【マーケット情報/9月22日】原油下落、需要後退の懸念台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反落。連騰の反動に加え、需要後退の懸念から、売りが優勢となった。

米国では、8月の消費者物価指数が上昇。これを受け、インフレ抑制のための金利引き上げが継続するとの見方が強まった。実際、米連邦準備制度理事会(FRB)は、年内の追加利上げを示唆。また、欧州中央銀行も、金利を過去最高まで引き上げた。

加えて、アジア開発銀行が、今年のアジア太平洋地域における経済成長予測を下方修正。石油需要後退の予測が一段と広がった。

一方、中国では、一部製油所が、原油輸入割り当ての新規発給を求めた。また、供給面では、ロシアが、ディーゼルとガソリン輸出を、一部地域を除き禁止と発表。期限は示さなかった。ただ、価格の強材料には至らなかった。


【9月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=90.03ドル(前週比0.74ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.27ドル(前週比0.66ドル安)、オマーン先物(DME)=94.28ドル(前週比1.23ドル安)、ドバイ現物(Argus)=94.42ドル(前週比1.10ドル安)

石油情勢正常化か脱炭素推進か 「トップセールス」の成否は


【多事争論】話題:岸田中東外交の評価

7月の岸田文雄首相による中東3カ国訪問には、好意的な報道が目立った。

迫るエネルギー危機への対応はどうか、専門家の視点でひも解く。

〈 石油政策のない資源外交 日本の構えを立て直せ 〉

視点A:小山正篤/ウッドマッケンジー・ボストン事務所 石油市場アナリスト

中国の仲介によるサウジアラビア・イラン国交正常化という劇的事件の余韻が残る中、岸田文雄首相は中東湾岸3カ国を歴訪した。ロシアのウクライナ侵略に伴う資源供給の動揺を抑え、同時に中東資源国に対し、中国とは一線を画す日本独自の存在感を示すことが、今回の歴訪の中心課題であったろう。

首相は、脱炭素化および産業多角化支援の包括的な経済ミッションを率い、中東湾岸諸国が目指す資源依存脱却に積極関与の姿勢を示しつつ、これら3カ国および湾岸協力会議(GCC)との外交関係強化を図った。実利と理念を組み合わせたアプローチで、一定の成果を上げたように見える。

しかし、未来志向の経済協力・提携に重点が置かれる一方、眼前の資源供給確保に関する議論は脇に置かれた感がある。これはウクライナ危機を巡り資源大国ロシアに厳しく対峙する日本として、あまりに緊張感を欠く迂遠な姿勢ではなかろうか。

石油に絞って数点指摘したい。

市場本位の開かれた国際石油供給体制―これを国際石油秩序と呼ぼう。現在の日本の石油関連政策に根本的に欠落するのは、この国際石油秩序を守る視点である。これは日本のみならず、米国および欧州を含む西側全体の問題でもある。

今年5月のG7(主要7カ国)・広島サミットの首脳コミュニケに「石油」という単語は一度として使われなかった。非ロシア世界が全体としてロシア産石油輸入に致命的に依存する中で、西側は再生可能エネルギーへの転換の加速を唱えるばかりで、ウクライナ危機が直接・間接に起こし得る石油危機の可能性から目をそらしている。

日本および欧米がまず必要とするのは、現下の国際石油秩序維持を図る筋道の通った現実的な基本方針であり、そしてその方針を中東有力産油国と共有することである。このような能動的な、責任ある姿勢をとって初めて「産消対話」も意味を持つだろう。

将来的な脱炭素での協力関係は、それ自体では現時の石油供給確保に直結しない。中東産油国は、両分野それぞれに国益を追求しているにすぎない。前者に傾斜した首相の歴訪は今後、国際石油秩序に向けた日本の構えの立て直しによって補完されねばならない。

その立て直しとは、まず西側が協働して実施する石油政策を、現実に適合させることである。世界はロシア産石油を必要とするという簡明な事実を率直に認識する。そこから、西側自らはロシア産石油への直接的依存を最小限度にとどめるが、西側以外へのロシア産石油輸出はあえて阻害しない、という方針が導き出されよう。ロシア産石油の海上保険に対する制裁措置、および、これにあわせて折衷的に設定されたロシア産石油の輸出上限価格、そのいずれも不要である。

