【記者通信/3月24日】石炭火力存廃へ新たな目標「発電効率43%」をどう見るか


2030年に向けた非効率石炭火力フェードアウトの規制的措置を検討してきた、総合資源エネルギー調査会の石炭火力検討ワーキンググループ(座長=大山力・横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授)は3月22日の会合で、発電効率43%を省エネ法での石炭火力の新たな目標水準とする方針を事務局が提示し、概ね了承した。新たな目標水準は、BAT(最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)に基づく技術水準や、国内事業者の上位1~2割が満たし、国際的にみても高い水準であることなどを踏まえて設定。設備単位での基準とすると事業者の選択肢を大きく狭めるため、従来の省エネ法での火力に関する規制と同様、事業者単位の基準とする。

ただし、大手電力の発電効率実績で43%を超えている既存設備はたったの2基と、その達成ハードルは相当高い。高効率化に向けては、低効率設備の休廃止や設備利用率の低下、タービン改造による効率向上、バイオマス混焼などの選択肢がある。例えばバイオマス混焼による補正措置で43%を目指す場合、実績効率39%ではバイオマス10%混焼、実績効率41%ではバイオマス5%混焼でクリアできる計算となる。ただし、現在のバイオマス混焼の実績も大半は混焼率1%未満で、1%以上の設備は7基しか存在しない。

既存石炭火力は続々と廃止へ向かうことになるのか

委員からも、「43%は2基しか達成していない厳しい目標で、安定供給とのバランスを考えると早急に過ぎないかと懸念している」(秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー)、「熱力学という超えられない壁があり、あと9年で全ての発電効率が43%となることは考えられず、達成するならバイオマス混焼ゆえのものとなる。今後過半数が達成したら目標を上げる、といったことは軽々にやってはならない」(長野浩司・電力中央研究所社会経済研究所長研究参事)などの意見が相次いだ。また、バイオマス混焼について、大規模設備ほど混焼比率を高めることのハードルの高さや、燃料の安定供給が可能かといった懸念が示された。

一方、「43%が野心的な目標でハードルが高いということ自体が残念。こうした議論が世間の常識から乖離していないか」(松村敏弘・東京大学社会科学研究所教授)、「30年に向けて中間的なマイルストーンの設定も必要ではないか」(高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター 教授)といった意見も飛び出した。

いずれにせよ、石炭火力比率が高い事業者は30年に向けて新たな目標への対応策を急ピッチで進めなければならない。その影響は地元経済や他産業にもおよび、同日の会合では全国港湾労働組合連合会と全日本港湾運輸労働組合同盟から、労働者の雇用確保や運送事業者の事業が継続できるような取り組みを求める意見書も提出された。石炭火力の新目標の達成に向けては、引き続き電力業界内外への影響をきめ細かくみていく必要がある。

【記者通信/3月20日】原発防災法制の不備を突いた 水戸地裁判決の波紋


茨城県など9都県の住民224人が日本原子力発電東海第二原発の運転差し止めを求めた訴訟で、避難計画やそれを実行する体制の不備などを理由に運転は認めないとした水戸地裁の判決が波紋を広げている。脱原発派はもとより、原発理解派の関係者からも「国としての明確な基準がなく、自治体任せになっている避難計画の問題を指摘してきたことは重く受け止める必要がある」「科学的知見には踏み込まず、防災法制の不備を理由にあげてきた意味では妥当な司法判断」などと評価する声が聞こえているからだ。

水戸地裁は3月18日、東海第二原発について「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」として運転を認めない判決を言い渡した。前田英子裁判長は判決理由の中で、原発から半径30㎞圏内の県内14市町村のうち、広域避難計画を策定済みの自治体は5つにとどまっているうえ、その避難計画にも課題があるなどとして「原告らの人格権が侵害される具体的危険がある」と指摘。一方で、基準地震動の設定や津波の想定、建物の耐震性については「原子力規制委員会が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」として、原告側の主張を退けた。

これに対し、日本原電は19日に東京高裁へ控訴。「これまで東海第二発電所の安全性等について、丁寧にご説明をしてまいりましたが、原判決は当社の主張を裁判所にご理解いただけず誠に遺憾であり、到底承服できるものではないことから、本日、東京高等裁判所へ控訴しました。当社としては、控訴審において、原判決を取り消していただけるよう、引き続き東海第二発電所の安全性等の主張・立証に全力を尽くしてまいります」とのコメントを発表した。

水戸地裁の判決は、日本の原発政策に重大な警鐘を鳴らしている

安全性」ではなく「避難計画」が判決の論点

ただ、一般的に見て、原電側の旗色は良くない。旧民主党議員(水戸1区選出)を務めていた元経産官僚の福島伸享氏はSNSで「今回の東海第二原発の再稼働をめぐる水戸地裁の判決は、私のような脱原発論者ではない者にとっても、極めて重要な判決」とした上で、次のような解説を行っている。

「今回の判決に対して日本原電は早速控訴したようだが、二審でも苦戦は必至である。なぜなら、原発のサイトの安全性なら日本原電自身が対応可能で、しかも国が基準を示して審査も行うものであるのに対して、避難計画の策定には直接日本原電が関われるものでなく、しかも何が妥当なものなのか誰も客観的、科学的な判断を示していないからだ。原発自体の安全性を争って二審で逆転した、伊方原発のようにはいくまい。そもそも、94万人の住民を合理的な根拠をもって安全と判断できるような避難計画を作ることは、極めて困難なことだろう」

「今回の判決は、ある意味日本原電が立法府や行政府の不作為の被害者でもあることを明らかにしたものであるように思われる。原発再稼働論者は、惰性で現状の維持を続けているのみで、東日本大震災の経験を踏まえた新たな原子力安全対策にきちんと取り組んでいない。私が拙著『エネルギー政策は国家なり』(エネルギーフォーラム刊)で論じたように、安倍政権の7年8か月は原子力政策の再構築を棚上げしたことにより実質上『脱原発』を進めていたのだ」

「このまま何もしないでいれば、脱原発派が訴訟を起こすまでもなく、日本の原子力産業は時間の経過とともに死に絶えていくことであろう。日本はこれまで積み重ねてきた知的資産や技術的資産を無にすることにもなる。『意図せざる原発ゼロ』こそが、日本にとっての最悪の結果なのだ。今回の判決は、こうしたことに対する重大な警鐘と受け止めるべきだ」

また、梶山弘志経産相は3月19日の閣議後会見で「(水戸地裁の判決は)安全性については確認された上で、避難計画が論点だった。(避難計画は)まだ策定中なので、しっかりと政府が後押しする形でつくっていく。そうした中で住民の理解を得ていくことが重要だ」と強調した。水戸地裁が投げたボールを、国はどう受け止め返投するのか。東海第二原発の命運がかかっている。

