7年ぶりにトップ交代 九州電力社長に西山氏


九州電力は3月27日、西山勝・取締役常務執行役員が6月末に社長に昇格する人事を発表した。社長交代は7年ぶり。在任中、4年にわたって電気事業連合会会長を務めた池辺和弘社長は、代表権のある会長に就任する。

握手を交わす九州電力の池辺社長(右)と西山次期社長
提供:朝日新聞社

西山氏は、鎌田迪貞社長・会長の秘書を務めたほか、経営企画部門を中心に幅広く経験を積み、2023年からは、エネルギーサービス事業統括本部長として、水力や火力、営業などの部門を束ねている。「とにかく真面目」(電力業界関係者)な人柄で、瓜生道明会長や池辺氏の信頼は厚く、早くからポスト池辺との呼び声が高かった。

「九州は成長の姿が見えてきた。地域と共に事業をさらに飛躍させたい」と、同日の会見で抱負を語った西山氏。熊本県で、半導体受託生産世界最大手の台湾企業「TSMC」が工場を稼働させ、データセンターの集積が計画されるなど、同エリアでの電力需要の高まりが予想されている。すでに川内1、2号機、玄海3、4号機を再稼働しているが、新たな大規模電源投資の検討は必至だ。

同社は昨年、純粋持ち株会社体制への移行に向けた準備を開始することを発表。実現すれば、九電は発販事業会社として、九州電力送配電などと共に持ち株会社傘下に入ることになる。社長には池辺氏が就任すると目されている。5月に新たな経営ビジョンの発表を控える九電。エネルギー事業を取り巻く環境が激変する中で、ビジネス機会を捉えさらなる成長へと導くことができるのか。西山氏の手腕に期待がかかる。

次世代地熱で官民協議会 30年代の早期実装を目指す


資源エネルギー庁は4月14日、次世代型地熱技術の普及に向けて議論する官民協議会(座長=藤光康宏・九州大学大学院教授)の初会合を開催した。2030年代の早期実用化を目指し、課題や技術開発要素を整理した上で、10月ごろにロードマップを取りまとめる。

冒頭あいさつに臨む竹内真二・経産政務官(左から4人目)

次世代型は従来型に比べ、約4倍の地熱ポテンシャルを秘めている。高温岩体発電(EGS)、超臨界地熱、クローズドループなどが該当し、近年では欧米を中心に、クローズドループやシェール技術を適用したEGSへの取り組みが盛んだ。冒頭あいさつした竹内真二経産政務官は「日本も早期実用化を目指し世界の地熱利用をけん引していくべきだ」と強調した。

協議会には、電力・ガス事業者のほか、メーカーやゼネコンなど76の民間企業・業界団体が参加。オブザーバーには、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のほか、環境省や林野庁なども名を連ね、発電所建設の法規制の検討を視野に入れた体制が構築された。地熱開発に携わるメーカー関係者は「地熱はリードタイムが長く、調査費用も莫大。地元理解の醸成も不可欠であり、開発のハードルは他の再生可能エネルギーよりも高い。だからこそ、国が旗を振ってくれることに大きな期待がある」と語る。

火山国である日本の地熱資源量は、米国・インドネシアに次ぐ世界第3位を誇る。一方で、設備導入量は10位。世界3位のポテンシャルを生かせるか―。石破茂首相自らが地熱に関心を寄せる中、協議会の議論が開発拡大の鍵を握る。

時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する


【気象データ活用術 Vol.2】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

エネルギー業界において代表的な気象データ活用例は、太陽光や風力といった自然変動電源の発電出力予測だろう。私たちに寄せられる最も多い問い合わせも、再生可能エネルギー予測に関する課題だ。今回は、気象ドリブンなアプローチから再エネ発電予測開発を設計する上で重要な「時間軸」について紹介したい。

気象データを活用した予測開発は、三つの時間軸の世界を行き来しながら進める。三つの時間軸とは、①過去の時点から見る時間軸、②未来の時点から見る時間軸、③協定世界時(UTC)の時間軸―だ。それに加えて、「VALID TIME:予測対象時刻」「INITIAL TIME:初期時刻」「FT:何時間後の予測」など、それぞれの時間軸の中で目盛りの役割となる時刻の観念と、予測開発における制約条件とを整理しながら最初の大枠を組み立てる。

時間軸を俯瞰するツール(無料公開中)

電力取引の場では、JEPX(日本卸電力取引所)での入札やOCCTO(電力広域的運営推進機関)への計画提出など、タイムスケジュールがきっちり決められている。一方、それに備えるオペレーションフローは各社各様であり、ヒアリングにより「いつまでにどんな予測値が必要か?」を整理しつつ制約条件を洗い出す。例えば、JEPXスポット入札のためのデータ作成作業を、まず取引日前日の午後5時までに仮の予測値で進めておき、取引日当日の締切10分前までに本命の予測値で入札データを最終更新したいというニーズであれば、そのフローに応じて異なる気象データを採用する。つまり「リードタイム(何時間後を予測するか)」の長短に応じて最適な気象データを選択する。クライアントのオペレーションフローを把握できたら、さっそく予測モデル開発のため“過去時点の予測データ”の調達に着手する。

