秋田・千葉両県3海域で計画していた洋上風力発電事業からの撤退を発表した三菱商事。入札した当時とは事業環境が異なり、事業コストや工期、収益性など様々な面で事業継続が困難になったと判断したという。破格の安値での入札で当初から事業性を疑う向きもあったが、図らずもその指摘が的中した格好だ。洋上風力発電の大型プロジェクト第1号案件が頓挫したことで、ほかの大型プロジェクトに参画している事業者にも影響を与えることが必至だ。さらに洋上風力の不透明感が増したことは、「脱炭素」をベースに成り立ってきたエネルギー政策やグリーントランスフォーメーション(GX)戦略などの大幅な練り直しが必要になる可能性が出てきた。同社トップの責任は重大だ。

「安値入札」が起因 絶えない疑念
「結果的にプロジェクトを進めることができなかったのは断腸の思いだ」
8月27日に記者会見した三菱商事の中西勝也社長は、事業撤退についての所感をこう述べた。中西氏は事業撤退の理由について「建設費が入札時の見込みから2倍以上に膨らみ、将来さらにコストが膨らむリスクがあった。経済情勢が激変し、投資回収すら難しい状況になった。FIPに転換しても開発継続は困難と判断した」と説明。破格の安値での入札に無理があったのではとの質問には「見通せる事業環境やインフレ、金利なども含めて十分な採算を確保できると判断した」と述べ、あくまで予期できなかった外部要因が事業継続を困難なものにしたという主張を突き通した。
三菱商事は2025年3月期に洋上風力発電で524億円もの損失をすでに出している。さらに今回の撤退でペナルティーとして約200億円を支払うことになる見通しで、損失は現段階でも700億円を超すとみられる。だが「実態は1000億円を超す損失になるのではないだろうか」(エネルギーアナリスト)と推測する。
広報の仕切り通りに⁉ 異例の会見模様
経営の失敗を発表するというテーマの重大さからすると、異例の会見だった。質問は一人一問に限定され、時間も予定通りの1時間で終了した。「広報が会見を取り仕切り、顔見知りの記者を中心にあてていった感じがした。中西社長の責任や進退を問う質問はほとんど出なかった。自分はずっと挙手していたが、完全にスルーされ、真後ろにいて司会からは見えづらいはずの一般紙記者があてられていた。そもそもこの手の会見で、一人一問しか聞けないとか、1時間きっかりで終了することなど、普通はあり得ない」(専門紙記者)。いわば全てが三菱商事の流れで進んだ社長会見だったのだ。自らの責任について中西氏は「データの開示など後続の企業につないでいく取り組みはやらなければいけない。当社としてやれることはあると考えている。引き続き、社長としての責務を全うして当社をけん引していきたい」と続投を表明した。
しかし中西氏ら経営陣の判断がそもそも間違っていたとする指摘は、社内外から上がっている。とりわけ強いのが、入札時の破格な安値が問題だったのではないかという指摘だ。
三菱商事の入札価格は1㎾時あたり、秋田県能代市沖が13.26円、由利本荘沖が11.99円、千葉県銚子市沖でも16.49円だった。上限価格とされた29円を大幅に下回る価格に他の事業者は「20~22円でギリギリ採算が取れる水準。本当かと耳を疑いました」(事業関係者)と振り返る。
三菱商事の関係者は「長期プロジェクトのリスクを見通せなかったというのは経営判断として甘すぎる。社内でもあれほどの安値で採算がとれるというのは無理があると考えていた人はいたはずだ。見通しの甘い事業によく手を突っ込んだものだ」と批判する。
大手エネルギー企業の幹部は「洋上風力発電はとにかく金がかかる。何らかの思惑のために無理やり作り出した数字だったのではないか。むしろインフレが進んで降りやすい理由が見つかったと考えるのが普通だろう」と手厳しい。














