【原子力】再処理工場の事業費増加 24年度上期稼働は


【業界スクランブル/原子力】

青森県六ケ所村の日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の総事業費が、2022年時点から2600億円増えて14兆7000億円になった。

かつて再処理事業の中止を求める「19兆円の請求書」という怪文書が経産省の匿名のキャリア官僚によってばらまかれ、物議をかもしたことがあった。今回の総事業費の増加は今後の状況次第で再び議論を巻き起こす危険性をはらんでいる。

総事業費の上昇は、再処理工場の完成時期を22年度から24年度へと2年延期したことに伴うものだ。延期により既存施設の維持管理費や人件費に1400億円かかることなどを反映した結果だ。ウクライナ侵攻に伴う資材費の高騰なども響いたという。

日本原燃の増田尚宏社長は6月23日、記者会見で原子力規制委員会による六ケ所再処理工場の認可審査を巡り、地盤モデルに関する内部検討に2カ月を要するとの見通しを示し、5月の会見で「(認可の前提となる)補正の時期は秋」と述べたことについて、「設定を変えないといけないかもしれない」と軌道修正している。一方で「24年度上期のできるだけ早期」と掲げる完成目標については「しっかり守る」と強調した。

審査での議論のポイントとなる設工認について原燃は、6月20日の審査会合で、再処理の建屋と設備の耐震評価の前提となる地盤モデルの検討方針などについて説明した。

原子力規制庁から、地盤モデルの検討の進め方について理解が得られたことから、データの丁寧な分析・考察を行い、1日も早い稼働に向けて、オールジャパン体制で審査に取り組んでいくとしている。

再処理工場の稼働を巡る議論は大詰めを迎えている。行方を注目したい。(S)

【マーケット情報/8月18日】原油下落、中国経済の先行き懸念が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落した。不動産業を中心に景気低迷が続く中国で、需要減の見通しが強まった。

中国では、7月の製油所稼働率が前月から微増にとどまるなど、燃料需要は市場の想定より弱かった。また、不動産大手の恒大グループが、米連邦破産法の適用を申請するなど、中国経済の先行き懸念が強まった。中国人民銀行(中央銀行)は、消費刺激策の一環として利下げを発表したが、油価への影響は限定的だった。

米国では、小売業などで、引き続き旺盛な消費活動が確認されるなど、インフレ圧力を示す経済統計が相次いで発表された。景気過熱を抑制するため、連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ政策が継続するとの見通しから、需要減の見方が強まった。

OPECは、ロシア産原油の今年の供給量見通しを上方修正した。ただ、世界の需要全体については、前回の予測を据え置いた。IEA(国際エネルギー機関)も同様に、需要見通しを据え置いた。

一方で、米石油在庫は、輸出増から1月以来の最低水準となったが、油価の上方圧力には至らなかった。


【8月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=81.25ドル(前週比1.94ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.80ドル(前週比2.01ドル安)、オマーン先物(DME)=85.45ドル(前週比2.47ドル安)、ドバイ現物(Argus)=85.36ドル(前週比2.49ドル安)

【石油】補助金増額のナゾ 削減率は増えたが


【業界スクランブル/石油】

6月第5週(6月29日~7月5日)の燃料油補助金は、1ℓ当たり9・7円の支給となった。第4週の補助金は9円だったから、0・7円の増額である。筆者には、記者や大口需要家から6月以降、2週に10%ずつ補助金は削減されるのにナゼ増額されたのかと、この「逆転現象」について数件の問合せがあった。

確かに9月末の補助金終了に向け、段階的縮減を始めたのに、しかも、第5週目だから削減率は20%から30%に拡大されるのになぜ補助金は増額されるのか、疑問に思うのは当然だ。

この逆転現象、政府が補助金終了に向けて行うのは、補助額縮減ではなく補助率縮減だからだと説明するしかない。政府は毎週円建て原油価格の変動を基本に、補助額を見直しているが、第4週は従来であれば11・2円の補助のところ、20%削減で補助額は9円になったのに対し、第5週は、価格上昇・円安進行があり、従来3・9円のところ、30%削減で9・7円の補助となった。従って、今後もこうした逆転現象は起こるかもしれない。また6月末時点の価格・為替水準が続くならば、9月末に向け、さらに9・7円程度の石油製品価格値上がりは避けられないということだろう。

