【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年3月号)


【エナジー宇宙/ニチガス系が春日部市と「ゼロカーボンシティ」目指す】

ニチガスの100%子会社で、LPガスなどのインフラを担うエナジー宇宙(吉田恵一社長)はこのほど、埼玉県春日部市と「ゼロカーボンシティ」に向けた連携協定を結んだ。同市と連携するエネルギー事業者は東京電力パワーグリッドに次いで2社目。市は「市・事業者・市民で明日を耕せ ゼロカーボンで生まれ変わる田園都市」をスローガンに、2028年までに調達電力の70%以上を再エネとし、市庁舎では100%を目指している。ハイブリッド給湯機器などの家庭用省エネ機器販売で実績があるニチガスの知見を活用するとともに、カーボンオフセットガスなどで最適なエネルギー利用を図る。


【コージェネ財団/大賞表彰式で高砂熱学など3件が理事長賞を受賞】

コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)は2月6日、「コージェネシンポジウム2025」を開き、優れたコージェネシステムに贈る「コージェネ大賞2024」の表彰式を行った。理事長賞を受賞したのは、民生用部門が「高砂熱学イノベーションセンターへの導入事例」(高砂熱学工業など)、産業用部門が「味の素九州事業所での改善事例」(日鉄エンジニアリングなど)、技術開発部門が「水素30%混焼対応 高効率8MW級ガスエンジンKG-18-T.HMの開発」(川崎重工業)。各部門の講演のほか、新しい街づくりに関する意見交換などを行った。


【国際環境経済研究所/水素・アンモニア社会実現をテーマに最新事情紹介】

国際環境経済研究所は1月31日、「水素・アンモニア社会実現の課題」と題する講演会を開いた。同研究所所長の山本隆三氏が、昨年視察した欧州の水素事情に触れ、「トランプのエネルギー政策と欧米のエネルギー戦略」をテーマに講演した。次に登壇した主席研究員の塩沢文朗氏は、「水素・アンモニア利用の課題」に焦点を当て発表。この中で塩沢氏は、現在の日本の水素・アンモニアの利活用状況について説明し、昨今の人材不足や物価高により水素やアンモニアへの投資リスクの拡大が見込まれると指摘しながらも、製造時にCO2を回収するブルーアンモニアの導入拡大が予想されるとの見方を示した。


【ニチコン/新型蓄電システムで電気代の削減に貢献】

家庭用蓄電池などを手掛けるニチコンは2月13日、太陽光発電、蓄電池、EVのエネルギーを制御するトライブリッド蓄電システムのフラッグシップモデル「ESS-T5/T6シリーズ」を今年秋に発売すると発表した。自宅の太陽光パネルで発電した電力を最大限に活用して蓄電池とEVに同時に充電できることが特徴で、電気代の削減につながるという。


【関電工/創立80周年を記念したセミナー開催】

関電工は2月5日、都内で創立80周年を記念したセミナーを開催した。オンラインによる聴講者を含めて計1500人近くが参加。「次世代道路革命 電気設備と走行中ワイヤレス充電が描く未来」や「生成AIの進展とインフラ建築業界における活用」などをテーマに、社会の変化に直面するインフラ・建設業界の今後の課題について有識者らが講演した。


【茨城大学原子科学研究教育センター、日本原子力発電/漫才コンビとエネルギー問題を楽しく学ぶセミナー】

茨城大学原子科学研究教育センターと日本原子力発電は1月29日、同大水戸キャンパスで「エネルギー問題と政策~エネルギー問題から人材育成まで~」と題するセミナーを開催した。漫才コンビのU字工事や資源エネルギー庁原子力立地政策室長の前田博貴氏によるトークセッションなどを行い、大盛況で閉幕した。電気事業連合会と日本原子力文化財団が協力。

理想のモビリティ社会構築へ 目指すべき方向性とは


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

本連載も本稿が最終回となったので、最後のまとめとしてモビリティ社会の目指す方向性を提言する。日本のモビリティ社会において解決すべき重要な社会課題は、①交通事故死をゼロとする安全性の向上、②地方での交通弱者の移動の確保―の二点が挙げられる。

モビリティ社会の目指す方向性は


安全性向上については、全ての自動車を自動運転にすれば、人間が運転する時よりも交通事故は減少するという説がある。グーグル社系列のWaymo社では、完全自動無人タクシーが人間が運転している自動車よりも85%事故率が少ないことを公表している。しかし、それだけでは自動運転車が人間が運転するよりも安全性が高いとは言えない。なぜなら、Waymo社の無人タクシーは限定された地域の道路だけで運用されているからだ。限定地区以外の道路交通事情ではAIが想定していなかった交通状況の変化が起こって、交通事故に至る可能性がある。

また、Waymo社では2530万マイルの無人走行で一度も重大事故を起こしていないことを公表している。しかし、これも世界最大の科学・教育計算機学会である米国計算機学会「ACM」の投稿論文に、この走行マイル数では安全であることを確証するには不十分であり、110億マイルの走行が必要である、と否定されている。

では、交通事故死をゼロとするための自動運転技術の使い方とは何か。それは、完全自動運転ではなく、あくまでドライバーが運転する自動車を高度なAIが支援して運転ミスをカバーする究極のADAS(先進運転支援システム)の開発を目指すことである。

従来のADASの何が問題であるかというと、ドライバーの運転意図が分からないことによる支援機能の限界があることだ。例えば衝突軽減ブレーキでは、衝突回避支援を行うことが難しい。これは、ドライバーがブレーキではなくステアリング操舵で回避する意図を持っている可能性があるからである。この運転意図を、道路交通環境情報やドライバーの操作データ情報を基に、高度なAIが把握できるようになれば、衝突事故をゼロとする可能性が高くなる。

後者の地方の交通弱者の移動の確保では、自動運転をそのまま導入しようとしても、社会実装が難しいことが、日本全国で実施されてきた実証実験で示されている。それは安全の担保と導入・運営コストの低減を両立させることが難しい点である。この課題については、コスト低減には限界があるので、自動運転走行の価値をより高くして、コストに見合うサービスとしてビジネス化することが必要である。

