【記者通信/6月22日】経産・環境省人事に見るエネルギー政策の注目点


政府は6月21日、経済産業省や環境省の幹部人事を発表した。国際的な化石燃料価格高騰や資源調達、今夏・冬に懸念される電力需給ひっ迫問題など、エネルギー問題の重要課題が山積みの中、経産省は多田明弘・事務次官(1986年入省)や保坂伸・資源エネルギー庁長官(87年)を留任させる。一方、環境省では中井徳太郎・事務次官(85年大蔵省入省)が退任し、後任には和田篤也・総合環境政策統括官(88年環境庁入庁)が就任する。7月1日付で発令する。

経産審議官に就任する平井氏(左)と、環境事務次官に就任する和田氏

環境省人事で注目される炭素税議論 財務省シフトの行方は

新たな布陣となる環境省で、今後の注目点の一つは炭素税導入に関する動きだ。

財務省出身の中井氏は、消費増税が一服した後の新税として、炭素税導入とその一般財源化に意欲的と見られてきた。昨年、鑓水洋氏(87年大蔵省入省)が大臣官房長に就任したことで、関係者の中には「環境省の財務省シフトが鮮明化した」(大手エネルギー会社幹部)と見る向きが多い。

ただ、小泉進次郎氏から山口壯氏への大臣交代後、昨年末からの化石燃料価格の急騰で「負のカーボンプライシング」的施策である石油元売り会社への補助金を措置したことで、炭素税議論はトーンダウン。他方、コロナ禍の対応で政府全体の財源不足が一層加速する中、再び炭素税導入を模索する動きも水面下で出始めた。参院選後に大臣交代の可能性もある中、環境省生え抜きの和田氏が炭素税導入にどのような姿勢で臨むのかが重要なポイントとなりそうだ。

同省ではこのほか、小野洋・地球環境局長(87年環境庁)が地球環境審議官、松澤裕・水・大気環境局長(89年厚生省)が地球環境局長、上田康治・内閣官房内閣審議官(89年環境庁)が総合環境政策統括官に就任、といった人事を決定。正田寛・地球環境審議官(86年建設省)は退任する。

保坂―飯田―小澤ラインが復活 CP政策はどう展開

一方、経産省では次官、エネ庁長官は留任となったが、ナンバー2の経産審議官の広瀬直氏(86年)が退任し、後任に平井裕秀・経産政策局長(87年)が就任した。次官待ちポストとされる経産政策局長には飯田祐二氏(88年)が就き、首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官を兼務する。大臣官房長には藤木俊光氏(88年)が就任。産業技術環境局長の奈須野太氏(90年)は内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官に転任し、後任には畠山陽二郎・商務・サービス審議官(92年)が就く。製造産業局長に山下隆一・エネ庁次長(89年)が就き、後任は首席エネルギー・地域政策統括調整官を務める小澤典明氏(89年)が兼務する。

エネルギー業界にとっての注目点は、経済産業政策の新機軸の検討を支えてきた飯田氏が再び首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官のポストを兼務することだ。2020~21年に第六次エネルギー基本計画の議論を主導した「保坂―飯田―小澤ライン」が立場を変えて復活することになる。「電力需給ひっ迫など、わが国が直面するエネルギー危機への対応を強化すると同時に、喫緊の課題となっている原発再稼働を着実に進めていく狙いが見て取れる」(大手エネルギー会社幹部)。また福島関係では、総括審議官の片岡宏一郎氏(92年)が福島復興推進グループ長に就任。福島原子力事故処理調整総括官の須藤治氏(89年)と共に、福島第一原発の廃炉や処理水の海洋放出などの政策対応にあたる。 もう一つの注目点は、環境省人事とつながるカーボンプライシング(CP)政策だ。奈須野氏が産技局長の在任中に、経産省はGX(グリーン・トランスフォーメーション)リーグを立ち上げ、将来的な義務的排出量取引の導入に向けて道筋を付けた。そのポストが畠山氏に交代する中、年末の税制調査会、さらには岸田文雄首相が先月発表した「GX経済移行債」の償還財源を巡る議論を背景に、炭素税を含めたCP政策がどう形作られるのか。環境省の和田新次官体制との綱引きも含めて、今後の展開から目が離せない。

【目安箱/6月21日】故・葛西J R東海会長が語った原子力再生へのヒント


JR東海の葛西名誉会長が5月に亡くなった。国鉄改革とJ Rの再生に活躍した。最近はリニア、高速鉄道、それに関連して日本のエネルギー問題に関心を寄せていた。ご冥福を祈りたい。

筆者は、電力・電機メーカーの技術者や研究機関、学者などのOBで構成する日本原子力シニアネットワーク連絡会が2014年におこなった会議に参加し、また仕事の関係で、葛西氏と懇談する機会があった。

ある懇談の際に、ドイツの作家シュテファン・ツヴァイクの伝記『ジョセフ・フーシェ』の話を聞いた。葛西氏はその本について書評を書いていた。フーシェはフランス革命の際に、警察部門のトップになり、その権力を使ってナポレオンの帝政時代、体制の変わった王制時代の途中まで地位を維持し続けたが最後に失脚し、現代に至るまで批判される人物で。落ち着いた口調で、「フーシェは、自分のために権力を使いました。力は人によって善にも悪にもなる。私は1民間企業や社会にほんの少し影響力を出せる程度ですが、自分の行為がどのように社会に影響し後世に残るか、その影響が良きものであるか、常に考えています」と話した。葛西氏には剛腕の評価があるが、一見すると物静かで教養あり、人間的に練れた人との印象を受けた。

その2014年8月の講演を思い出して、記してみよう。

◆電力の経営危機は当然の帰結

葛西氏は当時の講演で、まず電力会社の経営を分析した。「企業経営のポイントは財務諸表から見える。今の電力会社は支出の4~5割が燃料費、そして次に設備費だ。燃料費の負担は原発を停止して、火力発電を焚きますために非合理に増えている。原子力規制委員会の対応の遅れ、政治の不作為で行政手続きが曖昧で、再稼動ができない。電力会社は一番のコスト要因が取り除けず、経営で手の打ちようがない」。

さらに経済への影響を述べた。「このまま出血が続き企業体力を消耗するジリ貧では、電力会社の経営が危険になる。電力価格は転嫁されて消費者が苦しみ、日本経済をむしばむ。日本は現在、原発停止の代替燃料として年間4兆円程度、中東からLNG(液化天然ガス)を焚きまし分として多く購入している。原子力の長期停止は国益を損ない、日本経済、そしてアベノミクスを失速させかねない」。

その上で「高品質で安定的かつ低価格でエネルギーを利用できることが、経済活動の土台になる。日本は無資源国という宿命を持つ。経済の悪影響が深刻になるまで、残された時間はあまりない」として、原子力政策、エネルギー政策で、当時の安倍政権が原発再稼動、電力自由化の検証、そして正常化のために早急な決断をすることが必要と強調した。

ただし、さすがの葛西氏でも見通しが外れた。14年末ごろから米国のシェール革命の影響が出て、ガスとオイルが市場に供給されて化石資源価格が下落。14年初頭に当時1バレル100ドル以上だった石油価格が、15年に30ドル台へ急落した。日本の表面上の好景気は維持され、原子力とエネルギーの問題は、自民党政権によって先送りされた。

ところが22年、世界的なエネルギー価格の高騰とインフレで、日本経済の先行きが懸念される。そして原子力発電所の再稼働は進まない。電力会社の経営危機も葛西氏の懸念が、現実になりつつある。

◆民主党のポピュリズムの悪影響

葛西氏は、民主党政権とそのエネルギー政策について批判した。「政治家が自分の意見を持たず、他人の意見ばかり聞き、ポピュリズム(大衆迎合主義)に陥ることが多かった。エネルギー・原発問題で悪しき側面が出た」。

その上で、当時の菅直人政権の政策の失敗を4点あげた。①福島事故に際して、初動時点で適切な広報をせず、放射能への過度な恐怖感を広げてしまった、②原発を無計画に止めた、③東京電力に事故での無限責任を負わせた、④その結果、除染や賠償で東電に負担させればよいという無規律な状況が生まれた――。

