【記者通信/3月31日】関電はカルテル主導せず!? 公取委会見の一問一答


関西電力など電力大手4社が相互の電力販売を制限するカルテルを結んでいた問題で、公正取引委員会は3月30日、排除措置命令および課徴金納付命令などについての記者会見を行った。詳しいやり取りは次の通り。

会見を行う田辺治審査局長(左から2人目)

田辺治審査局長 公正取引委員会は、旧一般電気事業者らによる独占禁止法違反について審査を行ってきたが、中部電力、関西電力、中国電力、九州電力ら6社が、独占禁止法で禁じられている不当な取引制限に該当する行為を行っていたと認められた。本日関係各社に対し、排除措置命令など行政処分を行うとともに、電気事業連合会に対し申し入れを行い、また電力ガス取引監視等委員会に対し情報提供を行った。

詳細説明の前に、私の方から3点ほど本件について申し上げたい。

1点目。本件は地域を代表する企業である旧一般電気事業者により、長年にわたり推進されてきた電気の小売供給分野の自由化の目的、理念である「電気料金を最大限抑制すること」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大すること」こうした理念をないがしろにする違反行為であるということ。

2点目。本件では、旧一般電気事業者間の協調関係を背景として、社によっては代表者を含む役員など、幅広い層が関与して違反行為が行われたということ。

3点目。本件違反行為は、相手方の供給区域の顧客を競争で奪わないようにするという二者間の市場分割で、自社の供給区域における競争を制限するものに他ならない。そのため自社の供給区域における売り上げを算定基礎として課徴金を課すこととなった。

その結果、本件の課徴金額は4社総額で1000億円超となり、中国電力単独で700億円超。1件あたり、1事業所あたりの課徴金額としては、いずれも過去最高額である。公正取引委員会としては、本件のように自由化が進む分野も含めて、独占禁止法違反行為があれば厳正に引き続き対処していく所存だ。

【記者質問】

記者 国民生活への影響の大きさについて、どのように評価しているか。

田辺氏 対象の違反行為の対象商品は、国民生活に重要なインフラである電力だ。最終的な電力の消費者である一般国民に対する影響は、大きなものであると考えている。

記者 カルテルのどこの部分に、特に悪質性があると考えているか。

田辺氏 今回は「不可侵相互不可侵協定」のような形での違反行為だった。情報交換の積み重ねで合意が成立したということ。情報交換が社によっては代表者を含む幅広い層で、いろんなレベルで情報交換が行われ、違反行為が行われていたのは一つの大きな問題だ。

記者 電力市場や電力料金への影響は?

斎藤隆明第三審査長 平成29年(2017年)末頃から、旧一般電気事業者(旧一電)間による競争が生じたことで、電気料金の水準が低下。しかし本件違反行為により、その競争がなくなってしまった。元々の契約価格についてはそのまま維持され、競争により下がるはずの価格は値上げ状態になってしまったと考えられる。

記者 合意により電気料金水準が維持されたという認識か。

斎藤氏 そう考えている。

記者 業界の地域特性など、特殊性からくる背景事情の認識は?

田辺氏 業界の特殊性という意味では、かつては地域ごとに独占供給をする電力会社があった。平成12年(2000年)の特別高圧から自由化が進められ、越境競争が導入された。当初は相互乗り入れのような競争が少なかったが、平成29年から30年(18年)にかけて競争が活発になってきた。その中で行われた違反行為という認識だ。それまで独占だった分野において、競争が導入された中での違反行為。これは他の業界とは違う面があると考えている。

記者 電力業界について今後求めることは?

田辺氏 再発防止について、各社経営陣が筆頭となり、各役職員・従業員に対して独禁法の遵守を周知徹底する姿勢が大事。一番重要なのは、2社間での相互営業活動において、自社の営業活動の情報交換をしてはならないということだ。

記者 課徴金減免制度の意義とは。減免申請なければ関電の課徴金はどの規模になるのか

田辺氏 制度に沿って協力を得て実態解明が進んだということで、それを評価して免除または減免率を決定した。減免申請しなかった場合の仮にという話は、この場で申し上げることは差し控えたい。

【記者通信/3月31日】公取委が電力カルテル認定 四者四様の対応で業界分断か


公正取引委員会は3月30日、中部電力と中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九州電力みらいエナジーに対し、高圧以上の電力販売や官公庁向けの電力入札おいて、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反するカルテル行為があったとして、計1010億3399万円の課徴金納付と排除措置命令を出した。課徴金額は、国内独禁法案件として過去最高額となる。

公取委の田辺局長から申し入れを受ける電事連の池辺会長

公取委は、関西電力と各社との間で2018年10~11月ごろ、役員や部長、担当者といったさまざまな層で会合を重ねた結果、相手の管轄区域で営業しないよう相互不可侵の協定に合意し、実行したことが独禁法違反に当たると認定した。17年末に関電が中部、中国、九州エリアに進出したことを契機に高圧分野の競争が激化し料金水準が低下。自社の利益を確保するために安値競争を避ける目的があったという。

田辺治審査局長は同日の記者会見で、「電気料金の最大限の抑制や事業者の事業機会を拡大するという、自由化の理念をないがしろにする違反行為だ」と厳しく断罪。再発防止に向け、各役職、従業員に独禁法の順守を徹底するとともに、2社間で相互に自社の営業活動についての情報交換を行うことがないようを求めた。

また公取委は、カルテルのきっかけが電気事業連合会を通じた情報交換にあったとして、池辺和弘会長(九州電力社長)に対し違反につながる情報交換が行われることがないよう、会員企業や役職者に周知徹底するよう申し入れた。

トップ引責辞任の中国電 周辺から同情の声も

全ての案件に関与し、一連の違反を「主導した」とも見られていた関電は、違反を最初に申告したために課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づき課徴金を全額免除された。とはいえ、処罰の公正性の観点から、電力業界のみならず経済界全体から厳しい声が寄せられているのも事実だ。だが、公取委の評価は真逆で、「関電が違反行為を主導したという事実は認められなかった。むしろ競争を仕掛けたことは良いこと」と、ある意味で同社の肩を持つような発言も。そうした事情が背景にあるためか、同日夕方に会見した森望社長は、カルテルに関与したのは当時の岩根茂樹社長ら既に退任済みの役員であることを強調した上で、現経営陣の下、コンプライアンスの徹底と組織風土の改革に注力する意向を示した。

一方、700億円超と過去最大の課徴金を課せられることになった中国電力は30日、清水希茂会長、瀧本夏彦社長が6月の株主総会をもって引責辞任する考えを表明した。処分対象3社の中で唯一、規制料金の値上げを申請しており、「企業再生に向けた捨て身の覚悟が垣間見える」(エネルギー関係者)。そうした潔さもあってか、関電とは対照的に、業界内外から同情的な声も多い。瀧本社長は会見で、「私自身も含め一部に不適切なものがあった。独禁法への抵触を疑われてもやむを得ない面があった」と認めた上で、「各命令における事実認定と法解釈に対し公取との間で見解の相違がある」とし、取消訴訟の検討も視野に入れていることを明らかにした。

最も強気の姿勢を見せるのは中部電力。同社の水谷仁副社長は30日の会見で、「独禁法違反になる合意はなかった。関西エリアでの営業活動の制限をしていないことは事実で示せる」「公取委とはまさに見解が違うため争う」などと述べ、司法による公正な判断を求める考えを強調した。これはとりもなおさず、合意の認否を軸に関電とも争っていく覚悟を示したものともいえる。

