原子力開発最前線 三菱重工業 「SRZ―1200」に〝横綱〟の風格


【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

GXで原子力発電の役割が欠かせない中、三菱重工業は強力なラインアップを揃えた。

中でも安全性、経済性を格段に高めた革新軽水炉「SRZ―1200」には、〝横綱〟の風格が漂っている。

日本の重工業を常にリードしてきた三菱重工業。維新なった明治の治世、富国強兵策をガッチリと支えてきたのである。始祖・岩崎弥太郎の下、重厚長大をもって日本の産業構造の基盤を下支えすることは三菱の創業以来の至上ミッションであったし、それは実践と実績に基づいた史実でもある。

弥太郎の理念はその三綱領にあらたかである。①所期奉公(社会貢献)、②処事光明(フェアプレイ)、③立業貿易(グローバル対応)―。これらは昨今のSDGs(持続可能な開発目標)にも通じるものがある。

1873年の三菱商会の発足から今年でちょうど150年。三菱グループの枢要企業三社の一角をしめる三菱重工が、GX(グリーントランスフォーメーション)のエネルギー政策の要である「原子力発電を最大限に活用する」ための切り札を打ち出してきた。

それは三つの構成要素からなる。革新軽水炉、高温ガス炉、そして高速炉のトリニティだ。

最大限活用の切り札 三菱ならのラインアップ

SRZ―1200―。GXに欠かせない大量の電源、しかも既に実用化されている大型軽水炉の範疇で、太陽光や風力というVRE(変動電源)との相補性に優れる革新軽水炉をまず打ち出した。

革新軽水炉「SRZ―1200」のイメージ図

それに加えて、GXに欠かせない大量水素製造の可能性を秘めた高温ガス炉、そして資源小国日本の国是であるウラン資源の最大活用、つまり〝閉じた〟核燃料サイクルの中核を担うナトリウム冷却高速炉。いずれも実績に裏打ちされた原子力開発のリーディングカンパニーならではのラインアップである。それらは日本のみならずグローバルに通用するものである。

EUタクソノミーは欧州を基軸に、それぞれの発電方式が地球温暖化の阻止に役立つか否かのレッテルを貼る分類法であり、世界の価値基準と目される。そして、2023年1月に欧州議会で「原子力はグリーン」と裁定された。まことに真っ当かつ未来に明かりをともす喜ばしいニュースであった。

SRZ―1200は、3.11で得られた教訓が随所に実践展開された、まさに〝決め打ち〟の革新軽水炉である。

世界に目を転じれば、フィンランドでちょうど今年4月に稼働したヨーロッパ式大型軽水炉は、建造過程で変更に変更を重ね大幅な工期延長と最終的に1兆円を超えるコストを費やしてしまった。

三菱重工の〝決定打〟、SRZ―1200は、資源エネルギー庁が2030年の新設プラント建設費として想定している6200億円と同等の水準を目指すとしている。うれしい話ではないか。安全確保上、いわゆる世界一の極めて厳しい地震・津波対策が必須の日本でこの価格なのである。海外ではもっとお安くなるのではないか。

そして特定重大事故等対処施設(特重)は大幅な合理化も期待される。重大事故に対する安全確保の要は、建屋を強固な岩盤に埋め込むことによる耐震性強化、津波などによる溢水を排除するドライサイト、受動的と能動的な安全システムのベストミックス、二重格納容器による航空機などの外部飛来物への耐衝撃性の向上、そして放射性希ガス(XeやKr)さえも環境に漏らさない放射性物質放出防止システムの導入などである。

結果として、現行の原子力規制の下では追加設置が義務付けられているあの長大でドンキーな特重施設がもはや不要となる可能性を秘めている。これはとてつもなく明るいニュースだ。

3.11で得られた教訓を基に安全対策は多重性、多様性を重視している

原子力志望の若者 未来への熱い夢

原子力セグメント長の加藤顕彦常務執行役員の話では、ここ数年、三菱重工の原子力部門の新規採用は増加傾向にあるという。一部のアンチのメディアに惑わされることなく、自分の頭で思考する若者が確実に増えていることは、私自身の中学生や高校生への授業と対話交流、大学生・院生への講義などを通じて如実に感じてきた。

3.11以降、大学院の人財育成は助成金行政のもと、原子力分野では福島第一の廃炉と原子力規制に資源が集中投下されてきた。が、私に言わせればどちらも後ろ向きである。あまり夢がないのだ。これでは弥太郎の「三綱領SDGs」に能うところがない。革新的原子炉の研究にこそもっと熱い夢が語られ資源が配分され夢の実現がなされるべきである―そう思ってきた。

三菱重工には、原子力の革新的未来に応えようとする若者が集まってきているという。それは、いわゆる原子力プロパーの学部や選考ではなく、どうやらその他分野の工学や理学などから目先のきく若者がやってきているようなのである。

横綱を土俵に上げるには 政府は投資環境の整備を

土俵は整いつつある。つまり、政府はGXに向けて「原子力の最大活用」の掛け声のもと、革新軽水炉の新増設と従来の原子力政策を180度転換した。そして原子力産業の〝横綱〟、三菱重工はこれぞ決め打ちの革新軽水炉SRZ―1200をもって、土俵下でどっかりと構えている。横綱は呼び出しの声を待っている。設計図はある。工場も準備万端、手ぐすねを引いている。しかし呼び出し(発注)がなければ、横綱も土俵に上がることさえままならない。

電力会社が発注をためらう理由は何か。3.11以後の原子力を巡る環境の急速な悪化である。

稼働中の発電所をいきなり停止させる「仮処分」、いまだに再稼働の審査を続ける原子力規制委員会の怠惰、稼働を巡り「住民投票」をちらつかせる首長の存在―。 これだけのリスクが顕在化する中、誰がリプレース・新増設に数千億円の費用を融資するだろうか。投資した金額の回収を保証する枠組みをつくること。これこそが今、政府が取り組むべき事柄である。 今年、第7次エネルギー基本計画の策定が動き始める。この場で良識ある人たちが声を上げ、政府に重い腰を上げさせなければならない。