その後の安部政権に対し、葛西氏は「民主党の失敗を早急に是正するべきだ」と訴えている。しかし、現実は民主党の政策をほぼ継続し、福島に資金を注ぎ込む政策を継続してしまった。福島の復興は進んだ面があるものの、それが合理的で、適切であったかは、見方によって異なるだろう。

◆信頼回復には何が必要か

葛西氏は、原子力関係者に「福島事故からの信頼回復のためには、関係者は反省を深め、安全確保のための努力を重ねてほしい」と注文をつけた。そして「主張には大義名分、つまり『正当性』が常に必要になる。自らの主張にそれがあるか常に考えてほしい」と自省をうながした。過去の国鉄の大事故では、安全を向上させて適切に列車を動かすことで、失墜した信頼を少しずつ回復できたという。

福島原発事故の後で、関係者の間には、原発への反感からの批判を怖れて原子力問題での意見表明を自粛してしまう雰囲気がある。葛西氏は日本的な『空気』に萎縮してしまうことに理解を示した上で、「一般の人々に対し、原子力を活用しない場合の問題、特に負担増などの問題が起こることを示すことが必要ではないか。それぞれの持ち場で一人ひとりが責任を果たすリーダーシップを取ってほしい。非日常の状況では、リーダーシップがなければ、物事も組織も動かない。使命感を持ってエネルギー・原子力を再生してほしい」と、期待を述べた。

◆葛西氏の残したメッセージを噛み締める

「改革に大義があり、状況が熟せば水か高いところから低いところに流れるように、状況が自然と動くことがある。ただし、おかしな方向に転がることもある。その結末に最新の注意を払ってほしい」と、葛西氏は締めくくった。

原子力への逆風の中であっても、財界、そして企業の要職にありながら、社会への憂いから、おかしいことには「おかしい」と正論を述べる葛西氏の態度は、大変参考になった。

葛西氏の講演から8年。筆者はエネルギー業界の末席につらなるが、エネルギー・原子力を巡る状況は悪化しているように思われる。葛西氏の懸念が現実になりつつある。それに良い影響を与えられない自分の力のなさにも、歯痒さを感じる毎日だ。

電力関係者に、今の苦境を打ち破る、葛西氏のようなリーダーはいるのだろうかと考えてしまう。そして自分も含め、もう一度、葛西氏の考えを思い出し、自分の仕事を見直したい。

【目安箱/6月13日】政府文書から「原子力を低減」が消えたワケ


最近の政府のエネルギー政策を巡る要人発言や公文書を追うと気づくことがある。2011年3月の東京電力福島原発事故直後から昨年第六次エネルギー基本計画まで、政府のエネルギーを巡る公表文書に必ず盛り込まれてきた「原子力発電を可能な限り低減する」、もしくはその趣旨の言葉が消えている。政府は意図的に使っていない。そして政策変更を目指す政治の動きが背景にある。

◆「骨太」、自民公約から消えた「原子力低減」の主張

政府は6月3日、毎年出す経済財政運営と改革の基本方針(通称・骨太の方針)を与党に示した。原発については「厳正かつ効率的な審査を進める」とした上で、「最大限活用する」との文言も明記した。21年の骨太の方針は「安全最優先の原発再稼働を進める」との表現だったがそこから変わり、そこに記載された「(原子力を)可能な限り依存度を低減する」という表現は消える見通しだ。

萩生田光一経済産業相は3日の閣議後の記者会見で、政府としての原発活用の方針を転換したかを問われ「可能な限り依存度を低減する方針とはなんら矛盾しない」と話した。

しかし経産相の建前の発言と実情は違う。経産省筋によると「萩生田大臣、細田健一副大臣、そして自民党の意向で、『骨太』だけではなく、昨年から政府の公表文章から『原子力を低減』の言葉を消している。上からの指示だが、これは経産省内の総意でもある」という。

萩生田大臣、元経産官僚の細田副大臣も原子力活用派だ。そうした彼らでも、公職の地位があると、持論を展開できない。そこでこうした小さな変化を政治主導で行っているようだ。

自民党も言葉遣いを変えた。7月の参院選挙での同党選挙公約では「低減」の言葉は消え、「原子力を最大限活用」という表現になった。これは、これまでにない強い表現だ。「公約作成では、連立与党で原子力発電ゼロを目指す公明党への配慮の声もあったが、党内の大勢の意見を反映した」(自民党関係者)という。

◆世論の変化が、政府・自民党に影響

昨年からのエネルギー情勢の変化で、原子力を巡る風向きは変わった。エネルギー価格の上昇、そしてウクライナ戦争での天然ガス供給危機、さらには今夏、今冬の停電懸念を多くの国民は不安視している。一方で原子力発電の再稼動が遅れ「おかしい」という意見が各所で目立つ。こうした声に敏感な政治家が動き出しつつある。これまでエネルギー問題で積極的に動かなかった岸田文雄首相さえも、ここ1か月、「原子力を活用」と踏み込んだ発言をするようになった。「嶋田さん(隆、首相秘書官、元経産事務次官)が首相のエネルギー政策の考えに影響を与え始めた」(同関係者)。

原子力規制委員会の政策で、規制厳格化による審査の遅れ、それによる原子力発電所の長期停止が問題になっている。同委員会は2012年の設立時に、独立行政機関として権限を与えられて発足し、政治が口を出しづらい形になっている。また同委員会の発足に伴う法改正は、国会の全会一致があった。そのために規制を巡る法改正も野党が抵抗しそうで、なかなか難しい。

それでも自民党内では、議員の会合や勉強会レベルでは、「どうやって原子力発電所を再稼動するか、どうやって法改正をするかが、語られるようになっている」(同関係者)。自民党原子力規制特別委員会(委員長・鈴木淳司衆議院議員)は、5月に政府に提出した規制改革への提言で、「状況によっては法改正も視野」と明確に言及した。経済政策で首相の相談役とされる、甘利明衆議院議員も、原子力の活用を強く申し入れているもようだ。

「7月10日の参議院選挙で原子力の再稼動は争点の中心にできないが、選挙に勝って安定多数を得られたら再稼動、そしてリプレイスの議論がようやく政治の公の場で、可能になる」(同関係者)との期待もある。「原子力を低減」との言葉が消えた裏には、大きな政策変更のうねりが隠されている。

【記者通信/6月7日】7年ぶりの節電要請決定 冬季へ一層踏み込んだ対策も


「室内温度を28℃にしたり、不要な照明は消したりなど、節電・省エネしていただきたい」(萩生田光一経済産業相)


政府は6月7日、「電力需給に関する検討会合」を5年ぶり開き、足下の厳しい電力需給状況を踏まえて今夏(7月1日~9月30日)、企業や家庭に対し節電を要請することを決めた。節電要請は、東日本大震災後、原子力発電所の長期稼働停止で供給力が減少したことに伴い行っていた15年以来、7年ぶりだ。
背景には、原発長期停止中の安定供給を担ってきた火力発電が、老朽化と再生可能エネルギー大量導入による不採算化が相まって大量退出に歯止めがかからないことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化で燃料調達リスクが顕在化し、深刻な需給ひっ迫が目前に迫っていることがある。
夏季に向けて供給側では、各エリアの一般送配電事業者が120万kWの追加供給力、10億kW時の追加燃料調達の公募を行い、積み増しを進めているが、悪天候や需要の上振れ、トラブルなどによる計画外停止などが重なれば需給がひっ迫するリスクは依然として高い。

原発再稼働の要望コメント相次ぐ


そこで政府は、熱中症予防に留意した省エネ・節電に資する具体的な行動メニューを作成、周知することに加え、産業界に対しエネルギー消費効率の高い設備や機器への更新を促す。また、産業界や自治体と連携した節電対策体制の構築を進める。
より厳しいのは冬季だ。東京エリアの厳気象「H1需要」(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する予備率は、2023年1月がマイナス0.6%、2月がマイナス0.5%。ほか6エリアでも、安定供給に最低限必要な予備率3%を軒並み下回っている。
このため夏季は節電の数値目標は設けないが、冬季は数値目標を伴う節電要請を検討。さらに、電気事業法に基づく電力使用制限令の発動や計画停電の実施、供給側でも電事法に基づく発電事業者への供給命令の発出を視野に入れる。
今夏の節電要請を伝えるニュースには、「原発再稼働を急ぐべきだ」「供給力はあるのにそれを活用せずに節電しろと言われても従えるわけがない」といった、原発再稼働を求めるコメントが多く寄せられていた。岸田首相の「聞く耳」は国民の声を捉えられるか。いずれにしても、電力安定供給は国民生活と経済活動の基盤。節電頼みの対策ではなく、求められるのは抜本的な安定供給体制の再構築だ。

