東大発の洪水予測技術を実装 企業の「適応」対応を支援


【エネルギービジネスのリーダー達】北 祐樹/Gaia Vision代表取締役

気候変動対策のうち被害の拡大に備えた「適応」に本腰を入れる日本企業はまだ少ない。

そうした中、最新の洪水予測技術でリスクを見える化、軽減に向けた事業を展開する。

きた・ゆうき 東京大学大学院新領域創成科学研究科で爆弾低気圧などを研究。2020年博士課程修了(環境学博士)。MS&ADインターリスク総研を経て21年GaiaVision設立。東大生産技術研究所特任研究員。

気候関連の財務情報開示に関する国際枠組み・TCFDの取り組みなどを受け、企業活動として気候変動対策に本腰を入れる動きが定着してきた。ただ、国内では対策としては温暖化ガスを削減する「緩和」に目が向きがちで、社会・経済システムなどの調整で気候変動の悪影響を軽減する「適応」の事例は現状まだ少ない。他方、欧米では適応に関連したスタートアップが台頭している。

そうした中、2021年に設立したのが、適応の分野で企業の気候リスク分析を行うGaia Vision(ガイアビジョン)だ。今年2月には、環境省が主催する2023年度の環境スタートアップ大賞で、最上位の大臣賞を受賞した。

同社の強みは、東京大学が開発したグローバル洪水シミュレーションをコア技術として活用すること。国内外の各地点について高解像度で高精度、迅速にシミュレーションでき、民間で活用するのは同社だけだ。企業活動に伴う長期の気候リスクを見える化し、その低減に向けたサービスなどを展開する。

東大で研究を続けながら同社代表取締役を務め、二足のわらじを履く北祐樹氏は、「大学に籍を置くことで、日々アップデートされる最先端の研究成果を使いこなし、国内外の研究機関とのコネクションも活用できる。最先端サイエンスとテクノロジーを社会に届け、地球と人類社会を調和させる、という当社ビジョンを目指す上でベストなスタイル」と強調する。


気候リスクを分析・評価 リアルタイム洪水予測も

メイン事業は、企業の拠点情報を入力し、将来の気候変動に伴う資産や売り上げ額、業務停止日数などの影響を分析し、洪水浸水リスクマップを提示するサービスだ。日本の場合、気候リスクの財務影響評価は損害保険会社などの限られた場面で行われているが、より多くの企業が活用することを提案する。

製造業やインフラ企業、金融機関などが対象ユーザーとなる。例えばある電機メーカーは、これまでに河川近くの工場などが洪水被害を受けた経験があり、今後の被害予測や、投資家への説明材料として、同社のサービスを利用しているという。

さらに、気象業務法と水防法の改正で、昨秋から民間でも洪水予報を行えるようになったことを受け、自治体や民間向けにリアルタイムでの洪水予測サービスも始めた。こちらでも既存予測と差別化する。

気象庁が公開するのは3時間先の洪水予測だが、同社は細かいメッシュで36時間先の予測を精度保障する。いつ、どこで、どの程度の浸水が発生するのかといった情報まで示し、事前の避難指示や資産保全を判断できるようにした。5年前の大雨被害で北陸新幹線が水没したようなケースでは、事前に詳細予測を把握できれば、被害を軽減できる可能性がある。

このほか、治水対策効果の評価や河川流量シミュレーション、気候変動関連の研究開発や戦略立案の支援なども手掛ける。現在は無償ユーザーが50社、有償ユーザーとして18社が利用している。


九州電力と連携 海外水力開発に有効

こうした情報はエネルギー企業にとっても有用だ。同社は九州電力と共同で、海外での水力開発に際し、河川流量予測の活用可能性を検証している。日本は河川や雨量などのデータが豊富に揃っているが、途上国などでは高精度のデータが不足していることが開発のネックとなりがち。そこで、グローバルなデータやシミュレーション技術があれば、ハードルが下がるのだ。

国内のエネルギー事業での利用実績はまだないが、リアルタイムの洪水予測は、電力やガス会社が災害時の復旧に備える上で参考になる。さらに、渇水予測は発電量予測に活用できる。

当面の課題は人材育成だ。現在の社員は北氏と、同じく東大で気候変動を研究していた出本哲・共同創業者の2人。専門知見を持ち、最新技術を理解した上でビジネスとして取り組める人材が不足しており、育成に力を入れる方針だ。

その上で、さらなるサービス拡充も視野に入れる。「人口衛星データの活用、さらにAIの進化により、従来の気象予測技術をさらに進化させることができる」(北氏)。洪水以外に台風などの異常気象予測を拡充させるとともに、洋上風力や太陽光発電の長期予測の事業化も目指している。

