【ガス】第7次エネ基が示唆する 天然ガスは「到達点」か


【業界スクランブル/ガス】

トランプ旋風が吹き荒れている。これまでタブー視されてきた議論や、政治的に慎重に扱われてきたテーマに対して、遠慮なく「本音」を語り、変革を進めている。トランプ大統領はこの動きを「常識を取り戻すコモンセンス革命」と呼んでいる。

日本のエネルギー界においても「本音の議論」がなされる兆しが見えてきた。今回閣議決定された第7次エネ基の原案がそれだ。第6次までは2050年カーボンニュートラルの目標ありきで、脱炭素化自体が目的化されてきた。今回強調されたのは、脱炭素化は手段であって、ウクライナ戦争や中東情勢を受けての「安定供給第一」、データセンターや半導体工場などの「産業競争力確保」が優先されるべき点である。特筆すべきは、脱炭素技術のコスト削減が進まず既存技術を中心とするケース、いわゆる「リスクシナリオ」が初めて提示されたことだ。

ここで示される40年一次エネ供給量では、再エネ20%、原発12%、天然ガス26%。現在の天然ガスの割合は21%前後であり、重要な「トラジショナルエネルギー」として、天然ガス供給量が増加する位置付けとなっている。国際大学の橘川武郎学長も「複数シナリオのうち最も現実的なシナリオがリスクシナリオであり、再エネや原子力以上に未来のあるのが天然ガスだ」と強調する。

今後深めるべき論点は、天然ガスが「トランジショナル」ではなく、「デスティネーション」として扱われるべきという点だ。今後、天然ガスは低炭素・脱炭素技術と組み合わせることで、持続可能なエネルギーとしての地位を確立できる可能性が高い。(G)

ドイツの二大政党正念場 国民の反発抑制なるか


【ワールドワイド/環境】

2月のドイツ総選挙でCDU・CSU(キリスト教民主、キリスト教社会同盟)が第一党、極右のAfD(ドイツのための選択肢)が第二党となり、SPD(社会民主党)、緑の党は議席を大きく減らした。CDU・CSUは「AfDとの連立は絶対にあり得ない」と、SPDとの大連立協議を進めている。

SPD、緑の党、FDPの「信号機(赤・緑・黄)政権」は緑の党のハベック気候変動・経済大臣が再エネを中核としたエネルギー転換の推進と脱原発、脱石炭火力を推進した。ウクライナ戦争によるエネルギー危機の中、3基の原発を閉鎖するなど、エネルギー安全保障よりもイデオロギーを優先した結果、国内のエネルギーコストは高騰した。CDU・CSUは2045年までに温室効果ガス排出量を正味ゼロ、30年までに65%削減との温暖化目標およびそのためのエネルギー転換という大方針は堅持しつつ、前政権の官僚主義、イデオロギー優先の政策を転換し、プラグマティズムに基づくエネ政策、エネルギーコストの引き下げを重視している。

両党は3月初め、連立協議の中で不透明性を増す安全保障環境に対応して防衛費を憲法上の債務ブレーキの対象から除外すること、インフラ整備に5000億ユーロの基金を設立することに合意した。エネルギー転換には巨額の資金がかかるため、この点は前進だ。CDU・CSUは前政権が導入した暖房法の廃止を主張している。この法律は暖房における再エネ推進を義務化するもので国民からの反発が大きい。SPDの顔を立て、完全廃止ではない形での決着が予想される。そのほか、35年までの内燃機関自動車販売禁止にも反対しており、これはEU指令を起源とするため、ブラッセルでの決着が必要だ。原子力オプションも見直すべきとしているが、廃炉が決まった原発の再利用ではなく、SMRの研究開発などを進めることになろう。

両党の連立協議は迅速に進み、4月頃には成立するとみられている。国民は信号機内閣の内部対立と意思決定の遅さにフラストレーションをためている。大連立がその繰り返しになれば、次期選挙においてAfDのさらなる勢力伸長につながることは確実だ。ドイツの政治を長く担ってきたCDU・CSU、SPDにとって正念場となる。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】いまだに課題山積み 電源アクセスの公平性


【業界スクランブル/新電力】

2月18日、第7次エネルギー基本計画が閣議決定された。その2カ月ほど前から行われたパブリックコメントには、これまでをはるかに超える4万超の意見が寄せられ、エネルギーに対する世間の関心の高さが示された。

注目されていた2040年度時点の電源構成は、再エネ4~5割、原子力2割、火力3~4割と決まった。再エネ導入比率が30年度から目立って増えていないこと、原子力の導入量2割の実現可能性などの論点を投げかける声が聞こえてくるが、需要が増加するの見込みの中で、各種電源の導入バランスを模索した結果と言える。

小売事業の環境整備においては、新電力シェアが2割に到達し、需要家のニーズに応じたサービスが創出されたという「評価」とともに、市場環境の厳しい局面における事業者の退出を端緒とした需要家サイドの混乱が「課題」として挙げられた。電気料金が燃料価格に合わせて大幅に変動することは社会的に許容しがたいとされ、スポット市場を中心に供給力を確保して需要家に価格を転嫁するビジネスモデルに対して一定の課題が提示された形となった。

