ペロブスカイト開発の現在地㊥ 実用化への技術的課題は山積 日本が競争力を発揮するには


【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

中国では、関連サプライチェーンをほぼ自国で完結できる体制が構築されつつある。

日本が競争力を発揮するには、柔軟な戦略の転換が必要ではないか。

前回は6月に中国・上海で開催された「SNEC」で調査した、中国のペロブスカイト開発の最新の状況について解説した。今回は、中国におけるサプライチェーン整備に向けた動きについて紹介したい。


サプライチェーンの国産化 競争しつつ「共創」で実現

ペロブスカイトの生産工程における基板の洗浄・製膜・封止などでは、多くの精密装置が必要となるが、中国ではこれらの装置の国産化が進んでいる。徳滬塗膜・晟成ソーラー・捷佳偉創などは、製造に必要な装置をパッケージで提供し、ただちに稼働可能な状態で納品するという「ターンキーソリューション」を提供している。その歩留まりは95%以上という。

さらに開発を加速するため、自動化やAIの活用も進められている。従来のペロブスカイト電池の製造工程は人が担っていたため、生産効率の低下とモジュールの品質のばらつきが問題となっていた。中国メーカーは溶液調製から封止、初期性能測定までの全工程を自動化し、24時間連続稼働で300枚/日のセルを製作可能にした。変換効率のばらつきも0・75%以内(1000枚中8枚以下)に抑えた。また、全プロセスに高性能センサーを設置。得られたデータはAIで即時分析し、プロセスやレシピ(配合)の最適化案をフィードバックし、その適化案を再び製作プロセスで検証する。このサイクルを繰り返すことで、研究期間の90%短縮を期待している。

GCLのAI実験システム

開発・製造装置だけでなく、2・5m以上の大型サンプルにも対応可能な、評価装置の開発と国産化も進んでいる。

国家太陽光質量検査センター(CPVT)やTÜVなど、複数の評価機関も展示会に出展していた。これらの評価機関は多くのペロブスカイトメーカーと連携し、サンプルの認証や屋外実証を実施。一部の発電結果を定期的に公開している。ペロブスカイト専用の評価ガイドラインはまだ整備されていない。そのため、シリコン太陽電池の基準であるIEC6121やIEC61730などを参考に、ペロブスカイトの効率や耐久性を評価するノウハウを蓄積している。

また、結果の再現性が低いという課題の解決に向け、中国では効率測定に関する国家標準「ペロブスカイト太陽電池モジュールのⅠ―V特性測定方法」の策定が進められている。SNECでも標準化を議題に、多くの講演が行われた。

中国のさまざまな気候での実証プロジェクトも多数報告されており、MW級以上の実証も複数あった。メガソーラー用途だけでなく、フェンス・カーテンウォール・屋根・ソーラーカーポートなど、建物にペロブスカイトを設置する実証も実施されており、用途開発と実用性の検証が進められている。

SNECで驚いたのは、装置メーカーや評価機関らが、展示会の訪問者に対し、技術やノウハウをオープンにし、実証データの一部もリアルタイムで公開していたことである。先ほど紹介したAI実験システムも、オープンプラットフォームとして世界各地の研究チームに開放されている。

さらに、UtmolightやRenshineなどのペロブスカイトメーカーは、新規参入企業に対して、製造ラインの設計、装置の選定、建設プロセス管理、人材育成、プロセス改善など、あらゆるサポートを行っている。中国では「競争」しながら「共創」を図る構図が見えてきた。

その他、発電ガラスや電極材、封止材などの材料や、端子ボックス、パワコンなどの周辺機器のブースも、SNECで多数見られた。自国でサプライチェーンをほぼ完結できている状況がうかがえた。

水とエネルギーのジレンマ 両者の関係性捉えた政策を


【オピニオン】橋本淳司/水ジャーナリスト

人間の水使用量は20世紀を通じて大きく増加した。20世紀前半には年間約1000㎦と推計されていた世界の水使用量は、2000年には約4000~4600㎦に達した。経済協力開発機構(OECD)は50年までに水使用量が00年比で55%増加すると予測している。00年の世界の水使用内訳を見ると、約3分の2が農業用だ。OECDの見通しによれば、00年から50年の間に製造業における工業用水は5倍、発電用水は2.4倍に増加すると予測されている。

中国南西部、特に長江とその支流には、数多くのカスケード型ダムと巨大な水力発電所が建設されてきた。チベット高原から流れ下る豊富な水資源を活用していたが、20年以降深刻な干ばつが続き、降水量は平年の半分以下にまで落ち込んだ。長江流域では河川流量が大幅に減少し、水力発電所の出力が著しく低下した。中国国家エネルギー局のデータによれば、水力発電の設備容量は19年末の3億5800万kWから23年末には4億2200万kWへと約18%増加したが、同期間の発電量は減少し、23年は1兆1410億kW時と、4年前の水準を下回った。

不足分を補うため、中国は再び石炭火力発電への依存を強めた。中国は世界最大の石炭消費国であり、発電に占める石炭の比率は依然として高い水準にある。その結果、温室効果ガスの排出量が増加し、地球温暖化をさらに加速させる。まさに気候変動が水資源を不安定化させ、エネルギーの安定供給をおびやかし、その対応策がさらに温暖化を悪化させるという負のスパイラルである。

発電が流域での水の分配に影響を与えるケースもある。22年、エチオピアではアフリカ最大級のダムであるグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダムが稼働した。貯水量は740億㎥、最大出力は600万kW。アビー首相は「国民の6割に光をもたらす」と述べ、ダムがエチオピアの電力不足を解消するとし、将来的には周辺国への電力供給も視野に入れる。しかし、上流国のエネルギー戦略は下流国にとって水の安全保障への脅威となっている。とりわけエジプトとスーダンは、ダム貯水によってナイル川の流量が減少するとの懸念を抱く。エジプトでは、生活用水や農業用水、工業用水のほぼ全てをナイルに依存している。ダム稼働の前年、エジプトのシシ大統領は「エジプトの水には手をつけるな。あらゆる選択肢が考えられる」と警告した。

