【記者通信/8月27日】コージェネが系統投資抑制に効果 30年間で3兆円削減と試算


日本国内の電力系統の投資・運用に対し、ガス・コージェネレーションがどの程度寄与するか――。コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)は8月27日、ガスコージェネを活用することで2020~50年の30年間で約3兆円の系統投資削減効果が見込めると発表した。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの大量導入が求められている。ただ、再エネは出力変動の問題や大都市圏から離れた場所に設置することが多く、電力系統増強に伴う巨額の投資が課題だ。一方、コージェネは発電と同時に排熱を利用するシステムのため、多くが大都市圏に設置されている。また、コージェネには再エネ電源の負荷変動を補完する役割もある。同財団では、このことが電力系統への負担低減に寄与するのではないかと考え、定量的な評価を行った。

2050年カーボンニュートラル社会の実現を担うシステムとして期待されるガスコージェネ

シミュレーションはデロイトトーマツコンサルティングに委託。デロイトは、国際エネルギー機関(IEA)が提供するプログラムをもとに、独自のエネルギーシミュレーションモデルを使用。国内で稼働中のコージェネ1300万kW分が20年から50年まで存在する場合と存在しない場合を条件にシミュレーションを実施した。その結果、50年までに送電網増強や蓄電池導入などに伴う投資・系統運用の費用は、コージェネが存在する場合は約33.2兆円、存在しない場合は36.2兆円となり、約3兆円の投資削減効果が見込めることが明らかになった。

菅政権のカーボンニュートラル宣言によって、再エネ電源と原子力発電をベースにした電化シフトの動きが加速しつつある。今回の発表は、そうした中にあっても、ガスコージェネに一定の存在価値がある現実を浮き彫りにした。一方、熱電併給システムのコージェネは、電力供給だけでなく、熱利用にも効果を発揮する。同財団では、熱利用による省エネ性やレジリエンス性など、コージェネが強みとする性能についても、定量的な評価を実施していく構えだ。

【記者通信/8月27日】環境省予算要求の注目点「再エネ交付金」は利権化のリスクも


環境省が2022年度予算の概算要求の中で、脱炭素社会の実現に向けた施策として、小泉進次郎環境相の肝いりといえる「再エネ推進交付金」をはじめ、複数の新規事業を打ち出すことが分かった。

具体的には、①地域脱炭素移行・再エネ推進交付金(要求額200億円)、②CO2削減比例型中小企業向け支援事業(同10億円)、③食と暮らしの「グリーンライフ・ポイント」(同10億円)、④ナッジとデジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業(同22億円)、⑤電動車と再生可能エネルギーの同時導入による脱炭素型カーシェアリング(10億円)――などだ。

最大の目玉である再エネ推進交付金については、2030年度までに民生部門の電力消費でCO2排出の実質ゼロを目指す「脱炭素先行地域」の自治体などに対し、再エネ設備や基盤インフラ設備(蓄電池・自営線・熱導管など)、省CO2設備(ZWB・ZEHや断熱回収など)の導入を継続的に支援する。環境省が注力する「地域循環共生圏」構想につながるもので、地域でエネルギーインフラビジネスを営む事業者などから大きな関心が寄せられている。

省益拡大のチャンスも問われる実効性

一般会計分(1474億円)とエネルギー特別会計分(1606億円)を合わせた予算要求総額は3080億円と、前年度に比べ32%の大幅増額だ。菅政権が取り組む政策の1丁目1番地に「カーボンニュートラル」が位置付けられたことで、かつてない追い風が吹く環境省。「今は、脱炭素の枕詞が付くだけで、要求が通りやすくなる。環境省にとっては省益拡大の絶好のチャンスだろう」(霞が関関係者)

問題は、実効性だ。これまで国の再エネ補助事業の多くがそうだったように、実証レベルで終わってしまったり、一部関係者の間で利権化してしまったりすれば、世論の批判を浴びることにもなりかねない。「特に再エネ推進交付金は、額が大きいだけに、利権の温床になるリスクをはらんでいる」(再エネ事業者)。新規事業の行方に要注目だ。

【目安箱/8月18日】選挙に振り回されるエネルギー政策は問題だらけ


このところ政治の側から発する「原発ゼロ」「エネルギー改革」の声が小さいように感じる。政治家や政治活動家の人達が、別の社会問題に関心を向けているようだ。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故から、民意や政治家の行動に、エネルギー政策は翻弄され続けた。異論はあるかもしれないが、「このまま選挙でエネルギー問題については盛り上がらずに、専門家や事業者が冷静に問題を議論する状況ができればよい」と筆者は期待している。

◆「原発ゼロ」は政治論点にならないのか?

今年は衆議院選挙のある年だ。しかし各政党は、原発やエネルギー問題を、8月時点では選挙のための主要な争点にしていない。

17年に設立された立憲民主党は。同年の選挙で「原発ゼロ」を主張した。翌年に「原発ゼロ基本法案」を共産党などと共同提出した。その内容は「全ての原発を速やかに停止し、廃炉にする」とするものだった。

この法案は成立しなかったが、同党はその後、積極的に再提出・成立を目指していない。背景に、20年9月に同党は旧国民民主党と合流し、新しい立憲民主党として再出発して、連合の全面的支援を受けるようになったことがあるだろう。連合傘下の電気、機械などの有力産業組合は、立憲民主党の「原発ゼロ政策」に批判的だ。

立憲は21年3月末、基本政策に「速やかに廃炉」を盛り込んだが、それを具体化する動きはしていない。

日本共産党やれいわ新選組も、熱心に主張してきた「原発ゼロ」だけではなく、「コロナ対策」や「積極財政」など、別の話を取り上げている。

さらに選挙では、「原発ゼロ」だけを強く訴える候補は、それだけでは当選していない。反原発を訴え続けた旧民主党やその後継政党も、それによって議席を伸ばしたわけでもない。各党とも、反原発、再エネへの熱意の低下は明らかだ。

◆重要な問題の先送りを続ける自民党

一方、自民党は、エネルギーを巡る政策の是非を今年の選挙も訴えなさそうだ。菅義偉首相は20年10月の首相就任演説で、50年までに日本での温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル宣言」をして、エネルギーから社会を変えると目標を掲げた。

8月初旬に、菅首相に近い自民党議員と話をする機会があった。以下の内容の発言をしていた。

▷「カーボンニュートラル宣言は、菅首相が自ら設定した目標で、事前調整を自民党内でしなかった。かなりの熱の入れようだった」

▷「菅首相は本気で日本のエネルギーと社会を変えるきっかけを、この宣言で作りたいと考えている」

▷「カーボンニュートラルの動きが本格化すれば、原子力の再評価につながる。菅首相は原子力を側面から支援する意味も、この宣言に込めている」

▷「菅首相も自民党と原子力と再エネなど、使える方法を全て活用して、エネルギー政策を変える意向だ。それが解決した次の段階で、原子力の今問題になっている再稼働の遅れや原子力発電所の新増設にも取り組みたい」

この発言に筆者は質問した。「そうした自民党や菅首相の意向が、政府の政策に反映されていない。検討中のエネルギー基本計画など、政府の掲げる計画では、実現可能性の疑われる数値目標ばかりが掲げられている」。その議員は「党内にも、政府内にも、いろいろな意見があり選挙もある。しかし菅首相も、エネルギー政策をまじめに考える議員も意見は変わらない」と、言い訳をした。

コロナ騒動に社会の関心が向いてしまったためか、菅首相の「カーボンニュートラル宣言」を巡る世論の好意的な評価は今ひとつ。自民党内はカーボンニュートラル政策の実行と、原子力を活用すべきとの意見が強いようだ。しかし選挙や連立与党の公明党への配慮から、それがまとまった力になっていない。政治的に、菅政権の支持率が低下する中では、票を減らしかねないエネルギー問題に真剣に取り組む可能性は少ないだろう。また問題の先送りをしそうだ。

そうした中で、エネルギー問題に深い見識を持っているとは思えない小泉進次郎環境大臣、なぜか原子力と電力業界に敵意を持っているとしか思えない行動を続ける河野太郎規制改革担当相を、菅首相は重用している。彼らは発信力と国民的人気があるためだろうか。ただし、この2人によって混乱が増幅しているように思える。

福島原発事故の混乱が落ち着いた12年ごろから、選挙ごとに、原発容認の人も、反対の人も、またエネルギー政策に関心を持つ人も、選挙の後に「政策が変わる」と期待した。ところが、多くの問題は先送りされた。エネルギーシステムが多くの問題を抱えたまま、電力自由化が実現し、時間が経過していった。同じことが、また21年の衆議院選挙でも、その後にも繰り返されそうだ。だらだらと、問題解決が先延ばしされそうだ。

◆エネルギー政策は政争の具でいいのか!