理念なき西側諸国の備蓄放出 まずは産油国との連携回復が優先

潜在的な石油危機の不安にさらされている中で、日本・西側は緊急時の協調対応を、特にサウジアラビアと連携しながら準備しておく必要がある。消費国の保有する国家備蓄を「防火水槽」とすれば、主にサウジアラビアが保持する生産余力は水道管とつながった「消火栓」である。有事の初動対応としての国家備蓄の放出は、中東における生産余力稼働に引き継がれてこそ持続的な効果を持つ。

昨年西側は、実体的な石油供給途絶も起こらぬうちに、米国を筆頭に価格抑制を掲げて一方的に国家備蓄を大量放出した。この失策を克服しつつ、中東湾岸有力産油国との本来あるべき連携の回復を急がねばならない。

併せて、非ロシア世界全体を石油需要抑制と増産に向けて誘導すべきであり、それはロシア産石油を漸次国際市場から排除するための条件でもある。

これに反し、今年9月にようやく終了を迎える予定の日本の石油価格補助金は、実効上、巨費を投じた石油消費振興策だった。原油高価格に正面から取り組む意思を欠く消費国は、産油国から足元を見られるだけである。

中国の「一帯一路」に対し、日本はいわば「多帯多路」の開放体制を存立基盤とする。この意味で、対中東資源外交においても、日本と相手国との2国間関係にこだわる必要はない。広くインド太平洋の成長市場と中東との間の資源貿易・投資を促し、そこに日本勢の活発な関与があれば、それが日本の国益にもつながる。

広い視野から、昨年来の西側の石油諸政策の迷走に終止符を打ち、正しい軌道に戻す努力を、まず日本から始めるべきである。

それが首相歴訪の仕上げとして残された「宿題」ではあるまいか。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年よりウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。タフツ大学修士(国際関係論)。

【需要家】欧州建築物への改正指令 化石燃料暖房の禁止


【業界スクランブル/需要家】

欧州で2021年に提案された「建築物のエネルギー性能指令」改正案が最終協議段階に入り、建築物関連のCO2削減対策が大きく前進してきた。従来の「Nearyゼロエネルギー建築物」推進から「ゼロエミッション建築物」推進へ深堀りされ、26年からは新築公共建物、28年からは全ての新築建物へ義務化される。

ゼロエミッション建築物とは、エネルギー性能が極めて高く、デマンドサイドフレキシビリティーを持つ建築物で、消費エネルギーはオンサイトかオフサイトの再生可能エネルギーで完全に賄われる建築物と定義される。つまり、当該建物では、「化石燃料の直接使用(自家発電、ボイラなど)」と「再エネ以外の電力購入」が認められない。また、本改正指令により、新築建築物および既設建物改修時に化石燃料暖房が禁止となる。さらに、賃貸建物が多い実態を考慮し、エネルギー効率が低い建物は賃貸が禁止される。

同様に、再エネ推進指令改正も成立目前となっており、30年までのストック建築物の再エネ使用率目標(ヒートポンプの空気熱利用も含む)を49%として、再エネ移行を促進させる内容となっている。

既に、英仏では低効率建物の賃貸禁止の法律が施行され、独では新築建築物に冷暖房の再エネ比率基準達成が義務化(化石燃料からヒートポンプなどへの移行)されるなど、EU指令改正に先行して行動している。

日本ではまだゼロエミッション建物への深堀りは議論されておらず、賃貸建築物対策(省エネ・再エネ設備導入による光熱費削減効果を建物所有者が裨益できないため導入が進まない)も放置されている。残念ながら、CO2排出量比率が大きい建築物対策がEUに比べて遅れているのが実態である。(T)

エネルギーとデジタルの融合 サステナビリティー経営を支援


【エネルギービジネスのリーダー達】江田健二/RAUL 社長

ブロックチェーンやIoT、AIなどをかけ合わせて豊富なソリューションを提案。

社会は絶えず変動しており、その変化を促進する役割を果たしていく。

えだ・けんじ 1977年富山県生まれ。慶大経済学部卒、東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム修了。大学卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社。起業し2005年にラウルを設立。近著に『実務 太陽光パネル循環型ビジネス』

2005年の創業以来、一貫して「エネルギー・環境」×「デジタル」という領域で事業を展開してきたラウル。国内外の関連業界の動向を見つめ続け、蓄積した豊富な知識と経験を有するスタートアップ企業であり、ブロックチェーンやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの最先端デジタル技術をかけ合わせることにより、豊富なソリューションを提案している。

