電力市場の健全な競争を阻害 値上げに不当介入する政治の罪


4月から順次、実施されるはずだった大手電力会社の規制料金値上げが先送りされた。

足下の燃料費や為替水準を反映するとの名目だが、政権の都合と見る向きは多い。

世界的な物価高騰に伴い、食品やサービスなどあらゆる分野で値上げが相次いでいる。生活への痛手は大きいが、多くの消費者は「仕方がない」と受け入れざるを得ないのが実情だ。ところが、電気料金に限ってはすんなりと通りそうにない。

昨年末、大手電力7社(北海道、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄)が、4~6月の低圧・規制料金の値上げ改定を目指し経済産業省に申請。査定を経て、先行5社が4月1日にも値上げを実施する予定だった。ところが、2月24日の第7回物価・賃金・生活総合対策本部の会合において、岸田文雄首相が西村康稔経産相に対し、日程ありきではなく、直近の為替や燃料価格の水準も勘案するなど、厳格かつ丁寧な申請を行うよう指示したことを受け、先送りを余儀なくされたのだ。

裏側に政治の思惑? 統一地方選と関連か

「カルテルや情報漏洩など大手電力の不祥事に対する後始末をしないまま値上げだけを認めるわけにはいかない」

値上げ先送りの要因について、日ごろから大手電力会社に厳しい対応を取る大物政治家の周辺からは、〝大手電力の自業自得〟とも取れる声が漏れ聞こえてくる。確かに、カルテルやライバルである新電力の顧客情報を不正に閲覧した問題など、電力事業の公平性・中立性が問われるような不祥事が立て続きに発覚したことについては、大いに責められるべきだろう。

とはいえ、3月14日の記者会見で西村経産相が「電気事業法では、能率的な経営のもとにおける適正な原価に適正な利潤を加えたものであることなどの条件を満たした場合、経産大臣は認可しなければならないとされている」と言及した通り、一連の不適切事案と料金値上げは切り離して考えなければならない。

それにもかかわらず、岸田首相が値上げ実施に待ったをかけたのはなぜか―。その裏は、「値上げを統一地方選がある4月で申請してくるなど、大手電力は本当にセンスがない」という政権関係者の言葉から透けて見えてくる。内閣支持率が低迷する中、電気料金が大幅に値上げされることになれば、国民の不満が募り、自陣営の議席を大きく減らすことにつながりかねない。値上げ先送りは、むしろ政治マターなのだ。

では、現行の為替や燃料費を反映した場合、どれほどの原価圧縮効果を見込めるのだろうか。LNG価格のピークは昨年9月ごろ、為替も10月20日前後に150円台と歴史的な円安水準となっていた。申請時、東北、北陸、中国、四国、沖縄は22年7~9月、東京電力エナジーパートナーは8~10月、北海道は9~11月の貿易統計価格などの価格指標を参照して燃料費を算定し足下は申請時点よりも低い水準にある。

3月15日の電力・ガス取引監視等委員会料金制度専門会合において、全社で直近(22年11月~23年1月)の価格指標を反映する方針が示され、これにより、北海道で225億円、東北で139億円、東京(購入電力料)で2536億円、中国で25億円、四国で32億円、沖縄で27億円と、北陸を除く6社で申請時よりも原価を圧縮される。

燃料価格の再計算で北陸を除く6社で原価が圧縮されるというが

だが、電取委も指摘する通り、燃料価格が高騰している時期の価格を基準として原価に織り込んだ場合にも、その後下落すればマイナスの燃料費調整が自動的に行われるため、燃料価格の採録期間をどのように設定するかは基本的には料金に影響を与えることはない。

半面、値上げ延期が大手電力の経営に与える影響は大きい。自由料金部門の値上げや燃調上限の廃止などで収支改善に努めてきたとはいえ、燃調上限が維持されている規制料金部門の赤字供給状態が経営を圧迫し続けていることに変わりはなく、仮に値上げが1カ月先送りされるだけでも、「収支へのマイナスの影響は相当なものになる」(大手電力関係者)。

さらには、基準燃料価格が下がることで、自ずとその上限価格(基準価格の1・5倍)も引き下がる。今は、世界的な暖冬や不景気などの影響で燃料価格が低水準で推移しているものの、次の冬に向けて再上昇する可能性は十分にあり、新たな上限に到達すれば再び赤字供給に迫られる可能性がないとも言い切れない。

「不当廉売」の懸念も  適正なコスト反映を

値上げ先送りに落胆を隠せないのは、大手電力のみならず、卸市場価格の高騰で苦しい経営環境に置かれてきた新電力も同様だ。「政府は一体、電力事業をどうしたいのか。よもやの値上げ先送りにはうんざりしている」と憤るのは、ある新電力関係者。

そもそも、新電力からしてみれば、大手電力が申請した値上げ幅でさえ十分と言えるものではなかった。市場連動に完全移行したり、申請に近い料金水準になることを見越し見切り発車で営業を再開したりといった一部の事業者を除き、「多くが新規顧客獲得に向け着々と準備を進めているところだったが、今回の先送りで一斉にその動きにストップがかかった」(別の新電力関係者)という。

値上げにより、現状のコストを適正に反映した規制料金が設定されることで、新電力も赤字供給を解消しつつ大手電力に対して競争力のある新たな料金メニューを設定し営業を再開させることができるはずだったが、その出鼻がくじかれてしまった形だ。

自由競争の足かせとなっている上に、燃料費を料金に反映できなければ、公正取引委員会が厳しく見ると明言している「不当廉売」状態にもつながる。これにより安定供給体制の維持が困難化するのであれば、供給危機をもたらしかねない。それでも、値上げ認可を渋ることは、需要家のためと言えるのだろうか。

来年7月に容量拠出金の支払いが始まれば、新電力はますます難しい経営のかじ取りを迫られ、より一層選別が進む可能性がある。自由化を維持するのであれば、不適切な行為のみを監視しつつ過度な干渉は慎むべきだ。

第7次エネ基への布石に GX関連法案が国会審議入り


GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債発行やカーボンプライシング(CP)導入などを掲げた「GX推進法案」が、3月9日に衆議院本会議で審議入りした。改正原子炉等規制法、電気事業法、再生可能エネルギー特別措置法などを束ね、高経年原子炉の新たな規制などを示した「GX脱炭素電源法案」も予定より遅れつつも、政府が2月28日に国会に提出した。

