火力発電で使う燃料の2割を、石炭から燃やしてもCO2を出さないアンモニアに置き換えて発電する――。国内火力発電最大手のJERAは、碧南火力発電所(愛知県碧南市)で3月末以降に、そんな実証試験に乗り出す。商用の石炭火力発電所で行う大規模試験は世界初で、CO2を排出しない「ゼロエミッション火力発電」の実現に向けた大きな一歩となる。試験の準備が進む同発電所を歩き、2027~28年をめどに商用運転に移行するアンモニア火力発電の最前線に迫った。
碧南火力発電所に新設したアンモニアの貯蔵タンク
◆4号機100万kWの実証を公開
名古屋市から南へ約40kmに位置する臨海部へバスで向かうと、巨大な建物が姿を現した。愛知県の約半分の電力をつくる総出力410万kWのJERĄ碧南火力発電所だ。その一端を担う100万kWの4号機で進めるのが今回の試みで、実証に先立つ13日に試験設備を報道陣に公開した。
発電所に到着した記者たちは、アンモニア漏えい時の避難や安全確保の方法について説明を受けた上で、防護用のヘルメットと眼鏡を装着。その後、高さがビルの20階以上に相当する4号機のボイラーへ向かった。同機の屋上から一望すると、名古屋ドーム40個分に匹敵する広大な敷地に多様な設備が整然と並んでいた。海に面する敷地に目を移すと、燃料の運搬船を受け入れる桟橋や運ばれた石炭をためる貯炭場も確認できた。
船で荷揚げした液体のアンモニアは、パイプラインを経由して専用のタンクに貯蔵。試験では、そのアンモニアを気化し、石炭を燃やすボイラーに差し込まれたバーナー(燃焼装置)で燃やす。そこで生まれた熱で水を沸かして蒸気に変え、タービン発電機を高速で回して電気をつくるという仕組みだ。
アンモニアを燃焼するためのバーナー
◆新型バーナーでアンモニア対応
バーナーは48本。重工業大手のIHIが開発した新型ノズルを取り付けることで、アンモニアを燃料として利用できるようにした。バーナーがある場所に潜入し、「のぞき窓」に目を向けると、オレンジ色の炎を観察できた。ボイラー内部は、約1500℃に達するという。
バーナーの「のぞき窓」から見える炎
さらに、新設された2000㎥(約1300t)という規模のアンモニア貯蔵タンクなども見学。蒸気を送り込む巨大なタービンを間近に見ると、想像を上回る大きさに圧倒された。
実証に向けては、約4万tのアンモニアを海外から調達。6月まで進める試験では、「安定して燃焼できるか」「電力需要の変化に応じて燃焼を調整できるか」などをテーマに検証を進める計画だ。
両社がアンモニア火力発電に熱い視線を注ぐ理由は、既存の技術や設備を一部改良するだけでアンモニアを利用できることに加えて、その扱いにも慣れているからだ。技術面では、アンモニアを燃やした際に排出される有害物の窒素酸化物(NOx)を高度に制御する対応が求められるが、そうした課題をクリアするために必要な技術を磨いてきた。IHIカーボンソリューションSBU副SBU長の高野伸一氏は「試行錯誤してアンモニアの注入方法を工夫した」と胸を張る。具体的には、アンモニアを空気が少ない状態で燃やした後に燃え残りを燃焼させる工夫で、NOxの発生を抑制できるようにしたという。
JERAが試験の後に見据えるのが、石炭からアンモニアへ置き換える転換率を50%以上に高めるという目標だ。将来的には、100%まで高めるための課題も探りたい考えだ。谷川勝哉・碧南火力発電所長は「確立した技術を国内外の火力発電に転用し、世界の脱炭素化に貢献したい」と意欲を示した。
◆アンモニア燃料の安定確保が課題
脱炭素化という潮流を見据え、2050年に自社事業から排出されるCO2をゼロにすると宣言したJERĄ。その一環でアンモニア火力発電の普及という野心的目標に挑む同社だが、その達成に向けた道のりは決して平たんではない。アンモニアへの転換率を段階的に高めようとすると、膨大な量のアンモニアを確保する必要があるからだ。
JERAによると、4号機で1年間を通じて20%の燃料をアンモニアに置き換えた場合、年間約50万tが必要となるが、日本が輸入するアンモニアの量は同20万t程度にしか過ぎない。アンモニアへの転換率を引き上げ、確立した発電技術を国内外の発電所へ水平展開しようとすると、必要な調達量はさらに増大してしまう。
碧南火力発電所を一望できる4号機の屋上
そこでJERAは、グローバル規模でクリーンなアンモニアを低コストで安定確保するためのサプライチェーン(供給網)を構築しようと、仲間づくりに注力。すでにノルウェーや米国に本社を置くアンモニア製造大手との間で協業に向けた検討を始めたほか、燃料の輸送体制を巡って国内海運大手の日本郵船や商船三井とも協議を進めている。
◆再エネと組み合わせ脱炭素化促す
そもそも火力発電は、日本の電源構成の7割以上を占める重要な発電法のひとつで、燃料の投入量を変化させることで出力を制御できるという強みを持つ。気象条件によって発電量が時々刻々と変わる太陽光や風力といった再生可能エネルギーで計画通り発電できない場合、発電量を柔軟に調整しやすい火力発電の出番が出てくる。JERĄ脱炭素推進室の高橋賢司室長は「仮に2030年に30~40%の再エネを導入した場合、それを補完する調整力が必要となる。再エネとゼロエミッション火力を組み合わせ、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量が実質ゼロ)を目指したい」と意気込む。
◆「グリーンウォッシュ」の誤解払拭できるか
脱炭素化とエネルギーの安定供給という相反する課題に取り組むためには、選択肢を広げる「現実的なアプローチ」が求められる。そうした観点からJERAは、ゼロエミッション火力と再エネの相互補完で両課題を解決するシナリオを描いているが、アンモニア火力発電を誤解して受け止めるケースも少なくない。アンモニアと石炭の「混焼」というイメージが一人歩きし、石炭からクリーンなアンモニアに切り替えてCO2を減らす「転換」の真意が十分に伝わっていないという。環境配慮を実態以上に見せかける「グリーンウォッシュ」といった声まで浮上している状況だ。
日本勢が技術開発で先行するアンモニア火力発電を「脱炭素化とエネルギー安定供給を両立できる有効な手段」として実用化し、世界に認知させることができるか。アンモニアの燃料利用は未開拓の領域だけに、有効性と経済性を証明する中長期の道のりで根気が試されそうだ。