【記者通信/10月5日】萩生田経産相が原子力で持論展開 エネ基は月内閣議決定へ


萩生田光一経済産業相は10月5日、就任後初の閣議後会見を行い、経済産業政策における緊急重要課題として①コロナ禍で傷んだ日本経済の再興、②「S+3E」を大前提としたエネルギー政策の推進、③福島第1原発から出る処理水の海洋放出をはじめとした福島の復興――の3点を挙げるとともに、月内に第六次エネルギー基本計画の閣議決定を目指す考えを明らかにした。

萩生田氏は会見の冒頭、着任にあたって岸田文雄首相から「処理水の海洋放出に向けた万全の風評防止対策など、福島第1原発の廃炉、汚染水、処理水対策や、福島再生に全力を挙げて取り組むこと、(中略)エネルギーの安定供給に万全を期すとともに、2050年カーボンニュートラルを実現し、世界の脱炭素を主導するため、再エネの最大限の導入促進、省エネの推進、安全性が確認された原発の再稼働、新たなクリーンエネルギーへの投資支援に取り組むこと」などについて指示があったことを明かした。

その上で、まず福島復興について、「経産省の最重要課題。福島第1原発の廃炉は復興の大前提であり、中長期ロードマップに基づいて、東電任せにしないで、国が前面に立って安全かつ着実に進めていきたい」「処理水の処分では本年4月、厳格な安全性確保と風評対策の徹底を前提に海洋放出するとの基本方針を決定した。8月には、風評を生じさせないための当面の対策を取りまとめたところで、政府を挙げて理解醸成に取り組んでいく」「帰還困難区域に関しては、特定復興再生拠点区域の整備を行うとともに、拠点区域外についても、政府方針に基づき、帰還意向のある住民の方々全員が帰還できるように着実に進めていく」などと述べた。

またエネルギー政策については、「S+3Eを追求することが最重要課題だと考えている。その大前提のもと、2050年カーボンニュートラルや、2030年度の新たな削減目標の実現に向けて、日本の総力を挙げて取り組むことが必要だ。徹底した省エネ、再エネの最大限の導入、安全最優先での原発再稼働などを進めていく」と強調した。

使用済み核燃料の再処理路線を堅持

萩生田氏は、文部科学相や文部科学政務官を務めた経験から、使用済み核燃料の再処理や高レベル廃棄物の最終処分などの核燃料サイクル政策、高速炉などの原子力技術開発に関して、豊富な知見を持つ。会見では、わが国の原子力政策について次のような持論を展開した。

「立地地域の方々や国民の理解を得ながら、安全性を最優先として原子力発電所の再稼働を進める」「高レベル放射性廃棄物の減容化、有害度の低減、資源の有効利用の観点から、使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウムなどを有効利用することが政府の基本方針」「政府としては、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を堅持する方針。昨年12月には電気事業連合会がさらなるプルサーマルの推進を目指す方針を明らかにした。こうした方針に基づいて、プルサーマルを一層推進することで、プルトニウムの利用拡大が進むと考えている」「高速炉については、核燃料サイクルのメリットをより大きくすると認識しているので、わが国での研究開発、人材育成の取り組みが途絶えないよう、『常陽』の運転再開などに政府として取り組み、さらに米国やフランスなどの国際協力の下、高速炉の運転開始に向けた研究開発を着実に進めていくことが重要だと考えている」――。

先の総裁選では、立候補した河野太郎・前規制改革相が、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の中止などを理由に核燃料サイクル政策の見直しを提起したことで、電力業界に衝撃が走ったが、萩生田氏は「核燃料サイクルの推進」が政府の方針であり、自身としても「再処理路線」を堅持していく姿勢を改めて強調した格好だ。

萩生田氏は、第六次エネルギー基本計画の見通しにも言及。「政府内での協議を終え、与党の皆さんにもご理解を、ご了解をいただいた上で、ちょうど昨日までパブリックコメントを実施した。今後、意見の取り扱いを検討した上で、10月末から始まるCOP26(温暖化防止国際会議グラスゴー会合)に間に合うよう、閣議決定を目指していきたい。2030年度まで10年を切っている。早期に計画に実行できるように努力をしていきたい」との考えを示した。

【目安箱/10月1日】岸田新政権のエネルギー政策に「過激さ」消える期待


9月30日に自民党総裁選挙が行われ、岸田文雄氏が自民党の総裁に選ばれた。10月の国会で首相に選出される。近く行われる衆議院の選挙では、今の野党の低迷する状況では政権交代ともならず、岸田氏が首相を続けるだろう。

脱原発や核燃料サイクル否定など過激な政策を掲げた河野太郎氏が選ばれなかったことに、エネルギー・電力関係者には、ほっとする人も多そうだ。

エネルギー政策は安倍政権では経産省色の濃さ、菅政権での脱炭素の特徴があった。岸田政権では、どうなるのか。

勝手な推測で「床屋政談」だが、岸田政権のエネルギー政策を予想してみたい。結論を述べると、エネルギーをめぐる諸問題は「首相案件」とならず、菅政権の過激さは消えると筆者は推測をしている。

◆既存エネルギー企業に冷たい経産省と安倍政権

安倍政権では、安倍首相は政権内で経産官僚を側近とした。そのためか、経産省色が濃い政策をしてきた印象がある。特にエネルギー関係ではそうだ。「エネルギー自由化の推進」「原子力については原子力規制委員会に責任を負わせ、政権と経産省は傷を負わない形にする。しかし脱原発もしないあいまいな態度」「再エネは増加を煽る」「水素は応援」「重電プラントの輸出は促進する。特に原子力と石炭等の火力プラント」「福島事故問題は東電に責任と賠償を背負わせるが逃げ腰。東電国営化の諸問題は放置」「エネルギー、特に電力分野での新規参入企業への優遇」というものだ。

気候変動問題では、第一次政権で安倍首相は積極的だったが、第二次政権ではトーンダウンした。サミットや国際会議で、日本主導で何かをしようという意欲を見せなかった。これは京都議定書の義務達成に苦しんだ経産省の政策だ。

エネルギー外交では、LNG・石油供給は安倍外交の中でも重視された。政権中の2012年ごろからシェール革命が起きてエネルギー価格が下落する幸運も重なって、大きな問題は起きなかった。安倍首相は、外交政策では見事だった。

しかし、これらの政策は、既存エネルギー企業に負担を負わせ、原子力の衰退をもたらすものだった。自由化の混乱、電力を中心にしたエネルギー供給能力の低下、原子力の長期停止と電力会社の収益悪化は放置された。東電の経営問題も、巨額賠償を背負わせたままにしている。

菅政権は、安倍政権の路線を多くの点で継承した。しかし気候変動、脱炭素の問題では状況が変わった。菅首相は「2050年カーボンニュートラル宣言」を政権発足直後に行ない、脱炭素政策を推進した。いずれも菅首相主導だったという。過激な(しかしずれている)小泉進次郎環境大臣のいろいろな提案を容認し、また河野太郎大臣の再エネ問題への介入もそのままにした。菅首相はこれら2人を明らかに引き立てていた。

そして多くの省庁がグリーン成長戦略をめぐる政策を打ち出した。厳しい財政状況の中で、21年度予算では2兆円のグリーン投資枠まで決まった。

ただし新型コロナウイルス対策に追われ、世論も気候変動と脱炭素にそれほど関心を向けなかったのは、菅首相に気の毒な点であった。

◆総裁選で岸田氏は気候変動・エネルギー問題に関心見せず

そして岸田首相の誕生だ。

自民党総裁選では、河野氏が脱原発を明確に語ったため、エネルギー問題が注目を集めてしまった。自民党の「最新型原子力リプレース議連」が作った一覧表だが、4候補の原子力政策は明らかに差があった。

高市氏が原子力の積極的活用、岸田氏、野田氏がこれまでの自民党の政策通り消極的利用の立場のようだ。河野氏は、持論である過激な反原発、反核燃料サイクルの姿勢を鮮明にしていない。(図表参照)

