新エネ巡る熱狂は急冷 米国駐在で見た3年の変化


【リレーコラム】竹原 優/丸紅米国会社ヒューストン支店長

米国の中でもエネルギー産業が最も盛んなヒューストンに赴任してから3年が経つ。この間に新エネルギーとして注目されている水素やアンモニアを巡る米国の環境は、めまぐるしく変化してきた。


IRA法が脱炭素の怒涛の流れ生む

赴任した2022年当時は世の中が脱炭素に向けて大きく動いていた頃で、米国も例外ではなく、輸出用のみならず地産地消型のプロジェクトが山のように存在していた。米国のエネルギー産業は上流、中流、下流に細分化されており、各分野を専門とする数多くの企業が大手から中小に至るまでひしめきあっているが、当時は上流、下流、大小を問わず多くの企業が新エネルギー分野に踏み出そうとしており、業界全体の熱気が感じられた。

22年8月に総額4300億ドルにも上るインフレ抑制法案が成立したことでさらにボルテージが高まり、いよいよ多くのプロジェクトが実現段階に入ると目され、この頃の一連の流れは怒涛のような激しさがあった。中には他社に遅れを取らないようにFID(最終投資決定)を待たずに長期リード資材の発注を行う企業も見られた。ところがその後、各社が検討を進めていくにつれ、米国の高いインフレによりプロジェクトコストが当初の見込みよりも大幅に上振れすること、具体的な需要がまだまだ追い付かず将来の見通しが立てられないなど、多くのプロジェクトが中断または撤退となり、新エネルギーを巡る熱狂は急速に冷めていった感がある。もちろん現在でも着実に開発が進められているものもあるが、3年前とは比較にならないほど数が減った。この3年間はまさにジェットコースターのような激しい浮き沈みだった。

話は変わるが、この冬にカナダの国立公園バンフに旅行した際、カナディアンロッキーに鎮座するコロンビア氷河の雄大な景色を観てきた。氷河の末端(最下流)から遠ざかる向きに断続的に立て看板がいくつか設置されていたので中身を見てみると、それぞれの看板は年代ごとの氷河の末端の位置を表していた。つまり、かつて氷河は今よりもっと遠くまで伸びていたことを表しており、過去70年で1㎞ほど氷河が溶けて後退していることが目視できるようになっている。バンフの凍てつくような寒空の下、あらためて地球温暖化の影響を考えさせられた。

トランプ大統領の就任で米国はその時の政権によって政策が大きく変わることを肌で感じているが、長期的に見れば気候変動対策としての脱炭素の流れは変わらないだろう。今後も新エネルギー分野の動きを注視していく。

たけはら・まさる 1995年京都大学卒業、丸紅株式会社入社。財務や原子燃料事業等を担当した後、2022年からヒューストン駐在。

※次回はCOSMO E&P USAの河口光康さんです。

【原子力】最終処分地の選定プロセス 国主導に改めるべき


【業界スクランブル/原子力】

高レベル放射性廃棄物の最終処分場を巡り、NUMOが調査地点の公募を開始してから23年が経つ。最初の高知県東洋町の応募は町長選を経て取り下げとなったが、知事の反対表明が議論を激化させた。2020年には北海道寿都町と神恵内村で文献調査が始まった。既に報告書がまとまったが、知事は現時点で反対の立場を崩していない。23年には長崎県の対馬市議会が調査受け入れの請願を採択したが、市長が市民の理解を得られないとして拒否した。昨年には佐賀県玄海町が国の申し入れを受諾し文献調査が始まったが、知事は新たな負担は受け入れられないと表明している。

最終処分は国の重要課題だが、その選定プロセスで首長に実質的な決定を委ねているのは道理に合わない。調査段階からの交付金も、地方から手を挙げさせようとの意図が見える。関係自治体の首長らは「国が主導すべき」と訴えている。

そこで、国が調査地点を数カ所選び、3段階の調査を絞っていくべきではないか。あくまで調査なので、自治体の同意は必要としない。もちろん首長の意見表明は自由で、特に反対の場合はその理由を十分に尊重して以後の調査活動に反映する。ただ知事が反対なら次の段階に進まないとするのは、国のエネルギー安全保障を危機に陥れ、将来世代に負担を強いる。交付金は、早くても3段階目の精密調査段階から、本来なら建設地点の決定後に支給するべきだ。建設地の最終選定は、国会が法律で定めるとしてはどうか。

選定までの全国的な理解活動は重要で、特に電力の大消費地からの謝意表明、目に見える行動が欠かせない。(T)

【シン・メディア放談】風車落下と大規模停電 再エネ再考にはつながらず?


〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

インパクトが大きいニュースが続いたが、日本のメディアは淡白な報道が目立った。

─秋田市新屋町の海浜公園で風力発電設備から羽根が落下。近くにいた81歳の男性が亡くなった。

石油 これは相当揉めるだろうね。ブレードはFRP樹脂という素材を使用しているが、見た目では劣化が分かりにくいようだ。温度変化や風雪などで、目視や打音では感知できない可能性もある。発電所には、同じ風車がずらっと並んでいる。20mくらいの風で折れたら、周辺住民は不安で仕方がないだろう。風車の落下事故は過去にも何回か起きているが、死者が出たのは初めて。とにかく、原因究明が急務だ。

ガス 死者が出たというのは重たい事実だ。もしかすると、既設風力の規制が変わるかもしれない。例えば、風車から一定距離が立ち入り禁止区域になれば、用地確保などが大変だ。周辺には風車見学が人気の公園がある。

電力 メディアは事故直後こそ盛んに報じたが、すぐ下火になった。今は秋田のローカル局や地元紙だけが追いかけている感じだ。それにしても、原子力で死亡事故が起きれば脱原発だと騒ぎ立てるだろうに、風車で人が亡くなっても「再エネ政策の見直しを!」とはならない。あくまで事故原因の追究という枠に収まっている。

石油 再エネよりも原発関連のニュースの方が書きやすいのだろう。事業者や原子力規制委員会からしっかりとリリースが出るからね。

ガス これまで風力に対する反対理由は、主に景観維持と野鳥保護の二つだった。今回の事故で、安全性が新たに加わることになる。再エネ主力化に向けてはネガティブな要因だ。

電力 役所が原因究明のワーキンググループなどを作ったとしても、再エネ主力化にブレーキがかからない結論に終わるだろう。政策全体に影響を及ぼすことはなさそうだ。


イベリア半島特有の事情 日本で起きる可能性は

─スペインとポルトガルで発生した大規模停電も驚いた。

電力 これも日本では、停電発生と復旧の事実を淡々と伝えただけだった。原因は究明中だが、再エネが原因だという説が根強い。スペインは風力と太陽光が供給全体の70%余りを占める。急激に太陽光の出力が落ち、周波数に悪影響を及ぼしたのではないか。さらにイベリア半島と欧州の他地域の電力相互接続容量の割合は、わずか2%だという。「陸の孤島」となっていて、急激な変化に対応できなかったのだろう。

ガス 停電が起きた日は、日中の出力の7割程度が太陽光だったようだ。そして前日の市場価格はネガティブプライス。発電事業者が、お金を払ってでも発電した電力を引き取ってもらう状況で、需給バランスが大きく乱れていた。毎度のことだが、脱炭素目標があるにせよ、変動性が大きい電源にどこまで依存するのかは真剣に考えた方がいい。でも、日本で起きる可能性を探るような記事が読めずに残念だった。

電力 私も詳細な情報は「フォーブス」などの海外メディアで読んだからね。

石油 日本もすでに電力の需給バランスが崩れかけている地域がある。遠い国の出来事では済まされないよ。


エネ補助金の垂れ流し BS―TBSは厳しく批判

─ガソリン補助金が形を変えて継続し、夏には電気・ガス料金支援が復活する。

石油 足元のガソリン価格は落ち着いていて、OPECプラスの増産やトランプ関税による先行き不安で需給は緩む。ただ暫定税率を巡る交渉で、自公と国民民主の幹事長が6月から年度末まで価格を引き下げると約束していた。暫定税率は地方税収に大きな影響を与えるので、自民としては下げずに逃げ切りたいのだろうが……。

電力 バラマキに対する批判としてよく見聞きするのが、「困窮者に対象を絞った支援を」というものだ。その手段としては住民税非課税世帯向けの直接給付があるが、自治体に手間をかけるし、非課税世帯には資産を持つ高齢者がそれなりに含まれる。でも電気・ガス料金なら、事業者に補助金を渡せば短期間で実行できてしまう。政治家が手っ取り早く使えるカードになってしまった。

ガス これまでエネルギー補助に投じた額は12兆円超だ。これだけの国費を、料金値下げという一過性の政策に使っていいのか。もっと持続性のある使途があるだろう。極端な話、太陽光パネルを全国民に無料設置すれば、20年くらいは使い続けられる。省エネ設備への買い替え、建物の断熱改修支援の強化などいくらでも方法はあった。

石油 マスコミは消費減税には社説を使って批判しているが、エネ補助金はそこまで熱を入れて報じていない。これだけの額になったのだから、本腰を入れてその是非を追及してほしいね。

ガス テレビも街角インタビューばかりで物足りない。「電気代高いですか」と聞けば、「高いので下げてほしい」と答えるに決まっている。もう飽きたよ。

石油 そんな中で、BS―TBSの「報道1930」(5月8日)が取り上げた会計検査院の田中弥生前院長のインタビューが良かった。効果があったのか分からない補助金を続けるのは問題。補正ありき、減税ありきではなく、落ち着いて考えてほしいと言っていた。ぐうの音も出ない正論だね。