このところ、原油価格は、景気見通しを巡る不透明感を反映して、70ドル前後の水準で方向感覚を欠く動きをしている。しかし、IEAもOPECも本年下期の石油需要は堅調な見通しを崩していない。

しかも、サウジアラビアの追加自主減産日量100万バレルも始まっているもようである。需給ひっ迫による価格上昇もあり得る状況である。補助金縮減で、国内価格の原油価格との連動性も徐々に戻るであろう。燃料油補助金のソフトランディングを祈りたい。(H)

【ガス】パラダイムシフトへ 将来の戦略転換を


【業界スクランブル/ガス】

激変する現代において、変化の潮流を見据えて正しい意思決定を続けることは至難の技だ。過去、それに失敗し沈んでいった企業は数知れない。

かつて、米国通信業界に君臨していたAT&Tは、1980年代に世界初の携帯電話技術を開発した。しかし、当時の経営者は将来の携帯電話普及は限定的と過小想定したため、携帯電話用無線網よりも既存の固定電話用ケーブル網への巨大投資を選択。半面、携帯電話の普及は予測に反して破竹の伸びを示し、同社は没落していった。

世界最大のフィルムメーカーだったコダック社は、75年に世界で初めてデジカメを開発した。しかし、当時の経営者は「フィルム事業がもうかっているのに、なぜ利益を減らすデジタル化を進める必要があるのか」として、デジカメ技術を封印してしまった。それ以降もコダックは既存フィルム事業に固執し、結局2012年に破綻してしまった。

どんな会社も既存ビジネスが好調な時に、リスクのある未知のビジネスや技術開発へ積極的に投資することは躊躇してしまうものだ。しかし、時代の変化は確実に進み、一企業や業界がコントロールすることはできない。しかも、現在そのスピードは加速度的に早くなっている。そうした環境下で勝ち残っていくためには、常に危機感を持って変化の兆しを察知し、たとえ自分達が不利になることであっても受け入れ、まだ余裕がある段階で大胆な戦略転換を行うことが必須となる。

メタネーションの可能性を否定するつもりはないが、脱炭素化の潮流が進む中、都市ガス事業の存在が厳しくなることは確実だ。時代の潮流をしっかり見据えて、将来における自分達の「生業」を再定義し、「種」となる新規事業を考えていくタイミングは今しかないだろう。(G)

【新電力】競争環境の実現は 国民経済的に望ましいか


【業界スクランブル/新電力】

制度設計専門会合で旧一電の卸売りに関する評価結果が示された。結果から見ると、北海道と沖縄(条件付き)が内外無差別と評価され、他の会社は評価に差があるものの何らかの改善が求められている。当面常時バックアップ(BU)廃止には至らないことになろう。

資本主義社会においては、共産主義、社会主義が結果平等を理想とするのに対し、機会平等が実現して競争原理が働くことを理想と考えることが多い。経済においては、参加者の条件を公平にすることでそれを実現し、市場原理を働かせることである。

ただ、市場が独占的である場合には、市場原理は適切に働かない。独占者はプライスメーカーとして行動して超過利潤を獲得し、結果国民全体の経済厚生は損なわれる。

現在のエリアごとの電力小売市場では旧一電のシェアが高く、卸売市場は買い手独占に近い。そうした状況下では「公平に競争できる市場環境」を作ること自体に意味はなく、結果平等を実現するような方策が適当、ということになる。そうなると常時BUのような実質的にメニューでの相対取引(のみ)を実施するのが最適解となる。

市場原理を適切に機能する市場環境の実現には、「独占者のシェア低下・分散」しか手段はないが、今回はその点で「エリア需要に応じた購入制限」の撤廃に言及されている。

競争評価当初からの論点であるが、市場画定の問題である。広域エリアが一つの市場となれば旧一電各社のシェアは下がる。一方で、連系線や周波数変換所(FC)の制約で卸電力市場が分断することもある。とはいえ、膨大なコストをかけてFC、連系線を増強し、結果市場の広域化、競争環境が実現したとして、それは国民経済的に望ましい結果になるのか。(K)