三菱重工は、呼び出されれば10年でSRZ―1200を完成させるという。政府が本腰を入れるならば、50年に向けてのGXにはなんとか間に合いそうである。

私たちは今、向こう半年程度で一体何が起こるのかを注視せざるを得ない―。そう思うのである。

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ工学所客員研究員、東京工業大学助教などを経て2022年から現職。工学博士。専門は原子核工学。著書に『原子核工学入門』『やってはいけない原発ゼロ』など。

【マーケット情報/7月28日】原油上昇、需要の回復期待がさらに拡大


先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇した。米国の利上げ終了観測や、中国の景気刺激策などから、需要増の見通しが広がった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が追加の利上げを発表した。ただ、市場では年内の再利上げの可能性は低いとの観測が広がり、需要の回復期待が高まった。第2四半期の米GDP成長率は年率換算で2.4%と、市場予測を上回った。これらを受けて、FRB議長が、年後半に不況入りする見通しはないとする発言も材料視された。

中国では、建設業界に対する景気刺激策の発表が市場で好感された。

国際通貨基金(IMF)は、米金融セクターにおける脆弱性の改善などを受けて、今年の世界経済成長予測を、4月の発表時から0.2%、上方修正した。

供給面では、米国の週間在庫が、輸入減から減少に転じた。石油ガスリグの稼働数が、前週から減少したことなども、油価の上昇圧力となった。

また、ナイジェリアでは、フォルカドス輸出ターミナルが、装置不具合とみられる原因から一時閉鎖された。サウジアラビアが、日量100万バレルの追加減産を9月も継続するとの見方が広がった。


【7月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.58ドル(前週比3.51ドル高)、ブレント先物(ICE)=84.99ドル(前週比3.92ドル高)、オマーン先物(DME)=85.26ドル(前週比3.61ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.97ドル(前週比3.50ドル高)

次代を創る学識者/金田一清香・広島大学大学院先進理工系科学研究科准教授


建物の省エネと快適な空間の両立を目指す建築環境工学。

この研究を生かし広島大学の2030年カーボンニュートラル達成に取り組む。

人間にとって最も身近な環境としての建築空間を考える建築環境工学。住宅に限らず、学校や店舗、ビルなど建築物全般の建築空間に関する学問であり、風の取り入れ方、空気の流れ、採光や断熱といった工学的設計を施し、快適な空間を実現していく。さらに、空調や換気設備においては省エネも踏まえなければならない。

この中で、金田一清香准教授は「空調システムの省エネルギー化」「未利用エネルギーの熱的活用」をテーマに取り組む。

現在注力するのが、2021年に広島大学が東広島市、住友商事と締結した連携協定と合わせて発表した「カーボンニュートラル(CN)×スマートキャンパス5・0宣言」に関する活動だ。大学敷地内に再生可能エネルギーを設置するなどして30年のCN達成を目指しており、金田一准教授は建物の省エネに関する取り組みを担当する。現在PPA(電力購入契約)で5000kWの太陽光発電を導入中。今後は金田一准教授が専門の地中熱利用システムの導入を進める計画だ。

地中熱に関しては20年ほど前から研究を行ってきた。欧州や中国の導入事例などを横目に見ながら、ポテンシャルの高さを感じていたが、ボーリングなどのコストがネックとなり、国内では大きな広がりを見せていない。

国内では、スウェーデンの家具大手イケアが複数店舗で地中熱設備を導入しており、金田一准教授の研究室でも運用面でサポートしている。地中熱は導入時だけでなく、導入後も継続して運用の仕組みづくりが必要とのことだ。広島大では比較的小規模な既存建物でも省エネ運用ができる仕組みを目指す。

「中国地方は温暖だが、東広島市は内陸で冬の冷え込みが厳しく、夏の冷房と冬の暖房で同じくらいの電力を消費する地域。地中熱は活用しやすい。大学は教員や学生の滞在時間が長く、多くのエネルギーを消費する。最適な設備が導入できたらと考える」(金田一氏)


北海道より寒い本州の住居 温暖地で快適な空間構築へ

北海道出身の金田一准教授は1972年の札幌五輪選手村施設を活用した集合住宅で育った。「当時ではまだ珍しい地域暖房を採用した建物で、家族で光熱費に関する話などをよくした。また、父が新聞記者でスパイクタイヤの粉じん公害問題を取材していた。今思い返すとそうした素地がエネルギーに関連する研究に携わるきっかけになったかもしれない」(同)

北海道から、東京と広島に移住して感じたことがある。それは温暖地のはずなのに家の中が寒いことだ。北海道の住居はきちんと断熱が施されており寒さをがまんすることはない。温暖地でも寒さをがまんしたり使用エネルギー量を増やすことなく、快適な空間で過ごせるように、温暖地の風習に合った全館暖房、セントラルヒーティングの構築も検討する。

そうした活動にも積極的に取り組んでいく考えだ。

きんだいち・さやか 1976年北海道生まれ。2004年9月北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士課程修了。北海道大学大学院工学研究科特任助教、東京大学大学院工学系研究科特任助教、広島大学大学院工学研究院助教を経て、18年から現職。

【メディア放談】関西電力の使用済み燃料貯蔵 意表を突いた中間貯蔵の解決策


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ・ジャーナリスト/5名

関西電力は使用済みMOX燃料、使用済み燃料をフランスに輸送する計画を明らかにした。

それで県外搬出を求めた福井県との約束を果たしたとするが、先行は見通せない。

―この座談会でも度々話題になった、関西電力の使用済み燃料中間貯蔵の問題に進展があった。仏オラノ社での使用済みMOX燃料の再処理の実施研究用に、関電の使用済みMOX燃料(10t)と使用済み燃料(190t)をフランスに輸送する。