自民党総裁選ではエネルギーと気候変動問題で、岸田新首相は、自民党の穏健な政策の範囲で主張を行なった。河野氏、高市氏と比較して、これら2つに大きな関心を示さなかったように思える。

岸田氏は、宏池会という派閥の長だ。岸田氏の個性も温厚。そしてこの宏池会は、伝統的に政策通議員が集まるとの評価がされているグループで、政策も経済重視で対外政策では穏健だ。

岸田氏の最近の公職は外務大臣(2012~17年)、そして自民党政調会長(17~19年)だ。彼は、普通の政治家並みの脱炭素、気候変動問題の対応はあったが、自ら主導した印象はない。岸田氏は、被爆地広島選出で軍縮や他国間の協調活動、アジア外交に積極的だった。しかし気候変動をめぐる外交交渉には、個人で乗り出さなかった。官邸と協調しながら、エネルギー外交を進めていた。この時期、外務省が組織として、存在感を増すために、役所として気候変動問題で積極的になっていた。

さらに岸田氏は総裁選の出馬会見では、新型コロナウイルスの感染防止策や景気浮揚策、新自由主義批判と分配、地方創生、デジタル活用の強調をした。しかし気候変動やエネルギー問題、エネルギーの自由化の功罪について自ら言及しなかった。菅政権の「グリーンイノベーション」という目玉政策への言及は、この会見、そしてその後の総裁選の論戦でも、出てこなかった。原子力問題も、積極的な活用策も、脱原発も打ち出さなかった。この点で、気候変動と原子力に関心を示した河野氏と違った。

◆過激さは消えるが、まだ不透明さも

もちろん、岸田政権でのエネルギー政策は政治状況の変化や、人事で変わっていくだろう。ただし、総裁選での発言やこれまでの行動をみると、岸田新首相は、脱炭素の路線にストップをかけることはしないものの、積極的な旗振りもないと思われる。また岸田氏を支持した重鎮議員は、甘利明氏、額賀福志郎氏などエネルギー問題に精通した議員が多い。若手議員の一部にある再エネの過剰賛美をする人は少なさそうだ。自民党全体も菅政権での脱炭素、その手段である再エネの強調という動きにならなさそうだ。

岸田氏の個性から、選挙では争った河野氏や小泉氏、菅前首相を攻撃、孤立させることはなさそうだ。それでも当面は彼らの影響力は一時的に消え、その結果、菅政権での過激さをはらんだ気候変動、脱炭素政策は当面なくなるだろう。ただし欧州を中心にこの問題は主要な政治トピックで、日本の産業にも、政策にも、影響を与え続けることになろう。

岸田政権の政策がこうした状況になるならば、エネルギーの関係者は、菅政権でのように政治動向に一喜一憂することは減るだろう。その先の細かな状況はまだ不明だ。安倍政権のような経産省色の強い政策になるか、それとも政治主導で雰囲気が変わるかは現時点(10月1日)には見通せない。

ただし、岸田氏はただの真面目なだけの紳士ではなさそうだ。今回、菅総理が辞任することになった背景のひとつは、岸田氏の総裁選出馬表明と、影響力のあった二階俊博幹事長への批判という勝負に出て、追い込まれたためとされる。そうした思い切った活動もできる人だ。

変革と救国の熱い思いのために、岸田氏は首相を目指して立ち上がったのだろう。その姿勢に期待を込めて新政権を見守りたい。そしてエネルギーでは、新首相が日本の未来を良くする、誰もが幸せになる政策を打ち出すことを期待したい。

【記者通信/10月1日】原子力政策の潮目変わるか!岸田新政権の顔ぶれ予想


自民党の岸田文雄総裁による新政権の布陣が固まってきた。

10月1日夕現在の情報では、副総理=麻生太郎・副総理兼財務相、幹事長=甘利明・党税調会長、総務会長=福田達夫・衆院議員、政調会長=高市早苗・前総務相、選対委員長=遠藤利明・元五輪担当相、国対委員長=高木毅・衆院議員運営委員長、幹事長代行=梶山弘志・経産相、官房長官=松野博一・元文部科学相、財務相=鈴木俊一・前総務会長、外務相=茂木敏充外相(再任)、経済産業相=山際大志郎・衆院議員(初入閣)といった陣容だ。そのほかの人事では、幹事長代理=田中和徳・前復興相、官房副長官=木原誠二・衆院議員、政務担当秘書官=嶋田隆・元経済産業事務次官などが固まっている。

エネルギー政策の側面から見ると、山際氏の経産相就任は、原発再稼働を含めた原子力政策を前進させる上で大きな意味を持つ。経産副大臣の経験を持つ山際氏は党の総合エネルギー戦略調査会事務局長として、今般の第六次エネルギー基本計画の策定に尽力。「わが国のエネルギー政策が『3E+S』を目指す中で、原子力発電は極めて重要なベースロード電源」との持論から、「原発の新増設・リプレース」を同計画に盛り込むべく奔走した。

第六次エネ基案における山際氏の功績

しかし、原発ゼロを党是とする公明党のほか、核燃料サイクル反対を唱える河野太郎・規制改革相、再エネ最大限・最優先導入を掲げる小泉進次郎環境相らの反発から断念。その代替策として、山際氏らが各方面との調整を重ねた結果、第六次エネ基の素案に「必要な規模を持続的な活用していく」との文言を入れ込むことに成功したのだ。「中長期にわたって一定規模の原発の持続的な活用を推進していくという意味で、この一文の価値は大きい」。山際氏は以前、本誌の取材でこう強調した。なお、これに怒った河野氏が、資源エネルギー庁幹部とのオンライン会合の席上、「原発を今後も使い続けますみたいな記載は落としたのか」と迫ったのは、一部週刊誌が報じた通りだ。

そんな山際氏のほか、原子力推進派の高市氏が政調会長に、総合エネルギー戦略調査会事務局長代行を務める木原氏が官房副長官に、また原子力政策に精通する嶋田氏が政務秘書官に、それぞれ就く。その一方で、再エネ最大限・最優先の導入を前面に掲げて原発推進の歯止め役を担ってきた河野氏(党広報本部長)と、小泉進次郎環境相は閣外に去る見通しだ。

「原子力政策は安倍、菅両政権下での長期停滞からようやく脱却する可能性がある。もし党の環境部会長を務め、参院環境委員長も経験している森雅子氏が環境相に就くことにでもなれば盤石。潮目は大きく変わるだろう」(大手電力会社幹部)

岸田新政権による骨太のエネルギー政策展開に、業界関係者の期待が掛かる。

【記者通信/9月27日】小泉環境相が山拓議員の公開質問に「どこが問題なのか分からない」


小泉進次郎環境相は9月24日の閣議後会見で、自民党の山本拓衆院議員から突き付けられた公開質問状に関連して、「(17日の閣議後会見での)私の発言をもう一度見返したが、どこが問題なのかが分からない」と述べ、自民党総裁選に立候補している高市早苗・前総務相の言動を批判したことに問題はないとの見解を示した。

その上で、山本氏が回答を求めている、2050年に向けた再生可能エネルギーの具体的計画など計4項目の質問について、「再エネ最優先の原則でやっていくのは、環境大臣ではなく、政府のポジション」「党内でさまざまな議論や質問、意見があった上で、党内の正式なプロセスを経た、これが事実だ。山本氏から出ている意見も含めて、与党のプロセスの中で議論されたと理解している」などと指摘。「政府・与党」を盾にすることで、自身の考えに基づく具体的な回答を避けた格好だ。電力関係者からは「さすが、小泉大臣。責任回避の弁に長けている」と皮肉交じりの声が聞こえている。

「JA電力」が誕生?既存の「JAでんき」との関係は?

