ESG投資に揺れるみずほ メガバンクは和魂洋才か


6月25日に開かれたみずほフィナンシャルグループの株主総会で、気候変動対策に関する株主提案が提出されるという異例の一幕があった。環境団体の気候ネットワークが、パリ協定の目標に沿った投資に関する経営戦略計画の開示を求めたのだ。

みずほは4月、石炭火力向けの与信残高を2050年度までにゼロにする方針を発表したが、気候ネットワーク側は不十分だと主張。提案は否決されたものの、海外投資家などが支持し、賛成率は約35%に達した。簡単にむげにできるような水準ではない。

ただ、ある市場関係者は「電力会社の株主総会での脱原発提案みたいなもの。一部の幹部は気にするかもしれないが、銀行の経営自体が左右されることはないだろう」と言い切る。同日、みずほは石炭火力の与信残高ゼロ10年前倒しも表明したが、これも自然に残高が減少していくスピードをやや速めたに過ぎず、「金融機関が脱炭素に力を入れているように見える効果はある」(先述の市場関係者)程度だ。

コロナ禍で、経済度外視の温暖化対策の無謀さは証明済み。メガバンクのように〝和魂洋才〟的なしたたかな戦略も重要だ。

【覆面座談会】現実との乖離は進むばかり 待ったなしのエネ政策再構築


テーマ:エネルギー政策の中間評価と課題

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会が7月に再開され、今後エネルギー基本計画の見直しが本格化する。政府はさまざまな課題を先延ばしにしてきたが、次期エネルギーミックスではどんな方針を打ち出すべきなのか。

〈出席者〉 A有識者  Bアナリスト  C電力業界関係者  Dジャーナリスト

原発は9基しか稼働していない上、バックフィットのリスクも抱える

―エネルギーミックスのターゲットイヤーが近づく中、目標と現実の乖離にもはや目をつぶれなくなってきた。まず、これまでのエネルギー政策の評価をそれぞれ聞きたい。

A やはり最大の問題は、3E(経済性、供給安定性、環境性)達成のコアである原子力再稼働が進んでいないことだ。CO2を2050年に80%削減させるのであれば、新増設やリプレースは不可欠なのに、政府は逃げ回ってきた。この問題に向き合わないままで、欧州などの圧力を受けてCO2削減目標を引き上げるなんてことはナンセンスだ。そして原子力の穴埋めで石炭火力比率がなかなか下がらなかったわけだが、石炭火力たたきに力を入れる小泉進次郎環境相には、ぜひそうした現実を直視してほしい。原子力の必要性に言及しないままなら、総理の器ではない。

B エネルギーミックスの基本は3Eの達成だ。第一次基本計画、第二次計画までは3Eを考慮した達成可能な目標だった。そのバランスが崩れたのは第三次計画から。国際的には先進国が50年80%削減にコミットし、国内でも環境目標が最重要視されるようになり、非化石電源比率を7割に上げることを迫られた。環境目標の合理性が議論されないまま、世論が出来上がってしまった。

そして第四次計画では原子力が実態と全くそぐわない内容になり、それが第五次計画にも踏襲された。三次計画以降、ミックスは絵に描いた餅にさえならない状態が続いている。

―ただ、コロナ禍の経済悪化で温暖化対策の勢いが失速するのでは、という見方が多い。

A 特に金融が気候変動にぐっと寄ったスタンスを見せ始めたが、経済悪化に拍車をかけるエネルギーコストを上げるような自殺行為は、金融も避けたいはずだろう。

C ある外資系金融関係者が「金融は訳の分からない仕組みほどもうかる」と言っていたが、本質を突いていると思う。実体経済への投資のリターンで稼ぐ真っ当なビジネスではなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資拡大の流れに取り残されたくない、という心理に付け込むのが彼らの手口。日本のメガバンクも当初はESGの方針では抜け道を残しつつ、現実的な落としどころを探るかに見えたが、最近の動きを見るとそれもあやしい。