水は発電を支える基盤であり、同時に下流域の生活や農業を支える不可欠な資源でもある。とりわけ水力発電への依存度が高まる中で、流域の上流と下流がそれぞれの発展と生存を水に託している構図は、エネルギーと水の複雑な相互依存を浮き彫りにしている。

はしもと・じゅんじ 1967年群馬県生まれ。水ジャーナリストとして国内外の水問題を調査し、その解決策を多岐にわたるメディアで発信している。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。

EVバッテリーの国内生産能力 年150GW時の目標に黄信号


【脱炭素時代の経済評論 Vol.18】関口博之 /経済ジャーナリスト

横浜市に本社を置く大手バッテリーメーカーがAESCだ。社名はそのままエー・イー・エス・シーと読む。日産自動車が軽以外で世界初となる量産EV・リーフのバッテリー生産のため2007年にNECとの共同出資で設立した。その後、中国の再エネ企業・エンビジョンに事業譲渡されたが、今も日産が一部、株を持つ。販売したEV用バッテリーは累計100万台超、創業17年で製品も工場でも発火などの重大事故を一度も起こしていない。日本のものづくり技術に根ざした強みだろう。

AESCの茨城工場
提供:AESC

同社はここ数年、積極的な投資を続けている。国内では茨城工場を新設し去年稼働開始。最新鋭バッテリーを生産するマザー工場となり、将来は年20‌GW時の生産能力を持つ予定で、ホンダや日産が顧客になる。海外でも米英仏、スペイン、中国で工場を稼働または建設中。新設の米国2工場とフランス工場の生産能力は年40~50‌GW時になる。「地産地消」を掲げ、納入先完成車メーカーの工場に隣接して拠点を構える。

もう一つの特徴は「フルライン」の製品群。現在主流のNMC(ニッケル・マンガン・コバルトの3元系)バッテリーと、近年中国勢が伸ばしてきているLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの両方を手掛ける。NMCはエネルギー密度が高く、航続距離が長い。一方、LFPはエネルギー密度こそ劣るが安全性・耐久性に優れ、希少金属を使わないので低コスト。技術的改良も進み、従来のコンパクトEVからミディアムゾーンの車種にも広がりつつある。将来は大容量が求められる高級車やスポーツ車にはNMC、大型でも搭載できるトラックや定置型蓄電池にはLFPといったすみ分けも考えられるという。こうしたシナリオでAESCは現在、世界で年20~30‌GW時の生産能力を今後1、2年で10倍にする野心的な計画を立てる。

ところが、国内バッテリー産業全体の未来図はさえない。国は3年前、「蓄電池産業戦略」で30年までに国内の製造基盤を年150GW時、グローバルには年600GW時の生産能力という目標を策定。経済安全保障推進法に基づきバッテリーや部材メーカーに助成も行い、国内で1

20GW時まで増強の見通しとしていた。しかし今年5月、日産が北九州市で計画していたEV用電池工場の建設を断念したことでこれが暗転、30年目標には黄信号が灯っている。

足元では世界のEV市場は伸びが鈍化している。それでも中国勢のバッテリー増産は進み、既に供給力が国内需要を大きく上回る状態にある。今後、ほかの市場に輸出攻勢をかけてくる可能性は高い。

競争力確保のために今こそ国の政策支援が欠かせない。国内メーカーには生産能力拡大と同時にコストの低減を促す必要がある。原料の資源確保も不可欠。技術のブレイクスルーでは全固体電池の開発が鍵になる。30年ごろの本格実用化を掲げるが、コストや量産技術の確立など課題克服の道筋はまだ見えない。

目先のEV市場の動向に惑わされず、国にはスピード感を持って環境整備を進めてもらいたい。日の丸バッテリーが世界で存在感を持てるか、瀬戸際だ。

大手系と地方系の良いとこ取り 山梨の発展支える提案に注力


【事業者探訪】東京ガス山梨

中圧導管延伸で一級河川超え工事を実施した東京ガス山梨の取り組みが注目されている。

グループのノウハウも生かし販路を拡大。地域の発展に向けた提案を重ねている。

山梨県はLPガス普及率が76%と沖縄県に次ぐ全国2番目の高さだ。この地で都市ガス供給を担ってきた東京ガス甲府支社は、業績拡大のためにLPガス事業者の買収などを経て2009年に「東京ガス山梨」へと生まれ変わった。都市ガスは甲府市や中央市、甲斐市、昭和町、南アルプス市に、LPガスは県内全域に供給。電気も東京ガスの取次店として販売する。

宮田社長とマスコットの「さすまる」

20年に策定した30年ビジョンでは「山梨創生のトップランナー」として「選ばれ続ける総合エネルギー企業」を目標に据えた。①都市ガス供給量は4500万㎥から1億㎥に倍増、②LPガスは現状の販売量5500tを維持、③高付加価値ガス設備や水回り、電気設備などの生活ソリューションを拡充―することが柱だ。昨春社長に就任した宮田雅夫氏は「東京ガスグループと地方ガス、両者の特性を有する会社。その良さを生かし、行政とお客さまの課題に寄り添い、地域振興に資するエネルギー種に拘らないソリューションサービスを展開していく」と意気込む。


川越えの大規模工事を決断 都市ガス販売量が増大

都市ガスの供給拡大は20年以上かけて徐々に進めてきた。元々は供給エリアが二つの川に挟まれた三角地帯である上、サテライト基地でガスを受け入れていた関係で需要拡大を制限していた。転機となったのは02年頃、医療機器工場の燃料転換を機にINPEXの導管で受け入れる方式に変更。さらに14年2月の大雪の経験からBCP(事業継続計画)への意識が高まり、南アルプス市の半導体工場に導管供給を求められたことだ。