また小泉氏は、この日の会見で、農業協同組合(JA)グループの電力事業展開に言及。22日に、全国農業協同組合中央会の本部(東京・大手町)を訪れ、中家徹会長と面談した話題に触れた上で、「農協が将来的に地域新電力を担う。『JA電力』が生まれるというイメージだ。JAグループというのは、お葬式も、スーパーも、ガソリンスタンドも、あらゆるビジネスをやっている。その中で、実はエネルギーというところは空いている。私は今後、地域の農協の収益の柱になり得る新規ビジネスになるのではないかと見ている」と述べた。

ただJAグループでは、石油・LPガス事業を手掛ける全農エネルギー(和田雅之社長)グループが、2016年に「JAでんき」のブランド名で電力小売り事業に参入。太陽光発電システムの販売も含め、全国規模で総合エネルギー事業を展開している。小泉氏の言う「JA電力」とは、一体何なのか。「全農エネルギーとは別に、再生可能エネルギーをベースとした地域新電力会社を新たに立ち上げるつもりなのか。もしそうだとしたら、全農エネルギーとの関係はどうなるのだろうか」。全農エネと付き合いのあるLPガス関係者は首をかしげるばかりだ。

【記者通信/9月22日】山拓議員が小泉環境相に猛反発 総裁選「代理戦争」の様相 ※修正版


元妻(高市早苗前総務相)に売られた喧嘩(けんか)を、元夫が買った――。自民党の山本拓衆院議員(自民党総合エネルギー戦略調査会会長代理)が9月21日、22日と立て続けに、小泉進次郎環境相に対し公開質問状を突き付けた。小泉氏が記者会見の席上、エネルギー基本計画見直しを巡る高市氏の発言を公然と批判したことに、猛反発した格好だ。

4年前に離婚した後も円満な関係を続けているという、山本氏と高市氏

そもそもの発端は、2030年度の電源構成目標で再生可能エネルギー比率を36~38%とする政府の第六次エネルギー基本計画案について、高市氏がBS番組で「日本の産業が成り立たない」と指摘したこと。これに対し、小泉氏は17日の閣議後会見で、「(高市氏が)仮に再エネ最優先の原則をひっくり返すのであれば、(エネルギーミックスの数字を含めて、具体的に)どう考えているのかを政策論争の中で明らかにしていただきたい」「それでもひっくり返すのであれば、間違いなく、そうならないように全力で戦っていかなければならない」などと、高市氏に宣戦布告したのだ。

山本氏は21日の公開質問状の中で、そんな小泉氏を「公式の場において、国民に対し、2050年を見据えたエネルギー安定供給政策という争点をぶち壊すために、3年おきのエネルギー基本計画の改訂を持ち出すなど、権力の笠を着て自民党総裁選挙に介入し、高市候補を貶める発言をしたことは、一議員としても見過ごすことはできない」と批判。その上で、次の2点の質問を提起した。

①旧一般出来事業者10社の19年度の火力発電量は約4814億kWh/年。これは130万kWの原子力発電所53基分に相当するが、現在の火力の発電量を50年に再エネで賄うための具体的計画を、環境大臣として示してほしい。

②経済成長とデジタル化の進展を図る際に、IT関連消費電力は50年には16年の41TWh/年の約4000倍の17万6200TWh/年になるとの予測が、文部科学省の科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターによって発表されている。省エネの進展があったとしても、IT関連消費電力は莫大に膨れ上がることが予想される。50年にそれらを再エネで賄うための具体的計画を、環境大臣として示してほしい。

あえて回答困難な公開質問 どうする小泉氏

さらに山本氏はまだ怒りが収まらないのか、翌22日には「第2弾」と銘打って、次の2点に関する公開質問を叩き付けた。

①仮に太陽光発電だけで 19 年現在の化石燃料による発電分(7782 億 kWh)全てを置き換えた場合は、全国に東京ドーム約 13 万個分の面積の太陽光発電設備(620GW)が必要となる。なお、再生可能エネルギー保全技術協会の筒井信雄理事長によると、それらの設置には約 93 兆円(15 万円/kW×620GW)が必要になるとのこと(土地代等は含まない)。当方の試算に対し、小泉環境大臣の見解を示してほしい。

②科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターが発表した 50 年の IT 関連消費電力予測 17万6200 TWh/年を、仮に太陽光発電だけで賄おうとすると、東京ドーム約 2940 万個分の設備面積が必要となる。この点については、もちろん太陽光発電のみならず他の再生可能エネルギーで賄う考えかと思うが、小泉環境大臣の見解を示してほしい。

「これらの質問に的確に答えられたら、あんなエネ基にはならないよな、と思えるほどの難問。小泉氏が自身の答えなど持ち合わせていないことを想定した上で、あえて投げ掛けた形だろう。果たして、ええ格好しいの小泉氏がどう反応するのか。24日の閣議後会見が注目される」(大手電力会社関係者)

総裁選「高市氏VS.河野太郎規制改革相」の代理戦争の様相を呈する「山本氏VS.小泉氏」の論争。エネルギー関係者にとっては、こちらの戦いからも目が離せない。

【記者通信/9月22日】英国で卸電力価格が暴騰 移行期の課題浮き彫りに


9月に入り、英国の卸電力市場価格が暴騰している。8月までは1000kW時当たり100ポンド(約1万5000円)程度で推移していたが、9月15日には一時500ポンド(約7万5000円)を付けるなど跳ね上がった。現在も200~300ポンドと高い水準で推移している。

この背景には、火力発電燃料である天然ガスの需給ひっ迫と世界的な価格高騰がある。欧州では、年初の厳冬によって激減したガスの地下貯蔵量が回復しきっておらず、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働の遅れも影響し供給が需要に追い付いていないのが実情だ。

英国のみならず欧州各国では、CO2対策として石炭・石油からガスへと火力燃料転換を急速に進めてきた。このため、ガスが高騰しても燃料をスイッチすることは容易ではない。さらに、年初に1t当たり30ユーロほどだったCO2排出権価格(EU-ETS)が9月に60ユーロを突破したことも、石炭への転換に歯止めをかけていると考えられる。

冬の需給に不安材料 炭素税も「時期尚早」か

そうした状況の中、欧州全体での数週間に渡る風力発電の稼働低下と、火災による英仏間の送電施設の一部機能停止が追い打ちをかけた。1986年に運開したこの送電施設は、主にフランスの原子力発電による電気を英国に供給する役割を担う。ナショナルグリッドは、この事故によって来年3月末まで半分の容量1GWのみで運用するとしており、冬の需給への不安材料となっている。

有識者の一人は英国のエネルギー危機に陥った要因について、「脱炭素エネルギーシステムへのシフトには、石炭と石油を代替するために十分な天然ガスの供給が必要となる。再エネ大量導入を行う前に、石炭・石油火力発電を削減してはならないし、炭素税の導入も時期尚早だったと言わざるを得ない」と指摘する。

かたや同じ島国である日本。採算性の悪い火力の閉鎖が響き、昨冬に続き今冬も厳しい需給が見通されており、決して他人事ではない。英国のエネルギー危機が浮き彫りにしたトランジションへの課題に対し、日本としてどう向き合うのか。同じ轍を踏むことだけは避けるべきだ。

【記者通信/9月19日】電力・経産省を抵抗勢力と見立てる小泉環境相「背水の陣」


小泉進次郎環境相がついに、父・純一郎氏の十八番である劇場型手法を大々的に真似てきた。再生可能エネルギーの最大限導入に向けたエネルギー改革について、電力業界や経済産業省を抵抗勢力と見立てながら、「既得権益との闘い」だとぶち上げているのだ。

総裁選告示の当日ということもあって、気持ちが高ぶっていたのか、9月17日の閣議後会見はかなりヒートアップした。第六次エネルギー基本計画について、記者から「BS番組で高市(早苗)さんが、『あれでは日本の産業は成り立たない』と発言していたが…」と問われると、小泉氏は「仮に再エネ最優先の原則をひっくり返すのであれば、(エネルギーミックスの数字を含めて、具体的に)どう考えているのかを政策論争の中で明らかにしていただきたい」「それでもひっくり返るのであれば、間違いなく、そうならないように全力で戦っていかなければならない」などと、総裁選候補の高市氏に宣戦布告。「国際的な潮流を考えたら、どんな政権が生まれても、(再エネ最優先という)この方向性を否定できるはずがない」と強調した。

