【イニシャルニュース】再エネ団体Sに試練 体制を大幅縮小か ほか


1.地域新電力設立を妨害か 延岡市長が九電に抗議

地域新電力の設立を計画する宮崎県延岡市が、業界関係者の間で注目を集めている。九州電力が延岡市の取り組みを妨害するなどしたとして、読谷山洋司市長が九電に抗議を行うとともに、経産省などに対し九電の行為に関する調査を求めているためだ。

市長名の文書によると、九電は地元経済団体などに対し、「(新電力の)容量拠出金の負担が多額になるので赤字になる」と説明して回っていると指摘。新電力設立を阻止する意図だと推測しながら、「電力システム改革の大きな柱である小売り全面自由化を妨害する行為であり、かつ地方自治を侵害する行為」と痛烈に批判している。

事実とすれば、確かに問題になりそうだが、九電側は団体などから問い合わせがあり説明したこと自体は認めながらも、妨害の意図については真っ向から否定。また延岡市議のK氏(自民党)は、公約に掲げた新電力設立に前のめりな読谷山市長の姿勢に、「懸念があるのに、あいまいにしている」「疑心暗鬼」などと疑問を投げている。

延岡市では数年前から、九電が大阪ガスなど複数の都市ガス会社と共同で、旭化成が保有する石炭火力(3万4千kW)をLNG火力に設備更新する計画を推進。近隣にはLNG内航船の受け入れ基地も建設中だ。

「地域密着を標ぼうする大手電力会社にとっては、地域の自治体とは極力もめ事を起こさない方がいい。『金持ちけんかせず』で、地域新電力を応援するぐらいの気構えが必要だ。それは九電も十分理解しているはず」。大手エネルギー会社の幹部からは、こんな声も。経産省がこの件の調査に乗り出しているが、真相は果たして。

2.相次ぐ事実誤認報道 問われるS誌のモラル

全国的な需給ひっ迫による大停電をどうにか回避した1月の電力危機。電力会社のみならず、日ごろは熾烈な顧客争奪戦を繰り広げる都市ガス会社も、発電燃料のLNGを融通するなど一丸となってこの難局を乗り切った。

ところが、それに水を差すような記事が雑誌「S」の3月号に掲載され、エネルギー業界関係者の批判を招いている。問題となったのは、東京ガスを批判するミニニュースだ。電力不足の緊迫した最中に東ガスが電力販売のキャンペーンを展開していたことをやり玉に挙げるとともに、同社が東京電力よりも関西電力へのLNG融通を優先したことを報じている。

S紙の記事に関係者は怒り心頭

前者はともかく、後者に関しては「LNG融通で東ガスが東電より関電を優先した事実はない。ガセネタだろう」(大手エネルギー会社関係者)。発電燃料をかき集めていた当時の関電は、タンカーに残存するLNGも買い取っていたのだが、たまたまそれが東ガスの基地に荷揚げした後のトレーダーの船だったことがあった。S誌はそれを東ガスからの融通だと誤認し記事にしたとみられる。

かねて東ガスに批判的なS誌だが、同号に怒り心頭なのは東ガス関係者だけではない。これとは別の「卸電力取引所狂乱相場の全内幕」と題した記事の中で「停電危機でぼろもうけした輩たち」と名指しされた新電力の関係者だ。

記事によると、イーレックスなど新電力3社が、東電から卸供給を受けた電気を日本卸電力取引所に転売して大儲けしていたという。だが、取り沙汰された新電力関係者の一人は「そもそも今回の市場高騰では大儲けどころか赤字。明らかに事実誤認だ。迷惑極まりない」と憤る。

事実関係の裏取りをしないまま記事にしてしまう、S誌のモラルこそ問われている。

3.三村知事が国政進出? 共同利用案に影響も

核燃料サイクル施設が集中立地することから、電力業界にとって最重要地である青森県。業界が頭を抱える使用済み燃料中間貯蔵問題も絡んで、その青森県の政界動向を関係者が注目している。

三村申吾知事は2019年の知事選で5選を果たしたが、「さすがに6選には出ず、国政への復帰を目指すはずだ」(業界関係者)とみられる。県政に詳しい関係者が有力と考えているのが、来年知事を辞職し、夏の参議院選に出馬することだ。

「青森選挙区で改選するのは一人。来年改選するのは立憲民主党議員だが、その次になると自民党議員になる。知事選で自民・公明党の推薦を受けている三村知事が出るのなら、対抗馬が立民党になる来年だろう」(業界関係者)

中間貯蔵施設の共同利用案に影響も

関係者の関心は、誰が三村氏の後継知事になるかに向けられている。下馬評に上がっているのは、A市のO市長とM市のM市長。どちらも中央省庁の元キャリア官僚だが、「今のところO市長が有力視されている」(同)。

中間貯蔵施設の共同利用案に反発するM市長には、「とりあえず市長の職から離れてほしい」と考える関係者がいる。だが知事就任は難しく、衆院の3選挙区は自民党現職が占め、国政に送り出したくても「空席」なし。当分、業界はМ市長に向き合わざるを得ないもようだ。

4.再エネ団体Sに試練 体制を大幅縮小か

再エネ導入拡大をけん引してきた団体Sが、規模縮小の危機にさらされているといううわさが浮上している。

Sは東日本大震災を契機に、再エネ拡大と脱原発を目指して活発なロビー活動を展開。役員には設立者の実業家S氏を筆頭に、国内外の著名人が名を連ねる。団体は収益の大部分を寄付金に依存し、S氏も多額を寄付していると言われている。が、関係筋によれば、ここにきてS氏が団体とは一線を画す動きを見せているというのだ。

団体幹部に次年度以降のS氏の動向について問うと、「会長を辞めるような話は聞いていない。来年度以降も変わらず会長職を務める」と断言する。だが、ある再エネ業界関係者は「S氏は会長はやめないものの、いわゆる手切れ金の額まで提示したそうで団体関係者は大慌て。オフィスの移転を検討し始めたと聞いている」と打ち明ける。

最近のS氏は、自社グループの再エネ事業に対しても関心を失いつつあるとの話もある。震災から10年という節目で、いろいろ思うところがあったのだろうか。

5.安売り回避で協調? SS業者のメールリスト

新型コロナウイルスのまん延による価格下落から1年近くが経過し、原油先物市場の価格はコロナ禍以前の水準に戻りつつある。それに比例してガソリンスタンド(SS)の販売価格も3月8日の全国平均価格が146・1円となるなど上昇を続けている。

そもそも、WTI原油先物市場価格は昨年の夏から冬に掛けて40ドル台という低価格で推移していた。にもかかわらず、過去の原油安の時期と比べて割安感に乏しかったことから、「元売り再編で価格競争がひと段落し、安値攻勢を仕掛けていた業転問題もほぼ解消された。むしろ業界内ではここぞとばかりに、安売り回避で協調する動きが起きているのでは」と、談合疑惑の声が上がっている。

