【特集1・第3次石油危機】電力・ガス・石油業界、それぞれ連携強化し供給力確保に奔走


ホルムズ封鎖を受け、電力、石油、ガスの各業界はどんな対応策を講じているか。三者三様の様相を呈す中、「安定供給のための連携強化」が共通のキーワードだ。

<電力>足元は大きな混乱なし 長期戦なら政策修正を

石炭火力は息を吹き返すか

電力業界が目下注視するのは、ホルムズ比率約6%のLNGの調達・価格動向だ。資源エネルギー庁によると、全国の発電用LNGの在庫は4月12日時点で229万tと3週間分をキープ。日量消費量を10万tとすると、何も手を打たなければ毎日6000tずつ在庫が減っていき、ゼロになるまでには1年以上猶予がある計算になる。さらに春先は需要が落ち着いていく中、足元で事業者が調達に四苦八苦している様子はない。

数年前の価格高騰時の経験を踏まえ、政府は緊急時の融通に備えた地域連携や全国連携スキームを構築。また電力広域的運営推進機関が高需要期の燃料状況を監視し2カ月先の見通しを公開する中、今回臨時で4月上旬から発表する。17日時点で6月中旬までひっ迫の恐れはない。

LNG調達量の約5%がホルムズ海峡を通過するJERAはその欠落について、「元々火力の稼働率は再エネや原子力の発電状況によって振れ、その範ちゅうに収まるインパクト。4、5月分の発電に必要な在庫は確保している。燃料サプライチェーンはさまざまな観点から分散化を図っており、ホルムズ閉鎖が即ボトルネックとなるわけではない」(中村玲子・燃料需給統括部長)と説明する。2月に発表したカタール・エナジー社との長期契約(2028年から27年間、仕向け地渡しで年約300万t購入)の内容には今のところ変更はなく、「世界最大級のLNG生産国との関係性は維持する方針だ」と強調する。

さらに政府は安定供給に万全を期すため、容量市場での非効率石炭火力の稼働抑制措置を今年度は適用せず、これによるLNG節約効果を約50万tと見込む。Jパワーの場合、「現時点の貯炭量を踏まえると対応自体は可能。ただ戦争終結時期や適切な貯炭量が見通せないことなどが課題になる」としている。

JERAは、端境期の停止計画の抑制など調整を進める。追加の燃料調達はトレーディングの商流を活用し対応できる見通しだが、苦労するのは人員確保。「関係会社含め運転・保守に関わる人員をそろえなければならない。昨今の人手不足の中、有事でも安定して人員を確保できるよう平時からのパートナーシップが重要になる」(川島創・国内マーケット戦略・企画部長)と指摘する。

長期化した場合に懸念されるのが価格面だ。早ければ6月から電気料金に反映され、夏の需要期とのダブルパンチとなる。そうした中、23年に料金改定しなかった3社のうち関西は既に燃料費調整額の上限を突破し、九州や中部も近づきつつある。「燃調上限の在り方を審議会で検討するとの話が出ており、政府にはその貫徹を望みたい」(電気事業連合会)

JKM(極東スポット指標)は22年の際ほど上昇していないが、長期契約への油価高騰の影響は今後表面化し、カタール基地の1千万t強の生産能力は数年単位で戻ってこない。足元の混乱はなくとも、ワーストシナリオも念頭に入れた政策の軌道修正が喫緊の課題だ。

【特集1・第3次石油危機】日本のセキュアをいかに目指すか 見落とせない三つの危機

史上最大と称されるほどの石油ショックが各国に襲いかかる。本質的なエネルギー安全保障対策を大場紀章氏が提起する。

【寄稿:大場紀章・ポスト石油戦略研究所代表】

史上最大のエネルギー危機が発生し、多くの国々が右往左往する中、日本社会は奇妙とさえ思えるほど落ち着きに満ちている。中東に9割の石油を依存している一方で、250日分という世界最大級の石油備蓄があったおかげで、結果的に石油が最も安心できるエネルギーとなった。この逆説が示すのは、エネルギー安全保障(セキュリティ)とは「安定供給」の確保ではないということである。エネルギーがセキュアな状態、すなわち不安から解放されることで、行動の自由度をいかに確保できるかこそが本質である。この視点に立てば、日本は三つの次元で自由度を失いつつあり、備蓄があったからと安心している場合ではない。

脆弱性の本質を意識 自由度失う状況から転換を

第一に、外交の自由度である。中東原油を米国産に切り替える議論が活発化しているが、これはエネルギーと防衛の双方を米国に委ねることにほかならない。今後最大の地政学的不確実性がむしろ米国そのものだとすれば、「多角化」が外交的従属の深化に帰結しかねない。

第二に、経済政策の自由度である。日本はもはや円安がプラスに働く輸出大国ではない。莫大な化石燃料輸入額による貿易赤字は、円安と輸入物価高が重なるスタグフレーション的状況を招き、金融政策の自由度を著しく狭める。問うべきは「いかに調達するか」ではなく「いかに化石燃料の輸入を減らすか」であり、再エネの拡大、輸送燃料の電化、省エネの推進こそが安保の柱となるべきだ。

にもかかわらず、国内の安定供給の議論に終始すれば、第三の、さらに深刻な自由度の喪失が待っている。産業・外交戦略の自由度である。ホルムズ危機の最大の帰結は、グローバルサウスでの石油・LNG離れの加速ではないか。自動車輸出台数の約半分はこれらの国々向けで、中国製EVにシェアを奪われれば、「安定供給」する対象の産業需要そのものが消える。各国が再エネや石炭を志向すれば、LNG火力輸出という日本の対アジア外交の重要なカードも毀損されかねない。