ただ、そのためには一級河川の釜無川を超えて中圧導管を敷設する必要があった。河川を横断する場合、川底にトンネルを掘る工法が選択肢となるが高コスト化が問題だ。そこで折衝の結果、県が既存の橋に導管を添架する工事を許可。コストを数分の1に圧縮し、22年に約7㎞導管を延伸した。これで需要家が納得できる価格となり、近隣需要家のガス化も進んでいる。

地域に根差す企業として信玄公祭りにも参加

そして笛吹川を超えた先、甲府市と中央市にまたがる食品工業団地の大規模工場からコージェネレーション導入のために導管供給の要望があり、今年、同様の添架工事を実施して約3㎞延伸した。ここでも周辺の需要家に働きかけ、醤油などの製造会社への供給を予定している。

足元の販売量は9000万㎥に近づき、30年目標まであと一歩となった。宮田社長は、「トランプ関税などの要因で事業環境が見通しにくく、一般的に大規模投資には慎重になりがち。ただ、山梨の発展のためには3~4年のスパンで高い収益率を求めると同時に、リニア中央新幹線の開通もあることから、10~20年先を見据えた投資決断が必要だ」と強調する。

残り1000万㎥の獲得に向けては、有望な大口需要家への働きかけを強めている。足元で建築・工事費が高騰する中、イニシャルコストがかからないエネルギーサービスのニーズが高まっており、全国各地で多数の実績を持つ東京ガスグループのノウハウを訴求している。

【コラム/9月12日】米国の電気料金上昇とデータセンター拡大の見えざる罠


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国の電気料金は着実に上昇し続けている。米国エネルギー情報局(EIA)が2025年7月に発表した「短期エネルギー見通し」によると、家庭用電気料金は2022年から2025年にかけて約14%上昇すると予測されており、2026年も約4%の上昇が見込まれている。同国では、2013年から電気料金の動きはインフレ率にほぼ連動していたが、2022年以降は電気料金の上昇率がインフレ率を上回るようになり、この傾向は2026年まで続くと見られている。

電気料金の上昇に関して地域差を観察すると、興味深い事実を確認することができる。EIAによれば、2022~2025年間で、全国平均と比べて料金上昇が著しい地域は、比較的料金水準の高いニューイングランド、中部大西洋沿岸、太平洋沿岸などの地域であるが、西南中部、西北中部、東南中部などの比較的料金水準の低い地域では、それほど上昇しない傾向にある。例えば、上記期間における料金上昇率は、ニューイングランド地域では19%であるの対して西北中部地域では8%となっている。米国では、もともと地域間の料金格差が大きいが、最近のこのような動きは料金格差を一層拡大させていると言えるだろう。因みに、現在、家庭用電気料金が最も高いハワイ州と最も安いアイダホ州の料金格差は約4倍となっている。

電気料金に関して、最近大きな注目を集めたのが、自由化の優等生とされる米国東部の地域系統運用者(RTO)であるPJMの管轄地域(13州とワシントンDC)のいくつかの地域で、この夏20%を超える大幅な料金値上げが行われるというロイターのニュースである(7月9日)。電気料金上昇の背景として指摘されるのは、AI技術の急速な普及とデータセンター新増設などにより電力需要が急増していること、これに対して、老朽火力の閉鎖や再生可能エネルギー電源の系統への接続の遅れなどで、供給力が追い付いていないこと、さらに、これらと関連してPJMの容量市場における約定価格が高騰していることなどである。

PJMの管轄地域では、バージニア州北部に位置する世界最大のデータセンター集積地である「データセンターアレー」を含め、AIを支えるためのデータセンターが急増し、これに伴い電力需要が大幅に増えている。PJMの予測(2025年1月)によれば、データセンターの拡大で、2035年までの今後10年間でシステム全体で最大55ギガワットの追加需要が予測されている。この数値は、約55基分の原子力発電所に相当する電力を意味し、AIやデータセンターの普及が電力需要に与えるインパクトの大きさを如実に物語っている。

また、需要急増と供給力不足を反映して、PJMの容量市場では、約定価格が2024年7月のオークションでは前年比800%の上昇、2025年7月のオークションでは上限価格($329/MW-day)に張り付き22%の上昇となった。これに伴い、PJMの管内の電力会社は、電気料金の引き上げを行っている。このような状況の中で、ペンシルベニア州の知事ジョシュ・シャピロ氏は、最近の大幅な料金引き上げはPJMの容量市場の欠陥によるものとし、今年の初め、容量市場における上限価格の引き下げなどを要求し、PJMからの退出も検討すると述べている。このような批判もあってか、PJMのCEOマヌ・アスタナ氏は年内一杯で退任することを表明している。

原子力を巡るイデオロギー対立の終焉 エネルギー政策の質を競う選択へ


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

参院選投開票日前に執筆した本コラムで、私は「自公の与党が大敗、参政党や国民民主党といった新興政党の躍進、参政党が自民票を奪った漁夫の利での立憲民主党の堅調、左派勢力の停滞といった結果で終わりそうである」と書いたが、立憲民主党の野党第三党への転落以外は当たった。

同じ本誌前号では「語られなかったエネルギー政策」という記事もあったが、それはそれでよかったのではとも思っている。これまでの国政選挙でのエネルギー政策の争点は、原子力をどうするのかが中心だった。左派政党は、エネルギー政策というよりはイデオロギー的観点から原子力技術自体に否定的で、長年与党を務めてきた自民党は「触らぬ神にたたりなし」とばかりにエネルギー政策を争点にしようとはしてこなかった。


新興政党伸長の要因 国家論を国民に問う

今回の参院選で明らかとなったのは、既存政党への忌避感だ。55年体制の残滓とも言える、イデオロギー対立を背景とした「永遠の与党」と「永遠の野党」の選択へのうんざりとした国民の思いが、国民民主党や参政党といった新興政党の伸張を招いた。そして、イデオロギーを背景とした左派政党は、高齢者の支持を集めるだけで衰退していくことが明白になった。新興政党のほとんどは、イデオロギー的臭いのする「脱原発」などは掲げない。

