石油供給の鍵を握るサウジアラビア 国際秩序維持へ政策再構築が急務


【論点】ウクライナ・中東の複合危機/小山正篤 石油アナリスト

ウクライナ戦争の続く中、10月に勃発したハマス・イスラエル戦争は中東に巨大な衝撃を与えている。

この混沌とした世界情勢の中で、石油供給の行方の鍵を握るのは、何よりもサウジアラビアだ。

 本稿では、OPECプラスをけん引するサウジアラビアの動きと影響力強化の背景を冷静に考えてみたい。

OPECプラスはOPEC・非OPEC側からそれぞれ10カ国、計20カ国が参加する。2020年5月、コロナ禍の下での異常な需要収縮に対応し、基準量対比・日量1000万バレルの大減産を行った。この基準量は18年10月の生産実績に相当する。以降、生産目標総量を漸次引き上げ、昨年8月には当水準まで回復させた。

しかし、この過程で過半の参加国が事実上「脱落」した。原油価格低迷、供給網寸断の下で投資不足となり、ナイジェリアやアンゴラなど、目標量にまで回復できない国が相次いだ。加えて昨年3月以降、有事のロシアでも原油生産が停滞。既に昨年8月、これら諸国の実生産量は目標量を大きく下回っていた。

このように「脱落組」で生産目標が形骸化したので、昨年11月に名目的な生産目標総量が日量200万バレル削減されても、実際の減産量は8月対比・日量40万バレル。ほとんど報道されないが、対前年比では日量100万バレルの増産だった。

これを微温的と見て、今年5月以降サウジを筆頭に、「有志」8カ国(サウジ、UAE、クウェート、イラク、オマーン、アルジェリア、ガボン、カザフスタン)が日量・計120万バレルを自主的に追加減産。この8カ国こそが実質的なOPECプラスであり、その中でサウジは4割の生産量を占める。7月以降、サウジはさらに単独で日量100万バレルの追加的な自主減産に入った。

10月時点の国際エネルギー機関(IEA)見通しをもとに、これら自主減産を加味すると、今年の世界石油需給は日量約20万バレルの需要超過と見込まれる。昨年は政府在庫の取り崩し分も含めて、日量100万バレル以上の供給超過。それを若干打ち消す展開となる(表参照)。サウジの狙いは、あくまで市場の均衡回復にあることが、ここに見て取れる。


ウクライナ危機後の変動 強まるサウジの主導権

日量1000万バレルを超える原油生産能力を有するのは、サウジの他には米国とロシアしかない。10年代「シェール革命」によって米国の生産量は倍増以上となり、一躍世界最大となった。しかし現在その増産ペースは鈍化しており、安定・減退期を迎えつつある。ここにロシアが「脱落組」となりサウジの主導権は強まった。

ウクライナ危機が国際石油供給にもたらした最大の変化は、それまで一体的な地域市場を形成していた欧・露の分離だ。21年通年と今年第2四半期を比べると、ロシアのEU向け石油輸出量は日量約300万バレルの激減。その振り替え先はインドと中国に集中し、特にインド向けは同期間に日量わずか10万バレル弱から200万バレル超へと激増した。

今年第2四半期、ロシア産はインド原油輸入の実に4割を占めた。対照的にサウジ産の比率は、昨年4月の19%から今年6月には12%へと低落した。中東勢は自らがアジア成長市場から切り離される現状を、いつまでも座視できない。サウジがロシアに石油輸出抑制を促すのは、むしろロシアをけん制し、アジア市場という「縄張り」へのこれ以上の浸透を許さぬ構え、と見るべきだろう。

激化する重要鉱物の獲得競争 「脱中国依存」への対応加速


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

リチウム、コバルト、ニッケルなどの重要鉱物を巡り、国内外でさまざまな動きが広がっている。
国際競争力の強化や脱炭素実現のため、切れ目のない対応が求められる。

脱炭素社会の推進に欠かせない重要鉱物の需要が世界的に急増している。日本は、「脱中国依存」を目指し、調達先の多様化を急がねばならない。

国際エネルギー機関(IEA)は9月、パリで「重要鉱物・クリーンエネルギーサミット」の初会合を開いた。参加国・地域は連携してサプライチェーン(供給網)の多様化に取り組むことで一致した。今後、重要鉱物に関する専門組織がIEAに設置される見通しだという。

そもそも、IEAは半世紀前の第一次石油危機を契機に、先進国が集まって創設した組織だ。これまで、石油や天然ガスなどの安定確保に取り組んできたが、そこに重要鉱物が加わった。

重要鉱物もエネルギー安全保障の一環として重視される時代を迎えたことを意味する。

重要鉱物とは、リチウムやコバルト、ニッケルなどを指し、電気自動車(EV)用の蓄電池や、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの設備などに不可欠だ。

