【小林一大 参議院議員】県議会の意見集約がベター


こばやし・かずひろ 1997年東京大学経済学部卒業。大手損害保険会社勤務を経て、2007年の新潟県議会議員選挙で最年少でトップ当選。4期務めた後、22年に参議院議員選挙で初当選(新潟選挙区)を果たす。24年11月第二次石破茂政権で防衛大臣政務官に就任。

新潟県選出の参議院議員として柏崎刈羽原発の必要性を認め、再稼働を容認する。

県民投票条例を求める署名提出などで県内が揺れる現状をどう見ているのか。

新潟県議会議員を4期務めた後、2022年の参議院選挙で初当選した。石破茂政権では防衛大臣政務官を務め、日本の安全を守るために汗を流す日々を送る。

地元の新潟県は、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の再稼働を巡って揺れている。23年12月に原子力規制委員会が核燃料の移動禁止措置を解除。昨年3月には当時の斎藤健経済産業相が、新潟県と立地市村に再稼働の理解を求めた。柏崎市と刈羽村は容認しているが、県の同意は得られていない。

「安全性が確認された以上、再稼働の判断に時間をかけるべきではない。早期に再稼働させ、新潟県が国の電力需給に貢献している姿を示すべきだ」。こう主張する一方で、これまでの経緯から判断に慎重になる知事や県議には理解を示す。自民党は16年の県知事選で全国市町村会会長などを務めた実力者である森民夫長岡市長(当時)を擁立。しかし、野党統一候補の米山隆一氏に敗れた苦い記憶がある。

花角英世知事は初当選した18年の知事選で、再稼働は自らが是非を示した上で「県民の信を問う」との公約を掲げた。その手法としては、①知事選、②県議会の意見集約、③県民投票─の三つの可能性が挙がる。③については、3月下旬に市民団体が県民投票条例の制定を求める直接請求を行う見通しだ。その場合、4月中旬に県議会の臨時会が開かれる見込みとなっている。

12年にも同様の請求が行われたが、当時の臨時会では自民党県議として質問に立ち、こう訴えた。「国策であるエネルギー政策は国の責任で行うもので、県民投票には馴染まない。県の技術委員会などの知見を踏まえて政治的に判断することが、県と議会の責任だ」。この考えは今も変わらない。新潟県は面積が広く、原発から遠く離れた市町村も存在する。県民の考え方も多様で、二者択一では拾い切れない。

エネルギー業界の人材獲得戦略 キャリア・新卒採用の秘訣は


【多事争論】話題:エネルギー企業の人材確保

他業種同様、エネルギー業界も優秀な人材獲得に頭を悩ませる時代である。

キャリア採用やリスキリング、そして新卒採用でどんな視点が求められるのか。


〈 ニーズ拡大し続けるGX人材 「脱・脱炭素」でも競争激化 〉

視点A:出馬弘昭/グリーンタレントハブ シニアアドバイザー

エネルギー業界でGX・DX人材の拡充は急務だ。まず、GX人材の拡充は、①社内化石燃料人材のリスキリング、②企業買収、③キャリア採用―などがある。欧米では国を超えて人材の獲得競争が始まっており、先進事例を紹介する。

①では、英British Gasがガスボイラーのエンジニアを、EV充電設備やヒートポンプのエンジニアにリスキリングする。また英National Gridはガス土木から地中熱ヒートポンプのエンジニアにリスキリング。石油ガス掘削から地熱エンジニアへのリスキリングも進む。②では、英蘭Shellが蓄電池製造の独Sonnenを買収し蓄電池人材を、米石油OccidentalはDAC(直接空気回収)のカナダCarbon Engineeringを買収しCO2回収人材を獲得した。仏電力Engie、伊電力Enel、英石油BPはEV充電器製造の蘭EVBox、米eMotorWerks、英ChargeMasterをそれぞれ買収しEX充電事業を多国展開する。電力会社のヒートポンプやPVパネル製造業の買収も進む。③としては、National Gridがニューヨーク州やビル省エネの米BlocPowerと提携し、地域住民向けにヒートポンプ技術者養成プログラムを提供しキャリア採用する。

DX人材の増強でもGX同様、①、②、③の取り組みが進む。

①では、米電力Exelonが「Analytics Company」を目指し「Exelon Utility Analytics Academy」を開講。全社員に分析文化を根付かせ内製開発を拡大し、デジタルリスキリングを推進する。②では、Enelがデマンドレスポンスの米EnerNocを買収しEnel Xとした。

同社は蓄電池制御の米Demand Energy Networksやデジタル決済の伊PayTipperなどを次々と買収し、3000人超のDX人材を確保し内製開発とデジタル事業を展開。独E.ONも独デジタル企業のenvelio とgridXを買収した。③では、米電力Duke Energyが「Data Driven Company」を目指し「Duke Energy Innovation Center」を開設。400人体制で、常時80の内製開発プロジェクトを進める。DX人材の多くはキャリア採用だ。全社でデータアナリストを約100人キャリア採用し、うち30人が同センターに在籍する。

他方、日本では情報システム部門をDX部門と改名しさまざまな取り組みが進むが、GX人材の獲得は黎明期だ。


日本でも徐々に取り組み加速 海外の人材獲得のチャンスも

新しい動きとしては2023年、日本初のGX人材に特化した採用・育成事業のグリーンタレントハブが設立された。当社へのGX人材のニーズは主に三つ。第一はディープテックの事業開発職で主に商社やコンサルティング出身者が求められる。第二は再生可能エネルギーやカーボンニュートラル(CN)関連の専門職で、コンサルティングやサステナビリティ推進部門の需要が高い。第三は電気エンジニアで再エネ発電・EPC事業者の需要がある。