続いて、記者が「14日の会見では、エネルギー政策を巻き戻そうとする勢力に関して、抵抗勢力と位置付けた。こうした既得権益に切り組んでいく姿は、純一郎さんの手法と重なる部分があるが」と質問。これに対し、小泉氏は次のような持論をぶちまけた。

コケにされている梶山氏は岸田氏の推薦に

「改革というのは、イコール既得権益との闘い。逆に言えば、既得権益と闘わないのは、改革とは言わない。それが、父にとっては郵政民営化だったのかもしれない。それだけ全てをかけなければ突破できないような課題だった。当時は自民党すら反対していて、野党も反対という状況だった」「エネルギー政策は、趣が少し変わっていて、特に自民党内の反対が強い。そしてその裏側にいる産業界の一部、そしてそれを変えたくない霞が関の一部。エネルギー基本計画を巡る内部の議論が、何で外に漏れるのか。私はおかしいと思う。さまざまな暗躍がある。何だってやってくる。中でも闘って、外でも闘って、河野(太郎)さんは相当我慢している。この総裁選で、改革に対する揺るぎない意志を内外に示してもらいたい」――。

換言すれば、電力業界と経産省は既得権益を守る抵抗勢力だと暗に批判しているわけだ。大手エネルギー会社の幹部が、あきれ顔で反論する。

「エネルギー政策について国民のために真っ当なことを主張する人たちを抵抗勢力扱いするとは。よくもまあ、ここまで自分自身の理屈・立場を正当化できるものだと思う。もはや電力業界、経産省とは完全に決別する気なのだろう。しかも、一部週刊誌に音声データをリークしたのは抵抗勢力ではないかと、会見の場で公然と言い放った。事実でなければ、どう責任を取るつもりなのか。下手したら、ひいきの引き倒しで、河野氏の足を思い切り引っ張ることにもなりかねない」

総裁選を巡っては、19日段階で「岸田氏優勢」(大手一般紙記者)と見る向きが多い。ここまでコケにされている梶山弘志・経産相は、岸田氏の推薦人に名を連ねている。仮に岸田政権が誕生したら、小泉氏は干される可能性も。現在の闘いは、背水の陣の様相を呈している。

【記者通信/9月16日】狙うは河野政権阻止か 自民党リプレース議連が決議文


自民党総裁選に出馬し勢い付く河野太郎・規制改革担当相への対抗策か。自民党の最新型原子力リプレース推進議員連盟(会長=稲田朋美・元防衛相)は9月15日会合を開き、「脱炭素社会実現と国力維持・向上のために最新型原子力リプレース推進を求める」とする決議文を採択した。河野氏が総裁選に向けて、原子力の新増設・リプレースや核燃料サイクルの推進に反対の立場を唱えているのとは対照的な内容だ。

決議文は、経産省の審議会が提示した第六次エネルギー基本計画の素案については「リ プレースが盛り込まれておらず、『可能な限り依存度を低減する』も残ったまま」「エネルギー政策は、国益を左右し、経済社会、国民生活にも大きな影響を及ぼす国家にとって極めて重要な政策課題」「(にもかかわらず)そそくさと党プロセスを突っ切ったことは、全く筋違い」などと指摘しながら、「同素案は一旦撤回し、衆院選後に、リプレースの盛り込み、可能な限り低減の削 除等を含めた、原子力を最大限活用する内容に改善・修正をするべき」だと訴えている。

その上で、次の5項目について、各総裁選候補の見解を求めるとしている。

①脱炭素社会実現と国力維持・向上のために必要な、我が国の原子力技術・人材・立地を保つ、最新型原子力炉によるリプレース実現 。

②次期エネルギー基本計画の素案を一旦撤回し、衆院選の後に、リプレースの盛り込み、可能な限り低減の削除等を含めた、原子力を最大限活用する内容に改善・修正。

 ③核燃料サイクルを堅持し、民主党政権の二の舞を避ける 。

 ④リスクを負って安定安価な電力を供給してきた、原子力立地地域に寄り沿う諸政策の強力な推進 (原子力避難道の整備、最終処分地の確保、立地地域の振興等)。

 

⑤適正手続(デュープロセス)等を踏まえた、原子力規制委員会の規制行政の改善。

河野氏のほか、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相のこれまでの主張から見えてくるのは、5項目について河野氏は反対、岸田氏と高市氏は賛成という構図だ。 リプレース議連では、安倍晋三・元首相、甘利明・税制調査会長、額賀福四郎・田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相のこれまでの主張から見えてくるのは、5項目について河野氏は反対、岸田氏と高市氏は賛成という構図だ。 リプレース議連では、安倍晋三・元首相、甘利明・税制調査会長、額賀福四郎・元財務相、細田博之・元官房長官の重鎮4氏が顧問を務める。果たして総裁選にどのような影響を与えるのか。いずれにしても河野政権阻止の意気込みが伝わってくる決議文といえよう。

【目安箱/9月14日】総裁選とエネルギー政策への影響を考える


9月3日、菅義偉首相が自民党の総裁選に立候補しない意向を表明し、自民党総裁選が行われることになった。総選挙前に与党自民党の党首が変わり、その総裁選の勝者がおそらく総選挙後に首相となるため、関心を集めている。自民党総裁選では3候補が9月13日時点で立候補を表明している。エネルギー業界の注目は、脱原発を主張し、電力を敵視する言動をしてきた河野太郎衆議院議員・内閣府大臣だ。「床屋政談」かもしれないが、公開情報をもとに総裁選の影響を考えてみよう。

◆岸田文雄氏の場合-原子力技術を堅持

岸田文雄氏は8日に経済政策を発表している。その政策案と記者会見で、以下の構想を示した。

▶︎「再生エネの最大限の導入は当然」だが、蓄電池、新型の小型原子炉等のへの投資を提唱した。(8日会見)

▶︎原発については「小型の核施設など様々な選択肢を用意する。原発の技術はしっかり維持していく。「新増設の前に既存の原発の再稼働を進めていくのが大事だ」とした。

▶︎「脱炭素目標を掲げる以上は、より丁寧に日本の産業に目配りをし、責任を持って考えていかなければならない」と語った。(日本経済新聞(9月2日))

岸田氏はエネルギーに関しては、今の自民党の考えを踏襲するという考えだ。彼は「新自由主義批判」もしているので、エネルギー産業でも過剰な競争を抑制するかもしれない。

◆高市早苗氏の場合―環境エネルギー省創設

高市早苗氏は、自分の政策が読める場所をネット上に設けてしていないが、著書や雑誌、会見などの発言を整理してみよう。

▶︎原子力の活用には肯定的だ。「太陽光や風力は変動電源で、選択肢として原子力の平和利用は必要だ」「小型モジュール炉(SMR)の地下立地も実現性が高い」(8日会見)

▶︎太陽光の乱開発については著書「美しく、強く、成長する国へ。私の『日本経済強靱(きょうじん)化計画』」(WAC BUNKO)で「雨天時に地面を削り取る原因となっている」と批判し、環境破壊のリスク軽減を図るとしている。

▶︎環境政策とエネルギー政策を一元的に担う「環境エネルギー省」の創設を主張。(8日会見)

▶︎福島の東電原発の処理水について「風評被害を広げてしまう可能性があるので、リスクがある限り私であれば放出の決断はしない」と発言。(8日の会見)

高市氏は保守的な発言が目立つ。国土破壊につながる政策、安全保障に関する関心が高く、その視点からエネルギー問題も向き合いそうだ。ただし高市氏は気候変動問題に対する言及が少なく、それほど重視していないように見える。

