【特集1】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを


インタビュー:滝波宏文/自民党参議院議員

閣議決定されたエネルギー基本計画は、再生可能エネルギーを重視し原子力発電を評価していない。滝波議員は危機感を抱き、「原子力のリプレースを含め、政策の見直しは欠かせない」と主張する。

たきなみ・ひろふみ 1994年東京大学法学部卒、大蔵省(当時)入省。2013年参議院議員(当選2回)。参院資源エネルギー調査会筆頭理事、予算委員会理事などを歴任。党総合エネルギー戦略調査会幹事。

―クリーンエネルギー戦略への期待は。

滝波 そもそも日本は資源がなく、海外とつながる電力系統もありません。一方、経済大国なので膨大な電力を要します。しかも、京都議定書を作った環境責任国です。

 この日本のエネルギーを巡る高い制約条件の下、基本計画の作成ではS+3Eのうち一つのE(環境)だけではなく、全体をアップグレードすべきだと主張しました。しかし、環境だけがクローズアップされてしまった。再生可能エネルギーを最大限増やすのは当然ですが、本当は同様に原子力も最大限活用するとしなければいけませんでした。この点、残念ながら今回閣議決定された第六次エネルギー基本計画は「赤点」だと言わざるを得ません。答えが分かっているはずなのに、その答えが書ききれていない。クリーンエネルギー戦略は、残る二つのE(エネルギー安全保障、経済性)について、原子力のリプレースも含めて、基本計画の不足を補完する役割を持たせるべきだと考えています。

―原子力について問題意識は。

滝波 心配していることは、福島事故から10年が経ちましたが、原子力の足が止まり、世界に誇れるわが国の技術、人材が衰退の危機に瀕していることです。

 さらに懸念しているのは、立地地域のことです。これまでは、リスクを負いながらも、安定安価な電力を大都会をはじめ消費地に送るという「誇りある国策への協力」が成り立っていました。それは、一つには安全性などが向上する最新鋭の発電所を造ってきたからです。既存の発電所が年数を経ていくだけで、「死んでいく技術」とただ何十年も向き合えと言われるのでは、「もうついていけない」と立地地域も思うでしょう。

―規制行政をどう考えますか。

滝波 私は財務省の出身です。元行政マンとして見て、大きな問題があると思っています。行政はデュープロセス(法の適正な手続き)に沿って、予見可能性などを確保しなければなりません。

 例えば、原子力施設の審査の標準処理期間は2年間とされていますが、守られていません。新規制基準導入の直後はともかく、多くの審査の結果、ノウハウなどが蓄積され、本来ならば審査期間は2年に収束していくべきです。しかし、そういう姿勢が原子力規制委員会に見えません。

 事業者に対し単にノーと言い続け責任を押し付けるだけでは、機能する規制行政とはいえません。さまざまなステークホルダーと対話を深め、どうやれば現実的、効率的に安全性を高めていけるかを追求していくのが本来の役目です。

 来年、更田豊志委員長が任期を終えます。規制委の委員は国会の同意が必要なので、誰が委員長にふさわしいかも含め、より科学的、合理的、現実的にと、規制行政の刷新が必要だと考えています。

 今後、運転延長、カウントストップの議論も本格化します。10年間を振り返り、スピード感を持って法改正も含めて規制委・規制庁の行政を見直していきます。

【特集1】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情


欧州では、脱炭素時代の安定供給体制を模索する中、原子力回帰の動きが拡大している。脱原発にこだわるドイツなどに対し、フランスを中心とした推進派がそれを凌駕しつつある。

再生可能エネルギーが拡大する一方、石炭火力の閉鎖が進み、ガス火力依存度が上昇したことで、エネルギー危機に直面した欧州。そんな状況下で巻き起こっているのが、原子力をグリーンな技術と認めるか否か、という論争だ。

EU(欧州連合)はここ数年、持続可能な経済活動を分類する「タクソノミー」の検討に注力している。タクソノミーは、EC(欧州委員会)が2019年末に発表した気候変動政策「欧州グリーンディール」の柱の一つで、持続可能な発展を後押しする資金誘導を狙った新たな金融手法だ。ここでの原子力の扱いが争点の一つとなっているのだ。

マクロン大統領の原発への積極発言が目立つ(提供:朝日新聞社)

当初、原子力については環境的な放射性物質の有害性を否定できないとして、持続可能な活動リストに含めない方針だった。リストから漏れた技術には、今後EU内で資金が集まらなくなることを意味する。だが、19年末に欧州議会とEU理事会が合意したタクソノミーの規則案では、「原子力は除外もしないし、組み入れもしない」と軌道修正した。原子力推進派の働きかけによるもので、その後の作業を通じて改めて扱いを判断することにした。

ECは今春、タクソノミーの詳細な「グリーン・リスト」を公表したものの、原子力の扱いは、同じく争点である天然ガスとともに今回も決着がつかず、リストに含まれなかった。リストの適用は来年1月1日からの予定だが、推進派、反対派各国からのロビー活動が盛んになり、決定が何カ月も遅れているのだ。


原子力はグリーンか否か EU内の政治的駆け引き激化

原子力が脱炭素電源であることは言わずもがなだが、EU内で意見が割れているのは核廃棄物の環境影響の評価だ。この点を検証したECの科学的専門機関のJRC(EU共同研究センター)は、原子力が太陽光や風力発電に比べて「健康や環境問題について悪影響が大きいことを示す指標はない」と結論付けたが、さらに二つの専門家グループが検討を続けている。