【記者通信/3月20日】首相・閣僚が相次ぎ東電批判 現実味帯びる「あの秘策」


福島第一原発の事故から10年。東京電力が再び原発問題で窮地に立たされている。今回の舞台は、新潟県の柏崎刈羽原発。昨年8月に明らかになった中央制御室への社員不正侵入に続き、今年1月には不正侵入者を検知する設備を作業員が壊していた問題が発覚。原子力規制委員会が調査を行ったところ、複数の検知設備が故障したまま事実上放置され、長期にわたってテロリストなどの不正侵入が可能なリスクにさらされていたことが分かった。これを受け、規制委の更田豊志委員長は3月16日の会見で「深刻な事案」だとして、追加検査を指示したことを明らかにした。検査には1年以上かかるとみられ、再稼働はさらに遠のいた格好だ。電力業界の関係者は、原発再稼働に厳しい姿勢を貫く規制委のやり方に不満を抱いてきたが、今回の不祥事によって立場は一変。しばらくは規制委批判を封印せざるを得ない状況に追い込まれた。

「原発を扱う資格に疑念」「規制委の審査にしっかり対応を」

柏崎刈羽原発を巡る相次ぐ失態に対し、政府・自民党を中心に東電追及の動きは強まる一方だ。3月19日に開かれた参院予算委員会で、菅義偉首相は「東電が重大で不適切な事案を起こしたことは大変遺憾。極めて深刻に受け止めている。地元の方々の信頼を損ねる行為であり、原発を扱う資格に疑念を持たれてもやむを得ない」「東電は高い緊張感と責任を持って、原子力規制委員会の検査に真摯に対応すべきだ。その上で組織的な管理機能について、抜本的な対策を講じる必要がある」との見解を示した。

梶山弘志経産省は同日の閣議後会見で、「東電は徹底的に原因究明し、抜本的な対策を講じて規制委員会の検査にしっかり対応していくことが必要」だと指摘。その上で、「エネルギー基本計画における将来的な原子力の位置付けについて、今回の事案も踏まえて検討していく必要がある」「今後の基本政策分科会において、本事案について委員の意見を聞いた上で今後の方向性を議論していく」などと述べ、基本計画見直しの検討作業に影響が及ぶ可能性を示唆した。

小泉進次郎環境相も同日の会見で、柏崎刈羽原発問題に言及。「新潟県民にとっては、原発への賛否もあるかもしれないが、同時に東電を信用できるかどうか。つまり原発だけではなく、東電の問題なんだという言葉は非常に重たい」「テロ対策、安全対策、そして地域住民に対する信頼を確立できないような組織に未来はない。今問われているのは東電の在り方だ」などと、東電のコンプライアンス問題に痛烈な批判を投げ掛けた。

一連の閣僚発言から見えてくるのは、柏崎刈羽原発の再稼働を東電に任せることはできないという国側の姿勢にほかならない。大手エネルギー会社の幹部が言う。

「今回の件で、『柏崎刈羽原発の運営に東電が関与している限り再稼働はあり得ない』という空気が、世論として醸成された。今後は、柏崎刈羽の切り離しと、東電に代わる運営主体をどうするかという議論が一気に加速するだろう。その際、引き受け手として浮上してくるのが、新潟エリアを供給区域に持つ東北電力であることは間違いない。何と言っても、東日本大震災で津波被災した女川原発の再稼働に道筋を付けたという大きな実績がある。折しも、海輪誠会長が4月1日付で相談役に退くことから、例えば新たな運営事業者のトップに海輪氏を抜擢することも考えられるのではないか。東北1社では心もとないということであれば、同じBWR(沸騰水型軽水炉)グループに所属する中部電力や日本原子力発電などが参画してくる可能性もある」

東電の経営再建に当たって、幾度となく水面下で取りざたされてきた「BWR連合が柏崎刈羽の運営を担う」という秘策。今回の不祥事によって、にわかに現実味を帯びてきた格好だ。

こうした中、東電の小早川智明社長は17日の参院予算委員会で「地域の皆さまをはじめ、広く社会にご心配をおかけしていることに改めておわびをしたい」と謝罪したのに続き、19日の参院予算委員会にも出席。「福島第一原発で、10年前に重大な事故を起こした。あのような事故を二度と起こさないと志を共有して改革に取り組む中で、今回の事案が起きたことは痛恨の極み」と述べ、改めて陳謝した。また18日夜の記者会見がリアルではなくオンラインで行われたことも関係者から不評を買っており、小早川氏の進退を問う動きが高まるのは避けられそうもない情勢だ。

3月下旬に予定される取締役会までに、どのような展開が待ち受けているのか。目が離せない情勢が続く。

【記者通信/3月11日】地域新電力設立を妨害?市長が大手電力に抗議のワケ


地域新電力の設立を計画する地方自治体のN市が、業界関係者の間で注目を集めている。地元の大手電力会社がN市の取り組みを妨害するなどしたとして、市長自らが大手電力に抗議を行うとともに、政府に対し大手電力の行為に関する調査を求めているためだ。

市長名の文書によると、大手電力はN市が設立する新電力について「容量拠出金の負担が多額になるので赤字になる」などと、根拠なく試算した拠出金額を説明して回っていると指摘。これは新電力設立を阻止する意図だと推測しながら、「電力システム改革の大きな柱である小売全面自由化を妨害する行為であり、且つ地方自治を侵害する行為」と断じている。また当該大手電力は、N市が計画策定を委託した地域新電力O社のデータを送配電会社から入手、「その供給構造を推測し、それをN市が設立する新会社と同様であると仮定して根拠のない拠出金を試算した」と指摘。その上で、「このデータ利用はO社に何らの了解を得ることなく行われており、違法であるとともに、分社後の送配電会社から顧客データを入手するという、電力システム改革の大きな柱である『送配電部門の分離・中立性の確保』を完全に形骸化させ否定する行為」だと痛烈に批判している。

これらが事実とすれば、確かに大きな問題になりそうだが、業界関係者からは「厳しい行為規制が課せられている中で、送配電部門のデータを無断で流用するというのは、にわかには信じがたい。何らかの誤解があるのでは」(別の大手電力関係者)、「当該大手電力にしても、全面自由化を妨害したり、地方自治を侵害するなどの悪意をもって、N市電力の容量拠出金を試算したわけではないはず」(中堅新電力関係者)といった声も。その一方で、「自治体新電力の設立は、地元大手電力としてむしろ応援するぐらいの気構えが必要。『金持ち喧嘩せず』で、いらぬあつれきを生むような行動は絶対に避けた方がいい」(大手エネルギー会社幹部)と見る向きもある。

気になるのは、N市の新電力設立にあたってのアドバイザーに、地域新電力支援で実績のあるP社が入っていることだ。「今回の抗議行動の裏では、何らかの形でP社が関与している可能性も否定できない」(事情通)。N市電力を巡る問題について、エネルギーフォーラムでは大手電力側の見解も含め、引き続き取材を進めていく考えだ。

【記者通信/3月10日】小泉氏が気候担当相兼務に NDC問題で試される手腕


政府は、気候変動関連の国際会議に向けた国内関係省庁の調整役として「気候変動担当相」を新設し、小泉進次郎環境相がそのポストを兼務することとなった。4月下旬に米国バイデン大統領が主宰する気候サミット(首脳会議)、6月に英国が議長国を務めるG7(主要7カ国)サミット、9月の国連総会、そして11月には温暖化防止国際会議のCOP26などが予定されている。

