AZEC閣僚会議開催 多様な道筋を示した日本


【ワールドワイド/環境】

8月中旬、ジャカルタで第2回AZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)閣僚会合が開催された。AZECは脱炭素化を推進するアジア諸国による枠組みとして日本が提唱したものであり、現在オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどの11か国がパートナー国となっている。

共同声明にはAZEC原則として「気候変動対策、包摂的な経済成長の促進、エネルギー安全保障の確保を同時に実現するというトリプル・ブレークスルーを目指すこと」および「一つの目標、多様な道筋という概念を尊重し、地理的、経済的、技術的、制度的、社会的、公平性を含む各国固有の状況、既存の目標や政策、開発上の課題を考慮した上で、カーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた多様かつ現実的な道筋が存在すること」が強調されている。

「多様な道筋」は日本が昨年の広島サミット議長国であった際、共同声明に盛り込んだ概念であり、AZECもこの考え方に沿っている。成長著しいアジア諸国においては急増する電力需要に対応するため、大量の石炭火力が設置されてきた。石炭火力のプラント年齢はいまだに若く、直ちにフェーズアウトできるはずはない。だからこそ石炭とアンモニアあるいはバイオマスの混焼などによって発電電力量当たりのCO2排出量を下げていくことが現実的だ。唯一のG7諸国である日本がアジアの実情をも踏まえた「多様な道筋」を主張した意義は大きい。

しかし逆風もある。昨年のCOP28では国際環境NGOが「岸田首相はAZECを通じて、水素とアンモニアの混焼技術を使って石炭・ガス発電所を稼働させ続けるよう、東南アジアに売り込みを行い、自然エネルギーへの移行を遅らせている」との理由で日本に化石賞を授与した。 これはアジアのエネルギーの現実から乖離したものである。

石炭から天然ガスへの燃料転換、アンモニアと石炭の混焼、天然ガスと水素の混焼、CCUSさらには原子力も幅広くスコープに入れたAZECは、アジア各国の実情を踏まえた現実的なエネルギー転換のプラットフォームたり得る。そのためにはAZECのみならず、COPなどの場でアジア諸国自身が「多様な道筋」の現実性、必要性について声を上げることが重要だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/10月18日】長期脱炭素電源オークションの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

容量市場の一部として「長期脱炭素電源オークション」が2023年度から導入された。本オークションは、脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進するためのものである。初回となる2023年度オークションの入札は2024年1月に実施され、4月26日にその約定結果が実施主体である電力広域的運営推進機関(OCCTO)により公表された。

長期脱炭素電源オークションは、大きく、「脱炭素電源」と「LNG専焼火力」があるが、前者は、募集容量400万kWに対してほぼ同レベルの401.0万kWが約定した(約定総額は年間2336億円)。後者は、募集上限600万kWに対して575.6万kWが約定した(約定総額は年間1766億円)。また「脱炭素電源」のうち「蓄電池・揚水」は、100万kWの募集容量を大きく上回る166.9万kWが約定した。これは「既存火力の改修(水素・アンモニア混焼)」区分などが募集上限に満たなかったため、余った枠が「蓄電池・揚水」に振り分けられたためである。また、蓄電池だけを見ると、落札109.2万kWに対して不落札が346.7万kWと激しい競争となったことが窺える。落札者で目立つのは、海外で実績を積んだプレーヤーで、電力関係者にとって初めて見る企業名が多かったようである。なお。原子力では、既設の中国電力島根原子力発電所3号機1件が落札している。

このような落札結果も踏まえて、長期脱炭素電源オークションのあり方について、様々な機関や識者から見解が述べられているが、以下では、筆者の考える本オークション制度の課題をいくつか述べたい。まず、「脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進する」という本オークションの目的は達成されるであろうか。大型電源の建設を目指す事業者からの指摘にあるように、原子力、大型揚水、大型火力のような大型電源に関しては、リードタームが10~20年程度、総事業期間(各種調査から建設、運転、廃止まで)は、60~100年程度に及ぶため、収入やコストの変動リスクが大きく、投資の意思決定には慎重な事業性評価が求められる。

現段階で最善のコスト見積りをしても様々なコンティンジェンシーの発生で、コストが大きく上振れすることがあるだろう。税制や規制の変更によるコストの変化は、事後的な調整が認められるようになるかもしれないが、金利上昇、インフレ、為替変動など投資判断時点で予見できないその他のコスト変動要因のすべてを考慮した事後的調整を認めることは現実にはありえないだろう。そのような不確実性が存在する場合、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって非常に難しいだろう。このため、大型電源の新設に関しては、投資に慎重になる事業者も少なからず存在するだろう。このことは、とくに建設から廃止措置に至るまで総事業期間が100年程度となる原子力発電の新設に関して当てはまる。

将来コストの不透明性が著しいのは、水素やアンモニアの専焼・混焼火力発電などの実証段階にある技術についてもいえる。本来、このような技術は信頼性、操作性、コストなどに関する実証試験を経て、初めて市場に出回るものである。実証段階の技術では、完成時のコストが当初見積りよりも、大幅に上振れするリスクは存在している。このため、大型電源の新設同様、実証段階の技術に関しても、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって非常に困難となる可能性がある。このように考えると、従来の容量市場を補完して「容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進するため」に導入された長期脱炭素電源オークションであるが、事業環境の一層の整備のために、制度の修正が必要になってくる可能性がある。

課題として次に指摘したいのは、脱炭素電源を導入する際に、設備や資源の調達に関して構築されるサプライチェーンの地政学的なリスクを考慮しなくてよいのかという点である。脱炭素は達成したけれども、設備や資源の供給が特定の国に大きく依存することにならないように、入札の条件や評価方法を工夫することが必要ではないだろうか。

最後に指摘したいのは、長期脱炭素電源オークションの対象外となった小規模再生可能エネルギー電源(10KW未満)の応札が可能となるような見直しが求められる点である。大規模脱炭素電源は膨大なコストがかかり、また将来コストの予測も難しいが、再生可能エネルギー電源は、長期的にコストダウンが見込まれ、将来的な拡大ポテンシャルは高い。このような再生可能エネルギー電源のポテンシャルを最大限引き出せるように、最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などにより、小規模電源でも応札しやすいような制度とする必要があるだろう。

電力自由化の綻びを繕うために、既存市場の補正や新たな市場の創設が絶えず行われてきたが、長期脱炭素電源オークションは、自由化の問題を解決する抜本的な処方箋となるだろうか。電力自由化は、いつまでも発展途上にあるのではなく、そろそろ完成されたものになってほしいものだ。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【電力】脱石炭火力の時期 政府や事業者が選べるのか?