古い枠組み、内向きの視野、正常性バイアス。史上最大の危機にあってなお本質的な転換が議論の俎上にすら載らないとすれば、その構造こそが日本をセキュアから遠ざける最大の脆弱性ではないだろうか。

日本経済を支える自動車輸出も転換点を迎えるのか

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】成果あるも競争の質はやや期待外れ 規制料金は合理的変更が必要

これまでの競争状況の評価は。そして今後10年で目指すべき電力システムの在り方とは。審議会委員として数多の制度設計に関わってきた東大の松村教授に聞いた。

【インタビュー:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授】

まつむら・としひろ
1988年東京大学経済学部卒。博士(経済学、東大)。大阪大学社会経済研究所助手、東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授などを経て2008年から現職。

―全面自由化から10年経つ今の競争状況をどう見ますか。

松村 低圧分野で新電力が一定のシェアを取り、多様な事業者の知恵を生かす基盤ができたことは成果です。一方、古い常識にとらわれない革新的なモデルの登場に期待していたのですが、やや期待外れでした。例えば変動性再生可能エネルギーの大量導入や出力抑制を見越し、市場価格も踏まえて需要側のリソースを自動制御するモデルなどです。ただ、徐々に革新的な事業者のプレゼンスが高まっており、地域独占時代になかったサービスも広がり始めています。

 スポット価格の価格変動を人為的に抑えるべきとの論は賛成しかねます。価格高騰時は節電の価値が、低迷時は電気を有効活用する価値が高く、この誘因を人為的に抑制する必要はない。一方、中長期契約などで売り手と買い手が相互にリスクを軽減する契約を目指すのは合理的です。ただ、中長期取引を規律で強制するより、安定供給との関連でスポット市場への過度な依存に外部不経済の問題があるなら、その程度に応じて容量市場の拠出金を割り増しするなどの策は意義があるかもしれません。

パッチワークと決別を シンプル・効率的制度へ

―中長期市場の整備・供給力確保の義務化など、小売りや需要家の負担が増える方向です。

松村 容量市場で確保する容量を増やし、スポットのスパイクが減れば、消費者の負担は減るので、全体の負担が増えるとは必ずしも言えません。他方、中長期取引義務化のようなやり方では、安定供給上の効果が乏しいのに望ましいビジネスモデルの発展を阻害し、負担だけが増えかねません。既に述べた適切な課金なら、スポット市場利用に伴う適正なコストを負担してでもやる価値のあるモデルだけ生き残り、うまく設計すれば消費者負担も抑制されるはずです。

―料金規制についての考えは。

松村 解除基準は大手電力会社間の越境競争などが本格化すれば容易に達成できる程度の緩い基準です。この基準すら達成できない現状は残念です。一方、規制料金が残るとしても、より合理的なものに変えるべきです。燃料調整費の上限を上げるのは当然として、インフレや制度変更など事業者の責によらない費用の増加を簡易に料金に反映できる制度も検討されるべきです。

―これからの10年の電力システムと制度の在るべき姿とは。

松村 ゆがみのある制度を抜本的には変えず、別のゆがみがある制度を上乗せして補正するパッチワークを重ねた結果、複雑な制度になっています。競争的な同時市場、インバランス市場、容量市場を基軸とし、全市場をシングルプライス化し、外部性の問題には課金して内部化する基本原理が貫徹すれば、自然にシンプルで効率的な電力システムになると思います。

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】需要家の行動を左右する制度設計 次の10年の鍵は「選ぶ力」の醸成

制度や市場環境の変化に応じて、電力需要家の行動は大きく変わる。転機となった三つの局面でこの10年を振り返り、次の10年に何が必要か展望する。

【寄稿:古川 雄太朗/ENECHANGEオンラインマーケティング部長】

ふるかわ ゆうたろう
関西学院大学国際学部卒。キーエンス勤務を経て2019年4月ENECHANGE入社。家庭向け電力切替事業において比較サイトやコールセンターを活用した切替スキームの事業開発に従事した後、25年7月から現職。

当社は2014年から電気・ガス比較サイト「エネチェンジ」を運営し、自由化とともに成長してきた。自由化から10年、需要家と供給事業者、双方のデータを通して、比較プラットフォームだからこそ見えていた景色がある。制度変化が事業者のプラン設計や競争環境を変え、需要家の行動も変容してきた。「初めて選ぶ」から「選び直す」へ―切り替えの質は、この10年で確実に変わった。一方で、大手電力のシェアは依然として約7割を占めている。切り替えの質は変わっても、すそ野の広がりはまだ道半ば―自由化10年の現在地を示す二面性だ。

この10年を振り返ると、制度や市場環境の変化を背景に需要家の行動を大きく動かした局面が三つある。

第一局面は自由化初期(16~20年)だ。経過措置料金という「基準」の存在が、新電力の価格競争を加速させた。各社は経過措置料金を下回る料金設定で顧客獲得を競い、積極的な販促活動も展開された。当社経由での新電力への申し込みも拡大し、需要家の一部が「電気を選ぶ」という行動を起こし始めた時期だった。