B 東日本大震災後で唯一原発を動かした野田佳彦首相以降、再稼働が進まないのは、電気の安定供給に支障が出ていないからだ。コロナでますます経済が痛む中で、さらに再エネへの転換が進めば、国民もその弊害を実感し、騒ぎ始めるだろう。

安倍政権への期待空振り 電力の財務状況は毀損

D 前回の議論は15年の年初からゴールデンウィーク明けにかけて行われたが、4月の統一地方選が終わるまではガスとか再エネの議論を続け、原発には終盤まで触れなかった。委員の橘川武郎氏は、「原発比率は良くて15%で、新増設を議論すべき」と何度も発言し、最後は「歴史家として訴えている」とまで述べたが、結局反映されなかった。

そして今回議論すべきことは、前回と全く一緒。経産省もいよいよ手を付けざるを得ないのではないかと思っている。

C 電力業界は第二次安倍政権に期待したが、外交や安保のために原子力問題は二の次にされた。官僚も、電力システム改革の推進者となることで原発事故の責任を逃れようとし、結果、戦術に溺れて戦略を見失った。だが今の選挙制度では、いくら政権や官僚を批判しても政策が世論に迎合する状況は変わらない。行き着くところまで行くしかないのかと暗たんたる気持ちになる。このままでは電気料金の高騰か、安定供給の毀損か、電力会社の破綻の三択しかない。

B 正常化のチャンスはまもなく訪れる。政権交代直後は支持率が上がり、時間的な余裕もできる。そのタイミングで原子力問題に手を付ければいい。一時支持率が低下しても、再稼働が進んで経済が回復すればリカバリーできる。第二次安倍政権も発足直後、いったんは原子力の正常化に取り掛かろうとしたが、結局頓挫してしまった。

A 原子力の正常化が進まない一方、ゼロエミッションのために石炭火力を封じれば、再エネのさらなる拡大に伴い電力コストが上がるだけだ。温暖化対策は経済が回っているからこそできるものだ。コスト論を考えない議論はたわ言でしかない。

C 原子力が止まった分を火力が補い、値上げせざるを得なかった会社もあるが、その間に総じて電力は固定費を回収できず、自己資本を食いつぶし、投資余力は残されていない。それほど電力会社の財務状況は毀損している。

D 地方によってはさらに厳しくなるところもある。経産省も、電力の体力が削られ投資が厳しくなる中、5年以内に需給バランスに影響が出かねないと危機感を持っている。朝日新聞や毎日新聞も、一度真剣にミックスの構成を考えてみてほしい。

電力新市場に漂う不穏な空気 システム改革貫徹の行方は


【業界紙の目】木舟辰平/ガスエネルギー新聞編集部記者

3E(経済性、供給安定性、環境性)の最適なバランスの上に進められているはずの電力システム改革。だが、建て前と現実には随分と開きがあるようだ。その割を食っているのは結局、新電力だ。

この原稿を書いている7月13日時点ではまだ発表されていないが、資源エネルギー庁の村瀬佳史電力・ガス事業部長が今夏、異動になることは間違いない。2016年6月からの村瀬氏の在任期間は、異例といえる丸4年に及んでいる。6月の改正電気事業法成立を置き土産に、その座を去るはずだ。

村瀬部長時代の電力政策とは何だったのか。あらためて振り返れば、村瀬氏の部長就任の2カ月前に電力産業は小売り全面自由化という9電力体制発足以来最大の変革を迎えた。一般電気事業者という資格で垂直一貫体制を敷いていた大手電力各社は、電気事業制度上は発電事業者、一般送配電事業者、みなし小売り電気事業者という三者に分かれた。それに伴う関連制度の見直しは多岐にわたった。

こうした全面自由化絡みの一大改革が一息ついたタイミングで、村瀬部長は着任した。就任会見で今後の電力政策について問われ「自由化を進めればすべてがうまくいくわけではない。安定供給や環境対応など事業の公益性が自由化の中で確保されるための課題にしっかりと取り組む」と答えている。その方針を具体的な政策に落とし込むため、9月に新たに立ち上げたのが「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」だった。委員長には山内弘隆一橋大教授(当時)が就任した。