再エネ予測開発で活用する最も一般的な気象予測データ「数値予報」を調達する際の時間軸の考察例をご紹介する。毎朝9時までに翌日ターゲットの再エネ出力予測値が必要な場合、この時点での最新の数値予報は朝6時を初期時刻とするものだ。朝6時から見た翌日は18時間後から始まり42時間後で終わる。以上を整理すると、INITIAL TIMEが6:00の数値予報データから、VALID TIMEが翌日0:00〜24:00に該当するFT=18〜42の部分を、過去数年分切り出すという作業を行う。ただし、気象データはグローバルにやり取りされているため、当然タイムスタンプは協定世界時(UTC)であり、これを日本標準時(JST)へ変換する必要がある。

さて予測モデルが完成し、いよいよ実装フェーズになると、次は“未来時点の予測データ”の出番だ。未来に、すなわちこれから毎日定時に配信される気象予測データを予測モデルに投入し、予測を出力するシステムを構築する。このシステムを計画値作成現場の運用に落とし込んで完成だ。

再エネ予測開発で三つの時間軸を行き来しながら気象データを検討するややこしい体験を共有させていただいたが、気象データは面白い! と思っていただけたなら幸甚である。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

燃料油補助金のデジャブ 物価高と少数与党で先見えず


【業界紙の目】津金宏嘉/燃料油脂新聞社編集局石油部長

政府の燃料油価格激変緩和対策事業が、ガソリンなど石油製品価格の高騰を抑えて3年以上が経つ。

物価高と選挙が掛け合わさり、燃料油高騰対策は此度もいつか来た道をたどる―。

現行の燃料油価格激変緩和対策事業は、2024年11月に閣議決定した総合経済対策の一環だ。従前は岸田文雄首相(当時)の同年6月21日の会見における「年内に限り継続」との発言が期限を表していたが、24年度補正予算で1兆324億円を手当し、12月と今年1月に段階的縮小を行いながら、当面延長する方針が決まった。この時点で実に8回目の延長だ。

3月の参議院予算委員会で武藤容治経済産業相は、24年度補正予算計上の背景について「支給単価15円の補助で、25年度前半まで行われると仮定」したと説明した。補正予算策定時点で、石油業界では「予算を使い切る時が事業が終わる時」(広域特約店幹部)との見方が広がったが、昨年12月と今年1月の段階的縮小(合計1ℓ当たり10・2円)と、米トランプ大統領就任後の原油価格下落によって、3月20~26日には補助額が2・1円と、事業開始以来の最小額に縮小した。

予算を使い切るのは少し先か―と業界関係者がさや当てを始めた矢先の4月1日、石破茂首相が会見で事業の継続を表明した。さらに4日に行われた自民、公明、国民民主の3党幹事長会談が、6月1日から26年3月末までを想定したガソリン価格抑制策強化に合意し、雪崩式に油価高騰対策の9回目の延長が決まっていった。

政治サイドの思惑で終わるに終われない激変緩和事業の不確実性は今回も健在だった。選挙前の物価高対策で同事業が延長される図式は、もはやデジャブの感すらある。

ウクライナ侵攻前の都内のガソリン価格


ガソリン税見直しも浮上 議論はさらに複雑化

石油業界関係者でも、同事業の始まりを正確に覚えている人は少ない。欧州を中心とする急ぎ過ぎた脱炭素政策の反動で、21年に天然ガスや原油の引き合いが強まり国際市場が急騰。政府は「原油価格高騰が新型コロナ禍からの経済回復を阻害するのを防ぐ」目的で22年1月に事業をスタートした。当初は上限額を1ℓ当たり5円に設定したが、2月24日にロシアによるウクライナ武力侵攻が始まり、エネルギー安全保障が喫緊の課題に浮上すると「緊急事態に迅速に対応する」として事業を拡大・延長。22年6月中旬には41・4円を支給するなど、名称通りに燃料油価格の激変を抑えて今日に至っている。

さらに足元の燃料油高騰対策の議論は、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率廃止を求める野党の声が加わり複雑化した。6月の都議選、7月の参院選を見据えて、物価高に対する国民の批判を軽減したい政府・与党の思惑と、政府の無策を突きつつ、あわよくば暫定税率廃止を自身の手柄として選挙戦でアピールしたい野党の思惑が透ける。

自民党の考えでは暫定税率については、エコカー減税の見直し時期に合わせて今年後半に本格化する、自動車関連税制の抜本的改革の中で議論するのが基本線だ。自民・公明・国民民主の3党合意で暫定税率廃止を決めつつも、時期が定まらないのは選挙戦の材料にしたい野党と、基本線を維持したい自民党で思惑が異なるからだ。

KKの県民投票条例を否決 花角知事はいつ決断?


