【特集1】業界人が料金対策を辛口評価 根拠なき政策の矛盾が露呈 真の狙いは支持率回復か


電気・ガス料金の負担軽減策を巡っては、実際の経済効果を疑問視する声が多い。狙うは支持率回復という岸田政権の本音も垣間見える。業界関係者の本音を聞いた。

〈出席者〉 A大手電力関係者  B大手都市ガス関係者  C新電力関係者

物価対策というより統一地方選への票集め対策だとの指摘も

―岸田政権が打ち出した総合経済対策について、どう評価している?

A 経済対策としては、短期的には多少効くのかもしれないが大きくは期待できないだろう。とはいえ、物価高騰で痛む家計の負担軽減につながるという意味では評価できる。エネルギー価格高騰の要因は、燃料市況の高止まりもあるが円安がそれを増幅していることも大きく、根本的には円安を是正しない限りどうにもならない。円買い介入など一時しのぎで効果は限定的。金融政策を大きく転換できるかどうかが問われる。円安対策と言いながら、円安を活用したインバウンドの活性化といったわけの分からないことを言っていて国の政策が定まっているとは思えない。

 円安対策と合わせて、エネルギーの構造的な問題を解決する必要もある。燃料市況そのものをコントロールできない以上、LNGへの依存を低減させるしかない。今回の経済対策の中では、原発の再稼働について明示的には触れられていないが、西村康稔経産相が原子力発電所1基が稼働すればLNG100万tの消費削減に寄与すると言及したように、政府は再稼働を進めていかなければならないという方針を明確にしている。再稼働に向けた環境整備に向け国がどうかじ取りをするのか見届けたい。

B 経済対策は、電気・ガス料金の値下げという形で対策がまとまったが、実は4月に「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を創設し地方自治体を通じて6000億円をかけた対策が講じられている。だから、今回の狙いは本当の意味での値下げ対策ではなく、統一地方選挙に向けた票集めなのだろう。とはいえ、都市ガス事業者としては、当初は補助の対象外だったにもかかわらずよくぞ加えてくれたとも思う。家計に与える影響はほとんどないと思うが、産業用はガス代が大きく上昇し原材料費の高騰に苦しめられているので、1㎥当たり30円負担が圧縮されることで需要家は助かるし、ガス事業者側も値上げによる需要家からのクレームをある程度抑えられるのではないかと期待している。

 エネルギーを巡る混乱の一番大きな要因は自由化にあると考えている。規制時代は長期契約を多く抱え一部の学識者から批判を受けたが、今となってはより多く長期契約で押さえろと真逆のことを言っている。電力業界が、自由化で需要が不安定になって電力が電源投資できなくなったのと同様に、いつ離脱するか分からない需要のために長期契約はできない。そうは言っても自由化の針を戻すわけにはいかないので、どうするべきなのか答えがなくて悩ましい。先般、ガス事業法の改正案が成立し、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)にLNG調達の機能を持たせることや、需給ひっ迫時にガス使用制限令を発令できるようになった。今より状況が改善することを期待していている。

C 経済対策としては、消費者に直接還元するよりも、電力市場安定化を目指す方がよいと考える。例えば、化石燃料の値上がり分に直接補助金を出して発電コストを安定させるとか。燃料費調整制度の基準価格の上限を撤廃し、その上昇分を一時的に補填するようなことに意味があるとはとても思えないし、これは選挙対策であってエネルギー政策ではないという意見には同感だ。

 今、複数の大手電力会社が低圧の経過措置規制料金の見直しを進めているが、燃調の上限を撤廃するだけなのか、約款料金を抜本的に値上げするのか見えていなかったにもかかわらず、4月に家庭用の電気代が2~3割上がることが既定路線であるかのように吹聴されていることは不思議な感じがした。東京電力エナジーパートナーの場合、燃調を廃止しただけで2割上昇すると言われているが、政府と大手電力会社が(燃調上限撤廃のみの実施で)「握った」ということなのかと勘繰りたくなる。

