【記者通信/9月10日】再稼働容認も新増設は否定 河野氏の考える原発政策の本質


河野太郎規制改革担当相は9月10日、国会内で会見を行い、自民党総裁選への立候補を正式表明した。「国民の皆さんに共感していただける、人が人に寄り添う温もりのある社会をつくっていきたい」「皆で相談をして、皆で決めて、皆で実行する。そういう政治の原点に戻って、皆を支えていく国家をつくっていきたい」。河野氏は冒頭、自らの政権樹立に向けた抱負を提示。この日発表した政策パンフレットの中で、「5つの主張と政策」として、①命と暮らしを守る政治、②変化の時代の成長戦略、③新しい時代のセーフティーネット、④国を守り、世界をリードする外交・安全保障、⑤新しい時代の国のかたち――を掲げた。

エネルギー政策の観点で注目されるのは、②の中で、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策をすすめます」と明記したことだ。関係者によれば、「安全性が確認された原発をある程度再稼働させていくことを念頭に置いている」。こうした事情を背景に、会見では「持論である原発ゼロから考え方が変わったのか」との質問が出た。

現実的なのは新増設ではなく再稼働

これに対し、河野氏は「いずれ原子力はゼロになると思っているが、カーボンニュートラルを2050年までに達成して、気候変動を抑えていこうとすると、まず石炭(火力)、石油(火力)から止めていかなくてはならない。いずれは天然ガス(火力)からも脱却しなくてはならない」と指摘。その上で「一つは、きちっと省エネをやる。そして、もう一つは今度の(第六次)エネルギー基本計画案にもあるように、再生可能エネルギーを最大限・最優先で導入していく。それでも足りないところは、安全が確認された原発を当面は再稼働していく。それが現実的だ」と述べ、再エネを補完する電源として原発を位置付ける考えを示した。

一方で、原発の新増設については「現時点で現実的ではない」と明確に否定。河野政権が誕生した場合、エネ基案に盛り込まれている「(原子力では)必要な規模を持続的に活用していく」との文言が修正される可能性に含みを残した格好だ。50年カーボンニュートラル実現に向けての軸足が再エネになるのは確実で、原子力政策は一大転機を迎えることになりそうだ。

「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策とは、あくまで当面のことであり、中長期的には国民が安心できない非現実的なエネルギー政策へと向かう恐れがある。そもそも小泉政権時代から、わが国の核燃料サイクル政策に一貫して反対し続けてきた河野氏の考え方の本質は何も変わっていないことを、エネルギー関係者は今一度確認しておく必要がある」(元大手電力会社幹部)

現実的なエネルギー政策」の裏側

一部週刊誌が報じた通り、河野氏は8月24日に行われた第六次エネ基案を巡るオンライン会議で、資源エネルギー庁幹部に対し毒舌を吐きまくった。

原発を今後も使い続けますみたいな記載は落としたのか」「原発を可能な限り低減するという大原則があるんだから。可能な限り低減するように努めないとだめだ」「(原発は)一定程度頑張んないよ。可能な限り低減するんだから。まずそれがありきだろうが」「原子力は北朝鮮のミサイル攻撃に無防備だと、日本は使用済み核燃料を捨てる場所も狭くてないと、全部書けよ」「使用済み核燃料が危ないのは、自明の理じゃないか。北朝鮮がミサイルを打ってきたら、テロリストから攻撃受けたらどうするんだ」「原子力が危ないと。使用済み核燃料を捨てる場所はないと。地層処分も出来る見込みがないと。書けばいいじゃないか。(エネ庁は)なんでそんな恣意的な記載ばかりやってるんだ」――。

これが、「現実的なエネルギー政策」の公約に隠された河野氏の本質といえよう。

電気事業連合会の池辺和弘会長は10日の定例会見で、第六次エネ基案について「(原子力では)今回も、将来におけるリプレース・新増設について明記がなく、依存度低減という記述も残されている。準国産資源で、CO2ゼロエミッション電源でもある原子力を持続的に活用するためにも、早期に明確なメッセージを出していただくことが必要」だと述べ、政府への要望に言及した。果たして業界の声は、総理候補となった河野氏にも届くのだろうか。

【記者通信/9月5日】再エネ2030年38%以上へ「KK包囲網」が鮮明化


「こんなに結果を出した総理はいないと思う。正当に評価されてもらいたい」。9月3日、菅義偉首相との会談後、涙ながらに記者団にこう語り、菅首相との一蓮托生ぶりをアピールした小泉進次郎環境相だが、午前中の閣議後会見では、地球温暖化対策本部が政府4案(地球温暖化対策計画案、パリ協定に基づく長期戦略案、日本のNDC案、政府のCO2削減実行計画案)の取りまとめを行った成果を強調していた。

会見の中で小泉氏は、エネルギーの側面から見た温対計画と長期戦略のポイントに言及し、「10年後には、電源構成の中で再生可能エネルギーが最大となる。(経産省のエネルギー基本計画案にある)38%が上限ではない」と指摘。その上で、カーボンニュートラルの資料に、再エネ比率36~38%は「上限ではない」の文言が付記されたことについて、「エネ基を見れば36~38%は上限ではないというのは文言としては書いてあるが、一般的に出回る電源構成別の数字の表に、それがないのはおかしい。その意見に対し、梶山経産大臣も最終的に前向きに受け止めていただいた結果だと思う」との見方を示した。

これは、一部週刊誌で既報の通り、河野太郎規制改革担当相が8月24日に行った資源エネルギー庁幹部とのオンライン会議で、エネ基の閣議決定を〝人質〟に、「(再エネ比率に関しては)日本語で36~38%以上と書くんだよ!」と要求したことと通じるもの。2030年電源ミックス目標における再エネ比率の実質引き上げに向けた〝KK包囲網〟が鮮明に浮かび上がった格好だ。

環境相就任以来の成果を自画自賛

小泉氏はまた、前回の8月31日会見に引き続き、カーボンプライシング(CP、炭素価格付け)導入の必要性を訴求。「昨日、官邸で行われた有識者会議で、私が一番印象的だったのは、経団連の十倉雅和会長がCPについて今まで以上に踏み込んで、前向きな発言をしたこと。間違いなく歯車が回り始めてきた。環境省が税制改正要望にCPをノミネートしたように、脱炭素を大きく進めていくための残されたピースがはまり始めた、そんな心強い頼もしい気持ちになりました」と、経団連の姿勢を評価した。

その上で、2019年9月に環境相に就任して以来の2年間を振り返り、「2年前に(温暖化対策が)これだけ進むと想像した人がいますか?日米が気候パートナーシップで一緒になって気候変動を語るようになり、2050年カーボンニュートラルで与野党が一致。CPについても、税制改正要望に盛り込まれ、経団連も前向き。企業による取り組みが一気に広がり、新しい再エネ推進交付金もできる。EVも今後100%にしていく道筋は立てた、エネルギー基本計画に再エネ最優先の原則ができた。この2年間で私自身もここまで来るとは思わなかった。これが日本の力だ」と力説しながら、自らの成果を自画自賛した。

【記者通信/9月3日】小泉環境相がCPで暴走!?舞台裏までぶちまけた異色の会見


8月31日に開かれた小泉進次郎環境相の閣議後会見では、2022年度政府予算の概算要求に関する質問が相次いだ。その中で、小泉氏は同省にとっての目玉であるカーボンプライシング(CP、炭素価格付け)について「年内に一定の方向性の取りまとめ」の文言を入れたことを最大限強調。CPに対する自らの思いを、48分間に及ぶ会見でこれでもかとばかりに語りまくった。CPは脱炭素化に貢献するのみならず、エネルギー安全保障やコロナ禍後の経済成長にも資するといった見解を次々に打ち出す一方、現行の石油石炭税に関しては「脱炭素時代に逆行している」とばっさり。菅義偉首相の辞任表明を前に暴走する“小泉劇場”である。

