コロナ禍は、日本のエネルギー需給の両面で、全面自由化以上のインパクトを与えている。この劇薬をうまく利用できれば、変貌の最中にあるエネルギー事業が進化するきっかけになり得る。
コロナショックの初期、世界各国で実施されたロックダウンは、あらゆる経済活動に強力な副作用をもたらした。エネルギーでは消費が消え、商品全般が供給過剰に陥った。専門家は、「日本は先進国の中では需要の落ち込みは相対的に小さかった。ただ、世界的には短期の市場変動から、長期的な構造変化に関心が移ってきている。さまざまな可能性がある中で、エネルギー企業は複線的にシナリオを描き、柔軟に対応する姿勢が重要になる」(日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員)と警鐘を鳴らす。
7月1日に再開された総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)でも、コロナに伴うエネルギー情勢の変化がテーマの一つとなった。
マクロでみると、日本では外出自粛や海外からの観光客の減少などで、交通部門の燃料使用量が減少。また、商業施設も自粛のあおりをくらって来客が減少し、需要が低下した。
一方、テレワークなどで在宅時間が増えたことで、家庭での電力、都市ガスなどの消費量は増加している。
住環境計画研究所の分析によると、4月の消費量は前年同月比で7.7%増加し、光熱費はエネルギー価格の変動を考慮した実質増減率で同6.4%増えている。また、家計に占める光熱費の割合は7.2%と、前年同月より1ポイント増加している。例年より気温が高かったことや、エネルギー価格の低下がなければ、光熱費の増額はさらに大きかった可能性があるという。
同研究所は「コロナ禍が再燃しつつある中、在宅勤務の割合は元の水準には戻らないだろうし、夏にかけてエアコン需要が増えていく。家庭のエネルギー消費に業務の消費が混ざっている状況をどうフォローしていくのかが重要だ。今後、エネルギー消費と家庭での人々の行動の紐づけや、省エネ意識はどうなっているのか、掘り下げていきたい」(岡本洋明主任研究員)と説明する。
電力需要の回復は地域で差 火力維持の困難さも露呈
ではエネルギー別ではどのような傾向が見えてくるのか。
電力は、4月の速報値で系統電力需要が前年同月比3.5%減、5月はさらに拡大し9.2%減となった。ただ、5月末の緊急事態宣言解除を機に、徐々に戻りつつある。この頃から地域ごとの差も出始め、九州や関西は、6月に入り前年比との差が縮まってきた。それに対し、中部では自動車系など産業部門を中心に戻りが鈍く、東京についてはまだ発表されていない。
とりわけ産業・業務用については、活動自粛の影響を大きく受けるため、コロナ禍の終息が遠のいた昨今の情勢を踏まえると、以前の状態に戻るとは考えにくい。みずほ証券の又吉由香上席研究員は「今後気になるのは、契約電力量の変動だ。需要家側での生活や行動の変容が使用量にどう影響するのか、注目される」とみる。
供給面では、火力電源への影響が顕在化している。コロナ禍で火力の経済的なリスクが一足早くあぶり出された格好だ。需要減少を受け、相対的に再エネの比率が上がり、ネットワークへの負荷が高まっている。再エネの出力変動を吸収するため一定量の火力を動かしてはいるものの、石炭もLNGも稼働率は減少。九州のようにメリットオーダーで火力が押し出される状況が、全国的にみられるようになってきたのだ。