150兆円投資のGX戦略始動 脱炭素と成長の同時達成は可能か


【多事争論】話題:GX投資への政府支援

政府は昨年12月末、GX投資促進に向けた分野別投資戦略を示した。

脱炭素と経済成長の同時達成を目指す戦略を、専門家はどう見ているのか。


〈 脱炭素の対欧米競争で勝ち目薄く 思い切った絞り込みで投資支援を 〉

視点A:山本隆三/国際環境経済研究所所長 常葉大学名誉教授

2011年にノーベル経済学賞を受けたトーマス・サージェント・ニューヨーク大学教授がカリフォルニア大学バークレー校の08年の卒業式で行ったスピーチは、経済学を12の点に要約したことで有名だ。その要点の最初は「望ましいことの多くは実現可能ではない」―だ。

さて、脱炭素のため日本政府が取り組むGX(グリーン・トランスフォーメーション)は望ましいことに違いないが、実現可能だろうか。GXについて多くの説明は不要だろう。エネルギーの安定供給を前提に脱炭素への移行と経済成長を同時に達成するとした基本方針だ。省エネの徹底、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力発電の活用、水素利用などが謳われている。

10年間で150兆円を超える投資が必要とされ、23年度から20兆円のGX経済移行債を10年間にわたり発行。28年度からの燃料賦課金と33年度から発電事業者に割り当てられる排出枠に基づく特定事業者負担金で償還する。20兆円の先行投資により民間投資を引き出す試みは目新しいが、国際競争を勝ち抜くことができるだろうか。

脱炭素目標をテコに経済成長を狙うのは、米国も欧州連合(EU)も同じだ。米国が22年に導入したインフレ抑制(IRA)法に対抗し、EUは23年2月にグリーンディール産業政策を打ち出した。再エネ設備、水素製造、蓄電池、EV、原子力発電など脱炭素のための技術開発、設備製造を支援する。中国の存在もある。国内に世界最大の市場を作ることで再エネ設備と蓄電池、EV市場で覇権を握った。

大きなイノベーションがない限り、脱炭素によりエネルギー価格は上昇し経済にマイナスの影響を与える。各国とも経済成長によりそれをある程度打ち消せると想定しているようだが、日本の事情は異なる。マクロで見ると、30年前は世界経済の18%あった日本の国内総生産(GDP)は、今や4%。さらに少子高齢化により、70年の人口は今から3割、労働力人口は4割減少する。大きく縮小する市場では大きな成長は期待できない。

【再エネ】洋上風力公募第2弾 際立つ商社の存在感


【業界スクランブル/再エネ】

政府による洋上風力公募のラウンド2の結果が、昨年末に一部公表された。前回に続き、今回も商社の存在感が際立つ。総合商社は、海外のエネルギービジネスを数多く手掛けてきた経験やノウハウを持っており、洋上風力発電プロジェクトにおいても、資本力やプロジェクト組成力、プロジェクトマネジメント能力、高いコスト意識などを発揮することで、案件を勝ち取ったのだと考えられる。

また総合商社は、国内外のパートナーとのネットワークや協力関係も豊富に持っており、洋上風力発電プロジェクトにおいても、技術的な課題やリスクを分散することが可能となっていることも勝因と推察される。

今回発表された秋田県中部沖、新潟県沖、長崎県沖の3海域でそれぞれ勝利した陣営は、総合商社と大手電力会社や海外エネルギー大手などの組み合わせである。洋上風力発電プロジェクトにおいて必要な要素をバランスよく持っているといえる。特に新潟県沖では、RWE、三井物産、大阪ガス陣営が、先行事業者であるENEOS傘下となったJREを抑え勝利した。この結果から、総合商社の提案力の高さがうかがえる。

ラウンド2において商社が躍進したことは、日本の気候変動対策への貢献にもつながるだろう。政府は2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという目標を掲げており、洋上風力発電はその切り札の一つとして注目されている。

総合商社は、洋上風力発電プロジェクトを通じて、より一層再生可能エネルギーの導入を促進し、日本のエネルギー事情や環境問題に対応することができるだろう。それが、海外の市場や技術へのアクセス向上、そして日本のエネルギー産業の競争力の向上につながることを期待する。(K)

