エネルギー価格補助は、生活困窮世帯などへの形を変えた生活支援との見方もできる。一方で、政府のGX戦略との不整合は否めない。大橋弘東京大学副学長に今後目指すべき方向性を聞いた。
【インタビュー:大橋 弘/東京大学副学長】

―電気・ガス・ガソリン価格への補助を通じた政府の物価高対策をどう評価しますか。
大橋 わが国経済のデフレ脱却に向け、物価の上昇と賃上げの好循環を創出することは政府にとって喫緊の課題です。ただ、足もとでは、賃上げが追い付かない上に、防衛費や子育て支援などの財源確保に向けて増税が議論されており、減税による低所得者層などの生活支援を打ち出すことで、税負担を和らげようとの狙いがあったように思います。
―エネルギー価格補助は、低所得者層に絞った生活支援ではありません。
大橋 本来であれば、生活困窮世帯のみを支援するべきですが、マイナンバーと所得や納税情報のひも付けなどによる行政手続きのデジタル化が遅れているために、ターゲットを絞ったプッシュ型の支援ができません。これではどうしても「申請主義」とならざるを得ず、地方自治体など行政機関の業務が煩雑化し非効率になることは、新型コロナウイルス禍での給付金給付の混乱でも明らかです。
少なくともエネルギーは、国民誰もが利用しており、また公共交通の乏しい地域では車を複数台持っていることもあり、エネルギーに補助を入れることで幅広い層がその恩恵を享受することができます。政府としては、生活支援の手段として有効との判断があったのではないでしょうか。ただ、例えば電気の使用量が多い人ほどたくさんの補助を受けており、本当に必要としている人に必要な補助が届いているかと言えば、対象がずれている可能性は否めません。
家庭の省エネ支援進展に期待 GXの観点で経済対策を
―政府が目指すGX(グリーントランスフォーメーション)戦略と相反することを問題視する声もあります。
大橋 内閣官邸のGX実現会議においても、分野別の投資戦略などの具体化に向けた検討が進められています。そうした中で、化石資源の利用を促す補助をすることと整合が取れていないことは確かです。一方で、GXの目標を達成するためには、電源を脱炭素化した上で電化できるところはその比率を上げる必要があります。将来の需要側の脱炭素化を見据え、電化を進めることにつなげようとするのであれば、電気料金を補助することに一定の価値を見出せるかもしれません。
―11月2日に政府が取りまとめた総合経済対策に、エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性強化策として、企業や家庭の省エネ支援が盛り込まれていることについてはどう見ますか。
大橋 脱炭素社会を目指す上で、家庭分野のCO2削減は大きなテーマです。ですから、省エネ改修や断熱/遮熱窓への改修、高効率給湯器の導入といった家庭向けの政策が盛り込まれたことは評価できます。どの道、経済対策にお金を使うというのであれば、いかにGXの観点でそれを進めるかが肝要でしょう。