【東京ガス 笹山社長】安定供給を絶やさず CN社会への移行を 現実感を持ってリードする


安定供給と脱炭素化という難しい課題に直面する中、4月1日に都市ガス最大手の社長に就任した。経済成長著しいアジアの脱炭素化も視野に、LNGからのシームレスな移行に貢献していく。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス代表執行役社長CEO】

【聞き手:志賀正利/本社社長】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年4月1日から現職。

志賀 まずは社長就任に当たっての抱負をお聞かせください。

笹山 守るべきものは守り、変えるべきことは変えていくということを徹底していきたいと考えています。守るべきものについては、安心・安全・信頼が当社の事業活動の基本ですから引き続きしっかりと取り組んでいきますし、需要家をはじめとするステークホルダーを大切にする姿勢が変わることもありません。
 一方で、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)といった社会の要請に適切に対応していくためには、躊躇することなく変革していくことも重要です。今年2月に2023年度から3か年の中期経営計画を公表しましたが、変革していくというメッセージを込めて「Compass Transformation 23-25」としました。

志賀 東京大学工学部卒とのことで、東京ガスとして戦後初の理系出身社長ですね。DXを推進するに当たっても、大きな強みとなるのではないでしょうか。

笹山 大学では数理工学を専攻し、数学の応用で統計や最適化問題を解いたり、今でいうところのAIを学んだりしました。そういう意味で、確かにデジタル分野に対する拒否反応はないかもしれません。セキュリティーについて万全を期すことが前提ではありますが、生成AIの活用にも大きな期待を寄せています。

経営資源のシフト加速 新たな成長領域を強化

志賀 デジタルや企画部門で大きな役割を果たされただけではなく、電力事業の立役者でもあります。これまでを振り返り、どのような会社員生活でしたか。

笹山 就職先を決める際、決してエネルギー業界に進みたいと思っていたわけではありませんでしたが、やりたいことをさせてもらえると思い、当社への入社を決めました。実際、これまでの間、わりとやりたい仕事をさせてもらえたと思います。

 入社後は、主に四つの分野を経験しました。最初の10年はシステム部門でデータから会社経営を見るような業務に携わり、次に、営業の企画部門で都市ガスの販売計画のほか、エネルギーサービス事業の立ち上げや電力事業の立ち上げ、デリバティブ(金融派生商品)取引の導入など、当社としては少し変わった業務を手掛けました。

 その後、エネルギー政策担当として電力や都市ガスの自由化やエネルギー基本計画などの政策全般を見ることになり、この間、産官学のさまざまな人脈を築くことができました。四つ目が総合企画部で、19年11月に公表した経営ビジョン「Compass2030」や現行の中計の策定にも関わっています。

【特集1】避けて通れない国民負担の話 GXに必要な全体最適の視座


脱炭素に向けた系統増強やGX関連の巨額投資などの方針が続々と示されている。国民全体での負担増は避けられない中、政府方針の費用対効果や実現可能性を徹底討論した。

【出席者】

重竹尚基/ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&シニア・パートナー

長山浩章/京都大学大学院 総合生存学館教授

大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表

左から重竹氏、長山氏、大場氏

――マスタープランでは7兆円規模の投資が必要だとしています。まず関連の政府審議会に参加する長山教授の評価からお聞きしたい。

長山 世界的にグリーン電力のニーズが拡大する中、日本でも系統増強でさらに大量の再生可能エネルギーを供給地から需要地に運ぶことが求められ、出力制御の減少など効率性の面でもメリットがあります。7兆円の投資を40年で償却する場合、足元の年間電力需要から試算すると負担額は1kW時当たり0.2円、4人家族で年1000円強となります。ただ、会計帳簿原価などから見れば、やはり全体の規模感としては巨額だと感じます。また、ここにはローカル系統や調整力などのコストが含まれないことも指摘したい。7兆円のうち北海道~東北~東京ルート新設では最大3.4兆円、北海道地内増強では1.1兆円程度。特に北海道地内は需要が小さいにもかかわらずこれほどの投資額が必要な理由を、政府は丁寧に説明すべきです。

大場 長期的な再エネ開発を考える上で系統増強は不可欠であり、その計画を公的機関が示さなければ開発はいっこうに進みません。マスタープランは一部詰めが甘いのかもしれませんが、その第一歩の試算を示したものとして評価できます。さらにスピード感を持ってこれを実現させていかなければ意味がない。ただ今後、資金調達や費用回収の在り方を巡っては、さまざまな課題が浮上するでしょう。

重竹 CN(カーボンニュートラル)実現への全体像を示したGX基本方針でも、マスタープランに基づき今後10年間程度で、過去10年の8倍以上の規模(1000万kW以上)で送電網の整備を加速する方針を記しています。さらに、マスタープランでは再エネ拡大に資する系統増強や蓄電池などの導入について投資の必要性を強調し、政府の本気度が感じられます。


供給想定に疑問の声 プランの柔軟な見直しを

――課題をもう少し掘り下げたいと思います。

長山 そもそも供給ありきで、今後開発が進むであろう北海道や東北の風力導入量を決め打ちしていますが、なぜそうなったのか、説明が必要ではないでしょうか。供給地を動かすプランの場合は、例えば需要近傍である東京電力管内や福島での再エネ開発に力を入れる方が効率的です。マスタープランでは三つのシナリオを示したものの、ベースシナリオに対し、再エネ余剰の活用として水素製造やDAC(大気中CO2直接回収)の生産をいかに需要地近傍に近づけるかがシナリオ分岐になっており、自由度が低い。もう少し供給側の見通しに尤度を持たせるべきです。

大場 確かに供給側の想定を固定したことは最大のリスクです。業界団体の見通しをそのまま使ったようですが、洋上風力がその通り建設されるのか、増強した系統が最適なインフラとなるのかは危うい部分があり、想定の妥当性には議論の余地があります。ただ、そうしなければ計画が作れなかった面もあります。系統増強は高速道路開発と性質が似ており、赤字でも社会的に求められる事業ならばコストは享受されます。公共投資という視点を持ちつつ、より柔軟な系統の活用を考える必要もあるでしょう。

