人口減直視し経営の維持・発展へ ガス外収益確保にも積極姿勢


【事業者探訪】若松ガス

会津若松市が消滅可能性都市とされる中、持続可能なガス供給の在り方を模索する。

エネルギー事業でさまざまな打ち手を繰り出しつつ、ガス以外の新規事業にも力を注ぐ。

若松ガスは今年、設立から65周年を迎えた。お膝元の福島県会津若松市は、幕末の激動に巻き込まれた会津藩ゆかりのスポットや東山温泉などが有名な観光地。都市ガス販売では観光施設など大口需要の割合が大きい点が特徴で、郡山市や福島市を中心にLPガス供給も手掛ける。

経営体制を巡っては2005年に転機があった。元々はオーナー企業だったが、経営不振により新体制で再建を目指すことに。再建を委ねられた会津出身の弁護士が旧昭和シェル石油(現出光興産)の顧問弁護士でもあった縁で同社が出資し、昭シェルとして初めて都市ガス会社を傘下に持つこととなった。現在の小山征弘社長も出光から出向している。

地域課題を踏まえ布石を打つ小山氏


地域が消滅可能性都市に さまざまな工夫を模索

会津若松市内を中心とする都市ガスの販売量は1700万㎥ほどで、業務・産業用が6割を占める。小山社長は「会津若松は今春、人口戦略会議が発表した消滅可能性都市に初めてリスト入りし、現在の人口11・2万人が2050年には35%減少する見通し。これを現実として受け止め、当社が維持・発展する道を模索しなければならない」と強調する。ただ足元では、市内には銅加工事業や、国内向け医療用内視鏡の大部分を製造する工場が立地しており、都市ガス販売面では工業用需要が人口減を補う形で伸びている。

注力するのは石油からガスへの燃料転換、そしてカーボンニュートラル(CN)の提案だ。LNGやLPガスの供給元から、それぞれオフセットしたCNガスを調達する。実際のニーズはどうかというと、予想以上の関心の高さのようだ。「今は学校教育でSDGs(持続可能な開発目標)を取り上げ、『SDGsに取り組まない会社には就職したくない』という若者が増えている。大企業だけでなく、地元工場の経営者などが採用活動の側面でもCNガスの導入に積極的だ」(小山氏)と驚く。

一方、LPガスは家庭向けで人口減の影響が大きく、新規顧客獲得の努力で販売件数を維持している。そして目下、LPガス業界の商慣行見直しが大きなテーマとなり、同社も6月末に取り組み宣言を行った。液化石油ガス法の省令改正を踏まえ、今後は三部料金制の徹底などに加え、集合住宅オーナーやメー

カーとの信頼構築に向けた工夫が問われる。福島県中通りは南北から県外事業者が入り込み、競争が激しいエリアだが、「郡山など人口減が緩やかな都市部で集合住宅自体を所有し、競争にさらされない形を目指すことも必要だ」(同)と考える。

さらに現在、電力事業は出光の取次として行うが、LPガスの状況や今後の電化シフトを踏まえ、自社ブランドでの電力小売りの必要性を意識している。

【火力】車も発電も使い勝手 過渡期は現実的な選び方を


【業界スクランブル/火力】

最近になって自動車業界では、世界的にEVの普及が鈍化する一方、ハイブリッド車の売れ行きが好調だという。EVのメリットとして部品点数が少ない点が挙げられるが、エンジンとモーターの両方を載せ、ガソリン車と比べても部品数が一番多いハイブリッド車が優勢になるというのも不思議なものだ。

結局、EVは「走行時にCO2を出さない」というイメージが先行し、航続距離の短さや充電に時間がかかるといった使い勝手の悪さを克服しきれていないことが人気に陰りが出た理由なのだろう。

発電事業でも同様のことが言える。カーボンフリーを実現できるとされる太陽光発電や風力発電であるが、供給が「お天気任せ」というのは何とも心もとない。それならバッテリーにため込めばよいとなるのだが、必要な量のバッテリーの設備量は膨大となり、自動車のように重量の制約こそないもののコスパが悪化するのは避けられない。

しかし、燃料が不要である自然変動電源は、とても魅力的であり、火力発電との組み合わせで効率的に再生可能エネルギーの変動性を克服できるのであれば、それが一番なのではないか。過渡期においてハイブリッド車が選ばれるように、「火力と再エネ+バッテリー」の最適な組み合わせについて、正面から検討すべきであり、設備の二重投資になるからと言って再エネ+バッテリーか火力発電かという二者択一問題として論ずるべきではない。

