【需要家】GX産業立地政策 問われる実態と実行性


【業界スクランブル/需要家】

6月、GX実行会議傘下のワーキンググループで、「GX戦略地域」および「GX産業団地」を対象とした新たな企業支援の枠組みが提案された。報道によれば、石破茂首相も早急な法整備が必要との認識を示したとされる。

「GX戦略地域」は国家戦略特区指定区域を対象に、①コンビナートの脱炭素転換や新産業創造を図る「コンビナート再生型」、②データセンターの集積と脱炭素化を図る「データセンター集積型」(東京・大阪以外)―の2類型が提案されている。また「GX産業団地」は、脱炭素電力の活用環境整備を前提に、経済安保分野への寄与が高い企業の誘致などを条件とする。

提案されている枠組みにはいずれも「GX」の枕詞があるものの、国は審議会において「産業競争力の側面を重視」する必要性を前面に打ち出しており、「GX」のオマケ感は否めない。実態としては、①石油化学産業の撤退支援・地域対策、②データセンターの立地統制、③経済安保関連産業の誘致・投資支援―といった趣だ。あえて「GX」の側面から見れば、「脱炭素先行地域」と重なる印象も拭えない。

加えて、各枠組みにおける支援には、GX経済移行債の活用が想定されている。審議会では、慎重な検討を要するとの姿勢が示されたが、直接排出をベースとしたカーボンプライシング制度との関係や、FIT賦課金の減免措置でも課題が指摘されている負担の公平性などの観点に丁寧に対応する必要があろう。さらに、足元で懸案となっている洋上風力への支援策(PPAの環境整備)として活用されるケースがあるとすれば、より慎重な議論が求められる。(P)

【再エネ】米国の政策転換が波紋 企業の戦略見直し急務


【業界スクランブル/再エネ】

米国は再エネの導入・利用において長らく世界をリードしてきた。その背景には、再エネに対する税制優遇措置や州の再生可能ポートフォリオ基準(RPS)などの制度がある。2035年までに太陽光を4割供給し、電力の95%をカーボンフリー電力化するなど、早期の脱炭素化実現へ、取り組みが強力に進められてきた。結果、昨年には再エネが石炭火力の発電量を初めて上回り、太陽光発電は前年度比27%増という急拡大を続けている。

しかし、ここにきてトランプ政権の影響で、太陽光や風力、再エネ由来のクリーンな水素への補助税額控除の縮小という大逆風が吹いている。日本においても関税強化の影響で、蓄電池や送電鉄塔、太陽光の架台、風力タワー、変圧器など構造用鋼材やアルミ部材の価格上昇、納期遅延を招き、調達体制の見直しが急務となる。例えば、日本の大手商社やソフトバンクグループは、米国で現地調達し太陽光発電能力を増やす計画とした。また、三菱商事が出資する現地企業では、従来東南アジア製だった太陽光パネルを米国産とする計画に変更するなどの対応に追われている。

残念ながら、これまで国内で利用する主要な再エネ設備は、多くを海外からの調達に依存してきた。しかし、このような海外依存が急激なコスト高騰や調達遅延を引き起こしていることをきっかけに、国内産の再エネ設備の調達にかじを切る動きも見られる。ただし風力発電設備は欧州依存度が高く、調達体制の見直しは容易ではないだろう。特に今後自治体が主導する太陽光発電設備の導入については、国内産を調達条件にしても良いのではないか。(K)

相次ぐ詐欺事件やトラブルも 悪徳投資会社に騙されないために


【論点】LPガス業界のM&A〈後編〉/小林 稜・スピカコンサルティングM&Aコンサルタント

M&Aの大型案件が目立つ一方で、悪質な詐欺やトラブルの報告も多い。

被害に巻き込まれないために、いくつかのポイントを押さえておく必要がある。

昨年は、LPガス業界でM&Aの大型案件が目立った一方、悪質な詐欺やトラブルも数多く報道された。本来M&Aは、双方がメリットを享受し、慎重に行われるものである。ではなぜ、このようなトラブルが増え、後を絶たないのか。今回は、詐欺の実態や注意点、そしてトラブルに巻き込まれないための対策を解説していく。

売り手・買い手双方がメリットを享受するには


経営難の弱みに付け込む 吸血型M&Aの実態

ルシアンホールディングス(HD)事件については、メディアで大きく取りあげられたため、聞き覚えがあるのではないか。投資会社のルシアンが、経営状況が悪化している複数の中小企業を買収し、相次いで倒産させ、さらに売り手企業の経営者・役員らに多額の負債を残したとする詐欺事件だ。2021年秋頃から、日本全国で30社近い企業の被害が発覚した。