【業界スクランブル/電力】

今年もCOPの季節がやってくる。この時期になると、石炭火力をいつまで続けるのかが話題になる。今年のG7では「気温上昇を1・5℃以内に抑えられる時間軸」と逃げたが、毎年、廃止への圧力は強まっている。

データセンターや半導体工場の増設で需要の伸びが上方修正される中、原子力の再稼働や再エネの導入も思うように進まず、ガス火力の新設も10年くらいはかかる。政府や発電事業者の腹の中は、高効率機は2030年代までは使わないと需要は満たせないのではと思いつつ、いくつかシナリオを作って様子を見ながら考えよう、と言ったところではないだろうか。

ところで、石炭火力の廃止は、政府や発電事業者が選択できるのであろうか。発電所というハードの稼働という観点からはそうかもしれないが、燃料のサプライチェーンを考えると、そうもいかないのではという疑問が湧くのだ。

炭鉱、鉄道、港、輸送船などのサプライチェーンは、長期にわたり一定の物量が期待できることで、初めて投資が行われる。いつ頃まで、どの程度の数量を使うのかという政策も示さず、発電会社は、自由化もあって長期契約はダメと言いながら、供給インフラが今の姿で残っていくと期待するのは、あまりにおめでたい。ただでさえ、日本の石炭火力は、石炭や輸送船のスペックにはうるさいのだ。気がつけば、石炭が出てこない、運べない、あるいはとても価格が合わないということになりはしないだろうか。

海外から燃料を輸入せざるを得ない日本においては、サプライチェーンにしっかり寄り添って「撤退戦」を考えねばならないはずだ。(M)

暫定政権下のバングラデシュ エネルギー改革の行方注視


【ワールドワイド/経営】

バングラデシュで8月8日、暫定政権が発足した。首席顧問にはムハマド・ユヌス氏が就任し、20人の顧問が任命された。2009年から首相を務めたシェイク・ハシナ前首相は同月5日に辞任した。本稿では8月下旬までの報道をもとに、この政変の電気事業への影響などを時系列で紹介する。

外出禁止令の発令から約1週間後の7月28日、インド・ネパール政府間で、インド経由でネパールから4万kWの電力を輸入する契約の調印が予定されていたが延期となった。またインド電力省は8月12日、バングラデシュ政変を受け、電力輸出入に関するルールを定めた「電力輸出入ガイドライン」を改正した。これまでインドでは、輸出専用の発電所は国内で売電できなかったが、相手国からの支払リスクが生じた際に国内系統への接続を認め、インドで売電できるようにした。バングラデシュは現在、三つの国際連系線を通じて、インドから電力需要の15%を輸入している。

暫定政府は、ハシナ政権時代に制定された「電力・エネルギー迅速強化(特例)法2010」と「エネルギー規制委員会(改正)法第34条」を一時停止した。前者は迅速な電源開発を目的として競争入札を免除、後者は政府に直接料金改定の権限を付与する法律で、いずれも電気料金が不当に高くなったと批判が出ている。電力・エネルギー・鉱物資源省のカーン顧問は8月22日、今後の電力・エネルギー部門の調達で入札を行う方針を示した。

政策シンクタンクCPDは8月18日、暫定政府に対しエネルギー改革案を提言した。CPDは「41年までに電力の40%をクリーンエネルギーにする」という目標に、水素・アンモニア混焼やCCS付き火力が含まれる点を批判し、目標達成に向けて23年に国際協力機構(JICA)の支援で策定された「統合エネルギー電力マスタープラン」の改訂も求めた。

野党は3カ月以内の総選挙実施を求めているが、19日付の印英字紙タイムズ・オブ・インディアは、ユヌス氏の「選挙の前に選挙管理委員会、司法、民政、治安部隊、メディア改革を行う」という発言を引用し、総選挙がすぐには行われない見通しを報じた。暫定政権期間を3年に延長する請願が高等裁判所に出されており、暫定政権が長期化する可能性もある。今後、暫定政権下でどこまでエネルギー改革が行われるか注視が必要である。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

カスピ海をまたぐガス供給? ロシアがイランと戦略的協力


【ワールドワイド/資源】

6月、ロシアのガスプロムがイラン国営ガス会社と新しい戦略的協力に関する覚書を締結した。ロシア産の天然ガスをパイプラインでイランに供給することが盛り込まれている。当時、契約量や輸送ルートについては説明がなかったが、ロシアとイランを直接つなぐパイプラインは存在しないことから、業界専門家の間では、両国間にある旧ソ連諸国のインフラを利用したスワップ取引によるガス供給が想定されるとの見方が有力だった。カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンを経由するか、アゼルバイジャンを経由するスワップが想定され、既存インフラの容量を考慮すれば年間数十億㎥程度が予想された。

ところが翌7月にイランの石油相が発表した両国ガス会社の合意内容は予想と異なるものだった。量は年間1000億㎥を超える規模で、ルートはロシアの負担で整備されるカスピ海経由であるという。この発表により、両国の合意は一気に現実性が霞み、西側に対抗する勢力で連携を強めようという政治的メッセージ以外に中身がないことが露呈した。というのも、カスピ海における国際パイプラインの建設がまず困難だからである。カスピ海横断パイプラインは過去20年にわたりトルクメニスタンが西へのガス輸出を目指し、対岸のアゼルバイジャンに向けて建設することを切望しているが、建設に際し必要となる環境影響調査に沿岸国全ての承認が求められ、ロシアとイランが否定的な立場を取ってきたことから実現していない。

ロシアがイランへのカスピ海南北縦断パイプラインを建設しようとすれば、トルクメニスタンは東西横断パイプライン建設への賛同を要求するだろう。ガス生産ポテンシャルの大きいトルクメニスタンに西向きの輸出ルートを解放すれば、ロシアは自身が失った欧州市場をトルクメニスタンに明け渡すことになるが、果たしてそれを覚悟しているのか。その覚悟もあるということなら、カスピ海を挟むガスの流れは大きく変わり得る。

しかしロシアがイラン市場にそこまでの魅力を見出し、建設費を負担してまで、技術的なハードルも高い海底パイプラインを新設することは考えにくい。量的にも誇張の入った、当面実現の見通しが立たない内容の合意であると捉えざるを得ない。欧州市場を失ったロシアにとってイランは新しい供給先候補に違いないが、今のところ欧州市場の代替確保に近道はない。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年10月号)