気象データを高度利用 企業の収益最大化を支援


【エネルギービジネスのリーダー達】加藤芳樹・史葉/Weather Data Scienc合同会社共同代表

気象データとデータサイエンスを組み合わせたサービス事業を、夫婦で手掛けている。

気象に左右されるビジネスやサービスに対し、企業収益力につながるソリューション提供を目指す。

かとうよしき・ふみよ 芳樹氏はウェザーニューズで独自の気象技術開発を多数手掛ける。また米National Weather Centerに留学。史葉氏はウェザーニューズを経てエナリス入社。太陽光発電予測開発など気象に係る業務を主導した経験を生かし、2018年から気象予報士・データサイエンティストユニット「Weather Data Science」として活動。21年に法人化。

気象予報士の資格を持つ加藤芳樹・史葉夫妻。気象のデータを高度利用することで、気象条件により収益に影響を受ける企業の課題解決のためのサービスを提供するWeather Data Scienceを2018年に立ち上げた。気象データを活用したビッグデータの分析や、AI開発といったテクノロジーを駆使し、企業固有の問題解決に奔走している。


気象データをビジネスに 幅広い分野で顧客開拓を模索

「再生可能エネルギーをはじめとする電気事業や環境関連、フードデリバリーなど、気象にビジネスを左右される企業は全て顧客となるポテンシャルがある。気象に関することであればどのようなことでも手掛けていきたい」と語るのは史葉氏。

エネルギー分野では、再エネ事業者向けに気象条件で発電量が変動する太陽光や風力などの発電量データの分析や予測を精緻化するためのAI開発のほか、電力小売事業者向けに、電気料金戦略を決定するための前提となる電力需要と売り上げの予測値を提供するサービスなどを手掛けてきた。

エネルギー分野以外でも、コインランドリーの来客数を予測し、利用が少ないと予想される日には値段を下げることで需要を喚起するダイナミックプライシングを開発するプロジェクトに参画したのに加え、主人公が気象予報士を目指すNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」では、気象に関する台本考証にも携わった。

夫妻は民間気象情報会社であるウェザーニューズに所属し、気象予報士として勤務していた経歴を持つ。現在のビジネスにつながる転機となったのは、史葉氏が11年4月にエナリスに転職したこと。再エネFIT制度が始まり、太陽光発電の導入量が徐々に拡大していこうとする中で、気象データを活用し、電力取引や発電計画値を作るための太陽光発電予測システムを構築することが仕事だった。

同社を退職後は、太陽光出力予測をサブスクで売る個人事業を16年4月に立ち上げ。最初のクライアントは自治体系新電力1社だったが、開発費を回収できる見込みがなかったことなどから1年で終了。航空会社に勤め収入を得ながら、太陽光の発電予測サービスで新規顧客の開拓を目指した。

データサイエンティストへの転身を意識したのは17年こと。データサイエンティストやビッグデータといった言葉がもてはやされ始め、「気象データとデータサイエンスは相性が良いのではないか」と、当時別の航空会社に勤務していた芳樹氏に一緒に独立することを持ち掛けた。学び直しの期間に充てるために、2人はそろって退職を決意。データサイエンティスト養成講座を受講し、18年に独立を果たした。

【火力】COP28の所感 地に足のついた議論を


【業界スクランブル/火力】

昨年のCOP28で採択された合意文書について、みなさんはどのように評価されているだろうか。

「化石燃料からの脱却」との文言が合意文書に盛り込まれたことが画期的との評価もあるが、当該部分を訳すと「エネルギーシステムにおいて化石燃料からの転換を、公正で秩序正しく公平な方法で、特にこの重要な10年において行動を加速し、科学に基づいて2050年までにネットゼロを達成することを各国に呼びかける」となり、翻訳ソフトの精度もあるが、もともと玉虫色の内容のようだ。

こういった政治的文言の裏を読む力量は筆者にはないが、だからこそ素朴に疑問に思っていることがある。合意文書の中に30年までに再エネ容量を3倍にするとか、22カ国が50年までに原子力を3倍に引き上げる宣言をしたとされているが、世界の一次エネルギー源の比率は、現状再エネ14%(水力7%、その他7%)、原子力4%に過ぎない。すなわち、これらの供給量が無事3倍になっても、それだけでは世界が深刻なエネルギー不足に陥るのは火を見るより明らかだ。代替の見通しも無いまま化石燃料の削減ばかりを喧伝するのは、国際枠組みとしてあまりに無責任ではないか。

実際、打開策として期待されるべき水素・アンモニアやCCUSの取組について、やる前から否定的な意見が数多く聞えてくる。しかし、困難が伴うとしても、当面は化石燃料をも活用しなければ人類は平和的に脱炭素に移行できない、ということを現実の数字が示している。

