【記者通信/7月29日】再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか


内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF、構成員=大林ミカ・自然エネルギー財団事業局長、高橋洋・都留文科大学地域社会学科教授、原英史・政策工房社長、川本明・慶応大学経済学部特任教授)が7月27日の会合で、経産省がまとめた「第六次エネルギー基本計画(素案)」に対する提言を公表した。

内容を見ると、「再エネ最優先の原則」に基づく施策の反映が不十分として、主に次のような注文を突き付けている。

本気度を疑われる偏った記述は修正すべき」

①「化石燃料に恵まれず、原発の過酷事故を経験した日本にとって、再エネの価値は特別で」あり、「その導入と活用を他のエネルギーに先んじて重点的に進める」ことが、その趣旨である。この点を本文中に明記すべきである。

②そもそも再エネの電源構成の目標値については、先進諸国と比べれば、「36~38%」は高くない。この再エネの目標値は、将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるための、高過ぎる目標値(原子力20~22%、石炭火力19%)とのバランスの中で、低く抑えられた可能性がある。素案でも触れられている通り、再エネの目標値は下限であり、さらに高みを目指すべきであるから、「〇%以上」と下限であることを更に明確に記述すべきである。

③また素案では、日本の再エネの利用環境自体が「エネルギー供給の脆弱性」であるかのような、後ろ向きの記述が目立つ。日本の最大の脆弱性は、海外の化石燃料への過度の依存であり、脱炭素と並んでエネルギー自給率の向上も再エネ主力電源化の目的である。再エネにも課題があり、各国で利用環境は異なるが、総合的に見れば日本が欧米諸国より劣るとは言えず、だから主力電源化するのではないか。「再エネ最優先」と記述する一方で、その本気度を疑われかねないような偏った記述は、修正すべきである

④再エネ最優先の原則に基づけば、再エネに不利な既存の制度やルールは改革されるべきである。例えば、ノンファーム型接続の完全メリットオーダー化やローカル系統・配電系統への対象拡大について、実施時期を前倒しするなど、より積極的な記述に改めるべきである。また、北海道のサイト側蓄電池設置要件の廃止、再エネの優先給電(メリットオーダー)の実施、再エネの出力抑制に対する補償など、当タスクフォースの過去の提言に沿って、再エネ最優先を具現化した改革を盛り込むべきである。

再エネ正義のために現実を無視していいのか」

この提言に対し、大手電力会社の幹部はこう指摘する。「再エネTFは、名称の通り、再エネの拡大がミッションなので、その視点からエネ基案を評価するのは理解できる。が、それにしても、ただでさえ実現性が厳しい再エネ目標値が意図的に低く抑えられた可能性があるとか、本気度を疑われかねないから『供給の脆弱性』など後ろ向きの表現を修正しろといった書きぶりはあまりに酷すぎる。再エネ推進という正義のためには現実を無視せよ、事実を捻じ曲げろという意味にしか受け取れない」

「日本の電力供給の一翼を担っている立場からすれば、日本には当然、日本特有の事情がある。それを無視して先進諸国に比べて劣るといった表層的な理由で、再エネTFの提言をそっくりそのまま実現させようとすれば、どう控え目に言っても、電力供給体制は脆弱化し、停電リスクは確実に高まり、電気料金は大幅に上昇していく。さらに、太陽光や風力の大規模開発のために、日本の貴重な自然や海底資源はどんどん犠牲になり、環境破壊が加速。全国の山間部の住民はちょっとした大雨程度でも土砂崩れなどの災害リスクにさらされる。再エネ原理主義、極まれりだよ。国民は本当にそれを望んでいるのかな」

再エネTFの議論で決定的に欠落しているのは、再エネ拡大がもたらす負の側面に対する見解・評価だ。「再エネ規制総点検」を標ぼうするのであれば、ぜひともその点に関して踏み込んだ意見を提示すべきだ。エネルギーフォーラムでは引き続き、再エネの長所と短所を徹底的に検証しながら、「S+3E」の大原則に基づき、日本の国益にかなうエネルギー供給の在り方を模索していく。第六次計画案をまとめた経産省には、再エネTFの提言に対し、真っ向から反論することを期待したい。

【記者通信/7月29日】FIT認定ID売買を斡旋 メガソーラー「転売サイト」の正体


日本全土で乱開発を伴って設置されている山間部のメガソーラー。森林保全や生物多様性への影響に加え、設置で保水力が失われ土砂災害を誘発する危険性が叫ばれている。にもかかわらず、地域との共生をないがしろにする悪質な事業者が次々と参入し、開発や運営に躍起になる理由の一つは、何と言ってもカネになるからだ。特に、FIT法がスタートした初期に認定を受けた事業者は、売電価格36円~40円が20年間、確約されている。さらに一般的には、太陽光発電投資の利回りは10%前後と言われている。これほどおいしい儲け話はなかなか見つからない。もちろん、その原資は、電力ユーザーが支払っている再エネ賦課金である。

さて、今各地で問題になっているメガソーラー設置だが、地元住民の悩みの一つに「事業者がコロコロ変わっていて、責任の所在が分からない」というものがある。固定価格買い取り制度(FIT)では「事業譲渡」、つまりFIT認定を受けた事業者から別の事業者への「転売」を認めている。転売先の事業者にも当然FIT認定IDは引き継がれる。

実は、そのFIT認定IDの売買を斡旋する「転売サイト」(最終更新は2019年12月)が存在することが、編集部が入手した資料で分かった。中を覗いてみよう。

問題はID転売を目的にした事業者

ここには、太陽光発電所の発電能力と場所、売電単価、売却希望価格が記載されている。売電単価は軒並み32~40円。このことから、同サイトは主に12~14年にFIT認定を受けた設備を取り扱っていることが分かる。

例えば、高知県四万十町にある発電出力2400㎾、売電単価36円の太陽光パネルは12億5800万円での売却が希望されており、年間売電収入は約8600万円である。もちろん、保守費用などのランニングコストも考慮しなければならないが、ざっと15年程度でペイする計算になる。ある新電力関係者によると、売電単価40円であれば、「3~5年で投資回収は楽勝だった」と振り返る。同サイトがターゲットにしているのは、既にFIT認定を受けた設備であるため、土地取得などにかかる費用については購入者の負担はないと考えてよい。

そもそも、こうしたサイトを運営する仲介業者は、売りたい人と買いたい人の存在がなければ商売ができない。売る事業者のモチベーションは何か。税制優遇などさまざまな理由が考えられるが、問題視されているのは、最初からFIT認定IDの転売を目的にしている事業者の存在だ。

彼らは、メガソーラー設置に関わる法律や申請プロセス、住民対策などの専門知識を有している。土地の取得や設置工事を行い、FIT認定IDを高値で転売する。そうすれば、面倒な保守業務に携わらずに済むし、「事前に買い手の事業者と契約を結んでいれば、工事費などの上乗せを狙える可能性もある」(事情通)。事実、大手エネルギー会社系の建設業者が、ソーラー設置までを開発会社に任せ、その後FIT認定IDを買い、売電収入は丸ごと稼ぐ、といったスキームを組んでいたことが明らかになっている。

実際に、メガソーラー設置反対派の住民グループが、現在の事業者の元にFIT認定が渡るまでの経緯を調べた結果、最初に不動産会社やペーパーカンパニー、外資系企業が設置予定地を取得し、FIT認定を受けた後、IDを転売していた事実を突き止めている。