これらの場では、菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したものの、現在掲げるNDC(温暖化ガス削減目標、30年13年度比26%減)や石炭火力政策などに対し、欧米から厳しい指摘が飛ぶことが予想される。温暖化対策を重視するバイデン政権の誕生を背景に、日本が気候変動問題で国際的に一層難しい立場に置かれる中、小泉氏がどのような手腕を発揮するのか、注目される。

小泉氏は9日の閣議後会見で、内閣府の担当大臣というポストが加わることで、政府部内の調整がしやすくなると説明。現在見直しの議論が進むエネルギー基本計画についても、「環境大臣の立場で意見を言うことと、(内閣府担当大臣として)気候変動の観点から意見を言うのとでは違う」と強調した。

米国は4月の気候サミットまでに30年の温暖化ガス削減目標(NDC)の大幅な引き上げを発表し、各国にも引き上げを求めるものと見られている。小泉氏はこのサミットを見据えて日本のNDCについても「50年カーボンニュートラルと整合的なものに上げていけるよう、最大限努力する」と述べた。NDC引き上げに関する欧米の圧力は、G7サミットやCOPの場でも繰り広げられることが予想される。

ただ、野心的な目標をまず掲げることを重視するトップダウン型の欧米と異なり、日本のNDCはボトムアップ型で、分野ごとの対策を緻密に積み上げて導き出した数字だ。それをターゲットイヤーまであと10年を切ったタイミングで、原発の再稼働が依然進まず、しかもコロナ禍で経済が疲弊する中で大幅に引き上げることは現実的に難しい。再生可能エネルギーのさらなる普及拡大にも乱開発抑制の壁が立ちはだかる。

欧米の圧力をどうしてもかわせないのであれば、日本としてもNDCの達成に関する認識を改め、トップダウン型を取り入れる方法への転換が現実味を帯びてくる。エネルギー環境問題研究機関の幹部は「官邸筋からの圧力もあり、経産省はNDCで『30年40%削減』を打ち出さざるを得ないと考えているようだ」と話す。こうした現実を踏まえ、気候変動に関する日本の貢献策をどうアピールしていくのか。難しいかじ取りを行う小泉氏の手腕が試される。

【目安箱/3月9日】「原子力ムラ」の問題点 復活はホリエモンに学べ


「原子力へ向いた逆風の風向きが変わった」「ようやく冷静な議論ができる」「今こそ政府に訴えよう」―。東京都内で開かれた原子力関係者の勉強会に最近、筆者は参加した。その中で、こんな意見が交わされていたことに、大きな違和感を覚えた。

2011年3月11日から始まる東京電力の福島原発事故の後で、原子力は大変な批判にさらされた。あれから10年近くがたち、原子力を巡る状況は確かに変わりつつある。今年1月の電力危機は、原発の長期停止による供給力不足が一因だ。一方で昨年秋、菅義偉首相は「2050年カーボンニュートラル社会実現」を政策の目標に掲げた。原子力発電は温室効果ガスを出さないため、カーボンゼロ政策の有力な切り札になる。

そうした状況下、原子力関係者がこれまでの萎縮から解放され、気分が高揚することは十分理解できる。しかし原子力を応援するものの「原子力ムラ」の外にいる筆者は、「ムラビト」たちの浮かれぶり、政府を動かしたいという希望に、「それでいいのか」と疑問を持ってしまったのだ。

民意が原子力から離れているのに、「原子力は素晴らしい」といくら政府に主張しても、大多数の人はしらけるだけだろう。そして福島の事故からの復興は途上だ。原子力を認める雰囲気が社会の中で広がっているとは思えない。民意におもねる気配の強い最近の政府が、かつてのように原子力を推進することはないだろう。

「国にお願いするのは昔のやり方ですし、時期尚早。慎重に動くべきです」と、筆者が言うと、研究会は白けてしまった。

◆説得や政治工作で物事は変わらない

あえて前述したが、反対派がよく使う言葉に「原子力ムラ」がある。原子力関係者を指す曖昧な言葉だが、「政官学財に巣食い、癒着し、閉鎖的で、利権をむさぼる悪の結社」(反原発派ジャーナリスト)という意味を込めているようだ。この言葉は問題を単純化しすぎ、幼稚な響きがある。

ただし閉鎖的という意味合いには一理ある。原子力関係者からは、そんな印象を受けてしまういがちなのだ。原子力は専門性が高く、そこで管理、研究などで取り組むためには高度な知的訓練が必要だ。このため、自ずと高学歴で男性中心の理系の知的エリートが中心になってくる。彼らは自分たちがそうであるように、「合理性と議論」で世の中は動く、または動かなければならない、と考える傾向が強いように思う。

しかし、この10年の経験を見れば分かるように、原子力を巡る議論は、合理的に解決するものではなかった。さまざまな人々の思いや感情、政治的な思惑が入り乱れ、迷走と混乱を続けている。にもかかわらず、ムラビトがいくら「原子力の素晴らしさ」を声高に主張したところで、世論を説得できるわけがないし、そもそもうまくいくわけがない。

◆「刺さる」新しい話を積み重ねる

では、原子力への反感を取り除くには、どうすればいいのか。もちろん、今までの原子力ムラの問題、そして原発事故への反省は必要だ。しかし、それだけでは原子力の閉塞した状況は動かない。筆者は原子力を活用すべきという立場であることから、原子力のプラスになることを提言したい。

参考になる話がある。元ライブドアの創業経営者で、証券取引法違反で有罪になり、今はネットでその発言と活動が注目されるホリエモンこと堀江貴文氏が、遺伝子組み換え作物とその関連商品を販売するモンサント社の日本法人(現バイエル)のシンポジウム(2018年開催)に出た。遺伝子組み換え作物では、世界的に反対運動が広まっている。原子力発電と同じように、感情な批判が多く、さらに政治団体も絡んでビジネス展開を阻害している。そんな現状打開のために、堀江氏を呼んで意見を聞きたがったのだろう。

そこでの質疑応答で、あるジャーナリストが、「世の中に、遺伝子組み換え作物問題だけではなく、原子力発電、ワクチン摂取など、感情的な批判でこじれた問題がたくさんある。堀江さんだったら、状況をどのように変えるか」と聞いた。