そもそも、エネルギー政策や産業システムについて、民意や政治が過度に干渉して、制度作りを主導していいものなのか。

エネルギー政策で追及されるべきは「3E(経済性、環境、経済安全保障)」+S(安全性)」とされる。エネルギーシステムを設計できのるは専門家であり、運用するのは民間企業であり、それを利用するのは消費者だ。電力・ガス事業は、福島事故の後で規制緩和と自由化が進み、事業の実施は事業者が原則自由に行えることになっている。政治や民意の思いつきで、脱原発などの一部の人の意向が自由に行なってはいけないし、そもそも行えない。

日本のエネルギー政策は、専門家と事業者が行政と協力しながら進めた面があった。その取り組みの下で、11年に福島原発事故が起きた。その大失敗の反省から、見直しが図られたことは当然であろう。日本のような高度な産業化社会では、専門家が産業界と結びついて癒着し、経済的利益で社会的に重要な判断がゆがめられる危険は常にある。

ところが、福島事故の反動で、政治や民意が、エネルギー産業を振り回すようになった。民主党政権では審議会で「御用学者」を追い出したら、政治色の強い「活動家もどきの学者」が入ってきた。さらに感情的に行動する一部の政治家が介入し、政争の道具にしたために混乱を広げた。自民党の連立政権でも、それを大きく是正しなかった。

政治と民意の介入で、「原発は悪」「再エネは善」「大手電力会社は悪」などの主張がエネルギー政策で語られた。客観的であるべきエネルギーの議論に、政治主張や偏重した価値判断が入り込み、それに政策が引きずられてしまったように思う。

要はバランスの問題だ。専門家や現場の経済活動を適切に支援しながら、民意を汲み取って政策が形になれば良い。しかし今はバランスが壊れている。

筆者は21年夏のエネルギーを巡るこの状態、つまり政治のエネルギー・原子力問題への関心の薄れ、その背景にある世論の関心の薄れに期待している。この調子で、政治家はエネルギーにしばらく関わらないでほしいし、政治活動家もエネルギーのことは忘れてほしい。

「民主主義を蔑(ないがし)ろにする」というお叱りを、読者から受けそうな考えかもしれない。ただし、私が願うのは一時的にそうであってほしいというものだ。長期的には誰もが合意できるエネルギーシステムを作るために、政治と世論の関与は必要であろう。しかし一時的に弱まっている専門家や事業者の発言力を強め、冷静にエネルギーの問題を洗い出して、是正するための時間が必要であると思う。

選挙のたびに、エネルギー問題が政争の道具、メディアのおもちゃになるのは、エネルギーに関係し未来を憂う者として、もううんざりである。

【記者通信/8月10日】大荒れの基本政策分科会 エネ基案反対、再エネTFへの苦言も


第六次エネルギー基本計画案が、8月4日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で概ね了承されたものの、一部委員の強い反対や、内閣府の「再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース」への痛烈な批判などが噴出。今次エネ基議論の混迷ぶりを象徴するような、大荒れでの幕引きとなった。

同日の会合で資源エネルギー庁の事務局は、素案が初めて示された7月21日の会合での意見や、関係者のヒアリングを踏まえた内容を改めて提示したが、変更はほとんどなかった。

これに対し、橘川武郎・国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授は「原案には反対する。座長一任にも反対で、もう一度最終原案を確認する場が必要だ」と強調した。橘川氏は、各国が温暖化防止国際会議・COP26をターゲットに提出するのはNDC(温暖化ガスの国別削減目標)のみであり、2030年のエネルギーミックスは不要と主張。LNG比率を引き下げるというメッセージがもたらす調達面への影響や、エネルギー多消費産業の縮小を招くなどの懸念を示し、さらにリプレース・新増設が書き込まれなかった素案に原子力推進派が反対しないことにも疑問を呈した。

ただ、ほかの委員からは明確な反対意見は出ず、最終的には多数決で座長に一任された。

「2030年度46%削減ありきで押し切られた、今回の第六次エネ基を巡る机上の空論ぶりには、開いた口が塞がらない。橘川教授以外の委員は、本当に今回の原案で良いと思っているのか。原子力、再エネ、石炭、LNGなど、2030年電源ミックスはどれ一つとっても、現実との乖離が甚だしい。今回のエネ基が、わが国のエネルギー政策目標となることに、大きな危機感を覚える」(大手エネルギー会社関係者)

「再エネTFこそ行政改革の対象」

さらに、エネルギー政策への独自の提言を続ける再エネTFに対する苦言も飛び出した。前回の基本政策分科会で再エネTFへのヒアリングを実施しており、その際に出た意見への見解をTF構成員4人が連名で提出。この内容に対し、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダーが「事実誤認甚だしい」と一刀両断した。

例えば、①カーボンプライシングの必要性に関する主張の背景として、「非化石価値にプラスの価格をつけて取引する一方で、化石燃料についてはなんらペナルティ(炭素排出などに対するマイナスの価値)が課せられていないため、積極的に普及すべき再生可能エネルギーの利用が逆に割高になってしまう」、②再エネの統合コストの一つである火力のバックアップ費用について、「もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用」――などの認識は間違いだと指摘。「最低限の知識さえ持たない委員で構成される組織の存在自体どうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」と語気を強めた。

また、一部で「最安は原発から太陽光に」などと報じられ物議をかもした2030年の発電コストに関する追加試算も提示された。当初はkW時当たり「原子力11円台後半~」、「事業用太陽光8円台前半~11円台後半」といった示し方だったが、「原子力11.7円~」、「太陽光8.2円~11.8円」などと詳報。さらに、再エネ導入に伴う系統安定化費用など、電力システム全体として追加的にかかるコスト(統合コスト)の一部を考慮した試算結果として、事業用太陽光18.9円(発電コストは11.2円)、原子力14.4円(同11.7円)などの参考値も示した。

ただ、新たな試算の内容は専門的かつ複雑なことから、一部でなお「太陽光が最安」との報道ぶりが消えていない。委員からも指摘が出たが、再エネ大量導入の影響の全体像について、分かりやすい情報発信の仕方が引き続きの課題となっている。

【記者通信/8月8日】石炭先物が160ドル突破 歴史的高値はいつまで続く?