気候変動対策の両輪として、緩和だけでなく、より多くの企業が適応も意識し、既に起きている異常気象への即時対応や長期リスクの低減を図ることが重要だ。そうなれば、企業にとっても社会にとっても、持続可能なシステムの構築にまた一歩近づく。

【再エネ】炭素クレジット 再エネ取引減、森林は拡大へ


【業界スクランブル/再エネ】

カーボンプライシング構想やカーボンクレジット売買の需要増を背景に、東京証券取引所がCO2削減量の価値である「Jクレジット」の取引市場を昨秋開設してから間もなく半年を迎える。2005年から環境価値取引市場で先行する欧州に対して、日本では13年にJクレジット制度を創設したが、主に企業間での相対取引で、認知度が低かったこともあり、さらなる取引活性化のため環境価値取引市場が開設された。

本市場を通じた累計取引量は本年1月に約10万tを突破、3月には約20万tまで拡大し、取引量の約7割を再エネ電力、約3割を省エネによる環境価値が占める。政府はGXリーグにおける排出量取引を開始する本年後半には市場参加者を560者程度に倍増することを目指す。

しかし、このまま順調に取引量が増加するかというと、再エネ電力に関しては今後減少するのではないかとの見方がある。再エネ電力はクレジットとしてではなく、再エネ電力そのものが求められているためだ。実際に海外の民間系(ボランタリー)クレジットでは、再エネ電力はクレジット対象外とする動きもある。

代わりに、今後取引の増加が期待されるのが森林資源に関する環境価値である。足元では全体の取引量の1%にも満たないわずかな取引量だが、取引価格はt―CO2当たり8000円台の高値を記録しており、再エネ電力3000円台の2倍以上となっている。日本は森林資源に恵まれた国であり、森林管理人材や資金不足による供給体制の課題をAIや新品種の活用などで克服し、いずれ日本におけるクレジット取引の主軸になるだろう。(K)

富山の産業と暮らしを元気に ガス事業の枠を超え事業を展開


【事業者探訪】日本海ガス

都市ガスとLPガス供給で富山の経済と暮らしを支える日本海ガス。

人口減少、そして脱炭素という地域課題解決へさまざまな手を打ち出している。

北陸経済の中心地であり、ホタルイカやシロエビ、寒ブリなど海産資源に恵まれる富山湾に面し、立山連峰など自然を身近に感じられる富山市。豊富な工業用水と安価なエネルギー価格を武器に、製薬や機械、アルミ産業などを中心とする日本海側屈指の工業都市として発展を遂げた同市は、近年では、公共交通を軸とした「コンパクトなまちづくり」や「環境モデル都市」など先進的な取り組みで存在感を高めている。

日本海ガスは、同市のほか、高岡・射水市といった県西部を供給エリアとする都市ガス会社だ。モノ作りが盛んな地域だけに、同社のガス販売量の66%を工業用が占めており、産業界の環境意識の高まりに伴い、顧客数、販売量ともにこの10年間で4割伸ばしてきた。

土屋誠社長は、「東日本大震災後、エネルギー源を多様化するためガスエネルギーがクローズアップされたのに加え、2016年にINPEX直江津LNG基地からのパイプラインが運用開始となったことも、需要開発を頑張ろうという社内の機運の高まりにつながった」とした上で、「まだまだ燃料転換で地域の脱炭素化に貢献できる」と意気込みを見せる。

土屋誠社長

産業分野での取り組みは熱利用の燃料転換にとどまらない。電力小売事業には参入していないが、太陽光発電システムのPPA(電力販売契約)を手掛けるなど、顧客企業の脱炭素化のためのエネルギーソリューションにも注力している。担っているのは、「大切なお客さまのエネルギー利用を最適化し、生産コストを下げ競争力を高めるコンサルタント役」(土屋氏)だ。


W発電で家庭用に切り込み 県内資源でクレジット創出

一方、エネルギー競争という点では、新築住宅分野においても、他燃料との厳しい需要争奪戦を繰り広げている。その戦略の一つが、家庭用燃料電池「エネファーム」の普及拡大だ。21年には、新築時にエネファームを採用する家庭を対象に、太陽光発電システムを0円で導入できる「So―Raファーム」の提案を開始した。

今年の4月には、エネファームによるCO2削減分を同社が買い取りJクレジット化し、会員制ポータルサイト「Prego Club(プレーゴクラブ)」のポイントを進呈するサービスにも乗り出す。

脱炭素への貢献の一環として、北陸銀行の富山市内の11店舗にCO2排出実質ゼロの「カーボンニュートラルガス」の供給を始めている。市と同市内の森林組合の共同による「富山市カーボン・オフセット運営協議会」が作ったJクレジットでオフセットする。土屋氏は、「地域資源を活用することに意義がある」と強調。この取り組みをほかの森林組合にも広げ、クレジットを単に消費するのではなく、地域と協力しながら県内に森林を整備することでクレジットを創出、地域の脱炭素化に寄与していく考えだ。