例えば、社会生活に必要なデータ連携をして、自動走行中に移動先での買い物、診療、娯楽、各種手続きなどを先回りして済ませる利便性向上や、住民の観光客の移動を融合させるビジネス化などが考えられる。それには、単なる自動運転の採用ではなく、地域の移動需要や社会生活に基づいて、モビリティ社会を総合的にデザインするアプローチが必要とされる。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

大規模災害に新たな備え 寺社×科学技術で減災へ


【オピニオン】稲場圭信/大阪大学大学院人間科学研究科教授

京都市が環境省の「脱炭素先行地域」に選定され、防災をからめて文化遺産などの関連施設に太陽光パネルと蓄電池を設置し、脱炭素転換を推進している。寺社が連携先に入っていることが先進的である。このような寺社と自治体の連携は、防災の取り組みでは東日本大震災後に全国に広がっている。

東日本大震災の被災地では小学校や公民館などの指定避難所の多くが被災する一方で、高台にあった100以上の寺社が避難所となった。昨年の能登半島地震では、地震直後、津波警報が発令されて高台などの安全なところにある35ほどの寺社に1000人ほどが避難した。地震が年末年始の帰省期間中に発生したことから、住民以外の避難者も多く、避難所不足の問題も指摘された。既存の指定避難所では、広域災害時の避難者を十分に受け入れられない状況が日本各地で散見されている。

避難所不足に対応するため、筆者らは全国1741自治体を対象に宗教施設との災害時協力に関する調査票を昨年8月に送付し、1143自治体から回答を得た。その結果、協力関係にある自治体は5年前の調査時の329から418に増え、27.1%の増加になり、宗教施設数は2065から2999に増え、45.2%増加していることが判明した。この調査は全国基礎自治体全数の約3分の2が回答しているため、全国で災害時に利用される宗教施設数は約4500と推定され、自治体と宗教施設の災害時協力が進展していることが示唆された。

大災害時には、光ファイバーなどの固定通信網や、携帯電話サービスなどの大手キャリアサービスは、輻輳による通信障害やインフラ設備自体の被災が想定される。そこで、大阪大学では企業と共同で、風力発電、太陽光発電、蓄電池、通信、カメラといった機器を備えた独立電源通信装置を開発して、特定小電力無線(Wi-SUN FAN)によるテキスト送受信や画像伝送の実験をし、成功させている。共同研究の成果の仕組みが大阪発であることから、名称を「たすかんねん」とした。今後、「たすかんねん」が避難所、事業所や寺社などに設置されることを期待している。

今、自治体の多くが災害時の情報共有に課題を感じている。筆者らは全国の指定避難所と寺社などの宗教施設を登録した避難所情報システム「災救マップ」(https://map.respect-relief.net/)を開発、運営している。災救マップは自治体にとって費用負担が少なく、簡単に使える避難所情報共有システムである。災害時に迅速に地域住民に避難指示、避難所情報、道路の危険箇所を共有することができる。

完璧な防災システムは無い。是非、上記のような地域資源と科学技術を活用して欲しい。

いなば・けいしん 東京大学文学部卒。ロンドン大学大学院博士課程修了、宗教社会学博士。利他主義、地域資源と科学技術による減災が専門。フランス国立社会科学高等研究院、神戸大学などを経て、2016年から現職。

進化する建築物の脱炭素化 ZEBの次はライフサイクルで


【脱炭素時代の経済評論 Vol.12】関口博之 /経済ジャーナリスト

改正建築物省エネ法が4月に全面施行される。これまでは300㎡以上のビルのみに義務付けられていた省エネ基準適合が、原則全ての新築住宅・ビルに義務付けられる。建築分野の脱炭素化が一歩前進する。

国は2030年までに省エネ基準を、新築はZEB・ZEH(ネットゼロエネルギービル・ハウス)水準に引き上げ、50年にはストック平均でもZEB・ZEH水準の確保を目指している。しかし現状では省エネ基準を満たさない(基準導入以前の)建物が延床面積の6割以上に上る。それだけ既存ビルの省エネ改修が重要になる。

大成建設の次世代技術研究所(完成予想図)
提供:大成建設

ビルオーナーにしてみると、どこを変えれば省エネ性能の向上になるか、コストはどうなる、テナントの理解は得られるか、といった課題に直面する。このため環境省は改修による「省エネ・CO2排出削減ポテンシャルの見える化」調査も支援する。

しかし既存ビルでは新築のように一からの最新設計はできない。外壁断熱、高効率空調、LED照明の導入などが主な手段だが、環境省が加えて推奨するのが「ダウンサイジング」だ。ビル建設時にはどんな使用実態になるか見通せないため、設備は余裕をもった過大な容量になっていることが多い。これを実情に合わせ、より小さい設備・機器に切り替えるダウンサイジングをすれば、改修費用も抑えられ、ランニングコストも削減できるというわけだ。

建築物の脱炭素化の重要性は去年のCOP29でも再確認された。それとともに今、国際的な潮流として注目されているのが建築物に関する「ライフサイクルカーボン」の考え方だ。建築物の資材製造から施工、使用、修繕、解体に至るまでの環境負荷をトータルに捉えるものだ。建物の使用時のエネルギー消費を「オペレーショナルカーボン」、建設から改修、解体までに要するCO2排出を「エンボディドカーボン」と呼ぶ。従来のZEBは「オペレーショナルカーボン」のルールだが、脱炭素化の概念は拡大している。

欧州委員会は既に加盟国に対し、28年までに1000㎡超の新築建築物にライフサイクル全体でのCO2排出量を算定し開示することを義務付けている。

日本でも産官学連携の下、「ゼロカーボンビル推進会議」が発足。国土交通省や経済産業省、環境省などによる連絡会議では今年度中に建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた基本構想をまとめることにしている。制度化に向けては建材ごとのCO2原単位の算定方法など、国際的にも通用する基準を早期に整備する必要がある。