 それに、政府としてGX(グリーントランスフォーメーション)推進を強く打ち出しているのに、電気、ガス、ガソリンに補助金を出すことにも違和感を覚える。緊急事態なのでGXという錦の御旗はとりあえず脇に置き、経済対策最優先で行くというメッセージを明確に打ち出すべきではないか。消費者の化石燃料使用が抑制的になっているのだから、脱炭素に資する設備導入に補助金を付けるなど一気にGXに向けた展開を進める好機だったはずなんだけど。

総合経済対策では、円安を生かした“稼ぐ力”回復もうたうが……

【特集1】制度や市場の構造問題を置き去り!? 節穴だらけの電気ガス負担軽減策


エネルギー価格抑制策を柱に据えた、岸田政権肝いりの総合経済対策がまとまった。物価・景気対策を一体で行い国民の生活を守るというが、果たしてその効果は。

「もろもろの物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガスに集中的な激変緩和措置を講じることで、欧米のように10%ものインフレ状態にならないよう皆さんの生活を守る」―。

10月28日、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」が閣議決定されたことを受け、記者会見に臨んだ岸田文雄首相はこのように述べ、物価・景気対策を一体で行うことで国民の暮らし、雇用、事業を守るのみならず、未来に向けて経済を強くしていく決意を強調した。

ウクライナ情勢を背景とする燃料価格の高止まりと歴史的な円安が続く中、エネルギー・食料品などの価格高騰の影響で厳しい状況にある生活者や事業者への直接的な支援を行うことが、この対策の柱。財政支出39兆円、民間企業の支出も含めた事業規模を約72兆円とし、これによりGDP(国内総生産)を4.6%押し上げるという。

店頭価格で食品や日用品などの値上がりが相次ぐ

岸田首相が述べた通り、一連の対策の中で最も重点が置かれたのがエネルギー価格上昇の抑制であり、暖房などで需要が高まる2023年1月以降から9月ごろまで、燃料費の増大に伴う電気やガス代の上昇分を国が負担する。

具体的には、電気料金については、23年度初頭に家庭の支払い負担が現行よりも約2割増加することを念頭に、一般家庭向けの低圧契約には1kW時当たり7円(標準家庭で1カ月1820円程度)、企業向けの高圧契約は同3.5円を支援。都市ガスについては、家庭、企業ともに1㎥当たり30円を補助する。

さらに、1ℓ当たり35円を上限に販売価格を引き下げるガソリンの補助制度「燃料油価格激変緩和補助金」は1月以降も継続し、6月から段階的に補助額を縮小する。これらにより、平均的な一般家庭で23年度前半にかけて総額4万5000円の負担軽減につながる計算だ。

その一方で、「大企業はエネルギーコストの上昇分を製品に価格転嫁しやすい」として、電気では特別高圧契約、都市ガスでは年間契約量1000万㎥以上の大口需要家が補助の対象から外れた。それだけではない。同じ家庭用需要家であっても、LPガスや、LPガスを小規模導管で供給する簡易ガス(コミュニティーガス)の需要家への直接補助が見送られることになり、LPガスについては「配送合理化」など事業者に対する支援に振り替えられた。

原料となるプロパンが、都市ガス原料のLNGと比べて価格が安定しており、今後も大きな上昇を見込んでいないというのがその理屈のようだが、実のところ、約1万7000社あるLPガス事業者を通じた直接的な軽減対策は難しいという事情もある。

だが、もともとLPガスは都市ガスよりも構造的に高価格であり、物価高による家計負担増に苦しむのは双方の需要家とも同じだ。そういう意味で、使用するエネルギーによって不公平感が生じる対策となってしまった感は否めない。ちなみに、LPガスを原料とする都市ガス事業者の需要家は補助対象のため、供給形態が都市ガスか、そうでないかで明暗が分かれてしまった格好だ。


大手電力は記録的な赤字 生命線となった料金改定

実は、政府が当初から支援を決めていたのは電気料金のみだった。その背景にあったのは、2016年の小売り全面自由化以降も、「需要家保護」を名目に堅持されてきた大手電力会社の経過措置規制料金の水準を引き上げざるを得ないという差し迫った事情だ。

大手電力10社の22年度上期中間連結決算は、四国を除く9社が大幅な最終赤字を計上し、通期でも、「未定」としている東京と九州を除く8社が数百億~数千億円の記録的な赤字となる見通し。その主な要因となっているのが、発電原価を十分に回収することができない現行の料金制度の構造的な問題だ。

