1月中旬の施政方針演説で、菅義偉首相が「成長につながるカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)に取り組む」と表明したことを受け、経済産業省と環境省でそれぞれ議論がスタートした。経産省に先駆け、環境省はCPに関する小委員会を2月1日、1年半ぶりに再開。初回は、賛成派、反対派がこれまで通りの主張を繰り返しただけで時間切れとなった。「手法ごとの課題や、成長に資するかどうか、間口を広く検討していく」(環境省幹部)と、方向性は決め打ちしないと説明。1日の会合で「CPを今年の最重要課題に位置付けたい」とあいさつした小泉進次郎環境相も、具体的な手法や考え方には言及していない。ただ、一部では炭素税導入を狙い、夏の2022年度税制改正要望を目指しアクションを起こすのではないか、と見る向きがある。
経産省は足元の導入には否定的だが・・・
一方、経産省も研究会を新設し、17日に初会合を開いた。CPには炭素税や排出量取引制度以外にも、①非化石証書やJクレジット、②石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税、③FIT(再エネ固定価格買い取り制度)、④エネルギー供給構造高度化法(高度化法)や省エネ法といった規制――などさまざまな手法があると強調。これらのポリシーミックスで、短期、中長期と時間軸を意識し、企業に負担のない形で脱炭素化に向けた行動変化を促す仕組みを考えていく。「現在は脱炭素技術の選択肢が少なく、大型の税を入れても企業の逃げ場はない」(経産省幹部)と、短期的な炭素税導入は否定する。だが、長期的な考え方はまた違うようだ。
両省の審議会では、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する国境調整措置の扱いも論点となる。EUが具体的制度設計を進め、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的に動きが出ている。国境調整措置を導入した場合、炭素価格が低いと相手国に判断されると不利になる。日本の場合、公式的な炭素価格とされる地球温暖化対策税(温対税)の税率は、CO2t当たり289円と高くはない。何を炭素価格とカウントするかはまさに今後の議論だが、経産省幹部も将来的に炭素税導入を検討する可能性については明確に否定しなかった。
カーボンニュートラル政策の影響に警戒も
昨年、エネルギー特別会計改正法が成立し、化石燃料の安定供給対策や温暖化対策などの財源である「エネルギー需給勘定」から、原子力政策の財源である「電源開発促進勘定」への繰り入れが可能になった。これについては、福島復興事業や廃炉対策の費用がかさむ中、新たな財源としての炭素税導入に向けた布石ではないか、との見方があった。この仕組みを、将来的に活用するようになるのだろうか。
だが、あるエネルギー業界関係者は、財源不足は慢性的な問題であり、炭素税を取ることで日本の税収が減ったら元も子もなくなると、警鐘を鳴らす。「政府はカーボンニュートラル政策に巨額予算をつぎ込むが、失敗したら借金が残る上、その時にはエネルギー多消費産業は疲弊している。しかもこの政策で生まれる商品は、飛ぶように売れるものではない。日本が輸出先として見るべき東南アジアやインドなどがCPを入れない限り買ってもらえない。本当にマーケットが取れるのか、よく議論する必要がある」と強調している。