ジャーナリスト 電事連の発表(6月12日)と同じタイミングで、関電の森望社長が福井県の杉本達治知事を訪れて、「中間貯蔵の県外立地と同じ意義がある」と説明した。フランスでの共同実証は電事連の発表で、一見、電力業界としての取り組みに見える。だが、実際は関電の関電による関電のための事業だと見ている。

―マスコミ関係者はそういう見方のようだ。

ジャーナリスト 六ケ所再処理工場ですら稼働していない中で、今、使用済みMOX燃料再処理の実証研究を始める必然性はない。日本から使用済みMOX燃料を運ぶ理由を、フランスよりもプルトニウム含有量が多いためとしているが、使用済み燃料の輸送も必要なのか分からない。

―確かに、なぜ費用をかけて、放射性物質の海上輸送というリスクを冒してまでフランスに運ぶのかとの疑問は残る。

ジャーナリスト 「2023年末までに中間貯蔵施設の計画地点を示す」という福井県との約束を果たすために練った計画だろう。関電は約束が果たせなければ、40年超運転の高浜1、2号機、美浜3号機を運転しないと明言していた。電力さんはどう思う?

電力 ノーコメントだ。

マスコミ ただ、今まで使用済みMOX燃料の再処理についてはあいまいなところがあった。以前、共同通信が「電力業界が使用済みMOX燃料の再処理を断念」と配信して、経産省も巻き込んで騒動になったこともあった。それで、プルサーマルを行っている発電所の地元の人たちは不安を募らせている。その点で、例え関電の中間貯蔵問題の解決が目的だったとしても、実証研究の開始は意義のあることだと思う。


リスク多い海外再処理 むつ市「拒絶」で準備か

―電力業界は、もう使用済み燃料の海外再処理は行わないと表明していたはずだ。

マスコミ 核不拡散上のリスクはあるし費用もかかる。それを再開するわけだから、かなりの時間をかけて水面下で国内外の関係者と調整していたはずだ。

関電は、電事連とエネ庁の幹部が20年12月に青森県むつ市を訪れた時から、役所と準備を進めていたんじゃないか。むつ市の中間貯蔵施設を電力業界が共同利用する案を当時の宮下宗一郎市長に示して、一蹴された。その時点で、23年末までの国内での計画地点の提示はあきらめたと思う。

【礒﨑哲史 国民民主党参議院議員】「次世代燃料に複数の選択肢を」


いそざき・てつじ 1969年生まれ。東京都出身。93年東京電機大学工学部卒、日産自動車入社。2005年日産労組常任委員、12年自動車総連特別中央執行委員。13年参院議員初当選(比例区)。21年3月国民民主党入党。同党副代表、参議院国会対策委員長。当選2回。

モノ作りへの興味から日産に入社。労働者が安心して働ける環境づくりに奔走する。

当選後は「対決よりも解決」の姿勢を堅持。議論ではデータに基づいた政策を訴える。

幼い頃からモノ作り、特に車のメカニズム部分に興味があった。「将来は車の開発に携わりたい」と思い、東京電機大で機械工学を学び、日産自動車に入社した。開発部門で腕を振るう中、労働組合の活動にも従事。真面目に地道に働く組合員が、安心感を得られる環境づくりに奔走した。

2011年秋ごろに、組合幹部から政治家への転身を打診された。これまで支える立場だった議員に自分がなれるだろうか、という思いを抱える中で「働く者の代表として、声をかけてもらった期待に応えたい」と政治の世界に飛び込む覚悟を決めた。13年の参議院選挙に民主党(当時)から比例区で出馬すると、約27万1500票を獲得し、同党の比例区で最多得票を得た。

参議院議員になってからは、自動車産業での経験を生かし、議員として各委員会で質疑を行い、政府・与党に政策を実行するよう提案してきた。中でも16年の決算委員会では、対面通行の高速道路で反対車線飛び出しによる死傷事故が増加していることを懸念。中央分離帯をラバーポールから安全性の高いワイヤーロープに変更することで事故数を減らせると説得した。

すると「委員会終了後に、国交省から『先ほど礒﨑先生から質問があった問題について、大臣からすぐ検討するよう指示があった』と言われた」。野党でも批判ありきで質問するのではなく、データに基づいた議論をすれば政策は動くと確信した。民主党以降は民進党を経て、21年に国民民主党に合流。現在は党副代表、参議院国会対策委員長を務める。労組出身として働く人の不安を解消するために活動する信念はこれまでも、これからも変わらない。

自動車産業での知見、労働組合での経験はエネルギー分野にも生かされている。自動車関係の諸税では購入時、保有時、使用時の3段階で9種類の税金が課せられ、二重課税や税収用途変更を問題視。とりわけエネルギー面では、ガソリン価格に含まれる税金から、消費税が上乗せされる構造の見直しを訴える。石油燃料の代替えとなる可能性がある水素由来の液体燃料や合成燃料(e―フュエル)に対しても、カーボンプライシング(CP)などの課税には疑問を呈している。

内燃機関の未来については「液体燃料でなければならない分野と、電気自動車(EV)、燃料電池を活用できる分野。どちらか一つではなく、さまざまな組み合わせで総合的に進むだろう」と予測する。液体燃料は持続可能な航空燃料(SAF)や、船舶での活用が前提だが、自動車産業も液体燃料普及の一端を担うことができると話す。

他方で、電気自動車の普及促進も欠かせない。水素を燃料とする燃料電池車(FCV)やEVには、既存設備の活用や環境面など、それぞれに強みを持ち、水素製造コストやレアメタル埋蔵量などで課題を抱える。「インドや東南アジアなど新興国の産業が何を望むのかも重要だ」。次世代燃料に複数の選択肢を持ちながら、同時並行で開発する必要性を訴える。