将来的には、自動車も発電もカーボンフリー燃料の利用を視野に入れている。使い勝手を考えながら、新技術と既存技術の融合を目指す点も共通しているのである。(N)

【原子力】リプレースは大きな誤り 運転延長と新増設こそ王道


【業界スクランブル/原子力】

福島第一原発事故で東京電力が事故炉4基に加え、津波から生き残った6基も福島県の要求に従い廃炉したことは、事故発生の報いでやむを得なかったと考えよう。だが、ほかの電力会社が合計11基を廃止したことは誠に残念である。これは新規制基準への対応費用が莫大で、事故後に急展開した全面自由化の中で勝ち残れないとの判断によるものだった。

しかし、現在は長期脱炭素電源オークションで既設の低炭素電源を改修し運転継続するならば、その投資回収を支援する制度ができた。これを自由化と同時に導入していれば、状況は違ったはずである。温暖化対策の要請が強まることやエネルギー自給率が重要なことは分かっていたし、ロシアのウクライナ侵攻が日本経済に悪影響を及ぼしている現状を見れば、不完全な形で全面自由化をスタートさせたエネルギー政策の失敗は明白である。

発電設備と送配電設備の投資時期を調整して適切に設備形成に努めて来た電力会社を発送電分離した結果、その財務体質は著しく悪化した。それにもかかわらず、今日あらゆる方面からリプレース推進を訴える主張が聞こえるのは驚きである。

既設炉を長く運転し、営業キャッシュフローを稼いで初めて新規建設への投資キャッシュフローを得られることは、経営のイロハである。新増設したければ今以上の廃炉は厳禁で「運転延長・新増設」という組み合わせこそ正しい。

電力会社の経営判断がそのまま国内産業と家計の行方を左右すると自覚し、新増設が必要ならば、まずは既設炉の運転延長を実現しなければならない。(H)

ネットゼロ達成に使命感 クリーンな電力供給を拡大


【リレーコラム】益子 雄一郎/のぞみエナジー事業開発ディレクター

日本人の10人中9人が「脱炭素」や「カーボンニュートラル」などの用語を知っており、国全体で取り組むべき喫緊の課題と認識する。しかし、そのうちの6割、特に若い世代は、脱炭素の実現に生活をどう変えればいいか分からないと言う。実際、「グリーニアム」という持続可能なものに対し高い価格を払うことをいとわない欧米と異なり、彼らは低炭素製品が節約に役立つ場合に興味を示す。

逃れようのない結論は、日本が2050年のネットゼロ目標を達成するためには、エネルギー業界に従事する私たちが動かさなければならないということだ。排出量を最も迅速に削減する方法は、電化を推進し、クリーンな電力を供給することだ。その一部は原子力発電になるだろうが、大部分は再生可能エネルギーの供給が必須であり、30年には国の発電の36~38%を占めると期待される。

これが、太陽光発電や陸上風力発電、蓄電池システムを展開する再エネプラットフォームであるのぞみエナジーの使命である。27年までに1・1GWの発電を目標とし、設立からわずか1年余りで600MW以上のプロジェクトを積み上げ、4月に日本初となる長期脱炭素電源オークションでプロジェクトを獲得した。これほど早くにこれだけの成果を上げた再エネ事業者は日本では他にいないと認識している。


国際的な視点で競合にリード

迅速に取り組むことができている理由は二つある。第一に、豊富な経験を持つ一流のメンバーを集めたこと。第二に、持続可能なインフラへの投資において世界をリードする英アクティスから支援を受けていることである。アクティスからはさまざまな見識を得るだけでなく、再エネポートフォリオを構築・運営するために、5億ドル(約800億円)の投資コミットを受けている。

さらに、もう一つの要因は、国際的なチームであることだ。CEOはスペイン人、CTOはオーストラリア人、COOはカナダ人、副会長が日本人。どのスポーツが最高かについては意見が一致しないが、世界中のベストプラクティスや最新の技術を取り入れることが、他の競合他社よりも容易である。

私たちが取り組んでいる分野の一つに、再エネプロジェクトや蓄電池システムのオフテイク契約に関する企業との交渉がある。企業のサステイナビリティ目標達成を支援するため、商業、技術、財務的な観点から解決策をカスタマイズする専門チームがさまざまな業界の大企業と協働することで、日本の脱炭素の実現に貢献していきたい。

ましこ・ゆういちろう 2011年慶應大学卒業。大手電力会社、外資系コンサルティング会社、大手金融機関などを経て、のぞみエナジーへ参画。再エネや蓄電池システムのオフテイク契約などの事業開発を担当。