【記者通信/5月24日】トキコ買収に見る岩谷産業の脱炭素戦略


ガス業界を驚かせた岩谷産業による東京ガスエネルギー(TGE)の買収劇。その影に隠れて、もう一つの「買収」が今年の1月に行われていた。トキコシステムソリューションズの買収だ。水素業界やガソリン業界では馴染みのある企業だが、主に計量器や、ガソリン・水素ステーションのディスペンサーを手掛けている。もともと日立系の企業で、紆余曲折を経て投資ファンドが株式を保有していた。岩谷はその投資ファンドから、全株を買い取った。

なぜ、トキコなのか――。

「水素ディスペンサー」に目を向けると、買収のシナジー効果には合点がいく。岩谷は水素販売だけでなく、水素ステーションのエンジニアリング周りの技術力を保有しており、ステーション建設の実績を着実に伸ばしている。そこにトキコ技術を取り入れることで、ステーション関係の技術力を強化する狙いが浮かび上がる。

「マルチステーション」を視野に入れる

そんな中、先日の決算説明会の場で、同社の間島寛社長は「マルチステーション」という興味深いワードを口にした。――。「米国の水素ステーションを視察した時、驚いた。ガソリンスタンドと水素ステーションが一体となっていて、ガソリンディスペンサーのすぐ横に、当たり前のように水素ディスペンサーが併設されていからだ。しかもセルフ式」。もちろん、全てのステーションがそうしたスタイルではないだろうが、安全規制の観点から日本では考えられないような方法を、米国では取り入れているそうだ。

実際、同社は米国でのステーション運用にも乗り出しており、自ら汗をかきながらその辺の運用を見極めようとしている。そんなマルチステーションが日本でも当たり前となれば、「トキコ買収」は岩谷にとって、さらに大きな意味を持つことになる。それに関連してか、今春には、石油元売りのコスモエネルギーと、「水素事業に関わる協業検討に入る」と発表している。そう遠くない将来、これまでの日本のガソリンスタンドの風景がガラッと変わっていくかもしれない。

余談だが、決算説明会の場で、間島社長はもう一つ興味深いことを発言していた。火力発電所向けアンモニア利用についての言及だ。「当社はこれまで(電力会社の火力発電所の脱硝用に)アンモニアを納めてきた。今後、石炭火力の脱炭素化に向けてアンモニア利用が進めば、そのサプライヤーとして少なからず当社でもお手伝いできることがあるのではないか」。水素だけでなく、脱炭素時代のキーテクノロジーの一つである「アンモニア」にも関わろうとしているわけだ。バイオマス火力向けのバイオマス燃料調達や、電気自動車向けのメタル調達などを含め、全方位で岩谷の脱炭素戦略が進んでいきそうだ。

【目安箱/5月23日】原子力復権、岸田政権の姿勢変化は本当か?


政府・与党から、原子力の活用を巡る発言が相次ぐ。しかし、問題の根幹である原子力規制政策の混乱とエネルギー自由化には手をつけず、言葉だけが踊る。

◆岸田首相の意欲は言葉だけ?

ネットがざわついている。「何も決められない」と批判される岸田文雄首相が、このところ原子力を巡って、意欲的な発言を繰り返しているためだ。

「原子力規制委員会の新規制基準に適合し、国民の理解を得ながら再稼働を進めていくという基本的な方針は変わらない。安全は譲れない」(5月19日、グリーンエネルギー戦略に関する有識者会議)という政策はそのままだが、「原子力は日本に必要」(同)と強調した。そして「電力やガス料金の値段の高まりを考えるときに、原子力についてもしっかり考えなければならない。原子力発電所1基を動かすことができれば、世界のLNGの市場で年間100万tを新たに供給する効果がある」(4月26日の経済対策をめぐる記者会見)など、エネルギーや経済を巡る演説で原子力の重要性に言及することが多くなった。

原子力は政治的に難しい問題だけに、岸田首相の以前の沈黙からすると、一歩進んだ発言に見える。一方で「岸田首相は、言葉だけが目立つ『検討使』とあだ名をつけられている。どうせ何もしない」というあきらめもネットでは広がる。

◆規制改革、法改正を視野に入れる自民党

しかし「風向きが変わっている」(自民党衆議院議員)と言うように原子力活用を容認する声が増えているのは確かだ。自由民主党の「原子力規制に関する特別委員会」(委員長=鈴木淳司衆議院議員)は5月12日、原子力安全規制・防災の充実・強化に向けた提言の中間報告をまとめ、岸田首相、山口壮環境大臣らに申入れを行った。

同委員会は自民党内の常設委員会で、2018年に原子力規制の提言を出している。再び積極的な活動を始めたのは、風向きの変化を自民党が捉えようとしたのだろう。提言では、原子力規制が改善していることを評価した。一方で、安全審査長期化による再稼働の遅れで「原子力が持てるポテンシャルを発揮していない」と指摘。さらに「自治体・事業者とのコミュニケーションのあり方や審査の効率的実施など、なお改善の余地が大きい」と、批判をしている。さらに前回報告になかった「法改正も視野」と言及した。

原子力規制制度では、2012年の原子力規制委員会の発足に際して、独立性の強い組織(いわゆる「3条委員会」)とすることが、民主党政権で決められた。その影響で行政や政治家が、その行動を統制できない。そして過剰な規制が、審査の長期化、負担増をもたらしている。

確かに原子力を巡る風向きの変化はある。規制委の更田豊志委員長が今年9月で退任する。規制庁と同庁を管轄する環境省の押した同氏の再任が阻まれたのは、自民党議員が強い反対をしたためとされる。ウクライナ戦争を受けてのエネルギー価格の高騰や、電力会社の経営危機、そして電力供給の不安定化など、エネルギーが企業活動や生活を脅かすようになった。それに伴って、世論でも、原子力発電活用を求める声が拡大。2011年の東京電力の福島事故直後のような感情的な反発が少なくなっている。

具体的な動きはまだ見えない

しかし、「原子力のポテンシャルを活かす」形での原子力規制の正常化は、難しそうだ。

反原発活動で知られる菅直人元首相は、首相退任後に原子力規制委員会ができたときに「すぐに原子力を動かせない仕組みを作った」と、メディアで放言をした。その言葉通り、独立性を与えて法律に基づいて活動をする原子力規制委員会・規制庁という国の組織がある以上、なかなかその行動を是正できない。

また福島事故の後遺症で、規制当局は、過剰な規制を原子力事業者に求めるようになった。それに対応するために、原子力の稼動が遅れることが続いてきた。これを是正するためには、規制のやり方を抜本的に変え、規制当局の担当者を大幅に増やすなどの取り組みが必要になる。

原子力事業者も、規制委員会・規制庁の権限が強すぎるために、抗議や是正要求がなかなかできない。そして、大多数の国民は原子力について、激しい反発は減ったものの、不安感や拒絶反応を今でも持つ。こうした過剰規制を「正しい」、「足りない」とする人もいる。反原発を唱える人は、自民党内部にもいる。国民の意見がバラバラで、「何が正しい原子力規制か」の合意を作りづらい。今の原子力の規制の状況は問題があっても、その問題を作ってしまった諸条件が周囲にあるのだ。それを変えられない

安倍晋三元首相は、原子力問題では先送りを続け、手を付ける兆しのあった菅義偉前首相は早期に退陣した。この問題で政治的な解決が難しいと知っていたのだろう。岸田首相が原子力活用の意欲を示すのはいいことだが、そこから一歩先に踏み出すのだろうか。

ここまでこじれて問題放置された以上、首相がリーダーシップを取り、政権全体、政官民が一体となる法改正や制度再設計がなければ変化は難しい。実際に観察すると、首相も官庁も言葉だけで、原子力規制の法改正などの抜本的な対策に、まだ踏み出していない。規制庁の予算・人員増、提言などの、手が付けられそうな対策にとどまっている。

日本のあらゆる問題では、ダラダラと問題の根本解決が先送りされ、負担が膨らんで、破局がいつの日か訪れる。少子高齢化や財政のような状況に、原子力産業が落ち込んでしまった。復活の日は訪れるのだろうか。