筆者の要約と解釈の範囲だが、これに対し堀江氏は概ね次のような回答をした。

「全員の賛成を得ようと思うのは、あきらめたほうがいい。論理的に説得しようとしても、無理だし時間の無駄。世の中には、理性が通じない話がある」

当たり前だが示唆に富む発言だった。原子力問題では、推進の立場の人が反対派を説得しようと試みて失敗してきた。さらに堀江氏はこうも言っていた。

「遺伝子組み換え作物に関わる人は、ビクビクする必要は全然なくて、『いいことをやっている』『世界の食料生産を支えている』『Save the world!』と堂々と、事実を伝えればいい。賛同してくれる人たちもいるはずだ。それが適切な問題の設定だ。原発や、反ワクチンでも同じだろう」、「過去は変えられないが、情報を上書きしていくことはできる。かっこいい情報を上書きしていく。例えば、新技術や、これによって社会が進歩して、みんなが幸せになったという成功例だ」、「P Rでは、理屈で攻めるよりも、まず素晴らしい具体的なモノ、それがなければワクワクする未来を見せる方がよい」、「何が刺さる(注目されるという意味)か、わからない。P Rのための題材は、お金と余裕のある限り、いろいろ試した方がいい。当たったらそれを掘り下げていく。真面目路線で世の中は変わらない」――。

実際に堀江氏は、自分のブランディングでこのように活動している。それだから、有罪の後で社会的に復活を遂げたのだろう。

◆具体的なモノ、ワクワクする未来を語れ

この話を聞き、思い出すことがあった。マイクロソフトの創業者で慈善事業家のビル・ゲイツ氏の行動だ。彼は途上国へのエネルギー供給と、温暖化ガス削減の手法として原子力に着目し、小型原発に投資している。ただ最近は、原子力の必要性を声高に訴えないのだ。中国企業と協力して開発を行っているからかもしれないが、まずは新型原子炉を形にすることを急いでいるように思える。かつて彼はパソコンのO Sを売り出すとき、理屈やアイデアだけではなく、まず製品にして企業に使ってもらうことにこだわったという。原子炉でも同じことを考えているのかもしれない。堀江氏の発想と通じるものがある。

考えてみると、原子力関係者は政府、学会、事業者共に、東電の原発事故の後で萎縮をし、反省と言う言葉を繰り返していた。事故の前は、誰からも好かれようとしていた。振り返ると、そうした行動は原子力の支持を増やすことに効果はなかったように思える。

原子力が復活するには、新技術によって具体的に社会を変え、「こんなに原子力は役立つ」という事実を、社会に示すことが必要ではないか。理屈や政治工作だけでは、復活は難しい。日本には、期待できる世界最先端の原子炉の研究があり、その生み出す大量の電力を使って国民の生活が豊かになった歴史がある。東電の事故以来、そうした技術革新や進歩が停滞しているように思えてならない。

原子力関係者はぜひそうしたイノベーションを社会に生み出してほしい。原子力によって変わる未来を示す新たなアプローチが、原子力の再生につながるはずだ。堀江貴文さん、ゲイツさんの考えは、そこで参考になるだろう。

【イニシャルニュース】メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側 ほか


1.電力暴騰はなぜ起きた? 大手が超高値を主導か

今冬の電力業界を襲った日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰問題を巡り、大手電力会社の小売り部門などが1月初旬から約3週間にわたる超高値局面を主導した実態が明らかになってきた。

JEPXが公開した売り買い入札状況を見ると、需給ひっ迫の影響で売り札不足が続く中、システム上の最高値であるkW時999円でまとまった量の買い札(グロスビディング=取引所を介した自社取引=など)が入っていることが分かる。これが約定価格の押し上げに大きな影響を与えた格好だ。中堅新電力の幹部A氏が言う。

「これだけの規模で最高値入札ができるのは、大手電力会社や大手エネルギー会社系の新電力しかない。聞いている話では、1月初旬に親会社からの供給がストップしたT社のみならず、K社やC社、E社なども供給力確保のため軒並み最高値で入札した。インバランスは絶対出してはいけないという意識が小売り事業者全体に根強くある中、大手の動きのあおりを受け、中小の新電力も損失覚悟で高値入札を余儀なくされ、資金難、経営難に陥ってしまったわけだ。その意味では100%経営責任とは言い切れず、国に対して救済措置を求めたくなる気持ちはよく分かる」

気になるのは、別の電力関係者B氏によると、12月中旬、大手の間では「電力不足によって今後スポット市場が高騰する公算が大きいため、先物市場の活用も」との情報が駆け巡っていたということ。真偽は定かではないが、中小新電力が異口同音に訴える「情報の非対称性」が明暗を分けた可能性は否定できない。

経産省が取り組む取引市場のルール見直しがどう行われるのか。公正性・透明性確保の観点からも注目される。

2.異色のTF委員H氏 提言巡りSNSで論戦

菅義偉首相肝いりで誕生した、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」。脱原発を掲げる河野太郎・規制改革担当相の意を汲んだ環境派の委員が名を連ねていることから、「議論が再エネ事業者側に偏っている」(大手電力関係者)との批判も多い。

再エネ規制TFは菅首相の肝いりで発足

だがTFには、ほかの委員とは一線を画す異色の経歴を持つ人物がいる。元経産官僚のH氏だ。H氏は経産省では大臣官房企画官や中小企業庁に在籍した後、第一次安倍政権や福田政権では規制改革・行政改革担当相補佐官も経験。現在は政策コンサルティング業を営んでおり、政界とのつながりも深いとされている。

そんな中、H氏のSNSでは、TFの需給ひっ迫問題に対する緊急提言を巡り、エネルギー業界への造詣が深い元官僚のI氏と数日にわたり熱い議論が交わされている。

議論は安定供給を担保した上でのエネルギー供給体制を構築すべきだという点では意見が一致したものの、最大の論点であるTFの提言が新電力救済策なのかという点や、電力ひっ迫における発電事業者の責任問題については意見が収束することはなかった。

「間違いなく優秀な人だが、経産官僚とはいえエネルギー政策とは無縁の道を歩んできた。エネルギー業界の実態を分かっておらず、発言内容も振り付けた役人の意のままなのだろう。ほかの委員は既に色が付いている人々なだけに、H氏にも変な色が付いてしまうのでは」。H氏をよく知る元官僚はそう語っている。

改善すべき政策は当然あるとはいえ、薄氷の上をいくエネルギー産業が、素人考えで崩壊してしまっては元も子もない。地に足のついた現実味ある議論を期待したい。

3.大手紙にベテラン不足 迫力を欠くエネ関連記事

東日本大震災と福島第一原発事故を契機に、日本のエネルギー政策は再エネ主力化に大きくかじを切った。そんな歴史的な転換点から10年という節目が近づいているにもかかわらず、大手5紙では目を見張るようなエネルギー関連の特集は見当たらない。

「五大紙にこの10年のエネルギー業界を見続けてきた記者がほとんどいない、という事情からだろう。若手・中堅記者も、柏崎刈羽原発やほかのBWR(沸騰水型炉)の再稼働、あるいは福島第一の処理水処分問題で何か動きがあれば書きようがあるのかもしれないが、年が明けても硬直状態が続く。だから10年関連の記事は復興の内容に偏って、今この国が抱えるエネルギー・原子力問題を深掘りする記事がない」(エネルギー業界関係者)

ベテラン記者はほとんどいない(朝日新聞)

東日本大震災以降、全国紙でエネルギー問題を担当し続けてきたベテラン記者は、N紙のM氏やT氏、S紙のI氏ら、ごく少数だ。そして彼らの後継者も育っていない。これでは、10年の歩みを振り返ろうにも限界があろう。