重要鉱物を安定的に確保できるか否かが、その国の国際競争力を一定程度、左右しかねない。重要鉱物が不足すれば、脱炭素社会の実現も遠のく。

IEAの報告書によると、世界的に脱炭素の取り組みが加速したことで、2022年の重要鉱物の市場規模は3200億ドルに達し、17年からのわずか5年間で約2倍に拡大した。

ただ、重要鉱物の供給源は中国に集中している。IEAによると、重要鉱物の加工段階における中国のシェア(市場占有率)は、蓄電池の生産に欠かせないグラファイト(黒鉛)でほぼ独占状態にあり、コバルトでも7割超に上る。

EV用モーターや風力発電タービンに使われる永久磁石の製造に必要なレアアース(希土類)でも、中国は世界の生産の約7割、加工の約9割を握っている。


中国は輸出規制を武器に 先進国は対抗策を探る

今回の会合にIEA加盟国など約50カ国が参加する中、中国は出席しなかった。だが、会合は中国を強くけん制する場となった。

その圧倒的な市場支配力を用いて、中国は重要鉱物の輸出規制を経済的な威圧の手段として使う姿勢を明確にしているためだ。

中国は、8月から先端半導体などの材料となる重要鉱物のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を開始した。国家の安全と利益を守るためとしており、日米に対抗する意図が見える。

重要鉱物は中国が圧倒的シェアを握る

過去には、10年に尖閣諸島付近で発生した日本の巡視船と中国の漁船との衝突事件を受け、日本を狙い撃ちに、レアアース輸出を禁止したこともある。

会合で、米国のグランホルムエネルギー省長官は「政治的利益のため、(重要鉱物での)市場支配力を武器にしようとする有力な供給者がいる」と、名指しこそ避けたものの、暗に中国を批判した。

GX投資を成長戦略に 専門家WGがスタート


脱炭素社会を目指す取り組みを通じて新たな需要・市場を創出し、経済を成長軌道に乗せる―。このグリーントランスフォーメーション(GX)の実現を目指し、政府は投資戦略を具体化するための「GX実現に向けた専門家ワーキンググループ(WG)」を立ち上げた。20兆円規模のGX移行債を原資に、CO2削減に向けた技術開発や、多排出産業の燃料転換といった取り組みを後押しする方針で、同WGでは分野ごとの投資戦略を検討する。

メンバーは、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー・主席研究員、大橋弘・東京大学大学院経済学研究科教授ら7人。10月5日の第1回会合では、「鉄鋼」と「化学」を対象に議論が交わされた。

課題は、技術革新の不確実性がある中で、経済成長や産業競争力強化につながる分野への重点配分ができるかだ。経済界の関係者は、「将来、どの産業を残すのか。バリューチェーンのどこまでを国内で賄うのかといった視点で、産業政策をバックとした政策・予算にしていかなければならない」と話している。

【覆面ホンネ座談会】洋上風力に立ちはだかる壁 国内産業育成の正念場に


テーマ:洋上風力公募の今後

 洋上風力公募を巡る贈収賄疑惑、さらには進行中案件の運開延期など、さまざまな課題・トラブルが表面化している。国内で洋上風力産業を育成する上で、正念場を迎えつつある。

〈出席者〉 Aマスコミ関係者  Bコンサル  C風力産業関係者  Dメーカー関係者

―洋上風力公募に関する贈収賄疑惑で、日本風力開発の塚脇正幸元社長と、秋本真利・衆議院議員が起訴された。さらに10月17日には、経済産業省が同社と日本風力発電協会に対して指導を行った。

A 塚脇氏と秋本氏の関係は有名な話だ。政府は現在審査中の公募第二ラウンドからルールを見直したが、さらに年末ごろに公募受付開始予定の第三ラウンドを巡り、再度のルール変更があるかがポイント。そしてエネルギー政策そのものへの影響を心配している。洋上風力は再生可能エネルギー主力電源化の切り札で、着実に事業開発が進んできたが、これでブレーキが掛からないか。特に今回の疑惑を受け、立地に前向きだった自治体が方針転換しないかが気がかりだ。

B 確かに、事業者と距離を置く自治体が増えることを懸念している。日本版セントラル方式の行方はどうなるのか。そして政府はこれまでも公募の審査プロセスを慎重に進めてきたが、今回の事態を受けて一層慎重に取り組むことで、事業者が開発に着手できないようになることが、最も憂慮すべきリスクになると思う。

公募を巡る競争が激化する一方、国内での産業育成は課題に直面している


協会は疑惑との無関係を強調 一方で日風開関係の代表理事が退任

C 塚脇氏は風力協会が2000年代前半に発足した当初からの主要メンバーだ。協会は安倍政権時代から、菅義偉官房長官(当時)らに「日本も洋上風力を本気でやらなければ」とたびたび政策提案を行ってきた。超党派議連ができ、さらに国土交通省所管から経産省との共同推進マターとなり、一般海域の利用に向けた公募ルールができた。議連の中心メンバーだった秋本氏も、当初から純粋な気持ちで普及を目指し、北から南まで全国津々浦々に足を運んでいた。