創業したのは江田健二氏だ。子供の頃から自ら物事を始めることに強い興味を持っていたといい、中学生になり、大人になった時に自分のアイデアを実現していけるフィールドで活躍したいといろいろと調べていくうちに、会社を設立することが最も適しているという結論に至った。

法人へのサービス提供 約500の企業と取引

この思いは、大学進学で生まれ育った富山から東京へ移住した後も変わらず、卒業後にコンサルティング会社に就職したのも起業の準備としての経験を積むためと捉えていた。26歳で退職を機に独立し、28歳でラウルを設立した。それ以来18年間、現在も新しいことにチャレンジする姿勢を持ち続けている。

「時代のすう勢に合わせて、取り組むことを柔軟に変化させていく」と語る江田氏。ラウルの「誰もやらないことに目を向け、新しい価値を探す。他社との競争ではなく、唯一のサービスを考える」という理念には、それが如実に反映されている。そしてそれは、「あらゆる資源が循環してつながり合い、人も自然も豊かで暮らしやすい社会をつくる」というビジョンの下、「最先端のデジタル技術で脱炭素経営を支援し、エネルギー産業のデジタル化を促すことで、よりクリーンな社会インフラの早期実現を目指す」「長期的な視点でサステナビリティー人材を育成する」というミッションからもうかがい知れる。

ラウルでは、江田氏が長年培ってきたデジタルテクノロジーやエネルギー業界のビジネス知見を活用しながら、企業の脱炭素化やエネルギー効率化の支援、エネルギー・環境ビジネス、SDGs(持続可能な開発目標)/CSR(企業の社会的責任)などのサステナビリティー経営に向けたコンサルティングを手がける。

例えば、企業の再生可能エネルギーの導入や再エネ100%への移行計画策定のサポート、エネルギー調達の支援を行うほか、エネルギーコスト削減を求める企業に対しては、関係する企業と連携し効果的な方策を提案。これらは主に法人を対象とするサービスで、取引企業は500社に上る。加えて、電力やガス会社などに対しても、さまざまな調査や専門的なアドバイスを行う。

社会のニーズも敏感に捉え、昨今のロシア・ウクライナ情勢におけるエネルギー価格高騰を背景に、高圧・特別高圧で最終保障供給からの切り替えや、契約中の電力会社の事業撤退・倒産による切り替え先不在など、緊急度の高い検討対応が求められる需要家を支援している。さらに、30年以降に大量廃棄が見込まれる太陽光パネルのリサイクルやリユース、適切な処分に向けた循環型ビジネスにもいち早く着手した。

経営と並行して書籍の執筆 新しい知見や刺激を得る

ラウルの事業と通じる社会貢献活動にも積極的だ。これまでのビジネスでの経験を生かし、社会的課題の解決を目的とするスタートアップ企業の支援を行い、ビジネスパートナーとしてレベニューシェア(収益配分)型の契約を結んでいる。また、エネルギー・環境に携わる人材育成の一環として、08年からこれまでに500人以上の大学生をインターンシップとして受け入れてきたほか、持続可能な開発のための教育のための10年推進会議(ESD―J)や 樹木・環境ネットワーク協会、石西礁湖サンゴ礁基金をはじめとするNPO(特定非営利活動法人)など各種団体への寄付も定期的に行っている。「社会の課題解決に向き合っている企業や大学生、NPOと時間を共有することに大きな意義を感じている」(江田氏)

エネルギーの形態や使用方法は時代とともに変わってきた。江田氏は、「現状が最適であるとは限らず、常により良い方法や状況を模索するべきだ」と主張し、「社会は絶えず変動しており、エネルギー業界も変わっていかねばならない。ラウルを通じてその変化を促進していきたい」と、自らの役割を明確に掲げる。「『エネルギーとデジタルの融合』をテーマとして、業界の中で多岐にわたる活動を続けていきたい」と意気込む。 さらには、「ラウルの経営と並行してエネルギー・環境に関する書籍の執筆も行っており、今後も継続的に自らの書を世に出していきたい」とも。これによって、「業界の垣根を越えて多くの人びととの交流が増え、新しい知見や刺激を得ることが期待できる」と意欲を示した。