少々長くなるが、まずは会見におけるCP関連発言をとくとご覧いただきたい。

「省を挙げて不退転の決意で戦う!」

「CPについては、環境省は長年力強く取り組んできたが、ようやく(菅義偉)総理の指示の下、政府全体で検討する体制が整ったこともあり、今回の税制改正要望にCPをノミネートすることになった。環境省の事務方とは何度も、この件についてどう進めるかを議論した中で、私が非常にうれしかったのは、事務方の皆さんが『大臣、戦います』『不退転の決意でCPを進めていきます』と。省を挙げて戦うという宣言が職員からあったことを心強く思う」

「石油石炭税では(石油、天然ガス、石炭のうち)一番税率が低いのは石炭ということで、これこそ脱炭素時代に逆行している、象徴的な税目になっていると思う。政府全体として脱炭素型に政策を変えていく、その取り組みを、環境省を挙げて、不退転の決意でやっていきたいという職員の思いが私にも表明された。ということで、年内の取りまとめに向けて、しっかりと環境省を挙げてやっていきたい」

「炭素税という文言が入っていないのは、(CO2排出量の)取引とかクレジットとかを全部書くのではなくて、税制改正要望にCPをノミネートしたことが最大のポイント。しかも年内の取りまとめだと。そこもしっかりと文言に、最後に加えて、不退転の決意を環境省として示しているわけだ。先ほど、石石税の話をしたが、今でも既に脱炭素、そして再エネ最優先の原則を阻害するようなものがあるわけだから、それは直ちに変えていくべきだ。環境省の職員含めて、みんな同じような思いだ」

「EUは2026年という5年後を1つの目安にして、それで炭素国境調整措置などをやっていくと言っている。CPで大事なのは、長期的に見たら炭素価格が上がっていくという価格シグナルを出すこと。脱炭素の方向に早く移行したほうが負担は少なくなる。そのメッセージによって、企業、産業界を含めて、脱炭素へ行動を加速させていくのが大事なポイントだ。CPの議論をすると、コロナ禍で経済が傷んでいるときに何を言っているんだという声が上がるが、CPのことを全く理解されてないと思う。今日、明日の話ではなくて、2050年カーボンニュートラルに向けて、長期的なシグナルを打ち出していかなくてはならない、そのために不可欠なのがCPだ。むしろ今からコロナ後を見据えたときの経済競争力、産業競争力のためには今から議論をしておかなければ、方向性を決めておかなければ、到底カーボンニュートラルは実現できない」

「最後の最後にCPが加わったのは事実」

「CPは十分検討の余地がある。なぜなら誰の目でどう見ても、化石燃料からの脱却を日本も世界も目指しているのに、(現行の石石税では)化石燃料に一番得な税制になっている。石炭(の税率)が最も安くなっていることを説明する際に、よく言われるのが、これはエネルギー安全保障も含んでいるので、単純にCO2排出比例でこの段階(税率)になっているわけではないと。いや、エネルギー安全保障はほかの制度でやればいいじゃないか。石石税で合理的、科学的になかなか説明し難いような要素を入れて、階段をつける必要はない」

「エネルギー安全保障は重要だからこそ、再エネを最優先で主力電源にすることがエネルギー安全保障にも資するため、早く頭を切り替えてそちらに行かなければいけないとずっと言っている。しかし、その再エネ最優先の原則と主力電源化を阻害する一因が、化石燃料のほうが負担は低いということ。それをやっている限り、水素も再エネも社会に実装されないだろう」

「ポリシーミックスの形で位置付けているが、どれか一つだけで従来の延長線上ではない行動変容が起きるとは思わない。炭素税単独でも不可能。だから、環境省が今回施策として打ち出したのは、いわば政府全体の政策を脱炭素原則にしていくということだ。(例えば)中小企業向けの炭素削減対策としてCO2削減連動型の新たな補助金を盛り込んで、削減すればするほど得がありますよという形にした。エネルギー特会の補助金の使い方も、いかに早く排出削減型に変えていくか。それがCPの原則なので、どれか1つだけで解決する問題ではない。ただ、石石税をこのままにして再エネ最優先の原則と言えるかといったら言えない。一つ一つ変えていく必要がある」

「(概算要求を巡る省内調整の)最後の最後にCPが加わったのは事実だ。その過程で何があったか。(CPの)カの字に触れた瞬間から、経産省も産業界も、血判状を発動するというか、反対でつぶすという環境だと見ていたので、とにかく誰も怒らせないように、誰からも反対が出ないように、寝た子を起こさないようにという意識が非常に強かった。しかし、私の考え方では、むしろ反対なら反対だと表で言っていただきたい。でないとCPの必要性や課題が世の中の多くの方に共有されないだろう。だから、もし反対なら表で言っていただいて構わない」

「さらに掘り下げていくと、EUのように、本格的にCPを導入して日本よりも炭素価格がかなり高い国であったとしても、鉄鋼とか配慮が必要なところに対しては無償割り当てなどの配慮をした上でやっている。そうしたことを抜きに、CPを持ち出すだけで反対するということにおびえていては、世の中の行動変容を起こすようなものは実現できない。そんな議論を環境省内でたびたび行い、最終的には『年内に一定の方向性の取りまとめ』という、もともと書いてあることを遠慮せずに書くべきだという認識にいたったわけだ。『われわれを戦わせてください』と職員の側から声が上がったので、『今から(説明資料の)差し換えになるけど、よし、その意気込みで一緒に戦っていこう』ということになったのが、事のてん末だ」

梶山経産相は同日の会見で言葉少な

環境省から突き付けられた「不退転の挑戦」に対し、「脱炭素逆行」のレッテルを貼られた石油石炭税を所管する経産省は、どんな対応を図るのか。31日の閣議後会見を見ると、梶山弘志経産相はわずか11分で会見を終えるなど言葉少な。概算要求については、「世界的には、社会課題の解決に、新たな成長分野となっているわけだが、今後の国際競争に打ち勝つために、環境、エネルギー、経済安全保障といった課題を解決しつつ、中長期的に新たな付加価値を獲得し、成長し続けられる産業構造へと転換をしていきたいと考えている」と述べるにとどまった。今後の巻き返しが注目される。

【記者通信/9月1日】CPで勢い付く小泉環境相 経産省と形勢逆転の様相も


環境省が2022年度税制改正要望に、カーボンプライシング(CP)について踏み込んだ文言を盛り込んだことが、波紋を広げている。当初の資料にはなかった「(政府が)年内に一定の方向性の取りまとめをすべく」との一文を最終版に追加。環境省と経済産業省の事務方の間で調整した内容にはこの一文はなく、小泉進次郎環境相の土壇場の指示によるものと見られている。

環境省はこれまでの税制改正要望では、CPについては「専門的・技術的な議論が必要」といった表現にとどめ、具体的な要望には盛り込まなかった。産業界関係者からの反対意見は根強く、同省事務方は長年重ねてきた議論をぶち壊すことは望ましくないとの考えだった。

一方、小泉氏は昨年末の会見で「来年(21年)の最大の目標はCPを前に進めること」と述べるなど、議論の前進に意欲を見せていた。今年初旬から環境省と経産省はそれぞれ、50年のカーボンニュートラル実現を見据えたCPの議論を始め、夏までに中間整理をまとめている。環境省の中間整理はこれまで同様に両論併記となったものの、引き続き議論を重ねて年内の取りまとめを目指すとしている。

そんな中での税制改正要望の書きぶりに、産業界の関心が集まっていた。「いついつまでに税制のグリーン化の方向性を示すなど、期限を区切った一文が入ると厄介」(エネルギー関係者)といった声が出ていたが、その懸念が現実のものとなったわけだ。

石石税見直しにも言及 環境次官が異例の挨拶

小泉氏は8月31日の閣議後会見で、「CPを今回の税制改正要望にノミネートしたことが最大のポイント」とし、「年内の取りまとめ」という一文の追加については「不退転の決意を環境省としても示している」と力説した。確かに同省の審議会では年内の取りまとめを目指すとしており、それが税制改正要望に入ったことのインパクトは大きい。