価格高騰で多数が撤退 受け皿となった新電力も

第二局面は21年冬から22年にかけての市場価格高騰・相次ぐ事業者撤退だ。寒波とLNG在庫のひっ迫が重なり、JEPX(日本卸電力取引所)スポット価格は一時200円/kW時を超えた。販売価格へのコスト転嫁が追いつかなかった新電力は逆ザヤ状態に陥った。市場の混乱はインバランスコストの急増をも招き、帝国データバンクによれば、登録新電力約700社のうちピーク時には約2割が撤退・倒産に至った。

当社にも22年4月だけで需要家からの電話・メール合計1万8500件の問い合わせが殺到し、約3カ月間で撤退事業者からのスイッチングを4万5000件以上支援した。新規申込を受付停止する事業者が相次ぐ中、受け皿として踏みとどまった新電力数社の存在が、この局面を支えた事実もここに記録しておきたい。

第二局面で見逃せないのが、経過措置料金の構造的な問題が表面化したことだ。市場価格の急騰により、自由料金より経過措置料金が安い逆転現象が生じた。当社でも、22年12月の経過措置料金からのスイッチング比率は前年同月比で約44%低下した。需要家が経過措置料金の水準に大きく影響を受けていることがわかる。また、電力取引報によれば、22年12月の新電力などからみなし小売電気事業者へのスイッチング数は前年同月比で約2.7倍に増加した。自由料金への切り替えを含む数字だが、経過措置料金の「戻れる選択肢」が自由化の深化にどう影響しているか―改めて問われるべき論点だ。

第三局面は24年以降の市場再起動だ。背景には、旧一般電気事業者7社による経過措置料金の値上げ、市場価格の落ち着き、そして調達コストを販売価格に転嫁するプランの設計が定着し始めたことがある。22年時点で当社サイトの掲載プランは、全て旧一般電気事業者と同じ燃料費調整計算式を用いるプラン(燃料費調整額の上限なし含む)だったのに対し、24年には各社独自の燃料費調整制度を設けた独自燃調プランや、市場連動型プランの掲載が約4割を占めるまでに拡大しており、この変化を裏付けている。プランの種類が広がるとともに、「安いプランを探す場所」から「自分に合ったプランを見極める場所」へと、比較サイトとしての役割も変化した。

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】規制のゆがみが招いた勝者なき戦い 安定供給阻害しない競争へ転換できるか

小売り全面自由化を契機に市場競争が進展し、この10年の電力業界はまさに激動の時代だった。大手電力と新電力が入り乱れての需要争奪戦は、電力ビジネスに何をもたらしたのか。

2000年以降の自由化部門の段階的拡大を経て16年4月、電力小売り事業が満を持して全面自由化された。電力10社による独壇場だった約8兆円の市場が新たに開放され、4年後の送配電部門の法的分離により、大手電力会社による地域独占体制が名実ともに崩壊。激しい競争時代の幕が開いた。

家庭向け電力市場には当初から、実に多くの新電力が参入し、百花繚乱の様相を呈した。消費者の節約意識を喚起し、電気料金が割高な多消費世帯を中心に切り崩し。特に目立ったのが、業容拡大による収益力強化を狙った、ガス、石油、通信、ケーブルテレビ、スーパー、鉄道といった一般家庭を顧客基盤に持つさまざまな異業種からの参入だ。ある都市ガス会社の幹部は、「ガス需要の頭打ちが予想されていた中で、電力事業は新たな伸びしろとして最適だった」と参入の動機を振り返る。

都市ガス小売り全面自由化を翌年に控え、ガス会社は大手電力会社や他の新電力より一足早く電気とガスのセットメニューを展開することができた。セットメニューに加え、日本市場の独自性の象徴とも呼べる「ポイント活動」との連携も当初から活発だった。楽天、PayPay、ドコモ、auなど既存の仕組みに加え、大手電力や新電力独自のポイントも新たに登場し、消費者の囲い込みに大きく貢献してきた。

新電力シェアの推移のイメージ(「電力取引報」を基に作成)

参入促進へさまざまな措置 大口分野にも波及

一方で、電力小売りを専業とする独立系事業者も台頭し、規制料金よりも格段に安い料金メニューを展開する新電力や、再生可能エネルギーを活用し環境志向を訴求する「再エネ系新電力」が存在感を見せた。

こうした勢力の進出を後押ししたのが、全面自由化後に取引量が飛躍的に拡大したJEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場の存在だ。小売り事業者には便宜上「供給力確保義務」が課されてはいたが、100%市場調達が許容されたことが参入を容易にした。再エネ系新電力と言っても、実態は市場調達した電気と非化石証書の組み合わせだ。

資源エネルギー庁は、新電力が大手電力と同じ土俵で戦えるよう、さまざまな競争促進策を講じてきた。例えば17年度には、大手電力に自社の発電部門と小売り部門の取引をJEPXのスポット市場を経由して行うことを求める「グロスビディング」を開始(23年10月廃止)。大手電力の社内取引の一部を市場を通じて行うことで、市場の流動性向上と価格の透明性確保や変動の抑制を図った。この効果か、翌18年10月には、全面自由化した当時は2%に過ぎなかった電力総需要に占める市場取引の比率が30%を超え、登録事業者数も当初の300社程度から500社超に増えた。