GX法案は「時間かけ議論が必要」 雇用配慮しながら脱炭素を訴える

5月には、参議院で可決成立した「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」について、経済産業委員会のメンバーとして精力的に質疑を行った。電気事業法、原子炉等規制法、原子力基本法、再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)、再処理等拠出金法の5改正案による「束ね法案」として提出された同法案について「時間をかけて法案の中身を審議する必要性を感じた」と、法案を束ねたことによるマイナス面を指摘。原子力法案と再エネ法案を分けて議論すべきだと話した。

自身もGXの推進は理解するものの、その中身が国民に広く知れ渡っていない現在の状況に警鐘を鳴らしている。車のEV化に伴う産業従事者の不安の声を聞き、「GX脱炭素電源法」より先に成立した「GX推進法」の中に、雇用に配慮しながら脱炭素を進める「公正な移行」という条文の記載を与野党で調整した。

問題の周知に必要なのは、丁寧な議論と、時間をかけた国民への説明だと話す。「エネルギーは普段当たり前にあるが、不都合が起きて初めて『当たり前ではない』と気づく世界。知っているようで理解するには難しい話が多い」。議論を分かりやすく伝え、国民民主党の「対決より解決」の姿勢を堅持する。

多忙な議員生活の傍ら、数少ない癒しのひと時は家族との家庭菜園だ。「車の機械をいじるのと同じで、やはりモノ作りが好き」だと話す。これからもモノ作りの精神で一つひとつ着実に成果を生み出し、現実的かつ柔軟な政策を提案していく。

掛川市で耕作放棄地を利用 地域振興へ新たな名産目指す


【エネルギー企業と食】中部電力×ホップ栽培

中部電力では地域振興の一環として、静岡県掛川市で耕作放棄地を利用したホップの試験栽培を行っている。4月には地元の小学生20人を招いて、ホップの植え付け体験会を開催。およそ1400㎡の土地に約200株を植えた。中部電力静岡支店・地域共生グループの清水康広副長は「この取り組みが、掛川市の産業活性化と地域振興につながればうれしい」と話す。

中部電力の清水康広氏(右)と、農業法人「多好喜」の鈴木孝之氏(左)

栽培のきっかけは、静岡経済同友会の会議体「テイクオフ静岡」で、クラフトビール事業などを手掛ける「ZOO(伏見陽介社長)」が、ホップ活用策を提案したことだ。「中部電力の掲げる地域振興の理念と共通する部分があった」(中部電力静岡支店・地域共生グループ中野進課長)として、中部電力が事業の安定化まで協力。地元の農業法人「多好喜」が栽培を担う。柑橘系の香りが特徴のカスケードという品種を採用し、昨年度から始めた栽培は500株に達した。近隣の島田市でもホップ栽培の実績があることから、掛川市でも新たな地域事業になると見込んでいる。実ったホップは地場産ビールとして販売を検討するほか、風味を付けた炭酸水など新たな商品開発にも取り組む予定。

品質の良いホップが育つには3~5年ほどかかると言われる。初年度に栽培を始めたホップは来年夏に3年目を迎える。取材で訪れた栽培地では、2年目のホップながら、収穫を前に青々とした実がついていた。清水氏は「ホップの栽培は掛川の主力農産業である茶畑と収穫時期がずれている。地元の新たな産業に育てていきたい」と将来を見据えた。掛川市も「耕作放棄地の増加や農業の担い手不足に直面している。今回の活動が課題解決の一助になれば」と期待を寄せる。

ホップ栽培は、次世代に向けた環境教育の側面でも地域に貢献している。4月の植え付け体験会に参加した小学生は、畑に穴を掘ってホップの苗を植え、肥料や水をまくなど、地場農産業の大切さを学ぶ機会に。生徒たちからは「苗が成長するのが楽しみ」と大好評だったという。「ホップの天ぷらも食べてもらったが、子供たちには少し苦かったようだ」と清水氏は振り返る。

中部電力は、地域の課題解決や地域の発展に少しでも貢献できればという考えのもと、全社を挙げて「地域共生活動」を展開しており、ホップ栽培などを通じて、地域の皆さまからの信頼に応え、エネルギー企業として地域と共にこれからも歩んでいく。

温暖化最優先の政策を堅持 G7サミット成果を分析


【多事争論】話題:G7サミットの評価

燃料調達を巡る世界的混乱が落ち着きを見せる中で開催されたG7広島サミット。

さまざまに報じられたエネルギー・環境分野のコミットを専門家はどう評したのか。


〈 合意文書に日本の努力の跡 エネルギー問題は現実的な着地点に 〉

視点A:有馬純/東京大学公共政策大学院特任教授

今回のG7サミット(主要7カ国首脳会議)共同声明を読むと、エネルギー分野については、産業革命前からの温度上昇を1・5℃未満、2050年カーボンニュートラル(CN)という非現実的な目標のくびきの下で可能な限り現実的なメッセージを出すべく、議長国日本が非常に頑張ったことが分かる。欧州諸国は30年までに排出削減対策を講じていない石炭火力の段階的廃止や、35年までに電力部門の完全な脱炭素化を強く主張していたが、石炭火力の廃止年限は設けられず、電力部門については「完全もしくは大宗の脱炭素化」との表現で決着した。安価で安定的なエネルギー供給は不可欠であり、天然ガス価格の動向や原発再稼働の進捗が不透明な中で、エネルギー安全保障リスクの相対的に低い石炭火力を放棄する合理的理由はない。また石炭火力もアンモニアとの混焼などによりカーボンフットプリントを下げることができる。

