【記者通信/2月19日】炭素価格付け議論が本格始動 気になる炭素税導入の可能性


1月中旬の施政方針演説で、菅義偉首相が「成長につながるカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)に取り組む」と表明したことを受け、経済産業省と環境省でそれぞれ議論がスタートした。経産省に先駆け、環境省はCPに関する小委員会を2月1日、1年半ぶりに再開。初回は、賛成派、反対派がこれまで通りの主張を繰り返しただけで時間切れとなった。「手法ごとの課題や、成長に資するかどうか、間口を広く検討していく」(環境省幹部)と、方向性は決め打ちしないと説明。1日の会合で「CPを今年の最重要課題に位置付けたい」とあいさつした小泉進次郎環境相も、具体的な手法や考え方には言及していない。ただ、一部では炭素税導入を狙い、夏の2022年度税制改正要望を目指しアクションを起こすのではないか、と見る向きがある。

経産省は足元の導入には否定的だが・・・

一方、経産省も研究会を新設し、17日に初会合を開いた。CPには炭素税や排出量取引制度以外にも、①非化石証書やJクレジット、②石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税、③FIT(再エネ固定価格買い取り制度)、④エネルギー供給構造高度化法(高度化法)や省エネ法といった規制――などさまざまな手法があると強調。これらのポリシーミックスで、短期、中長期と時間軸を意識し、企業に負担のない形で脱炭素化に向けた行動変化を促す仕組みを考えていく。「現在は脱炭素技術の選択肢が少なく、大型の税を入れても企業の逃げ場はない」(経産省幹部)と、短期的な炭素税導入は否定する。だが、長期的な考え方はまた違うようだ。

両省の審議会では、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する国境調整措置の扱いも論点となる。EUが具体的制度設計を進め、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的に動きが出ている。国境調整措置を導入した場合、炭素価格が低いと相手国に判断されると不利になる。日本の場合、公式的な炭素価格とされる地球温暖化対策税(温対税)の税率は、CO2t当たり289円と高くはない。何を炭素価格とカウントするかはまさに今後の議論だが、経産省幹部も将来的に炭素税導入を検討する可能性については明確に否定しなかった。

カーボンニュートラル政策の影響に警戒も

昨年、エネルギー特別会計改正法が成立し、化石燃料の安定供給対策や温暖化対策などの財源である「エネルギー需給勘定」から、原子力政策の財源である「電源開発促進勘定」への繰り入れが可能になった。これについては、福島復興事業や廃炉対策の費用がかさむ中、新たな財源としての炭素税導入に向けた布石ではないか、との見方があった。この仕組みを、将来的に活用するようになるのだろうか。

だが、あるエネルギー業界関係者は、財源不足は慢性的な問題であり、炭素税を取ることで日本の税収が減ったら元も子もなくなると、警鐘を鳴らす。「政府はカーボンニュートラル政策に巨額予算をつぎ込むが、失敗したら借金が残る上、その時にはエネルギー多消費産業は疲弊している。しかもこの政策で生まれる商品は、飛ぶように売れるものではない。日本が輸出先として見るべき東南アジアやインドなどがCPを入れない限り買ってもらえない。本当にマーケットが取れるのか、よく議論する必要がある」と強調している。

【目安箱/2月18日】ツイッターから消えた 大手電力関係者の本音


短文投稿のS N S、Twitter(ツイッター)で、奇妙な出来事が2月の初めに起こった。いわゆる大手電力会社の中堅社員と思われる3~4人の匿名アカウントが突如発信を取りやめたのだ。書き込みでは、今のエネルギー政策への不満や、大手電力の人々が感じる被害者意識が、本音で語られていた。一体、何があったのか。

ツイッターはアカウントを登録すると、匿名で書き込みができ、フォローをした人の発言が画面に流れてくる仕組みだ。ここには「電力クラスター」と呼ばれる電力関係者らの集まりがあり、削除されたアカウントの中には1万人近くにフォローされているものあった。いずれのアカウントにも共通するのは、今冬の電力需給ひっ迫・価格高騰問題が、電力自由化での制度設計の失敗や原発停止、再生可能エネルギー偏重などによるものと指摘。そして電力自由化を主導した旧民主党政権、問題を是正しない自民党政権の政治家と、経産官僚や(旧電力の社員から見たところの)新電力の「ずるさ」を批判していた。

この削除に、ネット上では経産省が圧力をかけたのではないかという憶測が広がった。経産省筋は「あり得ない」と、その憶測を一笑に付したが、一方で「大手電力の関係者には相当不満が溜まっていたようだ」と感想を述べた。ある既存大手電力の総務部が、ツイッターなど外部への情報漏洩の注意を呼びかけたようで、それに応じて社員が自主的に発信を取りやめたらしい。

ただしこの騒動で、考えるべき問題点がある。大手電力の関係者が行政当局、会社、そして新電力など電力業界をめぐる諸状況に怒りや不満を貯め込んでおり、それがツィッターで可視化されたということだ。東京電力の福島第一原発事故、そしてそれをきっかけに社会に広がった大手電力批判、さらには電力自由化という激動に、電力業界とそこで働く人々は巻き込まれた。その過程で、鬱憤(うっぷん)が溜まっていたのだろう。