今年はわが国でも第7次エネルギー基本計画の議論が始まる。エネルギーは、国民の生活に直結しているのだから、当てのない風評に惑わされることなく、地に足の着いた議論がなされることを祈るばかりである。(N)

【コラム/2月22日】「電力システム改革検証を考える~構造改革見直し第1弾となるか」


飯倉 穣/エコノミスト

1,電力システム改革検証始まる

経済活性化を狙う構造改革の柱であった電力システム改革(自由化)の検証が始まった。報道は構造改革を好むが、今回の検証開始の紹介記事は見当たらなかった。結果待ちか期待稀薄であろうか。

電力システム改革は、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離方式による送配電部門の中立性の確保を目指した(電力システム改革に関する改革方針13年年4月閣議決定)。3回の電気事業法改正(第185回臨時国会、第186回通常国会、第189回同)があった。実務的な課題整理・制度設計とその実施後、電力システム改革は完成した(20年)。

爾来、心配や不安、課題続出・綻び直しの5年である。総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(69回)は、議題として「 電力システムを取り巻く現状について ~電力システム改革の検証~」を審議し(24年1月22日)、検証に係るヒアリング、意見募集の運びとなった。

審議内容に、抑も改革(電力自由化)の意味を問う例示や電力システム再改革全体を扱う項目は見当たらない。この機会に日本経済に混乱を招いている構造改革の目玉であった政策の経緯を整理し、今後の在り方を改めて考える。

2,改革の経緯と期待の誤謬

1980年代まで、電気事業は、民間事業ながら、電力の安定供給の視点から公益事業として供給区域、料金、電力需給、設備形成等で規制があった。事業形態としては、発送配電一貫体制が、電気という財(同時同量・準公共財的性格)の特質からも適切である。需給・価格安定、必要電源開発、海外資源等の調達等で優れた制度であった。

80年代後半米国要求対応の政府の経済運営・政策の失敗で、バブル経済を形成し、民間企業は設備投資に走った。バブル崩壊後、過剰設備、過剰債務、過剰人員となった。電力業も、安定供給の必要性から、設備を拡大しコスト増となった。

90年代当初、資産価格の調整が始まったが、国内はバブル余熱(需要過大)の名残から高物価だった。そして日米経済摩擦の下で円高となった。政治・経済・金融混乱下、バブル絡み需給・価格高止まりの国民生活で、米国等と比較した物価が注目された。まず内外価格差問題の指摘があった。その後90年代中半に至る経済調整(リストラ)という景気停滞に加え、円高等で輸出競争力が低下する中で、国内の特定産業目当ての高物価構造問題の提起があった。流通・物流・電力等規制対象業種であった。

この状況に、米国主導・国内追随で、市場競争を通じた価格引き下げが、消費者にとって有益という見方が提示された。規制業種が、新規参入・撤退自由となれば、競争で効率化を促進し、価格も低下する。且つ技術革新も生起するという論であった。

抑々バブルで高価格の状況であり、バブル崩壊・需要減・供給過大で価格は放置しても低下する。その後金融不安もあり、デフレ経済となった。内外格差は解消する。

電力のような自然独占(規模の経済)の産業では、技術革新がなければ、自由化(新規参入)があっても範囲の経済の下に包摂される。そして競争で独占となり、消費者は弱い立場となる。自由化の意味が当初から疑問であった。

3,公益事業体制は不合理な制度か~電力システム改革の狙い

電気事業の送配電一貫体制は、電気事業の自然発生的姿である。電気という財(電磁場の提供)の性質、統合による取引コストの低減で範囲の経済が有効ということであろう。それに加えて電気利用拡大に伴う生活必需財の位置づけ等で、公共財的性格を帯びた。自然独占となれば、消費者に不安定・不利益な供給条件をもたらす恐れもある。料金等で適切な公的規制は当然である。この状況がバブル崩壊後変化しただろうか。疑問である。

政治・行政・一部経済専門家は、高物価構造是正を謳い、規制緩和の合唱で、電気事業のコスト・価格低下を促すため、市場重視・競争政策に転換した。そして競争可能性のある工程(市場)を創作する。つまり電力システム改革(電力自由化)で、発送配電事業を工程別に分離した。電源、卸電力市場、送配電、小売りである。