重竹 GX投資は100年に1回のエネルギーインフラの総入れ替えであり、技術的に何が有力か現時点で見通せません。しかし本気でCNを目指すなら、インフラ構築のリードタイムを考えると今すぐ動く必要があり、だから政府もプランを作り、さらに「見通し」が重要だと基本方針の中でわざわざ一章立てて規定しました。今後10年のGXのロードマップも粛々と実行するのではなく、柔軟な見直しが重要です。

長山 費用負担について前述のように個人に落としたベースでの負担額や、現在の電力会社の規模との比較を示さなければ、誰も批判しないまま当初計画通り進む可能性があります。また、再エネ由来電力が価格低下やCO2削減に貢献するとして、全国負担の部分は託送料金か再エネ賦課金で賄います。しかし九州や四国、北陸の需要家に、北海道地内の投資を一部とはいえ負担する形を理解してもらうためには、国民への丁寧な説明が必要ではないでしょうか。

 なお、北海道地内の1兆円を北海道の需要家だけで負担すると4人家族で年4000円超ですが、全国で負担すればかなり分散されます。具体的な負担額を示しつつ、系統増強の方向性を議論し続けることが重要です。経済産業相の認可を得たからといって、実施計画が各地で安易に進んでいくのは問題です。

【特集1】海底調査後に具体的検討へ デジタルとの一体整備が重要に


広域系統増強の整備計画の中で注目度が高いのが、北海道と本州を結ぶ海底直流送電だ。自社エリアに関わる可能性がある東京電力PGの岡本副社長は、行方をどう見ているのか。

【インタビュー】岡本 浩/東京電力パワーグリッド取締役副社長

おかもと・ひろし 1993年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京電力入社。技術統括部長兼経営企画本部系統広域連系推進室長、常務執行役などを歴任。2017年から現職。

―前回から大幅に前提が変わったマスタープランの評価は?

岡本 大変な労作だと思います。膨大なデータをインプットし、一つひとつのシミュレーションには時間がかかる上、不確実な将来の見通しも踏まえています。電力広域的運営推進機関の検討委員会でもさまざまな意見が出た中でまとめられたことに感謝しています。

洋上風力や蓄電池、水素などの技術動向といった不確実性が随所で出てくる点については「ミニマム・リグレット」(起こり得る最大の損失が最小になるような選択)で段階的に整備していくのでしょう。

―政府は北海道~本州間の海底直流送電(HVDC)などを優先的に進めたい考えです

岡本 前例のない規模のHVDC整備事業であり、今後、政府事業で海底状況をつぶさに調べた後、ルートや設計、仕様、工法などを決めることになります。広域系統整備委員会の作業チームで実際にもむ作業が重要です。

海外の主体は電力に限らず 全体で安く仕上がる形を

―広域系統整備計画に基づく事業実施主体は、一般送配電事業者と送電事業者とされています。

岡本 ただ、HVDCに関しては陸揚げ地点もまだ決まっていません。また当社は海底ケーブル工事の経験がなく、調査結果を踏まえ、国内で敷設経験のある社の協力も得ながら検討する必要があります。

地内送電線については当社が指定されるでしょうが、広域系統増強はオールジャパン的な事業として広域機関が実施主体を指定します。例えば、当社は英国の洋上風力からの送電線整備の案件に参画していますが、現地では事業主体が電力会社である必要はありません。政府や系統運用機関とコミュニケーションを取り、一連の工程をマネジメントできればいいのです。日本でも洋上風力に多様な企業が参画していますし、広域系統の実施主体もオープンな状況ではないでしょうか。

―そうなると、費用回収の仕方も検討の余地が出てきますね。

岡本 全国スキームや値差収益(卸電力取引所で地域間連系線の容量制約に起因した収益 )の活用については合意されていますが、詳細や規模で詰まっていない部分があります。また、GX関連資金などとの整理も必要でしょう。

―デジタルと電力インフラの一体化の重要性を指摘されています。

岡本 エネルギーとデジタルインフラはより密接に整備を図ることが重要だと考えています。特にデータセンターは、電気とデジタルの価値の変換所と捉えることができます。インフラの海底敷設を考えた場合、大容量の光ファイバーは送電線より圧倒的に軽く、時間もコストも抑えられます。例えば洋上風力の電気を北海道のデータセンターで使い、光ファイバーを通じてデータを行き来させるなら、光ファイバーの敷設だけで済みます。将来的に需要側で生じ得るさまざまな可能性を踏まえて、インフラ全体を安く整備する形を探ることが重要になります。

【特集1】50年の広域連系のあるべき姿を提示 具体化には継続的な検証が重要


マスタープランでは従前の内容から一歩踏み込み、具体的な系統整備の将来構想が示された。そのポイントや課題、今後の進め方などについて、電力広域的運営推進機関の寺島一希理事に聞いた。

【インタビュー】寺島一希/電力広域的運営推進機関理事

てらしま・かずき 1982年横浜国立大学工学部卒。電源開発で広域連系送電線などの計画、設計、建設業務に従事。2015年から現職。

―今回策定したマスタープランのポイントを教えてください。

寺島 2017年5月に公表した「広域系統長期方針」は、再生可能エネルギーなど新規電源の接続量増加を見据え、「日本版コネクト&マネージ」の導入など既存設備の有効活用を前提に広域連系系統の整備・更新の方向性をまとめたものです。それに対し今回のマスタープランは、北海道ブラックアウト(全域停電)やカーボンニュートラル(CN)宣言などを踏まえ、適切な信頼度を確保しながらCN社会を実現するための広域連系系統のあるべき姿を示したことが大きなポイントです。国民負担最小化の視点から、他に類を見ない規模で全国千数百カ所もの送電系統を模擬したシミュレーションを実施。その中での混雑状況などを把握した上で、費用便益評価を行いました。

―21年5月公表の中間整理から大きな変更がありました。

寺島 中間整理は第五次エネルギー基本計画をベースとしたので、その後のCN宣言や第六次エネ基を踏まえ、電源想定や需要シナリオを大きく見直す必要がありました。加えて、再エネ電源近傍の需要により再エネ利用率を増やすことで、再エネ比率5~6割の下での出力制御率を中間整理時点の40%程度から、今回10%程度まで軽減できる見通しとなりました。これも、中間整理からの大きな進展だと捉えています。