両法案はいずれも、2月10日閣議決定の「GX実現に向けた基本方針」を踏まえたもの。GXの加速で脱炭素と安定供給、経済成長の同時達成を目指すが、その趣旨通りに機能するかは今後の詳細設計次第だ。例えばCPでは炭素賦課金や排出量取引(ETS)の導入を掲げるが、いつからどの程度の炭素価格が課されるかは不透明だ。さらに同賦課金の徴収や、ETSの有償排出枠割り当てなどは新設の「GX推進機構」が担うが、CPの根幹を受け持つ同組織の体制はまだ明らかではない。

衆院本会議でGX推進法案の趣旨を説明する西村康稔経済産業相(3月9日、提供:朝日新聞社)

原子力に関しても、炉規法改正で「運転期間最長60年」の規定は外れるが、GX基本方針では他にも、東海第二や柏崎刈羽など新規制基準をクリアした原子炉の早期再稼働や、廃炉を決定した原発敷地内での次世代革新炉への建て替えを掲げる。しかしその具体化は、今改正案の範疇ではない。

足元の化石燃料価格は一時の水準と比べれば落ち着いているものの、依然ボラティリティは拡大傾向にある。「安全が大前提ではあるが、原子力を早く再稼働できるような体制を取ることが安定供給に対して一番効果が大きい」(電気事業連合会の池辺和弘会長)など、基本方針の着実な実施を求める声が挙がる。

今後、日本が開催するG7(先進7カ国)サミットや、第7次エネルギー基本計画の議論開始が予定される中、今国会の審議は、これらにつながる第一歩として重要な意味を持つ。放送法の政治的公平性を巡り高市早苗・経済安全保障担当相への追求が激しさを増しているが、これ以上の国会の怠慢を許してはならない。

G7サミットの焦点 欧米が石炭火力全廃迫る?

4月中旬のG7気候・エネルギー・環境大臣会合を巡っては、日本が提案した共同声明原案で石炭火力全廃時期に触れなかったことが、他6カ国の批判を招いたとの一部報道があった。ある政府幹部は「日本は従来の方針を堅持し、欧州のように安易に過大な目標を掲げる考えはない」と強調する。

実際、西村明宏環境相は3月17日の閣議後会見で、共同声明案の内容は調整中としながらも、①2030年に向けた非効率石炭火力フェードアウト、②50年に向けた水素、アンモニア、CCUS(CO2回収・利用・貯留)などを活用した火力の脱炭素化―という従来方針を改めて説明。「G7のみならずG20、そして世界各国と同じ方向を向いていかなければならない」と、現実に即したトランジションの必要性を訴えた。岸田文雄首相が欧米の圧力に屈せず、日本の方針への理解を求める外交に徹することを期待したい。

【マーケット情報/3月31日】原油上昇、減産見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、イラクからの出荷減少の見通しを背景に、主要指標が軒並み上昇。特に米国原油を代表するWTI先物と北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比6.41ドルと4.78ドルの急落となった。

国際商業会議所の国際仲裁裁判所は、イラク政府の承認を得ないまま、イラク北部・クルド人自治区からトルコ・ジェイハン港へ原油を輸出することは違反であると判決。1973年に定められたトルコとイラクの二国間協定に反するものであるとした。これを受け、トルコは、クルド人自治区からの日量40万バレルのパイプライン出荷を停止。同自治区のシャイカン油田における一部生産も停止することとなった。

また、サウジアラビアやイラクなど、OPECプラスの主要生産国8カ国は2日、5月から2023年末にかけて、日量116万バレルを追加で減産すると発表した。 一方、フランスでは労働争議が続いており、複数の製油所で依然稼働が停止している。ただ、価格の下方圧力には至らなかった。

【3月31日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.67ドル(前週比ドル6.41高)、ブレント先物(ICE)=79.77ドル(前週比ドル4.78高)、オマーン先物(DME)=77.79ドル(前週ドル2.61高)、ドバイ現物(Argus)=77.87ドル(前週比ドル2.81高)

世界の頂点を知る男が復帰 勝利目指し経験を還元する


【ENEOS/野球部】田澤純一

2008年の都市対抗野球では、新日本石油(現ENEOS)のエースとして全5試合に登板。1完封を含む4勝を挙げチームを優勝に導き、MVPにあたる橋戸賞を獲得した。その後は米国のMLBに渡り、13年のワールドシリーズ制覇にも貢献した。昨年9月に14年ぶりとなるENEOS復帰が決まり「野球の技術だけでなく、社会人としての立ち振る舞いなど、多くのことを学ばせていただいた」と、ENEOSでの活躍を改めて誓う。

世界を知る自身の経験をチームに還元する(提供:ENEOS)


05年の入社当時は根岸製油所で勤務。MLB挑戦にあたってもENEOSのサポートが大きかったと感謝を述べる。同社の米国拠点が支援を行い、会社関係者の多くがワールドシリーズの応援に駆け付けた。20年の日本球界復帰後、台湾、メキシコと各国のリーグを渡り歩いた際にも、同社とのつながりは続き「台湾やメキシコでも、それぞれの拠点の方にお世話になった。いつもサポートしていただき、私の野球人生になくてはならない存在」と話す。


現役を続ける中で、ENEOSに復帰することになったきっかけは、恩師・大久保秀昭監督の誘いだった。同氏は在籍当時の監督であり、慶応大学野球部監督を経て20年シーズンから再び指揮を取る。「MLBに送り出してくれたENEOSで、もう一度野球ができることは非常にありがたい」と古巣に戻ることを決意。36歳という年齢を感じさせない球威は健在で、若い投手陣の多い野球部でもひときわ大きな存在感を放つ。世界の頂点を知る男は「選手としてしっかり準備を行い、チームメイトから相談された場合はきちんと答えていきたい」と自身の豊富な経験を野球部に還元する。今年の野球部は都市対抗の連覇、日本選手権優勝に向けて貪欲に勝利を狙う。自身も選手として「一球一球を大事に投げて、1アウトをしっかり積み上げて、少しでもチームに貢献したい」と役割を全うする意気込みだ。


現在、同社広報部企業スポーツ室に所属。自身を成長させてくれた社会人野球へ恩返ししたい気持ちも強い。「ユニフォームの胸にある企業名のために頑張り、勝つことで会社の人が喜んでくれる」と企業スポーツの良さを語り、「当事者だけでなく、ベンチ入りがかなわなかったメンバーを含め、チームの皆が集中している雰囲気が魅力」と話す。負けたら次はない一発勝負の世界で、一投一打にかける選手の思いをファンに伝えるため“世界のタズ”が社会人野球全体を盛り上げる。

たざわ・じゅんいち 1986年生まれ。神奈川県出身。2005年新日本石油(現・ENEOS)入社。08年都市対抗野球大会で橋戸賞(MVP)を獲得。09年MLBボストン・レッドソックス入団。13年のワールドシリーズ制覇に貢献し、22年9月、14年ぶりにENEOS野球部に復帰を果たす。