ちなみに、この転売サイトの運営者はFXやM&Aのコンサルティングを生業にしている。太陽光発電について、純然たる発電事業というよりは、投機として捉えているプレイヤー(転売ヤーなど)も参加していることがうかがえる。

現行法制では悪質転売を防止できず

旧FIT法は17年に改正され、これまで発電設備しかチェックされていなかったものが、発電「計画」まで範囲が広がり、事業者に対する監視体制は以前よりは強まった。しかし、この「転売」問題に対しては特に変更がない。FIT認定IDを転売したい場合は、土地取得の契約書と印鑑証明書を申請すればよいとのことだった。

メガソーラーの運営は立派な発電事業なのだから、いとも簡単に悪質な事業者が参入したり、事業主体が頻繁に変わってしまうのは大きな問題のように思えるが、現状で転売に一定の歯止めを掛けるような法制度はない。FIT法の目的自体が太陽光発電をはじめとした再エネの普及に主眼を置いたものであるため、仕方ないことなのかもしれない。しかし、全国各地で太陽光パネル設置におけるトラブルや被害が報告されているにもかかわらず、行政が主導して思い切った対策を講じることができない現状はいかがなものか。

FIT法がいかに悪用されやすいものなのか。太陽光ビジネスに隠された欺瞞性を、転売サイトを利用する「転売ヤー」の存在が象徴しているといえよう。

【記者通信/7月22日】河合人脈の「再エネ四谷グループ」にあの太陽光事業者が⁉


静岡県熱海市の土石流災害で、発生源として指摘されている伊豆山の崩落現場。この土地の所有者である麦島善光氏の代理人としてメディア対応に当たっているのが、反原発派・再エネ推進派弁護士の代表格として全国に名をとどろかせている河合弘之氏だ。

「麦島氏の代理人になぜ、あの河合弁護士が?」。おそらくエネルギー関係者の多くがこう感じたことだろうが、関係者によれば、両者は10数年来に及ぶ古い付き合いだという。河合氏を巡っては、土石流派生の直後から崩落現場南西側で麦島氏所有の土地にある太陽光発電所との因果関係が取りざたされ始めた際、詳しい調査が始まる前の段階にもかかわらず、関連性をいち早く否定したことで、ネット上で物議をかもした。

ISEP、原自連、さらにZEN社も

ところで、ここに興味深い事実がある。河合氏が関係する企業や団体の事務所が、軒並み東京・四谷界隈に集中しているのだ。まず、河合氏が名を連ねるさくら共同法律事務所の本部がJR四ツ谷駅北側に隣接するビルに入居。また、河合氏が顧問を務める環境エネルギー政策研究所(ISEP、飯田哲也代表)の事務所や、河合氏が幹事長を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連、吉原毅会長・中川秀直副会長・小泉純一郎顧問・細川護熙顧問)の事務所も、そこから徒歩数分ほどの場所にある。

河合弁護士の関係する団体・企業が集中するJR四ツ谷駅界隈

そしてなんと、麦島氏が役員に名を連ね、伊豆山盛り土崩落との因果関係が取りざたされる太陽光発電の運営事業者、ZENホールディングス(東京都千代田区五番町)も、四ツ谷駅から徒歩10分圏内の場所にあるのだ。これは偶然なのか、それとも「河合氏と麦島氏の古い付き合い」が何らかの形で関係しているのか。

「河合氏を中心とする再エネ四谷グループ」。エネルギー業界の関係者はこう表現する。

なお河合氏とは関係ないが、参考までに記しておくと、東京メトロ丸の内線四ツ谷駅の屋上には太陽光パネルが張られ、上智大学四谷キャンパスは使用電力の再生可能エネルギー100%化を目指す「RE100」に取り組んでいる。まさに、四谷界隈は都心部の再エネ先進エリアと言っていい。

熱海災害を契機に、図らずも浮かび上がった四谷グループ。記者通信では今後の取材を通じて、その実態を浮き彫りにしていきたい。

【記者通信/7月20日】太陽光乱開発で連絡会 悪徳業者から地域を守れるか!


メガソーラーや大規模風力発電設置工事に伴う環境破壊に反対する全国ネットワーク「全国再エネ問題連絡会」が、7月18日発足した。全国で反対運動を行う25都道府県の約30団体、約2万8000人が参加する団体で、メガソーラー設置に反対する住民の全国組織が立ち上がったのは今回が初めてだ。かねてから山間部を切り開くメガソーラー設置には、地域住民からの批判も多かった。土砂災害発生の恐れや景観破壊、生物多様性への影響はもとより、反対運動を先導する住民たちに話を聞くと、より差し迫った「事情」が見えてくる。

2時間ほど喧々諤々(けんけんがくがく)の議論があった同連絡会の会議。開始から40分ほど経ち、反対運動を通じて直面した困難に話が及んだ。それによると、約2年前に運動を始めたある反対運動の主導者のもとに、昨年、メガソーラー事業者の弁護士から電話があった。「クライアント(当該事業者)から、あなたに対して弁護士を通して精神的プレッシャーをかけ、刑事告訴を考えていると伝えるよう言われている」という内容だ。紛れもない「脅迫」である。また、自宅付近で不審者の影もちらつくようになった。幸い、警察には既に連絡済みであり、告訴も今のところないそうだが、きな臭い話である。他地域でも、事業者が反対運動のリーダーに対してスラップ訴訟を起こしたこともある。裁判所は、事業者である原告の請求を棄却し、被告の慰謝料を求める反訴請求を一部認めた。

縦割り行政の弊害 放置される開発リスク

メガソーラー事業者に対する住民の不安は大きい。住民説明会の開催が限定的、土地所有者が転売を繰り返していて責任の所在が分からない、自治体が非常に及び腰――。共通する悩みも多かった。例えば、住民説明会の開催方式は、自治体の条例の縛りがない限り、法的拘束力を伴わない。形だけの住民説明会を行い、気づけば林地開発許可が下りていたとしても、事業者からしてみれば「既に説明しましたよ」とシラを切ることは可能なのだ。

FIT法を所管する経産省が、メガソーラー設置に際して「関連法令を遵守する」よう事業者に呼びかけている以上、自治体はメガソーラーに関する条例を制定するほかない。悪徳業者から地域住民を守りたいならなおさらである。

メガソーラーの設置に対して、事業者に求められる行政手続きは主に三つ。①FIT認定を受けること、②林地開発許可を受けること、③環境アセスを実施すること――だ。

②の林地開発許可は、都道府県知事が、森林法の4要件―災害の防止、水害の防止、水の確保、環境への影響に基づいて判断を出す。問題は、林地開発許可は他省庁が管轄する法律に関して評価せず、本当に災害のリスクを考慮しているのか、極めて不透明な点だ。

美しい景色が広がる、静岡県函南町。65ヘクタールのメガソーラーが設置されようとしている(ドローン空撮)

例えば、静岡県函南町に設置予定のメガソーラーの場合、設置予定地付近の丹那沢は「砂防指定地」に指定されている。これは土石流による甚大な土砂災害が懸念される土地を指し、法的には国交省が所管する砂防法に基づく。設置予定地の林地開発許可は既に森林法に基づき下りているが、土砂災害が懸念される「砂防指定地」の問題にはノータッチである。

縦割り行政の弊害で、メガソーラー設置に伴う真のリスクは顧みられないのだ。予定地の調査を行った静岡県経済産業部森林保全課に聞くと「砂防指定地は砂防法に基づくため、お答えできない」と紋切り型の回答があった。