大手電力に根付く建前と本音の構図

「自分には責任のない電力の激動に巻き込まれ、私は苦労させられている。電力会社は、かつてはどの地方でも、どの産業からも尊敬され、大切にされた。電力産業は国の根幹で、それを担う誇りも持っていた。ところが今は、原発事故の責任を負わされ、批判される。経産省は新電力の肩を持ち、新電力は理不尽な要求で会社の財産権を侵害する。それなのに気候変動、脱原発、安定供給の各種対策など、責任と負担ばかり押し付けられる。給料は増えないのに残業だけ増える。私たちは政治や役人のおもちゃではない。怒らない会社の上層部もおかしい。やっていられない」

発信を停止したアカウントには、要約するとこんな発想で貫かれた投稿が並んでいた。大手電力の社員はいわばエリートで、属する会社の社風も真面目だ。不満を表立って言えない「建前」の強い組織にいる。電力業界を取材すると、社員からは最初に「建前」の話を聞くが、何度も会い、仕事以外の場で本音を聞くと、今の仕事への苦しみや不満の本音が出る。その本音と同じものが、ツイッターの一連の投稿から垣間見えた。

もちろん、このように要約した大手電力の中堅層の本音は、全てがそうだとは思えないし、立場が変われば別の意味を持つだろう。例えば、経産省や新電力の人からすれば、「既得権益を使う人の甘え」と受け止めるかもしれない。ただし「自分たちの声が聞いてもらえない」ことから発する不満が大手電力で働く人々の間で渦巻いているのは間違いない。

そうした不満や苦しみは、同情する点はあるし、その通りと思えるところもある。最近の原子力政策、電力自由化では、当事者の電力会社の意見はなかなか聞かれず、政策の変更を政治家と経産省、原子力規制庁が主導した。それによる電力ビジネスの現場では、現実を理解していない政策による混乱が確かにある。

かつては電力業界から行政への提言や政治へのロビイングは東京電力、電事連が担った。政治家の選挙協力や役所から電力業界への「天下り」もあり、電力と行政の意思疎通は、それなりにあった。ところが3.11以来、そうした業界と、政治・行政の交流は、社会から批判を受けたり、一部の政治家が攻撃したりしたことで、ほとんどなくなったとされる。行政の審議会では大手電力の幹部がオブザーバーとして顔を出すものの、建前だけが話され、現場の人々の本音はなかなか伝わらない。

現場を尊重しない行政主導は不健全

電力業界をめぐる状況は、3.11以前と今では大きく変わってしまった。時計の針は元には戻らない。かつてのような行動を大手電力はできない。以前はあったとされる「みんな仲良し」の電力業界の雰囲気が戻ることはないだろう。

しかし、今のように大手電力で働く社員の意見が尊重されない政策、業界の姿は健全とは言えない。今も電力産業を主導するのは既存の10電力で、そこで働く約18万人の従業員が業界を動かしているのは紛れもない事実だ。実務を担う人々を大切にしない政策は必ず行き詰まるし、産業を大切にしなければやがて利用者が損をする。今のように電力業界内がギスギスして疑心暗鬼に満ちれば、無意味な摩擦やトラブルも事業者間、事業者対消費者、事業者対行政でさらに増えるだろう。かつての「みんな仲良し」的雰囲気が懐かしがられるかもしれない。

電力で働く人々の声を聞き、それを尊重する。無意味な批判はやめる。ツイッターでの小さな騒動が示した重要な問題を、エネルギーに関わる人も、消費者も、考えるべき時かもしれない。

【記者通信/2月16日】北米で電力不足・価格高騰 大寒波で火力燃料制約も


北米の広範囲が異例の大寒波に見舞われている。厳しい寒さで暖房需要が増大する中、南部のテキサス州では風力発電所のブレードやタービンの凍結や燃料制約によるガス火力発電所の停止により電力需給がひっ迫。これに伴い15日午前には、同州の電力スポット価格が上限の1MW時当たり9000ドルを突破してしまった。

ダラスやヒューストンなど広範囲にわたり計画停電が実施され、同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、厳しい気象状況が緩和されるまで計画停電が継続される可能性があるとして需要家に可能な限りの節電を要請しているという。

厳しい寒さと燃料制約による需給ひっ迫――。どこかで聞いたような話だ。そう、日本においてもLNG不足による需給危機が1月に起きたばかり。自家発への発電要請などあらゆる手段を講じ停電は回避したが、テキサスでは自家発の立ち上げやDRなどを実施しても不足し、大寒波に襲われているにもかかわらず停電せざるをえない状況に陥ったという点で、日本よりもよっぽど深刻な状況だと言える。電力自由化の先進地であるテキサス州も、厳寒で20GWもの火力発電所が停止することまでは予想できなかったようだ。

アナリストは、「発電事業者は、ガスパイプラインを使用する権利をノンファームで押さえている。寒さでガスの需要がパイプラインの供給能力を超えてしまい、燃料を供給できなくなってしまった」と、テキサス州の燃料制約の理由をこう説明する。別の学識者は、「テキサスが容量市場を持たない『エナジーオンリーマーケット』であることも背景にあるのではないか」と話す。需給ひっ迫時には卸電力価格を人為的にスパイクさせることで電源への投資を呼び込む考えに基づいているが、実際は、風力の導入拡大に伴い厳気象時の頼みのはずの石油火力が退出してしまった。何度か容量市場導入の議論は持ち上がってはいるものの「社会主義的だ」として政治家によって潰されてきた経緯がある。他方、北米最大の独立系統運用機関であるPJMは、容量市場を導入し予備電源として石油火力を備えているためこうした危機には強い。