【記者通信/5月21日】50Hz地域の原発再稼働は本当に可能か 停電回避こそ最大の安全・安心対策


来冬の東京電力管内で深刻な電力不足が懸念される中、計画停電などの回避に向け、50Hz地域での原子力発電の再稼働を期待する声が高まっている。「50Hz地域では、原発稼働ゼロの状態が長期化しているが、東北電力女川2号機や東京電力柏崎刈羽6、7号機など、情勢次第で稼働可能な原発はあるのでは。安全・安心が最優先との政府方針に異論はないが、太陽光発電が停止するような真冬の厳寒期・悪天候時に停電を余儀なくされるリスクを考えると、やはり、より優先されるのは電力の安定供給だろう。岸田首相の英断に期待したい」。大手エネルギー会社の幹部はこう話す。

政府がロシア・サハリン産LNGの禁輸に踏み切れば、停止中の原発を動かさざるを得ない状況になる

確かに、50Hz地域では、女川2号機と、柏崎刈羽6、7号機が国の新規制基準に合格し設置変更許可を受けている。うち、女川については、地元了解も得られており、再稼働の実現可能性が高い状況にある一方、2023年11月までは対策工事が続く。「もし冬までに動すのであれば、工事をいったん中断し、再稼働の準備に入らなくてはならない。少なくとも数カ月の期間は必要だが、岸田政権が高度な政治判断をすれば、稼働できないことはない」(東北電力関係者)

一方、柏崎刈羽については、テロ対策の不備が相次いで発覚した問題を受け、原子力規制委員会から核燃料の移動禁止を命じられている。東電が再発防止策を報告してから7カ月がたった4月27日、規制委は追加検査の中間取りまとめを公表した。それによると、テロ対策不備が柏崎刈羽原発の「固有の問題」であり、東電全体の問題ではないとの認識が示されたことで、一部の関係者からは年内の禁止解除に期待する向きも出ている。しかし一方で、地元を中心に、保安規定に盛り込まれた「適格性」を問うべきだとの意見も出ており、再稼働への道筋は以前不透明なままだ。

「ウクライナ危機の深刻化で、G7が今後、ロシア産ガスの禁輸を日本に求めてきたら、おそらく岸田政権は応じる決断を下すだろう。もし、そうなればわが国の電力不足は、より一層大変な状況になるのは間違いない。その時、岸田首相、国会、規制委が一部の野党やメディア、脱原発派の批判を覚悟の上で、電力安定供給を最優先するとの立場から、女川や柏崎刈羽の再稼働を決断できるのだろうか。個人的には、2012年の野田佳彦政権のように、そんな英断ができる政権であってほしいと思う」(エネルギーアナリスト)

原発再稼働で停電を回避することこそが、わが国の経済活動・国民生活にとって最大の「安全・安心」対策ではないかと考えられるが、どうか。

【記者通信/5月21日】政府が20兆円の「GX債」発行へ 今夏の実行会議で行程表


岸田文雄首相は、5月19日に開かれた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会で、脱炭素化社会に向けた経済産業構造の変換「グリーントランスフォーメーション(GX)」を実現するため、政府として20兆円規模の新たな国債「GX経済移行債(仮称)」の発行を検討すると表明した。この資金を呼び水に、今後10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素分野の投資に結びつける。また今夏をめどに「GX実行会議」を設置、萩生田経済産業大臣を中心に関係省庁を横断して、GX経済移行債の詳細や10年間のロードマップを作成する方針を打ち出した。

GX推進へ「支援資金を先行調達」脱炭素電源で新たな枠組み

150兆円超の投資額は13日、経産省のクリーンエネルギー(CE)戦略に関する中間整理が必要性を示し、国債発行についても経団連や日商が政府の財源確保を提言。今回の「GX経済移行債」はそれらを受けた形だ。岸田首相は「従来の本予算・補正予算を毎年繰り返すのではなく、脱炭素に向けた民間の長期巨額投資の呼び水とするため、可及的速やかにGX促進のための支援資金を先行して調達し、民間セクターや市場に、政府としてのコミットメントを明確にする」と、GX経済移行債発行の意図を説明した。経産省からは「財政規律の中で(GXを)やっていくのが当然だが、今回の総理発言はかなりの覚悟を持ったもの。相当気を引き締めないと」との声も出ており、GX実行会議で具体的な取り組みを進める。

懇談会では、脱炭素実現へ取り組む企業の資金調達を支える「トランジション・ファイナンス」などの金融手法も提示。エネルギー戦略については「省エネ法などの規制対応、水素・アンモニアなどの新たなエネルギーや脱炭素電源の導入拡大に向け、新たなスキームを具体化させる」(岸田首相)と述べる一方、CE戦略の中間整理で「最大限の活用」と記載され、注目が集まる原子力に関して岸田首相からの言及はなかった。「政府関係者からは『原子力はバックエンドなど内包する問題を解決できなければ進められない』という意見が出ていた」(出席者)と、政府は原子力の扱いに慎重な姿勢を崩していない。

世界では、先行投資者優位で市場ルール作成などの競争がすでに始まっている。「ここで出遅れたらGX分野で負けてしまう。世界は投資で市場をいいようにルールメイクしてくる。じっくり構えてやる余裕は日本にない」(経産省)。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の柱として、GXで世界に打って出る仕組みをどう作っていくか。20兆円規模の国債をどのような対象に活用していくのか、注目だ。

【目安箱/5月14日】上海電力騒動、本当の問題は橋下徹氏ではなく…


元大阪市長の橋下徹氏を巡る再生可能エネルギーの「疑惑」話が騒ぎになっている。橋下氏が大阪市長時代に、中国企業の上海電力の大阪でのメガソーラー発電所の建設に便宜を図ったという批判だ。ただ、その批判の内容を調べると政治スキャンダルなどに発展する可能性はなさそうで、橋下氏の強い否定と新たな情報がないために収束しつつある。それよりも、これをきっかけに再エネ導入政策をめぐり、議論が深まれば良いと、筆者は期待している。

◆疑惑は法的問題にならなさそう

疑惑とされるものは、中国の上海電力の日本法人が日本企業と共同出資で運営し、2014年に運営を始めた大阪市南港咲洲メガソーラー発電所を、大阪市長時代の橋下氏が支援したというものだ。同社は中国の「一帯一路」政策の成功例とPRしているために、橋下氏が中国に協力したと批判されている。また当初に大阪市から土地を借りた事業者は上海電力ではなかったらしく、事業主体が変わって契約が不透明であり、ここに橋下氏がかかわったとの批判がある。

再エネ問題を知る人は、この程度の情報では、違法性はなさそうだと思うはずだ。12年に始まった再エネの振興策であるFIT(固定価格買取制度)は、再エネ賦課金を電気料金に上乗せし、再エネで発電された電気を買い取る仕組みだ。日本のFITでは、日本と外国の再エネ事業者に差別的な待遇をせず、また買い取り料金が当初は高かったため外資が大量に参入した。正確な統計はないが、業界推定で日本の太陽光発電は15%程度が外国系の企業で運営されている。内外の企業に差別的な対応をしないことを求めるWTO(世界貿易機関)ルールがあり、日本政府はどの制度でもそれを律儀に守っている。FITでも外資参入を阻止しなかった。

またFITの買い取り価格を毎年、経済産業省は引き下げている。そのために買い取り価格の高い条件の良い権利は売買され、事業者は頻繁に変わる。この南港咲洲メガソーラーでも、その状況があったようだが、それを問題にすることは難しい。またFITは事業者が配電設備を持つ地域電力会社と契約を結び、国の運営する制度で、事業者は利益を得ている。大阪市の同発電所への関与は「土地を貸した」という部分に限定される。もしかしたら隠れた情報が今後出てくるかもしれないが、橋下氏が市長の権限を使って、上海電力に優遇して利益を与えた証拠は現時点ではない。

◆発電所は「関電いじめ」の結果だった

保守系メディアが5月9日ごろにこの問題を伝え騒ぎになった。しかし橋下氏が疑惑を強く否定し、続報もないため騒ぎは収束しそうな状況だ。もちろん橋下氏に説明責任はあるだろうが、法的な責任を問えそうにない。