事なかれ主義の自治体 住民に渦巻く不信感

住民は、メガソーラー建設に関する法律に疎い場合も多い。対して事業者は住民対策や土地の折衝も非常に巧妙かつ経験豊富だ。窓口には、地域のメガソーラー賛成派の議員や住民を配置する。事業者は法的拘束力のない独自の環境アセスを約束し、住民に束の間の安心を与える。地元議員は地域の有力者たちに「税収が上がる」とアピールをする。暮らしを守りたい住民たちにとっては、何も知らなければ、声を上げる暇もなく事業が進んでしまう。

本来であれば、自治体が積極的に情報公開を行うべきだが、中には事業者と町との合意書を、住民からの情報公開請求があって初めて住民に見せたという例もあるから驚きだ。行政側の立て付けは「個人情報保護条例に基づき、情報公開はできない」だが、市町の条例には「住民の生命、身体、財産の安全を守るためには情報公開を行うことができる」という規定があるはずだ。特に近年、太陽光パネル設置に起因する土砂災害が各地で発生しており、行政は住民の不安に応える責任があるだろう。

裏山がメガソーラー設置予定地になっている丹那小学校。土砂災害を誘発する恐れもあり、住民の不安は大きい

ある地域の反対運動のリーダーは「行政と事業者がグルになっているとしか思えない」と本音を語る。実際に、長崎県佐世保市の離島、宇久島で建設予定のメガソーラーを巡り、地元市議が許認可権限を持つ市長に対して現金100万円を渡そうとし、贈賄罪(申し込み)容疑で逮捕された例もある。

住民は、これまで幾度となく自治体とやり取りを続けてきた。自治体からよく聞かされるのは「FIT認定されているから」、「林地開発許可が下りたから」というセリフだ。当事者意識が感じられない行政に対して、住民は不信感を抱いている。

FITによる高収益を背景に、日本列島に増え続けてきた太陽光パネル。自治体、中央省庁ともに、悪質な業者を排除する政策的対応が求められる。

【記者通信/7月19日】エネミックスの内訳が判明 問われる実現可能性


7月21日に開かれる総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会(経済産業相の諮問機関)の会合で、経産省の事務局案が示される予定の次期エネルギー基本計画。そのベースとなる2030年エネルギーミックス(電源構成)見通しの内容が、関係筋の話で明らかになった。

それによると、大方の予想通り、原子力は現行のミックス比率を踏襲し20~22%(中央値21%)。再生可能エネルギーは現行の22~24%から大幅に引き上げられ、36~38%(中央値37%)となる。火力発電の脱炭素化などに貢献する水素・アンモニアは非化石エネルギー扱いで1%。残る41%が火力発電となり、天然ガス20%、石炭19%、石油2%の内訳だ。

太陽光発電の2030年目標比率は約15%となる見通し。

「2030年までに温暖化ガスを13年比46%削減する」という、菅政権が掲げる温暖化対策目標の達成を最優先に打ち出されたエネルギーミックス。供給安定性、経済合理性との両立は本当に可能なのか。そもそも実現可能性はどこまであるのか。わが国の国益を左右する重要課題だけに、今後の展開が大いに注目される。

【目安箱/7月18日】「太陽光」発展のために今こそ立ち止まろう


「利回り年6%以上!」。このような宣伝文句を掲げた、太陽光発電への投資を勧誘する事業者のネット広告、チラシ、ブログの記事が筆者の眼の前にある。ゼロ金利の時代に太陽光発電は2020年の公的な補助金でも、これだけの利回りの稼げる「魅力的な投資先」と強調しているのだ。(かなり楽観的な試算と思うが、今回の論考のテーマではないので、批判は省略する。)

◆「年6%の利回り」がもたらす災害

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による世界的ベストセラー『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』(2015年刊、邦訳は河出書房新社)を、たまたま筆者は読んでいた。歴史の中で「利回り年6%」という数字が出てきた。かつての奴隷貿易への投資利回りが年6%だったという。

奴隷貿易では17世紀から18世紀にかけて、スペイン、英、仏、オランダなどの西欧諸国の公営・民間の会社が、主に西アフリカの黒人を連行して商品として売り飛ばし、アメリカ新大陸の砂糖や綿花などを栽培する大規模農場や鉱山で奴隷として働かせた。拉致されたアフリカ人は200年で推計2000万人以上になる。この時期の各国の主要産業は農業で、経済が伸びない低成長の時代だ。「年6%の利回り」は、投資を集めた。

各国が奴隷貿易の枠組みを作ったが、それを拡大、運営したのは民間企業だ。当時の西欧社会で市民が砂糖やタバコなどの嗜好品を楽しみ、安くなった綿織物を着て、新大陸の金銀を使った繁栄を享受した。その影には、奴隷の労働があった。ハラリ氏は奴隷貿易を「倫理なく利益を追求した恐ろしい経済活動の代表例」としている。

ちょうど今、日本の太陽光発電ビジネスが、倫理の問題に直面している。日本各地で、大規模な太陽光発電による環境破壊の懸念が出て、放埒な開発をとめようという批判が広がっている。今年7月3日に熱海で、大雨をきっかけに土石流災害が発生した。18日時点で18人の死亡、14人の行方不明という大惨事だ。現場の近くに大規模な太陽光発電所があった。その発電所と災害の関係は、今後の検証を待たねばならない。しかし、これをきっかけに、太陽光発電での乱開発に、批判が一段と強まっている。

「利回り6%」という利益の力は大きい。資金を集め、太陽光発電の建設は続いている。上記のように「儲かる」という広告も続く。太陽光発電を奴隷貿易と同視するほど倫理上の問題があると言うつもりはないが、利益が倫理上の問題を当事者に忘れさせてしまう似た状況が起きている。

◆「私は悪いことはしていない」だけでいいのか?

筆者は自分の仕事で、地方で太陽光発電事業を行う人の話を聞く機会がある。「目立った産業がなく、工場もなくなったこの地方に、利益がこれだけ出る仕事はない。地権者、工務店など、多くの人が経済的に潤っている」。関係者は揃ってこのように強調する。そして、「私は合法的にやっている。一部の悪質な事業者だけを取り上げて全体が批判されるのは困る」と述べる。

確かに、その指摘は正しい面があるだろう。ただし、「6%の利回り」をもたらす公的に作られた仕組みの上で太陽光発電の関係者は利益を得ている。それにもかかわらず、太陽光の問題工事は消えない。事業者は社会からの批判や懸念を放置しているように見える。奴隷貿易での事業者の弁解にも、よく似たものがあった。太陽光発電は新しく伸びたビジネスであるゆえに、事業者の中には社会との関わりや、事業での自省と自制の大切さを考えていない人がいるのかもしれない。善良な事業者こそ、同業者の悪質な行為を批判、是正させるべきと、筆者は思う。

日本で同じような経済問題を見たことがある。かつて消費者金融業界、金融業界で、一部事業者による取り立てや強引な勧誘が問題になっていた。2つの業界の大勢は、騒ぎを大きくしたくないため、また利益も減りかねないことから、「悪質業者は一部」として積極的に自主規制に動かなかった。すると、行政や消費者保護運動、弁護士らの主導で、厳格な規制を伴う改正貸金業法(2014年完全施行)、金融商品取引法(2006年施行)が作られ、事業者は事業転換を迫られ、大きな損害を出した。無策によって自分の首を絞めたわけだ。同じような雰囲気を、筆者は太陽光をめぐる問題に感じている。