※次回は再生可能エネルギー推進機構の三宅成也代表取締役社長です。

【石油】延長の燃料油補助金 続く迷走に年内終止符か


【業界スクランブル/石油】

「一定期間延長」とされていた燃料油価格を抑制する補助金について、岸田文雄首相は6月の記者会見で、「年内に限り実施」と明言。同時に発表された政府の骨太方針では「早期の段階的な終了に向けて検討」とされた。年内終了と考えるべきだろう。

「年末時点で岸田さんは総理なのか」「灯油需要期に廃止できるのか」といった声も聞こえてくる。ドライバーはともかく灯油を利用する家庭やハウス農家、漁業者にとって補助金は家計への大きな支援であったに違いない。

しかし、①市場経済への介入、②8兆円に上る巨額財政支出、③脱炭素政策への逆行―といった点で筋の悪い補助金だっただけに、年内終了の発表に安堵の声が多いようだ。石油業界にとっても補助金は通り過ぎるだけであり、「お荷物」の感もあった。

問題は、終了時点のドル建て原油価格と円ドル為替レートだ。原油輸入価格とガソリン小売価格の連動性は回復すると考えられるからである。前者はIEAの需給緩和予想やOPECプラスが自主的追加減産の10月以降の緩和で合意した動きなどを材料に、年末に向け弱含むとの観測がある。後者は米国の利下げと日本の利上げ時期との関連で円安に歯止めがかかるか微妙だろう。トランプ前大統領は円安を嫌っているとされる。

7月第1週の補助金は、1ℓ当たり28・4円、補助金がない場合のガソリンの予想価格は同203・2円。現状の原油価格と為替が続けば、補助金相当額が段階的に値上がりし、ガソリンの店頭全国平均価格は200円強になろう。補助金に限らず政策や制度も始めるのは簡単だが、終わり方が難しい。(H)

【シン・メディア放談】敦賀2号機は盛んに報じるのに…… 需給ひっ迫を「無視」する朝日・毎日


<業界人編> 電力・石油・ガス

新聞媒体によって電力需給を巡る報道に大きな違いが。業界関係者の評価は。

─夏本番を前に、早くも電力需給がひっ迫した。7月5日に関西電力送配電が全国の送配電5事業者から最大138万kW、8日には東京電力パワーグリッド(PG)が中部電力PGから最大20万kW、関電送配電が同じく中電PGから最大36万kWの電力融通を受けた。

石油 斎藤健経済産業相は9日日の閣議後会見で「電力需給は予断を許さない状況と認識している」としつつも、節電要請は行わないと従来の方針を維持した。8日の東京都心の最高気温は36℃。朝に東電の「でんき予報」を確認すると、使用率が99%となっていた。でんき予報を頻繁にチェックしていた人は14時ごろ、瞬間的に100%になったのを見たとか。

電力 結果的に、小売事業者が供給力を融通する「発動指令電源」や火力発電所の増出力運転などで乗り切ったが、真夏が思いやられる。


原発再稼働の声を恐れたか 関係者困惑の補助金「復活」

石油 翌日の朝刊を見て驚いた。朝日・毎日には需給ひっ迫を報じた記事がない! 東京にしても東電管内の需給ひっ迫だというのに、共同通信の記事を載せただけ。東京は昨夏、「史上最も暑い夏だった……なのに電力ひっ迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?」との記事を掲載した。今回の需給ひっ迫を目立つ記事にすると、読者から原子力発電所の再稼働を求める意見が出てくるかもしれない。それを恐れて、あえて触れなかったのではないかと勘繰ってしまった。

ガス 朝日や毎日、東京が力を入れるのが、大詰めを迎えた敦賀2号機の適合性審査に関する記事だ。中でも東京は、日本原子力発電を悪者に仕立て上げているかのような記事が目立つ。

電力 反原発の立場からすると、需給ひっ迫は敦賀2号機の審査行き詰まりに「水を差す」出来事なのだろう。右も左も、もう少しバランス良く報道したらどうか。

ガス 需給ひっ迫のニュースを見ると「これ以上、再生可能エネルギーは必要なのか」との疑問が湧く。発電比率で火力や原子力がもっと大きな割合を占めていれば、こんな事態にはならないのでは。

電力 次期エネルギー基本計画は、電力需要が最も伸びるシナリオでも、前回より高い再エネ比率を設定する「縛り」があるかもしれない。エネ基は議論の終盤で数字が変わることがあるし、もし河野太郎首相が誕生すれば、これまでの議論を白紙撤回しかねない。