新電力は、20、22年度の市場高騰や短期の相対取引の激減を経て、市場価格のボラティリティをヘッジするためにこうしたビジネスモデルにシフトしてきたわけで、そういった意味で内外無差別卸や中長期での相対取引のアクセス強化にまだまだ課題があると考えられる。

特に小規模事業者は、こうした取引や小売メニューへの適用がまだまだ限定的だ。エネ基が掲げる脱炭素電源の導入強化と合わせ、制度措置の強化を期待したい。(K)

中国で初のエネルギー法施行 水素の規制緩和で利用拡大へ


【ワールドワイド/市場】

中国はCO2排出のピークアウト(2030年)とカーボンニュートラル(60年)を目指す「3060目標」に向けて、その土台となる中国初のエネルギー基本法「能源法」を1月に施行した。日本のエネルギー政策基本法に相当し、エネルギーの効率的発展とエネルギー安全保障の確保を目的としている。

制定には19年を要し、異例の3回にわたるパブリックコメントが実施された。審議の過程でエネルギー貯蔵や水素に関する条項が追加され最終的に昨年11月に全人代常務委員会で可決された。法律はエネルギーの効率的利用、低炭素社会の推進、クリーンで安全なエネルギーシステムの構築を掲げ、国家・地方政府のエネルギー計画策定を義務化。再エネを優先しつつ、石炭火力の合理的配置や化石燃料のクリーン利用も求めている。

能源法の特徴の一つは、「3060目標」に基づく低炭素化の推進だ。CO2削減とグリーン成長がエネ政策の基本方針となっている。水素は正式にエネルギーとして定義され、モビリティや発電などでの利用拡大が期待される。これまで危険物として多くの制約があったが、新法により規制緩和が進む可能性がある。また、エネルギー政策の管理が従来のエネルギー消費量ベースから炭素排出量ベースへ移行し、より環境負荷の低減を重視する方向へ転換している。

国際的な対抗措置を明記した点も注目される。中国に対して差別的な制限や制裁を行う国や地域に対し、報復措置を講じることができると明記されている。この条項は、法案審議の最終段階で追加されたと見られ、国際情勢の変化を反映したものと考えられる。さらに、中国国外で同国のエネルギー安全保障を脅かす行為を行った個人や組織に対し、中国国内法で責任を追及することも規定されている。

能源法により、中国のエネルギー政策が統一的な枠組みを得て、エネルギー市場や技術開発に関する法整備が進むと予想される。特に、水素エネルギーの拡大や低炭素社会への移行が加速する可能性が高い。トランプ米政権は中国に対する関税を引き上げた。対抗して中国は米国原産のエネルギー輸入に報復関税を課した。米中関係は不透明な状況にある。こうした外部環境の変化の中で、中国が「3060目標」に向けてどのような政策を展開するのか、また、26年から始まる第15次5カ年計画にどのように反映されるのか、今後の動向が注目される。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】市場機能を殺す 目先の安定性追求


【業界スクランブル/電力】

卸電力市場の価格については、漠然と「安定」を期待している人が多い。しかし、「市場の安定」は本当に望ましいのか。わが国の卸電力市場においては、市場支配力を持つ事業者による相場操縦を避ける目的で、価格の変動を抑制する仕組みが組み込まれているが、「副作用」は議論されてきただろうか。

例えばスポット市場においては、(設備能力上の)「余剰電力の全量を限界費用に基づく価格で入札」が「指針」で定められる。本来、設備能力の余剰があっても、需要急増などで手持ちの燃料の不足が見込まれれば、発電事業者は事業リスク回避のため、入札量を減らしたいところだが、それは燃料切れ寸前まで許されない。入札量減少で価格が上がれば、石油火力など燃料を多く保有する発電所の出番が増えたはずだが、価格変動のない市場には、燃料を多く保有する動機は生まれない。

石油火力のような「有事の予備力」は、市場では「オプション」として取引されるが、その値段は、まさしく市場の価格変動率で決まる。投球数の少ない江夏豊や大魔神・佐々木の年棒が高いのは、一球当りの価値が高騰する場面での登板が多いからである。

需給を反映した価格変動の欠如は、石油火力の退出を促し、余裕ある燃料保有を妨げているだけでなく、新たな予備力である蓄電池やDRの普及にも悪影響があるはずだ。

容量市場など他の市場でも、発電事業者の入札には量や価格に制約がかかる。目先の安定を追うあまり市場の機能を殺し、ひいては一番大切なお客さまを危機にさらすことはないのか。安定すべきは小売価格。卸売価格のヘッジの手段はあるのだ。(M)

ウクライナ経由のロシア産ガス 供給停止で欧州市場ひっ迫


【ワールドワイド/資源】

ロシアからパイプラインによる欧州向けの天然ガス輸出量はウクライナ侵攻以降急減してきたが、今年の年明けとともにさらに状況が変化した。ウクライナを経由するための契約が昨年末に失効したからだ。ウクライナルートはロシアのパイプライン輸出能力の約4分の1、欧州向けの半分程度を占めていた。停止することでロシアの戦費調達を低減させることがウクライナの狙いだ。ロシアのガス輸出体制への影響は大きいが、それ以上に、これまでロシアからの安定したガス供給に依存してきた欧州も影響を受けている。