また小泉氏は、長期的に炭素価格が上がるという価格シグナルを示すことで、企業の脱炭素に向けた取り組みが加速するとして、CPの方向性を早く決めるべきだと主張。この点がCPのポイントだとし、「コロナ禍で経済が痛んでいる状況下での導入は避けるべき」だといった反対意見については「CPのことを理解されていない」と突っぱねた。さらに既存税制の見直しの必要性まで示唆。石油石炭税について、石炭の税率が低い点がカーボンニュートラルに逆行すると問題提起した上で、「政府全体として脱炭素型に政策を変えていく取り組みを、環境省を挙げて不退転の決意でやっていきたいという職員の思いが表明された」と強調した。

こうした小泉氏の言動を後押ししたのが、財務省出身の中井徳太郎事務次官と見られている。中井氏は概算要求の記者レクにまで異例の登場。冒頭に挨拶し、「ここ5~10年でしっかりしたことが出来なければサステナビリティは無理だとの危機感を持っている」「政策を強化する局面だと思っている」などと訴えた。また、今回の概算要求のコンセプトとして、脱炭素に向けた取り組みを世の中に広めるという、広義でのCPの概念を柱に政策を組み立てたと強調した。

勢いとパワーで劣勢の経産省 梶山氏の存在感今一つ

これに対し、経産省の幹部は「CPの書きぶりの変更は寝耳に水」だとして怒り心頭だ。経産省はこれまでも、石炭火力輸出方針や、30年46%減という温暖化ガス目標設定などを巡り、小泉氏に振り回されてきた。経産省サイドの巻き返しが注目されるが、どうも梶山弘志大臣が今一つ存在感を発揮できていないのが、気になるところだ。31日の閣議後会見の時間はわずか10分間。小泉氏の会見時間が41分間だったのに比べると、大幅に少ない。

その前の27日の閣議後会見を見ても、小泉氏が48分間だったのに対し、梶山氏は25分間。もちろん長ければいいというわけではないが、31日会見での概算要求に関する質疑を見ても、全体概要をさらりと述べただけで、実にそっけない。そもそも、経産、環境両省の概算要求の説明資料を見比べると、環境省のほうが充実している印象を受ける。これまでには見られなかった現象だ。

対小泉氏だけではない。河野太郎規制改革担当相に対しても、経産省はやられっぱなしの状況だ。9月2日発売の週刊文春は、河野氏が第六次エネルギー基本計画案を巡りエネ庁幹部を恫喝する様子を、実際の音声データをもとに報じた。内閣府の再エネ総点検タスクフォースの構成員と、経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員との対立が背景にあるのだが、「河野氏サイドの勢いとパワーは物凄い。劣勢なのは経産省」(電力関係者)と見る向きが少なくない。

「エネルギー政策の主役である経産省が、脇役にお株を奪われてどうする。梶山大臣には奮起を期待したい」(経産省OB)。来週前半に予想される内閣改造。これを契機に、経産官僚の逆襲撃が見られるか、どうか。

【目安箱/8月30日】KK両大臣に見る「責難は成事にあらず」の政治姿勢


武装勢力のタリバンが全土を掌握し、世界の視線がアフガニスタンに集まっている。この国のエネルギー事情はどのようなものかと調べてみた。戦乱が続き各種の統計が整備されておらず、はっきりしない。国際エネルギー機関(IEA)などの2010年ごろの状況を示した報告によると、発電能力220万kW分の水力発電があるものの、それ以外に大規模な設備はなさそうだ。自家発電が多く、無電化の地域も多い。

ちなみ日本の発電設備は、2億5951万kW(2016年)ある。そして岩手県葛巻町の毛頭沢(けとのさわ)集落が1962年に最後に通電して、日本では無電化の集落がなくなった(別説あり)。電力業界の現場を見ると、電力の発電・送電・配電について供給責任という思想に基づいて組織が作られ、運営されている。批判、破壊は誰もができるが、建設と維持をすることは大変な努力が必要だ。地道だが、大切なインフラの建設と維持を、電力、そしてエネルギー産業の人々は毎日続けている。

◆現場の事業者を攻撃する再エネTF

ところが、問題なくエネルギー、電力が供給されるという状況が当たり前すぎて、背景を深く考えない人が日本では多いようだ。仕事柄、エネルギーを巡る政府、自治体の審議会での議論を聞く機会がある。エネルギー業界の現場を無視し、そこで働く人や現実のビジネスを考えた形跡のない発言が、現場経験のない政治活動家や学識経験者、元官僚から頻繁に出ることに驚いている。福島原発事故以来、政治活動家からの電力業界への罵倒の多さ、その激しさに筆者は「おかしい」と不快感を抱いているが、その流れがまだ続いている。

河野太郎内閣府大臣が規制改革担当として「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)を作った。昨年12月から始まった議論では反原発活動家が委員に名を連ね、再エネ問題で、ヒアリングと称して、事業者と経産省を激しい言葉で批判している。

この委員の一人で、「高木仁三郎氏(原子力研究者)の弟子」を自称する活動家との間で、不快なやり取りをしたことがある。あるシンポジウムで発言したところ、遮られて「あなたのいうことは分からない」と怒鳴られた。「(紳士的であった)高木さんのように、人の話を聞きなさい」と指摘したところ、さらに怒鳴られた。そういう行動をするメンバーが選ばれている。

第六次エネルギー基本計画を議論する総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の場で、再エネTFは声明を発表。再エネ目標が「将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるため(中略)低く抑えられた可能性がある」、再エネ振興について「本気度を疑われかねないような偏った記述」などと強い言葉で批判した。

ところが、この提言には決めつけが多く、火力のバックアップ費用について間違った認識があった。(「もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用」と、バックアップ費用を再エネTFは指摘した。正解は再エネを導入するゆえに発生する既存発電での費用。)(エネルギーフォーラム記事「再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか」)https://energy-forum.co.jp/online-content/5930/

エネ基を議論している総合エネルギー調査会・基本政策分科会の専門委員は、同TFの活動とその提言を「最低限の知識さえ持たない委員で構成される組織の存在自体どうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」とまで批判した。間違いや罵倒が政府の機関で議論され、レベルの低い議論が公的な記録として残るのは、エネルギーに関わるものとして恥ずかしいことに思える。

◆「電気事業連合会は反社会勢力」河野氏発言

しかし河野氏は一連のTFの行動を許している。大臣になって静かになったが、彼はもともと電力業界へ過激な批判を繰り返している。エネルギーフォーラム2016年12月号では、河野氏の次のような発言を記録した、インタビュー記事が掲載されていた。

「「電気事業連合会は反社会的勢力だ」。河野太郎議員は開口一番、電力業界を批判した。「過激ではないか」と懸念を述べると、その真意を説明し始めた。河野氏によれば、電事連は任意団体であるという理由で、財務も活動の詳細も明らかにしていない。「金を使って影響力をおよぼそうとするが、説明責任や社会的責任をまったく果たしていない」。異論のある人は多いだろうが、これが彼の認識だ。」

既存の電力会社からなる電事連を「反社会勢力」などと言う河野氏が大臣をやっている。その意向を受けてできた再エネTFがおかしな形になるのは当然だろう。

現政権で、小泉進次郎環境大臣は、河野氏と同じように人気で、発言が常に注目される。小泉氏は、エネルギー業界に攻撃的ではないものの、温室効果ガスの削減を「セクシーに行うべき」だなど、理解に苦しむ発言を連発する。その彼から、既存の電力会社・エネルギー産業の現場への配慮や、現場で働く人々への敬意や感謝を聞いたことがない。中身のない思いつきを話しているだけだ。

◆現場で働く人々への敬意が大切

こうした現場を尊重しない人たちがエネルギー政策の責任ある立場に関与している状況は、普通に考えておかしいのではないか。日本のエネルギーを供給しているのは、企業人としてエネルギー産業で働く人たちだ。約2億5000万kW分の発電設備を作り、維持をしている。ところが、そうした現場を考えたこともなさそうな政治家や活動家が、エネルギーの未来を語り、現場で働く人、そして企業を批判し、自分たちが正しいかのように主張する。これでは、まともな政策が作れるわけがない。

「責難は成事にあらず」。このような言葉がある。他人を批判し、天下国家という大きな事を語ると、自分は仕事をしていると思い込んでしまう。ところが、実際に検証すると「口だけ」で、物事を動かさず、ただ混乱だけを生んでいることが多い。実務から遊離し、現場を動かさないからだ。これは現場を思いやり、尊重するという大前提が欠落しているからだろう。批判も、思いつきの発言も、現場で働く人への敬意があれば、簡単に言えないはずだ。