燃料が買えなくて停電する国


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

パキスタンLNG(政府系企業)は、6月に約1年ぶりのLNGの購入を試みたが、計6隻の入札に応じた供給者はなかったと報じられた。海外の銀行が信用状(銀行による買い手の支払保証)発行を拒んだことで、売り手が敬遠したという。

昨年春以降、LNG価格は急騰し、市場価格が100万Btu(英国熱量単位)当たり30ドルを超えた夏ごろから、同国のほか、インド、バングラデシュなどの買いが消えていった。パキスタンでは、計画停電などを行いながら、慢性的な燃料不足の状況をしのいできたのだ。幸い、一時は80ドルを超えた価格が、6月初めには10ドル近辺まで下がったため、満を持して実施したのが今回の入札だった。

本件が突きつけるのは、お金がなければ電気がつかないという当たり前の現実だ。昨年の最高値である100万Btu当たり80ドルのLNGは、発電するとkW時当たり約80円、船1隻分で約350億円にもなる。外貨準備高が落ち込むパキスタンならずとも、相当の資金力と信用力がないと買えない代物だ。

化石燃料資源の供給に大きな増加が期待できないなか、市場は今後も景気や天候の状況により価格の乱高下が懸念される。日本では原子力の再稼働が遅れ、火力燃料の輸入量は高止まりが続く。次に燃料価格が高騰すれば、貿易収支はさらに悪化し、円安にも拍車が掛かる可能性がある。資源輸入型企業の信用力には間違いなくマイナスに働くものだ。燃料を購入する発電事業者の多くは、今回の燃料高騰で価格転嫁に苦しみ、財務状況を大幅に悪化させた。容量市場は始まるものの、限界費用玉だしのガイドライン化や、再エネの導入拡大の進展により、今後も電力市場で利益を上げるのは容易ではない。「燃料が買えなくて停電する日本」が妄想ならよいが。

【コラム/8月18日】電力分野における販売事業の成功要因


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電力市場における競争の激化、分散型電源の大量導入およびデジタル技術の急速な普及などで、内外の電気事業のビジネスモデルは大きく変化している。そのような変化は、電気事業の価値連鎖のすべての段階でみられるが、とくに、顧客に近い販売分野は、顧客と電気事業の接点であり、同分野のビジネスモデルの変化は、顧客に対しての電気事業の顔の変貌を意味している。販売事業の成功には、プロダクトのデジタル化が欠かせない。ドイツでは、電気事業の販売部門でデジタル技術に支えられた様々なプロダクトが開発されているが、業界団体BDEWの調査によれば、デジタルプロダクトの販売を成功させるために販売事業に求められるものは、つぎのようなものである。

(1)プロセス、インターフェイスおよびプロダクトのデジタル化

(2) 顧客(とくに、フレキシビリティの利用可能性)に関する詳細な知識

(3) 顧客のニーズを最適化し、操作が簡単で理解しやすいプロダクト開発のための能力

(4) プロダクトのコスト最適化(最大の利益を実現するためのコストの適正化)

(5) 市場の発展とその企業収益や顧客行動への影響に関する早期認識

(6) 収益、コストおよびチャンスやリスクの展開に関する理解

(7) 良好なデータ品質を確保するための優れたデータ処理

(8) IT企業や保険会社のような新しいパートナーとの戦略的な協調

以上の成功要因から明らかなことは、販売事業に従事する企業は、新たなコンピタンスの獲得に迫られているということである。顧客のニーズに最適化し、操作が簡単で理解しやすいプロダクトを開発・販売する能力を有する企業は、大きな成功を収めることができる。そのようなプロダクトは、多くの場合、顧客のニーズに応じて多様なサービスをバンドルしたものであり、例えば、コモディティとしてのエネルギー供給と併せて、フレキシビリティや分散型電源を制御するサービス、さらには、セキュリティサービスや快適な暮らしをもたらすサービスなどを提供するプロダクトである。