ゼロカーボンビルを実践しようという企業も現れている。大成建設は埼玉県幸手市に建設中の技術研究所で、国内初のライフサイクル全体でCO2排出量ネットゼロの実現を目指している。鋼材はリサイクルを想定し、電動式の建設重機も導入、現場事務所もリユースの太陽光パネルで覆いZEB化した。ビル自体には窓ガラスや手すりと一体化した太陽光発電システムを備える。

「このビルはライフサイクルカーボンの算定はしていますか?」そうテナントが聞いてくる日も遠くないかもしれない。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.11】新エネ基の明確な「メッセージ」 投資促す「シグナル」になるか

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

ファンダメンタルズは改善も ぜい弱性続くガス・LNG市場


【マーケットの潮流】白川 裕/国際エネルギー機関「IEA」アナリスト

テーマ:世界のガス・LNG 市場

昨年のガス・LNG市場は、旺盛な需要に対して新規LNG供給が少なくひっ迫した。

アジアを中心とした旺盛な需要と新規LNG供給の伸び悩みで、今年も同様の状況が続きそうだ。

昨年の欧州ガス価格やそれにリンクするスポットLNG価格は、2022年のエネルギー危機時より低下したものの、そのレベルはいまだ以前の2倍の高値にある。ここでは、国際エネルギー機関(IEA)の最新のガス市場四半期報告書に基づき、世界のガス・LNG市場の需給や価格の動向について概観する。

主なスポットLNGおよびガス価格とフォワードカーブ(2022~2025)


危機前の2倍の高値 ひっ迫状態続く

TTF(オランダガス取引ハブ価格指標)に代表される欧州ガス価格とJKM(北東アジアスポットLNG査定価格)に代表されるスポットLNG価格は、以前は、LNG価格が欧州ガス価格をほぼ常に上回っていたが、エネルギー危機以降は、需給がよりひっ迫する欧州ガス価格が上回る状況が散見されるようになった。

2月上旬時点で、TTFとJKMはそれぞれ、100万BTU(英国熱量単位)当たり15ドル/16ドル程度と危機前の2倍の高値をキープしており、これはまさにガス・LNG市場のひっ迫を表している。

さらに今年は、秋口まで例年のコンタンゴ(期近物の価格よりも期先の価格が高く値付けされている状態)ではなく、高原状にガス先物フォワードカーブの高値が継続しており、欧州地下ガス貯蔵在庫の積み上げコストの上昇が懸念されている。今後2年のうちには米国やカタールからの新たなLNG供給が始まり、欧州のロシアLNG輸入が減少するとともに、フォワードカーブは徐々に低下する。

昨年の世界のガス消費量は、現時点のデータで前年比2・8%増の4兆2100億㎥となった。主に中国とインドにけん引されたもので、アジアが需要増加分の40%以上を占めた。アメリカ大陸は、主に電力部門の増加に支えられ、同1・7%増と緩やかな伸び。21年と比べガス消費量が2割も低下した欧州では産業用を中心に需要が回復したが、いまだ危機以前の水準を大きく下回ったままである。

今年の世界のガス市場も、需要の増加と供給のひっ迫を背景に脆弱な状態が続く。需要は前年比1・9%増の4兆2900億㎥となり過去最高を更新し、その増加の半分以上をアジア市場が占める。LNG生産量は、「プラケミンLNG Phase1」「コーパスクリスティLNG Stage3」「アルタミラF―LNG」「LNGカナダ」などの北米の液化施設の立ち上げにけん引され、5%増加すると予測される。

180度転換した日米首脳共同声明 「ジャパン・ファースト」の政策展開を


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

当初どうなることかと思われた石破茂首相とトランプ米国大統領の初めての首脳会談は、それなりに成果の多いものとなった。心配された石破首相とトランプ大統領の相性も決して悪いものではなかったようだ。日米首脳共同声明では、エネルギー分野について「米国の低廉で信頼できるエネルギー及び天然資源を解き放ち、双方に利のある形で、米国から日本への液化天然ガス輸出を増加することにより、エネルギー安全保障を強化する」ことや「先進的な小型モジュール炉及びその他の革新炉に係る技術の開発及び導入に関する協力の取組を歓迎」することが確認された。

これらは、パリ協定からの離脱を表明し、「掘って、掘って、掘りまくれ」と化石燃料の復権を目指すトランプ政権のエネルギー政策の転換を背景とするものだが、中期的にも日本のエネルギー安全保障に資する歓迎すべきものだ。たった1年前の昨年4月、バイデン政権時の当時の岸田文雄首相との日米首脳共同声明で、「日米両国は、気候危機が我々の時代の存亡に関わる挑戦であることを認識し、世界的な対応のリーダーとなる意図を有する」としたことから、180度転換している。

一昨年のわが国のGX推進戦略では、「既に欧米各国は、ロシアによるウクライナ侵略を契機として、これまでの脱炭素への取組を更に加速させ、国家を挙げて発電部門、産業部門、運輸部門、家庭部門などにおける脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取組を加速している」としているが、そもそもの前提がひっくり返ったのだ。


主体・自立性なき政策 GX推進は変わらず

だからといって世界のGX推進の流れは変わることはないだろう。トランプ政権下の米国でも、GXに関する新たな技術開発や産業は生まれ続けるだろう。問題は、「欧米では」などと前置詞を付けながら、主体性や自立性のないわが国のエネルギー政策のあり方だ。トランプ政権でのエネルギー政策の大転換にみられるように、どこの国でも政策の転換はあり得ることであり、気候変動問題は国際政治の中では所与の絶対的なものではない。試験問題を与えられてそれを解くことばかりしてきた日本の秀才たちは、つい気候変動問題を所与の問題として捉えがちだ。

「気候危機の世界的な対応のリーダーになる」などと優等生ぶるのではなく、少資源国としていかに現実的に中長期的なエネルギーの安定供給を実現するのか、そのためにどのような産業構造を構築していくのか、「ジャパン・ファースト」のエネルギー政策を策定する重要性を、トランプ大統領に気付かされた。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