D 商社出身の塚脇氏はリーダーシップがあり、日風開に資源エネルギー庁幹部OBや、(10月18日に協会代表理事を退任した)三菱重工出身の加藤仁氏を呼び寄せるなど人脈も豊富だ。一方、危うい面もあった。協会の活動を加藤氏に任せた後、塚脇氏は自社事業に専念。日風開は案件開発後、事業継続よりも案件の売買で収益を上げるビジネスモデルで、これには大株主のベインキャピタルの意向もあったと思われる。塚脇氏はそうした視点で、自民党内外や金融庁などへの働きかけに奔走していた。

―協会は塚脇氏とは一線を画していた、と。

C 協会は9月に「贈収賄疑惑への関与はない」とHPに見解を載せたが、正直なところだと思う。協会としても第一ラウンドで三菱商事グループが総取りしたことへの懸念を示し、評価では運開時期早期化と地域共生をより重視するよう要望していたが、最終的に価格重視などの方向性は大きく変わらなかった。協会加盟社は本件とは一線を画して、開発環境の一層の整備に取り組まなければならない。

―10月18日、協会は日風開の退会と、同グループ所属の理事・役員の退任を発表した。

D 少し前の段階では、協会主要メンバーの中から、加藤氏の進退などについて何か言う人はいなかったと思う。ただ、経産省の指導は重かった。協会のマンパワーも限られる中、対外的な面から組織をどう変えていくかは大きな課題。特に秋田県知事や北海道の自治体関係者からマイナスな意見が出始めた中、協会の活動への理解をどう広めるかも重要だ。

DERの活用加速へ アグリゲーター団体発足


デマンドレスポンス(DR)リソースや蓄電池の導入拡大を見据え、DER(分散型エネルギーリソース)を活用して卸電力市場や需給調整市場、容量市場といった市場で各種電力価値を取引するアグリゲーター(特定卸供給事業者)が注目されている。

昨年アグリゲーターライセンスが導入されて以降、今年8月7日までに57社がライセンスを取得した。10月6日には、事業者団体として「エネルギーリソースアグリゲーション事業協会」(ERA)が発足、その時点で取得予定も含めた23社が正会員として、またエネルギー事業者やシステムベンダーなど幅広い業種から51社が賛助会員として参加した。

ERAは今後、勉強会などを通じて会員間で国内外の制度動向やセキュリティーの情報を共有するほか、DER活用上の課題や制度面の課題について重点的に議論した上で、制度を所管する経済産業省・資源エネルギー庁などに意見を提起していく。

新団体設立に際し、会長理事に就任した関西電力の子会社E―Flowの川口公一社長は、「系統用蓄電池など、制度面でも定まっていないことが多い。速やかに議論を開始したい」と語った。

商用EVを使ったリースサービス発表 再エネ電気と組み合わせ脱炭素化促進


【コスモ石油マーケティング】

コスモ石油マーケティングは、企業や自治体の脱炭素化をサポートする商用EVリースサービスを発表した。

EVのリース、充電設備、メンテナンス、再エネ由来の電力供給までトータルでサポートする。

コスモエネルギーホールディングスの子会社コスモ石油マーケティングは10月、都内で会見を開き、脱炭素ソリューション「コスモ・ゼロカボプラン」を発表した。併せて、同プランで使用するASF社の商用軽EV「ASF2.0」の試乗会を開催した。

ゼロカボプランは、同社が2010年から始めた「コスモマイカーリース」の仕組みを利用して展開する。同商品は、国産全メーカー・全車種から車が選択可能で、頭金は0円で車検、税金、メンテナンス諸経費を含めたパッケージ商品だ。ガソリンスタンド(SS)で申し込みから給油、整備までできるので、ユーザーと密着したきめ細かいサービスが特長だ。

現在の契約台数は累計で10万台を超える。このうち約85%がBtoCである一般ユーザー。残る約15%が商用となっている。発表したASF2.0では、拡大余地のある商用を狙う。

商用軽EV「ASF2.0」

法人向け脱炭素プラン 一気通貫のサービスが魅力

商用向けの実用EVパッケージのゼロカボプランは、コスモマイカーリースで培ったノウハウをBtoBに生かし、SS店舗から法人とのつながりの創出を図っている。EV向けの充電器に関する工事一式や補助金申請、車両整備などをワンストップで提供。商用EVリースをフルパッケージ化した。

また、同社が展開する電力小売事業の「コスモでんきビジネスグリーン」を使い、実質再エネ電力も供給して、企業の脱炭素化をトータルでサポートする。

岡田正常務執行役員は「現在脱炭素の音頭を取っているのは、国や地方自治体、企業だ。新たなターゲットであるBtoBへモビリティサービスを広げていくため、EV導入をきっかけに脱炭素化を進められるゼロカボプランを打ち出した」と意気込む。

同プランで使用するASF2.0は、30‌kW時リン酸鉄リチウムバッテリーを搭載し、航続距離209kmを実現。ドライバーにとっての使いやすさと安全性、環境への配慮を追求した商用軽バンだ。