報酬面では、エネルギー・インフラ業界の平均年収は670万円だが、グリーン企業では900万~1000万円と、伝統的電力会社を上回るケースも出てきた。当社経由の転職者は10~30%の年収アップを実現することが多い。当社はGX人材の専門家80人超と対談する「脱炭素キャリアチャンネル」を運営しており、是非ご覧いただきたい。

また昨年、GX人材の拡大に向けた「グリーン人材開発協議会」が発足した。今年3月14日に開かれたセミナーの概要を紹介する。

同協議会代表の橘川武郎・国際大学学長は第7次エネルギー基本計画によるGX人材への影響を述べた。今回初のリスクシナリオは現実的でCN後退と言えるが、国はCNの旗は下ろしていないため複雑度が増した。よって、より多様なGX人材ニーズが高まり、大企業だけでなく中小企業、NGO・NPO、自治体など幅広い領域で必要になる。

この他、経済産業省のGX政策と、GX推進企業調査レポートの中から4社(三菱重工、デンソー、グリーンカーボンなど)の事例を紹介。パネルディスカッションではNTTグリーン&フード、リクルートなどが社内からの獲得・育成、企業買収・協業、キャリア採用の秘訣や課題を議論した。同協議会への入会は無料。slackで最新情報を発信している。

欧米では脱・脱炭素の動きもあるが、世界が50年CNを志向する限り、日本でもGX人材の獲得競争は激化するであろう。欧米の脱炭素分野のスタートアップやベンチャーキャピタルが日本に注目しており、海外の人材獲得のチャンスでもある。日本もグローバルな視点でGX人材獲得に動く時が来ている。

いずま・ひろあき 1983年大阪ガス入社。2018年東京ガス入社、シリコンバレーでCVC立上げに参画。現在、東北電力アドバイザー、大阪大学フォーサイト取締役、エクサウィザーズ顧問、インベストメントLabシニアアドバイザーなどを兼務。

【コラム/4月25日】トランプ相互関税を考える~試される企業の適応力、国民・政府は慌てずに


飯倉 穣/エコノミスト

1、トランプショック

日本経済は、24年横ばいで推移した(GDP前年比実質0.1%増、名目3%増)。今年も春闘で物価上昇を上回る賃上げコールがあった。実際一部5%超えもあったようである。経済論的に勘違いながら上向き期待の声も響いた。そこにトランプショックである。

報道は伝えた。「トランプ氏発表 一律10%に上乗せ 米相互関税 日本24% 輸入品に国別税率 自動車関税25%も発動」(朝日25年4月4日)、「トランプ相互関税 日本24% 想定上回る 崩れる自由貿易 戦後秩序の転機に 車25%関税発動」(日経同日)。

米国政府は、4月5日すべての国・地域からの輸入品に一律10%関税の実施を始めた。9日に高関税率適用直後、高関税90日間一時延期(自動車関税25%は継続)となる。朝令暮改に困惑と安堵が交錯する。

政府は、「国難」一致団結で訴える。関税対策で、与野党党首会談もあった(4日)。首相が米国と電話協議した(7日)。当面対応の試行錯誤の継続となろう。米国の関税発動は、日本経済にどんな影響を与え、経済の各主体はどのように行動すべきだろうか。過去の経験も踏まえ、今後の経済の動向と対応を考える。


2、トランプ相互関税の理屈と内容

相互関税による輸入規制に関する大統領令(4月2日)が発出された。その趣旨は、貿易赤字の継続は、米国の国家安全保障と経済に関する脅威で、且つ製造基盤の空洞化を招来している。世界の製造業生産高比米国製造業生産高は17.4%(2001年28.4%)に落ち、この四半世紀で製造業の雇用は約500万人減少。ただGDP比製造業シェア11%ながら米国全体の生産性伸びの35%、輸出の60%を占める。この製造業の低下傾向の逆転こそが、米国競争力の未来を決める。

他国は、米国と比べ高関税を課し、また非関税障壁で米国の製造業者の市場アクセスを阻害している。加えて通貨慣行(通貨安)や付加価値税等の政策で国内消費を抑制し米国輸出を押し下げている。この非対称性が、米国の貿易赤字を増加させている。

つまり貿易不均衡は、国内製造業の拡大機会を減じ、雇用喪失、製造能力減少、防衛関連産業基盤の委縮を招いている。国防的に、工業能力の損失は、軍事的即応性を損なう面もある。故に米国の経済的地位強化の努力が必要である。そのため相互関税政策を採用する。輸入品に従価税10%に加えて特定国に対し追加関税を課すと述べた。かつて国益一致と標榜していた自由貿易の先導者が、自己都合で互恵的な自由貿易を捨て去る宣言だった。

日本は非関税障壁込みで対米国関税率は46%と計算された。その計算式は、凡そ財に関する貿易相手国の対米黒字額/貿易相手国の対米輸出額である。日本に対する相互関税は、その約半分24%になった。他国は、様々である。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年4月号)


JKM価格の決まり方/水素の種類

Q JKM価格はどのように決まっているのでしょうか。

A JKM価格は、S&P Global Commodity Insightsの部門であるPlattsが毎日発表する、アジアLNG価格の指標です。これは、実際の取引価格に焦点を当て市場データを取り込むマーケット・オン・クローズ(MOC)というプロセスに基づいて決定されます。 JKMの決定は、およそ1カ月から2カ月後に日本、韓国、台湾、中国に到着するLNGの確認できたスポット市場取引に基づいています。価格は、揚げ地までLNGを輸送する際に関連するすべてのコストを反映するDelivered Ex Ship(DES)ベースで評価されます。