今夏の再稼働に向けて、残された時間は少ない。

新潟県議会は4月18日、柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、市民団体が直接請求していた県民投票条例案を否決した。

花角英世知事は自身が再稼働の是非を判断した上で、「県民の信を問う」としている。その手法については、①出直し知事選、②県議会での意見集約、③県民投票─の三つが候補に挙がるが、③の可能性は消滅した。今後、再稼働慎重派は争点化しやすい①を求める可能性が高い。一方、自民党の中堅県議は「選挙区の住民の声を聞いた上で、県議が判断すればいい」と②を訴える。

県民投票条例案についての質問に答える花角英世知事
提供:朝日新聞社

花角知事の判断はいつになるのか。同氏は17日の県議会で「判断に必要な材料はほぼそろってきた」とした上で、「議論を進める中で県民の受け止め、意見は固まっていくと思う。まさに今、見極めていく段階で、その先に判断を出す時期が来る」との認識を示した。判断に当たり、公聴会や首長との意見交換、県民への意識調査を検討しているという。しかし、県内には避難道路の整備や国からの経済的支援が未確定で、「再稼働について議論する段階にない」との考えを持つ首長すら存在する。

ただ首長の意見を聞いたとしても、最終的には花角知事の判断が全てだ。直近では女川原発の再稼働同意を巡り、宮城県知事が首長との意見交換を行ったが、賛成の意思を示したのは2人だけだった。

7月には参院選、来年6月には知事選を控える中、ベストなタイミングは……。カレンダーとのにらめっこが続く。

新経営ビジョンを策定 GX集積地のさらなる発展に貢献


【北海道電力】

北海道電力は、グループ経営ビジョンを刷新し、2035年に目指す姿の実現に取り組む。

発展に向け強力な追い風が吹く中で安定供給と脱炭素化を両立させ、新たな価値創造に挑戦し続ける。

北海道電力は3月、2035年に目指す姿として「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定した。エネルギーの安定供給・経済成長・脱炭素の同時実現を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)や、生成AIの普及活用をはじめとするDX(デジタルトランスフォーメーション)の広がりなどにより、北海道では中長期的な電力需要増加が見込まれている。こうした発展に向けた強力な追い風が吹いている一方、高齢化や人口減少の波が押し寄せており、今後、働き手不足などの社会課題が生じると想定され、これらの解決に向けた取り組みも必要となる。

ほくでんグループの新たな経営理念


新たな経営理念を制定 三つの経営テーマに注力

同グループは、これまで「人間尊重」「地域への寄与」「効率的経営」の三つを経営理念として掲げ、北海道を基盤とした事業運営を行ってきた。経営環境が絶えず変化し、将来の不確実性が高い中において、事業の持続的な成長と持続可能な社会を実現していくためには、自らの考え方や行動をこれからも変えていく必要があり、従業員の思いなどを聞き取りながら、改めて同グループが大切にしていくものを整理し、新たな経営理念を定めた。

新たな経営理念では、地域の人々とともに世界に誇れる魅力ある北海道を創り、暮らしを豊かにしていく存在であり続けたいという思いを「ありたい姿(Purpose)」として定めるとともに、その実現に向けて「果たす役割(Mission)」や「一人ひとりが共有する価値観(Values)」を体系的にまとめている。

そして、35年に目指す姿の実現に向けては「北海道の発展に向けたGX実現への挑戦」と「新たな価値創造に向けた挑戦」、さらにこれらを下支えする「持続的な成長に向けた経営基盤の強化」の三つを経営テーマとして位置付け、取り組んでいくこととしている。

一つ目の「北海道の発展に向けたGX実現への挑戦」について、次世代半導体工場や大型データセンターなど、北海道へのGX産業集積に貢献するため、電力需要の増加や再生可能エネルギーの導入拡大を見据え、発電や送配電の電力インフラの着実な整備や水素・アンモニアなどの利活用によりエネルギーの脱炭素化を進めていく。

安全性の確保を大前提に、安定供給の確保・経済効率性・環境適合を同時に実現する。S+3E(安全性、安定供給性、経済性、環境性)の考え方の下、顧客へ着実に電気を届け続ける。泊発電所については、27年のできるだけ早期に3号機の、30年代前半までに全基の再稼働を目指し、総力を挙げて取り組みを進め、再稼動後には適正な水準で電気料金を値下げする。

洋上風力業界内で情報錯そう 三菱商事は撤退か継続か


三菱商事はラウンド1の3件を継続か、それとも―。商事が減損処理した洋上風力事業の行方を巡り、業界ではさまざまな憶測が飛び交う。資源エネルギー庁は急転直下でFIP(市場連動価格買い取り)への転換を認めたが、これをもって継続を判断できるほどのプラス材料とは言い難い。

R1の動向は日本の洋上風力の行方を占う(写真は石狩湾新港)
提供:朝日新聞社

うわさの一つが、秋田の2海域から撤退するという案。商事が札入れしたFIT(固定価格買い取り)価格は、千葉・銚子が16円台に対し、秋田は約12~13円程度。これを基にFIP転をすると、銚子はまだ事業性が見込める可能性がある。また、県内のデータセンタービジネスとの絡みや、漁協などに対し100億円規模を拠出すると既に表明済みであることから、簡単に翻意できないのではないか、というのだ。

「全海域から降りれば中西勝也社長のメンツにかかわる。ただ、エネ庁がFIP転を認めたことをメディアに『救済策』と揶揄されたにもかかわらず、継続が1海域だけでは割に合わない。落としどころが見えない」(業界関係者)。仮に商事が断念した場合、次点組に白羽の矢が立つが、入札時の条件のままでは到底引き受けられない。変更がどこまで認められるのかによるが、エネ庁が最も避けたい再公募の可能性もある。

「入札前から、後発組によるダンピングの可能性は指摘されていた。商事の計画のリスクが高いことを見抜けなかったことは残念。これではだれもハッピーではない」(同)。再エネ主力化をけん引するはずの洋上風力の先行きは、依然視界不良だ。