ガス 河野氏は怖いが、いま名前が挙がっている自民党総裁候補なら、河野氏以外の誰が首相になっても路線変更はないだろう。それなら岸田文雄首相の続投で良いのだが……。

─政府が8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を発表した。5月に終了した補助金があっけなく「復活」した格好だ。

石油 「だったら5月にやめるな」としか言いようがない。開いた口がふさがらないよ。

ガス 料金補助が終了する間際、自民党の木原誠二幹事長代理が継続に向けて水面下で動いていたと聞いた。奏功しなかったが、通常国会の閉会間際に行われた党首討論で立憲民主党の泉健太代表が、「エネルギー補助金は続けるべきだった。復活すべきでは」と発言。その直後に岸田首相が「復活」を命じたのだろう。朝日が報じていたが、経産省の幹部が「急な話で、びっくりしている」と驚くのも無理はない。

石油 もはや激変緩和策ではなく、「福祉政策」だ。国民にとってはありがたい話だが、必ずどこかにツケが回る。

電力 昔から指摘されているが、福祉政策を電力・ガス料金でやるべきではない。貧困家庭の電気代に特別料金の設定を求められた時、電力会社や経済学者はこう反論した。低所得世帯への給付金や減税など、ほかの手段はいくらでもある。


補助金批判の記事少なく 航空燃料不足で石油業界は

ガス 不思議なことに、補助金について批判的な報道はあまり見ない。批判したとしても、記事の最後で「財政健全化が遠のく」と軽く触れる程度だ。電力さんが言ったような分析的反論は目にしないし、「脱炭素に逆行する愚策」と論陣を張る大手メディアはない。国民の中には、過去最高利益を消費者に還元しない電力会社が「悪」、補助金を恵んでくれる政府は「善」と捉える人もいるかもしれない。

─石油さんに聞きたい。航空燃料の不足が大々的に取り上げられている。

石油 業界内部の人は、「こんな問題があったんだ……」とポカーンとしている人が多い。というのも、これはエネルギー問題というより、物流2024年問題だ。垣見油化の垣見裕司社長がブログで解説しているが、航空機に給油するまでには、まず元売りが原油を精製し、燃料を製造する。それをタンクに貯め、内航船で油槽所に運び、そこからタンクローリーなどで空港のタンクに運ぶ。そこで一度貯油し、ようやく航空機の運航に合わせて1機ごとに給油する。今は内航船の船員や空港職員の数が減り、元売り以降の流れが滞っているというわけだ。

ガス 物流問題となれば、今後はジェット燃料以外にも波及する可能性がある。安定供給に支障をきたしているのだから、エネ基の議論に盛り込んだ方がいいんじゃないか。

─持続可能な航空燃料(SAF)で低炭素化しても、運べなければ意味がない。

【ガス】30年頃終了が多数 LNG長契に予見性を


【業界スクランブル/ガス】

第7次エネルギー基本計画の議論が開始され、各種審議会や分科会で「予見性」という言葉をよく耳にするようになった。2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、再エネや原子力の稼働増などにより、発電事業者らがLNG長期契約を結びにくくなっている、との意見から、安定的にLNGを確保するためには何らか政府の支援施策が必要ではないか、との指摘である。

供給リソースの多くがLNGである都市ガス事業者にとっては、より深刻といえる。LNGの長契は、30年頃に契約が終了するプロジェクトが多数存在する。新たに50年以降も続くような長契の締結は、今後のe―メタンの技術開発やCN社会の進展によっては座礁資産になる可能性があり、民間企業の判断では意思決定がしづらい。

とはいえ、将来LNGがもっと必要となった時に中国や欧州に買い負け、高額なスポット調達を強いられることは避けたい。審議会などで有識者からは「長契は余剰を抱えるリスクがあるが、日本経済にとっては不足する方がリスクが高く、積極的にそれを検討できるような施策が必要」などの声もあれば、「余剰が発生してもアジアやグローバルサウスに転売できれば大きな損失にはならないのでは」との支援不要論もある。

LNGに余剰が出るほどCNが進んだ際の転売価格はどの程度なのか。やはり予見しづらいことに変わりはない。また、今は座礁資産化や転売損などが課題視されるが、CN社会で化石燃料を他国に販売することに「レピュテーションリスク」はないのか―。「予見性」ではあらゆるリスクの想定が必要だろう。(Y)

台湾から学ぶエネルギー戦略 安定供給確保でリスク避けよ


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

他国のエネルギー政策を見ることは自国を考える上で大変参考になる。特に台湾は、2024年1月の総統選挙も終わり、中国との緊迫する情勢をどう乗り切るかが注目される中、エネルギーの安定供給は極めて重要な課題となっている。