ステップバイステップで実行 資金調達の仕組みも必須

―各整備計画は具体的にどう進めるのでしょうか。

寺島 全ての計画を一気に実行に移すのではなく、適切な時期に適切な規模で順次進めていくことになります。政府の要請もあり、北海道~東北間の海底直流送電(HVDC)の新設、九州~中国の関門連系線、中部~関西~北陸の交流ループの増設計画などを優先的に進めることになるでしょう。ただし、計画の具体化に当たっては、技術的な課題も含めた地に足のついた精緻な検討が求められます。特に北海道~東北のHVDCは、複雑な日本近海の地形に前例のない規模で敷設する事業であり、ルートに関する国の実地調査結果を踏まえて工事計画を検討し、事業性の評価を行う必要があります。

―さまざまな不確定要素を指摘する声があります。

寺島 洋上風力は今後の開発、稼働状況への留意が必要ですし、既存の火力燃料の水素・アンモニアへの転換もあくまで一定の仮定に基づくシナリオ想定であることは事実です。当機関としても、23年度供給計画の取りまとめに際して経済産業相に対し、脱炭素電源の確保の仕組みと併せ、水素・アンモニアを含めた燃料サプライチェーン構築への政策支援の重要性を提言しました。また、HVDCなどでは資金調達の円滑化も重要であり、政府と連携しつつ、合理的な事業環境の整備も重要です。マスタープランの具体化に向けては、これらの課題に取り組むと同時に、さまざまな方面からのご意見もいただきたく思っています。

【特集2】「脱炭素先行」で地域課題解決 官民連携で多様な再エネ拡大


環境省が注力する「脱炭素先行地域」事業が各地で進んでいる。脱炭素化と地域の課題解決に資する分散型システム活用の在り方とは。

【インタビュー】犬丸 淳/環境省地域脱炭素事業推進課長

いぬまる・あつし 1997年自治省(現総務省)入省。静岡県財政室長、総務省自治財政局財政課課長補佐、島根県環境生活部長及び総務部長、総務省自治財政局準公営企業室長などを経て、2022年7月から現職。

―昨年度から「脱炭素先行地域」を始め、これまでに46件を選定しました。進捗はどうですか。

犬丸 現在3回目の選定中で、注目度は依然高いと感じています。先進的で意欲的、かつ実現可能性のある提案を選んでおり、特に実現可能性を担保するため、第3回からは民間との共同提案を必須要件にしました。電力会社の発電から小売り、送配電部門、地域新電力、PPA(電力購入契約)事業者、都市ガス事業者などが関わるモデルが出ています。

 さらに第3回からは四つの重点選定モデルを定めました。例えば、先行地域の必須要件である「30年度までに民生電力需要のカーボンニュートラル(CN)」だけでなく、熱需要や産業、運輸部門などの排出削減を強化するモデル。ほかにも施策間連携、地域間連携、地域版GX(グリーントランスフォーメーション)といったモデルがあり、これらを意識して地域の特徴を生かした多様な計画が出てくることを期待しています。

―再生可能エネルギー以外の利用拡大がカギになりそうです。

犬丸 選定事業の中にも、秋田県大潟村の稲作もみ殻を活用した熱供給、兵庫県淡路市の竹チップを活用した熱供給など、多様なエネルギー資源を利用する計画があります。また横浜市や名古屋市などはコージェネ活用を計画しており、その場合、まずは非化石証書などを活用したオフセットを、将来的にはガス自体のCN化を考えてほしい。名古屋市は水素混焼コージェネやエネファームを導入した上で、40年に合成メタン導入という先行地域の対象期間を超えた計画を掲げ、ガス分野のモデルとして評価されています。


GXの社会実装を後押し 系統負荷軽減し再エネ追加

―岸田政権のGX政策は地域のCNにどう影響しますか。

犬丸 GX基本方針では先行地域を、GXの社会実装を後押しする政策と位置付けています。先行地域は23年度当初予算と22年度第2次補正予算で合計400億円を措置し、初年度の22年度から倍増となりました。また環境省では23年度新設の「民間裨益型自営線マイクログリッド事業」に30億円を措置。自治体と民間が連携した自営線の活用で、系統制約に左右されずに再エネ拡大を図る狙いです。先行地域では1件当たりの支援の上限が50億円ですが、この新規事業を活用した場合は60億円まで引き上げます。

 各地で多様な再エネの最大限の導入が必要であり、これらが地域共生型かつ地域課題の解決に資することが求められます。できる限り系統への負荷をかけない形での再エネの追加導入を目指し、蓄電池やEVといった需要家側の設備を活用したエネルギーマネジメント技術も重要です。自治体と民間が連携し、こうした「地域裨益型CN」が広がるよう、今後は先行地域の横展開を図る考えです。

※環境省は4月28日に第3回の先行地域選定結果を発表しています。本取材は4月中旬に行いました。

【特集2】地域のゼロカーボン実装を支援 PPA事業のアライアンス拡充へ


地域が脱炭素にコミットし始め、再エネPPA(電力購入契約)が大きく注目されるように。実績国内随一のアイ・グリッド・ソリューションズは、各地の事業化を支援するサービスを始めた。

【インタビュー】秋田智一/アイ・グリッド・ソリューションズ社長

あきた・ともかず 広告会社勤務を経て、2009年環境経営戦略総研(現アイ・グリッド・ソリューションズ)入社。主に新規事業開発責任者として太陽光発電事業、電力供給事業を推進。21年5月より現職。VPP Japan、アイ・グリッド・ラボの代表取締役を兼任。

―グループ全体で、分散型電源の建設から運用、そしてVPP(仮想発電所)構築、電力小売りやエネルギーマネジメントなど、CN(カーボンニュートラル)を見据えた多様なエネルギーサービスを手掛けています。再生可能エネルギー関連では2月から新たに、各地のPPA(電力購入契約)モデルを支援する「ソーラーアライアンス事業」を始めました。

秋田 当社はこれまで、流通小売りや物流施設などの屋根上を活用したオンサイトPPAモデルで、太陽光発電などの拡大を図ってきました。国内の再エネ発電事業としては珍しいPPA専業であり、オンサイトではトップの実績です。2017年度からPPA事業をスタートし、これまでの導入量は500超の施設で計10万kW程度となり、今後も年10万kW程度のペースで拡大していく計画です。