注目は、事後リーニエンシーにより課徴金を30%減免された九州電力の動向だが、30日は会見を行わず、プレスリリースを通じて現段階では「慎重に検討する」と述べるにとどめた。今後予定される経済産業省による報告徴収で各社はどのような対応を図るのか、業界内外の関心が高まっている。

低かった独禁法への意識 「護送船団」は崩壊へ

振り返ってみれば17~18年ごろ、大手電力会社の域外進出が加速し高圧分野の顧客獲得競争は消耗戦の様相を呈していた。そして、新旧問わず電力業界のそこかしこで「安値競争とは決別し、適正な料金で競争をしなければならない」といった会話が交わされていたと記憶している。そうした会話の積み重ねが営業活動に関する意見交換や合意の形成につながり、公取委が「談合」と判断したという点で、独禁法への意識が著しく低かったという批判は免れないだろう。

いずれにしても、今回のカルテル処分を通じて「関西VS.中部・中国」という構図が形成されてきた印象はぬぐえない。そんな「分断」に公取委側の狙いがあるのかどうかはともかく、「かつての地域独占時代に鉄壁を誇った電力業界の『護送船団』は、音を立てて崩壊し始めたといっても過言ではない」(大手電力会社幹部)。その象徴である電気事業連合会も今回、公取委からカルテルに絡んで厳重注意を受けた。顧客情報の不正閲覧問題への対応も迫られる中、大手電力は試練の時を迎えている

【記者通信/3月24日】「地域のCNと親和性高い」環境次官が都市ガスに期待


環境省の和田篤也事務次官が3月中旬、地方都市ガス会社有志の勉強会で、地域の将来像とカーボンニュートラル(CN)対策について講演した。和田氏は、環境省が注力する地域のCN化を支援する政策で、都市ガス業界が重要な役割を果たせると強調。また、CNへの「ジャストトランジション」(地域経済や雇用などの公正な移行)の好例として期待できる分野として、ガス業界のメタネーション(合成メタン=e-メタン)を挙げた。

地域のCN化について講演する和田・環境事務次官

和田氏は、CNやサーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(自然再興)といった切り口で、世界的に経済社会の再設計が進む中、日本でも従来型のビジネスモデルの変革が迫られていると説明。今後は企業側の思惑よりも「ニーズオリエンテッド(最優先)」、かつ地域にマーケットの主体が移っていくとの見方を示し、「市民目線のニーズを把握する市町村をバックアップし、そのソリューションツールがCNになる」と解説した。

こうした潮流を踏まえ同省では、国連のSDGs(持続可能な開発目標)を地域経済の仕組みに落とし込む「地域循環共生圏」構想や、2030年度までに100カ所で民生部門の電力CN化などを目指す「脱炭素先行地域」といった施策を展開。ここで、産業界の一員であり、かつ地方のステークホルダーとしての横顔を持つ都市ガス会社の知見が重要になると訴えた。

実際、脱炭素先行地域に選定された取り組みの中で、ガス会社が関わるものもいくつか散見される。

既存インフラが使える「e-メタン」の取り組みを評価

和田氏は、ガス業界自体のCNの取り組みにも期待を寄せた。大手ガス会社を中心に、水素を用いてCO2をリサイクルして都市ガス原料をつくる「e-メタン」の実装化が始まっている。水素社会の実現に向けてさまざまな業界でアクションが起きているが、都市ガスのe-メタンは既存インフラを活用できる点が強みだ。和田氏はこの点を高く評価し、「今のビジネスモデルを大変革せずに済む業界はそれほどない。しかしガス業界はメタンにフックをかけると、ジャストトランジションとして注目される取り組みとなる」と強調。業界全体でこの動きが加速することに期待を寄せた。

さらに、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)政策として、GX経済移行債の発行で20兆円を先行調達するとともに、その償還財源として炭素賦課金や排出量取引制度と言ったカーボンプライシング(CP)施策を導入する。これらを盛り込んだ「GX推進法案」の審議が国会で進んでいる。法案の狙いについて和田氏は、CPを入れる前に、まず政府がGX移行債の発行で企業の取り組みをバックアップするが、「いつまでもやる気を出さない企業には後からCPが課されるようになる」と解説した。

都市ガス業界の勉強会で同省トップが講演するのは異例のことだ。

【記者通信/3月24日】ガス協会が万博出展の概要発表 CN実現へコンセプトを説明


日本ガス協会は3月23日、2025年の大阪・関西万博に出展するパビリオンの概要を発表した。「化けろ、未来!」をコンセプトに、子どもたちがお化けと一緒に体験しながら、50年カーボンニュートラル(CN)実現に必要な内容を学ぶアトラクションを計画する。会見には関西万博のイメージキャラクター「ミャクミャク」も登場し、日本ガス協会のパビリオン出展をアピールした。

「ミャクミャク」との記念撮影に応じる本荘会長

日本ガス協会の本荘武宏会長は「ガス業界はこれまでLNG転換や省エネ技術開発で低炭素化に貢献してきた。50年CN実現に向けてさらなる進化、つまり『化ける』ことが必要」と説明。子供たちの記憶に残るようなパビリオンの出展に意欲を示した。高さ約20mの建物は、全体を放射冷却素材の膜材で覆う建築デザインで、空調負荷軽減に取り組むという。着工は今年秋ごろを予定し、24年12月完成を目指す。

【噂の深層/3月24日】ノルド爆破は米国のしわざ? 犯人探しと教訓


ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプラインの「ノルドストリーム」の爆破を巡って、3月に世界中が大騒ぎになった。米国の関与説、親ウクライナ組織の関与説が報道されたためだ。その後の続報がないために、3月下旬に入って騒動は下火になったが、真相は謎のままだ。日本ではあまり報道されていないが、この事件はエネルギービジネスと、戦争の難しい関係を示している。

◆爆破事件の概要

ノルドストリームの爆破事件を簡単に振り返ろう。

2022年9月、バルト海を通り、ロシアからドイツに天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム」が構成する導管2本の両方、ほぼ完成した「ノルドストリーム2」の導管2本のうち1本が破壊され、使用不能になった。

ノルドストリームは、ロシアのガス会社ガスプロムやドイツのエネルギー企業などが出資し2011年から稼働した。しかし2022年2月からのウクライナ戦争の後に、定期点検を名目に同年8月にロシアはガス供給を停止した。そして、この事業によるガスの購入が批判されていた。爆破事件の後で、供給は再開されていない。また同社サイトを見ると、パプラインの復旧状況を含めて、現状は広報されていない。

ほぼ完成に近かった、もう一つの近くを通るロシアからドイツまでのパイプラインのノルドストリーム2は、ドイツのショルツ政権が、ウクライナ戦争直後に事業の認可をせず、そのままになっている。ノルドストリーム1は、2021年にはドイツの輸入天然ガスの3割を供給し、同国のロシアへのガス依存を強めていた。

爆破事件の犯人3説 ロシア、米国、親ウクライナ勢力

爆破事件では、当初、現場海域近くのデンマーク、スウェーデンと当事国のドイツの捜査機関が関わったが、途中からスウェーデンが理由を示さずに捜査から抜けたことが発表された。ロシアは捜査関与を両国から拒否された。

当初は、西側からロシアの犯行との見方が示された。特にウクライナがそれを主張した。

今年2月になって、米ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏が自分のサイトで、この事件は米国が行い、ノルウェーも支援したと発表した。バイデン大統領の決定によるものだという。22年夏のNATO軍のバルト海での演習の際に爆弾を設置し、3カ月後に爆破させたそうだ。ロシア政府はこの情報に反応し、国連安全保障理事会の会議などでも追及したがアメリカは否定した。