次代を創る学識者/磐田朋子・芝浦工業大学副学長環境システム学科教授


持続可能なエネルギーシステムの在り方を一貫して模索してきた。
ロシア発の危機が続く中、多様なアプローチで研究を深化させていく。

小学生で湾岸戦争のニュースを目の当たりにし、石油を巡り戦争が起きている現実に衝撃を受けた。いつの時代もエネルギーが戦争の発端になり得る中、資源のない日本は持続可能なエネルギーをどう確保すべきか―。磐田朋子・芝浦工業大学教授の研究の根底にはこうした問題意識が流れている。
学生時代、所属研究室の主流は化石燃料分野だったが、再生可能エネルギーの中でも暮らしに身近な廃棄物発電のライフサイクルアセスメントを研究テーマに選択。生ごみの処理から発電利用、メタン発酵の廃液から作る液肥の農業利用など、システム全体の導入可能性を検討した。結果、新システムを実装する上では「特に需要サイドの視点から最終的な利用形態まで考え、全体の最適化を図ることが必要だ」と痛感した。
その後所属した研究機関では、分散型システムを組み合わせて自給率最大化を目指す研究など、民生部門にフォーカス。東日本大震災後の電力需給ひっ迫局面では、独自予測を基に予備率が3%を切った際、約60自治体を対象とした節電要請にも取り組んだ。
現在はデマンドレスポンス(DR)や、行動変容を促すナッジなどにも研究範囲を広げる。「工業大学=技術開発のイメージだが、普及するためには合意形成や心理学の研究も重要。民生分野の課題を広い視点から解決するアプローチが求められている」と指摘する。

屋根上太陽光拡大は急務 「脱炭素先行地域」にも関与

一貫して化石燃料偏重への危機感を持つが、日本でのメガソーラーは景観問題や地域共生、生態系への影響といった面から、将来にわたって持続可能とは言い難い。建物や農地など、管理できる範囲内で再エネを拡大すべきとの立場だ。補助金施策の効果は限定的と捉え、改正建築物省エネ法での新築への省エネ基準適合義務化や、東京都の新築住宅への太陽光設置義務化条例のような規制強化が必要だと説く。「パネル設置では耐震性能の問題が大きく、規制強化で一定の改善が見込める。他方、化石燃料高騰傾向も考えれば、規制強化しにくい既存ストックへのアプローチが喫緊の課題だ」と強調。引き続き心理・行動学的手法とハード対策を駆使し、DRの効果最大化や、開口部の断熱性能向上、家庭にパネル設置を促すための研究などを進めていく。
環境省の「脱炭素先行地域評価委員会」委員も務める。現在第三回を募集中で、回を重ねるごとに、持続的なビジネスを成立させる意識の高まりを感じるという。実は芝浦工大も、さいたま市や埼玉大、東京電力パワーグリッドとの共同計画が先行地域に選ばれた。芝浦工大は実験設備が多く、校舎の新設も予定するが、磐田教授のこれまでの研究成果を生かし、実験などの質を落とさずに電力需要の実質CO2フリー化を目指す。
2月1日には同大初の女性副学長に就任。社会的重要性が増す研究の深化に加え、学内のダイバーシティーけん引への期待もかかる。

いわた・ともこ 2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻博士取得。同研究科助教、建築研究所、科学技術振興機構低炭素社会戦略センターを経て、17年から芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科に着任。

【マーケット情報/3月24日】原油反発、景気と需要の回復期待が広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。景気の回復期待と金融不安の緩和から、買いが優勢だった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げの終了を示唆したことから、景気と需要の回復期待が広がった。また、米シリコンバレー銀行の破綻に始まった金融不安に対し、主要経済国の中央銀行がドル供給の拡充で合意するなど、緩和策を打ち出したことも強材料となった。欧州では、スイスの大手投資銀行UBSが、経営不安にあったクレディ・スイスの買収で合意に至ったことも、市場は好感した。

他方で、クウェート西部における原油流出も材料視された。国営クウェート石油会社(KOC)は、生産への影響はないとしつつも、非常事態宣言を発した。

一方、米エネルギー省長官は、年内の戦略備蓄への補充は困難との見通しを示した。米政権は補充の方針を示していたが、施設の改修作業が補充開始の障害となっている。また、米原油在庫は2021年5月以来の高水準に至るなど適正水準を上回っているが、油価への影響は限定的だった。また、フランスでは、労働争議の影響で複数の製油所が停止したが、油価の下方圧力には至らなかった。

【3月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.26ドル(前週比ドル2.52高)、ブレント先物(ICE)=74.99ドル(前週比ドル2.02高)、オマーン先物(DME)=75.18ドル(前週ドル0.25高)、ドバイ現物(Argus)=75.06ドル(前週比ドル0.14高)

【メディア放談】続・電力業界の不祥事 問題続出で「最大のピンチ」か


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

大手電力の一連の不祥事問題は収まるどころか拡大する一方だ。

電力システム改革10年の節目に、業界は最大のピンチを迎えるのか。

 ―大手電力の一連の不祥事問題は全く収まる気配がない。むしろ次々に新たな事実が発覚している。

石油 石油業界は電力より早く再編が進み、かつて不正問題でもエネルギー業界内で真っ先に突き上げられた。翻って今、電力は四面楚歌だろう。談合は許されない時代に変わり、特に厳しく追及している読売の記事には記者の怒りを感じる。ただ他紙からは、エネルギー危機ほどの熱量は感じない。

―一連の不祥事が電力業界最大のピンチとなるかもしれない。

ガス というか、自らまいた種だ。電力システム改革第一弾の施行から10年という節目にうみが出た。総括原価時代から見直さなければならなかったことが、経営全体で徹底できていなかった。閲覧した情報を営業に使ったと指摘されたのは今のところ関西電力だけだが、今後他社でも発覚する可能性がある。ただ、強力なライバルが存在しない地方電力がなぜ不正閲覧をしたのかについては、クエスチョンが残る。

石油 システム改革のうみについて、有識者のコメントを用いてビシッと指摘するような記事を期待しているが、これまで政策議論に関わってきた有識者が自らの意見を否定することは難しいのだろう。

電力 電力のコンプライアンスが徹底されてこなかったことは問題だ。他方で自由化以降、大手電力の体力を削るような政策が次々実施され、燃料高騰局面では電気を売れば売るほど赤字でも耐えてきたと言う側面もある。ようやく規制料金値上げを各社が申請したものの、持続的に電気事業を営んでいくために必要な設備投資を行えるような環境整備が必要だ。この点について、政府には不祥事問題とは別の議論として進めて欲しい。