 【東北電力NW、北陸電力送配電など/AI技術で労働災害を未然に防ぐ共同を実施】

東北電力ネットワークと北陸電力送配電、SWCCの3社は、AI技術を活用して労働災害を未然に防ぐための共同検証を行う。送配電2社はこれまで、作業手順や安全ルールの順守、経験に基づく危険予知活動などにより、送変電設備の保全業務や更新工事に伴う労働災害防止に努めてきた。同検証では、SWCCのAIが過去に発生した労働災害時の作業内容や環境などを解析し、労働災害の発生リスクが高い作業を抽出。作業員の経験則によらない、より客観的な注意喚起を可能とする。また、2社の労働災害データを共有し、今後、データの拡充を図ることで、より高精度な労働災害予測AIの実現を目指す。


【東京ガス、TGESなど/パッケージ型の水素バーナーで幅広いニーズに対応】

東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、加藤鉄工バーナー製作所の3社は、水素燃焼式のパッケージバーナーを共同開発し販売を開始した。窒素パージ機能や水素対応遮断弁を搭載した水素燃焼の安全対策を含めてパッケージ化。これにより、バーナー交換が容易になるため既存の設備を有効に活用できる。また、バーナー内部のノズル形状などを最適化することで高温になりすぎることを防ぎ、天然ガス仕様のバーナーと同程度の低NOX化を実現した。100℃以下から500℃まで幅広い温度帯で対応可能で、さまざまな加熱設備の熱源として活用できる。


【住友商事/単機容量で世界最大規模のNZ地熱発電所が運開】

住友商事は、ニュージーランド(NZ)の大手発電事業社、コンタクトエナジーから建設工事を請け負っていたタウハラ地熱発電所が完工し、安定稼働に入ったと発表した。同発電所の発電機単機容量は世界最大規模の18万4000kWを誇り、年間発電量はNZの総発電量の約3.5%、約20万世帯の電力使用量に相当する。同社は、2030年までに再生可能エネルギー利用率100%を目指すNZにおいて、08年から地熱発電所の建設に携わってきた。タウハラ発電所の完工により、同社が建設や機器供給に携わった地熱発電所の総発電設備容量は、世界シェアの17%に当たる270万kWに達した。


【商船三井/風力推進装置を搭載したLNG船の設計承認】

商船三井は、韓国のハンファオーシャンと開発・設計する風力推進装置を搭載したLNG船について、基本設計承認を取得した。同装置を備えたLNG運搬船の承認は世界初。現在、実搭載に向け新造船を対象に詳細設計を実施中だ。世界中のLNG基地に入港可能な汎用性の高い船型で、同社は2030年までに25隻、35年までに85隻投入する計画だ。


【JFEエンジニアリング/バイオガス発電の燃焼排ガスからCO2を分離回収】

JFEエンジニアリングは、自社開発のCO2分離回収設備により、バイオガス発電設備の燃焼排ガスから高濃度のCO2回収に成功した。膜分離法と物理吸着法のハイブリッド型で、低濃度CO2を低消費エネルギーで99.5%という高濃度に分離・回収することができた。回収能力は1日当たり3t。小型の燃焼ガス排出設備に適しており、今年度中の商品化を目指す。


【清水建設/国内最大の陸上風力用タワークレーンの施工性確認】

清水建設は、大型陸上風車の施工に向け自社開発した移動式タワークレーン(SMTC)を北海道豊富町で建設中の風力発電所に実証施工として初めて適用した。最大揚程152m、定格荷重145tと、楊重性能は国内最高。7月には、風車施工の一連の作業を4日で消化し、想定通りの施工性を確認した。大型化が進む陸上風力。SMTCの提案で受注拡大につなげる。

自動化レベルと課題 走行条件に限界も


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

自動運転での自動化レベルは、米国の自動車技術会であるSAEが提案し、それを日欧が受け入れて国際的な共通定義として使用されている。レベル1から5の5段階で、レベル2までは運転の責任はドライバーにあり、レベル3以上が自動運転システムが運転責任を取ることとなる。

レベル1は、LKAS(車線維持支援システム)、FVCMS(追突被害低減システム)、ACC(車間維持前車追従制御)などの運転支援システムを指す。レベル2は、運転操作は自動化されているが、常にドライバーが周囲の道路交通環境を監視して、交通事故などの危険に至る可能性がある時には手動運転に切り替えるシステムを指す。現在、自動車メーカーが実用化している自動運転システムはほとんどがこのレベル2であり、ハンズフリーであってもドライバーは常に周囲状況を監視することが義務付けられている。

レベル3では、周囲の道路交通環境の監視までを自動運転システムに任せて、システムが危険に至る状況の判断をした時には、ドライバーに警告して運転を移譲する。ホンダが2021年にレベル3の自動運転システムを実用化しているが、高速道路で時速60km以下の場合だけという走行条件に限定されている。なぜ、速度が限定されているかというと、センサーの検知可能距離が限られていることによる。

レベル3の自動走行中にシステムから運転移譲の告知を受けたとして、それにドライバーが対応するには、少なくとも10秒程度の余裕が必要であることがドライビングシミュレータでの実験などで確認されている。ということは、10秒間走行する間は自動運転を確実に実施できないとならないので、前方道路環境センサーにはその走行距離だけ先まで検知できる性能が必要である。

ところが時速100kmでは10秒間で278m走行することになるが、現在のセンサーの性能はそこまで遠方を検知できるようにはなっていない。そこで、時速60km以下という走行条件が必要となるわけである。今年米国で実用化されたメルセデス・ベンツのレベル3の自動運転車もほぼ同じ速度条件がついている。

このようにレベル3の自動運転では、システムからドライバーへの運転移譲の期間を安全かつスムースに実施するという課題がある。そこで、ボルボ社などは、レベル3の自動運転の実用化は難しいので、レベル4の自動運転の開発を目指すという宣言を公開したことがある。

レベル4となると、走行条件は限定されてはいるものの、安全監視から緊急時の対応まで自動運転システムが全て完遂することが必要となる。そこで、無人タクシーや国内のラストマイル自動走行サービスでのレベル4の実証実験では、遠隔監視装置を搭載して、安全監視センターで走行中の自動運転車両をスタッフが監視する体制をとっている。それでもレベル4と呼べるかどうかは疑問があり、また一人のスタッフが複数台の車両を監視しないと省人化の効果がないが、それが安全にできるかどうかが大きな課題である。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