例に出した奴隷貿易は、恐ろしい影響が今に残る。奴隷商人は当時の社会でも糾弾され、倫理感からそれにかかわった自分の過去に苦しむ人たちの話が伝えられている。米国では奴隷制の廃絶のために南北戦争が19世紀半ばに発生。2020年に西欧各国で人種対立による暴動が広がった。今に奴隷の子孫のアフリカ系の人々の差別と人種差別問題は300年が経過しても消えない。「金だけ、今だけ、自分だけ」を考える経済活動は、社会を壊し、長い悪影響を与えてしまう。

◆地方の疲弊という難題も絡む

そして太陽光発電による山林の乱開発は事業者だけの問題ではない。経済的に活気が失われた、日本の地方の問題も絡む。「経済が元気ならば、太陽光発電所を誘致しないはず。鎌倉でそういう話は聞いたことはない」。高級住宅地として知られる神奈川県鎌倉市に住む引退した金融マンは語っていた。活気のある町には、太陽光トラブルの話はあまりない。住民の自治意識が強く、経済が周り、行政が敏感な場所には、問題は起きていないのだ。

ちなみに、奴隷貿易は倫理的な批判で禁止されたが、経済システムの変化も影響した。19世紀初頭から産業革命が始まり、金融市場も整備され、儲かる投資先が増えて資金の流れが変わった。またエネルギー面で石炭や電気の利用、内燃機関を持つ機械が導入されて、鉱山開発や農業の技術革新が行われ、奴隷が特に必要なくなった。

同じように、日本でも地方の経済を活況にしていくことや太陽光の技術革新が、大変だとしても、太陽光ばかりが作られる今の再エネをめぐる状況を変えるだろう。

◆太陽光発電の未来を立ち止まって考える時だ

太陽光発電を今のまま拡大していいのだろうか。

エネルギー問題を真面目に考える人は、経済的に効率性のある電源が分散して発電される「エネルギーミックス」が最適解であり、太陽光発電もその一部として成長してほしいと考えてきた。そうした応援の声があるために、日本中に太陽光発電が広がった。

しかし、それに甘えて、太陽光で、事業に関わる政治家も行政官も事業者も、多くの問題を積み残してしまったまま、ひたすら拡大に動いたように思える。特に、太陽光発電所の環境への影響、さらに住民や地域社会との共存共栄の面での取り組みで、積み残しの問題は多い。

それを是正するために、筆者の訴える以下の三つの方向の議論に、賛同いただける人は多いだろう。

第一に太陽光発電の姿を適切な形にするためには、「この発電がFITによる公的補助金の支援で「年6%以上の利回り」を補償するほどの社会的な意味があるのか」というと、検証と政治的な合意のすり合わせが必要だ。政府は太陽光をめぐる補助金を引き下げている。一方で再エネを拡大する様々な計画を打ち上げ太陽光も拡大の対象にしている。政策で矛盾が多い。責任ある事業者のみが儲かる仕組み、例えば悪質事業者の退出、コスト向上をもたらしても環境配慮の投資の義務化を進めるべきだ。「年6%以上の利回り」の儲けの仕組みがあれば、拡大は続いてしまう。

第二に地域社会と融和せず、社会やエネルギーシステムとの融和を考えない拡大は止める必要がある。自主規制の形で事業者の自省と自制がなければ、法律による強制、さらには工事による事後的な安全確保、つまり日本の法律や制度には少ないバックフィット(規制の事後適用)をしても仕方がない。日本のどこでも、太陽光発電を受け入れる雰囲気は、もうなくなっている。それをしなければ、地方で太陽光をめぐる懸念と対立、そして悪質工事による環境破壊や土砂崩れの危険は広がってしまう。

第三に受け入れるそれぞれの地方でも、行政、地元住民、利益を受ける地権者や事業者が、人任せではなく自分の問題として、太陽光の大規模発電を受け入れるかどうか、判断することが必要だ。太陽光発電がなくても大丈夫な活力ある地域経済を苦労して作り上げれば、わざわざそれを建設する必要もなくなる。

こうした対応をせずに、今のまま太陽光発電を続ければ、関わる人全てに被害がもたらされるだろう。かつての「6%の利回り」で広がった奴隷貿易が数世紀経過しても、子孫たちを苦しめているように、問題が次の世代に引き継がれてしまう。切り開かれた山林で補助金が切れて放置された太陽光発電所と、土砂崩れだらけの傷ついた山河を、日本の次の世代に引き継がせたいと思う人はいないはずだ。

太陽光発電の次の発展のために、今こそ、関係者が立ち止まり、積み残しの問題を解決する時ではないだろうか。

【記者通信/7月14日】梶山氏VS.小泉氏 発電コスト試算評価に深い溝


経済産業省が7月12日に公表した「2030年の電源別発電コスト試算」で原子力と太陽光のコストが逆転したことを巡り、梶山弘志経産相と小泉進次郎環境相の受け止め方に深い溝があることが、翌13日に開かれた閣議後会見で浮き彫りになった。

梶山氏は「新たな発電設備を更地に建設した際の、キロワットアワー当たりのコストを一定の前提で機械的に試算したもの。既存の発電設備を運用するコストとは異なり、試算の前提を変えれば結果も変わってくる」と指摘。今回の試算結果がひとり歩きし、太陽光が安いという安直な結論を導き出すことへの懸念を示した。

その上で、梶山氏は「2030年の新たな目標や2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、特定の電源のみではなく、3EプラスSのバランスを踏まえて、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求していくことが必要」、「完璧な電源は今のところない中で、電源の特性を考えながら、いかに組み合わせていくか、資源のない国としてベストミックスを求めていくかがが重要になる」と述べ、再生可能エネルギーに偏重せず、原子力も有力な選択肢として位置付けながら、電源構成の最適解を探っていく必要性を改めて強調した。

小泉氏は勢い余ってFIT不要を示唆⁉

対して、その安直な結論に飛び付く勢いを見せているのが小泉氏だ。会見では「今後2030年に向けて、一番安いのは太陽光だと。今まで一番安いのは原発だという前提が変わったことは画期的だと捉えている」、「再エネ最優先の原則に基づき、再エネの導入拡大に向けて(両省が)しっかりと協力をしていく新たなスターとにしたい」などと強調した。

その一方で、小泉氏は勢いが付き過ぎたのか、「これで再エネだけが国民負担、そういったことは言われなくなるのではないか」と、気になる発言も。額面通り受け止めれば、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金がもはや不要な状況になってきたとの見解を示したとも考えられる。果たして、真意は何なのか。

ただ続く発言では、「世界的な潮流でもある再エネが安くなる。そして原子力についてはコストがこれから上がっていく可能性が示されている。それを考えれば、再エネ最優先の原則に基づいて、日本が再エネを主力にしていくことが、コスト面でも明確になったと思っている」と述べており、再エネと原子力の対比を強調したかっただけ、ともいえそうだ。

あらゆる選択肢を強調する梶山氏と、再エネへの傾注を強める小泉氏。政府・与党内では、どちらの考えが優勢なのか。総合的な国益を考える政治としては、前者であってほしい。

【記者通信/7月13日】「原子力と太陽光が逆転」のコスト試算は既定路線か


経済産業省が7月12日の専門家会合で発表した2030年における電源別の発電コスト試算が物議をかもしている。15年に試算した30年発電コストでは原子力が太陽光発電よりも安かったが、今回の試算で逆転し、最も安い電源として位置づけられたからだ。