─消費減税は自民が見送ったが、エネ補助金は参院選の争点にすらならない。

【石油】選挙を意識した ガソリン補助の新たな仕組み


【業界スクランブル/石油】

5月22日に燃料油価格激変緩和補助金(いわゆるガソリン補助金)の制度が変更、定額化された。従来、目標価格(全国平均ガソリン小売価格)を固定し、その金額になるような補助額を毎週変動させていたものを、補助金を固定化し、補助相当額の小売価格引き下げを図る。ガソリン・軽油は1ℓ当たり10円、灯油・重油は同5円、ジェット燃料は同4円の定額支給で、当初は半額で開始し、ガソリン10円補助となるまでは原油価格などの状況に応じて支給額を調整する。10円に達した後の小売価格は、補助金支給開始以前のように、その時点の原油価格・為替レート次第で変動することになろう。

このまま、原油価格は軟化、円高が進行すれば、補助相当額以上の値下がりが期待できる。逆に原油価格が上昇・円安になっても、値下がり幅は小さくなるものの、10円程度は確実に下がる。一定水準への抑制(値上がり防止)を目的としていた補助金は、段階的に小売価格の値下げを図る仕組みとなる。同時に、補助金は「旧暫定税率の扱いについて結論を得て実施するまで」実施するとされた。しかも、ガソリン10円の補助上限額に達する7月3日までは、確実に小売価格は値下がりが続く。原油価格上昇・円安になっても、最初は5円程度、次週からは1円程度ずつ、値下がっていく仕組みになっている。明らかに、選挙を意識した政策だ。

今回の定額化で、補助金効果は国民に可視化され、最大4000憶円近く支出していた月間補助金支給総額は、700億~800億円程度に固定される。原油安・円高も進みそうなので、値下げ効果は期待できそうだ。(H)

【コラム/6月20日】経済財政運営と改革の基本方針2025を考える~賃上げ一本とは


飯倉 穣/エコノミスト

1、持続的成長願望ながら

トランプ関税協議、米高騰・備蓄米放出や物価対策に話題が集中する下で、選挙対策の野党の消費税引下げ発言や与党の慎重姿勢が交錯した。今年も経済運営と改革の基本方針(以下基本方針という)の公表があった(25年6月13日)。新しい資本主義の実現を掲げ、賃上げこそが成長戦略の要と述べた。

報道もあった。「骨太方針 減税より賃上げ 閣議決定 選挙前野党と一線」(朝日同14日)。「骨太方針 減税より賃上げ 実質1%上昇 方策乏しく」(日経同)。

基本方針は、賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行を掲げる。手法は、物価上昇を上回る賃上げ要請である。適切な価格転嫁や生産性向上、経営基盤強化となる事業承継・M&Aを後押しなど、賃上げの環境整備に施策を総動員という。その姿勢は、徒労に終わることを厭わないようである。現状認識の錯覚は、果たして効を奏するか。今回の基本方針の掲げる成長戦略と経済運営を考える。


2、現在の物価上昇要因を直視せず、目玉は賃上げ

「賃上げこそが成長戦略の要」と強調する。持続的・安定的な物価上昇の下、1%程度の実質賃金上昇の定着で、生産性を向上させる。つまり賃上げ、消費(需要)増、投資増、生産性上昇、賃上げ増の経路を狙う。現実の物価上昇要因と経済成長の状況から、飛躍していないか。

24年の経済成長率は、実質0.2%、名目3.1%(23年夫々1.4%、5.5%)だった。輸入物価が落ち着き、企業物価上昇もやや安定(24年前年比2.3%)の後、25年Q1に4.2%、4月4.0%と上昇している。この傾向は何を示しているか。現在の物価上昇は、輸入インフレの後、物価見合い賃上げや企業収益の状況から見て、企業の価格引上げ(含む便乗値上げ)が原因と推量される。円安要因というよりコストプッシュ型インフレである。それが消費者物価上昇(コア前年同月比4月3.0%)も牽引している。このような物価上昇は、需要を減少させ、実質経済の縮小をもたらす。

基本方針は、もう一つ願望を述べている。「投資立国」及び「資産運用立国」による将来の賃金・所得の増加である。投資目標で、2030年度135兆円、2040年度200兆円を見込む(24年名目105兆円、実質92兆円)。この実現のため賃金や金融所得・資産の増加を資金の流れでつくるという。つまり家計の現預金が投資に向かい、官民一体で国内投資を加速し、企業価値向上を目論む。その具体化で、従来からGXの推進、DXの推進、フロンティアの開拓、先端科学技術の推進、スタートアップへの支援、海外活力の取り込み、資産運用立国の実現を例示している。かけ声は、素晴らしいが実際はどうか。近時の民間企業設備投資(24年実質1.3%増)の現実から、浮き上がって見える。政府の取組みは、所詮将来のこと故なのであろう。