天然ガス投資の重要性が盛り込まれたことは特筆に値する。昨年来、日本はガスの需給ひっ迫が途上国に経済的苦境をもたらしているなどの理由で、ガス部門全体の投資の重要性を指摘してきた。欧州諸国は自らの天然ガス調達のためにLNG受け入れターミナルを建設しながら、ガス全体の投資の重要性について否定的であったが、これを抑え込んだ形だ。新聞は「石炭のみならず天然ガスについても段階的廃止」と強調したが、共同声明では「遅くとも50年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」とし、G7諸国が50年CNを目指すことを言い換えたにすぎない。天然ガス投資の重要性が認識されたことこそ、見出しにすべきであった。

道路部門については、米国がZEV(ゼロエミッション車)の比率を30年までに50%にするとの数値目標を主張したが、G7全体で35年までに道路部門のCO2排出を半減するという技術中立的な文言で決着した。

原子力に関しては、「原子力エネルギーの使用を選択した国々は」という形で主語を限定しつつ、エネルギー安全保障、脱炭素化、ベースロード電源、系統の柔軟性の源泉としての原子力の重要性についてしっかり書き込み、既存炉の最大限の活用、革新的原子炉の開発、建設の重要性が指摘された。

再生可能エネルギーでは、G7全体で洋上風力150GW、太陽光1TW(1TW=1000GW=10億kW)という数値目標を掲げたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、再エネやEVに不可欠な重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済・安全保障上のリスクも指摘された。ウイグルの強制労働や石炭火力を使う中国製パネルに市場が支えられているが、先述の課題に取り組めばコストアップ要因になる。再エネ拡大を図る上で大きな課題となろう。

水素ではグリーン、ブルーといった区分ではなく、炭素集約度に基づく取引可能性や国際標準・認証の必要性が指摘され、エネルギー転換期のトランジション・ファイナンスの重要性が指摘されたことも特筆したい。

とはいえ、1・5℃、50年CNという呪縛により、温暖化については昨年のエルマウサミット以上に非現実的な数字が並ぶことになった。「25年全球ピークアウト」や「新興国に対して1・5℃目標と整合性を保つべく、30年目標を見直し、50年CNをコミットすることを求める」などが盛り込まれた。


温暖化目標の非現実性は拡大 途上国との溝は深まる一方

温暖化はグローバルな問題であり、世界の排出量の4分の1程度でしかないG7がいくら野心的なメッセージを打ち出したとしても、60年、70年のCNを標榜する中国やインドが同様の行動を取らない限り、意味がない。彼らが参加するG20サミットにこうしたメッセージが盛り込まれる可能性は皆無である。

本年5月に来日したマレーシア元首相のマハティール氏が核兵器問題を念頭に「同じような考えを持つ国々が集まって会議をするのは、独り言を言っているようなものだ」などと批判したが、これは温暖化問題にも当てはまる。ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機、経済苦境などを背景に世界中で自国第一主義が台頭する中、温暖化防止に対する先進国の優先順位が新興国、途上国でシェアされていないことは明らかである。しかも先進国は彼らの行動変容を促す有効なレバレッジを有していない。1・5℃、50年CN目標は事実上破綻しており、これに捉われる限り、先進国と途上国の溝は深まるだけであろう。

ありま・じゅん 1982年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。2020年から現職。


【需要家】温対計画の進捗 目標達成見通しの対策は限定


【業界スクランブル/需要家】

5月末の環境省地球温暖化対策計画(温対計画)フォローアップ専門委員会にて、2021年度における温対計画の進捗の素案が公表された。家庭部門においては、CO2排出削減量が30年度⽬標⽔準を上回る見通し、あるいは既に上回っている対策は「高効率照明の導入」と「食品ロスの削減」のみ。ほかの対策は目標水準と同程度か下回る見通しである。

将来的に目標水準を下回る対策の一つが、「HEMS、スマートメーターを利用したエネルギー管理の実施」である。この対策は家庭部門の中でも比較的大きなCO2削減が見込まれ、その算定根拠を見ると、30年度におけるHEMS導入量を約4900万世帯と想定。これは新築住宅への導入はもちろん、既築住宅への導入を早期に進めなければ到達不可能な水準である。足元の導入量は740万世帯にとどまっており、野心的であった目標の達成が困難であることを改めて認識させられる。

他方、30年度に目標水準と同程度になる見通しの対策については、今後問題なく目標達成できると見ていいのだろうか。例えば「高効率給湯器の導入」に関し、潜熱回収型給湯器は30年度目標導入量が3050万台、21年度の実績が1244万台となっている。単純計算で年間200万台の導入が必要であるが、日本ガス石油機器工業会の出荷統計を見ると出荷台数は各年100万台程度である。このように順調と評価されている対策も決して楽観視はできない。

高効率給湯器は配管、設置スペースなど物理的・技術的な導入障壁のほかに、ユーザーや住宅オーナーの導入意識が低い実態もあろう。このような状況を考慮すると、省エネ設備の普及を市場任せにするのではなく、より積極的な政策対応が必要になる可能性が考えられる。(K)

【マーケット情報/7月21日】欧米原油続伸、景気回復の期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物が続伸。景気回復の見通しが一段と広がり、石油需要が増加するとの予測が強まった。

米国では引き続き、インフレ緩和を示す統計が相次いだ。6月の工業生産が縮小し、小売売上高の上昇は市場予測を下回った。加えて、米ミシガン大学が発表する消費者信頼感指数は7月、インフレの減速にともない、2021年9月以来の最高を記録。これらを受け、投資家の間で、2024年前半には米連邦準備理事会(FRB)が金利引き下げに入るとの予測が台頭。景気と石油需要の回復期待が一段と高まった。

供給面では、クッシング含む米国の週間原油在庫とガソリン在庫が減少。さらに、米エネルギー情報局(EIA)が、8月に国内シェール層からの原油生産が縮小する見込みを発表した。

一方で、ドバイ現物は前週から下落。中国経済の先行き懸念が重荷となった。


【7月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=77.07ドル(前週比1.65ドル高)、ブレント先物(ICE)=81.07ドル(前週比1.20ドル高)、オマーン先物(DME)=81.65ドル(前週比0.42ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.47ドル(前週比0.31ドル安)