そうであるならば、今後の国政選挙は、イデオロギー対立を背景とした原子力政策の選択から、原子力をエネルギー源の一つとすることを大前提とした上での、エネルギー政策の質を競う選択となるべきではないか。もとより少資源国のわが国が、エネルギーの安定供給を持続していくことはまさに国政の大テーマでなくてはならない。

単にエネルギーミックスや電源構成の在り方だけではなく、エネルギー供給の観点から見た外交戦略、中長期的な観点も含めた技術開発のポートフォリオ、日本の産業構造全体の中でのエネルギー産業の在り方など骨太のエネルギー政策こそが、国民の選択に付すにふさわしいものだろう。再エネ賦課金の見直しといった、国民の関心を買うためのつまみ食い的な目先の政策だけでない、国家論を国民に問うべきだ。

今後の日本の政治は、固定化した自公政権ではなく、複数の政党による連立政権が常態化していくと思われる。そうであるからこそ、それぞれの政党がエネルギー政策の質を競い合い、連立政権を組む熟議の過程でそれぞれの政党の良い政策を取り入れて実行していく。このような政治が実現すれば、日本のエネルギー政策の未来は明るい。後は、われわれ政治家がどうしていくのかが、問われる。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年9月号)


NEWS 01:重電各社の決算好調 エネルギー部門がけん引

重電メーカーの2025年4~6月期決算は、エネルギー部門の収益拡大が大きく貢献し軒並み好スタートを切った。中でも三菱重工業は最終利益が前年同期比9・5%増の682億円となり、過去最高を記録。エネルギー部門では、大型ガスタービンを北⽶で6台、アジアで2台の受注を獲得し、受注高は同12・7%増の6025億円に上った。

日立製作所も、エネルギー部門の売上高が同10%増の6675億円となり、連結最終利益(同9・6%増の1922億円)を押し上げた。送電網設備の更新・再エネ電源接続などの需要が堅調。高圧直流送電(HVDC)向けシステムなどの販売が増加した。川崎重工業は事業利益が同21%増の205億円。ガスタービンやガスエンジンなどの販売数が伸び、好業績を支えた。

ガスタービン市場は衰え知らずだ

この好況で各社の株価は急伸している。米国と中国の相互関税合戦で暴落した4月上旬を底に上昇に転じ、8月中旬までの最高値は、三菱重工が約2倍、日立と川重が約1・6倍の水準まで高まっている。

三菱重工と川重が手掛けるガスタービンは「今後も旺盛な需要が続くだろう」(メーカー関係者)。HVDCも洋上風力など長距離送電ニーズが活況で、今後10年は成長していく見通しだ。世界的なエネルギー設備への投資の勢いはしばらく止まりそうになく、各社の業績の追い風となりそうだ。


NEWS 02:正念場迎える洋上風力 R4の2海域を指定

経済産業省と国土交通省が7月末、一般海域での洋上風力公募の対象となる促進区域に、新たに北海道の松前沖と檜山沖を指定した。前者は3710ha、後者は4町にまたがる3万2160haと国内最大規模で、秋にも公募開始が見込まれるラウンド4(R4)の舞台となる。これで促進区域は、事業者が既に決定しているR1~3の10海域と併せ、計12海域(うち浮体式1)となった。この他、有望区域が7、準備区域が16(うち浮体式10)となっている。

政府は、投資完遂への事業環境の整備として、①PPA(電力販売契約)市場の活性化や脱炭素電源への需要喚起、②海域占用期間の予見性確保や事業完遂に資する金融支援―などさらなる措置の検討を続けている。 ただ、事業環境の不透明感はぬぐえないままだ。それを象徴するように、三菱商事はR1の3案件について判断を保留したまま。また、別の案件では新たにコンソーシアムから外資が撤退するとの観測もある。

関係者からは「こうした動きで洋上風力全体がダメとレッテルを貼られることは避けなければ」といった危機感が示されている。また、電力会社トップも「事業性がバラ色でないとしても、洋上風力という選択肢を今消すことはあり得ない」(JERAの奥田久栄社長)、「洋上風力の予見性は相対的にベター。ネガティブな世間の評価には同意していない」(電源開発の菅野等社長)といった前向きな発信を強めている。

さらにマリコン再編の動きも。大成建設が洋上風力事業などを強化するため、東洋建設を買収すると発表した。
洋上風力市場が正念場を迎える中、その行方を占う試金石となるR4は、どのような展開を見せるのか。


NEWS 03:除染土処分の工程表策定 消費地の理解得られるか

福島との約束を果たせるか─。福島第一原発事故で発生した除去土壌(除染土)の処分を巡り、政府が8月末に県外処分に向けたロードマップを取りまとめた。現在、除染土の大部分は福島県双葉町と大熊町に設置した中間貯蔵施設で保管しており、2045年までの県外での最終処分が法律で決まっている。

国は国際的な安全基準を満たした除染土を公共工事の盛り土などで再生利用する方針を示している。7月には首相官邸で全国初の再生利用が始まった。もともとは東京都新宿区と埼玉県所沢市で実証事業を予定していたが、説明会で住民からの反対を受けて延期となっていた。

再生利用や最終処分の実現には消費地の理解が重要となる。双葉町の伊澤史朗町長は4月、本誌の取材に「福島でつくられた電力の消費地は首都圏だった。この事実が十分に周知されていないことが最大の問題ではないか」と語った。再生利用の受け入れは立地地域に対する理解度のバロメーターと言っても過言ではない。

報道機関の役割も重要になる。原子力問題になると、メディアは政府や電力会社の方針を否定的に報じがちだ。例えば環境省は8月18日、除染土に関する対話集会を福島市で開催したが、共同通信は「処分場所を早く探すべきだ」「全国にばらまくのはおかしい」といった声を取り上げた。ところが、参加者によれば「数値で見せれば学生でも分かってくれる」という前向きな意見も出たという。