この事件を振り返ると、不審点がいくつもあったと言われている。例えば、現金の抜き取りがされていたこと、売り手側の経営者の個人保証が解除されなかったことだ。

ルシアンは買収後、さまざまな理由を付けては売り手企業側に現金を振り込ませていた。その結果、従業員の給与や金融機関への返済、取引先への支払いが滞り、資金繰りが悪化。最終的には、存続の危機に陥る企業が相次いだ。また、金融機関借入などの代表者が抱える個人保証は、一般的にM&Aの後、速やかに買い手側に引き継がれる。しかし、ルシアン事件ではその約束が守られていなかったのだ。

被害に遭った企業には、「経営状況が悪化している」という共通項があった。このような場合、売り手は買い手よりも不利な立場で交渉が進むことがほとんどで、通常、M&Aでの譲渡は難航する。その結果、ルシアンHDのような「吸血型M&A」の毒牙にかかってしまう。

このような状況に陥らないために、注意すべき三つのポイントを紹介する。

~早めの準備を進める~

まずM&Aは、実際に動き始めてから交渉が成立するまで短くても6カ月~1年程かかる。そして、良い相手先を見つけるには、譲受企業の買収投資のタイミングを逃さないことが肝心だ。そのためには、アプローチを受け入れられる体制を早めに準備するべきである。加えて、普段から自社の立ち位置を確認し、評価と改善のサイクルを継続することで、選ばれる側から選ぶ側になることが理想だ。

~決断は慎重に行う~

「準備は早めに、決断は慎重に」がM&Aの鉄則だと覚えてほしい。M&A仲介から判断を急かされたり、納得がいかないまま進めたりすると、後々のトラブルや後悔を招くことにつながる。不明点や不審点を、全て洗い出してから決断することが重要だ。また、ほとんどの経営者にとって譲渡の経験は人生で一度きりであり、そもそも不明点や不審点には気付けないことが多い。M&Aアドバイザーや顧問税理士など、信頼できるパートナーを頼ることもトラブル回避のポイントである。

~情報漏えいに注意を払う~ M&Aは、機密性が高く、情報が漏えいしてしまうと事業上のリスクや従業員の不安をあおることになりかねない。そのため、必ずNDAと呼ばれる秘密保持契約書を締結の上、情報を開示する。譲受企業側が社内で情報共有する際にも徹底した管理が行われる。それでもなお情報が漏れてしまったり、譲渡企業オーナー自身が話してしまったりするケースがある。M&A仲介との契約の上進める場合は、このような情報漏えいのリスクを一元管理し、万が一漏えいした場合にも漏えい源を追える状態にするため「専任契約」でアドバイザリー業務を進めるケースが多い。繰り返しになるが、M&Aの実施期間は長期にわたる。オーナー自身の多大な労力とストレスの負担が生じるからこそ、プロの経験と知見を頼ることを検討してほしい。


仲介会社選びのポイント 業界特性の理解不可欠

次に、仲介会社とアドバイザーの理想像について、当社の見解を紹介したい。

一つは、LPガス業界特有の動きを把握していること。M&Aの仕組みや流れ、事業承継といった一般論ではなく、業界特有の課題や最新動向、トラブルの事例、論点などを知っていることが大切だ。専門用語や業界特有の話題を投げかけて見極めてもらいたい。同じ業界にいる人間同士だから理解できる共通言語で会話できる相手であれば安心だと考える。

もう一つは、自社を理解しようとしているかどうか。決算書に表れる定量的な部分だけでなく、貴社ならではの定性的な強みや弱みについて理解していることがポイントだ。特にLPガス販売業の場合は、「お客さま稼働メーター数」「供給エリア」「お客さま属性(集合・⼾建・家族構成など)」「使⽤量」「販売価格(基本料⾦・従量料⾦)」「保安状況」「設備状況」「市況環境」など決算書に表れない部分が多く、アドバイザーが各項目の評価ポイントを深く理解できているかどうかは非常に重要な要素となる。

最後に、 迅速な対応ができるかだ。迅速な対応はビジネスにおいて基本だが、最初は良かったがアドバイザーとして選定した後からは連絡が滞ったり、いいかげんになったりする仲介会社がいるという話を耳にする。具体的に、どのようなスケジュール感で何をするのか。回答が明確な相手を選ぶことをお勧めする。

M&Aを今後検討される方、現在検討されている方が、満足のいくM&Aができることを心より願っている。

こばやし・りょう 福島県出身。芝浦工業大学システム理工学部卒業後、2022年からスピカコンサルティングの立ち上げに参画。以来一貫して北海道から九州まで、日本全国のLPガス販売事業者の経営支援に従事。

「オンカロ」は操業開始目前 処分地選定巡る各国の現状は


【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

〝核のごみ〟の処分という難題に世界はどのように向き合っているのか。

現地を訪れた筆者が見た最前線と知られざる苦悩とは─。

世界初の核廃棄物最終処分場として知られるフィンランド西部オルキルオトにある「オンカロ」を訪ねたのは、東日本大震災直後の2011年6月だった。

コペンハーゲン経由でフィンランド南西部にあるハンザ同盟都市トゥルクに飛び、バスで現地に向かった。周囲には「ムーミン谷」があり、空港の手荷物ターンテーブルではムーミンのぬいぐるみが出迎えてくれた。