【コラム/7月24日】大学への排出権取引のお勧めは良策か~~需要家サイドは、安定供給、明朗料金が一番


飯倉 穣/エコノミスト

1,省エネ法改正や東京都の温室効果ガス排出削減の強化で、エネ需要家の非営利法人とりわけ大学経営に波紋を投じている。

気候変動に係る情緒的な報道もあった。「エコ不安 環境問題に悩み気持ちが沈む 若者らに広がる」(朝日夕2023年7月4日)。気候に対する不安が世界中の子どもや若者に蔓延しているという。待てよ、現実の対策を求められている現場の人間はさらに不安で、大変である。夢想にふける人も興味深いが、もっと現場の苦衷に「光を」と問いたい。

最近の排出削減強化から、エネ需要家「大学」に忍び寄るお勧めの選択肢が大学経営に与える影響を考える。

2,カーボンニュートラルに向けた対策が政府・都で強化されている。

政府は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下省エネ法)」(22年5月改正:23年4月施行)に、エネ使用の合理化に加えて非化石エネ転換を盛り込んだ。又東京都は温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度で、排出量削減義務率の新設定とキャップ&トレード制度の充実を予定している。

3,省エネ法は、一定規模(原油換算1500㎘/年以上使用)の事業者に定期報告と省エネ(エネルギー利用の合理化)を求めてきた。

行政の求めで、事業者は、中長期的にみて年平均1%以上のエネルギー消費原単位等の低減を目標に努力を重ねている。一定の成果をあげているが、使用方法や機器・設備の改善による化石エネ利用量引下げもやや限界的な段階にある。そこに2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルの目標である。需要家に対し、今23年度より中長期計画提出(エネ使用合理化、非化石転換、電気需要最適化の三本立て)で、非化石電気割合を示す自主目標を求めている。そして経産省は、省エネの限界を見越し、非化石への転換で、電力会社のメニュー選択、太陽光発電設置、TPA業者、クレジット取引の選択を推奨する。つまり政府が、需要家に再エネ投資か再エネ購入か再エネ商品(証書等)の購入を迫る構図である。

4,東京都は、温室効果ガス排出削減実現のために、基準排出量比削減義務率を課して来た。

対象は、オフィスビル等(第一区分:オフィスビル、商業施設、宿泊施設等の例示で、大学を含む)と工場等(第二区分)である。基準排出量比削減義務率は、10年開始5年刻みで第1計画期間8~6%、第2計画期間17~15%、第3計画期間27~25%である。そして第4計画期間(25~29年度)は基準排出量比50~48%削減義務率とし、さらに35年に60%削減を検討している。これまで需要家は、都のキャップ&トレードの施策に沿って対応している。都は、省エネ限界となれば、排出量取引を勧める。購入側から見れば、相場ながら、適正価格か否か疑問が残る。

技術力で市場に流動性を提供 自由なエネルギー取引を実現する


【エネルギービジネスのリーダー達】野澤 遼/enechain 代表取締役

2019年に創業し、国内最大のエネルギーマーケットに成長したenechain。

テクノロジーの力を活用し市場の流動性を高めることが同社の使命だ。

のざわ・りょう 東大経済学部卒、ペンシルバニア大経営大学院卒。関西電力、資源商社を経て、ボストンコンサルティンググループでエネルギー企業向けトレーディングやリスク管理などのコンサルティングに従事。2019年にenechainを設立。

国内最大のエネルギーマーケットを運営するスタートアップ企業、enechain(エネチェイン)。野澤遼社長は、「自由市場では、誰でもいつでもどこでも商品を売り買いできることは当たり前。電力自由化の最大の課題は、そういった場がないことであり、自らの人生をかけて日本に市場を作り上げたい」と奮起し、2019年に同社を創業した。

既に日本卸電力取引所(JEPX)はあったが、扱っていたのは当日、翌日の現物のみ。より長い契約期間で取引できる市場を作ってこそ、発電事業者が安定的に収益を確保しつつ、小売り事業者が創意工夫しながら需要家のメリットに資する多様なメニューを提供するという、自由化本来の目的が達成できると考えたのだ。

リスク管理を重視 市場参加者の行動変容促す

「Building energy markets coloring your life」 をミッションに掲げ、“テクノロジーの力”で電気などエネルギー市場の流動性向上を目指す同社。そのテクノロジーを支えているのが、IT系のベンチャー企業で豊富な経験を持つなど、社員130人のうち約50人を占める国内トップクラスのエンジニアたちだ。

現在は、オンライン上で商品を売り買いするトレーディングプラットフォーム「eSquare(イースクエア)」、取引に必要な電力や燃料価格といったエネルギーに関するデータや市場の情報をタイムリーに提供するマーケットデータプラットフォーム「eCompass(イーコンパス)」を提供中。この二つのツールを活用することで、事業者はフェアプライス(適正価格)を把握し、自ら取引相手を探したり、価格交渉したりすることなく、ニーズに合わせた商品の売り買いが可能になるという。

また、燃料や電力市場価格のボラティリティが高まる中、電力事業者にとってこうしたリスク管理が大きな経営課題となっている。その解決のためのツールとして、取引状況や市況データから事業上のリスクを可視化、比較する「eScan(イースキャン)」を開発済み。こちらも既に続々と導入が決まり始めている。

イースキャンの商品化について、「販売と仕入れ、価格など、電気のポートフォリオは複雑で、自社がどのようなポジションを取っているのか正確に把握することが難しい。システムを通じて、業界にリスクマネジメントのカルチャーを浸透させ、市場参加者の行動変容を促していきたい」と、その意義を強調する野澤社長。

