再エネの拡大や石炭火力縮減が、さらなる電気料金高騰の呼び水となることは避けねばならない。産業競争力をこれ以上低下させないよう、大口需要家は慎重な議論を求めている。
【インタビュー】小野 透/日本経団連 資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行
――非効率石炭火力の縮減に向けた政策検討が始まりましたが、今後の火力の役割をどう考えますか。
小野 現行のエネルギー基本計画の実現に向けた制度検討が始まったという理解です。石炭火力はベースロードとして重要な役割を担っていますが、自然変動電源中心の再エネによる代替は難しく、原子力の再稼働が進まない中では、安定供給に支障が出かねません。加えて石炭火力技術の次世代化を促すことも必要です。
――共同火力や自家発電については、どうですか。
小野 ほとんどの自家発は生産活動と一体的に運用されており、大手電力と同様の規制は、国内の生産活動のフェードアウトを求めることと同義です。自家発も停止せよとなると、まず電気の調達コスト増という問題に直面します。さらに、自家発は事業者のレジリエンス上不可欠で、北海道ブラックアウトの際、自家発を有する工場では停電を回避できました。もし自家発がなければ、大きな被害が生じていた可能性があります。共同火力は特定供給と卸供給を同一設備で担っているため、卸供給分だけ設備を廃止するということはできません。また、IPP(独立系発電事業者)では地域のバイオマス資源の受け入れや、近隣への熱供給を担うなど、地域経済との関係も深く、そうした実情も念頭に入れた判断が必要です。
――基幹送電線の利用ルール見直しも同時並行で進んでいます。
小野 既存設備を最大限使う方向性は良いと思いますが、FIT電気を優先的に流すことはメリットオーダーと言えないのではないでしょうか。コスト負担者の視点からは、40円の太陽光よりも5〜6円の火力が流れる方が経済合理的ということになります。またドイツでは、FITで買い取られた再エネ電気が限界コストゼロで流れ込んだ影響で市場価格が下落してしまい、ガス火力に次いで石炭火力も維持できない水準になりました。ドイツと同じ轍を踏まぬよう、経団連は再エネの市場統合を主張してきましたが、これが実行されないのなら、必要な電源を確保する新たな策を用意すべきです。
――電力多消費産業は、これ以上の電気料金高騰は受け入れ難いと思います。
小野 震災前から日本の産業用電力価格は国際的に高い水準にありましたが、さらに原発再稼働が進まず、石炭はフェードアウト、FITを巡っても未稼働案件などの課題があります。製造業にとって、国際競争力の低下に直結する電気料金の高騰は深刻な問題。コロナ禍が企業経営を直撃する中、さらなる足かせは許容できません。
さらに日本企業が国内に生産拠点を残すには、安定供給の予見性も重要になります。すでに日本企業のサプライチェーンもマーケットもグローバル化しており、将来的に安価な電力を安定的に調達できる見込みがなければ、今後国内への投資は躊躇せざるを得ず、エネ基見直しでは、こうした産業界の実情も意識した議論を望みます。

おの・とおる 1958年生まれ。慶応大工学部卒。ペンシルベニア州立大セラミック科学修了。81年新日本製鉄入社。同社技術総括部部長、日鉄住金総研取締役などを経て、現在、日鉄総研常務取締役。日本鉄鋼連盟特別顧問。