【火力】武豊火力の火災事故 安全規制と競争促進の狭間


【業界スクランブル/火力】

再生可能エネルギーの一種として拡大が期待されるバイオマス発電だが、火災事故が相次いでいる。昨年末、経産省の電力安全小委員会内のワーキンググループでもその旨が報告されていたが、1月31日の武豊火力の爆発事故の報道映像は記憶に新しい。

バイオマス発電の燃料種は多様だが、燃焼時に木質ペレットを粉砕する場合は、粉じんが火災の原因となり、また保管中に自然発酵などにより可燃性ガスが発生することがあり、運用にはそれなりに気を使っている。

最近の事故を見ると、バイオマス燃料の貯蔵設備、搬送設備、または受入設備で多く発生しており、燃料取扱量の急拡大に対し安全確保の知見蓄積が追い付いていないのではないか。何事も最初はトラブルが付き物で、これらの知見を生かして早期に大量利用時の安全運用の実現が必要だ。

武豊事故を受け、規制当局から業界団体などを通じて情報の横展開を図るよう指導が出る中、2月29日には火力原子力発電技術協会主催の「バイオマス発電交流会」が行われた。以前から企画されていたようで、早速安全操業に関する事業者間の情報共有の場となったようだ。

しかし、安全の情報共有の取り組みに関し懸念がある。それは競争を促される中で、事業者がノウハウの流出を嫌うこと、適切な競争を実現するためとして事業者間の情報交換を不適切事例と言われかねないことだ。当事者の意識の問題であり乗り越えてもらいたいが、事業規制と安全規制が縦割りとなっている行政側の問題でもある。S+3Eの実現のためには、この視点での検証も避けて通れないだろう。(N)

【マーケット情報/4月19日】原油続落、余剰感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、世界各地で一段と余剰感が強まり、主要指標が軒並み下落。

先週発表となった米国の原油在庫は、市場の予想を上回り、さらに増加。増加を示すのはこれで4週連続となる。同国の在庫量は昨年6月以来の高水準を記録しており、市場では供給過剰への懸念が強まった。

また、米国および英国がイランに新たな経済制裁を課すも、エネルギーセクターは対象から外された。これにより、中東情勢悪化にともなう供給不安が和らぎ、価格の下方圧力となった。

ただ、週後半、米国が自粛を促すも、イスラエルがイランに報復攻撃を実施。一時価格は急伸したが、市場への影響は限定的との見方が広がり、前週比での価格上昇には至らなかった。


【4月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.14ドル(前週比2.52ドル安)、ブレント先物(ICE)=87.29ドル(前週比3.16ドル安)、オマーン先物(DME)=87.97ドル(前週比2.38ドル安)、ドバイ現物(Argus)=87.35ドル(前週比3.16ドル安)

ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ


【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】関口博之 /経済ジャーナリスト

翻訳家で環境活動家としても知られる枝廣淳子さんと仕事でご一緒する機会がある。彼女がすごいと思うのは理想論をさらりと語る一方で、行動は地に足がついていることだ。先日、枝廣さんが移住し活動拠点にしている静岡県熱海市を訪れた。

志を同じくする地元の仲間と立ち上げた「未来創造部」が2020年から始めたのが、海の藻場など生態系で炭素を吸収・蓄積する「ブルーカーボン」のプロジェクト。今後、カーボンニュートラルを達成したとしても、すでに大気中にあるCO2も減らさないと温暖化は止まらない。そのために陸での植林と並んで注目されているのが海の生態系によるCO2吸収=ブルーカーボンだ。

「未来創造部」では伊豆半島の西側にある土肥の海水浴場でシーズン前に除去される海草の一種の「コアマモ」を採取し、それを熱海に運んで、海岸近くの浅瀬に移植しているという。海水浴場では足にまとわりつき海水浴客に嫌がられる厄介ものだが、それを藻場の再生に生かすわけだ。磯焼けなどで失われつつある海の生態系を復活させ漁業資源を守るとともに、海草の光合成によってCO2の吸収にも貢献する。

コアマモの移植
提供:未来創造部

もちろん課題はある。移植した株が定着したか観察を続ける必要があるし、そもそも海底の藻場などの調査を簡便かつ廉価に行いたい。その方法も模索中だ。将来的にはブルーカーボンによるCO2吸収量を計測し、クレジットなどに活用することも検討しており、この取り組みが日本全国の海域に広がることを目指している。先は長いが一歩は踏み出した。各地のこうした取り組みをつなぐネットワークもできつつある。