大手電力には、限界費用による余剰電力の市場への供出が求められたため、自前の発電所を持たず発電事業者と相対契約を結ばずとも調達でき、かつ大手よりも競争力のある料金メニューを提示できたことは新電力の競争力の源泉となった。さらに、19年度以降の「間接送電権」(市場分断時のエリア間値差をヘッジする仕組み)の導入により、送電容量を確保せずに安価なエリアから電気を調達することができるようになったことも、新電力に優位に働いた。
市場調達による安価な電気は、全面自由化以前からPPS(特定規模電気事業者)と呼ばれる新電力が参入していたものの、競争が限定的だった特別高圧・高圧部門の世界にも劇的な変化をもたらした。膨大な電力を消費する大口需要家ほど、わずかな単価の差であったとしても大幅なコスト削減につながる。そこに目を付けた新電力が多数参入し、家庭用以上に激しい切り替え営業を展開。ピークの21年8月には、高圧部門の新電力シェアは30%近くに達した。

このように当初、自由化は順調に進展しているように見えた。だがその裏で指摘されていたのは、過度な市場への依存が安定供給を毀損するリスクへの懸念だ。大手電力による限界費用での玉出しは、短期的には広域メリットオーダーを実現する効果が期待できるが、電源投資や燃料調達の予見性を失わせ、中長期的には供給力の過小投資を招きかねない。その懸念は、20~22年に断続的に発生した、市場の混乱とエネルギー危機で現実のリスクとしてあらわになった。

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】新規参入促進から規律重視に 「責任ある事業者」へ転換必要

資源エネルギー庁は、これまでの参入促進から規律重視へと政策を転換させた。これからの小売り事業者に求めることとは。小柳聡志氏に話を聞いた。

【インタビュー:小柳聡志/資源エネルギー庁電力産業・市場室長】

こやなぎ・さとし
京都大学経済学部卒。2005年経済産業省入省。東日本大震災後の11年3月から15年8月に電力システム改革を担当。原子力損害対応室長、内閣府国務大臣秘書官などを経て24年10月から現職。

―小売り全面自由化の成果についてどう評価していますか。

小柳 東日本大震災前までは、大手電力会社による地域独占、一貫体制の下、エリアごとの安定供給確保が重視されていました。震災をきっかけに、エリアを超えた安定供給確保が強く意識されるようになり、小売り全面自由化を含めたシステム改革の一環の中で、全国大で電力融通できるよう設備形成が進んだことは大きな成果だと考えています。また、東京電力と中部電力の火力事業を統合しJERAが誕生するといったダイナミックな動きも、自由化がなければ起きなかったでしょう。

―JERAを除けば業界構造はあまり変わっていません。

小柳 統廃合や再編は必ずしもシステム改革の目的ではありません。とはいえ、登録ベースで800、実稼働でも550もの新電力が参入し、まだまだ参入してくる新規事業者がいることは予想外でした。規模の大小問わず、多様な特徴を打ち出しビジネスを展開することは望ましいことですが、一方で、もう少しダイナミックな動きがあってもよいかもしれません。

顕在化した自由化の課題 費用負担の在り方にメス

―その半面、電源投資不足が深刻化しています。

小柳 今後、データセンターの新設などに伴う電力需要増が予想され、それに対応するための供給力を脱炭素電源で確保していかなければなりませんし、送電インフラの整備も欠かせません。小売り事業者が利益を追求することは当然のことですが、過去には、スポット市場に依存し過ぎたばかりに、価格が高騰した際に多くの事業者が供給停止や撤退を余儀なくされる事態に陥りました。公益的な役割の担い手である以上、利益を追求するだけではなく安定供給への責任を果たすべきであり、政府としても、そのような方向で制度議論を進めています。

―小売り事業者の供給力(kW時)確保義務や中長期取引市場の検討ですね。

小柳 今般の中東情勢を踏まえても、供給力確保義務の履行を通じて発電投資や燃料調達の予見性を担保することは、どのような状況下でも小売り事業者が安定的に電気を調達し需要家への供給を継続するために意味のある措置です。確かに、自由化当初は、参入者を増やすことが政策目的の一つとなっていました。ですが10年が経過し課題が見えてきた中で、小売り、発電、送配電、そして需要家を含めた皆が、安定供給に寄与するよう負担のリバランスを図っていかなければなりません。一方で、電気料金が高く振れると国民生活や経済活動に大きな影響があることは紛れもない事実です。そのため、価格変動が一定の幅で収まるような制度を目指す必要があると考えています。

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】先駆者たちが語る新電力の現在地 直面する問題と政策への注文

数年前の燃料価格高騰時の大混乱を経て、また新規参入が増える局面となっている。荒波を乗り越えてきた大手新電力関係者が今の小売り市場を巡る問題を語り合った。

【座談会出席者】

中野明彦/ソフトバンク特任役員GX推進本部本部長兼SBパワー取締役)

都築実宏/auエネルギーホールディングス社長

犬養 淳/東急パワーサプライ副社長


左から犬養氏、都築氏、中野氏

―イラン有事を受け、2021~22年の燃料価格高騰局面と似た状況になりつつあります。当時講じた制度がどこまで機能し、小売り市場にどう影響すると見ていますか。

犬養 今はまだ動向を注視している状況です。いずれにしろ平時でも小売りが厳しい状況であることは変わりませんが、それでも小売りの旗を降ろすつもりはありません。スマート領域やカーボンニュートラル(CN)領域などの価値をいかに訴求していくか、という方が、社内的には重く長期的な課題です。