それによると、30年の主要電源コスト(1㎾時当たり)は、大規模太陽光が8円台前半~11円台後半、陸上風力が9円台後半~17円台前半、中規模水力が10円台後半、LNG火力が10円台後半~14円台前半、原子力が11円台後半~、石炭火力が13円台前半~22円台前半、バイオマス混晶が14円台前半~22円台後半、地熱が16円台後半、石油火力が24円台後半~27円台後半、洋上風力が26円台前半となっている。

15年試算では、原子力10.3円~、大規模太陽光12.7~15.6円、石炭火力12.9円、LNG火力13.4円、陸上風力13.6~21.5円、石油火力28.9~41.7円、洋上風力30.3~34.7円となっていたのと比べると、再生可能エネルギーのコストが全般的に引き下がる一方、原子力が上昇した形だ。

「なにかの罰ゲーム?」「当然の試算結果」

これを巡り、SNS上では、賛否両論が飛び交う事態に。

「最安値が太陽光なら、FIT賦課金に毎年3兆円(2030年には4.5兆円になる見込み)のお金を電気料金に上乗せして払っているアレは何なの?なにかの罰ゲーム?」、「安価な中国製パネルへの依存が前提なのか?太光電効率はどこまで上がるのか?コスト安であればFITに伴う賦課金(皆様の電気代に上乗せ)もやめるのか?立地制約を勘案しないとされているが、既に世界有数の太陽光パネル国なのに狭い日本の国土の中でどこまで敷き詰めるのか?」、「太陽光発電所の悪いところが国民に知られる前に造ってしまおうという経済産業省の悪だくみだな。このタイミングで公表するなんて、おかしすぎるでしょ」、「発電コストの最安は原子力から太陽光に。2030年時点のコスト試算で、経産省がようやく認める。再エネは国内でも世界的にも導入が加速しコストが低下してきたが、国会で求めてもなかなか試算しようとしなかった。『原発は安い』はいよいよ通用しない。脱炭素は原発ゼロで!」、「太陽光の方が発電コストが下がるという世界では当たり前のことを報道したら反日ってことになるのか」、「ようやく当然の試算結果が出た」(いずれも原文ママ)――。

折しも、7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流災害で崩壊現場の脇にある太陽光発電所との因果関係が取り沙汰されている時期だけに、経産省の試算公表は火に油を注ぐ格好となっている。

今春の案で内々に横並びの可能性を示唆

しかし関係者によると、実は今回の試算は、経産省の事務局が今春内々に出した原案が土台となっているのだ。それによると、30年の電源コストはLNG10.6円、石炭11.4円、原子力11.7円、太陽光11.8円、陸上風力15.8円と、違いは見られるものの、原子力、石炭、LNG、太陽光のコストが横並びになる可能性を示唆している。

その意味では、「再エネ主力電源化」を基軸にして、温暖化ガスの30年46%削減達成を目指すエネルギーミックスを打ち出すに当たり、原子力と太陽光のコスト逆転は既定路線の試算だったともいえよう。

いずれにしても、土石流災害を契機に、原子力と共に太陽光にも逆風が吹き荒れ始めたことで、日本のエネルギー戦略は事実上の迷走状態に入った格好だ。

【記者通信/7月8日】次期エネ基の骨格判明 「原発推進」は大きく後退へ


経済産業省の審議会で大詰めの検討が進んでいる第六次エネルギー基本計画原案の骨格が見えてきた。既に大手メディアなどが報じている通り、最大の注目点である原子力政策の書きぶりについては、「推進」から大きく後退することが確実になった格好だ。

今年の大型連休前までは「原子力の最大限の活用」「新増設・リプレースの推進」を盛り込む方向で、自民党や経産省の機運が高まっていた。しかし、こうした動きに対し、党内の再生可能エネルギー推進勢力(河野太郎・行政改革相、小泉進次郎環境相のKKコンビなど)や、原発ゼロ社会の実現を目指す公明党が反発。

結果、原子力については最大限の活用や新増設・リプレース関連の記載は見送られ、「必要な規模を持続的に活用する」との表現にとどまる見通しだ。関係者によると、「原発依存度の低減」も引き続き書き込まれるという。その一方で、再エネに関しては、「最優先の原則の下で最大限導入する」と明記される方向。今年冬、ベースロード電源に厚みがないことで電力需給がひっ迫し、市場価格高騰が大問題化した反省もどこへやらだ。

政治的な事情で現行路線を堅持か

菅義偉政権が「2030年に温暖化ガスを13年比46%削減する」目標を打ち出した中で、その達成のためには二酸化炭素を排出しない原子力と再エネが重要な役割を担うことになる。本来、電力安定供給と経済合理性との両立を図るためには原子力推進への方針転換が欠かせないわけだが、今秋の衆院選対策など極めて政治的な事情から現行の「再エネ主力電源化」「原発依存度低減」路線を堅持するとみられる。

ただ、7月3日に発生した静岡県熱海市の土石流災害を契機に、太陽光発電に対する世論の逆風がにわかに強まっているのも事実。この問題が、大詰めの議論に影響を与えるのかどうか。7月21日の審議会で、資源エネルギー庁事務局が提示する予定の第六次エネ基の原案の行方が注目される。

【目安箱/7月7日】エネ業界を直撃する 中国製太陽光の輸入問題


米政府は6月24日、ウイグルの強制労働問題に関連して、太陽光パネルを主に作る中国企業5社の製品輸入を規制した。今後太陽光の状況に大きな影響を与えそうな問題だ。日本のエネルギー業界も、中国から離れる「決断」を迫られるかもしれない。

◆バイデン政権、上流部分の中国企業の対米輸出禁止

バイデン政権は6月24日、合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)、新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)、東方希望集団(イースト・ホープ・グループ)傘下の新疆東方希望有色金属、新疆協鑫新能源材料科技(新疆GCLニューエナジーマテリアルテクノロジー)、新疆生産建設兵団(XPCC)の太陽光パネル関連の中国5社を制裁対象にすると発表した。

米税関・国境警備局が、強制労働に基づく製品の輸入を差し止める「違反商品保留命令(WRO)」を出した。米商務省は6月24日、米国製品や技術の輸出禁止対象に指定する「エンティティー・リスト」に、ホシャインなどを追加した。同省によると、ウイグルでの人権侵害の疑いで同リストに記載された中国企業・団体は、トランプ前政権時の措置を含めて計53となった。これにより、これらの企業の製品を使った商品は、米国に輸入できなくなる。(米ホワイトハウス発表)

太陽光パネル製造は3段階に分かれる。「1・金属精錬」石英を採掘して高温で精錬しシリコン金属を作る、「2・結晶製造」シリコン金属を融解し再結晶させて結晶(ポリ)シリコンを作る、「3・パネル製造」結晶シリコンを切断し、化学処理して、電極等を取り付けてパネルにするという3段階だ。

このうちホシャインは、金属精錬の大半、推定で全世界生産の6割程度を占める。残り3社はポリシリコンをウイグル地区で製造している。英国のシェフィールド・ハーラム大学のウイグル強制労働をめぐる報告によれば、2020年のポリシリコンの全世界の生産で、中国製75%、そのうちウイグル人居住地区での生産が全世界比で45%を占める。