それを横目に、原子力推進派と反対派の対立が激化している。「タクソノミーについては本来技術的に判断すべき話だが、完全に政治的駆け引きになっている」(海外電力調査会調査第一部原子力グループ)。EU内の多数派は、フランスを筆頭にフィンランドやポーランド、ブルガリアなどの推進派だ。このうち10カ国が10月中旬、ガス価格の高騰を受け、脱炭素化には原子力が不可欠だとする声明を発表。「欧州は14カ国で原子炉126基を運転し、世界最高水準の信頼性と安全性を保障する能力を有し、廃棄物処理についても同様」だと強調した。

【特集1】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁


日本原子力学会フェロー/田中隆則

小型で安全性の高いSMR(小型モジュール炉)が、大型軽水炉に代わる炉として日本でも注目を浴びている。しかし、わが国での実用化には、審査期間の長期化やプラントメーカーの取り組みの遅れなどの課題がある。

現在、新たな原子炉としてSMR(小型モジュール炉)が注目されている。

その特性は、まず出力が小さいことであり、動的な安全系を採用しなくても自然循環などのフルパッシブ系で安全性能を達成でき、機器・設備の大幅な簡素化が可能となる。内蔵放射能も小さいことから、緊急時の避難区域も縮小できるとされている。また、原子炉格納容器内に圧力容器など主要な原子炉系機器を収め、原子炉システム全体を一つのモジュールとして工場で完成させることにより、後はサイトに輸送、据付けて二次系とつなぐだけで利用できるため、工期の大幅な短縮と品質向上を同時に達成することができる。

ニュースケール・パワー社は開発で先行する(ニュースケール社ウェブサイトより)

SMRはこのような特性によって、次のような利用環境の変化に適応するエネルギーシステムとして期待をされている。

その一つは、電力事業の自由化による投資環境の変化である。大型炉の開発・導入は、巨額の投資を要するうえ、建設工期の長期化や電気料金の低減、規制制度の変更による追加投資などのリスクがある。一方、SMRは小型であり投資額が小さい。また、現地での工事が少なく短期に完成、早期の資金回収が見込まれる。順次、原子炉を追加設置する分散投資により、資金リスクを抑え出力増を図ることもできる。また、コスト面についても、パッシブ系の採用による設備の簡素化、運転保守の効率化などにより、大型炉並みのコスト低減が図れる可能性もある。

次に脱炭素化を目指すエネルギー環境の変化である。再生可能エネルギーの出力変動を補完するSMRの負荷追従性が期待されている。また、産業界の脱炭素化を進めるための熱エネルギーの供給源として、小型で立地に柔軟性のあるSMRは産業施設の近辺に設置し、その熱需要にも応えられると期待されている。

さらに、災害などへのレジリエンス性へのニーズである。SMRは、頻繁な燃料供給も要らず、天候にも左右されないことから、大規模な電力系統がダウンした場合のマイクロ・グリッドの基幹電源としての役割も期待される。


ベンチャー・大学が参入 各国政府も開発を支援

SMRの開発は、プラントメーカーに加え、ベンチャーや大学・研究機関など多くの組織で進められており、各国の政府も開発を支援している。特に、SMRの開発に国を挙げて力を入れている国として、米国、カナダ、英国を挙げることができる。これらの国では、原子力産業振興の柱として、SMRに注目している。

特に米国は、中国とロシアが国際的な原子力発電プラント市場を先導している現状に危機感を抱き、原子力分野でのリーダーシップを回復するため、議会、政府、規制機関、産業界が協力してSMRの開発・導入に取り組んでいる。

【特集1】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり


原発比率20~22%とカーボンニュートラルの実現には政策の再構築が必須となる。カウントストップ、運転期間延長、新増設・リプレースといった具体策が待ったなしだ。

クリーンエネルギー戦略では、CO2排出のない大規模電源、原子力に大きな期待がかかる。原子力に課せられるミッションは、まずエネルギー基本計画で示された2030年の電源構成比20~22%(発電電力量1900~2000億kW時)の目標達成だ。

現在、30年に稼働が可能な原発は36基(新規制基準の審査未申請8基、建設中3基を含む)存在し、合計出力は3722万1000kW。仮に全基が40年の運転期間を20年延長し、稼働率8割で運転したとしよう。30年の発電電力量は約2600億kW時になり、目標を十分クリアできる水準になる。36基でなく、既に稼働中の原発に、審査に合格、あるいは審査中を加えた27基でも、2000億kW時は達成できる。

ただしこれはあくまで机上の計算であり、地元同意の行方や、司法リスク、また火山灰対策のような規制の「バックフィット」といった想定外の事象でふいになる可能性はある。

しかも、40年代に入ると原発は次々と60年の「寿命」を迎えていく(表参照)。50年までに止まる原発は13基で、合計出力は1185万7000kW、発電電力量は約831億kW時に上る。この分を再生可能エネルギーで賄うことは現実的ではないだろう。

各プラントの運転期間60年到達年

気候モデルでノーベル賞受賞 「政治」を嫌った真鍋氏の信念


ノーベル物理学賞の受賞が決まり、会見する真鍋氏(10月5日、米ニュージャージー州)

2021年のノーベル物理学賞を、米プリンストン大上席研究員で地球科学者の真鍋淑郎氏らが受賞することが決まった。地球温暖化を予測する気候モデルを開発した功績が評価された。