「未来創造部」のもう一つの取り組みが「炭作り」。熱海の郊外で、煙も臭いも出さない密閉式の製炭炉を使って「バイオ炭」を作る試みだ。材料にするのは間伐材や竹、剪定した枝、農作物や食物の残りかすなど。これらを6~8時間で熱分解することで炭素密度の高いバイオ炭ができるという。林業再生への一助にもなるし、自治体の扱う植物系ごみの減量にもなる。そして炭化することで炭の中に炭素を固定化、つまり封じ込めることができるという。

この製炭炉、小型ユニットなのでクレーン付きの4tトラックにも積めるようになっている。希望があれば「出張での炭作り」もできる。その出張が啓発活動にもなる。

こうした取り組みをみると、地域の厄介ものや廃棄物を有益なものに変えていく地域レベルでの「循環」と、CO2の地球レベルでの「循環」が同心円的に進むという形になっているのに気づく。

プロジェクトを担う「未来創造部」は実はNPOではなくれっきとした会社。枝廣さんは「こうした活動を事業として成立させることに意義がある」という。主な収入源は環境問題に関心の高い企業などから受託する従業員研修。熱海に来てブルーカーボンやバイオ炭の意味を学び、かつ見学や体験もする。生きた教材があるわけで、研修効果も高いだろう。結局は、熱海という地に足がついているのがすごいともいえる。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

トヨタがめざす脱炭素とは 水素エンジン車の市販化へ


【リレーコラム】谷 みのり/トヨタオーストラリア Senior Executive Coordinator

クルマが社会で必要な存在であり続けるための喫緊の課題がカーボンニュートラル。私たちトヨタの活動の軸は、モノづくりやサプライチェーンの脱炭素化を進めながら、モビリティーにおいて「マルチパスウェイ」という戦略。誰一人取り残さないように、幅広く選択肢を提供し「幸せの量産」を目指します。

大前提として、地球環境やサステナビリティーの観点から化石燃料から脱却していくことが必要。中長期的には再生可能エネルギーの普及が進み、電気と水素が社会を支える有力なエネルギーとなる。一方、短期的には世界各地の現実に向き合い、エネルギーセキュリティーを担保しながら、プラクティカルに変化を進める必要があり、トヨタは電気と水素の未来を見据えながら、多様なエネルギー事情やお客様ニーズに寄り添ったモビリティーの選択肢を提供すべきと考えています。

水素エンジンの商用車を開発トヨタは選択肢として、電動車の仲間である「バッテリーEV」、「ハイブリッド」、「プラグインハイブリッド」、水素と酸素の化学反応によって作られた電気をバッテリーに蓄え、モーターを駆動する「FCEV」をラインアップとしています。(ご存じのMIRAIはFCEV)。加えて、水素を燃焼させて駆動力を得る「水素エンジン車」の開発も2021年から進めており、モータースポーツを通じて鍛えてきた技術が、市販化に向け具現化の段階を迎えました。具体的には水素エンジンのハイエースの開発です。従来のエンジン車と変わらないパッケージの実現にチャレンジ。荷室のサイズ乗員の数はそのままに、航続距離は200km前後を確保。レースで使用した水素カローラの異常燃焼を抑制するための技術などが生かされており、安全安心な運転を担保する工夫もされています。レースはエンジンの高出力高回転領域を多用する非常に厳しい環境ですが、商用車として使用の場合はさらに違う性能が求められます。走る止まるを頻繁に繰り返すほか、重量負荷が急激に変わることもあります。

「世界の道と環境のバラエティー8割」を有するといわれるここ豪州での公道実証を、昨年10月より実施。地場の企業様のご協力のもと、一定期間使用いただき、課題の洗い出しを繰り返しました。この結果が開発につながり、さらに改良が重ねられます。近い将来、水素エンジン車を市販化することで、水素需要も増え、水素供給網が拡大し、カーボンニュートラルの加速に貢献できるようトヨタは「もっといいクルマづくり」に取り組んでいきます。

たに・みのり 金城学院大学卒業。1990年トヨタ自動車入社。2021年TMCAに出向、補給部用品の供給・販売促進企画、改善サポートに従事。


※次回は、MUFGの岡本麻記子さんです。

【原子力】蓄電池よりも合理的 既設原発の負荷追従


【業界スクランブル/原子力】

天気任せで出力変動し、需要に応じた運転のできない太陽光・風力発電が増えている。特に太陽光の増加は春、秋の日中に好天であると電力系統の安定制御に悪影響を与える可能性があり、出力制御(発電停止による出力抑制)を必要とする。

その頻度が高まり、2024年度には最大の電力需要を抱える東京電力PG管内も含め、全国で再エネの出力制御が必要と予想されている。脱炭素を目指す国の政策のため今後、再エネは増え続け系統制御に用いる火力は減る方向だから、電力系統の安定制御はますます難しい状態となる。

