1.大手関係者さえ不要論 容量市場の意義とは
将来の供給力(kW)を確保することを目的に、2020年7月に初めてのオークションが実施された容量市場。1万4137円と上限に近い価格で約定したことは、新電力の経営に打撃を与えかねない事態を招いている。大手エネルギー会社の幹部X氏は、「支払いが始まるまでの数年稼いで、小売り事業から出ていく新電力も多いのではないか」とみる。
電力関係者のY氏は、「約定価格がいくらであろうと、再エネがこれだけ入ってしまえば大型電源投資は望めない。小売り事業者にとって単なるコストアップ要因にしかならない上に、大手電力会社を利するだけの制度など初めから導入するべきではなかった」と一刀両断する。
大手電力会社にしても、今回の結果を、もろ手を挙げて歓迎しているわけではなさそうだ。「応札量が想定を下回ったことで、本来であれば用済みだった老朽火力電源までもが、落札圏内に入ってしまった」(別の大手電力関係者V氏)。オークションで落札できなければ、国のお墨付きを得たということで電源廃止に向けた交渉を地元と始められるはずだった。そのもくろみが崩れたというわけだ。
多額の容量拠出金の支払いを迫られる新電力のみならず、収入増が期待できる大手電力関係者でさえ懐疑的な容量市場。いまさら制度をなくすことはできないのだろうが、応札要件を満たせなかった場合のペナルティーの在り方など、ルール面を含めた仕組みの見直しが求められる。
2.カーボンゼロで大揺れ ガス業界の選択は?
菅政権が表明した「2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)」目標を巡り、都市ガス業界が揺れている。
「原料の天然ガスは石炭や石油に比べクリーンなため国を挙げて普及拡大を促進してきた。それがカーボンゼロとなった途端、一転悪役に。アクセル、ブレーキのどちらを踏めばいいのか、業界内で大きく意見が割れている。特に声を上げ始めているのが、一線を退いた有力OBだ」。都市ガス関係者はこう話す。
日本ガス協会や最大手の東京ガスでは、①CO2クレジットを利用したカーボンニュートラルLNG、②水素とCO2を合成してメタンガスを作るメタネーション、③バイオガスなどの再エネや水素の活用―を推進することで、実質ゼロを目指す方針を打ち出している。しかし現実的には、技術面、コスト面、インフラ面などで課題が山積している状況だ。
「化石エネルギーを主力商品にするガス会社が脱炭素とは何事か。脱化石自体、冷静になって考えれば実現不可能な話。目指すのはあくまで低炭素だ。エネルギーで飯を食っている人間がそれぐらい分からなくて、どうする」(大手都市ガス会社元役員X氏)
「脱炭素化を目指す世界的な潮流に、エネルギー事業者が逆らうことは困難だ。かつての石炭業界と同じ道をガス業界も歩むことになるのではないか。企業としての存続・発展を考えるのであれば、ガス会社は電力をメインに扱う総合エネルギー会社に脱皮すべきだ」(大手都市ガス会社元役員Z氏)
両氏とも、今が業界の存続を左右する重要な時期との認識では一致している。21年も論争は一段と激しさを増しそうだ。
3.なぜ議事要旨にない? 炭素税など重要発言
20年12月2日に開催された総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会では、50年カーボンニュートラル目標に向けて化石エネルギー業界がどう対応するのかを巡り、激論が交わされた。
会合では、学識者のK委員やT委員が将来の炭素税導入に際し、各企業が対応できるようあらかじめ備える重要性を強調。また天然ガス業界がLNG開発推進の重要性を説く中で、消費者団体のH委員は天然ガスにもダイベストメント(投資撤退)が広がる可能性について言及するなど、「多面的な角度から、資源政策の将来像に関わる極めて重要な発言があった」(ガス業界関係者)。
議論の内容は、資源エネルギー庁のウェブサイトで議事要旨が公開されている。しかしその中には、炭素税やダイベストメント関連の発言に関する記載が全くない。
この件についてエネ庁事務局に問い合わせると、「あくまで議事要旨は速報性を重視しており、議論が交わされた主だった項目を挙げている。当然、抜け落ちてしまっている部分もある」と説明する。
各委員の発言を詳細に記述した議事録の公開時期については「各委員の確認後に公開を予定している。1カ月程度はかかるだろう」と話しており、早ければ12月末には公開される見通し。会合で行われた議論内容を正しく知るには、議事要旨だけでは不十分。発言の抜け落ちに事務局の他意はないと思うが、議事の内容が分かるまで1カ月ほどは長すぎる。