◆河野太郎氏の場合―脱原発と電力業界への敵視

河野氏は以前から放射性廃棄物の問題などを理由に「脱原発」を主張。11年の東電福島第一原発事故後には原子力政策を批判し、超党派で「原発ゼロの会」を立ち上げた。

その後は電力業界を敵視してきた。エネルギーフォーラム16年12月号のインタビュー記事によると「電気事業連合会は反社会的勢力だ」と、過激な発言をした。

さらに同インタビューでは核燃料サイクルの廃止を目指し、「筋を通せ、政策は合理的に、議論の機会を設け、情報を公開しろと、私は当たり前のことを言っている」と河野議員は強調し、(彼の見方だが)経済性と合理性のない核燃料サイクルと原子力発電はやめるべきとしていた。ところが、大臣についている間は、そうした過激な原子力をめぐる発言は封印してしまった。

10日の出馬会見で河野氏は、原発について「安全が確認されたものを再稼働するのは、カーボンニュートラルを目指す上で、ある程度必要だ」として再稼働を容認。「再生可能エネルギーを最優先にして広く採り入れていくのがエネルギー政策の基本」と述べ、「原発は将来的になくなっていくだろうが、別に明日、来年やめろと言うつもりはない」と、かなり穏やかなものに発言を転換している。

河野氏は核燃料サイクルの中止の主張は下ろしていないが、それは今回の出馬で訴える政策の中心にしていない。またカーボンニュートラルについては、その政策の継続を強調した。他の2人よりも強い思い入れがあるようだ。

◆「君子豹変の人」の河野氏を警戒

河野氏は聡明であり、行政の活動のためのボタンの押し方、さらには人気と政治家としての実力がある。これまでの反原発運動は、声が大きいもの、実務能力等が乏しい人々が活動し、選挙や政治運動のためのスローガンで唱える人が多かったように思う。そうした人々と河野氏は違い、やり手で実力がある。エネルギー関係者が、河野氏を警戒するのも当然だろう。

ただし河野氏は、原子力や核燃料政策をすぐに止める等の過激な政策は取れないだろう。日本の原子力政策は、長い積み重ねと、作ってしまった制度や設備があり、それをいきなり潰すことはできない。

また核燃料サイクルと原子力の平和利用は、国際的な交渉の結果、政策となったものだ。核兵器の原料となりかねないプルトニウムを、燃料として再利用して減らすことを目標にした政策だ。それを止めることは諸外国との約束を破りかねず、それで核燃料を減らすとしてきた青森県との約束をひっくり返すことになる。河野氏は、日本の核物質の管理を決めた日米原子力協定の2018年の更新時の外務大臣であったが、その協定を変更しなかった。

河野氏と共に働いた議員は、「彼は『君子豹変す』(賢人は正解を求め態度を急に変える)の人で、状況によって最善策を選ぶ」と評していた。彼は、過激さばかりの人ではなく現実的な回答を求める人である。その彼が、難しく複雑なエネルギー問題で、いきなり過激な解決を押し付ける可能性は少ないだろう。

◆「問題の先送り」は変わらないか?

筆者は、今のエネルギー政策では「問題が山積しているのに解決が先送りされている」という状況が、一番の問題だと思う。複数の政策が同時に行われ、相互に影響して問題がこんがらがっており、政治・行政が難しさゆえに根本解決の手をつけていない。

福島原発事故以降、エネルギー自由化、脱原発、再エネ支援、東電解体、原発事故での原則東電負担の巨額賠償という政策が同時に行われた。その政策にはプラス面もあったが、電力政策の目指すべき根本である「価格の抑制」「安定供給」「エネルギー安全保障」、そして「安全」の4つの目標、いわゆる「3E+S」を脅かしている。

自民党・公明党の連立政権が2012年に成立しても、問題の是正の動きは限定的だった。複雑で混乱し、しかも原子力に触るために人気の出ないエネルギーの諸問題を、安倍政権は先送りし、退陣する菅政権も触ったのは一部にすぎなかった。新しい首相が誰になったとしても、それを大きく変えられなさそうだし、今の日本では、目先には新型コロナウイルス感染症への対応が重大な問題だ。エネルギーをめぐる問題への対応は、後回しにされそうな気配がある。

筆者の勝手な予想で、外れた場合は申し訳ないが、自民党総裁選がどのような結果になっても、エネルギー政策の「先送り」が続き、既存の事業者、新規事業者、消費者が不満を抱える状況は、大きく変わらないように思える。2012年から今まで、選挙ごとに「エネルギー政策が変わる」と期待が出て、自民党が選挙に勝っても、大きく変わらないという状況が繰り返された。今回も同じことが起きると予想している。

「悲観的に準備をし、楽観的に対処する」ことが、ビジネスや世の出来事に向き合う基本だ。政治の動向に過度に右往左往するのではなく、また過度に期待するのでもなく、エネルギーをめぐりどの立場の人も準備を重ねるべきであろう。機会をとらえて問題の解決を政治・行政に働きかけるべきだが、早急な変化を促すのは難しいかもしれない。

河野氏を警戒すべきだが、過度に恐れる必要もない。

【記者通信/9月11日】「核燃料サイクル・再処理は中止を」河野氏が明言


自民党総裁選への立候補を表明した河野太郎規制改革担当相は9月11日、読売テレビ系の「ウェークアップ!ぷらす」に出演し、原子力政策に対する持論を展開した。その中で、核燃料サイクル・再処理路線については、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まったことなどを理由に中止するとともに、使用済み核燃料の地層処分などを本格的に検討すべきだとの考えを示した。

「(使用済み核燃料から抽出した)プルトニウムを燃やそうとしていたもんじゅが廃炉になる。再処理をしてプルトニウムを取り出す必要がなくなった。このプロセスには、非常にお金がかかる。何十兆円というお金がかかるわけだ。やらなくていいものだったら、ここはきちんと止める。これを前々から申し上げてきたが、そろそろ使用済み核燃料、核のごみをどうするのか、しっかりテーブルの上に乗せて、やるんだ!ということを前に出していかないといけない」

昨日発表した公約や記者会見においては、既存原発の再稼働を容認する一方、新増設には「現実的ではない」と明確に否定していたものの、かねてからの持論である「核燃料サイクルの中止」に言及することはなかった。今回の発言で、原子力政策に対する河野氏の考え方は全く変わっていないことが確認されたことになる。

自民党内では、総合エネルギー戦略調査会事務局長を務める山際大志郎・衆院議員が、「原子力の最大限の活用」や「核燃料サイクル政策の推進」など、河野氏とは真逆の立場で、原子力政策の必要性を訴えている。経産省の第六次エネルギー基本計画案に「(原発では)必要な規模を持続的に活用する」との文言が盛り込まれたことも高く評価しており、同文言の削除を求める河野氏とは対照的だ。同じ麻生派に所属しているが、河野氏支持に動くことは考え難い。

「河野政権が誕生した場合、原子力政策は抜本的な見直しを迫られるだろう。電力業界としては、何としても阻止したいところだ」(大手電力会社関係者)。総裁選の行方が、原子力政策の明暗を分けることになるのか。

【記者通信/9月10日】再稼働容認も新増設は否定 河野氏の考える原発政策の本質


河野太郎規制改革担当相は9月10日、国会内で会見を行い、自民党総裁選への立候補を正式表明した。「国民の皆さんに共感していただける、人が人に寄り添う温もりのある社会をつくっていきたい」「皆で相談をして、皆で決めて、皆で実行する。そういう政治の原点に戻って、皆を支えていく国家をつくっていきたい」。河野氏は冒頭、自らの政権樹立に向けた抱負を提示。この日発表した政策パンフレットの中で、「5つの主張と政策」として、①命と暮らしを守る政治、②変化の時代の成長戦略、③新しい時代のセーフティーネット、④国を守り、世界をリードする外交・安全保障、⑤新しい時代の国のかたち――を掲げた。

エネルギー政策の観点で注目されるのは、②の中で、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策をすすめます」と明記したことだ。関係者によれば、「安全性が確認された原発をある程度再稼働させていくことを念頭に置いている」。こうした事情を背景に、会見では「持論である原発ゼロから考え方が変わったのか」との質問が出た。