【再エネ】太陽光の供給網問題 多様な選択肢を


【業界スクランブル/再エネ】

去る6月に新エネルギー財団が政策提言を行った。この中で、「太陽電池モジュールの安定供給に向け発電事業者、電力需要家と、太陽電池サプライチェーンに係わるプレイヤーが一堂に会し、競争力のある価格での国内生産と安定供給、およびサプライチェーンの透明化に向けた戦略と実現可能性を検討する官民協議会の設立」を提案している。

背景には、足下のサプライチェーンでポリシリコンの供給量がタイトであり、モジュールやウェハ、ポリシリコンなどが中国産に一極集中化しており、加えて人権問題への対応の必要性などがある。技術力を結集し、オールジャパンで需要地における垂直統合型生産拠点の再構築により、国内で求められる高付加価値品の安定供給を実現すべきであり、その取りまとめを国主導で行うことを要望している。

一方、経済産業省は次世代型太陽電池(ペロブスカイトなど)の早期社会実装を目指し、研究開発段階から基盤技術開発、実用化・実証事業まで一気通貫で支援を行い、2030年を目途に社会実装を目指すとしている。一見すると両者は異なる方向を向いているようだが、根本となる課題は共有しており、それはエネルギーの安全保障である。

50年のカーボンニュートラル実現と同時に、輸入に依存する化石燃料の代替を可能な限り国産エネルギーで賄うことが望ましい。ペロブスカイトはそれを同時解決する可能性のある画期的技術だが、大量導入への課題は多数ある。ペロブスカイト頼りの一本足打法では心許ないとの認識故、やや保守的な提案が、冒頭の提言と言えよう。

50年までまだ時間はある。シリコンモジュールやペロブスカイト、果ては原発であれ、現段階では多様な選択肢を確保しておくことが重要だろう。(Z)

日産の軽EV「サクラ」 東京のリアルEVライフ


【どうするEV】陰山惣一/『Eマガジン』編集長

昨年5月に登場以来、今年7月に受注累計が5万台を突破したという日産の軽EV「サクラ」。松たか子さんが出演するCMでは「家でクルマを充電 びっくりするけど ほんとこれだけ」という手軽な様子を訴求しているが、私の会社にもいち早くサクラを購入し、初めてのEVライフを満喫している同僚がいる。EC部門の責任者で商品企画も手がける田中君は、動画制作も行っているマルチクリエイター。趣味は自転車とゴルフで、数年前に町田市郊外の住宅地に戸建てを購入した。半地下のガレージにはクルマが縦に2台入り、奥にはBMWの「325iツーリング」(ワゴン車)にホンダの小型バイク「モンキー」、入り口にはホワイトパールのサクラが収められている。

「サクラを買ってから、BMWにはほとんど乗らなくなってしまいましたね。普通充電器は新しく15万円で取り付けたんですが、ゆくゆくは屋根にソーラーパネルを取り付けてサクラを蓄電池代わりにするVtoHを試してみたいと思ってるんですよ」とは田中君。聞くところによると、サクラを購入したオーナーの中で、太陽光発電を組み合わせたVtoHを実践する方は全体の3割もいるそうだ。

田中君と日産サクラ

田中君がサクラを購入した理由は、もともとEVに興味があったということのほか、東京都の補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)で優遇されてリーズナブルに購入できる点も魅力だったという。購入当時、国の補助金は55万円で東京都の補助金は45万円、合わせて100万円の補助金が適用されていた。しかも、当時はサクラの値上げ前だったため、購入したXグレード(オプション込み)の価格は270万円、差し引き170万円で購入できたと語っていた。「都はVtoHの助成金も優遇されていて、ウチの場合はソーラーとV2H機器、工事費から上限100万円が補助されるんです。なので、こちらも現実的かなと思っています(※要件による)」。ソーラーパネルで電気を生みサクラに蓄電、日常の電気を自然エネルギーで賄うという暮らしは環境にもお財布にも優しく、災害停電時にも安心である。

さて、この日は田中君がよく行くというゴルフの打ちっぱなしに同行したのだが、広々としたリアシートの片方を倒してゴルフバックを収納。身長180cm近い男2人がフロントに並んで座っても、たっぷりとしたベンチシートのおかげか窮屈さを感じさせない。そしてサクラの本領が発揮されるのは、なんといっても坂道だ。排気量の小さい軽自動車で急坂を登ると、どうしても低速ギア&高回転となり、エンジンを唸らせながらの走行となってしまう。その点、サクラは平地同様に何事もなかったかのようにスーッと急坂を登っていくのだ。坂を登りながら思わず出たのは「こりゃ、軽自動車は全部EVになっちゃうね」という一言。近所使いの小型車オーナーの皆さんはサクラをお試しあれ!