MOCプロセスは、PlattsがLNGを含むさまざまな商品の価格を評価するために使用しており、その日の市場が閉じた時の価格を反映しています。 市場参加者は、Platts Editorial Windowと呼ばれる電子プラットフォームを通じて買い注文、売り注文を送信し取引します。これらの送信はリアルタイムで表示され、市場が閉まる日本時間の午後5時30分まで表示されます。 市場が閉じた後、Plattsの編集者は、送信された買い注文、売り注文、成約を含むデータを見直します。編集者はこの情報を分析して、市場の終値を反映する価格評価を決定します。最終的な価格評価は、透明性の高いMOCプロセスのデータを優先的に用いて決定します。 このMOCプロセスは、公正で透明な市場価格を確立するために重要な役割を果たしており、世界中の市場参加者にとって信頼される情報源となっています。昨年のMOCは記録的に活発となり、取引量は前年の50%以上を上回る663万tとなりました。第4四半期には、冬期の強い需要によって、買い注文、売り注文、取引の合計数が過去最高の866件となりました。

回答者:河崎厚子/S&P Global Commodity Insights アジア・太平洋LNG価格調査スペシャリスト


Q 色の名を冠する「○○水素」は、一体いくつ存在しているのでしょうか。

A グリーン水素やグレー水素、ブルー水素など、水素に色を付けて呼ぶのを聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。水素は無色透明で、実際の水素に色が付いているわけではありませんが、色を付けて呼ぶことで、その水素がどのような製造方法で作られたのかを区別しているのです。

グリーン水素は、再エネ由来の電力で水を電気分解して作った水素。グレー水素は、化石燃料由来の水素で製造時にCO2を排出する水素。ブルー水素は、化石燃料由来の水素で製造時に発生するCO2の排出をCCSなどで抑制した水素。といった具合です。この他にも、例えば、ターコイズ水素(メタンの熱分解で製造した水素。副生物を固体の炭素とすることでCO2の発生を抑制)やホワイト水素(自然界に存在する天然水素)など、多くの呼び方があります。

注意しなければいけないのは、このように水素を色で呼ぶことに国際的な定義があるわけではなく、あくまで慣用的に用いられているものだという点です。ですから、例えば、ホワイト水素は、前述の天然水素ではなく工場からの副生水素に対して用いられる場合もありますし、原子力由来の水素は、ピンク水素、イエロー水素、レッド水素など、さまざまな呼び方がされています。

もう一つ注意しなければいけないのは、色による区別は水素の由来をわかりやすく示すものではありますが、その水素が持つ環境性(CO2排出量など)を正確に表すものではないという点です。この点を解決するために、水素を色ではなく、炭素集約度(Carbon Intensity)で区別しようという動きが国際的に進んでいます。

回答者:飯田重樹/エネルギー総合工学研究所 理事 カーボンニュートラル技術センター長

【需要家】サプライチェーンの脱炭素 課題か成長機会か


【業界スクランブル/需要家】

1月、物流大手のヤマトHDが、JERAと協業して再エネ電力などを調達・販売する事業を始めると公表した。ヤマトグループは自社のEVシフトと並行し、グリーンイノベーション基金を活用したEVの運用や充電の最適化、拠点間での電力融通のシステム開発などに取り組んできた。同時に、EVや充電設備の導入支援サービスの外販にも手を広げている。その上で、EV化による脱炭素実現のカギとなる再エネ電力の調達・販売にも進出し、サプライチェーンの脱炭素化を加速する狙いだ。物流企業が有する拠点や輸送網といったインフラが、地域のエネルギー流通ひいては脱炭素化のハブになるという着想はとても興味深い。

サプライチェーンに対する脱炭素化手段の提供について、例えば米国ではサプライヤーが再エネ電力を調達する(共同調達含む)ためのプラットフォームを展開する事例が見られる。小売大手のWalmartは「Project Gigaton」、食品大手のPepsiCoは「pep+ REnew」を、いずれも仏・Schneider Electricと連携して運用し、スコープ3の削減を進めている。

サプライチェーンの脱炭素化というと、米・Appleの調達要件化や、日本の大手製造業などに見られる「見える化支援」、「削減計画策定の要請」といった、サプライヤーの行動を喚起する施策が中心になっている。そうした中でヤマトグループの取り組みは、サプライヤーに対して主体的に脱炭素化手段を提供する実効性の高いアプローチといえる。さらに、取り組み自体を自社の成長機会と捉えた事業展開はしたたかであり、今後の進展には要注目だ。(P)

【再エネ】再エネ普及を下支え 蓄熱技術の可能性


【業界スクランブル/再エネ】

変動性の再エネ電源は、常に効率的な運用に悩まされてきた。特に太陽光発電の普及が進む九州エリアは、系統安定化の観点から出力抑制をいつ受けるか分からないリスクをはらむ。エネルギーマネジメントの観点とEV普及施策の要として高効率の蓄電池の開発が進められてきたところだが、にわかに再注目されているのが新たな蓄熱素材の開発だ。最近では東芝と中部電力や三菱電機が行う高効率な蓄熱素材の開発が話題となった。東芝と中部電が共同実証を行うのは岩石を用いた蓄熱材だ。蓄熱容量は10‌MW級、一般家庭880世帯分の1日の電力量に当たるといい、相当な規模である。

これまで工場や発電所では省エネの観点から廃熱回収・再利用が進められてきたが、ネックとなったのは温度帯だ。廃熱が発生する場所から再利用する場所まで、離れれば離れるほど熱損失が大きく再利用できる温度帯を下回ってしまう。そうした配置上の制約から廃熱は高温回収が前提となり、活用が限定されてきた。一方、三菱電機が東京科学大学と共同開発する蓄熱材は、30~60℃の比較的低い温度帯の熱回収が可能だ。水を主成分として安全性が高いことに加え、高密度で低温廃熱を回収できる意義は大きい。

脱炭素社会の実現に向けて、再エネ電力は普及が進んでいるが、熱源の脱炭素化は難易度も高い。例えば水素・アンモニア利用などの技術検討は進んでいるものの、コスト面のハードルは依然高い状況にある。蓄熱技術は熱利用だけでなく電力として利用することも可能だ。再エネ普及を下支えする手段の一つとして、蓄熱技術の可能性にも注目していきたい。(K)