橋下氏は政敵を攻撃的にやり込め、自分への支持を集める。そのために敵も多い。この疑惑騒動も、そうした彼の行為への反感がもたらしたものだろう。また彼が作って今は離れた日本維新の会は最近、国政で議席を増やしている。政治的に同党の勢力をそごうと、騒ぎが広がった面がある。

この咲洲メガソーラー発電所は、エネルギー関係者の間では橋下氏の「関電いじめ」の事例の一つとして、知られている。橋下氏の攻撃の矛先は12年から13年にかけて、電力会社と原子力発電に向いていた。中国のために作ったのではない。しかし多くの人は忘れている。

当時は、11年の福島原発事故の直後で、政治的立場を問わずに反原発、電力会社批判が広がっていた。橋下氏は、原発を抱えて経営に苦しんでいた関西電力を批判し、多くの人の喝采を浴びていた。彼は「原発の代替策の再エネ」「関電以外の電力会社」を訴えていた。そうしたパフォーマンス政策の一環で、大阪南港に大規模な再エネプラントを誘致し、この太陽光発電所ができた。彼の政策が今になって批判されているわけだ。

◆問題は橋下氏ではなく、F I Tの「仕組み」

ただしこの騒動を、無意味なものにする必要はない。せっかく、FITの問題に、多くの人の関心が向いたのだから、それを改善するきっかけになってほしい。

この騒動では、2つの点が問題になった。外国系企業が日本国民や企業の支払う電気料金で利益を得ること。また電力という重要なインフラを担う事業者が、権利を転売するなど、かなりいいかげんな動きをする無責任さだ。これら2つはFIT制度上で規制されなかったもので、当初からおかしいと指摘されてきた問題だ。

この制度を政治主導で導入した菅直人元首相ら民主党の政治家の責任は重い。しかしそれを放置した自民党政権、経産省の当局者も当然、批判されるべきであろう。

最近は電力が頻繁に停電危機に直面するなど質の面も低下して、事業者の供給責任が問われている。こうした状況にも、この騒動で浮き彫りになった問題は関係している。今回の騒動では右派、保守の人からの批判が目立った。自分のお金が中国の利益になっていることに怒っていた。その批判、違和感には正しい面がある。

この騒動を橋下氏批判という属人的な問題に矮小化するのはおかしい。ただし、再エネへの批判に結び付けるのもよくない。問題なのは「仕組み」である。もう少し大きな視点で問題を考え、再エネ振興策の検証と是正に結びつけるようにしたい。

【記者通信/5月12日】ニチガスが経営陣刷新 「成功体験との決別」 の狙いとは


エネルギー大手の日本瓦斯(ニチガス)が現在直面するエネルギー危機を乗り切り、来るべきカーボンニュートラル社会、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代への対応を視野に、経営陣の刷新に踏み切った。5月2日付で、和田眞治社長が代表権のない取締役会長執行役員に退き、後任社長には柏谷邦彦・代表取締役専務執行役員コーポレート本部長が就任した。また、元東京電力出身の吉田恵一・専務執行役員エネルギー事業本部長が代表取締役に昇格。これにより、渡辺大乗・代表取締役専務執行役員を加えた3人が代表権を持つことになった。

和田会長と柏谷社長は6日、記者会見を行い、DXを機軸に地域社会のスマートエネルギー供給を担う新たなビジネス展開に向けた意気込みを表明するとともに、新体制下での経営方針に言及した。会見の具体的な内容は次の通り。

会見する柏谷社長(左)と和田会長

柏谷 カーボンニュートラルや災害の激甚化、そしてコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻等などによって、今までのように上流から下流まで一貫してエネルギーが安定的に流れてくるという前提が、当然のものではなくなった。大きく変化する経営環境の中でこれからの地域社会に最も必要なのは、再生可能エネルギーやEVの利用を前提としながら、災害時でもエネルギーを強靭に、あるいは自立的に供給できるようなレジリエントな分散型エネルギーシステムを構築していくことだと考えている。この課題に対して、当社グループでは従来のガスや電気を仕入れて販売するという事業モデルから脱却し、電気とガスをセットでお客さまに提供することを前提に、太陽光や蓄電池、EV、ハイブリッド給湯器など分散型エネルギーの設備を供給する。各家庭のスマートハウス化、そして大きなスケールではスマートシティー化に向けて、当社自身が地域社会に対し最適なエネルギーを供給できるようなエネルギーソリューション事業へと進化し、新たな挑戦を進めていくステージにある。

今、この局面においては私が適任と判断をされたと理解している。この会社にはいろんな特定の分野において私より優秀な人がたくさんいる。私の経験が不足している、あるいは知見が足りないところは、しっかりした現場のリーダーたちがいるので、その人たちと協力をして、さらに新しい発展、成長のために、前を向いて全力で疾走していく。和田会長は代表権を返上して、次のリーダーシップの体制に全面的にサポートする。取締役会には残るが、新しい代表取締役3人体制で思い切って前に行くようにというメッセージをいただいている。

和田会長「これ以上のタイミングはない決断」

和田 長年、社長職をどう引き継いでいくかということを考えてきた中で、状況、環境、それから人的リソースの体制も含めて、これ以上のタイミングはないということで決断した。柏谷から話がありましたけれども、日本瓦斯67年間の「成功体験との決別」という意味だ。LPガス業界では、プライベートカンパニーの創業家がずっと経営をやってこられるという体制が主流。それに伴ってトップがなかなか辞めないというケースがあって、和田がこのままずっといくんじゃないかと思う関係者が多かったようだが、老害といわれる前に辞めようというのはずっと考えていた。おそらく、このタイミングでは私が率いた時代の成功体験が新しい挑戦の足かせになるんだろうなと。代表権も返上しないと、また院政とかいわれてしまうので、代表権を返上して名実ともに新たな代表取締役3人体制に当社は移るということの表明だ。

5月号のエネルギーフォーラムで、さいたま市がエネルギー事業版のスマートシティーを目指して、第1歩が出ているという記事が出ていたが、私どもまさにそこへ向かって新たなソリューション事業を展開していく。エネルギー事業者がさまざまなシェアリングエコノミーによって地域社会に新たな貢献の形を目指していくところまできた。このタイミングでの引き継ぎのタイミングは、自分なりによかったなと、あとは静かに横からサポートしていこうと思っている。

――LPガスの需要は今後、どうなっていくと考えているか。

柏谷 脱炭素という観点では、化石燃料全体がこれからマーケットとしては縮小、減少するということは、ここは避けられないと考えている。ただ、この2050年にカーボンフリーになっていく社会の中で、LPガスが果たす役割は非常に大きい。地域分散型エネルギーには非常に適した事業形態で、LPガスの容器は標準家庭であれば2カ月ほどのエネルギーのストックになる。ここに、今後、蓄電池やEV、そして太陽光発電などが加わることで、LPガスのインフラとしての役割は重要だ。今後も都市ガスエリアの外部ではLPガスが主力のインフラになると考えている。

和田 結論をいえば、LPガスはなくならない。ただ、これからは地域社会の変化にわれわれ事業者サイドが飲み込まれる時代なので、業態変更しないと生き残れないと思っている。

メタバース、仮想空間で新しい経済圏が動くと言われているのに、今までと同じでいいわけがない。ある意味で言うとチャンス。この3年ぐらいで、業界はかなり動くと思う。そのキーポイントはやはりDXだ。いよいよ勝負どころにきたと思っている。

柏谷社長「東京電力との強固な提携で乗り切る」

ーー足元を見ると、とりわけ電力事業は非常に厳しい局面に立たされている。ここをどう乗り切っていくのか。過去の成功体験との決別といった話があったが、社名変更などを視野に入れているのか。

柏谷 短期的な電力の需給のひっ迫等に関しては、東京電力との強固な提携によって乗り切っていきたい。中長期に関しても、東京電力との提携を継続しながら、急速に普及するであろう蓄電池、最終的にはコミュニティーの中でエネルギーを融通し合えるようなエネルギーシステムの構築、特にデータ面からの構築というものを急いで進めていきたいと考えている。

和田 日本瓦斯の社名がどうなるのかだが、例えば富士フイルムはフイルムが主力事業ではなくなって富士フイルムっていう社名は残っている。ただ、私は日本瓦斯といえども、単独でこの先、生き残れるとは思っていないので、最終的には柏谷が決断することになるだろう。