発足10年の節目を迎えた広域機関 高まる存在感と待ち受ける試練


電力の安定供給と電源の広域的な運用を担うべく、2015年4月に発足した電力広域的運営推進機関。

電気事業を巡る課題が次々と顕在化する中、政策実行部隊として立て直しをリードすることが求められている。

電力広域的運営推進機関設立のきっかけは、2011年の東日本大震災だ。大規模電源が被災し東京電力管内で計画停電が起きたことを教訓に、電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国大で平常時・緊急時の需給調整機能を強化する役割を担う。全ての電気事業者が加入義務を負い、中立かつ公平に業務運営を行っている。

専門性、先見性を持って業務に当たりたいと語る大山理事


安定供給の番人を自負 電気事業の課題にも対応

電力システム改革の第一弾として同機関が発足した翌年、小売り全面自由化がスタートした。自然変動型の再生可能エネルギーの大量導入、災害の激甚化、そして予備力の急速な低下が重なり幾度となく需給ひっ迫危機に見舞われながらも、大山力理事長は「電気事業に関わる事業者の協力を得ながら〝安定供給の番人〟としての役割を果たしてきた」と振り返る。

今や同機関の役割はこれにとどまらず、「政策実行部隊」としても存在感を放つ。この10年間は大手電力会社)による地域独占・総括原価方式の下での安定供給体制から市場メカニズムへと抜本的にシステムが移行していった期間でもあり、システム改革に起因するさまざまな課題が顕在化。それらに対応するため、容量市場の設計・運営や需給調整市場の設計・運営、広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)の具体的な計画策定、さらに足元では容量市場のメインオークションを補完する長期脱炭素電源オークションや予備電源制度の設計など、経済産業省から次々とタスクアウトされ手掛ける業務は格段に増えた。

これに伴い、職員数は設立時の100人程度から230人(4月1日時点)ほどに増えたが「業務量の増え方は2倍どころではない」というのは、同機関内外の誰もが指摘するところだろう。当初は、職員の大半を大手電力会社からの出向者が占めていたが、昨年度には半数を切った。新卒を含むプロパー職員、新電力やシステムメーカー、金融機関からの出向者などさまざまな「専門家」が集結し、電力の安定供給という共通の目的を持って職務に当たっている。

発足当初、関係者が予想だにしていなかったことが、莫大な資金を扱うようになったことだ。22年度には、再エネFIT(固定価格買い取り制度)/FIP(市場連動買い取り制度)賦課金を基に買い取り費用の調整を行う「費用負担調整業務」が低炭素投資促進機構(GIO)から移管されたことに伴う。

電力会社には、買い取り費用から再エネを引き取ることで火力の焚き減らしなどで支出を免れた「回避可能費用」を差し引いた額を交付金として支払う。この回避可能費用は市場価格に連動するため、市場が低迷すると控除する額が減少し交付金の額が増えるという関係にある。交付金が賦課金の納付金を上回り不足が生じた場合は、同機関が金融機関から借り入れなければならず、現時点での累計借入額は8800億円に上る。

さまざまな矛盾はらむETS 勝者・敗者の分かれ目はルール次第


成長志向型カーボンプライシングの一環で、来年度から排出量取引制度が本格稼働する。

一定規模の全業種に参加を義務付け、ルール作りが今後進むが、その調整はいばらの道となりそうだ。

「昨年の議論はニュートラルだったが、神は細部に宿る。うちの業界では経済産業省の所管部局と今後の相場観について話をしているよ」―。現在国会でGX推進法改正案が審議されている中、既に経済界では排出量取引制度(ETS)の実施に備えたロビーイングが展開されている。政府が昨年示した制度の大枠を踏まえ、法案成立後、詳細ルールの検討が進む予定だ。このルール次第で、ETSの勝者・敗者が決まることになる。

2026年度に始まる日本版ETSは、直近3カ年平均のCO2直接排出量が10万t以上の法人が対象だ。当面は排出枠を全量無償で割り当て、企業ごとの削減実績と照らし合わせ、過不足分を市場で取引し、余剰は翌年度に持ち越せる。発電事業者に関しては、33年度から一部有償割り当てに移行する。

核心となるのが、無償枠の割当量と、取引価格の予見可能性を高めるために導入する上限・下限価格だが、業種ごとに求めるポイントは千差万別だ。

ETSでリーケージの回避は重要論点の一つだ


公平性の担保難しく エネルギー間競争に影響も

まず上下限価格から見てみよう。昨年、専門ワーキンググループの議論に参加した電力中央研究所の上野貴弘上席研究員は「とりわけ上限価格が重要で、費用が青天井となるリスクを取り除けたことは良かった。リーケージ(CO2多排出産業の移転)などのリスクと、国民負担で受容できる水準を考え、設定することになる」と解説する。

例えば発電事業者の場合、リーケージという概念はないが、価格が安すぎるとトランジションが進まず、高すぎると設備の休廃止が一層進む方へ向かう。既に顕在化している火力設備への投資停滞を加速させかねない。

他方、下限価格には、脱炭素投資に向けた必要最低ラインを示す意味がある。価格低迷時、政府が排出枠を市場から吸収する「リバースオークション」を行う方針だが、一定規模のETSでは世界で例がない手法だ。上野氏は「下限は上限より執行の難しさがある。かなりの試行錯誤となりそうだ」と強調する。