分割理由で、電源は、コジェネの開発で「誰でも何処でもいつでも」必要な電源開発が可能であると強弁した。技術革新で競争条件が整ったという見方である。

次に自由な取引の場と謳う卸電力競争市場創設で、事業参加者に販売先を提供する。そこに電気という商品供給を無理強いし、集中させれば、需給面の競争が可能になるとした。電源開発したい人が、電気を供給できる場が出来る。電源開発で競争が起これば、より低価の電気が生まれる。又電気を小売したい人が扱えば、競争でより廉価の電気を消費者に届けることが出来る。

送配電は、依然新規参入が困難で電気という特殊財の流通を担うため、市場機能を低下させない配慮(勝手運用阻止)が必要である。公正・中立の観点から民間に委ねることは適切でなく、公的管理を強化する方向となる。

つまり電力システム改革(自由化)で発送配電の分解・一部市場機能の導入を行えば、多様な電源開発期待で安定供給可能、競争促進で電気料金の最大抑制(引下げ)可能であり、消費者は「電力会社や料金メニューを自由に選択」出来るという消費者重視の目的が達成できるとした。2020年に完成する。

日豪のパートナーシップ 次世代エネルギーの水素


【リレーコラム】福間悠子/ハイドロジェンエンジニアリングオーストラリア(HEA)メルボルン事務所長代理

川崎重工業は、豪州のビクトリア州にある褐炭と呼ばれる石炭の一種から水素ガスを製造し、液化水素にすることで体積を大幅に縮小させ、日本まで水素エネルギーを大量輸送することを目指したサプライチェーン構築事業に取り組んでいる。英語圏では、Hydrogen Energy Supply Chain(HESC) Projectとして知られている。水素は燃焼時にCO2を排出せず、またさまざまな資源から抽出が可能であり、脱炭素やエネルギー・セキュリティーに貢献する次世代エネルギーとして期待されている。日本政府をはじめとする世界各国では水素戦略が策定され、水素は脱炭素社会の実現に向けた重要な選択肢の一つとして、利活用が検討されている。

HESCプロジェクトは、日豪両国のプロジェクト・パートナーが連携し、日豪両政府、ビクトリア州政府、地元自治体、コミュニティーなどさまざまな方面の協力を得て、2022年にパイロット実証を無事成功させることができた。

日豪間で船での水素運搬に成功

川崎重工がパイロット用に開発・建造を手掛けた世界初の液化水素運搬船「すいそ・ふろんてぃあ」は、日本船舶海洋工学会主催の「シップ・オブ・ザ・イヤー2021」にも選ばれた。豪州では最も進んだ水素プロジェクトの一つとして認知されている。現在、スケールアップした商用化実証プロジェクトの遂行に向け、日本政府のグリーンイノベーション基金の支援を得て、各種フィージビリティスタディーとFEED作業を推進。商用化実証プロジェクトでは、CO2回収・貯留ソリューションの実現もクリティカルになる。

「水素社会」の実現のためには、国際的なサプライチェーンの構築だけでなく、需要創設、マーケット創設も同時に行う必要があり、両国政府と民間部門の緊密なパートナーシップが重要になる。また、社会的受容性を獲得するための投資や活動を行うことも忘れてはならない。それは直接的な事業投資ではない場合もある。自国のみの視点ではなく、相手国・地域固有の環境、経済、エネルギー事情も考慮した上で、両国にベネフィットをもたらすことができる活動・投資の実行と、そのための積極的なPRが重要だと考える。

日本と豪州は、長年にわたり安定して信頼あるエネルギー・資源貿易のパートナーシップを構築してきた。両国がそのパートナーシップを一層強化し、世界をリードして次世代エネルギーの水素社会の実現に向けた旅路を進められるよう、微力ながら引き続き貢献していきたいと思う。

ふくま・ゆうこ 慶応大学卒業。2009年川崎重工入社。23年9月同社のオーストラリア現地法人HEAに出向、現職就任。日本水素エネルギーに兼務出向。水素エネルギー関連事業に従事。

※次回はアシャースト法律事務所の小川夏子さんです。

【原子力】柏崎刈羽の再稼働 地元同意のハードル


【業界スクランブル/原子力】

原子力規制委員会は2023年12月27日、柏崎刈羽原子力発電所に出していた事実上の運転禁止命令の解除を決定した。残る関門は地元同意のみとなったが、ハードルは高い。

柏崎刈羽発電所の停止は12年に及ぶ。そのため設備に不測の不具合が起きる可能性もある。稲垣武之所長は、「安全設備の構造や健全性など(今できる)検査は90%以上終わった。ただ再稼働には準備に数カ月かかる」と語っている。

