【記者通信/7月28日】「脱炭素電源入札」に既存原発 巨額の安全対策費確保へ


原子力事業者の投資予見性を確保する動きが加速している。経済産業省は7月26日、原子力小委員会を開催し、巨額の安全対策投資を念頭に「長期脱炭素電源オークション制度」の対象に既存原発を盛り込む検討を開始する方針を示した。このほか、4月に閣議決定した「今後の原子力政策の方向性と行動指針の概要」(行動指針)を巡って、活発な意見交換が行われた。

巨額の安全対策費回収へ 反対意見や課題も

長期脱炭素電源オークションは脱炭素電源への新規投資を対象に国が実施する入札制度で、2024年1月の初回応札に向けた準備が進んでいる。応札された電源には、建設費や人件費など固定費の収入を原則20年間保証することで、収入の予見可能性を付与する。

原発の再稼働に当たっては、巨額の安全対策投資を回収するための予見可能性の確保が課題となっていたが、その扱いについては整理されていなかった。そこで行動指針では「国による安全対策投資に資する予見可能性確保など事業環境整備の検討」を盛り込み、GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法の成立に伴い改正された原子力基本法でも、安全性確保の投資を念頭に「安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」を講ずるとしていた。

一部の委員が「安全対策は新たな電源を追加するものではない」と制度の趣旨に反するとして否定的な意見を述べた一方で、「脱炭素電源として稼働するために安全対策が必要なら、違和感はない」など評価する声が多かった。さらに「工事費用の上振れ、安全対策は立地ごとに個別性が高く、どこまで制度でカバーするのか」といった課題も挙がった。

急がれる新増設 「建設地点を考え出してもいい」

同委員会ではこのほか、サプライチェーン維持のため革新炉開発の加速を求める意見が相次いだ。わが国では3.11以降、国内で進行・計画中だった新設プロジェクトがいずれも中断し、英国やトルコ、ベトナムで計画していた輸出案件も中止または終了した。空白期間の長期化により、川崎重工業や住友金属工業、古河電気工業といった大手企業が原子力の関連事業から撤退し、原子力従事者も減少の一途をたどる。

日本は原子力大国フランスに匹敵するほど、エンジニアリングや燃料、濃縮、原子炉容器、蒸気タービンなど、幅広い範囲で強固なサプライチェーンを温存している。だが、原子力サプライチェーンは一度断絶すると再構築するのは困難とされ、一刻も早い革新炉の建設が求められているのだ。革新炉ワーキングループで座長を務める黒崎健委員は、行動指針に「次世代革新炉の開発・建設」が盛り込まれたことについて「『建設』という言葉が入ったのは大きい」と強調しし、「そろそろどこに建設するか考え出してもいい」との見方を示した。原子力の「最大限活用」を掲げたGX基本方針は、いよいよ実行段階に入っている。

【記者通信/7月28日】石油危機50年を総括 化石から次世代までエネ研が報告会


かつて石油危機をきっかけに、日本中が「狂乱物価」といわれるインフレに見舞われた第1次オイルショックから約50年。新たに発生したエネルギー危機を前に同じ過ちを繰り返さぬよう、日本エネルギー経済研究所は7月25日、「石油危機から50年、そしてこれからの50年」をテーマに定例研究報告会を開催した。

産官学による包括的な関係構築が重要に

冒頭に寺澤達也理事長が「1973年の第1次オイルショックから、中東への知見を深めるため、エネルギーの多角化からLNG、原子力、再生可能エネルギーと積み重ねてきた」とあいさつ。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー問題が再度表面化した中で「日本のエネルギー安全保障に対する中東の位置づけはどうなったのか。真摯に見極めて今後に生かすことが重要だ」と話した。

その後、中東研究センター長の保坂修司理事が「50年前、中東で何が起こったのか」をテーマに、第1次オイルショックにおける日本の教訓とは何かについて講演した。保坂理事は「当時の日本は中東産油国やエネルギー安全保障に対する関心が欠如していた。情報収集や分析の不備、専門家の不足なども、国民のパニックを助長させる大きな原因となった」と指摘。その反省を生かし、これまで培ってきた中東との信頼関係は、現在の日本における大きなリターンになり得ると話した。一方で日本の石油需要の頭打ち、中国の台頭による日本の経済的影響力の低下にも言及。日本のソフトパワーを生かしながら、産官学による包括的な関係構築の重要性を訴えた。

危機は日本にとってのチャンスか

報告会の前半は、①50年前の石油危機からの教訓、②天然ガス市場の動向、③原子力活用の必要性、④資源の偏在性の脅威――の4点について講演を行い、化石資源と原子力の現状を解説した。後半は、「水素アンモニア」「GXに向けた取り組み」「アジアでのエネルギートランジション」などが論じられ、カーボンニュートラル時代に向けた今後の新規技術展開について、エネ研が調査した豊富な資料から課題を紐解いた。

報告会の最後には、エネ研専務理事の小山堅首席研究員が総括。エネルギー危機に対する国家戦略の重要性を示しつつ、市場に変革をもたらす技術革新への投資が、国家と市場の関係性に変化をもたらすと指摘した。エネルギー危機による将来の世界情勢の変化にも触れ、「技術革新とルールメーキングを巡るせめぎあいの世界で、次に起こり得るのが産業政策の復活だ。産業政策を批判していたアメリカが、方針を転換することで起こる危機にどう対応するのか。日本にとって大きなピンチだが、逆に言えばチャンスでもある」との見解を示した。

【記者通信/7月25日】商慣行是正で問われるプロパン業界の本気度


「プロパン業者にとってマンションの居住者は顧客なのだろうか。依然として不動産オーナー、もしくはデベロッパーだけを顧客だと思っているのではないか」――。7月24日、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(座長=内山隆・青山学院大学教授)の第3回会合をオンラインで傍聴した消費者団体の関係者の一人はこう、会合への感想をこうつぶやいた。

賃貸集合住宅への設備無償貸与という長年の商慣行から脱却できるのか

プロパンの料金透明化、取引適正化を目指し3月に議論を再開した同WG。これまでの議論を踏まえ資源エネルギー庁事務局はこの日、商慣行是正に向けた対応方針と実効性確保の方策についての案を示した。その柱の一つが、賃貸集合住宅において、エアコンや給湯器といったガスとは関係のない設備費用をガス料金に上乗せして利用者に請求することを禁じることだ。プロパン業者が契約獲得のために投じた営業費用を付け回し、選択権のない利用者に経済的不利益を生じさせているとして、長らく問題視されてきた。来春にも省令を改正し27年度の施行を目指す。

「抜け駆け」「抜け道」で形骸化の懸念も

同WGの委員には、消費者や弁護士、プロパン業界の代表者らが名を連ねる。この議論を機に、プロパン業界を巡る消費者トラブルを一気に撲滅したいと息巻く消費者代表らに対し、方向性はおおむね合意しているとは言っても事業者側の「熱量」は低い。事業者側から幾度となく出てきた言葉は「抜け駆け」「抜け道」。長年にわたる商慣行にどっぷりとつかった事業者の多くが結局はこれまでと同じ轍を踏み、規制が形骸化してしまうのではないかという懸念だ。

これに対し、「抜け道を許さないよう業界全体で取り組むべきではないのか」と喝を入れたのは全国消費者団体連絡会の浦郷由季氏。同日の朝日新聞朝刊「賃貸住宅のLPガス料金、給湯器・エアコン費用上乗せ禁止へ 経産省」のニュースに付いたコメントに言及し、「『LPガスではないアパートを選べばいい』『LPガスの賃貸物件を選びたくない』というコメントが非常に多いことにとても驚いた。業界としてこれでいいのか」と、変化を求めた。

一方、「どれだけ自社努力しても、消費者トラブルを起こす一部事業者と『同じ穴のムジナ』だと言われてしまう。業界のブラックなイメージ払拭につながれば」と、この議論に期待するプロパン業者も。「省令改正の方向性が示されたとはいえ、まだ何も解決していないし何も変わっていない。本当の闘いはこれからだ」(同)と気を引き締める。