ASF社は商品開発に当たり、佐川急便のドライバー7000人にアンケートを実施。現場の要望を細やかに実車に反映した。

具体的には、疲れの出やすい長時間の運転に配慮し、助手席よりも運転席が幅広く取られていたり、伝票用の書類収納が頭上にあるなど、ドライバーファーストのつくりとしている。業務上で使用するアプリをつなげられるよう、スマートフォンの画面ミラーリング機能も備える。低床設計の荷室はフルフラットで、大きく重い荷物もスムーズに出し入れできる。

なお、リース料金は黒ナンバー(商用軽自動車)で1カ月1000~2000kmの使用で2.5~2.8万円、黄ナンバーで3.3~3.6万円程度になる見込みだ。

荷室はフラットで広く使いやすい
運転席は助手席より幅広く設計されている

ドライバーに優しい車 負担を軽減した設計

試乗会には多くの報道陣が集まった。約2kmの公道を実際にASF2.0に乗って試運転することができた。聞こえてくるのはモーター音ぐらいで、振動も少ない。荷崩れの心配もなさそうだ。一日のほとんどを営業車で過ごすドライバーのストレスを軽減する運転手に優しい車だと感じた。

ユーザーのかゆい所に手が届く装備や乗り心地、サービスパッケージに、コスモ石油マーケティングの並々ならぬ気合が感じられた。「クリーンなエネルギーサービスをお客さまに便利な形で提供することに真摯に向き合いたい」と岡田氏は語る。

同社は、さらに進化したBtoBエネルギーサービス提供にまい進していく構えだ。

【イニシャルニュース 】処分事業で対馬ショック 学者トップに懸念の声も


処分事業で対馬ショック 学者トップに懸念の声も

「厳しかったか……」。長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は9月27日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の文献調査を受け入れない旨を表明した。ニュースを聞いて、処分事業を進める関係者はがっくりと肩を落とした。

今、処分事業で差し迫った課題は、2020年10月から文献調査を行っている北海道寿都町・神恵内村をどう概要調査に移行するかだ。文献調査の期間は2年が目安。ズルズルと引き延ばすことはできない。移行には知事の同意が必要だが、鈴木直道知事は拒否する姿勢を堅持している。

「対馬市をはじめ、最低あと一つ文献調査に応募してもらう。それで、『今後、続いて文献調査に多くの自治体が応募し、概要調査に移るところも出るでしょう。寿都・神恵内は移行に前向きです。それなのに地元の意向を無視して拒んでいいのですか』と知事を説得する―」。関係者はこう考えていた。しかし、プランは練り直しとなった。

処分事業トップの責任を問う声もある。長く理事長職に就くK氏は「学究肌で自ら第一線に出ようとしない」(関係者)と評判が今一つ芳しくない。元T大教授のY氏にバトンをわたす見通しだが、「2代続いて学者のトップで大丈夫か」(電力関係者)との懸念も聞こえる。

復活する全電化CM 「うらやましい」の声も

「このところ、テレビで頻繁にオール電化のCMを見かけるようになった気がする。一昔前に戻った感じだ」

こう話すのは、原子力発電が順調に稼働している大手電力エリアで、某エネルギー会社に勤務するX氏だ。11年3月の東日本大震災以降、原発の長期停止や電気料金値上げ、電力・ガス小売全面自由化、卸電力市場・燃料価格の高騰、度重なる不祥事などを背景に、大手電力ではオール電化を積極的にPRしづらい情勢が続いてきた。

それがここにきて、①原発稼働の進展、②燃料価格の落ち着き、③一連の不祥事の再発防止対策―などによって、状況が改善。とりわけ、原発の稼働は深夜電力も含め電気料金の低廉化にベースロードで効果をもたらすため、オール電化にとっては朗報だ。

「今だよ、いろんな選択肢を検討できるのは。例えばエコキュートに替えれば、省エネで光熱費がこんなに安くなる」「給湯器が壊れる前に、エコキュートでどれだけ安くなるかチェック!」―。

関西電力は、今年10月1日から来年2月29日まで実施中のオール電化キャンペーンに合わせて、古いガス給湯器などからの切り替え促進を狙ったテレビCMを展開。光熱費の安さを前面に打ち出す内容になっている。

一部の大手電力がオール電化攻勢に出た

「うらやましい限りだ」。このCMを見た大手電力A社の関係者は、こう感想を漏らした。「原子力が長年動いていなくて、規制料金を値上げした当社では、オール電化を積極的にアピールできる状況になく、再稼働したとしても、関電のようにはいかないだろう。とはいえ、一日も早くそんな状態に戻りたいものだ」(A社の関係者)

昔と違うのは、太陽光発電や蓄電池とセットで、災害時対応の観点からオール電化のメリットを訴求するケースが増えていることだ。全面自由化によって、オール電化が大手電力の〝専売〟ではなくなった点も異なる。ガス会社のオール電化CMが今後登場してくるかもしれない。