一般炭の国際価格の上昇に歯止めがかからない。米ニューヨーク市場の先物価格は8月8日現在、トン当たり160ドルを突破し、最高値を更新し続けている。前年同月が50ドル前後だったことから、3倍以上の上昇だ。月次でみると、アジア指標の豪州産は7月平均でトン151.97ドル(前年同月50.14ドル)となり、南アフリカ産の122.33ドルで(同57.38ドル)と比べると、上昇幅が際立っている。

背景にあるのが、中国のおう盛な需要だ。一部報道によると、「中国南部では21年初めに干ばつが起こり、水力発電用のダムが使えなくなったため石炭の需要が急増、加速がついたような市場の動きにつながった」という。そんな中、新型コロナ禍がひとまず収束する中での経済回復が、電力需要の増加を後押ししている。一方で、調達面を見ると、豪州との取引制限の影響でインドネシア産にシフトしているものの、インドネシアでは年初の悪天候がたたり石炭輸出量が減少、価格上昇に拍車を掛けた。

「脱炭素化の掛け声をしり目に、欧米やアジアの電力会社は石炭火力を最大限活用する方向で動いている。このため、世界全体での一般炭需要は堅調に推移している。原油、天然ガス価格の上昇も、この動きに弾みを付けているようだ。日本においては、ベースロード市場の取引価格に影響を及ぼしていることからも明らかなように、電気料金の上昇を加速。化石燃料価格全般の高騰、再エネ賦課金の上昇など、電力値下げを期待できる要素は今のところ見当たらない。やはり、日本経済全体や企業の国際競争力のことを考えれば、原子力の再稼働を着実に進めていくことが不可欠だ」(大手エネルギー会社関係者)

9月以降、下落に転じる公算

果たして、石炭価格は今後どうなるのか。国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、世界の電力需要は22年にかけて4%程度増加。再エネは引き続き急成長を続けるものの、需要増加分の半分程度しか対応できないことから、石炭火力の発電量が増加し過去最高になる可能性があるという。

ただ一方で、9月以降、中国の石炭爆買いがひと段落すると見る向きも。「中国の火力発電の稼働率は通常、8月のピークを境に減少していくため、9月に入れば一般炭の需要も落ち着くはず」。市場関係者はこう指摘する。

加えて、インドネシア産の輸出量が順調に回復に向かっている。同国エネルギー鉱物資源省によれば、今年上半期の石炭生産量が2億8500万トンとなり、年間生産目標である6億2500万トンの半分近くにまで達しているという。

インドネシアの石炭火力発電所

需給面で大きな問題さえなければ、今秋から豪州産の価格は下落に転じる公算が大きいといえよう。それにしても、昨今の石炭価格問題は、アジアのエネルギー市場における中国の存在感の大きさを、改めて見せつけた格好だ。政府主導で、日本のエネルギー安全保障政策を真剣に議論する場をつくることが求められる。

【目安箱/8月6日】ごまかしのエネ基に見る政府・経産省の危うさ


「私はしばしば数字に惑わされる。自分自身に当てはめる場合はなおさらだ。ディズレイリの言葉「嘘には三種類ある。嘘、まっかな嘘、そして統計」が正当性と説得力をもって通用してしまうんだ」

これは19世紀の米作家マーク・トウェインの言葉という。「統計」と「数字」を悪用すれば人を騙せることを示す際に、今でもよく引用される。

この言葉を、21世紀の日本のエネルギー政策を見ながらで思い出してしまった。政府が、おかしな気候変動・エネルギー政策を、数字や統計を羅列することで、実現可能であるかのようにごまかし、世論を誘導しようとしている点についてだ。

◆政府発表の奇妙な数字の山

エネルギーを巡っては、最近、政府から数値目標や試算が続けて示されている。検証すると、どれも実現可能かどうか、怪しいものばかりだ。

▼菅義偉首相が昨年10月の首相就任演説で、「2050年に二酸化炭素の排出を実質ゼロにする」という「カーボンニュートラル宣言」を行った。

▼経済産業省は昨年12月、産業14分野で目標を定め、「10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を目指す」とする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。

▼今年4月に開催された気候変動サミットで、菅義偉首相は30年までに13年度比で温室効果ガスを46%削減すると表明した。

▼第6次エネルギー基本計画の素案を経産省が7月に公表した。30年度の電源構成として再生可能エネルギーの割合を「36%から38%」とし、3年前に策定された第5次計画の「22%から24%」より10ポイント以上引き上げた。原子力では、現行計画の「20%から22%」と、同じ水準にした。

▼温暖化対策法に基づく地球温暖化対策計画の5年ぶりの改正を政府が検討中。今年7月に公表された改正原案では、30年度の温室効果ガスの排出量を家庭部門で66%、業務部門で50%、産業部門で37%、13年度比でそれぞれ減らす目標を出した。

▼経産省は今年8月2日、各電源の30年時点の電源別発電コストの試算を発表した。それによると、原子力キロワットアワー(kW時)の発電コストを、原子力は11.7円、事業用太陽光を8.2~11.8円とし、原子力と太陽光の発電コストが並ぶとの予想を示した。

こうして数字を並べると、脱炭素化が進み、その手段は再生可能エネルギーのように見える。それによる経済成長も可能に思える。

◆数字を検証すると実現不可能 再エネコストは安いのか?

ところが、これらの数字の試算を、原典の資料にあたってチェックすると、算出根拠はどれも曖昧で、正確さが怪しい。例として、発電コストの試算を示してみよう。(経産省資料「発電コスト検証に関する取りまとめ(案)」

エネルギーの知識を持つ人は、前述の試算結果をおかしいと思うはずだ。再エネ発電は、必然的にバックアップ電源を必要とする。それもコストとして考える必要がある。

経産省が出したのは、その電源への投資と売電だけを考えた場合のコストだ。経産省は「どの電源を追加しても、電力システム全体にコストが生じることを考慮する必要がある」とわざわざ注釈し、それを考えると再エネのコストが膨らむことを、試算の説明で小さく書いている。(上記資料4ページ)。それによると㎾時あたり、原子力は14.4円、事業用太陽光で18.9円と原子力の方が安い。また20年の段階では原子力(11.5円~)の方が、事業用太陽光(12.9円)より安いとも書いてある。(上記資料5ページ)

こうした一連の流れを見ると、経産官僚たちは、数字と統計を駆使して事実を捻じ曲げ、世論操作を試みていると、批判されても仕方がない。

◆エネ基に影響を与えた小泉、河野両大臣

他の数字でも、政治主導で上乗せが繰り返され、経産省は数字を操作して取り繕う。そもそも全ての動きの始まりになった菅首相主導の「カーボンニュートラル宣言」が、実現不可能な目標だ。数字の上乗せには、エネルギー問題を深く考えている気配のない小泉進次郎環境相、原子力と既存電力を敵視して再エネを応援する河野太郎規制改革担当相の二人が影響を与えているとされ、菅首相もなぜか派手な二人がお気に入りのようだ。

梶山弘志経産大臣は、実務能力に優れた現実的な政治家と評価されるが、表向きは原子力には冷たい。そして経産省内部も、政治家やその背景にある民意に振り回される反面、その政治におもねり、権限や影響力を増やすという自らの省益を拡大するような動きをしている面がある。数字を使って政治家の誤りを説得することが、プロフェッショナルとしての官僚の責務であろう。ところが、逆に専門知識を悪用し、数字を使って誤った政策を取り繕い、国民を騙しているように見えなくもない。

こうした取り繕いのいきつく先は何か。世論に影響され、負の側面の顕在化しつつあるエネルギー政策の現状を見ればよい。

11年3月の東京電力福島原発事故の後で、エネルギー政策は大きく変化し、その産業の姿は変わった。世論と、政治の批判が変化を主導した。

その変化の評価は立場によってさまざまだろう。自由化と補助金により、電力を中心に新しい企業が生まれた等のプラスの変化があった。一方で、エネルギー政策の根本であるべき、3E(経済性、環境、安全保障)が危うくなり、原子力発電と関連産業は停滞してロシア、中国に抜かれてしまった。エネルギー制度改革の背景には、「原発ゼロ」(小池百合子都知事の17年に掲げた選挙公約)のように、数字を使った怪しげなスローガンが使われた。