WTIが40~50ドル台で推移した16~17年当時、国内のガソリン価格は110円台という安値が続いた。対して昨年は5月から12月のWTIが30~50ドル台を付けていたものの、同時期のガソリン価格は最も安い時でも124・8円(5月11日集計分)にとどまっている。元売り2+1強体制の効果が表れているのは、明らかだ。

さらに、SS事情に詳しい関係者X氏はこんな内情を打ち明ける。「業界には『この地域のレギュラーガソリンは〇円』という情報を共有するメールリストがある。事業者はその情報を基に、阿吽の呼吸で価格を決めている」

実際、長距離ドライブの経験があるドライバーなら、地域ごとにSSの掲げる価格水準が異なることに気付いた人もいるだろう。「S県K市では軽油1ℓ116円だったのが、T県M市に移動すると同120円に相場が上がった。メールの話を聞いたら納得」(運送関係者)

全国的にSS数は激減していることから、「業者にしても、消耗戦は避けたいという事情がある」(X氏)。だが利用者にとっては、果たしてどうか。某離島では、地元住民と観光客で価格差を付けていたことを考えると、まだましかもしれないが。

【目安箱/4月1日】小泉進次郎氏の「政治家的使い方」 世論の先を見るために


小泉進次郎環境大臣のエネルギー・環境問題の発言が世間の耳目を集めている。しかし、それは多くの場合、彼の見識の高さというより、発言の「奇妙さ」によるものだろう。例えば直近で話題になったのは、3月18日のラジオ放送「J-wave(関東の放送局)の『JAM THE WORLD』」での小泉氏の発言だ。

「じゃあこのプラスチックを、使い捨てを減らそうと思ってるかというと、プラスチックの原料って石油なんですよ! 意外にこれ知られてないんですけど」

プラスチックの材料は石油と「誰でも知っている」と、ネットやS N Sで笑いが広がった。この言葉以外にも、奇妙な発言を番組の中で繰り返していた。

「化石燃料、石炭・石油・天然ガス、これに依存して人間の経済社会活動が営まれる時代を変えよう!というのが、カーボンニュートラルであり、このプラスチックをもし使うのであれば、リサイクルが前提となる、ゴミが出ないサーキュラーエコノミーなんですよね」

「石油の色もにおいもないから分からないと思うのですが、石油って化石燃料なんです」

単純に中身のない発言だが、前半についてコメントすると、「カーボンニュートラル」の意味は温室効果のある二酸化炭素の大気中への排出を、プラスマイナスで均衡させるということ。小泉氏は言葉の意味を広げすぎて使っている。プラスチックのリサイクル率では、日本は世界のトップクラスにある。後半も奇妙だ。石油が化石燃料であることは、多分中学生でも知っている。

当たり前のことを、すごいことのように話す小泉氏は、常識的なエネルギー・環境問題の知識を持っているのだろうか。

彼が滑稽な発言を繰り返す一般人なら、それでもいいだろう。しかし小泉氏は環境大臣で、政策に影響を与えていると自分で吹聴している。あるインタビューでは、菅政権の掲げる2050年までのカーボンニュートラルの目標に自分が影響を与え、20年4月からのレジ袋有料化も主導したと話す。(日経B P記事「小泉進次郎・環境大臣に聞く「日本はガラパゴスへの道をぎりぎりで踏みとどまった」

【速報/3月30日】東京地裁が異例の速さで「Fパワー更生開始」決定 業務継続し経営再建へ


東京地方裁判所は3月30日、新電力大手Fパワー(埼玉浩史社長兼会長)が申請していた会社更生法の適用に基づく更生手続きの開始を決定した。関係者によると、会社更生法の場合、通常は申請から開始決定まで4週間ほどの期間を要するが、今回は24日の申請からわずか6日での認可という異例の速さだ。年度末には、今冬の電力卸市場価格の高騰で経営難に陥った新電力事業者の倒産や経営再建関連の手続きが相次ぐことが予想される中、「早々に認可を決定したのではないか」と見る向きもある。

異例の速さでFパワーの会社更生開始手続きを決定した東京地裁

会社更生法は、適用を受ける企業の社会的意義や影響力を踏まえ、株主や債権者の権利を制限してでも、倒産を回避して更生させることを第一の目的にした制度。このため、開始決定前の債務(464億円=東京商工リサーチ調査)の返済は猶予され、株主の株式価値もゼロになる。更生計画を策定する更生管財人には強い権限が与えられるため、経営再建を進める上で妨げとなるようなものであれば、管財人の判断によって業務上の支払いはもとより、税金の支払いなども一定の範囲で制限することが可能になる。「日本航空をはじめ、過去に会社更生法の適用を受けた企業は全てが更生に成功している。それを考えれば、Fパワーについても必ず会社更生が実現すると考えてよい」(司法関係者)

東京地裁の決定を受け、Fパワーでは保全管理人の富永浩明弁護士が、埼玉氏や沖隆代表取締役ら経営陣に代わって、更生管財人として事実上の経営権を持ち、更生計画の策定に取り組むことになる。その際、更生管財人の指示の下で、旧経営陣の一部が再建支援者に指名される場合もある。「さまざまな憶測が飛び交っているようだが、当社の業務は従来通り行われ、お客さまに提供する電力(料金・サービスなど)の営業活動に影響が及ぶことはないと強調しておきたい。開始決定に先立つ29日には、株主を含めた債権者向けの説明会も終了した。ステークホルダーの方々には大変なご迷惑をお掛けし、申し訳ない気持ちでいっぱいだが、今のところ更生手続きの作業は順調に進んでいる。新たなスポンサーの下で、より一層充実したサービスを提供できるよう、誠心誠意、今後の経営再建に取り組んでいく」(Fパワー関係者)

Fパワーの新スポンサーは果たしてどこに?

更生管財人を中心とした会社更生計画の策定・実行期間は、概ね1年程度。その間、新たなスポンサーの選定作業を進めることになる。現在のところ、噂レベルでは大手電力会社やガス会社、新電力などの名前が挙がっているが、最終的には入札によって決定する模様。果たして、どのように更生作業が進んでいくことになるのか。電力業界初の会社更生手続きの行方が注目される。

※2010年代の主な会社更生法適用企業=日本航空(負債総額約2兆3000億円)、武富士(同4336億円、現日本保証)、エルピーダメモリ(同4800億円、現マイクロンメモリジャパン)、ウィルコム(同2060億円、現ソフトバンク連結子会社)。

【記者通信/3月30日】東電PGが飛騨信濃FC公開 新設直流幹線で中部電側と接続


東日本大震災で東北・東京エリアの発電所が被災し電力不足に陥った経験を教訓に、周波数の異なる東西間で融通できる電力量を拡大するべく、東京電力パワーグリッド(PG)と中部電力PGが5年前から建設工事を進めてきた「飛騨信濃周波数変換設備(FC)」が完成し、報道陣に公開された。