電力業界関係者からは、「一部の学識者や新電力関係者が世界的に長時間に渡る市場価格高騰など起きていない。日本の1月の市場価格高騰は世界的に類のない極めて異常な『災害級』の事象だと主張していたが、そうではないということがこれではっきりしたはずだ」という声も聞こえてくる。特に今年は、世界的な低気温で英国やベルギーなど各国で400~500円/kW時の値を付けている。日本の200円など低い方だというのだ。

いずれにしても、自由化の進展度合いに関係なく、再エネが発電しない時には火力に頼らざるをえず、その火力は燃料がなければ発電できないのだ。電力システム全体として安定供給をどう維持していくのか。海外事例もよく検証しながら日本固有の課題も踏まえた上で電力システムを再構築していく必要がある。

IDIインフラで内紛劇 埼玉氏らが大和証券を提訴


エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズ(荒木秀輝社長)を巡り、50%株主である埼玉浩史氏らのIDIグループと、残り50%を出資する大和証券グループ本社による内紛劇が起きている。
新電力大手Fパワー(埼玉会長兼社長)の株主であるIDIインフラの社長はもともと埼玉氏が務めていたが、昨年10月30日の取締役会で、大和側の役員が埼玉氏の善管注意義務違反などを理由とした緊急動議で社長を解職。後任に大和側の荒木氏が就いた。
埼玉氏らIDI側は、解職の前提となった外部調査報告書が「恣意的で不合理」と指摘。独自に実施した内部調査などをもとに11月24日、大和証券と役員を相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたのだ。今年1月18日に初の口頭弁論が行われた。
なぜ、こうした事態になったのか。関係者によれば、Fパワーが2年前に大幅赤字となった後、大和側が同社を減損処理したことが背景にあるという。IDIインフラに社長を送り込みながら連結対象から外していること自体が不可解だ。訴訟裁判の行方はいかに。

東電EP巡り増資の噂 市場高騰で一層打撃か ほか


東電EP巡り増資の噂 市場高騰で一層打撃か

東京電力エナジーパートナー(EP)を巡って、エネルギー業界内にはいまだ「厳しい経営状況を立て直すため、第三者割当増資に踏み切るのでは」との観測が絶えない。
東電事情に詳しい市場関係者のA氏によると、増資引受先の候補として名前が上がっているのが、大手エネルギー会社のC社、E社、K社、O社、また大手商社のM社などだ。「東電EPの直接のライバルである東京ガスや、そこと連携している大手エネルギー会社のT社やK社は候補には上がっていないもよう」(A氏)だという。
年初来の日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の異常高騰は、電力小売り事業者の経営を直撃する見通しだ。
「さすがにスポットがkW時250円まで跳ね上がったら、市場依存型の新電力は言うまでもなく、市場調達率の低い電力小売り事業者もアウトだろう。インバランス側で乗り切ることになると思うが、テプコカスタマーサービスを抱える東電EPへの影響は少なからずあるのではないか」(大手電力会社関係者)
JEPX価格の異常高騰に対応するため、経済産業省は1月15日、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。市場崩壊を防ぐための措置だが、関係者の中には「結果的に、東電EPの救済にもつながりそうだ」と見る向きも。
東電の経営再建を図る「新々総合特別事業計画」のレビュー公表が延び延びになっているが、今回の事態を受けて、さらに延期されることになるのか。

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市場暴騰でS電力解約 立民党議員に批判殺到

電力需給がひっ迫したことで、JEPXスポット価格が200円を超えた。そうした中、立憲民主党に所属するS参院議員のSNSが物議を醸している。S議員は、再エネ100%電気をうたい文句にしたS電力と、JEPXと連動して電気料金が変動するプランに加入していた。
しかし、JEPX価格は平時の10倍をはるかに超える水準まで暴騰。「企業理念は素晴らしいが、料金10倍はおかしい」との理由でS電力を解約し、暴騰分の電気料金を分割払いできる再エネ系新電力のM電力に切り替えたとSNS上で報告した。
この行動に対し「再エネ推進を目的にS電力を選んだのに、料金が上がったからといって見捨てるのか」と批判が殺到したのだ。
厳しい批判を招いたのは、立民党が原発を否定しているため。「日本と同じく電源構成がLNG火力に偏重し、かつ日本より高緯度に位置する韓国では、このような事態に陥っていない。それはひとえに原発が安定供給を支えているから。党綱領にまで『脱原発』を書き込み分裂した立民党の議員が、こうした事態に陥っているのは皮肉だ」。業界関係者はこう揶揄する。

立憲民主党は「反原発」を掲げている


ちなみにS議員は、参議院の「資源エネルギーに関する調査会」の委員も務めるエネルギー通の議員。今回の問題について「再エネを大量導入していれば、防ぐことができた」と強調。この発言にも多くの非難が集まり、文字通り火に油を注いだ。