3、それは実現可能か

途中経過の資料の中には、経産省の打ち上げ花火もあった。積極的な政策強化を前提に、潮目の変化と同様の国内投資拡大(官民目標2040年200兆円)を継続すれば、賃上げは春季労使交渉5%相当の名目3%が継続し、名目GDPは約1000兆円(新機軸ケース、名目975兆円、実質750兆円)に達するという(5月26日)。その後内閣も乗る事態になった(総理発言6月9日)。原案で、直ちに数字の意味が、呑み込めなかった。果たして実現性はどうだろうか。

物価を上回る賃上げ期待は、繰言だが、逆転の発想というより成長現象の見誤りである。過去の成長の結果、得られた数値(雇用・資本ストック)を数式化したソローモデルを思い出す。左辺は成長率、右辺は労働力、資本、TFP(全要素生産性)である。その式を見て、投入資本や労働投入すれば成長可能と計算する。あるいはGDP恒等式を見て、財政出動や減税で消費を喚起すれば成長軌道に乗せることが可能という。この種の経済論の継続に危惧するばかりである。これらの成長期待論は、これまでの経済推移を見れば、一目瞭然である。誤りだった。

経済成長とは何か。一般の理解では、技術革新・企業化あれば、設備投資増、雇用増、製品単価低下、賃金上昇の現象を垣間見ることが出来る。マクロ的には、実質経済成長率上昇、企業物価安定、消費者物価やや上昇の姿となる。つまり民間企業行動と設備投資の中身(独立投資)にすべて帰着する。現実直視が第一である。

世界の分断と大国の思惑〈下〉 トランプ2.0と中東情勢


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

第2次トランプ政権が導入した相互関税が世界経済を揺さぶる中で、外交的には中東情勢が大きく変動している。ウクライナ戦争の停戦交渉に進展は見られず、パレスチナ情勢は再び悪化する中で、シリア情勢に一定の進展はあるものの、最大の焦点は米国・イラン核協議の進展、イスラエルの対イラン攻撃の可能性の評価に移った。

トランプ政権は4月、イラン側と交渉を始めた。ウィトコフ米中東担当特使とイランのアラグチ外相が4月12日に初めてオマーンで協議したのに続き、19日にローマ、26日にオマーンでの協議を経て5月11日オマーンで第4回協議を行った。

オバマ政権はイランに歩み寄り2015年に米英仏独中露の6カ国とEUがJCPOA(包括的共同作業計画:イラン核合意)の枠組みをイランと合意した。その内容は、イランが核開発を制限すれば、国際社会は対イラン経済制裁解除を進めるというもので、イスラエルや米国共和党は核開発の制限は不十分であるとしてそれを批判し、第1次トランプ政権は18年、JCPOAから一方的に離脱した。21年バイデン政権は合意復活を目指したが、イランは再度離脱しない保証を求めたので、交渉は進展を見なかった。

昨年には、4月と10月にイランとイスラエルは軍事攻撃を応酬したが、そのことは核兵器製造までの時間は切迫し、新たな対応が迫られていることを物語っている。

4月以前の展開では、トランプ政権はイランへの制裁強化の可能性を強調し、これに対し、イランはトランプ政権との交渉には応じないとの立場をとってきたが、4月に入って対応は一変した。その背景には、イスラエルが5月にもイランの核施設を攻撃する計画を立てたと報じられたことが挙げられる。

イスラエルは、昨年10月8日の攻撃によりイランの防空システムを大きく破壊した。その点からイスラエルは、今はイランの核施設を直接攻撃できる好機であるとしている。攻撃計画をイスラエルは米国に提示したが、4月17日の記者会見でトランプ大統領は「私は急いではいない」とし、イランとの協議を優先する考えを示した。

トランプ大統領は世界各地の戦争から米国を切り離す一方、米国の経済的利益の確保を優先する。4月、対米交渉に入る直前、イランのペゼシュキアン大統領が、米国の対イラン投資に言及したことは重要である。今後の協議で米国企業の投資を認められることになれば、米国企業にとっても大きなビジネスチャンスになる。

協議の着地点に関して、イスラエルは核開発の放棄(リビア方式)を最善とするが、イランにとってはカダフィ政権を崩壊に導いた核開発の放棄は論外であり、核開発を放棄する選択肢はない。イラン側は遠心分離機の廃棄・濃縮の完全停止などの排除を求めているが、交渉の焦点は、核開発の継続を前提に、IAEA(国際原子力機関)の査察の実効性の確保に置かれる公算が大きい。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

エネ政策の修正迫られる米民主党


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

米トランプ政権の乱脈な諸政策が世界を混乱させている。特に、野放図な関税の乱発は、国際供給網を混乱させ、世界経済を失速させている。各国とも対策に追われるが、この理不尽な措置で打撃を被るのは何より米国自身だ。食品、衣料、自動車などの必需品の高騰は低・中産層の家計を直撃する。

その不安を受け止め、政策の非を正す役割を負うのは野党・民主党だ。トランプ政権の支持率も低下しており、党勢を挽回すべき局面。しかしここに一つの問題がある。それは民主党の教条的なエネルギー政策だ。