電力産業への批判に熱心な河野氏や、現場を想像したこともなさそうな小泉氏、その取り巻きの関わるエネルギー政策が、まともなものになるとは思えない。皮肉なことに、河野、小泉両氏は次期首相の人気投票でトップになるなど、国民的人気がある。日本のエネルギー問題で、この人らと取り巻きたちの行動が大きな影響力を持ち始めることが心配だ。

【記者通信/8月27日】コージェネが系統投資抑制に効果 30年間で3兆円削減と試算


日本国内の電力系統の投資・運用に対し、ガス・コージェネレーションがどの程度寄与するか――。コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)は8月27日、ガスコージェネを活用することで2020~50年の30年間で約3兆円の系統投資削減効果が見込めると発表した。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの大量導入が求められている。ただ、再エネは出力変動の問題や大都市圏から離れた場所に設置することが多く、電力系統増強に伴う巨額の投資が課題だ。一方、コージェネは発電と同時に排熱を利用するシステムのため、多くが大都市圏に設置されている。また、コージェネには再エネ電源の負荷変動を補完する役割もある。同財団では、このことが電力系統への負担低減に寄与するのではないかと考え、定量的な評価を行った。

2050年カーボンニュートラル社会の実現を担うシステムとして期待されるガスコージェネ

シミュレーションはデロイトトーマツコンサルティングに委託。デロイトは、国際エネルギー機関(IEA)が提供するプログラムをもとに、独自のエネルギーシミュレーションモデルを使用。国内で稼働中のコージェネ1300万kW分が20年から50年まで存在する場合と存在しない場合を条件にシミュレーションを実施した。その結果、50年までに送電網増強や蓄電池導入などに伴う投資・系統運用の費用は、コージェネが存在する場合は約33.2兆円、存在しない場合は36.2兆円となり、約3兆円の投資削減効果が見込めることが明らかになった。

菅政権のカーボンニュートラル宣言によって、再エネ電源と原子力発電をベースにした電化シフトの動きが加速しつつある。今回の発表は、そうした中にあっても、ガスコージェネに一定の存在価値がある現実を浮き彫りにした。一方、熱電併給システムのコージェネは、電力供給だけでなく、熱利用にも効果を発揮する。同財団では、熱利用による省エネ性やレジリエンス性など、コージェネが強みとする性能についても、定量的な評価を実施していく構えだ。

【記者通信/8月27日】環境省予算要求の注目点「再エネ交付金」は利権化のリスクも


環境省が2022年度予算の概算要求の中で、脱炭素社会の実現に向けた施策として、小泉進次郎環境相の肝いりといえる「再エネ推進交付金」をはじめ、複数の新規事業を打ち出すことが分かった。

具体的には、①地域脱炭素移行・再エネ推進交付金(要求額200億円)、②CO2削減比例型中小企業向け支援事業(同10億円)、③食と暮らしの「グリーンライフ・ポイント」(同10億円)、④ナッジとデジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業(同22億円)、⑤電動車と再生可能エネルギーの同時導入による脱炭素型カーシェアリング(10億円)――などだ。

最大の目玉である再エネ推進交付金については、2030年度までに民生部門の電力消費でCO2排出の実質ゼロを目指す「脱炭素先行地域」の自治体などに対し、再エネ設備や基盤インフラ設備(蓄電池・自営線・熱導管など)、省CO2設備(ZWB・ZEHや断熱回収など)の導入を継続的に支援する。環境省が注力する「地域循環共生圏」構想につながるもので、地域でエネルギーインフラビジネスを営む事業者などから大きな関心が寄せられている。

省益拡大のチャンスも問われる実効性

一般会計分(1474億円)とエネルギー特別会計分(1606億円)を合わせた予算要求総額は3080億円と、前年度に比べ32%の大幅増額だ。菅政権が取り組む政策の1丁目1番地に「カーボンニュートラル」が位置付けられたことで、かつてない追い風が吹く環境省。「今は、脱炭素の枕詞が付くだけで、要求が通りやすくなる。環境省にとっては省益拡大の絶好のチャンスだろう」(霞が関関係者)

問題は、実効性だ。これまで国の再エネ補助事業の多くがそうだったように、実証レベルで終わってしまったり、一部関係者の間で利権化してしまったりすれば、世論の批判を浴びることにもなりかねない。「特に再エネ推進交付金は、額が大きいだけに、利権の温床になるリスクをはらんでいる」(再エネ事業者)。新規事業の行方に要注目だ。

【目安箱/8月18日】選挙に振り回されるエネルギー政策は問題だらけ


このところ政治の側から発する「原発ゼロ」「エネルギー改革」の声が小さいように感じる。政治家や政治活動家の人達が、別の社会問題に関心を向けているようだ。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故から、民意や政治家の行動に、エネルギー政策は翻弄され続けた。異論はあるかもしれないが、「このまま選挙でエネルギー問題については盛り上がらずに、専門家や事業者が冷静に問題を議論する状況ができればよい」と筆者は期待している。

◆「原発ゼロ」は政治論点にならないのか?

今年は衆議院選挙のある年だ。しかし各政党は、原発やエネルギー問題を、8月時点では選挙のための主要な争点にしていない。

17年に設立された立憲民主党は。同年の選挙で「原発ゼロ」を主張した。翌年に「原発ゼロ基本法案」を共産党などと共同提出した。その内容は「全ての原発を速やかに停止し、廃炉にする」とするものだった。

この法案は成立しなかったが、同党はその後、積極的に再提出・成立を目指していない。背景に、20年9月に同党は旧国民民主党と合流し、新しい立憲民主党として再出発して、連合の全面的支援を受けるようになったことがあるだろう。連合傘下の電気、機械などの有力産業組合は、立憲民主党の「原発ゼロ政策」に批判的だ。

立憲は21年3月末、基本政策に「速やかに廃炉」を盛り込んだが、それを具体化する動きはしていない。

日本共産党やれいわ新選組も、熱心に主張してきた「原発ゼロ」だけではなく、「コロナ対策」や「積極財政」など、別の話を取り上げている。

さらに選挙では、「原発ゼロ」だけを強く訴える候補は、それだけでは当選していない。反原発を訴え続けた旧民主党やその後継政党も、それによって議席を伸ばしたわけでもない。各党とも、反原発、再エネへの熱意の低下は明らかだ。

◆重要な問題の先送りを続ける自民党

一方、自民党は、エネルギーを巡る政策の是非を今年の選挙も訴えなさそうだ。菅義偉首相は20年10月の首相就任演説で、50年までに日本での温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル宣言」をして、エネルギーから社会を変えると目標を掲げた。

8月初旬に、菅首相に近い自民党議員と話をする機会があった。以下の内容の発言をしていた。

▷「カーボンニュートラル宣言は、菅首相が自ら設定した目標で、事前調整を自民党内でしなかった。かなりの熱の入れようだった」

▷「菅首相は本気で日本のエネルギーと社会を変えるきっかけを、この宣言で作りたいと考えている」

▷「カーボンニュートラルの動きが本格化すれば、原子力の再評価につながる。菅首相は原子力を側面から支援する意味も、この宣言に込めている」

▷「菅首相も自民党と原子力と再エネなど、使える方法を全て活用して、エネルギー政策を変える意向だ。それが解決した次の段階で、原子力の今問題になっている再稼働の遅れや原子力発電所の新増設にも取り組みたい」

この発言に筆者は質問した。「そうした自民党や菅首相の意向が、政府の政策に反映されていない。検討中のエネルギー基本計画など、政府の掲げる計画では、実現可能性の疑われる数値目標ばかりが掲げられている」。その議員は「党内にも、政府内にも、いろいろな意見があり選挙もある。しかし菅首相も、エネルギー政策をまじめに考える議員も意見は変わらない」と、言い訳をした。

