九州や中部で記録的豪雨被害 差し迫る複合災害の危機


今年も記録的豪雨が日本列島を襲い、九州や中部を中心に甚大な被害が発生した。岐阜県や長野県では小規模な地震も頻発。さらに新型コロナウイルス感染拡大という不安要素も付きまとい、複合災害がリアルな危機として突き付けられている。

熊本県球磨村では電柱が折れ曲がる被害が発生した(7月5日)(提供:朝日新聞社)

梅雨前線が長期間停滞したことにより、7月上旬から下旬にかけて発生した「令和2年7月豪雨」は、期間中の降水量の合計値が更新されるなど、記録的な大雨となった。7月20日時点で、全国の人的被害は108人、住宅被害は1万6000棟超となっている。

九州電力管内では期間中、熊本県で最大停電戸数が8840戸に上るなど、各地で停電が発生。変電設備や水力発電所も被害を受けた。停電は17日時点で一部復旧困難地域の290戸を除き解消している。ほかにも、都市ガスでの一時供給停止、SS(サービスステーション)やLPガス充填所などの被害も発生した。

中部電力管内でも一時、岐阜県を中心に最大約2000戸の停電が発生したが、16日までに全面復旧済みだ。ただ、長雨で地盤が緩む中、長野県や岐阜県では県境を震源とする地震がたびたび発生。15日には約30分間で震度1〜2の地震が5回も発生した。

一般送配電事業者各社は9日、先の国会で成立したエネルギー供給強靭化法に基づく「災害時連携計画」を、電力広域的運営推進機関に提出した。昨年の房総半島台風の教訓を踏まえた対応だが、複合災害が対象の備えとして、果たしてそれで十分なのか。発送電分離に続き、2年後には都市ガスの導管分離も予定される中、有事の安定供給を担保する仕組みを模索していくことが求められる。

石炭火力の輸出支援は堅持 両大臣の力量の違いあらわに


政府のインフラ輸出戦略の改定案が7月9日にまとまった。小泉進次郎環境相が異議を唱え、注目を集めた石炭火力の輸出支援については要件を厳格化することで決着。内閣官房、経済産業省、環境省の当初の思惑通りに進み、途上国の脱炭素化を後押しするという名目で、石炭火力の輸出支援は堅持された。「原則輸出しない方針」を盛り込むことに最後までこだわっていた小泉氏のもくろみが外れ、閣僚としての力量のなさが浮き彫りになった格好だ。

実績アピールに力を入れる小泉氏だが、空回りは否めない(提供:朝日新聞社)

今回の戦略で示した石炭火力の輸出支援は、対象を高効率の石炭火力に限定し、CO2の排出が多い非効率型の輸出は支援しないことを明確にした。脱炭素に取り組まない国に対しては「原則輸出支援しない」という文言は盛り込まれたが、輸出支援する方針に変更はなかった。

原則輸出しない方針を巡り経産省と環境省が対立したとする報道もあったが、実際は両省とも「原則輸出支援はする」という方向で認識は一致していた。以前は何かと対立していた両省だが「ここ数年は連携が密になってきた」(政府関係者)という見方がもっぱら。小泉氏と彼の取り巻きだけが取り残されたわけだ。

石炭火力の輸出支援に異議を唱え、議論の掘り起こしに成功した小泉氏にとってみれば、打ち上げ花火と化したことには不満があるのだろう。方針発表後の記者会見や海外メディアの取材に「原則支援しない」というコメントを繰り返した。自らの思いを実績だと強調して閣僚としての力量のなさを覆い隠そうとする小泉氏。「理念よりも実効性」を強調した梶山弘志経産相とは対照的な姿が目立つ結果となった。

需給両面を襲うコロナ禍の「劇薬」エネ事業進化の推進力にできるか


コロナ禍は、日本のエネルギー需給の両面で、全面自由化以上のインパクトを与えている。この劇薬をうまく利用できれば、変貌の最中にあるエネルギー事業が進化するきっかけになり得る

コロナショックの初期、世界各国で実施されたロックダウンは、あらゆる経済活動に強力な副作用をもたらした。エネルギーでは消費が消え、商品全般が供給過剰に陥った。専門家は、「日本は先進国の中では需要の落ち込みは相対的に小さかった。ただ、世界的には短期の市場変動から、長期的な構造変化に関心が移ってきている。さまざまな可能性がある中で、エネルギー企業は複線的にシナリオを描き、柔軟に対応する姿勢が重要になる」(日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員)と警鐘を鳴らす。

7月1日に再開された総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)でも、コロナに伴うエネルギー情勢の変化がテーマの一つとなった。

マクロでみると、日本では外出自粛や海外からの観光客の減少などで、交通部門の燃料使用量が減少。また、商業施設も自粛のあおりをくらって来客が減少し、需要が低下した。

一方、テレワークなどで在宅時間が増えたことで、家庭での電力、都市ガスなどの消費量は増加している。

住環境計画研究所の分析によると、4月の消費量は前年同月比で7.7%増加し、光熱費はエネルギー価格の変動を考慮した実質増減率で同6.4%増えている。また、家計に占める光熱費の割合は7.2%と、前年同月より1ポイント増加している。例年より気温が高かったことや、エネルギー価格の低下がなければ、光熱費の増額はさらに大きかった可能性があるという。

同研究所は「コロナ禍が再燃しつつある中、在宅勤務の割合は元の水準には戻らないだろうし、夏にかけてエアコン需要が増えていく。家庭のエネルギー消費に業務の消費が混ざっている状況をどうフォローしていくのかが重要だ。今後、エネルギー消費と家庭での人々の行動の紐づけや、省エネ意識はどうなっているのか、掘り下げていきたい」(岡本洋明主任研究員)と説明する。

電力需要の回復は地域で差 火力維持の困難さも露呈

再エネが火力を押し出す状況が見られるようになった

ではエネルギー別ではどのような傾向が見えてくるのか。

電力は、4月の速報値で系統電力需要が前年同月比3.5%減、5月はさらに拡大し9.2%減となった。ただ、5月末の緊急事態宣言解除を機に、徐々に戻りつつある。この頃から地域ごとの差も出始め、九州や関西は、6月に入り前年比との差が縮まってきた。それに対し、中部では自動車系など産業部門を中心に戻りが鈍く、東京についてはまだ発表されていない。

とりわけ産業・業務用については、活動自粛の影響を大きく受けるため、コロナ禍の終息が遠のいた昨今の情勢を踏まえると、以前の状態に戻るとは考えにくい。みずほ証券の又吉由香上席研究員は「今後気になるのは、契約電力量の変動だ。需要家側での生活や行動の変容が使用量にどう影響するのか、注目される」とみる。

供給面では、火力電源への影響が顕在化している。コロナ禍で火力の経済的なリスクが一足早くあぶり出された格好だ。需要減少を受け、相対的に再エネの比率が上がり、ネットワークへの負荷が高まっている。再エネの出力変動を吸収するため一定量の火力を動かしてはいるものの、石炭もLNGも稼働率は減少。九州のようにメリットオーダーで火力が押し出される状況が、全国的にみられるようになってきたのだ。