 また、PPAでは「余剰電力循環型」の独自スキームを確立しています。屋根上スペースを最大限活用しつつ、余剰分は当社が買い取り、他の需要家や地域新電力などに売電する事業を展開しています。他社にはないノウハウを生かして事業計画づくりから支援していくのがソーラーアライアンス事業であり、各地域がカーボンゼロを目指す上で多くの関心が寄せられています。


1日1施設建設のペース 独自ノウハウが評価


―自社のPPA事業については、今春、金融機関10社から103億円の追加資金調達を実施。累計で200億円超となりました。

秋田 金融機関もPPAへの関心を高めており、当社の計画がマネタイズできている点や、グループのVPPJapanが黒字化している点などが安心材料となっているようです。オフサイトPPAで百億円規模の資金調達に至るケースは珍しいと思います。

 再エネ事業は見通しを立てやすいとはいえ、計画を立案することと、期間内に実際に作り上げることは全く別物。1施設のPPAだけなら難しくはありませんが、年10万kWというペースは1日1カ所発電所を建設していく計算です。しかも今後は大規模開発ではなく一層の分散化が進み、生活圏に近い場所での事業も増えるでしょう。そんな環境下で数多くの事業開始に至るためには相当のノウハウが必要となります。

 その点、ソーラーアライアンス事業では、年間数百件着工できるだけの地点や人材の確保、営業力、計画管理、そして資材調達力といった当社のリソースやノウハウを、アライアンス先が活用できます。なお、資材調達に関しては中国リスクが付きまとうため、サプライチェーンを多様化してポートフォリオの安定化を図っています。

―各地のPPA事業を軌道に乗せる上でのポイントは?

秋田 地域の特色を出すことも重要ですが、その手前で肝要なのがいかに早く採算ベースに乗せるか。一口に屋根上といっても、効率が良い場所から優先して設置しなければ、採算ラインに乗りにくい。その点、AIで地点ごとのポテンシャルを把握しスクリーニングする当社独自のソフトを活用し、地域のステークホルダーが把握する情報と併せれば、地域内で効率的な事業計画が立てられます。

 自治体の取り組みではまず公共施設のPPAから始めがちですが、必ずしも効率性の面からは望ましいとは言えません。CO21t当たりの削減コストを抑えるためには民生施設をいかに巻き込むかが重要であり、この点は環境省の「脱炭素先行地域」でも評価されるポイントとなります。ただ、同時に自治体の悩みの種でもあり、そこで当社と地域の金融機関や企業が連携することで、課題解決につながると考えています。

【特集2】地産地消やレジリエンス機能向上 DXで進化遂げるエネファーム


【大阪ガスマーケティング】

地産地消実現など活用が広がるエネファーム

家庭用燃料電池・エネファームの販売開始から早14年。大阪ガスマーケティングでは保証期間10年を超えるケースが増え始める中、ハウスメーカーと連携し、住宅リフォーム時に既設から最新モデル「タイプS」への買い替えを勧めている。2022年度はリフォーム時の販売台数が2000台超で、この8割がエネファーム・エコウィルからの買い替えだ。同社は「ハウスメーカーと連携して光熱費削減や自立運転機能などの訴求ポイントを伝え、リフォーム市場での実績ができてきた」(営業推進チーム)と実感する。

同社では、エネファームのハイスペックな機能を最大限発揮するためのサービス拡充に力点を置く。販売当初は価格を抑えた機種が好まれる傾向にあったが、豪雨などの自然災害が頻発する中、12年に登場した自立運転機能のニーズが拡大。現在、既築住宅向けのエネファーム販売の99%が自立運転機能付きだという。


自立運転機能を最大限発揮 ビッグデータでサービス向上

エネファームは、ガスマイコンメーターの保安機能を正常に動作させるため、26日間連続して発電した場合は27日目に発電を一時停止する仕組みだが、このタイミングで停電が発生するとせっかくの機能が活用できない場合がある。そうした事態を回避するために始めたサービスが「自立発電継続サポート」だ。台風などで停電発生が高確率で予測される際、27日目の停止日に該当しそうな機器を遠隔制御により前倒しで停止させる。実はこれ、18年の台風21号を機に生まれたサービスだ。21年7月豪雨では160件が自立運転機能を実際に活用し、その中には「自立発電継続サポート」により救えたケースもあった。

エネファームのインターネットとの接続率は新築住宅の場合、家庭用IoTでトップ水準の9割以上。さらに大阪ガスエネルギー技術研究所の高い気象予測技術があるからこそ展開できるサービスだ。

最新技術を活用したサービスはほかにもある。ネットに常時接続し遠隔監視することで、運転状況の見守りや故障の未然防止、迅速・効率的な修理対応を図る。

【特集1】設備無償提供に現金支給も当たり前! 現場で横行する悪質行為の実態


プロパン業界の商慣行という傘の下、消費者が実態を分からずに割高な料金を支払っているケースは多い。一部の悪質な営業実態からは、エネルギーライフラインの担い手であるとの意識の欠如が浮かび上がる。

「アパートオーナー様、プロパン供給会社を●●社に変更すれば●万円をお支払い‼」「ガス給湯器の全戸無償交換に加え、さらなるメリットを一つ選択いただけます‼」―。プロパンガスの切り替え競争が激しい地域、主に関東では、プロパン販売業者が賃貸集合住宅のオーナーなどに対し、さまざまな設備の「無償提供」をアピールするチラシを配布するなど、新旧業者による激しい顧客争奪戦が繰り広げられている。

こうしたケースでは「現在の供給会社からの残存請求分は当社が全額お支払い」などと強調。さらに「ガス料金を現状より●%安くします‼」と入居者のメリットをうたうことも多いが、それは最初の数カ月だけで、いつの間にか大幅に値上げされていることも珍しくない。またプロパン業者が継続的に供給する権利を持つため、建築業者に対し無償で配管工事を行う「無償配管」もはびこる。