週刊経済誌もかつては原発問題で特集を組み、メーカーと経産省の関係性や、司法などの切り口で報じてきた。が、原発特集は人気がなく、掲載すると販売部数が減る。それで、今は脱炭素化ばかり目立つようになっている。

この10年でエネルギーシステムは大きく変革し、自由化、強靭化の課題がさまざまな局面で顔を出してきた。そんな問題意識を、全国紙でもぜひ読者に伝えてほしいものだが……。

4.メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側

九州K県を拠点とするK電力と、同社に電力を卸供給してきたF社との間でトラブルが生じ、需要家を巻き込んだ騒動に発展している。

2月初旬、F社がK電力と小売り契約を結ぶ需要家に対し、契約上の地位移転により今後はF社傘下の「新K電力」が供給する旨を通知。すると、即座にK電力がそれを「迷惑メール」だとして、返信しないよう要請したのだ。その後も、双方がそれぞれの言い分を主張するメールの応酬を繰り返したため、需要家は混乱の渦に陥ってしまった。

今回の騒動は、K電力の資金繰り悪化で事業継続が困難になっていたことが発端とみられる。F社がウェブ上で公表した経緯説明によると、当初は従来通りの料金水準で電力供給を継続することを目指し、資本業務提携を締結することでK電力代表取締役であるT氏と合意していた。

ところが、K電力側の事情で資本業務提携が困難に。T氏側から地位移転の申し入れがあり、これに伴い契約切り替え(スイッチング)に必要な需要家情報の提供も受けたという。

双方の主張はどこで食い違ってしまったのか。考えられるのが、この経緯説明に登場する「事業者B」の存在だ。K電力は、このBからの借り入れに対し同社の株式を担保として提供。返済できないまま、この事業者Bが担保権を実行したとみられる。K電力の企業サイトを確認すると、代表取締役はT氏のままだが、実質的な経営権はこの事業者Bに移っていると考えるのが妥当だろう。

業界関係者は、「F社はあくまでも卸決済サービスの提供会社であって小売事業に興味があるとは思えない。なぜこのような事態になっているのか」と首をかしげる。

自由化された市場では、契約トラブルが起きることは十分に想定できる。とはいえ、巻き込まれる需要家にしてみればいい迷惑としか言いようがない。今後、経営難に伴う事業からの撤退や譲渡があれば、こうしたケースが増えることは大いにあり得る。事業継承や譲渡における手続きの明確なルール化も求められそうだ。

5.第2再処理工場の建設 T電力OBが断念主張

自由化による収益減や原発安全対策費用に頭を痛める電力業界。建設費用が想定を超えた六ヶ所再処理工場を軸とする核燃料サイクルは、「重い負担」となりつつある。

さらに頭痛の種が使用済みMOX燃料だ。昨年12月、電気事業連合会は使用済みMOX燃料の再処理について「取り組みを強化する」と国に報告した。福島事故後も国・業界は全量再処理路線を維持。使用済みMOX燃料を再処理する「第2工場」についても、本格的な検討を始めざるを得なくなっていた。

しかし、第2工場の建設費用は、約3兆円の六ヶ所工場を上回りかねない。「つくってはいけない。直接処分すべきだ」。こう強調するのは反原発派関係者ではなく、T電力の有力OB。こんな声が、電力関係者の間でこれから増えるかもしれない。

【記者通信/3月5日】再エネ倍増の鍵握るのは?小泉環境相が温対法改正で言及


再生可能エネルギー導入推進の主役は地方自治体――。このほど閣議決定された地球温暖化対策推進法(温対法)の改正案は、菅政権が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を基本理念として位置付けた上で、地方自治体が再エネ導入目標を設定し脱炭素実現を目指していく方向性を打ち出した。同時に、地域の再エネ開発の促進地域を設定。地元の自治体が関与する形で再エネ大量導入に向けた環境整備を図る構えだ。

小泉進次郎環境相は3月5日の閣議後会見で、温対法改正案に言及し、「再エネの倍増を目指して取り組んでいる中で、実際に大きな鍵を握るのは自治体だ」と指摘。その上で、「今回の温対法の改正で再エネ促進区域を新たな制度として位置付ける中で、その法律を誰が使うのかといえば、自治体になる」、「(法改正の内容を)自治体に対してしっかりと伝えて、活用のための助言も含め、自治体の皆さんと一緒に取り組んでいきたい」、「自治体と組まなければ、再エネ倍増も、エネルギー基本計画も、さらなる再エネを導入をするという結果も出すことができないと思う」などと述べ、自治体の重要性を重ねて強調した。

地域の自治体が主体となり温暖化対策と経済活性化の両立を目指していくのか

環境省はかねて「地域循環共生圏」を温暖化対策の柱の一つに掲げ、地方の自治体や企業が相互連携しながら環境対策に取り組み、それを地域経済の活性化へと結び付けていく政策を展開してきた。今回の温対法改正案は、その共生圏の取り組みを法制度面からサポートするものといえる。現在、地域密着でエネルギーインフラ事業を営むガス会社や石油販売会社の役割が高まるのは間違いなく、自治体と協力しながら再エネ事業展開をどう図るのか。今後の動向が注目される。

【記者通信/3月4日】大和証券がFパワー売却か 情報通信H社と水面下の交渉


前期決算で黒字回復した新電力大手のFパワー(東京・芝浦、埼玉浩史会長兼社長)。今冬に発生した日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰のあおりを受け、再び苦境に立たされているようだ。 同社の決算期は6月のため収支状況がまとまるにはしばらく時間がかかるが、ほかの新電力同様に相当の損失が発生する可能性があるという。

そうした中、筆頭株主の大和証券グループが主導する形で、他事業者への売却を軸にした経営再建策の検討が進んでいることが、関係筋の話で明らかになった。「売却候補先として情報通信関連事業を手掛けるH社が挙がっていると聞いている」(Fパワー事情に詳しい関係者)。モバイル機器販売などのプッシュ型営業で定評のあるH社では、複数の新電力を系列に抱えるなど、エネルギー事業への参入を積極的に推進。かねてFパワーに関心を示していた経緯もあり、社債発行の幹事会社などを務める大和証券グループとの間で、水面下の交渉が行われているもようだ。

埼玉氏をはじめとする現在の経営陣はどうなるのか、200人に及ぶ社員の扱いはどうなるのか、需要家側の反応はどうなのか、何よりも今回の市場暴騰などによる負債をどうするのか。いずれにしても、大和証券グループによるFパワー再建の先行きは前途多難の様相だ。

【記者通信/3月3日】米テキサス州の電力高騰問題にみる日本への示唆


2月半ばに記録的な大寒波に見舞われた米テキサス州。氷点下の寒さで暖房需要が急増した一方で、凍結による発電所の停止で電力需給がひっ迫し、送配電網を管理するテキサス州電力信頼性評議会(ERCOT)は2月15日未明から18日にかけて輪番停電に踏み切った。

