〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス
原発回帰とCO275%削減で決着したエネ基。
日本経済にとっては妥当な決着だった。
─第2次トランプ政権が発足した。皆さんの業界も戦々恐々としているのでは。
電気 いや、特には(笑)。
ガス 同感だ。
石油 私も。
電気 輸出産業ではないので影響を受けにくい。国内景気が関税や米国からの投資減で伸び悩めば、需要は減るかもしれない。その辺りが少し気になるだけ。
石油 環境政策にしても、アメリカがパリ協定から抜けたからといって日本や欧州諸国が続くわけではない。トランプ政権の4年間は脱炭素に向けた流れが緩やかになるというだけの話。トランプ氏の復活以前から、欧州では急進的な環境政策からの揺り戻しが起きていた。
ガス ただ資源価格の不透明感は増す。トランプ氏は全ての国に一律10~20%の関税をかけると豪語するが、相手国としてはアメリカ産の石油や天然ガス購入が交渉カードになるかもしれない。年末には欧州の一部の国で、ウクライナ経由のロシア産ガスの供給が止まった。
─日本の場合、アメリカからの購入量を増やすのはエネルギー安全保障上、悪くないのでは。
ガス そういう声は多いが、急に増やせるものではない。既に他国との契約で一杯で、購入できる量は限られている。
電力 市況で言えば、中国リスクが大きいのでは。景気減速が進む中、トランプ関税で追い込まれれば、需給バランスが一段と緩みかねない。
石油 日経電子版は、毎日ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の市況をコメント付きで掲載している。昔は滅多に見なかったが、ここ5年は中国ファクターが頻繁に書かれるようになった。原油価格は地政学リスクで一時的に跳ね上がる可能性はあるが、脱炭素もあって供給優位という長期的なトレンドは変わらない。
亡国から救国へ ガス・石油も納得
─まもなく第7次エネルギー基本計画が閣議決定される見込みだ。
電力 電力需要増が騒がれたが、あくまで電力の話。ガスや石油の需要が増えるわけではない。実際にエネ基を読んでも電力に主眼が置かれていて、「電力基本計画」のようだ。
石油 時代の潮目を感じたね。前回が「亡国のエネ基」なら、今回は「救国のエネ基」だ。第6次は書き出しが福島事故と気候変動対策だった。ただ今回は最初にエネルギー安全保障がドーンと書かれている。そして原発依存度の「可能な限り低減」削除と建て替えの条件緩和。朝日や毎日、東京は「国民的議論なき原発回帰はけしからん」という論調に終始していたが。
電力 朝日は相変わらず「福島事故を忘れるな」という感情論が多いね。投書欄じゃあるまいし、現実を踏まえた「論」を書いてくれ。
ガス 基本政策分科会の委員は原発推進派が多かった。あのメンバーで議論すれば結論は見えている。と同時に、日本は今回のような結論にせざるを得ない環境に置かれているのも事実。メディアにはそういうリアルを書いてほしいのだが。
石油 その点、読売の書きぶりはあっさりだった。事実を並べるだけで〝正力(松太郎)イズム〟は感じられない。頑張ったのは日経と産経。経済誌はエネ基に紙幅を割かなかった。
ガス エネ基全体のボリュームは落ちているが、電力とガスの個別の記述割合は変わっておらず一安心だ。業界として書いてもらいたいことはほぼ網羅されていたと思う。脱炭素技術があまり進展しない技術進展シナリオでは、LNGの供給量は40年度で7400万t程度だった。これはかなり現実的な数字だ。
石油 LPガスではrDME(バイオ由来ジメチルエーテル)を混入した低炭素LPガスの導入に触れていた。ほんの2行の記述だが、将来の補助金につながるので「書かれた」という事実が重要だ。
原理主義者に惑わされず 「下に凸」はあり得ない
─政府の温室効果ガス(GHG)削減目標が「35年度60%減(13年度比)」で決着。審議会は大荒れだった。
ガス 年末に急きょ3日間かけて集中審議が行われたが、結論は変わらず。環境原理主義者に惑わされずに良かった。環境省と経済産業省を褒めたい。
電力 環境派は「結論ありき」と言うが、イデオロギーで主張する以上、納得の上で決めるのは無理だ。
石油 とにかく、国連にNDC(国別目標)を提出する必要があるんだからさ。右も左も批判する気持ちは分かるが、こればかりは仕方ない。
電力 13年度を起点に50年GHG排出量ゼロに向けて「直線」を引いた例のグラフがある。60%減はその直線上に位置するが、環境派は「下に凸」を求める。一方で私のような現実派は「いやいや、上に凸だろう」と主張する。となれば、やはり結論は直線上の60%しかない。
ガス 下に凸になるとしても、技術が進展した45年付近の話。そもそも30年46%減も怪しいのに、そこから5年で14%も積み増せるわけがない。66%減や75%減となれば電力不足に陥るだろうし、電気代は急騰。日本経済は崩壊してしまう。
電力 原発報道にも言えるが、自分たちに都合の悪い結論が出て「結論ありき」「議論が足りない」と叫ぶのは左派系メディアの伝統芸。もう飽き飽きしている。
─「オントラック」はいつ脱線するのか。