ウクライナ各地で発覚したロシア軍による民間人虐殺疑惑を受け、日本政府がロシアへの経済制裁を強化する姿勢を鮮明に打ち出した。岸田文雄首相は4月8日夜の記者会見で、「ロシア軍による残虐行為を最も強い言葉で非難する」とした上で、「ロシアからの石炭の輸入を禁止する」と明言。早急に代替策を確保しながら、段階的に輸入を削減することでエネルギー分野でのロシア依存を低減させる方針を打ち出した。代替策については、「夏や冬の電力需給逼迫(ひっぱく)を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障、および脱炭素の効果の高い電源を最大限の活用する」として、特重施設工事などで停止中の原発について早期再稼働を進める方向性を示唆した格好だ。

これに先立ち、萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で、主要7カ国(G7)の首脳宣言にロシア産石炭の輸入禁止などが盛り込まれたことに触れ、「日本も段階的に減らしていく。最終的には輸入しないことを目指す」と述べた。経産省によると、ロシア産石炭は世界輸出量の2割に当たる約2.1億tを占めており、日本は石炭輸入量のおよそ13%(一般炭)をロシア産に依存している。このため、即時の石炭輸入禁止などには「各国事情が違う」と慎重な姿勢だ。ロシア産石炭を輸入ゼロにする目標時期などはまだ決まっていないが、萩生田氏は「できるだけ産業に迷惑をかけない方向で制裁に協力していきたい」と理解を求めた。
石炭から石油、LNGへ波及の懸念 国内経済に甚大な影響も
こうした情勢の中、大手電力各社は対応に追われている。Jパワー(電源開発)は「ロシアとの取引をどう見直していくか、代替国からの輸入含めて検討している」(広報部)とした上で、「わが社の直近のロシア産石炭比率は一桁%台と高くない。石炭は備蓄ができることもあり、しばらくは(価格、運転に)影響なく対応できるだろう」と冷静な対応を図る構え。またJERAは「わが社のロシア産石炭の割合は1割強」「シンガポールの子会社を通じ、現時点で調達に関しての影響がないことを確認している」などと強調。他国からの調達で対応できるとしているが、「禁輸で石炭の需給ひっ迫状況が続くと、価格高騰にも影響する」と今後の情勢を見極める構えを示している。
「これまでロシア産エネルギー資源の調達問題について、政府はエネルギー安全保障の観点から輸入量削減に慎重な姿勢を示してきた。しかし、ウクライナ・ブチャなどで起きた民間人の大量虐殺で完全に潮目が変わった。今後の国際動向次第では、石炭だけでなく、石油、そしてLNGへと禁輸の動きが段階的に波及する可能性もある」(政府関係者)。そうなれば、エネルギーにおける需給ひっ迫のみならず、価格上昇のリスクも高まることになり、国内経済・国民生活への甚大な影響が懸念される。影響回避の切り札となる「原発早期再稼働」を求める声は一段と強まりそうだ。