【特集1】税から形を変えた生活支援 行政デジタル化の遅れが背景に


エネルギー価格補助は、生活困窮世帯などへの形を変えた生活支援との見方もできる。一方で、政府のGX戦略との不整合は否めない。大橋弘東京大学副学長に今後目指すべき方向性を聞いた。

インタビュー:大橋 弘/東京大学副学長

おおはし・ひろし 米国ノースウェスタン大学博士(経済学)。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)経営・商学部助教授、東大大学院経済学研究科教授、同大公共政策大学院院長などを経て2022年4月から現職。

―電気・ガス・ガソリン価格への補助を通じた政府の物価高対策をどう評価しますか。

大橋 わが国経済のデフレ脱却に向け、物価の上昇と賃上げの好循環を創出することは政府にとって喫緊の課題です。ただ、足もとでは、賃上げが追い付かない上に、防衛費や子育て支援などの財源確保に向けて増税が議論されており、減税による低所得者層などの生活支援を打ち出すことで、税負担を和らげようとの狙いがあったように思います。

―エネルギー価格補助は、低所得者層に絞った生活支援ではありません。

大橋 本来であれば、生活困窮世帯のみを支援するべきですが、マイナンバーと所得や納税情報のひも付けなどによる行政手続きのデジタル化が遅れているために、ターゲットを絞ったプッシュ型の支援ができません。これではどうしても「申請主義」とならざるを得ず、地方自治体など行政機関の業務が煩雑化し非効率になることは、新型コロナウイルス禍での給付金給付の混乱でも明らかです。
 少なくともエネルギーは、国民誰もが利用しており、また公共交通の乏しい地域では車を複数台持っていることもあり、エネルギーに補助を入れることで幅広い層がその恩恵を享受することができます。政府としては、生活支援の手段として有効との判断があったのではないでしょうか。ただ、例えば電気の使用量が多い人ほどたくさんの補助を受けており、本当に必要としている人に必要な補助が届いているかと言えば、対象がずれている可能性は否めません。


家庭の省エネ支援進展に期待 GXの観点で経済対策を

―政府が目指すGX(グリーントランスフォーメーション)戦略と相反することを問題視する声もあります。

大橋 内閣官邸のGX実現会議においても、分野別の投資戦略などの具体化に向けた検討が進められています。そうした中で、化石資源の利用を促す補助をすることと整合が取れていないことは確かです。一方で、GXの目標を達成するためには、電源を脱炭素化した上で電化できるところはその比率を上げる必要があります。将来の需要側の脱炭素化を見据え、電化を進めることにつなげようとするのであれば、電気料金を補助することに一定の価値を見出せるかもしれません。

―11月2日に政府が取りまとめた総合経済対策に、エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性強化策として、企業や家庭の省エネ支援が盛り込まれていることについてはどう見ますか。

大橋 脱炭素社会を目指す上で、家庭分野のCO2削減は大きなテーマです。ですから、省エネ改修や断熱/遮熱窓への改修、高効率給湯器の導入といった家庭向けの政策が盛り込まれたことは評価できます。どの道、経済対策にお金を使うというのであれば、いかにGXの観点でそれを進めるかが肝要でしょう。

【特集1】目先の対応を一刀両断 10兆円はどこへ消えた!? 出口戦略不在の落とし穴


エネルギー価格補助金は、激変緩和策という当初の目的から大きく反れ今日に至っている。円安で資源輸入コストの高止まりが常態化する中、真に求められる政策は。激論が交わされた。

〈座談会出席者〉 A政治家 Bアナリスト C経営学者

油価高騰で電動車シフトも進むはずが……

―総額17兆円の総合経済対策に対する世論の評価は芳しくないようで、内閣支持率にまったく結び付いていない。特に巨額を投じてきたエネルギー価格補助金はさらに来年4月末まで延長することとなった。

A 日本は経済政策をマクロ経済学に従って科学的に捉えることが本当に苦手だ。インフレと、(日本経済の需要と供給の差を示す)需給ギャップがプラスになろうとしている中、政府が物価高騰対策として講じた手立ては、総需要曲線を右側にシフトさせ物価高につながる政府支出ばかりだ。いま注力すべきは金融政策であり、政府は根本から間違えているが、そうした問題を国会でもあまり議論しない。まさに危機的な状況だ。

B エネルギー価格補助に巨額を投じることは、本当にもったいないお金の使い方だ。Aさんが言うように、今すべきことは金融緩和ではなく引き締めること。その逆の政策を続けているから、輸入コストプッシュ型の日本が物価高にあえいでいる。
 しかも、国民が補助金のありがたみを感じるのは石油製品の価格が下がる導入直後だけで、原油輸入コストの変動が補助金の増減で相殺されて価格はフラットになる。一時、1ℓ当たり40数円も補助金が上乗せされていたにもかかわらず、小売りもユーザーもその意識は皆無だ。しかも各種価格補助金は概ね単位数量当たりの値下げであり、逆進性の問題も無視できない。

C 岸田首相がガソリン小売りのターゲット価格として175円を示したことも大きな問題だ。市場原理による公平な取引を根本的に崩した。戦後の統制価格以来、こうした対応は一度もなかった。第二次オイルショックで価格指導を行ったことはあったものの、具体的な価格には言及していないし、効果のある施策だった。そしてこの件もそうだが、一連のエネルギー価格補助金のやり方の変更は、何度か節目があったものの、政権外から見て一切議論なしに決められている。