【記者通信/7月24日】LNG産消会議の同床異夢 日米とEUに温度差


7月18日に東京都内で開催したLNG生産国と消費国の関係者が集まる国際会議「LNG産消会議」。LNGセキュリティの強化など官民一体となった取り組みの発表や、各国の共同宣言などが盛り込まれ、2050年カーボンニュートラル実現に向けてLNG活用を目指す国際社会の団結をアピールした。しかし各国の会議での発言をひも解くと、LNG利用の方向性に対する「温度差」がにじみ出る。

LNGを活用したい日本と足並みを揃える立場を真っ先に示したのはアメリカだ。エマニュエル駐日大使は「日本は世界最大のLNG消費国。最大の輸出国であるアメリカと日本が手を組むことは、世界の成長を維持することにつながる」と日本のLNG活用に理解を示した。また、マレーシアからは国営石油会社ペトロナス社長兼グループCEOのタウフィック氏が登壇。「私たちは日本の現実的な姿勢を称賛したい。日本と視点を共有し、LNGを信頼できる新たな低炭素エネルギーとして供給する」と表明した。

ドイツ「化石燃料のルネサンスではない」

一方で、EU各国の反応は冷ややかだ。特にドイツは、LNGを含む化石燃料からの脱却を目指す認識を崩していない。経済・気候保護省のニンマーマン事務次官は「エネルギー危機に対処するために、化石燃料に関するわが国の短期的な体制は変わったが、これは化石燃料のルネサンス(復活)ではない」とくぎを刺した。

LNG輸入量を年間240億㎥に倍増したオランダも、LNGはあくまで再生可能エネルギーに切り替わるまでの代替であるとの考えだ。ロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相は「LNGに関わる全ての関係者は、既存施設も新しい設備も、持続可能なエネルギーが水素なら、それに対応する準備を始めなければならない」とエネルギー転換の必要性を訴えた。

今回の会議では、再エネシフトを加速させたいEU各国とLNGを活用したい日米・LNG生産国との静かな対立が垣間見えた。クリーンな化石エネルギーであるLNGの活用に引き続き力を入れていくか、それともカーボンニュートラルの将来を見据えて脱化石を図っていくのか。LNGを巡る各国のスタンスの違いは、今後一段と鮮明化していきそうだ。

【記者通信/7月24日】地熱発電を火山国・日本で広げるには?


火山国・日本で拡大が期待される地熱発電。しかし、その量がなかなか増えない。地元との調整の難しさが課題だ。このビジネスで、地域と協調し小さいながらも着実に成長する「ふるさと熱電(熊本県阿蘇郡小国町)」を訪ねた。そして発電を増やす方法を考えてみた。

出力2000k Wのわいた発電所(熊本県小国町)

◆地熱発電はなぜ伸びないのか

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調査では、現時点で日本の地熱発電所の設備容量は20カ所、発電設備容量は57万kW、発電量は2019年で2472GWh(2019年、ギガワット)だ。これは大型石炭火力1基分、発電量としては日本全体の0.02%にすぎない。

経済産業省・資源エネルギー庁の評価によれば、建設可能な設備は約2350万kW分もある。それなのに利用されないのはなぜか。経産省は、2019年の評価で「調査に多くの費用を必要とするものの十分な量の蒸気を安定的に採取できるか明確でなく」「開発期間が長期にわたること等の事業リスクがある」と指摘する。(資源エネルギー庁・「地熱発電の現状について」

調べてみると、事業者と地域の関係者や住民との調整が難航する例が多い。地熱発電は、地下から取り出した蒸気や熱水を使ってタービンを回す。その利用の後で熱水を地下に戻す。そうした場所はほぼ温泉地がある。その活用に影響が出かねない。温泉組合などが懸念するのは当然だ。「よそ者」が、土地の資源を利用して利益だけを取っていくことにも反発は当然あるだろう。実際に、全国の太陽光、風力発電では、そうした事業者と地域住民で、対立が起きている場も多い。

◆地元への利益を中心に、事業を作る

しかし、ふるさと熱電のビジネスは違う。主役は地元住民であり、同社はそれに「寄り添う」という形だ。2012年に創業しビジネスを成長させてきた。創業以来、その中心になったのが、取締役の赤石和幸氏だ。同社は中央電力の事業から、独立した企業だ。NTTグループや、関西電力なども出資している。

ふるさと熱電取締役の赤石和幸氏

岳の湯地区では、地域の人々が温泉と地熱を700年以上にわたって活用し守り続けてきた。ここの30世帯が「合同会社わいた会」を設立し、地元の地熱を使って発電を行う。ふるさと熱電は、その発電所の運営を委託されている。

また発電所の運転で、わいた会の住民と業務委託契約を結んで発電所の管理などに働いてもらうほか、小国町住民を採用して計6人の雇用が生まれている。収益は発電所の運営や、地域づくりの資金に使われ、残りは各世帯に分配される。「よそ者」が外から来て利益を得るビジネスではない。ふるさと熱電は住民と一緒になり、地域のために収益を活用するという目標を掲げている。その結果、信頼関係が生まれ、事業がスムーズに行われていた。

「地域の皆さんが発電事業の中心になっています。私たちはわいた会の皆様と一緒に共生・共栄を目指しています」。赤石氏が住民の人々と対話を重ねる中で、このビジネスを作り上げていったという。

【図】ふるさと熱電のビジネスモデル

◆地元との信頼が高収益を支える

ふるさと熱電は、わいた発電所で出力2000kWの発電を行っている。他の地熱発電所では収益を確保するために、1万kW程度の設備が多い。小さく始めたのは環境への影響を見極めようとしたためだ。同社は地元の人々と協力しながら現在は同5000kWの発電所を建設中だ。

日本では地熱発電の建設で10年ほどかかる。一方で、わいた発電所は構想から4年の2015年に完成・稼働した。試掘成功率は日本の地熱発電で1割以下とされる。しかし、わいた地熱発電所の場合75%と高くなった。調査を念入りに行い、地元の協力と理解があったので有望な場所を試掘できたからだ。

「全国には温泉地域が3000カ所あります。その熱源の適地は、地元の方々が一番知っています。わいた発電所の場合は住民の方々が主体なので、ともに協力し合い、土地の所有者である住民と合意形成を行えました。その結果として、開発のリードタイムが短くすんでいます」(赤石氏)

また運営でも信頼が生きる。地熱発電では温水や蒸気を使い、それを地下へ戻す。発電所のある岳の湯地区には、6軒の温泉旅館と24軒の農家があり、その温水、また地下水を旅館の温泉や農業に使っている。ふるさと熱電とわいた会のメンバーはその使い方を頻繁に合議している。発電が地下の温水や水に影響を及ぼさないか、モニタリング調査を町内の13 カ所で実施している。これまでのところ、温泉にも農業にも生活にも悪影響は発生していない。

こうした取り組みを丁寧に取り組んだ結果、地元とふるさと熱電の信頼関係が作られた。ここ数年のわいた発電所の稼働率は95%の高率だ。

「住民の皆さんとの丁寧なコミュニケーション、地元に納得いただける形で利益を還元する形を作ることが、事業の肝(きも)でした。温泉地域の方々が地域の財源として考えて事業を考えるからこそ、高い稼働率とそれよる収益が維持できています」と、赤石氏は話した。

◆「わいたモデル」を全国に、そして地域を豊かに

赤石氏は今後、事業を拡大させながら、社会を変えたい夢があるという。地元の岳の湯地区、そして小国町の地域活性化だ。そして、ここでの地熱発電のビジネスモデルを日本全国に広げることだ。この形のビジネスを「わいたモデル」と名付けている。

新型コロナ禍が落ち着き、日本各地の観光地で人が戻り始めた。しかし人気の場所がより栄えるという状況だ。補助金ではないお金を地域全体で使い、その観光地を魅力的にしなくてはいけない。そのために地熱発電を使おうという温泉地が、前にも増してふるさと熱電に学ぼうと日本中から同社を訪ねるようになっているという。実際に、「わいたモデル」を使って、地熱発電、また地域振興に使う相談を受けている