また、販売事業は、供給コストの変化が複雑化してくることを理解しなくてはならない。例えば、系統の容量制約と間欠性の再生可能エネルギー発電の相互関係から供給コストの複雑な変化が生じる。将来的には、販売事業は、包括的なソリューションの価格付けにおいて、比較的単純なコスト見積もりによる価格設定を行うことは不可能である。事前に確実に見積もることができない価格に影響する要素が多く出現するからである。また、価格計算式に影響を与える要素をすべて適切に表現することは不可能と思われる。このため、販売事業者は、コストの変化を通じて販売のリスクとチャンスが増大することを認識しておく必要がある。

販売事業は、顧客と電気事業の接点であり、将来、破壊的なイノベーションが創出されるのは、主として顧客に最も近い販売部門と考えられている。このため、販売事業は、早期に事業全体のデジタル化を進め、プロダクト開発や顧客グループ等に関する中長期のポジションニングを行い、コモディティ販売(純粋なエネルギー販売)を超えた新たな価値創造戦略を開発することが求められている。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【電力】負の価格導入を提言 再エネTFのミスリード


【業界スクランブル/電力】

再エネ等規制等総点検タスクフォース(TF)が6月29日、電力市場の下限価格を撤廃、負の価格を導入すべきとの提言を公表した。

負の市場価格は欧米では普通に許容されており、数%程度の頻度で価格はマイナスになる。一般的に、市場による需給調整を機能させるためには、価格の制約がないに越したことはないし、電力需要がそれに反応して増加すれば、再エネの出力抑制は減るだろう。ただし、それ以上の効果を安易に喧伝するのはどうも感心しない。

長期固定電源と通常呼ばれる原子力・流込水力・地熱に石炭火力を加えて「長期固定電源等」と呼び直してまで、石炭火力をやり玉にあげようとするのは、火力・原子力サゲと再エネアゲへ先鋭化したこのチームらしいが、優先給電ルールは書かれているような「電力過剰供給時も含めて、季節を問わず発電を続けさせることによって収益を確保させて、旧式の火力発電機を温存する」ものではない。

石炭火力は、再エネ発電が増えれば出力を抑制する。最低出力まで下げてしまえば、今度は再エネが抑制される。最低出力を維持して運転を継続するのが気に入らないようなのだが、これは太陽光が発電しなくなる夕方の需要ピークに備えるためで、収益を確保するためではない。

負の価格導入後も、需給バランス上必要な電源は最低出力以上の運転を継続するし、そのために必要な再エネの出力抑制は実施される。kW時市場からの収入が負の価格により細るなら、別手段(例えば容量市場)で補完するべきものだ。 今のFITの世界からFIPへ移行、加えて負の価格も解禁とくれば、再エネ発電事業者が直面する市場リスクも高まる。こうしたミスリードで過剰な期待を煽るのはいかがか。(V)

COP28の新たな火種 GST巡り対立激化か


【ワールドワイド/環境】

12月にドバイで開催のCOP28。最大の争点はグローバル・ストックテイク(GST)である。GSTとはパリ協定の目的および長期的な目標の達成に向けた全体の進捗状況評価であり、23年から5年おきに行う。COP28は初のGST実施だ。

GSTの評価対象は緩和、適応(ロス&ダメージを含む)、実施手段(気候資金、技術など)である。野心レベル引き上げにもっぱら関心を有する先進国はIPCC第6次評価報告書を踏まえ、「各国の目標値を足し上げても1・5℃目標が求める削減経路に足りない」というメッセージを打ち出し、25年に予定する各国目標見直しを野心的なものにしようと考えている。他方、途上国は「先進国からの資金援助、技術協力、ロス&ダメージ支援が足りない」というメッセージを打ち出したい。24年は新たな資金援助目標を決定する年にあたり、途上国は先進国が20年の目標数値である年間1000憶ドルすら達成できていないと非難する。事務局は30年までに途上国が緩和・適応に必要とする資金量を約6兆ドルと見積もり、途上国はGSTを使って24年の新資金目標交渉を有利に運びたい考えだ。

先進国としては、IPCC第6次評価報告書はIPCC総会で採択されたから、19年比で25年ピークアウト、30年43%減、35年60%減を盛り込みたいが、ことはそう簡単ではない。途上国の交渉戦略に理論的支柱を与える組織TWNはIPCCについて以下の批判的コメントを出した。