B 予算編成の関係も踏まえれば、今年度に切り替わったタイミングでエグジットすることが望ましかった。

A 半世紀前の第一次オイルショックの際、田中角栄内閣は今とは逆に財政を引き締め、油代補助などのバラマキは行わなかった。当時は今より石油依存度が高く、国民生活へのインパクトはさらに大きかったが、省エネ促進と原子力利用にかじを切り、エネルギーの供給構造が抜本的に変わった。上流から下流まで一気通貫でエネルギー政策を担う資源エネルギー庁も設立。バブル経済までの日本の産業競争力と成長につながった。
 翻って現在の世界情勢を踏まえれば、エネルギー価格高騰は一過性のものではない。各国は、以前からのカーボンニュートラル(CN)をベースに、さらなる外圧をてこにして、新たなエネルギーシステムを作り上げる競争を進めているのに、日本だけがあさっての方角を見ている。20~30年後に悲惨な結果をもたらさないか、憂慮している。

【特集1】給付基盤なき一律補助が問題の本質 困窮世帯への集中支援を


燃料補助金、電気・ガス代補助金は、物価対策として積極的に取るべき対策とは言えない。行政のデジタル化を進め、困窮世帯に対する集中的な支援に切り替えられないのか。


志田龍亮/三菱総合研究所 政策・経済センター 主席研究員/グループリーダー

しだ・りゅうすけ 2008年三菱総合研究所入社後、エネルギー分野での政策立案支援、コンサルティング業務などに従事。14~16年に米国にてシェールガス関連・再エネ開発の事業支援に従事。20年よりエネルギー分野での政策提言の取りまとめを担当。博士(工学)。

11月2日に「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が閣議決定された。経済対策の5本柱のうちの一つとして物価高対策が位置付けられ、所得税・個人住民税の定額減税、住民税非課税世帯への支援、そしてガソリン・軽油などの燃料油価格、電気・ガス料金の激変緩和措置の延長が決定された。

燃料補助金については昨年1月に時限的措置として始まりながら、6回の期限延長を経て現時点で来年4月月末までの措置が決定している。電気・ガス価格への補助金も、今年1月に開始され、同様に来年4月までの延長となった。その後については、電気・ガス代補助は「同年5月は激変緩和の幅を縮小する」、燃料補助は「出口を見据えられる状況になった場合に、翌月以降補助率を段階的に縮小する」という方針が定められたのみで、終わりが見えない状況にある。


やめるにやめられず 国の重い財政負担に

総合経済対策は、減税・給付・補助といった「国民への還元」が前面に出ているものの、その実効性については批判的な意見も多い。特に燃料補助金、電気・ガス補助金については問題点が多く存在するが、そのポイントは大きく①財政への悪影響、②脱炭素化への逆行、③低所得者層支援としての非効率性―の3点に集約される。

一点目は、財政面への影響である。これまで燃料補助金では6兆2000億円、電気・ガス補助金では3兆7000億円、合計で10兆円程度の予算が計上されている。この金額規模は日本の年間の化石燃料輸入額に匹敵し 、財政面で全く持続可能な水準にない。

最も避けるべきシナリオは「補助金が当たり前」と国民が考えてしまうことだ。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、世界で燃料補助が恒常的に行われている国は産油国を中心に40カ国ほどあり、湾岸諸国や中央アジアなどの一部では燃料補助金がGDP(国内総生産)の10%以上を占める国も存在している。

インドネシアやマレーシアでは数十年にわたる価格統制を経て、2014年に原油価格が下落したタイミングでようやく燃料補助金を廃止したが、その後両国とも18年に再度復活することになった。こうした国々では、燃料補助金の重い財政負担に苦しみながらも、国民の反発からやめるにやめられない状況にある。一度根付いた国民意識を変えることは容易ではなく、時限的措置と認識されるうちに出口に向かう必要がある。

二点目は、脱炭素化への逆行だ。今年5月に開催されたG7(主要7カ国)広島サミットでも、首脳コミュニケにて、気候変動対策の観点から燃料補助金廃止の必要性が触れられた。燃料補助、電気・ガス代への補助は適切な価格転嫁を妨げ、本来働くべき市場メカニズムをゆがめることになる。

エネルギーコストの上昇は短期的には需要家の負担増を招くが、中長期的にはエネルギー消費構造の変化を促すことにつながる。例えば、各国統計を見ると、産業用電気料金が高い国ほどGDP当たりの電力消費が少ない、つまり、相対的に少ない電力消費でGDPを稼ぐ産業構造となっている。日本でも、1970年代のオイルショック以降に急激にエネルギー消費効率が向上、省エネ技術の確立につながった。

総合経済対策の中では、企業・家庭への省エネ促進や、自家消費型太陽光や蓄電池に対する導入支援なども含まれている。燃料補助、電気・ガス代補助ではなく、機器更新やエネルギー効率向上などの促進施策によって、エネルギー消費構造を転換し需要家負担を下げる方向にいくべきだろう。

【特集2】CNの切り札として社会実装へ 進展するe-メタンプロジェクト


都市ガス業界は、2030年度に都市ガスの1%にe-メタンを導入する目標を打ち出す。それを実現するため、国内外で複数のプロジェクトが立ち上がっている。

熱分野のカーボンニュートラル(CN)の切り札として期待されるe-メタン(合成メタン)。そのフラッグシッププロジェクトとして、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事の4社が、米テキサス・ルイジアナ州のメキシコ湾岸で世界初の大規模なe-メタンを製造・液化し、日本に輸送するサプライチェーン確立に向け、現在Pre-FEED(基本設計の前段階の概念設計)を共同で進めている。

e-メタンの出荷基地となる米国キャメロンLNG基地

同プロジェクトは、3社の年間都市ガス需要の1%に相当する年間1億8000万㎥(内訳は東ガス8000万㎥、大ガス6000万㎥、東邦ガス4000万㎥)のe-メタンを製造し、キャメロンLNG基地など既存のサプライチェーンを活用し液化し、日本に輸出することを目指す。

今年8月には、センプラ・インフラストラクチャー社が、同プロジェクトにおいて、米国のエネルギー事業者として初めて参画。現地でのプラント用地選定・各種許認可・地元対応など、地元企業との連携が必要不可欠である中、同社の参画はプロジェクト実現への大きな推進力となり得る。