わいた会は、その収益で岳の湯温泉を整備している。地熱や温水を使った野菜の栽培、染め物への利用を行い、観光地としてより魅力を高める取り組みが進む。これを支えてふるさと熱電もビジネスを広げていく意向だ。

「将来的には上場も目指したいです。熊本の一地方から、再エネと地域振興のビジネスで株式を公開する企業が出る。いずれも日本の重要な課題であり、日本を元気にするインパクトがあると思います」と赤石氏は語った。

◆地域の「眠れる宝」 再エネ拡大のヒント

現在、エネルギー産業では再エネの拡大が期待されている。しかし、乱開発への懸念でその開発がなかなか進まない。そこで生活をしてきた地元住民や、林業、漁業、温泉などの各種組合との交渉がうまくいかない例もある。太陽光、風力では作った後の環境破壊のトラブルも数多く発生している。「わいたモデル」は、そうした地元との関係づくりに参考となるだろう。

日本には、地域ごとに「眠れる宝」がたくさんある。それに価値を与え、お金に変え、豊かにすることが課題だ。また脱炭素も社会の流れだ。複数の課題解決を行い、ビジネスで社会を変える。ふるさと熱電の、まだ小さいけれどもユニークな姿は、地熱発電の可能性を示しているように思える。

【記者通信/7月21日】岸田首相が資源外交展開 中東3カ国と多分野で連携


日本国トップによる中東諸国への資源外交の成果はどうだったのか――。岸田文雄首相は7月18日、訪問先のカタール・ドーハで記者会見を行い、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの中東3カ国歴訪について「大変有意義だった」と振り返った。中東3カ国とは食事会などを経て会合を重ね、エネルギーを含むさまざまな分野で協力連携を確認したと成果を強調した。

会見で岸田首相は、訪問した3カ国が化石燃料の輸出に頼る現状からの脱却を図っているとした上で、「湾岸諸国と日本がそれぞれの強みを組み合わせて、中東産油国を、脱炭素エネルギーや重要鉱物を輸出するグローバル・グリーンエネルギー・ハブに変える」と、日本の持つ脱炭素技術で中東諸国の産業多角化に貢献する考えを明らかにした。また、今年11月に開かれるCOP28議長国であるUAEとは、気候行動に関する共同声明を発表。COP28の成功に向け「中東地域を将来のクリーンエネルギーや重要鉱物のグローバルな供給ハブとするビジョンを提示」し、賛同を得たとしている。G7議長国として、5月に行われた広島サミットでの成果を各国に共有し、国際社会を主導することに意欲を示した形だ。

その後の質疑応答では、地元カタールの記者から日本の石油市場戦略について問われる場面もあった。岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や投資縮小による国際石油市場の先行きの不透明さを指摘。ガス・石油開発に対し、LNGや省エネ技術などへの投資「トランジション・ファイナンス」や、官民での公的資金や慈善資金と民間の投資・融資を組み合わせた「ブレンデッド・ファイナンス」を活用し、投資拡大を図っていくことが重要だと話した。

そのほか、カタールとの関係については「戦略的パートナーシップ」に格上げし、外務・防衛当局間の対話を強化することで一致。サウジアラビアとは包括的な協力枠組みである「日・サウジ・ビジョン2030」の下、エネルギー分野のほか、先端技術、観光、エンターテイメントといった広い分野での協力を確認している。

【記者通信/7月15日】電力5社に業務改善命令 関西「悪質性」中部の対応に注目


関西電力など大手電力4社グループが法人向けの電力販売でカルテルを結んでいた問題を巡り、経済産業省は14日、関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社に対し「業務改善命令」を出した。またこれとは別に、大手電力各社において健全な競争を阻害する問題が相次いでいることを受け、経産省は同日、大手電力など12社に対し、卸取引における内外無差別の強化など「電気事業の健全な発達を実現するための対応」を指示。業界団体の電気事業連合会には、「電気事業の健全な発達に向けた電事連対応の在り方」に関する指導を行った。

関西 は三度目の業務改善命令

業務改善命令の処分内容を見ると、とりわけ関西の行為について「悪質性」を認定したのが特徴だ。具体的には、「経営層が参加する会議において意思決定を行った後、経営層以下の各階層において主体的に中部電力・中国電力・九州電力に働きかけを継続して行ってきたことが確認されており、かかる行為の悪質性、故意性、組織性・計画性が認められる」とした。関西はこれまでも、原発立地地域からの多額の金品受領問題(2020年3月)や顧客情報の不正閲覧問題(今年4月)で業務改善命令を受けており、これで三度目になる。

中部については、「関西電力との間で行った意見・情報交換の少なくとも一部には経営層の関与が認められるほか、関西電力との間の社員同士の懇親会についてその存在を確認しにくくするような不適切な経理処理が行われていたことも確認された。したがって、かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」と指摘した。中部側は、公正取引委員会によるカルテル合意認定を巡り裁判で争う構えを見せていることから、今回の命令に対しどんな対応を見せるのか、注目される。

中国、九州、みらいエナジーの3社については「関西電力との間で行った本件情報交換等は、経営層が自ら行ったもののほか、経営層に対してその内容が共有されていたものもあることから、少なくとも一部には経営層の関与も認められる」などとして、「かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」とした。

経産省は5社に対し、再発防止のための改善計画を策定した上で、8月10日までに同計画内容や実施状況、および域外進出の状況などを報告するよう求めている。

中部だけが簡素なコメント発表

業務改善命令を受け、各社は同日、次のようなコメントを発表した。

関西「今後、指示内容を踏まえ、当社として取り組む対応について速やかに検討してまいります。当社は、監督官庁のご指導に真摯に対応するとともに、二度とこのような事態を起こさない、真にコンプライアンスを徹底できる企業へと再生できるよう、全社一丸となって、再発防止策の徹底と組織風土改革に全力で取り組むことで、社会の皆さまからの信頼回復に引き続き全力を尽くしてまいります」

中部「今後、業務改善命令の内容を精査し、適切に対応してまいります」

中国「当社としては、本命令等を受領したことを重く受け止め、今後、適切に対応してまいります。本件につきまして、お客さまをはじめ関係者の皆さまに多大なるご心配・ご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。当社としては、引き続き、本件を踏まえて策定した再発防止策を着実に実施してまいります」

九州「お客さまをはじめ関係者の皆さまに、多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。当社といたしましても、二度と法令上の疑義を招くようなことがないよう、2023年4月27日に公表した独占禁止法を含む法令等遵守のための取組みを着実に実施しているところですが、この度の命令を厳粛に受け止め、これまで進めてきた取組みに加え、今後、監督官庁のご指導もいただきながら、取組みの一層の強化を図ってまいります」

一見して分かる通り、中部だけが簡素なコメントであり、カルテル認定を不服とする同社のスタンスがうかがえる。

「内外無差別の強化」にどう対応?

一方、電気事業の健全化に関しては、北海道電力、東北電力、東京電力ホールディングス、東京電力エナジーパートナー、中部電力、中部電力ミライズ、北陸電力、関西電力、中国電力、九州電力、沖縄電力、JERAの12社が対象。経産省は.対象各社の事業形態に応じ、①保有電源の内外無差別な卸取引の強化、およびこれを通じた短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金・サービスのさらなる選択肢の拡大――などについて具体的な検討を行い、7月28日までに報告するよう求めている。果たして、各社はどのような対応策を打ち出してくるのか。

また電事連に対しては、「電事連の活動の在り方について自ら検証を進め、電気事業の健全な発達に対する懸念を生じさせないよう、法令等遵守を徹底するための具体的な取り組み、および組織運営の透明性向上に向けて必要な取り組みを進める」よう指導を行った。

【論考/7月13日】サウジアラビア「悪玉」論の的外れ


2012年初から5年半の間、サウジアラビア・ダーランにてサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコに勤めたことがある。家族を米・マサチューセッツ州に残しての「出稼ぎ」で、一外国人スタッフとして本社・経営計画部門で働いた。