出力調整が容易な水力の規模は頭打ちで、需要を増やすために輸送や給湯の電化を図るべきだが、再エネの増加の方が早いであろうから、太陽光は利用率低下で発電単価が上がる。大規模な蓄電池設備の新規建設は膨大な投資となり電気料金を高める。

ところで現在の原子力は最大出力で一定運転するが、その理由は燃料費が安いためだ。今後、再稼働が進めば再エネの出力抑制はさらに増える。しかし原子力はもともと負荷追従運転が可能であり、過去に国内のBWR、PWRでそれぞれ試験実績もある。出力を下げる側だから基本的には安全性の問題はない。

再エネ主流の時代に水力、CCUS付き火力、水素製造負荷に限界がある場合、原子力は利用率が下がってでも負荷追従をする必要がある。既設原発で行えば追加投資は小さく、蓄電池建設より有利で料金の上昇を抑えられる。

原子力は蒸気タービンを使い、系統に慣性力を提供できる同期電源であり、負荷追従運転の本格運用に向け準備に取り組むべきである。(H)

【シン・メディア放談】ENEOSグループでまたセクハラ 厳しいコンプラから身を守る術は?


<エネルギー人編> 電力・石油・ガス

コンプライアンスが一段と厳しくなる中で、社内外でいかに立ち振る舞うべきか―。

―日経平均株価が4万円を超え、過去最高値を記録した。為替は日米の金利差から1ドル=150円前後の円安が続く。

電力 業界的に好ましくないのは、為替の乱高下だ。燃料価格が下がれば燃料費調整制度で需要家に還元されるが、そのタイミングは遅れる。決算だけを断片的に見て高収益に見えても、その前に持ち出しがあることは需要家に伝わりにくい。過去最高益でありながら値上げを要請する営業マンは苦しいだろう。

ガス 良くも悪くも、世の中の景気の影響を受けにくいのがエネルギー業界だ。業界の株価に大きな影響を与えるのは、工場の新設などで大口需要家を獲得した時。高収益を上げた企業が設備投資にカネを回せばいいが。


円安・円高どっちがいい 激変緩和は絶好の「やめ時」

―春闘ではついに大手電力でも満額回答が相次いだ。

電力 今年は年始から災害対応など現場が大活躍している。社員のモチベーションアップに大きくつながるのは間違いない。

石油 前年を超える賃上げ回答が相次いだことで、日銀は3月18、19日の金融政策決定会合でマイナス金利を解除。それでも緩和的な金融環境は続くはずで、米国の利下げなどを織り込めば1ドル=130円前後の円安とも円高とも言えない相場にやがて落ち着くのではないか。

ガス 好調な企業決算が示すように、円安が日本経済にプラスの影響を与えているのは確かだ。ただ長期的に円安が続いて光熱費が高止まりすると、製造業の海外移転などで大口需要家を失いかねない。やはり「産業の血液」たるエネルギー価格が安いに越したことはなく、見慣れた110~120円になってほしい気持ちもある。

―燃料油に続き電気・ガスも加わった激変緩和措置は「今年春まで」の予定だが……。

ガス 今がこれ以上ない「やめ時」だ。4月の賃上げで国民の手取りは増加、春はエネルギー需要の閑散期で、6月には所得税や住民税の定額減税が始まる。この機を逃せば需要が増える夏を迎え、冬の足音が聞こえる秋にやめることもできない。

石油 自民党が安泰ならスパッとやめられるが、「裏金」問題などでこのありさまだ。円安が解消するまで続けることにならないといいが。もはや激変緩和ではなく、「福祉」政策だよ。

―ENEOSグループのジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の安茂会長が、懇親の場での不適切な行為があったとして解任された。

電力「ENEOSグループ」と言っても、ENEOSがJREを買収したのは22年1月とつい最近のこと。ひとくくりにされるのはかわいそうだが、ENEOSは22年に杉森務会長(当時)が性加害問題で、昨年には斉藤猛社長(同)がセクハラ行為で解任されたばかり。業界全体がコンプライアンスに緩い「昭和体質」だと思われかねない。

石油 セクハラの暴露が起こりやすい風土だったのは確かだ。「黒バット」(旧日本石油のエリートコースを表す隠語)が相手にするのは、大口需要家の部長や幹部クラス。通常のディーラー商売とは銀座通いの頻度も桁違いだ。

電力 昔の上司のセクハラ・パワハラなんて、挙げ出したらキリがない。それが今や、気心知れた仲間でもハメを外せば後ろから刺されるから恐ろしい。

【石油】内閣支持率が低下 補助金延長は必至


【業界スクランブル/石油】

3月上旬段階で中東情勢の緊張・米利下げ期待などで、WTI先物は80ドル直前、中東・北海原油は80ドルに乗せている。価格の上昇傾向を受け、国内製品価格がどうなるかが関心事項となるが、答えは、ほとんど影響がないということになる。しかし、某金融系有名エコノミストは、国内産業のコスト上昇が懸念されるとコメントしていた。