無償枠の割当量を巡っては、多排出産業は業種別ベンチマーク、その他分野は基準年の排出実績から毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング方式となる。割り当ての総量と、そのパイをどう分配するのかが注目される。

再び発電事業者目線で見ると、ベンチマークは業種別で目指す水準が示され、電源構成で排出原単位が大きい事業者ほど負担が大きくなる。原単位を全電源平均か、火力などの区分で考えるのか、くくり方でも影響度合いは異なり、「一部に有利・不利とならないよう、公平性を重視してほしい」(某発電事業者)。ただ、発電事業者だけでもこのように事情はさまざま。「どの業種から見ても多かれ少なかれ不満が残る形になるだろう。業種の特徴への配慮と、共通ルールで重視する部分のバランスをどう取るかは相当難しい」(上野氏)とみられる。

エネルギー代補助なくならず 国が価格責任を持つ構図に!?


国の補助金でエネルギー価格を引き下げる愚策が、すっかり定着してしまったようだ。政府は物価高対策として、ガソリン価格を1ℓ当たり10円値下げする措置を5月中に実施するとともに、電気・ガス料金では7~9月の3カ月間、補助金を支給することを決めた。これを巡り、エネルギー関係者からは批判の声が聞こえている。

補助金ゼロとなった4月20日、埼玉南部の幹線道路では170円台を掲げるSSもあったが……

「石油、LNG、石炭ともに国際市場価格は落ち着いて推移している。しかも為替は円高傾向に。はっきり言って、国費を投入する理由は何もないわけだ。長期にわたる補助金の影響で、燃料油市場では価格決定メカニズムがおかしくなってしまったし、電気・ガス代でも補助金を入れた水準が当たり前のようになってしまった。適正な市場競争を通じて価格を引き下げるという小売り自由化の本来の目的はどこへいったのか。国は補助政策の功罪を検証し説明すべきだ」(都市ガス会社OB)

ガソリン価格の動向を見てみると、現状の問題点が浮かび上がる。4月17~23日、ガソリン補助金が2022年1月の導入以来、初めてゼロになった。翌週月曜日に予想されるガソリン全国平均価格が1ℓ当たり182・7円となり、ターゲット価格の185円を下回る見通しになったことによるものだ。


11年前と同水準のCIF 補助なしで20円近く安価

現在の原油CIF価格は、3月分で1㎘当たり7万4771円。これは14年1月分の7万4642円とほぼ同水準で、その頃のガソリン平均価格は160円前後で推移していた。つまり国の支援がなくても今より20円近く安かったわけだ。

「当時は元売りの数が多く、割安な業転玉が出回るなど、事業環境は大きく異なるが、今や政府が公定目標価格に誘導する補助金政策によって、ガソリン価格に責任を持つのはSS(サービスステーション)事業者ではなく政府という、ゆがんだ構図を作り上げてしまった。その罪は重い」(石油アナリスト)

1970年代に起きた二度のオイルショック。当時、国はどう動いたか。補助金を支給してエネルギー価格を抑制するのではなく、サンシャイン計画による新エネ技術開発、ムーンライト計画による省エネ技術開発のほか、原子力開発やLNG導入を政策で強力に推進。それによって、日本をエネルギー技術先進国へと押し上げたのだ。

「エネ価格抑制のために、エネルギー特別会計の年間総予算額1兆9千億円をはるかに上回る10数兆円規模の補助金がこの数年間で使われてきた。原子力や省エネ分野に投じていれば、利用者の支払うエネルギー代は実質的にもっと安くなっていた可能性がある。百歩譲って価格支援が必要というのであれば、料金低廉化によって国内経済の活性化をどう図っていくかという産業政策の展開が不可欠。現状では単なるバラマキだ」。大手電力関係者の嘆きは深い。

LPガス問題をテーマにシンポジウム 実質的な取り締まりの可否が焦点


【LPガス問題を考える会】

LPガス料金の透明化・適正化を求め、北海道消費者協会・北海道生活協同組合連合会などが中心となって結成した「LPガス問題を考える会」が主催するシンポジウムが3月26日、札幌市内で開催された。シンポジウムでは、学識者や行政、事業者の関係者らが一堂に会し、液化石油ガス法改正省令を巡る業界の現状と問題解決策について報告を行い、全国の業界関係者ら158人がオンライン配信を視聴した。

最新の政策動向について語る日置室長

基調講演した橘川武郎・国際大学学長は、「形式的に三部料金制をクリアすることよりも、いかに過大な営業行為を実質的に取り締まることができるかが商慣行是正の焦点となる」と指摘。「資源エネルギー庁が過大な営業行為の基準について、他の事業分野の事例に照らして正常な商慣習に相当するかどうかと踏み込んだ解釈を示したことは、非常に大きな前進だ」と評価した。

資源エネルギー庁燃料流通政策室の日置純子室長は、省令改正の第二弾として4月2日施行された「三部料金制の徹底」についての考え方を解説。施行後も集合住宅における既契約については、外出し表示をすることで設備費用をガス料金に上乗せできる状態が続くが、「投資回収後、事業者にはどのように新しい料金体系に移行していくのか考えていただく」と、いずれは全ての契約が新たな料金体系に切り替わるはずだとの認識を示した。