欧州では米国産を中心とするLNG輸入量が2022年以降急増し、ガス価格高騰が続いている。1000㎥当たりで見ると、昨年初旬は250~300ドル程度だったが、今年2月には600ドルを記録。特にウクライナ経由でのガス調達に依存していたモルドバでは供給が途絶し深刻な状況となったほか、ウクライナの次の通過国だったスロバキアも、トランジット収入の消失と高いガス調達コストのダブルパンチを受けている。

ウクライナ国営石油・ガス会社Naftogazがロシア国営Gaz-promとトランジット契約を再開する見込みがない中、同ルートの存続のため複数の代替オプションも検討され、アゼルバイジャンやカザフスタンを供給源にガスを流すことやトランジットの当事者をGazpromではなく需要者である欧州企業に置き換えるといったアイデアがあった。しかし実現に向けた具体的な情報はなく、現実的に有望な手段は、既存のトルコ経由ルートで欧州向け輸送量を増やすというもの。実際、トルコストリームのロシアからの輸送量は増加が続き、今年2月には月間輸送量が開通以降最大を記録した。一方、増量には限度があり、失われたウクライナ経由の一部を埋め合わせることしかできない。またウクライナがロシア領内のトルコストリームの施設に対するドローン攻撃を年明け以降複数回実施しているとの情報も出てきており、予断を許さない。

欧州はLNG輸入と地下ガス貯蔵の引き出しによってこの冬を乗り切る。しかし次の冬に向けてのガス調達が夏にかけて待っている。欧州ガス市場のひっ迫は、アジア市場とのLNG争奪戦を起こし、大陸を挟んだ日本にとっても他人事ではない。日本のエネルギー安全保障の観点からも、ウクライナ戦争の早期終結と市場の緊張緩和が切望される。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年4月号)


【岩谷産業/水素の社会実装に向けたフォーラムを開催】

岩谷産業は2月26日、「広がる水素の実装に向けて」をテーマにイワタニ水素エネルギーフォーラムを都内で開催した。資源エネルギー庁の伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長が「水素等を巡る最新動向」について講演。「今後、エネルギーの需要増加が想定され、原子力や再エネとともに合成燃料や水素などは重要なエネルギー源だ。そうした中、同社は水素チェーンの構築に向けて技術を磨いている」と述べた。この他、日本原子力研究開発機構が「高温ガス炉を用いた大規模水素製造実現に向けた取り組み」について、三井住友銀行とINPEXは自社の水素事業について講演した。


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、沖縄ガス/琉球大学病院にガスコージェネを導入】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は3月14日、沖縄ガスと共同で琉球大学病院施設内にガスコージェネレーションシステム(CGS)を導入したと発表した。導入に際しては、TGESがシステム設計から施工、エネルギー調達、メンテナンス、監視、オペレーションまでを一括して担うエネルギーサービス方式を採用した。CGSは停電時でも発電可能なブラックアウトスタート仕様でレジリエンスの向上に寄与する。独自のエネルギーマネジメントシステム「ヘリオネットアドバンス」では気象情報や施設の稼働状況を基に平常時の省エネ・省CO2を実現する。4月1日から運用を開始する。


【マクニカ/レベル4対応の自動運転EVバス2台が運行開始】

マクニカは2月、茨城県常陸太田市でレベル4の自動運転に対応したEVバス「Navya EVO」2台を用いた定常運行を開始した。常陸太田市とマクニカは2023年2月に自動運転EVバスの実証実験を実施。昨年2月には同バスを使った定常運行を開始した。今年2月からは新ルートを運行する同バスを1台追加してより多くのデータを収集し、25年度中にレベル4の自動運転による運行を目指す。定常運行において、マクニカは自動運転EVバスの運行、自動運転走行に必要なデータ取得・セットアップ、技術的資料作成、関係各所の調整対応、運行体制の構築などを担当している。


【コスモ石油、日揮ホールディングスほか/国産SAFの供給を開始】

コスモ石油、日揮ホールディングス、レボインターナショナル、サファイアスカイエナジー の4社は3月6日、コスモ石油の堺製油所構内で国産SAF(持続可能な航空燃料)大規模製造装置の竣工式を行った。国内外の航空会社への廃食用油を原料とする国産SAFの供給を4月に開始し、年間約3万㎘の製造・供給の早期実現を目指す。


【アストモスエネルギー/業界向けにガス体エネの重要性を強調】

LPガス元売り大手のアストモスエネルギーは3月3日、都内でレセプションパーティを開催した。冒頭の挨拶で山中光社長は「世の中の脱炭素議論は3E+Sを重視した現実路線に戻りつつある。そうした中、ガス体エネルギーが果たす役割は今後高まると信じている」と強調した。会場には造船、海運、石油メジャー、大手サプライヤーなど約440人が参加した。