ガザ危機で第五次中東戦争勃発か エネルギー安保の新たな懸念材料に


【識者の視点】十市 勉/日本エネルギー経済研究所客員研究員

第一次オイルショック発生からちょうど50年の節目に、奇しくも中東情勢が新たなフェーズを迎えた。

ロシア・ウクライナ情勢や再エネの地政学リスクも見据えたエネルギーセキュリティーの向上が問われる。

パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム武装組織「ハマス」が、10月7日にイスラエルへの大規模攻撃を始め、中東情勢が一気に不安定化している。多数の死傷者を出したイスラエルは、ハマスの殲滅を目指してガザ地区への空爆に加え、本格的な地上侵攻の準備を進めている。米バイデン大統領は、人道危機の軽減や人質解放、周辺地域への戦争拡大を抑えるため、イスラエル訪問などの外交努力を続けるが、ガザの病院爆破で多数の死者が出たこともあり、予断を許さない状況にある。

今回想起されるのは、ちょうど50年前の1973年10月6日、エジプトとシリアがイスラエル軍を奇襲攻撃して始まった「第4次中東戦争」である。両国を支援するため、サウジアラビアなどアラブ石油輸出国は、親イスラエルの米欧諸国に対して石油の禁輸措置を発動し、世界はオイルショックに見舞われた。その後エジプトは、疲弊した経済を立て直すため、米国の仲介で79年にイスラエルとの平和条約締結に至った。それを契機に、中東問題の焦点は、アラブ諸国とイスラエルの対立からパレスチナ問題へと移り、今回のハマスによるテロ攻撃につながった。

昨年来のウクライナ戦争でエネルギー危機が起きる中、今回の中東戦争は、エネルギーセキュリティーにとって新たな懸念要因となっている。足元の原油価格は1バレル90ドル前後の高値圏で一進一体を続けており、当面は石油供給への影響は限定的と見られている。

米・イランの緊張高まる さらなる不安定化を懸念

しかし、ハマスのテロ攻撃にイランが関与した明白な証拠が判明したり、米国・イスラエルとイランの対立がエスカレートしたりすれば、国際エネルギー情勢がさらに不安定化する恐れがある。例えば、米国による経済制裁の強化で原油の生産・輸出が減少するイランが、報復としてイスラム過激派武装勢力を使ってサウジの油田施設を攻撃、あるいはホルムズ海峡の安全航行が脅かされる事態が起きることである。

なお米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「ハマスと、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部によれば、イランのイスラム革命防衛隊がハマスの奇襲攻撃計画を支援した」と報じている。イラン政府は強く否定するが、米国ではイランが背後で重要な役割を果たしたとの見方も出ている。

これまでイランは、ハマスに対して資金や武器供与、戦闘員の訓練などの支援を行ってきたが、その狙いは宿敵であるイスラエルとその支援国の米国に圧力をかけることである。イランは、今年3月に中国の仲介でサウジとの国交を回復する一方、米国が進めるイスラエルとサウジの国交正常化の動きに強く警戒していた。イスラエルの報復攻撃でガザ住民の犠牲者が急増する中、既にサウジはイスラエルとの国交正常化の交渉凍結に追い込まれている。

そのサウジと米国の間には、長年の「特別な関係」、すなわち米国がサウジの安全保障に責任を持つ代わりに、サウジは石油の安定供給に務めるという暗黙の合意があった。しかし、2001年の米国同時多発テロ事件で実行犯の多数がサウジ国籍であったこと、また18年の著名なサウジ人記者の殺害事件にムハンマド皇太子が関与したとして、両国間で軋轢が生じていた。さらに米国にとって、シェール革命で石油の自給体制を確立したこともあり、サウジの重要性が低下してきた。

一方のサウジは、バイデン大統領からの相次ぐ増産要請に応じず、ロシアと協調してOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産政策を続け、最大の輸出先である中国との関係を強化。サウジのロシアや中国への接近は、イランの脅威から自国の安全保障を確保するため、米国をけん制する動きともいえる。

このように中東の地政学を巡る各国の思惑は複雑さを増しており、今後のハマス掃討作戦でガザ地区の人道危機がさらに深刻化すれば、アラブ諸国を中心に反イスラエル・反米の抗議行動に拍車をかけるだろう。その結果、イスラエルとヒズボラの戦火が拡大する、またイランが直接介入するといった事態も完全には排除できない。ウクライナと中東地域での二つの戦争が長期化する公算が大きいことから、資源小国の日本にとって、中長期的にもエネルギーセキュリティーの確保がこれまで以上に重要な課題となる。

提供:EPA=時事
米国はイスラエルに寄り添う姿勢を強調し続ける

二つの戦争長期化の様相 再エネの地政学リスクも連動

日本の1次エネルギー供給に占める石油の割合は、オイルショック後の脱石油政策で、1973年の76%から2021年には36%と激減したが、石油は依然として最大の供給源である。また中東依存度は、ロシア産原油の輸入禁止措置の影響もあり、約95%と過去最高水準となっている。もし中東からの原油供給に重大な支障が出れば、原油価格がさらに高騰して国民生活は大打撃を受ける。