【コラム/10月15日】1年弱続く紅海〝封鎖〟 フーシ派による無人艇ドローン攻撃の実態


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

2023年11月以来、イエメンの武装組織フーシ派が紅海を通行する船舶を攻撃し、事実上の封鎖をしている。フーシ派は「親イスラエル」の国の船舶を攻撃すると声明を出しており、インド洋から欧州諸国に行き来する船は、紅海およびその湾奥にあるパナマ運河の通航を回避して、遠くアフリカの南端喜望峰を迂回することを強いられている。

フーシ派の攻撃の様子を詳しく報じるショッキングな動画がウェブ上にアップされているのでリンクを3件紹介する。

この動画チャンネルhttps://www.youtube.com/@wgowshippingでは他にも攻撃の事例がアップされている。モーターボートを改造した無人艇(USV)に爆薬を積み、船舶に体当たりで攻撃を仕掛けていることが分かる。警備員が3人乗り組んでいて、ライフルで船舶を攻撃するが、なかなか当たらない。何とか難を逃れることもあるが、攻撃を受けて船体に穴が開き、船舶の放棄を余儀なくされたり、最悪の場合は浸水して乗組員に犠牲者が出たりしている。放棄されたタンカーにはフーシ派が乗り込んで火を放ち、1カ月にわたって燃え続けたこともあった。


未遂含め累積100件に 重大事例や犠牲者も発生

紅海封鎖に関しての情報はJoint Maritime Information Center (JMIC)によって収集され公開されている。

最新の9月28日付の概況報告https://cd.royalnavy.mod.uk/-/media/ukmto/products/jmic-weekly-dashboard—22-28-sep—week-39-2024.pdfによると、これまでの船舶への攻撃は未遂も含めると累積で100件に上る。船の放棄などに至る重大事例は6件で、4人が死亡、2人が負傷を負っている(図参照)。

攻撃対象となった船舶の3分の1はタンカーである。攻撃にはUSV以外にもミサイルや空中ドローン(UAV)も使用されていて、一度に複数を使う場合が多いようだ。

台湾有事となると、前回https://energy-forum.co.jp/online-content/18639/も書いたが、米軍を後方で支援する日本の経済活動を妨害するために、日本近海を航行する船舶が狙われるかもしれない。防衛体制を整えておく必要がある。

エネルギーに関しては、輸入量が減少しても経済活動を継続できるよう、備蓄を増やしておくことが必要だろう。


【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

地域と調和した再エネ促進へ 規制条例を活用せよ


【オピニオン】井上源三/地方自治研究機構 顧問

自治体の条例の動きを見ると、地域そして日本の課題が見えてくる。

地方自治研究機構は、全国の条例をウォッチし、その制定状況をホームページの「条例の動き」で公開している。この数年、規制条例の中で最も制定数が多いのは、再生可能エネルギー規制条例(太陽光などの再エネ発電設備の設置・管理の規制に関する条例)である。現時点で300弱の条例が制定されている。FIT(固定価格買い取り)制度導入以降、全国各地で再エネ設備の設置が急速に進む一方、トラブルが発生し、自治体として条例により独自の規制措置を講じざるを得なくなっているのである。

そもそもわが国の土地利用は、各省庁の各法令により個別的、縦割り的に規制されている。各法令で立地可能とされても、再エネ設備の立地には不適とされる土地は少なくない。他方で、再エネ設備の立地を規制し、調整する法令は、これまでも、現在もない。その穴を埋める形で再エネ規制条例の制定が進んでいる。

関係省庁では再エネ特措法、地球温暖化対策推進法、環境影響評価法などの改正で規制強化を行っているが、その内容は、立地規制・調整に踏み込むものでなく、後追いの弥縫策にとどまっている。だから、今でも条例制定の動きは止まらない。

結果、再エネ設備の設置に関しては、資源エネルギー庁や環境省、国土交通省、農林水産省などのさまざまな法令、そして各都道府県と各市町村の条例(団体ごとにその内容は多様である)が、複雑かつ重層的に関わっている。事業者から見た場合、極めて分かりにくい制度になっている。国家の重要政策を担う法制度の在り様として、このまま放置すべきではないと言わざるを得ない。

今特に必要なのは、再エネ設備立地の適地、不適地などのゾーニングを地域ごとに明示し、法的拘束力のある形で担保することであろう。それができれば、事業者は効率的に設備を設置することができ、自治体や住民は地域の安全・安心を確保することができる。現時点で法令の抜本的な見直しが困難だとするのであれば、その機能を担うことができるのは再エネ規制条例だけである。

そうであれば、地域と調和した再エネ促進を図るためにも、国として自治体の条例を積極的に活用すべきではないか。国の対応としては、自治体にガイドラインを示すとともに技術的協力を行うことを前提に、自治体が条例で各法令の規制にかかわらずゾーニングを決定できるようにする、その場合は事業者に対する法令上の手続きを大幅に簡略化する、事業者と住民らとの紛争解決のため中立的な専門家を派遣する―ことなどが考えられる。ぜひ政府で検討できないものだろうか。日々条例をウォッチする立場としてそう思う。

いのうえ・もとみ 1977年自治省入省。複数自治体での勤務を経て、同省広報室長、総務省市町村課長、内閣官房内閣審議官、防衛省地方協力局長、内閣府政策統括官、内閣府審議官、地方自治研究機構理事長などを歴任。2023年から現職。

インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?