「IPCC第6次評価報告書第3作業部会は、提出された2425のシナリオのうち、1202のシナリオの一部に基づいて、世界の緩和経路の分析を実施している」「IPCCの著者がシナリオを選定しているが、その際、国連気候変動枠組条約の衡平性、共通だが差異ある責任とそれぞれの能力の原則の遵守が考慮されていない」「10地域分類を使用し、パリ協定の気温目標に対応し 、IPCC 第3作業部会で取り上げられたシナリオの衡平性評価を実施すると、全てのシナリオにおいて発展途上国の成長、発展、化石燃料、エネルギー使用を制約し、先進国・途上国間の不平等を永続化させる結果になっている」

途上国はIPCCのシナリオを是とせず、COP28ではGSTを巡り先進国、途上国が激突することになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

太陽光パネルの再利用 米企業で期待も課題は


【ワールドワイド/経営】

米国では、現在約1億4950万kWの太陽光発電が導入されているが、仮にこれが全て一般的な太陽光パネルで構成されているとすると、5億枚以上ものパネルが設置されているという試算になる。また、2022年に成立したインフレ抑制法の後押しもあり、米国内における太陽光の導入は今後も加速することが見込まれている。一方で、太陽光パネルの寿命は通常20~30年といわれており、この先急増する使用済みパネルの廃棄問題への関心も高まりつつある。

将来的な廃棄パネルの増加を見据え、一部の事業者はリサイクルの新規事業に乗り出している。22年に設立された太陽光パネルリサイクル事業者のソーラーサイクルは、設立後間もなく大手事業者との提携を発表しており、23年5月に米大手発電事業者のAESと、さらに6月には世界的な再エネ大手のオーステッドと、太陽光パネルのリサイクル・再利用に関する事業提携を発表した。

ソーラーサイクルは、独自の技術により、太陽光パネルに使用されている銀、シリコン、アルミニウムなどの貴重な材料を95%再資源化することが可能としている。なお同社は、23年4月に米国エネルギー省から150万ドルの助成金を受けており、現在は太陽光パネルに使用される資源をより効率的に回収・分離する技術の研究を進めている。

現状、米国で廃棄される太陽光パネルの約90%は埋立地で処分されているといわれている。これは、リサイクルした場合の資源の再販価格では、輸送を含めたコストを賄うことができず、埋立地で処理した方がはるかに安価であることが背景にある。一方で、米国では太陽光パネルの需要が伸び続ける中、対中貿易摩擦やパンデミックの影響によるサプライチェーンの問題が顕在化しており、新規太陽光パネルの原材料価格の上昇も懸念される。このような中、リサイクル事業はこれら課題の救済策となり得る。

調査会社のライスタッド・エナジーによると、米国内の使用済み太陽光パネルから回収可能な資源の価値は23年時点で1億7000万ドル相当であるのに対し、廃棄パネルの増加に伴い30年に27億ドル、50年には800億ドル規模まで増大することが予想されている。今後、リサイクル技術の向上や政府の支援など、さまざまな要因も相まってリサイクル市場が醸成されることで、埋立地への廃棄処分が縮小されるとともに、国内サプライチェーンの強化が期待される。

(三上朋絵/海外電力調査会・調査第一部)

サハリン2権益巡る情報戦 今夏の定期改修に注目


【ワールドワイド/資源】

サハリン2を巡っては、英シェルの撤退を受けて、2022年内にシェルが保有する権益を継承するロシア企業が選定されるはずだったが、現在に至るまで遅延している。

ロシア政府の本命は、ヤマルLNGを進める露ノバテクであることはほぼ疑いない。しかし、シェルとしては自身が依然として権益の保有者であり、対価を確実に獲得することに主眼がある。

また昨年6月の大統領令では、外資がもたらした損害に対して賠償を求めるとも読める内容が含まれ、ロシア政府がシェルに対して、罰金を科すような事態になれば、シェルは国際司法に場を移す可能性が高く、ノバテクからすれば、シェルとロシア政府との訴訟に巻き込まれるリスクが発生する。このことがノバテクによるサハリン2参画が遅延している理由と考えられる。