淀川にガスセンサー工場を新設 製造拠点の分散化で有事に対応


【新コスモス電機】

「世界中のガス事故をなくす」という思いを胸に、半世紀以上にわたってガスセンサーの開発・製造を行ってきた新コスモス電機は1月、大阪市淀川区の本社エリアに、新たなガスセンサー工場となる「淀川工場」を設立した。

同工場は主に、同社製電池式ガス警報器の基盤である「MEMS(微小電子機械システム)センサ」の製造を担当。本格的に稼働が始まれば、ガスセンサーの製造能力は現行の2倍にまで高まる見込みだ。

淀川工場の外観写真

これまで、MEMSをはじめとしたガスセンサーの製造は、兵庫県三木市の「コスモスセンサセンター」(CSC)で一貫して行われてきた。CSCが稼働した2014年当初は、問題がないように思われた一拠点体制だが、近年のガス警報器の受注増加傾向や、BCP(事業継続計画)対策の重要性を実感した同社は、製造拠点の分散化に着手。第二拠点として淀川工場を新設し、有事にも供給可能な生産体制を構築した。

約30億円を投じて建設された新工場は地下1階、地上6階建てとなっており、1階は部品・製品の搬出入に関わる物流機能を備え、3~5階はガスセンサーの製造フロアとして使用される。中でも3階には、MEMSセンサの製造工程が集約されており、センサ素子形成、組み立て、通電による安定化処理や品質検査に至るまでを一気通貫で行う。製造フロアには、同社製のガス検知器や酸素濃度計が設置されており、現場従業員が安心して作業できる環境が整っている。


地域の防災力向上に貢献 グローバル展開も視野に

また、新工場は大阪市の「津波避難ビル」に指定されている。

警備員が常駐し、避難者の受け入れを24時間体制で行うことが可能。最大収容人数は154人で、3日分の物資を備蓄している。23年には大阪市淀川区との包括連携協定を締結し、その一環として同社製火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」300台を寄贈した。これらの取り組みは、「防災能力の向上に貢献し、地域の皆様への感謝を示す」(髙橋良典社長)といった姿勢の表れと言える。

1月23日に行われた開所式で、髙橋社長は「今後、海外でのガス警報器の需要増に対応すべく、当社ではグローバル展開を推進していく。淀川工場はその軸となる」と新工場の意義を述べた。世界中の人々の安全・安心を実現する―同社の挑戦はまだまだ続く。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年3月号)


NEWS 01:第7次エネ基が閣議決定 パブコメは過去最多の4万件

政府は2月18日、第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。昨年末に示された原案から大きな変更点はなかった一方、パブリックコメント(意見公募)の多さが際立った。経済産業省によると、今回の意見公募は約4万件に達し、前回の約6000件を大幅に上回った。福島第一原子力発電所の事故後で、過去最多だった第4次の約1万8000件の記録を更新し、「原発回帰」を鮮明にした今回のエネ基への国民の関心の高さを示した。

原発回帰に対する関心の高さが浮き彫りに

「エネルギー政策に対する国民の強い関心の表れ」。武藤容治経産相は同日の閣議後記者会見で、今回寄せられた意見公募についてこう見解を示した。

意見公募では、福島第一原発事故を踏まえ、有事の際の避難計画や最終処分方法が確立していない中、原発を推進すべきでないといった意見が多かった。

こうした指摘を踏まえ、原子力政策の原案から大枠自体は変更しなかったものの「原子力の安全性やバックエンドの進ちょくに関する懸念の声があることを真摯に受け止める必要がある」との文言を追加した。武藤経産相は、「懸念の声があることも事実として受け止め、不安を払しょくできるよう、なぜ原子力が必要なのかを今後も丁寧に説明していく」と強調する。

業界からは賞賛する声が多かった半面、環境派からの反発が顕著となった。こうした対立の構図はいつまで続くのか。


NEWS 02:容量市場の約定額過去最高に 制度の妥当性に疑問符も

将来の供給力を確保する手段として、果たして最適な仕組みになっているのか―。2020年度に初回オークションが実施された容量市場。1月29日には、28年度を実需給年度とする5回目のメインオークションの結果が公表されたが、同制度を巡っては、その妥当性に否定的な意見が常につきまとっている。

電力広域的運営推進機関によると、今年度の約定総容量は前年度比0・7%減の1億6621万kW。1kW当たりの約定単価は同41・8%増の1万1134円で、約定総額は同40・8%増の1兆8506億円に上り、過去最高に達した。

これにより、28年度に小売電気事業者が負担する拠出金額は1兆6935億円と試算され、26年度の7734億円、27年度の1兆1986億円からさらに増大することになる。

この結果については、「限界電源の維持管理費用の高騰を反映したものだろう」というのが電力業界関係者の大方の見方。新電力関係者も「小売事業者の多くが、単価が上がること自体は不可避だと認識している」と言い、必ずしも否定的ではない様子だ。

むしろ問題視するのは「現行制度のままでは、容量市場が需給ひっ迫を回避することに貢献しそうにない」という点だ。実際今年度は、容量市場と需給調整市場が全面開始となったにもかかわらず、夏季には、広域予備率低下に伴う供給力準備通知が発出されたり、インバランス料金が高騰したりといった事態に陥った。

前出の新電力関係者は「小売りの負担が増大しているにもかかわらず、供給力・調整力を確保できないツケを回されているような状況だけは勘弁してもらいたい」と、早急な制度設計の改善を求める。


NEWS 03:関電が新ロードマップ公表 福井県の容認は得られるか

関西電力が2月13日、福井県内の3原発に貯蔵する使用済み燃料の新たな搬出計画(ロードマップ)を公表した。県外搬出を求める杉本達治知事は2023年10月、同社が提示した旧ロードマップを容認していたが、昨年8月に青森県の六ヶ所再処理工場のしゅん工時期が延期になったことで、見直しを迫られていた。