米政府は、製造の流れの上流部分を制裁にした。どのような人権侵害があったかは、明らかではない。米中関係はバイデン政権になっても、前トランプ政権と同じように、良好とはいえない。そしてウイグルでの人権侵害を中国政府は認めていない。この措置は適応され続けるだろう。そして中国も対抗措置を発動するとみられる。

◆太陽光のコスト上昇へ

米国は2018年から、トランプ政権下で、中国製の太陽光パネルの同国への輸入に関して、不公正貿易慣行を理由に輸入制限を課し、高い関税をかけていた。そのために中国製が米国内で流通せず、太陽パネル価格が上昇していた。

太陽光パネルは価格それまでも上昇していた。1W当たり、太陽光パネルは現在35円前後、ドルで0.3ドル前後に上昇。1年前の約3割増だ。20年夏、新疆地区のシリコン工場で事故が相次ぎ、シリコンが品薄になったという名目で、中国企業が値上げした。米国で禁輸が行われても、中国企業は日本向け価格を下げていないという。中国国内の需要が旺盛でそれに製品を回しているのかもしれない。

日本は2000年前後には太陽光発電パネルの生産で世界のトップだった。その後に中国に抜かれてしまった。現在日本の太陽光パネルの出荷では海外生産品は81%を占める、がその大半は中国製だろう。

この10年、太陽光発電の建設が大きく伸びたのは中国と日本だ。再エネシフトと各種補助金が続いているためだ。中国の太陽光パネル産業の拡大は、日本が支えた面がある。仮にウイグル人への中共政府による人権侵害に、日本の補助金、特に電力料金から強制的に徴収される賦課金が使われていたら、日本の消費者は、誰もが不快に思うだろう。

相変わらず、小泉進次郎環境大臣等のズレた政治家が与野党問わず、太陽光発電の拡大を叫んでいる。しかし、その拡大を進めると、日本がウイグルの人権侵害に間接的に加担してしまうかもしれない。

◆日本はどうすれば良いか

ここで日本は太陽光パネル問題で、どうすればよいかの問題が出てくる。米国だけではなく欧州でも、中国のウイグル人弾圧は問題視されている。同じような禁止措置をとれば、日本の太陽光の建設費用は高くなり、その建設も一服するだろう。

私は、日本の官民の調査を経て、また各国の当局と連絡を日本政府が取った上で、人権侵害があれば規制を何らかの形でかけるべきであると思う。筆者の知る限りでは、日本の法令上、人権を名目に直接的に輸入規制をかけるものはなさそうで、特別立法が必要な手間のかかる問題になるかもしれない。また事業者の方には負担になるだろう。それでもやるべきであると思う。

理由の第一は、太陽光発電の支援策を導入する際に、日本の場合には「倫理」が強調された点にある。太陽光発電は、「悪い原発の代替策」、「環境に優しい発電」と、2011年の段階で導入した民主党政権と当時の菅直人首相は強調した。それは事実と違うが、導入時にはそう思って導入を認めた人は多いだろう。太陽光の支援策の導入に熱心だった人たちが、なぜか中国のウイグル人への人権侵害を批判しないのは不思議だ。

電力使用で強制的に徴収される再エネ賦課金(20年で1世帯当たり平均月約1500円)という事実上の税金の一部が中国企業の懐に流れる。「人のため」という倫理的意味を込められて導入支援策が作られ、日本で拡大した太陽光発電が、仮にウイグル人の人権侵害を支援しているというのは明らかにおかしい。

第2に、人権問題とはずれるが、輸入規制は太陽光発電の増加を一時的に抑制する効果があるためだ。筆者は決して、再エネや太陽光発電を否定していない。将来性のある意義深い発電方法であると思う。しかしその急拡大によって多くの問題が発生している。

7月3日に、静岡県熱海市で行方不明20人の発生する大規模な土石流災害が発生した。痛ましい話だ。この原因は、執筆時点で不明だが、山間部に産廃が埋められ、周辺に太陽光発電所が作られ森が伐採されて山の保水力が低下し、それが流れ出したことが原因かもしれないと懸念されている。危険な太陽光発電所の工事は全国で報告されている。補助金が影響した太陽光発電の拡大を、一旦止め、日本社会における適切な形を模索する時間が、民間も行政にも必要だ。中国製パネルの使用抑制は、そのきっかけになるだろう。

第3に、これも人権問題から外れるが、日本の太陽光パネル産業の復活に役立つかもしれないからだ。採算性がないため、日本企業は太陽光パネル生産から次々撤退してしまった。しかし、世界で中国製が使われなくなれば、日本企業は再び世界に太陽光パネルを供給できるようになるかもしれない。

中国製の太陽光パネルを使わないことは、長期的には日本に経済的利益をもたらすだろうし、倫理上の正しい消費の姿も確保できる。SDGs(持続可能な開発目標)がブームなのに、なぜか中国の行動に沈黙する人たちが多い。今こそ、おかしなことに、「おかしい」と、政治活動家ではなく、普通の人が声を上げるべきではないだろうか。

【記者通信/7月7日】熱海土石流の因果関係は?太陽光計画と土地所有者の実態


梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相が7月6日の閣議後会見で調査に乗り出す考えを表明した、静岡県熱海市の土石流発生現場と近隣の太陽光発電所との因果関係を巡る問題。周辺の土地所有者と太陽光発電計画の実態が、本誌の調べで明らかになってきた。

法務局や関係者などによると、土石流発生の一因とみられている盛り土が崩落した現場の住所は赤井谷で、以前は小田原市の不動産管理会社、新幹線ビルディングが所有。2007年から静岡県土採取等規制条例に基づき、残土の処分を目的に土砂などを搬入していたという。その後、熱海市をいったん経由して11年2月、ZENホールディングス会長の麦島喜光氏の手に渡った。当時は、周辺を含めた約35万坪の広大な土地で住宅地の造成などが検討されていた模様である(2010年12月撮影のYouTube動画参照)。

ZEN社の太陽光発電所(写真左)と、北側にある崩落前の盛り土現場、太陽光計画地点の位置関係

それがなぜ太陽光発電に変わったのかは現時点で不明だが、崩落現場の南側約100m先の細長い土地に立地する太陽光発電所は、ZEN社が13年10月に固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定を受けた「46.2㎾×11件(計508.2㎾)」の低圧分割発電所だ。実は、FIT認定情報を見ると、それに加えて伊豆山界隈では、中央ビルが「47.3㎾×14件(662.2㎾)」(伊豆山字獄ケ1172-1)、ユニホーが「47.3㎾×4件(189.2㎾)」(伊豆山字獄ケ1172-27)の太陽光発電を計画している(13年8~10月に認定取得、運転開始前)。いずれもZENグループの関係会社であり、法務局に問い合わせたところ、崩落現場のすぐ北側にある土地の住所であることが分かった。

盛り土付近でも太陽光発電所を計画か?