確かに補助金開始前であれば、価格が上がれば、連動して国内製品価格も上がるから正解だ。しかし現在は補助金が出ており、そうはならない。補助金は、ガソリン目標価格175円になるように、毎週支給額を調整している。

したがって、補助金継続中はほぼ横ばいが続く。もちろん、補助金は元売りに出ているからスタンド段階での価格転嫁の遅れや、政府の補助金計算基準の原油価格と、元売りの原価計算の原油価格との相違で目標価格前後でのブレは発生するが、基本的に原油価格と国内価格の連動性は補助金効果で断ち切られている。補助金の目的は、国内価格引き下げではなく値上がり防止、目標価格への収れんである。輸入価格上昇の問題は産業のコストではなく、財政負担の拡大にある。この点がよく理解されていないようだ。

さらに問題は補助金終了時の原油価格と為替水準である。パレスチナ・ウクライナの停戦、中国・米国の景気動向、OPECプラスの減産動向、日銀の金融政策転換など要素が多過ぎて読めない。3月上旬の補助金額は20円弱、終了時には補助金相当額が小売価格にオンされる。現時点では4月末終了予定だが、現状の内閣支持率を見れば延長必至との見方が大勢だ。(H)

【ガス】東南・南アジアが重要に 亜流が本流になるか


【業界スクランブル/ガス】

2023年のLNG輸入量のトップは中国で7000万t超、次いで日本が6500万t前後と、欧州が輸入量を伸ばす中で、東アジアは依然として世界の5割超を占めている。ところで、40年以降はどうなるだろうか。JOGMEC資料によると、東アジアに代わり東南アジア・南アジアの両地域が合わせて5割を占めるLNGデマンドセンターとなる見通しだ。

両地域の国々は、パリ協定に基づき30年までの温暖化ガス排出削減目標を定めている。例えば、インドは05年比45%削減、フィリピンは10年比75%削減、ベトナムは14年比27%削減―。しかし現実を見ると、一次エネルギーにおける石炭割合がインド、フィリピン、ベトナムでは50%以上を占めるなど、世界の中で遅れが目立つ。

各国政府は再エネ導入に向けて積極的にかじを切っているが、5%以上の経済成長が進む中で電力不足が深刻となり、安定供給と脱炭素の両方を同時に満たす必要が出てきている。特に、データ処理量が急増する中、データセンター向けに安定した質の高い電気の供給が必要となるため、再エネに主軸を置くことは難しい状況にある。

必然的に天然ガス利用ニーズが高まってくるわけだが、現在の一次エネに占める天然ガスの割合はインド、フィリピン、ベトナムで6%台とのりしろが大きい。最近は東南・南アジアにおける日系企業の地盤沈下が目立ってきたとの話もあるが、都市ガス事業者にとっては半世紀に及ぶLNGの受入・利用技術・ノウハウを活用する絶好の機会となろう。今まで亜流だった東南・南アジア戦略が本流になる時代が到来するのか。(G)

シェブロンに見る人材獲得戦略


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

若者の「化石燃料離れ」が深刻化している。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、石油業界は高水準な報酬であるにもかかわらず、石油工学を専攻する学生数が2014年以来75%も減少したという。また、英紙フィナンシャル・タイムズは、ケンブリッジやオックスフォードなど名門大学を中心とした教育機関60校が学生の意見を反映し、大学と取引のある銀行に化石燃料事業への資金提供を避けるよう要請したと伝えた。

このような状況にある中、まさに化石燃料の権化のようなイメージすらある米オイルメジャー、シェブロンの人材戦略が興味深い。まず、その採用ページを見てみると、どこを見渡しても「石油」という文言がない。まるでテック企業の先進性が感じられるようなデザインとなっている。

そして、採用ページから応募する際は、エントリーシートや学歴などの入力は不要。どんな形式の履歴書でも、アップロードするだけで自身に最適なポジションが、ものの数秒でリスト表示される仕組みとなっている。学歴や職歴、知的障がい、性別・ジェンダーによって異なる待遇をあえて公開しないことで、応募者間での差別・劣等感を生まないよう配慮されていることがうかがえる。

シェブロンは、フォーブス誌のWorld’s Best Employers(2023)において、オイルメジャー企業の最高ランクに選出された。この結果は、若者の化石燃料離れや価値観の変化に対応し、多様でインクルーシブな職場環境の整備を進めてきた努力の賜物といえよう。若者世代の価値観が大きく変化する中、既存のエネルギー事業者における人材獲得はますます難しくなっている。脱炭素戦略とは、エネルギー事業者の生き残りをかけた人材戦略でもあることを認識する必要があろう。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【新電力】中長期的な電源投資 予見性の担保が条件