そして米ニューヨークタイムズが3月7日に、親ウクライナ勢力説を伝えた。米国当局者の話として、ウクライナを支援するグループが行ったようだが、ウクライナ政府が関与している証拠はないとしている。ただし続報はない。またウクライナ政府は関与を否定している。

どの犯人説にも決め手なし

一連の報道や各国政府、ノルドストリーム社の広報を見ると、犯人はわからないとしか言いようがない。

普通に考えて、ロシアがノルドストリームを破壊する利益は乏しいように思える。ドイツにガスを供給していた方が金銭的利益は出るし、それによってドイツに影響力を及ぼせるからだ。プーチン大統領は2月のロシアのテレビインタビューで、親ウクライナの勢力が実行した可能性があるとする報道については「全くのナンセンスだ」と指摘。「素人がこうした行為を行うことはできない。このテロ行為は極めて明確に国家レベルで行われた」と主張し、米、ウ国政府の関与があると考えているとほのめかした。

ウクライナにとっては、ドイツ・E Uとロシアのエネルギー面での関係を断つため、破壊する意味がある。しかし、本国から離れたバルト海で、こうした破壊活動を隠れて行うことは難しい。またドイツはゆっくりではあるがエネルギー資源の購入をロシアから減らしている。そうした中で、ドイツ企業の資産であるノルドストリームを破壊したら、有力な支援国であるドイツとの関係は悪化するだろう。

米国はどうだろうか。前出のハーシュ氏は独露関係の悪化を米国が狙ったとされる。しかし、そのために米国が、爆破をするかは疑問だ。ハーシュ氏はスクープ記者として知られるが、飛ばし記事も多い。また一連の情報を、自分の有料ブログと米英で「極左」と認識されるメディアで情報を公開しており、その発する情報は少し偏向している。エネルギー的な観点でみれば、むしろウクライナ南東部にある大規模なシェールガス田開発との関連を疑ったほうが自然かもしれない。

戦争まで含めて「まさか」を考える必要性

真相は結局、しばらく分からないままだろう。しかし、この事件は、日本のエネルギー産業に、さまざまな教訓を与える。

ここから得られる教訓はなんだろうか。E Uとロシアのエネルギー面での結びつきが、政治面だけでなく、物理的な面でも減ったということだ。地政学的側面では、ロシアが世界経済で日本も属する自由主義陣営から切り離され、それが長期化しそうな気配だ。エネルギー面でも、中露とそれ以外の二極化を考え、ビジネスを組み立てるべきことになる。

またエネルギービジネスと政治の関係の難しさも明らかになった。今回のウクライナ戦争では、このノルドストリームだけではなく、エネルギーインフラが狙われている。ノルドストリーム社は事業が停止し、今後が危ぶまれている。また原子力発電所が攻撃されている。本格的な破壊は行われていないが、ロシアは恐怖を与えるために、脅しで攻撃しているようだ。また昨秋にロシアがエネルギーインフラを攻撃して破壊し、今年の冬はウクライナ各地で、同国民は電力不足に苦しんだ。

戦争において、エネルギー産業は、敵対国の軍に狙われる。それは民間企業で対応できるものではない。しかし、それでもできること、リスクを少なくする方法を考えるべきであろう。東日本大震災の後で、自然災害などで「事業継続力」が話題となった。この面で、日本のエネルギー産業はこれまで準備とノウハウを蓄積していた。今までの対応をより深めるだけで良かった。しかし「戦争」、もしくはそこに至らないまでも「テロ」「外国勢力の武力行使」という次元の違うことにも、準備を始めたほうがいいだろう。

原発では、自衛隊や警察との連携などの動きが出始めている。しかし、その他のインフラの防衛、警備は手付かずだ。東アジアの国際情勢の緊張が増す中で、ノルドストリームと同じように、謎の破壊工作に直面していく可能性がある。また、現時点では可能性は低いものの、東アジアの「有事」の際には、攻撃され会社の設備が破壊される可能性がある。

エネルギー産業の中の人にとっては、そこまで考えろというのは酷な要求かもしれないが、それほどの産業が社会の中で重要かということでもある。

【目安箱/3月14日】原子力推進の旗を振る 高市大臣への期待と不安


安倍晋三元首相が亡くなった後で、高市早苗・内閣府特命担当大臣が保守派の期待を集めている。彼女は新型原子炉へ強い関心を持ち、原子力を支えることを公言する。彼女の関心が、原子力・エネルギーにどのような影響を与えるだろうか。

◆高市氏が持つ原子力の知見

昨年末に、ある原子力立地県選出の国会議員の政治資金パーティーに出席した。どの政治パーティーでも、仲の良い議員が、主催する議員をほめるばかりで、同じような中身であまり面白くない。ただし、そのパーティーで来賓として挨拶した高市早苗氏は少し違った。彼女は話し上手で、人気があり、そして華があるために、出席者は会話や食事を止め、彼女に注目していた。

高市氏は、その議員が原子力問題で頑張っていることに賛辞を送った。「原子力には追い風が吹いています。三菱重工さんが、革新炉『SRZ1200』の開発を、関電さんなど、4社と共に行う良いニュースも出ています。私も核融合をA先生(その議員)と一緒に頑張ります。形になれば原子力への支援はますます広がるでしょう」

高市氏が革新炉の製品名までスピーチに出したことに、筆者は驚いた。そこまで知る議員は数少ないだろう。高市氏は原子力について相当勉強している様子がうかがえた。彼女は、今は内閣府で、科学技術・経済安全保障を担当している。彼女は新型炉、特にそのなかの核融合炉に関心を示している。

彼女の主導で昨年9月、内閣府に「核融合戦略有識者会議」が立ち上がった。日本は核融合について世界トップの知見と技術力を持つが、研究機関、大学、企業、政府がバラバラに動き、産業化という視点は少なかった。それをまとめようとしている。適切な着眼だ。高市氏は多忙にもかかわらず、この会議に全て出席している。皆勤賞だ。

◆革新炉への関心で業界は歓迎

22年に原研の核融合験装置「JT-60SA」が新しく稼働した。高市氏は岸田政権での自民党政調会長として、この装置の予算獲得を支援した。また自民党のエネルギー、原子力担当の委員会、部会の議員を原子力推進派で固めた。

「高市氏の原子力への関心は、革新炉に傾き過ぎ、バランスが悪い。どの種類でも稼働まで早くて十年先の話だ。核融合の実用化は2050年ごろだろう。それよりも今の原子力と日本に必要なのは、おかしな原子力の規制政策の是正と、原子力発電の再稼働だ」(研究者)との声もある。彼女に情報を提供しているのは、夫の山本拓前衆議院議員かもしれない。彼は福井県選出で、地下原発や高速増殖炉もんじゅなど、革新炉に詳しい議員として知られた。

ポスト岸田の有力候補の一人となっている高市氏の原子力への関心は、原子力関係者には歓迎されている。ポスト岸田には、同じ内閣府特命担当大臣として原子力業界を敵視する河野太郎氏もいるだけに、エネルギー関係者の応援が強まるのも当然の流れだ。

◆原子力が政争に巻き込まれる懸念

高市氏は、今は無派閥だが、安倍氏亡き後で、保守派の期待を集めている。ところが、そのためか野党や朝日新聞などの左派メディアは、彼女に厳しい。安倍晋三元首相に向けた敵意を、今は高市氏に向けているかのようだ。