マーケットのリスク管理の重要性を強く意識するのは、大学卒業後、関西電力、資源商社、ボストンコンサルティンググループと、さまざまな業界に身を置きながら、20年にわたって大激変するエネルギー市場に向き合ってきた経験が大きく影響している。

関電でLNGトレーディングに携わっていた08年には、WTI先物が史上最高の1バレル=147ドルを付けた後、リーマンショックで20ドルまで急落するという歴史的な狂乱を経験。そして20年度には、この日本で、春先には1kW時当たり0・01円だった卸電力価格が冬場に入り200円台まで高騰するという市場運営者として初めての「暴風雨」に直面した。だが、野澤社長に言わせれば、「それが市場」なのだ。

ポテンシャルは100兆円超 自由化を支えるインフラ確立

創業当初は、「勝ち目はあるのか」「ニーズがないのではないか」と言われることもあるなど、決して順風満帆な立ち上がりだったわけではない。それでも、米国の資源商社でPJMなどの電力取引に携わり、ICE(インターコンチネンタル取引所)をはじめ、巨大なプールがあるからこそ、さまざまなプレイヤーがリスクヘッジしながら活発にビジネスを展開できている様を目の当たりにしたことで抱いた、「(まだ自由化されていない)日本も、いずれ同じ状況になる」との確信が揺らぐことはなかった。

そしてそれは的中する。最初は小さな市場にすぎなかったが、口コミで広まったことで徐々に取引量が拡大。さらには、市場のボラティリティを経験したことや、JERAや北海道電力といった大手電力会社が内外無差別への対応強化のために同社のプラットフォームを卸取引に活用するようになったことも後押しし、この1年でプレイヤーは200社を超えるまでになった。

電力小売り全面自由化により、年間流通額が25兆円もの巨大なマーケットが開放されたが、エネルギートレーディングには100兆円規模のポテンシャルがあると見据えている。「市場の流動性を提供するという意味で現状では不十分。今はまだ25mプールにすぎないが、電気のみならず燃料価格のヘッジや排出権など環境価値の取引も含めたさまざまな商品を取引できるインフラとして確立し、プレイヤーが自由に泳げる大海原に成長させたい」(野澤社長)

【再エネ】市場の成長継続 IEA報告書が指摘


【業界スクランブル/再エネ】

今回のG7サミットでは、初めて自然エネルギーの導入目標に言及し、2035年までにG7全体で洋上風力150GW、太陽光1TW(1TW=1000GW=10億kW)の導入に合意した。一方、足下ではこれを上回る速度で自然エネが拡大している。

6月1日、国際エネルギー機関(IEA)は「再生可能エネルギー市場アップデート」を発表した。報告書によれば、23年は、昨年世界で導入された320GWの設備容量を30%上回る過去最大の440GW以上の導入量になる見込みだ。太陽光が今年の増加分の3分の2を占める。成長は続き、加速ケースでは24年の導入容量は550GWに達する可能性があると見通す。

欧州については、電気料金の高騰で小規模な屋上太陽光の魅力が高まり、ドイツ、イタリア、オランダでの政策強化などで予測を40%上方修正した。安価な新設太陽光と風力が化石燃料を代替し、21~23年には電力消費者の支出を1000億ユーロ節約したと推計。こうした追加導入がなければ、22年の欧州の卸電力価格は8%上昇していたという。米国やインドでも「インフレ抑制法」や入札枠増加などにより、今後2年間で大幅な自然エネの増加が見込まれる。一方、23、24年の両方で、中国が世界の自然エネ発電設備増設の約55%を占める、と予測する。

近年伸び悩んでいた風力の導入量も23年には前年比約70%増と急回復するが、今後のさらなる成長は、許認可やオークション設計などの課題に対し各国政府が有効な政策を講じるかによる。太陽光と風力は引き続き市場で最も競争力を持つが、同時に、こうした変動型自然エネを電力系統に安全かつ効率的に統合するには、送電網の適切な計画や投資に焦点を当てた政策が必要としている。(R)

EV時代のギモン 系統は耐えられるのか?


【どうするEV】高木雅昭/電力中央研究所 上席研究員

「電気自動車(EV)が大量に普及した場合、大きなピーク負荷が発生するのでは?」と問われたら、私は次のように答える。「EVがどれだけ同時に充電するかによる。そして、個々のEVがいつ充電するかはEVユーザーの行動次第なので、さまざまな想定ができてしまい、ピークが発生するとも、しないともいえる」

例えば「全EVの3分の1が一斉に充電する」という前提を置かれると、あり得そうだと思うかもしれないが、実際はそこまで同時に充電することはない。仮に最悪条件を想定し、とてつもなく大きなピークが発生したとする。この場合でも時間帯が集中する分、ピークの高さとしては大きくなるが、総充電電力量が増えるわけではないので、ピークの発生時間としては非常に短くなる。つまり、充電時間帯を少し分散させればピークは抑制されるので、容易に対策できる。

分かりやすく、ドライヤーで考えてみよう。全世帯でドライヤーが一斉に使われれば、非常に大きなピークが発生するが、実際にそんなことは起こっていない。これは人間の生活リズムによって、ドライヤーの稼働時間が自然にばらけるからである。対して、ヒートポンプ給湯機やEVなどは、次に使用する時までに必要なエネルギーを充たしてさえいれば、貯湯や充電する時間帯は自由に選べる。

このように、一定時間内で稼働時間帯を自由に選択できる負荷を可制御負荷というが、EVがこの可制御負荷であるために問題をややこしくしているともいえる。つまり、充電時間帯を上手くコントロールすればピークは発生しないが、間違った電気料金制度などが導入されたら、大きなピークが発生するのだ。

ここからは、充電時間帯の分散のさせ方に関する研究例を紹介する。図は、全国の自家用乗用車を対象に、EVの普及率を20%、自宅充電器の定格出力を3kWとして、中間期休日の負荷カーブを試算したものである。