【東洋計器/業界向け勉強会でLPガスの強み訴求】

計量器メーカーの東洋計器は3月7日、都内で関東東計会を開催した。同社の土田泰秀会長は3部料金制度を前提とした新・料金メニューの活用策などについて講演した。特別講演ではNXエネルギー中部の水谷清昭社長が「LPガス事業のDXによる生産性とサービス向上で選ばれるガス会社へ」と題して、システム連携による時間帯割引メニュー活用を紹介した。

激論経て野心的なNDC決定 目標「実施」のフェーズへ


【巻頭インタビュー】浅尾 慶一郎/環境相

大白熱の議論を経て、政府は2月に国連事務局に日本の新たな温暖化対策目標・NDCを提出した。

世界情勢が一層混とんとする中、日本の環境行政をどうけん引していくのか、浅尾環境相に聞いた。

あさお・けいいちろう 参議院議員。当選3回(衆院当選3回)。東京大学法学部卒。米スタンフォード大学経営大学院修了(MBA)。1998年初当選。みんなの党代表、自民党入党後は参議院議院運営委員長などを歴任。24年から現職。

―第2次トランプ政権が誕生し、世界各国ではさまざまなリスク・分断が顕在化しています。日本はどう対峙し、どのような役割を果たすべきでしょうか。

浅尾 世界の気温上昇を工業化以前から1・5℃以内に抑えるためには、主要排出国を含む全ての国の取り組みが重要です。そのような中で、米国のパリ協定からの脱退表明について、気候変動問題を担当する私自身としては残念に感じています。ただ、脱炭素の取り組みは地方政府や経済界を含むさまざまなステークホルダーにも広く浸透するなど、わが国を含め世界的な潮流は変わっていません。

COP29(気候変動枠組条約第29回締約国会議)では、新たに気候資金の目標として、気候変動対策のための途上国向けの資金を2035年までに毎年少なくとも1・3兆ドルへ拡大させるよう全てのアクターに求めることに合意しました。今後は官民による気候変動分野への莫大な投資機会が生じることになります。民間事業者の皆様にはこれを気候ビジネスの拡大の機会と捉えていただけたらと思います。環境省としては、JCM(二国間クレジット制度)などを通じ、日本の優れた脱炭素技術を海外に展開するプロジェクトを後押ししていきます。


エネ基と平仄合わせて 実情踏まえCO2削減加速

―地球温暖化対策計画が策定されました。今般の議論を振り返っていかがですか。特にNDC(国別目標)を巡っては議論百出の状況となりました。

浅尾 わが国は2月18日、30 年度から先の新たな温室効果ガス排出削減目標として、13年度比で35年度に60%削減、40年度に73%削減を目指すことを閣議決定しました。官民が予見可能性を持って排出削減と経済成長の同時実現への取り組みを進めるため、30年度目標および50年ネット・ゼロを堅持しつつ、その間をつなぐ明確で直線的な経路上のものとしました。世界全体での1・5℃目標と整合的で、野心的なものと認識しています。検討に当たっては、環境省と経済産業省の合同審議会で熟議いただき、パブリックコメントで前回を大きく上回る3000件超の多様な御意見を頂戴しました。国民の皆様の気候変動への関心や危機感の高まりを実感し、さまざまなステークホルダーの声に耳を傾けることの重要性を改めて認識したところです。

今後は、目標をいかに実現していくかという「実施」のフェーズに移ります。脱炭素・経済成長・エネルギー安定供給の同時実現を目指し、関係省庁が連携しながら、エネルギー基本計画およびGX2040ビジョンと一体的に施策を推進するとともに、フォローアップを通じ柔軟な見直し・強化を図ります。

「電柱鳥類学」の有用性 持続的な保守管理のヒントに


【オピニオン】三上 修/北海道教育大学教育学部教授

私の専門は電柱鳥類学である。といってもそんな学問分野は存在せず、自称しているだけだ。何をしているかというと、電柱・電線と鳥との関わりについて研究している。

本来、鳥とは、木々に止まりそこに巣を作り生活している。街の中でも街路樹や公園の木々をそのように使っている。しかし今や鳥たちは、街の中に縦横無尽に張り巡らされ電柱電線をも利用している。電線に止まって周囲を警戒し、求愛のためにさえずり、さらには電線保護カバーや電柱の付属物に巣を作る。大げさに言えば、鳥にとって電線とは枝であり電柱とは幹なのだ。詳しく調べると複数ある電線のうち、特定の高さの電線に止まりやすいことも分かっている。「そんなことを調べて何の意味があるんだ」と問われると答えに窮してしまうが、昔の偉い人も「遊びをせんとや生まれけむ」と言っていた、と煙に巻いておこう。

歴史的に見れば、街(都市)とは人間が快適に暮らすために自然を排除して造ったものだ。ところが排除されたはずの鳥類が、配電設備を勝手に利用して繁栄していると考えるとなかなか面白いのではないだろうか。同意できないと思った方は、拙著「電柱鳥類学(岩波書店)」を読んでいただければ、少しは分かっていただけるかもしれない。