コロナ騒動に社会の関心が向いてしまったためか、菅首相の「カーボンニュートラル宣言」を巡る世論の好意的な評価は今ひとつ。自民党内はカーボンニュートラル政策の実行と、原子力を活用すべきとの意見が強いようだ。しかし選挙や連立与党の公明党への配慮から、それがまとまった力になっていない。政治的に、菅政権の支持率が低下する中では、票を減らしかねないエネルギー問題に真剣に取り組む可能性は少ないだろう。また問題の先送りをしそうだ。

そうした中で、エネルギー問題に深い見識を持っているとは思えない小泉進次郎環境大臣、なぜか原子力と電力業界に敵意を持っているとしか思えない行動を続ける河野太郎規制改革担当相を、菅首相は重用している。彼らは発信力と国民的人気があるためだろうか。ただし、この2人によって混乱が増幅しているように思える。

福島原発事故の混乱が落ち着いた12年ごろから、選挙ごとに、原発容認の人も、反対の人も、またエネルギー政策に関心を持つ人も、選挙の後に「政策が変わる」と期待した。ところが、多くの問題は先送りされた。エネルギーシステムが多くの問題を抱えたまま、電力自由化が実現し、時間が経過していった。同じことが、また21年の衆議院選挙でも、その後にも繰り返されそうだ。だらだらと、問題解決が先延ばしされそうだ。

◆エネルギー政策は政争の具でいいのか!

そもそも、エネルギー政策や産業システムについて、民意や政治が過度に干渉して、制度作りを主導していいものなのか。

エネルギー政策で追及されるべきは「3E(経済性、環境、経済安全保障)」+S(安全性)」とされる。エネルギーシステムを設計できのるは専門家であり、運用するのは民間企業であり、それを利用するのは消費者だ。電力・ガス事業は、福島事故の後で規制緩和と自由化が進み、事業の実施は事業者が原則自由に行えることになっている。政治や民意の思いつきで、脱原発などの一部の人の意向が自由に行なってはいけないし、そもそも行えない。

日本のエネルギー政策は、専門家と事業者が行政と協力しながら進めた面があった。その取り組みの下で、11年に福島原発事故が起きた。その大失敗の反省から、見直しが図られたことは当然であろう。日本のような高度な産業化社会では、専門家が産業界と結びついて癒着し、経済的利益で社会的に重要な判断がゆがめられる危険は常にある。

ところが、福島事故の反動で、政治や民意が、エネルギー産業を振り回すようになった。民主党政権では審議会で「御用学者」を追い出したら、政治色の強い「活動家もどきの学者」が入ってきた。さらに感情的に行動する一部の政治家が介入し、政争の道具にしたために混乱を広げた。自民党の連立政権でも、それを大きく是正しなかった。

政治と民意の介入で、「原発は悪」「再エネは善」「大手電力会社は悪」などの主張がエネルギー政策で語られた。客観的であるべきエネルギーの議論に、政治主張や偏重した価値判断が入り込み、それに政策が引きずられてしまったように思う。

要はバランスの問題だ。専門家や現場の経済活動を適切に支援しながら、民意を汲み取って政策が形になれば良い。しかし今はバランスが壊れている。

筆者は21年夏のエネルギーを巡るこの状態、つまり政治のエネルギー・原子力問題への関心の薄れ、その背景にある世論の関心の薄れに期待している。この調子で、政治家はエネルギーにしばらく関わらないでほしいし、政治活動家もエネルギーのことは忘れてほしい。

「民主主義を蔑(ないがし)ろにする」というお叱りを、読者から受けそうな考えかもしれない。ただし、私が願うのは一時的にそうであってほしいというものだ。長期的には誰もが合意できるエネルギーシステムを作るために、政治と世論の関与は必要であろう。しかし一時的に弱まっている専門家や事業者の発言力を強め、冷静にエネルギーの問題を洗い出して、是正するための時間が必要であると思う。

選挙のたびに、エネルギー問題が政争の道具、メディアのおもちゃになるのは、エネルギーに関係し未来を憂う者として、もううんざりである。

【記者通信/8月10日】大荒れの基本政策分科会 エネ基案反対、再エネTFへの苦言も


第六次エネルギー基本計画案が、8月4日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で概ね了承されたものの、一部委員の強い反対や、内閣府の「再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース」への痛烈な批判などが噴出。今次エネ基議論の混迷ぶりを象徴するような、大荒れでの幕引きとなった。

同日の会合で資源エネルギー庁の事務局は、素案が初めて示された7月21日の会合での意見や、関係者のヒアリングを踏まえた内容を改めて提示したが、変更はほとんどなかった。

これに対し、橘川武郎・国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授は「原案には反対する。座長一任にも反対で、もう一度最終原案を確認する場が必要だ」と強調した。橘川氏は、各国が温暖化防止国際会議・COP26をターゲットに提出するのはNDC(温暖化ガスの国別削減目標)のみであり、2030年のエネルギーミックスは不要と主張。LNG比率を引き下げるというメッセージがもたらす調達面への影響や、エネルギー多消費産業の縮小を招くなどの懸念を示し、さらにリプレース・新増設が書き込まれなかった素案に原子力推進派が反対しないことにも疑問を呈した。

ただ、ほかの委員からは明確な反対意見は出ず、最終的には多数決で座長に一任された。

「2030年度46%削減ありきで押し切られた、今回の第六次エネ基を巡る机上の空論ぶりには、開いた口が塞がらない。橘川教授以外の委員は、本当に今回の原案で良いと思っているのか。原子力、再エネ、石炭、LNGなど、2030年電源ミックスはどれ一つとっても、現実との乖離が甚だしい。今回のエネ基が、わが国のエネルギー政策目標となることに、大きな危機感を覚える」(大手エネルギー会社関係者)

「再エネTFこそ行政改革の対象」

さらに、エネルギー政策への独自の提言を続ける再エネTFに対する苦言も飛び出した。前回の基本政策分科会で再エネTFへのヒアリングを実施しており、その際に出た意見への見解をTF構成員4人が連名で提出。この内容に対し、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダーが「事実誤認甚だしい」と一刀両断した。

例えば、①カーボンプライシングの必要性に関する主張の背景として、「非化石価値にプラスの価格をつけて取引する一方で、化石燃料についてはなんらペナルティ(炭素排出などに対するマイナスの価値)が課せられていないため、積極的に普及すべき再生可能エネルギーの利用が逆に割高になってしまう」、②再エネの統合コストの一つである火力のバックアップ費用について、「もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用」――などの認識は間違いだと指摘。「最低限の知識さえ持たない委員で構成される組織の存在自体どうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」と語気を強めた。

また、一部で「最安は原発から太陽光に」などと報じられ物議をかもした2030年の発電コストに関する追加試算も提示された。当初はkW時当たり「原子力11円台後半~」、「事業用太陽光8円台前半~11円台後半」といった示し方だったが、「原子力11.7円~」、「太陽光8.2円~11.8円」などと詳報。さらに、再エネ導入に伴う系統安定化費用など、電力システム全体として追加的にかかるコスト(統合コスト)の一部を考慮した試算結果として、事業用太陽光18.9円(発電コストは11.2円)、原子力14.4円(同11.7円)などの参考値も示した。

ただ、新たな試算の内容は専門的かつ複雑なことから、一部でなお「太陽光が最安」との報道ぶりが消えていない。委員からも指摘が出たが、再エネ大量導入の影響の全体像について、分かりやすい情報発信の仕方が引き続きの課題となっている。

【記者通信/8月8日】石炭先物が160ドル突破 歴史的高値はいつまで続く?