都築 21~22年度のウクライナ戦争前後の高騰は燃料高から始まり、今の市況は当時に似た状況が見て取れます。一方、20年度の冬はLNGがまさに日本に来なくなり、取り合いの構造となりました。今回も長期化すると20年度のような状態に陥ってしまうのでは、という懸念はあります。かつて講じたさまざまな政策が今回機能し、価格抑制できるのかという点には正直疑問です。

中野 需給ひっ迫時のインバランス料金の上限(暫定措置の1kW時当たり200円が26年10月から300円)は予備率の低下や燃料不足に対しての措置であり、今回のような燃料価格高騰を直接補てんするようなものではありません。今後、燃料価格がさらに高騰し、高止まりする状況が続いた場合には、小売り事業者は料金の問題に直面することになり、各事業者が事前にどんな手を打ってきたかが、再度試されることになります。一番深刻なケースは、やはり中期的な燃料不足に陥ることで、万が一そうなれば一事業者の話ではなく、国全体の問題となります。

都築 前回高騰後の変化として、政府が小売り事業者のリスクマネジメントのガイドラインを示しました。顧客のリスクヘッジとしてサービス・料金メニューの工夫などを求める内容です。それ以降、電源調達の多様化や先物の活用などが広がっており、小売りが今回どこまで耐えられるのかという点では、前回とは違う状況になると思います。

【特集1 電力小売り全面自由化10年の教訓】高まるリスクマネジメントへのニーズ 中長期市場は先物取引にシナジーもたらす

【インタビュー:石崎 隆/東京商品取引所(TOCOM)社長】

―ホルムズ海峡が事実上封鎖され、LNG価格が上昇しています。改めて電力先物取引の重要性が認識されそうです。

石崎 電力先物市場は2019年のスタート時は参加企業が13社でしたが、ウクライナ危機などでリスクヘッジの重要性が認識され、現在は200社まで増えました。一昨年に三菱UFJ銀行が参入して以降、信用力が向上し、取引量も昨年は前年比5倍と急拡大しました。今回のイラン危機で大きな価格変動に直面し、リスクマネジメントの手段として先物を活用する機運はさらに高まるでしょう。

―ご自身も経済産業省時代に制度設計に携わっていました。自由化の意義をどう考えますか。

石崎 登録ベースで800社を超える事業者が参入し独自プランを提供するようになり、消費者の選択肢が広がったことは大きな成果です。一方、ベースロード電源が失われ、供給の脆弱性が顕在化しました。小売りの自由化と安定供給の両立をどう担保できるかが今後の課題です。

―小売り事業者への量的な供給力確保義務を課すとともに、中長期市場導入が検討されています。

石崎 先物取引と相乗効果のある制度だと認識しており、電力先物と現物取引の連携サービス「JJ-Link」を供給力確保義務の充足手段として認めていただきたい。約定から決済までの期間が長くなりますから、信用リスクへの対応がこれまで以上に重要になります。先物市場で培った知見を生かし、信用リスクへの対応も含めた中長期市場の構築や運営にも貢献したいと考えています。

【特集1まとめ】全面自由化10年の教訓 電力小売りを巡る変遷と課題

2016年4月に電力小売り全面自由化がスタートしてから10年が経過した。
この間、新旧電力による「百花繚乱」の顧客争奪戦が展開された。
その一方で、異常気象やLNG不足、国際エネルギー価格高騰に伴う市場の混乱など、
さまざまなリスクに直面した10年間でもあった。
これらの教訓を踏まえて今、小売り事業者の在り方が見直される局面を迎えている。
産官学の関係者への取材を通じて、小売り事業が抱える課題と将来像を浮き彫りにする。

【アウトライン】規制のゆがみが招いた勝者なき戦い 安定供給阻害しない競争へ転換できるか

【インタビュー】高まるリスクマネジメントへのニーズ 中長期市場は先物取引にシナジーもたらす

【インタビュー】成果あるも競争の質はやや期待外れ 規制料金は合理的変更が必要

座談会】先駆者たちが語る新電力の現在地 直面する問題と政策への注文

【寄稿】需要家の行動を左右する制度設計 次の10年の鍵は「選ぶ力」の醸成

【インタビュー】新規参入促進から規律重視に 「責任ある事業者」へ転換必要

【特集1原子燃料サイクルの号砲】次代担う東大生が評価する政策の現状

第7次エネ基でフロントの政策はアップデートされたが、バックエンドは足踏みが続く。エネルギー問題に関心を持つ若い世代は原子燃料サイクル政策の現状をどう捉えているのか。

【インタビュー:富澤 新太郎/元第76回日米学生会議実行委員環境経済とエネルギー安全保障分科会代表

とみざわ・ しんたろう
2003年生まれ。東京都出身。現在、東京大学医学部医学科に在籍。ロシア・ウクライナ戦争を機にエネルギー問題に関心を持つ。24年、第76回日米学生会議実行委員会・環境経済とエネルギー安全保障分科会代表を務めた。

――東日本大震災以降の日本の原子力政策をどう評価しますか。

富澤 第7次エネルギー基本計画で原子力を最大限活用するとし、政策が正常化された点は評価しています。自由化された市場の中で、新規制基準に対応するための巨額の工事費用を回収するには再稼働が必要であり、またリプレースに向けても進展がありました。
 他方、中部電力の浜岡3・4号機の再稼働審査を巡る不正のようなことはあってはなりません。政策的には原子力にゴーサインが出ているのだから、むしろ旧一般電気事業者にはより責任ある対応が求められ、そのために国がどうバックアップするかも今後の課題でしょう。