かげやま・そういち 『世田谷ベース』などライフスタイル誌の編集長を経て、EV専門誌『Eマガジン』を創刊。1966年式の日産・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いしている。

【火力】ヒートポンプは再エネ? 温・冷熱で事情異なる


【業界スクランブル/火力】

今回は毛色の違う話題に触れる。GX経済移行債の具体化に当たり、「大気熱という再生可能エネルギーを利用するヒートポンプ(HP)を投資先に加えるべき」との意見が出ている。HPは、有望な省エネ機器との認識は定着しているものの、再エネと言われると「あれっ?」と思う人の方が多いのではないか。実際、「HPが再エネなら冷蔵庫は再エネか!」という反論も聞こえてくる。火力発電では、HPが主要機器として使われることは稀だが、日頃熱を扱う者として、先ほどの意見のすれ違いを解説する。

HPは、大気中などにある熱を別な場所に汲み上げることで利用可能なエネルギーとして取り出す仕組みである(このことがヒートポンプの名の由来である)。熱を汲み上げるには動力が必要となるが、大気熱などを取り込むことで必要動力の何倍もの熱エネルギーを利用可能にできるのがミソとなっている。

問題は、どこまでを再エネとしてカウントするのかということだが、動力として電気を利用する場合、必要動力を火力発電の熱効率で割り戻した熱量を全体から差し引くことで、大気から取り出したエネルギー量を特定することができる。暖房の場合は、この考え方で化石燃料を単純利用する場合と比較でき、カーボンフリー電気ならばCO2削減効果をさらに大きくカウントすることもできる。

一方冷熱利用については、冷熱を作り出す方法がHP利用しかほぼなく、地下水などの冷熱を利用できるレアケースを除いて省エネになっておらず、その分を再エネの創出量としてカウントする理屈も成り立たない。

一言で熱利用と言っても、温熱か冷熱かで事情は大きく異なる。それでもHPの温熱利用を貴重な国産エネルギーとして見える化する意義は大きい。(N)

アルミ産業の一番川下から見る 日本の資源とエネルギー


【リレーコラム】谷山佳史/アサヒセイレン代表取締役社長

日本のアルミ産業は、エネルギー動向に強く影響を受けてきた産業です。アルミはボーキサイトからアルミナを抽出し、それを電気分解することで生み出されます。オイルショックにより、まずこの一次製錬(新塊)は国内で存続し得ない産業となりました。一方、日本国内で発生するさまざまなアルミスクラップを回収、溶解し、インゴット形状にする二次合金地金(再生アルミ)の生産は、右肩上がりで成長を続けてきました。二次合金地金は、燃費向上が至上命題となった各自動車メーカーの軽量化施策として、エンジンなどの主要部品に採用されてきたからです。

そんな再生アルミは、最近EUのタクソノミーでグリーン認定されたように、さらに注目されています。一次製錬では1tのアルミを作るのに1万3500kW時必要ですが、それに比べ再生アルミはその約3%しか必要としません。つまり、それだけ省エネで低CO2なのです。もちろん、不純物をほぼ含まないアルミ新塊と全く同じものが、全て再生でできるわけではありません。ゆえに、日本は今でも年間ざっと120万tのアルミ新塊を輸入しております。


アルミの輸出入は電力の輸出入

「アルミは電気の缶詰」といわれます。輸入される120万tに、単純に1万3500kW時をかけると、162億kW時になります。つまりこれだけの電力がアルミという缶詰になって海外からもたらされているともいえます。

計算によると、自動車などに形を変えて蓄積されてきたアルミは、その使用サイクルや輸出入を調整すると、2030年ごろまで、毎年約300万tものスクラップとして発生するとされています。これは、405億kW時と同等といえるかもしれません。しかし、その全てが有効に活用されているとは言い切れません。アルミスクラップはその価値に応じて、ざっとトン当たり20万円以上の有価で、世界中で取引されます。それは経済合理性に基づき海外にも輸出されるということでもあります。確かに、きれいなスクラップはアルミ新塊の代替として有効活用されていますが、混ざり合ったスクラップは選別にコストがかかり、リサイクルは進みにくいのです。まさしく「分ければ資源、混ざればゴミ」です。