25年度中の最終投資決定へ 用地は経済性・拡張性など重視

30年の製造開始に間に合わせるには、25年度中にも最終投資決定(FID)をしなければならない。プラント用地の候補は絞り込まれつつあるが、「最も経済性の高いe-メタンを製造できることはもちろん、30年1%はあくまでも最初の目標でありそれで終わりではない。冗長性や拡張可能性も含めて慎重に選定したい」(東ガス)という。

世界初のプロジェクトにこの地を選んだのは、再生可能エネルギー由来の電力やCO2といったe-メタンの原料が豊富にあるのに加え、天然ガスパイプラインやキャメロンプロジェクトといったLNGインフラが整っており、ほかの国・地域と比べても最も初期に取り組むのに適しているとの判断からだ。CO2であれば、テキサス・ルイジアナ州にはパイプライン網が整備されているため、パイプラインを通じて排ガス由来、バイオガス由来のCO2を購入することが可能となる。

このキャメロン近傍における日米5社によるプロジェクトに加え、大手都市ガス各社は国内外で複数のプロジェクトの検討を進めている。例えば東ガスは、海外においては、マレーシアや豪州他地域でグローバルエネルギー企業や総合商社と事業性検討を行っているほか、国内でも需要家から排出されるCO2の有効活用によるエネルギーセキュリティ向上を模索している。

具体的には、太平洋セメントや富士フイルムとともに、製造過程で排出されるCO2を原料に需要家のサイトでe-メタンを製造し供給することを検討中だ。また、昨年3月にe-メタン製造の実証に着手した横浜テクノステーションでは、隣接する横浜市のごみ焼却場からCO2を回収し、それを原料にe-メタンを合成している。

「海外のサプライチェーンでは量を確保し、国内では需要家から排出されたCO2の循環と地産地消の取り組みを進めエネルギーセキュリティーを向上させる。その両面でe-メタンの社会実装を図っていきたい」(東ガス)

【特集2】着実なトランジションでCNに貢献 地域課題解決で幅広い役割を発揮


脱炭素化へのトランジション、そして地域の課題解決に向け都市ガス事業者による貢献への期待は大きい。業界のビジョン推進と各事業者の対応をどう支援していくのか。日本ガス協会の本荘武宏会長に聞いた。

【インタビュー】本荘武宏/日本ガス協会会長


ほんじょう・たけひろ 1978年京都大学経済学部卒、大阪ガス入社。2009年取締役常務執行役員、13年副社長執行役員を経て15年社長。21年1月から同社会長、4月から日本ガス協会会長。

―2050年カーボンニュートラル(CN)への第一関門として、30年温暖化ガス46%削減というNDC(国別目標)の着実な達成が求められています。

本荘 わが国の産業・民生部門のエネルギー消費量の約6割を占める熱需要の低・脱炭素化はCN化の鍵であり、ガス体エネルギーが果たす役割は大きいと考えます。都市ガス業界としては、21年6月に発表した「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」に基づき、取り組みを着実に進めています。

―その進捗について手応えはどうでしょうか。

本荘 トランジション期では、NDC達成への即効性がある、①ほかの化石燃料からの天然ガスシフト、②分散型のコージェネレーションや燃料電池などの普及拡大によるガスの高度利用、③クレジットでのオフセットを活用した「カーボンニュートラルLNG」の導入拡大―などを強力に推進していきます。大手と地域の事業者が手を携え、その波は着実に広がっています。

 そして将来的には、都市ガスを脱炭素化した「e―メタン」へと置き換え、既存のインフラを有効活用しながら、シームレスにCN化を実現させたい考えです。

 なお、25年開催予定の大阪・関西万博ではガスパビリオンを出展し、都市ガス業界の取り組みを発信していきます。まさに「未来の実験場」として、CN化やCO2リサイクルを来場者の皆さまに実感してもらえるような空間を提供します。ガス業界が今後も人や地域、社会に寄り添う存在であり、将来への期待も感じてもらいたいと思っています。

―他方、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)に巨額予算を投じ支援を拡充するとともに、カーボンプライシング(CP)の一環で化石燃料賦課金などの導入も予定しています。

本荘 政府に対しては、業界を挙げてGXにおけるe―メタンの重要性をアピールしており、社会実装に向けては、水素・アンモニアで検討されているような支援の具体化にも期待しています。加えて、都市ガスへの燃料転換、エネファームやエコジョーズなど省エネ機器普及へさらに支援をいただけるとありがたい。

 そしてCPについては、将来の成長を妨げないような制度設計となること、賦課金が適切な手法でe―メタンなど日本の脱炭素化に資する支援となるように期待しています。


【四国電力 長井社長】幅広い事業で経営安定化 リーディング企業として 地域の発展を支える


ここ数年、電気事業は厳しい経営が続いたが、政府の査定を経た10年ぶりの規制料金値上げにより収支安定化に向かう準備が整った。安定供給、再エネ拡大、原子力活用にまい進しつつ多面的に地域社会への貢献を図る考えだ。

【インタビュー:長井啓介/四国電力社長】

ながい・けいすけ 1981年京都大学大学院工学研究科修了、四国電力入社。2015年常務取締役総合企画室長、17年取締役副社長総合企画室長などを経て19年6月から現職。

志賀 今夏は記録的な猛暑となりましたが、電力需給はさほどの混乱はなかったようですね。

長井 近年予備率の厳しさが指摘され、追加の電源確保や燃料調達の拡充といった手厚い対応が奏功したと思います。当社では伊方3号機が定検を終えて稼働しており、リプレースした西条1号機も6月末から運開。両者で約140万kWと、供給力の面で心強いです。

