1.電力暴騰はなぜ起きた? 大手が超高値を主導か
今冬の電力業界を襲った日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰問題を巡り、大手電力会社の小売り部門などが1月初旬から約3週間にわたる超高値局面を主導した実態が明らかになってきた。
JEPXが公開した売り買い入札状況を見ると、需給ひっ迫の影響で売り札不足が続く中、システム上の最高値であるkW時999円でまとまった量の買い札(グロスビディング=取引所を介した自社取引=など)が入っていることが分かる。これが約定価格の押し上げに大きな影響を与えた格好だ。中堅新電力の幹部A氏が言う。
「これだけの規模で最高値入札ができるのは、大手電力会社や大手エネルギー会社系の新電力しかない。聞いている話では、1月初旬に親会社からの供給がストップしたT社のみならず、K社やC社、E社なども供給力確保のため軒並み最高値で入札した。インバランスは絶対出してはいけないという意識が小売り事業者全体に根強くある中、大手の動きのあおりを受け、中小の新電力も損失覚悟で高値入札を余儀なくされ、資金難、経営難に陥ってしまったわけだ。その意味では100%経営責任とは言い切れず、国に対して救済措置を求めたくなる気持ちはよく分かる」
気になるのは、別の電力関係者B氏によると、12月中旬、大手の間では「電力不足によって今後スポット市場が高騰する公算が大きいため、先物市場の活用も」との情報が駆け巡っていたということ。真偽は定かではないが、中小新電力が異口同音に訴える「情報の非対称性」が明暗を分けた可能性は否定できない。
経産省が取り組む取引市場のルール見直しがどう行われるのか。公正性・透明性確保の観点からも注目される。
2.異色のTF委員H氏 提言巡りSNSで論戦
菅義偉首相肝いりで誕生した、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」。脱原発を掲げる河野太郎・規制改革担当相の意を汲んだ環境派の委員が名を連ねていることから、「議論が再エネ事業者側に偏っている」(大手電力関係者)との批判も多い。
再エネ規制TFは菅首相の肝いりで発足
だがTFには、ほかの委員とは一線を画す異色の経歴を持つ人物がいる。元経産官僚のH氏だ。H氏は経産省では大臣官房企画官や中小企業庁に在籍した後、第一次安倍政権や福田政権では規制改革・行政改革担当相補佐官も経験。現在は政策コンサルティング業を営んでおり、政界とのつながりも深いとされている。
そんな中、H氏のSNSでは、TFの需給ひっ迫問題に対する緊急提言を巡り、エネルギー業界への造詣が深い元官僚のI氏と数日にわたり熱い議論が交わされている。
議論は安定供給を担保した上でのエネルギー供給体制を構築すべきだという点では意見が一致したものの、最大の論点であるTFの提言が新電力救済策なのかという点や、電力ひっ迫における発電事業者の責任問題については意見が収束することはなかった。
「間違いなく優秀な人だが、経産官僚とはいえエネルギー政策とは無縁の道を歩んできた。エネルギー業界の実態を分かっておらず、発言内容も振り付けた役人の意のままなのだろう。ほかの委員は既に色が付いている人々なだけに、H氏にも変な色が付いてしまうのでは」。H氏をよく知る元官僚はそう語っている。
改善すべき政策は当然あるとはいえ、薄氷の上をいくエネルギー産業が、素人考えで崩壊してしまっては元も子もない。地に足のついた現実味ある議論を期待したい。
3.大手紙にベテラン不足 迫力を欠くエネ関連記事
東日本大震災と福島第一原発事故を契機に、日本のエネルギー政策は再エネ主力化に大きくかじを切った。そんな歴史的な転換点から10年という節目が近づいているにもかかわらず、大手5紙では目を見張るようなエネルギー関連の特集は見当たらない。