一方、LNGの輸入先は、豪州やマレーシアなどインド太平洋諸国が約3分の2、ロシアが10%弱を占めており、カタールなど中東諸国は15%と必ずしも高くない。しかし、ウクライナ戦争で世界的にLNG需給がひっ迫し、またLNGの在庫は2~3週間分しかないため、中東やロシアからの供給途絶には非常に脆弱であり楽観はできない。

このように、資源大国のロシアやサウジ、イランなどを巻き込む石油・ガスの地政学リスクが高まる中、世界は脱炭素に向けたエネルギー移行を進める必要がある。問題は、中国が再生可能エネルギーや蓄電池などの設備に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンで世界を圧倒し、石油・ガスに加えて再エネ特有の地政学リスクが連動する時代を迎えていることだ。わが国はエネルギーセキュリティーの向上と脱炭素社会の実現に向けて、技術力が重要な役割を担う再エネと原子力、水素・アンモニア、e―フュエル(合成燃料)などのクリーンエネルギー開発と利用に官民が連携して取り組むべきである。(10月20日現在の情報による)

といち・つとむ 東京大学大学院地球物理コース博士課程修了。日本エネルギー経済研究所入所後、首席研究員などを経て2021年から現職。政府の審議会や委員会の委員などを歴任。

電力カルテルで株主訴訟 公取委訴訟も絡み長期戦に


大手電力のカルテルを巡り、4電力(中部、関西、中国、九州)の株主が10月12日、一斉に株主代表訴訟を起こした。独占禁止法違反、自治体からの指名停止、善管注意義務違反、リーニエンシー(課徴金減免制度)を巡る状況などが会社に損害を与えたと主張する。ただ、訴状内容を見ると「カルテルの存在を認識し得た」など、根拠が弱い部分も散見される。

中国の株主は、カルテルを監視する義務に違反した責任を当時の全取締役22人に追求する方針。ただ当該期間中に取締役の在籍数カ月といった役員も含まれる。一方、他3社の株主は、6月上旬に各電力に対し提訴請求を申し立てた時から対象を絞り、中部は21人から14人、関西は24人から12人、九州は25人から8人となった。また中国と九州については損害賠償請求額も変更。九州では、6月上旬での約260億円から約28億円に。中国では、808億円から707億円に減じた。

関西以外は公正取引委員会との課徴金納付命令取り消し訴訟も抱える。その結果が出なければ株主代表訴訟の判決が示せないとの声もあり、長期戦の様相を呈する。

【マーケット情報/11月3日】原油下落、需給緩和の見方が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

10月27日から11月3日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和の見通しが台頭した。特に米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物はそれぞれ、前週比5.03ドルと5.59ドルの急落となった。

世界銀行が、イスラエルとハマスの紛争によるエネルギー市場への影響は、現時点で限定的となっていると公表。また、米国はイスラエルに対し、人道支援のための一時停戦を要請した。ただ、紛争の悪化、拡大は引き続き懸念されている。

加えて、過去3週に亘り、米国の産油会社は高い水準の生産量を維持。米国の週間在庫は増加した。

需要面では、中国経済の回復が依然鈍いとの見込みが大勢。同国の10月の購買担当者景気指数は6カ月連続で下落し、石油消費減少の予測を強めた。

一方、米連邦準備理事会は金利の引き上げを一時停止。9月の消費者物価指数が3.7%となり、2022年6月のピーク時9.1%から大きく下落したことが背景にあるようだ。欧州中央銀行、およびイングランド銀行も金利を据え置きとし、景気の冷え込みに歯止めがかかる可能性が台頭した。ただ、価格の上方圧力にはならなかった。


【11月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.51ドル(前週比5.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.89ドル(前週比5.59ドル安)、オマーン先物(DME)=88.22ドル(前週比2.11ドル安)、ドバイ現物(Argus)=88.04ドル(前週比2.13ドル安)

カーボンクレジット市場開設 マーケットメイカー導入へ


東京証券取引所は10月11日、カーボン・クレジット市場を開設し、政府が発行するJ―クレジットの市場取引が始まった。2026年度に導入する排出量取引(ETS)につながる施策だ。ETSの先駆けであるEUでの開始から18年がたつ中、西村康稔経済産業相は「遅く参入したがゆえに世界のさまざまな制度を参考にしながら最先端のものを作りたい」と強調。また「先行的に排出削減に取り組んだ企業ほど負担が少なくなる」と意義を説明した。

市場開設のイベントに登場した西村経産相

206者(18日時点)が参加し、20日までの8営業日で累計売買高は1万t―CO2を超えた。当面は6種類のJ―クレジットを扱い、今後はJCM(二国間クレジット)、GX―ETSでの超過削減枠、海外ボランタリークレジットと拡大していく。