――原子燃料サイクル政策についてはどう捉えていますか。

富澤 フロント事業と異なり、サイクルは想定との乖離があり、原子力政策のアキレス腱だと受け止めています。政策を強力に進める経済的なインセンティブが薄い状況ですが、日本が一定程度のプルトニウムを保有している以上、国際公約であるプルサーマル計画を放棄することはできず、建前でもこの方針は堅持すべきです。また、再処理前提の最終処分場の選定でも大変なのに、それより有害度の高い直接処分の最終処分場を国内で見つけることは至難の業であることも理解しています。

歩み遅くとも安全重視で トラブル報道の見直しを

富澤 中間貯蔵施設は比較的運用しやすく施設を拡張する可能性があり、MOX燃料の活用も広がっています。リスクをとって急いで再処理する必要性が低い中、歩みは遅くとも安全性を重視する現状方針の維持がベターでしょう。再処理工場の完成が27回も先送りされたことからも分かるように、資源を再利用する閉鎖系の運用は開放系より難易度が高く、扱いの難しい放射性物質の管理にはより高度なシビアアクシデント対策が求められます。もんじゅのように、運開してすぐ止めるという事態になっては困ります。

 ただ、いつまでもこのままで良いというわけには行きません。例えば10~20年といった期間を設け、その間に実現のめどが立たないのであれば、直接処分や海外委託といった飛び道具を含め、「プランB」を示す必要もあるのではないでしょうか。

――原子力報道に思うことは?

富澤 稼働すれば小さなトラブルは何かしら起こるものですが、メディアは大小の区別なく一律に報じがちです。福島事故の教訓は、トラブルが起きた際に可能な限り被害を低レベルに抑えるための危機管理が重要だということ。報道もその教訓を踏まえ、トラブルをゼロイチで捉えてすぐに待ったをかける報道ではなく、グラデーションを付けて説明し、国民に正確な情報を提供する姿勢が求められます。

【日本原子力発電 村松社長】原子力専業として期待される役割発揮へ一歩ずつ前進

東日本大震災発生から15年を迎え、原子力活用の必要性が明示される中、各地点で着実に取り組みを進めている。敦賀では設置変更許可の再申請に向けた追加調査が進行中だ。東海第二では防潮堤の審査に真摯に向き合いながら、その他の安全対策工事が完了に近づいている。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる
1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

井関 まもなく東日本大震災の発生から15年を迎えます。福島第一原子力発電所の事故からこれまでの歩みを振り返った感想はどうでしょうか。

村松 やはり昨年策定された第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用が明確に位置付けられたことは、大きな意義があると感じています。2024年末には、福島第一と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機と島根2号機が再稼働を果たし、3・11以降を振り返っても、この1年余りは特に重要な時期だったと思います。さらに昨年末には、柏崎刈羽6・7号機と泊3号機の再稼働について、それぞれ地元同意を得ました。原子力全体として確かな前進が見られたと受け止めています。一方、基準地震動策定プロセスで発覚した不適切事案は、原子力推進の大前提は安全と信頼性の確保であることを、改めて強く認識させられました。

井関 当初、原子力規制委員会の対応次第では他のプラントへの影響が危惧されましたが。

村松 原子力事業者とメーカーで構成するATENA(原子力エネルギー協議会)からの要請を受け、電力各社は基準地震動に関する審査資料について同様の事案がなかったか速やかに調査を行いました。その結果、規制委の審査ガイドに基づく手法に則って適切に評価されていることなどを確認しています。

原子力産業界の維持 技術と人材の確保を

井関 柏崎刈羽6号機は1月21日に再稼働しましたが、制御棒の引き抜き中に警報が鳴り、一時停止させました。この件はどう受け止めていますか。

村松 規制委の山中伸介委員長は会見で、一旦停止し、安全を確保した上で対応を検討した東京電力の姿勢を評価しています。東電は2月9日の再起動後、3月中旬に営業運転の開始を予定しています。
 再稼働に当たっては、使用前にプラント機器の健全性を確認するため、段階を追って数多くの検査を行います。その後、計画的に中間停止期間を設けるなど、安全を確認しながら慎重に起動させていきます。当社の東海第二も工事段階から検査段階へ徐々に移行しており、今回の事例を踏まえて対応していきます。一方で、原子力を支える産業界の事業再編などによりサプライヤーが縮小することで、設備調達や保守体制への影響が生じる可能性を懸念しています。

井関 こうした実情を、政府や規制委に継続的に訴えていくことが必要ではないでしょうか。

村松 まさにATENAや日本原子力産業協会などが、原子力産業における技術と人材の継続的な確保の重要性を折に触れて訴えており、それに対して政府も支援を進めています。

【東北電力 石山社長】「実行力とスピード」重視 新たな価値を提供し 利益創出に挑み続ける

女川2号機は安定運転を継続し、「財務基盤の早期回復」にも道筋が見えてきた。
想定以上に厳しい事業環境の中、AI、データセンターといったビジネスチャンスを的確に捉え、自社の強みをこれまで以上に生かした事業展開を考え抜く。

【インタビュー:石山一弘/東北電力社長】

いしやま・かずひろ 1985年慶応義塾大学大学院修了、東北電力入社。2018年執行役員、19年常務執行役員、21年取締役常務執行役員、22年取締役副社長 副社長執行役員を経て、25年4月から現職。福島県出身。