【業界スクランブル/新電力】

経産省の電力・ガス基本政策小委員会で、「電力システム改革の検証」が始まった。改革開始から約10年で、振り返りに適切なタイミングということなのだろう。

小売りの部分自由化開始からは四半世紀近く経つが、基本的な目的意識は「電力供給の効率性と安定性の両立」であり、「自由化と公益的課題の両立」を標榜していた自由化当初からほとんど変わっていない。

四半世紀にわたり常に制度の変革を検討し、いったん完遂(貫徹?)となったことも数度あったが、問題が全て解決したわけでもないし、これからも改革は続くようだ。

長年電気事業に携わってきた身からすると「そろそろ予見性が確保できる制度を確定させてほしい」という思いもあるが、実施して初めて浮き彫りになった課題がそれだけ多く、事業環境の変化も大きかったということだろう。

予見性の確保という点で、古くて新しい、しかも注目度が上昇しているのが、発電事業者に対するファイナンスの問題である。再エネに関してはFIT制度によって予見性が高く、ファイナンスが付きやすい状況にあったが、系統維持に必要な調整力や慣性力を持った火力電源の容量は大きく減少し、安定電源である原子力の新設は全く進まない。

始まった長期脱炭素電源オークションには期待がかかるが、果たして電源に対するファイナンスを担保する制度になり得るのかどうか。電力の安定供給、電力市場の安定化に必須なのは、電源投資の十分性である。中長期的に電源投資の予見性が確保されるような制度、予見性やリスクを適正に評価する金融機関の姿勢が求められる。(K)

設立の理念はどこへ行った IEAの「変質」を痛烈批判


【ワールドワイド/環境】

今年は国際エネルギー機関(IEA)の設立50周年にあたる。

IEAはエネルギー市場などを精査し、緊急事態への対応を指揮することで、エネルギー安全保障の強化を目指す国際機関として設立された。しかしパリ協定の成立、とりわけ2021年の米バイデン政権発足の影響により、近年のIEAは脱炭素化を優先している。典型例が21年に策定された50年ネット・ゼロ・エミッション(NZE)シナリオだ。世界が50年NZEを達成するためのエネルギー構成はどうあるべきかという逆算シナリオであり、石油・天然ガスの新たな上流投資は不要だという。これまでのIEAが、石油・天然ガスの上流投資の停滞が起きると将来の需給ひっ迫を招くと警鐘を鳴らしてきたのとは対照的である。

こうしたIEAの「変質」に対する批判も強い。ブッシュ政権時代にホワイトハウスのエネルギー担当特別補佐官であったボブ・マクナリー氏は2月12日付のウォール・ストリート・ジャーナルに「環境政治がエネルギーの番犬を去勢している」という寄稿を提出した。同氏の論旨は次のとおりである。

近年、IEAは政治の圧力に屈し、エネ安保の使命を放棄している。20年、IEAは活動家からの圧力に屈し、現政策がそのまま継続すれば、石油・ガスの需要が今後も増大するシナリオ公表を中止し、石油・ガス消費のピークのタイミングとコストに関する希望的観測が中心シナリオになっている。

石油・ガス需要がまもなくピークに達するという誤解を世界に与えることは、特定の政府や活動家の嗜好に沿うかもしれないが、新しい油田やガス田へのさらなる投資は必要ないという神話を生み、リスクをもたらす。バイデン政権の新規LNGプロジェクト申請手続きの停止はIEAの予測を根拠としている。

政治的意図に影響された公式予測に基づき、石油やガスへの投資を制限・禁止する決定は、エネルギーの自虐行為と等しい。エネルギー危機から消費者を守るために設立されたIEAが、次のエネルギー危機を招来する手助けをしている。

マクナリー氏の考えは共和党のそれと同じであり、トランプ第二期政権が誕生した場合、IEAが二大勢力である米国と欧州間で厳しい立場になるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/4月19日】福島事故の真相探索 第2話


石川迪夫

第2話 覆される炉心溶融の「定説」

壁面損傷の理由を探る

写真Bは、ペデスタルの中央にカメラを置き、事故がつくったペデスタル壁の損傷、空洞を撮影した写真である。真ん中に写っている林立した白くて短い棒は、空洞に残る鉄筋の残骸である。壁のコンクリートは、全面にわたって高さ1mくらいの空洞が穿たれたように掘られ、中の砂利は流出して空洞となり、鉄筋だけが残っている。これまで見たことがないコンクリートの壊れ方で、周囲に存在していた砂利は一体どこへ行ったのか、まだ分っていない。なお、写真Bの左下にある大きく四角い物体は不明である。