その電柱鳥類学者の眼からすると、最近、電柱に作られたカラスの巣が、すぐには撤去されずに、巣立ちまで見守られていることについて、感謝しつつも思うところがある。カラスは寿命が長く、学習能力が高い。そのため、そのカラスは翌年も電柱に巣を架けるだろう。さらにその姿を他のカラスがまねる可能性がある。つまり見守りの姿勢は、カラスが電柱に巣をつくることを助長している可能性がある。それは将来の停電のリスクを上げ、カラスを悪者に仕立て上げてしまう。見守りの姿勢が、結果的に悪い循環をもたらしてしまうかもしれないのだ。

こういった電力インフラが動植物により毀損されている例は他にもあるだろう。今は許容できる範囲かもしれないが、人口の減少に伴って電力インフラを維持するための負担が増えることを考えると、早めに解決の糸口を探ったほうがよさそうだ。

そこで、もっと研究者に相談してみてはどうだろうかと提案したい。もちろん中にはけんもほろろの対応をする者もいるだろう。

一方で、研究に必要なデータや機材を提供すれば、喜んで協力する研究者は多いはずだ。「このデータを使って論文を書いて良いから、解析をしてくれ」と持ち掛ければ、それだけ食いついてくる可能性もある。「目には目を、歯には歯を」の精神で「動植物の面倒な生態には、研究者の特異な生態を」ぶつけてみるのはいかがだろうか?

みかみ・おさむ東北大学大学院理学研究科博士課程修了。スズメをはじめとした都市に生息する鳥を研究。著書に『スズメ―つかず・はなれず・二千年』(岩波書店)、『電柱鳥類学:スズメはどこに止まってる?』(岩波書店) など。

【コラム/4月14日】欧州水素銀行とH2Globalに関する最近の動向


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

欧州委員会は、グリーン水素の調達戦略として、2023年3月に、イノベーションファンドを用いてEU域内外の水素バリューチェーンへの民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」の構想を発表した。同年11月には、欧州委員会はEU域内の製造事業者に対して、第1回のオークション(パイロットオークション)の入札を開始し、入札結果は、2024年4月に発表され、スペイン3事業、ポルトガル2事業、ノルウェー、フィンランド各1事業の合計7事業が選定されている。また、ドイツでは、2021年6月に、グリーン水素およびその派生物の国外からの調達のために「H2Global」が設立され、2022年の12月から、グリーンアンモニアなどの水素デリバティブに焦点を当てて、第1回目のオークションの具体的な活動が始まった。昨年7月12日のコラムで欧州水素銀行とH2Globalに関してこのような動向を紹介したが、本コラムではその後の展開について述べたい。

まず、欧州水素銀行についてであるが、第2回のオークションの入札が、欧州経済領域 (EEA) 内のプロジェクトを対象に、2024年12月に開始され、今年2月に終了している。EEA内の11か国のプロジェクトから61件の入札があった(予算総額は最大12億ユーロ)。また、2024年11月には、スペイン、リトアニア、オーストリアは、第2回オークションの一環として「オークション・アズ・ア・サービス」(”auction-as-a-service”: AaaS)スキームに参加し、落札できなかった自国にあるグリーン水素生産プロジェクトを支援するための7億ユーロを超える国家資金の提供を発表している。今年の5~6月頃に入札の評価が行われた後、入札結果が発表される予定である。

つぎに、ドイツのH2Globalであるが、第1回のオークション(予算総額は9億ユーロ)のうち、グリーンアンモニアに焦点を当てたロット1に関して、入札結果が昨年7月に発表された。65か国以上から数百の事業者が入札書類をダウンロードし、入札への関心の高さが示された。資格審査で5つの事業者に絞られ、落札したのは、UAEのアブダビを本拠地とするFertiglobeで、エジプトのグリーン水素プロジェクトからグリーンアンモニアを製造する。このプロジェクトには、100 MW の電解設備、203 MWの 陸上風力発電プラントおよび 70 MW の太陽光発電プラントの建設が含まれる。欧州への受け渡しは、2027年に19,500トンが、また2033年までに累計で最大397,000トンが予定されている。契約価格は、1,000ユーロ/トンであった。

グリーンメタノールに焦点を当てたロット2は2024年中に結果が発表される予定あったが、現在までのところ、入札実施主体である「Hintco」(H2Global財団の100%子会社)から公式なアナウンスメントは出ていない。また、e-SAF を対象としたロット 3 は、e-SAFに関する規制の不確実性が存在していること、ロットのサイズが小さく契約期間が短いため、投資の収益性が確保できないと事業者が判断したことなどから、契約が締結されることなく終了した。ロット 3 に配分された資金はロット 2 に再配分される。

Hintco は、昨年12月に最大30億ユーロの予算で、H2Globalの第2回オークションを実施することを発表し、今年2月にオークションの最初の段階が開始された。オークションは、申請段階、交渉段階、入札段階、評価・落札者決定段階からなるが、入札提出の最終時期は2026年3月と想定されている。第2回のサプライサイドのオークションは、5つのロット(アフリカ、アジア、北米および南米・オセアニアの地域ロット4つとドイツ、オランダおよび制裁対象国を除くグローバルロット1つ)に分かれている。地域ロットでは、すべての製品(水素、アンモニア、メタノール)を対象に入札を行い、グローバルロットでは水素に焦点を当てた入札を行う。地域ロットには最低 4 億 8,400 万ユーロ、グローバルロットには最低 5 億 6,700 万ユーロが割り当てられる。予算総額は、最低でも 25 億ユーロが確保されているが、最終的には議会の承認により30億ユーロまで増加する可能性がある。グローバルロットは、ドイツとオランダの両政府が共同で資金を提供する。