4月25日付ウォールストリート・ジャーナル紙が、民主党の有力な次期大統領候補とも目されるニューサム・カリフォルニア(加)州知事を批判。その矛先は石油精製企業に対する加州の政策に向けられている。大気浄化法の特例措置を利して、同州が一方的に脱炭素政策を進める結果、精製企業が撤退に追い込まれている、としている。

4月半ばに米精製大手バレロ・エナジーがサンフランシスコ製油所の1年内の休止ないし閉鎖を発表。既にフィリップス66も今年の第4四半期のロサンゼルス製油所閉鎖を決めており、合わせて加州の精製能力の2割弱が失われる。地勢的に加州はメキシコ湾岸の精製センターと隔絶し、その厳しい品質規格も相まって、石油製品供給を地場の製油所に依存する。しかし加州当局が非現実的な炭素集約度低下目標をさらに厳格化する中で、精製企業が事業継続を不可と判断しつつある。

加州が自滅的な石油危機に陥る事態となれば、民主党の経済運営への不信を高め、米政権交代の道のりは険しくなる。エネルギー政策は、依然として民主党の鬼門である。

(小山正篤/石油市場アナリスト)

【ガス】出口見えないエネ補助金の評価 AIに聞いてみた


【業界スクランブル/ガス】

政府はガソリンや電気・ガス代への補助を再開する予定だが、参院選を見据えた「バラマキ」と苦言を呈さずにはいられない。ガソリン補助金は3カ月間限定で2022年1月に開始したが、3年以上も延長を繰り返し、昨今の原油安・円高の進行で今年4月ようやくゼロになった。また、電気・ガス補助金も23年1月に始め24年5月でいったん打ち切ったが、「酷暑乗り切り緊急支援」と名を変えるなど延長を繰り返し、ようやく3月に終了。その矢先の残念な決定である。

一連の支出は既に計12兆円を超えた。最大の問題は、この予算が一過性に終わっている点だ。その場しのぎの補助金ではなく、省エネ機器や再エネ設備への「バラマキ」などに使っていたら、今後10年以上はその恩恵を受けられたはずだ。

試しに生成AIを使用し、「物価対策・ダメな施策」と調べてみた(以下AI回答)。「短期的には効果があるように見えても、長期的には副作用や逆効果をもたらす可能性がある政策。①補助金や価格統制による市場の歪み(ガソリンや電気料金に対する一律補助金など)、②短期的な減税の乱用(特に消費税減税)、③為替介入のみに頼る対応、④供給側の制約を無視した需要刺激策―。こうした施策は、国民の「その場しのぎの満足感」にはつながるかもしれないが、根本的な物価上昇の抑制にはつながらず、経済全体にとってはマイナスになることがある。必要なのは、エネルギー効率の向上、サプライチェーンの強靭化、賃上げと生産性の両立など、根本的かつ中長期的な対応です」―。政府も生成AIを参考にしてはどうだろう。(Y)

「掘りまくれ」に黄信号? 石油各社が米貿易政策に懸念


【ワールドワイド/環境】

トランプ大統領は就任100日目の4月29日にミシガン州で演説し、「われわれの国の歴史上、最も成功した政権の最初の100日間を祝うためにここにいる。毎週、不法移民の流入を終わらせ、雇用を取り戻している」と成果をアピールした。

同日、リーヴィット報道官、ベッセント財務長官が記者会見で100日の成果をPR。エネルギーについては「ジョー・バイデン氏の無謀なエネルギーと化石燃料への攻撃を終了し、アメリカのエネルギー優位性を回復した。この大胆なアプローチにより、石油と天然ガスの価格は大幅に下落している。ガソリン価格は7%下落している。内務省はアメリカ湾での石油生産を1日当たり10万バレル増加させる新たなオフショア掘削政策を発表した」としている。

確かにガソリン価格はここ数年来で最も下がっているが、これはトランプ大統領が推進する「Drill, Baby, Drill」 によって国内エネルギー生産が増大し価格が下がったというものではない。むしろトランプ関税が国内生産増大を阻害する可能性がある。

トランプ関税が世界経済の減速をもたらすとの懸念からWTIの先物価格は4月中に13ドル低下した。この下落幅は2021年11月のCOVID変異株拡大の時以来だ。石油会社はトランプ大統領の規制緩和や石油・ガス掘削のコスト削減・簡素化方針を歓迎してきたが、最近は貿易政策に対し深刻な懸念を表明しはじめている。