会社の短・長期経営計画の前提となる世界石油需給見通しを策定するチームに入り、もっぱら石油需要動向の分析・予測を担当。日本国籍保有者でサウジアラムコ本体の社員になったのは初めてだと言われ、調子に乗ってしばらくは「わが社で最優秀の日本人」を自称していた(その後、日本人社員が数人加わり、あっさり首位陥落となった)。総じて若いサウジ人エリート達を、各国から馳せ参じた外国人スタッフが補佐し、仕事は全て英語で行う(だからアラビア語を全く解さない私のような人間でも十分働ける)。小さなチームだったが、スタッフの国籍・出身地は米、英、伊、ノルウェー、エジプト、バングラデシュ、マレーシア、フィリピン、ベネズエラ、タジクスタンなど多彩だった。

視点は常に世界全体の石油需給動向に

アラムコは東京の他にも、北京、シンガポール、ロンドン、ワシントンDCなどに現地法人を置き、有能な人材を抱える。特に北京事務所の中国分析の能力の高さに、何度も舌を巻く思いがした。欧米の民間調査会社や金融機関からのレポートは随時入り、幹部級のアナリストやメジャー各社のエコノミスト達が次々にダーランを訪ねてきた。

サウジアラムコは、おそらく一般のイメージとは異なり、かなり広い視野を持つ会社だ。その視点は、常に世界全体の石油需給動向に置かれている。無論、生産調整を含め政策事項は政府決定に従い、そのため時として唐突な方針転換も行われるが、実務者レベルでの思考法はいたって常識的で、市場への順応を重視する。よく報道される「油価何ドルを死守」といった、力ずくで市場価格を操作する考えは、耳にしなかった。

サウジアラビアの原油生産行動は、市場志向の現実的な姿勢を基調とし、時としてこれが政府首脳部による突発的な方針転換によってかく乱される、この二相が交互に現れるものとして捉えるべきと思う。

これは大方の見方とは異なろう。ことサウジアラビアの原油生産調整となると、欧米および日本のメディアは、ともすれば、その意図を大袈裟に勘ぐり、身勝手な視点で批判する。増産すると「価格を下げて米・シェールオイルを潰す戦略」、減産すると「価格を吊り上げるカルテル行為」などとなって、いずれもサウジアラビア悪玉論となる。

OPECプラス減産の意味

さて、サウジアラビアが主導するOPECプラスは、昨年11月に生産目標量を引き下げ、続いて今年5月には同国をはじめとする有志8ヵ国が追加的な自主減産を行った。これは、ウクライナを侵略するロシアを利し、油価抑制に努めるバイデン米政権に反旗を翻す行為として、西側では至って評判が悪い。しかし、ここでまたサウジアラビア悪玉論に飛びつく前に、OPECプラスが何を決めてきたのか、その内容を振り返ろう。なお、以下、石油生産・需要量の実績・予想値は基本的にIEA(国際エネルギー機関)石油市場レポートに拠る。

公式に発表されるOPECプラスの生産目標量(あるいは生産枠)は産油20ヵ国を対象としている。即ち、OPEC(石油輸出国機構)加盟国のうち10ヵ国(サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ、ガボン、赤道ギニア)および、OPEC非加盟の産油10ヵ国(ロシア、カザフスタン、オマーンアゼルバイジャン、マレーシア、スーダン、南スーダン、バーレーン、ブルネイ、メキシコ)である。

本稿でも、これら20ヵ国をOPECプラスとしよう。実際には、メキシコは2020年7月以降、生産調整に参加していないのだが、目標量は与えられているので、ここでは便宜上OPECプラスに入れる。またOPEC加盟国には他にイラン、ベネズエラ、リビアがあるが、この3ヵ国は生産調整を免除されているので、ここでもOPECプラスから外しておこう。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を8月時点の日量4400万バレル弱から4200万バレル弱へと日量計・200万バレル削減した。その意図を考える上で、OPECプラスを、次にようにロシアとさらに他の2つのグループに分けてみる。

グループA:サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、アルジェリア、ガボン、カザフスタン、オマーン、計8ヵ国

グループB:ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ、赤道ギニア、アゼルバイジャン、マレーシア、スーダン、南スーダン、バーレーン、ブルネイ、メキシコ、計11ヵ国

このグループ毎に、原油生産目標量と実際の生産量を見ると、以下のようになる。

表1:原油生産目標量と生産量(単位:日量・百万バレル

(注)生産量の数値はIEA Monthly Oil Market Report June 2023 に依拠。以下の図も同じ。

 確かにOPECプラスの生産目標量は昨年8月から11月に向けて、日量200万バレル削減されている。しかし昨年8月時点、実際の生産総量は目標量を日量350万バレル、下回っていた。したがって11月の目標を額面通り達成するには、8月に比して逆に日量150万バレルの増産が必要だった。一体目標は減産なのか、それとも増産なのか?

このような不可解さが生ずるのは、グループBおよびロシアに割り当てられている生産目標量が形骸化しているからだ。グループBに割り当てられた高い目標量は、実生産から著しく乖離していて意味をなさない。同グループの中では、アンゴラおよびナイジェリアが有力産油国だが、両国とも長引く投資不足などで原油生産量はここ数年低迷しており、増産余力は乏しい。一方、ロシア原油生産が目標に届かないのは、輸出も国内石油消費も概ね現状維持で推移しているからだが、そもそもウクライナ侵略開始後のロシアにとって、原油生産は第1級の戦略課題であり、他産油国との協調を優先させる余地は乏しい。

即ち、生産量を目標量に整合させる意思と能力を兼ね備えるという観点からすれば、実質的にOPECプラスとはグループAなのだ。したがって目標量の変化、実生産量の変動、そのいずれもこのグループAに絞って見るのがよい。すると表1から、昨年11月に生産目標量は8月対比・日量120万バレル削減されたが、実際の減産幅は日量50万バレルに止まっていたのが分かる(これは8月時点で不調だったカザフスタンの生産量が、11月に目標量相当まで増えたのが効いている)。注意すべきは、これはあくまで昨年8月対比の数字であり、2021年11月との対前年同月比ではグループAは日量140万バレル、OPECプラス全体でも日量100万バレル、それぞれ増産だった。

月刊エネルギーフォーラムの拙稿(2023年5月、6月号「危機の時代の国際石油情勢」)でも触れたが、明らかに、このような生産調整を「大幅減産」と称するのは誤りだ。

続いて今年5月、グループAは「有志8ヵ国」として追加的な自主減産を行った。

表2:原油生産目標量と生産量(単位:日量・百万バレル)

生産目標量は日量約120万バレル削減。これは昨年11月の削減とほぼ同量だ。即ちグループAは同規模の目標量削減を昨年11月、今年5月と二度繰り返した。何故だろうか?

今年1~4月のグループAの原油生産量は、平均すると対前年比・日量約60万バレルの増産だった。もし5月以降の追加減産が無く、4月並みの水準(日量2400万バレル強)で推移すれば2023年通年では対前年比・日量約20万バレルの減産になる計算だ。おそらくは、これが微温的と判断されたのだろう。

減産は昨年の超過供給解消を狙った動き

2022年の世界石油需給は、政府在庫の取り崩しによる市場外からの追加供給を加味すれば、日量約100万バレルの供給過剰と見る点でOPECとIEAの統計はほぼ一致する。グループBの原油生産量に変化が無く、かつ2023年の世界石油総需要の増分を米国他の非「OPECプラス」の原油増産、及び、原油由来以外の石油供給(NGL、バイオ燃料等)増によって大方賄われてしまえば、昨年積み上がった過剰供給の解消はもっぱらグループAおよびロシアの原油減産に任される。ロシアは本年3月以降、2月時点の生産量を基準とした日量50万バレルの減産を表明しているが、その2月の生産量は日量約1000万バレルと高水準に引き上げられていた。グループAによる対前年比・日量約20万バレルの減産では供給過剰解消に不足と考えたとしても不思議はない。