フィンランドは1983年に最終処分場の検討に着手した。100カ所以上の候補地を徐々に絞り込み、住民との対話を重ねた上で2001年にオルキルオトを選んだ。「オンカロ」は、フィンランド語で「隠し場所」「洞窟」などの意味を持つ。

鉄銅製キャニスター(左)と使用済み核燃料
オンカロにて筆者撮影

現在、処分開始に向けた最終試験を続けている。鉄銅製のキャニスターに詰めた模擬の使用済み核燃料を、エレベーターで地下430mに下ろし、トンネル内を運ぶ。深さ2・8mの縦穴に1本ずつ納めた後、粘土状物質のベントナイトなどで埋め戻す作業を実施している。政府の承認が出次第、処分を始め、2110年代に閉鎖するまで約9000tの使用済み核燃料を処分する予定だ。

フィンランドが最終処分場選定を急いだのは、国境を接する大国ロシアの存在が大きい。第二次世界大戦の開戦から2カ月後の1939年11月、フィンランドはソ連の侵攻を受け「冬戦争」を戦い、領土を失った。

戦後もソ連の影響を強く受ける。天然ガスや電力の供給のほか、東部ロビーサにはロシア製の原発を導入した。ところが、ソ連が崩壊した直後、ロシアに引き取ってもらったロビーサ原発の使用済み核燃料が、あまりにもずさんに扱われていたことが判明する。これが環境問題への関心が高いフィンランド人を刺激した。政府の担当者は、取材に「情報公開により、返還した使用済み核燃料が野ざらしで置かれていたことがわかった」と教えてくれた。これを機に、国内に処分場を建設しようという動きが加速する。


相次ぐ建設地の決定 フランスは粘土層を選択

フィンランドに次いで2009年に世界で2番目に最終処分場を決めたのがスウェーデンだ。1992年に2自治体が手を挙げ調査を始めたものの、翌年の住民投票で否決され、振り出しに戻るなど、失敗を重ねた。

95年に仕切り直し6地点で調査を始めた。丁寧な対話を重ね、ストックホルムから北150㎞にあるフォルスマルク原発に隣接した場所を選んだ。地下500mの岩盤に総延長60㎞のトンネルを掘る。今年1月に着工、2032年に処分を始める予定で、最大1万2000tの使用済み核燃料を処分する。

カナダも昨年12月、14年に及ぶ歳月をかけて、中東部オンタリオ州の北西部に最終処分場の建設を決めた。フィンランドやスウェーデンと同じ深層処分方式を採用し、地下600m以上の地層に幅2㎞、奥行き3㎞の処分場を建設する。着工は33年頃を目指す。操業開始は40~45年の予定だ。

原子力大国フランスでも北東部ビュール村に最終処分場を設置する計画が大詰めを迎えている。政府は1991年以降、ビュール村を含む3カ所を候補地に選定したが、反対運動があり、ビュール村だけが残った。地元には今なお反対の声が根強くあるが、政府は2027年ごろに着工したい意向を示す。地下5

00mに、広さ15平方㎞の処分場を建設し、8万5000㎥の放射性廃棄物処分を想定している。フィンランドは花崗岩など結晶岩質の地層を選んだが、フランスは粘土層を選んだ。厚さが120mあり「放射線を閉じ込めやすい」というのが理由だ。


計画を白紙撤回したドイツ 10万年先の安全をどう確保

一方、最終処分場選定に手間取る国も数多い。その一つがドイツだ。西ドイツ時代の1977年、東ドイツ国境に近い北部ニーダーザクセン州ゴアレーベン村の岩塩鉱山を最終処分場に選定したが、その後の反対運動で計画が宙に浮く。

2011年の晩秋、この施設を訪ねた。入り口のゲートが二重の鉄条網で守られていたのが印象的だ。2億年前までは海だったが、約1000万年前に隆起した岩塩ドームだ。その地下820mに幅6m、高さ4mのかまぼこ状の坑道を掘った。岩塩は真っ白で、坑内は雪の祠のように美しい。

スウェーデン作成の「未来へ人々への伝言」

ところが岩塩層のそばに地下水があることが判明、放射性物質が漏れ出すとの懸念が高まり反対運動が活発化する。11年3月の福島第一原発事故も重なり、脱原発を決めたメルケル政権は13年、処分場計画を白紙に戻した。政府は31年をめどに再選定作業を進める。

最終処分場に埋める使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物は、高度に汚染されているため、保管期間は約10万年という長期に及ぶ。今から10万年前はネアンデルタール人の時代だ。人類が構築した建物で最も古いものは1万年に満たないとされる。そんな長い期間、どうやって安全を確保し続けるのか。オンカロの担当者は「地震や氷河期がきても耐えられる構造になっている」と答えた。キャニスターが腐食し、仮に放射性廃棄物が漏れ出した場合でも、粘土やコンクリートなどが守る多重防護システムを採用していると解説する。