以上のように、H2Globalの第2回オークションでは、地域ロットで、調達地域の多様化を確保しつつプロダクトオープンとし、グローバルロットで、水素にターゲットを絞った調達を確保しつつベクターオープンとしている。第1回オークションと比べると調達の仕組みに一層の工夫がなされていることが分かる。また、2023年5月には、H2Globalが欧州水素銀行のEU域外からの水素輸入で連携することを欧州委員会のエネルギー担当委員から発表されており、EUは域外からの水素の調達に関して一体的に取り組むことになった。現在、欧州委員会は、水素の国際的な調達に関してオークションのコンセプトを策定中であるが、欧州水素銀行とH2Globalでは異なる入札メカニズムが用いられており、どのようなメカニズムが採用されることになるのか注目される。わが国では、水素および水素デリバティブの調達に関するサプライチェーンの構築を今後本格化していく必要があるが、EUやドイツでの経験や議論は参考になるところが多いと思われる。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

サイエンスとエンジニアの融合 核融合のリアルな現場を取材


【脱炭素時代の経済評論 Vol.13】関口博之 /経済ジャーナリスト

1月号で書いた核融合について再度取り上げたい。核融合のリアルな現場を知りたいと今回、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所を取材した。広い敷地に20以上の建物があるが、メインは大型ヘリカル装置(LHD)が入る実験棟。メンテナンス中の内部に入った。

核融合研内のヘリカルフュージョンの実験装置

中心には直径13・5mのドーナツ状の本体装置。周辺を取り囲むのはプラズマを作り、温度を上げる加熱装置や、超伝導磁石を冷やすためマイナス270℃の液体ヘリウムを供給する装置、宇宙に近い真空を作る装置。観測機器も所狭しと並ぶ。研究部長の坂本隆一教授によるとこの装置で生成したプラズマが、ヘリカル(らせん)型として世界初の1億2000万℃というイオン温度を達成したという。核融合を起こすにはこの超高温が不可欠なのだ。記録の動画も見る。白っぽく輝く帯状の筋の間に透明な空間が。一瞬だった。プラズマを一定時間保つのが大事なのではと尋ねると「実験はサイエンスとしてプラズマ生成の実測データを取るので、数秒でそれは可能です。長く保持するには膨大な電気代もかかりますから」(坂本教授)と笑う。

制御室には19万回超のカウント表示が。1998年にLHDが稼働してからの実験回数だ。地道な探求が積み重ねられてきたのを実感する。今は軽水素を実験材料にしているため核融合反応は起きない。将来、核融合には重水素とトリチウムを使うことが想定されているがそれは先。今はあくまでプラズマの解明が使命なのだ。

核融合を人類がエネルギーとして使えるのはいつか。坂本教授からの答えは「次の世紀になるのでは」という意外ものだった。まずプラズマを作るのに使うエネルギーより出てくる方が大きくなければ意味がない、それには今の数十倍の装置が必要で経済性が問題、炉の耐久性も考えないと……。科学者の誠実さがにじむ説明だった。

核融合科学研ではスタートアップも作業スペースを借りて共同研究を行っている。民間なりの技術開発に取り組む。ヘリカルフュージョン(東京都)もその1社。同社の後藤拓也副CTO(最高技術責任者)は「ここには知識、経験豊富な研究者がここにはたくさんいて心強い」という。その上で「サイエンスの部分では実証が見えてきた。今後はエンジニアリングの部分でわれわれの出番がある」。

その一つが超伝導磁石に使う部材。薄膜状の材料を重ねることで大量の電流を流せ、かつ「へび」のように曲げられる部材だ。この部材を使えば磁石の冷却温度を上げられ、液体ヘリウムの使用量を節約できるという。新たな試験装置も入れた。核融合発電では原子核の衝突で飛び出す中性子を捉え熱に変える。中性子を受ける「ブランケット」という部分には液体金属を使う想定なのだが、どうせならこの液体金属を炉壁の保護にも使えないか、というのが彼らの発想。その実験をするという。

「サイエンス」と「エンジニアリング」が相まって核融合への長い道のりも見えてくる。実現にさらに必要なのは「社会からの信頼」だろう。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.11】新エネ基の明確な「メッセージ」 投資促す「シグナル」になるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.12】進化する建築物の脱炭素化 ZEBの次はライフサイクルで

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

「第2世代」燃料の製造技術を研究 未利用作物の有効活用を目指す


【次世代グリーンCO2燃料技術研究組合】

自動車分野のCO2排出量低減に向け、非可食植物由来のバイオエタノール燃料への注目が高まっている。従来のバイオエタノールが原料とするサトウキビやトウモロコシなどの可食作物を使用しないことから「第2世代」と呼ばれ、世界的な人口増加に伴う食糧問題ともバッティングしない。その第2世代の開発において最先端を走るのが、「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」(福島県大熊町)だ。