一般炭の国際価格の上昇に歯止めがかからない。米ニューヨーク市場の先物価格は8月8日現在、トン当たり160ドルを突破し、最高値を更新し続けている。前年同月が50ドル前後だったことから、3倍以上の上昇だ。月次でみると、アジア指標の豪州産は7月平均でトン151.97ドル(前年同月50.14ドル)となり、南アフリカ産の122.33ドルで(同57.38ドル)と比べると、上昇幅が際立っている。

背景にあるのが、中国のおう盛な需要だ。一部報道によると、「中国南部では21年初めに干ばつが起こり、水力発電用のダムが使えなくなったため石炭の需要が急増、加速がついたような市場の動きにつながった」という。そんな中、新型コロナ禍がひとまず収束する中での経済回復が、電力需要の増加を後押ししている。一方で、調達面を見ると、豪州との取引制限の影響でインドネシア産にシフトしているものの、インドネシアでは年初の悪天候がたたり石炭輸出量が減少、価格上昇に拍車を掛けた。

「脱炭素化の掛け声をしり目に、欧米やアジアの電力会社は石炭火力を最大限活用する方向で動いている。このため、世界全体での一般炭需要は堅調に推移している。原油、天然ガス価格の上昇も、この動きに弾みを付けているようだ。日本においては、ベースロード市場の取引価格に影響を及ぼしていることからも明らかなように、電気料金の上昇を加速。化石燃料価格全般の高騰、再エネ賦課金の上昇など、電力値下げを期待できる要素は今のところ見当たらない。やはり、日本経済全体や企業の国際競争力のことを考えれば、原子力の再稼働を着実に進めていくことが不可欠だ」(大手エネルギー会社関係者)

9月以降、下落に転じる公算

果たして、石炭価格は今後どうなるのか。国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、世界の電力需要は22年にかけて4%程度増加。再エネは引き続き急成長を続けるものの、需要増加分の半分程度しか対応できないことから、石炭火力の発電量が増加し過去最高になる可能性があるという。

ただ一方で、9月以降、中国の石炭爆買いがひと段落すると見る向きも。「中国の火力発電の稼働率は通常、8月のピークを境に減少していくため、9月に入れば一般炭の需要も落ち着くはず」。市場関係者はこう指摘する。

加えて、インドネシア産の輸出量が順調に回復に向かっている。同国エネルギー鉱物資源省によれば、今年上半期の石炭生産量が2億8500万トンとなり、年間生産目標である6億2500万トンの半分近くにまで達しているという。

インドネシアの石炭火力発電所

需給面で大きな問題さえなければ、今秋から豪州産の価格は下落に転じる公算が大きいといえよう。それにしても、昨今の石炭価格問題は、アジアのエネルギー市場における中国の存在感の大きさを、改めて見せつけた格好だ。政府主導で、日本のエネルギー安全保障政策を真剣に議論する場をつくることが求められる。

【目安箱/8月6日】ごまかしのエネ基に見る政府・経産省の危うさ


「私はしばしば数字に惑わされる。自分自身に当てはめる場合はなおさらだ。ディズレイリの言葉「嘘には三種類ある。嘘、まっかな嘘、そして統計」が正当性と説得力をもって通用してしまうんだ」

これは19世紀の米作家マーク・トウェインの言葉という。「統計」と「数字」を悪用すれば人を騙せることを示す際に、今でもよく引用される。

この言葉を、21世紀の日本のエネルギー政策を見ながらで思い出してしまった。政府が、おかしな気候変動・エネルギー政策を、数字や統計を羅列することで、実現可能であるかのようにごまかし、世論を誘導しようとしている点についてだ。

◆政府発表の奇妙な数字の山

エネルギーを巡っては、最近、政府から数値目標や試算が続けて示されている。検証すると、どれも実現可能かどうか、怪しいものばかりだ。

▼菅義偉首相が昨年10月の首相就任演説で、「2050年に二酸化炭素の排出を実質ゼロにする」という「カーボンニュートラル宣言」を行った。

▼経済産業省は昨年12月、産業14分野で目標を定め、「10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を目指す」とする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。

▼今年4月に開催された気候変動サミットで、菅義偉首相は30年までに13年度比で温室効果ガスを46%削減すると表明した。

▼第6次エネルギー基本計画の素案を経産省が7月に公表した。30年度の電源構成として再生可能エネルギーの割合を「36%から38%」とし、3年前に策定された第5次計画の「22%から24%」より10ポイント以上引き上げた。原子力では、現行計画の「20%から22%」と、同じ水準にした。

▼温暖化対策法に基づく地球温暖化対策計画の5年ぶりの改正を政府が検討中。今年7月に公表された改正原案では、30年度の温室効果ガスの排出量を家庭部門で66%、業務部門で50%、産業部門で37%、13年度比でそれぞれ減らす目標を出した。

▼経産省は今年8月2日、各電源の30年時点の電源別発電コストの試算を発表した。それによると、原子力キロワットアワー(kW時)の発電コストを、原子力は11.7円、事業用太陽光を8.2~11.8円とし、原子力と太陽光の発電コストが並ぶとの予想を示した。

こうして数字を並べると、脱炭素化が進み、その手段は再生可能エネルギーのように見える。それによる経済成長も可能に思える。

◆数字を検証すると実現不可能 再エネコストは安いのか?

ところが、これらの数字の試算を、原典の資料にあたってチェックすると、算出根拠はどれも曖昧で、正確さが怪しい。例として、発電コストの試算を示してみよう。(経産省資料「発電コスト検証に関する取りまとめ(案)」

エネルギーの知識を持つ人は、前述の試算結果をおかしいと思うはずだ。再エネ発電は、必然的にバックアップ電源を必要とする。それもコストとして考える必要がある。

経産省が出したのは、その電源への投資と売電だけを考えた場合のコストだ。経産省は「どの電源を追加しても、電力システム全体にコストが生じることを考慮する必要がある」とわざわざ注釈し、それを考えると再エネのコストが膨らむことを、試算の説明で小さく書いている。(上記資料4ページ)。それによると㎾時あたり、原子力は14.4円、事業用太陽光で18.9円と原子力の方が安い。また20年の段階では原子力(11.5円~)の方が、事業用太陽光(12.9円)より安いとも書いてある。(上記資料5ページ)

こうした一連の流れを見ると、経産官僚たちは、数字と統計を駆使して事実を捻じ曲げ、世論操作を試みていると、批判されても仕方がない。

◆エネ基に影響を与えた小泉、河野両大臣

他の数字でも、政治主導で上乗せが繰り返され、経産省は数字を操作して取り繕う。そもそも全ての動きの始まりになった菅首相主導の「カーボンニュートラル宣言」が、実現不可能な目標だ。数字の上乗せには、エネルギー問題を深く考えている気配のない小泉進次郎環境相、原子力と既存電力を敵視して再エネを応援する河野太郎規制改革担当相の二人が影響を与えているとされ、菅首相もなぜか派手な二人がお気に入りのようだ。

梶山弘志経産大臣は、実務能力に優れた現実的な政治家と評価されるが、表向きは原子力には冷たい。そして経産省内部も、政治家やその背景にある民意に振り回される反面、その政治におもねり、権限や影響力を増やすという自らの省益を拡大するような動きをしている面がある。数字を使って政治家の誤りを説得することが、プロフェッショナルとしての官僚の責務であろう。ところが、逆に専門知識を悪用し、数字を使って誤った政策を取り繕い、国民を騙しているように見えなくもない。

こうした取り繕いのいきつく先は何か。世論に影響され、負の側面の顕在化しつつあるエネルギー政策の現状を見ればよい。

11年3月の東京電力福島原発事故の後で、エネルギー政策は大きく変化し、その産業の姿は変わった。世論と、政治の批判が変化を主導した。

その変化の評価は立場によってさまざまだろう。自由化と補助金により、電力を中心に新しい企業が生まれた等のプラスの変化があった。一方で、エネルギー政策の根本であるべき、3E(経済性、環境、安全保障)が危うくなり、原子力発電と関連産業は停滞してロシア、中国に抜かれてしまった。エネルギー制度改革の背景には、「原発ゼロ」(小池百合子都知事の17年に掲げた選挙公約)のように、数字を使った怪しげなスローガンが使われた。

◆ごまかしの行き着く先は「亡国」

経産省は、こうした世論や政治の暴走に逆らわず、逆におもねった。これに加えて、今年になって、菅政権のエネルギー・環境政策での新たな政治からの提案を無批判に受け止め、政策化して、エネルギー業界と国民を巻き込もうとしている。このコラムをサイトに掲載していただく『エネルギーフォーラム』21年8月号の特集タイトルは「亡国のエネルギー基本計画~政治事情に揺れる戦略なき審議」。真面目な同誌には珍しい過激な強い言葉を使ったタイトルだが、エネルギー業界では「その通り」と賛意が広がっていた。