◆ごまかしの行き着く先は「亡国」

経産省は、こうした世論や政治の暴走に逆らわず、逆におもねった。これに加えて、今年になって、菅政権のエネルギー・環境政策での新たな政治からの提案を無批判に受け止め、政策化して、エネルギー業界と国民を巻き込もうとしている。このコラムをサイトに掲載していただく『エネルギーフォーラム』21年8月号の特集タイトルは「亡国のエネルギー基本計画~政治事情に揺れる戦略なき審議」。真面目な同誌には珍しい過激な強い言葉を使ったタイトルだが、エネルギー業界では「その通り」と賛意が広がっていた。

「安倍政権で経産省はいろいろ策謀を巡らせた。緊縮財政嫌いの安倍前首相に、財務省を叩くことで取り入った。そして世論に嫌われないように原子力発電の批判、電力会社叩きを放置し、業界に負担を負わせた。その結果、電力システムはおかしくなりつつある。今度は菅首相に、カーボンゼロを切り口に、数字の嘘を使って取り入ろうとしている。省益の維持としか思えないし、今の政策を進めれば、まさに『亡国』だ。付き合いきれないよ」

ある電力会社の中堅社員は、最近の政府・経産省から打ち出され続ける数字の山を追いかけながら、こう吐き捨てた。数字いじりの嘘は、その場を取り繕うことはできても、後になって現実の出来事に、清算を突き付けられる。エネルギー政策をめぐる経産省の行動は、その未来を予想できる人の間で、不信感を高めているだけに思うのだ。

なぜ賢いとされる政治家や経産省等の政府の人たち、政府を批判する野党支持者に多い再エネ派の人は、ごまかしの数字を信じ、それに踊っているのだろうか。皮肉屋で知られるマーク・トゥエインが生きていたら、数字の嘘を作って結局は自らの首を絞めている日本政府・経産省の役人とその再エネ政策を冷笑する、寸鉄人を刺すようなキツイ警句を放っていそうだ。

しかし、冷笑しても、問題は解決しない。エネルギー政策の失敗の影響を被るのは結局、われわれ国民なのである。

【記者通信/8月2日】46%減を目指す温対計画案 エネ基同様に画餅化の懸念


第六次エネルギー基本計画に続き、新たな地球温暖化対策計画も絵にかいた餅となりそうだ。

環境省と経済産業省は、温対計画の見直しを進めていた合同の有識者会合で、7月26日に計画案を提示した。温暖化ガスの2030年13年度比46%削減目標と整合するよう、先駆けて公表された第六次エネルギー基本計画の素案を踏まえ、部門ごとの削減目標を設定。同26%減をターゲットとした見直し前の現行計画より、当然ながら各部門で一層の削減を進めることになるが、いずれも実現可能性が極めて低い数字が並ぶ。

30年度のエネルギー起源CO2排出量の目安は、13年度比45%減の6億8000万t(CO2換算)に設定。その内訳は、産業部門が2億9000万t(13年度比37%減)、業務部門が1億2000万t(同50%減)、家庭部門が7000万t(同66%減)、運輸部門が1億4000万t(同38%減)、エネルギー転換部門が6000万t(同43%減)。非エネルギー起源CO2や、他の温暖化ガスの目安も示した。

森林吸収源では3800万t、農地土壌炭素吸収源や都市緑化などでは970万tの吸収量を見込み、加えて二国間クレジット制度(JCM)で1億t分のクレジットの活用も必要だという。

今回は現行計画のような積み上げではないため、業種や取り組みごとの詳細な削減目安は示さず、分野ごとの対策も推進すべき取り組みの羅列に留まっている。

欠かせないコストの視点 負担増の見える化を

実現可能性に大いに疑問が残るエネ基や温対計画について、有識者からは、「30年の実行計画を国際会議で公約化してしまったら、日本がどんな状態に追い込まれるかを考える必要がある。下手をすると日本の経済が破壊されるという危うい状況にもかかわらず、それがきちんと議論できていないことは大問題だ」(アナリスト)といった指摘が出ている。

46%削減のためにどれほどのコストを負担するのかという視点は、エネ基だけでなく温対計画においても欠かせない要素だ。

こうした点については27日の審議会でも、委員の杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、同計画にかかわる全ての政策について、毎年CO2削減の費用対効果を示し、それによって政策を見直す「政策のカーボンプライシング制度」を提唱。座長を務めた山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長も、「この温対計画を実行するといろいろなコストがかかることを具体的に表記してほしいし、できないなら課題として受け止めてほしい。政策のカーボンプライシングの制度化は計画に盛り込むものではないかもしれないが、何らかの形での展開を希望する」と強調した。

数年前にはフランスで燃料税の引き上げに反対する「イエローベスト運動」が勃発し、今年6月にはスイスで気候変動対策としての新税を盛り込んだ改正CO2法が国民投票で否決されている。気候変動対策に積極的な欧州でも、具体的な負担増が示されれば一般国民はすんなりとは受け入れないということだ。しかし46%減を目指すには国民各層の対応が欠かせない。どのように国民を巻き込むかは気候変動問題の課題だが、少なくとも負担を見える化することから議論をスタートするべきではないか。

さらにコスト以外にも、災害リスクなど再エネ事業の適正化や、太陽光パネル生産に関する人権問題など、目を向けるべき課題は多々ある。極めて高難度なシナリオであるからこそ、実行に移した際の影響を細かくチェックするとともに、見直すべき部分は柔軟に見直す姿勢が、一層重要になる。

【記者通信/7月29日】再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか


内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF、構成員=大林ミカ・自然エネルギー財団事業局長、高橋洋・都留文科大学地域社会学科教授、原英史・政策工房社長、川本明・慶応大学経済学部特任教授)が7月27日の会合で、経産省がまとめた「第六次エネルギー基本計画(素案)」に対する提言を公表した。

内容を見ると、「再エネ最優先の原則」に基づく施策の反映が不十分として、主に次のような注文を突き付けている。

本気度を疑われる偏った記述は修正すべき」

①「化石燃料に恵まれず、原発の過酷事故を経験した日本にとって、再エネの価値は特別で」あり、「その導入と活用を他のエネルギーに先んじて重点的に進める」ことが、その趣旨である。この点を本文中に明記すべきである。

②そもそも再エネの電源構成の目標値については、先進諸国と比べれば、「36~38%」は高くない。この再エネの目標値は、将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるための、高過ぎる目標値(原子力20~22%、石炭火力19%)とのバランスの中で、低く抑えられた可能性がある。素案でも触れられている通り、再エネの目標値は下限であり、さらに高みを目指すべきであるから、「〇%以上」と下限であることを更に明確に記述すべきである。

③また素案では、日本の再エネの利用環境自体が「エネルギー供給の脆弱性」であるかのような、後ろ向きの記述が目立つ。日本の最大の脆弱性は、海外の化石燃料への過度の依存であり、脱炭素と並んでエネルギー自給率の向上も再エネ主力電源化の目的である。再エネにも課題があり、各国で利用環境は異なるが、総合的に見れば日本が欧米諸国より劣るとは言えず、だから主力電源化するのではないか。「再エネ最優先」と記述する一方で、その本気度を疑われかねないような偏った記述は、修正すべきである

④再エネ最優先の原則に基づけば、再エネに不利な既存の制度やルールは改革されるべきである。例えば、ノンファーム型接続の完全メリットオーダー化やローカル系統・配電系統への対象拡大について、実施時期を前倒しするなど、より積極的な記述に改めるべきである。また、北海道のサイト側蓄電池設置要件の廃止、再エネの優先給電(メリットオーダー)の実施、再エネの出力抑制に対する補償など、当タスクフォースの過去の提言に沿って、再エネ最優先を具現化した改革を盛り込むべきである。