真鍋氏は1960年代に大気大循環モデルを世界に先駆けて構築し、特に1964年の「放射対流平衡モデル」は気象学のブレークスルーともいえる画期的論文と評価されている。こうした研究成果は、今日の多くの気候予測モデルの礎となっている。

アラスカ大時代に真鍋氏と親交があった田中博・筑波大教授は「ノーベル物理学賞に地球科学はないと思っていただけに、大変喜ばしいこと」と快挙を称える。真鍋氏は「筋金入りのサイエンティストであり、ポリティクス(政治的駆け引き)にねじ曲げられることを大変嫌っていた」(田中氏)。「考えよ」を常に自分に言い聞かせており、机の上に「考えよ」と記された盾が置いてあったことが印象的だったと振り返る。

気候変動を巡る現状はポリティクスがまん延しているといっても過言ではなく、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)と対立する見解の科学者には「懐疑論者」のレッテルが貼られている。

田中氏は「真鍋先生は『CO2が増えれば気温が上がるだろう』とサイエンスを語ってきた。しかし気候危機のような過激な主張が流布したのは、ポリティクスを優先する一部グループの仕業。温暖化議論を再度ポリティクスからサイエンスに戻し、見解の多様性を尊重しながら公正な立場で調べ直す必要がある」と提言する。

本誌ウェブサイトでは、真鍋氏に関する田中氏の寄稿全文を公開しています。

【特集1】エネルギー有識者3人が直言 新政権への期待と注文


「再エネ最優先」にまい進した菅政権から岸田政権へ。その方向性はどう変化するのか。新政権のエネルギー政策に何を望むのか、有識者の考えを聞いた。

左から澤田氏、橘川氏、山地氏

山地憲治/地球環境産業技術研究機構 理事長・研究所長

「成長と分配」への変化 リアリズムとバランスに期待


つくづく政治の世界は難しいと思う。事実や論理に基づいて進める研究の世界とは大きく異なり、政治は民意に沿わなければ存立基盤を失う。しかも民意は移ろいやすく、政治は短期間で結果責任が問われる。

民主主義の下では選挙で選ばれた政権が国家権力を担う。英国元首相ウィンストン・チャーチルの皮肉としてよく知られているが、「これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、民主主義は最悪の政治形態」という認識を、私も共有している。

多くのエネルギー関係者は、自民党総裁選で岸田文雄氏が選ばれたことにホッとしているだろう。しかし、過大な期待は持たない方が良い。エネルギー・環境問題は重要だが、さまざまな国家的課題の一つでしかない。私は、安倍・菅政権で繰り返されていた「成長(経済)と環境の好循環」というスローガンが、岸田政権になって「成長と分配の好循環」に変化したことに注目している。成長と環境の好循環は難しいことを美しく表現しただけと違和感があったが、成長と分配の好循環は現実的課題に対応していると思う。

岸田政権にはリアリズムを期待したい。「安全性を確認した原発の再稼働を進める」ことは世論の現状では妥当な方針である。リプレースや新増設、40年を超える長期運転などにも取り組んでほしいが、選挙前にこのような主張をすることは合理的とは思えない。

カーボンニュートラルの実現には「あらゆる選択肢を総動員する」という方針の下で、原子力の持続的活用を含めて、バランスよくエネルギー・環境政策を進めていただきたい。

バランスが取れた再エネ主力化政策に修正できるか

【コラム/11月1日】真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞に寄せて 今後の地球温暖化研究への懸念と提言


田中博/筑波大学計算科学研究センター教授

地球科学者の真鍋淑郎氏が、2021年ノーベル物理学賞を受賞することが決まった。地球温暖化を予測する気候モデルを開発した功績が評価された。この分野での物理学賞受賞は初めて。真鍋氏と親交があった筑波大学の田中博教授に、今回の快挙へのコメントと、今後さらに注目が高まるであろう気候予測研究に関する提言を寄せてもらった。

米国プリンストン大学の真鍋淑郎先生がノーベル物理学賞を受賞したというニュースが10月5日夕刻に日本中を駆け巡った。ノーベル物理学賞に地球科学はないと思っていただけに、大変喜ばしい事である。かつてお世話になった身近な気象学者が、一夜にして世界中から注目されることになり、手の届かない雲の上の偉人となった気がしている。

真鍋先生とは私がアラスカ大学に助教として勤務していた時(1988~1991年)に親交があった。真鍋先生は同大地球物理学研究所(赤祖父俊一所長)の評価パネルメンバーのお一人で、私が米国在住の新人気象学者になったということで、ニュージャージの先生の自宅に招待していただいたこともあった。

真鍋先生(左)と著者

在米日本人気象学者のコミュニティーというのがあり、その仲間に入れてもらうために、著名な先生方を一通り訪問して挨拶回りを行った。60年代に大気大循環モデルを世界に先駆けて構築した真鍋氏(プリンストン大学)、笠原氏(アメリカ大気研究センター・NCAR)、荒川氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校・UCLA)、金光氏(米国気象センター・NMC)や、日本の気象学の父とも言われる小倉氏(イリノイ大)らを訪問した。

プリンストン大学の真鍋先生の机の上には「考えよ」という文字の盾が置いてあった事を思い出す。真鍋先生は校庭を散歩しながら立木を指さし、「この木1本を再現するのにも、高速のスパコン1台は必要ですよ。田中さん」と甲高い声で説明してくれるのだった。