改革貫徹小委は同年12月に中間とりまとめを公表。そこで容量市場、非化石価値取引市場、ベースロード市場といった新市場の創設が提言された。3Eとの対応関係でいうと、容量市場が供給安定性、非化石価値取引市場が環境性だ。両市場とも新電力に追加的な負担を不可避的に強いることから、自由化政策(経済性)とのバランスを取るためベースロード市場が作られることになった。

詳細制度設計の議論を経て、三つの市場はそれぞれ動き出している。ベースロード市場は昨年度に初取引を実施した。容量市場は今まさに初取引の過程にあり、8月末には取引結果が公表される。非化石価値取引市場はFIT電源に付随する価値の取引を先行実施していたが、今年度から非FIT電源付随価値の取引も始まる。

取引低調なベースロード市場 容量市場にも不安要素

各市場とも成否の評価を下すのは時期尚早であろう。とはいえ、いずれも失敗の雰囲気が早くも漂っている。

ベースロード市場は昨年度、今年度1年間の電気が売買されたが、3回合計の約定量は53万4300kWにとどまった。これは新電力全体の前年度の販売電力量実績の4%弱に過ぎない。もちろん、市場創設初年度だったため様子見の新電力も多かったと考えられ、今年度の受け渡しを通して市場参加のメリットが確認できれば、取引量はおのずと増えると期待された。

だが、4月に電気の受け渡しが始まって実際に眼前に広がったのは、それとは正反対の状況だった。新型コロナウイルス感染拡大に起因する燃料価格下落や電力需要減により、スポット価格はベースロード市場の約定価格を大きく下回る低水準で推移した。運転停止中の電源の固定費も売り入札価格に含まれるベースロード市場の約定価格は、スポット市場と大差ない水準に落ち着くとの見方は市場創設前からあったが、事態はさらに深刻だ。ベースロード市場の存在意義そのものが問われかねない。

宮崎市の基幹病院にエネサービス導入 コージェネを核に防災対策を充実


東京ガスエンジニアリングソリューションズ、宮崎ガス】

宮崎市郡医師会病院は、移転に伴い、ガスコージェネを核としたエネルギーサービスを導入した。新しいシステムでエネルギーの強靭化を図っている。

宮崎市の中核医療機関として長年地域を支えてきた宮崎市郡医師会病院。もともとは海岸近くに立地し、南海トラフ地震で津波による浸水が想定される地域だったことから、10㎞ほど離れた高台に新築移転することとなった。これを機にエネルギーシステムの強靭化を図り、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、宮崎ガスの両社が提案したエネルギーサービスの導入に踏み切った。九州の病院へのエネルギーサービス導入は、TGESとして初になる。7月上旬に九州は豪雨に襲われたが、新病院に被害は出ず、予定通り8月1日にオープンを迎える。

病院敷地内に設置されたエネルギーセンター

病院の移転先は新たに造成された場所で、ガス導管も未整備だった。宮崎ガスが3.2㎞導管を延伸し、供給契約を結んだ。エネルギーサービスの事業展開についてTGESは、「当社のノウハウを提供しつつ、地元ガス会社と連携するスタンスです。2017年に福岡に開設した九州営業所を拠点に、地元の情報をすくい上げ、提案に力を入れています。特に九州の病院は、熊本地震の経験から、停電対策への意識が高まっています」(都市エネルギーソリューション部の片山敬英副部長)という。

移転先の敷地内に、400kWのガスコージェネレーション(ヤンマー製)を核とした設備を備えたエネルギーセンターを設置。コージェネは、停電時でも発電可能なブラックアウトスタート仕様で、有事の際も中圧導管から供給される天然ガスで稼働を継続する。防災対策としては、ほかにも非常用ディーゼル発電機の導入、油でも動かせるジェネリンク(廃熱投入型吸収冷温水機)、空調には電気とガス両方を使うヒートポンプチラーを採用し、燃料の多重化を図っている。