新ロードマップの最大のポイントは、再処理工場への具体的な搬出量と時期を明示した点だ。

各電力会社からの搬出は28年度に始まる予定だが、関電は30年度までの3年間で同工場での再処理量の約6割に相当する198tの搬出を見込む。自民党のベテラン県議は「カルテル問題などで他電力との関係性が難しい中、よく交渉してくれた」と評価する。また使用済みMOX燃料の研究目的のためのフランス搬出容量枠を従来の200tから400tに増やし、各サイトでの貯蔵量が32年度をピークに減少する見通しをグラフで示した。今後、杉本知事は県議会や自治体の意見を聞いた上で認否を判断する。

本来、県外での中間貯蔵やサイト内での乾式貯蔵は核燃料サイクルの枠外で、サイクル実現までの「つなぎ」の役割に過ぎない。17日の県議会全員協議会では、再処理工場の審査のさらなる延長を懸念する声が与野党から相次いだ。

「国策のアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状況だ」「これまでの審査では次々と新たな論点が出てきて、ゴールポストを動かされていた。しゅん工は他力本願的なのでロードマップの実効性担保には足りていないのでは」─。

現在、原子力規制委と日本原燃はこれまで以上に進ちょく状況を丁寧に管理しながら審査を進めている。「26年度中のしゅん工」に期待するほかない。


NEWS 04:地層処分巡る不適切発言 “バイアス報道”の真相

「話にならない…。政府の責任者として深くおわびを申し上げる」

高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定を巡る不適切発言問題は、石破茂首相が2月3日の衆議院予算委員会で謝罪する事態にまで発展した。

ミスリードの報道は瞬く間に広がった

事の顛末はこうだ。原子力発電環境整備機構(NUMO)が1月23日、東京都中央区で対話型全国説明会を開催。地層処分に関する説明を終えた後、参加者とNUMO職員らが九つのグループに分かれて質疑を行った。問題となったのは報道陣に公開された三つのグループのうち、経済産業省の幹部が参加した質疑だ。最も報道陣に近く、内容が聞こえやすい位置にあった。参加者からの「北方領土に建設してはどうか」との意見に対して、NUMO幹部が「一石三鳥四鳥という趣旨か」、経産省幹部が「魅力的な提案だが実現は難しい」と発言した。

しかし、現場では問題にならず、北海道新聞による第一報は5日後の28日だった。後日、同紙の記者が録音した音声を聞き直して記事化したのだという。

当初マスコミの多くは発言部分について、「一石三鳥四鳥だ」とNUMO幹部が提案に賛同しているかのように報じていた。だが、実際は「一石三鳥四鳥という趣旨ですね」と質問者に確認するための発言だった。多くのメディアが「だ」を訂正したが、原子力報道のバイアスを再認識した一件だった。

ローリーからタンクコンテナに転換 LNGバンカリング需要拡大に期待


【西部ガス】

西部ガスは昨年10月、長崎港小ヶ倉柳埠頭で、福岡造船が建造したLNG燃料船にISO(国際標準化機構)タンクコンテナを使用したTruck to Ship(トラックツーシップ)方式によるバンカリングを実施した。トラックツーシップ方式では、岸壁に着岸した船に、陸側ローリーが燃料のLNGを供給する。

同社は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、天然ガスシフトを大きな柱としており、内航船事業会社「KEYS Bunkering West Japan」への出資やローリーによるバンカリング事業を推進し、船舶燃料のLNG転換に注力している。

トラックツーシップ方式でバンカリング作業中


メリット多いコンテナ式 地域経済発展にも期待

トラックツーシップ方式は既存のLNGローリーを利用できるため、初期投資が少なく導入しやすい。ただ、都市ガス需要の高まる冬場にローリーの配車が殺到するため、その確保が課題だった。そこでローリーの代用としてISOタンクコンテナを使用した。

大きなメリットは、積載量が30%向上するため輸送回数が減少することだ。さらに、保冷性に優れLNGを長期保管できる。マイナス162℃をキープするにはローリーでは7日間が限界だったが、タンクコンテナでは60日間可能だ。加えて、タンクコンテナを切り離して運用できるため、運転手の拘束時間の削減にもつながる。運転手の残業時間規制問題、いわゆる「2024年問題」にも対応できる。

船舶燃料の大転換期を迎える中、50年時点でLNGの同燃料用途別シェアは35%と予測されている。また、28年にかけてLNG燃料船は約1000隻が就航の見込みだ。船の寿命が20年前後であることを考慮すれば、50年までは修繕船を含めLNG燃料船へのバンカリングの需要増が想定される。さらに、今後は貨物船のほか、フェリーや大型客船などにもLNG燃料が使われると考えられている。

課題はLNGを補給できる場所が限られていることだ。今後、柔軟に燃料補給ができる体制を確立していくことが望まれる。

同社は今回、福岡の造船会社の船に長崎の港でバンカリングを実施したが、これには営業的な意味がある。北部九州でLNGバンカリングが可能になることで、地元の造船会社の受注増と周辺地域の需要の取り込みにつながる。同社では、LNGバンカリングがLNG燃料船の定期航路や寄港の誘致にもつながる可能性があり、そうなることで地域経済の発展に貢献できると見込んでいる。LNG燃料船へのバンカリングが地域へもたらす恩恵に、多くの期待が寄せられている。

電力需要増に拍車かけるAI 省エネ・再エネの拡大に生かせ


【論説室の窓】西尾邦明/朝日新聞 論説委員

AI普及は電力消費量の増加につながる半面、脱炭素電源に革新をもたらす。

日本はそのプラス面に注目し、再エネ利用の高度化などにつなげるべきだ。

「生成AIが電力を爆食い」「AIで需要激増、電力不足に」―。この1年ほど、こんな見出しが実際に大手メディアを賑わした。このことへの違和感は後ほど詳述するが、生成AIが大量のエネルギーを必要とするのは確かだ。日本にもその波が押し寄せつつある。

