飯倉 穣/エコノミスト
1,電力システム改革検証始まる
経済活性化を狙う構造改革の柱であった電力システム改革(自由化)の検証が始まった。報道は構造改革を好むが、今回の検証開始の紹介記事は見当たらなかった。結果待ちか期待稀薄であろうか。
電力システム改革は、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離方式による送配電部門の中立性の確保を目指した(電力システム改革に関する改革方針13年年4月閣議決定)。3回の電気事業法改正(第185回臨時国会、第186回通常国会、第189回同)があった。実務的な課題整理・制度設計とその実施後、電力システム改革は完成した(20年)。
爾来、心配や不安、課題続出・綻び直しの5年である。総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(69回)は、議題として「 電力システムを取り巻く現状について ~電力システム改革の検証~」を審議し(24年1月22日)、検証に係るヒアリング、意見募集の運びとなった。
審議内容に、抑も改革(電力自由化)の意味を問う例示や電力システム再改革全体を扱う項目は見当たらない。この機会に日本経済に混乱を招いている構造改革の目玉であった政策の経緯を整理し、今後の在り方を改めて考える。
2,改革の経緯と期待の誤謬
1980年代まで、電気事業は、民間事業ながら、電力の安定供給の視点から公益事業として供給区域、料金、電力需給、設備形成等で規制があった。事業形態としては、発送配電一貫体制が、電気という財(同時同量・準公共財的性格)の特質からも適切である。需給・価格安定、必要電源開発、海外資源等の調達等で優れた制度であった。
80年代後半米国要求対応の政府の経済運営・政策の失敗で、バブル経済を形成し、民間企業は設備投資に走った。バブル崩壊後、過剰設備、過剰債務、過剰人員となった。電力業も、安定供給の必要性から、設備を拡大しコスト増となった。
90年代当初、資産価格の調整が始まったが、国内はバブル余熱(需要過大)の名残から高物価だった。そして日米経済摩擦の下で円高となった。政治・経済・金融混乱下、バブル絡み需給・価格高止まりの国民生活で、米国等と比較した物価が注目された。まず内外価格差問題の指摘があった。その後90年代中半に至る経済調整(リストラ)という景気停滞に加え、円高等で輸出競争力が低下する中で、国内の特定産業目当ての高物価構造問題の提起があった。流通・物流・電力等規制対象業種であった。
この状況に、米国主導・国内追随で、市場競争を通じた価格引き下げが、消費者にとって有益という見方が提示された。規制業種が、新規参入・撤退自由となれば、競争で効率化を促進し、価格も低下する。且つ技術革新も生起するという論であった。
抑々バブルで高価格の状況であり、バブル崩壊・需要減・供給過大で価格は放置しても低下する。その後金融不安もあり、デフレ経済となった。内外格差は解消する。
電力のような自然独占(規模の経済)の産業では、技術革新がなければ、自由化(新規参入)があっても範囲の経済の下に包摂される。そして競争で独占となり、消費者は弱い立場となる。自由化の意味が当初から疑問であった。
3,公益事業体制は不合理な制度か~電力システム改革の狙い
電気事業の送配電一貫体制は、電気事業の自然発生的姿である。電気という財(電磁場の提供)の性質、統合による取引コストの低減で範囲の経済が有効ということであろう。それに加えて電気利用拡大に伴う生活必需財の位置づけ等で、公共財的性格を帯びた。自然独占となれば、消費者に不安定・不利益な供給条件をもたらす恐れもある。料金等で適切な公的規制は当然である。この状況がバブル崩壊後変化しただろうか。疑問である。
政治・行政・一部経済専門家は、高物価構造是正を謳い、規制緩和の合唱で、電気事業のコスト・価格低下を促すため、市場重視・競争政策に転換した。そして競争可能性のある工程(市場)を創作する。つまり電力システム改革(電力自由化)で、発送配電事業を工程別に分離した。電源、卸電力市場、送配電、小売りである。
分割理由で、電源は、コジェネの開発で「誰でも何処でもいつでも」必要な電源開発が可能であると強弁した。技術革新で競争条件が整ったという見方である。
次に自由な取引の場と謳う卸電力競争市場創設で、事業参加者に販売先を提供する。そこに電気という商品供給を無理強いし、集中させれば、需給面の競争が可能になるとした。電源開発したい人が、電気を供給できる場が出来る。電源開発で競争が起これば、より低価の電気が生まれる。又電気を小売したい人が扱えば、競争でより廉価の電気を消費者に届けることが出来る。
送配電は、依然新規参入が困難で電気という特殊財の流通を担うため、市場機能を低下させない配慮(勝手運用阻止)が必要である。公正・中立の観点から民間に委ねることは適切でなく、公的管理を強化する方向となる。
つまり電力システム改革(自由化)で発送配電の分解・一部市場機能の導入を行えば、多様な電源開発期待で安定供給可能、競争促進で電気料金の最大抑制(引下げ)可能であり、消費者は「電力会社や料金メニューを自由に選択」出来るという消費者重視の目的が達成できるとした。2020年に完成する。