プロパンの商慣行が垣間見られるチラシ

戸建て住宅を巡っても、同様の「貸付配管」などが横行する。居住者がプロパン業者を切り替えようとした際、業者が設備の残存費用の支払いを求め、もめた挙句、プロパン業者が消費者を相手に訴訟に至る、といった事例だ。

電力や都市ガスと異なり、プロパン業者は公益事業規制を受けた経験がない。それゆえ先述のような商慣行が定着し、電力や都市ガスでは考えられないような悪質な営業が一部で行われているのだ。


集合住宅で苛烈な営業合戦 コロナ禍の混乱で急増も

では、具体的にどのような悪質営業が展開されているのか。特にトラブルが多い賃貸集合住宅関連を中心にいくつかのパターンを見てみよう。 

資金力のある大手の間でおなじみなのが、賃貸住宅オーナーに対し、冒頭のような設備の無償提供などを持ちかける手法だ。「物件の設備維持管理費用の削減」「物件の付加価値アップで入居率向上」といった名目で、さまざまな特典を提示。給湯器や調理器の全戸無償交換、故障時の修理負担なしは当たり前で、エアコンや温水洗浄便座、ドアフォン、防犯カメラの提供、インターネットやWiFi導入費用負担など、ガスとは関係ない設備の提供も日常茶飯だ。

また、1戸につき現金数万円を支給するというストレートなアピールも。現金支給と設備無償提供を組み合わせた例も散見される。こうした競争が激しい地域ではいまだにブローカー(切り替え業者)が跋扈している。なお切り替え後の申込書の料金欄が空白になっており、都度手書きで記入することもままあるという。

【特集1】国内初の一貫システムで目標達成 苫小牧実証が示した貴重な知見


分離・回収から貯留まで一貫したCCSシステムで、日本初の実証の舞台となった苫小牧エリア。各種データや地元との合意形成など、各地で事業化を進める上で参考となる多くの知見が得られた。

右側の三つの塔が省エネ型の分離・回収装置(提供:日本CCS調査)

北海道有数の工業地帯である苫小牧港周辺エリア。春から初夏にかけての濃霧が風物詩だ。3月上旬、現地に向かう道すがら、町の中心部から離れていないにもかかわらず鹿の群れが車の前を横切っていった。これも早春の苫小牧ではおなじみの光景だという。

この地が日本で初めてCO2分離・回収から貯留まで一貫したシステムの実証の舞台となった。しかも、陸上から海底下の貯留層へ向けて斜めに掘られた井戸にCO2を圧入するケースは世界初である上、施設は最寄り駅から車で約20分の近さだ。地震国の日本で、市街地近傍でのCCS実証に関し地域と合意形成できたことにも、各国関係者の注目が集まった。

経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、日本CCS調査が2012年度から着手。肝心のCO2圧入は16~19年度にかけて行った。同社は「19年11月に目標である30万tの圧入達成後は、各種モニタリングや海洋環境調査を継続。周辺環境への影響がなく、CCSが安全かつ安心できるシステムであることを確認した」と説明する。

実証では、出光興産北海道製油所の水素製造装置から出るCO2を含むガスを、アミンを用いる分離・回収装置に輸送。省エネ型の2段吸収法を採用し、通常フローにはない「低圧フラッシュ塔」が特徴だ。ここから回収される中濃度溶液を効率的に加熱することで、通常より5~7割の省エネになるという。

回収した高濃度CO2は圧入のために必要な最大23MPaまで昇圧し、年間10万t規模で、苫小牧沖の二つの貯留層に圧入した。深度1~1.2㎞の萌別層と、2.4~3㎞の滝ノ上層だ。ちなみにCO2を圧入する導管の直径はわずか8~9cm程度。それで海底下の深い地層内での高圧条件に耐え得るというから驚く。


圧入成否を分けた背景 胆振東部地震との関連なし

貯留のメカニズムとしては、隙間が多い砂岩などの貯留層に超臨界(液体と気体両方の性質を持つ状態)で体積が気体の300分の1程度になったCO2を圧入する。貯留層の上には泥岩などの遮へい層があり、CO2を通さないふたの役割をする。遮へい層が壊れないよう、圧入する際の圧力は一定に抑える。閉じ込められたCO2は一部が鉱物化して安定化する。

以前の国内の圧入実績1万t程度に対し、本実証で30万tを達成したことは何よりの成果である。ただ、圧入できたのは萌別層のみで、滝ノ上層にはほぼ圧入できなかった。なぜか。

実は砂岩だけでなく、火山岩類の地層も貯留層に向くのではないかとの考えから、圧入テストなどによる事前評価を踏まえて滝ノ上層も対象にしていた。2タイプの圧入に成功すれば、今後適地がさらに広がる可能性が生まれる。しかし、現在の探査技術では圧入性の良い火山岩類とそうでないものとの区別が困難だった。結局、滝ノ上層の岩相は想定した通りではなく、圧入井を掘った場所では十分な圧入性が確認できなかった。同社は「火山岩類を貯留層とする場合、その予測の不確実性に課題があることが分かった。現在は砂岩をメインに適地を判断している」と説明する。これも、今後各地でCCS事業が進む上での貴重な知見となる。

【日本原子力発電 村松社長】原子力事業の先駆者として期待される役割を踏まえ政府のGX方針に貢献


政府が「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定し、原子力政策の見直しが今後進むことになる。将来にわたり持続的に原子力を活用していくため、原子力事業のパイオニアとしての役割を見つめ直し政府戦略の実現に貢献していく考えだ。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

【聞き手:志賀正利/本社社長】

むらまつ・まもる 1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 岸田政権は昨年、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を舞台に原子力政策を見直し、運転期間の追加的な延長を認め、次世代革新炉の開発・建設を進めるといった基本方針を打ち出しました。今通常国会で原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法などの束ね法案が審議される予定です。原子力事業の転機になるものと期待していますが、一連の動向をどう受け止めていますか。

村松 今回示された方針はいずれも当社事業、さらにはメーカーなどを含めた原子力産業全体に深く関わるものです。これら重要事項の中で法整備が必要なものは閣議決定され、それによって第六次エネルギー基本計画の内容が実質的に上書きされるものと期待しています。
 特に原子力関連は束ね法案として審議されることから、国会ではさまざまな議論が交わされることになるでしょう。法制化や関連する政省令など、今後の具体的なプロセスを注視していきます。

