〈業界人編〉電力・石油・ガス
日常生活を脅かした大惨事は、国民にインフラ老朽化の危機を知らしめた。
─埼玉県八潮市の道路陥没事故には驚いた。
電気 最初の陥没で生まれた穴が、どんどん大きくなっていった。ビジュアルがあまりに衝撃的で、テレビが流し続けていたのが印象的だ。
ガス ガスや上水道で不具合が生じれば、顧客に迷惑をかけるとはいえ、バルブを閉めて供給を停止できる。ただ下水道は止められないから、どんどん被害が拡大してしまう。恐ろしい。
石油 テレビで見ていると分からないが、現場は臭いがひどかったはずだ。完全復旧には5年かかるというから先が思いやられる。
─インフラの老朽化はエネルギー業界が抱える問題だ。
石油 1970~80年代の高度経済成長期に一気にインフラが整備されて、耐用年数を超える水道管は多いと聞く。地下に配電線を敷設している地域があるし、電気ガス水道がまとめて寸断されるという事態も起こりかねない。
ガス 都市ガスは計画的にガス管の更新を進めている。ただマンションのガス管となれば話は違う。顧客の資産なので管理組合費などで入れ替えることになるが、理解のある自治会ばかりではないのでトラブルになることもある。ガス会社としては「替えてくださいね」と言い続けるしかない。
電気 送電線の鉄塔は200年持つことになっていて、150年目くらいから更新が始まるらしい。今の社員は誰も生きていない。人手不足の中で大丈夫だろうか……。
石油 いずれにせよ、今回の事故で国民は危機意識を持ったはずだ。水道料金値上げなどへの理解が高まるといい。
付臭義務がない水素 エネルギー需要増の不思議
ガス 臭いで思い出したが、水素は付臭義務がなくて大丈夫か。検知器を付けたとしても、音が鳴るだけでガス臭のような効果が得られるのか。東京ガスが東京都中央区の晴海地区で行っているプロジェクトでは付臭しているようだが。
石油 水素社会に向けた課題は山積している。経済産業省のガス安全小委員会で話題になっているが、水素は導管に入るまでは高圧ガス保安法、導管に流した後はガス事業法、エネファームなどの消費機器で使えば電気事業法と領域区分が変わる。補助金を出して実証実験を行っている以上、しっかりと整備しないといけない。
─電化の流れだが、ガスの需要は減っていくのか。
ガス ある大手都市ガスの販売量は微増らしい。要因は複合的だが、基本的には大口需要に左右される。だから石炭や石油を使っている工場のLNGへの燃料転換に期待だ。3割を占める家庭用は高気密・高断熱住宅が増えればガス使用量は下がる傾向にある。電気はどうか。
電力 オール電化の影響で増えているが、核家族化による世帯増というファクターも無視できない。近年は人口減少下でも家庭用の電力使用量は増え続けた。祖父母と住んでいればお風呂を沸かすのは1回だったが、2回に増えるわけだからね。LPガスは厳しいだろう。
石油 この30年で、工業用を中心に消費量は3割ほど減った。家庭用もオール電化に奪われやすい。
アラスカLNGのリスク どうする洋上風力
─商慣行問題が消費者離れに拍車をかけるのでは。
石油 不動産業者としては、LPガス事業者が無料でエアコンやWi―Fiを設置してくれるのはありがたい。でも、その費用はガス料金として消費者に転嫁される。長年続いてきた商慣行をすぐに正常化させるのは難しいが、改めなければ顧客が減るだけだ。
─日本勢は米アラスカ州のLNG開発に参画するのだろうか。
石油 足元のLNG需給はタイトではないが、中長期的には権益を持っておいた方がいいという声がある。
ガス そうは言っても、これまでオイルメジャーが投資してこなかったのには相応の理由がある。永久凍土にパイプラインを敷設するなどコストは計り知れず、事業採算性がないからだ。本気で乗るのだろうか。
電力 北極海航路の利用には、ロシアの許可が必要になる。三井物産が出向者を引き上げたロシアのアークティックLNG2のようにならないといいが。
─三菱商事が国内3海域の洋上風力発電のプロジェクトで522億円の減損損失を計上した。
ガス 破格の価格で落札して値崩れを起こしておいて、同情票は集まらないだろう。あれだけ多くの海域を取って500億円の減損で済むのか。
石油 国が全面的に保護しなければ、下手したら商事が潰れかねない。でも潰すわけにはいかないので、補助金などいろいろな制度的措置が取られるのだろうね。
ガス 洋上風力オンリーの脱炭素電源オークションみたいな制度になるのだろうか。
電力 みんなで「やーめた」と言って撤退するのが合理的な判断だ(笑)。
ガス どの海域も最終投資決定はしておらず、風車メーカーや海運企業との契約は行っていない。赤字が見込まれるプロジェクトに投資決定するのは、企業判断としてあり得ない。株主代表訴訟に発展してしまう。全プロジェクトがこける可能性すらあり、エネルギー基本計画の実現どころではなくなる。
──凄まじい逆風が吹き荒れている。