ーー柏谷社長は自身の強みについて、どう考えているか、また和田会長はどうのような理由から次期社長に柏谷氏を指名したのか。

柏谷 私は日本の大学を卒業して、そのまま日本の会社に入ってサラリーマンをスタートしたわけではなくて、米国に留学して米国で、それこそニューヨークで世界中の人がいるグローバルファーム、コンサルファームで自分のキャリアを積み重ねてきた。振り返ってみると、当社の重要な分野で営業の現場の人たちだったり、あるいは保安の人たち、物流、ITといったそれぞれのチームの人たちと連携したり協力したからできたということがほとんど。自分にそんな大して誇れるほどの知識や強みや秀でたものがあるとは思わないが、一つ言えるのは環境の変化に向けて新しいチームを組成したり、新しい考え方をつなげて物事を実行していくことが、自分なりの役割を果たせる分野と考えています。

和田 日本瓦斯に足りないのはCFOだと。よく考えると日本企業の多くはCFOが足りない。だから、CFO的な仕事のできる人材をということで、当社に柏谷を連れてきた。これが今後10年の資本政策につながっていく。DXによって、やらなくてもいい仕事をやめて、効率化をして、地域社会に還元するということをできない限りは、集約化のされる側に回ると思う。柏谷のような外部の人たちが入って、今までの日本瓦斯の価値、そういうものに対してクエスチョンマークを付けてくれたということがわれわれの改革のスタート地点だった。そういう意味で言うと、私が大きなげきを飛ばさなくても新しいところに挑戦できる体制になった。

新体制に執行権限は全て移行

ーー会長職の復活ということで、二人の責任範囲とか役割分担を改めて教えてほしい。

柏谷 会長職はもともと設けていて、会長が空席だったということなので、ここに関して規定等の変更をしたわけではない。新しい体制での執行の責任、あるいは分担範囲については、基本的には新体制に執行の権限は全て移行する。ただ、新体制ではなかなか判断がつかなかったりすることに関しては、適宜、和田に相談する。和田とは情報の共有はするけれども、新しい体制で責任を持って経営を行っていく。そういう意味では、責任も役割も明確にわれわれの中では認識を共有しております。

和田 私に限らず、ニチガスは全体に情報共有をするという意味ではオープンな会社だ、それゆえにここまで改革が進んできたと思っている。会長職を見ながら仕事をするような引き継ぎだったら、やってない。今の日本企業を見ると、改革を標ぼうしながらアクセルのつもりでブレーキ踏んでるのは、ベテランの知見のある人たち。ブレーキ踏んでるから大きな事故にはならないが、1歩も前に進まないというのが、今の日本の企業社会だ。

ーー新時代への成長戦略におけるスマートシティー構想について、具体的に。

和田 われわれが準備してるのはコミュニティーガス、いわゆる簡易ガス団地の中で、エネルギー版スマートシティーをDXで統治して運用しようということだ。今、某地点では打ち合わせをしながら、もう地域配電の許可も取っている。われわれだけではできないので、連携先、ベンチャー、そういう所との関係も含めて、いろいろ通信も含めて協議を行っているところだ。

【お詫びと訂正】本文冒頭のリード文と2段落目の文の2か所におきまして、柏谷邦彦氏の姓の表記に誤りがありましたため、訂正させていただきました。関係者の皆様にご迷惑をお掛けしましたことを、深くお詫びいたします(編集部)。

【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」


社会問題を巡る論争が世の中では騒がしい。しかし、こうした論争の大半は罵り合いや争いを生むだけだ。後で振り返ると問題を解決して、みんなが幸せになるという良い結末をなかなか生み出していない。日本におけるエネルギー問題は、政治的な激しい論争となった後で混乱している。2011年の東京電力の福島第1原子力発電所事故の後で、電力業界への批判や反原発運動が広がった。それを背景にしてエネルギー自由化の動きが拙速に決まり、全エネルギー業界と全国民が巻き込まれた。しかし、それは成功したと言えるのだろうか。今の日本では、電力供給の不安定化、原子力発電所の長期停止による電力会社の経営悪化、そしてエネルギー価格の上昇という問題が生じている。そして解決の見通しは見えない。

現状を変えるには、どうすればよいのか。

「論争は何も産まない。対話で相手の意見を受け止め、意見をすり合わせて、目指すゴールにたどり着こう」

当たり前だが、なかなか実現しない、このような活動を呼びかける経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造さんの著書『日本人のための議論と対話の教科書 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ』(ワニブックス)が話題になっている。

倉本さんは、京都大学経済学部を卒業した後、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーに勤め、日本のコンサル会社である船井総研でも働いた。肉体労働現場やホストクラブ、カルト宗教団体にまで潜入して働いた経験もある。現在、独立コンサルとして働きながら、アルファブロガーとしても活躍中だ。

「日本の混乱したエネルギー問題で、多くの人が納得する方向に変えるにはどうすればいいのでしょうか」。倉本さんに聞いてみた。

◆「やっつける」ことを目指しても、現実は動かない

ーー議論で対立相手をやっつけることではなく、問題を解決する発想を考えるようになった背景を教えてください。

プロフィールから分かるように、私は「外国製のキラキラした経営論」と「日本企業の現場」との、あまりに文化が違う2つの世界のギャップを乗り越える仕事をし、方法論を作ろうとアレコレと実地で苦労してきました。その環境では「どちらからだけの意見を押し切る」では良い成果が出ません。いかに両者の良い点を引き出せるかを考え、実行することが必要です。

具体的には、理想と現実を擦り合わせ、改革を少しずつ進める漸進的な統合策を丁寧に進めるのが有効ですし、それしか道はないのです。「お前のせいだ」なんて争い始めたら、その時点で大変なことになり、会社がつぶれてしまいますからね。問題が起きるはるか手前で、抵抗勢力になりそうな人と対話を重ね、その人たちが納得し「自分ごと」「われわれ感」を持ってもらい、水が高いところから低いところに流れるような自然な状況を整えて、改革を進めるのです。

そこでの対話で重要なのが、より高い次元から問題を見て、正しさを考えようという視点です。私はこれを分かりやすいように「メタ正義感」と名付けています。

あるお手伝いした企業では、丁寧な改革を10年間少しずつやって、気づいたら社員の年収が自然と平均で150万円アップしていました。その会社の経営者の方は敵を作らず、丁寧に味方を増やしていました。提案した私の方が学ばせていただいたのです。

ーーけれども、丁寧なやり方だと時間がかかります。日本はあらゆる面で、ぐずぐずと問題が決まらない面が多いように思えます。

逆に「日本は、あらゆる面でぐずぐずと過ごしていたから、できることがある」と前向きにとらえられると思います。過去20~30年のネオリベ型の市場原理主義的グローバリズムにどっぷり浸かっていた国は、確かに日本以上に経済成長できた例が多いですが、一握りのエリート層とそれ以外の分断が大変深刻になっており、「同じ目線で一緒に問題を解決するムード」を立ち上げることが難しくなってしまっています。

大きな視点で言えば、現場と理想論の対立が続き、人類社会全体が二分されていくという、とんでもない事が世界中で進行しているわけです。アメリカでのエリートの理想論に庶民が反感を抱くトランプ現象や、プーチンの個人の理想が肥大化・暴走してウクライナを侵略してしまったロシアの状況なども、そうした対立の一環として捉えられるかもしれません。

「派手に誰かを糾弾してみせるけれども、実際の地道な改善にはつながらないようなムーブメント」は、世界中を席巻しています。そういう派手な騒ぎ方でないと「連帯」を生み出せない焦りのようなものがあるように思います。

日本で私たちがグローバリズムと土着の文化の2つに橋をかける実地の方法を提示していくことは、大げさなようですが、人類全体の「第三次世界大戦すらありえる分断」を超えるための希望の旗印にもなると思います。幻想であるかもしれませんが、日本はまだ社会全体にギリギリのところで「みんないっしょ」感が残って、ほんの少し余力があります。それをベースに物事を動かして、経済の発展と問題の解決を目指せる実例を日本のあちこちで示せると思うのです。

【目安箱/5月3日】原発は戦争では壊れない 報じられない攻撃リスクの実情


ウクライナ戦争で、日本では「原子力発電所は戦争で大丈夫なのか」という不安が出ている。そして危険を強調する人たちがいる。本当にそうなのだろうか。筆者は安全であるとは断言しないが、仮に日本が戦争に巻き込まれても、原子炉が破壊され、放射性物質が拡散する可能性は極端に低いと思う。それより目の前にある停電やエネルギー価格高騰に備えた方がよい。

