A やはり最大の問題は、3E(経済性、供給安定性、環境性)達成のコアである原子力再稼働が進んでいないことだ。CO2を2050年に80%削減させるのであれば、新増設やリプレースは不可欠なのに、政府は逃げ回ってきた。この問題に向き合わないままで、欧州などの圧力を受けてCO2削減目標を引き上げるなんてことはナンセンスだ。そして原子力の穴埋めで石炭火力比率がなかなか下がらなかったわけだが、石炭火力たたきに力を入れる小泉進次郎環境相には、ぜひそうした現実を直視してほしい。原子力の必要性に言及しないままなら、総理の器ではない。
B エネルギーミックスの基本は3Eの達成だ。第一次基本計画、第二次計画までは3Eを考慮した達成可能な目標だった。そのバランスが崩れたのは第三次計画から。国際的には先進国が50年80%削減にコミットし、国内でも環境目標が最重要視されるようになり、非化石電源比率を7割に上げることを迫られた。環境目標の合理性が議論されないまま、世論が出来上がってしまった。
A 特に金融が気候変動にぐっと寄ったスタンスを見せ始めたが、経済悪化に拍車をかけるエネルギーコストを上げるような自殺行為は、金融も避けたいはずだろう。
C ある外資系金融関係者が「金融は訳の分からない仕組みほどもうかる」と言っていたが、本質を突いていると思う。実体経済への投資のリターンで稼ぐ真っ当なビジネスではなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資拡大の流れに取り残されたくない、という心理に付け込むのが彼らの手口。日本のメガバンクも当初はESGの方針では抜け道を残しつつ、現実的な落としどころを探るかに見えたが、最近の動きを見るとそれもあやしい。
B 東日本大震災後で唯一原発を動かした野田佳彦首相以降、再稼働が進まないのは、電気の安定供給に支障が出ていないからだ。コロナでますます経済が痛む中で、さらに再エネへの転換が進めば、国民もその弊害を実感し、騒ぎ始めるだろう。
安倍政権への期待空振り 電力の財務状況は毀損
D 前回の議論は15年の年初からゴールデンウィーク明けにかけて行われたが、4月の統一地方選が終わるまではガスとか再エネの議論を続け、原発には終盤まで触れなかった。委員の橘川武郎氏は、「原発比率は良くて15%で、新増設を議論すべき」と何度も発言し、最後は「歴史家として訴えている」とまで述べたが、結局反映されなかった。
C 電力業界は第二次安倍政権に期待したが、外交や安保のために原子力問題は二の次にされた。官僚も、電力システム改革の推進者となることで原発事故の責任を逃れようとし、結果、戦術に溺れて戦略を見失った。だが今の選挙制度では、いくら政権や官僚を批判しても政策が世論に迎合する状況は変わらない。行き着くところまで行くしかないのかと暗たんたる気持ちになる。このままでは電気料金の高騰か、安定供給の毀損か、電力会社の破綻の三択しかない。
B 正常化のチャンスはまもなく訪れる。政権交代直後は支持率が上がり、時間的な余裕もできる。そのタイミングで原子力問題に手を付ければいい。一時支持率が低下しても、再稼働が進んで経済が回復すればリカバリーできる。第二次安倍政権も発足直後、いったんは原子力の正常化に取り掛かろうとしたが、結局頓挫してしまった。
A 原子力の正常化が進まない一方、ゼロエミッションのために石炭火力を封じれば、再エネのさらなる拡大に伴い電力コストが上がるだけだ。温暖化対策は経済が回っているからこそできるものだ。コスト論を考えない議論はたわ言でしかない。
C 原子力が止まった分を火力が補い、値上げせざるを得なかった会社もあるが、その間に総じて電力は固定費を回収できず、自己資本を食いつぶし、投資余力は残されていない。それほど電力会社の財務状況は毀損している。
D 地方によってはさらに厳しくなるところもある。経産省も、電力の体力が削られ投資が厳しくなる中、5年以内に需給バランスに影響が出かねないと危機感を持っている。朝日新聞や毎日新聞も、一度真剣にミックスの構成を考えてみてほしい。