【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題
他国のエネルギー政策を見ることは自国を考える上で大変参考になる。特に台湾は、2024年1月の総統選挙も終わり、中国との緊迫する情勢をどう乗り切るかが注目される中、エネルギーの安定供給は極めて重要な課題となっている。
現在、台湾はエネルギー消費の約97.8%を輸入に依存し、エネルギー自給率はわずか2.2%にとどまっている。22年の一次エネルギー供給構成では、石油が44.0%と最大の割合を占め、電源以外にも産業や民生のエネルギー源として広く活用されている。石油の大部分は中東からの輸入に依存しており、この状況は、中国の南シナ海における活動によってシーレーンの安全が脅かされるリスクを抱えている。このリスクに対応するため、台湾は、アメリカやオーストラリアからの天然ガスの輸入増加や、世界有数の洋上風力発電の好立地である台湾海峡を生かした再生可能エネルギーによる自給率向上の取り組みを行っている。

台湾政府は25年までに電源構成の大幅な変更を計画している。23年時点で天然ガス40.0%、石炭38.9%、原子力11.0%、再エネ8.2%、石油1.9%だった構成を、25年までに天然ガス50%、石炭30%、再エネ20%とし、原子力と石油をゼロにする目標を掲げている。特に再エネの割合を大幅に高めることでエネルギー自給率の向上を目指しているが、その導入は計画通りに進んでおらず、安定供給の確保を優先すべきという見方も出てきている。
この点で参考になるのが、スウェーデンとフィンランドの事例である。両国は隣国ロシアとの地政学的リスクに直面しながらも、原子力発電と再エネの両立によってエネルギー自給率を大幅に高めることに成功している。16年時点でスウェーデンのエネルギー自給率は71%、フィンランドは55%に達した。20年には発電力に占める再エネと原子力を合わせた割合が、スウェーデンで98.64%(うち原子力が30.08%)、フィンランドで85.90%(うち原子力が33.78%)にまで上昇した。その効果として、22年のロシアによるウクライナ侵攻後も、ドイツなどのロシアからの輸入依存度が高い国々と比較して、エネルギー供給面での影響は限定的であった。だからこそ、NATO加盟にも踏み切れたのだ。エネルギーの安全保障においては、国家の置かれた地理的、政治的立場、そして利用可能な資源によって最適なエネルギー戦略が異なってくる。例えば、イスラエルは地中海沖合で大規模な天然ガス田を発見し、エネルギー自給率を大幅に向上させ、周辺国へのガス輸出も視野に入れるまでになっている。
台湾の新政権においては、エネルギー安全保障の観点から原子力発電廃止の方針について見直しが行われる可能性がある。台湾の強みである半導体産業からの貿易収入を活用し、エネルギーの安定供給に向けた投資をどのように行っていくのか注目される。
(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)