電力広域的運営推進機関が1月に示した見通しによると、2034年度の電力需要は8524億kW時に達する見込みで、24年度と比べて465億kW時増える。データセンターが440億kW時、半導体工場が73億kW時それぞれ増加するという。日本の電力需要は、11年の東京電力福島第一原発事故以降、省エネと節電が進んで減少傾向にあったので、転換点と言える。供給力の確保が重要であることは言うまでもない。

一方、全体の電力需要から見ると、増加量は約5%にとどまり、年間の平均増加率は0・5%ほどと緩やかである。

電力不足をあおるような報道は行きすぎと感じる。同時に、過渡期には原発が必要との立場から見ても、昨年の第7次エネルギー基本計画の議論で、AIによる電力需要増を「局面変化」として強調し、原発の「最大限活用」の理由のように語られたことには違和感を覚えた。

AIの導入が進む再エネ分野


前回もデジタル化を加味 優先順位見極め支援を

そもそも、長期的な電力需要の見通しは、同じ研究機関でもかなり幅がある。第7次エネ基では、40年度の需要を9000億~1兆2000億kW時と見積もっており、横ばいの可能性もあれば、最大1・2倍増える場合もある。増える可能性がある以上はその備えを考えるべきだが、指摘したいのは、この増加見通しは21年の第6次エネ基の議論からの「局面変化」ではないということだ。

経済産業省が当時まとめた五つの研究機関の50年のシナリオ分析によると、その需要は地球環境産業技術研究機構(RITE)が1・4兆kW時弱、日本エネルギー経済研究所が標準ケースで1・3兆kW時、自然エネルギー財団も1・47兆kW時などと、いずれも増加を見込んでいる。40年の1・2兆kW時はその経路内だ。

これは、3年前にすでにデジタル化の進展が一部織り込まれていたほか、電気自動車を含む輸送や産業部門でも電化が進むと考えられていたためである。

第7次エネ基の前提となるRITEの資料でも、40年までの需要増に占めるデジタル分野の寄与は3割ほどであり、電化の影響が大きいことが分かる。

いずれにせよ、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機の時と同じように、AI普及で電力需要が増加するので「原発の最大限活用が必要だ」というフレームが繰り返された。

【覆面ホンネ座談会】同盟国揺さぶるトラリスク 日本は巧妙に立ち回れるか


テーマ:トランプ2.0と国際エネルギー情勢

トランプ大統領が公約通り、矢継ぎ早に政策変更を断行している。前政権の多数の施策がひっくり返され、連発される関税の影響も気になるところ。

米国内、国際エネルギー情勢、そして日本への影響を徹底討論した。

〈出席者〉 A石油アナリスト   Bシンクタンク関係者   C産業界関係者

―トランプ氏が就任初日に署名した大統領令は40超で、エネルギーに関する内容も多い。

A 国家エネルギー非常事態宣言は、不法移民問題と並び、エネルギー問題を最重視することの表れだ。トランプ氏の言動は衝動的で揺れが激しく、むしろ同盟国が振り回されている。ただ重要なのは、トランプ政権の政策がどこに向かい、どんな時代認識なのかを見極めることだ。今の米国は自国の安全保障や国力強化を最優先に据え、温暖化問題は自国解決能力を超えているというのがトランプ政権の考え。そしてなりふり構わない安保の中心が国産化石燃料の増産政策となる。

政策の規模や継続性を決める要素として注目しているのが、カリフォルニア州の自主的な裁量権の行方だ。トランプ氏は司法判断によりこれを奪おうとし、そうなればカリフォルニアが脱炭素をリードするパターンが終わる。トランプvsカリフォルニアの戦いだ。

B 実際の政策は、事前評価と概ね一致。中でもLNGのポーズ(自由貿易協定非締結国への輸出承認一時停止)を巡り、審査の再開は日本にとってプラスだ。一方、長期的な視点ではIRA(インフレ抑制法)での支出を見直す可能性があり、日本への影響を注視する必要がある。やはり日本としては米国の脱炭素政策への期待があり、転換する場合はGX(グリーントランスフォーメーション)など各方面に影響する。今回実感されたが、4年ごとに米国の政策が大転換することは大きなリスクとなる。日本がこれまでリスクとして意識していた中東のエネルギー情勢はむしろ若干安定感さえ見せる中、米国の政策転換はそれ以上のリスクとなっている。

日本はトランプリスクに翻弄されずに進めるのか


前政権から180度方針転換 化石燃料回帰の効果に疑問符

C ソ連崩壊後はグローバル化、そして国連リベラリズムが広がったが、今や大国を巻き込んだ紛争が勃発。この歴史的転換点で再び表舞台に立つトランプ氏は、トリックスターか、あるいはビジョナリーかもしれない。19世紀末にカリフォルニアで石油を掘り当てたことを起点に、20世紀は米国の世紀となった。2018年には世界最大の石油生産国に、23年には最大のLNG輸出国となっている。中国はネットでは化石燃料輸入国で、持つ国と持たざる国の対立へ向かう方が米国としては望ましい。そして資源大国の力を生かし、グローバリズムへのくさびとして、国連との距離の置き方を鮮明にしている。富の再分配であるパリ協定では、COP29で合意した新たな資金支援目標に米国は全くくみしない。

4年後の政権交代の可能性は無論あるが、今回の民主党の負け方を見ると、返り咲けるか分からなくなってきた。現政権が成果を出せば民主党は難しい立場になるだろう。

【イニシャルニュース 】官民の水素事業頓挫か 普及戦略の練り直しも


官民の水素事業頓挫か 普及戦略の練り直しも

国際連携を通じて水素を普及させる象徴的な官民プロジェクトが事実上頓挫したもようだ。そもそも脱炭素に貢献しないという指摘のほかに、実証事業の開始早々に大型船の火災事故を起こしたり、豪州側が補助金の打ち切りを示唆したりといわくつきの事業ではあった。だが水素社会の早期実現を目指す日本にとって、この大型事業は頼みの綱であり、今後の水素普及戦略の練り直しを余儀なくされることになりそうだ。