現在、台湾はエネルギー消費の約97.8%を輸入に依存し、エネルギー自給率はわずか2.2%にとどまっている。22年の一次エネルギー供給構成では、石油が44.0%と最大の割合を占め、電源以外にも産業や民生のエネルギー源として広く活用されている。石油の大部分は中東からの輸入に依存しており、この状況は、中国の南シナ海における活動によってシーレーンの安全が脅かされるリスクを抱えている。このリスクに対応するため、台湾は、アメリカやオーストラリアからの天然ガスの輸入増加や、世界有数の洋上風力発電の好立地である台湾海峡を生かした再生可能エネルギーによる自給率向上の取り組みを行っている。

台湾政府は25年までに電源構成の大幅な変更を計画している。23年時点で天然ガス40.0%、石炭38.9%、原子力11.0%、再エネ8.2%、石油1.9%だった構成を、25年までに天然ガス50%、石炭30%、再エネ20%とし、原子力と石油をゼロにする目標を掲げている。特に再エネの割合を大幅に高めることでエネルギー自給率の向上を目指しているが、その導入は計画通りに進んでおらず、安定供給の確保を優先すべきという見方も出てきている。

この点で参考になるのが、スウェーデンとフィンランドの事例である。両国は隣国ロシアとの地政学的リスクに直面しながらも、原子力発電と再エネの両立によってエネルギー自給率を大幅に高めることに成功している。16年時点でスウェーデンのエネルギー自給率は71%、フィンランドは55%に達した。20年には発電力に占める再エネと原子力を合わせた割合が、スウェーデンで98.64%(うち原子力が30.08%)、フィンランドで85.90%(うち原子力が33.78%)にまで上昇した。その効果として、22年のロシアによるウクライナ侵攻後も、ドイツなどのロシアからの輸入依存度が高い国々と比較して、エネルギー供給面での影響は限定的であった。だからこそ、NATO加盟にも踏み切れたのだ。エネルギーの安全保障においては、国家の置かれた地理的、政治的立場、そして利用可能な資源によって最適なエネルギー戦略が異なってくる。例えば、イスラエルは地中海沖合で大規模な天然ガス田を発見し、エネルギー自給率を大幅に向上させ、周辺国へのガス輸出も視野に入れるまでになっている。

台湾の新政権においては、エネルギー安全保障の観点から原子力発電廃止の方針について見直しが行われる可能性がある。台湾の強みである半導体産業からの貿易収入を活用し、エネルギーの安定供給に向けた投資をどのように行っていくのか注目される。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)

シェブロン法理無効化でEV政策は


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

CNNの報道によると、米連邦最高裁は6月28日、漁業規制に関するある訴訟において、いわゆる「シェブロン法理」を無効にする判決を下した。

シェブロン法理とは、1984年のシェブロン対天然資源保護協議会訴訟にちなんで名付けられたもので、法律の条文があいまいな場合、裁判所は連邦政府機関の解釈に従うべきというものだ。

行政機関に強い権限を与えるこの法理は、民主党や環境保護団体など大きな政府による規制を志向する人々に支持されてきたが、小さな政府と規制緩和を志向する共和党や保守派、ビジネス界からは長らく反対されてきた。今回の最高裁判決でこの法理が覆ったことで、環境や消費者保護、金融、医療、AI、SNS、暗号通貨など、非常に幅広い領域における政府機関が持つ専門的な規制権限が制限される可能性が出てきた。CNNのインタビューで、行政法を専門とするジョージア大学法学部のケント・バーネット教授は「この法理が関係しない領域はない」と語った。

エネルギー領域で最も影響があると考えられているのが、バイデン政権のEV政策である。自動車の排ガスを規制する根拠となる「大気浄化法」は、元々は発電所などの固定された発生源を対象とするもので、自動車のような移動する発生源を規制する権限を米連邦機関の環境保護庁が持っているのかという点については長年の論争があった。元の「シェブロン法理」判決も、大気浄化法の解釈をめぐるものだ。

バイデン政権は3月にEVの義務化につながる新たな排ガス規制を発表したが、今回の判決でその権限そのものがゆらぐことになる。たとえ「もしトラ」とならないとしても、影響は広範に及びそうだ。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【新電力】料金多様化進むのかが 改革の成否のポイント


【業界スクランブル/新電力】

現在、電力・ガス基本政策小委員会において、電力システム改革を振り返る「検証」が実施されている。関係各者からのヒアリングを終え、今後どのような検証がなされるのか興味深い。

検証に当たり事務局が提示した資料には、自由化以降「多様な料金メニュー」が提供されたことが示された。小売電気事業者が創意工夫して、誰が供給しても同じ品質の電気を売れるような料金体系を開発したということだろう。