福島県在住のジャーナリストである林智裕氏は「毅然とした〝風評加害〟対策、特にメディアによる偏向報道やミスリーディングの初期消火が不可欠だ」と指摘する。科学的知見と国民的理解をいかに結びつけるかが肝要だ。


NEWS 04:気候変動の「正しい」情報 否定・肯定派ともに発信強化

環境省が、気候変動に関する科学的知見を巡る情報発信を強化している。浅尾慶一郎環境相は7月29日の会見で、〝人間活動が温暖化の主要因〟とする気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見解を挙げ「30年間かけて確信度が高まったことについて、粘り強く広く発信していくことが重要だ」と強調した。かねてから国連も気候変動の「偽情報」への対応に力を入れている。

第一弾で小林史明環境副大臣の動画を公開

気候危機否定派も負けてはいない。米エネルギー省の気候作業部会が、「気候危機論」をばっさり否定する報告書を7月に公表したのだ。「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー」と題し、クリス・ライト長官が集めた5人の科学者がまとめた。CO2は汚染物質でなく便益もあることや、IPCCの気候モデルの検証、人命や経済の災害リスクは時間とともにむしろ減少している、といった内容を13章にわたり解説する。これを基に米政府は環境保護庁(EPA)の「CO2危険性認定」撤回を提案。実現すれば、自動車などのCO2排出規制の根拠を失う。

杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は「米国連邦政府の公式な報告書が出れば、国連や環境省も無視できない。データを一つひとつ検証することこそが大事。この報告書は米国への影響に重心を置いているので、日本版を作ってもよい」と提案している。

まだまだ多い最終保障供給契約 プロ集団が移行をサポート


【日本電力調達ソリューション】

工場をはじめとする需要家のエネルギーについての関心事は、いかに支払う料金を削減するかだ。しかし、高価な電気料金の「最終保障供給」のまま、放置する需要家が数多くいるという。最終保障供給は、小売電気電力事業者との契約が成立していない需要家に対し、地域の一般送配電事業者が供給する最後の手段となる契約。安定供給は担保されるものの、料金単価は通常契約に比べて、20%程度割高に設定されている。長期間利用するとコスト負担は大きくなる。

スタートアップの日本電力調達ソリューションは、そうした最終保障供給に残る需要家をサポートする「電気代削減サポート」を展開し好調だ。設立して数年だが、多くの企業のコンサルティングを手掛け、実績を上げている。

最終保障供給件数は減少しているが依然多い


電気料金を最大20%削減 切り替え後も省エネ提案

電力・ガス取引監視等委員会が7月に発表した「最終保障供給契約件数」は、2205件(約15万kW)に上った。この背景を、同社の高橋優人社長は「2021~22年の電力高騰時に、新電力との契約で苦い経験をした需要家が『電力契約に触りたくない』という考えが強いことや、意思決定者と実際の支払い担当者が異なる企業が多く、料金の高さに気付きにくいことが影響している」と分析する。

このサービスでは、①信頼性の高い小売事業者の選定、②最適プランの提案、③切り替え後のサポート―などを提供する。①の小売事業者の選定では、販売電力ランキングや電源構成、料金の変動性などを評価して需要家に紹介する。②のプラン提案では、燃料費等調整型や完全固定プラン、市場連動+上限キャップ、ハイブリッドプランなどの選択肢を提示する。

③の切り替え後のサポートでは、毎月、効果検証レポートと市場見通しを提供。削減効果を可視化して結果を報告する。高橋社長は「当社スタッフの多くが電力会社出身者なので安心して任せてほしい。最大20%以上、電気料金を削減することが可能だ。未払いなどがある場合を除けば、確実に電気代を削減できる。安心できる電力契約をお届けしたい」と話す。

物価高が騒がれる昨今、最終保障供給の見直しが経営改善の一助になるのは間違いない。

関電による原発新増設構想 政府の資金支援が不可欠


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

関西電力が東日本大震災後に中止していた原発新増設の調査を開始する。

「失われた15年」を取り戻すには、政府の資金支援が不可欠だ。

関西電力が原子力発電所の新設に取り組む方針を表明し、2011年の福島第一原発事故以来、停止していた原発新増設の動きがようやく再始動する。生成AI(人工知能)の普及やデータセンターの増設などを背景に今後、電力需要の急増が見込まれている中で、原発の新増設に乗り出すことで電力需要の増大に対応しながら、脱炭素電源の確保を目指す構えだ。

関電の原発新増設には、政府の支援も欠かせない。経済産業省が昨年、閣議決定した第7次エネルギー基本計画の中で「原発を最大限活用する」との方針を打ち出し、原発新設を容認する方向に大きくかじを切った。これに呼応する形で関電は原発新設に取り組むことにしたが、新たな原発の開発・建設には莫大な資金を要する。そうした資金需要を賄うため、政府も支援を講じる必要がある。

新設は順調に進むのか


動き出した「美浜4号機」 人材・技術の維持に光明

関電は7月、原発の新設に向け、同社の美浜原発(福井県美浜町)の敷地内外で地質調査を始めると発表した。美浜原発では1、2号機の廃炉がすでに決まっており、現在は3号機だけが稼働している。この3号機も運転開始から49年が経過した老朽原発だ。60年までの運転延長は認められているが、後継原発を確保するため、原発敷地内の地質などを詳細に調べた上で、新たな原発建設の適否を判断するという。地元自治体の首長も関電による調査を容認する姿勢を示している。

同社は福島原発事故の前年の10年に原発新設に向けた調査に着手したものの、翌年の原発事故に伴って調査を中断。そして政府は原発の新増設を10年以上にわたって禁じてきたが、昨年のエネルギー基本計画で原発活用が打ち出されたため、関電の新設計画も再び動き出した。これからは原発建設の「失われた15年」を取り戻す取り組みが求められる。