立ち並ぶ発酵槽

同組合の設立を先導したのはトヨタ自動車。液体燃料(ガソリン)の脱炭素化を見据えバイオ燃料の研究を進めていた同社が、さらなる研究開発の促進を目的に、エネルギー業界からENEOS、自動車業界からスズキ、SUBARU、ダイハツ工業など5社に呼びかけ、2022年7月に設立した。23年3月にはマツダも加わり、現在は7社で構成されている。

研究開発拠点となる製造プラントは福島県大熊西工業団地に建設された。同じ浜通りにある浪江町に原料となるイネ科植物のソルガムを栽培する条件が整っていたことや、福島の復興に貢献したいという思いがその背景にある。昨年11月にしゅん工し、現在は本格稼働に向けた試運転を行っている。


独自酵母で生産性を向上 さらなる技術開発にも意欲

非可食植物の利用には、セルロースなどの繊維質を柔らかくする前処理工程が必要となる。糖化を促す酵素を繊維質内に入り込みやすくするためだ。同プラントでは、不純物を取り除いて圧搾したソルガムを蒸煮し、その後高温の水蒸気によって繊維質を砕くプロセスを確立した。前処理を終えたソルガムは、酵素によって糖化し、トヨタが独自開発した酵母菌「TOYOTA XyloAce」と反応することで発酵する。同酵母菌は、自然界では発酵が難しいキシロースをエタノールに変換することが特徴だ。これにより植物由来の繊維質のエタノール生成量は従来の1・5倍になった。

また、発酵時に発生するCO2を活用するため、ENEOSの合成燃料プラント(横浜市)に輸送する体制を整えた。

中田浩一理事長は「ソルガムの活用で得られた知見をほかの未利用バイオマスにも展開していきたい」と話し、よりCO2排出量が少なく、効率的なバイオエタノール製造への意欲を示した。

今冬のJEPX価格を分析 競争状況に新たな動きも


【マーケットの潮流】曽我野 達也/ENECHANGE代表取締役CBDO

テーマ:卸電力価格

今冬のJEPX価格は大幅な変動は見せなかったものの、前年よりは高値で推移した。

原発再稼働やJKM動向などがどう作用したのか。また、足元の競争では新たな動きが見える。

 JEPX(日本卸電力取引所)市場は2024年度の2月を迎え、冬季とされる期間が最終月に至った。システムプライスは前年冬季と比べて1、2月ともに高値を記録。1月の平均システムプライスは12・43円で前年より2・31円高く、2月は13・94円で4・58円高となった。これには気温差が大きく影響しており、主要都市の月間平均気温は1月が約4・8℃で前年より0・6℃低く、2月は約3・4℃で3・3℃低かった。24時間単位で見ても24年度冬季は前年より全時間で約1・5℃低く、午後5時~10時半の時間帯では平均システムプライスが3円以上高値となる大きな差が見られた。

今冬は各地が記録的な降雪に見舞われた


原発稼働の影響は限定的 LNG価格動向は注視を

原発の再稼働によるJEPX価格への影響度は、非常に軽微と考えている。まず発電容量の観点では、女川原発2号機の容量は東北電力管内の約4%、全国ではわずか0・5%。島根原発2号機の場合も中国電力管内約7%、全国では0・5%程度である。さらに、JEPXスポット市場におけるkW時の視点で見ると、女川2号機再稼働後、売入札量は減少し、買入札量は増加。システムプライスは12・26円から13・18円へ上昇し、稼働2週間後には13・42円となった。一方、島根2号機再稼働後の価格変化は13・42円から13・12円とわずかな低下にとどまり、市場への大きな影響は確認されなかった。

稼働前後で市場に大きな変化がない印象である。ただ、原発再稼働のJEPX価格への影響は、価格がスパイクする可能性やスパイク時の上昇度合いを軽減する効果はあると考えている。理由は、原発が動いた分、火力は出力を落とし発需のバランスが取られ、落とされた火力発電コストと原発コストを比べると、理論上原発の方が安く、出力が安定的な原発がベースロード電源を賄う方が価格のスパイクリスク抑制につながるためだ。

ただ、JEPX価格に影響を与える要因は多岐にわたる。中でも現在最も影響が大きいのは北東アジア向けスポットLNG価格を示すJKMである。欧州天然ガス市場のベンチマークであるTTFと連動しており、ウクライナ・ロシア戦争やロシア産天然ガス供給停止など、地政学的要因によってJKMが大きく変動する状況が続いている。

日本のLNG火力発電は主に午前8時~午後10時の需要を支える重要な電源であり、LNG価格の上昇はJEPX価格に直接影響する。電力業界のクライシスが起きたころと何ら市場構造は変わらないため、何かしらの要因でLNG輸入が困難になると、電力小売市場はすぐにクライシス再来となるだろう。

LNGは貯蔵が困難な特性から、常に荷揚げと消費のサイクルを続けなくてはならない。ピーク時間を再生可能エネルギーのみにすることは難しく、LNGに比べ貯蔵できる燃種の石油・石炭火力発電を減らし続ける中で、LNG調達に難が生じた場合に電力小売市場が高騰する懸念のみならず、そもそもの安定供給を維持するためどのように周波数を保つのか、方策を検討することが肝要と考える。