そこで今年5月の減産第2弾となる。グループAの5月生産量は概ね目標量の削減幅に合わせて落ちており、そのまま推移すれば2023年通年では、対前年比・日量約80万バレルの減産となる。ロシアの減産を対前年比・日量約20万バレルとすると、減産幅は計・日量100万バレルになる。一方、6月時点でのIEA見通しに基づけば、今年の世界石油需要増は対前年比・日量250万バレル弱に達するが、(イラン、ベネズエラおよびリビア原油生産量を前年並みとすれば)OPECプラス原油を除く供給増は日量約200万バレルに止まる。ここでの不足量日量約50万バレルを加えると、2023年通年の世界石油需給バランスは日量約150万バレルの需要超過となる。より慎重に需要増の減速を見込むとすれば、概ね昨年の超過供給解消を狙った動きと見なし得る。

以上、昨年11月および今年5月のOPECプラス原油減産は、基本的に市場志向的な動きというのが筆者の見方である。喧伝されるサウジアラビア悪玉論は、さまざまな意味で的外れだ。

ただし、6月初めのOPECプラス協議の際に表明されたサウジアラビアの単独追加減産(日量100万バレル)には、この市場志向的な基調から逸脱する衝動的な動きの出現を感じさせられる。この単独減産は7月に続いて8月も行われ、8月にはロシアも原油輸出を日量50万バレル削減する方針。これは一見すると協調行動に映るが、むしろ両国の利害対立の表面化の兆しと捉えるべきではないかと思う。これらの点に関しては、稿を改めて考えたい。

(なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である)

小山正篤 石油市場アナリス

【記者通信/7月7日】「現実路線」の電力改革案 エネチェンジが発表


電力システム改革に対するエネチェンジの主張が「現実路線」に近づいてきた。同社は7月6日、「未来志向の電力システム改革の実現に向けた当社見解」を発表した。電力産業はGX(グリーントランスフォーメーション)において中心的な役割を担う重要産業であり、旧一般電気事業者による一連の不祥事に対する対応は未来志向で行うべきだとして、①送配電部門、②発電部門、③小売部門――の3点で、法的分離の厳格化や内外無差別の徹底、規制料金の撤廃などを求める改革案を提示。発表に先立つ5日には、同見解を資源エネルギー庁に提出しており、今後は国会議員にも説明を行っていく構えだ。

送配電部門は厳格な法的分離で

送配電部門の改革案では、所有権分離を「長期的には有効な選択肢」としたものの、憲法29条の財産権に抵触する恐れがあることや制度設計に時間を要することなどから、「厳格な法的分離(ITO)」を求めた。具体的には、各部門との人事交流時の監視強化、建物・ITシステムなどの物理的分離、罰則強化(直接罰への対象拡大)、監視強化(通報窓口設置、外部人材からのチェック機能新設、内部監査機能の強化)といった人・技術・物・資金面の独立性、自立性の強化と、インサイダー取引規制のように情報が流出することを前提とした違反者への罰則規定を整備すべきだとした。

電力業界の一連の不祥事を受けて、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」や立憲民主党と日本維新の会は、所有権分離を求める提言を西村康稔経済産業相に提出している。こうした中、ITOにとどめたエネチェンジの見解は早期に実現可能な改革案で、「さまざまな事業者の声を集めて代弁」(同社の城口洋平CEO)したものだという。同社はかねて所有権分離の必要性を強調していたことから、トーンダウンした格好といえよう。

内外部差別は指針・法制化で対応

発電部門では内外無差別について、旧一電の自主的コミットメントではなく、ガイドラインもしくは法制化を進めるべきだとした。内外無差別の徹底は利益最大化という経営原則と相反する場合があるため、自主的コミットメントでは実効性に懸念が残るが、「コンプライアンス違反」となれば発電事業者も対応せざるを得ないという理由からだ。

また来年開始の容量市場で、発電部門で優越的な地位にある旧一電の競争力が強化される懸念に対しては、旧一電の部門ごとの会計の透明性を担保し、電力ガス取引監視等委員会などが小売部門の競争条件に不当な影響がないか監査する必要性を記述した。

規制料金撤廃の早期検討を

小売部門では特に内外無差別の徹底を条件とした上で、規制料金撤廃の早期検討を求めた。撤廃時には需要家への周知徹底策として、固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期間満了時の通知方法と同様に、契約可能な小売事業者の提示など切り替え情報の提供が必須だとしている。

エネチェンジはこの見解をエネ庁だけでなく、GXや電力システム改革に関心を持つ政治家などにも提出する構え。城口氏は発表に先駆けて行われたメディア向け勉強会で「今後、小委員会などで参考資料として使われるようになればいい」と意図を語った。事業者側の意見として、今後の議論にどう生かされるのか注視したい。

【記者通信/7月4日】エネ庁主要人事の全容 「化石カラー」消した組織改編


今夏の経済産業省、環境省の主要人事が出揃った。注目は、資源エネルギー庁の組織改編だ。エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル(CN)実現の両立に向け、省エネルギー・新エネルギー部、そして資源・燃料部の課室体制を見直し、7月4日付けで施行した。特に資燃部は、CNに向けたエネルギー転換の必要性から大幅な変更となる。「石油も天然ガスも石炭も今回、資源エネルギー庁、経産省からは課の名前としてはなくなる。時代の大きな変化を感じている」(西村康稔経産相)。「エネルギー・金属鉱物資源機構」へ名称変更したJOGMECに続き、エネ庁の部署名からも「化石燃料カラー」がほぼ消えることとなった。

GX時代を見据えた新たな布陣

では、新生資燃部の布陣とは――。

まず政策課の下に、GX(グリーントランスフォーメーション)を見据えた資源外交戦略を担う「国際資源戦略室」を新設した。

石油・天然ガス課は「資源開発課」に改称し、非化石を含めた燃料の上流開発を推進する。また、石油精製備蓄課や石油流通課の名称からも「石油」を抜いた上で統合し、「燃料供給基盤整備課」として、合成燃料やSAF(持続可能な航空燃料)などを含めた燃料の供給体制を担当する。同課には、これら次世代の燃料の安定供給を図る「燃料流通政策室」も設置した。

そして石炭課は、鉱物資源課と統合して「鉱物資源課」に。課の中には、石炭関連政策を実施する主体として「石炭政策室」を置いた。

CCS(CO2回収・貯留)やカーボンリサイクルの推進は、新設の「燃料環境適合利用推進課」が担う。特にCCSに特化した事業化・法制化を行う部署として「CCS政策室」も新たに整備した。

他方、省新部には、水素・アンモニアに特化して需給両面の政策を担う「水素・アンモニア課」を新設した。

経産次官に飯田氏 エネ庁長官は村瀬氏

エネ庁を中心に、経産省の主要人事を見てみよう。※( )内のポストは前職

前経産事務次官の多田明弘氏(1986年入省)は退任し、その後任で、飯田祐二氏(88年、経済産業政策局長)が新たに次官に就任した。エネ庁長官として、政策の大きな節目となったGX関連法成立に尽力した保坂伸氏(87年)は、経済産業審議官のポストに移った。

南亮氏(92年、首席国際カーボンニュートラル政策統括調整官)が総括審議官に、山下隆一氏(89年、製造産業局長)が経済産業政策局長に就く。

そしてGX政策の中枢を担う「GX推進機構」の24年度設立に向け、龍崎孝嗣氏(94年、審議官・経済産業政策局担当)が首席GX機構設立準備政策統括調整官を担う。

保坂氏の後任としてエネ庁長官に就任したのは、村瀬佳史氏(90年、内閣府政策統括官)だ。なお、村瀬氏は2013年に電力・ガス事業部政策課長、電力小売り全面自由化後の2016年6月から4年間は電力・ガス事業部長を務めた。GXだけでなく、電力システム改革の在り方が改めて問われる局面で、どのように政策を主導していくのか、注目される。

エネ庁次長の小澤典明氏(89年)は退任し、後任は松山泰浩氏(92年、電力・ガス事業部長)が務める。松山氏は、首席最終処分政策統括調整官、首席エネルギー・地域政策統括調整官も兼任する。電ガ部長には、2019年に原子力立地・核燃料サイクル産業課長を務めた久米孝氏(94年、大臣官房総務課長)が就いた。