気象学のブレークスルー 真鍋氏の放射対流平衡モデル

真鍋先生の64年の放射対流平衡モデルは気象学のブレークスルーと言える画期的論文であった。

鉛直一次元放射モデルにオゾン層を入れると、その加熱により成層圏が再現される。放射平衡だけだと対流圏が力学的に不安定になるので、不安定成層には対流混合が起きて、気温減率は6.5℃/kmで一定になる、としたモデルが放射対流平衡モデルである。一定の気温減率をパラメータとして外から与える対流調節の考えは、当時としては妥当だった。この部分については、後続の研究でさらに精緻化されている。この放射対流平衡モデルに基礎を置く67年の論文では、CO2が倍増すると気温が2.36℃上昇することを提示した。

これが地球温暖化研究のルーツとなり、今日の多くの気候予測モデルの礎を構築したことから、今回の受賞に繋がった。ただ、この論文の中心テーマは水蒸気量が変化した場合の応答を調べる実験であり、CO2倍増はついでの試み程度で導入されたものである。それが、50年後の御年90歳で、温暖化研究の追い風により大賞に花開くということは、好奇心旺盛な本人のエネルギーと才能ももちろんあるが、運が引き寄せた面もあると個人的には思っている。

【電源開発 渡部社長】カーボンニュートラルに「CO2フリー発電」で挑み新たな価値創造へ


カーボンニュートラルという時代の要請を受け、保有技術、資産を生かしたロードマップを策定した。CO2フリー水素発電や水素製造、再生可能エネルギー拡大など多方面の可能性を追求。カーボンニュートラル社会の実現へ貢献する。

わたなべ・としふみ
1977年東大法学部卒、同年電源開発入社。2002年企画部長、06年取締役、09年常務などを経て、13年副社長、16年6月から現職。

志賀 第六次エネルギー基本計画づくりは政局に翻弄されましたが、どう受け止めましたか。

渡部 エネルギー問題の中での気候変動問題の重要性が一層増し、基本計画の性格の変化を感じています。ただ、やはりS(安全性)を大前提に、3E(供給安定性、経済性、環境性)のバランスを取ることが不可欠。今回の基本計画でもこの重要な前提は揺らがないと再認識しました。

志賀 とはいえ石炭火力政策は大きく動いており、非効率設備のフェードアウトに続き、排出削減対策が講じられていない設備への新規輸出支援停止も決まりました。

渡部 エネルギーは、必要とされる量を不断に供給し続けることが必須であり、当社の資産を活用して社会の要請に応えていきます。老朽化した石炭火力については、多方面に配慮しながら順次ソフトランディングを目指します。ただ、今日明日で休廃止するのは現実的ではありません。今後もバイオマスやアンモニアを混焼するなど、当社なりのノウハウで可能な限りCO2排出量の低減を図ります。今年2月に、こうした脱炭素に向けたビジョンを「BLUE MISSION 2050」として発表しました。

志賀 ポイントは?

渡部 2030年に国内発電事業のCO2排出量を17~19年度3カ年平均実績比で40%削減、そして50年実質排出ゼロを目指し、「加速性」と「アップサイクル」を軸にプランを策定しました。再生可能エネルギーや大間原子力計画の推進、石炭火力のCO2フリー水素発電への置換、CO2フリー水素製造、電力ネットワークの安定化・増強に挑戦をしていきます。

志賀 アップサイクルという言葉は初めて聞きました。また後で詳しく教えてください。

OCGの技術を実装 原子力は確実な進捗を

志賀 石炭火力フェードアウトは多方面に目を配って対応する必要があるかと思いますが、具体的にどんな絵を描いていますか。

渡部 発電所の立地状況や経年化の度合い、地元経済や地域の電力需給への影響などさまざまな要素を踏まえ、地点毎に個別に判断していきます。 例えば当社で一番古く、運転開始から50年以上が経過する高砂火力は将来的には運転を止める方向ですが、一方で、次に古い松島火力はまだ稼働できる状況にあります。現在は、中国電力と共同で設立した大崎クールジェン(OCG)で実証した石炭ガス化技術を実機に適用し、松島の2号機にガス化設備を追設する計画を検討中です。石炭火力をCO2フリー水素発電に更新していく第一歩となります。このように、既存設備に新技術を適用することを「アップサイクル」と呼んでいます。既存の設備をうまく生かして、経済合理的かつ早期に新たな価値を生みだす取り組みです。

志賀 アップサイクルの他地点への展開や輸出といった考えはありますか。

渡部 松島でのノウハウを、国内の他地点に展開したいと考えています。海外へも、例えば発電用に自国の石炭を使いたいという産炭国からのニーズは十分に考えられ、そうした機会があればこの技術を提供していきたいと思います。

志賀 ただ、政府系、民間、いずれの金融機関も石炭火力の輸出支援に否定的なことは、懸念材料ではありませんか。

渡部 石炭火力輸出についてはさまざまな意見がありますが、当社が目指すのは、原料は石炭であっても、石炭火力というより、石炭から取り出したCO2フリー水素を用いた発電技術です。OCGで実証試験を行っている酸素吹石炭ガス化技術はCO2の分離回収に適しています。本技術の活用を通じて、石炭活用のニーズがある国のCO2削減と水素社会への移行に貢献していくことができると考えています。

【北陸電力 松田社長】ゲームチェンジ見据えお客さまに喜ばれるソリューション提供へ


経営環境が厳しさを増す中での新体制発足。デジタル化社会の到来や脱炭素化の進展など社会構造の変化を捉え、事業領域の拡大を図り、さらなる成長に向けた戦略を模索する。

まつだ・こうじ
1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 直近で取締役を2年、また副社長を経験せずに社長に就任した初のケースと聞いています。今の経営環境をどう見ていますか。