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頼みの綱はS紙 エネ庁幹部が急接近

「最近のエネルギー報道を見ていると、大手紙で頼りになるのはS紙だけだ」。ある資源エネルギー庁幹部はこう漏らし、S紙の担当記者と会う時間を増やしているという。
エネ庁はもともと政・財界に強い影響力を持つ大手経済紙、N紙を別格扱いしてきた。だが、N紙は最近、担当デスクの意向で再エネに肩入れしすぎ、バランスに欠いた報道が目立っている。エネルギー関係者の間では、「最近のN紙はおかしい」との声が強まるばかりだ。
エネ庁幹部はこれまでN紙に対し、公平な視点で報じるよう申し入れてきたが、再エネ偏重の報道は変わらなかった。カーボンニュートラルが大きな政策課題に浮上する中、エネ庁も目をつぶれなくなり、N紙との距離を取り始めたという。
ただ、その矢先、年明けに顕在化した電力需給ひっ迫のニュースで、N紙が盛り返し始めた。新型コロナ拡大に伴う緊急事態宣言の陰に隠れ、テレビも一般紙もほとんど報じなかった中、N紙は専門紙に続き、いち早くこのニュースを深掘り。N紙らしく、多方面への取材で他紙を一歩リードしている。
件のデスクも、大規模停電の危機を目の当たりにして、再エネの実力を見直し始めたとか。ただ、肝心のエネ庁が需給ひっ迫をそれほどの危機と認めておらず、一度広がった距離は縮まりそうもない。

【記者通信/2月5日】新電力を襲う「3月危機 」独自取材で実態浮き彫りに


昨年12月下旬からの急激な電力需給ひっ迫を受けて発生した、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰。最高値でkW時当たり251円を記録するなど、1月初旬から中旬にかけては連日100円超の高騰局面が続いた。これは平時の数十倍に相当する水準であり、卸市場からの調達に依存する電力小売り事業者にとっては大きな打撃となった。エネルギーフォーラム編集部では、大手エネルギー系から独立系、地域系、再エネ系までさまざまな小売り事業者を取材。そこから聞こえてきた悲痛な声を紹介する。

「経営努力が水の泡に」「夜も眠れず」

「JEPXからの調達は全体の2割弱だったが、1月の高騰時には毎日のように二けた億円規模の損が発生した。1月全体での赤字幅はなんと数百億円に達する。親会社や金融機関などからのまとまった資金調達によって何とかしのぐことができそうだが、この危機的局面で一部の電力会社がとんでもない超過利潤を手にしたという話を聞くと、どうにも納得がいかない。確かに、難を逃れた新電力もあったが、経営努力の結果というわけではなく、たまたまそういう事業環境下にあったという要素が大きいのでは」(大手エネルギー系A社幹部)

「中堅ながら自社で火力電源を保有し、有事もにらんだ電力調達のポートフォリオを構築していたのだが、それでも卸市場の高騰は痛かった。1月全体の赤字幅はざっと二十数億円に達する。悲願の株式上場を視野に、懸命な経営努力によって財務体質を強化してきたのだが、わずか1か月弱の市場混乱の結果、これまでの努力が水泡に帰そうとしている。茫然自失の状態だ」(中堅独立系B社幹部)

「1月中旬ごろは、本当に卒倒しそうだった。当社は地域新電力として地元企業からの協力を受け、地道に経営を拡大し、昨年にようやく黒字転換が実現したばかり。それが、今回の問題により、1月中だけで数億円の赤字に。すごろくで言えば、順調に進み始めた矢先に突然、振り出しに戻された形だ。インバランス清算が4月上旬にくるが、そこは地元金融機関などの協力を受けて何とか乗り切れそうだが、勉強代としてはあまりに高い出費となった」(地域系C社幹部)

「当社の電力は、地元の再エネ電力から7割近くを調達しているが、FIT特定卸供給制度によって市場連動となっているため、予想をはるかに上回る影響が出た形だ。一時は1日当たりで電気料金収入の10倍以上の支出があり、全体では数千万円の赤字に陥った。もはや経営を続けることはできず、事業譲渡を考えている。社員のことを考えると、夜も眠れない」(再エネ系D社幹部)

新電力の「JEPX離れ」が加速するか

関係者によれば、インバランス清算の支払い時期となる3~4月には、電力小売り700弱の事業者のうちの相当数が経営危機に見舞われるもよう。今回のJEPX高騰を巡っては電力市場設計の在り方を問題視する声が、業界内外から噴出。一部の新電力関係者の陳情を受け、自民党議員も動き始めた。

電力事業を所管する経産省は、特定の新電力を優遇するような救済措置には難色を示しているが、制度の見直しには前向き姿勢。梶山弘志・経産相も2月5日の閣議後会見で、「(再エネ総点検タスクフォースなどの指摘を踏まえ)包括的な検証を実施の上、安定供給確保や市場制度の在り方などについて検討していく」と言及した。ただ新電力の中には、今回の反省から相対契約による電力調達に切り替える事業者が増えているとみられ、今後JEPX離れが加速する可能性も。電力全面自由化から5年を経て、電力市場は大きな曲がり角を迎えた格好だ。

大飯4号機で原子炉起動 需給改善も脱原発派「待った」


関西電力の大飯原子力発電所4号機(出力118万kW)が、昨年11月からの定期検査を終えて1月15日に原子炉を起動、翌16日に臨界に達した。調整運転が順調に進めば、2月中旬にも本格運転を再開する。これにより、昨年暮れから続いていた関電エリアの電力需給ひっ迫状況は大きく改善され、大規模停電のリスクも解消されることになる。