また、マーケットメイカー制度を導入する方針だ。マーケットメイカーは、定められた時間帯に一定の価格帯で一定量の売り買い注文を同時に出す「気配提示義務」を負う。市場の流動性向上を目的に東証のETF(上場投信)市場などでも導入する。この仕組みが新市場の取引規模や価格帯にどう影響するのか。それを国内企業はもとより、各国関係者にどう受け止められるかが注目される。

脱炭素化で地元企業と連携 PPAで地域のニーズに応える


【北陸電力】

脱炭素社会の構築に積極的に貢献する北陸電力は、太陽光発電を軸にさまざまな事業を展開している。

地域の脱炭素化という共通目標を持つ北陸銀行に対して、オフサイトPPAによる電力供給が開始された。

エネルギー政策において2050年カーボンニュートラル(CN)の目標が掲げられ、各地で脱炭素社会構築の取り組みが本格化している。

地域の脱炭素化をリードする北陸電力は、企業や家庭の脱炭素化のニーズを踏まえて、さまざまな提案活動を実施。自社電源の脱炭素化にとどまらず、北陸地方の脱炭素化にも積極的に貢献することで、CNの実現に向けて大きな役割を果たそうとしている。

9月1日、富山市で「ほくほくソーラーパーク富山県大沢野(以下、ほくほくSP)」が運転を開始した。パネル容量3201kW、年間発電量は北陸銀行の北陸3県の店舗で使用する電気の25%に相当する約330万kW時。北陸電力ビズ・エナジーソリューション(北電BEST)が所有・運営し、電気は全て北陸電力が20年間、北陸銀行に供給する。太陽光発電によりCO2フリー電気を供給するオフサイトPPA(電力購入契約)のビジネスモデルだ。

ほくほくソーラーパーク富山県大沢野

ほくほくSP建設のきっかけは、昨年10月に北陸電力と北陸銀行が結んだCN推進に関する連携協定。北陸地方のリーダー企業の一つとして、金融で地域経済を支える北陸銀行は、地域でのCNの実現に熱心に取り組んでいる。地域の脱炭素化という共通目標で、北陸電力と方針が一致。電力側はエネルギーソリューション、銀行側はファイナンスソリューションと、それぞれ社内に蓄積されたノウハウやネットワークを最大限活用し、地域のCN実現の取り組みを支援する協定を結んだのだ。

ほくほくSPは協定の内容を実践する取り組みの一環。運転開始により北陸銀行は年約1600tのCO2を削減。北陸電力のPPAは発電所設置後、メンテナンスは北電BESTが行うことから、20年間にわたり、メンテナンスフリーでCO2フリー電気の安定供給を受けるメリットは大きい。

もちろん、経済面でのメリットもある。太陽光発電所の設置には多額の初期投資が必要になるが、北陸電力のPPAは初期投資が不要。また、ほくほくSPのように、使わなくなった需要家のグランドなどの遊休地や空きスペースを有効活用することで、事業全体のコスト削減が可能になる。

一方、北陸電力にとってPPAは、社会が脱炭素化に向かう中で、事業の柱の一つになり得るビジネスでもある。同社は専門チームが積極的な提案活動を行い、既に多くの実績を残している。

社会構造変革を経済復活の好機に 最大で最後のチャンスを生かす


【巻頭インタビュー】飯田祐二/経済産業事務次官

「失われた30年」と呼ばれ、国際競争力の低下と賃金の伸び悩みが続いてきた日本。

飯田祐二・経済産業事務次官は本誌の単独インタビューに応じ、日本経済復活への意気込みを語った。

いいだ・ゆうじ 1988年通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁総合政策課長、総括審議官、産業技術環境局長、エネ庁次長、経済産業政策局長兼首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官などを経て23年7月から現職。

 
―経済産業政策の課題は山積しています。事務次官就任に当たっての抱負をお聞かせください。

飯田 就任に際して職員へのあいさつで強調したのは、政策を結果につなげなければならないということです。そのために重要なのは、一つの政策を一定期間継続することです。人事異動の度に前任者の取り組みを引き継がず、新しいことを手掛けてしまうことがあります。それが良い面もあるのですが、東日本大震災以降、12年間バトンをつなぎながら、省として福島の復興に努めてきたように、継続しなければ結果は出ません。優先順位を付け、より結果を出すべき政策に重点を置くこと、組織の縦割りで役割分担するのではなく、省内外の関係する部局の力を結集させることにも注力していきたいと考えています。

―重点的に取り組むべき施策とは何でしょうか。

飯田 今、世界各国で産業政策を強化する動きが活発化しています。米国の「インフレ抑制法」がその一例ですが、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を軸に、これまでにない規模と方法で各国政府が民間企業への支援を展開しているのです。わが国も、GX、DXによる社会構造変革を好機と捉え、経済の長期低迷から脱却するためにも、官は民を邪魔しないことに徹する従来型の新自由主義的政策ではなく、あらゆる政策手法を総動員した「経済産業政策の新機軸」の実行が求められています。