すでに国内では、老朽化による安全対策費用の増加や経済性を理由にして、24基に上る原発の廃炉が決まっている。ある電力会社首脳は「原発立地自治体との長期的な協調関係を考えれば、原発の廃炉決定と同時に原発新設の計画も公表したかった。だが、政府が原発新増設を容認していなかったため、そうした前向きな計画を表明できず、地元の皆さんには大変なご心配をかけてしまった」と悔やむ。それだけ電力業界内には原発の新増設を求める意欲が強かったと言える。

ただ、原発新増設を長年にわたって封印してきた政府のツケは大きい。昨年6月に公表された原子力白書によると、22年度に大学の原子力関連学科に入学した学生は、わずか185人にとどまり、30年前に比べて半分以下にまで減少している。現在も「原子力」という学科名を残している大学は、東京都立大と福井工業大学の2大学に過ぎないという。原発事故後、国内における原子力技術の裾野は急速にやせ細っており、サプライチェーンの確保も難しくなりつつある。

【覆面ホンネ座談会】これでいいのか暫定税率廃止 大衆迎合政治に警鐘鳴らす


テーマ:暫定税率の廃止

衆参ともに少数与党となったことで、いわゆるガソリン税の暫定税率廃止が現実味を帯びている。与野党は代替財源確保に向けた協議を開始したが、折り合えるのだろうか。そもそも、理にかなった政策なのだろうか……。

〈出席者〉 A学識者 B業界関係者 C石油アナリスト

─8月1日に野党7党が11月1日に暫定税率を廃止する法案を衆議院に再提出した。

C 日本を覆う「財政ポピュリズム」を深く憂慮している。2022年1月以降、政府は累積予算8兆円の燃料油補助金を投入してきた。いわゆる暫定税率の廃止は、これを減税という形で恒久化する政策と言っていい。

B 補助金は国内で都市と地方、企業・資産家と家計・消費者の分断が進む中で、都市から地方への所得移転・贈与になった。暫定税率廃止も地方住民へのプレゼントだ。ただガソリンだけでなく、漁船に重油を使う漁師、ビニールハウスの加温機で灯油を使う農家などにも配慮が必要だろう。

C 燃料油価格上昇の主因は円安だ。だから価格を下げるには、円高誘導が筋だろう。ところが、日本は財政支出を増やして石油を大安売り。財政の悪化、原油輸入の下支えで円安圧力となり、日本の払う原油代に上昇圧力をかけてしまう。こうした政策を「物価高対策」の名の下に多くの政党が支持していることに愕然とする。暫定税率廃止で〝手取りを増やす秋〟になっても、円安で〝物価が上がった冬〟を迎えては意味がない。

A 同感だが、参院選の結果を受け、赤字国債を発行してでも減税やむなしという雰囲気だ。自民党は消費税減税こそ渋っているが、衆参共に少数で廃止法案が可決してしまうため、応じざるを得なくなった。

C 大体、「安ければいい」とばかりに、61年前の道路財源として決まった本則税率に回帰するのはおかしい。第1次石油危機の1974年以降に暫定税率を適用したのも、道路整備に関わる諸条件をその都度見直すためだった。つまり、2009年に一般財源化した時に、税率を本則と暫定に分ける理由は既に失われていた。その無意味な本則税率を何の修正もなしに用いる理由が、どこにあるのだろうか。

ガソリン値下げは国民生活を向上させるのか


「25・1円」安くはなるわけではない 値下げで消費は減るのか

B 立憲民主党の野田佳彦代表や国民民主党の玉木雄一郎代表など、旧民主党のメンバーにとってはリベンジマッチだ。09年の総選挙では旧民主党が暫定税率廃止を政権公約に掲げて勝利したが、財源を確保できずに断念した経緯がある。思い入れは強いのではないか。

─国税のガソリン税だけが対象で、地方税の軽油引取税は対象外となっている。

B 昨年末の自公国幹事長合意でも、軽油引取税は触れられていなかった。軽油引取税の暫定税率を廃止すれば、地方の5000億円の税収が失われる。端的に言えば、全国知事会が「うるさい」から切り離したのだろう。

A 国は国債を発行すれば失われる税収をバックアップできるが、地方公共団体はそうはいかない。一方で、今回は物価高対策という名目なので、まずは家計の負担軽減を優先したという見方もできる。ガソリン税を下げた恩恵は家計が受けるが、軽油を使うのは物流業界やバス事業者、建築業者などの企業だ。

B 廃止の対象がガソリン税だけとなった場合、補助金の廃止と合わせれば、ガソリンと軽油の価格差が逆転し、軽油の方が高くなる。灯油・重油価格も1ℓ当たり5円上がる。灯油はこれから需要期なので、何らかの手当が必要ではないか。それにガソリン税の暫定税率は25・1円だが、その分だけ価格が下がると思ったら大間違いだ。「10円値下げ」の補助金も廃止になるので、15・1円しか安くならない。

津波と台風接近で複数火力に制約 示された「停止ドミノ」の危機


8月上旬、太平洋側に立地する多くの火力発電所で、燃料制約による稼働停止や出力低下が相次ぐ事態が発生した。7月30日午前8時25分にロシア・カムチャツカ半島沖での地震発生に伴い、国内でも広い範囲で津波警報が発令され、そこに台風9、10号の接近が重なったことで燃料船が接岸できない状態が続いたことで、燃料在庫を確保しなければならなかったことが背景にある。

津波警報、台風接近で複数の火力発電所で燃料制約が発生した(写真は富津火力)

電力業界関係者は「今年は、連日の暑さで例年よりも電力需要が増加しており、燃料の消費スピードも速い」といい、「こうした中で一部の発電所の停止や出力低下が数日にわたってしまうと、他社の燃料消費が急速に進み『停止ドミノ』に陥りかねない」と指摘する。