志賀 他方、昨年から今春にかけては電気料金の高騰が社会的な関心を集めました。貴社は昨年11月28日、平均28.08%の規制料金値上げを申請し、今年5月19日、最終的に認可されたのは、託送料金の値上げ分(4.64%)を含めると平均28.74%の値上げでした。

長井 前回2013年の料金改定以降の経営効率化の成果だけでなく、現在進行中、あるいは今後予定する内容も先取りし、できる限り値上げ幅を圧縮しました。そこからさらに、燃料調達や設備生産性について全国のトップランナー水準と比較するなど、足元で実現可能なレベルを超える効率化を求められました。今回の査定は、非常に厳しい内容だったと受け止めています。
 ただ、今回の値上げの主目的であった燃料費高騰に伴う逆ザヤ解消の目途は立ちました。お客さまの値上げに対する厳しい意見を胸に刻んで、引き続き効率化の深掘りと安定供給を全うする考えです。

志賀 自由料金も含め、料金値上げに伴う需要家の動向は。

長井 昨年の自由料金の燃調上限廃止や今年6月の規制料金値上げに際しては、各方面のお客さまから厳しい声をいただきましたが、幸いにも大きな離脱の動きにはつながりませんでした。私どもとしては、引き続き当社をご選択いただけるよう、経営の合理化・効率化に取り組んで、競争力のある魅力的な料金をご提供していきたいと考えています。

志賀 これで中期的に経営安定化が図れると考えますか。

長井 電気事業については、ロシアのウクライナ侵攻前から燃料価格が高騰しており収支的に厳しい状態が続き、四国電力単独では至近3年連続の赤字でした。今回の値上げで少なくとも収支不均衡は解消されたので、今後は効率化を頑張った分だけ収支が安定していくポジションに入ったと考えています。

リプレースした西条1号機。供給力の面で貴重な戦力だ

【特集1】西日本が電力不足・高騰回避のワケ 原子力稼働の波及効果を分析


「東西」での原子力稼働状況の違いが、近年のエネルギー危機への耐久性の差として顕在化している。原子力を巡る状況が株式市場にどのような影響をもたらすのか、さまざまなデータを基に解説する。

荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト


本稿では、株式市場の観点から、原子力発電の稼働による電力会社への(ポジティブな)影響を整理する。

まず、現在の原子力発電の稼働の状況を整理する。2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故後に、日本政府は原子力に関する規制ルールを改革した。このため、14年度に国内の原子力の稼働基数はゼロになった。現在(23年9月11日)までに再稼働させた電力会社は、関西電力、九州電力、四国電力の3社である。これら3社の原子力の所在地は、全て西日本である。

原子力の稼働によるポジティブな影響は、①電力の安定供給への寄与、②発電コストの低減、③CO2排出量の削減―の3点である。順次解説していく。


再稼働が供給余力を左右 関西・九州は規制値上げせず

第一の原子力稼働のポジティブな影響は、その稼働が電力の安定供給に寄与することである。
新たに原子力の稼働が増加することは、電力需給バランスにおける電力供給力が拡大することを意味する。このことは、電力の安定供給の余裕度を高めることに寄与する。一般的に、原子力発電の1基当たりの発電能力は相対的に大きいため、その稼働により電力供給力が高くなる。

昨年3月22日、節電に応じる都内の家電店 提供:朝日新聞社

例えば、夏の電力需要ピーク時の電力需給バランスの試算を見てみる。電力広域的運営推進機関の電力需給検証報告書(23年5月発表)が、23年度夏季の電力需給見通しを示している。

同報告書によると、23年8月の供給予備率の見通しは、西日本(中西6エリア)が12.0%(供給予備力1116万kW)である。この供給予備率は、東日本(東3エリア)の5.5%(供給予備力432万kW)よりも高く、供給余力があることを示している。

供給余力が高い方が、気温上昇などによる電力需要量の増加や、発電所トラブルによる供給力の低下などの緊急時の状況に対応しやすくなる。同見通しでは、23年8月の原子力供給力は、西日本で955万kW(関西電力、九州電力、四国電力)、東日本で「なし」と想定されている。西日本と東日本の供給予備力の差異は、稼働可能な原子力の発電能力の違いになっていると考えられる。

第二の原子力稼働のポジティブな影響は、火力燃料コストの削減要因になることである。

一般的に、原子力の発電コストは火力の発電コストよりも安い。このため、電力需要量を一定とすると、原子力の発電量が増加することは、その分の火力発電量が減少(火力燃料の消費量の減少)することになる。

例えば、関西電力のケースを見てみる。22年度決算説明資料(23年4月27日)によると、23年度会社計画の費用への影響額として、原子力利用率が1%上昇すると、経常費用は56億円減少するという試算が示されている。23年度の利用率の会社前提は70%程度である。従って同計画では、原子力稼働による費用抑制効果は、約3920億円(=70×56億円)と試算される。なお、同計画の23年度の前提は、全日本原油CIF価格1バレル85ドル、為替レート1ドル135円である。

22年度は、LNGや石炭、石油といった火力燃料の輸入価格の大幅上昇などを背景に、多くの電力会社が、規制部門の電気料金の値上げ申請を政府に対し行った。火力燃料の輸入価格が大幅に上昇した要因は、火力燃料のドル建て価格の上昇だけでなく、為替レートの円安もあった。前述の関西電力の決算資料によると、22年度の全日本原油CIF価格は同102.7ドル(21年度77.2ドル)、為替レート同135円(21年度112円)だった。

この中で、22年度に関西電力と九州電力は、規制部門の電気料金の値上げ申請を行わなかった。両社が値上げ申請を行わなかった主な要因の一つは、他の電力会社と比較して、原子力稼働による火力発電量の削減効果が、火力燃料の輸入価格の上昇による悪影響を抑制できたことと、当社では考える。

【特集1】半世紀の歩みを検証しGXに生かせるか いま再び問われる安全保障の強化


約50年前の第一次、第二次オイルショックは、その後の日本のエネルギー政策の礎となった。その変遷を検証することは、カーボンニュートラルへの移行を考える上でも重要な材料となる。