関係者の逮捕も ブローカー規制の是非

LPガスの営業を巡っては、事業者と委託契約を結び営業専門で活動するブローカーが問題を引き起こすことがある。直前に関係者が特定商取引法違反で逮捕される事件が発生したこともあり、今回のシンポジウムではブローカーを巡ってもさまざまな意見が出た。

橘川氏は、「商慣行をゆがめる要因の一つだ」として、「事業者に属していないとはいえ、ブローカーが暗躍している実態に目を向け規制の対象にするべく踏み込んだ対応が必要だ」と強調。一方で松山正一弁護士は、「ブローカー自体を規制することは難しいが、特商法、景表法(景品表示法)といった関連法規で規制していくことになる」と述べた。 こうした見解に対し日置氏は、「電気事業法やガス事業法に照らし、液石法の説明責任について見直す必要があると考えている。とはいえ、それだけでブローカーの問題が解決するわけではない。こうしたビジネスが成立している根本的な理由を知る必要がある」と語った。

水道管の2割が耐用年数超 ガス管や配電線への影響も


【今そこにある危機】井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は日本中に衝撃を与えた。

計画的な設備更新が不可欠だが、自治体の財政難など課題は多い。

石破茂首相が施政方針演説で「令和の日本列島改造」を訴えた。その後、間もなく1月28日、埼玉県八潮市で大規模な道路陥没事故が発生した。原因は老朽化した水道管の損壊とみられている。今回の八潮市の陥没事故は起こるべくして起こったともいえるが、その規模の大きさは想定外であり、衝撃的であった。こうした事案は単なる一過性の事故ではなく、上下水道に限らず、全国的な社会インフラ老朽化問題の象徴といえる。

この事故を受けて自主的に緊急点検する自治体も多い。国土交通省は全国の自治体に直径2m以上、1日当たり最大処理量が30万t以上の大規模処理場につながる下水道管を緊急点検するよう要請した。また事故再発防止に向けた中間取りまとめを間もなく公表するとしている。

筆者は10年近く東京都水道事業の経営問題に関わる座長を務め、また内閣府で地方公営企業経営の委員をしていた関係で、上下水道などのインフラについても審議してきた。東京都は継続的かつ計画的に首都直下地震に備えて水道管を強度の高いダクタイル鋳鉄管に更新してきており、99・9%完了している。また下水道管についても耐震化が実施されている。


陥没事故は増える見通し 料金値上げには議会の壁

地震など災害が多い日本において、社会インフラのぜい弱さや更新がかねて問題にされてきた。日本の社会インフラの多くは1960年代の高度成長期に整備されたものであり、それらの多くが更新時期を迎えている。だが更新は進んでいない。厚生労働省によれば、法定耐用年数の40年以上使われている水道管は約2割であり、今後も増加すると見込まれている。

それにもかかわらず、1年間の更新率は0・65%に過ぎない。同様に、国土交通省の資料によれば下水道管の総延長約 49万㎞のうち、法定耐用年数(50年)を超えている管路は約8%で、2030年には16%、40年には全体の約34%になると推計されている。

ちなみに22年度、全国で1万件を超える道路陥没事故が発生し、うち約2600件が小規模な下水道管破損に起因するものであった。発生件数は10年後には2倍以上に増えるおそれがある。国は下水道事業の効率的運営を目的として広域化を進めており、そのため事故の影響範囲が広範囲にわたる可能性がある。もちろん、適切な点検や修繕・更新を実施すれば、道路陥没は減らせる。しかし現状では対策が老朽化のスピードに追いついていない。

アンモニア製造に革命起こす 体制整え世界進出へ


【技術革新の扉】分散型小規模アンモニア製造技術/つばめBHB

新触媒を用いて低温・低圧でアンモニアを製造するつばめBHB。

同社の分散型小規模プラントは、アンモニア生成の固定概念を覆す。

アンモニアと聞いて浮かぶのは、トイレに入った時の不快な刺激臭かもしれない。だが、実際には農業用肥料、アミノ酸や半導体などといった幅広い分野で利用されてきた。近年ではCO2フリー燃料や水素キャリアとしても期待されており、国内需要は2030年に300万tと、足元の約3倍に増加すると予測される。現在、アンモニアの製造は約100年前に開発された「ハーバー・ボッシュ(HB)法」を用いて、巨大プラントでの「大量生産」体制で行われることが主流となっているが、そこに新たな選択肢をもたらそうとしているのが、東京工業大学(現東京科学大)発ディープテック企業の「つばめBHB」だ。

19年2月に運転を開始したアンモニア合成パイロットプラント


新触媒で製造に活路 低温・低圧で小型化を実現

HB法は、水素と窒素を高温・高圧下(400~600℃・20~100Mpa)で反応させてアンモニアを生成するため、膨大なエネルギーと巨大プラントが不可欠となる。供給の際には輸送・貯蔵のコストも上乗せされるため、アフリカや南米などの途上国では、肥料用途としてのアンモニアが十分に行き届いておらず、栄養不足の深刻化を招いている。

こうした現状に対処するには、プラントを小型化し、アンモニア製造をオンサイトで低コストに行えるようにする必要がある。そこで同社が目をつけたのが、「エレクトライド触媒」だ。