松田 人口減少や少子高齢化が急速に進む中で、デジタル化への対応に加え、2050年カーボンニュートラルの実現や、30年のCO2削減目標の大幅引き上げなど、気候変動関連の変革は予想以上に激しく、私たちを取り巻く環境のゲームチェンジの気配を感じています。このような変化に直面している状況で、今回重責を担うことになり身の引き締まる思いです。そうした中、既存の電気事業をベースに電気事業の枠を超えて成長戦略をどう立てていくかが最重要課題です。

脱炭素化への挑戦 社の強みをフル活用

志賀 北陸電力の特色である水力発電の豊富さなど、自社の強みや弱みをどう捉えていますか。

松田 大きな強みである水力発電比率は全国平均1割程度に対し、当社比率は約3割を占めています。先人達が日本でも有数の急流河川をエネルギー資源とすることに苦心を重ねてきたおかげであり、気候変動問題を中心に脱炭素化への関心が高まるほど、この財産をしっかり生かしていく重要性が増していると思います。戦中・戦後の電力供給体制検討の際、当初案では北陸エリアは中部ブロックに属する構想でしたが、地域の後押しを受け、当社初代社長の山田昌作らが、北陸地域の気候・歴史・文化・風土は異なること、また、これまで努力し開発してきた電源を使って生活や産業が営まれ、北陸の経済圏は独立していることを力説し、北陸地域として独立することが認められました。こうした変化の時代こそ歴史の再認識が大切であり、今後の経営ビジョンにおいても地域を大切に思う気持ちをベースに、地域の課題解決に貢献し、地域とともに発展していくことが大事だと考えています。

志賀 カーボンニュートラルに取り組む中で、具体的に社の強みをどう発揮していきますか。

松田 近年、ゼロエミッションや再生可能エネルギー電気調達への関心やご要望が高まっており、エネルギー消費に関するニーズにもしっかりと応える必要があります。当社の財産である水力発電については、さらなる新設やリプレース、既存設備の改修に着実に取り組みます。さらに福井県あらわ沖での洋上風力発電、富山県朝日町での陸上風力発電の事業化をはじめとする再エネ開発に向けても積極的に動いていくなど、再エネ主力電源化に向けてはアクセルを相当踏まなければなりません。ただ、洋上風力は技術的、経済的な検討がまだ必要ですし、陸上風力や太陽光についても適地が減る中で土砂崩れリスクなどへの目配りも重要です。当社は30年度までに再エネ発電量を18年度対比で20億kW時増加させる目標を掲げています。うち、めどが立っているのは16.4億kW時です。目標達成に向けた取り組みを加速させるとともに、さらなる開発目標の拡大へ検討を進めていきます。

北陸電力グループ カーボンニュートラル達成に向けたロードマップ(概要)

【特集2】脱炭素化へ克服すべき課題 第一人者から「六つの提言」


カーボンニュートラル実現には、高いハードルが横たわっている。かつてない困難に挑む電力業界に、専門家6人が克服策を提言する。

カーボンニュートラルに向けては、供給側、需要側ともに高いハードルを越えなければならない

電気事業連合会は5月21日、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、積極的に挑戦していく方針を明らかにした。S(安全性)+3E(エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合)の同時達成を前提にして、これまでの経験で得てきた技術、知恵を結集して挑んでいくとしている。

カーボンニュートラルを実現するには、多くの高いハードルを乗り越えなければならない。電事連も、その実現には「非常にチャレンジングな目標であり、多くの課題や不確実性が存在し、技術革新を創造するイノベーションが不可欠」と認識している。

力を入れるのはエネルギーの供給側における「電源の脱炭素化」と需要側における最大限の「電化の推進」の取り組みである。

エネルギー供給側では、エネルギー資源や再生可能エネルギーの適地が乏しい日本の国情やレジリエンスの観点も踏まえ、「特定の電源に過度に依存することなく、バランスの取れた電源構成を追求すること」を重視。再エネ主力電源化に向けた電源開発、安全を大前提とした原子力発電の最大限の活用とリプレース・新増設、水素・アンモニアなどによる火力発電の脱炭素化の技術開発・実証・導入と将来の商用化―。これらに積極的に取り組んでいく。

需要側では、エネルギー効率利用とあらゆる分野での最大限の電化推進に加え、水素などの脱炭素エネルギーの供給と利用の促進に注力する。また、技術的に電化が困難な分野での新たな電気エネルギーの活用方法として、水電解装置による水素供給と水素の利用促進を目指し、社会実装に向けた取り組みを進めていく。

50年カーボンニュートラルの実現という高いハードルに直面する電力業界。その挑戦に期待する各分野の第一人者6人が、提言でエールを送る。

【特集2】カーボンニュートラルの達成 電源の脱炭素化と電化で実現へ


電気事業連合会は、今年5月、2050 年カーボンニュートラルに挑戦すると表明した。かつてない難題に挑む池辺和弘会長の「戦略」と「思い」を、松本真由美氏が聞いた。

池辺和弘/電気事業連合会会長

(聞き手)松本真由美 /東京大学教養学部付属教養教育高度化機構環境エネルギー科学特別部門客員准教授

カーボンニュートラルへの挑戦の意気込みを語る電気事業連合会の池辺和弘会長

松本 昨年、菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言しました。以来、この話題がマスコミでも連日のように取り上げられています。電力業界も目標の実現に向けて取り組んでいます。どのような思いでカーボンニュートラルに臨んでいますか。