日本のエネルギー政策史の最も重要なターニングポイントは、やはり半世紀前の第一次・第二次オイルショックだろう。当時の日本経済の生命線である石油の供給支障リスクが高まり、影響回避に向けた政策が全方面的に展開された。村瀬佳史・資源エネルギー庁長官が、就任会見で抱負を語った際も冒頭から、オイルショックの話題に言及。これによりエネ庁が発足し、エネルギー政策の転換を進めたことに思いを馳せた。


二度の危機で政策転換 原子力への期待高まる

ここで改めて、オイルショック後に日本がたどった道を振り返ってみたい。

1973年10月に勃発した第四次中東戦争を機に発生したのが、74年8月にかけての第一次オイルショックだ。中東産油国の生産削減、一部非友好国への禁輸措置、そして原油公示価格の大幅引上げに発展し、国際原油価格は3カ月間で約4倍に達した。さらに石炭や天然ガス、ウランなどの価格高騰にも波及した。消費国経済は大混乱となり、日本もその渦中に放り込まれた。当時の中東石油依存度は8割。ガソリン価格などの急騰と急激なインフレで、日本の高度経済成長は終焉する。

そして78年10月~82年4月にかけて原油価格は再び上昇。第二次オイルショックの到来だ。

OPEC(石油輸出国機構)が段階的な値上げを行う中、イラン革命に端を発し、経済制裁を伴うイランと米国間の対立、さらにはイラン・イラク戦争が勃発。複層的要因で国際原油価格は3年で約2.7倍となった。

ただ、日本国内では第一次での物の買い占めといった行動はみられず。また国際的にも、一部地域での増産、そして需要の減少により、需給の混乱ぶりは比較的限定的だった。

日本のエネルギー自給率の推移 出典:IEA, World Energy Statistics and Balances, April 2023より日本エネルギー経済研究所が作成

オイルショックの反省から、日本政府はエネルギー安全保障の強化を軸とする政策転換に着手する。

第一が、石油の安定的な確保だ。有事の際、政府が石油精製業者などに石油生産計画の作成を指示できる「石油需給適正化法」を制定。さらに「石油備蓄法」により民間備蓄を義務化し、国家備蓄も開始した。

第二は、当時新たな概念となった省エネルギー。「エネルギー使用合理化法(省エネ法)」を制定し、業種ごとに効率的なエネルギー利用を求めた。また、78年度からの15年間にわたる「ムーンライト計画」で省エネ普及に向けた技術開発を推進。日本の産業界は世界最高水準のエネルギー消費効率を誇るようになった。

そして第三がエネルギー源の多様化だ。「石油代替エネルギーの開発および導入促進に関する法律(代エネ法)」により、石油以外の利用拡大を目指した。また73年には、太陽光や地熱、石炭、水素エネルギーなどの技術開発を進める「サンシャイン計画」が始動。新エネルギー総合開発機構(現NEDO)の設立にもつながった。「ニューサンシャイン計画」への衣替えを経て、この国策は2000年まで続いた。

中でもこの時期、「準国産エネルギー」として自給率向上に寄与する原子力への期待が高まった。発電所の円滑な立地を後押しするために「電源三法制度」を制定。高速増殖炉研究や、核燃料サイクルの研究開発も始まった。

【電源開発 菅野社長】脱炭素と安定供給両立 より難しい局面こそ 果敢にチャレンジへ


2050年カーボンニュートラルに向け2年前に「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」を発表したが、安定供給との両立など状況は一層厳しさを増す。だからこそ、この難題に気概を持って取り組み、自社に求められる役割を果たす重要性を強調する。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

志賀 筑波大学で現代思想を専攻されました。どのような経緯で電源開発へ入社したのでしょうか。

菅野 根本に、社会の基盤を支える仕事がしたいとの思いがあります。当時、ローマクラブの「成長の限界」や、エイモリ―・ロビンズ氏の著書「ソフト・エネルギー・パス」など、エネルギー問題への関心が高まり始め、ならばエネルギー事業者の仕事はやりがいがあるのではないかと考えました。

志賀 社長就任に当たっての抱負をお願いします。

菅野 社会の基盤を造ることにはさまざまな課題があります。だからこそやりがいを感じ、気概を持って取り組もうと企業グループ社員に呼び掛けており、私自身も初心に帰り、グループ一丸となって同じ方向を向いていきたいと考えています。

志賀 入社動機からつながってくるわけですね。さて、目下最大の課題である気候変動への対応方針として「J―POWER 〝BLUE MISSION 2050〟」を掲げ、カーボンニュートラル(CN)と水素社会実現に向けた対応に着手しています。ただ、策定以降、実にさまざまな状況変化があり、昨年には一般炭と原料炭価格の逆転といった異常事態も起きました。

菅野 より難しい局面になっており、特にエネルギーの安定供給の課題が強まりました。事業者が新規電源を造るに当たっての予見性が下がっており、設備投資への経営判断がさらに難しくなっています。燃料の調達環境を巡っても、主燃料の石炭では政府方針を鑑み、昨年度からロシア炭の輸入を減らし、今年度はゼロにしましたが、代替調達の課題はあります。そして、機関投資家が企業の気候変動対応の実績を見る目も一層厳しくなっています。

 月並みですが、トランジションでの安定供給とCNの両立は生半可なことではなく、「BLUE MISSION 2050」を策定中だった3年前よりも難しくなっています。ただ、だからこそチャレンジしがいがあり、関係者に広く理解を求めることが重要な仕事だと受け止めています。

【特集1】巨大地震で想定される未曽有の被害 エネルギー業界の備えと課題を分析


大規模被害が想定される首都直下、南海トラフ巨大地震などを見据え、各所で減災・防災対策が進む。エネルギーインフラではどんな手を打ってきたのか。またその運用上の課題はどこにあるのか。