再エネ正義のために現実を無視していいのか」

この提言に対し、大手電力会社の幹部はこう指摘する。「再エネTFは、名称の通り、再エネの拡大がミッションなので、その視点からエネ基案を評価するのは理解できる。が、それにしても、ただでさえ実現性が厳しい再エネ目標値が意図的に低く抑えられた可能性があるとか、本気度を疑われかねないから『供給の脆弱性』など後ろ向きの表現を修正しろといった書きぶりはあまりに酷すぎる。再エネ推進という正義のためには現実を無視せよ、事実を捻じ曲げろという意味にしか受け取れない」

「日本の電力供給の一翼を担っている立場からすれば、日本には当然、日本特有の事情がある。それを無視して先進諸国に比べて劣るといった表層的な理由で、再エネTFの提言をそっくりそのまま実現させようとすれば、どう控え目に言っても、電力供給体制は脆弱化し、停電リスクは確実に高まり、電気料金は大幅に上昇していく。さらに、太陽光や風力の大規模開発のために、日本の貴重な自然や海底資源はどんどん犠牲になり、環境破壊が加速。全国の山間部の住民はちょっとした大雨程度でも土砂崩れなどの災害リスクにさらされる。再エネ原理主義、極まれりだよ。国民は本当にそれを望んでいるのかな」

再エネTFの議論で決定的に欠落しているのは、再エネ拡大がもたらす負の側面に対する見解・評価だ。「再エネ規制総点検」を標ぼうするのであれば、ぜひともその点に関して踏み込んだ意見を提示すべきだ。エネルギーフォーラムでは引き続き、再エネの長所と短所を徹底的に検証しながら、「S+3E」の大原則に基づき、日本の国益にかなうエネルギー供給の在り方を模索していく。第六次計画案をまとめた経産省には、再エネTFの提言に対し、真っ向から反論することを期待したい。

【記者通信/7月29日】FIT認定ID売買を斡旋 メガソーラー「転売サイト」の正体


日本全土で乱開発を伴って設置されている山間部のメガソーラー。森林保全や生物多様性への影響に加え、設置で保水力が失われ土砂災害を誘発する危険性が叫ばれている。にもかかわらず、地域との共生をないがしろにする悪質な事業者が次々と参入し、開発や運営に躍起になる理由の一つは、何と言ってもカネになるからだ。特に、FIT法がスタートした初期に認定を受けた事業者は、売電価格36円~40円が20年間、確約されている。さらに一般的には、太陽光発電投資の利回りは10%前後と言われている。これほどおいしい儲け話はなかなか見つからない。もちろん、その原資は、電力ユーザーが支払っている再エネ賦課金である。

さて、今各地で問題になっているメガソーラー設置だが、地元住民の悩みの一つに「事業者がコロコロ変わっていて、責任の所在が分からない」というものがある。固定価格買い取り制度(FIT)では「事業譲渡」、つまりFIT認定を受けた事業者から別の事業者への「転売」を認めている。転売先の事業者にも当然FIT認定IDは引き継がれる。

実は、そのFIT認定IDの売買を斡旋する「転売サイト」(最終更新は2019年12月)が存在することが、編集部が入手した資料で分かった。中を覗いてみよう。

問題はID転売を目的にした事業者

ここには、太陽光発電所の発電能力と場所、売電単価、売却希望価格が記載されている。売電単価は軒並み32~40円。このことから、同サイトは主に12~14年にFIT認定を受けた設備を取り扱っていることが分かる。

例えば、高知県四万十町にある発電出力2400㎾、売電単価36円の太陽光パネルは12億5800万円での売却が希望されており、年間売電収入は約8600万円である。もちろん、保守費用などのランニングコストも考慮しなければならないが、ざっと15年程度でペイする計算になる。ある新電力関係者によると、売電単価40円であれば、「3~5年で投資回収は楽勝だった」と振り返る。同サイトがターゲットにしているのは、既にFIT認定を受けた設備であるため、土地取得などにかかる費用については購入者の負担はないと考えてよい。

そもそも、こうしたサイトを運営する仲介業者は、売りたい人と買いたい人の存在がなければ商売ができない。売る事業者のモチベーションは何か。税制優遇などさまざまな理由が考えられるが、問題視されているのは、最初からFIT認定IDの転売を目的にしている事業者の存在だ。

彼らは、メガソーラー設置に関わる法律や申請プロセス、住民対策などの専門知識を有している。土地の取得や設置工事を行い、FIT認定IDを高値で転売する。そうすれば、面倒な保守業務に携わらずに済むし、「事前に買い手の事業者と契約を結んでいれば、工事費などの上乗せを狙える可能性もある」(事情通)。事実、大手エネルギー会社系の建設業者が、ソーラー設置までを開発会社に任せ、その後FIT認定IDを買い、売電収入は丸ごと稼ぐ、といったスキームを組んでいたことが明らかになっている。

実際に、メガソーラー設置反対派の住民グループが、現在の事業者の元にFIT認定が渡るまでの経緯を調べた結果、最初に不動産会社やペーパーカンパニー、外資系企業が設置予定地を取得し、FIT認定を受けた後、IDを転売していた事実を突き止めている。

ちなみに、この転売サイトの運営者はFXやM&Aのコンサルティングを生業にしている。太陽光発電について、純然たる発電事業というよりは、投機として捉えているプレイヤー(転売ヤーなど)も参加していることがうかがえる。

現行法制では悪質転売を防止できず

旧FIT法は17年に改正され、これまで発電設備しかチェックされていなかったものが、発電「計画」まで範囲が広がり、事業者に対する監視体制は以前よりは強まった。しかし、この「転売」問題に対しては特に変更がない。FIT認定IDを転売したい場合は、土地取得の契約書と印鑑証明書を申請すればよいとのことだった。

メガソーラーの運営は立派な発電事業なのだから、いとも簡単に悪質な事業者が参入したり、事業主体が頻繁に変わってしまうのは大きな問題のように思えるが、現状で転売に一定の歯止めを掛けるような法制度はない。FIT法の目的自体が太陽光発電をはじめとした再エネの普及に主眼を置いたものであるため、仕方ないことなのかもしれない。しかし、全国各地で太陽光パネル設置におけるトラブルや被害が報告されているにもかかわらず、行政が主導して思い切った対策を講じることができない現状はいかがなものか。

FIT法がいかに悪用されやすいものなのか。太陽光ビジネスに隠された欺瞞性を、転売サイトを利用する「転売ヤー」の存在が象徴しているといえよう。

【記者通信/7月22日】河合人脈の「再エネ四谷グループ」にあの太陽光事業者が⁉


静岡県熱海市の土石流災害で、発生源として指摘されている伊豆山の崩落現場。この土地の所有者である麦島善光氏の代理人としてメディア対応に当たっているのが、反原発派・再エネ推進派弁護士の代表格として全国に名をとどろかせている河合弘之氏だ。

「麦島氏の代理人になぜ、あの河合弁護士が?」。おそらくエネルギー関係者の多くがこう感じたことだろうが、関係者によれば、両者は10数年来に及ぶ古い付き合いだという。河合氏を巡っては、土石流派生の直後から崩落現場南西側で麦島氏所有の土地にある太陽光発電所との因果関係が取りざたされ始めた際、詳しい調査が始まる前の段階にもかかわらず、関連性をいち早く否定したことで、ネット上で物議をかもした。