【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】関口博之 /経済ジャーナリスト

洋上風力公募の第1ラウンド(2021年)、第2ラウンド(23年)で選定された8事業者がいずれも現段階でFID(最終投資決定)に至っていないという。大半が運転開始を28年から30年に予定しているが、間に合うのだろうか。

世界的インフレと円安が大きく影響している。落札時点からみれば資材費も人件費も上がっている。鉄鋼は21、22年で2倍に上がり高止まり。国交省のデータで電力分野の建設工事費はこの1年、急上昇している。まして大型風車は欧米メーカーからの輸入、円安がさらに採算をとりづらい事態にさせている。政府関係者も「コスト増による悲鳴は聞こえている」という。洋上風力は再エネ拡大の「切り札」だったはずなのに、だ。

暗雲が垂れ込める洋上風力

実は海外でもプロジェクトの撤退・中止が相次ぐ。去年秋には洋上風力大手、デンマークのオーステッドが米国ニュージャージー州での事業を中止、同業のエクイノールやBPも巨額減損に追い込まれた。英国では洋上風力支援制度への応札がゼロという事態が起こり、入札上限価格を50%超引き上げることを決めた。

日本はどうするのか。開発事業者からは「価格調整メカニズム」の導入を求める声が出ている。落札後の物価高騰分を事後的に価格に上乗せする仕組みで、スライド条項・エスカレーション条項とも呼ばれるものだ。収支見通しが立てにくい状況では、今後公募入札に参加できなくなる恐れもあるというのが事業者側の主張。物価変動を補う規定は公共工事標準請負契約約款の中にもあり、その援用を求めている。これについて資源エネルギー庁はまだ方針を示していない。9月の審議会で、投資規模が数千億円と大きく事業期間も長期にわたる洋上風力は「収入・費用の変動リスクに対し事業の確実性を高めていくことが重要」と何らかの見直しを示唆しつつも、具体策は今後の有識者の検討に委ねた。

事業者側の姿勢もふに落ちない点はある。そもそも公募時の落札価格は事業者が決めたもの。

例えば去年の第2ラウンド3案件のうち2件は「ゼロプレミアム」にあたる1kW時当たり3円。つまり市場連動価格買い取り(FIP)制度による上乗せは不要という価格で応札している。なぜこれが成り立つのか。発電した電気は市場ではなく相対で契約した特定の買い手(オフテイカー)に売るからだ。応札価格とは別に買い手と一定の価格で〝握っている〟ことで安値入札が可能になっている。

公募にあたって国側はIRR(内部収益率)10%という想定で上限価格を決めている。ある程度、事業環境に変化があっても耐えられるよう余裕を見てある、その範囲内で入札してくれればいいというのが国側のスタンスだ。国の上限価格が厳しすぎたという話ではない。自ら破格値を示しておいて、後でこれでは足りません、というのは〝虫のいい話〟にも映る。

洋上風力は次期エネルギー基本計画でも再エネ主力電源化の柱を担う。電力料金が上がるのは避けたい、開発事業者のリスクは抑えたい、さらに関連産業育成も進めたい。この連立方程式を解かなければならない。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

電気料金高騰にあえぐ米加州 「気候正義」が生活者取り残し


【マーケットの潮流】水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

テーマ:カリフォルニアの電力価格

米カリフォルニア州の家庭用電気料金はこの10年で2倍に上昇した。

水上裕康氏は、その背景に「気候正義の暴走」があると指摘する。

米国カリフォルニア(加)州で、電気料金の高騰が続いている。家庭用電気料金単価は、この10年間に約2倍上昇し32セント/kW時(約45円)に達した。これは、全米平均に対しても、約2倍である(図1)。8月5日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、いまや家賃よりも高い電気代に四苦八苦する生活者の様子を伝える。昨年は、なんと州民の27%が料金滞納を経験したとのこと。日本では2%程度(厚生労働省調査)というから、事態は相当深刻だ。

原因は、近年頻発する山火事対策で、送配電費用が増加したことと、NEMという再生可能エネルギー(ほぼ太陽光)設置者から有利な条件で余剰電力を買い取る制度の影響だという。

NEMは当初、電気の購入量が太陽光の発電量で相殺された。余剰の発電分は翌月に繰越可能であったため、ソーラー・パネル設置者の購入電力量は激減したが、これが大きな問題となった。電力会社の費用は燃料費以外、固定費の塊であるが、それは従量料金で回収されていた。パネル設置者が増えても、曇天や夜間を考えれば、電力会社は供給設備能力(kW)を縮小できず、固定費は落ちない一方、売上は大幅に減ったので料金単価を上げざるを得なくなった。

図1 家庭用電気料金単価の推移
出所:米国エネルギー情報局

図2 カリフォルニア州電源別発電電力


脱炭素のモデル地域 舞台裏の「格差拡大」

晴天に恵まれる加州では、NEMの後押しのもと、2010年頃から太陽光発電の導入が急速に進んだ(図2)。それにつれ、前述の通り、パネル導入者の料金負担が減る一方、導入する余裕のない低所得者層には、料金値上げの形で費用が押し付けられていった。急増する山火事対策費用の負担も同様である。脱炭素のモデル地域と言われる同州だが、その舞台裏で「格差拡大」が進行したのである。

こうした問題の是正に向け、NEMは17年に2・0、23年に3・0へと改訂された。3・0では、余剰電力の買取価格が4分の1程度に引き下げられ、一定の固定料金も導入されている。それでも1・0および2・0におけるパネル設置者の権利は20年続くので、非設置者の負担はまだまだ続くのである。

NEMが抱える構造的な問題は、制度が導入された1996年当時から分かっていたはずである。ところが、有利な買取条件により、全米でも群を抜いて太陽光が普及したことに称賛が集まる一方、料金の高騰と負担の偏りは長年放置されてきた。「気候正義」の成果に酔いしれた政治が「暴走」し、パネル設置とは無縁の生活者たちを取り残してしまった。

ところで、「暴走」は加州固有の問題であろうか。わが国でもFIT(固定価格買い取り)制度導入当初、太陽光買い取り価格の40円/kW時は、当時の欧米の約2倍の水準だったが、事業者の「言い値」が丸のみされた。

高い買い取り価格での認証後、設備の運開を遅らせてパネル価格低下の恩恵を狙うという悪質な行為も横行した。結果的に、民主党政権下で制度が発足した当初、「月にコーヒー1杯の負担で再エネ普及」と言われた制度の国民負担は現在、年間2・7兆円である。4人家族世帯の負担は、年間約1万5千円にも達している。この国民負担で収入を得ている再エネ事業会社が、設立10年余りで資本金の25倍もの価値で売られるのを見ると、やはりこれも「暴走」ではなかったかと問うてみたくなる。

「誰一人取り残さない」とうたう脱炭素の政策の多くは、施策に直接関われない経済的弱者には負担のみを残すのである。昨今、メディアを賑わせている「送電網の拡充を急げ」「デマンドレスポンス(DR)を導入せよ」といった見出しを見てもこれを再確認させられる。同じ電力量を供給するために、火力や原子力から再エネに移行するだけで、送電網に巨額の投資が必要となるが、それを最終的に誰が負担するのか。