一部報道によると、麦島氏の代理人である河合弘之弁護士はメディアの取材に対し、ZEN社の太陽光発電所と盛り土崩落の因果関係はないとの見解を示す一方、盛り土付近の場所ではさまざまな計画を考えていたと話している。その計画の中に、前出の太陽光発電が含まれている可能性は否定できない。

太陽光開発と土石流発生の因果関係については、国や自治体の調査結果を待つしかないが、仮に今後、盛り土との関連性が裏付けられた場合、麦島氏らが土地所有者として責任を追及されることも考えられよう。なお河合弁護士は、かねてから麦島氏の代理人を務めている。

いずれにしても、ハザードマップで危険性が指摘されている場所においては、発電所の建設・運営に最大限の注意を払うべきだ。「インフラ公益事業者である大手電力会社や大手ガス会社が事業主体だったら、そもそもあのような場所に太陽光を建設することなどあり得ない」(大手エネルギー会社幹部)。地盤の造成・改良、雨水・保水対策、架台の強化など、地震・台風・豪雨など大規模災害を想定した対策がしっかりと講じられているかどうか。また発電所の建設自体が、周辺の自然環境破壊を引き起こしていないかどうか。今後、国・自治体による徹底した調査が求められる。

【記者通信/7月4日】熱海土石流で取り沙汰される 太陽光発電所との因果関係


静岡県熱海市の伊豆山付近で7月3日に発生した、大雨による大規模な土石流災害。発生源とみられる山の斜面横に大型の太陽光発電所があったことから、Twitter上ではいち早く関連性を指摘する声が上がっていた。

4日夜時点の一部報道によれば「因果関係は確認されていない」とのこと。ただ、静岡県では土石流の起点にあった、開発に伴う盛り土が全て崩壊し、流出したと発表している。この盛り土が、太陽光発電所の開発によるものなのか、それとも付近の宅地開発によるものなのか、今後の調査が待たれる状況だ。

赤線は土石流の軌跡。黄色囲みは太陽光発電所の建設地(グーグルマップより作成)
土石流の発生現場付近(毎日新聞ウェブサイトより抜粋)
海岸に向かって望む土石流発生現場付近と太陽光発電所(朝日新聞ウェブサイトより抜粋)

今回土石流が発生した場所は、ハザードマップで災害の危険性が指摘されていた場所だ。その界隈で、山の斜面を大きく削り取り、太陽光発電所を建設したこと自体は問題視されても仕方ないだろう。一部には「雨水対策が適切に講じられていなかったのではないか」との指摘も。また開発業者を巡っては、某外資系企業の名前が取りざたされている。静岡県選出の細野豪志衆院議員(元環境相)は自身のTwitter上で、「土石流とメガソーラーに関連がなかったか、調査を求めて動く」との意向を示した。

隣の函南町では住民が太陽光計画を懸念

実は災害発生4日前の6月30日、今回の問題を予見していたかのような出来事があった。熱海市に隣接する函南町の住民らが静岡県庁を訪れ、同町軽井沢地区の山林で計画されているメガソーラー事業について見直しなどを求める要望書を川勝平太知事に手渡していたのだ。

一部報道によると、これは山林約65ヘクタールに太陽光パネル約10万枚を敷き詰める計画で、地元住民は景観の悪化や土砂崩れの危険性を不安視しており、工事を強行して進めないよう県に指導してほしいなどと要望したという。今回の災害を受け、どのような対応策を講じてくるのか、川勝知事の動向が注目される。

小泉環境相「雨上がり後が私の仕事」

4日午後6時現在、土石流事故では計19人が救助されたものの、女性2人が死亡。依然として140人以上の安否が確認されていないという。熱海市付近は明日以降も雨が続く予報となっているため、救助作業の難航も予想される。

そんな中、小泉進次郎環境相は3日、東京・町田駅前で都議選の応援演説に参加。その中で、今回の土石流災害について「政府をあげて状況の確認をやっているが、環境大臣の私の仕事はこの雨が上がって、状況が見えた後に災害の現場の廃棄物を担当すること」と言ってのけた。多くの国会議員が応援演説を取りやめ、災害対応に当たっているだけに、環境相の立場での他人事のような発言は、今後波紋を広げそうだ。

【記者通信/7月1日】一次エネ係数を全電源平均へ 課題だらけの省エネ法定義見直し


総合エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)が6月30日に開いた会合で、資源エネルギー庁事務局は省エネ法のエネルギー定義の抜本見直しに伴い、電気の一次エネルギー換算係数を「火力平均」から「全電源平均」とする方針を打ち出した

現行ルールでは、省エネ法が化石燃料削減を目的としていることから係数には火力平均が用いられ、火力の発電効率の実態を踏まえた係数が設定されている。しかし、カーボンニュートラル実現を目指す今後は、再エネを中心とする脱炭素電源の導入拡大が想定されることから、その電源構成(エネルギーミックス)を適切に反映した換算係数で評価する。事業者への影響に配慮し、新制度への移行は最速で2023年度とし、3年程度の移行期間を設ける考えだ。

今後論点となるのは、換算係数を算出するに当たって、①各エネルギー源の発電効率をどう評価するか、②どの時点のエネルギーミックスに基づき算出するか――だ。①の議論の中でエネ庁事務局は、原子力の発電効率について、国際エネルギー機関(IEA)統計や欧州連合(EU)の省エネ指令で適用されている「33%」とする案とともに、「100%として評価すべきとの考え方もある」と提起。これに対し、多くの委員が国際的に適用されている「33%」が妥当との考えを示した。地熱発電についても、IEAが「10%」としているのに対し、事務局案は「100%」としており、何らかの統一した考え方に基づいた基準設定が求められる。

また、②については「過去の実績値に基づく」案と、30年のエネルギーミックスなど「将来見通しに基づく」案が示されたが、将来見通しと足元の実績の乖離が大きいことを踏まえ、足元の実績に基づき算出するのが適当との意見が大勢を占めた。

「系統安定化の視点が欠けている」

事務局案に対して複数の委員が指摘したのは、「系統安定化の視点が欠けている」という点だ。松橋隆治委員(東京大学大学院教授)は、「調整力としての火力が失われつつあることが、カーボンニュートラルへ向かうシステムを妨げる最大の要因。(火力の)稼働状況を一律で評価するのではなく、変動再エネの予測誤差を埋めるためにどう運転したかを評価しなければ、不完全な制度になる」とした上で、「分散型電源、産業用自家発、需要適正化を合わせた〝連携省エネ計画〟として、サプライチェーンまで評価する方法論を検討すべきだ」と提案した。

【記者通信/6月30日】エネ基議論でしぼむ「原発推進」 小泉環境相は菅首相の意向を示唆


2030年の温暖化ガス13年比46%削減、さらに50年のカーボンニュートラル社会の実現を目指し、経済産業省が検討を進める国のエネルギー基本計画の見直しで、再生可能エネルギーと並んで脱炭素化の鍵を握る「原子力発電の推進」が明らかにトーンダウンしている。

梶山弘志経産相は6月18日の閣議後会見で、エネ基見直しの状況に言及。省エネや再エネに関しては30年に向けての目標数値などに触れながら推進への意欲的な見解を示したものの、原子力については「国民の信頼回復に努めて、安全最優先の再稼働を進める」と、そっけない回答にとどまった。

小泉進次郎環境相は同日の会見で、「総理は、まず再エネを最優先、そして原子力については安全を最優先にして、再生可能エネルギーの拡大を図る中で可能な限り原発依存度を低減することを、しっかりと政府の計画に位置付けなければならないと(言っている)」と強調。原発低減・再エネ拡大路線が、菅義偉首相の意向であることを示唆した。