処分場を埋め戻した後、危険物質の存在を後世の人類に伝えるべきかという問題もある。仏原子力安全規制当局は閉鎖後、少なくとも500年間は記憶を伝えるよう求めている。現在、使われている言語が消滅することも想定し、象形文字でのメッセージを構想している。スウェーデンも、非テキスト形式で記憶を伝える方法を模索している。

【火力】「供給こそ本質」の制度 市場とのねじれ問う


【業界スクランブル/火力】

昨今、米価が上昇し、政府が備蓄米の放出に踏み切ってもなかなか価格が下がらない状況が続いた。こうした中、政府は従来の入札方式による備蓄米の売却から、特定の事業者と価格交渉を行う「随意契約」方式に転換した。政府が設定した安価な備蓄米も流通しているものの、価格が以前のように落ち着く時期は依然見通せない。今回の対応は、行政が「市場メカニズムに委ねるだけでは限界がある」と自ら認めたことを意味する。

一方、電力システム改革においては、供給力不足や市場価格の高騰、価格ボラティリティの拡大という課題が指摘され続けているにもかかわらず、「全面自由化によって競争が生まれ、価格が下がる」とする従前の考えに固執しており、この前提から離れることができないでいる。

そもそも価格とは需給関係の結果として形成されるものである。需要が供給を上回っていれば価格は上昇し、供給を増やさない限り、どのような制度上の工夫でも価格上昇を抑えることはできない。

電力の供給力確保には巨額の初期投資と長期的な回収見通しが必要であり、市場の不安定さが投資を妨げるという逆転現象も発生している。自由化制度に後付けで規制を加えるやり方では、むしろ問題の本質を見失いかねない。

米も電力も、場当たり的に「市場の仕組み」や「規制」を継ぎはぎするだけでは真の問題解決に近付かない。需要と供給という物理的・経済的な現実を見据え、より実効性のある制度とは何かを、いま一度問い直すべきではないか。

「安定した供給こそが本質」であるという視点に今こそ帰結すべきなのである。(N)

【原子力】今夏もKK再稼働ならず 安全協定の再考を


【業界スクランブル/原子力】

東京電力が今夏の柏崎刈羽7号機(K7)の再稼働を断念した。メディアは相変わらず「事業者の努力不足」と書くが、実態は異なる。昨年4月に燃料装荷が完了し、その後もさまざまな経緯があったが、県知事の怠惰な態度のために稼働できていないのが現実だ。改選まで1年を切った知事は判断を躊躇し、8月末までに公聴会を5回開き、県民の意識調査も実施するという。

BWRのK7は、女川2、島根2号機より先に設工認を得ていたが、特定重大事故対策の設置期限10月13日に間に合わず、その工事が終わる2029年8月までは再稼働できない。東電は目標をK6に切り替えたが、残念ながらこの夏には間に合わない。

同原発は、巨大津波で太平洋沿岸の原子力と火力が軒並み倒れた時に、首都圏を救った。東電と東北電力は互いに電気を融通し合っている。女川2号機の恩恵を受ける新潟県が、県内の原発から他都県への送電を許さないのは不公平である。

電力は経済産業と国民生活の存立基盤である。知事の振る舞いに翻弄され、電力会社が被るコスト増は全て電気料金に跳ね返る。原発が動かないために、今も莫大な火力燃料の購入費用が資源国へ流出し続けている。

電力会社が自治体の同意を必要とするのは安全協定のためで、それは国の経済発展を支える電源立地と環境規制において、自治体の意見を尊重するプロセスをとったために結ばれたものである。自治体の意見に真摯に耳を傾けることは重要だが、国家の存立基盤を左右する実質的権限を知事に委ねる安全協定の仕組みは変えるべきだ。(T)

GHG削減で存在感増すCCS 今後の実装加速に期待


【リレーコラム】高橋 功/INPEX執行役員イノベーション本部長

エネルギー業界としてGHG削減は短期的な風潮に惑わされず責任を持って取り組むべきアジェンダだ。省エネルギーや再生可能エネルギー導入に並び、未来の技術とみなされがちだったCCS(CO2回収・貯留)が、現実的でボリュームインパクトのあるGHG削減策として急速に存在感を増している。

CCSは近年では適用が広がり、ノルウェー、豪州、UAEなど各地で年間数百万tレベルの大規模CCS施設が稼働している。国内での先駆的な取り組みとして、INPEXが年内に新潟県柏崎市でブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験施設の運転を開始する。本施設では新潟産の天然ガスから水素を製造する際に、副次的に発生するCO2を回収し地下貯留することで、クリーンな水素・アンモニアの供給を実現する。本実証での操業を通じてCCSの技術的成熟度が向上するとともに、国内でのCCSの認知度と社会的受容度が高まると期待している。