DRという横文字が促すのは、電力需給に応じて上下する季節・時間帯別の料金のはずだ。加州や日本のような太陽光発電中心の脱炭素社会では日が沈む時間帯には料金が高騰する。蓄電池を持てない家庭では、家族が集う夕方に暑さ、寒さを我慢しろということになりはしないのか。こうした議論なき政策の喧伝には、新たな「暴走」の気配を感じるのである。


日没時は電力が不足 大規模な輪番停電も

さて、加州では、太陽光偏重の脱炭素政策が安定供給も危うくしている。火力や原子力といった安定電源が減少した結果、日没時の電力不足が顕在化し、20年夏には大規模な輪番停電も経験した。こうしたことも踏まえ、同州は25年に廃止を決定していた州内最後の原子力、ディアブロキャニオン発電所の運転延長を決議した。

太陽光中心の再エネ導入と脱原子力という、わが国と類似の道を先行していた加州は、格差拡大の是正および供給の安定化の観点から、政策を軌道修正しつつあるようにみえる。

脱炭素はこれからが正念場である。着実に進めねばならない大切な政策であるからこそ、さまざまな社会的影響にも配慮しながら、「正義」というような感傷に流されない、地に足の着いた議論が必要ではないか。生活者が犠牲になるような施策がサステナブルとは思われない。「誰一人取り残さない」を改めて共有したい。

みずかみ・ひろやす 一橋大学商学部卒、米ジョージタウン大学MBA取得。1983年北陸電力に入社し、2011年から燃料部長を務める。20年同社執行役員を退任し同年7月から現職。

自民党新総裁のエネ政策はいかに? 岸田政権の正常化路線を継承できるか


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

この原稿を書いている時点で、自民党総裁選と立憲民主党代表選が告示され、選挙戦真っ最中である。今後のエネルギー政策を占ってみたい。

この時点で自民党総裁に最有力視されているのは小泉進次郎氏。出馬会見では、記者の質問に答えて「再エネはもちろん、原子力も含め、あらゆる電源を考えていく」と当たり障りのないことを言っている。環境大臣当時は、第6次エネルギー基本計画の策定に当たって原子力にブレーキをかける発言を繰り返していたので、現実的で責任あるエネルギー政策のために汗をかくということはなさそうだ。

有力な対抗馬となる石破茂氏は、政策集の中で「エネルギー自給率を抜本的に上げるため、安全を大前提とした原発の利活用……採算性のある再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現」としている。これも何も言っていないに等しい。出馬会見では原発を「ゼロに近づける努力は最大限する」と語っているが、その後このような発言は封印している。

一方、脱原発の旗頭だった河野太郎氏は、「増加が予測される電力需要に対応するために、再エネの導入を最大限促進するとともに、安全が確認された原発の再稼働を進める」と優等生的回答をしているが、これまでの言動からにわかに持論を転換したとは信用ができない。

もう一人有力な対抗馬となりそうな高市早苗氏は、かなり具体的なエネルギー政策を掲げている。「SMR(小型モジュール炉)や、高温ガス炉など『次世代革新炉』に関する取組を支援」、「核融合炉……の実装を目指し……日本初の核融合戦略『フュージョンエネルギー・イノベーション戦略』を着実に推進」、「バイオマスなど、地産地消型エネルギー需給体制を構築する『地域分散型エネルギーインフラプロジェクト』を推進」などなど。


人気はなくても汗をかく 問われる具体的な行動

他の候補も含めて、総じて10月から総理大臣になってまず何をやるのかという現実的なエネルギー政策があいまいだ。優等生的な抽象論や数十年先の夢を語るだけでは、自ら「総理大臣として何もやらない」と言っているのに等しい。エネルギー基本計画の改定が間近に迫り、既設原発の再稼働は滞り、たとえ国民的な人気はなくとも総理が主導して汗をかかなければならない問題が山積している。

岸田政権は、国民的不人気とは別に、エネルギー政策の正常化に向けて相当汗をかいたと評価している。これを継承する政権は、エネルギー政策を前に進めるために、総理に就任して具体的にどのような行動をとるのか、真摯に語るべきだ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年10月号)


NEWS 01:バイオ燃料を営業列車に搭載 鉄道業界が脱炭素で本命探し

カーボンニュートラルの実現に向け、鉄道業界が脱炭素車両の選択肢を広げている。JR西日本は9月、バイオ燃料を100%用いた営業列車の長期走行試験を開始。JR各社からは、水素を動力源とする次世代車両の導入を目指す計画も浮上した。エネルギー関連企業と連携しながら、技術開発や供給網づくりを進める機運が高まりそうだ。

バイオディーゼル燃料使用の列車
提供:JR西日本

JR西が主に山口県内を走る岩徳線の一部列車に導入したのは、廃食油などを原料に製造された次世代バイオディーゼル燃料。フィンランドの再生燃料大手ネステが製造し、伊藤忠エネクスが供給を担う。2025年1月末までの走行試験でエンジンなどの車両性能に影響がないことを確かめ、25年度以降の本格導入を目指す。

背景には、架線のない非電化区間を走る既存ディーゼル車両を環境に優しい車両に置き換える要請がある。その一環で、蓄電池で走る電車を採用する動きが一部で進んでいるが、1回の充電で走行できる距離が限られる上、割高な車両価格がハードルとなっていた。対照的にバイオ燃料は既存車両や給油関連施設がそのまま使えるため、普及する可能性を秘めている。

JR東日本は30年を目標に水素と酸素で電気をつくる燃料電池と蓄電池を併用するハイブリッド車両の実用化を狙う。中長期の視野で脱炭素車両の本命を探す動きが活発化しそうだ。


NEWS 02:供出義務化巡り波紋 調整力の市場調達に疑問符

需給調整市場における応札不足の常態化を解消する手立ての一つとして、発電事業者に供出を義務化する議論が浮上し電力業界に波紋を広げている。

電力広域的運営推進機関(広域機関)は9月10日の有識者会合で、供出義務化を求める制度的措置を講じる上で必要な論点の整理に着手した。5月10日の資源エネルギー庁の審議会で応札不足への対応策の基本的な考え方の一つとして、同措置が示されたことを受けたものだ。

これにより、発電事業者による出し惜しみをなくし高単価応札を排除することで、膨れ上がる送配電事業者による調整力の調達コストを抑制する狙い。一方で、義務に見合った確実な費用回収が見込めない限り、発電側の運営に与える影響はあまりにも大きい。