既に大手電力会社は、規制に縛られていない高圧・特別高圧契約の標準料金メニューの値上げに加え、家庭向けの低圧契約についても、自由料金メニューについては燃料費調整条項に基づく調整単価の上限廃止に踏み切るなど逆ザヤ縮小に手を打ってきた。

一方、事業者の裁量では如何ともしがたいのが規制料金メニューだ。規制料金には燃調調整単価の上限が設定されたままで、今年1月から10月までに10社全社がその上限に到達した。12月分料金でみると、一家庭当たり月額1400~3600円程度の負担が軽減されていることになるが、当然これは事業者側の持ち出しだ。

規制料金の値上げには、経済産業省の認可を受けなければならず、厳しい査定を敬遠しこれまで慎重姿勢を貫いてきた大手電力各社も、健全な事業運営体制を確保できない状況にまで追い込まれてしまっては、背に腹は代えられない。

本稿執筆(11月21日)時点ではまだ申請した事業者はないものの、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄の6社が料金改定の意向を表明しており、4月実施を視野に11月中に申請する公算が高い。燃料費の上昇分プラスアルファの上げ幅を約2割と想定し、これを対策によって補てんしようというのが本来の対策の目的だったわけだ。

11月18日の社長会見で値上げ改定を説明した北陸電力


【特集1】エネルギー四者四様の裏事情 官邸主導で現場は右往左往


政府が石油に続き新たに始めるエネルギー高騰対策の中身は、業界によってまちまちとなった。それぞれ関係者は対策決定までの経緯や効果、今後の対応についてどう受け止めているのか。

岸田文雄首相が「前例のない思い切った策」を講じるとした電気料金に加え、都市ガス料金、そしてまもなく開始から1年がたつ石油高騰対策の継続も決まった。一方、LPガスに対して講じるのはあくまで「事業合理化支援」であり、電気などのような直接的な補助ではない。内容も対応も額もばらばらな政策は、真に国民の生活を助けるような効果を示せるのか。業界ごとの受け止めを紹介する。


電力は競争への影響を懸念 特高に補助なしで混乱も

契約内容によって補助が異なり不公平感も

電気料金への補助額は、低圧契約の家庭向けが1kW時当たり7円、高圧契約の企業向けは同3.5円で、9月まで維持する方針だ。しかし不思議なことに、特別高圧契約に関しては何も決めていない。特高は契約電力2000kW以上の顧客を指し、中規模以上の百貨店や商業ビル、大学病院などが含まれる。なぜ政府は特高の顧客への補助に言及しないのか。業界内では「特高契約する顧客は大企業が多いため、製品に価格転嫁できるとの理由付けで補助金は不要と決めたのだろう」とのうわさもある。

確かにメーカーなら価格転嫁できるかもしれないが、病院や官公庁は転嫁できず、百貨店や商業ビルの店子も同様だ。これらの業種からは政治献金が期待できず、多少の反発を招いても問題ないとでも考えているのだろうか。

混乱が生じることも予想される。同じ病院でも契約電力が2000kWに満たなければ補助が出る。A病院に補助が出ても、近くの少し規模の大きいB病院は額面通りの料金を支払うケースが生じることになる。特高契約の顧客からは間違いなく反発を食らうだろう。

高圧契約で3.5円に決めた補助額も、自由競争の観点で問題になるかもしれない。中部電力と中国電力は、特高・高圧の標準メニューを値上げすると10月末に発表しており、高圧の場合、中部電の値上げ額は約3.3円で、中国電は約4円強。政府が示した補助額を当てはめると、中部電の顧客は実質的に値上げ額がゼロになるが、中国電の顧客は0.7~1円ほどの値上げになる。両社の新料金のモデルケースで比較すると、補助金が出ることによって両社の価格差は縮まってしまう。公正な競争という観点で妥当な判断と言えるのだろうか。

電力会社の対応を考えると、補助金を差し引いた額を顧客に請求することになる。その翌月に政府から電力各社に補助金が振り込まれる形だが、その間はキャッシュがきつくなるため、各社の経理部門からは不満が大きいという。前払いを求める意見も聞こえてくるが、さすがに顧客の電気使用料を前もって正確に把握するのは不可能だ。ただ、後払い方式だと会計処理が複雑で面倒になる点も問題となる。