ISEP、原自連、さらにZEN社も

ところで、ここに興味深い事実がある。河合氏が関係する企業や団体の事務所が、軒並み東京・四谷界隈に集中しているのだ。まず、河合氏が名を連ねるさくら共同法律事務所の本部がJR四ツ谷駅北側に隣接するビルに入居。また、河合氏が顧問を務める環境エネルギー政策研究所(ISEP、飯田哲也代表)の事務所や、河合氏が幹事長を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連、吉原毅会長・中川秀直副会長・小泉純一郎顧問・細川護熙顧問)の事務所も、そこから徒歩数分ほどの場所にある。

河合弁護士の関係する団体・企業が集中するJR四ツ谷駅界隈

そしてなんと、麦島氏が役員に名を連ね、伊豆山盛り土崩落との因果関係が取りざたされる太陽光発電の運営事業者、ZENホールディングス(東京都千代田区五番町)も、四ツ谷駅から徒歩10分圏内の場所にあるのだ。これは偶然なのか、それとも「河合氏と麦島氏の古い付き合い」が何らかの形で関係しているのか。

「河合氏を中心とする再エネ四谷グループ」。エネルギー業界の関係者はこう表現する。

なお河合氏とは関係ないが、参考までに記しておくと、東京メトロ丸の内線四ツ谷駅の屋上には太陽光パネルが張られ、上智大学四谷キャンパスは使用電力の再生可能エネルギー100%化を目指す「RE100」に取り組んでいる。まさに、四谷界隈は都心部の再エネ先進エリアと言っていい。

熱海災害を契機に、図らずも浮かび上がった四谷グループ。記者通信では今後の取材を通じて、その実態を浮き彫りにしていきたい。

【記者通信/7月20日】太陽光乱開発で連絡会 悪徳業者から地域を守れるか!


メガソーラーや大規模風力発電設置工事に伴う環境破壊に反対する全国ネットワーク「全国再エネ問題連絡会」が、7月18日発足した。全国で反対運動を行う25都道府県の約30団体、約2万8000人が参加する団体で、メガソーラー設置に反対する住民の全国組織が立ち上がったのは今回が初めてだ。かねてから山間部を切り開くメガソーラー設置には、地域住民からの批判も多かった。土砂災害発生の恐れや景観破壊、生物多様性への影響はもとより、反対運動を先導する住民たちに話を聞くと、より差し迫った「事情」が見えてくる。

2時間ほど喧々諤々(けんけんがくがく)の議論があった同連絡会の会議。開始から40分ほど経ち、反対運動を通じて直面した困難に話が及んだ。それによると、約2年前に運動を始めたある反対運動の主導者のもとに、昨年、メガソーラー事業者の弁護士から電話があった。「クライアント(当該事業者)から、あなたに対して弁護士を通して精神的プレッシャーをかけ、刑事告訴を考えていると伝えるよう言われている」という内容だ。紛れもない「脅迫」である。また、自宅付近で不審者の影もちらつくようになった。幸い、警察には既に連絡済みであり、告訴も今のところないそうだが、きな臭い話である。他地域でも、事業者が反対運動のリーダーに対してスラップ訴訟を起こしたこともある。裁判所は、事業者である原告の請求を棄却し、被告の慰謝料を求める反訴請求を一部認めた。

縦割り行政の弊害 放置される開発リスク

メガソーラー事業者に対する住民の不安は大きい。住民説明会の開催が限定的、土地所有者が転売を繰り返していて責任の所在が分からない、自治体が非常に及び腰――。共通する悩みも多かった。例えば、住民説明会の開催方式は、自治体の条例の縛りがない限り、法的拘束力を伴わない。形だけの住民説明会を行い、気づけば林地開発許可が下りていたとしても、事業者からしてみれば「既に説明しましたよ」とシラを切ることは可能なのだ。

FIT法を所管する経産省が、メガソーラー設置に際して「関連法令を遵守する」よう事業者に呼びかけている以上、自治体はメガソーラーに関する条例を制定するほかない。悪徳業者から地域住民を守りたいならなおさらである。

メガソーラーの設置に対して、事業者に求められる行政手続きは主に三つ。①FIT認定を受けること、②林地開発許可を受けること、③環境アセスを実施すること――だ。

②の林地開発許可は、都道府県知事が、森林法の4要件―災害の防止、水害の防止、水の確保、環境への影響に基づいて判断を出す。問題は、林地開発許可は他省庁が管轄する法律に関して評価せず、本当に災害のリスクを考慮しているのか、極めて不透明な点だ。

美しい景色が広がる、静岡県函南町。65ヘクタールのメガソーラーが設置されようとしている(ドローン空撮)

例えば、静岡県函南町に設置予定のメガソーラーの場合、設置予定地付近の丹那沢は「砂防指定地」に指定されている。これは土石流による甚大な土砂災害が懸念される土地を指し、法的には国交省が所管する砂防法に基づく。設置予定地の林地開発許可は既に森林法に基づき下りているが、土砂災害が懸念される「砂防指定地」の問題にはノータッチである。

縦割り行政の弊害で、メガソーラー設置に伴う真のリスクは顧みられないのだ。予定地の調査を行った静岡県経済産業部森林保全課に聞くと「砂防指定地は砂防法に基づくため、お答えできない」と紋切り型の回答があった。

事なかれ主義の自治体 住民に渦巻く不信感

住民は、メガソーラー建設に関する法律に疎い場合も多い。対して事業者は住民対策や土地の折衝も非常に巧妙かつ経験豊富だ。窓口には、地域のメガソーラー賛成派の議員や住民を配置する。事業者は法的拘束力のない独自の環境アセスを約束し、住民に束の間の安心を与える。地元議員は地域の有力者たちに「税収が上がる」とアピールをする。暮らしを守りたい住民たちにとっては、何も知らなければ、声を上げる暇もなく事業が進んでしまう。

本来であれば、自治体が積極的に情報公開を行うべきだが、中には事業者と町との合意書を、住民からの情報公開請求があって初めて住民に見せたという例もあるから驚きだ。行政側の立て付けは「個人情報保護条例に基づき、情報公開はできない」だが、市町の条例には「住民の生命、身体、財産の安全を守るためには情報公開を行うことができる」という規定があるはずだ。特に近年、太陽光パネル設置に起因する土砂災害が各地で発生しており、行政は住民の不安に応える責任があるだろう。

裏山がメガソーラー設置予定地になっている丹那小学校。土砂災害を誘発する恐れもあり、住民の不安は大きい

ある地域の反対運動のリーダーは「行政と事業者がグルになっているとしか思えない」と本音を語る。実際に、長崎県佐世保市の離島、宇久島で建設予定のメガソーラーを巡り、地元市議が許認可権限を持つ市長に対して現金100万円を渡そうとし、贈賄罪(申し込み)容疑で逮捕された例もある。

住民は、これまで幾度となく自治体とやり取りを続けてきた。自治体からよく聞かされるのは「FIT認定されているから」、「林地開発許可が下りたから」というセリフだ。当事者意識が感じられない行政に対して、住民は不信感を抱いている。

FITによる高収益を背景に、日本列島に増え続けてきた太陽光パネル。自治体、中央省庁ともに、悪質な業者を排除する政策的対応が求められる。

【記者通信/7月19日】エネミックスの内訳が判明 問われる実現可能性


7月21日に開かれる総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会(経済産業相の諮問機関)の会合で、経産省の事務局案が示される予定の次期エネルギー基本計画。そのベースとなる2030年エネルギーミックス(電源構成)見通しの内容が、関係筋の話で明らかになった。

それによると、大方の予想通り、原子力は現行のミックス比率を踏襲し20~22%(中央値21%)。再生可能エネルギーは現行の22~24%から大幅に引き上げられ、36~38%(中央値37%)となる。火力発電の脱炭素化などに貢献する水素・アンモニアは非化石エネルギー扱いで1%。残る41%が火力発電となり、天然ガス20%、石炭19%、石油2%の内訳だ。