記者が足を運んだのは、東電PGの新信濃変電所(長野県朝日村)。同社は、同変電所内に交直変換設備を新設するとともに、中電PGが岐阜県高山市に新設した飛騨変換所(岐阜県高山市)と接続する「飛騨信濃直流幹線」の建設を担った。

交直変換設備の心臓部「サイリスタバルブ」


交直変換設備の要となるのが、半導体素子「サイリスタ」を多数個組み合わせた「サイリスタバルブ」と呼ばれる高さ8・5mの巨大な装置だ。東日本側から西日本側に電気を流す際には、50万Vから15万4000Vに変電した交流電気を直流200Vに変換、直流幹線を通して中部電力が新設した飛騨変換所に送る。逆に中部電側から直流幹線で送られてきた電気は、この装置で交流に変換し安曇幹線を通じて新秩父開閉所に送る。電気をどちら方向にどれだけ送るかといった指令は全て、東電PGの中央給電指令所から発出する。

変電所の敷地内からは新設の直流幹線と、2種類の交流送電線を見ることができる


記者が変電所敷地内の高台に登ると、変電所から岐阜県に向かう直流幹線と2種類の交流送電線が平行して敷設された光景を一望できた。亘長89㎞の直流幹線を敷設する当たっては197基の鉄塔を建設。その建設地が高標高山岳地であることや特定猛禽類の生息地であることなどから、工事にさまざまな制約があったが、資材運搬にヘリコプターを活用したり、林道から鉄塔までの作業員の移動用にモノレールを活用したりと、さまざまな工夫を凝らすことで3年7カ月という短工期を実現できたそうだ。

新FCは31日午後7時に運用が開始される。自然災害が頻発する中、全国の電力安定供給に資することが期待されている。

【記者通信/3月24日】Fパワーが会社更生法で経営再建へ 複数のスポンサーが支援検討


新電力大手のFパワー(埼玉浩史社長)は3月24日、取締役会の決議に基づき、東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請したと発表した。これを受け、東京地裁は同日申請を受理し、保全管理命令と強制執行に関わる包括的禁止命令を発出するとともに、保全管理人として富永浩明弁護士を選任した。同社は今後、裁判所および保全管理人の下で経営再建を図ることになる。電力小売り事業者が会社更生手続きに乗り出すのは初めてのケースで、再建の行方が注目される。

関係者によると、同社の負債総額はおよそ243億円。2018年6月期から2期連続で大幅な赤字となったFパワーでは、電力小売り事業の収益性の改善や調達コストの見直しといった経営改革に取り組み、20年6月期はわずかながら黒字に転換した。ところが、今冬の電力需給ひっ迫に伴う卸市場価格暴騰などの影響で、業績が大幅に悪化。エネットやENEOSなど大手事業者系の新電力とは違い、独立系の同社では資金力のある筆頭株主の大和証券グループから支援を受けられないなどの事情から、自助努力での経営立て直しを断念せざるを得ない状況に追い込まれた格好だ。

3月4日付の記者通信で報じたように、大和証券グループを中心に大手IT系など他事業者への売却の検討が進む中、埼玉社長ら現経営陣はこれまで築いてきた顧客との関係性を踏まえ、新たなスポンサー候補とも協議しながら、現在の事業を継続する方向での再建方法を模索。結果としては会社更生法の下で、保全管理人による事業再建手続きを開始することが最善の策と判断したとみられる。

今回の事態を受け、埼玉社長は次のようにコメントしている。

【記者通信/3月24日】石炭火力存廃へ新たな目標「発電効率43%」をどう見るか


2030年に向けた非効率石炭火力フェードアウトの規制的措置を検討してきた、総合資源エネルギー調査会の石炭火力検討ワーキンググループ(座長=大山力・横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授)は3月22日の会合で、発電効率43%を省エネ法での石炭火力の新たな目標水準とする方針を事務局が提示し、概ね了承した。新たな目標水準は、BAT(最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)に基づく技術水準や、国内事業者の上位1~2割が満たし、国際的にみても高い水準であることなどを踏まえて設定。設備単位での基準とすると事業者の選択肢を大きく狭めるため、従来の省エネ法での火力に関する規制と同様、事業者単位の基準とする。

ただし、大手電力の発電効率実績で43%を超えている既存設備はたったの2基と、その達成ハードルは相当高い。高効率化に向けては、低効率設備の休廃止や設備利用率の低下、タービン改造による効率向上、バイオマス混焼などの選択肢がある。例えばバイオマス混焼による補正措置で43%を目指す場合、実績効率39%ではバイオマス10%混焼、実績効率41%ではバイオマス5%混焼でクリアできる計算となる。ただし、現在のバイオマス混焼の実績も大半は混焼率1%未満で、1%以上の設備は7基しか存在しない。

既存石炭火力は続々と廃止へ向かうことになるのか

委員からも、「43%は2基しか達成していない厳しい目標で、安定供給とのバランスを考えると早急に過ぎないかと懸念している」(秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー)、「熱力学という超えられない壁があり、あと9年で全ての発電効率が43%となることは考えられず、達成するならバイオマス混焼ゆえのものとなる。今後過半数が達成したら目標を上げる、といったことは軽々にやってはならない」(長野浩司・電力中央研究所社会経済研究所長研究参事)などの意見が相次いだ。また、バイオマス混焼について、大規模設備ほど混焼比率を高めることのハードルの高さや、燃料の安定供給が可能かといった懸念が示された。

一方、「43%が野心的な目標でハードルが高いということ自体が残念。こうした議論が世間の常識から乖離していないか」(松村敏弘・東京大学社会科学研究所教授)、「30年に向けて中間的なマイルストーンの設定も必要ではないか」(高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター 教授)といった意見も飛び出した。

いずれにせよ、石炭火力比率が高い事業者は30年に向けて新たな目標への対応策を急ピッチで進めなければならない。その影響は地元経済や他産業にもおよび、同日の会合では全国港湾労働組合連合会と全日本港湾運輸労働組合同盟から、労働者の雇用確保や運送事業者の事業が継続できるような取り組みを求める意見書も提出された。石炭火力の新目標の達成に向けては、引き続き電力業界内外への影響をきめ細かくみていく必要がある。

【記者通信/3月20日】原発防災法制の不備を突いた 水戸地裁判決の波紋


茨城県など9都県の住民224人が日本原子力発電東海第二原発の運転差し止めを求めた訴訟で、避難計画やそれを実行する体制の不備などを理由に運転は認めないとした水戸地裁の判決が波紋を広げている。脱原発派はもとより、原発理解派の関係者からも「国としての明確な基準がなく、自治体任せになっている避難計画の問題を指摘してきたことは重く受け止める必要がある」「科学的知見には踏み込まず、防災法制の不備を理由にあげてきた意味では妥当な司法判断」などと評価する声が聞こえているからだ。

