【リレーコラム】南野弘毅/三井物産 金属資源本部 新金属・アルミ部次長
金属資源開発は、長年にわたり資源国・地域の経済発展に貢献してきたが、近年はその環境負荷を最小限にとどめ、地域社会に配慮しながら持続可能な事業とすることが一層重要となっている。他産業と同様「低炭素」がキーワードとなり、各社がGHG削減目標を掲げる中、新たなビジネス機会創出・技術革新のチャンスが広がっている。
このGHG削減に加え、資源産業で近年関心を集めているのが、採掘した鉱石の不純分である残渣(尾鉱)の処理・管理である。
通常、鉱石から不純物を取り除くプロセスでは大量の水を使うため、尾鉱は水分を含んだダムにためられる。高品位の鉱石から採掘が進んだ結果、世界各地の鉱山で品位の劣化が進んでおり、このような鉱石処理プロセスが一層不可欠となっている。
かかる中、2015年と19年にブラジルの鉄鉱山の尾鉱ダムが決壊。流出した尾鉱は、近隣の建物などを飲み込み、河川の生態系にも大きな影響を与えた。特に19年の決壊では死者272人、3人の行方不明者を出し、その影響は周囲300kmに及んだ。決壊から約4年経った今でも、尾鉱の除去作業は続いており、いまだ大きな爪痕を残している。
ダム決壊後の技術開発と事業機会
以来、尾鉱ダムの建設・管理が厳格化されたことはもちろん、尾鉱脱水設備や、天日干しで乾燥させた上で終掘済みの鉱区に埋め戻す工程など、かつてはコスト増になるため導入してこなかったような取り組みが加速している。さらに、鉱石処理プロセスそのものも見直されており、水を使わない乾式プロセスで品位を高める技術などが開発されている。
また一部の資源会社では、50年に尾鉱発生をゼロとする目標を掲げ、尾鉱に含まれる有価金属を回収・再利用する動きも出始めている。これまでも尾鉱を乾かした上でセメントなどに使用した例はあるが、相対的に付加価値の低い製品であることから輸送コストや地場需要などの条件が揃わない限り経済性が成立しない。尾鉱に含まれるスカンジウムやガリウムといった微量元素を回収する構想も数多く研究されてきたが、尾鉱内の微量元素の含有量にばらつきがあり、回収効率が低いことなどにより、事業化への道のりはまだ長い。
だが、重大な尾鉱ダム決壊も目の当たりにし循環型社会への関心・要求も高まる中、今後は一層の技術革新・投資が進むだろう。社会にとって必要不可欠な金属資源の開発を持続可能なものとし、サーキュラーエコノミーを実現するためにも、尾鉱の削減や活用をビジネス機会としても捉え推進するべきと思う。
※次回はプライムプラネットエナジー&ソリューションズの青木努さんです。