問題の余波どこまで エネ業界全体にも影響か

石油 一方、電力の規制料金値上げ申請に関する公聴会が各地で開催されているが、四国電力の公聴会では意見陳述人がゼロだったね。消費者にとって値上げは腹立たしいはずだが、新聞の投書欄でも批判する内容は意外と見当たらない。

ガス 地域間の電気料金格差を指摘する記事も出てきた。ほかの公共料金と比べて、これまで電力の内外価格差はほぼなかったが、今後は差が拡大していく。一般紙も、電力会社ごとの個別事情を踏まえた分析記事をもっと書くべきだ。

マスコミ 東京電力ホールディングス(HD)にメガバンクが4000億円の緊急融資を実施する件だが、昨年からHDはエナジーパートナー(EP)の増資を計5000億円を引き受けたのだから、この対応は当たり前。EPの経営問題とHDの資金繰りの話について、日経などは冷静に報じるべきだろう。いずれにせよ各電力の資金繰り問題が今後表に出てくる。業界でくくらずに各社の状況を掘り下げることが重要で、中でも東電の経営計画に注目している。

―電力の不祥事問題は、今後どのような展開が予想されるだろうか。エネルギー業界全体への波及もあり得るか。

石油 依然、エネルギー危機は続いている。東洋経済の特集は力が入っていて、国内外のさまざまな著名人にインタビュー。その中でサハリン2の停止リスクとガス危機長期化に警鐘を鳴らす記事がある。そんな状況下で今後、ガスにまで不正問題の影響が飛び火してしまうと、安定供給上のリスクが高まってしまうのではないか。

ガス 電力の不祥事問題の解明は途中経過で、不正閲覧の規模がどこまで広がるか。また中部電力と東邦ガスのカルテル問題も年度が明ければ表に出てくる。ガス業界も無関係ではいられない。

マスコミ 与党議員からはエネ庁にシステム改革の非を認めるよう迫る声も出始めた。電力・ガス事業部長はこれまで電気事業連合会の社長会に出ていたが、カルテル問題発覚後は出席しないようになった。また、アンバンドリングが徹底できていないことや、不祥事があっても電気事業法上の業務改善命令発出しかできないなど、さまざまな問題が表面化した。これらをまとめて検証する場が今後設定されるだろうが、いずれにせよ電力有利の改革とはならなそうだ。

ガス そこで問われるのが業界紙の立ち位置。業界のことを一番知っている。電気新聞の報道は業界に遠慮しすぎ。起きていることについては、忖度せず客観的に報じる姿勢が必要だろう。

―電気新聞にせよガスエネルギー新聞にせよ「プラウダ」や「人民日報」になってはいけないな。小誌も自戒しないと……。

高浜4号の緊急停止 PWR稼働への影響は

―ところで1月末、原子炉格納容器外で中性子の急減を検出したとして、高浜4号が自動停止した。政府の原子力政策のてこ入れに水を差さなければよいが。

電力 関電が原子力規制委員会に今回の理由を報告した後、規制委がどう対応するかによる。悪い言い方をしようと思えばいくらでもできる。現規制委員長らは以前のメンバーほど変な物言いはしない印象だが、どう出るかな。

マスコミ 情報があまり出てこなかったので、メディアも書きにくかった。今後については、規制委は基本横展開させるので、対応が決まった暁にはPWR(加圧水型炉)全てで実施するだろう。下手をすればPが一斉に停止する事態もあり得るよ。

電力 関電は福井県の使用済み核燃料の県外搬出問題も抱えている。今年中にけりをつけなければ、美浜3号、高浜1、2号が停止する。6月の青森県知事選は、むつ市長の宮下宗一郎氏有利との見方もある。もちろんまだ勝敗は読めないが宮下氏が勝った場合、青森の原子力事業はより対応が難しくなる。

―原子力問題は引き続き楽観視できないな。

マーケットの歴史から学ぶ リスクマネジメントの重要性


【リレーコラム】野澤 遼/enechain代表取締役

 新卒で電力会社に入ってから20年近くが経つ。その間、電力会社、トレーダー、コンサルタント、そしてenechainを創業してからはマーケットの運営者として、一貫してマーケットと相対する仕事に携わってきた。

ジェットコースターのような20年だった。歴史を振り返ると、2008年にWTIが最高値を付けたかと思うと、リーマンショックで価格は5分の1近くに急落した。11年の東日本大震災直後にはLNGを買いあさったが、再エネ導入が進むと余剰に苦しんだ。COVID―19以降はJKMが2ドルを割ったが、ロシア侵攻以降は燃料価格が現在進行形で暴騰している。ブラックスワンは思ったよりたくさんいるなというのが率直な感想だ。

マーケットは分からない。だからこそ痛感するのは地に足のついたリスクマネジメントの重要性である。私は米国の資源商社でPJMなどの電力トレードに携わったが、米国の電力実務の現場ではEarnings At Risk(EaR)に代表されるリスクマネジメント手法が驚くほど浸透している。EaRだけでは不安だからモンテカルロなどでストレステストも実施する。ボラタイルな市況では、トレーダーとリスクマネージャーがアカデミックな理論を交えて喧々諤々と議論する。ヘッジの考え方も浸透しており、四半期決算ではCFOが自社のヘッジポリシーやヘッジ状況を資本市場に向けて発信するのが一般的だ。

恒常的なリスクヘッジが必須

翻って日本の電力取引の現場はどうか。20年初のスポット高騰を機にリスクマネジメントの重要性を認識した会社は多いが、喉元すぎれば熱さを忘れるよろしく、足元のスポット価格が下がればヘッジをしなくなる会社はまだ多い。米国時代に聞いて忘れられないのが「アメリカですらリスクマネジメントカルチャーが浸透するには10年かかった」という言葉だ。日本は自由化してまだ日が浅いのだから、こうなるのも当然といえば当然だ。

先日、eScanという自社が抱えるリスク量を捕捉できる、日本では初となるリスクマネジメントシステムをリリースした。加えて、enechainは日本最大のヘッジマーケット運営者として流動性を提供し、ヘッジ取引によりリスクをマネージするところにも強くコミットしている。「日本に真のリスクマネジメントカルチャーを根付かせたい、そのために大きなマーケットをつくりたい」とenechainを創業して4年、カルチャーの浸透に向けてようやく一合目。米国で聞いた言葉を胸に、残りの人生を懸けてこの取り組みを続けていきたい。

のざわ・りょう
東大経済学部卒、ペンシルバニア大経営大学院卒。関西電力、資源商社を経て、ボストンコンサルティンググループでエネルギー企業向けトレーディングやリスク管理などのコンサルティングに従事。2019年にenechainを設立。