暗雲が漂い始めた水素事業

プロジェクトは日本政府やオーストラリア連邦政府、州政府が補助金を出し、日本の大手重工業のⅩ社など7社で構成する事業組合と豪州企業が褐炭から作った水素を液化して日本に輸入する計画だった。

しかしプロジェクトを主導してきたⅩ社が唐突に、昨年9月の経済産業省の審議会で事業計画の大幅縮小を資料で示した。豪州からの水素輸入を取りやめ、国内調達にして目玉だった大型船輸送をやめて小型船輸送に切り替えたのだ。他の事業関係者には寝耳に水で「X社の独善が酷すぎる」(事業参画のA社)と混乱を極めた。一部では、豪州側が水素生産のための工事の許認可が遅れ、2030年度としていた実証事業の終了に間に合わなくなるというスケジュール問題だとの説が流布された。

だが実のところ、スケジュールの問題ではなく事業の肝である液化する技術が採算に合わないというのが事業縮小の理由とみられる。ある大手エネルギー企業の関係者は「水素の液化はマイナス253度と、LNGに比べても大幅に低い。これを安価でというのはそもそも無理」と指摘する。

Ⅹ社を始め、日豪両政府も他社も公式には事業頓挫の事実を公表していない。あたかもプロジェクトが順調に進んでいるかのような振る舞いを続けている。

この大型プロジェクトが頓挫したことに加え、最近では国内外の企業が相次いで水素プロジェクトから離脱する事態に見舞われている。「水素推し」をしていた日本政府も、随分とトーンダウンしてきた。大手エネルギー企業の幹部が以前口にした「これからは水素墓碑が並ぶ」可能性が、現実味を増してきた。


新潟の原子力住民投票 立憲はなぜ動かない?

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を巡る住民同意で動きがあった。市民団体が2月初旬時点で約15万筆の署名を集め、県に提出する意向だ。しかし状況に影響を与えそうな立憲民主党の国会議員団の動きが鈍い。なぜなのか。

新潟県の世論調査では、再稼働を巡る賛成反対がほぼ拮抗。花角英世知事は再稼働容認とみられるが、この民意を見て、先送りをしているもようだ。ところが、この陳情で状況が動く可能性が出てきた。選挙管理委員会の署名が適正かを審査した後で、県が知事の意見をつけた上で県議会に条例案を提出することになる。

ここで問題になるのが、新潟県の政治状況だ。県議会は自民党系が多数派。そのために条例案は審議されても否決の公算が大きい。しかし昨年10月の衆議院選挙では、いわゆる「裏金問題」に巻き込まれた議員が多かったため五つの小選挙区で自民党系が全敗した。そして全てで立憲民主党所属議員が勝った。

立憲では、党の主要な役職などを占めたN議員が県連代表だ。しかし頭の良さと政策立案力で、Y議員が議員の中で目立つ状況という。市民団体と組んでこの住民投票を衆院選挙の政治論点にしたのもY氏のようだ。選挙の際にY氏はそれを強く主張した。

ところがY氏は最近、住民投票問題を積極的に発言していない。「Yさんはスキャンダルで知事を辞職したので、失敗に慎重になっているようだ。今は情勢が見通せないし、本音は原子力活用派なので、様子を見ているのだろう」(自民党筋)との見方だ。

彼は連日SNSのXで論争し、自分のPRを大量に書き込んでいる。それに変化が見られたら要注意だ。

フレイル検知のAI開発 自治体向けにサービス提供


【中部電力】

中部電力は電力使用実績データを活用し自治体にフレイル検知サービスを提供している。

全国自治体で導入数が伸びる中、エネルギーの枠を超えた新しい価値提供を目指す。

中部電力は2023年4月に電力使用実績データ(電力データ)とAIを活用した国内初となる自治体向けフレイル検知サービス「eフレイルナビ」の提供を開始した。具体的には、電気使用量から得られた情報をもとにAIが個人のフレイルリスクを検知し、その結果を自治体に提供し、自治体はフレイルの可能性がある人に支援をする。

フレイルとは、加齢により心身が衰え、要介護に陥るリスクが高まった状態のことを指す。14年、日本老年医学会により「虚弱」に代わる学術用語として提唱された比較的新しい単語だ。東京都健康長寿医療センターが20年に実施した、日本全国の65歳以上2206人を対象とした初のフレイル調査では、8・7%がフレイルと発表された。フレイルの代表的な五つの症状は、①体重減少②筋力低下③疲労感④歩行速度低下⑤身体活動性低下―で、早期に適切な対策を講じることで元の健康な状態に回復できる可能性があるという。

24年の日本の高齢化率は29・3%で、世界第1位。医療費や介護給付金が増え続けていることが社会全体の課題となっている。各地方自治体では、限られたマンパワーで効率的かつ早期にフレイルを発見し、適切に介入することが求められている。

フレイルリスク判定の仕組み


電気使用量の変動に着目 実証実験で成果を確認

同社は、20年に三重県東員町で電力データからフレイルを検知するAIの開発実証を進め、22年には長野県松本市でフレイル検知サービスの実証実験を行った。これにより、フレイルリスクの高い人を早期に発見することができ、自治体の介護予防事業における有効性も確認できたことから、23年4月に自治体向けフレイル検知サービスの提供を三重県東員町と長野県松本市の2自治体で開始した。

フレイル検知AIの開発実証では、JDSC、ネコリコとの共働により、電力スマートメーターから収集できる各月の電力データを分析するAIを開発した。健康な人は、外出や家事により電気の使い方にメリハリがある。それに対しフレイルの人は、家に閉じこもりがちで活動量が少ないため、電気の使用量の変動も乏しいという傾向がある。AIの開発では、健康状態と、電気の使用データから、外出時間や外出回数、起床時間や就寝時間、一日の活動量の最大時間と最小時間など複数の特徴量を抽出して、フレイルの人と健康な人のそれぞれの生活パターンをAIが大量に学習した。