門倉 社長就任から9カ月、これまでを振り返って手ごたえや課題感などいかがでしょうか。

石山 就任以降、「実行力とスピード」重視の経営に全力で取り組んできました。改めて振り返ると、あっという間の9カ月だったと感じます。
 当面の優先課題として注力してきた財務基盤の早期回復については、着実に進捗してきています。また、2024年12月に、14年ぶりに営業運転を再開した女川原子力発電所2号機が、大きなトラブルなく安定運転を継続できたことは、電力の安定供給やカーボンニュートラルへの貢献の観点から、大きな意義があると考えています。社員や協力企業はもとより、日ごろから当社の事業運営を支えていただいている地域の皆さまのご理解のおかげであり、心より感謝を申し上げます。1月14日からは、再稼働後初となる定期事業者検査を予定していることから、しっかりと対応していきます。
 一方、東通原子力発電所で発生した核物質防護を巡る不適切な取り扱いについては、原子力事業への信頼を損なうものであり、極めて重く受け止めています。再発防止を徹底し、二度とこのようなことが発生しないよう真剣に取り組んでまいります。
 当社を取り巻く事業環境については、電力小売り競争の激化、物価・金利の上昇と円安、米国政策に起因する国内経済の不透明感の高まりなど、想定以上に厳しくなっています。25年度は、一定程度の利益が確保できる見込みではありますが、足元ではフリーキャッシュフローが厳しい状況であることに加え、今後、電力の安定供給をはじめカーボンニュートラルへの対応やDXなどの成長への投資が控えていることを踏まえると、中長期的に稼ぐ道筋をつけることが重要だと考えています。


女川3号機・東通1号機 再稼働に向け着実に対応

女川原子力発電所で実施する地域との対話活動「こんにちは訪問」

門倉 女川2号機の再稼働から1年以上が経過し、女川3号機・東通1号機の再稼働も期待されます。それぞれの現状を教えてください。

石山 女川3号機も東通1号機も重要な電源であり、各プラントの状況に応じて、対応すべきことを一つひとつ着実に進めていきたいと考えています。
 女川3号機については、新規制基準適合性審査申請に向けた準備の一環として、25年1月20日から地質調査を実施しています。また、地質調査以外にも、女川2号機の審査で得られた知見・評価などを踏まえ、安全対策設備の配置計画検討などを実施する必要があります。現時点で申請時期を具体的に申し上げる状況にはありませんが、しっかりと準備を進めていきます。
 東通1号機については、将来にわたって長期に、かつ安全に運転していく観点から、基準津波に対する裕度を高めるため「敷地造成」を計画し、現在その審査に対応しています。また、並行してPRA(確率論的リスク評価)津波対策の検討や安全対策設備の配置検討などのプラント審査準備を進めており、安全対策工事の完了時期の公表については、27年3月頃を目指しています。今回の不適切事案についてはしっかりと反省し、この教訓を生かすことで、再発防止を徹底します。その上で、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、できる限り早期の再稼働を目指していきます。

【特集1】くらし・産業と切り離せない貴重なCO2 国内の炭酸原料ソース減少が課題

温暖化問題では悪者扱いされるCO2だが、くらし・産業を支える資源・原料という側面もある。身近な場面で多々利用されているが、製油所の統廃合などでリソースの減少にも直面する。

温暖化が進む中、ドライアイス不足が続くと困る

CO2や炭酸ガスは古くから幅広く活用されてきた。液化炭酸ガスの用途としては、溶接用がトップで4割程度、次いで飲料が2割程度、その後冷却、化学、製鋼などと続く。 

具体的な使途を見ていこう。まずは溶接。金属を溶接する際、空気中の酸素や窒素が溶接部に触れると欠陥の原因となる。それを防ぐため、炭酸ガスで遮断しながら作業する。自動車や造船、建築分野などで欠かせない。

次いで最も身近な存在である炭酸飲料。クレオパトラが真珠で炭酸飲料を作ったという逸話がある。1770年代に商業生産が始まり、今日多くの商品が流通する。

冷却用ではドライアイスが代表格だ。1920年代に製造・販売が始まり、今も食品の鮮度保持に欠かせない。

農業分野では、植物工場やハウス栽培でのCO2施用が一般的だ。さらに残留毒性の心配がない殺虫用薬剤としても使用する。

そして、血流改善効果がある炭酸泉。紀元前から炭酸泉療養が行われており、最近はお湯に炭酸ガスを溶け込ませた人工炭酸泉を温浴施設で気軽に楽しめる。


自然冷媒分野では救世主 ドライアイス不足がたびたび発生

面白いのが冷媒だ。CO2は環境に優しい自然冷媒の一つ。オゾン層破壊が問題視され、特定フロンから代替フロンへの転換が進んだが、次は温暖化係数の高さが課題に。2016年のモントリオール議定書のキガリ改正で代替フロンも規制対象となった。この分野でCO2は「救世主」と言える。世界では冷房が普及していない地域が多く、自然冷媒を使った冷房の普及は「適応」の文脈でも重要だ。

他方、実は国内の炭酸原料ソースは減少している。エネルギー供給構造高度化の告示により製油所の閉鎖や石化工場への転換が進み、今後さらなる製油所の減少も予想される。実際、たびたびドライアイス不足がちまたで話題となっており、他の用途は大丈夫なのか。

