経済産業省はこのほど、2023年度予算の概算要求案をまとめた。総額は前年予算比13.7%増の1兆3914億円で、一般会計は19.2%増の4186億円、エネルギー対策特別会計は15.2%増の8273億円。エネ特会のうち、エネルギー需給勘定は18.3%増の6534億円で大幅増、電源開発促進勘定は3.6%増の1669億円で微増した。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、海外権益の維持や再エネの安定化など、エネルギー安全保障に寄与するとともに、脱炭素効果の高い電源の活用を促す中身となっている。

エネ特会の要求の柱は、「福島の着実な復興」と「国民経済を守りながら、未来を切り拓くためのエネルギー需給構造への変革」の2つ。前者では、①原子力災害からの復興と再生に619億円、②福島新エネ社会構想と福島イノベーションコースト構想の実現に679億円――。後者では、①エネルギー安全保障の再構築に4784億円、②GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に4949億円、③地政学的不確実性とカーボンニュートラルに対処するためのグローバル戦略の展開に1150億円――を充てる。
海外権益の維持に注力 GXリーグに20兆円
具体的に見てみよう。
エネルギー安全保障の再構築では、石油や天然ガス、ベースメタル、レアメタルなどの海外権益を確保するためのリスクマネー供給、深鉱、技術開発で871億円を計上。新規予算では、系統用蓄電池などの導入支援による電力網の強化で80億円、電力需給ひっ迫に備えた揚水発電の機能向上とFS調査支援で17億円、海底直流送電の実用化に向けた調査や技術開発で30億円をそれぞれ要求する。高速炉や高温ガス炉などの革新炉の研究開発には119億円を充てる。
GXの実現では、GXリーグの実行に20億円を充てた。政府はGX実現に向け、10年間に150兆円を超える投資の実現を目指しており、GXリーグはその柱の一つとされる。電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)などの導入支援や充電・充てんインフラの整備には、410億円を要求。政府は35年までに新車販売で電動車を100%とする目標を掲げ、骨太の方針にも明記されている。
そのほか、新規に洋上風力発電の適地の基礎調査で45億円、安価な水素の安定供給のための運搬技術や共通基盤技術の確立で89億円、先進的なCCS(CO2の回収・貯蔵)事業の支援で45億円、省エネの深化に1017億円を計上した。
グローバル戦略の展開では、資源国との脱炭素技術などの協力事業による資源外交に155億円、アジアのゼロエミッション化に向けた脱炭素技術の実証・導入、人材育成に100億円を充てた。東南アジアでは電源構成の約8割を化石燃料が占め、他地域と比較して脱炭素化が遅れている。政府はアジアのカーボンニュートラルを促進する「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を掲げ、CCSなど関連技術の開発を東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と協力して進める方針だ。
エネルギー政策の変化見えるも今冬の不安ぬぐえず
前年度予算と異なる点は、「エネルギー安全保障」という言葉が前面に出ていることだ。前年度予算案は「福島の着実な復興」と「(前略)エネルギー基本計画の実現等による『経済』と『環境』の好循環」の二本柱であり、後者の筆頭は「イノベーション等の推進によるグリーン成長の加速」、次点が「脱炭素化と資源・エネルギー安定供給確保との両立」だった。温室効果ガスの2050年排出ゼロ、2030年の2013年度比46%削減という目標実現に重点が置かれ、エネルギー安全保障という言葉はない。
ところが、23年度の概算要求では二本柱のうちの一つ「国民経済を守りながら、未来を切り拓くためのエネルギー需給構造への変革」の筆頭に、「エネルギー安全保障の再構築」が明記された。ロシアのウクライナ侵攻を受け、脱炭素という中長期目標の実現に向けた歩みを進めながらも、エネルギー価格の高騰や不安定化する供給網の維持・再構築といった目の前の課題に対処する姿勢が見てとれる。
原子力政策を巡っては政府が8月24日、GX実行会議の第2回会合で次世代炉の新増設・リプレースの検討を柱とする今後の方向性を打ち出し、「可能な限り依存度を低減する」としていた従来から大幅な方針転換を図った。ただ、概算要求で計上した高速炉や高温ガス炉などの革新炉の研究開発費119億円は、政府の方針転換を受けてのものではないとしている。
現在、日本はエネルギー価格の高騰、今冬の電力需給ひっ迫という危機に直面している。政府はこれまでに再稼働した10基に加え、7基の原発については「来夏以降」の再稼働を目指すとしているが、今冬の不安は全く解消されていない。「来年度」予算案の概算要求なので今冬の電力需給ひっ迫とは直接関係ないが、今後も政府・経産省の対応から目が離せない。