お盆休み真っただ中の日本列島を直撃した台風7号は、広範囲で水害や土砂災害などをもたらし、新幹線をはじめ交通網にも多大な混乱をもたらした。エネルギー関連では中部・近畿を中心に停電が起きたものの、復旧での大きな問題はなかった。毎年のように風水害が発生し、強い地震も頻発する昨今、エネルギー業界は着実に災害対応の経験値を積んでいる。

しかし近い将来発生する可能性が高い巨大地震への備えは、現在、どの程度進んでいるのか。

関東大震災でのガス管被害の様子(出典:東京ガス100年史)

首都直下と南海トラフ インフラに大きな影響

複数の巨大地震の可能性が示唆されており、中でも発生確率が高いとされるのが、日本の中枢を襲う首都直下地震、そして西日本の超広域が被災する南海トラフ巨大地震だ。政府は今後30年間の発生確率を、首都直下が70%、南海トラフが70~80%程度としている。政府の中央防災会議はそれぞれについて、いくつかの発生パターンで地震や津波による被害想定を示した。その最大値は次の通りだ。

都心南部直下でマグニチュード7.3の地震が発生した場合、死者約2.3万人、全壊・焼失家屋は約61万棟に上る。電力では、東京湾岸の火力発電所の多くが停止し、広域融通を含めても供給能力が平時の5割程度に低下。約1220万件の停電が発生する。都市ガスは1都3県で需要家3割の供給が停止し、通信支障は約470万回線に。避難者数や食料不足、要救助者数なども相当な規模となり、資産や経済活動への影響は95兆円規模に達するという。

南海トラフではさらに桁違いの被害が想定される。震度7が127市町村、最大津波10m以上が79市町村で観測され、死者・行方不明者数は約32.3万人、約238.6万棟が全壊・焼失の恐れがある。電力では、火力停止で西日本全体の供給能力が需要の5割程度となり、停電件数は最大約2710万件。都市ガスの供給停止は約180万戸、通信不通は約930万回線に及び、経済被害は214.2兆円にも膨れ上がる。

発災から1カ月後までのシナリオを見ると、南海トラフの場合、電力では1週間後でも火力の運転再開は限定的で、計画停電の可能性も。1カ月後の西日本全体の供給力は、広域融通を行えば需要の9割程度まで回復する。都市ガスでは、1週間後でも最大150万戸が供給停止したままだが、徐々に復旧が加速し、1カ月後には東海3県を除く大部分で供給再開。被害が大きい地域も6週間ほどで大部分が供給再開に至る。

以上が、中央防災会議が13年にそれぞれ公表した被害想定であり、地震ごとに対策推進の基本計画を策定した。なお、政府はそれぞれの減災目標を掲げ、被害想定の公表から10年をめどに、対策の進捗確認や被害想定の見直しなどを行う。現在南海トラフでこの作業を進めているところだ。

【特集1】東日本大震災の反省生かして 強靱化・減災でエネ業界に期待


政府は首都直下、南海トラフ、日本海溝・千島海溝といった巨大地震への対応を検討し続けている。講ずべき強靱化や減災対策、そしてエネルギー企業への期待について谷防災大臣に聞いた。

【インタビュー】谷 公一/内閣府防災担当大臣

たに・こういち 兵庫県出身。明治大学政治経済学部卒後、兵庫県庁入庁。2003年衆議院総選挙初当選。当選連続7回。復興副大臣(第二次安倍内閣)などさまざまな要職を経て22年8月から現職。

―兵庫県庁職員として阪神・淡路大震災に遭遇し、東日本大震災翌年には復興副大臣を務めました。その中でエネルギーに関して印象深い出来事はありましたか。

 阪神・淡路では電気・ガスの供給停止が発生する一方、ガソリン不足への緊迫性はさほど感じませんでした。他方、東日本大震災では多岐に渡る被害が発生する中、特にガソリン不足の影響が大きく、地方都市ではエネルギーインフラが一層重要であると痛感しました。発災直後、現上皇陛下が現場の課題を的確に把握され、被災地へのビデオメッセージでガソリン不足に言及されたことも印象深いです。

―近い将来、首都直下、南海トラフ、日本海溝・千島海溝などの巨大地震が懸念される中、国土強靭化の取り組みを進めています。

 地震そのものは防げませんが、被害は工夫によって大きく軽減でき、そのための強くしなやかな国土、社会づくりの取り組みが重要です。現在は、2020年閣議決定の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の3年目で、総額15兆円規模で幅広い分野で対策を講じているところです。エネルギー分野では送電網の整備・強化、停電対応型の天然ガス利用設備導入、LPガス充てん所機能強化などを推進しています。また本年7月に新たな国土強靭化基本計画を策定し、経済の要であるエネルギーなどのライフライン強化を柱の一つとして打ち出しました。これらを進める上ではエネルギー事業者との連携が重要であり、政府もできる限り支援していく考えです。


南海トラフから着手 被害想定見直しへ


―現在、南海トラフの被害想定見直しが進んでいます。

 前回の被害想定では、最悪のケースで死者数約32.3万人、建物の全壊・焼失が239万棟といった規模を示しました。そして今後10年で死者数を概ね8割減少といった目標を掲げ、地震や津波被害を減らすためのさまざまな対策を講じてきました。24年がこの10年目に当たるため、現在は各地域の進捗を踏まえつつ、被害想定の見直しを進めています。南海トラフと同様、次は首都直下での死者数半減などを目指し、対策状況の確認と被害想定見直しの作業に着手する予定です。そして南海トラフ、首都直下、日本海溝・千島海溝とそれぞれ特に考慮すべき特性を押さえつつ、さらなる減災を目指します。