シェール石油企業が利益を出すにはWTIが少なくとも65ドルが必要であるとされ、60ドル台前半になれば掘削を縮小する企業が増える。実際テキサスにおけるシェールのリグ数は昨年3月の376から3月には290に低下した。クリス・ライトエネルギー長官がCEOを務めたリバティ・エナジーの株価もトランプ政権発足後、40%も下落した。石油価格はトランプ関税以外にも地政学的緊張、OPECプラスの動向などにも影響を受けるが、現在の価格水準ではガソリン価格低下につながっても「Drill, Baby, Drill」にはとてもつながりそうにない。関税により世界経済へのマイナスの影響が拡大すればCOVID19のように世界の温室効果ガスが低下するかもしれない。トランプ大統領は温暖化防止に冷淡なのに皮肉なことである。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】電力市場拡大局面で 存在感希薄な新電力


【業界スクランブル/新電力】

蓄電池とDC―。電力業界に流行語大賞なるものが存在するのであれば、両者は間違いなく、今年の大賞候補だろう。電力業界における久々の市場拡大チャンス到来である。電力小売全面自由化という市場拡大の潮流に乗った新電力ではあるが、今回の市場拡大チャンスでの存在感は、一部大手を除き、やや希薄な印象を受ける。

新電力は従来、従量料金単価が比較的高く負荷率の低い低圧・高圧の需要家を主たるターゲットにしてきた。利益の源泉は主に基本料金である。負荷率が極めて高く、従量料金部分では逆ザヤリスクのある特別高圧が大多数を占めるDCは、従来の顧客ターゲットからは外れる。逆に、系統用蓄電池は負荷率が低く既存料金下で極めて魅力的な顧客であるため、競争激化=基本料金ダンピングの果ての逆ザヤリスクを警戒しているのかもしれない。

ただ、足元の状況として、原発稼働率低下を主要因とする旧一電の値上げにより、特別高圧料金は新電力にも対抗できる水準になりつつある。

基本料金ダンピングにしても、そもそも小売に特化している新電力が容量拠出金や託送料などインフラ整備に必要な費用を別途顧客に請求しているのであれば、基本料金の存在理由がもはや「?」である。蓄電所特化新料金メニューによる競争があっても良い。

また、このコラムでは批判の対象とされがちな規制当局ではあるが、試行錯誤を経て電力システム改革は着実な成果を上げている点は評価したい。新電力にとって、もはや特に不利な環境とは言い難い。

こうした環境を生かし、新電力各社にはさらなる存在感を発揮してもらいたい。(S)

インドで原発開発加速 外資参入に向け法改正着手


【ワールドワイド/市場】

インド政府は2月、2025度予算案で、原子力発電の開発を加速させる方針を示した。同国では現在、24基(818万kW)の原子炉があり、建設中と政府承認済みの計画を加えると32年の合計の設備容量は2248万kW。これを47年までに1億kWへと引き上げる。また、「原子力エネルギー計画」として国産の小型モジュール炉(SMR)の研究開発に2000億ルピー(3300億円)を割り当て、33年までに少なくとも5基のSMRを建設する。

政府は国産技術の加圧重水型炉(PHWR)、輸入大型軽水炉、SMRなどあらゆる技術を採用する方針で、外資および民間セクターからの投資を呼び込むため、原子力法と原子力損害賠償法の改正を進める。1964年に制定された現行の原子力法は、原子力事業の担い手を国営企業に限定しており、現在、インドでは原子力発電公社(NPCIL)、発電公社(NTPC)、BHAVINIの3社が手掛けている。報道によると、アダニ、タタ、リライアンス、ジンダルなどが原子力事業への参入に関心を示している。IPP大手アダニ・パワーは既設の石炭火力発電所を順次原子力に置き換え原子力発電所を計3000万kW開発する計画だと報じられた。

外資の参入は、ロシアによるクダンクラム原子力(加圧水型軽水炉)の建設実績がある一方で、欧米企業は、10年に制定された原子力損害賠償法により、原子炉のサプライヤーが賠償責任を負う可能性があることへの懸念から進んでいない。政府は4月、この状況を打破するため、原子力法と原子力損害賠償法の改正に向けて、原子力庁、原子力規制委員会、Niti Aayog(政策委員会)および法務省で構成される委員会を設置した。廃棄物管理、廃炉、核セキュリティと保障措置などについて検討し、改正法案は早ければ7月の国会に提出される。

NTPCは今後20年間で原子力3000万kWの開発に620億ドルを投資する方針で、加圧水型炉(PWR)の開発目標を約1500万kWとした。3月下旬には、100万kW超の大型PWR技術の国産化と新設に向けて、グローバル企業に対して協力ベンダーの関心表明の募集を開始した。既設石炭火力をSMRに転換するため実現可能性調査の準備も進めている。同国ではSMR開発でも他国との協力しており米国ホルテックやロシアのロスアトムなどと関係者間で協議が進められている。

(栗林桂子/海外電力調査会・南アジアグループ)

【電力】米国で論争 併設負荷はどう考えるべきか


【業界スクランブル/電力】

最近米国で、大規模需要であるデータセンター(DC)が隣接する原子力発電所などから電力系統を介さずに共有を受ける併設負荷または共立地負荷の扱いを巡り、賛否両論が起きている。

