ダイナミックな産業へと変貌を遂げた。エネルギー業界は今や、社会や産業の変革を左右する重要な役割を担っているが、急速な変化に伴うリスクも存在し、かじ取りを誤れば業界全体が混沌と化す可能性も秘めている。

私たちはこのダイナミズムをチャンスと捉え、持続可能なエネルギーインフラを構築し、新たな社会を支える基盤の構築を目指している。この新しい時代において、私たち一人ひとりが果たすべき役割は大きく、「より良い未来を実現するために、共に挑戦していきましょう」。

いとう・たけし 20年以上、国内外における環境エネルギー分野のコンサルティングビジネスに従事し、「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」の出版を契機に起業する。

※次回は、リゾナンシアの関口美奈代表です。

【原子力】原子力活用が世界の主流 石破首相の理解度は


【業界スクランブル/原子力】

石破茂政権下での衆院選である。自民党のある議連が行った総裁選立候補者9人への原子力に関するアンケートによると、国を任せられないとの評判が固まりつつある元首相の息子が回答拒否したことを除く8人の中で、石破氏は最も消極的であった。立地地域の避難道路の整備や規制行政の改革、核燃料サイクルの堅持にも回答がなかったようである。2021年の総裁選立候補者と比べて今回の候補者の意見は原子力利用推進へかじを切る傾向が強かったが、石破新首相の所信表明演説では「安全を大前提とした原子力発電の利活用」という分かり切った一言だけで、原子力依存比率を高める新増設には言及がなかった。

先進国の原子力回帰と新興国の原子力導入の流れは明白で、昨年発表された世界の原子力発電容量の「3倍宣言」は25カ国が支持した。かかる情勢を石破首相は把握していなかったのであろう。なぜなら石破氏はこれまで非主流派で強い派閥を持たず、党員票稼ぎの地方行脚に忙しかった。さらに総裁にはなれないとの憶測から官僚がレクを行わず、情報源はマスコミが主だったからではないだろうか。石破氏はほかの政策においても、偏った情報の下で聞こえの良い政見を示して来た。しかし予期せぬ当選で突然に助言が入り始め、混乱を招いている印象がある。

日本が脱炭素を実現するには、福島第一原発事故の反省から圧倒的に安全性を強化した原子力発電の規模を増やさなければならない。エネルギー政策当局による強力なレクを切望するものである。

本号が発刊される時期には衆院選の結果が出ている。大いに注目したい。(H)

GX実現へ電気加熱に熱視線 先進的な技術動向を発信


【エレクトロヒートシンポジウム】

GX(グリーントランスフォーメーション)に向け、電気を熱エネルギーに変えて加熱・冷却する技術「エレクトロヒート」が注目されている。こうした中で日本エレクトロヒートセンター(JEHC、内山洋司会長)は、「電気のチカラでGXに貢献めざせ! 世界をリードする脱炭素技術」を掲げ、第19回エレクトロヒートシンポジウムを11月1日から1カ月間、特設ウェブサイトで開催。官民の関係者が、電気加熱の最新動向を発信する。

高効率のヘキサゴンGX

基調講演には、経済産業省資源エネルギー庁戦略企画室の小高篤志室長が登壇し、GX2040ビジョン、第7次エネルギー基本計画の方向性を解説。徹底した省エネを前提に再エネ利用の拡大や原子力発電の再稼働を促す必要性を説くとともに、火力の脱炭素化を訴えている。その上で小高氏は、日本企業が強みを持つ加熱やヒートポンプなどの電化技術に触れ、「欧州やアジアの電化需要を取り込み、予算を付けて日本の経済成長につなげる」と述べる。

特別講演も見どころ。製造業関連の女性経営者らで構成する団体「ものづくりなでしこ」(東京都台東区)の渡邊弘子代表理事(富士電子工業社長)が、「熱処理技術におけるSDGs」や「ダイバーシティ経営の推進と具体的な取り組み」などについて語っている。また、三菱総合研究所の高木航平研究員よる、カーボンプライシング制度についての解説もある。