志賀 今回の束ね法案で掲げる政策のうち、特に原子力産業にとっての最重要政策とは何でしょうか。

村松 やはり次世代革新炉開発を、既設炉のリプレースと併せて進めていく方針を示したことです。最新技術を取り入れて新たに炉を建設することへの政府の言及は、原子力産業に大きなインパクトを与えるものです。
 ただ、次世代革新炉の技術的要件はまだ明らかになっていません。またリプレースについても、廃炉を決定した発電所の敷地内が対象となりましたが、廃炉の数とリプレースを合わせていくのかどうかなど、定義自体がどうなるのか、注目しています。これらの具体的な内容が見えてくれば、例えば敦賀発電所3、4号機建設計画への影響を計るなど、当社内でも具体的な対応を検討できるようになります。

革新炉開発への期待 敦賀3、4号への影響は

志賀 その敦賀3、4号はすでに敷地造成を終えています。革新炉の最有力地点と言えるのではないでしょうか。

村松 本計画は東日本大震災前に原子炉設置変更許可を旧原子力安全・保安院に申請したものであり、現在は審査が中断している状態です。震災以降、他社も含め新たな建設計画は凍結されてきましたが、今回、一定の条件下で解除される方向性が見えてきました。ただ繰り返しになりますが、現在はその具体的要件をウォッチしている段階です。当社としては当面、敦賀2号の新規制基準適合性審査への対応に全力を挙げる考えです。

志賀 とはいえ、革新炉開発やリプレースを実現する上で、原子力のパイオニアである原電が果たす役割はやはり大きいのではないでしょうか。

村松 敦賀3、4号はもともとAPWR(改良型加圧水型軽水炉)の第1号案件とすべく計画したものです。歴史を振り返ると、当社は日本の原子力発電のパイオニアとして、その時々の最新型設備の建設に取り組んできました。今、われわれが敷地造成まで完了している計画を持っていることで、政府が掲げる政策の実現に、当社はパイオニアとしての役割を果たしていけるものと思います。

志賀 かつて、準国産エネルギーである原子力開発に国を挙げて取り組んできた時代の雰囲気を彷彿とさせます。

村松 革新軽水炉が日本にとってもっとも現実的かと思いますが、SMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉、高速炉開発も政府の視野に入っており、さらに核融合炉への注目も国内外で高まっています。長期的な視野に立った技術開発と人材育成につながってほしいですね。

【特集1】最終処分地選定の長い道のり 政府の方針改定は転機となるか


GX実行会議を機に、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の加速に政府が動き出した。処分事業の見通しが立たない状況が長年続いてきたが、全国的に議論が深まる契機となるか。

2020年10月、高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分地選定の第一ステップである「文献調査」に北海道寿都町、神恵内村が応募・受け入れをし、全国的な注目を集めた。しかし両町村に続く自治体は現れず、以降、最終処分地選定のプロセスで表立った動きは見えてこなかった。

地層処分はHLWを安定した岩盤に閉じ込める

そうした中、政府は昨年12月22日に取りまとめた「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」の中で「最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体などへの主体的な働きかけを抜本強化する」と明記。さまざまな具体策を講じる方針を表明した。

これを受けて、2月2日に自民党が開いた関連部会の合同会議で、政府が「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」に基づく基本方針の改定案を示した。改定案ではGX基本方針をさらに具体化し、①関係府省庁の連携態勢構築、②国、NUMO(原子力発電環境整備機構)、電力合同チームの創設と全国行脚、③首長への直接的働きかけの強化や、関係自治体との協議の場の新設、④関心地域への国からの段階的な申し入れ―などを掲げた。

そして「現在の文献調査の対象地域に加えて、複数の地域での文献調査の実施を目指す」「(文献調査の次のステップとなる)概要調査地区等の選定に向けた活動に取り組む」と強調した。

同方針の改定は8年ぶり。閣議決定した後、硬直化していた選定プロセスの前進につながるのかが注目されている。

ファーストペンギンへの外圧 住民の信を問い応募撤回に

HLWの最終処分について、政府は「現時点でもっとも有望」との国際認識に基づき、地層処分を前提としている。プロセスが緒に就いたのは2000年に「最終処分法」が成立してからだ。同法では、文献から広域にわたり過去の火山活動の履歴などを調べる「文献調査」、さらに範囲を絞りボーリングなどで地下の状況を調べる「概要調査」、そしてより範囲を絞って地下施設をつくり詳細に地下環境を調べる「精密調査」の3段階で進めると定めた。次のステップに進む際は、地元自治体の意見を十分尊重することも規定した。

【記者通信/2月28日】原発の「最大限活用」へ GX脱炭素電源法案がようやく閣議決定


政府は2月28日、原発の運転期間に関する規制見直しなどを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」を閣議決定した。すでに閣議決定を行っている「GX実現に向けた基本方針」に基づき、①地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入促進、②安全確保を大前提とした原子力の活用――に向け、原子炉等規制法や電気事業法、再エネ特措法などの改正案を束ねたものだ。原子力に関しては、炉規法上で定めた「40年+20年」のくびきが条件付きで外れることになる。西村康稔・経済産業相は閣議後の会見で、今後の国会論戦などを念頭に「国民にしっかりと理解いただけるようていねいな説明を行う」と語った。

ようやく「GX脱炭素電源法」が閣議決定され、舞台は国会へ

規制は30年超10年ごとの新制度 電事法上「カウントストップ」も可能に

原子力の活用については、これまで炉規法で規定していた原則40年、最長20年延長という運転期間に関する規定が外れ、新たに、①運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年ごとに設備の劣化に関する技術的評価を行うこと、②その結果に基づいて長期施設管理計画を作成し、原子力規制委員会の認可を受けること――を義務付ける。

それに伴い電事法では、規制政策ではなく利用政策として「40年+20年」の枠組みを改めて位置づける。規制委の安全審査を大前提に、安定供給確保やGXへの貢献、自主的安全性向上や防災対策の不断の改善といった一定の条件を満たし、経産相の認可を受けた場合に限り、20年の延長が認められるようになる。