送電事業者が、大規模需要と大規模電源が系統から離脱することによる信頼度・費用への悪影響を懸念している一方、発電事業者とDC事業者は系統増強費用の回避と早期の供給実現にメリットを感じているようだ。

日本に本件と同様の動きがあった時のことを想像してみるに、DC構内に発電所を設置するのであれば、通常の自家発設置と変わらないし、隣接地に発電所があるなら自営線を敷設すればよく、日本の制度上は止めることはできないように思える。

系統を介さない供給に対する歯止めの前例としては、都市ガスの二重導管規制がある。たとえ工場がLNG基地の隣接地に立地していても、一般ガス導管事業者の供給区域全体の導管利用コストが上昇する可能性を理由に、電力会社は自前の導管でガスを供給することができない。熱量調整不要と言っている需要家にとっては、オーバースペックで割高になってしまう。これと同じ理屈で日本版併設負荷をブロックするのは、一言でいえば格好悪い。

そもそも、特定の需要のために大規模な系統増強が必要となる状況は、送電網を需要全体で支えるコモンキャリアと位置付ける現在の電力システムの前提を逸脱しているようにも感じられる。ではどうするか、にわかに答えは出ないが、送電事業者も系統増強を極力回避する手段として併設負荷を前向きにとらえてもよいかもしれない。(V)

豪労働党が政権維持 国内ガス供給優先路線強まるか


【ワールドワイド/資源】

5月3日に実施された豪州連邦総選挙で、与党・労働党が勝利した。2022年の政権交代から続く与党の再選により、脱炭素を軸とした政策運営が今後も維持されることになるだろう。同時に、天然ガスについては「移行期に不可欠なエネルギー」としての位置付けは明確にしており、脱炭素とエネルギー安定供給を両立させるバランス路線を模索している。

しかし、再選後の政権には、より差し迫った課題が突きつけられている。それが、主に東海岸における国内ガス供給の不安定化である。

豪州では、人口の約8割が集中する東海岸地域において、既存ガス田の減産、新規開発の遅延、LNG輸出優先の体制などが重なり、国内供給がひっ迫する兆しが強まっている。

このような中で、労働党政権はすでにいくつかの制度改革を進めてきた。「豪州国内ガス安全保障制度(ADGSM)」は、国内で供給不足が見込まれる場合、輸出事業者に対して国内供給を優先させることを目的としている。労働党政権による23年4月の改正では、その発動検討の頻度が従来の年1回から四半期ごとに見直され、より迅速な対応が可能となった。また、同年7月からは東海岸のガス生産者に対して卸売価格の上限が設定されるなど、価格抑制策も導入されている。

今後3年間の政権運営において、国内供給優先の姿勢が強まる可能性は否定できない。むしろ東海岸におけるガス供給不足に対して、何らかの措置や判断を求められる可能性がある。LNG輸出への制限措置が検討される事態も十分に想定され、調達環境の観点から豪州のエネルギー政策を引き続き注視する必要があるだろう。ただし、グローバルなLNG市場全体では今後の供給拡大が見込まれることもあり、マーケットの状況によっては、仮に一時的な豪州の制限が生じても、それによってすぐに価格高騰に直結するとは限らない、とも考えられる。足元の市場環境や他国からの供給状況との兼ね合いを冷静に見極める姿勢が必要になる。

脱炭素とエネルギー安定供給を同時に追求しなければならない中で、今回の総選挙による豪州の政権選択と今後の政策運営は、日本にとっても決して対岸の出来事ではない。資源の安定供給と将来予見性というエネルギー安全保障の核心にかかわる論点として、今後の展開は丁寧に見ていきたい。

(芝 正啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

新エネ・再エネ拡大に総力 次世代技術普及へ活動強化


【巻頭インタビュー】寺坂信昭/新エネルギー財団会長

新エネルギー・再生可能エネルギーの拡大は、国家的課題として対応が求められている。

産学官の結節点に当たる新エネルギー財団が果たすべき役割とは。寺坂信昭会長に聞いた。

てらさか・のぶあき 1976年通商産業省入省。資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部計画課長、同電力ガス事業部長、原子力安全・保安院長などを経て2011年退官。その後、カケンテストセンター理事長などを経て、23年11月から現職。

―会長就任から約1年半が経過しました。今後、どのような取り組みに注力していく考えでしょうか。

寺坂 当財団は、新エネルギーと再生可能エネルギーの導入・普及拡大に向けて調査研究や政策提言、広報・啓発、人材育成などに取り組んでいます。今後は、新エネ・再エネの拡大がこれまで以上に国家的な課題として位置付けられ、社会的な要請も一層強くなると認識しています。産学官の結節点として、新エネ・再エネに関わる幅広い業界と接点を持つ財団の強みを生かし、活動をさらに充実させることで普及拡大へ一層、貢献していきます。また、今年度からは水素分野にも幅を広げ、調査研究や委員会活動を充実させていく方針です。