現在国内に蓄積されたアルミはエネルギーであり、過去に邦貨を流出させて手に入れた貴重な資源です。それを国内に還流させることが、われわれアルミ再生屋が取り組む省エネルギーです。そのためにも「分ければ資源、混ざればゴミ」を認識いただき、分別回収やリサイクルに一層の理解を賜りたいです。

たにやま・よしふみ 1994年和歌山大学卒業後、アルミ二次合金を製造販売するアサヒセイレンに入社。その後、工場、営業、3か国の海外勤務などを経て、2017年から現職。

※次回は三井物産金属資源本部新金属・アルミ部次長の南野弘毅さんです。

【原子力】原子炉停止時に自動冷却 新規原発が稼働


【業界スクランブル/原子力】

久しぶりに米国から朗報が届いた。スリーマイル島(TMI)事故後に新規着工した初の原発が、7月に営業運転を開始したのだ。米電力大手サザンによるもので、ジョージア州で建設されていたボーグル原子力発電所3号機(出力111万7000kW)。安全性をより高めた革新軽水炉としても米国初の稼働となる。

建設を担ったサザン社の子会社ジョージアパワーは声明で「ボーグル3号機は今後60~80年間、顧客にクリーンで信頼性の高いエネルギーを届ける」と強調している。同社は同じ炉型の4号機も来年3月までに稼働させる予定だ。

ボーグル原発3、4号機は米ウェスチングハウス(WH)が設計した革新軽水炉「AP1000」を採用している。この炉は事故や災害で原子炉が停止した場合でも、運転員の操作や電源なしに重力による水の落下で自動的に冷却できる仕組みを持つ。3、4号機は2012年に米原子力規制委員会が建設・運転を認可している。

当初、3号機は16年に稼働する予定だった。米国ではTMI事故の後、原発の建設工事が途絶えたことから熟練の作業員が不足し、工期が大幅に延びた。その結果、建設費も増え、AP通信によると3、4号機合計の建設費は当初想定の約2倍の300億ドル(約4兆2000億円)を超えた。しかし、米バイデン政権が気候変動対策を看板政策に掲げ、発電時にCO2を出さない原発を重視していることが建設の追い風になった。

米国ではSMR(小型モジュール炉)の建設計画もある。わが国でも岸田政権は、原発の新増設・リプレースに向けて原子力政策を前向きに変えつつある。AP1000のような安全性を高めた原発の新規建設を後押しする政策に期待したい。(S)

【石油】産油国の2極化 脱炭素を巡る分断


【業界スクランブル/石油】

7月中旬の岸田文雄首相の中東歴訪。多彩な財界人が同行し、サウジ、UAE、カタールを回った。3カ国でわが国の原油輸入の85%を占め、原油生産はますます湾岸産油国に集中する傾向にある。加えてカタールは天然ガス埋蔵量世界3位、LNG輸出量トップであるが、2021年年末にはLNGの対日供給長期契約の更新を見送った経緯があり、ウクライナ戦争に伴うLNG争奪戦の中、関係修復が懸案となっていた。石油・ガスの安定供給のみならず、脱炭素、カーボンニュートラルを見据えて、水素・再エネなどにおける協力にも合意し、極めて有意義な訪問であった。

カタールはカーボンニュートラルの宣言はしていないものの、3カ国とも既に脱炭素に向けて、水素や再エネ、CCS(CO2回収貯留)の開発に着手している。ブルー水素を石油ガス改質とCCS、さらに増産のためのEOR(増進石油回収)との組み合わせでつくれるし、グリーン水素を降り注ぐ太陽光の電気分解でもつくれるから、水素供給源としてのポテンシャルは大きい。サウジはアンモニア化した貯蔵・運搬を目指しているようだ。

3カ国のような金持ち産油国はいい。問題はロシアを含めて、イラン、イラク、ナイジェリア、リビアといった脱炭素の準備が出来ていない一般の産油国である。脱炭素対応を巡り産油国にも分断が起こっている。ウクライナ戦争長期化の中で、「脱炭素潰し」がロシアの戦略目標の一つになったとの指摘もある。脱炭素も分断の大きな要素だ。

先進国を含めても、再エネ開発など脱炭素への対応が最も早かったのがUAEだ。先進国とグローバルサウスの分断の間で、今秋のCOP28議長国UAEがどのようなかじ取りを行うか注目される。(H)

