経済産業省は9月30日、低炭素水素などへの「値差(価格差)支援」の対象として、豊田通商のグリーン水素と、レゾナックの水素・アンモニア案件の2件を認定したと発表した。同制度の認定は今回が初。いずれも脱炭素化が困難な「ハード・トゥ・アベイト」産業で、2030年度をめどに供給を開始する。エネルギー企業のプロジェクトは含まれなかった。

値差支援は、昨年成立した水素社会推進法に基づき、低炭素水素・アンモニアなどの製造、輸送・貯蔵、利用に対し、化石燃料との値差を補てんする制度。具体的には、供給開始から15年間でプロジェクトコストを回収できる水準の「基準価格」から、切り替え前の化石燃料の「参照価格」を差し引いた分を政府が支援する。支援終了後10年間は供給を継続することが求められ、遅延などに伴うコストアップ分は民間が負担する。
認定された2件のうち、まずグリーン水素案件は、豊田通商やユーラスエナジーホールディングス、岩谷産業が参画する特別目的会社が供給者となる。利用者の愛知製鋼は、プレミアムを付与し、電炉業界初のグリーン鋼を製造する予定で、年間供給量は約1600t。系統を介して東北の陸上風力で発電された電気を供給し、愛知製鋼の工場(愛知県東海市)で電気分解し水素を製造する。地産地消型ではない。なお、水電解装置は別途「GXサプライチェーン構築支援事業」で採択されたトヨタ自動車・千代田化工製を採用する予定だ。
もう1件は、レゾナックが廃プラスチックや廃衣料をガス化し、得られた水素を原料に低炭素アンモニアを製造する事業。アンモニア換算で年間約2万t供給する。同社と日本触媒が利用者となり、繊維原料となるアンモニア誘導品の製造に活用し、資源循環に資するモデルだ。荏原製作所とUBEの廃プラガス化技術を用い、国内初となる廃プラ100%のプラント運転を予定する。
エネ関係から「期待薄」の声 総額3兆円の行方は
値差支援の申請は3月末までに27件あった。支援総額は3兆円を予定するが、27件の合計はこれを超える規模となる。同省は、外部有識者でつくる第三者委員会の意見を踏まえ、評価項目に照らして優先すべき案件を決め審査を行う方針で、今年度後半に向けて条件が整った案件から順次認定していく。
値差支援は当初、大規模発電向けなどでの活用も期待された。ただ、関係者からは「蓋を開ければハード・トゥ・アベイトが主な対象で、電力は二の次に。また公募内容があいまいで、海外の関係者の理解が得にくい」、「30年からの供給開始が条件だが、円安やインフレの影響がある中、特に海外案件で申請までにコミットすることは相当難しい」といった声が上がっていた。
JERAは4月上旬、値差支援を前提に、三井物産、米CFインダストリーズと、米ルイジアナ州で「ブルーアンモニア」を製造するプロジェクトの最終投資決定(FID)を行ったが、こうした動きは少数派。審査中の案件はあと20数件あることになるが、そのうちエネルギー案件は果たしていくつ選ばれるのだろうか。