岸田首相は今年1月の国会開会における施政方針演説で「G X(グリーントランスフォーメーション)」で日本経済の姿を変えると意気込みを述べた。今国会はこれを巡るエネルギー論戦、原子力の議論が行われることを筆者は期待した。ところが、この問題への世論の関心は今ひとつだ。それどころか3月初頭に焦点は、内閣府特命担当大臣としての高市氏の進退問題に移っている。

立憲民主党の小西洋之参議院議員が総務省の内部資料を公開。これは安倍政権当時の2014年での放送法の解釈についてのものだ。高市氏は当時、総務大臣として放送行政を所管していた。この文章について、自分の関わる部分について、「捏造だ」と述べた。そしてもし事実としたら議員辞職をするかとの、小西氏の問いに、「結構です」と述べてしまった。そのために話がずれ、彼女の進退をめぐる問題になっている。高市氏の主張が正しいかどうか、3月上旬時点では不明だ。野党やメディアは、彼女の発言を強く批判をしている。

エネルギー業界は、福島原発事故後の原子力への批判、その後の起こったエネルギー全体の自由化の動きによって大きな影響を受けた。「政治に振り回されるのはこりごり。政治や世論の反原発の動きが、沈静化しつつあることにほっとしている」(電力幹部)という状況だ。

高市氏が政治の中心になることで、「再び原子力が巻き込まれないか心配」(研究者)との声がある。高市氏は原子力推進に理解のある有力政治家だけに、彼女を巡る政争によって、原子力、ひいてはエネルギー業界も攻撃を受けかねないというわけだ。政治家としての今後の盛衰が、原子力とエネルギー業界に、微妙に影を落としていくことになりそうだ。

【記者通信/3月7日】再エネ規制シンポ突如中止に 舞台裏で何が起きた!?


太陽光や風力など再生可能エネルギーの乱開発防止を訴える全国規模の住民団体、「全国再エネ問題連絡会」が3月15日に東京都内で予定していたシンポジウムが、土壇場で中止に追い込まれた。

このシンポジウムは「今、再エネ問題解決に必要な法改正は何か」をテーマに、経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省のほか、国会議員や地方議員、有識者らが参加。悪質事業者などによる再エネの乱開発に歯止めをかけるため、①再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の改正、②都道府県知事の林地開発許可に関わる森林法の改正、③環境アセス法や地球温暖化対策法における罰則の強化――などを巡り幅広い議論を行う予定だった。しかし、7日になり突如中止が決まったのだ。

同連絡会の共同代表を務める山口雅之氏は、「開催場所である衆議院第二議員会館の会議室が急きょ使えなくなったため」「政治の世界がいかに魑魅魍魎(ちみもうりょう)であるか体感させていただいた。心からお詫び申し上げます」「ようやく自分の限界を知るにいたりました」などとコメント。政治家による何らかの圧力が中止の背景にあることを言外ににおわせた。

大阪府警OBの山口氏は警察を退官後、趣味の山登りなどを目的に、2013年に静岡県函南町の別荘地に移住。そんな中、函南町軽井沢地区の砂防指定地を含む山あい一帯で、トーエネックとブルーキャピタルマネジメントが手掛ける大型メガソーラー計画が浮上した。折しも21年7月3日、同計画地から東へ5kmほど離れた場所にある熱海市の伊豆山で違法盛り土が原因の土石流災害が発生し28人が死亡した。そうした事情もあり、「再エネ乱開発の脅威から、住民の生命と財産を守る」を合言葉に、政治や行政に対し、再エネ規制の強化を訴える活動を精力的に展開してきた。

「再エネ拡大一辺倒だった政策の風向きが変わりつつある。山口さんをはじめとする連絡会の活動の成果といえるだけに、今回の中止は非常に残念だ」(エネルギー有識者)。再エネ適正化政策がこれから本番を迎えようという矢先のシンポジウム中止劇。果たして、舞台裏で一体何があったのか、大いに気になるところだ。

【記者通信/3月1日】自然エネ財団がメディアセミナー 原子力推進の政府方針を批判


再生可能エネルギーの普及を進める自然エネルギー財団は2月24日、メディア関係者に向けたセミナーを開催した。財団の大野輝之常務理事は、政府が10日に閣議決定したグリーントランスフォーメーション(GX)基本方針、およびGX推進法案に対して「基本方針にあるカーボンプライシング(CP)構想は世界の標準と乖離しているのでは」と疑問を呈した上で、原子力を推進する現政府の方針を批判した。

セミナーの後半には「日本の原子力発電:政策の妥当性を検証」と題して、石田雅也シニアマネージャーが解説を行った。その中で、2030年度における原子力発電の政府目標について実現性に無理があると主張。「政府は原子力の発電比率を20~22%まで上げたいとしているが、設備利用率を含めると最大でも15.7%ほどだと考えている。とても現実的ではない」と指摘した。また石田氏は「原子力は将来的に主力電源にはなりえず、補完的な役割を持つにすぎない」と話し、太陽光・風力などの再エネ活用推進を訴えた。

規制値上げに「原発動かせば安くなると思わせている」

その後行われた質疑応答では、各大手電力会社の規制料金値上げの対応について問われると「電力会社は原発を再稼働すれば電気料金が安くなる、と思わせている」(石田氏)と批判。原発の運転期間延長とそれに伴う安全規制の見直しについても「運転停止中でも建物の腐食劣化は進む」として、運転期間から停止期間を除くカウントストップの方針に苦言を呈した。

一方、同席したロマン・ジスラー上級研究員は「原子力に関しては既存インフラを使いたい企業もある。電気料金の値上げと再稼働はケースバイケースで考えるべきだ」と、原子力活用に理解を示した。また、原発運転開始から30年を起点に10年ごとに設備評価をする方針を政府が示したことについては「フランスでも同様の政策が取られているが、事業者側も、検査側も、負担が非常に大きい」と指摘。フランスでは法律による原発の耐用年数は定めておらず、各原発の状況ごとに対応して延長の可否を決めていると述べた。

大規模な再エネ推進を訴える同財団は、原子力活用を目指す政府のGX基本方針に反発しており、14日には「日本の豊かな自然エネルギー資源を最大限に活用する戦略へ一刻も早く転換しなければならない」というコメントを発表している。大野常務理事は「現状で30年の再エネ比率46%は厳しい」と分析。目標達成には抜本的な政策変更が必要だと話した。

【目安箱/2月27日】どうなる再処理施設! 稼働の意義を改めて問う


日本原燃の核燃料再処理施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。昨年9月に26回目の完工延期を発表したことは残念だが、同社は「2024年度のできるだけ早く」と工期を設定し、それを目指して全社が一丸となっている。再処理工場が動き出せば、国策として構想されてきた核燃料サイクルが回り始める。これにより、原子力を巡る諸問題が解決に向けて大きく前進することになる。

◆建設開始から20年、完成にめど

日本原燃は、原子力政策の根幹を成す「核燃料サイクル」を担う。1993年に建設を開始したが、短期間試験稼働をしただけで完成に至っていない。増田尚宏社長は今年の年頭に、完工時期を「2024年度のできるだけ早く」と目標を定め「地域の皆様、電力会社との約束である完工を必ず成し遂げる」と表明をしている。

2019年1月に社長に就任した増田氏が、長期停滞していた状況を変え、問題の解決へ前進させたとされる。増田氏は電力・原子力業界では「英雄」として知られる人だ。東日本大震災では東京電力福島第二原発の所長だった。事故を起こした第一原発と同じように津波に襲われたが、彼の指揮でプラントは守られた。