エネマネシステムも導入 コスト・CO2対策で最適運用

病院側は防災対策に加え、省エネ・省コストに対する要望も強かった。このニーズに対応するため、天候や病院の利用状況を踏まえ、細かく設備を制御するエネルギーマネジメントシステム「ヘリオネットアドバンス」を導入。コージェネの稼働や、料金の変動も考慮し、空調で電気とガスを最適に組み合わせるなど、省エネ・省コストを深掘りする。同規模の施設と比べ、省エネ、省CO2ともに7%程度の削減効果が見込める。

病院建設の最終盤で新型コロナウイルス感染拡大に見舞われ移動が制限されたが、現地入りしていたメンバーで対応し、工事は予定通り行うことができた。またエネルギーセンターの運用は、もともと宮崎ガスの社員が担う段取りだったため影響なく開始できた。

コロナ終息が見通せない中、病院のBCPの重要性は一段と高まっている。地元の宮崎ガスと、実績豊富なTGESによる宮崎市郡医師会病院のエネルギーサービス開始は、まさに時宜にかなった取り組みだ。

その核として停電対応ガスコージェネを導入した

九州や中部で記録的豪雨被害 差し迫る複合災害の危機


今年も記録的豪雨が日本列島を襲い、九州や中部を中心に甚大な被害が発生した。岐阜県や長野県では小規模な地震も頻発。さらに新型コロナウイルス感染拡大という不安要素も付きまとい、複合災害がリアルな危機として突き付けられている。

熊本県球磨村では電柱が折れ曲がる被害が発生した(7月5日)(提供:朝日新聞社)

梅雨前線が長期間停滞したことにより、7月上旬から下旬にかけて発生した「令和2年7月豪雨」は、期間中の降水量の合計値が更新されるなど、記録的な大雨となった。7月20日時点で、全国の人的被害は108人、住宅被害は1万6000棟超となっている。

九州電力管内では期間中、熊本県で最大停電戸数が8840戸に上るなど、各地で停電が発生。変電設備や水力発電所も被害を受けた。停電は17日時点で一部復旧困難地域の290戸を除き解消している。ほかにも、都市ガスでの一時供給停止、SS(サービスステーション)やLPガス充填所などの被害も発生した。

中部電力管内でも一時、岐阜県を中心に最大約2000戸の停電が発生したが、16日までに全面復旧済みだ。ただ、長雨で地盤が緩む中、長野県や岐阜県では県境を震源とする地震がたびたび発生。15日には約30分間で震度1〜2の地震が5回も発生した。

一般送配電事業者各社は9日、先の国会で成立したエネルギー供給強靭化法に基づく「災害時連携計画」を、電力広域的運営推進機関に提出した。昨年の房総半島台風の教訓を踏まえた対応だが、複合災害が対象の備えとして、果たしてそれで十分なのか。発送電分離に続き、2年後には都市ガスの導管分離も予定される中、有事の安定供給を担保する仕組みを模索していくことが求められる。

石炭火力の輸出支援は堅持 両大臣の力量の違いあらわに


政府のインフラ輸出戦略の改定案が7月9日にまとまった。小泉進次郎環境相が異議を唱え、注目を集めた石炭火力の輸出支援については要件を厳格化することで決着。内閣官房、経済産業省、環境省の当初の思惑通りに進み、途上国の脱炭素化を後押しするという名目で、石炭火力の輸出支援は堅持された。「原則輸出しない方針」を盛り込むことに最後までこだわっていた小泉氏のもくろみが外れ、閣僚としての力量のなさが浮き彫りになった格好だ。

実績アピールに力を入れる小泉氏だが、空回りは否めない(提供:朝日新聞社)

今回の戦略で示した石炭火力の輸出支援は、対象を高効率の石炭火力に限定し、CO2の排出が多い非効率型の輸出は支援しないことを明確にした。脱炭素に取り組まない国に対しては「原則輸出支援しない」という文言は盛り込まれたが、輸出支援する方針に変更はなかった。

原則輸出しない方針を巡り経産省と環境省が対立したとする報道もあったが、実際は両省とも「原則輸出支援はする」という方向で認識は一致していた。以前は何かと対立していた両省だが「ここ数年は連携が密になってきた」(政府関係者)という見方がもっぱら。小泉氏と彼の取り巻きだけが取り残されたわけだ。