「安倍政権で経産省はいろいろ策謀を巡らせた。緊縮財政嫌いの安倍前首相に、財務省を叩くことで取り入った。そして世論に嫌われないように原子力発電の批判、電力会社叩きを放置し、業界に負担を負わせた。その結果、電力システムはおかしくなりつつある。今度は菅首相に、カーボンゼロを切り口に、数字の嘘を使って取り入ろうとしている。省益の維持としか思えないし、今の政策を進めれば、まさに『亡国』だ。付き合いきれないよ」

ある電力会社の中堅社員は、最近の政府・経産省から打ち出され続ける数字の山を追いかけながら、こう吐き捨てた。数字いじりの嘘は、その場を取り繕うことはできても、後になって現実の出来事に、清算を突き付けられる。エネルギー政策をめぐる経産省の行動は、その未来を予想できる人の間で、不信感を高めているだけに思うのだ。

なぜ賢いとされる政治家や経産省等の政府の人たち、政府を批判する野党支持者に多い再エネ派の人は、ごまかしの数字を信じ、それに踊っているのだろうか。皮肉屋で知られるマーク・トゥエインが生きていたら、数字の嘘を作って結局は自らの首を絞めている日本政府・経産省の役人とその再エネ政策を冷笑する、寸鉄人を刺すようなキツイ警句を放っていそうだ。

しかし、冷笑しても、問題は解決しない。エネルギー政策の失敗の影響を被るのは結局、われわれ国民なのである。

【記者通信/8月2日】46%減を目指す温対計画案 エネ基同様に画餅化の懸念


第六次エネルギー基本計画に続き、新たな地球温暖化対策計画も絵にかいた餅となりそうだ。

環境省と経済産業省は、温対計画の見直しを進めていた合同の有識者会合で、7月26日に計画案を提示した。温暖化ガスの2030年13年度比46%削減目標と整合するよう、先駆けて公表された第六次エネルギー基本計画の素案を踏まえ、部門ごとの削減目標を設定。同26%減をターゲットとした見直し前の現行計画より、当然ながら各部門で一層の削減を進めることになるが、いずれも実現可能性が極めて低い数字が並ぶ。

30年度のエネルギー起源CO2排出量の目安は、13年度比45%減の6億8000万t(CO2換算)に設定。その内訳は、産業部門が2億9000万t(13年度比37%減)、業務部門が1億2000万t(同50%減)、家庭部門が7000万t(同66%減)、運輸部門が1億4000万t(同38%減)、エネルギー転換部門が6000万t(同43%減)。非エネルギー起源CO2や、他の温暖化ガスの目安も示した。

森林吸収源では3800万t、農地土壌炭素吸収源や都市緑化などでは970万tの吸収量を見込み、加えて二国間クレジット制度(JCM)で1億t分のクレジットの活用も必要だという。

今回は現行計画のような積み上げではないため、業種や取り組みごとの詳細な削減目安は示さず、分野ごとの対策も推進すべき取り組みの羅列に留まっている。

欠かせないコストの視点 負担増の見える化を

実現可能性に大いに疑問が残るエネ基や温対計画について、有識者からは、「30年の実行計画を国際会議で公約化してしまったら、日本がどんな状態に追い込まれるかを考える必要がある。下手をすると日本の経済が破壊されるという危うい状況にもかかわらず、それがきちんと議論できていないことは大問題だ」(アナリスト)といった指摘が出ている。

46%削減のためにどれほどのコストを負担するのかという視点は、エネ基だけでなく温対計画においても欠かせない要素だ。

こうした点については27日の審議会でも、委員の杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、同計画にかかわる全ての政策について、毎年CO2削減の費用対効果を示し、それによって政策を見直す「政策のカーボンプライシング制度」を提唱。座長を務めた山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長も、「この温対計画を実行するといろいろなコストがかかることを具体的に表記してほしいし、できないなら課題として受け止めてほしい。政策のカーボンプライシングの制度化は計画に盛り込むものではないかもしれないが、何らかの形での展開を希望する」と強調した。

数年前にはフランスで燃料税の引き上げに反対する「イエローベスト運動」が勃発し、今年6月にはスイスで気候変動対策としての新税を盛り込んだ改正CO2法が国民投票で否決されている。気候変動対策に積極的な欧州でも、具体的な負担増が示されれば一般国民はすんなりとは受け入れないということだ。しかし46%減を目指すには国民各層の対応が欠かせない。どのように国民を巻き込むかは気候変動問題の課題だが、少なくとも負担を見える化することから議論をスタートするべきではないか。

さらにコスト以外にも、災害リスクなど再エネ事業の適正化や、太陽光パネル生産に関する人権問題など、目を向けるべき課題は多々ある。極めて高難度なシナリオであるからこそ、実行に移した際の影響を細かくチェックするとともに、見直すべき部分は柔軟に見直す姿勢が、一層重要になる。

【記者通信/7月29日】再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか


内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF、構成員=大林ミカ・自然エネルギー財団事業局長、高橋洋・都留文科大学地域社会学科教授、原英史・政策工房社長、川本明・慶応大学経済学部特任教授)が7月27日の会合で、経産省がまとめた「第六次エネルギー基本計画(素案)」に対する提言を公表した。

内容を見ると、「再エネ最優先の原則」に基づく施策の反映が不十分として、主に次のような注文を突き付けている。

本気度を疑われる偏った記述は修正すべき」

①「化石燃料に恵まれず、原発の過酷事故を経験した日本にとって、再エネの価値は特別で」あり、「その導入と活用を他のエネルギーに先んじて重点的に進める」ことが、その趣旨である。この点を本文中に明記すべきである。

②そもそも再エネの電源構成の目標値については、先進諸国と比べれば、「36~38%」は高くない。この再エネの目標値は、将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるための、高過ぎる目標値(原子力20~22%、石炭火力19%)とのバランスの中で、低く抑えられた可能性がある。素案でも触れられている通り、再エネの目標値は下限であり、さらに高みを目指すべきであるから、「〇%以上」と下限であることを更に明確に記述すべきである。

③また素案では、日本の再エネの利用環境自体が「エネルギー供給の脆弱性」であるかのような、後ろ向きの記述が目立つ。日本の最大の脆弱性は、海外の化石燃料への過度の依存であり、脱炭素と並んでエネルギー自給率の向上も再エネ主力電源化の目的である。再エネにも課題があり、各国で利用環境は異なるが、総合的に見れば日本が欧米諸国より劣るとは言えず、だから主力電源化するのではないか。「再エネ最優先」と記述する一方で、その本気度を疑われかねないような偏った記述は、修正すべきである

④再エネ最優先の原則に基づけば、再エネに不利な既存の制度やルールは改革されるべきである。例えば、ノンファーム型接続の完全メリットオーダー化やローカル系統・配電系統への対象拡大について、実施時期を前倒しするなど、より積極的な記述に改めるべきである。また、北海道のサイト側蓄電池設置要件の廃止、再エネの優先給電(メリットオーダー)の実施、再エネの出力抑制に対する補償など、当タスクフォースの過去の提言に沿って、再エネ最優先を具現化した改革を盛り込むべきである。

再エネ正義のために現実を無視していいのか」

この提言に対し、大手電力会社の幹部はこう指摘する。「再エネTFは、名称の通り、再エネの拡大がミッションなので、その視点からエネ基案を評価するのは理解できる。が、それにしても、ただでさえ実現性が厳しい再エネ目標値が意図的に低く抑えられた可能性があるとか、本気度を疑われかねないから『供給の脆弱性』など後ろ向きの表現を修正しろといった書きぶりはあまりに酷すぎる。再エネ推進という正義のためには現実を無視せよ、事実を捻じ曲げろという意味にしか受け取れない」