「五大紙にこの10年のエネルギー業界を見続けてきた記者がほとんどいない、という事情からだろう。若手・中堅記者も、柏崎刈羽原発やほかのBWR(沸騰水型炉)の再稼働、あるいは福島第一の処理水処分問題で何か動きがあれば書きようがあるのかもしれないが、年が明けても硬直状態が続く。だから10年関連の記事は復興の内容に偏って、今この国が抱えるエネルギー・原子力問題を深掘りする記事がない」(エネルギー業界関係者)
ベテラン記者はほとんどいない(朝日新聞)
東日本大震災以降、全国紙でエネルギー問題を担当し続けてきたベテラン記者は、N紙のM氏やT氏、S紙のI氏ら、ごく少数だ。そして彼らの後継者も育っていない。これでは、10年の歩みを振り返ろうにも限界があろう。
週刊経済誌もかつては原発問題で特集を組み、メーカーと経産省の関係性や、司法などの切り口で報じてきた。が、原発特集は人気がなく、掲載すると販売部数が減る。それで、今は脱炭素化ばかり目立つようになっている。
この10年でエネルギーシステムは大きく変革し、自由化、強靭化の課題がさまざまな局面で顔を出してきた。そんな問題意識を、全国紙でもぜひ読者に伝えてほしいものだが……。
4.メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側
九州K県を拠点とするK電力と、同社に電力を卸供給してきたF社との間でトラブルが生じ、需要家を巻き込んだ騒動に発展している。
2月初旬、F社がK電力と小売り契約を結ぶ需要家に対し、契約上の地位移転により今後はF社傘下の「新K電力」が供給する旨を通知。すると、即座にK電力がそれを「迷惑メール」だとして、返信しないよう要請したのだ。その後も、双方がそれぞれの言い分を主張するメールの応酬を繰り返したため、需要家は混乱の渦に陥ってしまった。
今回の騒動は、K電力の資金繰り悪化で事業継続が困難になっていたことが発端とみられる。F社がウェブ上で公表した経緯説明によると、当初は従来通りの料金水準で電力供給を継続することを目指し、資本業務提携を締結することでK電力代表取締役であるT氏と合意していた。
ところが、K電力側の事情で資本業務提携が困難に。T氏側から地位移転の申し入れがあり、これに伴い契約切り替え(スイッチング)に必要な需要家情報の提供も受けたという。
双方の主張はどこで食い違ってしまったのか。考えられるのが、この経緯説明に登場する「事業者B」の存在だ。K電力は、このBからの借り入れに対し同社の株式を担保として提供。返済できないまま、この事業者Bが担保権を実行したとみられる。K電力の企業サイトを確認すると、代表取締役はT氏のままだが、実質的な経営権はこの事業者Bに移っていると考えるのが妥当だろう。
業界関係者は、「F社はあくまでも卸決済サービスの提供会社であって小売事業に興味があるとは思えない。なぜこのような事態になっているのか」と首をかしげる。
自由化された市場では、契約トラブルが起きることは十分に想定できる。とはいえ、巻き込まれる需要家にしてみればいい迷惑としか言いようがない。今後、経営難に伴う事業からの撤退や譲渡があれば、こうしたケースが増えることは大いにあり得る。事業継承や譲渡における手続きの明確なルール化も求められそうだ。
5.第2再処理工場の建設 T電力OBが断念主張
自由化による収益減や原発安全対策費用に頭を痛める電力業界。建設費用が想定を超えた六ヶ所再処理工場を軸とする核燃料サイクルは、「重い負担」となりつつある。
さらに頭痛の種が使用済みMOX燃料だ。昨年12月、電気事業連合会は使用済みMOX燃料の再処理について「取り組みを強化する」と国に報告した。福島事故後も国・業界は全量再処理路線を維持。使用済みMOX燃料を再処理する「第2工場」についても、本格的な検討を始めざるを得なくなっていた。
しかし、第2工場の建設費用は、約3兆円の六ヶ所工場を上回りかねない。「つくってはいけない。直接処分すべきだ」。こう強調するのは反原発派関係者ではなく、T電力の有力OB。こんな声が、電力関係者の間でこれから増えるかもしれない。