この需給ひっ迫は、電力価格の高騰をもたらした。リアルタイム市場価格が4日間に渡って上限の1MW時当たり9000ドルに達したのだ。注目されるのは、「エネルギー価格は供給の不足を反映する必要がある」として、テキサス州公益事業委員会が9000ドルに到達していなかった時間帯も含めて上限価格で精算するようオーダーを出したことだ。インバランス料金にkW時200円の上限を設け、スポット価格の高騰に歯止めをかけた日本とは反対の措置だと言える。(参考:https://www.puc.texas.gov/agency/resources/pubs/news/2021/PUCTX-REL-COLD21-021521-EMERGorder-FIN.pdf

120万件以上の需要家で停電が発生したテキサス州大手電力会社のセンターポイントエナジー社

ただ、その爪痕はあまりに深い。3月1日、同州最大の電力小売事業者であるブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻している。ブラゾス社は、16の公益事業会社を通じて州全体で66万件を超える顧客に電力を供給しているが、現地報道によると、電力価格の急騰に伴い30億ドル以上の債務を抱えることになったという。また、市場連動プランを契約している一般家庭の中には、大寒波の最中の数日間だけで電料金が50万円以上に跳ね上がったケースが続出しているもよう。ひどいところでは、請求額が180万円に達した利用者もみられた。

電力危機による経済的な損害は小売り事業者や利用者に限ったことではない。ERCOTはブラゾス社に対し担保金など21億円を請求したが、このうち18億円が未払い。同社のみならず、こうした小売り事業者の債務不履行により、ERCOTから発電設備への支払いに必要な原資も約13憶ドル不足しているとのことだ。小売り、送配電、発電、そしてもちろん消費者に至るまで、異常気象に伴う需給ひっ迫と価格高騰によって、誰かが著しく高い利益を得たとは言い難い。

ともあれ、バイデン政権が「大規模災害宣言」を発出したテキサス州に比べれば、年初の日本を襲った寒波は「数年に一度」のレベルであり、事態の深刻さは比較にならない。しかし、そうした状況下で電力不足による全国的な需給ひっ迫が発生。日本卸電力取引所のスポット市場価格とインバランス料金の高騰が長期間にわたって続いた。その影響で、電力小売り事業者の多くが苦境に立たされ、特に大手新電力では軒並み3桁億円に達する損失が発生したとみられる。

「2020年度決算の通期見通しや経産省作成の資料、関係者の話などを踏まえると、九州電力など大手電力会社の送配電部門も収支状況は悪そうだ。おそらく、最終的に利益を手にしたのは発電事業側だろう。いずれにしても第4四半期の決算が発表される5月ごろには、小売り、送配電、発電の各事業者の収支実態が明らかになるため、市場高騰による影響度合いの検証はそこから本格的に進むのではないか」(電力業界関係者)

今後の検証作業においては、対処療法的な議論に終始せず、テキサスの状況もしっかりと見極めた上で市場の在り方や制度の抜本的な改善につなげるべきだろう。

【目安箱】朝日「炎上」で再確認 科学に基づく原発事故検証を


朝日新聞の記者が2月17日に書いた記事がSNSで「炎上」した。

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から、3月10日に10年が経過する。その特集の一環で、朝日新聞は「双葉病院、50人はなぜ死んだ 避難の惨劇と誤報の悲劇」という記事を発表した。これに問題があった。

この事件は、原発事故の際に双葉病院(福島県大熊町)に入院していた高齢者を中心にした患者の避難が遅れ、医療機器などが使えずに50人ほどが亡くなった出来事だ。政府事故調査報告書によれば、大熊町が避難完了と誤認し231人の患者が大半の医療スタッフがいなくなった病院に取り残された。政府による突然の避難指示と、自治体の準備不足などで大きな混乱が生じたことが原因だ。事後的に言えることだが、この事故による放射線量では、健康被害は生じず、急いで避難する必要はなかったとみられている。

しかし、この記事では、「自衛隊や警察が放射性物質に阻まれて救出活動ができなかった」と事実を歪曲して報道。さらに執筆者の記者がなぜか防護服を着て双葉病院跡地を訪れ、その写真と映像を記事に使った。同記者は、過去にツイッターで、「科学を振りかざして、これが真実と言われてもね」と、原発の放射性物質の処理水について、他紙の冷静な報道を批判していたことも、SNSで掘り出された。取材対象に「寄り添う」と強調しながら、大量の批判に弁解を続け、さらに炎上する悪循環に陥ったのだ。

朝日新聞は放射能の恐怖を誇張した「プロメテウスの罠」という連載記事を2016年3月まで連載し、東電の社員が原発事故を際に逃げたという誤報を出した後で謝罪する騒ぎを起こした。同紙が事実に基づかないイデオロギー的な報道をして社会を混乱させるという、同じ失敗を繰り返すのは、組織として何も反省していないからだろうか。

◆過重な対策をもたらした「情報汚染」

東電の原発事故を巡り、誇大情報の拡散とそれによる恐怖の醸成、さらにメディア報道による混乱の助長は本格的に検証されていない。この原発事故で、放射線による健康被害は起きないと、直後から予想され、実際に10年経過して起きていない。その主張は、政府や国連科学委員会、国際保健機関(WHO)などが事故直後に公表したように医学や放射線学、他の原子力災害の調査に基づく科学的な根拠があった。

しかし過剰と思わざるを得ない放射線防護策が取られ続け、風評被害もなかなか消えない。当時の民主党政権によって、科学的根拠のない「年1ミリシーベルト」の被曝基準が設定され、除染、避難、食品検査が行われた。また避難指示の解除が遅れ、それによって東電の補償も巨額になった。その後の自民党政権も同じ政策を続け是正しない。一連の政策は民意を反映したものだが、その民意はデマや社会に満ちた恐怖に影響を受けている。いわば「情報汚染」が、政策に影響を与えてしまったといえよう。

こうした政策は、費用や手間に見合った効果があったかも疑わしい。福島県内の原発事故関連死は今年2月までに2317人。また福島事故の費用総額は経産省の見積もり(2016年)で21兆5000億円に上る。事故対策と福島復興を行うべきなのは当然だが、過剰な避難で健康被害が発生し、さまざまな放射線防護策で支出が巨額になってしまったわけだ。対策費は国民の税金と電気料金から支出される。

福島事故の混乱でまず批判されるべきは事故を起こした東京電力と、対策を誤った政府である。しかし二次災害と言える混乱を引き起こした情報汚染の責任の一部は、誇大情報の拡散者が負うべきではないか。そのきっかけを作ったのが、既存のメディアだと考える。

◆感情に流されない、「錨」としての科学

筆者は原発事故の後の2011年秋に、事故を巡って歪んだ情報をばら撒いていたある雑誌経営者に「評判を落とすからやめたほうがいい。科学的知見は大量に出ており、簡単に間違いを検証される」と、忠告したことがある。すると、彼は私に「原子力ムラの肩を持つのか。原発は悪だ」と激昂した。感情で物事の是非を論じる人の危うさを感じ、それ以降、彼に近づくことをやめた。朝日新聞記者の態度とよく似ている。正義である自分への批判は許さないし、それゆえに問題があっても是正しないのだ。