※次回は東北電力エナジートレーディングの和泉高宏さんです。

【関 芳弘 衆議院 経済産業委員会 筆頭理事】「原子力、正面から真剣に」


せき・よしひろ 1989年関西学院大学経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入社。2005年9月衆院初当選(兵庫3区)。13年自民党副幹事長、14年経済産業大臣政務官、15年英国国立ウェールズ大学経緯英大学院修了(MBA取得)。16年環境副大臣、18年経産副大臣を経て、22年10月から衆院経済産業委員会筆頭理事。

「人のためになる仕事を」と政治を志し、環境副大臣、経産副大臣などを歴任。

エネルギー問題解決のため、環境対策と経済合理性の両立に奔走する。

徳島県で生まれ育ち、「人のためになる仕事がしたい」と政治を志した。関西学院大学在学中、松下政経塾に合格。卒業後は政治の世界に飛び込もうとしたが、そんな自身を諭したのは、魚市場で長年働き続けた父の言葉だった。「『政治家になりたいのなら、汗を流して働く人の苦しみや涙が分かる人間になってからだ』とカミナリを落とされた」。住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、融資・外回り業務などを経験した。

「銀行に勤めた理由は、経済を一番知ることができる業界だったから。世界経済のひずみから戦争は始まる。経済を安定させる政治家になりたいと思っていた」。企業と対話を重ね、彼らが融資を求めて何をしたいのか、金融的流通の側面から経済の在り方を学んだという。「問題解決のためには、システムの整合性が重要。いかに論理的に競争に勝ち抜く体制を作り上げていくか、それを考えるのが好きだった」と銀行員時代を振り返る。その後は、住友銀行とさくら銀行の合併対応にも奔走。17年間にわたるサラリーマン生活を送ったのち、2005年9月の衆議院選挙に兵庫3区から出馬、初当選を果たした。

13年には自民党副幹事長に就任。以降は経済産業副大臣や環境副大臣などを歴任し、22年10月に衆議院経済産業委員会の筆頭理事に就いた。経済の立て直しや経済安全保障対策で存在感を示し、特にエネルギー問題には「原発の再稼働について、1期生の時から長く力を入れて取り組んできた」と話す。22年12月には、岸田文雄首相がGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、東日本大震災以降停滞していた原発の建て替えや稼働延長について言及した。これを踏まえて、エネルギー全体における原子力の電源比率を、第六次エネルギー基本計画にある目標数値の20~22%まで進める必要があると説く。福島第一原発の事故対応や高レベル放射性廃棄物の最終処分など問題は山積しているが、「原子力発電は、われわれにとって正面から真剣に取り組まなければいけない課題」と解決に全力を尽くす姿勢を示している。

世界各国と日本のエネルギー事情の違いについては、元銀行勤務の視点から「エネルギー問題に関して、日本ほどオブリゲーションのある国家はない」と指摘。他国へのエネルギー依存度が高い日本の現状を危惧している。他方、欧州のような安定した風力、遠浅の海岸がなく、広大な太陽光適地もない日本が、過度な再生可能エネルギーにかじを切る政策はすでに限界にきていると警鐘を鳴らす。「日本には再エネを生かす環境があまり残っていない。水素や合成メタン技術に目を向けたいが現状は割高で、今後はエネルギー単価をいかに下げていくかが重要だ」。環境問題解決と経済合理性の両立を目指すことで、世界と競争の舞台に立てると主張する。

エネルギーミックスの重要性を実感 原子力活用で踏み込んだ提案を

エネルギー確保の重要性については「日本と資源国が、政治的に親密ではない場合もある」と分析。資源国自身が政情不安定な場合の問題もあり、自国にエネルギー資源がない日本は、電力の安定供給には再エネと火力、原子力のエネルギーミックスが重要だと話す。「エネルギーミックスを達成した後は、S(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)から外れない形で、環境に配慮した比率へと変化させていくのが望ましい」。党内でも再エネと原子力の比率についてはさまざまな意見があり、調整や議論を深めたいという。

一方で、原子力の活用は地域住民の心情などに配慮が不可欠と指摘。使用済み核燃料の最終処分地選定など、自治体側から手を上げにくい政策に関して国が責任をもって主導するべきだと話し、「経済産業委員会の筆頭理事として政府の法案に対応していく。政府には原子力活用に関して一歩踏み込んだ提案をしてほしい」と期待を寄せる。

エネルギー問題解決のために、自民党内や国会で議論を重ねる毎日だが、根底には「愛と緑と商売繁盛」という自身の基本理念がある。人を愛する心と緑を慈しむ気持ちを大事にして、国を豊かにするために、古い制度を改革する必要があると話す。この理念は環境副大臣、経産副大臣の際にも生かされ、自身の政治人生の礎となっている。

現在は職務もあり余暇が取れない状況ではあるが、中国戦国時代に活躍した将軍「楽毅」 についての小説を愛読。考え方に共感を覚えたという。奸計により国を追われた楽毅が、亡命をとがめる王の手紙に対し、国への変わらぬ忠節を示した「報遺燕恵王書」は、三国志の諸葛亮孔明も尊敬する名文と言われている。「責任ある立場になって、国のために自身がどうあるべきかを考えるようになった」。組織の中で責任を持ち、戦略を考え、国を支えるために汗をかき続ける。

【需要家】消費者の行動変容 情報提供進化に期待


【業界スクランブル/需要家】

厳冬期を迎え、各社の節電チャレンジへの取り組みが活発化している。本誌2月号特集「家庭用エネルギーの新潮流」ではゲームや競争原理を生かした情報提供の事例が紹介されており、取り組みの進度は事業者によって濃淡がありそうだ。情報提供の方法、内容、タイミングは消費者の行動変容に与える影響が大きいと感じる。

SNS全盛時代に、メール配信だけでは節電アナウンスに気付いてもらえない懸念がある。また節電行動は金額換算にすると少額で大きなインセンティブになりにくく、社会規範に訴える、またはランキングで競争を促すなど、行動してもらうための工夫も必要である。

将来的にはAI(人工知能)の発展も情報提供の在り方に大きな影響を与えそうだ。「Chat GPT」という話題のAIチャットでは、こちらからのさまざまな問いかけに対し、AIを活用して自然な回答が生成される。例えば、「カーボンニュートラル実現に向けた需要家の役割は?」と聞くと、「環境に配慮した選択をする:需要家は、環境に優しい製品やサービスを選ぶことができます」といったように、違和感のない回答が返ってくる。

今後は消費者に一方通行で情報を提供するだけでなく、節電、設備購入などにおいてAIと双方向でやり取りを行う時代が来るのかもしれない。またAIによる学習機能を活用して、情報提供の内容もより精緻化、パーソナライズ化が進むと思う。