【ガス】LPガス商慣行是正 「画餅」を避けるには


【業界スクランブル/ガス】

LPガスの取引適正化に向け議論を進める総合資源エネルギー調査会液化石油ガス流通WGの第6回会合(7月24日)が開かれ、罰則などを含めた新ルールの概要が示された。当日付、朝日新聞は朝刊1面トップで、「賃貸集合住宅のLPガス代に関係ない設備費上乗せ禁止」との見出しで、給湯器やエアコンなどガス供給と関係無い設備費用を上乗せすることを禁じることなどを報道。追随してNHKや一般各紙、地方紙でも大きく取り上げられ、LPガス料金の不透明さは消費者に大きなインパクトを与えた。

エネ庁が今回示した改正方針は、賃貸の設備料金と過大投資禁止、さらに三部料金制徹底など。取締強化のため、基準適合命令、登録取消し、30万円以下の罰金も科すなど、罰則規定のある条文に位置付けるとした。

課題は実効性の部分だろう。これまで賃貸集合住宅では、設備の外出しや三部料金制について省令改正したが、管理会社やオーナーなどからの反発もあり、多くのケースで基本料金に含めて費用回収されてきた経緯がある。LPガス側から発信してきた商慣行ではあるが、解決には管理会社やオーナー、住建メーカーが問題を認識し、さらに国交省や公取、消費者庁などとの連携が必須だ。

あるLPガス事業者は、猛暑が続く中、貸与したエアコンのメンテナンスなど、ガスに関係ないアフターサービスに奔走していると悲鳴を上げる。また法改正前の駆け込みや抜け駆けも横行し、オーナーからはエアコンなどの機器を「今のうちに新品に」と交換を求める話も舞い込んでいるという。エネ庁では、駆け込み寺ならぬ投稿フォームを整えるとしているが、どのような流れで指導や処分につなげるのかを明確にしないと、絵に描いた餅になりかねない。(F)

【マーケット情報/9月18日】原油続伸、中国需要回復の見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

9月11日から18日までの原油価格は、主要指標が軒並み続伸。中国における回復の見通しで、需給逼迫感が強まった。

中国の政府系シンクタンクが、今年の同国における石化原料、および石油製品需要の強まりを予測。製油所における原油処理量も、前年比で9%増加するとの見方を示した。OPECも、今年の中国における石油需要見通しを上方修正した。

加えて、中国では、工業生産指数など、8月の景気指数が前月比で改善。景気刺激策が効力を発揮しているとみられる。中国人民銀行は景気低迷へのさらなるテコ入れとして、各銀行に求めていた現金予備率を緩和。これらにより、中国における石油需要が回復するとの予測が一段と強まった。

また、中国の製油所稼働率は8月、過去最高を記録。定修明けに加え、季節的なガソリン需要の強まりを前に、各社が稼働率を引き上げた。

供給面では、サウジアラビアとロシアの減産維持の影響が続いている。また、リビアでは洪水を受け、全ての輸出拠点が一時的に閉鎖となった。米国では、クッシングにおける原油在庫が減少し、2022年12月以来の最低を記録。ただ、全体の原油在庫は、輸入増を受けて前週から増加している。


【9月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=91.48ドル(前週比4.19ドル高)、ブレント先物(ICE)=94.43ドル(前週比3.79ドル高)、オマーン先物(DME)=95.20ドル(前週比3.62ドル高)、ドバイ現物(Argus)=95.21ドル(前週比3.72ドル高)

【新電力】長期安定のための電力調達 新たな契約を志向


【業界スクランブル/新電力】

今夏の電力卸市場は、記録的な酷暑であるにもかかわらず、昨夏とは対照的に極めて穏やかに推移している。大手発電事業者が、LNGの在庫積み増しや、大型火力発電所の運転前倒しなどの努力を行った結果と推察される。市場からの電源調達に依存している多くの新電力は安堵していることであろう。今冬の電力先物市場も安定した価格で推移していることに鑑みれば、新電力の経営は、ひとまず安泰といったところか。

一方で、一部のプレーヤーの動向で価格が恣意的に乱高下し得る市場は極めて脆弱な市場といえる。大多数の市場参加者には、供給サイド(発電事業者)・調達サイド(小売事業者)とも数カ月先の収支見通しを立てることすら困難であり、これでは業界全体の健全かつ長期的な発展は期待できない。市場制度設計者には、市場価格の予見可能性・透明性を高めるための真摯な努力を切に希望したい。