池辺 われわれは以前から「地球温暖化防止は人類が直面している非常に大事な問題」として、議論を重ねてきました。首相の宣言よりも前から、温室効果ガスの排出量削減を常に頭に入れて事業を進めてきたと思っています。

われわれは長らくCO2を排出してエネルギーをつくってきました。石炭、石油を燃焼させればCO2を排出します。天然ガスも比較的少ないとはいえ、同様です。原子力発電所の再稼働が一部にとどまっている現状においては、発電電力量の7~8割はCO2の排出を伴う火力発電でつくっています。ですから、カーボンニュートラルに挑むのは当然であり、われわれ電気事業者も積極的に取り組むべきだと考えています。

松本 50年目標の前になりますが、30年度の目標として温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減する目標が決まりました。以前の目標の「26%」から大きく引き上げられています。

池辺 30年と50年のタイムスパンを踏まえて、二つの目標は分けて考えるべきだと思っています。50年カーボンニュートラルを達成するには、革新的なイノベーションが必要になるとみています。

松本 具体的には、どういった技術ですか。

池辺 国は、これから再生可能エネルギーを最大限に導入して、主力電源化する方針です。私はこれに大賛成です。ただ、例えば太陽光発電は朝8時くらいから発電しますが、夕方6時ごろには止まってしまいます。雨天・曇天時も発電量は大きく下がりますから、設備利用率は十数%です。太陽光発電が発電できないときの電力需要を蓄電池で賄おうとするなら、蓄電池の価格がかなり安くならないと事業として成立しないでしょう。

ですから、再エネを主力電源化するのであれば、蓄電池のコストを下げ、さらに、蓄電容量や充放電回数などの能力の向上が必要です。そのための技術開発を行わなければなりません。

聞き手の松本真由美氏

松本 今の技術では難しいということですね。

池辺 革新的イノベーションに期待したいと思っています。ただし、簡単にはいかないようです。リチウムイオン電池の普及に向けて重要なのは、どれぐらい安く、どれぐらい大量に電気をためられ、どれぐらい充放電回数を増やせるようになるかだと思いますが、コスト、蓄電容量、充放電回数という三つの要素を同時に解決するのは相当難しいようです。

【特集1】高価な技術の拙速な選択は悪手 成長との両立へ政策大転換を


野村浩二/慶応義塾大学産業研究所教授

「再エネ最優先」が目的化してしまえば、グリーン成長どころか日本経済が一層しぼむ可能性が高い。政策のまやかしから脱し、環境と経済の真の両立を図るために今後必要な対応とは。

長期のエネルギー転換へと向けた道筋では多くの不確実性が存在する。確かなことは、今世紀半ばでも日本がエネルギーを組み合わせて利用する重要性は変わらないこと、そして移行期の後半にどのような脱炭素技術が経済合理性を持つかは分からずとも、その前半期にはいずれの選択肢も高価なことである。拙速な推進はグリーン成長の期待に反し、日本経済の競争力を毀損させる。再生可能エネルギーが安価になったとの声高な主張をよく聞くが、それは海外の特定地域の事例にすぎず、日本との内外価格差は強固に安定している。それは政府と企業の努力不足などではなく、現在の生産技術と土地という要素賦存の制約による。

手段が目的化していないか 現政策は持続的成長に逆効果

日本経済は拙速に再エネなどへ賭けることなく、原子力と火力を活用したバランスあるミックスの維持・形成が重要である。前半期の経済効率性を重視し、後半期に向けて柔軟に対応できるスタンスが望ましい。手段を目的と履き違えて自己目的化してはいけない。実現すべきは再エネの大量導入でも最大限の省エネでもなく、長期に持続可能なバランスの取れた発展(SDGs)である。以下では現行政策を批判的に捉えながら、移行前半期のエネルギー政策として重要な四つの視点を論じたい。

欧州のように洋上風力を輸出産業化できるかは疑わしい

第一に、イノベーションを導くかのような幻想の下にエネルギー政策を強化してはならない。政府による規制強化や野心的な目標設定がイノベーションを誘発し、競争力を高めるという期待はポーター効果という。科学技術者らの挑戦を真に支えるイノベーション政策が求められるが、それはエネルギー政策とは別の難問である。前者の政策による現実経済の資源配分への影響は軽微だが、後者は甚大である。

仮にポーター効果が事後的に存在したとしても、それは法則ではなく例外にすぎない。規制強化に傾いたエネルギー政策は経済停滞を招き、R&D(研究開発)投資の量的拡大や質的改善の速度を遅らせ、イノベーションをむしろ阻害する可能性は大きい。

第二に、現在の日本経済にはさらなるエネルギーコストの増加を受容する余地はない。一般物価との対比において、エネルギーコストは1990年代半ばより上昇を続けてきた。欧米諸国にも共通する傾向だが、平均名目賃金が15年間ほどにわたり低下してきた日本では、エネルギー価格上昇に対する経済の耐性は欧米よりも脆弱化している。実質単位エネルギーコストとしての現在の日米格差は戦後のピークに達しており、日本企業は非常に不利な条件下での競争を余儀なくされている。

一国経済の全体的な生産効率を示す全要素生産性によっても、日本の停滞は顕著である。日米格差は、アベノミクスにより数ポイント縮小した後に横ばいとなったが、2017年から再拡大し、民主党政権末期の水準へと逆戻りしつつある。エネルギー多消費産業を海外へ追いやり、国内の省エネと排出削減を実現するような現行政策は、既に一国経済の競争力を毀損させてきた。