水戸地裁は3月18日、東海第二原発について「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」として運転を認めない判決を言い渡した。前田英子裁判長は判決理由の中で、原発から半径30㎞圏内の県内14市町村のうち、広域避難計画を策定済みの自治体は5つにとどまっているうえ、その避難計画にも課題があるなどとして「原告らの人格権が侵害される具体的危険がある」と指摘。一方で、基準地震動の設定や津波の想定、建物の耐震性については「原子力規制委員会が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」として、原告側の主張を退けた。

これに対し、日本原電は19日に東京高裁へ控訴。「これまで東海第二発電所の安全性等について、丁寧にご説明をしてまいりましたが、原判決は当社の主張を裁判所にご理解いただけず誠に遺憾であり、到底承服できるものではないことから、本日、東京高等裁判所へ控訴しました。当社としては、控訴審において、原判決を取り消していただけるよう、引き続き東海第二発電所の安全性等の主張・立証に全力を尽くしてまいります」とのコメントを発表した。

水戸地裁の判決は、日本の原発政策に重大な警鐘を鳴らしている

安全性」ではなく「避難計画」が判決の論点

ただ、一般的に見て、原電側の旗色は良くない。旧民主党議員(水戸1区選出)を務めていた元経産官僚の福島伸享氏はSNSで「今回の東海第二原発の再稼働をめぐる水戸地裁の判決は、私のような脱原発論者ではない者にとっても、極めて重要な判決」とした上で、次のような解説を行っている。

「今回の判決に対して日本原電は早速控訴したようだが、二審でも苦戦は必至である。なぜなら、原発のサイトの安全性なら日本原電自身が対応可能で、しかも国が基準を示して審査も行うものであるのに対して、避難計画の策定には直接日本原電が関われるものでなく、しかも何が妥当なものなのか誰も客観的、科学的な判断を示していないからだ。原発自体の安全性を争って二審で逆転した、伊方原発のようにはいくまい。そもそも、94万人の住民を合理的な根拠をもって安全と判断できるような避難計画を作ることは、極めて困難なことだろう」

「今回の判決は、ある意味日本原電が立法府や行政府の不作為の被害者でもあることを明らかにしたものであるように思われる。原発再稼働論者は、惰性で現状の維持を続けているのみで、東日本大震災の経験を踏まえた新たな原子力安全対策にきちんと取り組んでいない。私が拙著『エネルギー政策は国家なり』(エネルギーフォーラム刊)で論じたように、安倍政権の7年8か月は原子力政策の再構築を棚上げしたことにより実質上『脱原発』を進めていたのだ」

「このまま何もしないでいれば、脱原発派が訴訟を起こすまでもなく、日本の原子力産業は時間の経過とともに死に絶えていくことであろう。日本はこれまで積み重ねてきた知的資産や技術的資産を無にすることにもなる。『意図せざる原発ゼロ』こそが、日本にとっての最悪の結果なのだ。今回の判決は、こうしたことに対する重大な警鐘と受け止めるべきだ」

また、梶山弘志経産相は3月19日の閣議後会見で「(水戸地裁の判決は)安全性については確認された上で、避難計画が論点だった。(避難計画は)まだ策定中なので、しっかりと政府が後押しする形でつくっていく。そうした中で住民の理解を得ていくことが重要だ」と強調した。水戸地裁が投げたボールを、国はどう受け止め返投するのか。東海第二原発の命運がかかっている。

【記者通信/3月20日】首相・閣僚が相次ぎ東電批判 現実味帯びる「あの秘策」


福島第一原発の事故から10年。東京電力が再び原発問題で窮地に立たされている。今回の舞台は、新潟県の柏崎刈羽原発。昨年8月に明らかになった中央制御室への社員不正侵入に続き、今年1月には不正侵入者を検知する設備を作業員が壊していた問題が発覚。原子力規制委員会が調査を行ったところ、複数の検知設備が故障したまま事実上放置され、長期にわたってテロリストなどの不正侵入が可能なリスクにさらされていたことが分かった。これを受け、規制委の更田豊志委員長は3月16日の会見で「深刻な事案」だとして、追加検査を指示したことを明らかにした。検査には1年以上かかるとみられ、再稼働はさらに遠のいた格好だ。電力業界の関係者は、原発再稼働に厳しい姿勢を貫く規制委のやり方に不満を抱いてきたが、今回の不祥事によって立場は一変。しばらくは規制委批判を封印せざるを得ない状況に追い込まれた。

「原発を扱う資格に疑念」「規制委の審査にしっかり対応を」

柏崎刈羽原発を巡る相次ぐ失態に対し、政府・自民党を中心に東電追及の動きは強まる一方だ。3月19日に開かれた参院予算委員会で、菅義偉首相は「東電が重大で不適切な事案を起こしたことは大変遺憾。極めて深刻に受け止めている。地元の方々の信頼を損ねる行為であり、原発を扱う資格に疑念を持たれてもやむを得ない」「東電は高い緊張感と責任を持って、原子力規制委員会の検査に真摯に対応すべきだ。その上で組織的な管理機能について、抜本的な対策を講じる必要がある」との見解を示した。

梶山弘志経産省は同日の閣議後会見で、「東電は徹底的に原因究明し、抜本的な対策を講じて規制委員会の検査にしっかり対応していくことが必要」だと指摘。その上で、「エネルギー基本計画における将来的な原子力の位置付けについて、今回の事案も踏まえて検討していく必要がある」「今後の基本政策分科会において、本事案について委員の意見を聞いた上で今後の方向性を議論していく」などと述べ、基本計画見直しの検討作業に影響が及ぶ可能性を示唆した。

小泉進次郎環境相も同日の会見で、柏崎刈羽原発問題に言及。「新潟県民にとっては、原発への賛否もあるかもしれないが、同時に東電を信用できるかどうか。つまり原発だけではなく、東電の問題なんだという言葉は非常に重たい」「テロ対策、安全対策、そして地域住民に対する信頼を確立できないような組織に未来はない。今問われているのは東電の在り方だ」などと、東電のコンプライアンス問題に痛烈な批判を投げ掛けた。

一連の閣僚発言から見えてくるのは、柏崎刈羽原発の再稼働を東電に任せることはできないという国側の姿勢にほかならない。大手エネルギー会社の幹部が言う。

「今回の件で、『柏崎刈羽原発の運営に東電が関与している限り再稼働はあり得ない』という空気が、世論として醸成された。今後は、柏崎刈羽の切り離しと、東電に代わる運営主体をどうするかという議論が一気に加速するだろう。その際、引き受け手として浮上してくるのが、新潟エリアを供給区域に持つ東北電力であることは間違いない。何と言っても、東日本大震災で津波被災した女川原発の再稼働に道筋を付けたという大きな実績がある。折しも、海輪誠会長が4月1日付で相談役に退くことから、例えば新たな運営事業者のトップに海輪氏を抜擢することも考えられるのではないか。東北1社では心もとないということであれば、同じBWR(沸騰水型軽水炉)グループに所属する中部電力や日本原子力発電などが参画してくる可能性もある」

