【事業者探訪】若松ガス
会津若松市が消滅可能性都市とされる中、持続可能なガス供給の在り方を模索する。
エネルギー事業でさまざまな打ち手を繰り出しつつ、ガス以外の新規事業にも力を注ぐ。
若松ガスは今年、設立から65周年を迎えた。お膝元の福島県会津若松市は、幕末の激動に巻き込まれた会津藩ゆかりのスポットや東山温泉などが有名な観光地。都市ガス販売では観光施設など大口需要の割合が大きい点が特徴で、郡山市や福島市を中心にLPガス供給も手掛ける。
経営体制を巡っては2005年に転機があった。元々はオーナー企業だったが、経営不振により新体制で再建を目指すことに。再建を委ねられた会津出身の弁護士が旧昭和シェル石油(現出光興産)の顧問弁護士でもあった縁で同社が出資し、昭シェルとして初めて都市ガス会社を傘下に持つこととなった。現在の小山征弘社長も出光から出向している。

地域が消滅可能性都市に さまざまな工夫を模索
会津若松市内を中心とする都市ガスの販売量は1700万㎥ほどで、業務・産業用が6割を占める。小山社長は「会津若松は今春、人口戦略会議が発表した消滅可能性都市に初めてリスト入りし、現在の人口11・2万人が2050年には35%減少する見通し。これを現実として受け止め、当社が維持・発展する道を模索しなければならない」と強調する。ただ足元では、市内には銅加工事業や、国内向け医療用内視鏡の大部分を製造する工場が立地しており、都市ガス販売面では工業用需要が人口減を補う形で伸びている。
注力するのは石油からガスへの燃料転換、そしてカーボンニュートラル(CN)の提案だ。LNGやLPガスの供給元から、それぞれオフセットしたCNガスを調達する。実際のニーズはどうかというと、予想以上の関心の高さのようだ。「今は学校教育でSDGs(持続可能な開発目標)を取り上げ、『SDGsに取り組まない会社には就職したくない』という若者が増えている。大企業だけでなく、地元工場の経営者などが採用活動の側面でもCNガスの導入に積極的だ」(小山氏)と驚く。
一方、LPガスは家庭向けで人口減の影響が大きく、新規顧客獲得の努力で販売件数を維持している。そして目下、LPガス業界の商慣行見直しが大きなテーマとなり、同社も6月末に取り組み宣言を行った。液化石油ガス法の省令改正を踏まえ、今後は三部料金制の徹底などに加え、集合住宅オーナーやメー
カーとの信頼構築に向けた工夫が問われる。福島県中通りは南北から県外事業者が入り込み、競争が激しいエリアだが、「郡山など人口減が緩やかな都市部で集合住宅自体を所有し、競争にさらされない形を目指すことも必要だ」(同)と考える。
さらに現在、電力事業は出光の取次として行うが、LPガスの状況や今後の電化シフトを踏まえ、自社ブランドでの電力小売りの必要性を意識している。