「慎重な検討が必要」との意見もあることから、広域機関は「あくまでも予備的な検討であり、実施の要否に関わる検討ではない」とのスタンスだが、電力業界関係者の一人は、「議論するからには規定路線なのだろう」と見る。

今年度、同市場で予定されていた全ての商品区分の取引が始まったが、募集量と応札量の乖離が顕著。2026年度には、現行では1週間前に取り引きされている一次~三次①が前日取引に移行することが決まっているが、それまでは調達未達が継続しかねず、エネ庁としても苦肉の策とも言える。

とはいえ、そもそもこの問題の背景には、大手電力の発電部門に対し限界費用ベースの価格規律を押し付けていることがある。「制度的な欠陥があるにもかかわらず、〝供出義務化〟というさらなる規律を押し付けようとしている。〝市場機能の活用〟とは一体なんなのか」(コンサルタント)


NEWS 03:HPと燃焼技術がコラボ 競合メーカーの連携加速

「大手電力・ガス会社が描くエネルギー供給構造の大きなグランドデザインに則って、メーカー各社は技術開発を進め、機器を製造・販売してきた」。ある空調メーカー関係者はこれまでのビジネスモデルの側面をこう話す。しかし、全面自由化時代の到来やカーボンニュートラル(CN)の動向は、そんなビジネス様式を大きく変えようとしている。

「三浦工業によるコベルコ・コンプレッサの株式取得」「ダイキンと三浦工業による資本業務提携」「パナソニックとヤンマーが分散型エネルギー事業で協業」「パナソニック、ヤンマー両社がGHPの開発製造に関する合弁会社設立へ」「独ボッシュが日立グループの空調企業を買収」―。

燃焼技術やヒートポンプ(HP)技術を培ってきたメーカー各社に限った近年の動向をみると、従来では考えられないような動きが顕在化しつつある。いわば競合同士のコラボだ。前出各社の動きを要約すると、「HP技術を取り込むボイラー企業」「HP・燃焼機器のアライアンス」「ライバル企業間連携」「日本のHP技術を手に入れる独企業」―といった形だ。

電力、ガス各陣営の結束が崩れていく中、「指南役」を失ったメーカー各社が荒波を乗り越えるため生き残りへの戦略にかじを切ったことは間違いないが、その動向から見えてくることがある。それは、CNへの道筋を多角的に捉えているという点だ。HP技術は再エネ電力を有効活用することに他ならない。片や燃焼技術を維持し、深堀りすることでメタネーションや水素社会の到来に備える。

旧来の業界の垣根を乗り越えたメーカー間のアライアンスが、どのような形で新たなエネルギー利用技術を生み出していくのか、注目される。


NEWS 04:26年度にETS本格稼働 制度の論点整理に着手

2026年度から排出量取引制度(ETS)が本格稼働する。方向性について、岸田文雄首相は今年1月の施政方針演説で「大企業の参加義務化や個社の削減目標の認証制度の創設を視野に法定化を進めていく」と述べていた。その議論が9月3日に始まった。

政府は「GX実現に向けたカーボンプライシング(CP)専門ワーキンググループ」で検討を進め、来年の国会でGX推進法の改正を行う予定だ。今WGでETSの具体的なルールが決まるのではなく、その前段階での論点整理を目的とする。

実証・試行を経てETSが本格稼働へ

現在ETSは試行段階。「GXリーグ」では目標設定や達成に関しては自主的な取り組みとしている。一方、本格稼働の段階では参加率向上や規制色を強める方針で、対象者の定め方や目標設定の在り方、目標達成に向けた規律強化などについて議論を深める。例えば対象に関しては、省エネ法などと平仄を合わせ、年間エネルギ―使用量(原油換算)1500㎘以上がラインとなる可能性がある。

同日は日本鉄鋼連盟、石油連盟、電気事業連合会などに聞き取りを実施。電事連はトランジションへの考慮や、事業・投資の予見性確保が重要だと強調。さらに電化の推進と整合的なCPの水準などの設計や、GXに伴う負担への理解醸成を求めた。

価格水準など望ましいCPは業界によって千差万別。政府はどう議論を収れんさせるのか。

目算が外れた東電の経営再建 原発頼みの矛盾と限界が鮮明化


【論説室の窓】西尾邦明/朝日新聞 論説委員

東京電力ホールディングスの再建計画を改訂する作業が進んでいる。

廃炉と自由化が進展する中、現実を直視し抜本的な見直しを図るべきだ。

「福島への責任を果たすために東電が存続を許されたということは今後も不変である」

東電の再建計画にあたる「第四次総合特別事業計画」は冒頭でそう記す。まずは、これまでの計画が、福島への責任を貫徹する内容となってきたのかを振り返りたい。

東電は2011年の原発事故で経営破綻の瀬戸際となり、混乱を避けるためとして翌年に実質国有化された。国の原子力損害賠償・廃炉等支援機構と東電は再建計画を策定し、ほぼ4年ごとに見直してきた。

21年の第四次計画は17年の計画の枠組みを維持し、廃炉と賠償、除染に必要な費用21・5兆円のうち東電の負担を15・9兆円とし、毎年5000億円を拠出するとしてきた。さらに、中長期では年4500億円の利益を確保して株価を上向かせ、政府保有株の売却で除染費用を回収する計画を掲げた。

しかし、実際に過去5年で5000億円に達したのは23年度だけで、年平均でみても4000億円ほどにとどまる。利益は目標を大きく下回り、株価は1株あたり1500円ほどに高める必要があるが、本稿執筆の9月9日時点で656円だ。

福島第一原発の処理水貯蔵タンク


デブリ取り出しで難航 見通しの甘さ明らか

目算が外れた大きな原因は、従来の計画で、新潟県の柏崎刈羽原発が収益改善の柱になると楽観していたからだ。12年の当初計画は、柏崎刈羽を13年度に再稼働させ、10年代半ば以降の早い時期に国が持つ東電株の割合を減らして、国有化を終える想定だった。

17年の計画では6、7号機を19年度から、1~5号機を21年度から順次再稼働するとした。21年の計画でも7号機を22年度、6号機を24年度に再稼働すると仮定した。だが、21年に核防護対策の不備で原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受け、昨年末に解除されたものの、地元同意の見通しは立っていない。原発関連でトラブルを繰り返す東電の安全文化への疑念は根強い。

一方、賠償や廃炉に必要な費用は当初の6兆円から膨らみ続け、昨年末には23・4兆円となった。廃炉では溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは8月、「初歩的なミス」でつまずいた。