このような中、ノバテクが3月6日にサハリン2におけるシェルの権益取得に向けて、入札書類をロシア政府に申請。「非友好国」の非居住者(法人)に対してはロシアからの海外送金が時限的(現在は2023年9月30日まで)に禁止されている中で、シェルが保有するシェア分の売却対価の海外口座送金については、プーチン大統領が承認する方向にあるという報道が流れた。ノバテクにとってシェルによる国際訴訟を回避できる状況が整いつつあることが示唆された。撤退を志向するシェルにとっては、プーチン大統領が海外への送金を認める判断を下したのであれば、大きな一歩となるはずだった。しかし、現在に至るまで新たな情報は出てきていない。

サハリン2については、今後のオペレーションを占う上で重要なイベントが今夏に予定されている。2年に1度実施されることになる定期改修であり、液化プラント停止に伴って7月から8月にかけてLNG生産量も通常の3分1程度まで低下する。ロシアは昨年、ノルド・ストリーム定期改修時に欧米制裁を理由に供給を削減し、ガス価格高騰を演出した。サハリン2でもシェルの撤退や欧州制裁によってLNG機器が入手できないことを理由に、供給を削減あるいは停止することもできるだろう。ロシア産LNGの最大需要国である日本を揺さぶり、価格高騰によってロシア政府は歳入確保も可能となる。

今夏の改修はガスプロムが独自に行うという点もこれまでにない不確実性リスクであるが、同時にロシア政府がどのように行動するのか注視しなくてはならない。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【視察②】脱炭素への挑戦 資源活用模索の現場


【エネルギーフォーラム主催/北海道視察・団長印象記】

山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長

今回の北海道視察は大変印象的で学ぶことが多かった。北海道には洋上風力を含め莫大な再生可能エネルギー資源があり、原子力や天然ガス活用にも取り組んでいる。特に風力は洋上を含めて大きな資源ポテンシャルがあるが、道内にはそれを受け止めるエネルギー需要が不足している。鍵になるのは莫大な資源ポテンシャルを活用するための、需要側も含めたエネルギーインフラの整備だと感じた。

豊富町内の鉱山設備でガス事業について説明を受ける山地団長

北海道北部風力送電は、風力発電事業者が自ら設立・運用する送電会社で今年4月に操業を開始した。政府補助事業として複数の応募・採択があったが商用操業を達成したのはこの1社のみ。Y字型の約80㎞の送電線を建設して54万kWの陸上風力を北海道電力ネットワーク(NW)に連系する。24万kW×3時間の容量の蓄電池を持ち、風力と蓄電池の合成出力によって電力需給安定化のための「変動緩和要件(北電NWが設定)」を満たす。ビジネスモデルとしては、振替供給サービスとして発電事業者から対価を受け取る。変動性電源である風力を多数束ねて蓄電池と共に運用して安定電源として活用する供給側アグリゲータの一種として注目される。

なお、この送電線に連系する風力発電所の現場2か所も視察した。一つは建設工事中の芦川ウインドファーム、もう一つは操業中の川南ウインドファームである。いずれも4000kW級風車を採用し、芦川は風車31基で13万3000kW、川南は19基で8万2000kWである。工事中の芦川サイトでは、基礎工事段階の現場や85mのタワー、60mのブレードを強大なクレーン車で組み立てている様子を見て4000kW級風車の建設工事の巨大さを実感した。視察当日は快晴で風も強く、操業中の川南サイトでは風車が勢いよく回っている姿を間近で見てその迫力を感じた。

【視察①】課題先進地域・北海道のエネ事情 「脱炭素×ビジネス」の可能性を探る


【エネルギーフォーラム主催/北海道視察】

脱炭素時代に向け、再エネの高い導入ポテンシャルが期待される北海道。

小社は6月下旬「北海道カーボンニュートラル戦略視察団」を主催した。

本誌記者のレポートと団長・山地憲治氏の印象記で、視察の全容を紹介する。

視察団には、団長の山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長のほか、電力、都市ガス、再生可能エネルギー、商社、メーカー、コンサルタント会社などから13人が参加。6月25日から28日までの4日間で、北海道北部地域、石狩市、札幌市のエネルギー施設を視察した。