事業者にとって、料金メニューは需要家獲得の手段であると同時にリスクヘッジ手段でもある。調達コストに何らかのリスクがある(もしくはない)場合にそのリスクを需要家と自社にどう配分するかを決定付けるのが料金体系ということになる。

最も簡単なのは、いわゆる「市場連動型」のメニューだ。このメニューを販売して市場から調達することとすれば、リスクを需要家にほぼ転嫁できる。完全な従量料金、固定された従量単価のみの料金に対して、BL市場や従量固定単価のみの電源を調達できていればリスクはないが、一般的なエリアみなし小売燃調付料金だとリスクを保有することになる。

燃調付料金を提供する場合は、燃調に連動した調達を実施することでリスクを回避できる。自らの電源調達のプロファイルや市況、さらにはターゲットとなる需要家が訴求する付加価値なども踏まえて料金メニューを設計し、それがリスク許容度の範囲内かを検証することが求められる。

制度改革がさらに進んでいく中で、料金メニューの多様化も進むのかが、システム改革の成否を決める一つのポイントだ。(K)

エネルギー重視の共和党綱領 フェーズアウト論消滅か


【ワールドワイド/環境】

7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国党大会においてトランプ前大統領が正式に2024年大統領選に向けた共和党候補として指名され、併せて「アメリカ・ファースト、コモンセンスへの回帰」との序文を掲げた24年共和党政策綱領が採択された。注目されるのはエネルギー重視の姿勢である。

前文では「インフレを破壊し物価を引き下げ、歴史上最も偉大な経済を構築し、国防産業基盤を復活させ、新興産業に燃料を供給し、米国を世界の製造大国として確立したいのであれば、エネルギーを解き放たなければならないことは、常識が明確に物語っている」とし、具体的な政策綱領の中でもエネルギーについて繰り返し言及した。

第1章「インフレの打破と諸物価の速やかな引き下げ」では「米国のエネルギー生産に対する規制を撤廃し、社会主義的グリーン・ニューディールを廃止することで、再び世界のトップとなる。共和党は、原子力を含むあらゆるエネルギー源からのエネルギー生産を解放し、インフレを即座に抑制。信頼性が高く、豊富で、手頃なエネルギー価格で家庭、自動車、工場に電力を供給する」とし、第3章「史上最大の経済の構築」でも「米国を再びエネルギー自給国およびエネルギー支配国にし、エネルギー価格をトランプ大統領の1期目に達成した安値よりもさらに引き下げる」とした。

第4章「アメリカンドリームを取り戻し、全ての人が手ごろな価格で買い物をできるようにする」では「規制負担を軽減し、エネルギーコストを下げ、生活費と日常品・サービスの価格を引き下げる経済政策を推進する」とし、第5章「労働者と農民を不公正貿易から守る」では「米国のエネルギーを解き放つことで、共和党は米国の製造業を回復させ、雇用、富、投資を創出する」とうたった。「バイデン政権が推進してきた電気自動車やその他の義務付けを廃止し、中国車の輸入を阻止することによって、米国の自動車産業を復活させる」とも公約している。ちなみに政策綱領の中に「温暖化」「気候」という言葉は一度も登場しない。バイデン政権の方向性とは真逆であり、トランプ政権復活となれば「化石燃料フェーズアウト」論は消滅するだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】内外無差別徹底で注目 大手小売部門の「稼ぐ力」


【業界スクランブル/電力】

大手電力会社による卸相対取引の内外無差別の徹底は、同時に、大手電力社内における発電・小売部門間の取引が契約として明確になることを意味する。価格や取引条件を社外に対する契約と同様に定義する必要があるからだ。これによって、両部門の部門別収支が極めて分かりやすくなり、かつては曖昧であった責任の所在が明らかになってくるはずだ。とりわけ、注目したいのは小売部門の「稼ぐ力」である。

両部門間の契約で一番鍵になるのは「通告変更」、つまり、刻々と変わる需要に応じて、小売側が購入量を増減する権利である。ひと昔前なら自由に行使できたこの権利こそ、発電部門が提供する大きな価値だ。それゆえ、内外無差別の徹底とともに、発電部門はこの権利を廃止するか、相応の対価を求めるようになった。

予定外に販売量が増減するのは、発電事業にとって極めて大きなリスクである。2022年度の電力・燃料価格高騰時を思い浮かべてほしい。新電力からの大量の戻り需要に対して、燃料費調整ではとても回収できないような価格で燃料や電力をスポット調達し、巨額の損失を被った。通告変更が制限されると、今度は小売部門に需要増減への対応とリスクが回ってくる。