太陽光発電の2030年目標比率は約15%となる見通し。

「2030年までに温暖化ガスを13年比46%削減する」という、菅政権が掲げる温暖化対策目標の達成を最優先に打ち出されたエネルギーミックス。供給安定性、経済合理性との両立は本当に可能なのか。そもそも実現可能性はどこまであるのか。わが国の国益を左右する重要課題だけに、今後の展開が大いに注目される。

【目安箱/7月18日】「太陽光」発展のために今こそ立ち止まろう


「利回り年6%以上!」。このような宣伝文句を掲げた、太陽光発電への投資を勧誘する事業者のネット広告、チラシ、ブログの記事が筆者の眼の前にある。ゼロ金利の時代に太陽光発電は2020年の公的な補助金でも、これだけの利回りの稼げる「魅力的な投資先」と強調しているのだ。(かなり楽観的な試算と思うが、今回の論考のテーマではないので、批判は省略する。)

◆「年6%の利回り」がもたらす災害

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による世界的ベストセラー『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』(2015年刊、邦訳は河出書房新社)を、たまたま筆者は読んでいた。歴史の中で「利回り年6%」という数字が出てきた。かつての奴隷貿易への投資利回りが年6%だったという。

奴隷貿易では17世紀から18世紀にかけて、スペイン、英、仏、オランダなどの西欧諸国の公営・民間の会社が、主に西アフリカの黒人を連行して商品として売り飛ばし、アメリカ新大陸の砂糖や綿花などを栽培する大規模農場や鉱山で奴隷として働かせた。拉致されたアフリカ人は200年で推計2000万人以上になる。この時期の各国の主要産業は農業で、経済が伸びない低成長の時代だ。「年6%の利回り」は、投資を集めた。

各国が奴隷貿易の枠組みを作ったが、それを拡大、運営したのは民間企業だ。当時の西欧社会で市民が砂糖やタバコなどの嗜好品を楽しみ、安くなった綿織物を着て、新大陸の金銀を使った繁栄を享受した。その影には、奴隷の労働があった。ハラリ氏は奴隷貿易を「倫理なく利益を追求した恐ろしい経済活動の代表例」としている。

ちょうど今、日本の太陽光発電ビジネスが、倫理の問題に直面している。日本各地で、大規模な太陽光発電による環境破壊の懸念が出て、放埒な開発をとめようという批判が広がっている。今年7月3日に熱海で、大雨をきっかけに土石流災害が発生した。18日時点で18人の死亡、14人の行方不明という大惨事だ。現場の近くに大規模な太陽光発電所があった。その発電所と災害の関係は、今後の検証を待たねばならない。しかし、これをきっかけに、太陽光発電での乱開発に、批判が一段と強まっている。

「利回り6%」という利益の力は大きい。資金を集め、太陽光発電の建設は続いている。上記のように「儲かる」という広告も続く。太陽光発電を奴隷貿易と同視するほど倫理上の問題があると言うつもりはないが、利益が倫理上の問題を当事者に忘れさせてしまう似た状況が起きている。

◆「私は悪いことはしていない」だけでいいのか?

筆者は自分の仕事で、地方で太陽光発電事業を行う人の話を聞く機会がある。「目立った産業がなく、工場もなくなったこの地方に、利益がこれだけ出る仕事はない。地権者、工務店など、多くの人が経済的に潤っている」。関係者は揃ってこのように強調する。そして、「私は合法的にやっている。一部の悪質な事業者だけを取り上げて全体が批判されるのは困る」と述べる。

確かに、その指摘は正しい面があるだろう。ただし、「6%の利回り」をもたらす公的に作られた仕組みの上で太陽光発電の関係者は利益を得ている。それにもかかわらず、太陽光の問題工事は消えない。事業者は社会からの批判や懸念を放置しているように見える。奴隷貿易での事業者の弁解にも、よく似たものがあった。太陽光発電は新しく伸びたビジネスであるゆえに、事業者の中には社会との関わりや、事業での自省と自制の大切さを考えていない人がいるのかもしれない。善良な事業者こそ、同業者の悪質な行為を批判、是正させるべきと、筆者は思う。

日本で同じような経済問題を見たことがある。かつて消費者金融業界、金融業界で、一部事業者による取り立てや強引な勧誘が問題になっていた。2つの業界の大勢は、騒ぎを大きくしたくないため、また利益も減りかねないことから、「悪質業者は一部」として積極的に自主規制に動かなかった。すると、行政や消費者保護運動、弁護士らの主導で、厳格な規制を伴う改正貸金業法(2014年完全施行)、金融商品取引法(2006年施行)が作られ、事業者は事業転換を迫られ、大きな損害を出した。無策によって自分の首を絞めたわけだ。同じような雰囲気を、筆者は太陽光をめぐる問題に感じている。

例に出した奴隷貿易は、恐ろしい影響が今に残る。奴隷商人は当時の社会でも糾弾され、倫理感からそれにかかわった自分の過去に苦しむ人たちの話が伝えられている。米国では奴隷制の廃絶のために南北戦争が19世紀半ばに発生。2020年に西欧各国で人種対立による暴動が広がった。今に奴隷の子孫のアフリカ系の人々の差別と人種差別問題は300年が経過しても消えない。「金だけ、今だけ、自分だけ」を考える経済活動は、社会を壊し、長い悪影響を与えてしまう。

◆地方の疲弊という難題も絡む

そして太陽光発電による山林の乱開発は事業者だけの問題ではない。経済的に活気が失われた、日本の地方の問題も絡む。「経済が元気ならば、太陽光発電所を誘致しないはず。鎌倉でそういう話は聞いたことはない」。高級住宅地として知られる神奈川県鎌倉市に住む引退した金融マンは語っていた。活気のある町には、太陽光トラブルの話はあまりない。住民の自治意識が強く、経済が周り、行政が敏感な場所には、問題は起きていないのだ。

ちなみに、奴隷貿易は倫理的な批判で禁止されたが、経済システムの変化も影響した。19世紀初頭から産業革命が始まり、金融市場も整備され、儲かる投資先が増えて資金の流れが変わった。またエネルギー面で石炭や電気の利用、内燃機関を持つ機械が導入されて、鉱山開発や農業の技術革新が行われ、奴隷が特に必要なくなった。

同じように、日本でも地方の経済を活況にしていくことや太陽光の技術革新が、大変だとしても、太陽光ばかりが作られる今の再エネをめぐる状況を変えるだろう。

◆太陽光発電の未来を立ち止まって考える時だ

太陽光発電を今のまま拡大していいのだろうか。

エネルギー問題を真面目に考える人は、経済的に効率性のある電源が分散して発電される「エネルギーミックス」が最適解であり、太陽光発電もその一部として成長してほしいと考えてきた。そうした応援の声があるために、日本中に太陽光発電が広がった。

しかし、それに甘えて、太陽光で、事業に関わる政治家も行政官も事業者も、多くの問題を積み残してしまったまま、ひたすら拡大に動いたように思える。特に、太陽光発電所の環境への影響、さらに住民や地域社会との共存共栄の面での取り組みで、積み残しの問題は多い。

それを是正するために、筆者の訴える以下の三つの方向の議論に、賛同いただける人は多いだろう。

第一に太陽光発電の姿を適切な形にするためには、「この発電がFITによる公的補助金の支援で「年6%以上の利回り」を補償するほどの社会的な意味があるのか」というと、検証と政治的な合意のすり合わせが必要だ。政府は太陽光をめぐる補助金を引き下げている。一方で再エネを拡大する様々な計画を打ち上げ太陽光も拡大の対象にしている。政策で矛盾が多い。責任ある事業者のみが儲かる仕組み、例えば悪質事業者の退出、コスト向上をもたらしても環境配慮の投資の義務化を進めるべきだ。「年6%以上の利回り」の儲けの仕組みがあれば、拡大は続いてしまう。