国のビジョンと共鳴が成功条件 洋上風力の歴史の中で役割果たす


【エネルギービジネスのリーダー達】中山智香子/イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン社長

多角的にエネルギートランジションに寄与すべく、日本ではまず洋上風力開発に取り組む。

長い目で見て人を幸福にするためのエネルギーの変遷を模索し続ける。

なかやま・ちかこ 日本企業のエンジニアを経て北米に渡り、プロマネとして数千億円の事業を成功させ、オイルメジャ―に移籍。複数の事業会社の代表役員として多くの国で事業投資を手掛け、帰国後、2022年から現職。

スペインに本社を置くイベルドローラは、国際的な総合電力会社では時価総額が世界トップであり、180年の歴史を持つ。収益の半分は送配電事業、次いで発電事業、その他、蓄電池や水素・アンモニアなど幅広く展開する。

2001年以降、化石燃料系を徐々に再生可能エネルギーへ置換し、現在は総発電容量(23年で約56‌GW・1GW=100万kW)の75%が再エネ由来だ。総合的に脱炭素化のソリューションを提供すべく、クリーンな電気の需要創出につながる技術開発、設備・事業への投資・参画などを進めている。

欧米を中心に20カ国以上に進出する中、日本を今後成長が見込まれるアジア市場での戦略的拠点と位置付け、20年に日本の再エネ事業者・アカシアを買収。イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン(IRJ)を設立した。同社の中山智香子社長は「会社の利益を考える枠を大きく超え、歴史の中での役割を考えることが、エネルギー会社の経営者には必要」とモットーを語る。

1990年代から東南アジア、中南米、中東、東欧などでの数千億・数兆円規模のエネルギー事業遂行や事業投資、各国政府との折衝など、エネルギー業界の変遷を最前線で経験してきた。これら事業の規模と性質故に政治・経済に影響を与え、逆に政治・経済に翻弄される日々から出た言葉だ。


エネルギーと制度の変遷 必要性の議論を

日本事業の先駆けと位置付けるのが洋上風力開発だ。本社が07年にスコットランドの電力公社を買収して以来、欧米を中心に多数の洋上風力開発を手掛けてきた実績を生かす。政府公募の第2ラウンドで、ENEOSリニューアブル・エナジー、東北電力、秋田銀行とともに、秋田県八峰町・能代市沖の事業者として選定された。計37・5 万kWの着床式設備で、29年6月の運転開始を目指す。

ただ、世界的なインフレの波が洋上風力業界にも押し寄せ、経済性の確保が目下最大の課題だ。日本の洋上風力事業は公共事業的な側面が強いが、他の電源開発よりリスクがある分、ある程度の利益を見込みたい。

一方で、過度な政府支援や国民負担を仰ぐのなら、経済的に自立できない電源であり、それはサステナブルとは言えない。国が洋上風力をそこから脱却させ日本に根付かせたいなら、現行制度の転換を視野に入れる必要があると指摘する。

「エネルギーの変遷には仕組みの変遷をも伴う。その仕組みとは洋上風力の規模と性質故に、他業界に広く影響を及ぼすような複数の制度であり、それらの変更は国益に関わるかもしれない」と中山氏。「例えば、カボタージュ(国内輸送を自国業者に限定するルール)や、国内工事には日本の建設ラインセンスが必須といった実情をどうするか。速すぎても遅すぎてもその変遷は国益を毀損することになりかねず、真の国益とは何かも含め議論が必要だ」と強調する。


真のサステナビリティへ 根拠ある現実的目標を

洋上風力以外でも、日本のエネルギートランジションに向け本社のさまざまな機能を活用する構えだ。「トランジションは従来のエネルギーを再エネに転換すればよいという単純なものではない。需要側の燃料・原料転換のプロセス技術の開発が伴ってこそ。国の仕組みの変遷でもあるが、技術の変遷でもある」と語る。

それを踏まえての需要家との技術面での関わりや欧州で長年培った需給調整のノウハウ、日本で26年度にスタートする排出量取引などのカーボンプライシングを念頭に置き、多角的に日本のエネルギーの変遷に寄与したいとしている。

欧米の実情に精通する中山氏に、日本の政策・ビジネスはどう映るのか。

「まず、国の明確なビジョンがあり、それと共鳴しなければ大型エネルギー事業は成功しない。ドラスティックな目標ではなく、根拠のある現実的なものを掲げなければ、後にお金や仕事を失う人が出てくる。自国の成り立ちや経済基盤、業界構造、技術の進展、国民の負担を熟慮した数字であってほしい」と求める。

無理な目標は大型事業を同じ時期・場所に集中させることにつながる。一極集中は、労働力や資材不足、価格高騰につながる。工事期間中は地域経済が活性化するが、工事が終われば閑散とする。そんなモデルは真のサステナブルとは言えない。

「長い目で見て人を幸福にするためのエネルギートランジションであってほしい。古いモデルだが、社会・経済・環境の三つの輪の重なるところがサステナブルであることに今こそ立ち戻り、今と将来の社会・歴史に対する責任を果たしたい」と志す。

イスラム問題の歴史を紐解く 秒読みに入った核武装の脅威


【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

エネルギー、防衛、外交などが複雑に絡み合う原子力・核問題を巡る国際政治情勢。

海外取材の第一線で活躍してきたジャーナリストが、さまざまな角度から解説する。

原油は世界4位、天然ガスは世界2位の埋蔵量を誇る資源大国イラン。核開発にも力を入れ、核兵器取得も目前に迫る。問題解決を図ろうとトランプ米政権は、イランに取引を迫っているが、その一方で軍事攻撃もほのめかしている。最悪の事態に至れば、原油の9割を中東に頼る日本にとっても一大事となる。イランを巡る情勢は、今後どのような道筋をたどるのか。