増田氏は、そのリーダーシップを今回も発揮した。原燃は、電力会社の寄り合い所帯でガバナンスに甘いところがあったとされるが、増田氏ら新経営陣はそれを是正しつつある。

工期の遅れは残念だが、これをきっかけに安全性が高く高効率な運用のできるプラントを建設してほしい。規制対応工事は97%まで完成しており、24年の完工目標もかなり余裕を持って設定され、今度こそ予定は達成されそうだ。

◆核燃料サイクルは原子力政策の柱

核燃料サイクルは日本の原子力政策の柱だ。それを支える再処理施設の本格稼働は、日本の原子力の状況を一歩進める。これまで、原子力発電の使用済み核燃料を再処理して再び燃料として使う「資源を有効利用する」という目的とメリットが強調されてきた。

しかし、それに加えて「放射性廃棄物の量を減らす」「高レベル放射性廃棄物の有害さ(放射能レベル)の度合いを低くする」「プルトニウムを消費する」という核燃料サイクルの効果が、今の原子力の状況に前向きの変化をもたらすだろう。

福島事故以来不信の広がった原子力への社会の見方が変わりつつある。現在の電力不足、そして電力価格の上昇で、原子力の大量発電、それによる電力価格の低減効果について、多くの人が認識している。また安全性も、原子力規制の強化によって、事故の可能性が低下していることの認識が少しずつ知られるようになった。

◆使用済み核燃料の量を減らせる

その中で、反対派の批判は、使用済み核燃料などの原発で出る放射性廃棄物の問題が中心になりつつある。その処理が決まらないことへの批判だ。それに一般の人々が引っ張られ、不安を抱いているようだ。再処理の実施は、この問題の解決に向けて、状況を変える。

再処理施設が動き出せば、使用済み核燃料の量を減らせる。現在、この燃料の総量は1万8000tに上り、その大半は各原発の使用済み燃料プールに置かれている。再処理によってその量が減り、7分の1程度の高レベル放射性廃棄物のみを処分すればよくなる。この燃料の総量は、現在保管可能量の7割を超える。再処理が進めばプールに余裕もでき、原発の再稼働もしやすくなるだろう。

高レベル放射性廃棄物の最終処分地については、北海道で文献調査に2自治体が立候補するなど、変化の兆しが見られる。すぐに解決できる問題ではないが、処理すべき物質の量が大きく減れば、建設もしやすくなる。

またプルトニウムは核兵器の材料になり、放射線量の高い危険な物質だ。日本は原子力の平和利用に際して、これを核兵器に使わず、減らすことを国際的な公約にしてきた。再処理が進み、余剰プルトニウムの量を減らせれば、各国からの懸念や批判がなくなる。中国などは日本のプルトニウムの大量保有を批判している。また、革新炉開発の推進を背景に、わが国で高速炉の開発が再び進むことになれば、その燃料を抽出する再処理の開始の意味がさらに大きくなるだろう。

◆早期稼働で反対論に再考迫るか

福島原発事故の後の混乱はいまだに続いている。ただし、岸田政権における原子力政策の転換、そして世論の原子力への期待など、ようやく変化が始まった。核燃料サイクルの完成は、そうした変化を加速させる。

なぜか核燃料サイクルを目の敵にする人は多い。反原発の立場の人だけではなく、原子力の活用を認める人でも、使用済み核燃料の直接処分を主張する人、プルトニウムの利用を嫌う人が、日本だけではなく、世界的にいる。しかし、これまで述べたように、核燃料サイクルには多くのメリットがある。再処理施設を完成させ、さまざまな利益を生み出していけば、その反対論にも現実が再考を迫るだろう。

原燃が適切な形で1日も早く、再処理工場を竣工させることを期待したい。がんばれ日本原燃!

【記者通信/2月24日】狙うはガス屋を超えたガス屋か 東ガスが新中計を発表


東京ガスの笹山晋一副社長が12月の社長交代会見で表明した「ポートフォリオ経営」の全容が明らかになった。東ガスの内田高史社長と笹山晋一副社長は2月22日、東京・大手町で会見し、2023年度から25年度までの新中期経営計画を発表した。

会見する内田社長(左)と笹山副社長

それによると、23~25年度を同社グループのビジネスモデルを変革する期間と位置付け、グリーントランスフォーメーション(GX)・デジタルトランスフォーメーション(DX)・お客さまとのコミュニケーション変革(CX)を軸に、①エネルギー安定供給と脱炭素化の両立、②ソリューションの本格展開、③変化に強いしなやかな企業体質の実現――という三つの主要戦略を実行していく。その際、「収益性=エネルギー事業から創出されるキャッシュフローの最大化」「成長性=新たな成長領域であるGX・ソリューションなどにキャッシュフローを積極投入」「安定性=リスク・リターン特性の異なる複数の事業を育成することで、グループ全体で事業安定性を確保」の視点で、事業ポートフォリオマネジメントを強化する狙いだ。

四つの社内カンパニー体制へ トップ人事も発表

主要戦略の具体的取り組みを見てみると、次の三つの取り組みが注目される。まずは脱炭素ソリューション組織「GXカンパニー」の新設だ。同カンパニーでは、e-メタンの大規模サプライチェーンの構築や水素製造用の低コスト水電解セル・スタックの商用化のほか、浮体式洋上風力など新たな収益源の獲得に向けた再エネ電源の獲得などを手掛けていく。同社のエネルギートレーディングカンパニー、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー、海外事業カンパニーと並ぶ四つ目の社内カンパニーとなる。現行の中計で掲げている「ホールディングス型グループ体制への移行」を背景に、将来的な分社化も視野に入れているもようだ。

なお、同日発表された東ガスの役員人事によれば、海外事業カンパニー長(代表執行役副社長)に糟谷敏秀・執行役専務、GXカンパニー長(代表執行役副社長)に木本憲太郎・専務執行役員、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー長(代表取締役副社長)に小川慎介・専務執行役員、エネルギートレーディングカンパニー長(専務執行役員)に棚澤聡・常務執行役員が、それぞれ4月1日付で就任する。

二つ目は、ソリューションに関する統合事業ブランドの構築だ。顧客に提供する価値を「レジリエンス」「最適化」「脱炭素」と再定義。顧客にとって分かりやすく、体系化されたソリューションを新ブランドで提供する。「社名とは別物になる」(笹山副社長)と言い、名称やロゴなどは今後発表する予定だ。

そして三つめが、本社の法人営業機能を東京ガスエンジニアリングソリューション(TGES)に集約することだ。これによりソリューション営業の全国展開を強化、顧客と共に「環境価値の向上・事業継続性の強化・事業生産性の向上」という事業変革を推進していく。25年度時点でソリューション売上高約2100億円(3年間で10%増)を目標に掲げている。

25年度に利益1500億円 薄まる「天然ガス」の存在感

こうした取り組みによって、20~22年度平均で1300億円(内訳=エネルギー50%、ソリューション等25%、海外25%)のセグメント利益(営業利益+持ち分法利益)を、25年度には1500億円(エネルギー60%、ソリューション等25%、海外15%)に引き上げることを目指していく。