経済成長の好循環創出へ ミッション志向で政策推進

2021年11月に立ち上げた産業構造審議会の「経済産業政策新機軸部会」では、GXやDX、経済安全保障、成長志向型の資源自律経済の確立など、社会課題を解決するためのミッション志向型産業政策を通じた投資の拡大と国際競争力強化、それを実現するための人材やイノベーション、企業経営の在り方といった社会基盤(OS)の組み換えについて検討。2度にわたって中間取りまとめを行いました。5年くらいは継続するべきだと考えていますし、経済産業政策の新機軸を実行していくことにより、国内投資、イノベーション、所得向上の三つの好循環の創出を目指します。

福井県が関電の計画受け入れ 県内の「原発停止」回避へ


「前向きな先送り」(電力業界関係者)だ。福井県の杉本達治知事は10月13日、関西電力が公表した使用済み核燃料の搬出計画の受け入れを表明した。

同日、杉本知事は県庁で西村康稔経済産業相と面談し「一定の前進があった」と評価した。計画受け入れで「今年末までに中間貯蔵施設の候補地確定」という関電と福井県の約束はリセットに。福井県側が「約束」に固執しなかったことで、「県内原発の運転停止」という最悪の事態は避けられた。

報道陣の取材に応じる福井県の杉本知事(10月10日)
提供:朝日新聞社

中間貯蔵施設を巡っては8月、山口県上関町が中国電力と関電による建設可能性調査を受け入れたが、福井県政関係者は「上関町の件に触れなかったのが良かった」と語る。関電の計画受け入れに「上関町での計画が進展することを前提に」などと条件を付ければ、運転継続の新たなハードルになりかねないからだ。また計画は、発電所構内での乾式貯蔵施設設置の検討も盛り込んだが、県内保管の長期化につながると懸念する声も根強い。乾式貯蔵にまで踏み込んだ内容には、原発推進派の県議からも驚きの声が挙がっている。

いずれにせよ、バックエンド問題の要は六ヶ所再処理工場の早期完成だ。関電をはじめ、電力業界の底力が試されている。

電力の現場に自信と誇りを 山積する課題解決に全力投球


【全国電力関連産業労働組合総連合】

壬生守也/電力総連会長

DXやGX、2024年問題への対応などの課題に現場は何を思うのか―。

9月に就任したばかりの電力総連の壬生守也会長に聞いた。

―近年の電力政策をどう見ていますか。

壬生 各電力会社で置かれている状況は違いますが、共通課題は電力システム改革のひずみが顕在化していることです。電力システム改革は①安定供給の確保、②電気料金の最大限抑制、③需要家の選択肢や事業機会の拡大―の三点を目的に進められましたが、果たしてその目的は実現したのでしょうか。

今夏こそ猛暑の中でも安定供給が維持されたものの、昨年3月には福島県沖の地震の影響もあり関東圏を中心に大規模な需給ひっ迫が生じました。今冬も原子力発電所が稼働していない東日本をはじめ、安定供給には不安が残ります。また電気料金は国際情勢などの影響で燃料費が高騰、再生可能エネルギー賦課金も上昇傾向にあります。さらに需要家の選択肢こそ広がりましたが、昨今の新電力撤退により、旧一般電気事業者(旧一電)の最終補償供給契約が増加しました。このように電力システム改革の三つの目的は実現するどころか、むしろ国民の利益を著しく損ねていると言っても過言ではありません。


働く人の声を聞いてほしい デジタル時代も「人」が重要

―一部の電力会社ではカルテルや顧客情報の不正閲覧といった不適切行為が問題となりました。

壬生 労働組合としても、今回の事象は自由化の主旨や送配電事業の中立性に関わる問題として重く受け止めています。今後は、情報管理の適正化が行われ、法令遵守に向けた各事業者の取り組みを労働者の目線から確認したいと考えています。

また問題の根底には、やはり電力システム改革の影響があります。お客さま側も自由化されたという認識が薄く、電気のトラブルが起きれば「旧一電が対応してくれる」と思われている方が多い気がします。そんな中、現場の皆さんは全てのお客さまの問い合わせに丁寧に対応したいという気持ちがあり、閲覧できる状態になっていた他社の顧客情報を閲覧してしまったのです。一部では営業目的で閲覧した事例もありましたが、多くはお客さまからのお問い合わせに対応するためでした。

―所有権分離の検討が盛り込まれた規制改革実施案が閣議決定されるなど、さらなる規制強化を求める声もあります。

壬生 規制強化がプラスに働くのか、疑問を抱かざるを得ません。災害復旧などの公益事業に悪影響を与えないでしょうか。現場は「人」の営みで成り立っています。制度改革を行う際は、現場の声に耳を傾けてほしいと切に願います。

―そういう点では、政治への働きかけがより重要になるのではないでしょうか。

壬生 電力総連は国民民主党を支援し、組織内議員として浜野喜史氏、竹詰仁氏の両参議院議員を抱えています。国民民主党との連携はもちろん、各党との政策懇談会などを通じて幅広く政策を訴えていきます。