トランプ・ゼレンスキー会談の意味 根本から変わった冷戦以降のレジーム


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

日本時間2月28日未明に行われた、トランプ米大統領らとゼレンスキー・ウクライナ大統領の首脳会談で繰り広げられた口論は、衝撃的だった。世界中からの衆人環視の中で、米国のリーダーたちが感情を露わにしたこの会談は、世界史に残るものとなるのは間違いない。

この会談は、表面的にはウクライナでの戦争を巡る米国、ロシア、ウクライナの間の駆け引きの一端であるが、もっと大きな構図で見なければならないのではないか。

一つは、世界における米国の役割が決定的に変わったことが確認されたことだ。東西冷戦後、米国は世界の基軸通貨たるドルと圧倒的軍事力を背景に、グローバリズム(全球化)のけん引役となり、「パックス・アメリカーナ」は盤石になるものと思われた。

しかし、ヒト・モノ・カネが自由に行き交う国境の壁が低くなったグローバリズムの世界では、「自由の国」アメリカより、国民の自由を抑圧しながら、巨大な市場や豊富な資源を背景にグローバルな経済的利益を獲得しようとするロシアや中国のような権威主義国の方が、効率的に富を蓄積できるようになったといえよう。

米国が生み出したグローバリズムが、皮肉にもかえって米国の首を絞め、ロシアやグローバル・サウスと言われるモンスターを生んだのだ。世界の「絶対的」リーダーから「相対的」リーダーに転落した米国は、ロシアや中国と対等な立場でのディール(交渉)によって対峙しなければならなくなった。 これは決してトランプという大統領の特殊性によるものではなく、米国の没落に伴う必然なのだ。


途上国に有利なルール 日本はエネ政策の自立を

1989年の冷戦崩壊後、92年のリオ・サミットで気候変動枠組み条約が採択されて世界的な地球温暖化対策の流れが始まったことから明らかなように、グローバリズムの流れと国際的な環境規制の動きは一体のものだ。カーボンニュートラルビジネスの加速もその一環にある。

しかし、今やそれはいまだに途上国を標榜するグローバル・サウスにばかり有利なルールとなっていることに、多くの先進国は気付いている。トランプ大統領の2期目の登場は、これらの冷戦以降のレジームが根本から変わったことを示している。

わが国も、このような世界史的な大きな流れを見据えながら、少資源国として国際的な環境規制を所与のものとすることなく、自立した戦略的なエネルギー政策を今こそ再構築することが求められるだろう。このような問題意識の下、国会で議論してまいる所存だ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

4月の開幕前に報道陣向け公開 エネ業界パビリオンは体験型展示


【大阪・関西万博】

4月13日の「2025年大阪・関西万博」開幕を前に、電気事業連合会は「電力館 可能性のタマゴたち」、日本ガス協会は「ガスパビリオン おばけワンダーランド」をそれぞれ報道陣に公開した。

ゲーム感覚で楽しめる無線給電展示

電力館はカーボンニュートラル(CN)のさらに先を見据えた社会の基盤を支える電力業界ならではの視点で未来社会を描くことを展示のコンセプトにした。入館者はタマゴ型の光るデバイスを手にしながら館内を巡り、核融合、無線給電、直流送電など30の展示を体験できる。

無線給電の展示はディスプレイに映し出す家電やEVなど電気を利用する製品にスティック型コントローラーで電気を送り、他の参加者とスコアを競う。こうしたゲーム感覚で楽しめる展示が盛りだくさんだ。岡田康伸館長は「30のテーマは展示を体験したときにワクワクドキドキするか、を基準に選定し、エンタメと学びを両立させることを念頭に展示を作り上げてきた。ぜひ楽しんでもらいたい」と意気込みを語った。


VRで人間がおばけに変身 e―メタンの仕組みを紹介

ガスパビリオンは「化けろ、未来!」をコンセプトとした。「50年CNの実現に向けて、一人ひとりが意識や行動を変える」などの意味を込めた。金澤成子館長は「ワクワクドキドキする体験を通じて、子どもたちが環境や未来のエネルギーについて考え、より良い1歩を踏み出す、“化ける”きっかけを提供したい」と説明する。

ガスパビリオンのVR体験

パビリオンは「化ける体験エリア」と「化ける展示エリア」に分かれている。体験エリアでは、仮想現実(VR)専用の「バケルゴーグル」を着用。参加者自身も周りの人もおばけに変身して、温室効果ガス削減の取り組みや、エネルギーの大切さを遊び感覚で理解してもらう。展示エリアでは、CO2をリサイクルしてe―メタンに変える仕組みをわかりやすくグラフィックや映像で説明する。

大阪万博では、水素燃料電池船やメタネーションなど、さまざまなエネルギー関連の施設やデモがある。「未来社会の実験場」としたコンセプトの通り、エネルギーの未来が体感できる数々の展示は来場者にどんな驚きをもたらすのだろうか。