本丸の原子炉は手つかずのままで、今も容器のふたが全て取り外され約900体の核燃料が隣の燃料プールに置かれている。設備を本来の状態に戻し、燃料を入れないとできない検査は多い。「再稼働に向けた準備でどんな不具合が起きるか予想がつかない」と関係者は語る。

稼働する原発を知らない所員も増えている。運転員約250人のうち3割の約90人が未経験者だ。今は年間で70日間はシミュレーターで運転時の訓練を積む。最近は火力発電所で実地研修も開いた。「蒸気や水の流れ、熱が出ている時の設備の状況を肌身で知るためだ。もう失敗は許されない。時間は気にせず進めるよう指示している」とある東電幹部は話す。

地元同意には妙手がない。「新潟は政治的に極めて難しい」と幹部は嘆く。県内は東北電力の供給エリアだ。柏崎刈羽が動いても、電気代は安くならないため理解を得づらい。

東電は26年度までに原子力部門の本社機能の一部を柏崎市へ移す。原発構内を含めると、本社で勤務する約800人のうち約300人が新潟に移る。現場重視や地元密着をアピールして再稼働への理解を得ようと年始から地元での説明を本格化するが、相次ぐ不祥事で不信感は根強い。東電にとって24年は勝負の年になる。(S)

【シン・メディア放談】志賀原発「安全性に異常なし」 不安をあおる報道に喝!


<エネルギー人編> 電力・石油・ガス

大波乱の幕開けとなった2024年。原発を巡っては事実を無視した感情的な言動が散見された。

―元日に石川県の能登地方を最大震度7の揺れと津波が襲った。

電力 総出力120万kWの七尾大田火力発電所が緊急停止。復旧には相当な時間が掛かりそうだが、関西電力の原発が稼働していることもあり、60‌hz地域の需給に大きな影響はない。過去の例を見れば、阪神・淡路大震災では需要減、東日本大震災では供給減で大規模な停電が発生しただけに、不幸中の幸いだ。

石油 電気の場合、復旧の速度は道路状況によって変わる。関西で停電が発生した2018年の台風21号や千葉県に大きな被害をもたらした19年の台風13号では、倒木などで道路が寸断され、復旧に時間を要した。今回も道路が大きなダメージを受け、港も隆起して船が着岸できない。被災地では送配電網の復旧に時間が掛かっている。ガスはどうだ?

ガス 都市ガスは激震エリアに供給されていない。能登半島の付け根エリアで多少のガス管損傷などはあったが、1月2日にはほぼ復旧。16年の熊本地震や18年の大阪北部地震では全国のガス会社が応援に駆け付けたが、今回は応援要請すらなかった。

石油 朝市通りの火災の原因として、LPガスの名が挙がっている。しかし、現段階ではあくまで調査中だ。LPガスはエネルギー供給の「最後のとりで」として炊き出し用や仮設住宅への供給が続く。安易な発言は慎んでほしい。

電気 とはいえ3・11と違って、今回はエネルギーより水道や避難の話が中心だ。例えば福島第一原発事故はその後の電力システム改革に大きな影響を与えたが、今回の地震がエネルギー政策に与える影響は少ないだろう。


電源はしっかりと確保 針小棒大に扱うマスコミ

―志賀原発を巡っては目に余る報道や発言が相次いだ。

石油 1月12日の毎日は3面に「志賀原発トラブル続出」との見出し。右端に大きく囲みで「変圧器破損」「油大量漏出」「一部電源途絶」「情報二転三転」と強調する。これを見れば、読者は不安を抱くに違いない。

情報発信の点では、北陸電力が変圧器の油漏れの量や原発敷地内にある水槽の水位変動値を訂正した。もちろん情報の正確性は重要だが、正確性ばかりに気を取られると迅速な発信に及び腰になる可能性も指摘されている。少なくとも「止める・冷やす・閉じ込める」に関する重要な情報に間違いはなかった。

電力「トラブル続発」という表現もどうか。変圧器や供給元の変電所の一部損傷により、外部電源5回線のうち2回線が使用できなくなった。だが、安全性には全く問題ない。残りの3回線は使用できるし、そもそも「外部電源に期待しない」というのが福島事故の教訓だ。ディーゼル発電機や大容量電源車、高圧電源車は利用可能な状態で確保できていた。