中間期休日の負荷カーブ(EV普及率:20%)
出典:高木、田頭、浅野:「電気自動車の使用者利便性を考慮した夜間充電負荷平準化対策」電気学会論文誌B,Vol.135, No.1, pp.9-17 (2015)

その日走行した全てのEVが23時(午後11時)に一斉に充電を開始すると、急峻なピークが発生する(23時充電開始ケース)。一方、充電必要時間(満充電までに必要な充電量÷充電器出力)に対して充電開始時刻を均等に分散させると、急激なピークは抑制されるが、朝方に緩やかなピークが残る(図中、均等ケース)。これは、充電必要時間の分布そのものに偏りがあるにもかかわらず(今回の場合、充電必要時間が短いEVの台数が多い)、充電開始時刻を均等に分散させたためである。そこで、充電必要時間の分布を考慮した上で、充電時間帯が重ならないように充電開始時刻を最適に分散させると、ほとんどピークは発生しない(図中、最適ケース)。

このようにEVのピークを抑制するためには、ただやみくもに分散させるのではなく、分散のさせ方の根拠となる元データ(今回の場合は充電必要時間の分布)を分析し、分散のルールを決めることが重要なのだ。

たかぎ・まさあき 千葉県出身。東京大学大学院卒。エネルギーシステムを環境や経済性、持続可能性などの多面から評価し、代表的な将来シナリオの検証と電力システムの有効性分析を行う。

【火力】日欧の技術交流 欧州事業者の生の声


【業界スクランブル/火力】

5月に開催されたG7広島サミットは、ウクライナ情勢のことなどを踏まえ参加国の結束をアピールする場となった。特に、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日したインパクトは大きく、対面威力がいかんなく発揮された。

一方エネルギー政策については、2050年CNの理念を再確認するだけで具体的進展はほとんど無かったと言えるが、今後さらに勢いが増すのか、はたまたブレーキがかかるのか意見の分かれるところである。

さて、G7との関りはないが、コロナ禍の収束を受け、5月のGW明けに火力関連事業者の集まりである欧州のvgbe(欧州大規模発電事業者協会)とわが国の火力原子力発電技術協会との技術交流会が4年ぶりに兵庫県姫路市で開催された。そこでは、今が旬の水素・アンモニアやエネルギー貯蔵技術に関する取り組について日欧双方からの講演があり、そこでの質疑や、それ以外にもレセプションやテクニカルビジットなどの場を通じて活発な意見交換が行われた。

参加者によると、個々の講演の内容もさることながら、次のような点が印象に残ったとのことだ。

「日本と比べ国際連系線や系統規模など欧州の方が有利なこともあるが、彼らも一次エネルギー不足、調整力・慣性力不足など苦労しているところは同じ」

「状況は異なるが、日本の新技術の取り組みには注目している。また、技術動向にお構いなく政策が変わっていくが、事業者はそれに対応していくしかない」との前向きとも愚痴とも取れる本音も聞けたとのこと。

対面で見聞きする情報は、雰囲気を流すだけのマスコミ報道では決して得られない。これらをしっかりつかむことができれば、世の風潮に惑わされることも無くなるだろう。(N)

流動性欠く未熟な卸市場に風穴 価格リスク引き受けマネージ


【リレーコラム】城﨑洋平/エナジーグリッド 代表取締役社長

安定した価格で取引できる市場には、十分な流動性が担保されている。では、日本の電力取引市場はその流動性が高いといえるだろうか。長くエネルギー・コモディティ分野でトレーディング業務に身を置いてきたせいか、私はこの業界が抱える流動性に関する課題の大きさと根深さを人一倍強く感じてきた。同時に、おぼろげながら解決の糸口も見えていた。電力卸に特化したビジネスモデルは、こうした思いに端を発している。

日本の電力市場は、需要家向けの小売りが先行して自由化されたが、新電力が電気を調達する肝心の卸市場は構造的に未熟な状態が続いていた。多くの新電力がリスクを固定化できず、変動の激しい日本卸電力取引所に調達の多くを依存せざるを得なかったからだ。

この大きな要因の一つが、電力の出し手である電力会社や発電所所有会社が卸市場に十分な電気を提供していない点にある。仲介するブローカーは数社存在したものの、どのような状況下でも価格を出して引き受けるようなマーケットメーカーは不在であり、買い手の新電力が理想とするタイミングや価格での取引を臨める構造になっていなかった。

電力卸のマーケットメーカーに

当社が志向する電力卸のマーケットメーカーとは、どの電力会社の資本にも属さない独立系・中立というポジションから、電力の供給側と需要側の双方が抱える価格変動リスクを直接引き受け、金融の知見を生かしてマネージする存在。売りでも買いでも取引したいお客さまが必ず取引を執行できる価格を提示し、当社自身が取引相手となる。この安心感の醸成こそが流動性を向上させ、日本の電力マーケット全体の安定化につながっていくと考えている。

会社設立から間もなく2年。市場での取引開始から1年3カ月が経とうとしている今、こうした思いは有難いことに当初想定を上回る早さで届き始めている。当社の相対取引者数は60社超となり、取引電力量は98億kW時(金額ベースで2300億円)を超える規模まで急拡大した。当社を、単なるいちプレーヤーではなく、日本の電力業界が抱える課題解決に一緒に取り組めるパートナーとして認識いただいていることが何より大きい。

国際情勢は今なお予断を許さない状況が続いており、電力価格のボラティリティも依然として高い。だからこそ、私たちが果たせる役割は少なくないはず。電力の売り手も買い手もウィンウィンになる「電力の絆をつむぐ」ソリューションを、より一層磨き上げていきたい。

じょうざき・ようへい 東北電力、エンロン、野村證券、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスにてエネルギートレーディング&リスクマネジメント業務に従事。2021年エナジーグリッドを設立。

※次回はパナソニック オペレーショナルエクセレンスの山田泰也さんです。