【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト
安全保障に関して米国が欧州に対して長年抱く不満が、ついに限界を迎えた。
米欧の不協和音が鳴り響く今、核と同盟の再構築を巡る舞台裏に迫る。
第二次トランプ政権が1月に発足して以後、米欧関係がギクシャクしている。脅威の対象を中国とみる米国と、ロシアとみる欧州の違いに加え、米国への「安保ただ乗り」が、限界を迎えたことも重なった。米国への不信を募らせる欧州は、英仏を中心とする欧州独自の「核の傘」を模索する。核を巡る世界地図が一気に変わり、その影響はアジアにも及ぶのか……。

出所:ホワイトハウスのX
中国の脅威を優先 本気の欧州嫌い
米欧の不協和音が表面化したのは、トランプ政権発足直後の2月だった。
2月12日にブリュッセルであった北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合に出席したヘグセス米国防長官は、国防費を国内総生産(GDP)の5%に増やすよう加盟国に求めた。さらに、「米国は中国の脅威への対処を最優先させる」と述べ、欧州の安全保障は、欧州自身が先頭に立って対処するよう促す。
その2日後、ドイツ南部のミュンヘンであった安全保障会議で、今度はバンス副大統領が型破りな欧州批判を展開する。
バンス氏は、欧州各国の政権が移民政策やLGBT問題などに寛容な姿勢を示し、それに反対の声を上げる反体制派の言論や行動を封圧していると批判した。「私が最も懸念している脅威はロシアでも中国でもない。(欧州)内部からの敵だ」と述べるなど、欧州を敵視するかのような発言を繰り返した。さらに、トランプ政権は欧州諸国とは価値観を「共有していない」とまで言い放った。バンス氏はドイツ滞在中、移民反対など排外主義的な主張を続ける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル共同党首との会談に臨んだ。一方で、ショルツ(当時)首相とは会わず、演説内容を行動で示した。
トランプ政権の「欧州嫌い」はポーズではなく、本気だと世界に知らしめる事件が翌月に起きる。
中東イエメンのイスラム武装組織「フーシ派」が、紅海を航行する船舶への攻撃を続けることに業を煮やした米国は、3月15日にフーシ派への空爆に踏み切った。その際の非公開のやりとりが、米誌に暴露された。
「また欧州を救うことになることが気に入らない」。口火を切ったのはバンス氏だ。米国船が紅海を利用するシェアは3%にとどまるが、欧州は4割に達する。米国の税金を使ったフーシ派攻撃が成功を収めれば、最も恩恵を受けるのが欧州になる。それが不満だと訴える。ヘグセス氏は「欧州のただ乗りを嫌悪するあなたの気持ちはよくわかる」と同調、ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当=当時)は、攻撃費用を「欧州に請求する」と息巻いた。