幸い燃料制約が集中した8月2、3日の広域予備率は、安定性を示す基準の8%を超え、最悪の事態とはならなかった。一方で、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場は、土日としては比較的高値で推移。小売事業者が燃料制約に反応し、インバランスリスクに備えるために高値入札を行ったことが理由として考えられる。

火力燃料の中でLNGは、再生可能エネルギーと併用し低炭素化を目指す「ディスティネーションエネルギー」と位置付けられつつある。当然、今後の発電能力の増強はLNGが中心だ。とはいえ、在庫は2週間分程度と、石油や石炭と比べ貯蔵性が低い。将来の停止ドミノを回避するためにも、発電用のタンク増設や、それらをつなぐ内航船、パイプラインといったインフラ整備が欠かせないはずだ。

自動車工場で計画断念か アンモニア利用に暗雲


自動車工場で計画断念か アンモニア利用に暗雲

脱炭素の鍵を握るアンモニア戦略。JERA碧南火力の混焼事業に続けと、西日本にあるA電力Z発電所でも1年以上前から検討作業を続けている。構想のグランドデザインを描くのはM商社だ。

海外からアンモニアを大量調達し、アンモニアと親和性の高いLPガス貯蔵基地を活用する。地元にあるこの既存インフラを流用して貯蔵し、そこをハブにして近隣へのアンモニア供給拠点に仕立てる算段だ。

石炭火力のZ発電所は供給先候補の一つだが、構想の中で、もう一つ候補として挙がっていたのが自動車メーカーX社だ。

周知の通りグローバルで事業を展開する自動車業界の脱炭素戦略は待ったなしだ。ゆくゆくは調達する部品メーカーへの脱炭素化要請も必須となる。率先垂範と、まずはX社自らが自社工場で進める脱炭素戦略の一つがアンモニア利用というわけだ。

以前から、この工場へのエネルギー供給にはM社グループも関わっていることもあって、アンモニアガスタービンを主軸に工場内のエネルギーを賄う計画だったが、「このX社の計画が白紙になり、コスト増が要因の一つのようだ」とは業界事情通。

大型火力発電所に比べれば、メーカーの一工場における消費量の差は月とすっぽん。M社とすれば、メインのZ発電所向けのボリュームを確保できれば御の字だ。ただ、「脱炭素に向けた多様なアプローチの一つがアンモニア。自動車産業におけるこのモデル確立は産業界からも注目されていただけに、もし事実なら残念」(前述の関係者)

暗雲立ち込めるアンモニア事業


一時は知事選決意も 花角知事の腹の内

柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、新潟県では花角英世知事が公聴会や意識調査などで県民の意思を見極めている。今後、花角知事が容認の判断を示し、県議会が何らかの形で追認するのが最もスムーズな決着だ。

花角知事については、以前から「知事職に執着していない」との評があった。そのため、再稼働容認と同時に辞職し、出直し知事選に打って出るのではないかという憶測が絶えない。ただ再稼働に反対する候補が勝利すれば、少なくとも4年は再稼働が遠のいてしまう。経産省や県内選出の国会議員、県議のほとんどは県議会での決着を訴えてきたが、花角知事の真意はどこにあるのか。

「昨年1月の能登半島地震が起きる前は、出直し知事選をやるつもりだったと思う。つまり、地震がなければ、昨年の春か夏に選挙があったはずだ」。こう打ち明けるのは、自民党のT県議だ。「能登半島地震で多くの家屋が倒壊し、原発事故時の屋内退避に不安の声が挙がった。新たな課題が出てきた状況で県民の信は問えないと判断したのだろう」。また知事の任期満了が来年6月ということもあり、この期に及んでの辞職は「ない」と言い切る。 県議会での決着となる場合、過半数を握る自民党県連の動向が鍵だ。現在、党内調整の真っ最中で、地元同意を先延ばしして国からの譲歩を引き出したい重鎮のK県議が首を縦に振らないと難しいという。


安定供給への矜持は絶対 電力社長が見せた剣幕

今年は7月から例年以上の猛暑となっているものの、電力需給に大きな混乱はない。3年ほど前、需給ひっ迫警報が初めて出されて以降、端境期を含め対策が強化されてきたことが奏功したと言える。

3年前の需給危機以前は「電力会社は安定供給を担って当たり前」という空気が広がっていたし、「原発が止まっていても電気は変わらず送られてくる」といった論調の記事まで見られた。そうした中、ある大手紙記者が電力のX社長を取材した際、「いっそのこと停電が起きれば電力の苦労も理解されるのでは?」と口にしたところ、見たことのないような形相で「そういうことは二度と口にするな」と返されてしまった。いつもの温厚な顔からは想像できないような気迫にはっとしたという。

今夏の状況などをみて、国民が「安定供給の矜持」をもう少し感じ取れれば、関係者の苦労も報われるはずなのだが―。

廃食油由来の軽油燃料で脱炭素 既存インフラ活用で低コスト運用


【伊藤忠エネクス】

輸送部門の低炭素化が喫緊の課題である中、伊藤忠エネクスがトラックなどの輸送燃料の脱炭素化に向けて、バイオ燃料である「リニューアブルディーゼル(RD)」の普及に力を入れている。世界最大級のRD燃料メーカーであるフィンランドのネステ社と連携し、ネステ社が製造した廃食油や廃動植物油由来のバイオ燃料を伊藤忠グループが調達し、エネクスが国内で販売する。

ネステ社から調達する

バイオ燃料には大きくFAME(脂肪酸メチルエステル化)とHVO(水素化植物油)の二つの製造方式がある。どちらも植物油や廃食油から製造するが、エネクスが扱うのは後者のHVOだ。 「品質に大きな違いがある。HVOは製造コストが若干高いが、長期貯蔵に優れている点や寒冷地での利用が可能だ。また混合利用が前提のFAMEに対し、HVOは既存の軽油と性状が同等であるため単体利用が可能だ。これにより日本の法制上は対軽油比で100%CO2を削減する。」