「近く、何かが起きるだろう。非常に近くだ」。米国のトランプ大統領は3月7日、ホワイトハウスで記者団にこう語った。その前日にイランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、直接交渉を呼びかけたばかりだ。交渉の目的はイランの核武装を防ぐこと。トランプ氏は大統領1期目に、北朝鮮の金正恩氏との会談を実現させた経緯もあり、ハメネイ師を得意の取引の場に持ち込みたいとの思いが強い。

ただトランプ氏は「軍事介入すればひどいことになる」と述べ、硬軟両様の構えで臨む姿勢だ。イランの核兵器取得はまさに秒読み段階にある。「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)の最新報告書によると、2月8日時点で、イランが保有する60%濃縮ウランは274・8㎏に達した。核爆弾にするには90%にまで濃縮度を上げる必要があるが、すでに核兵器6発分に相当する量の高濃縮ウランを保有する。

テヘランにある旧米国大使館


中東一の親米国イラン 栄華崩壊のきっかけは?

米国以上にイランの核を「安全保障上の脅威」と捉えているのはイスラエルだ。米紙ワシントンポストは2月、米情報機関が、イスラエルが今年上半期中にイランの核施設を空爆する可能性がある、と分析していると伝えた。昨年の空爆で損傷を与えたイランの防空網が再構築される前に、本格攻撃に踏み切りたいとの思いがあるようだ。

「騒乱の海に浮かぶ安定の島だ」。カーター米大統領は1977年の大みそか、イランの首都テヘランでの晩餐会で、イランをこう礼賛した。当時のイランは中東一の親米国だった。旧ソ連と長い国境を接するイランは、冷戦を戦う米国にとって地政学的に極めて重要な場所にあった。米国はイランのパーレビ国王を手厚く支援、最新鋭のF14戦闘機を供与するなど特別扱いを続けた。

だが、79年2月に起きたイラン・イスラム革命と、それに続くテヘラン米大使館占拠事件で米・イラン関係は暗転する。イランは米国やイスラエルとの国交を断絶し、「アメリカに死を!イスラエルに死を!」と叫び始めた。イランは勢力圏拡大を図るため、周辺イスラム諸国に「革命の輸出」を始めた。反体制派に資金や武器を提供し代理軍を形成していく。その代表格は、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」や、パレスチナ自治区ガザ地区を本拠とするイスラム組織「ハマス」。さらに、シリアのアサド政権とも強固な同盟関係を築く。

イスラエルから見れば、北はヒズボラとシリア、南はハマスと、イランの息のかかった武装勢力に挟まれる形となる。さらに米国が2003年にイラクのフセイン政権を倒し親イラン政権が樹立されたことで、状況は悪化。イランはイラクからシリア、レバノンに至る広大な地域への影響力を強めた。地理的な形状から、この地域は「シーア派の三日月地帯」と呼ばれた。

だが、イランが誇った栄華は23年10月7日、皮肉なことに手厚く支援してきたハマスのイスラエル奇襲をきかっけに崩れることになる。イスラエルはハマスの壊滅を目指して報復攻撃に出た。ガザで戦争が始まると、ヒズボラは連日、ロケット弾を撃ち込むなど、イランが育成してきた各国の代理軍はイスラエルへのいやがらせを始めた。

イスラエルはヒズボラと戦端を開けば、南部でのハマスとの戦線に加え、北部でヒズボラとの二正面作戦となる。戦力が分散され不利になると考えた。当初こそ慎重な対応に終始していたが、ガザでの戦闘にメドが立ち始めると余裕が生まれる。

ガザでの戦争開始から約半年後の24年4月1日、イスラエルはシリアの首都ダマスカスのイラン大使館を空爆、代理軍を陰から操るイランに反撃を始めた。2週間後、イランは初のイスラエル攻撃に踏み切る。だが防空網に阻止され、損害は軽微にとどまった。イスラエルはその5日後、イランを空爆する。


イランとイスラエルの衝突 狙うは核施設の空爆か

直接対決の「第二幕」は、7月31日に開いた。イランのペゼシュキアン新大統領の就任式に出席するため、首都テヘランを訪問中のハマスの政治局トップであるハニヤ氏が、イラン側が用意した宿舎で殺された。イスラエルによる暗殺とみられる。

9月には、レバノンでイスラエルがポケットベルに仕掛けていた爆発物が一斉に爆発、多くのヒズボラ戦闘員が死傷する。イスラエルはヒズボラの指導者ヌスララ師を空爆で殺害、10月にはレバノンに地上侵攻する。

劣勢に立たされたイランは10月、イスラエルと2度目の戦火を交える。弾道ミサイルなど180発で攻撃したが、損害はまたも軽微。イスラエルは、イランの防空網やミサイル製造施設を徹底的に破壊した。そして12月、シリアのアサド政権倒壊という誰もが予想していなかった事態が起きる。反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」を中心とするグループが、半世紀以上もシリアを支配していたアサド独裁政権を倒した。

ハマス、ヒズボラという長年のライバルを叩きつぶした上、「棚からぼた餅」的なアサド政権の崩壊で、最も得をしたのはイスラエルだ。この機に乗じてイラン核施設を本格的に空爆し、安全保障環境を盤石にしたいとの思いが募る。ロシアが米国とイランの仲介役に名乗りを上げるなど、緊張緩和を模索する動きも相次ぐ中、ハメネイ師は3月8日の演説で、トランプ氏の書簡には直接触れず、米国との交渉には応じないとの従来方針を強調した。 トランプ米政権誕生でイラン・イスラム体制は大団円を迎えるのか。それとも……。