◆ウクライナ戦争で原子力発電所は壊れなかった

ウクライナ戦争で、原子力発電所はどうなったのか。ウクライナは電力供給の約6割が原子力だ。同国はエネルギー資源に恵まれず、ロシアがエネルギーで締め上げたため、原子力発電への依存が高まった。同国には4ヶ所の原子力発電所がある。また1984年のソ連時代に大事故を起こしたチョルノービル(チェルノブイリ)原子力発電所は廃炉作業中だ。

この戦争では南部のサポリージャ原子力発電所を3月4日にロシア軍が占領した。ここは100万kWの原子炉6基があり、欧州最大の発電能力だ。占領の際に戦闘が起こり、火災が発生した。しかし原子炉の破損はなかった。国際原子力機関(IAEA)によると、現時点(4月24日)ではロシア軍が占領しているが2基の原子炉が動いており、構内の原子炉に電気を供給して、さらに一部を外部に送電しているという。またチェルノブイリ原子力発電所は、2月24日にロシア軍が占領し、3月31日に撤退した。その際に、放射性物質の一部を持ち去ったというが、施設の破壊はなかった。

その他3つの原子力発電所へは攻撃の報告はない。IAEAによると、原子炉は4月24日時点で、4原発の17基の原発のうち7基が稼働している。稼働率は低下しているようだ。

これらの報告を見ると、ロシアはウクライナの原子力施設の組織的な破壊をしていない。ロシアはチェルノブイリ原発事故で、大変な苦しみと混乱を受けた。それを破壊し、戦争に用いると言う発想はなさそうだ。国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定され、原発の攻撃禁止も明示されている。もちろん戦時に守られる保障はないものの、攻撃抑止の理由の一つになっているだろう。

◆原子炉の構造と日本の事前対策

原発の重要部分の圧力容器の大きさは、事故を起こした東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始)で、高さ約15m、直径4.7mだ。大きいものではない。中国とロシアは保有している。その圧力容器が格納容器で覆われ、さらに建屋の中にある。圧力容器は厚さ2m程度の鉄筋コンクリートで作られている。外部からの攻撃でこれらの何重にも作られた壁を壊すことは難しい。大型飛行機の突入や単発のミサイル、砲撃程度なら、破損の可能性は少ない。

日本の原子力規制委員会は2013年に定めた新規制基準で、航空機が突入した場合の対応を求めている。またテロリストが突入した場合に、それの侵入を阻止して運転員が逃げこめて、原子力発電所を制御できる「特別重要施設」の建設を求めている。現在、特重施設は、各原発で建設中だ。

日本の行政も対策をしている。海上保安庁が原子力発電所を海から巡視船で警戒している。原発の立地する自治体警察には機動隊の中に小隊規模(数十名)の原子力関連施設警戒隊が置かれ、隊員は短機関銃MP5を持つ重武装をしている。日本には、自衛隊の中央即応集団、また警察のSAT、海上保安庁SSTなど、重武装の犯罪者、テロなどに対応する特殊部隊がある。各原発はそれと連携している。

核兵器で日本攻撃を狙う侵略国もあるかもしれない。しかし日本では都市から離れた場所に原発は立地する。核兵器は大量殺戮を狙いとする兵器であるために、大都市を狙うだろう。

こうした状況を見ると、ロシアがそうであったように、日本を侵略する国も、積極的に原子炉を破壊しないと思われる。

◆広報とリスク認識 繰り返される原子力の問題

それよりも、原子力発電所が戦争で危険と強調する人の姿を見て、日本のエネルギー談義で必ず現れる2つの問題がまた出てきたことを、筆者は残念に思う。政府広報とリスク認識の問題だ。

原子力は今、その実行の責任が曖昧になっている。安倍政権以来、「安全の確認された原子力発電所を再稼動する」という発言を、政府は繰り返すのみだ。政治家も政府も積極的に原子力の必要性を広報しないし、その活用には消極的だ。いわば原子力の政府関係者は、原子力の安全の確認を担当する原子力規制委員会に、責任を丸投げし自らは逃げている。

そして、責任を委ねられた規制委員会も広報下手だ。更田豊志規制委員長は、国会答弁や会見で、戦争でのリスクを問われ「規制では戦争は想定していない」と、繰り返し答えた。事実の上では間違いではないが、広報の点では落第点だ。この発言は、国民の不安を煽り、原子力反対派に言質を取られるだけだ。

原発問題をPRしづらい現状は理解できるが、「安全対策はしており、原子力発電所の安全性は高まっている。戦争で壊れる可能性は少ない」と、政府は明確にメッセージを示すべきであろう。残念ながら、それは行われていない。

もう一つの問題はリスク認識の問題だ。リスクとは、「事象の発生確率」と「災害の程度」で認識される。(「環境リスク学−不安の海の羅針盤」(中西準子著、日本評論社))その数値化は難しいが、「日本が戦争に巻き込まれ、原子力発電所が破壊されて放射性物質が撒き散らされる」という事象が起こる確率は、現時点では極端に小さい。一方で、今の日本では「電力不足による供給の不安定化」が常態化しており、それによる停電の可能性が高まっている。またウクライナ戦争などの影響によって化石燃料の価格が上昇している。

前者と後者の確率の大きな差は明らかだ。戦争を考えるより、目先の停電とエネルギー価格抑制のリスクの差を考え、後者の対応をするのが合理的だ。原子力を活用すれば、後者は解決する。

しかし反対派は戦争リスクを過剰に騒ぎ、分かっている人も批判を恐れて沈黙してしまう。反原発を唱える政治団体や政党は、エネルギー問題で「原発再稼働」の機運が高まっているために、意図的に「戦争と原発」を強調しているように思える。

原子力の戦争リスクを考えるよりも、今の日本は、「原子力を使わないリスク」を考えるべきではないか。

【記者通信/4月22日】革新炉開発で初の有識者会合 夏に方向性示しCE戦略へ反映


経済産業省は4月20日、小型モジュール炉(SMR)や高速炉、高温ガス炉など革新炉の開発、導入に向けた有識者会合「革新炉ワーキンググループ(WG)」の初会合をオンラインで開催した。2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、革新炉開発を進めるにあたっての安全性担保、水素製造技術推進などの評価分析のほか、非化石エネルギーとしての社会的役割に原子力がどう貢献できるかなどを巡り、活発な議論が行われた。「東日本大震災以降の失われた10年」(原子力関係者)によって、今や日本の原子力技術は、欧米どころか、中国にも水をあけられた感がある。崖っぷちからの復活なるか。今後の展開に、エネルギー関係者の期待が掛かる。

このWGは、萩生田光一経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会の下に設置。この日は原子力分野の専門家など14人の委員が出席した。事務局からは、原子力小委員会での革新炉に関する議論概要や、革新炉の可能性と求められる価値について説明が行われた。続いて日本原子力研究開発機構、三菱重工業、日立製作所、東芝エネルギーシステムの関係者が、それぞれ革新炉開発の取り組みを説明すると、その後の質疑応答では、各委員から革新炉の開発計画や安全の担保に関して意見が相次いだ。

革新炉開発に「民間企業による経済価値の創出が大前提」

慶応大学の遠藤典子特任教授は、革新炉の社会的価値について「民間企業が経済価値を創出することが大前提」として、民間の事業予見性を確保するための制度設定が大きな課題だと述べた。中国・ロシアによる原発輸出ビジネスの対抗策に、革新炉を利用することについては「日本が民間サポートするなら、何のために必要なのか明確な提起が必要」と、政府による安全性担保で、民間企業が社会的コストを軽減できる仕組みが必要だと呼びかけた。今後の課題として、規制当局との連携を挙げ「適合審査の長期化や地元合意を考えれば、国内のリプレース(建て替え)は早期には難しい。海外でまず実績を上げられるよう民間の活力に期待したい」と話した。