余談になるが、東ガスの広瀬道明会長は2月1日、東京・銀座で行われた講演会のあいさつの中で、4月1日付で発足する笹山社長体制に言及し、「トヨタの豊田章男社長は(トップ交代の会見で)『クルマ屋を超えられない。それが私の限界』と言われたが、笹山さんにはガス屋を超えたガス屋になってほしい」とエールを送った。新たな中計には、その方向性がはっきりと浮かび上がっている。実際、プレス向けに配られた32頁の説明資料から読み取れるのは、「天然ガス」という4文字の存在感が薄まりつつあることだ。そう遠くない将来、歴史的な社名変更が行われても不思議ではないだろう。

【記者通信/2月24日】JERA可児・奥田両氏のツートップへ 「共同CEO」でグローバル企業目指す


JERAは2月22日、4月1日付で佐野敏弘会長、小野田聡社長が退任し、可児行夫取締役副社長執行役員が代表取締役会長・グローバルCEO(最高経営責任者)に、奥田久栄副社長執行役員が代表取締役社長・CEO兼COO(最高執行責任者)に就任するトップ人事を発表した。

JERA本社で会見した可児(左)、奥田両副社長

東京電力出身の可児氏は、資源確保やエネルギー事業開発といった豊富な海外経験を有することを強みとする。片や中部電力出身の奥田氏は、経営企画の経験をベースに他社とのアライアンスなど従来の電力会社の企画部門の枠を超えた多彩な経験を持つ。同日の会見を通じて強調されていたのは、両氏の異なる強みを生かした「相互補完」により強力な執行体制を実現し、事業を取り巻く環境が激変する中においても、グローバルなエネルギー企業へと着実な成長を果たすという強いメッセージだ。

世界的な脱炭素化の潮流が加速する一方で、足下では燃料調達や国内の電力価格の安定化という課題に直面している。可児氏は、「世界最大級のLNG調達力を生かし、(上流から下流に至る)LNGバリューチェーンを構築し不測の事態に即応できる日本にとっての保険機能を備えていく」とした上で、「大規模な再生可能エネルギーの開発、水素・アンモニアのバリューチェーンを構築することで日本から世界の脱炭素社会への移行をリードしていきたい」と抱負を述べた。

グローバル企業を目指していく上で、気になるのが親会社であると東電ホールディングス、中電との関係だ。これについて奥田氏は、「両社は株主であると同時に電力の取引先でもある。取引先という点では、徹底した内外無差別の付き合い方をしているし今後もこれを継続していく。株主という観点では、企業価値を高めることで株主の利益になるよう経営をしていくというポリシーが変わることはない」と強調した。

【目安箱/2月22日】電力・原子力界に敵意!? 河野消費者相への懸念


岸田文雄内閣でデジタル相兼内閣府特命担当相(消費者および食品安全)を務める河野太郎・自民党衆院議員への世間の注目度は依然として高いものがある。政権の支持率が伸び悩む中、後継首相との声も根強い。しかし、電力・原子力業界に向けられる「ある種の異様な敵意」(大手エネルギー会社関係者)が気がかりだ。

「核燃料サイクルを潰す」と公言

旧聞になるが、エネルギーフォーラム2016年12月号に掲載された河野氏のインタビュー記事を読み、電力業界に対する辛辣な言葉に驚いたことがある。当時、河野氏は安倍政権で行政改革相を離任して一議員に戻っていた。専門誌の取材で、強いメッセージを伝えようと思ったのだろうが、あまりにもエキセントリックだ。引用してみよう。

「電気事業連合会は『反社会勢力』と同じだ。任意団体であり、運営や財務内容も公開していないのに、政治に影響を及ぼそうとしている」

「私は反原発ではないが、原子力政策の根幹である核燃料サイクル政策は間違いだ。国民に膨大な負担を与えるのに推進されている。この政策を潰す。そのために首相になりたい。首相なら国策を動かせる」

「私は情報を公開し合理的に政策を進めろと、当たり前のことを言っている。それなのに電力会社や経産省が反発してくる」

業界は「河野氏の一挙手一投足」を注視

河野氏は以前にも外務、防衛、ワクチン担当など、注目される大臣職を歴任している。安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の3代の首相が評価し、SNSのツイッターのフォロワーの数も1月末で267万人と国会議員トップであり、国民の注目度も高い。

そして今、河野氏は消費者相として、電気料金の上昇を問題視している。1月13日には、家庭向け電気料金の値上げを経済産業省に申請している大手電力4社をヒアリングした。値上げの認可過程での聴取は異例だ。メディアは、これを大きく取り上げ、まるで河野氏を支援しているかのようだ。

今回の値上げ申請は、決して大手電力が不当な利益を得ようとして行うものではない。昨年から歴史的な燃料費の高騰が続き、燃料費調整条項の上限に張り付いてた「規制料金」の赤字状態を解消するために行うものだ。国内のさまざまな企業がコスト上昇分を末端価格へ適正に転嫁していくことは、岸田政権の重要政策にもなっている。しかし、こと電力に関しては、河野が値上げに絡んで事業者を攻撃してくる可能性は否定できない。折しも大手電力会社による価格カルテルや不正閲覧問題が世間をにぎわせている最中だけに、「河野氏の一挙手一投足をかたずをのんで注視している」と大手電力幹部は言う。

とはいえ、前述のようにそもそも業界への敵意を持つ人が、国家権力を背景に介入を行うのは、行政の中立性、公平性が疑われる行為だろう。河野氏はその役職ごとに電力・原子力の無駄遣いを攻撃、再エネを支援する動きをしてきた。「世論やメディアを煽って電力業界を悪者にし、痛いところを突いてくる」と、同幹部は苦々しげに河野氏の態度を批判していた。今回の騒ぎでも、そんな気配を感じざる得ない。

自民党内にくすぶる反発 業界とは建設的対話を

こうした河野氏の電力・原子力への敵対姿勢には、反発も大きい。21年9月の自民党総裁選挙で、河野氏は岸田首相に敗れた。原子力施設が立地する自治体は全国で12道県になる。これらの地域の自民党支部、国会議員はそろって河野氏に投票せず、その地域の党員票は伸びなかった。河野氏は「反原発ではない」と繰り返したが、これまでの態度と発言をみれば原発嫌いは明らかであり、これらの地域の政治家も自民党員も反発した。

そして河野氏は政界で孤立気味だ。麻生派に属するが、エネルギー政策に理解の深い同派の甘利明・前自民党税制調査会長や山際大志郎・前経済再生相は、河野氏のエネルギー政策を公然と批判していた。派閥トップの麻生太郎元首相も河野氏を強く支援しなかった。菅内閣では再エネ振興と脱原発で協調して2人で「KK」と呼ばれた、小泉進次郎・前環境相も人気は現在急降下している。

河野氏の電力・原子力ムラへの批判には、確かにうなずける部分もある。ところが、その過激な発言・行動ゆえに攻撃性が目立ち、感情的な対立構造に陥りがちだ。「河野さんがこちらを潰しに来ているのだから、当然強く反発する。落ち着いて冷静に対話をする意向はあちらにない」と前出の電力幹部は話す。

河野氏は、聡明な政治家だ。日本に原子力が必要であり、その体制が核燃料サイクルによって組み立てられていること、それが米国などとの協議の上で成立していることは、重々承知しているはずだ。核燃料サイクルは、核兵器の材料になりかねないプルトニウムを、使用済み核燃料から分離し、それを加工して再び原発の燃料にするという政策だ。余剰プルトニウムを持たないことは米国など核保有国との約束であり、高レベル放射性廃棄物の最終処分地も決まらない中で日本が核燃料サイクル政策を中止したら、日米同盟を含め外交関係を揺るがしかねない。