石炭火力の輸出支援に異議を唱え、議論の掘り起こしに成功した小泉氏にとってみれば、打ち上げ花火と化したことには不満があるのだろう。方針発表後の記者会見や海外メディアの取材に「原則支援しない」というコメントを繰り返した。自らの思いを実績だと強調して閣僚としての力量のなさを覆い隠そうとする小泉氏。「理念よりも実効性」を強調した梶山弘志経産相とは対照的な姿が目立つ結果となった。

需給両面を襲うコロナ禍の「劇薬」エネ事業進化の推進力にできるか


コロナ禍は、日本のエネルギー需給の両面で、全面自由化以上のインパクトを与えている。この劇薬をうまく利用できれば、変貌の最中にあるエネルギー事業が進化するきっかけになり得る

コロナショックの初期、世界各国で実施されたロックダウンは、あらゆる経済活動に強力な副作用をもたらした。エネルギーでは消費が消え、商品全般が供給過剰に陥った。専門家は、「日本は先進国の中では需要の落ち込みは相対的に小さかった。ただ、世界的には短期の市場変動から、長期的な構造変化に関心が移ってきている。さまざまな可能性がある中で、エネルギー企業は複線的にシナリオを描き、柔軟に対応する姿勢が重要になる」(日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員)と警鐘を鳴らす。

7月1日に再開された総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)でも、コロナに伴うエネルギー情勢の変化がテーマの一つとなった。

マクロでみると、日本では外出自粛や海外からの観光客の減少などで、交通部門の燃料使用量が減少。また、商業施設も自粛のあおりをくらって来客が減少し、需要が低下した。

一方、テレワークなどで在宅時間が増えたことで、家庭での電力、都市ガスなどの消費量は増加している。

住環境計画研究所の分析によると、4月の消費量は前年同月比で7.7%増加し、光熱費はエネルギー価格の変動を考慮した実質増減率で同6.4%増えている。また、家計に占める光熱費の割合は7.2%と、前年同月より1ポイント増加している。例年より気温が高かったことや、エネルギー価格の低下がなければ、光熱費の増額はさらに大きかった可能性があるという。

同研究所は「コロナ禍が再燃しつつある中、在宅勤務の割合は元の水準には戻らないだろうし、夏にかけてエアコン需要が増えていく。家庭のエネルギー消費に業務の消費が混ざっている状況をどうフォローしていくのかが重要だ。今後、エネルギー消費と家庭での人々の行動の紐づけや、省エネ意識はどうなっているのか、掘り下げていきたい」(岡本洋明主任研究員)と説明する。

電力需要の回復は地域で差 火力維持の困難さも露呈

再エネが火力を押し出す状況が見られるようになった

ではエネルギー別ではどのような傾向が見えてくるのか。

電力は、4月の速報値で系統電力需要が前年同月比3.5%減、5月はさらに拡大し9.2%減となった。ただ、5月末の緊急事態宣言解除を機に、徐々に戻りつつある。この頃から地域ごとの差も出始め、九州や関西は、6月に入り前年比との差が縮まってきた。それに対し、中部では自動車系など産業部門を中心に戻りが鈍く、東京についてはまだ発表されていない。

とりわけ産業・業務用については、活動自粛の影響を大きく受けるため、コロナ禍の終息が遠のいた昨今の情勢を踏まえると、以前の状態に戻るとは考えにくい。みずほ証券の又吉由香上席研究員は「今後気になるのは、契約電力量の変動だ。需要家側での生活や行動の変容が使用量にどう影響するのか、注目される」とみる。

供給面では、火力電源への影響が顕在化している。コロナ禍で火力の経済的なリスクが一足早くあぶり出された格好だ。需要減少を受け、相対的に再エネの比率が上がり、ネットワークへの負荷が高まっている。再エネの出力変動を吸収するため一定量の火力を動かしてはいるものの、石炭もLNGも稼働率は減少。九州のようにメリットオーダーで火力が押し出される状況が、全国的にみられるようになってきたのだ。