業界関係者からは業務量が増えることへの懸念も聞こえてくる。会計処理に加え、政府が「電気料金に補助金が出ていることを検針票に明示しろ」と求めているのだ。「料金単価から7円が割り引かれている」と一文記載するだけならよい。問題は「金額を示せ」と政府が要求した時で、電力会社は顧客ごとに計算して検針票に印字する必要が出てくる。手間がかかりすぎて業務も煩雑になるだろう。記載内容の追加に伴うシステム改修が必要となる場合も懸案事項だ。「改修費を政府が支払ってくれるならいいが、電力会社の費用になるのではないか」と不安がる業界関係者は少なくない。

電気は国民生活と経済活動の基盤であるだけに、政府が補助金を出して価格抑制に乗り出すこと自体は歓迎すべき動きだ。ただ、今回の決め方を見る限り現場に対する配慮がないと指摘するしかない。

【北海道電力 藤井社長】再エネポテンシャルを 最大限に活用し 地域活性化に貢献する


過去に類を見ない燃料価格高騰に見舞われる中、火力発電への依存度低減を目指し、泊発電所の再稼働と再エネ電源開発に注力するとともに、将来の水素利用に向けた取り組みを加速させる。

【インタビュー:藤井裕/北海道電力社長】

聞き手:志賀正利/本社社長】

ふじい・ゆたか 1981年宇都宮大学工学部電気工学科卒、北海道電力入社。2015年取締役常務執行役員流通本部長、16年取締役副社長流通本部長などを経て19年6月から現職。

志賀 燃料価格の高騰で、電力各社において経営を取り巻く環境がこれまでになく厳しい状況です。今後の収支見通しはいかがでしょうか。

藤井 2022年度通期の連結業績見通しについて、710億円程度と史上3番目の経常赤字額になる見込みです。背景には過去に経験したことのない急激な燃料価格や電力市場価格の上昇による調達費用の増加があります。これまでも最大限の効率化を図ってきましたが、今後さらに、燃料調達の創意工夫や経済性のある火力発電所の焚き増しなど燃料費や電力購入費用の抑制に最大限努め、収支改善を図っていきます。

志賀 低圧規制料金の値上げについては、どのように検討していますか。

藤井 規制料金の値上げを含め、経営の健全化に向けたあらゆる対策について、いかなる選択肢も排除せずに幅広に検討していますが、現時点で規制料金の値上げについて決めたものはありません。

高圧契約の受付再開へ 標準約款を見直し

志賀 高圧・特別高圧については、契約の受付を停止しています。再開の見通しは。

藤井 燃料価格が高水準で推移する中、5月下旬より、高圧以上の新規契約の受付を停止させていただきました。依然として、燃料の調達環境や電力市場価格の先行きを見通すことは難しいですが、本来安定して電力をお届けするべき電気事業者として、このまま受付停止を継続している状況は本意ではありません。そのため、標準約款を見直した上で、12月末から来年1月上旬をめどにお申込みの受付を再開し、4月からの電気のお届け開始を目指して準備を進めています。

志賀 低圧自由料金プランの燃料費調整額については、12月分から上限を廃止しました。

藤井 8月分電気料金から、燃料費調整制度における平均燃料価格が上限に到達しました。燃料価格の高騰が長期化した場合、料金に反映されない上限超過分が増大するため、スピード感をもって燃料情勢の変化に対応していかなければ健全な経営が困難となるとの観点から、低圧自由料金プランについて12月分より上限を廃止させていただきました。お客さまにご負担をおかけすることになりますが、影響額試算のご要望や負担軽減に関するご相談など個別に丁寧に対応させていただいています。

志賀 現在の状況を踏まえ、低圧小売り分野のお客さまにどのようなサービスを展開していきますか。

藤井 お客さまのご負担の軽減を図る観点で、高効率で省エネ性に優れるヒートポンプ機器を用いた「スマート電化」をおすすめしています。既に電気温水器や蓄熱暖房器などの従来型のオール電化機器をお使いのお客さまに、ヒートポンプ機器へお取り替えいただく「エコ替え」を提案しています。また、11月からは、このヒートポンプ機器をより多くのお客さまにお手軽にお使いいただけるよう、お求めやすい定額料金で機器をリースするサービスをご用意しました。多くの皆さまにヒートポンプ機器の省エネ性を実感していただけるよう取り組んでいきます。

【記者通信/12月1日】5社の電気料金値上げ申請出揃い 横並びでばらつきどう判断?