小売部門にとって内外無差別は悪いことばかりではない。需要が安定していたり、安い昼間の電気を買ってくれたりする顧客のありがたみが一段と見えてくる。他の大手電力から仕入れるという選択肢もできた。リスクヘッジの巧拙も業績に現れる。根性営業で量を求めるばかりではない、利益センターとしての「稼ぐ力」を見せる時である。(M)

M7超発生も大規模停電回避 花蓮地震で見えた台湾の特性


【ワールドワイド/経営】

2024年4月3日午前8時前に台湾東部の花蓮県沖を震源とするM7・2の地震が発生し、台湾全域で大きな揺れが観測された。電力系統では発電機のトリップ、送配電線の断線が発生し、広範囲で計37万戸以上が停電したが、長時間にわたる大規模停電は回避された。停電はほぼ全て当日中に復旧し、夜間の電力需給のひっ迫も見られなかった。復旧が速やかであった背景には、再生可能エネルギーや蓄電設備の拡大、近年のレジリエンス強化への投資がある。

今回の地震では、火力発電機計8基がトリップし、一時的に約320万kWが失われた。通常60㎐の周波数が59・46㎐まで低下したが、数秒後には蓄電設備から計51万kWの電力供給があったことに加え、揚水発電機3基の運転停止により周波数は59・7㎐まで上昇した。また基幹送電線である345kV送電線には甚大な被害はなかった。

大規模停電を防げた主な要因は、蓄電設備、太陽光発電、揚水発電の三つだ。台湾では政府が変電設備に併設する形式での蓄電設備の導入を推進しているほか、民間での設置も拡大している。今回の地震では蓄電設備が最大約80万kWの電力供給を担い、太陽光発電は当日正午に約840万kWに達した。

揚水発電は蓄電設備に次ぐ早さで大規模停電回避に貢献し、夜間ピークの電力需給にも対応した。地震発生直後に揚水運転から発電運転に切り替え、約30分後には発電運転を停止し夜間ピークに備えて揚水運転を再開した。同日の夜間の電力需給はひっ迫すると予想されたが、結果的に予備率9%が確保され、ある程度の余裕があった。また台湾電力の送電網への投資もプラス要因だ。345kV送電線は複線化されており、20~23年に台湾電力公司は約1兆円以上をその増強に投資している。

今回、基幹送電線が無事であったことや、蓄電設備や揚水発電の利用が有効に機能した。太陽光発電も火力発電機の再起動までの時間を稼ぐことに貢献し、1999年の大地震による大規模停電と長期間の電気使用制限の再来を防ぐことができた。この教訓は地震大国日本のレジリエンス強化にも有用である。

台湾では5月20日に新たに頼清徳総統が就任した。少数与党であり政治的リソースが限られる中、脱原子力政策の是非を含む新たなエネルギー政策の発表が予想されている。今後も台湾のエネルギー政策の動向が注目される。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

米シェール大手合併で前進 操業の収れん・寡占化は進行


【ワールドワイド/資源】

2024年5月末、新たなシェール企業同士の大型合併が合意された。米国最大手の石油・ガス生産専業のコノコフィリップスと中堅生産者のマラソンオイルである。買収総額は225億ドル、マラソンの株主承認および公正取引委員会承認後、株式交換により年末目途に取引完了の見通し。コノコフィリップスはマラソンのパーミアン、イーグルフォード、バッケンシェール資産を取得できれば、WTI価格バレル当たり30ドル以下で回収可能な20億バレルの積み増しが可能と強調、買収シナジー効果は年間5億ドル規模とし、それとは別に今後3年間に200億ドルの自社株買い、24年第4四半期の34%増配を実施する計画だ。

両社はシェール出現前の1900年代から石油精製・販売も手掛ける一貫操業者で国内外の探鉱開発やLNGにも力を入れたが、2000年以降、米国のシェールに操業を集約させ10年代には高収益が十分に株価に反映されないとし下流部門を分社化、現在、シェール開発以外は国外のLNG資産をわずかに有するのみ。取引が成立すれば、コノコフィリップスの生産は欧州メジャーBPの日量石油換算230万バレルに迫る同220万バレルに拡大し、時価総額もBPの900億ドルを上回る1300億ドルとなる。

近年、コノコフィリップスは、20年にパーミアンで操業するコンチョリソーシズを97億ドルで買収、21年に欧州メジャーシェルのパーミアン資産を95億ドルで買収し、着実にアセットを積み増してきた。今回の買収ではマラソンのイーグルフォード資産が魅力の一つ。統合後はイーグルフォードにおいてEOGを抜き約40万バレルを生産する当該地域最大の生産者になり、取得する数多くの生産井に再びフラッキングを施して生産性向上を図る計画だ。