現実的なのは新増設ではなく再稼働

これに対し、河野氏は「いずれ原子力はゼロになると思っているが、カーボンニュートラルを2050年までに達成して、気候変動を抑えていこうとすると、まず石炭(火力)、石油(火力)から止めていかなくてはならない。いずれは天然ガス(火力)からも脱却しなくてはならない」と指摘。その上で「一つは、きちっと省エネをやる。そして、もう一つは今度の(第六次)エネルギー基本計画案にもあるように、再生可能エネルギーを最大限・最優先で導入していく。それでも足りないところは、安全が確認された原発を当面は再稼働していく。それが現実的だ」と述べ、再エネを補完する電源として原発を位置付ける考えを示した。

一方で、原発の新増設については「現時点で現実的ではない」と明確に否定。河野政権が誕生した場合、エネ基案に盛り込まれている「(原子力では)必要な規模を持続的に活用していく」との文言が修正される可能性に含みを残した格好だ。50年カーボンニュートラル実現に向けての軸足が再エネになるのは確実で、原子力政策は一大転機を迎えることになりそうだ。

「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策とは、あくまで当面のことであり、中長期的には国民が安心できない非現実的なエネルギー政策へと向かう恐れがある。そもそも小泉政権時代から、わが国の核燃料サイクル政策に一貫して反対し続けてきた河野氏の考え方の本質は何も変わっていないことを、エネルギー関係者は今一度確認しておく必要がある」(元大手電力会社幹部)

現実的なエネルギー政策」の裏側

一部週刊誌が報じた通り、河野氏は8月24日に行われた第六次エネ基案を巡るオンライン会議で、資源エネルギー庁幹部に対し毒舌を吐きまくった。

原発を今後も使い続けますみたいな記載は落としたのか」「原発を可能な限り低減するという大原則があるんだから。可能な限り低減するように努めないとだめだ」「(原発は)一定程度頑張んないよ。可能な限り低減するんだから。まずそれがありきだろうが」「原子力は北朝鮮のミサイル攻撃に無防備だと、日本は使用済み核燃料を捨てる場所も狭くてないと、全部書けよ」「使用済み核燃料が危ないのは、自明の理じゃないか。北朝鮮がミサイルを打ってきたら、テロリストから攻撃受けたらどうするんだ」「原子力が危ないと。使用済み核燃料を捨てる場所はないと。地層処分も出来る見込みがないと。書けばいいじゃないか。(エネ庁は)なんでそんな恣意的な記載ばかりやってるんだ」――。

これが、「現実的なエネルギー政策」の公約に隠された河野氏の本質といえよう。

電気事業連合会の池辺和弘会長は10日の定例会見で、第六次エネ基案について「(原子力では)今回も、将来におけるリプレース・新増設について明記がなく、依存度低減という記述も残されている。準国産資源で、CO2ゼロエミッション電源でもある原子力を持続的に活用するためにも、早期に明確なメッセージを出していただくことが必要」だと述べ、政府への要望に言及した。果たして業界の声は、総理候補となった河野氏にも届くのだろうか。

【記者通信/9月5日】再エネ2030年38%以上へ「KK包囲網」が鮮明化


「こんなに結果を出した総理はいないと思う。正当に評価されてもらいたい」。9月3日、菅義偉首相との会談後、涙ながらに記者団にこう語り、菅首相との一蓮托生ぶりをアピールした小泉進次郎環境相だが、午前中の閣議後会見では、地球温暖化対策本部が政府4案(地球温暖化対策計画案、パリ協定に基づく長期戦略案、日本のNDC案、政府のCO2削減実行計画案)の取りまとめを行った成果を強調していた。

会見の中で小泉氏は、エネルギーの側面から見た温対計画と長期戦略のポイントに言及し、「10年後には、電源構成の中で再生可能エネルギーが最大となる。(経産省のエネルギー基本計画案にある)38%が上限ではない」と指摘。その上で、カーボンニュートラルの資料に、再エネ比率36~38%は「上限ではない」の文言が付記されたことについて、「エネ基を見れば36~38%は上限ではないというのは文言としては書いてあるが、一般的に出回る電源構成別の数字の表に、それがないのはおかしい。その意見に対し、梶山経産大臣も最終的に前向きに受け止めていただいた結果だと思う」との見方を示した。

これは、一部週刊誌で既報の通り、河野太郎規制改革担当相が8月24日に行った資源エネルギー庁幹部とのオンライン会議で、エネ基の閣議決定を〝人質〟に、「(再エネ比率に関しては)日本語で36~38%以上と書くんだよ!」と要求したことと通じるもの。2030年電源ミックス目標における再エネ比率の実質引き上げに向けた〝KK包囲網〟が鮮明に浮かび上がった格好だ。

環境相就任以来の成果を自画自賛

小泉氏はまた、前回の8月31日会見に引き続き、カーボンプライシング(CP、炭素価格付け)導入の必要性を訴求。「昨日、官邸で行われた有識者会議で、私が一番印象的だったのは、経団連の十倉雅和会長がCPについて今まで以上に踏み込んで、前向きな発言をしたこと。間違いなく歯車が回り始めてきた。環境省が税制改正要望にCPをノミネートしたように、脱炭素を大きく進めていくための残されたピースがはまり始めた、そんな心強い頼もしい気持ちになりました」と、経団連の姿勢を評価した。

その上で、2019年9月に環境相に就任して以来の2年間を振り返り、「2年前に(温暖化対策が)これだけ進むと想像した人がいますか?日米が気候パートナーシップで一緒になって気候変動を語るようになり、2050年カーボンニュートラルで与野党が一致。CPについても、税制改正要望に盛り込まれ、経団連も前向き。企業による取り組みが一気に広がり、新しい再エネ推進交付金もできる。EVも今後100%にしていく道筋は立てた、エネルギー基本計画に再エネ最優先の原則ができた。この2年間で私自身もここまで来るとは思わなかった。これが日本の力だ」と力説しながら、自らの成果を自画自賛した。

【記者通信/9月3日】小泉環境相がCPで暴走!?舞台裏までぶちまけた異色の会見


8月31日に開かれた小泉進次郎環境相の閣議後会見では、2022年度政府予算の概算要求に関する質問が相次いだ。その中で、小泉氏は同省にとっての目玉であるカーボンプライシング(CP、炭素価格付け)について「年内に一定の方向性の取りまとめ」の文言を入れたことを最大限強調。CPに対する自らの思いを、48分間に及ぶ会見でこれでもかとばかりに語りまくった。CPは脱炭素化に貢献するのみならず、エネルギー安全保障やコロナ禍後の経済成長にも資するといった見解を次々に打ち出す一方、現行の石油石炭税に関しては「脱炭素時代に逆行している」とばっさり。菅義偉首相の辞任表明を前に暴走する“小泉劇場”である。

少々長くなるが、まずは会見におけるCP関連発言をとくとご覧いただきたい。

「省を挙げて不退転の決意で戦う!」

「CPについては、環境省は長年力強く取り組んできたが、ようやく(菅義偉)総理の指示の下、政府全体で検討する体制が整ったこともあり、今回の税制改正要望にCPをノミネートすることになった。環境省の事務方とは何度も、この件についてどう進めるかを議論した中で、私が非常にうれしかったのは、事務方の皆さんが『大臣、戦います』『不退転の決意でCPを進めていきます』と。省を挙げて戦うという宣言が職員からあったことを心強く思う」

「石油石炭税では(石油、天然ガス、石炭のうち)一番税率が低いのは石炭ということで、これこそ脱炭素時代に逆行している、象徴的な税目になっていると思う。政府全体として脱炭素型に政策を変えていく、その取り組みを、環境省を挙げて、不退転の決意でやっていきたいという職員の思いが私にも表明された。ということで、年内の取りまとめに向けて、しっかりと環境省を挙げてやっていきたい」