経団連資源・エネルギー対策委員会企画部の小野透会長代行は、革新炉の開発には安全性の確保が最も重要とした上で、「廃炉や核燃料サイクルの最終過程(バックエンド)を含んだ対応も、地味ではあるが日本においては優先度が高い」と述べた。また、「このままでは将来の電力需要を賄えるとは思えない。再エネの拡大余地はあるが、安定電源の火力、原子力は相当規模なければならない」と強調。水素製造なども含めた原子力技術革新に言及し、革新炉の早期実装を呼びかけた。

「革新炉がCNにどういう役割果たすか疑問」

一方で、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は、「30年の温室効果ガス削減目標、50年CNに、革新炉がどういう役割を果たすのか疑問だ」と主張。「諸外国を見ても30年の目標に革新炉は貢献しない。小型炉も50年に何基建設できるか不明で、高速炉の実用化も50年以降。高温ガス炉の水素製造能力は2万t以下で、将来的に2000万t必要な状況下ではあまりに微量」と指摘した。「技術的にできるということと、社会的なインパクトは別物だと考えるべき。『CNのためにあらゆる選択肢を』というが、わずかな貢献度のために高額な補助を与えることは、合理的な政策とは言えない」と、革新炉開発を推進する政策の在り方に疑問を投げた。

その他、委員からはウクライナ侵攻に伴う原発防衛の必要性のほか、人材確保や産業基盤の維持のために革新炉開発が重要とする発言や、各革新炉の炉型ごとの比較や状況を踏まえた検討が必要とする意見が出た。次回以降の会合では系統の安定化、廃棄物の問題や安全保障などの視点から議論を重ねていくとしている。事務局によると、今後は開発に必要な予算やサプライチェーン、制度の整備などを取りまとめて夏ごろまでに方向性を示し、政府が検討しているクリーンエネルギー戦略に反映させたいとしている。

【記者通信/4月22日】再エネ乱開発防止へ 中央4省庁が重い腰


全国的な問題となっているメガソーラーの乱開発防止など再生可能エネルギーの適正化に向け、中央省庁がようやく重い腰を上げた。経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省による共同事務局は4月21日、太陽光発電設備など適正な導入や管理についての第1回検討会をオンラインで開催した。検討会には有識者や各自治体の実務者ら14人が委員として参加。太陽光パネル設置による災害リスクや2030年代にピークを迎える太陽光パネル廃棄問題について意見が交わされた。

検討会では、30年度温室効果ガス削減目標の達成に向けては、再エネ導入の拡大が重要だとする一方、①地域とのコミュニケーション不足、②森林伐採や土地開発による災害や環境への影響、③再エネ設備の廃棄問題――などの懸念を指摘。再エネ設備導入から廃棄までの各段階で適正な規制対応を取ることが重要との認識を示している。

金融機関の融資契約がトラブルの抑止力に

約2時間半の議論の中で、事務局は冒頭、各省庁での取り組みを説明。これを受け、委員から省庁への意見や要望が相次いだ。

早稲田大学大学院・法務研究科の大塚直教授は、「行儀のよくない事業者が過去に認定を受け、みなさんその対応に追われている。一方で中長期的な課題として再エネは促進する必要があり、過去の問題と中長期的な視点は分ける必要がある」と規制議論に前向きな姿勢を見せた。また、今後拡大が見込まれる固定買い取り制度(FIT)対象外の事業に触れ「非FITを促進する必要はあるが、逆説的に言えば規制を行うことで地域住民に安心感与えることにもなる」と非FIT事業の規制についても提案した。

みずほ銀行の池田周平氏はプロジェクトファイナンスの視点から再エネの地域共生策に言及し、「(事業者と地元とのトラブルが少ない)一因として銀行の融資契約が抑止力になっている」と話した。「融資契約はさまざまな取り決めが厳密で、これがけん制機能を果たしている。規制に違反すると即座に融資打ち切り、返済となり事業計画が狂うため、(事業者が)しっかりと約束を守ることにつながる」(池田氏)と融資が事業者の自浄作用を促していると意見を述べた。

内閣府の再エネTFは解散か?の声

山梨県からは環境・エネルギー部の雨宮俊彦課長が出席。昨年施行した、設置規制区域への太陽光発電施設の新設禁止条例について「正しい形で設置することが重要。将来にわたり再エネが持続できるよう整えたい」と意図を説明した。また、栃木県那須塩原市気候変動対策局の黄木伸一局長は、太陽光パネル設置による地元への恩恵が少ないことを指摘した上で、「再エネが地域経済に貢献できるものであってほしい。安全安心があるだけでは地元にとっては何のメリットもない」と注文を付けた。

検討会ではそのほか、努力義務としている土地開発前段階の地域住民との説明会の重要性や、再エネ促進区域設定に関する各省庁の連携の問題点、太陽光パネル大量廃棄・リユースの責任の所在など、幅広い規制対象について話し合いが行われた。「この検討会が進めば、再エネ規制緩和に積極的だった内閣府タスクフォースは廃止されるだろう」(政府関係者)。政府は夏ごろに対策案をまとめ、今後の法整備につなげたい考えだ。

悪徳事業者による太陽光パネル乱開発問題や、昨年7月に起きた熱海市の土石流災害を受け、再エネ規制にようやく本腰を入れた政府が、どのような対策案を講じるか注目だ。

なお、再エネ開発・運用の適正化を巡る検討の舞台が今回の4省庁合同検討会となったことを受け、業界からは「内閣府の再エネ規制総点検タスクフォースの役目を終えたと思う。そろそろ解散では」との声が聞こえている。

【記者通信/4月20日】東ガスが主導する脱炭素広域連携 首都圏7地域と協定


東京ガスによる地域脱炭素連携の取り組みが加速している。卸先ガス事業者、自治体を交えた3者による「カーボンニュートラル(CN)のまちづくりに向けた包括連携協定」を結び、脱炭素社会の実現、防災機能の強化、地域共創などの幅広い分野で連携を強化していく。同社は4月20日までに、神奈川県秦野市・秦野ガス、埼玉県三芳町・大東ガス、同所沢市・武州ガス、同日高市・日高都市ガス、同狭山市・武州ガス、茨城県守谷市・東部ガス、同土浦市・東部ガスと、計7つの協定を結んだ。いずれの自治体も2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指すゼロカーボンシティ宣言を行っている。

東京ガス、狭山市、武州ガスの3社による連携協定締結式

東ガスでは経営ビジョン「Compass2030」の中でCO₂ネットゼロへ取り組む方針を打ち出しており、地域の自治体、ガス事業者との包括連携はその一環だ。内容を見ると、脱炭素分野では、学校への太陽光発電設置、公用車の電気自動車(EV)への置き換えなどを推進。レジエンス分野では、自治体向けにガスコージェネレーションシステムや蓄電池といった自立電源の設置や防災情報の提供を行っていく。地域共創分野では、学校などにおける環境教育、食育に関するイベントやワークショップの開催を通じた啓発活動を行う。詳細については、各自治体などとの今後の協議を通じて詰めていく方針だ。

東ガスは今回の包括連携協定について、カーボンニュートラルシティ推進部の職員5人で専門チームを編成。自治体への提案力や再エネ導入のノウハウなど、それぞれの職員が持つ強みを生かし、地域が抱える課題解決などに取り組んでいく。同社によると、秦野市では既に同市中学校への太陽光導入に向けた検証結果がまとまっており、早ければ22年度内には導入が決定する見通しだ。

東ガス、卸先ガス会社、自治体に〝三方一両得〟の効果

包括連携協定が広がる背景には、政府が進める「地域脱炭素ロードマップ」の存在がある。これは2030年までを集中期間として、地域の脱炭素化を加速させる取り組みだが、自治体は何から手を付けるべきか苦慮している。そうした中、東ガスや卸先ガス事業者が有する先進技術やノウハウを活用し、取り組みを前進させたい考えだ。地域でのネットワークを有する卸先ガス事業者も東ガスの技術力を借りることで、自治体への幅広い提案が可能となる。東ガスにとっては、連携地域を拡大させ首都圏での存在感を高める効果も期待できる。いわば、〝三方一両得〟の格好だ。

東ガス広域エネルギー事業部の馬場敏事業部長は「脱炭素化は、われわれにとって大きなチャレンジ。道は険しいが、当社の経営資源をフル活用しながら。地域を活性化させていくことが目標だ」と意気込む。新たなビジネス領域へとシフトするCN。東ガスの地域脱炭素連携を通じた広域戦略が今後どんな展開を見せていくか、要注目だ。