このような情報入手に慣れてしまうと、情報の真偽を疑うことや、自分で考える習慣が希薄化する懸念はあるが、それ以上に技術進歩に対する大きな可能性を感じている。事業者のノウハウ蓄積と技術活用により、エネルギーに関わる情報提供の大きな進化に期待したい。(K)

【再エネ】供給側から需要家側へ 取り組み活発化


【業界スクランブル/再エネ】

最近、企業による再生可能エネルギー活用に関するCMや記事を見る機会が増えてきた。以前は太陽光・風力発電などの製造や設置を行う企業のPRが多かった気がするが、このところ大型ショッピングセンターや大手コンビニチェーン、不動産会社、保険会社など、再エネ使用側の取り組みが目立っている。

現在の再エネ導入に関する動向は、以前の「供給側主導」から「需要側主導」に大きくシフトしてきているように感じる。新エネルギー財団が実施する「新エネ大賞」においても、数年前からイオンや東急不動産、三井不動産、ヒューリックなど需要側企業の再エネを活用した取り組みの受賞が目立っている。具体的には、自社使用電力の100%再エネ化を目指す取り組みはもちろんのこと、FIT(固定価格買い取り制度)終了後の家庭用太陽光発電の電力買い取りやPPA(電力購入契約)による再エネ導入、証書による賃貸ビルの再エネ化など、さまざまな形で再エネの活用に取り組んでいる。

また、世の中でたくさん電気を使用していると思われがちな業界が顕著な取り組みを始めており、代表例の一つが24時間営業のコンビニである。いつも明るい照明、店舗内の大型冷蔵庫などは大量電力消費の象徴のように感じている人も多いと思う。そのコンビニが昨今、非常に頑張り、店舗屋根上への太陽光発電の設置やオフサイトPPAなどによって、店舗電力の100%再エネ化を目指している。 その他にも、大量の電気を使用する鉄道会社などでも、自社の再エネ施設の環境価値を高めるため非化石証書を活用するなど、積極的な再エネ化が進んでいる。今後も需要側企業の工夫を凝らした再エネ導入に期待したい。(K)

【コラム/3月23日】混迷の電力システム改革~情報漏洩問題にみる自由化固執の人々


飯倉 穣/エコノミスト


1,電力改革の行き詰まり
 電力システム改革は、昨今電力販売に熱心な営業マンを生む一方、電力供給不安もばら撒いている。21年1月の電力卸価格の高騰・需給逼迫懸念以来、22年6月電力需給逼迫注意報、そして晩秋、冬季の電力需給逼迫警戒・節電を再度呼びかけた。
 節電に追われる越冬中に、電力事業者の倫理を問う情報漏洩(不正閲覧)問題が発覚した。この事案を受けて電力供給システムを混迷する動きも登場する。報道は伝える。「不正閲覧「大手電力に蔓延」送配電部門「所有権分離を」有識者会議 政府案目指す」(朝日23年3月3日)、「小売・送配電の資本分離案 電力不正閲覧巡り有識者会議 実現にはハードル高く」(日経同)。
提案は、迷走する現電力システムの合理的な見直しでなく、電力自由化の不都合を更に助長すると思われる。情報漏洩と電力システム再改革を考える。


2,不正閲覧は、現行法での対応問題、競争浸透の副産物 
 情報漏洩は、商道徳と公正競争問題である。電力託送業務で知り得た新電力の顧客情報を、閲覧可能な電力側の社員・委託先が閲覧し、営業に活用すれば不正である。
 電力・ガス取引監視等委員会が、報告徴収したところ、大手電力10社中7社で情報閲覧があり、顧客対応や一部営業に使用されたことが判明した。営業用に使用する行為は、電気事業法(23条等)で禁止されている。一般送配電事業者は、顧客情報を託送供給及び電力量調整供給業務(及び再エネ特措法の業務)以外に提供できない。当該規定は送配電事業者の中立性の確保を図る趣旨である。違反があれば、経産大臣が、行為の停止・変更命令、業務改善命令を行う。命令違反となれば罰則・罰金である。
 故に今回の情報漏洩(一部不正閲覧)問題は、現行法で対応可能である。今回違反行為ありの前提で、さらに厳罰を求める声もあるが、現行制度を考慮すれば、制度変更は不要である。また情報漏洩が、競争の視点でもし不公正取引なら、独禁法の適用(2条9項)もある。現実の行為を調査し、違反する行為があれば、現行法で適正に処分すれば十分である。
 皮肉となるが、現状は、電力システム改革(自由化)の狙い通り、販売面で自由化浸透中ということであろう。電気の商品化を前提とする販売競争が認められる(安定供給上問題続出だが)。経験論で言えば、日本における競争市場は、しばしば販売・収益獲得のために様々な局面で適法行為のみならず、脱法行為もあり、また行き過ぎで違法行為も見られる。この意味で電力業界は競争状態になっている。
問題があるとすれば、改革後の法体系・制度が、電力の供給不安を出現させたことである。

3,再エネタスクフォース提案の「罰則強化と所有権分離」は不要
この事案を受けて、再生可能エネルギー等規制等総点検タスクフォースは,公正な競争の確保というお題目で提言を行った(23年3月2日)。
概述すれば、不正閲覧は、発送電分離の基本要件が確保されず、公正な競争を揺るがしかねない。現行法令上の事業許可・登録の取り消しなど厳正な処分を行い、改めて公正な競争環境の整備を目指し、行為規制の強化や所有権分離を含む構造改革を実施すべきである。
具体的には第一に現行法令で、真相の徹底究明、厳正な処分の実施、第二に今後の制度改正で、行為規制の抜本的強化、罰則の強化、行政上の制裁のさらなる強化、電取委の権限強化と組織拡充、更なる送配電事業の中立、所有権分離の実現を求める。
その意図は様々あろうが、提案は、自由化後の電力システムの欠陥を無視した「どさくさ紛れ」か「火事場泥棒」的である。現行規程を徒に搔きまわしても混乱するばかりである。電力供給の安定・低廉の視点か見れば、有識者の提案を離れて基本に戻り、改革後の電力システムの再検討・再考が必要である。