同社産業ビジネス開発部次世代燃料販売課の相澤隆太主任は説明する。こうした特徴により既存の燃料供給インフラや利用側の輸送車両や発電設備をそのまま活用可能で、全体負担を抑えて運用できる。さらに同社では軽油にRDを40%混合した製品の供給も開始しており、需要家がより使いやすい環境を整えている。


シンガポールから製品輸入 ファミマやサントリーで実積

現在、ネステ社では世界各地で年間550万tのRDの生産体制を整備している。内訳はフィンランド(50万t)、オランダ(140万t)、シンガポール(260万t)、アメリカ(100万t)の4地点だ。その中で、エネクスではシンガポール製油所から輸入し、横浜港で受け入れている。そこからタンクローリーを使って、東京、神奈川、愛知、大阪の4地点に整備した給油所に運んでいる。

これまで、ファミリーマート、サントリー、西武バス、JR西日本などで利用実績があるほか、竹中工務店や大林組が大阪・関西万博における建設工事のフォークリフトの燃料として活用した実績がある。 ちなみに「RDは軽油と同等の品質にもかかわらず法令上は炭化水素油と定義されている。そのため、国の政策で支援していたガソリン・軽油補助金が鉱物油由来の石油燃料を対象としていたため、補助の対象外」(同)だそうだ。

脱炭素燃料であるにもかかわらず補助対象外というのはユーザー側から怨嗟の声が聞こえてきそうだ。いずれにせよ、RDによって軽油の脱炭素化がどこまで進むか注目される。

気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは


【気象データ活用術 Vol.6】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

過日6月2日、気象業務150周年式典に参列し、気象データアナリスト人材育成に貢献した者として気象庁長官より表彰していただいた。気象データアナリストとは、2021年に新設された気象庁認定の職能で「企業におけるビジネス創出や課題解決ができるよう、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材」と定義されている。その気象データアナリストである私たちが、クライアントからお預かりした仕事を具体的にどのように進めているのかをお話ししたい。

気象に影響を受けるビジネスやサービスの未来の状況を予測したいというニーズは、予測結果に応じて準備万端で待ち受けたいという動機から生じる。電力需給管理の現場では、JEPXやOCCTOが定める各種手続きの締め切り時刻に従い“どのタイミングで何をやる”という時間軸が明確な上、インバランス最小化が目的としてハッキリしているので、予測モデル開発の大枠構造をデザインするのが比較的容易だ。

時間・空間スケールが大きいと解像度が低い

あとは、クライアントごとに異なる運営思想やオペレーションフローについて丁寧にヒアリングし、各種気象予測データのリリースタイミングとの見合いで、予測モデルの構造や稼働スケジュールを完全オーダーメイドで設計していく。電力業界のように作業工程や最終目的がガッチリ決まっているご依頼は、実はそれほど多くはない。

予測モデルの開発依頼を受けるとまず、現場にヒアリングさせていただく機会の設定をお願いする。お聞きすることは「どこを対象に、いつの時点で、何が分かっていればうれしいか」。これは、気象の世界の基本である【空間スケール】【時間スケール】を把握するためだ。

例えば特定の地域において毎年秋に需要が立ち上がり、その秋の天気や気温の推移次第で需要量が大きく変動する製品のメーカーは、過不足ない供給計画を立てて秋を迎えたいと考える。もし「高知県での需要をターゲットに7月末時点で晩秋までの日次製造量を計画したい」と言われた場合、空間も時間もスケールがそろっておらず、希望をかなえる予測モデル開発は難しい。よって、まずスケールの一致を試みた擦り合わせをする。

7月末時点で数カ月先を予見することを重視する場合、時間スケールが大きいため、活用できる気象予測データも四国地方という大きな空間スケールを対象にザックリした傾向を表現する解像度の低い季節予報であり、当然予測アウトプットも月次単位など低解像度にならざるを得ない。日次の製造計画を得ることを重視する場合、時間スケールが小さい=時間解像度が高いため、予測リードタイムを10〜数日前程度まで近づける=時間スケールを小さくできないか検討していただく。これがOKだと空間スケールも小さくできるので、数値予報を活用し高知県のどこかピンポイントを予測対象とすることも可能だ。

このようなヒアリングによりクライアントのビジネスに本当に役立つ予測をデザインしている。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

北海道・東北NWが託送料改定 需要減が収支に与える影響大きく


北海道電力ネットワーク(NW)と東北電力NWが10月から託送料金を引き上げる。北海道は全電圧、東北は高圧・特別高圧が対象。レベニューキャップ制度下の第1規制期間(2023~27年度)で、収入の前提となる需要見通しを実績が下回ったことが背景にある。

北海道では、低圧需要の落ち込みが目立つ。23年度は282億kW時(想定より7億kW時減)、昨年度は280億kW時(同8億kW時減)と、大きく下振れした。見通しを策定した21年度時点では、コロナ収束後の需要増を見込んでいたが、省エネの定着などで伸び悩んだ。

他の大手電力系8社でも託送料値上げはあるのか

今後は、次世代半導体工場やデータセンターの立地計画が相次ぎ、特別高圧の需要増が期待される。第1規制期間では低圧の減少幅が大きいが、第2規制期間(28~32年度)以降は特別高圧の伸びが低圧減少分を補い、全体需要が当初想定を上回る水準にまで伸びる見込みだ。

東北では、人口減少を踏まえて需要減を想定していたが、ロシアのウクライナ侵攻による燃料費高騰や物価高などが産業用需要を押し下げ、減少幅は想定を大きく上回った。23年度は778億kW時の想定に対し754億kW時、昨年度は同773億kW時に対し752億kW時と、大幅な落ち込みが続いた。

収入減と物価高に伴う費用増が収益基盤に与える影響は、両社に限らない。他地域の送配電事業者の中には、この2社よりも実績が想定を下回るケースがある。他8社は現状では料金改定を行わない方針を示しているが、今後値上げに踏み切る可能性も否定できない