ガス 新規制基準では変圧器に高い耐震性能は求められていないし、原子力規制委員会の山中伸介委員長も「故障そのものについては安全上の重要度について問題視していない」(1月10日の記者会見)と言っている。原発に「傷一つ許さない」というのは、非科学的な態度だ。

【石油】「選挙の年」の価格動向 漂う不透明感


【業界スクランブル/石油】

2024年は新年早々、能登半島地震、日航機事故という思いがけない災害で始まった。犠牲者の方々にお悔やみ、被災者・関係者の方々にお見舞いを申し上げる。

さて今年の原油価格、見方は分かれているようだ。景気後退から軟化を予想する向きが多いが、パレスチナ情勢悪化から堅調を予想する向きもある。筆者は、「不透明、硬軟両方の要素がありますね」とごまかしている。ただ、主な不確定要素としては、世界景気、OPECプラス、パレスチナ紛争の3点があるように思われる。

まず景気動向は、中国・欧州の景気後退が懸念される一方で、米国の利上げ転換に伴う軟着陸シナリオも出てきている。IEAはEV化・省エネに伴う需要減退により、昨年は前年比日量230万バレル増の世界石油需要が、90万バレル増加に鈍化、さらにOPECプラス以外の産油国で米国・ブラジルを中心に今年の供給が160万バレル増加すると、需給緩和の方向で見ている。次にOPECプラスでは、年末にアンゴラが割当を不服として脱退、ナイジェリア、イラクも増産に動いている。17年の協調減産開始以来、コロナ禍を乗り切り結束を保ってきたが、OPECプラスにも綻びが見え始めた。今後の違反増産(チーティング)が懸念される。

最後にガザの行方については、現時点ではサウジなど産油国への飛び火はないが、イエメンのフーシ、レバノンのヒズボラという親イラン過激派の参戦もあり、今後の展開が気にかかる。

今年は世界各国で「選挙の年」でもある。プーチンは続投だろうが、バイデンは分からない、トランプ復帰もあり得る。そうなった場合、気候変動政策を中心に石油市場に大きな影響が出るであろう。これも不確定要素である。(H)

原子力発電の許認可申請に生成AI利用?


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

マイクロソフト(MS)社は、生成AIを利用して原子力発電所の許認可プロセスを円滑化する実験を始めたそうだ。原子力規制に知見を持つNPO法人テラ・プラクシスとともに、昨年からAIに米国の原子力規制および許認可書類を学習させ、書類作成作業の迅速化を試みているという。

同社の原子力への関心は高い。昨年6月、全米最大の原子力事業者であるコンステレーション社と電力需給契約を結んだほか、将来は、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる新型炉からの調達も視野に入れる。ちなみに創業者のビル・ゲイツは、テラパワー社を設立し、SMRの開発を支援している。

背景は、彼らが所有するデータセンター(DC)の電力消費だ。超大型DCの電力需要は2015~21年の間、年平均25%も伸びた(米エネルギー情報局)。こうした状況を受け、DCを活用してサービスを提供するクラウド・サービス・プロバイダーの選別には、炭素排出量を考慮せよとの声も出てきた。これまでは風力・太陽光などが主に調達されてきたが、こうした電源だけでは安定的に電力が供給できないことも理解されてきたようだ。

米国最初のSMRとして許認可を得たニュースケール社の申請には、5億ドル(約750億円)の費用と1万2千ページの申請書、さらに2百万ページもの補足資料を要したとのこと。今回、AIの利用で作業時間の90%削減を目指すらしい。AIは、主に定型的な資料作成を担当し、審査者と申請者が直に協議するべき重要な部分は残るという。どこの国でも審査の手間というのは原子力発電の活用にとっては難関だ。わが凡庸なAI(アベレージ・インテリジェンス)脳は、「そもそも審査を肝腎な部分に集約したら?」と解答してきたが、どうだろう。

【ガス】正直者が馬鹿見ぬよう 厳しく監視を


【業界スクランブル/ガス】

取引適正化に向けた議論が大詰めを迎えている。資源エネルギー庁は、諸事情で液化石油ガス流通WGの年末開催を延期したが、1月末に報告書案を提示し、省令改正の公布はあくまでも4月1日としている。

省令改正のポイントは、賃貸集合住宅の「過大な営業行為の制限」「三部料金制の徹底」「LPガス料金等の情報提供」の三つ。取締強化のために勧告、基準適合命令、登録取消、罰金など罰則規定を条文に位置付ける。また、実効性確保策として省令改正を待たずに昨年12月1日に、匿名でも通報可能な「LPガス商慣行通報フォーム」を開設した。毎日のように通報があるというが、今後の活用次第といったところだろう。