菅首相が本当に脱原発なのかどうかはともかく、5月の大型連休前まで、自民党・経産省が原発推進で盛り上がっていたのがウソのような情勢だ。

例えば4月12日、安倍晋三元首相や額賀福四郎氏、甘利明氏ら自民党の有力者が顧問に名を連ねる「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長)が発足。この中で、安倍氏は「2050年カーボンニュートラルを高らかに掲げている国として、国力を維持しながら、低廉で安定的な電力を供給していく。これからのエネルギー政策を考える上で、原子力にしっかりと向き合わなければならないのは厳然たる事実だ」と声高に訴えかけた。また同月23日には、自民党電力安定供給推進議員連盟の細田博之会長らが加藤勝信官房長官に対し、エネ基見直しの中で原発を最大限活用すべきだと主張し、原発の新増設やリプレースを進めるよう強く要望した。

鳴り物入りのリプレース議連も休眠状態に⁉

ところが、だ。その後、50年に向けて「原発ゼロ社会」の旗を振る公明党との方針の食い違いが鮮明化(5月31日付の記者通信で既報)。7月4日の東京都議選や、9月の衆院選が視野に入る中、選挙対策のためなのか、政府・与党内での「原発推進」の機運は急速にしぼんでいった。

こうした中、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会は5月13日の会合で次期エネ基の目次といえる骨格案を提示したのを最後に、理由不明のまま次回の開催が次々と延期され、6月30日にようやく開催。しかし会合の内容は、関係者の意見表明にとどまった。

「原子力を抜きにした再エネ1本足打法で、カーボンニュートラル社会の実現は不可能。そのためにも、東日本大震災以降、混迷を続けるわが国の原子力政策について、今こそ骨太の国家戦略を策定し、国民の理解を得るべく、最大限の努力を払うのが本来の国の仕事のはず。なのに、今のありさまは一体何だ!期待していた、鳴り物入りのリプレース議連も当初の掛け声とは裏腹に、今や休眠状態。有権者の顔色や世論の反応を気にして、原子力の国家論を語れない自民党など、地に落ちた同然。残念で仕方ない」(大手電力会社幹部)

いずれにしても、目の前の都議選が終わる7月5日以降、エネ基見直しの検討は佳境を迎える。「資源エネルギー庁に対し、官邸サイドから原発推進色を色濃く打ち出さないよう圧力がかかっている」(事情通)との声も聞こえているが、パワハラ政治もいいところだ。今後の審議では、脱炭素社会に向けた再エネ国家戦略と合わせて、原子力国家戦略の議論が大いに盛り上がることを、一国民として改めて期待したい。

【記者通信/6月25日】台山原発で放射能漏れ事故 新たな原発大国に監視の目を


中国南部広東省の台山原子力発電所で、放射性物質が漏れる事故があった。米CNNは6月14日、同原発の原子炉メーカーであり、中国広核集団と共に運転に協力する仏フラマトム社(旧アレバ)が米国政府に「差し迫った放射線上の脅威がある」と通達した、と報道。事故を受けて、中国の安全規制当局は原発の運転停止を避けるため、あろうことか周辺地域の放射線量の基準値上限を引き上げたという。

中国当局は「冷却材の放射性物質の濃度が上昇したものの、原発外部への放射性物質漏れはなく、基準値の引き上げも承認していない」と説明したが、事故を米政府に報告したのがフ社であることが、奇妙な点だ。

基準値引き上げは事実なのか 燃料棒損傷の原因とは

「(フ社は)放射能漏れ事故を確認して、『マズい』と思ったのでしょう」。こう話すのは、東京工業大学先導原子力研究所の奈良林直特任教授だ。「日本や欧米で原発事故が起こった際、事故の報告や公表の第一の責任は運転事業者である電力会社が負う。その次に規制当局だ。台山原発の事故のように、原子炉メーカーが公表することはまずない。新型コロナウイルス発生時にも批判された、中国の隠ぺい体質を感じさせる」

台山原発で何が起こったのか見ていこう。フ社の親会社であるフランス電力(EDF)は、6月8日、反応炉から希ガスが漏れている、と米国に報告。技術協力を要請した。その後、CNNによる周辺地域の放射線量の基準値引き上げ報道があった。EDFは14日、台山原発の「原子炉格納容器内」で希ガスの濃度が上昇したとの通知を受けたと発表したが、重大事故ではないと説明。中国当局は16日に、冷却水内での放射線量の上昇を認めたが、原子炉外での放射線漏れ、基準値の引き上げについては否定した。事故の原因を「燃料棒5本が損傷したため」だとしたが、周辺地域の測定データは公表しておらず、詳細は明らかになっていない。日本国内や香港では、モニタリングポストの放射線量の計測値に変化はないものの、事態の行方が注視される。

事故の原因である、燃料棒の損傷そのものは珍しい事例ではない。日本の原子炉でも2011年までに36件確認されている。原子力関係者によると、日本では、原子炉内で希ガス濃度が基準値を上回った際には、プラントを一時停止して、安全点検に入る場合も多いという。

では、考え得る燃料棒損傷の理由は何か。一つは、原発の建設工事時中に燃料棒に異物が混入した可能性だ。中国での原発建設の現場を目撃した奈良林教授は、こう話す。「浙江省の三門原子力発電所の建設中、試運転をサポートするために中に入ったが、とにかく砂塵がすごかった。マスクをしてメガネをかけないと立っていられないほど。日本やアメリカの原発には塵一つ落ちていないのとは対照的だ。台山原発建設工事中に異物が混入した可能性は十分考えられる」(奈良林教授)。

一帯一路で原発売る中国 安全性は大丈夫?

中国は目下、「原発大国」に向けて、ばく進中だ。総発電容量は今や米国、フランスに次ぎ世界第3位。21年3月には、自主開発の第三世代原発「華龍1号」をパキスタンで完成させたばかり。今後アジア各国やアフリカなどの途上国に中国製原発を輸出するビジョンを描いている。台山原発は、フランスが設計した第三世代欧州加圧水型炉(EPR)2基で構成される。18年に運転を開始させ、商用としては世界初。今回放射能漏れがあったのは台山原発1基と見られる。同原発は製造業が集積する深セン市などに電力を供給するなど、エネルギー強国を目指す中国肝いりのプロジェクトだった。

しかし、今回の事故のように、透明性の高いデータを中国当局が示さないのは問題だ。周辺地域への希ガス漏れがあったのか、専門家は口を揃えて「これまでの情報開示だけでは判断できない」と話す。今後、世界中に中国当局が管理する原発が増えた場合、安全性や情報共有の風通しの悪さが懸念材料になる。

原発の建設・運営で最も大切なのは「安全文化」だ、と奈良林教授は強調する。現場作業員が額に汗して、安全な運転を継続する「文化」を育てる必要がある。今回のように、海外メディアの報道があって初めて事故の公表に踏み切るようでは、中国の原発に安全文化の定着はおぼつかない印象を受ける。

編集部は、世界各国の事業者と情報交換や技術支援を行うWANO東京センターに、台山原発の事故で何か情報を得ていないか、取材を打診した。WANO会員には中国で原子力事業を営む中国核工業集団公司も名を連ねる。WANOからは「いかなる取材も受け付けていない」との返答があった。隣国の出来事だけに、迅速な情報共有を期待したいところだ。

前述の原子力関係者は、日本の原子力業界の情報収集力の欠如を嘆く。「2000年代後半から、中国の原発技術者がこぞって日本に技術を学びにきていた。その頃はみんな良かれと思って経験や専門性を共有していた。今となっては、日本は中国に情報を提供する一方で、中国からは何も情報を得ることができていない。日本側の力不足としか言いようがない」(同原子力関係者)

台山原発の今後、そして中国の原発運営に、国際社会は目を光らせる必要がある。