しかし現象は、見る人によって解釈を変えてしまう。ある人の掲げる解釈、例えば「正義」を、他の人が受け入れるとは限らない。そして解釈には感情が影響を与えてしまう。荒海のように、現象が押し寄せる現実の世界では、感情によって行き当たりばったりの解釈や、それに基づく判断をすると、人は容易におかしな方向に漂流し、溺れてしまう。

現実の荒海の中で、人を支える錨の役割をするのが「事実」であり「科学」であろう。それに基づき、解釈と是非の判断を行えば、現実から離れてしまうことも少なくなる。放射能と健康の関係について、医学や放射線学の知見はこれまでもあり、今も福島で検証が続いている。そうした事実を尊重して、この原発事故に向き合うべきだ。

東日本大震災と福島原発事故から10年。これを機に、メディア関係者はこれまでの報道を改めて検証すべきだろう。その際、科学的な知見は重要な意味を持つ。失敗した原因を示す道具にもなるはずだ。一つの考えに凝り固まった人を落ち着かせるのは難しいが、今からでも遅くはない。客観的な科学の力を使えば、原発事故後の失策は少なからず是正できるはず。そう信じたい。

【記者通信/2月19日】炭素価格付け議論が本格始動 気になる炭素税導入の可能性


1月中旬の施政方針演説で、菅義偉首相が「成長につながるカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)に取り組む」と表明したことを受け、経済産業省と環境省でそれぞれ議論がスタートした。経産省に先駆け、環境省はCPに関する小委員会を2月1日、1年半ぶりに再開。初回は、賛成派、反対派がこれまで通りの主張を繰り返しただけで時間切れとなった。「手法ごとの課題や、成長に資するかどうか、間口を広く検討していく」(環境省幹部)と、方向性は決め打ちしないと説明。1日の会合で「CPを今年の最重要課題に位置付けたい」とあいさつした小泉進次郎環境相も、具体的な手法や考え方には言及していない。ただ、一部では炭素税導入を狙い、夏の2022年度税制改正要望を目指しアクションを起こすのではないか、と見る向きがある。

経産省は足元の導入には否定的だが・・・

一方、経産省も研究会を新設し、17日に初会合を開いた。CPには炭素税や排出量取引制度以外にも、①非化石証書やJクレジット、②石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税、③FIT(再エネ固定価格買い取り制度)、④エネルギー供給構造高度化法(高度化法)や省エネ法といった規制――などさまざまな手法があると強調。これらのポリシーミックスで、短期、中長期と時間軸を意識し、企業に負担のない形で脱炭素化に向けた行動変化を促す仕組みを考えていく。「現在は脱炭素技術の選択肢が少なく、大型の税を入れても企業の逃げ場はない」(経産省幹部)と、短期的な炭素税導入は否定する。だが、長期的な考え方はまた違うようだ。

両省の審議会では、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する国境調整措置の扱いも論点となる。EUが具体的制度設計を進め、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的に動きが出ている。国境調整措置を導入した場合、炭素価格が低いと相手国に判断されると不利になる。日本の場合、公式的な炭素価格とされる地球温暖化対策税(温対税)の税率は、CO2t当たり289円と高くはない。何を炭素価格とカウントするかはまさに今後の議論だが、経産省幹部も将来的に炭素税導入を検討する可能性については明確に否定しなかった。

カーボンニュートラル政策の影響に警戒も

昨年、エネルギー特別会計改正法が成立し、化石燃料の安定供給対策や温暖化対策などの財源である「エネルギー需給勘定」から、原子力政策の財源である「電源開発促進勘定」への繰り入れが可能になった。これについては、福島復興事業や廃炉対策の費用がかさむ中、新たな財源としての炭素税導入に向けた布石ではないか、との見方があった。この仕組みを、将来的に活用するようになるのだろうか。

だが、あるエネルギー業界関係者は、財源不足は慢性的な問題であり、炭素税を取ることで日本の税収が減ったら元も子もなくなると、警鐘を鳴らす。「政府はカーボンニュートラル政策に巨額予算をつぎ込むが、失敗したら借金が残る上、その時にはエネルギー多消費産業は疲弊している。しかもこの政策で生まれる商品は、飛ぶように売れるものではない。日本が輸出先として見るべき東南アジアやインドなどがCPを入れない限り買ってもらえない。本当にマーケットが取れるのか、よく議論する必要がある」と強調している。

【目安箱/2月18日】ツイッターから消えた 大手電力関係者の本音


短文投稿のS N S、Twitter(ツイッター)で、奇妙な出来事が2月の初めに起こった。いわゆる大手電力会社の中堅社員と思われる3~4人の匿名アカウントが突如発信を取りやめたのだ。書き込みでは、今のエネルギー政策への不満や、大手電力の人々が感じる被害者意識が、本音で語られていた。一体、何があったのか。

ツイッターはアカウントを登録すると、匿名で書き込みができ、フォローをした人の発言が画面に流れてくる仕組みだ。ここには「電力クラスター」と呼ばれる電力関係者らの集まりがあり、削除されたアカウントの中には1万人近くにフォローされているものあった。いずれのアカウントにも共通するのは、今冬の電力需給ひっ迫・価格高騰問題が、電力自由化での制度設計の失敗や原発停止、再生可能エネルギー偏重などによるものと指摘。そして電力自由化を主導した旧民主党政権、問題を是正しない自民党政権の政治家と、経産官僚や(旧電力の社員から見たところの)新電力の「ずるさ」を批判していた。

この削除に、ネット上では経産省が圧力をかけたのではないかという憶測が広がった。経産省筋は「あり得ない」と、その憶測を一笑に付したが、一方で「大手電力の関係者には相当不満が溜まっていたようだ」と感想を述べた。ある既存大手電力の総務部が、ツイッターなど外部への情報漏洩の注意を呼びかけたようで、それに応じて社員が自主的に発信を取りやめたらしい。

ただしこの騒動で、考えるべき問題点がある。大手電力の関係者が行政当局、会社、そして新電力など電力業界をめぐる諸状況に怒りや不満を貯め込んでおり、それがツィッターで可視化されたということだ。東京電力の福島第一原発事故、そしてそれをきっかけに社会に広がった大手電力批判、さらには電力自由化という激動に、電力業界とそこで働く人々は巻き込まれた。その過程で、鬱憤(うっぷん)が溜まっていたのだろう。

大手電力に根付く建前と本音の構図

「自分には責任のない電力の激動に巻き込まれ、私は苦労させられている。電力会社は、かつてはどの地方でも、どの産業からも尊敬され、大切にされた。電力産業は国の根幹で、それを担う誇りも持っていた。ところが今は、原発事故の責任を負わされ、批判される。経産省は新電力の肩を持ち、新電力は理不尽な要求で会社の財産権を侵害する。それなのに気候変動、脱原発、安定供給の各種対策など、責任と負担ばかり押し付けられる。給料は増えないのに残業だけ増える。私たちは政治や役人のおもちゃではない。怒らない会社の上層部もおかしい。やっていられない」