東電の経営再建に当たって、幾度となく水面下で取りざたされてきた「BWR連合が柏崎刈羽の運営を担う」という秘策。今回の不祥事によって、にわかに現実味を帯びてきた格好だ。

こうした中、東電の小早川智明社長は17日の参院予算委員会で「地域の皆さまをはじめ、広く社会にご心配をおかけしていることに改めておわびをしたい」と謝罪したのに続き、19日の参院予算委員会にも出席。「福島第一原発で、10年前に重大な事故を起こした。あのような事故を二度と起こさないと志を共有して改革に取り組む中で、今回の事案が起きたことは痛恨の極み」と述べ、改めて陳謝した。また18日夜の記者会見がリアルではなくオンラインで行われたことも関係者から不評を買っており、小早川氏の進退を問う動きが高まるのは避けられそうもない情勢だ。

3月下旬に予定される取締役会までに、どのような展開が待ち受けているのか。目が離せない情勢が続く。

【記者通信/3月11日】地域新電力設立を妨害?市長が大手電力に抗議のワケ


地域新電力の設立を計画する地方自治体のN市が、業界関係者の間で注目を集めている。地元の大手電力会社がN市の取り組みを妨害するなどしたとして、市長自らが大手電力に抗議を行うとともに、政府に対し大手電力の行為に関する調査を求めているためだ。

市長名の文書によると、大手電力はN市が設立する新電力について「容量拠出金の負担が多額になるので赤字になる」などと、根拠なく試算した拠出金額を説明して回っていると指摘。これは新電力設立を阻止する意図だと推測しながら、「電力システム改革の大きな柱である小売全面自由化を妨害する行為であり、且つ地方自治を侵害する行為」と断じている。また当該大手電力は、N市が計画策定を委託した地域新電力O社のデータを送配電会社から入手、「その供給構造を推測し、それをN市が設立する新会社と同様であると仮定して根拠のない拠出金を試算した」と指摘。その上で、「このデータ利用はO社に何らの了解を得ることなく行われており、違法であるとともに、分社後の送配電会社から顧客データを入手するという、電力システム改革の大きな柱である『送配電部門の分離・中立性の確保』を完全に形骸化させ否定する行為」だと痛烈に批判している。

これらが事実とすれば、確かに大きな問題になりそうだが、業界関係者からは「厳しい行為規制が課せられている中で、送配電部門のデータを無断で流用するというのは、にわかには信じがたい。何らかの誤解があるのでは」(別の大手電力関係者)、「当該大手電力にしても、全面自由化を妨害したり、地方自治を侵害するなどの悪意をもって、N市電力の容量拠出金を試算したわけではないはず」(中堅新電力関係者)といった声も。その一方で、「自治体新電力の設立は、地元大手電力としてむしろ応援するぐらいの気構えが必要。『金持ち喧嘩せず』で、いらぬあつれきを生むような行動は絶対に避けた方がいい」(大手エネルギー会社幹部)と見る向きもある。

気になるのは、N市の新電力設立にあたってのアドバイザーに、地域新電力支援で実績のあるP社が入っていることだ。「今回の抗議行動の裏では、何らかの形でP社が関与している可能性も否定できない」(事情通)。N市電力を巡る問題について、エネルギーフォーラムでは大手電力側の見解も含め、引き続き取材を進めていく考えだ。

【記者通信/3月10日】小泉氏が気候担当相兼務に NDC問題で試される手腕


政府は、気候変動関連の国際会議に向けた国内関係省庁の調整役として「気候変動担当相」を新設し、小泉進次郎環境相がそのポストを兼務することとなった。4月下旬に米国バイデン大統領が主宰する気候サミット(首脳会議)、6月に英国が議長国を務めるG7(主要7カ国)サミット、9月の国連総会、そして11月には温暖化防止国際会議のCOP26などが予定されている。

これらの場では、菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したものの、現在掲げるNDC(温暖化ガス削減目標、30年13年度比26%減)や石炭火力政策などに対し、欧米から厳しい指摘が飛ぶことが予想される。温暖化対策を重視するバイデン政権の誕生を背景に、日本が気候変動問題で国際的に一層難しい立場に置かれる中、小泉氏がどのような手腕を発揮するのか、注目される。

小泉氏は9日の閣議後会見で、内閣府の担当大臣というポストが加わることで、政府部内の調整がしやすくなると説明。現在見直しの議論が進むエネルギー基本計画についても、「環境大臣の立場で意見を言うことと、(内閣府担当大臣として)気候変動の観点から意見を言うのとでは違う」と強調した。

米国は4月の気候サミットまでに30年の温暖化ガス削減目標(NDC)の大幅な引き上げを発表し、各国にも引き上げを求めるものと見られている。小泉氏はこのサミットを見据えて日本のNDCについても「50年カーボンニュートラルと整合的なものに上げていけるよう、最大限努力する」と述べた。NDC引き上げに関する欧米の圧力は、G7サミットやCOPの場でも繰り広げられることが予想される。

ただ、野心的な目標をまず掲げることを重視するトップダウン型の欧米と異なり、日本のNDCはボトムアップ型で、分野ごとの対策を緻密に積み上げて導き出した数字だ。それをターゲットイヤーまであと10年を切ったタイミングで、原発の再稼働が依然進まず、しかもコロナ禍で経済が疲弊する中で大幅に引き上げることは現実的に難しい。再生可能エネルギーのさらなる普及拡大にも乱開発抑制の壁が立ちはだかる。

欧米の圧力をどうしてもかわせないのであれば、日本としてもNDCの達成に関する認識を改め、トップダウン型を取り入れる方法への転換が現実味を帯びてくる。エネルギー環境問題研究機関の幹部は「官邸筋からの圧力もあり、経産省はNDCで『30年40%削減』を打ち出さざるを得ないと考えているようだ」と話す。こうした現実を踏まえ、気候変動に関する日本の貢献策をどうアピールしていくのか。難しいかじ取りを行う小泉氏の手腕が試される。

【目安箱/3月9日】「原子力ムラ」の問題点 復活はホリエモンに学べ


「原子力へ向いた逆風の風向きが変わった」「ようやく冷静な議論ができる」「今こそ政府に訴えよう」―。東京都内で開かれた原子力関係者の勉強会に最近、筆者は参加した。その中で、こんな意見が交わされていたことに、大きな違和感を覚えた。

2011年3月11日から始まる東京電力の福島原発事故の後で、原子力は大変な批判にさらされた。あれから10年近くがたち、原子力を巡る状況は確かに変わりつつある。今年1月の電力危機は、原発の長期停止による供給力不足が一因だ。一方で昨年秋、菅義偉首相は「2050年カーボンニュートラル社会実現」を政策の目標に掲げた。原子力発電は温室効果ガスを出さないため、カーボンゼロ政策の有力な切り札になる。