河野氏が電力・原子力問題について、個人的な思いを封印し、岸田政権の閣僚の一人としてエネルギー関係者と建設的な対話を進め、国益にかなう未来づくりを行うことを切に望む。

【記者通信/2月13日】再エネを巡り国策捜査!? 怪しげな話が次々表面化


再生可能エネルギービジネスを巡る怪しげな話が立て続けに浮上している。

三浦瑠麗氏の夫の会社が強制捜査

国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫が経営する投資会社のトライベイキャピタル(東京)が1月に東京地検特捜部の捜査を受けた。太陽光発電を巡る約10億円の詐欺容疑という。この案件は相手方と民事で係争中のようで、刑事での強制捜査の並行はかなり異例だ。三浦氏は社会的な批判を受けて活動を自粛している。

三浦氏は菅義偉政権時に発足した成長戦略会議のメンバーだった。ここで彼女は太陽光発電の拡大について政府によるテコ入れを主張していた。筆者は、彼女の夫が太陽光に関係しているとその当時から知っていたので、その行為とそれを許した菅政権に違和感を覚えた。

ただし成長戦略会議は2021年10月に菅政権が退陣した。同会議は次の岸田文雄政権では「新しい資本主義検討会」と「G X検討会議」に変わり、三浦氏は再任されなかった。同年6月にまとまった中間報告でも太陽光の支援は従来の政策の延長となり、彼女の主張は反映されなかった。

東京地検特捜部は、昨年から再エネ関係の企業を続けて捜査している。小泉純一郎元首相、小泉進次郎衆議院議員と近かった、太陽光発電会社のテクノシステム(横浜市)の経営陣が一昨年に詐欺容疑で逮捕、有罪となった。再エネ企業が集まり、政界との関係を築いていた大樹総研(東京)を、特捜部は昨年初頭に捜査した。三浦氏の夫も、同総研に関係していたという。特捜部は再エネと政治に絡んだ刑事事件を追っているのかもしれない。世論を誘導するために、捜査情報を少しずつメディアに漏らしているようだ。

自民党・秋本議員に再エネに絡む株取引の疑惑浮上

もう一つは自民党の秋本真利衆議院議員、外務政務官の疑惑だ。2月2日の衆議院予算委員会で立憲民主党の源馬謙太郎議員が追及した。

2021年12月に経産省が洋上風力の入札を行った。三菱商事が3カ所で全て落札する結果になった。その後、落札できなかった再エネ事業者が自民党再エネ普及拡大議員連盟の秋本議員らにロビー活動を繰り広げるなどしてルールが変わった。安い価格で発電できる事業者が有利だった入札の仕組みを、運転開始時期などのいろいろな仕組みを加えて、小規模事業者でも有利な仕組みにしたのだ。当時から、政治の強い介入がうかがえた。

源馬議員によると、秋本議員は3年間で再エネ事業者から多額の献金を受けていた。加えて、その入札に参加した風力発電会社レノバの株を安値の時期に購入していたという。その後に同社株は急騰した。秋本議員は、献金と株の売買の事実を認めたが、利益が出たかは、明らかにしなかった。

源馬議員は、「利害関係者による利益誘導」と批判した。そうした疑いは当然だろう。秋本議員のさらなる説明と、今後の全容解明が待たれる。

巨額の補助金でスキャンダル事案は当然起こる

このように再エネを巡ってはスキャンダルめいた話が増えている。補助金を使って再エネを増やす従来の振興策、そして再エ固定価格買い取り制度(F I T)がもたらしたものだ。企業努力やイノベーションではなく、制度をいじって利益を増やそうという動機が、事業者に生まれてしまう。

再エネには多くのメリットがある。それを適切な形で増やすべきだが、大量に無計画に導入してしまったため、エネルギーシステムが混乱している。

22年にFITで流れた補助金は3兆6000億円の巨額だ。そして電気料金の上昇が問題になっている。その一因は再エネ賦課金だ。1世帯あたり月2000円近く、電気料金の1割以上を占める状態になっている。利用者が支払った賦課金の行き先は、再エネ発電事業者だ。この制度の見直しに政府・自民党が動かない理由に「利権」があるとしたら、国民感情的にも、倫理的にも許されない。

再エネに関わるのは真面目な事業者が大半ではあるが、その中にはルールを破る人がいて、周囲には怪しい政治家がウロウロしているのだ。

「国策捜査」の狙いは再エネか?警戒が必要

元外交官でベストセラー作家になった佐藤優氏に『国家の罠』(新潮社)という著書がある。佐藤さんは大物政治家、鈴木宗男氏(現衆議院議員)のロシア疑惑に関係して捕まる。この中で、佐藤氏を取り調べた検事が、検察は時代の転換を促す「国策捜査」を行うと話す。ただし、ターゲットは検察官ではなく世論が決めるという。

役人が威張る不気味さ、危険さ、傲慢さを感じるが、印象的な言葉である。この言葉通り、検察が変に張り切り、時として暴走することはあり得るだろう。

この10年を振り返ると、とにかく再エネが優遇された。再エネ事業者の大半は真面目に法律に基づいて事業を行っている。ところが行き過ぎた一部の人の行動が各所で目立ち、社会問題を起こしている。外資系企業の動きもある。それを批判する声が社会に広がり、それを背景に再エネ絡みの事件を摘発しようと、検察が張り切り、時代を変えようとしているのかもしれない。

真面目に再エネに取り組んでいる人には迷惑な話だ。違法行為に走った再エネ事業者は処罰の覚悟を、そして社会問題化しかねない「グレー」(灰色)の行動をしてきた人は自粛を、真っ当な事業者はとばっちりを警戒をすべきだろう。時代の転換がやってきているのかもしれない。

【論考/2月1日】建築物省エネ法が脱炭素の次の妨害者か!?


日本の省エネルギー、ひいては脱炭素に大きな役割を果たしてきたのが省エネ法(経済産業省資源エネルギー庁所管)/建築物省エネ法(国土交通省住宅局所管)という対になった法律がある。このうち省エネ法は2022年に石油危機以降の燃料消費中心の規制ルール(いわゆるキロリットル主義)から脱炭素に寄り添う形でリフォームされたのは知られたところである。何しろ法律の名前自体に「非化石エネルギーの活用」という概念が加わって変わったのである。

昨年の省エネ法改正は画期的だった

これによって「再エネが系統電力のエネルギー原単位として反映されていないことから、再エネ電源により低炭素化が進んだ電気の使用が進まず脱炭素を妨害しているのではないか」という批判には耐えるようになり、むしろ大胆な改正によって再エネ導入を後ろ押しし、かつ系統電力から再エネを引き込む「上げDR」も呼び込める法律へと画期的に変わったと評価できるものであり、すでにエネ庁分散型電力システム検討会で需給に貢献する「下げDR・上げDR」の省エネ法上の評価を具体設計しているのも特筆に値する。

それとともに、省エネ法運用上の長年の焦点だったいわゆる神学論争(建物新設時の選択によってエネルギー効率はどう変わるか、についての結論の出ない論争)も、電気利用の中の再エネウェイトが常態的に上がり、火力発電の閉鎖が中長期にわたって続くことを反映して火力平均の原単位から全電源原単位に改定された。火力平均の数値自体も低効率の石炭・石油の閉鎖や高効率機シフトが反映されていない状態が解消され、需要サイドの脱炭素化に貢献する電気利用の高い効率機器の評価がようやく正常化された改定であった。