―巨大地震を見据えた取り組みは多岐にわたりますが、特にエネルギー業界に期待することは。

 有事にエネルギーをいかに安定供給できるかが被災地の状況を左右します。災害時の指定公共機関に多くの電力、ガス、石油関連企業が名を連ね、その役割を果たすために、それぞれの日頃からの尽力をありがたく思っています。他方、同じく重要である脱炭素化に向けた政策展開という視野も持ちつつ、エネルギー事業者が必要な事業を継続できるよう、引き続き支援を行っていきます。

【記者通信/8月4日】東京地検が秋本議員を家宅捜索 再エネ議連・日風開にメス


再生可能エネルギーに絡む特大スキャンダルが永田町を襲っている。日本の洋上風力開発を巡って自民党の秋本真利衆議院議員が風力発電事業者から、2021年以降複数回にわたり多額の資金提供を受けていた疑いで、東京地検特捜部は8月4日、秋本議員の事務所に家宅捜索を行った。秋本氏は同日、外務大臣政務官の辞表を提出した。

自民党再エネ議連事務局長を務める秋本氏(右)。周辺への波及はあるのか……

自民党再エネ派急先鋒を自称する秋本議員は2017年に国土交通政務官として19年4月に施行した再エネ海域利用法の作成に関与。日本風力開発からの資金提供は、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電の入札公募に便宜を図ってもらう狙いがあったとみられている。

実際に秋本議員は、公募第1弾で中部電力・三菱商事グループが3カ所全てを落札した結果を踏まえ、22年2月の予算委員会で「運転開始時期に対するウェートづけを見直すべき」だなどと、入札の評価基準見直しを要求。その後、評価基準の見直しが実現した。捜査関係者は、日風開の資金提供と秋本議員の国会質問の時期が一致するといった関連性から、収賄・贈賄容疑の適用にあたる可能性を示唆している。

一連の疑いに対し、日風開側は資金提供を認めたものの、贈賄性は真っ向から否定。「秋本議員と競走馬の共同購入資金に充てた。違法性はない」などとするコメントを出している。秋本議員側にも取材を申し込んだが、4日時点で連絡がついていない状況だ。

洋上風力政策に介入 周辺へも〝火の粉〟拡大か

また、秋本議員は自民党内で「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長を務めていた。議連の会合でも、入札条件の見直しを求める声が噴出しており、永田町関係者の中には「同議連の中心人物だった柴山昌彦元文部科学相、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル相、さらには元首相にも〝火の粉〟が降りかかる可能性がある」と見る向きもある。

なお、入札条件を巡っては、日風開子会社のエネルギー戦略研究所が参加する京都大学大学院「再生可能エネルギー経済学講座」の講師陣の一部が再エネ議連の会合に参加し、見直しの検討に関わった経緯がある。「今回の問題が、回りまわって京大の再エネ派グループに波及しなければいいが。再エネ拡大・脱原発の旗を振ってきた自民党内勢力や学識者のプレゼンス低下が起きないことを祈るばかりだ」。再エネ関係者はこう不安を募らせている。

【記者通信/8月2日】大手電力“期ずれ”影響で好発進 通期でも黒字化へ


大手電力10社の2023年度第1四半期(4~6月)決算が8月2日までに出そろった。燃料費や電力市場価格の高騰、円安の加速といった外部要因により厳しい決算が際立った前期から一転、軒並み好スタートを切った(図参照)。

前期は、低圧規制料金で設けられている燃料費調整制度の調整上限に到達し燃料費持ち出し状態となったことが業績に大きな影を落としたが、高圧以上の需要家の電気料金を見直したことや、燃料費高騰に伴う燃料費調整の期ずれ差損が差益に転じたことなどが好決算に寄与した形だ。

急がれる財務基盤の立て直し 東京は通期見通し示さず

6月には、中部、関西、九州を除く7社が低圧向け経過措置料金(規制料金)を21~42%値上げ。今後、円安や燃料価格が再度上昇に転じる懸念はあるが、燃調上限も引き上げられたため通期でも業績が好転することが期待される。実際、北海道と東北はこれまで「未定」としてきた通期業績予想を第1四半期決算に合わせて公表。東京と沖縄を除く8社が最終黒字となる見込みだ。東京は柏崎刈羽原発の再稼働時期を見通せないことから通期予想を示さず、沖縄は火力発電所の事故に伴い通期予想を取り下げた。

前期は中部を除く全社が最終赤字に陥り業界全体に暗雲が立ち込めていただけに、業績改善に明るい兆しが見え始めたとも言える。とはいえ、単年度の収支改善には前進が見られたが、各社ともこの2年余りで棄損され続けてきた財務基盤の立て直しにはほど遠いのが実情だろう。さらには、燃料価格の急激な変動など外部要因に振り回される事業環境も依然として変わっていない。外部環境のリスクに柔軟に対応し、弱体化する収益力を向上させることが喫緊の課題だ。

【特集1】需要家保護を前面に厳格査定 新旧電力双方から異論噴出の実態


全面自由化後初の電気料金値上げが実施されたが、大手電力はもとより新電力からも不満が募っている。需要家保護に偏った今回の厳しい査定を振り返ると、料金規制を巡るさまざまな課題が浮かび上がる。

昨年来、大手電力会社の主たる経営課題だった低圧規制料金の値上げが、6月1日、ようやく実施に至った。燃料費や卸電力市場価格の高騰により供給コストが料金収入を大きく上回る状態が続いたことから財務状況が悪化し、中部、関西、九州を除く7社が昨年11月から年明けにかけて原価を洗い替え、経済産業省に値上げを申請した。当初の上げ幅は標準家庭料金で28~48%(表参照)程度。東日本大震災後の原発緊急停止に伴う2012年の料金改定以来の実施となり、その行方は国民の大きな関心事となった。

しかし約10年前の前回改定と同様、その認可プロセスではたびたびの「政治介入」があり、電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合での審査に横やりを入れる格好となった。