発信を停止したアカウントには、要約するとこんな発想で貫かれた投稿が並んでいた。大手電力の社員はいわばエリートで、属する会社の社風も真面目だ。不満を表立って言えない「建前」の強い組織にいる。電力業界を取材すると、社員からは最初に「建前」の話を聞くが、何度も会い、仕事以外の場で本音を聞くと、今の仕事への苦しみや不満の本音が出る。その本音と同じものが、ツイッターの一連の投稿から垣間見えた。

もちろん、このように要約した大手電力の中堅層の本音は、全てがそうだとは思えないし、立場が変われば別の意味を持つだろう。例えば、経産省や新電力の人からすれば、「既得権益を使う人の甘え」と受け止めるかもしれない。ただし「自分たちの声が聞いてもらえない」ことから発する不満が大手電力で働く人々の間で渦巻いているのは間違いない。

そうした不満や苦しみは、同情する点はあるし、その通りと思えるところもある。最近の原子力政策、電力自由化では、当事者の電力会社の意見はなかなか聞かれず、政策の変更を政治家と経産省、原子力規制庁が主導した。それによる電力ビジネスの現場では、現実を理解していない政策による混乱が確かにある。

かつては電力業界から行政への提言や政治へのロビイングは東京電力、電事連が担った。政治家の選挙協力や役所から電力業界への「天下り」もあり、電力と行政の意思疎通は、それなりにあった。ところが3.11以来、そうした業界と、政治・行政の交流は、社会から批判を受けたり、一部の政治家が攻撃したりしたことで、ほとんどなくなったとされる。行政の審議会では大手電力の幹部がオブザーバーとして顔を出すものの、建前だけが話され、現場の人々の本音はなかなか伝わらない。

現場を尊重しない行政主導は不健全

電力業界をめぐる状況は、3.11以前と今では大きく変わってしまった。時計の針は元には戻らない。かつてのような行動を大手電力はできない。以前はあったとされる「みんな仲良し」の電力業界の雰囲気が戻ることはないだろう。

しかし、今のように大手電力で働く社員の意見が尊重されない政策、業界の姿は健全とは言えない。今も電力産業を主導するのは既存の10電力で、そこで働く約18万人の従業員が業界を動かしているのは紛れもない事実だ。実務を担う人々を大切にしない政策は必ず行き詰まるし、産業を大切にしなければやがて利用者が損をする。今のように電力業界内がギスギスして疑心暗鬼に満ちれば、無意味な摩擦やトラブルも事業者間、事業者対消費者、事業者対行政でさらに増えるだろう。かつての「みんな仲良し」的雰囲気が懐かしがられるかもしれない。

電力で働く人々の声を聞き、それを尊重する。無意味な批判はやめる。ツイッターでの小さな騒動が示した重要な問題を、エネルギーに関わる人も、消費者も、考えるべき時かもしれない。

【記者通信/2月16日】北米で電力不足・価格高騰 大寒波で火力燃料制約も


北米の広範囲が異例の大寒波に見舞われている。厳しい寒さで暖房需要が増大する中、南部のテキサス州では風力発電所のブレードやタービンの凍結や燃料制約によるガス火力発電所の停止により電力需給がひっ迫。これに伴い15日午前には、同州の電力スポット価格が上限の1MW時当たり9000ドルを突破してしまった。

ダラスやヒューストンなど広範囲にわたり計画停電が実施され、同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、厳しい気象状況が緩和されるまで計画停電が継続される可能性があるとして需要家に可能な限りの節電を要請しているという。

厳しい寒さと燃料制約による需給ひっ迫――。どこかで聞いたような話だ。そう、日本においてもLNG不足による需給危機が1月に起きたばかり。自家発への発電要請などあらゆる手段を講じ停電は回避したが、テキサスでは自家発の立ち上げやDRなどを実施しても不足し、大寒波に襲われているにもかかわらず停電せざるをえない状況に陥ったという点で、日本よりもよっぽど深刻な状況だと言える。電力自由化の先進地であるテキサス州も、厳寒で20GWもの火力発電所が停止することまでは予想できなかったようだ。

アナリストは、「発電事業者は、ガスパイプラインを使用する権利をノンファームで押さえている。寒さでガスの需要がパイプラインの供給能力を超えてしまい、燃料を供給できなくなってしまった」と、テキサス州の燃料制約の理由をこう説明する。別の学識者は、「テキサスが容量市場を持たない『エナジーオンリーマーケット』であることも背景にあるのではないか」と話す。需給ひっ迫時には卸電力価格を人為的にスパイクさせることで電源への投資を呼び込む考えに基づいているが、実際は、風力の導入拡大に伴い厳気象時の頼みのはずの石油火力が退出してしまった。何度か容量市場導入の議論は持ち上がってはいるものの「社会主義的だ」として政治家によって潰されてきた経緯がある。他方、北米最大の独立系統運用機関であるPJMは、容量市場を導入し予備電源として石油火力を備えているためこうした危機には強い。

電力業界関係者からは、「一部の学識者や新電力関係者が世界的に長時間に渡る市場価格高騰など起きていない。日本の1月の市場価格高騰は世界的に類のない極めて異常な『災害級』の事象だと主張していたが、そうではないということがこれではっきりしたはずだ」という声も聞こえてくる。特に今年は、世界的な低気温で英国やベルギーなど各国で400~500円/kW時の値を付けている。日本の200円など低い方だというのだ。

いずれにしても、自由化の進展度合いに関係なく、再エネが発電しない時には火力に頼らざるをえず、その火力は燃料がなければ発電できないのだ。電力システム全体として安定供給をどう維持していくのか。海外事例もよく検証しながら日本固有の課題も踏まえた上で電力システムを再構築していく必要がある。

IDIインフラで内紛劇 埼玉氏らが大和証券を提訴


エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズ(荒木秀輝社長)を巡り、50%株主である埼玉浩史氏らのIDIグループと、残り50%を出資する大和証券グループ本社による内紛劇が起きている。
新電力大手Fパワー(埼玉会長兼社長)の株主であるIDIインフラの社長はもともと埼玉氏が務めていたが、昨年10月30日の取締役会で、大和側の役員が埼玉氏の善管注意義務違反などを理由とした緊急動議で社長を解職。後任に大和側の荒木氏が就いた。
埼玉氏らIDI側は、解職の前提となった外部調査報告書が「恣意的で不合理」と指摘。独自に実施した内部調査などをもとに11月24日、大和証券と役員を相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたのだ。今年1月18日に初の口頭弁論が行われた。
なぜ、こうした事態になったのか。関係者によれば、Fパワーが2年前に大幅赤字となった後、大和側が同社を減損処理したことが背景にあるという。IDIインフラに社長を送り込みながら連結対象から外していること自体が不可解だ。訴訟裁判の行方はいかに。