適用拡大へのイノベーション

一方、大きな投資が必要なCCSはそれ自体が経済的価値を生むプロセスにあらず、適用拡大には技術イノベーションによるコスト低減が大きな鍵となる。INPEXは2022年に研究部門「I―RHEX」を設立、今後必要な低炭素・新分野の技術開発を拡大しており、CCS技術革新の対象はCO2回収から輸送、地下貯留までバリューチェーン全体にわたる。その取り組みの一例が業際協業により開発中の船上CCSプロセスで、国際海事機関(IMO)のGHG削減ルールに従う今後の船舶の排出削減需要に応えるものだ。

本技術ではスペースや使用エネルギー上の制約が多い船上環境における排気ガスからのCO2回収および貯蔵のため、独自のアプローチとしてカルシウムを利用する。理科の実験で石灰水に息を吹き込むと白濁したように、水酸化カルシウムは排気ガス起源のCO2と容易に結びつき安定した固体炭酸カルシウムを生成する。ありふれた素材・カルシウムのこの特性を活用して省スペースで高効率のプロセスを目指しており、炭酸カルシウムはエネルギーの安価なCCS貯留地に運びCO2を分離し貯留する。これはほんの一例だが、オープンな協業と新たな視点によるイノベーションがCCS技術の競争力を向上させ適用範囲を拡張させると確信する。

Hard to Abate部門でのGHG削減策にもなり得るCCSは、将来のエネルギーシステムで重要な役割を担う必須項目であるため、長期的視野に立つ技術開発および実証を通じてCCSの実装拡大を加速させたい。

たかはし・いさお 1993年東京大修士。スタンフォード大博士。特殊法人の後、2003年にINPEX入社。マレーシア、アブダビ駐在で上流探鉱開発に従事後、現在は新分野の研究開発および事業創出を管掌。

※次回は、中東三井物産の山野総さんです。

【シン・メディア放談】参院選の争点はコメ、消費税、外国人…… 語られなかったエネルギー政策


〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

国内外で大きなニュースが続いたが、有権者や政治家の関心はエネルギーよりも「電気代」だった。

─トランプ減税の恒久化法案が成立した。インフレ抑制法(IRA)の予算を削る内容だが、業界への影響は。

石油 再エネ発電所を持つ商社や、水素やeメタンの製造計画がある大手エネルギー会社への影響はそれなりにある。

電気 ただトランプ政権でこうなることは分かっていた。金融で言うところの「織り込み済み」というやつだ。トランプ大統領は大統領令を連発しているが、その内容がすぐに全米で実現するわけではない。リベラルが強い州では効力差し止め訴訟が頻発している。

ガス アメリカで脱炭素政策のスピード感が落ちるだけで、世界の流れは変わらない。世界経済をけん引するGAFAMなどはクリーン路線だし、トランプ政権の間に新エネの研究開発の時間をもらえたと思って、頑張らないといけない。


国内エネ需要への影響は 関心薄れる東電問題

─トランプ関税の影響がそろそろ出てくるか。

ガス 自動車を中心に日本の製造業が空洞化して、エネルギー需要が縮まないか心配だ。日産自動車の問題もあるし、関西よりは関東の方が影響は大きいだろう。マツダの中国、そして九州も部品工場が多いと聞く。

電力 需要はデータセンターの大量稼働前に一度落ち込むかもしれない。ただ中長期的には、そこまでの影響はないだろう。10年後にデータセンターと半導体需要によって、kWベースで最大5%程度増えると言われているが、どちらも負荷率が非常に高い。kW時だと10%を超えてくる可能性がある。

石油 経済の不確実性が高まる中で、7月7、14日のガスエネルギー新聞に載った有馬純氏のインタビューは良かった。アメリカがパリ協定を離脱し、中国の存在感が高まってしまった。そうなると、日本はグリーン分野で中国と戦うことになる。カーボンプライシングの制度設計は、国内の製造業の事業環境を悪化させないさじ加減が重要だと。まっとうな意見だった。

─6月21日にアメリカがイランの核施設を攻撃して世界に衝撃を与えた。

石油 CNNやBBCは24時間、その話題で持ちきり。時差もあるが、日本の報道は全く付いていけなかった。ネットにしても、最新情報を伝えるのはロイターやブルームバーグなどの外信ばかり。BSで平日の夜に放送している討論番組も、同じ有識者が出ていて飽きてしまう。ウクライナ問題を解説していた専門家が、イラン問題も話していた。