今後も増加する再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金を家計が傾斜的に負うべきではない。電力コストの負担は、財・サービスへの転嫁による間接的な影響を含めれば、既にその3分の2を家計が負っている。成果と不釣り合いな莫大な負担を負わせたFITの失敗は、家計の購買力を大きく減衰させてきた。

【特集1】画餅化が加速した第六次計画 シナリオづくり難航で不要論も


エネルギー基本計画を巡る議論は政治事情で混迷し、原子力の新増設・リプレースにはまたも踏み込めなかった。これまで以上に「絵に描いた餅」となった感のある第六次計画。いよいよエネ基不要論も拡大し始めた。


「今回のエネ基にはコメントする気も起きない」(有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授)

経済産業省OBからの厳しいコメントが物語るように、今夏閣議決定予定の第六次エネルギー基本計画は、「絵に描いた餅」と言われてきた第四次、第五次計画より、さらに実現不可能な代物となった。議論の途中で2030年度温暖化ガス46%削減という高難度の政策課題が降りかかったことで、シナリオづくりは難航。そこに加えて、再生可能エネルギーや原子力の書きぶりを巡る攻防も終盤までもつれ、今次エネ基議論の舞台裏ではさまざまな思惑が交錯した。

本来、第六次基本計画は、昨年11月に開催が予定されていた温暖化防止国際会議・COP26をターゲットに、温暖化ガス削減の国別目標(NDC)と同時並行で検討が進むはずだった。しかしコロナ禍の影響を受け、COPは1年延期に。エネ基とNDCの検討スケジュールもつられて後ろ倒しになった。

基本政策分科会であいさつする梶山弘志経産相


NDCの先出しで混迷 新増設・リプレース巡り攻防

そうした中、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は昨秋からエネ基の見直し作業に着手。今回の焦点としては再エネ主力化の前進もあるが、何といっても前回見送られた原子力の新増設・リプレースを盛り込めるかどうかに注目が集まった。その点、COPの延期で議論の時間ができたことで、本来は原子力政策正常化のチャンスとなるはずだった。さらに、昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言という追い風も吹いた。

しかし米国バイデン政権の誕生で潮目が変わる。トランプ政権時代に失った気候変動問題のリーダーシップを取り戻したいバイデン政権が、自国のNDC引き上げにとどまらず、主要国にも大幅引き上げを迫った。日本政府はその圧力に屈し、4月の米国主催の気候サミットに合わせ、30年度46%減という過大な目標を発表せざるを得なかった。

30年のエネルギーミックスの検討状況を受けて、NDCの検討も進めるのが本来の手順のはず。しかし、米国との関係悪化を避けたい政権の思惑が優先され、裏付けのない新目標が先に示された。同時に第六次計画、ことミックスの数値目標については無理なシナリオづくりが避けられなくなった。

エネルギー基本計画の歩み

【特集2】温室効果ガスの約4割を排出 CO2削減で果たす大きな役割


山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長・研究所長

カーボンニュートラル宣言を受けて、電力業界は電源の脱炭素化と電化推進などに力を入れていく。脱炭素化された電気は、さまざまな分野で利用されることで大量のCO2排出削減が期待できる。

2020年10月に菅義偉首相が表明した50年カーボンニュートラル実現宣言を受けて、電力業界をはじめ各業界や主要企業から実現に向けた取り組みの表明が相次いでいる。

電気事業は発電に伴って年間4億tを超えるCO2を排出しており、わが国の温室効果ガス排出の4割近くを占めている。わが国のカーボンニュートラル実現において、電力部門のCO2排出削減は極めて大きな役割を果たす。

電気は利用段階でCO2排出なくクリーンかつ効率的に利用できることに加えて、さまざまな資源から生産できるので低炭素化・脱炭素化が相対的に容易である。カーボンニュートラルなバイオマス発電とCCS(CO2回収・貯留)を組み合わせれば(これをBECCSと呼ぶ)、大気からCO2を回収して地中に隔離するとともに電気を生産できるのでCO2排出はマイナスになる。このような脱炭素化された電気を産業や運輸などの分野で利用することで、省エネ効果も含めて全体として大きなCO2削減が期待できる。

北海道・苫小牧市のCCS実証試験 (経済産業省ウェブサイトより)

21年5月に電気事業連合会から公表された「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて」においても、供給側の「電源の脱炭素化」とともに需要側の最大限の「電化の推進」に取り組むとされている。具体的には供給側の脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーの主力電源化、安全を大前提とした原子力の最大限の活用、火力の脱炭素化に向けた取り組みが表明されている。

また、需要側の取り組みとして、最大限の電化に加えて、水電解による水素などの脱炭素エネルギー供給によって社会全体での脱炭素化に貢献するとされている。電解水素供給に加えて、政府が推進するカーボンリサイクル(回収CO2の利用)においてもCO2の電解還元技術の利用が有望であり、脱炭素化における電気の利用が大いに期待されている。


再エネはバランスを取って 原子力の新増設は欠かせず

電気事業連合会の取り組み方向には全く異論はないが、多少コメントしておきたい。

まず再エネ。再エネ主力電源化は国民の支持が強く、むしろ再エネ一辺倒にならないようバランスを取る必要がある。重要なのは長期的な原子力の維持とゼロエミッション火力である。ゼロエミ火力については、現状では研究開発段階である水素・アンモニア発電に加えて、既に技術的には確立しているCCSの活用が重要と考えている。