そうした状況下、原子力関係者がこれまでの萎縮から解放され、気分が高揚することは十分理解できる。しかし原子力を応援するものの「原子力ムラ」の外にいる筆者は、「ムラビト」たちの浮かれぶり、政府を動かしたいという希望に、「それでいいのか」と疑問を持ってしまったのだ。

民意が原子力から離れているのに、「原子力は素晴らしい」といくら政府に主張しても、大多数の人はしらけるだけだろう。そして福島の事故からの復興は途上だ。原子力を認める雰囲気が社会の中で広がっているとは思えない。民意におもねる気配の強い最近の政府が、かつてのように原子力を推進することはないだろう。

「国にお願いするのは昔のやり方ですし、時期尚早。慎重に動くべきです」と、筆者が言うと、研究会は白けてしまった。

◆説得や政治工作で物事は変わらない

あえて前述したが、反対派がよく使う言葉に「原子力ムラ」がある。原子力関係者を指す曖昧な言葉だが、「政官学財に巣食い、癒着し、閉鎖的で、利権をむさぼる悪の結社」(反原発派ジャーナリスト)という意味を込めているようだ。この言葉は問題を単純化しすぎ、幼稚な響きがある。

ただし閉鎖的という意味合いには一理ある。原子力関係者からは、そんな印象を受けてしまういがちなのだ。原子力は専門性が高く、そこで管理、研究などで取り組むためには高度な知的訓練が必要だ。このため、自ずと高学歴で男性中心の理系の知的エリートが中心になってくる。彼らは自分たちがそうであるように、「合理性と議論」で世の中は動く、または動かなければならない、と考える傾向が強いように思う。

しかし、この10年の経験を見れば分かるように、原子力を巡る議論は、合理的に解決するものではなかった。さまざまな人々の思いや感情、政治的な思惑が入り乱れ、迷走と混乱を続けている。にもかかわらず、ムラビトがいくら「原子力の素晴らしさ」を声高に主張したところで、世論を説得できるわけがないし、そもそもうまくいくわけがない。

◆「刺さる」新しい話を積み重ねる

では、原子力への反感を取り除くには、どうすればいいのか。もちろん、今までの原子力ムラの問題、そして原発事故への反省は必要だ。しかし、それだけでは原子力の閉塞した状況は動かない。筆者は原子力を活用すべきという立場であることから、原子力のプラスになることを提言したい。

参考になる話がある。元ライブドアの創業経営者で、証券取引法違反で有罪になり、今はネットでその発言と活動が注目されるホリエモンこと堀江貴文氏が、遺伝子組み換え作物とその関連商品を販売するモンサント社の日本法人(現バイエル)のシンポジウム(2018年開催)に出た。遺伝子組み換え作物では、世界的に反対運動が広まっている。原子力発電と同じように、感情な批判が多く、さらに政治団体も絡んでビジネス展開を阻害している。そんな現状打開のために、堀江氏を呼んで意見を聞きたがったのだろう。

そこでの質疑応答で、あるジャーナリストが、「世の中に、遺伝子組み換え作物問題だけではなく、原子力発電、ワクチン摂取など、感情的な批判でこじれた問題がたくさんある。堀江さんだったら、状況をどのように変えるか」と聞いた。

筆者の要約と解釈の範囲だが、これに対し堀江氏は概ね次のような回答をした。

「全員の賛成を得ようと思うのは、あきらめたほうがいい。論理的に説得しようとしても、無理だし時間の無駄。世の中には、理性が通じない話がある」

当たり前だが示唆に富む発言だった。原子力問題では、推進の立場の人が反対派を説得しようと試みて失敗してきた。さらに堀江氏はこうも言っていた。

「遺伝子組み換え作物に関わる人は、ビクビクする必要は全然なくて、『いいことをやっている』『世界の食料生産を支えている』『Save the world!』と堂々と、事実を伝えればいい。賛同してくれる人たちもいるはずだ。それが適切な問題の設定だ。原発や、反ワクチンでも同じだろう」、「過去は変えられないが、情報を上書きしていくことはできる。かっこいい情報を上書きしていく。例えば、新技術や、これによって社会が進歩して、みんなが幸せになったという成功例だ」、「P Rでは、理屈で攻めるよりも、まず素晴らしい具体的なモノ、それがなければワクワクする未来を見せる方がよい」、「何が刺さる(注目されるという意味)か、わからない。P Rのための題材は、お金と余裕のある限り、いろいろ試した方がいい。当たったらそれを掘り下げていく。真面目路線で世の中は変わらない」――。

実際に堀江氏は、自分のブランディングでこのように活動している。それだから、有罪の後で社会的に復活を遂げたのだろう。

◆具体的なモノ、ワクワクする未来を語れ

この話を聞き、思い出すことがあった。マイクロソフトの創業者で慈善事業家のビル・ゲイツ氏の行動だ。彼は途上国へのエネルギー供給と、温暖化ガス削減の手法として原子力に着目し、小型原発に投資している。ただ最近は、原子力の必要性を声高に訴えないのだ。中国企業と協力して開発を行っているからかもしれないが、まずは新型原子炉を形にすることを急いでいるように思える。かつて彼はパソコンのO Sを売り出すとき、理屈やアイデアだけではなく、まず製品にして企業に使ってもらうことにこだわったという。原子炉でも同じことを考えているのかもしれない。堀江氏の発想と通じるものがある。

考えてみると、原子力関係者は政府、学会、事業者共に、東電の原発事故の後で萎縮をし、反省と言う言葉を繰り返していた。事故の前は、誰からも好かれようとしていた。振り返ると、そうした行動は原子力の支持を増やすことに効果はなかったように思える。

原子力が復活するには、新技術によって具体的に社会を変え、「こんなに原子力は役立つ」という事実を、社会に示すことが必要ではないか。理屈や政治工作だけでは、復活は難しい。日本には、期待できる世界最先端の原子炉の研究があり、その生み出す大量の電力を使って国民の生活が豊かになった歴史がある。東電の事故以来、そうした技術革新や進歩が停滞しているように思えてならない。

原子力関係者はぜひそうしたイノベーションを社会に生み出してほしい。原子力によって変わる未来を示す新たなアプローチが、原子力の再生につながるはずだ。堀江貴文さん、ゲイツさんの考えは、そこで参考になるだろう。

【イニシャルニュース】メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側 ほか


1.電力暴騰はなぜ起きた? 大手が超高値を主導か

今冬の電力業界を襲った日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰問題を巡り、大手電力会社の小売り部門などが1月初旬から約3週間にわたる超高値局面を主導した実態が明らかになってきた。

JEPXが公開した売り買い入札状況を見ると、需給ひっ迫の影響で売り札不足が続く中、システム上の最高値であるkW時999円でまとまった量の買い札(グロスビディング=取引所を介した自社取引=など)が入っていることが分かる。これが約定価格の押し上げに大きな影響を与えた格好だ。中堅新電力の幹部A氏が言う。

