菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、わが国のエネルギー産業を取り巻く政策・ビジネスが脱炭素化へと急速に舵を切り始めた。国の経済財政諮問会議や成長戦略会議、経団連などは相次いで「再生可能エネルギー電のイノベーション」「原子力発電の活用」「電化の推進」を打ち出し、脱炭素化と経済成長の両立を図る姿勢を鮮明にしている。
「いくらクリーンな天然ガスといえども、化石エネルギーである限りCO2の発生は避けられないが、ノンカーボン化された電気ならいくら消費してもCO2は出ない。将来的には、CO2フリーの原発と再エネ、それにカーボンオフセットされた火力で発電することで、脱炭素社会の実現が可能になる」。大手電力会社の幹部はこう指摘した上で、50年に向けて電力需要が1.5〜2倍ほど増えると予測する。
さて、こうした情勢の中で、最近気になる傾向が目に付き始めた。省エネルギーの機運が次第に薄れつつあるのではないかということだ。言うまでもなく、省エネ技術は日本が世界に誇る分野。1970年代のオイルショック以降、発電設備にしても、利用機器にしても、高効率化の技術力で世界をけん引してきた。それが、「再エネ由来の電気であれば、いくら使っても大丈夫。化石燃料からのシフトを図っていくことが最優先課題」(環境NPO関係者)となれば、状況が変わってこよう。
いくら再エネといっても、太陽光パネルや風力発電、蓄電池といった設備機器を作るためには、石油などの化石資源が必要。また再エネ電源の開発には相応のエネルギーを使うし、環境破壊も伴う。つまり、再エネが主力電源になったとしても、電力使用量自体を減らす努力は本来必要なはずだ。「再エネ分野だけでなく、省エネ分野のイノベーションをどう推進していけばいいのかは、隠された大きな課題。脱炭素化・電化を重視するあまり、省エネに対するインセンティブがなくならないよう、政策レベルで改めて確認する必要がある」(機器メーカー関係者)
省エネ機器のトップランナー制度が再び脚光を浴びる日は、果たして訪れるのだろうか。