―2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画について、どのように評価されていますか。

寺坂 エネルギーは、水・食料・空気と並ぶ、われわれの生活に欠かせない存在です。国家運営の基盤としてのエネルギー政策という意識は、従前の計画からしっかり引き継がれていると認識しています。一方で、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、電力需要が増加に転じる見通しが示されたことは大きな変化です。2040年度における再エネ電源比率は4~5割とされ、22年度比で倍増させる必要があります。これは産学官の総力を挙げて取り組むべき課題であり、再エネの主力電源化が計画実現のカギを握ります。加えて、地域との共生や国民負担の抑制といった視点も重要であり、これらすべてが、第7次エネ基に盛り込まれている点を高く評価しています。

また、地球温暖化対策計画やGX2040ビジョンが同時に策定されたことも大きな特徴です。エネルギー政策に着目すれば、安定供給、脱炭素、経済成長という三つの目標を同時に達成するには、新エネ・再エネの拡大がこれまで以上に不可欠であることが、明確に示されたと受け止めています。

―3月に公表した「新エネルギーの導入促進に関する提言」のポイントは。

寺坂 24年度の提言では、第7次エネ基の内容を踏まえ、今後の具体的な制度設計を後押しすることを目的に、産業界をはじめ関係各界で構成する当財団の新エネルギー産業会議の委員の総意として取りまとめました。第7次エネ基で掲げられた「再エネ主力電源化の徹底」は、リスクを抱えることなく実現させることが困難であり、各分野が直面する課題を短期から中長期にわたって整理しています。その中で当面の課題として挙げたのが、諸環境変化に伴うコスト増による事業採算性の低下です。特に風力発電事業はその影響が大きく、洋上風力に限らず陸上風力にも共通する切迫した問題です。また、地域との共生は全ての電源に共通する重要な視点であり、それぞれの電源特性を踏まえた政策による支援が必要です。今後も、技術開発への支援や規制のあり方も含めた課題解決を後押しする提言を行っていきます。

世界でもまれなGX特化型組織 設立の背景に三つの源流


【オピニオン】梶川文博/脱炭素成長型経済構造移行推進機構理事

「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」。このコラムの横幅の字数制限と同じ、暗号のような漢字16文字である。

2024年7月、政府と経済界が協力し、GX実現に特化した専門組織を立ち上げた。GX推進法に基づく経済産業大臣の認可法人であり、通称「GX推進機構」と名乗っている。内閣法制局との議論の結果、上記の16文字が法律上の正式名称である。

私は、経済産業省で設立の責任者を務め、組織設立とともにこの組織に移り、企画担当理事として、組織づくりに奮闘している。GX推進機構は、世界にもまれにみるGXに特化した専門組織であるが、設立に向けた源流は、大きく三つある。

一つは、22年1月から開催した「クライメイト・イノベーション・ダイアログ」にさかのぼる。GX投資の不確実性に対して、公的・民間資金を組み合わせて、官民投資をいかに増やしていくか、官民の金融機関関係者が集まり、タブー無しの議論を行った。最近の言葉でいえば、ブレンデッド・ファイナンスである。この対話から、大規模かつ長期でのリスク補完機能を持つ公的機関の必要性が参加者から認識された。ここでの議論なども踏まえて、GX推進法の中で、GX推進機構の業務として、債務保証などによる金融支援業務が位置付けられた。

もう一つは、自主的な排出量取引からの発展である。GXリーグでの試行期間が終わり、26年度からわが国で排出量取引が本格導入される。世界では、国の省庁とは別に、この制度を執行・運営する専門組織を設けて、専門的知見やデータを積み上げながら、効率的・効果的な政策執行を実施している。当機構は法律に基づきカーボンプライシング業務の実務面を担当する。韓国のK―ECO、豪州のCERといった専門機関とも既に交流を開始。100人規模の人員を抱えて、日々制度執行をしている海外機関から学びつつ、来年度に向けた準備を進めている。

これらの二つの源流に加えて、もう一つはGXハブ機能である。GX分野は、政策、ビジネス、金融が密接に結びつきながら、脱炭素と経済成長の二兎を追うことになるが、これらを一体的に推進する主体がなかった。経済界からは、GX関連情報の統一的な発信や、異なる産業間での連携の重要性を訴える声が多く届けられていた。こうしたニーズに応えるため、当機構の3大業務の一つと位置付けた。現在、セミナー、ネットワークイベントなどの企業間連携の取り組みを進めている。

GX推進機構は次の7月で業務開始1年となるが、まだまだヨチヨチ歩き状態。50年までの長い道のりの中で、多くの方に信頼されるパートナーとなるべく、組織の成長スピードをさらに上げていきたい。

かじかわ・ふみひろ 2002年早稲田大学法学部卒、経済産業省入省。08年米コロンビア大学ロースクールLL.M卒。18年経済産業政策局政策企画官、19年産業技術環境局環境経済室長、23年同局GX金融推進室長などを歴任。24年から現職。