また、新規制基準対応などの制度変更や、裁判所による仮処分命令といった「事業者が予見し難い事由」を考慮し、東日本大震災後の長期停止期間を運転期間から除外する「カウントストップ」を認める。これにより、「40年+20年+α」といった追加的な延長も可能になる。

原子力事業者にとって、今回の制度改正の意味合いは大きい。これまでは40年超運転を目指そうとしても、審査のタイムリミットから廃炉を決断せざるを得ないケースがあった。しかし今後は、40年が迫る炉についても停止させたままで即廃炉にしないという選択肢も生まれることになる。

そのほか、原子力基本法では安全を最優先とすることに加え、安定供給やGXへの貢献など原子力利用の価値や、廃炉・最終処分などのバックエンドのプロセス加速化など国・事業者の責務を明確化させる。原子力発電における使用済み燃料の再処理などの実施に関する法律(再処理法)では、使用済燃料再処理機構(NuRO)の業務追加や、事業者に対して廃炉拠出金への拠出を義務付ける。

再エネ関連では、再エネ導入に資する系統整備に向け、送電線の整備計画を経産相が認定する制度を創設し、再エネ促進に資するものは工事に着手した段階から系統交付金(再エネ賦課金)を交付する。また、電力広域的運営推進機関の業務に、整備計画に係る送電線の整備に向けた貸付業務を追加する。

乱開発が社会問題化する中、再エネの事業規律強化に関しては、関係法令などの違反事業者にFIT(固定価格買い取り制度)や市場連動型のFIPの支援を一次留保する措置などを導入する。

【特集1】昨年来の高騰局面を深掘り 石炭市場を襲う地殻変動


石炭価格は昨年史上最高値の水準まで上昇し、アジア向け価格は400ドル前後で高止まりした。石炭市場で何が起きているのか。そして今後の価格はどうなるのか。関係者に取材した。

2022年、石炭価格は前代未聞の値動きを見せた。ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した2月下旬以降、天然ガス価格がフォーカスされる裏では、ガス以上の地殻変動が起きていた。
数年前、高品位一般炭は1t当たり100ドル前後で、200ドルともなれば高いという肌感覚だったが、昨年はこの水準を軽く突破。特にアジア向けの豪州炭価格は、多くの期間で400ドル前後で推移した。ある商社関係者は「欧州一般炭着値価格が180ドル前後に落ち着く中、豪州ニューキャッスル積み価格も落ちつくはずが独歩高となった」と振り返る。豪州炭価格は年明けからようやく下落し始め、1月23日時点で350ドル台で推移している。


世界の主な石炭貿易(2020年見込み)出典:エネルギー白書2022

21年から需要は超過気味 ロシア有事で一気に急騰


市場で何が起きたのかを、まずはアジア向け価格を中心に見ていく。コロナ禍が始まった20年の石炭価格は、需要減退で大幅に下落した。しかし21年には需要の急回復、温暖化問題での石炭権益への投資不足、天然ガス価格高騰、主要産炭国の人手不足、そして中国国内の需給ひっ迫など、価格を押し上げる複数の要因が交錯。21年10月に250ドル超となった後、一時価格は落ち着いた。

需要が超過気味の中、22年初頭からは産炭国での生産や輸送障害が重なった。豪州はたびたび豪雨の影響で供給支障が生じ、低調な輸出が続いた。またインドネシアは1月1日に石炭輸出禁止令を発出し、同月の輸出量が激減。14日に解除後、徐々に回復した。

ウクライナ情勢への懸念から価格が上昇基調となる中、ついにロシアが軍事侵攻を開始し、200ドル台半ばから400ドルへと一気に跳ねた。春にかけていったん落ち着くものの、G7(主要7カ国)の露炭禁輸表明と代替調達の動きが活発化し、9月5日には457.8ドルの史上最高値を記録。その後、秋までは400~450ドル周辺をうろついた。

翻ってEU(欧州連合)では、供給支障問題に揺れる天然ガス代替として石炭火力の閉鎖時期の延長や再稼働などが進み、一時的に石炭需要が拡大。その中でEUは8月10日以降、露炭の輸入をゼロにし、しばらくはアジア・太平洋市場と同じく高止まりが続いた。しかし秋からは露への経済制裁に加わらない中国やインドなどが、市場で値引きされた露炭を積極的に購入。その分、従来輸入されていた南アフリカやコロンビア、米国などの一般炭が欧州に振り向けられたことで、需給が緩んだ。さらに欧州石炭ハブの在庫増加や天然ガス価格の落ち着きも相まって、足元の欧州の石炭価格は200ドルを切っている。

【記者通信/1月27日】北海道電力が規制34.87%値上げ申請 泊再稼働は織り込まず


北海道電力は1月26日、経済産業省に規制料金の値上げを申請した。平均で34.87%の値上げとなる。燃料費の増加が続く中、昨年8月に燃料費調整額の上限に達し、それ以降上限を超過した分を価格に転嫁できていなかった。原子力の扱いについては、新規制基準適合性審査の最中にある泊発電所の再稼働時期が見通せないことから、原価算定期間内(2023~25年度)での再稼働は織り込まなかった。ただ、北海道電は、再稼働に至ればその後値下げを実施する考えを示している。電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合での審査と、経産省の認可を経て、6月1日の実施を目指す。

燃料費高騰に歯止めがかからず、各社が続々と値上げを申請

ここ数年の世界的な燃料価格高騰や21年頃と比べた円安、それに伴う卸電力市場価格の高止まりなどが続き、足元の2月分で規制料金では1kW時当たり7円程度、燃調の上限を上回っている。同社の収支・財務状況は急速に悪化しており、22年度は経常損失620億円程度の赤字となる見通しだ。

また、電源構成は、LNG火力の石狩湾新港発電所が加わるなど、前回14年度に料金を見直した際から大きく変わっている。21年度は石炭49%(前回算定期間13~15年度は40%)、石油14%(同34%)、水力・再エネ14%(同14%)、FIT買取・市場調達等12%(同7%)、そしてLNG11%(同0%)、原子力0%(同5%)だ。

こうした実態との乖離を踏まえて今回原価を算定したところ、燃料費や購入電力量など需給関係費が大幅に増加。他方、これまで取り組んできた経営効率化の成果と、今後のさらなる深掘りを進め、合計で年平均650億円程度の効率化を織り込んでいる。