【火力】対再エネ議論の不毛 リテラシー向上が必要


【業界スクランブル/火力】

第7次エネルギー基本計画では、2040年に温室効果ガスを72%削減することが重要な視点となっている。その上で、再エネ比率が4〜5割にとどまる一方で、火力の比率を3〜4割を維持することについて、「火力比率を確保することで再エネ拡大が阻害されるのではないか」との意見が多く見られる。さらに、大手経済系メディアの中には、国が水素・アンモニアやCO2回収・貯留を推進するための方便だとする解説記事も見受けられた。

しかし、今回示された電源構成は、脱炭素とエネルギー安全保障という相反する課題を両立させるための苦肉の産物であり、数値はひとつの目安に過ぎない。国が定める目標値でもなければ、ましてや上限値でもない。火力の比率は、再エネや原子力だけでは賄いきれない電力量を火力で補うという「引き算」の結果であり、火力比率が再エネ比率を圧迫するということはない。また、水素・アンモニアの価格が下がらないのは、国内製造によるグリーン燃料の拡大が進んでいないのが一因であり、再エネの飛躍的な拡大は、火力側にとってもむしろ望ましいことなのである。

エネルギー安全保障の観点を抜きにすれば、予備力や調整力として火力設備を確保しつつ、稼働率を極力抑える形が望ましい。しかし、その際に比較対象となる蓄電池やDRは、季節間ギャップへの対応まで考慮すると、技術的にも経済的にも火力には大きく劣るのが現実だ。

不確実性の高い今回のエネルギー基本計画を正しく読み解くことは難しいが、発信者も読み手もエネルギー情報に関するリテラシー向上が今こそ求められている。(N)

日本が受けた二つのSHIP 英国の支援を振り返る


【リレーコラム】彦坂淳一/キャベンディッシュ・ニュークリア・ジャパンプレジデント

この二世紀間で日本が遭遇した二度の国難に際し、英国は二つのSHIPを日本に提供した。一つは日露戦争での連合艦隊の「フラッグシップ」(旗艦)である。三笠と名付けられた当時の新鋭戦艦は英国のバロー市で製造され日本が輸入した。現在は神奈川県横須賀市で博物館になっている。

日露戦争は実質的には日英対露中ともいえる戦争だったが、当時の日本には大型戦艦の製造技術がなかったため、三笠をはじめ4隻の戦艦を英国から輸入し、日本海海戦で露艦隊を撃破した。バロー港は日欧間核物質輸送船(PNTL)の母港であり、近くにセラフィールドがある。

もう一つは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故後、日本が導入した英国の廃止措置での「リーダーシップ」(のシステム)であろう。

お金を生み出さない廃止措置は後回しにされがちだが、英国では廃止措置への取り組みで政府がリーダーシップをとるべく、原子力廃止措置機関(NDA)の設立と資金確保の制度化を行った。日本政府は、その英国NDAの例を参考に原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)を設立し、さらに種々の施策を加え賠償・廃炉・除染という三つの業務が進む素地ができ、関係者はその実務に集中できるようになった。私は商社での英国関連の業務経験を生かしてNDFに勤務した後、現在は英国企業に勤務している。今後とも福島の廃炉と復興が進み、安定したエネルギーミックスへの道筋がつけばよいと思う。


旅行は原発立地県へ

一方、個人として原子力や廃止措置にどう貢献できるかを考えて、休暇や趣味の釣りでは旅行や遠征釣行先に原発立地県を選ぶようにしている。同じお金を使うなら少しでも役立ちたいという思いだ。旅行には、実際払った金額の倍近い波及効果(仕入れや雇用から)がある。12年夏には家族で福島県の会津を旅行したし、回遊魚のマグロやカツオを狙うことが多いので青森、福島、茨城、静岡、新潟から島根や佐賀まで一年中駆け巡り漁業協同組合所属の遊漁船での釣行を楽しんでいる。また、訪問先では地元の美味しい料理をありがたく頂き、名産品のお土産を買うことを習慣にしている。

福島原発付近での遊漁も復活し、富岡港発で再び釣りができたのは嬉しかった。大物狙いはボウズばかりだが、柏崎刈羽原発のある新潟県沖で釣れた150㎏のクロマグロや、浜岡原発のある静岡県遠州灘での52㎏のキハダマグロは一生の思い出である。

ひこさか・じゅんいち 1986年東京大学工学部卒。商社、電気事業連合会、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)、海外勤務などを経て現在、英国キャベンディッシュ・ニュークリア社の日本法人に勤務。中小企業診断士。公認内部監査人。証券アナリスト。

※次回は、丸紅の松原文彦さんです。

【原子力】KK7号機が期限超え 特重設置規制の是正を


【業界スクランブル/原子力】

東京電力が、柏崎刈羽6、7号機の特定重大事故等対処施設(特重)の完成が設置期限を超えると発表した。先行して再稼働した西日本の加圧水型軽水炉(PWR)で相次いだ稼働停止が、再び起ころうとしている。

当初、設置期限は新規制基準の施行日から5年以内とされた。原子炉本体の適合性審査は、設置変更許可、設計及び工事計画認可(設工認)、保安規定認可の三段構えだ。電力会社は規制委から、設置変更許可は半年以内にでき、設工認と保安規定の審査もそれと「並列」して行うという説明を受け、一斉に申請した。ところが、結局これらの審査は「直列」となり長期化した。

特重の設置期限はその後、「炉本体の設工認から5年」に変更された。しかし、特重の審査は炉本体の審査後に始まる。特重の審査開始前に設置期限のカウントダウンが始まるのはいかがなものか。

柏崎刈羽7号機の設工認は2020年10月だから、特重の期限は今年10月だ。特重の設工認は23年1月に第1弾を申請したが、今日まで認可が出ていない。建物構築物関係の議論が続き、昨年11月にようやく機械電気設備分野の申請に至ったからだ。設工認が降りてから詳細設計を確定し機器の製造に入るため、期限に間に合うわけがない。

規制庁は審査に時間がかかる責任は事業者にあるとするが、ヒアリングで膨大な宿題を出し続けるため審査が終わらないのが実態と見える。再稼働を待つ地元の機運を下げかねない事態だ。