IGCC(石炭ガス化複合サイクル発電)などゼロエミ火力に至るトランジション(移行期)を支える技術も含め、コスト評価を通して技術経済的に合理的なゼロエミ火力を追求する必要がある。

【特集1】太陽光に地域住民の根深い不信 主力化担う風力で二の舞い防げるか


全国で開発問題が多発する太陽光。今後の主力と目される風力でも同様の事態に陥ることが懸念される。「再エネ最優先」の是非を考えるため、各地域が直面する課題と背景を追った。


<太陽光>現行制度に抜け道多数 ステークホルダーの懸念絶えず


「無法状態を放置したまま再エネ拡大のみを進めて良いのか」―。山梨県北杜市での太陽光乱開発はたびたびメディアに取り上げられ、本誌も2年前に報じた。しかし住民が現状をメディアや経済産業省などに訴えても改善しないままだという。「北杜市太陽光発電を考える市民ネットワーク」のメンバーに現場を案内してもらった。

同市内のFIT(固定価格買い取り制度)認定数は2907件、うち未稼働は844件に達する(2020年末時点)。FIT導入初期、工事や保守に関する規制が緩かった50 kW未満の設備が大部分で、意図的に発電設備の出力を分割する「分割案件」が目立つ。1件ごとの面積が狭いため、林地開発許可を取らずに木を伐採し設置するケースがほとんどだ。

ずさんな工事のやり口は実に多彩。住宅地との境界間際まで設置された足の高いパネル、ドラム缶を足場に使ったもの、パワーコンディショナーの定格容量を超えるようにパネルを設置する「過積載」で、崖にも足場を組んだり、保守点検に支障をきたすほど隙間なくパネルを敷き詰めたり―。

中でも衝撃的だったのが、太陽光設置に伴い住民が退去してしまったエリアだ。斜面の上方からパネルが並び、低い土地には4~5軒の家が並ぶ。もともとは林地で、伐採後に約20件もの分割案件のパネルが設置された。

事業者は木をほとんど切り払い、雨水処理対策も怠った。そのうち大雨が降ると住宅前の道路が水浸しになるように。実はこのエリアは下水道が整備されておらず、浄化槽を活用していた。このため降雨後に浄化槽から家の中に汚水が逆流するという被害に住民が苦しめられた。パネル設置前はこうした被害はなく、森林伐採に伴い土壌の保水力が低下したためと見られる。住民は市や事業者に訴えたが対応されず、結局全員退去してしまった。

パネル設置で住宅前の道路が浸水するように(北杜市)

本誌で前回取り上げた訴訟トラブルも継続中だった。斜面の上に立つ家を囲むように、不適切な施工でパネルが次々増設された。かつての景観は失われ、パネルから吹き上がる熱風で住居の温度が上がってしまうという。住民ら原告は人格権や財産権を侵害されたとし、パネル撤去と損害賠償を求め16年に事業者を民事で訴えた。

しかし甲府地裁は20年12月、原告の請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。原告は今年1月1日付で東京高裁に控訴している。

形骸化したFIT見直し 認定取り消しも1回のみ

このように法整備が進まないうちに、場所を選ばない悪質な小規模太陽光の設置が進んだ。電気事業法やFIT法違反の設備が多いものの、「制度が穴だらけで事前・事後のチェックが機能していない。経産省と太陽光発電協会、大手電力会社の連携がなく、違法設備を作ったもの勝ちになっている」(市民ネットワーク)。

これでは経産省がこれまで行ってきた分割案件や過積載、長期未稼働案件などへの対応強化といった、複数回のFIT制度改正の意味がない。象徴的なのが、17年施行の改正で目玉とされた認定取り消しだ。19年に初めて沖縄県内の8件の認定が取り消されたが、なんとそれ以降の取り消しはゼロ。「悪質事業者がFIT卒業後も再投資し発電を継続するとは思えない。将来、再エネシフトが逆戻りする気配を感じる」(同)

山梨県も問題を重く見て、10 kW以上の野立て太陽光に対する規制条例策定を進め、6月の議会に提出予定だ。長崎幸太郎知事も同市の視察などを通じ規制の必要性を痛感したという。他方、環境省は今後自治体に、改正地球温暖化対策推進法に基づく再エネ促進区域の設定を求めるが、「条例の目的は地域と共生した太陽光発電事業を促すこと。国の促進区域の考え方と同じだ」(県環境・エネルギー政策課)との見解を示す。

条例では、森林伐採を伴う区域や、土砂災害の恐れが大きい区域などへの設置を原則禁止。事業者は環境や景観への影響の評価や、住民への説明を実施しなければならない。維持管理については稼働中の設備も対象とし、計画作成やそれに基づく保守点検を義務化する。県は違反事業者名を公表でき、その際には国に通報。国の判断によってはFITの認定取り消しの可能性があると説明する。

しかし市民ネットワークは「国への報告はこれまでさんざんやってきた」と実効性を疑問視。さらに来年1月から施行されるため、それまでに工事の駆け込みがあるのではないかとみている。

規制緩和の動きにも警鐘を鳴らす。「太陽光は広い土地を要し、悪質事業者野放しの現状もあるのに、これを狭い日本でさらに進めるのか。FITの負の側面にメスを入れないままでの再エネ拡大議論は受け入れられない」

再エネ拡大の現実を見つめ続けてきた住民の言葉は重い。