電力 トランプ大統領が大きな発表をするのは現地の午後、つまり日本の明け方だ。だから朝刊を見ても、その情報が載っていない。

ガス 紙媒体が速報性をカバーできない現実をまざまざと見せつけられた。新聞社もネットに軸足を移してはいるが……。

石油 それにしては、新聞休刊日のデジタル版が弱すぎないか。ほとんど日曜日から更新されていなかったりする。

【石油】今年度末に廃止確定? 暫定税率巡り憶測


【業界スクランブル/石油】

自民党の森山裕幹事長が7月4日、ガソリン税の旧暫定税率について「25年度で止めることは約束している。12月にしっかり決める」と発言した。確かに廃止自体は昨年12月、「25年度税制改正」での検討で自公国3党幹事長が合意しているが、廃止時期は決まっていなかった。 それが、年度末の廃止で固まったのか、言葉足らずの発言だったのか、選挙向けのPRだったのかは分からないが、さまざまな憶測を呼んでいる。参院選の結果はどうあれ、暫定税率の正式な廃止時期は年末の税制改正議論で決まるのだろう。

一方、暫定税率廃止の実施までは、定額10円の燃料油補助金が続く。選挙向けの制度改正で複雑化しているが、少なくとも8月末までは定額補助に加えて、毎週の補助金額を調整してガソリン全国平均価格を175円に抑える「予防的な激変緩和措置」が行われる。

この期間内に原油価格が下落、円高に振れれば、定額補助だけが残り、国内の石油製品価格は下がる。ただ、仮に暫定税率廃止となっても、暫定税率部分全額(25・1円)が減るわけではない。補助金10円も同時に廃止されるから、ガソリン15・1円、軽油7・1円安くなるだけだ。

この補助金は経済合理性に欠く不適切な制度と言わざるを得ないが、地方では自動車に生活を依存せざるを得ず、また農林水産業者にとっても大きな恩恵だ。その意味では都市住民から地方住民への「所得移転」であり、同時に輸入物価高騰に対する「国家補償」ではある。地方に多い参院選の1人区での投票にどのような影響を与えたのだろうか。(H)

【ガス】ホルムズ封鎖が招く危機 同じ轍踏まない対策を


【業界スクランブル/ガス】

イランとイスラエルは一時的な停戦に入った。しかしこの戦争には、国家理念・宗教・地政学的利害などが複雑に絡み合った構造的対立が背景にあり、再発リスクは常に存在すると見る方が現実的だろう。そしてイランにとって、ホルムズ海峡封鎖は「欧米と湾岸諸国に打撃を与える象徴的手段」として選択肢にあると見ていい。もしホルムズが封鎖されるとLNGはどんな影響を受けるのか。

ホルムズ海峡内にあるのはカタールプロジェクト(世界シェア約2割)。現在、日本のカタール産LNG輸入量は年約300万t(シェア4%)とわずかで、ホルムズ閉鎖の直接的影響は大きくない。一方、中国のカタール輸入量は約1800万t(同24%)と日本の6倍になる。また韓国は約500万t(同10%)、台湾は約400万t(同18%)と日本よりも多い。よってホルムズ封鎖時には中国、韓国、台湾がスポットを買いあさる可能性がある。

2020年末に発生したJKM高騰は、主に中国、韓国による冬場のスポット買いあさりに起因しており、ホルムズ封鎖でも同様の状況が起こり得る。さらに欧州では天然ガス不足が常態化しており、ロシア産ガス代替として購入しているLNGの約1割がカタール産だ。カタール産がストップすると、TTFが急騰してJKM高騰の火に油を注ぐ可能性がある。

20年末のJKM高騰は、制御不能のJEPX高騰を招いた。ホルムズが封鎖されると、結果として同様の状況を招く可能性がある。政府も民間も今後の動向を注視するとともに、今からさまざまなリスクヘッジ策を講じることが急務だろう。(G)

米テック大手が原発に注目 AI事業拡大へ長期契約加速


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

チャットGPTなど生成AIの普及は各産業分野で不可逆な存在となるが、グーグルなど一般的なインターネット検索が1件当たり0.3W時のであるのに対し、生成AIは約10倍の2.9W時とされ、電力消費量が激増している。

2023年、米国としては35年ぶりの新設原発となるジョージア州ボーグル3号機が稼働したが、一方、AIの膨大な電力需要に対応するため、GAFAMなどは、既存の電力供給に頼るのではなく、安定した独自電源、特に昼夜を問わず出力が安定し、CO2を排出しない原発に注目している。

特にマイクロソフト社は30年までに「カーボンネガティブ」を目指しており、昨年コンステレーション・エナジー社と相場の2倍近い1MW時当たり最低100ドル以上の固定価格で20年契約し、経済的理由で停止されたスリーマイル島1号機を27年に再稼働させ、発電所の名称変更も行う予定だ。1979年に部分炉心溶融事故を起こした2号機とは違い、1号機は事故と無縁で安全運転を続けた実績を持つが、退役した原発の再稼働という前例のない挑戦となる。4年の期間と最低16億ドルの費用、そして数千人の作業員が必要になる。さらにアマゾン社は2030年までに全ての購入電力をカーボンフリーにする予定で、ペンシルベニア州サスケハナ原発の広大な隣接地を取得し、直接電力供給を受ける形で最大960MW級のクラウド用データセンター(DC)を建設中である。一方、メタ社はイリノイ州クリントン原発から20年間の供給契約を締結した。