実証実験では、フレイルリスクがあると判定された人に自治体職員が声掛けすることで、大きな改善が見られた。

長野県松本市で行われた実証実験では、93人中フレイルリスクが高いと判定されたのは31人。そのうち87%に当たる27人が健康を回復した。また、三重県東員町においては、フレイル対象者11人のうち73%にあたる8人が健康を回復した。

この実証では、高齢者自身が自主的に予防・改善を始めていることを確認し、客観的な分析結果と専門職による働きかけにより、本人の自覚や行動変容を促すことに成功した。


全国で導入自治体が増加 新たな価値提供へ挑戦

23年度は、前年度実証に参加した松本市、東員町の他、三重県鳥羽市が同サービスを導入した。24年度からは、これら3自治体に加え、中部エリア外を含む10自治体が加わり合計13自治体で採用されている。25年度も、複数の自治体で新たに採用される予定だ。中部地区に限定せず、全国の自治体を対象にこれからも導入拡大を目指して活動していくという。

サービス提供開始で明らかになったのは、フレイル予備軍はいわゆる「通いの場」に参加していない人が多いということだ。

「通いの場」とは、地域の高齢者が他者と一緒にさまざまな活動を通じ、介護予防やフレイル予防に資する活動を行う機会のことだ。厚生労働省は高齢者に月1回以上の「通いの場」に参加することを推奨している。eフレイルナビのサービス開始により、社会参加に積極的ではない高齢者に対して、継続的な接点を持てるようになったことが大きな成果だという。

事業創造本部ヘルシーエイジングユニットの山本卓明ユニット長は「今後は電力データだけでなく、医療データなども活用できれば、さらにきめ細かなサービス提供が可能になる」と話す。また、現在は1人暮らしの高齢者をサービス提供の対象者としているが、今後はより多くの高齢者を包含するようなサービスの在り方も考えていきたいという。

同社は経営ビジョンの達成に向けて、足元の基盤領域での安定した利益獲得に加え、成長分野への積極的投資により「新たな価値の提供」「利益創出」の実現を目指している。

これからも地域社会が求める新たな価値を提供するために、ビジネスモデルの変革にも果敢に挑戦し、エネルギー分野だけにとどまらず、社会課題の解決や地域社会のニーズに応えるサービスの提供を進めていく考えだ。既存の枠にとらわれず歩みを進める中部電力の進化に目が離せない。

三菱商事が522億円減損 洋上風力事業の厳しさ露呈


洋上風力公募ラウンド1(R1)の衝撃から3有余年。また新たな衝撃が業界に走った。三菱商事は2月6日に第3四半期決算を公表し、国内洋上風力発電事業で522億円もの減損損失を計上すると明らかにした。R1の3海域の事業性を再評価した上で、今後の方針を決定するという。このコンソーシアムにグループ企業のシーテックが加わる中部電力も3日、洋上風力関連で179億円の損失を計上している。

事業をけん引してきた商事の中西勝也社長はどう判断するのか(写真は23年11月の記者会見)
提供:朝日新聞社

公募の落札事業者は、いずれも当初の想定から大きく膨らむコストに頭を悩ませており、特に商事はR1特有の事情で追い込まれていた。R2以降はFIP(市場連動買い取り)で、収益の大半をPPA(電力販売契約)で確保するモデルであるのに対し、R1はFIT(固定価格買い取り)であり買い取り価格に大きく依存。商事にとってはFIP転が状況を打破する糸口となり得たが、公募のルール上変更に当たる可能性が高い。

他方、政府は新たに価格調整スキームを導入。保証金の上乗せ納付と、運開遅延に伴う没収を受け入れれば、R3までの事業者にも適用される。だが、業界関係者は「商事は2023年末までに約225億円の保証金を納付済みのはずだが、今回の措置を受け入れる場合、追加で約190億円を納付する必要がある。その上、3海域の運開が1日でも遅れると保証金は段階的に没収され、それでも各海域のFIT買取価格は1kW時当たり約3・3~4・5円の上乗せにしかならない」と説明する。

退路が経たれつつある商事陣営の決断やいかに――。

エネ大手3社がトップ交代 手堅い人選で難局突破を目指す


東北電力、東邦ガス、出光興産というエネルギー大手3社がそろってトップ交代を決め、4月1日付で次期社長が就任する。ウクライナ有事や第2次トランプ政権などを変動要因にエネ情勢の不透明感が増す中、変化を見極め安定供給の使命も担う難局が続いている。それだけに各社とも、要職で経営の素地を磨いた実力派にかじ取りを託す手堅い人選となった。

握手を交わす東北電力の樋口社長(右)と石山次期社長(1月31日)
提供:時事通信フォト

紆余曲折を経ながらも昨年12月に女川原発2号機が13年ぶりに営業運転を再開した東北電力は、樋口康二郎社長から石山一弘副社長にバトンが渡る。経営戦略の立案など企画部門を中心に歩んできた石山氏は社内の信頼も厚く、従前から社長候補の最右翼とされてきた。石山体制下では、東通原発1号機や女川3号機の再稼働にどう道筋を付けられるかが焦点だ。

中部電力とのカルテル問題の影響が人事に影響するのではないかと目されていた東邦ガスも順当な人事で、財務部長や企画部長などを歴任した山碕聡志取締役専務の昇格を決めた。カーボンニュートラル(CN)化を進めつつ、いかに新規事業を伸ばし脱炭素時代の経営の礎を築けるか、その手腕に期待が寄せられている。

CN社会を視野に経営体制の強化を目指す出光興産は、製油所から人事や経理まで幅広い部門で経験を積む酒井則明副社長を後継者に。社長交代は7年ぶりだ。木藤俊一社長は、成長事業と既存燃料の安定供給を両立させる「優れたバランス感覚を持つ」と太鼓判を押す。

激動の時代を勝ち抜く戦略をどう描くのか。力量が問われる。