ロシアのウクライナへの軍事侵攻開始から1カ月以上が経過し、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化し続けている。民間でも、英シェルが2月下旬、三井物産と三菱商事も出資するLNG開発プロジェクト・サハリン2からの撤退を表明するなど、「ロシア離れ」が加速。そうした中、岸田文雄首相は3月31日の本会議で、サハリン2について「わが国として撤退はしない方針だ」と明言した。さらに萩生田光一経済産業相は4月1日の閣議後会見で、サハリン2に加え、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と伊藤忠商事、丸紅などが30%の権益を持つ石油開発事業のサハリン1についても「エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクトだと考えており、撤退しない方針だ」と言及し、JOGMECと三井物産が参画するLNGプロジェクト・アークティック2についても撤退しない方針を表明。エネルギー事業では現時点で欧米の「脱ロシア」とは一線を画すという日本の姿勢を打ち出した。他方で岸田首相は3月31日、「主要7カ国(G7)の方針に沿ってロシアへのエネルギー依存を低減すべくさらなる取り組みを進める」とも述べ、長期的にはロシアからの調達の在り方を見直す可能性も示した。

首相の指示を受け、経産省は同日「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」の初回会合を開催。ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。石油、石炭、LNGのほか、半導体製造プロセス用ガス、パラジウム、合金鉄が対象となる。産消対話の強化や、代替調達の実現、上流権益獲得の強化、需要への働きかけといった対策を挙げた。
萩生田経産相は会合で、「ロシア・ウクライナから調達先を切り替えた場合、別の特定第三国・地域に依存が生じるケースも明らかになった」「足元の情勢だけに目を奪われることなく、国家の存立、国民生活の安定という観点から、今後も経産省を挙げて取り組んでいきたい」と強調した。
燃料確保対策を強化 ロシア産は輸入継続へ
エネルギー関係でのロシア依存度は、石油が3.6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。特に、世界的に需要が高まり、国内の備蓄能力に限界があるLNGについては「石油よりも厳しい状況」(保坂伸・資源エネルギー庁長官)にあり、仮にロシア産の輸入が止まれば、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組みや、LNG調達への国の関与強化などを検討する。2021年1月の需給ひっ迫を機に今冬講じた燃料確保の対策をさらに一段進めるような内容だ。
石油対策では、短期的には既に取り組んでいる産油国への働きかけや、国際エネルギー機関(IEA)などを通じた主要消費国との連携を強化。中長期的には、JOGMECによる上流権益拡充への支援などで、30年に石油・天然ガスの自主開発比率50%以上という従来方針に沿って取り組む。
そして石炭については、非効率石炭火力のフェードアウトなど、火力の脱炭素化を加速すると改めて強調。石炭の一層の使用低減を図る一方で、安定供給に向けた産炭国への働きかけにも力を入れるという。3月22日の関東、東北での需給ひっ迫危機が記憶に新しい中、石炭火力の過度な退出防止との両立をどう図るか、引き続き難しいかじ取りを迫られそうだ。