過酷な現場を考えれば過剰な反応は避けるべきだが、今後も難航することを直視するべきで、費用も増える可能性がある。総じて見通しの甘さは明らかで、本来は計画の枠組みからの見直しが求められている。

もっとも、柏崎刈羽原発は再稼働に向けて、柏崎市と刈羽村の議会が早期再稼働を求める請願を賛成多数で採択するなど、前進している。稼働すれば1基で約1000億円の燃料費が節減でき、東電の収益は改善する。原発の再稼働がまだない東日本の安定供給に一定の役割を果たすのも事実である。

ただ、これまでの誤算続きの経緯を見ると、未曽有の原発事故を起こした東電が「福島への責任」として、将来にわたって原発に頼り続けることには、矛盾と限界があるのではないか。「非連続の改革」を掲げながら、経路依存性の強い原発事業に縛られているようにみえる。

東電は中長期でも、青森県の東通原発の建設再開を目指しているが、絵餅となって再建策が行き詰まれば、存続意義が問われる。原発の経済優位性が失われつつある現実やバックエンドの難題も踏まえる必要がある。

【覆面ホンネ座談会】2025年度の概算要求 エネ事業に目玉はあるのか?


テーマ:エネルギー業界から見た概算要求

2025年度予算案の概算要求で一般会計の総額が117兆円超となり、2年連続で過去最大を更新した。エネルギー・環境関係の計上額も大きいが、具体的にはどのような事業が並んでいるのか。エネルギー業界人と内容を総点検した。

〈出席者〉 A石油業界関係者 Bガス業界関係者 C電力業界関係者

―まずは経済産業省の内容から。合計では2・36兆円となり、このうちGX(グリーントランスフォーメーション)・脱炭素エネルギー関連では1・25兆円を計上している。

A 作文は良くできているなとは思うが、今回は新しい玉がほぼ見当たらず、一言で言えば見どころに欠ける。しかも首相交代で下手をすれば予算の内容が変わる可能性もある。これだけ盛り上がらないのも珍しい。

特にGX推進対策費が24年度当初予算より3400億円ほど増えている。エネルギー対策特別会計は前年度並みで、想定の範囲内だ。いずれにせよ額が膨張する傾向は今後も続く中、各項目ではばらまき過ぎだと感じる部分がある。もちろん重要な事業も多くあるが、もう少し整理すべきだろう。概要資料を見てもポイントが今一つ掴めない。

―一昔前は1事業で3桁億円となれば大騒ぎだったが、いつの間にかその程度は当然のように計上されている。

B 確かに目新しさに乏しい。既存事業を膨らませた印象で、特にGX・脱炭素関係でその傾向が顕著といえる。業界からすると、前回の概算要求からGX推進対策費で最大5年間の複数年度の予算感を示し、事業者が投資予見性を見渡せるようになったことはありがたい。

第7次エネ基の議論が進む中、25年度概算要求の内容に注目が集まるが……


金額だけ膨らむGX事業 メリハリなくばらまき感目立つ

B 今回、概要資料のGX・脱炭素関連の説明の中で「LNG等の安定供給確保」との文言が入っている。審議会などで「長期契約が減っていく中で調達の長期予見性を高めるための支援策が必要だ」といった指摘が出ていることもあり、新しい項目が盛り込まれているのかと思ったが、見当たらなかった。それどころか資源・燃料の安定供給確保に関する事業を拡充しているようには見えない。特に石油天然ガス田の探鉱・資産買収などに対する出資金の事業は、今年度当初予算と比較すると半分の486億円となっていて、気になる点だ。

C 一方、SAF(持続可能な航空燃料)の製造・供給体制構築支援が838億円で今年度当初の約3倍。それで行って来いではないのだろうが、GXに重点ということか。 

全体の話に戻し、当初予算でなく概算要求額で前回と今回とを比べると、実は前回24年度の概算要求額が2・46兆円で、今回は減っている。実際の予算編成では財務省に大分削られるから、25年度当初も結局前年度当初並みになると思われる。ただ、当初予算で見ると、23年度1・69兆円から、24年度は1・9兆円と大幅に増えている。

―しかもGX関連では23年度補正に前倒したものも結構ある。

C GXはまさに複数年度継続するという立て付けだから、金額も継続的で良いよねという印象を受けるし、前回増加に失敗した事業では今回も再チャレンジしているんだろう。

A 業界関係者は概算要求に向け、4月末に役所に要求書を出す。例えば石油なら元売りの企画委員会などから新ネタを上げるようにしているが、それにみんな結構悩んでいる。団体側の施策構想力が落ちているから、資源エネルギー庁原課も金額だけ膨張させるという側面もあろう。

特にGX・DX関係は主体が分かりにくい。これはメディアが細かく書かなくなったことの影響もあるのかも。

―加えて、24年度概算要求から資料を経産省全体で統一し、それまでエネ庁が別途1枚紙でまとめていた資源・エネルギー関係のポイントが公表されなくなった。これも分かりにくさにつながっているだろう。

C 特にエネ特関係は第6次エネルギー基本計画に基づき予算を獲得したものを今回もそのまま要求している。今後、総裁選や、年度内に第7次エネ基などが策定される中、この要求がそれらにどう影響されるのか、やはり気になるところだ。

その中で、需要側に関する事業の額が積み増されている点が最近の特徴と言える。政府は、「脱炭素の一丁目一番地は省エネ」が基本姿勢なので、省エネに加えてVPP(仮想発電所)関係などの事業規模の拡大が目立つ。水素でも需要側を含めたサプライチェーン利活用を意識した立て付けだ。また、水素や蓄電池についてはある程度実装が見通せるようになってきたこともあり、力を入れている印象。いずれにせよ、GX・脱炭素に向けては需要側がついてこなければ意味がないので、大胆に補助をするという発想になっている。

―逆に供給側の事業に目玉がないとも言えるのでは?

C 系統用蓄電池などの導入支援(310億円、24年度当初の3・6倍)と、次世代革新炉の研究開発支援(829億円、同1・5倍)が増額されていて、あとは横ばい。原子力をはじめ電力に関する予算を一定確保し、推進に向かおうとしていることは業界的にプラスだと感じている。

A ただ以前から、次世代革新炉開発は1桁足りないのでは、といった有識者などの指摘がある。やはりあらゆる分野に振りまき、金額的にメリハリがついていない予算だ。