北陸電力が11月30日、規制料金の改定を経済産業省に申請した。平均で約45.84%の値上げとなり、11月下旬までに料金改定を申請した5社の中で値上げ率としては最大となる。東日本大震災後の原発停止に伴う燃料費の負担増以来となる今回の料金改定。来年4月の改定実施に向けた申請〝第一弾〟が出揃ったことになるが、各社の申請内容にばらつきが見られる中、12月7日にも始まる電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合でどのように審査されるのか、注目が集まっている。

11月末までに値上げ申請した5社の内容が出揃った

北陸電の料金改定は2008年以来、値上げは1980年に実施して以来となる。同社では今年2月に燃料費調整額の調整上限に到達し、費用の持ち出し状態が続いていた。今年度の連結経常損益は1000億円の損失となる見通しで、過去最大の赤字を見込んでいる。

今回の申請に伴い、規制料金のモデル料金は、従量電灯B(月間使用電力量230kW時、30A)で42%増の9098円、従量電灯C(同710kW時、10kVA)で43%増の3万1094円、低圧電力(同480kW時、8kW)で39%増の2万3468円となる。

原価算定期間は2023~25年度の3年間。自社発電の電源構成は、08年に改定した現行原価から大きく変わり、石炭が64%(14%増)、LNGが初めて加わり8%、石油が4%(8%減)、そして原子力は3%(16%減)とした。原子力については、志賀原発2号機の具体的な再稼働時期が見通せない状況にあるものの、原価算定上で燃料費の抑制を図るため、稼働時期を26年1月として織り込んだ。これにより原価全体で年平均約120億円の抑制効果が生じ、規制料金の値上げ率を約2%抑えられる計算になる。

原価のうち、燃料費などの可変費は3020億円の増加となる。一方、震災以降366億円の経営効率化に取り組んでおり、さらなる施策として132億円の効率化も織り込んだ。結果、申請原価は5737億円と、現行から2904億円の大幅増となった。前提諸元のうち、事業報酬率は0.5%減の2.8%としている。また、同社は値上げ申請に伴い、11月以降の役員報酬を10%自主返納する方針も表明した。

なお、低圧や高圧以上の自由料金メニューに関しても検討中で、今後発表する。

原発利用率や値上げ水準にばらつき 燃料費や人件費の評価は

11月下旬までに値上げを申請した5社の内容を比べると、各社の事情の違いが見えてくる。まず、原子力利用率が今回の原価算定期間の中でどこまで織り込めるか。具体的な再稼働時期が見通せる東北電の女川2号(24年2月)や、中国電の島根2号(24年1月末)については利用率がある程度見込め、値上げ幅の抑制につながる。また、前回の改定時期が近いかかどうかも、今回の値上げ幅の大小に影響する要素だ。さらに、申請した新料金の水準が、現行の燃調上限を撤廃した水準を超えるケースと、それ以下に納まるケースの両者がある。

各社とも申請では人件費を削減しているが、今後の査定においては、震災後の改定時と同様、申請原価の燃料費や人件費について特に厳しく見られる可能性がある。ただ、料金制度に詳しい関係者は「物価高騰局面で政府が経済界に3%の賃上げを要請している中、原価で人件費を織り込む時点から電力会社が遠慮するような姿勢があるとするならば、それはどうなのか。結果認められなかったとしても、申請時点では正当な原価の水準をきちんと盛り込むべき地合いになっている」と強調する。

【記者通信/11月4日】「EV元年」に相次ぎ参入 蓄電池メーカーが充電関連事業を開始


国内自動車メーカーのEV市場への参入が相次いだ2022年は「EV元年」と言われている。国際的なEVシフトの波を捉まえようとの対応だが、日本国内でEV普及が進まない理由の一つに、充電インフラの整備の遅れがある。この解決に向け、蓄電池メーカーがEV充電サービスに乗り出す動きが出始めた。