「これだけの規模で最高値入札ができるのは、大手電力会社や大手エネルギー会社系の新電力しかない。聞いている話では、1月初旬に親会社からの供給がストップしたT社のみならず、K社やC社、E社なども供給力確保のため軒並み最高値で入札した。インバランスは絶対出してはいけないという意識が小売り事業者全体に根強くある中、大手の動きのあおりを受け、中小の新電力も損失覚悟で高値入札を余儀なくされ、資金難、経営難に陥ってしまったわけだ。その意味では100%経営責任とは言い切れず、国に対して救済措置を求めたくなる気持ちはよく分かる」

気になるのは、別の電力関係者B氏によると、12月中旬、大手の間では「電力不足によって今後スポット市場が高騰する公算が大きいため、先物市場の活用も」との情報が駆け巡っていたということ。真偽は定かではないが、中小新電力が異口同音に訴える「情報の非対称性」が明暗を分けた可能性は否定できない。

経産省が取り組む取引市場のルール見直しがどう行われるのか。公正性・透明性確保の観点からも注目される。

2.異色のTF委員H氏 提言巡りSNSで論戦

菅義偉首相肝いりで誕生した、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」。脱原発を掲げる河野太郎・規制改革担当相の意を汲んだ環境派の委員が名を連ねていることから、「議論が再エネ事業者側に偏っている」(大手電力関係者)との批判も多い。

再エネ規制TFは菅首相の肝いりで発足

だがTFには、ほかの委員とは一線を画す異色の経歴を持つ人物がいる。元経産官僚のH氏だ。H氏は経産省では大臣官房企画官や中小企業庁に在籍した後、第一次安倍政権や福田政権では規制改革・行政改革担当相補佐官も経験。現在は政策コンサルティング業を営んでおり、政界とのつながりも深いとされている。

そんな中、H氏のSNSでは、TFの需給ひっ迫問題に対する緊急提言を巡り、エネルギー業界への造詣が深い元官僚のI氏と数日にわたり熱い議論が交わされている。

議論は安定供給を担保した上でのエネルギー供給体制を構築すべきだという点では意見が一致したものの、最大の論点であるTFの提言が新電力救済策なのかという点や、電力ひっ迫における発電事業者の責任問題については意見が収束することはなかった。

「間違いなく優秀な人だが、経産官僚とはいえエネルギー政策とは無縁の道を歩んできた。エネルギー業界の実態を分かっておらず、発言内容も振り付けた役人の意のままなのだろう。ほかの委員は既に色が付いている人々なだけに、H氏にも変な色が付いてしまうのでは」。H氏をよく知る元官僚はそう語っている。

改善すべき政策は当然あるとはいえ、薄氷の上をいくエネルギー産業が、素人考えで崩壊してしまっては元も子もない。地に足のついた現実味ある議論を期待したい。

3.大手紙にベテラン不足 迫力を欠くエネ関連記事

東日本大震災と福島第一原発事故を契機に、日本のエネルギー政策は再エネ主力化に大きくかじを切った。そんな歴史的な転換点から10年という節目が近づいているにもかかわらず、大手5紙では目を見張るようなエネルギー関連の特集は見当たらない。

「五大紙にこの10年のエネルギー業界を見続けてきた記者がほとんどいない、という事情からだろう。若手・中堅記者も、柏崎刈羽原発やほかのBWR(沸騰水型炉)の再稼働、あるいは福島第一の処理水処分問題で何か動きがあれば書きようがあるのかもしれないが、年が明けても硬直状態が続く。だから10年関連の記事は復興の内容に偏って、今この国が抱えるエネルギー・原子力問題を深掘りする記事がない」(エネルギー業界関係者)

ベテラン記者はほとんどいない(朝日新聞)

東日本大震災以降、全国紙でエネルギー問題を担当し続けてきたベテラン記者は、N紙のM氏やT氏、S紙のI氏ら、ごく少数だ。そして彼らの後継者も育っていない。これでは、10年の歩みを振り返ろうにも限界があろう。

週刊経済誌もかつては原発問題で特集を組み、メーカーと経産省の関係性や、司法などの切り口で報じてきた。が、原発特集は人気がなく、掲載すると販売部数が減る。それで、今は脱炭素化ばかり目立つようになっている。

この10年でエネルギーシステムは大きく変革し、自由化、強靭化の課題がさまざまな局面で顔を出してきた。そんな問題意識を、全国紙でもぜひ読者に伝えてほしいものだが……。

4.メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側

九州K県を拠点とするK電力と、同社に電力を卸供給してきたF社との間でトラブルが生じ、需要家を巻き込んだ騒動に発展している。

2月初旬、F社がK電力と小売り契約を結ぶ需要家に対し、契約上の地位移転により今後はF社傘下の「新K電力」が供給する旨を通知。すると、即座にK電力がそれを「迷惑メール」だとして、返信しないよう要請したのだ。その後も、双方がそれぞれの言い分を主張するメールの応酬を繰り返したため、需要家は混乱の渦に陥ってしまった。

今回の騒動は、K電力の資金繰り悪化で事業継続が困難になっていたことが発端とみられる。F社がウェブ上で公表した経緯説明によると、当初は従来通りの料金水準で電力供給を継続することを目指し、資本業務提携を締結することでK電力代表取締役であるT氏と合意していた。

ところが、K電力側の事情で資本業務提携が困難に。T氏側から地位移転の申し入れがあり、これに伴い契約切り替え(スイッチング)に必要な需要家情報の提供も受けたという。

双方の主張はどこで食い違ってしまったのか。考えられるのが、この経緯説明に登場する「事業者B」の存在だ。K電力は、このBからの借り入れに対し同社の株式を担保として提供。返済できないまま、この事業者Bが担保権を実行したとみられる。K電力の企業サイトを確認すると、代表取締役はT氏のままだが、実質的な経営権はこの事業者Bに移っていると考えるのが妥当だろう。

業界関係者は、「F社はあくまでも卸決済サービスの提供会社であって小売事業に興味があるとは思えない。なぜこのような事態になっているのか」と首をかしげる。

自由化された市場では、契約トラブルが起きることは十分に想定できる。とはいえ、巻き込まれる需要家にしてみればいい迷惑としか言いようがない。今後、経営難に伴う事業からの撤退や譲渡があれば、こうしたケースが増えることは大いにあり得る。事業継承や譲渡における手続きの明確なルール化も求められそうだ。

5.第2再処理工場の建設 T電力OBが断念主張

自由化による収益減や原発安全対策費用に頭を痛める電力業界。建設費用が想定を超えた六ヶ所再処理工場を軸とする核燃料サイクルは、「重い負担」となりつつある。

さらに頭痛の種が使用済みMOX燃料だ。昨年12月、電気事業連合会は使用済みMOX燃料の再処理について「取り組みを強化する」と国に報告した。福島事故後も国・業界は全量再処理路線を維持。使用済みMOX燃料を再処理する「第2工場」についても、本格的な検討を始めざるを得なくなっていた。

