【多事争論】話題:エネルギー企業の人材確保
他業種同様、エネルギー業界も優秀な人材獲得に頭を悩ませる時代である。
キャリア採用やリスキリング、そして新卒採用でどんな視点が求められるのか。
〈 ニーズ拡大し続けるGX人材 「脱・脱炭素」でも競争激化 〉
視点A:出馬弘昭/グリーンタレントハブ シニアアドバイザー
エネルギー業界でGX・DX人材の拡充は急務だ。まず、GX人材の拡充は、①社内化石燃料人材のリスキリング、②企業買収、③キャリア採用―などがある。欧米では国を超えて人材の獲得競争が始まっており、先進事例を紹介する。
①では、英British Gasがガスボイラーのエンジニアを、EV充電設備やヒートポンプのエンジニアにリスキリングする。また英National Gridはガス土木から地中熱ヒートポンプのエンジニアにリスキリング。石油ガス掘削から地熱エンジニアへのリスキリングも進む。②では、英蘭Shellが蓄電池製造の独Sonnenを買収し蓄電池人材を、米石油OccidentalはDAC(直接空気回収)のカナダCarbon Engineeringを買収しCO2回収人材を獲得した。仏電力Engie、伊電力Enel、英石油BPはEV充電器製造の蘭EVBox、米eMotorWerks、英ChargeMasterをそれぞれ買収しEX充電事業を多国展開する。電力会社のヒートポンプやPVパネル製造業の買収も進む。③としては、National Gridがニューヨーク州やビル省エネの米BlocPowerと提携し、地域住民向けにヒートポンプ技術者養成プログラムを提供しキャリア採用する。
DX人材の増強でもGX同様、①、②、③の取り組みが進む。
①では、米電力Exelonが「Analytics Company」を目指し「Exelon Utility Analytics Academy」を開講。全社員に分析文化を根付かせ内製開発を拡大し、デジタルリスキリングを推進する。②では、Enelがデマンドレスポンスの米EnerNocを買収しEnel Xとした。
同社は蓄電池制御の米Demand Energy Networksやデジタル決済の伊PayTipperなどを次々と買収し、3000人超のDX人材を確保し内製開発とデジタル事業を展開。独E.ONも独デジタル企業のenvelio とgridXを買収した。③では、米電力Duke Energyが「Data Driven Company」を目指し「Duke Energy Innovation Center」を開設。400人体制で、常時80の内製開発プロジェクトを進める。DX人材の多くはキャリア採用だ。全社でデータアナリストを約100人キャリア採用し、うち30人が同センターに在籍する。
他方、日本では情報システム部門をDX部門と改名しさまざまな取り組みが進むが、GX人材の獲得は黎明期だ。
日本でも徐々に取り組み加速 海外の人材獲得のチャンスも
新しい動きとしては2023年、日本初のGX人材に特化した採用・育成事業のグリーンタレントハブが設立された。当社へのGX人材のニーズは主に三つ。第一はディープテックの事業開発職で主に商社やコンサルティング出身者が求められる。第二は再生可能エネルギーやカーボンニュートラル(CN)関連の専門職で、コンサルティングやサステナビリティ推進部門の需要が高い。第三は電気エンジニアで再エネ発電・EPC事業者の需要がある。
報酬面では、エネルギー・インフラ業界の平均年収は670万円だが、グリーン企業では900万~1000万円と、伝統的電力会社を上回るケースも出てきた。当社経由の転職者は10~30%の年収アップを実現することが多い。当社はGX人材の専門家80人超と対談する「脱炭素キャリアチャンネル」を運営しており、是非ご覧いただきたい。
また昨年、GX人材の拡大に向けた「グリーン人材開発協議会」が発足した。今年3月14日に開かれたセミナーの概要を紹介する。
同協議会代表の橘川武郎・国際大学学長は第7次エネルギー基本計画によるGX人材への影響を述べた。今回初のリスクシナリオは現実的でCN後退と言えるが、国はCNの旗は下ろしていないため複雑度が増した。よって、より多様なGX人材ニーズが高まり、大企業だけでなく中小企業、NGO・NPO、自治体など幅広い領域で必要になる。
この他、経済産業省のGX政策と、GX推進企業調査レポートの中から4社(三菱重工、デンソー、グリーンカーボンなど)の事例を紹介。パネルディスカッションではNTTグリーン&フード、リクルートなどが社内からの獲得・育成、企業買収・協業、キャリア採用の秘訣や課題を議論した。同協議会への入会は無料。slackで最新情報を発信している。
欧米では脱・脱炭素の動きもあるが、世界が50年CNを志向する限り、日本でもGX人材の獲得競争は激化するであろう。欧米の脱炭素分野のスタートアップやベンチャーキャピタルが日本に注目しており、海外の人材獲得のチャンスでもある。日本もグローバルな視点でGX人材獲得に動く時が来ている。
いずま・ひろあき 1983年大阪ガス入社。2018年東京ガス入社、シリコンバレーでCVC立上げに参画。現在、東北電力アドバイザー、大阪大学フォーサイト取締役、エクサウィザーズ顧問、インベストメントLabシニアアドバイザーなどを兼務。