第二に地域社会と融和せず、社会やエネルギーシステムとの融和を考えない拡大は止める必要がある。自主規制の形で事業者の自省と自制がなければ、法律による強制、さらには工事による事後的な安全確保、つまり日本の法律や制度には少ないバックフィット(規制の事後適用)をしても仕方がない。日本のどこでも、太陽光発電を受け入れる雰囲気は、もうなくなっている。それをしなければ、地方で太陽光をめぐる懸念と対立、そして悪質工事による環境破壊や土砂崩れの危険は広がってしまう。

第三に受け入れるそれぞれの地方でも、行政、地元住民、利益を受ける地権者や事業者が、人任せではなく自分の問題として、太陽光の大規模発電を受け入れるかどうか、判断することが必要だ。太陽光発電がなくても大丈夫な活力ある地域経済を苦労して作り上げれば、わざわざそれを建設する必要もなくなる。

こうした対応をせずに、今のまま太陽光発電を続ければ、関わる人全てに被害がもたらされるだろう。かつての「6%の利回り」で広がった奴隷貿易が数世紀経過しても、子孫たちを苦しめているように、問題が次の世代に引き継がれてしまう。切り開かれた山林で補助金が切れて放置された太陽光発電所と、土砂崩れだらけの傷ついた山河を、日本の次の世代に引き継がせたいと思う人はいないはずだ。

太陽光発電の次の発展のために、今こそ、関係者が立ち止まり、積み残しの問題を解決する時ではないだろうか。

【記者通信/7月14日】梶山氏VS.小泉氏 発電コスト試算評価に深い溝


経済産業省が7月12日に公表した「2030年の電源別発電コスト試算」で原子力と太陽光のコストが逆転したことを巡り、梶山弘志経産相と小泉進次郎環境相の受け止め方に深い溝があることが、翌13日に開かれた閣議後会見で浮き彫りになった。

梶山氏は「新たな発電設備を更地に建設した際の、キロワットアワー当たりのコストを一定の前提で機械的に試算したもの。既存の発電設備を運用するコストとは異なり、試算の前提を変えれば結果も変わってくる」と指摘。今回の試算結果がひとり歩きし、太陽光が安いという安直な結論を導き出すことへの懸念を示した。

その上で、梶山氏は「2030年の新たな目標や2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、特定の電源のみではなく、3EプラスSのバランスを踏まえて、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求していくことが必要」、「完璧な電源は今のところない中で、電源の特性を考えながら、いかに組み合わせていくか、資源のない国としてベストミックスを求めていくかがが重要になる」と述べ、再生可能エネルギーに偏重せず、原子力も有力な選択肢として位置付けながら、電源構成の最適解を探っていく必要性を改めて強調した。

小泉氏は勢い余ってFIT不要を示唆⁉

対して、その安直な結論に飛び付く勢いを見せているのが小泉氏だ。会見では「今後2030年に向けて、一番安いのは太陽光だと。今まで一番安いのは原発だという前提が変わったことは画期的だと捉えている」、「再エネ最優先の原則に基づき、再エネの導入拡大に向けて(両省が)しっかりと協力をしていく新たなスターとにしたい」などと強調した。

その一方で、小泉氏は勢いが付き過ぎたのか、「これで再エネだけが国民負担、そういったことは言われなくなるのではないか」と、気になる発言も。額面通り受け止めれば、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金がもはや不要な状況になってきたとの見解を示したとも考えられる。果たして、真意は何なのか。

ただ続く発言では、「世界的な潮流でもある再エネが安くなる。そして原子力についてはコストがこれから上がっていく可能性が示されている。それを考えれば、再エネ最優先の原則に基づいて、日本が再エネを主力にしていくことが、コスト面でも明確になったと思っている」と述べており、再エネと原子力の対比を強調したかっただけ、ともいえそうだ。

あらゆる選択肢を強調する梶山氏と、再エネへの傾注を強める小泉氏。政府・与党内では、どちらの考えが優勢なのか。総合的な国益を考える政治としては、前者であってほしい。

【記者通信/7月13日】「原子力と太陽光が逆転」のコスト試算は既定路線か


経済産業省が7月12日の専門家会合で発表した2030年における電源別の発電コスト試算が物議をかもしている。15年に試算した30年発電コストでは原子力が太陽光発電よりも安かったが、今回の試算で逆転し、最も安い電源として位置づけられたからだ。

それによると、30年の主要電源コスト(1㎾時当たり)は、大規模太陽光が8円台前半~11円台後半、陸上風力が9円台後半~17円台前半、中規模水力が10円台後半、LNG火力が10円台後半~14円台前半、原子力が11円台後半~、石炭火力が13円台前半~22円台前半、バイオマス混晶が14円台前半~22円台後半、地熱が16円台後半、石油火力が24円台後半~27円台後半、洋上風力が26円台前半となっている。

15年試算では、原子力10.3円~、大規模太陽光12.7~15.6円、石炭火力12.9円、LNG火力13.4円、陸上風力13.6~21.5円、石油火力28.9~41.7円、洋上風力30.3~34.7円となっていたのと比べると、再生可能エネルギーのコストが全般的に引き下がる一方、原子力が上昇した形だ。

「なにかの罰ゲーム?」「当然の試算結果」

これを巡り、SNS上では、賛否両論が飛び交う事態に。

「最安値が太陽光なら、FIT賦課金に毎年3兆円(2030年には4.5兆円になる見込み)のお金を電気料金に上乗せして払っているアレは何なの?なにかの罰ゲーム?」、「安価な中国製パネルへの依存が前提なのか?太光電効率はどこまで上がるのか?コスト安であればFITに伴う賦課金(皆様の電気代に上乗せ)もやめるのか?立地制約を勘案しないとされているが、既に世界有数の太陽光パネル国なのに狭い日本の国土の中でどこまで敷き詰めるのか?」、「太陽光発電所の悪いところが国民に知られる前に造ってしまおうという経済産業省の悪だくみだな。このタイミングで公表するなんて、おかしすぎるでしょ」、「発電コストの最安は原子力から太陽光に。2030年時点のコスト試算で、経産省がようやく認める。再エネは国内でも世界的にも導入が加速しコストが低下してきたが、国会で求めてもなかなか試算しようとしなかった。『原発は安い』はいよいよ通用しない。脱炭素は原発ゼロで!」、「太陽光の方が発電コストが下がるという世界では当たり前のことを報道したら反日ってことになるのか」、「ようやく当然の試算結果が出た」(いずれも原文ママ)――。

折しも、7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流災害で崩壊現場の脇にある太陽光発電所との因果関係が取り沙汰されている時期だけに、経産省の試算公表は火に油を注ぐ格好となっている。

今春の案で内々に横並びの可能性を示唆

しかし関係者によると、実は今回の試算は、経産省の事務局が今春内々に出した原案が土台となっているのだ。それによると、30年の電源コストはLNG10.6円、石炭11.4円、原子力11.7円、太陽光11.8円、陸上風力15.8円と、違いは見られるものの、原子力、石炭、LNG、太陽光のコストが横並びになる可能性を示唆している。

その意味では、「再エネ主力電源化」を基軸にして、温暖化ガスの30年46%削減達成を目指すエネルギーミックスを打ち出すに当たり、原子力と太陽光のコスト逆転は既定路線の試算だったともいえよう。

いずれにしても、土石流災害を契機に、原子力と共に太陽光にも逆風が吹き荒れ始めたことで、日本のエネルギー戦略は事実上の迷走状態に入った格好だ。