全てのエネルギー企業がカーボン実質ゼロに向けた具体的戦略を示すフェーズに入った。経営規模の大小や化石燃料依存度の軽重はあれ、どの企業も抜本的な事業転換を迫られている。
昨年10月の菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言が、エネルギー政策上の重要な転換点となったことは間違いない。従前からうたわれてきた「経済と環境の好循環」を、ついに本格的に追求するフェーズに入った。程度の差はあれ、化石燃料利用をビジネスの柱としてきたエネルギー業界への温暖化ガス大幅削減の圧力は、パリ協定発効以降強まり続けてきた。それが首相宣言により、抜本的なモデル転換を業界に迫ることになった。
社会全体での実質ゼロへの転換は、かなりの難題となることは必至だ。エネルギー起源CO2排出量は、18年時点で10.6億t。30年のエネルギーミックスを達成してもなお9.3億tは排出する見通しだ。この水準から、どうしてもゼロにできない一部の領域では、植林やDACCS(直接大気CO2回収・貯留)などのネガティブエミッション技術も駆使し、全体で正味ゼロを目指さなければならない。
電力部門では、再生可能エネルギーや原子力、CO2回収前提の火力、水素・アンモニア発電といった、非化石電源の拡大をどう進めるかが課題だ。他方、産業部門(燃料利用・熱利用)では、脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション(合成メタン)、合成燃料などの取り組みが求められていく。
こうした大きな絵を踏まえ、政府は50年実質ゼロに向けた民間の取り組みを後押しするため、昨年末にグリーン成長戦略を策定した。成長が期待される産業の14分野を選定し、それぞれ目標を設定した。エネルギー産業や関わりが深い分野では、洋上風力や燃料アンモニア、水素、原子力、自動車・蓄電池、炭素を資源として活用するカーボンリサイクルなどの産業がピックアップされている。
実現に向けては、政策ツールを総動員する。予算面では10年間で2兆円の基金を設立するほか、税制面では企業の投資促進などに向けた各種税制の創設、さらには規制改革やカーボンプライシング(炭素の価格付け、CP)なども検討する方針だ。
この戦略で公的資金に加え民間投資も呼び込み、30年には年90兆円、50年には190兆円もの経済効果が見込めるとしている。だが、これまでもCO2大幅削減に向けて幾つものイノベーション計画が立ち上がっては消え、その成果はあいまいという状況が繰り返されてきた。今回のグリーン成長戦略は、その二の舞いとなることを避けられるのか。
各業界をけん引するエネルギー企業からはビジョンがぽつぽつ示され始めたものの、大半はまだ模索の最中だ。特に化石燃料依存度が高い業界や中小企業にとっては、実質ゼロにソフトランディングできる対応を見いだせなければ、死活問題になりかねない。
エネルギー業界はそれぞれどんな絵を描き、実質ゼロを目指そうとしているのか。次ページからのレポートや、関係者へのアンケートを基に、その考えに迫る。