深度250mの地下坑道へ HLW処分技術を体感

最初に訪れたのは、北海道北部の幌延町に所在する日本原子力研究開発機構(JAEA)「幌延深地層研究センター」だ。高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分に関する最先端の技術研究が行われている話題の施設は、地上施設の研究管理棟や試験棟、来訪者に地下深部での研究内容を紹介する「ゆめ地創館」、そして地下の研究施設とで構成されている。視察団は二グループに分かれ、地下施設とゆめ地創館を見学し、地層処分への理解を深めた。

地下には、140、250、350mの3本の水平坑道が調査坑道として整備されており、2025年度に向けさらに深度500mに新たな調査坑道を整備する計画が進む。今回、視察団が視察したのは深度250mの坑道だ。

10万年間HLWを安全に地下埋設する技術を研究する

20年に北海道寿都町と神恵内村が最終処分地の選定に向けた最初のプロセスである「文献調査」に着手し、今後は「概要調査」「精密調査」が控える。この2町村に続く自治体も出てくる公算が高く、地層処分技術について実感を持って知ることができる同センターの存在は、ますます注目されることになるだろう。

そんな幌延町に隣接する豊富町は、油を含む珍しい泉質の温泉で知られる町だ。天然ガスが自噴し、町が公営事業者として町内の公共・民間施設に供給している。輸送費がかからないため、販売価格は1㎥41円程度と安い。ただ、そのほとんどを未利用のまま大気中に放散してしまっているということで、どう売り切りガス事業を黒字化させるかに町は苦心している。「ガスの生産量が多いようで少ない。このため、発電や町内への小売り供給など、費用対効果のある事業になかなか結び付かない」(商工観光課の鈴木優貴主査)のが実情のようだ。

日本は本当に遅れている? LGBTでマスコミ大騒ぎ


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

出羽守とは、「(『では』と『出羽』をかけて)『海外では』のように、他者の例を引き合いに出して語る人」(デジタル大辞泉)である。まさにこれだろう。

6月の国会で成立した「性的少数者(LGBT)への理解増進法」を巡る報道である。読売、産経以外は、5月に広島で開催されたG7サミット(主要7か国首脳会議)のころから成立まで、「日本は遅れている」と大騒ぎした。

5月22日朝日「広島サミット」は、「(20日に発表された)G7サミットの首脳コミュニケ(声明)には、ジェンダーに関する項目が設けられ、『あらゆる人々が性自認、性表現、性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受できる社会を実現する』と明記した」「ジェンダー平等をめぐっては、議長国である日本の遅れが国内外から指摘されている。日本はG7で唯一、国として同性カップルに法的な権利を与えず、LGBTに関する差別禁止規定もない」。

5月9日TBSもG7各国の差別禁止法の表を作り日本だけバツをつけた。他も似たりよったり。

読売6月18日社説「LGBT法成立、社会の混乱をどう防ぐのか」は真逆だ。「先進7か国(G7)で、LGBTに特化した法律を持つ国はない。LGBT法は、国際社会でも極めて特異な立法」と指摘し、「日本は最高法規で『法の下の平等』を定めている。LGBTに特化して差別禁止を定める理由は、見当たらない」と強く批判する。

出羽守たちの言説はどうも怪しい。衆議院法制局は5月、「G7でLGBTに特化した法律を持つ国はない」と自民党に説明。6月15日の参議院内閣委員会でも、外務省が有村治子議員(自民)の質問に同じ答弁をしている。

日本たたきの根拠は一体何だったのだろう。今後、LGBT報道は眉唾もの、と考えざるを得ない。

読売7月1日「OP技術で出典明示、『ネットの健全性高まる』」は、「台北で開かれた『世界ニュースメディア大会』で30日、読売新聞東京本社編集局長が講演。インターネット上の情報発信者を明示するデジタル技術『オリジネーター・プロファイル(OP)』が実用化されれば、『ネット空間の健全性は大いに高まる』と強調した」と書く。ネット記事や広告に発信者の信頼性を確認するための情報を電子的に付与する。