エレクトライド触媒でのアンモニア合成

12年に東工大の細野秀雄栄誉教授によって発見されたエレクトライドはカルシウムとアルミニウムの酸化物で、電子を与えやすい性質を持ちながらも安定性が高いといった特徴がある。これを生かし、放出された電子で原料である窒素の三重結合を切断し、水素と反応しやすくすることで、「低温・低圧」でのアンモニア生成が実現。温度をおよそ100℃、圧力は4分の1程度に抑えられる。これによりプラントの「小型化」「分散化」「低コスト化」に成功したのだ。これらの技術の社会実装を目的に17年4月に創業した同社は、国内で2件の小規模分散型プラントの受注実績を有しており、そのうちの一つは今年8月の運転開始を見込む。

現段階では、HB法以外の合成触媒の研究はまだ日が浅く、改良の余地を残す。例えば、触媒の活性化のために電子を供与する構造体の上に固定されることが多いルテニウムなどの貴金属は希少価値が高く、コスト上昇の要因となる。こうした状況下で、細野栄誉教授や北野政明教授らで構成される科学大の研究チームは、ケイ酸塩化合物の一種であるケイ酸バリウム内の酸素の一部を水素陰イオンおよび窒化物イオンに置き換えた新物質の合成に成功。これはアンモニア合成に適した活性を持つもので、エレクトライド触媒に次ぐ、第二、第三の触媒となり得る技術だ。

同社は引き続きエレクトライド触媒を軸としつつも、これらの実用化の可能性を迅速かつ的確に検討するために、科学大すずかけ台キャンパスの中にオフィスを構えており、さらなる競争優位性の確保にも余念がない。


環境負荷の低さに特徴 海外展開も視野に

オンサイトでの小規模製造には、「CO2排出量低減」という利点もある。HB法は高温・高圧が不可欠で大量のエネルギーを消費するため、膨大なCO2を排出する。それに対し小型プラントは必要電力を再生可能エネルギーで賄うことが可能で、グリーンアンモニアとの親和性が高く、大幅なCO2排出量の低減が見込める。

代表取締役CEOの中村公治氏は「当社が手掛ける小規模分散型プラントはオンサイトでの製造を前提としているため、初期投資コストはもちろん、輸送・貯蔵コストも削減できる。加えて、必要な電力量も最小規模で済むことから、再エネに適した条件を持ちながらも経済的に恵まれていない地域のニーズとマッチする」と説明。既存用途の「肥料需要」に加えて、今後さらに新しい触媒を開発することで、急増する「クリーン燃料および水素キャリアとしての需要」にも対応していく方針だ。

昨年2月には貴金属やヘルスケアなど幅広い分野でグローバルに展開する独へレウス社からも出資を受けた。これまでに累計76億円を調達した同社は、海外進出に乗り出す構えだ。日本発のアンモニア製造技術が、世界に羽ばたこうとしている。

【小林一大 参議院議員】県議会の意見集約がベター


こばやし・かずひろ 1997年東京大学経済学部卒業。大手損害保険会社勤務を経て、2007年の新潟県議会議員選挙で最年少でトップ当選。4期務めた後、22年に参議院議員選挙で初当選(新潟選挙区)を果たす。24年11月第二次石破茂政権で防衛大臣政務官に就任。

新潟県選出の参議院議員として柏崎刈羽原発の必要性を認め、再稼働を容認する。

県民投票条例を求める署名提出などで県内が揺れる現状をどう見ているのか。

新潟県議会議員を4期務めた後、2022年の参議院選挙で初当選した。石破茂政権では防衛大臣政務官を務め、日本の安全を守るために汗を流す日々を送る。

地元の新潟県は、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の再稼働を巡って揺れている。23年12月に原子力規制委員会が核燃料の移動禁止措置を解除。昨年3月には当時の斎藤健経済産業相が、新潟県と立地市村に再稼働の理解を求めた。柏崎市と刈羽村は容認しているが、県の同意は得られていない。

「安全性が確認された以上、再稼働の判断に時間をかけるべきではない。早期に再稼働させ、新潟県が国の電力需給に貢献している姿を示すべきだ」。こう主張する一方で、これまでの経緯から判断に慎重になる知事や県議には理解を示す。自民党は16年の県知事選で全国市町村会会長などを務めた実力者である森民夫長岡市長(当時)を擁立。しかし、野党統一候補の米山隆一氏に敗れた苦い記憶がある。

花角英世知事は初当選した18年の知事選で、再稼働は自らが是非を示した上で「県民の信を問う」との公約を掲げた。その手法としては、①知事選、②県議会の意見集約、③県民投票─の三つの可能性が挙がる。③については、3月下旬に市民団体が県民投票条例の制定を求める直接請求を行う見通しだ。その場合、4月中旬に県議会の臨時会が開かれる見込みとなっている。

12年にも同様の請求が行われたが、当時の臨時会では自民党県議として質問に立ち、こう訴えた。「国策であるエネルギー政策は国の責任で行うもので、県民投票には馴染まない。県の技術委員会などの知見を踏まえて政治的に判断することが、県と議会の責任だ」。この考えは今も変わらない。新潟県は面積が広く、原発から遠く離れた市町村も存在する。県民の考え方も多様で、二者択一では拾い切れない。