しかし、この動きに待ったをかけた人々がいる。脱原発派だ。福井県などの住民は14日、大阪地裁が原子炉設置許可の取り消しを命じた大飯原発3、4号機について、控訴審の判決が出るまでの期間、設置許可の効力を停止するよう大阪高裁に申し立てた。一部報道などによると、住民側は「関電の想定を超える地震が起きれば、原子炉事故により重大な被害を受ける可能性がある」との理由から、「運転できないようにする緊急の必要性がある」と主張している。

これについて、エネルギー業界の幹部は「大飯原発を稼働させないことの方が、大規模停電などで(需要家が)重大な被害を受ける可能性がある。脱原発派の主張は正反対であり、『運転させるようにする緊急の必要性がある』のは明らかだ」と指摘する。

電力不足が続く状況下で、大飯を動かすリスクと、動かさないリスクのどちらが高いかといえば、明らかに後者だ。「突然の大停電が起きたとき、いま最も大変なのは新型コロナ患者を受け入れている指定病院だ。非常用発電機が動かない事態も考えられ、人工呼吸器や人工心肺装置などの運用に支障が出たら、単なる停電では済まされないだろう」(前出幹部)

大阪高裁には、冷静な司法判断が望まれる。

【記者通信/2月4日】経営難の新電力救済を 内閣府TFメンバーが緊急提言


内閣府に設置された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」のメンバーである大林ミカ(自然エネルギー財団事務局長)、川本明(慶応大学特任教授)、高橋洋(都留文科大学教授)、原英史(政策工房代表)の4氏は3日、昨年末から続いた電力需給のひっ迫と市場価格高騰問題に対する緊急提言を連名でまとめた。

提言内容は、①当面の供給力(売り入札)確保、②徹底した真相究明、③価格高騰に関する正確な状況説明、④新電力等の緊急支援、⑤市場制度の再設計、⑥構造的問題への対処――の6項目で構成。特に④の新電力支援では、発電事業者と一般送配電事業者双方に支払い猶予や遡及適用による負担軽減などを強く求めている。

具体的には、発電事業者に対してはスポット取引決済における支払い期限の延期や分割払い、約定価格の遡及的見直しの検討すること。一般送配電事業者に対しては、インバランス精算において一定の値を上回る場合に限界費用ベースの料金を別途設定し遡及適用で新電力に差益を還元することや、FIT特定卸の調達価格についてFITの買い取り価格を上限に設定し、この上限価格を昨年12月20日まで遡及的に適用し差益を新電力に還元することだ。

今回の市場価格高騰では、多くの小売り電気事業者の経営が窮地に陥っており、制度見直しが急がれるのは確か。ただ、自由化された市場において、不測の事態により一方のプレーヤーに不利益が生じたからといって価格やルールの遡及適用が認められるのか疑問符が付く。「価格の遡及適用だけは認めるつもりはなかった」(事情通)経産省が、この提言を受けてどう動くのか注目される。

【特集1】制度欠陥や電源問題が一気に露呈 世界屈指の安定供給体制に赤信号か


かつて世界屈指を誇ったわが国の電力安定供給体制に、いよいよ赤信号がともろうとしている。年初の電力市場を襲った危機は、システム制度の欠陥や電源構成偏重の問題を一気に露呈させた。

「長らくエネルギーの仕事に携わっているが、こんな事態はいまだかつて経験したことがない」。電力、ガス、石油などエネルギー各社の幹部が、計ったように口を揃えるのも珍しい。

新型コロナウイルス禍で自粛正月を余儀なくされた年明け早々、わが国の電力市場に二つの危機が襲いかかった。一つは、LNG火力の燃料不足や予想外の大寒波などに端を発する「電力需給ひっ迫」。もう一つは、日本卸電力取引所(JEPX)の「スポット価格暴騰」だ。

まず需給ひっ迫を巡っては、昨夏ごろから大手電力各社がLNG火力燃料のだぶつきで在庫を絞り込んでいた影響が裏目に出て、12月に在庫不足が顕在化。全国のLNG火力が出力低下を余儀なくされた最中の年末年始、北~西日本の日本海側が例年より一足早い大寒波・降雪に見舞われたことで、電力需要が一気に拡大した。

悪天候のため頼みの綱の太陽光発電は稼働せず、ピーク電源の石油火力も半分近くが燃料の調達が間に合わず停止状態に。電力各社は大規模停電などの突発的事態を回避すべく、24時間体制で供給力確保に当たった。

そんな状況下で発生した二つ目の問題が、JEPXのスポット暴騰だ。昨年12月中旬から上昇傾向が鮮明化し始め、1月15日受け渡し分ではkW時250円の史上最高値を記録した。これは平時の数十倍に相当する水準であり、卸市場からの調達に依存する電力小売り事業者にとっては大打撃となる。

最高値を記録した1月15日のJEPXスポット価格(システムプライス)

「買い手側の支払い期日は取引日の2日後。とてもではないが、資金繰りがもたない」。中小新電力から悲鳴が聞こえる中、経済産業省はインバランス料金の上限価格をkW時200円とする事業上の救済に乗り出したが、「200円では焼け石に水。さらなる措置が必要」(新電力幹部)との声も。その一方で、大手電力関係者を中心に「市場依存経営の結果、資金難に陥ったからといって安易に救済するのはおかしい」といった不満も噴出している。