経産省・エネ庁はこうした新体制で、まずは5月末までに成立したGX関連法の実施のほか、国のエネルギー基本計画の改定に向けた議論、東京電力の第五次総合特別事業計画の策定などに取り組むことになる。

主要ポスト人事(入省年次含む) 女性幹部を積極登用

大幅な組織変更となったエネ庁の主要ポスト人事は次の通り(敬称略)。

<長官官房>

総務課長=河野太志(96年、電ガ部政策課長)

大臣官房参事官(総合エネルギー戦略担当)=遠藤量太(01年、電ガ部原子力政策課長)

総務課戦略企画室長=小髙篤志(05年、大臣官房総務課政策企画委員)

国際課長=白井俊行(99年、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局参事官)

<資燃部>

政策課長=貴田仁郎(97年、電力・ガス事業部原子力立地・核燃料サイクル産業課長)

資源開発課長=長谷川裕也(00年、長官官房国際課長)

燃料供給基盤整備課長=永井岳彦(98年、資燃部石油流通課長)

燃料流通政策室長=日置純子(99年、商務情報政策局情報経済課デジタル取引環境整備室長)

燃料環境適合利用推進課長=羽田由美子(99年、資燃部石炭課長)

<省新部>

政策課長=稲邑拓馬(98年、省新部省エネルギー課長)

省エネルギー課長=木村拓也(00年、通商政策局通商機構部参事官)

水素・アンモニア課長=日野由香里(03年、省新部新エネルギーシステム課長)

<電ガ部>

政策課長=曳野潔(98年、前省新部政策課長)

電力産業・市場室長=筑紫正宏(04年、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局企画官)

原子力政策課長=吉瀬周作(03年、電ガ部電力産業・市場室長)

原子力立地・核燃料サイクル産業課長=皆川重治(01年、電ガ部原子力政策課原子力基盤室長)

【目安箱/7月4日】経産省の開発計画でメタハイは実用化されるのか?


次世代資源のメタンハイドレート。ネット言論の期待は大きいが、なかなかビジネスとして形にならない。コストが高く、踏み出す企業がまだいないためだ。筆者は、これは他の新たなエネルギーに比べて特に優れたものではなく開発を急ぐ必要はないと、個人的に考えている。

(写真1)燃える氷「メタンハイドレート」

ネット言論で大人気、実際は?

「日本ついに資源国へ」。人気のツイッターやユーチューブが6月19日にざわついていた。「メタンハイドレート」が、日本海側で開発されることを一部の人が喜んでいた。調べてみると、小さな動きがあった。

西村康稔経済産業大臣が6月19日、メタンハイドレートの具体的な開発計画を2023年度内に策定する方針を表明し、そこで日本海側の開発を含めることを表明したからだ。海底資源開発の課題や目標を示した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」の改定に反映させる。これまで試掘作業は、太平洋岸で行われていた。

日本海沿岸の12府県でつくる「海洋エネルギー資源開発促進日本海連合」の花角英世会長(新潟県知事)がメタンハイドレートの開発促進を要望に大臣を来た時に答えたものだ。西村大臣は、花角新潟県知事と、メタンハイドレートの開発を訴えてきた青山繁晴参議院議員議員と一緒にツイッターに写真を掲載した。それでネット界に吹き上がったようだ。ここは保守派の個人の存在感が大きい。そして青山議員は言論人出身で、執筆や、ネットでの発信で知られて、保守派に人気のある政治家だ。

(写真2)西村経済産業大臣(中)、花角新潟県知事(左)、青山参議院議員(右)

しかし、ネット言論は既存メディア、実際の関係者の動きは、どの問題でもたいてい大きく離れてしまう。エネルギー関係者、またこの方面に少し知識のある人の大半は「まだメタハイ試掘しているのか」という驚きや「東電の柏崎刈羽原発を動かすためのお土産だろう」と反応するだろう。メディアの関心の乏しさも問題だが、ネット言論の期待もかなり現実からずれている。

メタハイとは何か?日本近海に多数存在も

「メタンハイドレート」(MH)は海底や永久凍土などに分布するメタンと水分子からなるシャーベット状の物質だ。深海や土中の圧力と冷却によって氷になった。日本近海に多数あるという。

現在、経産省は「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(21年3月)で、「2023~2027 年度の間に民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始される」ことを目標とし、メタンハイドレートの開発を進めている。現在は「MH21-S」という研究開発コンソーシアムで、太平洋側の深海で砂の中にあるMHを採取している。

(写真3)「MH21-S」の熊野沖の試掘プラントと炎 (同コンソーシアムサイトより)

青山議員は、以前はシンクタンクの経営者で、東大などと組んで、日本海側のMHを調査していた。花角知事は、以前から日本海側のMHによる地域振興に関心を寄せていた。今回、経産省・資源エネルギー庁は、試掘をしようというものだ。

巨額の予算投入もいまだ採算ラインに乗らず

しかし、産業界は様子見だ。メタンハイドレート関係の予算は、2022年度に272億円。2015年から実に年100億円以上が投じられている。

しかしそこで明らかになったのは「日本の近くの深海にM Hがあることは確認されつつあるが、商業ラインに乗るかは疑問」(関係者)との状況だ。

エネルギーの世界には「井戸から軸へ」(Well to Wheel)という言葉がある。石油やガスの資源を採掘井戸(Well)から、取り出しただけでは使うことはできない。車や工場機械の駆動軸(Wheel)にまでつながる流通の道筋を考える必要があるという意味だ。

おそらくMHは、火力発電所の混焼で用いられることになるだろう。シャーベット状のM Hを運搬することになるが、海中から地上までの採掘、一定の圧力をかけた上気化しないようにする形での運搬、発電所での投入と活用に、それぞれエネルギーがかかる。エネルギー効率(投入量と活用量)は悪い。経産省は2000年ごろの研究会で、メタンの発電コストをkW当たり20円で行いたいとしていたが「おそらく無理」(同)との評価だ。

「メタンハイドレートを広報してもらった青山氏には感謝する。しかし彼は、一般人や政治家を煽りすぎた。それに釣られた政治主導で、これだけ投資してしまった。引くに引けなくなった」と、ある経産省OBから聞いたことがある。

確かに、エネルギー業界の片隅にいる筆者は、一般の人からMHをめぐる質問を頻繁に受ける。しかし、その人たちの大半が、「中国が日本海を狙っているのはメタンハイドレートのせいだ」など、青山氏の発言を根拠にした怪しい話をしながら聞いてくるのをみると、少し戸惑ってしまう。

石井吉徳東大名誉教授は、90年代にMHの開発可能性調査を国の委託を受けて行った。「メタンハイドレートは資源ではない。「質」が悪い」「利権を生みかねない」と、強い批判をしている。ある商社の幹部は「既存のエネルギーより量と値段で競争でき、利益が出れば、喜んで取り扱う」と述べていた。

調査と議論の深化がMHの未来に必要

ただしMHをダメと切り捨てる必要もないだろう。日本近海のさまざまな場所にMHの集積地はあるようだ。その資源量は不明だが、その調査を続けるべきだ。もしかしたら、一瞬で取り尽くしてしまうかもしれない。もしくは青山議員の言うように、日本が突如、資源大国になる量かもしれない。また花角新潟県知事が夢見るように、日本海側の各県がメタンの産出地として栄えるかもしれない。それはまだ分からないのだ。

ただし現時点で見る限りにおいては、すぐに商業化できるような量と質のMHはまだ見つかっていない。私の印象だが、今経産省が力を入れている、新しい電力のエネルギー源のアンモニア、水素よりも、「筋は悪い」発電エネルギー源と思っている。

MHへの研究投資、年270億円の金額が必要かは疑問に思う。しかし、可能性を捨てる必要なく、過度な期待は持たないで、冷静に事実を検証するべきであると思う。

【記者通信/6月30日】福井・青森双方で混迷する中間貯蔵問題 今後の落としどころは?