この非条理な規制を即刻直し、設置期限は「特重の設工認から5年」とすべきで、できないなら規制委自体を抜本的に改編するしかない。(H)

【シン・メディア放談】道路陥没事故の衝撃 電力・ガスも他人事ではない


〈業界人編〉電力・石油・ガス

日常生活を脅かした大惨事は、国民にインフラ老朽化の危機を知らしめた。

─埼玉県八潮市の道路陥没事故には驚いた。

電気 最初の陥没で生まれた穴が、どんどん大きくなっていった。ビジュアルがあまりに衝撃的で、テレビが流し続けていたのが印象的だ。

ガス ガスや上水道で不具合が生じれば、顧客に迷惑をかけるとはいえ、バルブを閉めて供給を停止できる。ただ下水道は止められないから、どんどん被害が拡大してしまう。恐ろしい。

石油 テレビで見ていると分からないが、現場は臭いがひどかったはずだ。完全復旧には5年かかるというから先が思いやられる。

─インフラの老朽化はエネルギー業界が抱える問題だ。

石油 1970~80年代の高度経済成長期に一気にインフラが整備されて、耐用年数を超える水道管は多いと聞く。地下に配電線を敷設している地域があるし、電気ガス水道がまとめて寸断されるという事態も起こりかねない。

ガス 都市ガスは計画的にガス管の更新を進めている。ただマンションのガス管となれば話は違う。顧客の資産なので管理組合費などで入れ替えることになるが、理解のある自治会ばかりではないのでトラブルになることもある。ガス会社としては「替えてくださいね」と言い続けるしかない。

電気 送電線の鉄塔は200年持つことになっていて、150年目くらいから更新が始まるらしい。今の社員は誰も生きていない。人手不足の中で大丈夫だろうか……。

石油 いずれにせよ、今回の事故で国民は危機意識を持ったはずだ。水道料金値上げなどへの理解が高まるといい。


付臭義務がない水素 エネルギー需要増の不思議

ガス 臭いで思い出したが、水素は付臭義務がなくて大丈夫か。検知器を付けたとしても、音が鳴るだけでガス臭のような効果が得られるのか。東京ガスが東京都中央区の晴海地区で行っているプロジェクトでは付臭しているようだが。

石油 水素社会に向けた課題は山積している。経済産業省のガス安全小委員会で話題になっているが、水素は導管に入るまでは高圧ガス保安法、導管に流した後はガス事業法、エネファームなどの消費機器で使えば電気事業法と領域区分が変わる。補助金を出して実証実験を行っている以上、しっかりと整備しないといけない。

─電化の流れだが、ガスの需要は減っていくのか。

ガス ある大手都市ガスの販売量は微増らしい。要因は複合的だが、基本的には大口需要に左右される。だから石炭や石油を使っている工場のLNGへの燃料転換に期待だ。3割を占める家庭用は高気密・高断熱住宅が増えればガス使用量は下がる傾向にある。電気はどうか。

電力 オール電化の影響で増えているが、核家族化による世帯増というファクターも無視できない。近年は人口減少下でも家庭用の電力使用量は増え続けた。祖父母と住んでいればお風呂を沸かすのは1回だったが、2回に増えるわけだからね。LPガスは厳しいだろう。

石油 この30年で、工業用を中心に消費量は3割ほど減った。家庭用もオール電化に奪われやすい。


アラスカLNGのリスク どうする洋上風力

─商慣行問題が消費者離れに拍車をかけるのでは。

石油 不動産業者としては、LPガス事業者が無料でエアコンやWi―Fiを設置してくれるのはありがたい。でも、その費用はガス料金として消費者に転嫁される。長年続いてきた商慣行をすぐに正常化させるのは難しいが、改めなければ顧客が減るだけだ。

─日本勢は米アラスカ州のLNG開発に参画するのだろうか。

石油 足元のLNG需給はタイトではないが、中長期的には権益を持っておいた方がいいという声がある。

ガス そうは言っても、これまでオイルメジャーが投資してこなかったのには相応の理由がある。永久凍土にパイプラインを敷設するなどコストは計り知れず、事業採算性がないからだ。本気で乗るのだろうか。

電力 北極海航路の利用には、ロシアの許可が必要になる。三井物産が出向者を引き上げたロシアのアークティックLNG2のようにならないといいが。

─三菱商事が国内3海域の洋上風力発電のプロジェクトで522億円の減損損失を計上した。

ガス 破格の価格で落札して値崩れを起こしておいて、同情票は集まらないだろう。あれだけ多くの海域を取って500億円の減損で済むのか。

石油 国が全面的に保護しなければ、下手したら商事が潰れかねない。でも潰すわけにはいかないので、補助金などいろいろな制度的措置が取られるのだろうね。

ガス 洋上風力オンリーの脱炭素電源オークションみたいな制度になるのだろうか。

電力 みんなで「やーめた」と言って撤退するのが合理的な判断だ(笑)。

ガス どの海域も最終投資決定はしておらず、風車メーカーや海運企業との契約は行っていない。赤字が見込まれるプロジェクトに投資決定するのは、企業判断としてあり得ない。株主代表訴訟に発展してしまう。全プロジェクトがこける可能性すらあり、エネルギー基本計画の実現どころではなくなる。

──凄まじい逆風が吹き荒れている。

【石油】暫定税率はいつ廃止に 財源確保はどうする


【業界スクランブル/石油】

2025年度予算案の審議では、「103万円の壁」と並んで、いわゆるガソリン税の暫定税率の廃止も大きな論点となった。実現すれば、ガソリンで1ℓ当たり25・1円、軽油で同17・1円の減税になる。確かに昨年末、自公と国民民主の3党で「廃止」は合意されたが、その時期は明示されなかった。石破首相も予算審議で「旧暫定税率は廃止するが、税収の減少約1・5兆円をどうするか検討が必要」として、廃止時期は明言を避けた。