一連の事態は災害級!? 経産省は節電要請を否定

「さまざまな影響が複合的に出たために起こった事象。災害に近いという発想が必要ではないか」。1月19日に開かれた経産省の有識者会合で、委員の松村敏弘・東大教授がこう述べると、複数の委員やオブザーバーが災害級との見解に同調した。災害級なら東日本大震災時がそうだったように、新電力救済などで制度上の特例措置が適用されてもおかしくはない。

市場連動型は本当にお得? 話題の電気料金プランを検証


昨年暮れからの電力不足を背景に、日本卸電力取引所のスポット価格が異常な高騰局面に突入した。一部の新電力が提供する「市場連動プラン」への関心が高まる中、電力関係者が独自検証を試みた。

2016年の電力小売り全面自由化によって、それまで単なる値下げ合戦の世界だった小売業界に多彩な事業者が参入した。資源エネルギー庁の言葉を借りると、「ライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになった」のだ。

実際に、「電気代の一部がスポーツチームに寄付されるプラン」「特定の発電者に対して応援金を支払うことができるプラン」「電気が100%再生可能エネルギー由来のプラン」「地産地消のプラン」など、これまでになかった料金メニューが登場してきた。

とはいえ、経済合理性が電力メニュー切り替えの検討における重要な判断基準であることに変わりはない。そうした中、全面自由化前まで一般的だった「大手電力会社のメニューよりも(従量料金単価や基本料金単価が)単純に安価」な料金メニュー以外にも、独自の算定式に基づく料金メニューが現れている。

「燃料調整費なし」「一段階料金のみ」「基本料金無料」といったものや、「市場連動」と呼ばれるメニューだ。

市場連動の仕組み 傾向は右肩下がり

中でも、今の注目は「市場連動」である。これは料金算定に当たって、日本卸電力取引市場(JEPX)の価格変動を実質的に加味するメニューのこと。「実質」としているのは、JEPXからの調達に依存する事業者が「電源調達コスト」を参照するなど、実質的にJEPX価格の影響を受けるメニューが存在しており、それらは「同じようなもの」として扱うのが妥当だと考えられるためだ。

図1は11年6月から20年12月までのJEPX東京電力エリアプライス(月次単純平均)の推移である。原油価格の変動やFIT(固定価格買い取り制度)による再生可能エネルギー大量導入、コロナ禍による電力需要の減少―など、原因とされる要素はさまざまではあるものの、大きなトレンドとしては右肩下がりとなっている。またJEPXでは発電事業者に限界費用でのタマ出しが求められていることも相まって、実質的に変動費マーケット化したJEPXのスポット市場は、基本的には再エネ電源のさらなる導入によって右肩下がりで推移するものと思われ、その前提で戦略策定している事業者もあると思われる。

図1 月間平均価格(東電エリアプライス)

基本的に小売り事業者は発電事業者やJEPXなどから電力を仕入れ、その金額に託送料金・再エネ賦課金・販促費(代理店手数料など)などを加えて販売単価を設定している。仮に全量をJEPXから調達していると仮定すると、大手電力の通常料金メニューの料金計算式と、自社の調達コストは連動しない。大手電力メニューに対して単純に安いメニューを新電力が提供する場合、市場調達コストが多少上がっても黒字が確保できるよう、マージンを厚めに持っておこうという判断になるだろう。

一方、販売価格が仕入価格に連動するメニューを採用している場合は、仕入価格の変動リスクを負わないため、市場価格変動に備えた割増マージンを吐き出し、結果的に安い料金メニューを実現することができる。さらに、前述の通り市場価格は基本的に下落傾向にあったことから、市場連動メニューは価格競争力のあるものになり得るわけだ。

【記者通信/1月31日】埼玉氏が語る大和証券提訴の全真相 IDIインフラ価値の棄損に歯止めを


昨年12月17日付の記者通信で、エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズで突如起きたトップ交代劇について、埼玉浩史前社長のインタビューを掲載した。11月24日、埼玉氏らIDIインフラ役職員等持ち株会は大和証券グループ本社を相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴。今年1月18日、第1回の口頭弁論が行われた。この訴訟の具体的内容や今後の見通しについて、あらためて埼玉氏に話を聞いた。

聞き手・井関晶エネルギーフォーラム編集部長

――前回に引き続いてのインタビューとなります。大和証券グループを提訴された背景や目的からお聞かせください。

埼玉 株主間契約を無視した大和証券グループの一連の行動は、到底看過できるものではありません。当初は、大和証券グループとしてエネルギー業界のことを学びたいからといってファンドの運営会社に参画したにもかかわらず、業務執行の中心に居座ることになった結果、エネルギー業界の知見と経験のある者が離職し、素人集団化した状態になったことで企業価値および株主価値は棄損の一途をたどっています。投資先のバリューアップ、エグジット(第三者への売却)、さらには投資家への責任を果たすことはできないでしょう。

このままでは、この足元の市場高騰で投資先の発電所は、資金繰り・収支が一瞬潤ったとしても、企業価値向上のための戦略がないと1年くらいであっという間に棄損することになるでしょう。IDIインフラが今やるべきは、投資先発電所のエグジットなのです。

そもそも損害賠償請求に至った理由は、大和証券グループの利益相反や善管注意義務違反、忠実義務違反など多くの問題がありながら、その解決に向けて(大和証券グループとしての)ガバナンスが全く効いていない点にあります。われわれとしては、株主間契約の違反状態の解決に向けて、具体的なアクションを起こしていくべきだと考えています。私も大和証券グループにはさまざまな方法で問題点解決に向けた具体的な提言をしてきましたが、反省や改善が全く見られません。そのため、株主間契約の解除の確認と損害賠償の請求に至りました。