需要サイドの電気利用機器は、高効率化以外に、再エネ大量導入時代に不可欠な需要サイドフレキシビリティの拡充に貢献できる唯一のエネルギー利用機器という面があり、その導入遅れはロックイン効果(一度建物に入った機器は炭素税などの環境変化の影響を受けず、長い期間変更されないこと)を生む。省エネ法改正は、それに歯止めをかけたといえる。

建築物省エネ法は2025年まで原単位改定を反映せず

このように前向きな改正がプレーヤーの動きに反映されつつある省エネ法に対して、対となる法律である建築物省エネ法も合わせて改正された。一番大きな変更点は断熱基準をはじめとする省エネ対策の強化であり、2021年の内閣府タスクフォースでの激しいやり取りから改正に至ったのは記憶に新しいところだ。全ての建築物について省エネ基準への適合義務を課す、というこの内容は、建物の3割を占める木造建築物の省エネ性能向上に大きく貢献することが期待される。「断熱は最大の暖房機器」と言われるゆえんである。

その一方で、建築物省エネ法上での一次エネルギー換算係数については、省エネ法との整合を基本とするはずのこの法律で、全電源平均への改定が25年まで棚上げされた、というより永遠に放置のおそれさえある。内部事情を察するに、①関連業界の協力が不可欠な省エネ基準適合義務化の円滑な導入を最優先するため、②またエネルギー機器まで巻き込んで業界構造が変わりかねない原単位問題まで関わってはいられないという当局の事情、③さらには脱炭素への協調で大胆すぎる経産省だけに付き合っていられないという気持ち――もわからなくもない。

しかしながら、この改定の遅れ、しかも25年まで棚上げというのは25年まで建築物省エネ法が脱炭素貢献のある機器・システム転換を妨害し、ロックイン効果を助けていく、と言っているのに等しい。これでは省エネ法と対にはなっていない。25年という固定化によって、技術や情勢変化に対して硬直的であることもさらなるイノベーションを阻害する効果を持つかもしれない。

脱炭素の鍵は一つ一つの建築物にあり 

目下のエネルギー危機は、日本中の一つ一つの家屋、企業の建物に「エネルギーコストにどう向き合い、どう投資してどう戦うか」を考えさせる機会となっている。節約もDRも方法の一つだが、断熱や太陽光・蓄電池によるプロシューマ化の方がはるかに大きな投資効果を持つ。

電気機器やガス・石油機器に関わる多くの産業は国民の前向きなアクションを助ける産業でなければならず、建築業界ももちろん同様だ。省エネ法と建築物省エネ法は国民のアクションを引き出すために不可欠なルールインフラを提供するものであり、その改正は確実に浸透させて、いわば日本の脱炭素化の基礎付け(マクロ・ファウンデーション)を形作らなければならない。

その「国民のために」という基礎に立って、業界調整をはじめ多くのハードルを乗り越えてこそ、脱炭素に貢献するエネルギー機器・建築産業、政策当局であり続けることができるのではないだろうか。

西村 陽  大阪大学招聘教授

【目安箱/2月1日】脚光浴びる九州の電気料金 製造業に魅力的な地域へ


九州というと、どのようなイメージがあるだろうか。

五つの県ごとに県民性も特徴的も違うが、東京に長く暮らす筆者には、「豪快さ」「先見性」「外国に開かれた」「開明さ」の印象がある。そして、今のビジネスパーソン各所で「九州の電気が安い」という点を話題にしている。その特徴によって、現実の経済が動き始めている。

◆原子力活用し料金を据え置き

正確にいうと、九州電力の電気が安くなったのではなく。他の電力会社が値上げをする中で、九州電力が据え置いていることで、相対的な割安感が出ている。これが長期化しそうだ。この数カ月、九州、中部、関西を除く大手電力7社が値上げ申請に踏み切った。その結果、2023年度は九州の電気料金が家庭・業務向けでも、産業向けでも最も安くなる見込みだ。

九州電力は産業用電力(高圧)の料金を1㎾時当たり10~12円にしている。現時点でのそれは関電で14~15円、東電で15~16円だ。東電は値上げによって20円近くになる見込みだ。九州電の産業向け料金が東京や他地域の6割程度になれば、製造業にとって九州は魅力的な立地場所になる。この差は、原子力発電の活用の違いによるものだ。

電力各社は、ウクライナ戦争後の化石燃料価格の高止まり、原子力発電所の稼働の遅れ、円安などを背景に決算が軒並み悪化した。大手電力会社は支出の4~5割を、火力発電の燃料費が占めるという他産業にない企業構造となっている。急激な化石燃料の値上がりは、経営努力でなかなかカバーできない。九州も22年度の収益は黒字を保つものの、減益見通しの厳しい状況だ。それでも原発の稼働が通常に戻る見通しであることから値上げには動かなかった。

◆いち早く原発をフル稼働、価格に影響

九州電は現状で四つの稼働可能原発を持つ。玄海原発3号機(118万kW)が2022年12月に発電を再開した。川内原発1、2号機(各89万kW)は運転しており、玄海4号機(118万kW)も今年2月には稼働を始める見通しだ。玄海1、2号機は廃炉にしたため同社は原発4基体制だが、それらが活用される。

稼働中の九州電力川内原発(鹿児島県)

東京電力の福島第一原発事故の後に、原子力規制体制の見直しと過剰規制、審査体制の混乱で、原子力発電の稼働が遅れた。九州電力は、行政に抵抗せず、言うとおりにして早期再稼働を進めた。規制当局の政策がおかしかったので、九州電力の対応は変だと当時の私は思った。しかし経営は結果が全てだ。今の稼働の状況を見ると、九州電力の対応は正しかったと言える。一方で反原発派の妨害に対して、同社も立地自治体も右往左往せず、粛々と再稼働の手続きを進めた。この結果は、電気料金に効いてくる。

九州での電力の安さが半導体工場建設の一因

熊本県では半導体生産の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が進む。同社は日本国内で熊本県内を候補に、もう一つの工場の建設を検討している。またソニーも同県内に昨年6月に半導体の新工場を建設し、もう一つの建設を同県内で検討している。半導体が世界中で不足しているが、この経済環境で再び日本が生産拠点として注目されている。

半導体は安定・廉価な電力供給を必要とする。熊本は豊富できれいな地下水があり、県などとの協力、九州大と熊本大などの地元大学と半導体産業が協力して工学系の人材を供給するなどの取り組みを重ね、1970年代から半導体工場が集積していた。そうした背景が半導体工場新設の背景にある。蒲島郁夫知事は1月に台湾のTSMCを訪問し、トップセールスで第二工場建設の検討を依頼し、県のできる協力を行うことを申し入れている。

しかし、それに加えて両社の決定には、安定的に供給され、安い、九州電力の電気が一因となっただろう。

ある家電事業を縮小し、海外生産を増やしているメーカーの幹部に昨年末に取材した。関西と関東に工場があるものの「電力の値段が高いため、関東の工場に海外から生産を戻せない」と話していた。

◆九州人は利益をたっぷり出し、モデルケースを作ってほしい

原子力・エネルギー政策に関しては、福島原発事故の後で、感情的な反発が渦巻いて、政争の道具にもなってしまった。先ほど述べたように、九州人の開明性が、この問題に冷静な対応をもたらしたのかもしれない。他電力の原子力発電の稼働が遅れがちなために、この九州電力の料金の相対的な安さは、10年単位の長期にわたって続きそうだ。

他地域の企業やビジネスパーソンにはうらやましい状況だが、九州の人々は、この電力の利点を大いに活用して日本経済を引っ張ってほしい。そして電力を巡る冷静な議論を促す成功例を作ることを期待したい。