こうした中、改正前の駆け込み提案でブローカーの暗躍が活発化している。「この事業者なら、同じ条件で貸与とリベートが行える」、オーナーに対しては「指定のLPガス会社に変更すれば紹介料を支払う」などと勧誘。「無償貸与に応じないと他のガス事業者と契約するぞ」などの脅しのような話もある。さらに、「賢い大家さん」とうたう斡旋業者のホームページ。

〝アパート経営を成功に導く三種の神器〟として、「インターネット無料」「給湯器」「エアコン代」を掲げ、さらに配管工事代なども切替えで無償が可能、などとオーナー側を勧誘する。

一方、設備投資による切替えは今後行わない方針の事業者も多い。これまで積極的な切替えなどで事業拡大してきた事業者は、全ての設備貸与契約やLPガス供給契約の確認、賃貸集合住宅への営業指針の整備のほか、大幅な事業計画や投資戦略の見直しを迫られる。「業界正常化を目指すラストチャンス」ともいえる省令改正。正直者が馬鹿を見ないよう、より厳しく監視する必要がありそうだ。(F)

【マーケット情報/2月16日】原油続伸、地政学リスクが高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。地政学リスクの高まりが、相場を押し上げた。

16日、レバノンを拠点とする親イラン武装組織ヒズボラの指導者が、イスラエルとの紛争を激化させると示唆。中東情勢の悪化にともなう供給減で、相場が上昇するとの見通しが強まり、買いが相次いだ。また、米国によるロシア産原油への制裁も、上方圧力となった。米国は、ロシア産原油をインドへ運ぶ船舶会社に対し、G7の価格上限規定違反を理由に制裁を課している。今後、米国の制裁対象が拡大する可能性を受け、インドでは供給不安が広がった。

米ドルが他主要通貨に対し割安となったことも、ドル建てで取引される原油の買い意欲を強めた。

一方、国際エネルギー機関は15日、石油需要の伸びの鈍化、および供給の急増により、今年は日量80万バレル以上在庫が増加すると予測。価格上昇を幾分か抑えた。


【2月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=79.19ドル(前週比2.35ドル高)、ブレント先物(ICE)=83.47ドル(前週比1.28ドル高)、オマーン先物(DME)=82.10ドル(前週比1.07ドル高)、ドバイ現物(Argus)=81.99ドル(前週比1.15ドル高)

COP28合意は同床異夢 サウジ石油相の正論


【ワールドワイド/環境】

COP28で最大の争点は化石燃料フェーズアウト(段階的廃止)を盛り込むか否かであったが、「科学に沿った形で2050年までに正味ゼロを達成すべく、この重要な10年間で行動を加速させ、公正、秩序ある、衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料から移行(transition away from fossil fuels)という表現で決着した。国連、欧米諸国、環境団体、メディアはこぞって「化石燃料時代の終わりの始まり」であると強調した。

しかしCOP28から2週間後、サウジアラビアのアブドルアジーズ・ビン・サルマン石油大臣はリヤドで開催されたフォーラムにおいて「1・5℃の道筋に沿って温室効果ガス排出量を深く、迅速かつ持続的に削減する必要性を認識し、パリ協定とそれぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で、以下の世界的な取り組みに貢献するよう締約国に求める」との柱書の下、「化石燃料からの移行」を含む8項目が列挙されたパラグラフの全体像を示しつつ、「化石燃料からの移行はアラカルトメニューの中の選択肢の一つである」との認識を明らかにした。

最後まで紛糾した化石燃料を巡る文言を当事国が受け入れるということは、当然、同床異夢があるからであり、一方がかぶとを脱いだからではない。8項目の中にはサウジなどの産油国が強調するCCUS技術の導入加速が盛り込まれており、同技術を活用すれば化石燃料を利用しながら排出削減を追求できるというのが彼らの主張である。この議論は論理的であり、化石燃料フェーズアウトにこだわるのは手段が目的に優先する議論であろう。さらに8項目の中で導入を加速する技術の中には、原子力も含まれている。8項目すべての実施が求められるならば、ドイツのような反原発国にとっては原発への言及は受け入れられないはずだ。そう考えると「8項目はアラカルトメニューだ」というサルマン大臣の解釈は正しい。