「日本の電力供給の一翼を担っている立場からすれば、日本には当然、日本特有の事情がある。それを無視して先進諸国に比べて劣るといった表層的な理由で、再エネTFの提言をそっくりそのまま実現させようとすれば、どう控え目に言っても、電力供給体制は脆弱化し、停電リスクは確実に高まり、電気料金は大幅に上昇していく。さらに、太陽光や風力の大規模開発のために、日本の貴重な自然や海底資源はどんどん犠牲になり、環境破壊が加速。全国の山間部の住民はちょっとした大雨程度でも土砂崩れなどの災害リスクにさらされる。再エネ原理主義、極まれりだよ。国民は本当にそれを望んでいるのかな」

再エネTFの議論で決定的に欠落しているのは、再エネ拡大がもたらす負の側面に対する見解・評価だ。「再エネ規制総点検」を標ぼうするのであれば、ぜひともその点に関して踏み込んだ意見を提示すべきだ。エネルギーフォーラムでは引き続き、再エネの長所と短所を徹底的に検証しながら、「S+3E」の大原則に基づき、日本の国益にかなうエネルギー供給の在り方を模索していく。第六次計画案をまとめた経産省には、再エネTFの提言に対し、真っ向から反論することを期待したい。

【記者通信/7月29日】FIT認定ID売買を斡旋 メガソーラー「転売サイト」の正体


日本全土で乱開発を伴って設置されている山間部のメガソーラー。森林保全や生物多様性への影響に加え、設置で保水力が失われ土砂災害を誘発する危険性が叫ばれている。にもかかわらず、地域との共生をないがしろにする悪質な事業者が次々と参入し、開発や運営に躍起になる理由の一つは、何と言ってもカネになるからだ。特に、FIT法がスタートした初期に認定を受けた事業者は、売電価格36円~40円が20年間、確約されている。さらに一般的には、太陽光発電投資の利回りは10%前後と言われている。これほどおいしい儲け話はなかなか見つからない。もちろん、その原資は、電力ユーザーが支払っている再エネ賦課金である。

さて、今各地で問題になっているメガソーラー設置だが、地元住民の悩みの一つに「事業者がコロコロ変わっていて、責任の所在が分からない」というものがある。固定価格買い取り制度(FIT)では「事業譲渡」、つまりFIT認定を受けた事業者から別の事業者への「転売」を認めている。転売先の事業者にも当然FIT認定IDは引き継がれる。

実は、そのFIT認定IDの売買を斡旋する「転売サイト」(最終更新は2019年12月)が存在することが、編集部が入手した資料で分かった。中を覗いてみよう。

問題はID転売を目的にした事業者

ここには、太陽光発電所の発電能力と場所、売電単価、売却希望価格が記載されている。売電単価は軒並み32~40円。このことから、同サイトは主に12~14年にFIT認定を受けた設備を取り扱っていることが分かる。

例えば、高知県四万十町にある発電出力2400㎾、売電単価36円の太陽光パネルは12億5800万円での売却が希望されており、年間売電収入は約8600万円である。もちろん、保守費用などのランニングコストも考慮しなければならないが、ざっと15年程度でペイする計算になる。ある新電力関係者によると、売電単価40円であれば、「3~5年で投資回収は楽勝だった」と振り返る。同サイトがターゲットにしているのは、既にFIT認定を受けた設備であるため、土地取得などにかかる費用については購入者の負担はないと考えてよい。

そもそも、こうしたサイトを運営する仲介業者は、売りたい人と買いたい人の存在がなければ商売ができない。売る事業者のモチベーションは何か。税制優遇などさまざまな理由が考えられるが、問題視されているのは、最初からFIT認定IDの転売を目的にしている事業者の存在だ。

彼らは、メガソーラー設置に関わる法律や申請プロセス、住民対策などの専門知識を有している。土地の取得や設置工事を行い、FIT認定IDを高値で転売する。そうすれば、面倒な保守業務に携わらずに済むし、「事前に買い手の事業者と契約を結んでいれば、工事費などの上乗せを狙える可能性もある」(事情通)。事実、大手エネルギー会社系の建設業者が、ソーラー設置までを開発会社に任せ、その後FIT認定IDを買い、売電収入は丸ごと稼ぐ、といったスキームを組んでいたことが明らかになっている。

実際に、メガソーラー設置反対派の住民グループが、現在の事業者の元にFIT認定が渡るまでの経緯を調べた結果、最初に不動産会社やペーパーカンパニー、外資系企業が設置予定地を取得し、FIT認定を受けた後、IDを転売していた事実を突き止めている。

ちなみに、この転売サイトの運営者はFXやM&Aのコンサルティングを生業にしている。太陽光発電について、純然たる発電事業というよりは、投機として捉えているプレイヤー(転売ヤーなど)も参加していることがうかがえる。

現行法制では悪質転売を防止できず

旧FIT法は17年に改正され、これまで発電設備しかチェックされていなかったものが、発電「計画」まで範囲が広がり、事業者に対する監視体制は以前よりは強まった。しかし、この「転売」問題に対しては特に変更がない。FIT認定IDを転売したい場合は、土地取得の契約書と印鑑証明書を申請すればよいとのことだった。

メガソーラーの運営は立派な発電事業なのだから、いとも簡単に悪質な事業者が参入したり、事業主体が頻繁に変わってしまうのは大きな問題のように思えるが、現状で転売に一定の歯止めを掛けるような法制度はない。FIT法の目的自体が太陽光発電をはじめとした再エネの普及に主眼を置いたものであるため、仕方ないことなのかもしれない。しかし、全国各地で太陽光パネル設置におけるトラブルや被害が報告されているにもかかわらず、行政が主導して思い切った対策を講じることができない現状はいかがなものか。

FIT法がいかに悪用されやすいものなのか。太陽光ビジネスに隠された欺瞞性を、転売サイトを利用する「転売ヤー」の存在が象徴しているといえよう。

【記者通信/7月22日】河合人脈の「再エネ四谷グループ」にあの太陽光事業者が⁉


静岡県熱海市の土石流災害で、発生源として指摘されている伊豆山の崩落現場。この土地の所有者である麦島善光氏の代理人としてメディア対応に当たっているのが、反原発派・再エネ推進派弁護士の代表格として全国に名をとどろかせている河合弘之氏だ。

「麦島氏の代理人になぜ、あの河合弁護士が?」。おそらくエネルギー関係者の多くがこう感じたことだろうが、関係者によれば、両者は10数年来に及ぶ古い付き合いだという。河合氏を巡っては、土石流派生の直後から崩落現場南西側で麦島氏所有の土地にある太陽光発電所との因果関係が取りざたされ始めた際、詳しい調査が始まる前の段階にもかかわらず、関連性をいち早く否定したことで、ネット上で物議をかもした。

ISEP、原自連、さらにZEN社も

ところで、ここに興味深い事実がある。河合氏が関係する企業や団体の事務所が、軒並み東京・四谷界隈に集中しているのだ。まず、河合氏が名を連ねるさくら共同法律事務所の本部がJR四ツ谷駅北側に隣接するビルに入居。また、河合氏が顧問を務める環境エネルギー政策研究所(ISEP、飯田哲也代表)の事務所や、河合氏が幹事長を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連、吉原毅会長・中川秀直副会長・小泉純一郎顧問・細川護熙顧問)の事務所も、そこから徒歩数分ほどの場所にある。

河合弁護士の関係する団体・企業が集中するJR四ツ谷駅界隈

そしてなんと、麦島氏が役員に名を連ね、伊豆山盛り土崩落との因果関係が取りざたされる太陽光発電の運営事業者、ZENホールディングス(東京都千代田区五番町)も、四ツ谷駅から徒歩10分圏内の場所にあるのだ。これは偶然なのか、それとも「河合氏と麦島氏の古い付き合い」が何らかの形で関係しているのか。

「河合氏を中心とする再エネ四谷グループ」。エネルギー業界の関係者はこう表現する。

なお河合氏とは関係ないが、参考までに記しておくと、東京メトロ丸の内線四ツ谷駅の屋上には太陽光パネルが張られ、上智大学四谷キャンパスは使用電力の再生可能エネルギー100%化を目指す「RE100」に取り組んでいる。まさに、四谷界隈は都心部の再エネ先進エリアと言っていい。

熱海災害を契機に、図らずも浮かび上がった四谷グループ。記者通信では今後の取材を通じて、その実態を浮き彫りにしていきたい。