4,不祥事が適切な対応を歪めることに留意
提案の動きを見ると、1990年代の経済金融混乱への対応や思い付きの構造改革が思い出される。現在の雇用不安定・経済の停滞は、90年代の対応不首尾の延長にある。国民感情・マスコミ誘導に煽られた一連の金融問題処理等である。政府(行政)、政治、エコノミスト等は、「バブルの結末でほとんど真実を無視し、崩壊の原因を別の要因に見つける行動に走った」(ガルブレイス「バブルの物語」参照)。
ゼロ成長経済を直視せず、需要崩落・過剰能力の実態を把握できず、また金融問題に抜本的に取り組まず、経済不振打開(バブル崩壊後)を、内外格差・高物価構造・日本型システムに求め、構造改革旗印の市場崇拝の規制緩和・中央省庁嫌気の地方分権を崇めた。構造改革お題目の電力システム改革もその一つである。
そして政治家・官僚・企業・民間金融機関の不祥事が、報道の煽りを招来し、国民感情を突き上げ、金融問題処理の時期・方法を歪め、構造改革信奉となった。いつの世も不祥事は、物事の処理を歪める。
 今回の事案は、情報漏洩という不祥事で、電力自由化論者が、これを奇貨として、電力システム改革の不都合をさらに混迷の方向に誘導している。不祥事を起こしたサイドへの厳正な対応は、対応として行い、有識者の有識程度を勘案して、他の問題に拡散させないことが重要である。


5,議論すべきは、電力自由化による供給不安定
繰り言になるが、電磁気学・経済学の論理から、電力自由化という市場任せは、ここ数年の軌跡から明らかなように非合理的で電力需給を混乱させている。
自由化は、市場競争で効率を上げ、安い電力の安定供給可能を喧伝し進められた。電力供給不足や停電が起きても市場が、価格変動で、供給投資や節電を促し、需給調整する。競争による効率化で電気料金が下がる。卸電気市場等を整備すれば、誰でも供給・販売に参加可能で消費者に利益をもたらすと、論者は強弁した。
結果は、「あなたに合った電気を選べる時代」と同時に「電力供給の不安定、価格のボラテイリテイ、輸入エネルギーへの適応力低下、そして需要家の戸惑い」という事象である。安定供給の要となる投資は生起しなかった。そして自由化された市場は非効率で、国監視・管理の市場・事業となった。電力自由化は、電力システム国有化現象であった。そしてある意味で企業理念の蒙昧、経営不在、従業員のモラル低下を誘発する。
電磁気学等の法則に沿えば、安定性で発送電一貫体制が合理的かつ自然あり、且つ発送電一体の相互連結が、限界費用に基づく発電の効率性を確保するうえで優位である。発送電分離なら、ホールドアップ問題(不確実性)が発生し、リスク回避で過少投資となり、予備力低下を招き、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。発送電分離は、垂直統合の相互連結と発送電のコンビネーションの合理性を無視している。
 電力の安定供給は、電源確保で適切な予備率、適切な電源投資が依然重要であり、ピーク対応の低稼働電源も必要である。それらの投資を回収するため、また安定的な燃料調達には、コスト(固定費・変動費・燃料費)プラスフィー(報酬)の料金が、依然合理的である。


6,基本に戻ろう
 今回の情報漏洩が販売面で公正な競争を歪めるとしたら、当然市場における不正競争は、本来独禁法の問題である。電力システムの特異性から、電気事業法の各規定があるとすれば、その法律の定めに従い、淡々と処分を行えば足りる。
 今回提案のあった罰則・制裁強化、電取委の権限強化(自由化と矛盾するが)、所有権分離等は、電力の安定供給や効率化・価格低廉と関係希薄で、本質論のすり替えである。ある意味で電力システム改革の失敗を糊塗している。今後は、電力供給の安定性向上を目指す視点で提言すべきであろう。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

生活を直撃するエネルギー危機 省エネ深掘りの好機となるか


【多事争論】話題:エネルギー価格高騰と省エネ

昨年来のエネルギー価格急騰がさまざまなもののコストアップ要因となっている。

この危機をばねに家庭の省エネを一段と進めることは可能か。専門家の提言を紹介する。

〈  健康快適で電気代も安心な暮らし 全員に届ける仕組み作りが急務

視点A:前 真之/東京大学大学院 工学系研究科准教授

2022年の家計調査によると、電気ガスなどの光熱費負担は全国平均で年間22万8000円。昨年の19万円から2割の増加となっている。激変緩和措置で一息ついている感はあるものの、4月から電力会社の値上げが相次ぐ中、電気代の負担はますます大きくなっている。

1970年代の石油危機以降、住宅でもエネルギーコストを下げる工夫はさまざまに試行されてきたが、確実に効果があると実証されているのは「断熱」「設備」「再エネ」の3点セットだ。従来はエアコンなど設備の高効率化が重視されてきたが、近年は伸び悩みが顕著。断熱は室内環境を健康快適に保ち空調負荷を減らすために不可欠だが、普及が著しく停滞している。24年前の99年に定められた断熱等級4を満たす住宅ですら、全体の13%にすぎない。最近になり家の寒さが深刻な健康被害をもたらす「ヒートショック」により、ようやく断熱の重要性が認識されつつある。

恐ろしいことだが、日本の住宅ではいまだに最低限の断熱と設備の省エネ性能が義務化されておらず、無断熱でエネルギーを浪費する新築住宅が堂々と販売されている。本来は20年の義務化が閣議決定されていたが、国土交通省の独断で無期延期になっていた。ようやく22年6月の通常国会において25年からの適合義務化が決定したが、「国交省は国民を寒さと電気代の苦しみに放り出した」とのそしりを免れない。

最後の再エネについては、住宅スケールで現実的なのは屋根載せ太陽光発電一択。エネルギー消費と光熱費の削減効果は、3点セットの中でも一番大きい。しかしその普及は依然停滞しており、18年には全5361万戸に対し太陽光有は219万戸、搭載率はわずか4%。新築でも屋根載せ太陽光のゼロエネルギー住宅(ZEH)の割合は、直近の21年ですら戸建の16%、集合の7%にすぎない。

断熱も屋根載せ太陽光も普及停滞 できない言い訳探しは終わりに

普及停滞を打破すべく、東京都が太陽光の設置義務化を打ち出したところ、すさまじい「太陽光ヘイト」ともいうべき罵詈雑言がネット(および一部エネルギーメディア)を中心に吹き荒れた。その多くは、メガソーラー固有の問題や、FIT(固定価格買い取り制度)の買い取り価格引き下げに伴う誤解を、ことさらに吹聴するものである。最近はネタ切れしたのか、シリコン原料がもっぱら生産されるウイグルのジェノサイド問題が、最後のよりどころとなっている。

繰り返すが、太陽光発電ほど住宅で省エネと電気代削減効果が大きく、成熟してコスト競争力がある対策は存在しない。今、世界で問題になっているのは、太陽光パネルのように極めて重要なパーツを一国の一地域に依存してきたリスクであり、間違っても「太陽光発電はいらない」などという話ではない。人権や環境の価値観を共有する陣営内でのサプライチェーン再構築は不可欠であるが、これは個々の自治体や企業ではなく、国、そして世界が連携して対応すべき問題である。