結果、規制料金は平均34.87%の値上げを申請する。モデル料金では、従量電灯B(月間使用量230kW時、30A)が32%増の1万1700円、従量電灯C(同1300kW時、13kVA)が30.7%増の7万3279円、低圧電力(同650kW時、8kW)が30.7%増の3万3828円となる。

さらに低圧自由料金についても、規制料金の値上げ時期に合わせて6月1日から値上げする。主なメニューのモデル試算では、11.7~13.8%の値上げになる。

東電とは対照的 柏崎刈羽7号は10月稼働で織り込み

北海道電は今回、泊発電所の適合性審査が終わるめどがついていないことから、原子力の稼働は原価算定上織り込まなかった。現在1~3号機が新基準許可審査中で、同社は審査項目で残る新設防潮堤の構造成立性などに関する説明を、今秋頃までに終える予定だとしている。ただ、審査が最も進む3号機でも、重要項目である基準地震動(SS)や基準津波の策定、火山の影響評価の説明などが残っている。同社は総力を挙げて早期再稼働に取り組み、再稼働後には値下げを実施するとした。

北海道と対照的なのが、1月23日に規制料金の値上げ申請を行った東京電力だ。柏崎刈羽7号機を今年10月、6号機を25年4月稼働として原価に織り込んでいる。東電は、総原価で年間3900億円程度、規制料金の値上げ幅を1kW時当たり2.1円程度圧縮する効果があると説明する。

確かに柏崎の基準適合性審査自体は進んでおり、17年12月に6、7号機が「合格」となっている。ただし、その後発覚した核物質防護での不手際により、原子力規制委員会が21年3月、事実上の運転停止を意味する、核燃料の移動禁止措置を出した。さらに新潟県独自の「三つの検証委員会」の結論がいつ得られるのか見通せず、花角英世知事はこの検証が終わらない限り、柏崎刈羽再稼働に関する議論は行わない方針を貫いている。

東電ホールディングスの小林喜光会長と小早川智明社長は1月17日に新潟県庁で花角氏と面会したが、花角氏は東電について「信頼を失っている」と述べ、知事の同意には程遠いことが改めて浮き彫りになった。

他方、東電以外でも、原発の再稼働が見通せずとも、値上げ幅圧縮のために一定の稼働を織り込んでいる社もある。ただ、その場合は算定期間のうちわずかの間で、織り込み量は少なく、無理をしている印象は薄い。

東電は柏崎刈羽が再稼働できなかった場合、「徹底した経営合理化を行う」(小早川氏)と言うが、年4000億円弱もの値上げ抑制効果を原発稼働以外で捻出することは可能なのか。

値上げ申請での対応の違いが、各社の今後の経営状況に大きく影響しそうだ。

【特集1】気鋭の若手識者が白熱トーク 国際動向から国内事情まで 政策・業界「変革」の注目点


エネルギー業界で2022年の漢字をひとつ選ぶなら「変革」がふさわしいのではないだろうか。そこから23年の展望をどう描くべきか。若手有識者が国際動向から国内事情まで徹底対談した。

【出席者】

江田健二/RAUL社長

大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表

江田 2022年を通して痛感したのが、日本と世界のエネルギー事情のつながりがここまで深いのかということ。私は国内の電力事情、自由化以降のイノベーションを中心に見ており、以前は天然資源の調達事情はそれほどでしたが、国内事業を考える上でもこの辺の情報が必要不可欠だと実感しました。化石燃料の国際動向と23年の展望をどう捉えていますか。

大場 石油ではEUでロシア産の90%が禁輸になります。欧州以外に露が石油を輸出する場合のタンカーへの保険を禁止する制裁も同時に発動し、免除規定として60ドルの価格上限を設ける方向です。足元で露産は概ね60ドル以下ですが、需給ひっ迫で国際価格指標が上がると、露産も60ドルを超える可能性がある。上限価格を超えると露産は無保険か、露の保険会社などを使わなければならず、安く買える国と調達できない国の二極化が一層進むでしょう。23年2月5日からは石油製品にも同様の規制がかかり、原油市場は一層荒れる見通しです。

江田 ほかの燃料については?

大場 あまり表に出ないのが石炭。まさか豪州産一般炭が1t 400ドル前後なんて時代が来るとは。石炭高は需給の問題で石油より根深く、23年もこの傾向が続くでしょう。唯一の下落要因が、欧州のリセッションです。

江田 日本は今回の危機を切り抜けられれば良しとするのではなく、資源を海外に大きく依存する構造の抜本的改善が必要です。日本でも、ウクライナでの発電所や変電所への攻撃などの事態が起きる可能性はゼロではないはず。台湾と中国の関係悪化や北朝鮮のミサイル乱発を見て、そんな思いが強まりました。単にビジネスをするのでなく、一段上のレイヤーからビジネスを考えることが22年の重要なテーマでした。


フェアな競争始まるか 23年は日本にとって好機?


大場 ただ、JKM(アジア向けLNG価格指標)よりがぜんTTF(欧州のガス価格指標)が高く、総体的に現在は欧州経済危機。翻って日本の損害は少なく、インフレもほぼなく、生産力も問題がなく、実は23年は日本のチャンスになるかもしれない。欧州の動きが鈍化する中、日本は数々のアイデアを実行できるはずです。

江田 この一年はウクライナ危機や円安、コロナリカバリーなどが一気に押し寄せ、大手電力も新電力も価格転嫁できずに赤字をため込み、フェアな競争ができない状況でした。しかし23年4月以降は規制料金改定などでこのねじれが大分解消されます。

大場 今後の展開をどう見ますか。

江田 全員でフェアな値上げをする中、エネルギー危機下でも利益を生み出す料金プランが作れるようになります。ラストリゾートへの駆け込みが殺到する状況では、良いプランがあっても選ばれませんが、今後は市場連動型などバラエティーのある商品を積極的に売っていくでしょう。再生可能エネルギーや蓄電池、EV、節電、DX(デジタルトランスフォーメーション)などを絡めた提案も拡大し、需要家が耳を傾けるようになる。危機下で生き残った強い新電力と大手電力間で正当なガチンコ勝負が始まってほしいです。