こうした流れはAI事業の拡大に必要な電力の確保に独自に動く本気度と、その需要に応じようとする米国電力会社の取り組みが読み取れる。

わが国でもDCの国内立地は欠かせない。GAFAMはおおむね日本国内でのDC拠点の増設を公表している。生成AIによる電力需要が急増すれば、電力不足は避けられない。DC整備に加え、安定稼働のための電力供給体制も重要だ。

現状の電力会社からの電力調達ではなく、独自電源の確保に動く場合、再稼働審査が進む泊や稼動中の玄海などの原発は、広い敷地や海水による冷却、高圧送電線といった条件を備えており、DCの立地として相性が良いとも言える。生成AIはあらゆる産業に波及し、各国の国際競争力の維持・強化のためにも欠かせない。しかし、生成AIの発展は電力不足を招来しエネルギー政策を破綻させる規模になり得るリスクも内包する。国家のエネルギー戦略の新たな視座が加わった。今後は、AIデジタル競争力とエネルギー安全保障を一体として考える政策が重要となる。

脱原発方針を決定し既に実行したドイツや台湾、一方、原発を推進する中国と米国。韓国は国内の政治の混乱とは裏腹に原発比率を高めつつ今年6月にはチェコへの原発輸出に成功した。各国のAIデジタル政策の今後を一つのエネルギー戦略の視座として注目したい。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授・早稲田大学資源戦略研究所所長)

ブルームバーグが伝える中国EV産業の実態


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

欧米では、高い車両価格が障壁となって、このところEVの導入計画が後退気味である。こうした中、中国においては順調に価格が下がり、販売台数も伸びている。いまや世界のEV導入の模範として賞賛する報道も多い。

その中国のEV産業について、米国ブルームバーグ誌が継続的に報道している。そこでは、弱い需要と過剰な生産能力に焦点が当てられる。生産設備の平均的な稼働率は50%程度にとどまり、販売促進のための値下げが繰り返される。余剰在庫対策として、新車をいったん登録して中古車として販売することも行われる。

利幅縮小の中、最大手BYDの純負債は約6.5兆円に上ると、香港の会計コンサル会社GMTが試算。負債膨張の要因の一つは下請けへの買掛金の増加だ。BYDの平均支払いサイトは275日(2023年)で、他国の自動車メーカーの45~60日よりも相当長い。下請けは製品納入後、一種の電子手形で支払いを受けるが、手形の満期までの間、これを担保にした借り入れや、割引での現金化も行えるとのこと。要は下請けの資金繰りは、負債が膨らむメーカーの信用が頼みなのだ。

中国政府は、こうしたメーカーおよび下請けの財務状況に懸念を募らせ、5月にBYDが34%もの値下げを公表したのを契機に、メーカー各社を呼んで、熾烈な値下げ競争に警告を発した。

近年、中国製のEVの性能の向上は目覚ましいものがある。これまでの価格の低下には、車載の蓄電池をはじめとする技術革新が貢献してきたことは疑いない。一方、一連の記事が明らかにしたのは、設備余剰を背景にした「利益の叩き合い」である。このビジネスモデルの「持続可能性」は、今後とも注意深く見守る必要がありそうだ。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

温暖化に傾斜したG7にツケ 重要鉱物行動計画は有効か


【ワールドワイド/環境】

6月16~17日、カナダのカナナスキスではイスラエル・イラン戦争、重要鉱物、AIなど、七つの個別テーマに関する首脳声明が出された。第2期トランプ米政権は安全保障、貿易(関税)で友好国に対して容赦ない対応を取っており、G7でのコンセンサス形成は第1期トランプ政権時以上に難しい。議長国カナダは国際協調やマルチの枠組みに関心の低いトランプ政権と他のG6との間で共同歩調をとれる分野に絞ることを選んだ。

今回、採択された「重要鉱物行動計画」の第一の柱は重要鉱物の採掘・精錬・取引段階で労働基準、汚職防止、環境保護を順守することで生ずるコストが適切に市場で反映されるよう、基準に基づく市場促進のロードマップを策定するというものだ。名指しは避けているが、基準を満たしていない中国への依存低下を狙っている。第二の柱はG7および世界中で責任ある重要鉱物プロジェクトに対する投資拡大のため、新興鉱業国、途上国のパートナーと連携し、国際開発金融機関や民間機関による資本動員を図るというものだ。第三の柱は重要鉱物の加工、代替素材開発、リサイクルなどの分野での研究開発の推進である。

行動計画の最大の課題はベースメタル(銅、アルミ)と異なり、採掘、生産、取引量が小さい重要鉱物において労働基準、汚職防止、環境保全の確保に関する基準を確立し、サプライチェーンを通じての順守をトレースすることが可能か、可能であるとしても費用対効果的か、G7以外の新興国、途上国の同調を得られるかという点である。