技術発表の視聴コーナーでは、多彩な電化技術や利用事例約10件を紹介。例えば業務用厨房機器メーカーのフクシマガリレイ(大阪市西淀川区)は、IoTで多様な機器データを一元的に管理するIoK(インターネット・オブ・キッチン)の活用事例を発表。厨房内の温度や電力消費量、衛生管理の状況を可視化し、現場の作業環境の改善につなげる。

ダイキン工業は、新型熱源機器「ヘキサゴンGX」を披露する。オールアルミ製の熱交換器を搭載し、業界トップクラスの省エネ性を実現するヒートポンプだ。加えて遠隔監視制御とシステム性能の診断サービスで効率的な運用をサポートする。


学生向けコーナーも目玉 次世代の担い手に期待

ウェブサイトには、エレクトロヒートの次世代を担う学生向けコンテンツ「エレクトロヒート業界大図鑑」も掲載。大学によるGX貢献技術の研究展示や企業の若手職員へのインタビューなどを視聴できる。JEHC担当者は「将来を担う学生にもぜひ見てもらいたい」と話している。

【シン・メディア放談】瞬く間に迎えた衆院選 石破カラーはいつ発揮されるか


<メディア人編> 大手A紙・大手B紙・フリーC氏

新政権発足から衆議院選まで矢のような速さで過ぎ去った。

一連の動きを記者はどう見たのか。

―本座談会は10月9日の衆院解散翌日に開催。中途半端な時期だが、まずは総裁選~組閣に関する感想を聞きたい。

A紙 石破茂首相は当初の「原発ゼロ」発言が尻すぼみになった。また、閣僚は年齢層高めで女性が少なく、特筆すべき点がない。これなら岸田文雄首相のまま、あるいは斎藤健経済産業相続投でも良かった。エネルギー政策に大きな変更はなさそうだが、次の第7次基本計画で「原発依存度低減」を削るのならば、もっと人選に力を入れるべきだった。

B紙 5回目の総裁選で時間はたっぷりあったはずなのに、石破首相肝いりの人事は村上誠一郎総務相のみだった。エネルギーに関する振り付けは平将明デジタル相が行っているようだ。平氏は党の「フュージョンエネルギー(核融合)プロジェクトチーム」座長を務めた。武藤容治経産相は今のレールに沿って無難にこなしていく感じだ。

C氏 それにしても、総裁選で多くのメディアが小泉進次郎フィーバーに加担したことは良くなかった。刷新感といってもバックは長老。出馬会見では、過去の失敗に突っ込まれないよう、党農林部会長や環境相などの経験にほぼ触れず仕舞いだ。本来なら石炭火力の話などを語るべきだったろう。さらに、実は参加する記者を恣意的に選んだとの話もあるが、この点も大手メディアは報じなかった。

B紙 今回の総裁選は一応派閥がなくなったことで、政治部の票読みも手探りだった。小泉氏の後ろには重鎮もいて、小泉優勢の見方はぬぐえなかった。また、会見を巡っては質問を事前に出すよう求められることもあったようだ。


野田氏今一つ、玉木氏覚醒? 選挙後は政局へ

―肝心の選挙については、自公で過半数となるかどうか―。

C氏 旧安倍派が多く落ちたほうが、石破カラーは出しやすいはず。他方、そこで頼りにするのが岸田前首相で、エネルギーについてはやはり現行路線踏襲だろう。ただ、石破首相で柏崎刈羽原発を動かせるかは疑問。嶋田隆氏のように突破力のある人は今の政権に見当たらない。

A紙 自公過半数ぎりぎりならば、石破首相の独自路線は選挙後も出なそうかな。来年には参院選や東京都議会選などが控える中、先を見据えた運営をしないと苦しくなる。

B紙 また、公明としては、創価学会の池田大作氏の死去後初の選挙になる。しゃかりきになり、特に近畿では落とせない中、どれだけ議席を取れるのか注目している。いずれにせよ、選挙後は完全に政局になる。