「炭素税という文言が入っていないのは、(CO2排出量の)取引とかクレジットとかを全部書くのではなくて、税制改正要望にCPをノミネートしたことが最大のポイント。しかも年内の取りまとめだと。そこもしっかりと文言に、最後に加えて、不退転の決意を環境省として示しているわけだ。先ほど、石石税の話をしたが、今でも既に脱炭素、そして再エネ最優先の原則を阻害するようなものがあるわけだから、それは直ちに変えていくべきだ。環境省の職員含めて、みんな同じような思いだ」

「EUは2026年という5年後を1つの目安にして、それで炭素国境調整措置などをやっていくと言っている。CPで大事なのは、長期的に見たら炭素価格が上がっていくという価格シグナルを出すこと。脱炭素の方向に早く移行したほうが負担は少なくなる。そのメッセージによって、企業、産業界を含めて、脱炭素へ行動を加速させていくのが大事なポイントだ。CPの議論をすると、コロナ禍で経済が傷んでいるときに何を言っているんだという声が上がるが、CPのことを全く理解されてないと思う。今日、明日の話ではなくて、2050年カーボンニュートラルに向けて、長期的なシグナルを打ち出していかなくてはならない、そのために不可欠なのがCPだ。むしろ今からコロナ後を見据えたときの経済競争力、産業競争力のためには今から議論をしておかなければ、方向性を決めておかなければ、到底カーボンニュートラルは実現できない」

「最後の最後にCPが加わったのは事実」

「CPは十分検討の余地がある。なぜなら誰の目でどう見ても、化石燃料からの脱却を日本も世界も目指しているのに、(現行の石石税では)化石燃料に一番得な税制になっている。石炭(の税率)が最も安くなっていることを説明する際に、よく言われるのが、これはエネルギー安全保障も含んでいるので、単純にCO2排出比例でこの段階(税率)になっているわけではないと。いや、エネルギー安全保障はほかの制度でやればいいじゃないか。石石税で合理的、科学的になかなか説明し難いような要素を入れて、階段をつける必要はない」

「エネルギー安全保障は重要だからこそ、再エネを最優先で主力電源にすることがエネルギー安全保障にも資するため、早く頭を切り替えてそちらに行かなければいけないとずっと言っている。しかし、その再エネ最優先の原則と主力電源化を阻害する一因が、化石燃料のほうが負担は低いということ。それをやっている限り、水素も再エネも社会に実装されないだろう」

「ポリシーミックスの形で位置付けているが、どれか一つだけで従来の延長線上ではない行動変容が起きるとは思わない。炭素税単独でも不可能。だから、環境省が今回施策として打ち出したのは、いわば政府全体の政策を脱炭素原則にしていくということだ。(例えば)中小企業向けの炭素削減対策としてCO2削減連動型の新たな補助金を盛り込んで、削減すればするほど得がありますよという形にした。エネルギー特会の補助金の使い方も、いかに早く排出削減型に変えていくか。それがCPの原則なので、どれか1つだけで解決する問題ではない。ただ、石石税をこのままにして再エネ最優先の原則と言えるかといったら言えない。一つ一つ変えていく必要がある」

「(概算要求を巡る省内調整の)最後の最後にCPが加わったのは事実だ。その過程で何があったか。(CPの)カの字に触れた瞬間から、経産省も産業界も、血判状を発動するというか、反対でつぶすという環境だと見ていたので、とにかく誰も怒らせないように、誰からも反対が出ないように、寝た子を起こさないようにという意識が非常に強かった。しかし、私の考え方では、むしろ反対なら反対だと表で言っていただきたい。でないとCPの必要性や課題が世の中の多くの方に共有されないだろう。だから、もし反対なら表で言っていただいて構わない」

「さらに掘り下げていくと、EUのように、本格的にCPを導入して日本よりも炭素価格がかなり高い国であったとしても、鉄鋼とか配慮が必要なところに対しては無償割り当てなどの配慮をした上でやっている。そうしたことを抜きに、CPを持ち出すだけで反対するということにおびえていては、世の中の行動変容を起こすようなものは実現できない。そんな議論を環境省内でたびたび行い、最終的には『年内に一定の方向性の取りまとめ』という、もともと書いてあることを遠慮せずに書くべきだという認識にいたったわけだ。『われわれを戦わせてください』と職員の側から声が上がったので、『今から(説明資料の)差し換えになるけど、よし、その意気込みで一緒に戦っていこう』ということになったのが、事のてん末だ」

梶山経産相は同日の会見で言葉少な

環境省から突き付けられた「不退転の挑戦」に対し、「脱炭素逆行」のレッテルを貼られた石油石炭税を所管する経産省は、どんな対応を図るのか。31日の閣議後会見を見ると、梶山弘志経産相はわずか11分で会見を終えるなど言葉少な。概算要求については、「世界的には、社会課題の解決に、新たな成長分野となっているわけだが、今後の国際競争に打ち勝つために、環境、エネルギー、経済安全保障といった課題を解決しつつ、中長期的に新たな付加価値を獲得し、成長し続けられる産業構造へと転換をしていきたいと考えている」と述べるにとどまった。今後の巻き返しが注目される。

【記者通信/9月1日】CPで勢い付く小泉環境相 経産省と形勢逆転の様相も


環境省が2022年度税制改正要望に、カーボンプライシング(CP)について踏み込んだ文言を盛り込んだことが、波紋を広げている。当初の資料にはなかった「(政府が)年内に一定の方向性の取りまとめをすべく」との一文を最終版に追加。環境省と経済産業省の事務方の間で調整した内容にはこの一文はなく、小泉進次郎環境相の土壇場の指示によるものと見られている。

環境省はこれまでの税制改正要望では、CPについては「専門的・技術的な議論が必要」といった表現にとどめ、具体的な要望には盛り込まなかった。産業界関係者からの反対意見は根強く、同省事務方は長年重ねてきた議論をぶち壊すことは望ましくないとの考えだった。

一方、小泉氏は昨年末の会見で「来年(21年)の最大の目標はCPを前に進めること」と述べるなど、議論の前進に意欲を見せていた。今年初旬から環境省と経産省はそれぞれ、50年のカーボンニュートラル実現を見据えたCPの議論を始め、夏までに中間整理をまとめている。環境省の中間整理はこれまで同様に両論併記となったものの、引き続き議論を重ねて年内の取りまとめを目指すとしている。

そんな中での税制改正要望の書きぶりに、産業界の関心が集まっていた。「いついつまでに税制のグリーン化の方向性を示すなど、期限を区切った一文が入ると厄介」(エネルギー関係者)といった声が出ていたが、その懸念が現実のものとなったわけだ。

石石税見直しにも言及 環境次官が異例の挨拶

小泉氏は8月31日の閣議後会見で、「CPを今回の税制改正要望にノミネートしたことが最大のポイント」とし、「年内の取りまとめ」という一文の追加については「不退転の決意を環境省としても示している」と力説した。確かに同省の審議会では年内の取りまとめを目指すとしており、それが税制改正要望に入ったことのインパクトは大きい。

また小泉氏は、長期的に炭素価格が上がるという価格シグナルを示すことで、企業の脱炭素に向けた取り組みが加速するとして、CPの方向性を早く決めるべきだと主張。この点がCPのポイントだとし、「コロナ禍で経済が痛んでいる状況下での導入は避けるべき」だといった反対意見については「CPのことを理解されていない」と突っぱねた。さらに既存税制の見直しの必要性まで示唆。石油石炭税について、石炭の税率が低い点がカーボンニュートラルに逆行すると問題提起した上で、「政府全体として脱炭素型に政策を変えていく取り組みを、環境省を挙げて不退転の決意でやっていきたいという職員の思いが表明された」と強調した。

こうした小泉氏の言動を後押ししたのが、財務省出身の中井徳太郎事務次官と見られている。中井氏は概算要求の記者レクにまで異例の登場。冒頭に挨拶し、「ここ5~10年でしっかりしたことが出来なければサステナビリティは無理だとの危機感を持っている」「政策を強化する局面だと思っている」などと訴えた。また、今回の概算要求のコンセプトとして、脱炭素に向けた取り組みを世の中に広めるという、広義でのCPの概念を柱に政策を組み立てたと強調した。