そもそも国交省・経済産業省・環境省合同の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」においては、「30年に新築戸建6割に太陽光設置」の目標が明記されている。さらに国交省の役割として、「住宅・建築物分野における省エネルギーの徹底、再生可能エネルギー導入拡大に責任を持って主体的に取り組む」と強調されている。 東京都の苦闘ばかりが注目されるが、本来率先して汗をかくべきなのは国交省なのだ。

「〇〇を義務化すると家が高くなって買えない人が出る」は、国交省の定番の言い訳。しかし、断熱や太陽光はライフサイクルではむしろ大きな利益をもたらす。解決すべきは、「全ての人にその恩恵を届ける仕組み作り」ただ一つである。例えば新築においては、断熱や太陽光による光熱費の低減効果を収入合算し、住宅ローンの総額を増やせばよい。実際に一部の銀行で始まっている。賃貸においても、性能表示や光熱費目安の表示が有効であろう。住宅に関わる全ての関係者が知恵を出し合い、「できる方法」「できる仕組み作り」にだけ注力すべきである。できない言い訳探しはもうたくさんだ。

地域の人たちが安心して電気を使えるよう、尽力されている電力関係者がたくさんいることは筆者もよく知っている。しかし、「エネルギーは国民の生活を支える」ためにあり、その逆はありえない。GX(グリーントランスフォーメーション)が一部の巨大企業や輸入商社の利権維持で終わってよいはずはない。日本に暮らす全ての人がエネルギーの不安がなく暮らせる、真の脱炭素社会の実現を願ってやまない。

まえ・まさゆき 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。建築研究所研究員、東京大学大学院工学系研究科客員助教授を経て2008年4月から現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学。

【火力】更新でLNG費用減 200億円削減の衝撃


【業界スクランブル/火力】

今冬の電力供給も綱渡りの状況だ。世界的な燃料資源獲得競争激化の影響もあるが、老朽化した火力設備の休廃止が拡大する一方で、脱炭素や電力自由化によって火力投資が進まないことが要因となっている。新規電源の建設は、短期的には大きな経済的負担を伴うためショートポジション中心の自由化市場においては敬遠されがちだが、中長期的には、供給力の確保のみならず経済的にもCO2削減の観点からも大きな効果があることをご存じだろうか。

このほど完成した東北電力の上越1号機やJERAの姉崎新1号機は最新鋭のLNG焚きコンバインドサイクル設備で、熱効率は従来型比3割向上となる約63%(低位発熱量基準)を誇っている。この効果を定量的に示すと、年間の燃料使用量で約20万t、CO2排出量で54万t程度の削減となる。(1基65万kW、利用率70%の場合)燃料費削減効果は、直近のLNG価格1t10万円で計算すると年間200億円にもなり、CO2の削減効果は太陽光発電80万kW相当を建設した場合と同等となる。衝撃的な効果だ。

このように火力の熱効率向上は、エネルギー資源を効率良く使うとともにCO2の排出量抑制の効果もあり、需要側の対策である省エネと同等の効果を発揮する。この効果がユニット1基から叩き出されることを考えると、乾いた雑巾を絞るようだといわれる省エネと比較しても実効性の高い施策といえるのではないだろうか。

確かに、火力新設で今すぐ脱炭素が実現するわけではない。しかし老朽火力設備の新陳代謝を促し、将来カーボンフリー火力への改造を念頭に健全な設備を確保しておくのは大きな意味がある。GXを着実に推進するためには、ライフサイクルを見通した取り組みが肝要だ。(F)

【追悼】故千葉昭氏を偲ぶ~競争時代だからこそ「公益の心」を重視 ライフラインを守る使命貫く


努力と抱負な識見で 進むべき道を示した

四国電力社長を務められた千葉昭氏が1月12日、亡くなられた。

的確な判断と行動力は、四国地域を超え大きな存在感を発揮した。

「千葉さんはわが社の『太陽』でした」―。四国電力会長の佐伯勇人氏は、師とも仰ぐ元上司を万感込めそう追悼した(1月17日付電気新聞)。親分肌で気さくな人柄だけではない。同社員約4000人の多くの顔と名前を覚え込むといった人知れぬ努力と豊富な識見は、同社のみならず広く電気事業と地域発展に向け「切れ味の良い判断」となり「進むべき道を的確に示し」(佐伯氏)ていった。

千葉昭氏は、1946年香川県生まれ。実家はお寺で自身僧籍を持っていた。69年に京大経済学部を卒業し四国電力入社。2000年取締役、03年常務、05年副社長を経て09年社長に就任した。15年会長に就き、同年四国経済連合会会長に。19年相談役に退いた。

この間、企画を中心に営業、総務、燃料各部門から原子力本部、情報通信本部まで幅広く経験。周囲は「リーダーシップがあり上位者とも臆することなく渡り合い、対人能力に長けていた。いずれ会社を背負って立つ人」と一目置いていたが、高松支店長時の98年2月、電力マン人生の節目となる出来事に遭遇する。18万7000Ⅴの坂出送電鉄塔倒壊事件(未解決)だ。高さ73mの鉄塔台座部分のボルトが抜かれ停電被害などをもたらした特異な事件は、復旧の現場責任者として「苦い思い出」となった。それでも100日間という短期間での復旧を果たし、やがて社内の語り草となっていく。

ライフラインを守る電気事業の使命を改めて確認した千葉氏は副社長時広報部門も担当、電力自由化時代到来から事業の効率性を追求する一方で、CSR(企業の社会的責任)を重視し企業のマイナス情報を出すことにためらうなと社員に呼び掛けた。競争時代だからこそ事業の公益性にこだわった。

その姿勢は社長就任2年目、11年2月末に発表した長期ビジョン「しあわせのチカラになりたい。」に表れている。ほっこりした平易なビジョン名、またグループ共通の価値観として「公益の心」を盛り込み、低炭素など時代の変化に対応する道筋を示した。

しかし3・11後の困難な情勢はエース電源、伊方発電所を停止に追い込み、需給と収支は一挙に緊迫。再稼働に向け全戸訪問や原子力本部を松山市に移転させるなど、先頭に立って指揮し奔走した。再稼働と料金値上げ問題が差し迫る中、茂木敏充経産相(当時)との差しの場面では、発送電分離の電力システム改革への協力を強く迫られた。

懸案への対処を通じ千葉氏の存在感は高まった。相談役に退いてからも新幹線の実現などに力を注ぎ、「元気を与えてくれる」(佐伯氏)人となりは、危機の時代にこそ必要とされていた。信条とした公益の心、改めてかみしめたい。

文/中井修一 電力ジャーナリスト