――訴訟後、この問題について何か動きはありましたか。

埼玉 投資家からの話では、IDIインフラが主催した投資家向け説明会でも、同様の声が上がっているようです。実際、「大和証券グループの代表取締役副社長の松井敏浩氏および同常務執行役員の荒木秀輝氏がIDIインフラの実質経営権を握った以上は(荒木氏はIDIインフラの代表取締役)、当然大和証券の連結子会社化となるのか」との質問に対し、荒木社長は「連結はしないし、私の代表取締役就任は一時的なもので、株主総会での新体制承認は諦めていない」と、中途半端な回答があったそうです。

さらに投資家から「仮に新体制に移行するにしても、社長候補として挙げられている黒田氏は不動産投資の経験しかない。エネルギー業界の素人に任せて大丈夫なのか」と不安視する質問もあったそうです。この点について、黒田氏は「エネルギー分野についてはこれから勉強します」とコメントし、多くの投資家があきれたそうです。入社後3カ月程が経ちましたが、最近の投資家向け説明会でも、「勉強」の域を出ていない発言があり、投資家からもあきらめの声が聞こえています。

【記者通信/1月28日】 東ガス電力事業が大幅減益へ JEPX高騰で大打撃


東京ガスは1月28日に発表した2020年度第3四半期連結決算と通期見通しの中で、昨年12月下旬から深刻化した電力需給ひっ迫に伴う市場価格高騰の影響で、20年度通期の電力事業の営業利益が第2四半期時点(前回)の見通しに比べ125億円減少する見込みであることを明らかにした。電力事業の売上高は卸販売電力量の増加などで前回見通し比43億円増となる半面、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格高騰などに伴い営業費用が167億円増えるため、トータルでは大きな損失となる見通しだ。

同社は自社電源で300万kW程度の設備を保有しており、それで賄えない時間帯は市場調達を行っている。「(スポット価格がkW時)40円程度のスパイクなら吸収できるが、今回は緊急事態宣言下での巣ごもり需要と寒気の影響で、市場調達量が大きくなってしまった。さらにkW時200円超という高騰により、残念な結果となった」(佐藤裕史財務部長)

他方で、一部の新電力が提供する市場連動型料金プランのリスクが広く認識されたことから、新規顧客獲得のチャンスにもなり得ると見ている。昨年12月末時点の電力小売り契約数は262万9000件。「巣ごもりの需要もあり、電気へのお客さまの関心が上向いている。この機を捉えていく」(早川光毅専務執行役員)として、22年度380万件の目標達成に向け、改めて意欲を見せた。

また同社は、今後の電力調達におけるリスクヘッジの選択肢として、まずは相対取引を挙げる一方、19年9月にTOCOM(東京商品取引所)で開設された電力先物取引の活用については慎重な考えを示した。先物取引を使えば、季節ごとに生じる電力不足に前もって対応することが可能だが、JEPXほど市場に厚みがなく、取引の種類が少ない点などがネックとなっている。さらに東ガスのように自社電源で賄えない時間帯だけ市場調達するスタイルでは、先物取引の量を決めにくいという事情もあるという。

今回の電力不足問題を取り上げた政府の審議会でも、先物取引の活用に関する議論は深まっていない。だが、新電力全体でのJEPX依存を改善する必要性が明らかになったことから、先物取引の活性化策も今後の論点に加える必要がありそうだ。

【記者通信/1月26日】電力不足問題で今後の政策展開は? エネ庁幹部が見解


経産省資源エネルギー庁の松山泰浩・電力ガス事業部長が1月26日、エネルギーフォーラムのインタビューに応じ、昨年末から深刻化した全国的な電力需給ひっ迫を踏まえ、現在見直しの検討が進められているエネルギーミックス(電源構成)について、「(発電能力だけではなく)燃料を意識しながら『3E+S』を実現するための対策を講じることが重要だ」との認識を示した。

今回の電力不足は、悪天候により再エネが十分に発電できなかったことに加え、CO2の観点から火力の中でも燃料制約のあるLNGの依存度が高まっていたことが背景にある。エネ庁は、菅政権の2050年脱炭素化目標の実現に向け、非効率石炭火力のフェードアウトを進める方針だが、こうした長期的な政策と足元の安定供給をどう両立させるか、難しいかじ取りを迫られそうだ。

一方、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰については、次に同様の事象が起きた際に適切に対処すべく、容量市場とパッケージにした卸電力市場やインバランスのルールづくりなどを進める必要性を強調。その上で、「自由競争の裏腹に不確実性がある。何をどこまで求め許容していくのかを含め、日本の電力産業の姿を考えていく必要がある」「電力自由化の時計の針を巻き戻すのではなく、より良い自由化市場の形成を目指して検討を進めていく」などと述べた。

経営難に陥る事業者が発生している新電力の状況については、「あまり話題に上がらないが、市場高騰の事態に備えて対策を講じていたため、損失を出さずに済んだ新電力もある。そこは経営戦略だ」と指摘。にもかかわらず、損失を出した新電力を優遇的に救済したりすれば不平等が生じるとして、追加支援の実施には慎重な考えを示した。