サルマン大臣は米国、カナダ、豪州、英国などを念頭に「化石燃料フェーズアウトに必死になっている国々は、なぜ自国の化石燃料生産をフェーズアウトしないのか」と皮肉った。「化石燃料からの移行」という合意とは裏腹に、インドは石炭生産を30年までに倍増する計画だ。COPの文書でエネルギーの現実は変わらない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】24年は大きな変化の年 混乱収拾に時間要す


【業界スクランブル/新電力】

今年は容量市場、レベニューキャップ制度の実効スタート、需給調整市場の全面解禁と、電力業界にとっても大きな変化が始まる1年となる。各小売電気事業者に課される容量拠出金の概算値が広域機関によって通知されている状況だが、その算定根拠の公開がない中で、小売電気事業者の内部では、料金算定根拠への説明に苦慮する声が聞こえてきている。需要家への説明も含め、実務的に混乱が収まるには、しばらく時間がかかりそうな状況だ。

この2年ほどで議論が深まってきた大手電力会社の小売部門との内外無差別な卸取引についても一定の進展が得られ、2024年の市況の監視・モニタリングから、さらなる競争環境の活性化が望まれる。

激変緩和補助金が継続されたように、需要家負担の増加は国民の理解が得られない中で、卸料金と規制料金のバランスの議論には注目だ。高圧・特別高圧領域においては、市場連動的な要素を料金に織り込まれることが一般的になった。低圧領域においても、この傾向は広がってくるだろうか。

今年の後半には、第7次エネルギー基本計画策定の議論が始まる予定だ。広域機関が定めるマスタープランにもある通り、電源構成の変容はかなり大きいものであり、COP28をはじめとした国際情勢に基づき日本の中でも再エネ・原子力の推進がより求められる状況である。どの程度織り込まれるか、監督官庁・業界団体・事業者間の議論が待たれる。

さらには、20年の送配電分離から5年が経過した中での、システム改革の検証が求められる1年にもなる。方針や方向性を問い直す1年として、足元だけでなく、長期的な方向性を見通した上での議論や制度改定を期待していきたいところだ。(K)

インドが石炭火力を新設 CNとの整合性に疑問も


【ワールドワイド/経営】

昨年11月30日から12月13日まで第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が開催された。インドのモディ首相は演説で、2030年までに非化石燃料によるエネルギー比率を50%まで増やすなど脱炭素の取り組みが順調に進んでいることをアピールし、5年後のCOP33の開催国に名乗りを上げた。

同国では30年までに再エネ発電を500GWにするという目標を掲げ、太陽光発電を急拡大させている。一方で、同国の主力電源は依然として石炭火力であり、現在も発電電力量の7割を占める。再エネの普及拡大によって将来的に電源構成(kW)に占める石炭火力の割合は5割未満まで引き下げられる見通しだが、旺盛な電力需要の伸びに対応するため今後も石炭火力の新設は続くことになる。

国内の動きに目を向けると、COP28開幕前の11月21日には、シン電力相が電力関係者との対話を行い、31年度までに火力発電80‌GWを新設する方針が伝えられた。昨年5月公表の国家電力計画では、建設中の案件を含め約50‌GWの石炭火力を新設する計画となっており、30‌GWほど追加されたことになる。

電力省のアガーワル事務次官は「火力発電は31年においてもベースロード電源として不可欠であり、(中略)今後は太陽光が発電しない時間帯の電力供給が重要な課題となる」とし、事業者に積極的な投資を呼びかけた。

この背景には、昨年8月が1901年の観測開始以来の記録的な猛暑だったことがある。8月の消費電力量は前年同月比で21%増加した一方で、水不足で水力発電の停止が相次いだため、8月の電力不足率は4%まで上昇した。停電が頻発し、需給ひっ迫が大きな問題として受け止められた。

インド政府は、エネルギー政策において2047年までの「エネルギーの自立」と、70年までの「カーボンニュートラル(CN)達成」という二つの目標を掲げる。エネルギーの自立は国産資源の石炭の活用が前提であるが、CNを目指していることから、目標の整合性に疑問が生じている。そのため、今回の政府方針と関係者との対話には、事業者が石炭火力に投資する上での不確実性を取り除く狙いがあるとみられる。実際、同国で22年以降、電力分野で組成されたプロジェクトファイナンスは再エネのみで、石炭火力の案件はない。グローバルな脱炭素の流れの中、化石燃料プロジェクトの資金調達はより難しくなっており、政府の方針通りに石炭火力への投資が進むかは不透明である。

(栗林桂子/海外電力調査会・調査第二部)