写真B ペデスタル内部空洞
提供:IRID 画像処理:東京電力ホールディングス

損傷した壁の高さは2mともいう。だが、林立した鉄筋の長さから見て2mもあるとは見えない。しかし、撮影関係者の全員が、ペデスタル壁の破損は壁全面にわたってほぼ一様であるとの話なので、破損の高さは1~2mくらいと、あいまいなまま話を進める。

映像の説明はこれで終わりだが、壁の破壊理由について少し考察を述べておこう。

破壊された壁の高さが全面にわたってほぼ一様であるとの話から推して、破壊の原因は爆発とか叩き壊したといった物理的な力による動的な破壊ではなく、酸やアルカリの浸蝕のように液体が関与した静かな破壊に見える。

だが、格納容器の中には酸やアルカリといった薬品類は一切ない。また、1号機の事故では原子炉の冷却水は全て蒸発して、12日午前5時まで格納容器の中に水は一滴も入ってない。原子炉冷却水が行った仕事と言えば、原子炉で蒸発した蒸気が格納容器のウエットウエルに入って水を蒸発させ、その蒸気で格納容器圧力を6気圧程に上昇させたことだけである。原子炉の冷却水が、ペデスタルの壁の損傷に関与したとは考えられない。

第3話以降に詳しく述べるが、この損傷の原因は、12日午前5時46分から始まった炉心注水がペデスタル床面に溜まったところに炉心から高温の燃料棒が落下して、被覆管と水との発熱反応によって壁面が損傷したものだ。このことを覚えておいてもらって次の説明に進む。

制御棒ハウジングの落下状況

写真C-1C-2は、制御棒駆動機構ハウジングの落下写真である。

1号機の制御棒駆動機構は約100本というが、ペデスタル内に落下が確認されているハウジングは、壁周辺の十数体に過ぎない。炉心中央部に存在していた制御棒並びに関連の部材の残骸はまだ確認されていないが、高温の炉心燃料や溶融した炉内構造物の下落に伴って、その熱で溶融されていったのではないかと思われる。だがその証明は、後日を待たねばならない。

壁周辺に立った状態で撮影された十数体のハウジングは、一本一本が別個に落下したと思われる写真である。これとは別に、3本のハウジングが集団で落下したのではないかと疑われる一組の写真が撮影されている。この写真は床上に転がっているのか、途中の位置に引っかかっているのかが不明だが、このように落下状況が全く違っていると考えられる写真が、二枚残されている。

写真C―1は、制御棒ハウジングが一本ずつ別個に落下したと見られる写真である。ハウジング背後にある黒色部分はペデスタルの壁面と註釈記載があるので、落下したハウジングは床上に転がっているのではなく、壁にもたれて立っている状態である。

一本々々の別個の落下ではなく、数本が一緒になって落下し、落下の衝撃でバラバラに倒れたとも考えられるが、ここでは一本ずつの落下と見て話を進める。

なお、制御棒駆動機構の長さは4m程である。ペデスタルの内径は5mであるから、制御棒に取ってペデスタルは広い部屋ではなく、寸が詰まって転がり難い空間である.これがハウジングが立っている原因であるのかも知れない。

写真C-1 制御棒ハウジングの落下
提供:IRID

写真C-2は、3本のハウジングが一体となって集団で落下したと見られる写真である。ハウジングの全長が写っていないので、正確な判断とは言えないが、ハウジングの底を形成する盲フランジ3枚が全て同じ方向を向き、かつ同列に並んでいることに加えて、3本のハウジングの間隔が平行してほぼ同じであるように見えることから、3本のハウジンングは体形を崩さず一体となって落下したと思われるのである。

写真C-2 3本一組で落下したとみられる制御棒ハウジング
提供:IRID

写真が示した「動画」の誤り

写真C-1写真C-2の、制御棒ハウジングの落下状態が違っていることは、一目瞭然であろう。もし、写真C-2の落下状態が事実とすれば、液化した溶融炉心が圧力容器を流れ落ちて容器の底を溶かすという、これまで言い伝えられてきた炉心溶融についての定説が崩れる。圧力容器の底が溶融すれば、溶けた場所から制御棒は一本ずつ脱落していくはずだから、3本が形体を崩さず一体となって落下するという説明はできなくなる。

仮に底板が完全に溶融していない状態で3本一組となって落下したと仮定しても、圧力容器の底からペデスタルの床上までは高さは8ⅿも離れているから、高温で柔らかくなった底板が落下の衝撃に耐えることは考えられないから、3体一組の形状が保たれた状態で残るということは考え難いのである。

3本一組の制御棒の落下写真は、上述のように、従来の炉心溶融についての定説を覆す可能性を持っている。この問題は第3話でさらに詳しく述べるが、溶融炉心が流れて落下するというこれまでの動画は、輻射熱の大きさから考えても誤りであると、僕には思える。

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いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島事故の真相探索~はじめに~

・福島事故の真相探索 第1話