COP28では、日本の従来の主張のように、各国の国情を踏まえた多様なアプローチの必要性を掲げた。
ただ、1.5℃目標を追求する方針は継続しており、第7次エネ基議論にどう波及するかが焦点となる。
「今回の合意文書は、EU(欧州連合)と産油国が対立する中での妥協の産物。ただ、日本にとっては満足のいく回答となった」(手塚宏之・日本鉄鋼連盟エネルギー技術委員長)。昨年末、UAE(アラブ首長国連邦)・ドバイで開催された温暖化防止国際会議のCOP28。日本の一部メディアは、「化石燃料からの脱却」など、産業革命前からの温度上昇を1.5℃に抑えるために踏み込んだ成果などと報じたが、これは一部の切り取りに過ぎない。
化石燃料に関する記述は、各国の対策の進捗を評価するGST(グローバルストックテイク)決定の中に出てくる。ただし、日本の政府見解は「脱却」でなく「移行」だ。そして表現を巡る齟齬以上に重要なのは、多様なオプションを示したこと。また、1.5℃目標などの必要性を述べつつも、各国の国情や異なるアプローチを考慮するよう強調した点にある。
具体的には、先述の化石燃料や、2030年までの再生可能エネルギー3倍・省エネ2倍などのグリーン系は当然登場しつつも、原子力やCCUS(CO2回収・利用・貯留)、低炭素水素、ローエミッション車などの多様な対策も併記した。「COP26のグラスゴー気候合意では1.5℃目標に向けた直線的なアプローチしか認めなかったが、パリ協定本来の姿に先祖返りした」(手塚氏)のだ。
さらに別の段落では、「移行燃料は、エネルギー安全保障を確保しつつエネルギー転換を促進できる」とし、その重要性を記した。移行燃料が何を指すのかまでは触れないものの、欧米主導では出てこないような「画期的な概念」(同)を示した。これらは日本のこれまでの主張に概ね合致する。
ただ、存在感を示したのはグローバルサウス、とりわけ議長国の巧みな交渉術だ。今回、ロス&ダメージ(損失と損害)の議論の前進が焦点の一つであり、事前の案では先進国と途上国が対立する項目があったが、ふたを開ければCOP初日にあっさり決着した。
実は、UAEが率先して1億ドル拠出すると表明し、一気に合意の流れを作ったのだ。これにEUも同調せざるを得ず、切り札にしたかったカードを先に切らされる形となり「化石燃料のフェーズアウト」は断念した。「(UAE産業・先端技術相でアブダビ国営石油CEOの)ジャーベル議長は優秀なビジネスマン」(現地参加の日本関係者)といった評価が出ている。