しかし、第2工場の建設費用は、約3兆円の六ヶ所工場を上回りかねない。「つくってはいけない。直接処分すべきだ」。こう強調するのは反原発派関係者ではなく、T電力の有力OB。こんな声が、電力関係者の間でこれから増えるかもしれない。

【記者通信/3月5日】再エネ倍増の鍵握るのは?小泉環境相が温対法改正で言及


再生可能エネルギー導入推進の主役は地方自治体――。このほど閣議決定された地球温暖化対策推進法(温対法)の改正案は、菅政権が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を基本理念として位置付けた上で、地方自治体が再エネ導入目標を設定し脱炭素実現を目指していく方向性を打ち出した。同時に、地域の再エネ開発の促進地域を設定。地元の自治体が関与する形で再エネ大量導入に向けた環境整備を図る構えだ。

小泉進次郎環境相は3月5日の閣議後会見で、温対法改正案に言及し、「再エネの倍増を目指して取り組んでいる中で、実際に大きな鍵を握るのは自治体だ」と指摘。その上で、「今回の温対法の改正で再エネ促進区域を新たな制度として位置付ける中で、その法律を誰が使うのかといえば、自治体になる」、「(法改正の内容を)自治体に対してしっかりと伝えて、活用のための助言も含め、自治体の皆さんと一緒に取り組んでいきたい」、「自治体と組まなければ、再エネ倍増も、エネルギー基本計画も、さらなる再エネを導入をするという結果も出すことができないと思う」などと述べ、自治体の重要性を重ねて強調した。

地域の自治体が主体となり温暖化対策と経済活性化の両立を目指していくのか

環境省はかねて「地域循環共生圏」を温暖化対策の柱の一つに掲げ、地方の自治体や企業が相互連携しながら環境対策に取り組み、それを地域経済の活性化へと結び付けていく政策を展開してきた。今回の温対法改正案は、その共生圏の取り組みを法制度面からサポートするものといえる。現在、地域密着でエネルギーインフラ事業を営むガス会社や石油販売会社の役割が高まるのは間違いなく、自治体と協力しながら再エネ事業展開をどう図るのか。今後の動向が注目される。

【記者通信/3月4日】大和証券がFパワー売却か 情報通信H社と水面下の交渉


前期決算で黒字回復した新電力大手のFパワー(東京・芝浦、埼玉浩史会長兼社長)。今冬に発生した日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰のあおりを受け、再び苦境に立たされているようだ。 同社の決算期は6月のため収支状況がまとまるにはしばらく時間がかかるが、ほかの新電力同様に相当の損失が発生する可能性があるという。

そうした中、筆頭株主の大和証券グループが主導する形で、他事業者への売却を軸にした経営再建策の検討が進んでいることが、関係筋の話で明らかになった。「売却候補先として情報通信関連事業を手掛けるH社が挙がっていると聞いている」(Fパワー事情に詳しい関係者)。モバイル機器販売などのプッシュ型営業で定評のあるH社では、複数の新電力を系列に抱えるなど、エネルギー事業への参入を積極的に推進。かねてFパワーに関心を示していた経緯もあり、社債発行の幹事会社などを務める大和証券グループとの間で、水面下の交渉が行われているもようだ。

埼玉氏をはじめとする現在の経営陣はどうなるのか、200人に及ぶ社員の扱いはどうなるのか、需要家側の反応はどうなのか、何よりも今回の市場暴騰などによる負債をどうするのか。いずれにしても、大和証券グループによるFパワー再建の先行きは前途多難の様相だ。

【記者通信/3月3日】米テキサス州の電力高騰問題にみる日本への示唆


2月半ばに記録的な大寒波に見舞われた米テキサス州。氷点下の寒さで暖房需要が急増した一方で、凍結による発電所の停止で電力需給がひっ迫し、送配電網を管理するテキサス州電力信頼性評議会(ERCOT)は2月15日未明から18日にかけて輪番停電に踏み切った。

この需給ひっ迫は、電力価格の高騰をもたらした。リアルタイム市場価格が4日間に渡って上限の1MW時当たり9000ドルに達したのだ。注目されるのは、「エネルギー価格は供給の不足を反映する必要がある」として、テキサス州公益事業委員会が9000ドルに到達していなかった時間帯も含めて上限価格で精算するようオーダーを出したことだ。インバランス料金にkW時200円の上限を設け、スポット価格の高騰に歯止めをかけた日本とは反対の措置だと言える。(参考:https://www.puc.texas.gov/agency/resources/pubs/news/2021/PUCTX-REL-COLD21-021521-EMERGorder-FIN.pdf

120万件以上の需要家で停電が発生したテキサス州大手電力会社のセンターポイントエナジー社

ただ、その爪痕はあまりに深い。3月1日、同州最大の電力小売事業者であるブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻している。ブラゾス社は、16の公益事業会社を通じて州全体で66万件を超える顧客に電力を供給しているが、現地報道によると、電力価格の急騰に伴い30億ドル以上の債務を抱えることになったという。また、市場連動プランを契約している一般家庭の中には、大寒波の最中の数日間だけで電料金が50万円以上に跳ね上がったケースが続出しているもよう。ひどいところでは、請求額が180万円に達した利用者もみられた。

電力危機による経済的な損害は小売り事業者や利用者に限ったことではない。ERCOTはブラゾス社に対し担保金など21億円を請求したが、このうち18億円が未払い。同社のみならず、こうした小売り事業者の債務不履行により、ERCOTから発電設備への支払いに必要な原資も約13憶ドル不足しているとのことだ。小売り、送配電、発電、そしてもちろん消費者に至るまで、異常気象に伴う需給ひっ迫と価格高騰によって、誰かが著しく高い利益を得たとは言い難い。

ともあれ、バイデン政権が「大規模災害宣言」を発出したテキサス州に比べれば、年初の日本を襲った寒波は「数年に一度」のレベルであり、事態の深刻さは比較にならない。しかし、そうした状況下で電力不足による全国的な需給ひっ迫が発生。日本卸電力取引所のスポット市場価格とインバランス料金の高騰が長期間にわたって続いた。その影響で、電力小売り事業者の多くが苦境に立たされ、特に大手新電力では軒並み3桁億円に達する損失が発生したとみられる。

「2020年度決算の通期見通しや経産省作成の資料、関係者の話などを踏まえると、九州電力など大手電力会社の送配電部門も収支状況は悪そうだ。おそらく、最終的に利益を手にしたのは発電事業側だろう。いずれにしても第4四半期の決算が発表される5月ごろには、小売り、送配電、発電の各事業者の収支実態が明らかになるため、市場高騰による影響度合いの検証はそこから本格的に進むのではないか」(電力業界関係者)

今後の検証作業においては、対処療法的な議論に終始せず、テキサスの状況もしっかりと見極めた上で市場の在り方や制度の抜本的な改善につなげるべきだろう。