では、当面は脆弱な市場を利用せざるを得ない新電力はどうするべきか。

市場調達に全面依存するなら、市場連動メニュー導入により、調達面ではリスクフリーとなり、足元の市況では十分な利益の確保も可能である。しかし市場価格高騰時には、顧客離脱や消費者への説明不備の社会問題化というリスクは残る。理想的な調達は、市場調達と相対契約の適正なポートフォリオ構築であろう。ただし、従来型の相対取引は、引取量が硬直で顧客のデマンドと乖離し、また燃調付き相対契約では原料価格高騰時の逆ザヤリスクという課題がある。

新電力各社は長期安定経営のために、容量確保契約すなわち契約kW内であれば自社デマンドに応じた電力引取可能な相対契約、あるいはフロア・キャップ付相対契約など、新たな契約を志向する必要があろう。(S)

停電が常態化したアフリカ有数の豊かな国


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

南アフリカでは昨年から計画停電が深刻化しているという。1日の停電時間は最大で12時間に及ぶとのこと。南アと言えば、金やダイヤモンドなど、豊富な鉱物資源を産するアフリカ大陸有数の豊かな国、しかも世界有数の石炭輸出国である。そんな国で、なぜこれほどまでに電力事情が悪化したのか。

米ブルームバーグ誌によると、ズマ前大統領(2009~2018)時代に、国営電力会社エスコムは誤った政策決定や、同社への政治介入に悩まされたようだ。07年以降、同社のトップは14人を数える(ほぼ毎年トップが交代!)という事実がそれを象徴している。同社幹部によれば、原価に見合う料金設定が許されなかったとのこと。そのため、老朽化の進む送配電設備や発電設備の補修や改良にお金が回らなかったようだ。

停電は、もともと自国の石炭を燃料とする安定・安価な電力供給に依存してきた同国経済や国民生活に大きな影を落としている。水道も止まり、食べ物は冷蔵庫に入れられず、医療機器も使えない状況のもと、国民の健康や衛生も脅かされている。

国は停電解消に向け、必要な送配電網の修繕・改良に向けたエスコムへの資金援助や、発電に参入する民間事業者に対する許認可手続きの免除などの施策を打つ。しかしながら、老朽設備の補修や新規設備の建設は1年や2年で進むものではない。

料金、原子力、気候変動など、電力政策はどこの社会でも政策の目玉となりやすい。そして、いかなる失政も、もとは「改革」という美名のもとで始まるものだ。電力インフラの建設・維持は、極めて地味

な作業を、長期にわたり計画的に積み上げていく取り組みだ。一時の熱気で土台を崩してしまうと取り返しのつかないことになるということだろう。

【電力】秋本議員問題を契機に 再エネ議論の正常化を


【業界スクランブル/電力】

自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長である秋本真利衆議院議員に対して、日本風力開発から不透明な資金提供があり、東京地検特捜部が、洋上風力発電事業などを巡る収賄・贈賄容疑の適用を視野に捜査を進めている。流れた資金は現時点の報道では約6000万円とのこと。

洋上風力の開発・運営権を巡る入札は、第1回で三菱商事が全海域で圧勝するや、第2回入札は既に公募が始まっていたのに中断され、ばたばたとルール変更という異例の展開をたどった。こんな力業を当選4回の政務官クラスの議員が独力でできるとは考えにくいが、早々に外務政務官を辞任させ、離党もさせた政府・自民党の逃げ足が速い。再エネ議連所属の現閣僚や閣僚経験者のコメントが聞きたいところだが、マスコミや野党の反応が鈍いのは何を示すか。

唯一発言しているのは、日風開の寄付講座で特任教授のポストを得ている同社関係者で、経済誌のインタビューに「秋本議員の働きかけによって、公募ルールが事業者に有利になるようにねじ曲げられたという事実はない」と断言している。こちらは逆にしゃべりすぎじゃないかと他人事ながら心配になる。

同寄付講座では、第1回入札以降、異様な三菱商事たたきと自社がより落札者に相応しいとする言説が大々的に展開され、再エネ議連にも食い込んでいたようだが、筆者には大学教授の肩書でカモフラージュしたアジテーションにしか見えなかった。これに限らず同寄付講座発の一知半解な言説が、再エネ議連周辺で妙に重用されていた弊害はそれなりにある。

京都大学は結果的にこうした扇動の片棒を担いでしまっていないか。大学の信頼に関わるとの意見もSNS上で見られたが、むべなるかなだ。(V)