標準的な家庭(30A・400kW時/月)における電気料金の試算結果
※1 レベニューキャップ制度の導入に伴う託送料金の改定影響を含まない数値
※2 レベニューキャップ制度の導入に伴う託送料金の改定影響を加味した数値


補正申請で値上げ幅圧縮 政治リスクで審査長期化

まずは岸田文雄首相が、物価高対策の視点から「日程ありきでなく、厳格、丁寧な査定による審査」を要求。これを受け、監視委の専門会合では燃料価格の採録期間を、それ以前に比べれば価格が落ち着いてきた22年11月~23年1月に見直した。さらに原価上、卸電力市場価格については電力先物価格の平均値(23年2月における東京商品取引所の23年度各限月)を採用することに。専門会合は計16回の審査を経て4月末に査定方針案を取りまとめ、その間7社は原価の再算定を行った。

重ねて、河野太郎消費者相の姿勢が、審査の長期化に拍車をかけた。大手電力の相次ぐ不祥事発覚を重く見て、「電力の経営が効率的なのか見極めなければならない」などと追及。査定方針案がまとまった後、経産省と消費者庁との協議がスタートし、同庁内の会合などでも河野氏の問題意識に基づく形で検討が進んだ。一連の同庁側の対応について、専門会合委員からは「意見があるのなら査定の間違いを指摘するべきだ」といった苦言がたびたび飛び出した。

そして同庁との協議終了の翌日、5月16日に「物価問題に関する関係閣僚会議」が査定方針を正式決定。7社は同日中に補正を提出し、経産省が19日に認可した。紆余曲折を経た最終的な値上げ幅は、標準家庭料金で14~42%と当初申請時から大幅に圧縮された。

結局、審査の長期化により先行5社の値上げ実施までには半年を要した。5社にとって実施が2カ月遅れたダメージは大きく、30億~130億円程度のマイナス影響をもたらしたという。

ただ意外にも、電力会社の収支や財務状況に関心を寄せる関係者は、この顛末を前向きに受け止めている。格付投資情報センターの西村聡彦・格付本部副本部長は「22年度決算ベースと比べて収支構造は改善され、特に燃料高への耐久力が高まった。また、震災後の値上げ時と比べれば政治リスクや国民感情は落ち着いており、審査期間も短い」と指摘。「昨年の今頃、規制料金値上げという選択肢もある中、各社が実情に見合った対応策を実施すれば信用力は保たれるとのストーリーを描いた。概ね、その範囲内で進んでいる」と強調する。

確かに、これで経営悪化の元凶だった燃料価格上昇による逆ザヤは解消される。基準燃料価格は1㎘当たり約4万2000円~5万8000万円引き上がり、足元の燃料価格と、基準価格の1.5倍に設定される上限までの間にはかなりの余裕が生じた。

【特集1】依然道半ばの電力自由化 重要性増すマーケットの改革


電力小売り全面自由化後、初めての料金改定が浮き彫りにした課題とは。料金制度専門会合で座長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授に話を聞いた。

【インタビュー】山内弘隆/武蔵野大学経営学部 特任教授

やまうち・ひろたか 慶応大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。1998年から2019年まで一橋大学大学院商学研究科教授。現在、一橋大学名誉教授、武蔵野大学経営学部特任教授。

―小売り全面自由化後初めての低圧規制料金の改定に当たり、さまざまな課題が浮き彫りになりました。

山内 審査の結果、事業者が当初申請した料金水準よりも上げ幅が圧縮されました。厳格かつ丁寧な申請を行うとした西村康稔経済産業相の意向が大いに反映された形です。競争圧力が十分ではないとの判断から、全面自由化から7年が経過した今も経過措置規制が残っていることは仕方がないことではありますが、2020年に送配電分離が実施され、東京電力エナジーパートナーに至っては発販も分離したという実態がある中で、旧来の料金審査要領を当てはめて審査を行うことは非常に困難ではありました。

―料金改定を見据え、あらかじめ審査要領を変えておく必要があったということでしょうか。

山内 料金規制はあくまでも暫定的な措置ですから、それも現実的ではありませんでした。一方、ウクライナ危機以降のエネルギー市場の激変は、大手電力会社が取ることができるリスクの大きさを超えているとも考えられます。料金改定という形ではなく、国がそのリスクを取るという選択肢もあり得たのかもしれません。

社会の耳目集めた料金審査 規制解除がより困難に


―今後の規制の在り方についてはどうお考えですか。

山内 料金規制の扱いは、今後ますます大きな問題になっていくはずです。審査の過程で社会的に大きな注目を集めましたから、大手電力会社のみならず、新電力関係者も経過措置の廃止を期待しているかと思いますが、そうした期待とは別の方向に進んでしまったように思えます。料金規制が電力の市場競争を歪めてしまっていることは明らかで、政策当局もそれを十分に理解していますが、廃止はそう簡単なことではないでしょう。

―多くの新電力は、規制料金を下回る料金メニューを打ち出すことができなくなりました。自由化は停滞してしまうのでしょうか。

山内 新電力が規制料金を自社の料金の指標としていることは、ある意味、競争が進んでいないことの証左でもあります。本来であれば、新電力はダイナミックにプライシングして独自の供給形態を構築するべきでしたが、依然として発電容量の大部分を大手電力会社が保有しており、常時バックアップと卸調達しかない状況ではそれを望むことはできません。自由化のあるべき姿に向け、まだまだ過渡期にあると考えるべきかもしれません。

―何が規制解除の条件になるでしょうか。

山内 現段階でそれを判断することは非常に難しいと思います。もし規制を外すのであれば、卸取引の内外無差別など、マーケットの改革を徹底する必要があります。その結果として、新電力が自らの経営戦略の中でプライシングを決定して供給力を確保していくことができるような事業環境を創出する必要があります。