減税によるガソリンで約1兆円、軽油で約5000億円分の税収の「穴」をどうするか。これが決まらないと暫定税率の廃止はできない。かつて09年の総選挙で、暫定税率廃止を政権公約に勝利した民主党も代替財源を見つけられず、温暖化対策との矛盾を突かれて断念した。その代わりに「暫定税率」という名称を「当分の間税率」に変更、高騰時対策としての「トリガー条項」(当時、ガソリン価格は同130円、為替は1ドル=110円)を追加した経緯がある。

特に難しいのは、地方税の軽油引取税分とわずかながら地方譲与税の地方揮発油税分の地方税収である。予備費を国会審議なしで用立てることと代わりの財源を探すことでは、難しさが格段に違う。

自動車のEV化が進めばガソリン税収は激減する。それに備えて、財務省は燃料課税に替わる距離課税(走行税)を検討している。実現すれば、燃料税の暫定税率廃止など簡単だろう。 特定財源は一般財源化されたとはいえ、社会インフラの維持管理費はますます増大する。悲惨な事故のニュースはもう聞きたくない。(H)

トランプ政権がAfDに肩入れ 各国でテスラの販売数激減


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

2月のドイツ連邦議会選挙では、ショルツ首相のSPD(社会民主党)が第三党に転落し、CDU・CSU (キリスト教民主・社会同盟)が第一党となった。注目すべきは、トランプ米政権の応援により、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が第二党に躍進したことだ。同党は移民排斥を掲げ、脱炭素・脱原発のエネルギー政策に批判的立場をとっており、ドイツ政府の政策に影響を与えることが予想される。この議席増にはイーロン・マスク氏やバンス米副大統領によるAfDの選挙活動の応援が背景にある。

トランプ大統領は1期目の2018年、「われわれは対ロシア防衛をしているのにドイツはロシアに巨額の資金を提供。ドイツはロシアの捕虜だ」とノルドストリーム建設などのドイツのエネ政策を批判した。その後、ショルツ首相は22年、ロシアのウクライナ侵攻に際し武器でなく寝袋とヘルメットの供与を唱え、「捕虜ぶり」が明らかとなった。さらには、マスク氏は1月、英国のスターマー首相を「犯罪の加担者」と、検察庁のトップであった当時の南アジア系移民のレイプ・ギャングに対する対応を批判するなど、イタリアとハンガリーを除く欧州各国の首脳は移民政策批判に戦々恐々としている。

この動きを反映し、テスラの販売台数は今年に入り、世界各地で激減している。ドイツでは前年同月比で1月60%減、2月76%減となり、2月の国内EV販売台数全体は30.8%増加している中で顕著な結果となった。フランス、イタリア、北欧でも半減し、米国でもボイコット運動が起こり、減少している。ここまでのリスクを冒しても確信的に政治介入を行っているマスク氏に驚きを禁じ得ない。トランプ政権における重要な仕事の片手間でのテスラの経営を心配せざるを得ない。

民主主義を旗印に各国に介入してきた米国の外交に第2期トランプ政権は反移民政策という新たな潮流を作り出そうとしているとも解釈できる。幸い日本にはその矛先は向かって来ないと予想するが、あえて、労働力不足に悩むわが国がそこからいかに学ぶかを探ってみたい。製造業は、以前から外国人労働者が多く働く職種だったが、近年では、流通サービス業や医療福祉などの分野でも増加しており、「2025年問題」が拍車をかけている。外国人労働者の増加で、教育、医療などのコスト増が予見される中、できるだけ日本人の労働力が望まれる。現在、「103万円の壁」が所得政策や財政負担の観点で議論されているが、扶養家族離れを嫌う学生、主婦の就業機会増加の恩恵を受ける産業も少なからず存在する。政府もここに着目し、人手不足を少しでも和らげる産業政策、移民政策の構築が必要に感じる。

Jリーグ浦和レッズは、スタジアムにおけるFCクルドの旗の掲出を巡るトラブル対応に苦慮しており、移民難民との対話の難しさが浮き彫りになった。トランプ政権の反移民政策を排他的政策と決めつけず学ぶことも必要だ。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)

米国で強まるESGへの反発


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

金融メディアの米ブルームバーグ紙は3月3日、「ESGがなぜ反発に直面するのか、そしてトランプ2.0下でのESGの将来(“Why ESG Faces Backlash and Its Future Under Trump 2.0”)」という記事を配信した。同紙は最近、「ESGへの反発」とタグ付けされた記事を立て続けに配信しており、世界の気候変動への取り組みが直面している変化について、さまざまな側面で報じている。

記事ではまず、ESGへの反発の震源地である米国について述べている。米国では、もはやESGは政治対立を超えて文化戦争の「避雷針」となっており、「目覚めた(woke)アジェンダ」であると批判されている。共和党系のいくつかの州政府は反ESG法を制定。トランプ大統領の誕生で、ESGへの反発はさらに激化している。

こうした動きは、企業や金融機関が、反ESGの感情を恐れ、持続可能性のアピールをあえて抑制する「グリーンハッシング」につながっているという。各社はネットゼロへの言及を避け、ウェブサイトからESGのラベルを削除している。北米の金融機関は反トラスト法などの訴訟リスクを恐れ、気候金融グループから一斉に脱退した。

一方、欧州では米国のようなイデオロギー対立ではなく、「規制疲れ」による逆風が吹いている。EUではCSRD(企業持続可能性報告指令)とCSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令)といった規制の導入が予定されているが、欧州委員会は2月26日にこれらの規制を大幅に緩和する提案を提出した。

これは「手のひら返し」でもなんでもなく、「自分をより有利にするために作ったルールでも、状況が変われば書き換える」という、ただただ当たり前の現実だろう。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)