全国紙は全て参加しているという。期待したいが、何より重要なのは、記事の中身だろう。

朝日同日のコラム「石油危機から50年、『脱炭素』の戦略、定まらぬ軸足」は、日本企業が液化天然ガス(LNG)産出国との新規契約に消極的で、「既契約分の輸入が減り始める数年後には国内のガス供給に不安」と警告する。理由は、政府が電源の化石燃料比率を2030年度までに半減させる計画を定め、将来の需要が見込めなくなったためと解説する。

対策として推すのは再生可能エネルギーの普及。加えて化石燃料の開発投資も重要とする専門家の声を紹介する。記事からして軸足が定まらない。そもそも原子力発電に触れないのはなぜか。

トルコ公共放送TRTは6月9日、討論番組「フィンランドの電力価格がゼロ以下に」をユーチューブ配信した。フィンランドでは4月、オルキルオト原子力発電所3号機(出力160万kW)が本格稼働した。ダム水量も多かった。ウクライナ侵攻したロシアに昨年、電力供給を止められたが、原子力の実力を示した。あっ、出羽守……。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

STEAMから見えてくる社会と世界


【オピニオン】浦嶋將年/学びのイノベーション・プラットフォーム理事長

STEAM(Science、Technology、 Engineering、Art、 Mathematics)教育の浸透というテーマに取り組んでいる。その活動母体である一般社団法人学びのイノベーション・プラットフォームについては、本誌6月号に掲載された。ここでは活動の中から見えてくる現代の社会や世界の側面について私見を述べさせていただく。

「現在の教科ごとの教育とSTEAMによる総合性を取り入れた教育を両輪で実施しないと、これからのVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)な世界で必要になる資質が育成されない」。これは、私どものイベントに参加された学校教員と覚しき方からのコメントである。筆者が育った時代とは異なり、これからの時代を生き抜く若者が遭遇する世界は著しくVUCAな世界であり、VUCAに対応できる学びとしてSTEAMの実践は最適ではないだろうか。昨今のエネルギー危機はVUCAの代表例である。

日本財団が2019年9月〜10月に「18歳意識調査」を実施した。インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、英国、米国、ドイツ、そして日本の17~19歳、各1000人を対象に、「国や社会に対する意識」を聞いたものだ。結果は、「将来の夢を持っている」について、他国がすべて80%以上の中で日本は60.1%、「自分で国や社会を変えられると思う」も他国に比して突出して低い18.3%(米国65.7%)というものだった。この要因はどこにあるのか。日本人に共通する「自己肯定感の低さ」を要因とする専門家がいるが、それだけだろうか。日本の若者には、企業活動について肯定的な位置付けができていない可能性はないか。周りの大人たち、特に企業人には、もっと学校に関わって企業活動が社会にどう貢献しているかを語っていただきたいし、未来に夢を持つように励まして欲しい。

「素人のように発想し、実行段階ではプロとして実践する」は、カーネギーメロン大学ワイタカー記念教授の金出武雄先生の名言である。素人のようにとは、過去からのいきさつや常識から解放されて、しなやかなスタンスで課題に向き合うことを指す。この言葉はSTEAMの課題設定における向き合い方に一脈通じ、日本人が国際舞台で不得意といわれるアジェンダ・セッティングの力を向上させるはずである。

これまでの行政により独占的に担われてきた「公共」を、これからは市民・事業者・行政の協働によって「公共」を実現する時代になり、これが「新しい公共」の考え方である。また、岸田政権が推進する「新しい資本主義」も同様な趣旨を包摂していると解している。私どもが推進する学びのイノベーション・プラットフォームは、学びの革新に、企業、学校、大学や国研など社会総出で支え合う枠組みであり、「新しい公共」「新しい資本主義」の考え方に沿うチャレンジである。多くの産学官公教の皆様の理解と協力を得るよう、一層の努力を必要としている。

うらしま・まさとし 1972年東京大学工学部卒、通商産業省(当時)入省。工業技術院技術審議官、内閣府大臣官房審議官、鹿島建設専務執行役員などを経て2021年から現職。東京大学総長室アドバイザー。