24年第1四半期は、世界の上流資産取引のうち9割近くを米国シェールが占めた。徐々にシェール開発は生産効率が落ちる中で、資産統合を繰り返しながら少数精鋭化され、新たな技術イノベーションに取り組み生産効率を高めた企業に操業が収れん、生産寡占化が進行する。

優良資産はすでに取引終了といわれるが、シェール資産の積み増しがうまくいっていない中堅のデボンやアパ(APA)は取引を模索しているとみられ、これらは被買収企業になる可能性もあり、また中小企業が買収ターゲットにもなり得る。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/8月16日】電気の規制料金撤廃に関する議論


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会で電力システム改革の検討作業が進められているが、低圧需要家向けの小売料金の規制を撤廃すべきかどうかについても議論されている。大手電力会社が大きなシェアを有するなかで規制を撤廃することは、規制無き独占になるとして長らく是認されてきた感のある小売料金の規制であるが、ここにきて多くの疑問が出てきたことは、遅きに失した感がある。

2022年春以降、国際的な燃料価格の高騰のなかで電力供給コストが大幅に上昇したが、低圧分野に残された料金規制のために、一般電気事業者は財務的に大きな痛手を負った。また、卸電力市場から電力を仕入れる新電力は、規制料金に太刀打ち出来ず、2023年3月24日時点で、2021年4月までに登録のあった706社のうち195社が契約停止・撤退・倒産を余儀なくされた。このような状況を踏まえ、規制料金撤廃の議論が沸き起こったことは周知の通りである。欧米に目をやると、電気料金規制は撤廃すべきとの考えが従来から主流である。

米国では、電力小売の自由化は、1997年にロードアイランド州から始まったが、わが国同様、小売料金を一時的に規制する州が多かった。その規制解除の動きは、2000年代初めからあったが、2000年代半ばにピークを迎えた。規制期間中はこの間生じたコスト増の料金への転嫁は十分には(または完全に)できなかったことから、規制解除後の料金の値上げは大幅なものとなり、大きな問題となった。一例を挙げると、メリーランド州では、2006年7月に規制解除時期を迎え、Baltimore Gas and Electric Company (BGE) と Potomac Electric Power Company (PEPCO) は、それぞれ72%と39%の引き上げを行うことになった。

同州では、料金規制のために、新規参入が進まなかった上に、その解除後に大幅に料金が上昇するとあって、料金規制の問題が一挙に噴き出した。事態を重く見た政治家は、一時、規制当局である公益サービス委員会の委員のうち州知事が任命した5名を解任するという法律まで成立させた(最高裁はこれを無効としている)。また、同委員会の委員長も辞職することになった。筆者は、このような騒ぎの中、公益サービス委員会を訪問したが、委員会のスタッフは、一連の出来事から得られたレッスンは、電気料金にキャップを被せるべきでないとのことであった。

また、メリーランド州などにおける料金規制解除に伴う料金値上げ問題に先立ち、米国では、2000年から2001年にかけて、カリフォルニア州の電力危機を経験している。カリフォルニア州は、1998年に全面自由化に踏み切ったが、 2000年夏場から2001年冬場にかけて、電力需給の逼迫に端を発した電力価格の高騰が発生した。2000年12月には卸電力価格は前年比10倍を記録したが、大手電力会社Pacific Gas and Electric Company(PG&E)の小売料金は規制されていたため、同社は、コスト回収ができず、倒産を余儀なくされた。また、大規模停電も発生し、安定供給が脅かされた。カリフォルニア州の電力危機は、小売料金を規制することの大きな問題点を浮き彫りにした出来事であった。

一方、欧州ではどうかというと、2022年におけるロシアのウクライナ侵攻を契機に、天然ガスをはじめ化石燃料の価格が大きく上昇する中で、電力価格も高騰し、EUは緊急事態として電気料金の上昇を抑制する措置を加盟国に認めたが、このような緊急事態を除き、従来から、小売料金規制は撤廃すべきとの考えである。市場で決まる競争的料金よりも低い規制料金の提供は、新規参入を阻害するからである。また、競争的な料金よりも高い料金が設定されれば、市場参入が活発になると考えるのが常識だろう。自由化市場の下では、市場支配力の行使があれば、本来独禁法で裁かれるものである。やはり、自由化の下では電気料金は規制をすべきでないとの考えは正論なのだ。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。