関西電力が福井県内の原発で保管中の使用済みMOX燃料と使用済み燃料の一部「フランス搬出」を表明する中、青森県では6月29日、前むつ市長の宮下宗一郎新知事が誕生した。就任会見で宮下知事は、むつ中間貯蔵施設の共同利用案について、むつ市長時代と変わらず「反対」の姿勢を示した。今年末に期限を迎える関電の中間貯蔵問題は混迷の様相を深めている。

YouTubeチャンネル「宮下宗一郎」より

福井県の反応厳しく 「同等の意義」巡り水掛け論

関電は今年末に中間貯蔵施設の候補地確定期限を迎えるが、フランス搬出について「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と“同等の意義”がある」としている。6月19日に経済産業省で杉本知事と面会した西村康稔経産相も、同様の見解を示した。

「同等の意義」について、福井県側の見方は厳しい。同月23日、資源エネルギー庁の小澤典明次長が福井県庁で今回の方針を説明し、県議会の全員協議会での質疑に応じた。多くの県議が質問を行ったが、大方の理屈はこうだ。

関電が約束したのは、今年末までに「中間貯蔵施設の候補地を示す」ことであり、約束が果たされたとはいえない。また搬出するのは中間貯蔵施設で運用を目指す約2000tの使用済み燃料のうち、わずか10分の1の200tに過ぎず、問題の解決にはなっていない――。

28日の県議会一般質問で見解を問われた杉本知事も、「30年頃に2000t規模で操業を開始する計画が確実に実現できるのかという点で具体性に欠け、県民に分かりにくいと」との見方を示し、今後については「国からの回答、さらには立地の市や町の意見、そして県議会の考え、こういったものを聞かせていただきながら、総合的に判断をしてまいりたい」と語った。

一方、むつ中間貯蔵施設の共同利用について、電気事業連合会の池辺和弘会長は同月16日の記者会見で「今回の実証研究とは全然違う問題」と述べ、検討を続ける姿勢に変わりないことを示している。対して、注目の宮下知事は就任会見で「市長の時代に申し上げてきたことと何ら変わるところはないので、同じスタンスで臨んでいきたい」と従来の姿勢を固持し、両者の溝の深さが改めて浮き彫りとなった。ただ中間貯蔵施設そのものについては、「核燃料サイクル事業の中でも非常に重要な施設だと考えているし、当時そういった考え方のもとにむつ市が誘致したと理解をしている」との見解を示した。

共同利用か、県内貯蔵か 「もんじゅカード」再び?

一体、落としどころはどうなるのか。共同利用が受け入れられなった場合、サイト内での中間貯蔵という可能性もある。実際に2月17日の県議会一般質問では、大飯原発を抱えるおおい町選出の田中宏典議員が「仮に年末までに県外での中間貯蔵施設の立地点が確定しても、施設の整備に入っての期間が必要となる。原子力発電所の運転を継続し、地域住民の安全・安心を確保するため、サイト内でのより安全な方法での一時的な保管(乾式保存)が必要になると考えている」と発言している。かつて高速増殖炉もんじゅを巡り、新幹線の延伸など地域振興策を求めたいわゆる「もんじゅカード」のように、条件闘争をした上での県内貯蔵という決着もあり得るかもしれない。

むつ中間貯蔵問題では、「関電がむつ市に筋を通さず、三村伸吾前知事に頼っていた」(原子力関係者)、「私に一切根回し、相談がない。電事連は一体何をやっているのか」(地元選出のあるベテラン国会議員)など、電力業界の調整力不足も指摘されている。また使用済み燃料の海外搬出を巡っても、「杉本知事への事前説明不足などで、福井県側には関電の姿勢に対する不信感が募っている」(地元紙記者)という。一連のGX(グリーントランスフォーメーション)法案で原子力政策が前進する兆しがある中、中間貯蔵問題が大きな足かせにならぬよう国と電力業界には一層の努力を求めたい。

【目安箱/6月24日】アンモニア混焼発電に未来はあるか?


アンモニア混焼発電は、脱炭素のための新たな発電技術として期待される。日本独自のもので、官民が一体となって開発を試みている。ところが欧米諸国の反応は今ひとつ。今回のサミットでも首脳宣言などで推進の文言は入らなかった。しかし「それでいい」との声が電力会社からは聞かれる。関係者は「石炭火力の延命策」のために、取り組んでいるからだ。

アンモニア混焼の実証を行っているJERA碧南火力

◆G7諸国は意図的に無関心

今年2023年の4月に札幌で行われたG7エネルギー環境大臣会合で、経産省とメーカーは、水素・アンモニア混焼の大規模な展示ブースを作った。ところがG7諸国の政府関係者、大臣に同行したいくつかの企業やメディアは、そこを訪問しなかった。招待国のいくつかの国の関係者と、日本企業の担当者が訪問しただけだ。「経産省の某高官が人の入りを確認するためか、何度も見にきていた。各国の関心の少なさにがっかりしたかもしれない」と、電力の技術系幹部が、気の毒そうに感想を述べていた。

各国の無視は意図的なもののようだ。「アンモニア利用の裏の目的は、石炭火力の延命にある。みんな知っている。だから私たち電力は協力するが、欧米諸国は国も企業も無視したのだろう。技術の覇権争いの面もあるだろう」(同幹部)。

ここ数年のサミット、そしてCOP(気候変動条約締約国会議)の主要議題は石炭火力発電の廃止の是非だ。石炭火力は、気候変動問題で悪者にされている。しかし日本は無資源国であり、原子力の運用が見通せない。そのため石炭火力の廃止に消極的だ。他国からの外交攻勢に対抗するために、日本政府は水素・アンモニアを石炭火力と混焼し、それによって発電での二酸化炭素削減を行う方針を掲げている。

その意図を、各国政府は当然承知している。そのために反応しないのだろう。米国のケリー変動問題担当大統領特使はG7の会合で「まず石炭火力の縮小、廃止だ」と、アンモニア混焼に関心を示さなかったという。この大臣会合でも、サミットの首脳宣言でも、水素は文言として盛り込まれたが、アンモニアは言及されなかった。

◆経産省は効果を強調、二酸化炭素排出は大幅削減

日本政府はアンモニア発電の効果を強く主張する。経産省は、日本の石炭火力発電を「アンモニア専焼」の火力発電に置き換えた場合、電力部門からの二酸化炭素排出量は現状の5割まで削減できるとする。「20%混焼」の場合でも、同排出量の1割削減が可能としている。これが事実とすれば、石炭火力の存続のための重要な論拠になろう。

ただし、欧州の環境シンクタンクは、アンモニアの発電利用を揃って批判する。その温室効果ガスの削減効果が限定的であること、またコストが高くなってしまうことを指摘している。経産省の主張は楽観的すぎるかもしれない。(海外の動きを紹介した第一生命経済研究所リポート「アンモニア混焼を巡る日本と欧米の温度差~「日本流脱炭素」はグローバルスタンダードとなりうるか」)

電力会社と経産省、産業界はここ数年、火力発電の未来像を審議会、研究会を使って探ってきた。そこでアンモニアを原料にする発電が注目された。「アンモニアの活用は、火力関係者全体で石炭存続策の知恵を絞った結果出てきたものだ。これを試そうという機運は高まっている」(同)。経産省は2021年に決めた第6時エネルギー基本計画で、2030年に発電の1%を水素・アンモニアにするとした。さらに岸田政権の中心の経済政策GX(グリーン・トランスフォーメーション)では水素と共に官民協力の重点政策の一つにした。

(図1)第6次エネルギー基本計画の電源構成(経産省資料より)

◆LNGへの応用、輸出も視野

国はアンモニア発電で、2021年度から4年間JERA碧南火力発電所での20%混焼を実証中だ。そこでは、大きな問題は起きていない。この技術は2030年頃の実用化が見込まれている。また経産省は、アンモニアの混焼を船舶燃料とLNG発電でも行う予定だ。

欧米には無視をされたが、石炭火力が主力である中進国は、アンモニアの活用に関心を示す。日本政府はアンモニア利用の国際シンポジウムを2021年10月に開催した。そこでマレーシアなどアジア各国のエネルギー大臣にウェブで参加してもらった。そして協力するとの意向を引き出した。将来は輸出ができる可能性がある。そのために、三菱重工、 IHIは、アンモニア発電の開発を、会社の新規ビジネスとする考えを打ち出している。