勢いとパワーで劣勢の経産省 梶山氏の存在感今一つ

これに対し、経産省の幹部は「CPの書きぶりの変更は寝耳に水」だとして怒り心頭だ。経産省はこれまでも、石炭火力輸出方針や、30年46%減という温暖化ガス目標設定などを巡り、小泉氏に振り回されてきた。経産省サイドの巻き返しが注目されるが、どうも梶山弘志大臣が今一つ存在感を発揮できていないのが、気になるところだ。31日の閣議後会見の時間はわずか10分間。小泉氏の会見時間が41分間だったのに比べると、大幅に少ない。

その前の27日の閣議後会見を見ても、小泉氏が48分間だったのに対し、梶山氏は25分間。もちろん長ければいいというわけではないが、31日会見での概算要求に関する質疑を見ても、全体概要をさらりと述べただけで、実にそっけない。そもそも、経産、環境両省の概算要求の説明資料を見比べると、環境省のほうが充実している印象を受ける。これまでには見られなかった現象だ。

対小泉氏だけではない。河野太郎規制改革担当相に対しても、経産省はやられっぱなしの状況だ。9月2日発売の週刊文春は、河野氏が第六次エネルギー基本計画案を巡りエネ庁幹部を恫喝する様子を、実際の音声データをもとに報じた。内閣府の再エネ総点検タスクフォースの構成員と、経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員との対立が背景にあるのだが、「河野氏サイドの勢いとパワーは物凄い。劣勢なのは経産省」(電力関係者)と見る向きが少なくない。

「エネルギー政策の主役である経産省が、脇役にお株を奪われてどうする。梶山大臣には奮起を期待したい」(経産省OB)。来週前半に予想される内閣改造。これを契機に、経産官僚の逆襲撃が見られるか、どうか。

【目安箱/8月30日】KK両大臣に見る「責難は成事にあらず」の政治姿勢


武装勢力のタリバンが全土を掌握し、世界の視線がアフガニスタンに集まっている。この国のエネルギー事情はどのようなものかと調べてみた。戦乱が続き各種の統計が整備されておらず、はっきりしない。国際エネルギー機関(IEA)などの2010年ごろの状況を示した報告によると、発電能力220万kW分の水力発電があるものの、それ以外に大規模な設備はなさそうだ。自家発電が多く、無電化の地域も多い。

ちなみ日本の発電設備は、2億5951万kW(2016年)ある。そして岩手県葛巻町の毛頭沢(けとのさわ)集落が1962年に最後に通電して、日本では無電化の集落がなくなった(別説あり)。電力業界の現場を見ると、電力の発電・送電・配電について供給責任という思想に基づいて組織が作られ、運営されている。批判、破壊は誰もができるが、建設と維持をすることは大変な努力が必要だ。地道だが、大切なインフラの建設と維持を、電力、そしてエネルギー産業の人々は毎日続けている。

◆現場の事業者を攻撃する再エネTF

ところが、問題なくエネルギー、電力が供給されるという状況が当たり前すぎて、背景を深く考えない人が日本では多いようだ。仕事柄、エネルギーを巡る政府、自治体の審議会での議論を聞く機会がある。エネルギー業界の現場を無視し、そこで働く人や現実のビジネスを考えた形跡のない発言が、現場経験のない政治活動家や学識経験者、元官僚から頻繁に出ることに驚いている。福島原発事故以来、政治活動家からの電力業界への罵倒の多さ、その激しさに筆者は「おかしい」と不快感を抱いているが、その流れがまだ続いている。

河野太郎内閣府大臣が規制改革担当として「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)を作った。昨年12月から始まった議論では反原発活動家が委員に名を連ね、再エネ問題で、ヒアリングと称して、事業者と経産省を激しい言葉で批判している。

この委員の一人で、「高木仁三郎氏(原子力研究者)の弟子」を自称する活動家との間で、不快なやり取りをしたことがある。あるシンポジウムで発言したところ、遮られて「あなたのいうことは分からない」と怒鳴られた。「(紳士的であった)高木さんのように、人の話を聞きなさい」と指摘したところ、さらに怒鳴られた。そういう行動をするメンバーが選ばれている。

第六次エネルギー基本計画を議論する総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の場で、再エネTFは声明を発表。再エネ目標が「将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるため(中略)低く抑えられた可能性がある」、再エネ振興について「本気度を疑われかねないような偏った記述」などと強い言葉で批判した。

ところが、この提言には決めつけが多く、火力のバックアップ費用について間違った認識があった。(「もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用」と、バックアップ費用を再エネTFは指摘した。正解は再エネを導入するゆえに発生する既存発電での費用。)(エネルギーフォーラム記事「再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか」)https://energy-forum.co.jp/online-content/5930/

エネ基を議論している総合エネルギー調査会・基本政策分科会の専門委員は、同TFの活動とその提言を「最低限の知識さえ持たない委員で構成される組織の存在自体どうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」とまで批判した。間違いや罵倒が政府の機関で議論され、レベルの低い議論が公的な記録として残るのは、エネルギーに関わるものとして恥ずかしいことに思える。

◆「電気事業連合会は反社会勢力」河野氏発言

しかし河野氏は一連のTFの行動を許している。大臣になって静かになったが、彼はもともと電力業界へ過激な批判を繰り返している。エネルギーフォーラム2016年12月号では、河野氏の次のような発言を記録した、インタビュー記事が掲載されていた。

「「電気事業連合会は反社会的勢力だ」。河野太郎議員は開口一番、電力業界を批判した。「過激ではないか」と懸念を述べると、その真意を説明し始めた。河野氏によれば、電事連は任意団体であるという理由で、財務も活動の詳細も明らかにしていない。「金を使って影響力をおよぼそうとするが、説明責任や社会的責任をまったく果たしていない」。異論のある人は多いだろうが、これが彼の認識だ。」

既存の電力会社からなる電事連を「反社会勢力」などと言う河野氏が大臣をやっている。その意向を受けてできた再エネTFがおかしな形になるのは当然だろう。

現政権で、小泉進次郎環境大臣は、河野氏と同じように人気で、発言が常に注目される。小泉氏は、エネルギー業界に攻撃的ではないものの、温室効果ガスの削減を「セクシーに行うべき」だなど、理解に苦しむ発言を連発する。その彼から、既存の電力会社・エネルギー産業の現場への配慮や、現場で働く人々への敬意や感謝を聞いたことがない。中身のない思いつきを話しているだけだ。

◆現場で働く人々への敬意が大切

こうした現場を尊重しない人たちがエネルギー政策の責任ある立場に関与している状況は、普通に考えておかしいのではないか。日本のエネルギーを供給しているのは、企業人としてエネルギー産業で働く人たちだ。約2億5000万kW分の発電設備を作り、維持をしている。ところが、そうした現場を考えたこともなさそうな政治家や活動家が、エネルギーの未来を語り、現場で働く人、そして企業を批判し、自分たちが正しいかのように主張する。これでは、まともな政策が作れるわけがない。

「責難は成事にあらず」。このような言葉がある。他人を批判し、天下国家という大きな事を語ると、自分は仕事をしていると思い込んでしまう。ところが、実際に検証すると「口だけ」で、物事を動かさず、ただ混乱だけを生んでいることが多い。実務から遊離し、現場を動かさないからだ。これは現場を思いやり、尊重するという大前提が欠落しているからだろう。批判も、思いつきの発言も、現場で働く人への敬意があれば、簡単に言えないはずだ。

電力産業への批判に熱心な河野氏や、現場を想像したこともなさそうな小泉氏、その取り巻きの関わるエネルギー政策が、まともなものになるとは思えない。皮肉なことに、河野、小泉両氏は次期首相の人気投票でトップになるなど、国民的人気がある。日本のエネルギー問題で、この人らと取り巻きたちの行動が大きな影響力を持ち始めることが心配だ。