その意味で、CO2を資源と捉える「カーボンリサイクル」という概念が改めて重要だ。政策的には、既存用途の利用量が限定的であるため、新たな用途を開発し、大気中へのCO2排出を抑制することが強調されている。そこに加えて、既存用途の原料確保という視点を忘れてはならない。ただ、政府がGXを目玉にして以降、カーボンリサイクルの存在感の薄さが気がかりではある。

【特集1】「1.5℃」厳しく「2℃」が妥当 求められる現実路線への修正

2050年ネットゼロと1.5℃目標の達成が実質的な世界の目標となっている。だが現実との乖離を無視し続けることはできず、現実路線に軌道修正すべきだ。

【寄稿】森本壮一/日本エネルギー経済研究所 環境ユニット気候変動グループ 主任研究員

当研究所は2025年秋に「IEEJアウトルック2026」を発表した。定点観測的な長期エネルギー需給見通しに加え、時々の注目トピックスに関する分析も行っており、今回はその一環で「現実を踏まえた気候変動目標と適応の重要性」を発表した。提言の趣旨は、①現実を踏まえれば1.5℃目標の実現可能性は低く、パリ協定の原点を見つめ直し2℃目標を現実的な目標として捉え、②適応が今後ますます重要となる中、緩和との資金のバランスを見直すべき―といった内容である。

こうしたテーマ選定は、より現実的な気候変動政策を考える必要性が急速に高まっているためだ。各国で政策の見直しが進み、パリ協定からの脱退を決めた米トランプ政権はもとより、欧州ではロシア・ウクライナ戦争の影響でエネルギー安全保障・価格高騰への対応が議題となり、脱炭素一辺倒からの修正を図り始めている。わが国でも、第7次エネルギー基本計画では第6次計画に比べ、データセンターなど今後の電力需要増の見通しも踏まえ、エネルギー安保をより重視する内容となった。


理想と足元の乖離拡大 73年ネットゼロが現実解

1. 5℃目標実現の難しさを示すような新たな実態が世界で顕在化している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書などを受け、COP26でグラスゴー気候合意が採択され、1.5℃目標がデファクトスタンダードとなった今、その達成が厳しいと明確に発信することは、やや踏み込んだ内容かもしれない。しかし、現実と目標の乖離が広がる中、こうした認識を示すことが当研究所の役割だと考える。

例えば、日本を除くG7(主要7カ国)各国やEU(欧州連合)の現状の排出量は、足元から50年ネットゼロに向けた排出パスを上回っている。また、カナダの新たな35年NDC(国別目標)は、足元から50年ネットゼロへの排出パスを上回るものだ。

中国とインドの石炭火力動向も注視すべきである。中国では、24年だけで1億kWの石炭火力発電所の新設に関する最終投資決定(FID)が行われた。ここ10年のうち最大規模であり、他方で石炭火力のスクラップは過去5年間の平均で年間470万kWにとどまる。ただ、中国は供給余力にゆとりを持たせ、太陽光や風力のバックアップとしての活用も念頭に置いている。実際の稼働率がどうなるか、引き続き注目すべきだ。翻ってインドは、24年に1500万kWの新設のFIDを行い、やはり過去10年で最大規模だ。こちらは中国と異なり必要な需要を賄うためで、それなりの稼働率となることが予想される。

【コラム/12月18日】これがCOPの壊れ方 日本はいつまでしがみつくのか

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)は、大した盛り上がりもなく終わった。交渉内容について詳しくは有馬純氏による解説に譲るとして、本稿では、いよいよ見えてきた「COPの壊れ方」に話を絞ろう。

先進国側は、出来もしない約束を二つもして、にっちもさっちもいかなくなった。すなわち、「2050年までにCO2をゼロにする」という約束をして、途上国にも押し付けようとするが、途上国は猛然と反発する。化石燃料については、今回の最終文書では言及することすらできなかった。もう一つの出来もしない約束は「年間3000億ドル(45兆円)の途上国への支援」である。これも出来るはずがないが、今回その相場は1兆3000億ドル(195兆円)以上にさらに膨らんだ。毎年COPを開催するたびにこの金額は膨らんでいく。もとより、先進国に支払うことができるはずもない。

この構図は、ここ2、3年何も変わらない。先進国は出来もしないことを約束し、途上国は排出削減目標の深掘りを拒否する一方で、先進国の責任を追求し、支援の金額を釣り上げ、それを拒否する先進国を批判する。

さらに、今年になり米国バイデン政権がいなくなったことで、欧州は単独で途上国と向き合うことになった。指導力があるフリをするためには、とにかく合意をしないといけないから、途上国の要求を丸呑みする形になった。

来年のCOP31はトルコが議長国となって開催され、再来年のCOP32はエチオピアで開催されるという。いずれの議長国も途上国の意見を尊重してまとめることになるだろう。先進国には居心地の悪い状態が続く。

COPは毎年同じ構図で続けられ、議題の選択も交渉成果の文書もますます途上国側が支配するようになる。こうなると先進国のリーダーは誰も行かなくなる。COPは形骸化していくだろう。

すでに年々、COPへ出席する首脳は減っている。今年は、米国はもとより中国、ロシア、インド、日本などの大国は大統領や首相を出席させなかった。英独仏などの首脳はCOPに出席したが、彼らはいずれも非常に支持率の低いレームダックの政権である。ウクライナでの敗戦が明らかになるにつれて、彼らの支持基盤はますます弱くなっている。ヨーロッパが政権交代して右傾化すれば、新しい指導者はCOPに行かなくなるだろう。