【リレーコラム】竹原 優/丸紅米国会社ヒューストン支店長
米国の中でもエネルギー産業が最も盛んなヒューストンに赴任してから3年が経つ。この間に新エネルギーとして注目されている水素やアンモニアを巡る米国の環境は、めまぐるしく変化してきた。
IRA法が脱炭素の怒涛の流れ生む
赴任した2022年当時は世の中が脱炭素に向けて大きく動いていた頃で、米国も例外ではなく、輸出用のみならず地産地消型のプロジェクトが山のように存在していた。米国のエネルギー産業は上流、中流、下流に細分化されており、各分野を専門とする数多くの企業が大手から中小に至るまでひしめきあっているが、当時は上流、下流、大小を問わず多くの企業が新エネルギー分野に踏み出そうとしており、業界全体の熱気が感じられた。
22年8月に総額4300億ドルにも上るインフレ抑制法案が成立したことでさらにボルテージが高まり、いよいよ多くのプロジェクトが実現段階に入ると目され、この頃の一連の流れは怒涛のような激しさがあった。中には他社に遅れを取らないようにFID(最終投資決定)を待たずに長期リード資材の発注を行う企業も見られた。ところがその後、各社が検討を進めていくにつれ、米国の高いインフレによりプロジェクトコストが当初の見込みよりも大幅に上振れすること、具体的な需要がまだまだ追い付かず将来の見通しが立てられないなど、多くのプロジェクトが中断または撤退となり、新エネルギーを巡る熱狂は急速に冷めていった感がある。もちろん現在でも着実に開発が進められているものもあるが、3年前とは比較にならないほど数が減った。この3年間はまさにジェットコースターのような激しい浮き沈みだった。
話は変わるが、この冬にカナダの国立公園バンフに旅行した際、カナディアンロッキーに鎮座するコロンビア氷河の雄大な景色を観てきた。氷河の末端(最下流)から遠ざかる向きに断続的に立て看板がいくつか設置されていたので中身を見てみると、それぞれの看板は年代ごとの氷河の末端の位置を表していた。つまり、かつて氷河は今よりもっと遠くまで伸びていたことを表しており、過去70年で1㎞ほど氷河が溶けて後退していることが目視できるようになっている。バンフの凍てつくような寒空の下、あらためて地球温暖化の影響を考えさせられた。
トランプ大統領の就任で米国はその時の政権によって政策が大きく変わることを肌で感じているが、長期的に見れば気候変動対策としての脱炭素の流れは変わらないだろう。今後も新エネルギー分野の動きを注視していく。

※次回はCOSMO E&P USAの河口光康さんです。