エネルギー業界の人材獲得戦略 キャリア・新卒採用の秘訣は


【多事争論】話題:エネルギー企業の人材確保

他業種同様、エネルギー業界も優秀な人材獲得に頭を悩ませる時代である。

キャリア採用やリスキリング、そして新卒採用でどんな視点が求められるのか。


〈 ニーズ拡大し続けるGX人材 「脱・脱炭素」でも競争激化 〉

視点A:出馬弘昭/グリーンタレントハブ シニアアドバイザー

エネルギー業界でGX・DX人材の拡充は急務だ。まず、GX人材の拡充は、①社内化石燃料人材のリスキリング、②企業買収、③キャリア採用―などがある。欧米では国を超えて人材の獲得競争が始まっており、先進事例を紹介する。

①では、英British Gasがガスボイラーのエンジニアを、EV充電設備やヒートポンプのエンジニアにリスキリングする。また英National Gridはガス土木から地中熱ヒートポンプのエンジニアにリスキリング。石油ガス掘削から地熱エンジニアへのリスキリングも進む。②では、英蘭Shellが蓄電池製造の独Sonnenを買収し蓄電池人材を、米石油OccidentalはDAC(直接空気回収)のカナダCarbon Engineeringを買収しCO2回収人材を獲得した。仏電力Engie、伊電力Enel、英石油BPはEV充電器製造の蘭EVBox、米eMotorWerks、英ChargeMasterをそれぞれ買収しEX充電事業を多国展開する。電力会社のヒートポンプやPVパネル製造業の買収も進む。③としては、National Gridがニューヨーク州やビル省エネの米BlocPowerと提携し、地域住民向けにヒートポンプ技術者養成プログラムを提供しキャリア採用する。

DX人材の増強でもGX同様、①、②、③の取り組みが進む。

①では、米電力Exelonが「Analytics Company」を目指し「Exelon Utility Analytics Academy」を開講。全社員に分析文化を根付かせ内製開発を拡大し、デジタルリスキリングを推進する。②では、Enelがデマンドレスポンスの米EnerNocを買収しEnel Xとした。

同社は蓄電池制御の米Demand Energy Networksやデジタル決済の伊PayTipperなどを次々と買収し、3000人超のDX人材を確保し内製開発とデジタル事業を展開。独E.ONも独デジタル企業のenvelio とgridXを買収した。③では、米電力Duke Energyが「Data Driven Company」を目指し「Duke Energy Innovation Center」を開設。400人体制で、常時80の内製開発プロジェクトを進める。DX人材の多くはキャリア採用だ。全社でデータアナリストを約100人キャリア採用し、うち30人が同センターに在籍する。

他方、日本では情報システム部門をDX部門と改名しさまざまな取り組みが進むが、GX人材の獲得は黎明期だ。


日本でも徐々に取り組み加速 海外の人材獲得のチャンスも

新しい動きとしては2023年、日本初のGX人材に特化した採用・育成事業のグリーンタレントハブが設立された。当社へのGX人材のニーズは主に三つ。第一はディープテックの事業開発職で主に商社やコンサルティング出身者が求められる。第二は再生可能エネルギーやカーボンニュートラル(CN)関連の専門職で、コンサルティングやサステナビリティ推進部門の需要が高い。第三は電気エンジニアで再エネ発電・EPC事業者の需要がある。

報酬面では、エネルギー・インフラ業界の平均年収は670万円だが、グリーン企業では900万~1000万円と、伝統的電力会社を上回るケースも出てきた。当社経由の転職者は10~30%の年収アップを実現することが多い。当社はGX人材の専門家80人超と対談する「脱炭素キャリアチャンネル」を運営しており、是非ご覧いただきたい。

また昨年、GX人材の拡大に向けた「グリーン人材開発協議会」が発足した。今年3月14日に開かれたセミナーの概要を紹介する。

同協議会代表の橘川武郎・国際大学学長は第7次エネルギー基本計画によるGX人材への影響を述べた。今回初のリスクシナリオは現実的でCN後退と言えるが、国はCNの旗は下ろしていないため複雑度が増した。よって、より多様なGX人材ニーズが高まり、大企業だけでなく中小企業、NGO・NPO、自治体など幅広い領域で必要になる。

この他、経済産業省のGX政策と、GX推進企業調査レポートの中から4社(三菱重工、デンソー、グリーンカーボンなど)の事例を紹介。パネルディスカッションではNTTグリーン&フード、リクルートなどが社内からの獲得・育成、企業買収・協業、キャリア採用の秘訣や課題を議論した。同協議会への入会は無料。slackで最新情報を発信している。

欧米では脱・脱炭素の動きもあるが、世界が50年CNを志向する限り、日本でもGX人材の獲得競争は激化するであろう。欧米の脱炭素分野のスタートアップやベンチャーキャピタルが日本に注目しており、海外の人材獲得のチャンスでもある。日本もグローバルな視点でGX人材獲得に動く時が来ている。

いずま・ひろあき 1983年大阪ガス入社。2018年東京ガス入社、シリコンバレーでCVC立上げに参画。現在、東北電力アドバイザー、大阪大学フォーサイト取締役、エクサウィザーズ顧問、インベストメントLabシニアアドバイザーなどを兼務。