より根源的な問題は脱炭素(クリーンエネルギー転換の推進)、安全保障(対中依存の低下)、経済安定(インフレ防止、財政安定など)の同時追求が事実上、不可能という点だ。対中依存の低下と経済安定を追及すれば、脱炭素の遅延を許容する必要があり、米政権は志向している。同時追及は欧州の路線であるが、大規模な政策支援が必要で、最終的に国民、企業の負担増大につながる可能性が高い。

G7の関心が温暖化防止に大きく傾斜した結果、クリーンエネルギー技術や重要鉱物の対中依存が増大し、新たな経済安全保障上の脅威をもたらしていることは皮肉である。今回の重要鉱物行動計画が有効な一打となるのか、楽観は許されない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】社会的にも不利益 自主的取り組みの厄介さ


【業界スクランブル/新電力】

大手電力会社の自主的取り組みとして始まったグロス・ビディング(GB)の廃止が決まった。市場流動性向上、価格変動抑制、透明性向上効果を狙った電力・ガス取引監視等委員会の施策で、2023年の休止を経ての措置だ。

絶対買い、絶対売りを許容する本制度では、売買両札が約定価格近辺に集まらないので適正相場周知効果は乏しく、21年の需給ひっ迫時には絶対買いによる買い上り、価格暴騰の一因となるなど弊害もある。本稿で触れたいのは、行政指導と事業者の間合い。GBの「休止、廃止」の主語は監視委だが、制度上は「自主的取り組み」なのだ。

GBに限らず限界費用玉出し、内外無差別などの自主的取り組みには、「法的根拠が電事法総則以外にないが監視委がよいと考える施策」を「副作用の評価が不十分なまま」「大手電力が制度側との摩擦を嫌って我慢」「自主対応の外観維持」の構図がある。

弊害が生じた時に誰が責めを負うのか不明な措置が、行政機関の振舞として妥当なのか、このような措置を甘受する大手電力の対応が株主価値をき損しないのか、各専門家に聞いてみたいものだ。

この構図はエネ庁施策にも見られる。電力自由化が額面通りであれば、安全・保安系と消費者保護規制順守を前提に、各社が自発的に事業判断すべきだ。だが、事後規制が法的根拠なく導入され、商行為や発電所運用で不利を被るのに各社は空気を読み抗わない。他業界でもほぼ見かけない行政の恣意と業界の事なかれ主義が、業界全体の体力、将来への展望、安定的かつ経済的な電力供給をき損し社会厚生を下げている。(S)

メタが大手電力と長期契約 既存原発の長期活用モデル確立


【ワールドワイド/市場】

電力大手コンステレーション・エナジー(CEG)社およびIT大手メタ社は6月3日、CEG社がイリノイ州に保有するクリントン原子力発電所(BWR)で発電された電力112・1万kWを20年間にわたり供給する電力購入契約(PPA)を締結した。イリノイ州が原発を支援するために確立したゼロエミッションクレジット(ZEC)制度の終了後、2027年6月に開始する。CEG社は同契約に基づきライセンス更新に伴う投資を行うことができるとし、ZECの後継モデルとなる民間企業主導の支援策として注目されている。

ZEC制度が導入された背景には、安価な天然ガス火力の増加と再生可能エネルギー拡大に伴う卸電力価格の長期低迷で、州内の原子力発電所の経済性が悪化していたことがある。16 年にエクセロン社(当時)が保有するクリントン原子力発電所などの早期閉鎖を表明したことで、地域経済・雇用・税収への影響と、温室効果ガスを排出しない電源としての価値が改めて注目された。結果、「将来のエネルギー雇用法(FEJA)、2016年」が成立してZECが導入され、同発電所の運転継続が実現した。

CEG社はPPA締結を受け、発電所の出力を約3万kW増強する計画を示し、将来的に敷地内に小型モジュール炉(SMR)などを増設する構想も検討している。クリントン原子力発電所の運転ライセンスは現在、47年までの60年運転を目指して原子力規制委員会(NRC)が審査中で、PPA締結は、そのライセンス更新と運転継続の正当性を支える根拠としても注目されている。ドミンゲスCEO(最高経営責任者)は米国全土で展開するために協議を進めていることに触れ、発電所のライセンス更新と長期運転に必要な投資を支える経済的後ろ盾を得られることを望んでいると語った。

IT大手はデータセンター需要に備え、長期的かつ安定的な電源確保を急いでいる。短期的には天然ガス火力に依存しつつも、原子力との長期契約によって脱炭素目標の達成を図る姿勢だ。調査会社によると、昨年以降発表された米国における新規の商業用原子力案件の8割近くにIT大手が参画している。AI時代の新たな電力需要と脱炭素の要請が交差する中、PPAによる既存原子力の長期活用モデルは、今後の原子力活用における重要な戦略的選択肢の一つとなり得る。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)