【記者通信/1月25日】追加融資受けられず!? 新電力幹部に強まる危機感


「これは電力自由化の危機だ」――。

25日に開かれた経済産業省電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合(座長=稲垣隆一弁護士)で、全国的な電力需給のひっ迫に伴う日本卸電力取引所(JEPX)スポット価格の高騰を巡り、オブザーバー参加の新電力幹部らがこのままでは自由化が逆行することになりかねないと危機感を露わにした。

エネットの竹廣尚之経営企画部長は、「(kW時不足という)制度設計上、想定していなかった事象に対してさらなる実効的な措置がなければ、事業の回復プランを描けず融資をつなぐこともできない。国がさらに踏み込んだ措置を示すことが電力産業で事業を継続することへの判断材料として価値を持つ」と強調。その上で、「2月以降も、予備率が8~10%を超えても市場価格が高騰しかねない事態への緊急的な措置として、予備率8%の時のインバランス精算単価の上限をkW時45円に設定するなどの弾力的な措置をお願いしたい」と要望した。

SBパワーの中野明彦社長兼CEOは、「一部では消費者を巻き込み、電力市場、電力自由化そのものの健全性に疑義が生じつつある」との懸念を示し、「建設的な議論を積み上げ、結果としてお客さまの選択肢が増えてここまで自由化が進展してきた。それにもかかわらず、逆戻りのようなことが起きてしまうのは非常に残念なこと。そうならないためにも、短期的に同じような事象が発生した際には柔軟かつ機動的に対処するとともに、早期に市場を健全な状態に戻していただきたい」と訴えた。

資源エネルギー庁はこれまでに、インバランスの精算単価の上限をkW時200円とする措置や平日朝夕それぞれで最高価格を付けたコマの需給曲線を公開するなど市場の沈静化を図ってきた。26日受け渡し分のスポット市場システムプライスが11.9円(24時間平均)まで下がるなど、落ち着きを取り戻しつつある。

とはいえ、新電力各社の資金繰りは厳しく、22日には秋田県鹿角市などが出資する地域新電力「かづのパワー」が来月14日で売電を休止し解散を視野に入れていることが明らかになったが、ほかにも電力事業の売却や譲渡といった話は水面下で進んでいるようだ。あるエネルギー関係者は、「金融機関に追加融資を頼んでも、仕入価格が20倍にもなるようなボラティリティの高い事業に融資できないと断られたという話も聞く。インバランス精算が待ち受ける3~4月に向け、どう事業を清算するか考えている新電力は多い」と明かす。

700社近くが参入し活況した電力市場だが、一定の淘汰は免れそうもない。

【記者通信/1月24日】新電力問題で「分断」の様相 蘇る通産OBの言葉


卸市場依存で経営難に陥った新電力を国が救済すべきかどうか――。昨年来の電力不足を引き金にした日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰問題への対応を巡り、大きな論争が巻き起こっている。その構図を見ると、大きく三つのグループに分かれそうだ。

一つは、「取引市場とはそもそも価格が乱高下するもの。損が発生した事業者は経営戦略のミス、自己責任であり、国が安易に救済すべきではない」とするグループ(救済反対派)。二つ目は、「スポット高騰は電力システム設計の問題に起因するため、国が中心となって制度見直しなどの対策措置を講じるべきだ」とするグループ(制度見直し派)。そして、三つ目が「今回の事態は、制度の欠陥、市場の失敗、想定外の大寒波など複合要因によって発生した“災害”。ここで経営破綻する中小新電力が続出すると、自由化政策や再エネ政策への影響も出かねないため救済措置が必要だ」とするグループ(救済要望派)だ。

もちろん、実際はそこまで単純な構図ではなく、反対派、要望派のいずれにも見直し派が混在していたり、一連の市場高騰を「人災」と指摘する向きがあったり、制度問題でもさまざまな論点が浮上したりしているが、こと「新電力を国が救済すべきか」との争点では賛成、反対両派の主張が真っ向からぶつかっている状況だ。SNS上ではもはや泥仕合の様相と言っていい。

再エネを取り扱う地域新電力の多くは崖っぷちに

優勢なのは、救済反対派だ。「戦略を誤って経営難に陥った新電力は速やかに市場から退出すべし」「こうした事態が起こり得るのが自由化の世界。いざ危うくなったら国の救済に頼るのは筋が違う」「マーケットで大損を出した事業者を国が救済するなど、世界的にも例がない」などと正論を展開しつつ、これまでの電力自由化が大手電力の市場支配力弱体化や新規参入者の優遇といった非対称規制の観点で進められてきたことへの反動もあるのか、支援要望に動く新電力を痛烈に批判している。もともと情報量・知識量・経験値のいずれにも長ける電力のプロが多いだけに、説得力があるのも事実だ。

これに対し、支援を求める新電力側は、「大手電力と中小新電力では、燃料情報一つとっても情報の非対称性があるほか、資金力にも大きな格差があり、圧倒的に不利な立場。有事対応力を同列に語ることはできない」「卸市場が一時的なスパイクではなく、超高値状態が数週間にわたって持続しているのはおかしい。大手電力の発電部門による玉出し抑制のような市場操作が行われているのではないか」などと訴えるものの、市場の論理の前に劣勢は否めない。とはいえ、今回の高騰が起きた要因として市場の欠陥や制度設計上の問題を指摘する向きは多く、制度改善策を通じての追加的救済措置は考えられる話だ。