電力小売り全面自由化後、初めての料金改定が浮き彫りにした課題とは。料金制度専門会合で座長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授に話を聞いた。
【インタビュー】山内弘隆/武蔵野大学経営学部 特任教授
![](https://energy-forum.co.jp/core/wp-content/uploads/2023/07/26075b475f53f6b9430fe5f17d41fe6b.jpg)
―小売り全面自由化後初めての低圧規制料金の改定に当たり、さまざまな課題が浮き彫りになりました。
山内 審査の結果、事業者が当初申請した料金水準よりも上げ幅が圧縮されました。厳格かつ丁寧な申請を行うとした西村康稔経済産業相の意向が大いに反映された形です。競争圧力が十分ではないとの判断から、全面自由化から7年が経過した今も経過措置規制が残っていることは仕方がないことではありますが、2020年に送配電分離が実施され、東京電力エナジーパートナーに至っては発販も分離したという実態がある中で、旧来の料金審査要領を当てはめて審査を行うことは非常に困難ではありました。
―料金改定を見据え、あらかじめ審査要領を変えておく必要があったということでしょうか。
山内 料金規制はあくまでも暫定的な措置ですから、それも現実的ではありませんでした。一方、ウクライナ危機以降のエネルギー市場の激変は、大手電力会社が取ることができるリスクの大きさを超えているとも考えられます。料金改定という形ではなく、国がそのリスクを取るという選択肢もあり得たのかもしれません。
社会の耳目集めた料金審査 規制解除がより困難に
―今後の規制の在り方についてはどうお考えですか。
山内 料金規制の扱いは、今後ますます大きな問題になっていくはずです。審査の過程で社会的に大きな注目を集めましたから、大手電力会社のみならず、新電力関係者も経過措置の廃止を期待しているかと思いますが、そうした期待とは別の方向に進んでしまったように思えます。料金規制が電力の市場競争を歪めてしまっていることは明らかで、政策当局もそれを十分に理解していますが、廃止はそう簡単なことではないでしょう。
―多くの新電力は、規制料金を下回る料金メニューを打ち出すことができなくなりました。自由化は停滞してしまうのでしょうか。
山内 新電力が規制料金を自社の料金の指標としていることは、ある意味、競争が進んでいないことの証左でもあります。本来であれば、新電力はダイナミックにプライシングして独自の供給形態を構築するべきでしたが、依然として発電容量の大部分を大手電力会社が保有しており、常時バックアップと卸調達しかない状況ではそれを望むことはできません。自由化のあるべき姿に向け、まだまだ過渡期にあると考えるべきかもしれません。
―何が規制解除の条件になるでしょうか。
山内 現段階でそれを判断することは非常に難しいと思います。もし規制を外すのであれば、卸取引の内外無差別など、マーケットの改革を徹底する必要があります。その結果として、新電力が自らの経営戦略の中でプライシングを決定して供給力を確保していくことができるような事業環境を創出する必要があります。