【事業者探訪】ワット
陸上風力発電事業を軌道に乗せ、再エネの地消にこだわる地域新電力として存在感を示す。
手堅いニーズを受け九州域内で供給を拡大。再エネを原資とした地域活性化の絵を描く。
地域新電力の経営モデルでは、自治体が出資するケースが一般的だが、鹿児島県薩摩川内市には一味違った事業者が存在する。九州電力・川内原子力発電所の立地地域で陸上風力12基を運営するワットは、地産地消の本格推進を目的に、2022年に電力小売事業に参入した。市や大手企業などの資本参画なしに、自前で再エネ100%電気の供給拡大を目指している。

同社は06年、環境・リサイクルビジネスを営んでいた永田善三代表が、再生可能エネルギー分野に新規参入すべく設立した。社名は、電力の単位のWと、「Wind(風)、Amuse(楽しませる)、Tackle(取り組む)」に由来する。FIT(固定価格買い取り)制度検討前から風力発電事業を計画し、資金調達や系統接続、環境アセスメントなど建設までに時間を要したが、14年10月に念願の運転開始に至った。
現在グループ会社が運用する「柳山ウインドファーム(WF)」は出力2・76万kW(2300kW×12基)、年間発電量は約5000万kW時で、全量FITで売電する。市内外の視察や環境学習、九電主催の原発と併せた視察ツアーの受け入れ、売電収入の一部地域還元などに取り組み、周辺では風力開発を巡るトラブルも発生しているが、柳山WFは地元に親しまれつつ10年間稼働を続けてきた。
発電事業が軌道に乗る中、ある日見学に来た児童が「この電気はどこに行って誰が使うの?」と質問。この問いかけで、地場電源は地消してこそ、と改めて思い至った。トラッキングの仕組みができたこともあり、2年前、自社再エネを地域に供給する事業基盤を整えた。
県内にはいくつか地域新電力があるが、再エネへのこだわりは同社が随一だと自負する。加えて、原子力や火力なども含めバランスの取れたエネルギーミックスが必要とのスタンスだ。
常務を務める久保信治・企画戦略室長は、市の次世代エネルギー対策監などを経て、数年前に入社。今は民間の立場で、「地域のさまざまな困りごとを再エネ100%の電気を活用して解決したい。そして新ビジネス創出による地域貢献を目指したい」と展望を描く。
全量実質CO2ゼロで供給 県外に多くの需要家
小売事業は市場価格高騰という厳しい環境下での船出となったが、同時期に倒産した県内の有力新電力の需要家を受け入れたことが、むしろ事業開始の後押しになった。同社が販売する「W(ダブル)電力」は、特定卸供給で柳山WFの電気を調達し、全量再エネ指定非化石証書付きでCO2排出実質ゼロの電気として供給する。「顔の見える電力」がコンセプトの在京企業のバランシンググループ(BG)を活用している。

プランは2種類で、「RE100プラン」は原則FIT電気100%で、九電の標準料金を下回る水準に抑えた。もう一方の「バリュープラン」はさらに価格を抑え、電源の2割は市場調達などで賄う。販売量は初年度約680万kW時からスタートし、23年度が約2330万kW時、24年度は約4500万kW(予定)と順調に拡大中だ。契約件数は今年9月時点で1000件超となり、国・県・自治体施設、法人、個人と幅広く供給する。
特徴は、地域新電力でありながら県外の需要家が多い点。グローバル企業にとって再エネ調達が課題となる中、同社のプランが貴重な選択肢となっているのだ。熊本県内の半導体や自動車関連工場、そしてゼロカーボンを目指す佐賀県小城市など、供給先は九州域内に広がっている。逆にお膝元では、地域の雇用に原発が欠かせないこともあり、切り替えに慎重な傾向が強いという実情もある。