また水素より、アンモニアは活用が楽だ。運搬の際には、水素はマイナス235度、そして高圧にする必要がある。アンモニアは、マイナス33度で液化し、圧力も少し加えるだけで良い。実際に火力に気化して混焼する場合にも、「既存設備の改造はアンモニアの方が楽」(同)と言う。

ただし、現在のアンモニア合成技術であるハーバー・ボッシュ法では大量のエネルギーの消費が必要で、コストがかかる。「試算では石炭火力のランニングコストを大きく上回る可能性がある」(同)。そのために商業化には、アンモニア製造の技術改善が必要のようだ。

◆カードとして、可能性を探るべき技術

アンモニアの発電への活用は、「日本の独自技術」であることは確かだが、経産省の言うほど劇的に日本の発電を変え、大きなビジネスとなる技術ではなさそうだ。しかし、電力業界にとっては石炭火力発電の延命、メーカーにとっては石炭火力プラントの輸出につながるかもしれない。可能性がある技術カードとして、大切に育てる価値はある。

【記者通信/6月21日】都のエネ関連2委員会に燻る〝また裂き〟懸念


新築住宅への太陽光パネル設置義務付け条例を全国に先駆け成立させた東京都が、エネルギー政策で二の矢三の矢を放とうと、外部識者を招いた2組織を新たに発足させている。ただ、両組織の構成からは、また裂きとなる懸念がぬぐえない。

水素戦略への期待感を示す小池知事

小池百合子知事は6月6日の第2回都議会定例会の所信表明で、G7サミットの成果を引きつつ「『戦略』と『実装』を支える二つの有識者会議を梃子にして、環境に優しく安定したエネルギー基盤の構築を先導してまいります」とぶち上げた。

その後の質疑で、前者の「都エネルギー問題アドバイザリーボード(アドバイザリーB)」は「大局的観点から意見を受け、エネルギー政策の戦略性を一層高める」とし、後者の「再エネ実装専門家ボード(専門家B)」は「技術的、専門的な助言を得ながら、再エネの基幹エネルギー化を加速度的に進める」組織との認識を示した。

アドバイザリーBにはキヤノングローバル戦略研究所の今井尚哉研究主幹、東京大生産技術研究所の岩船由美子教授、国際大学の橘川武郎副学長、国際環境経済研究所の竹内純子主席研究員らが参加。一方、専門家Bには、自然エネルギー財団のエイモリー・B・ロビンス理事、京都大再生可能エネルギー経済学講座の諸富徹教授らが入る。この構成を比べるだけでおおよそ議論の行方は検討がつくだろう。

5月末のアドバイザリーBは、ゼロエミ実現の過程で、どのように都民の理解を得た上で火力発電を稼働させ安定供給体制を維持するか、といった議論が交わされた。一方で、6月19日の専門家Bでは、現状の日本で火力が果たす調整力としての役割を等閑に付すようないわゆる「再エネ万能論」的な言説がみられた。

両者の議論が今後かみ合うのかは、極めて疑問だ。そして、それらを踏まえた都のエネ政策の行方には懸念が尽きない。発信力には定評がある小池知事だけに、万が一「キメラ」が生まれれば、災厄を被るのは都民だけでは済むまい。

【目安箱/6月14日】原発再稼働容認に動く⁉世論調査の変化


日本原子力文化財団が2006年度から継続して調べている「原子力に関する世論調査」の2022年度版がこの5月に発表された。

東京電力の福島第一原発事故から、筆者はこの調査を見て、がっかりし続けてきた。原子力への不信感が非常に高い状況が続いたためだ。ところが21年度から状況に変化が生じ、今回の22年度には、原子力に対する見方は厳しさが残るものの、一時的な活用をすべきという考えが増えている。民の声は天の声―—。日本人の大半は賢明だ。この世論調査で、それが改めて確認できた。この好機を捉えて電力・原子力に関わる人々がその持ち場ごとに、行動を起こすべき時であると思う。

◆改善する原子力のイメージ

この調査では、18の質問を行なっている。その中から、「原子力発電の利用」に関係するテーマ3つを見てみよう。回答者は15~79歳の男女1200人で、全都道府県から無作為抽出された人々だ。昨年(21年)の10月に行った。

原子力発電に対するイメージへの回答(複数回答可)を示す(問1)。肯定的な意見をピックアップすると、「必要」が31.1%、「役立つ」が25.3%と、福島事故から最も高くなった。(図1)

図1

一方で、否定的なイメージへの回答だと、「危険」が61.5%、「不安」が48.8%、「複雑」が40.0%となっている。「危険」「不安」は前年とほぼ同じだが、複雑がここ数年増えている。人々の原子力への印象は、改善していることがうかがえる。

◆電力価格上昇が関心を高める

「エネルギーで関心があるテーマ」への設問への回答は次のとおりだ(問3)。

「地球温暖化」が52.8%と多かったものの、次の「電気料金」が48.3%、3位の「日本のエネルギー事情」が39.1%、4位の「電力不足」が38.9%、6位の「災害による大規模停電」が25.3%となった。「日本のエネルギー事情」は22年度から新しく聞いた項目で比較はできないが、その他の推移を見ると、「電気料金」「日本のエネルギー事情」「電力不足」「停電」は、いずれも関心が増えている(図2)。

図2

電気料金の高騰、電力不足、停電危機に直面し、人々の意識が変わったことを反映したものだろう。

◆原子力活用に対する厳しい見方は変わらず

原子力発電の利用に関する考えはどうだろうか(問8)。もっとも多い意見は「徐々に廃止」44.0%、次いで「わからない」28.8%。積極的な原発利用層である「維持」「増加」はそれぞれ 12.0%、5.4%となった。一方、「即時廃止」は 4.8%にとどまった。

原子力エネルギーをめぐる不信感は社会に根強く残る。それでも、即時廃止は東電事故以来最も少なく、肯定的意見はここ数年には漸増している。

目先の原子力再稼働についてはどうだろうか(問9、図3)。「原子力発電の再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」という問いに「得られていない」が46.0%と、「得られている」の4.5%を大きく上回り、国民の視線は厳しい。

しかし「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」などの理由を背景に、原子力発電所の再稼働を求める人が、ここ数年増えている。「電力の安定供給のために原子力発電の再稼働が必要」問という人は、35.4%に達した。

図3



このほかの調査でも、原子力の最終処分の必要性で認知は広がっていた。また信頼できる情報は少ないと感じる人が多かった。

この状況を見ると、ウクライナ戦争などエネルギーに影響を与える国際情勢の変化、日本国内の電力供給の混乱を前にして、人々はエネルギー問題を冷静に受け止め、原子力のあり方を考えようとしている。そして正確な情報を得ようとしている。日本人は賢明だ。

◆原子力の必要を主張するときか?

岸田文雄首相は昨年7月中旬、電力不足に備えて原発の再稼働を進める意向を表明。そして岸田政権は今年2月にグリーントランスフォーメーション(GX、脱炭素移行)戦略を決定し、そこで電力供給の安定化と原子力の活用を、政策課題の一つにした。東電事故以来、あいまいな状況であった原子力政策は「活用」に転換した。

しかし現時点では掛け声だけで、政府は具体的な対策に踏み出していない。原子力の発展に足枷になっているのは、原子力規制委員会による過剰規制による再稼働の遅れ、そして電力自由化による電力会社の経営先行き不安と原子力への投資の抑制の2つだ。それらの大問題には政府は手をつけていない。関係者からも「変えよ」という強い要求は出ていない。

世論の原子力への態度が、ここまで変わったのだから、政府、そして民間の担い手は、そうした原因の改善にもう一歩踏み出していいのではないか。また上記に示されたように「国民の理解が得られていない」としながら、再稼働を認める人が増えている。だとしたら政府と政治家、そして当事者の電力会社は、再稼働、また原子力問題について国民に語り、理解を深めるべきであろう。

状況は変わりつつある。それを動かしてほしい。