パリ協定策定以降、EVシフトの国際的な機運は高まる一方だ。欧米や中国などでは車の電動化に関する規制が進み、10月下旬には欧州連合(EU)が35年に内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意している。

日本政府も、35年までに乗用車の新車販売で電動車100%実現といった目標を掲げる。しかし、日本での20年のEV新車販売台数は約1万5000台と、乗用車全体の約0.6%にとどまり、欧米や中国からは水をあけられている。

自社製品を活用したEV充電事業について発表するパワーエックスの伊藤社長

蓄電池ベンチャーが手掛ける充電事業 国内7000カ所目標

この状況改善のカギを握るのが、EV用の公共充電設備の拡充だ。

蓄電池製造・販売や、蓄電池を搭載した〝電気運搬船〟事業を手掛けるスタートアップのパワーエックスは、新たに再生可能エネルギー由来のEV充電ネットワーク事業を始める。

バッテリー容量が72kW時のEVを満充電するには、普通充電(出力3kW)では24時間、急速充電(50kw)では1.4時間程度かかるのに対し、超急速充電(150kW)なら30分程度で済む。その点、出力100kW以上の超急速充電所は欧州では約8700、米国では約1万3500カ所あるのに対し、日本はわずか15。日本のEVユーザーの利便性はガソリン車に比べてかなり劣っていると言える。特に都市部は、集合住宅などで長時間充電できる環境が整っていないケースが多く、公共の充電施設の普及が求められる。

こうした実態を踏まえ、同社は「チャージステーション」事業を23年から開始する。大型蓄電池(320kW時)搭載で最大出力240kWの同社製EV充電器「Hypercharger」を用いた超急速充電所を、まずは都心中心に10カ所から手掛け、30年までに全国で7000カ所を目標とする。ユーザーにとっての分かりやすさや利便性にこだわり、専用スマホアプリで予約から充電、決済まで完結する仕組みで、時間制限なしのフル充電が可能だ。

また、同サービスでは「再エネ100%」もコンセプトの一つ。再エネ電気はオフサイトPPA(電力購入契約)などでの調達を想定しており、非化石証書などを活用した「実質再エネ100%電気」は極力避ける考えだ。

同社の伊藤正裕社長は、経済産業省が示すストレージパリティ(蓄電池導入の経済的メリットがある状態)が1kW時当たり6万円(業務・産業用)であるのに対し、Hyperchargerの販売価格帯はこれを下回ると強調。蓄電池を安くつくれるイノベ―ジョンにより、「チャージステーション事業での充電料金はガソリンよりお得な価格帯を想定している」と説明した。

パナも充電設備拡充を後押し 事業者とユーザーつなぐサービス提供

パナソニックも、EV用の充電インフラ拡充に向けたシェアリングサービスの導入を進める。

同社が新たに始める「everiwa Charger Share」は、同社製などの充電設備を設置する事業者とEVユーザーをつなぐサービス。11月29日から充電設備設置者の募集を始め、来春からサービスを開始する予定だ。

EV充電器のシェアリングサービスを発表するパナソニックの大瀧副社長(央)ら

ユーザー側はアプリを使い、充電ステーションを検索して予約。地点ごとの混雑状況を把握でき、待ち時間なしでの利用が期待できる。設置者側にはアプリを通じて利用料を支払う。こうした取り組みで充電ステーションの利便性を高めて普及させ、商業施設の集客や、自宅に充電施設を持たない住民へのEV導入促進といった効果を見込んでいる。

パナソニックの大瀧清副社長は「日本では電動車の普及率が低いが、化石燃料によるCO2排出を減らす政府目標のためにもEV充電のインフラを整備し、活用しやすくすることが重要」として、このサービスをEVの普及拡大につなげたいと話した。

また、同サービスでは決済システムをみずほ銀行が担当し、トラブル発生時の保険を損害保険ジャパンが提供する。パナソニックは両社らとともに、サービス提供を希望する企業・団体などを募集するコミュニティ「everiwa」を設立し、関係者が一丸となってカーボンニュートラル実現に取り組むことも強調した。

EV関連インフラの普及拡大に向けた機運が高まる一方で、電力需給ひっ迫が懸念される中、電化の促進に耐え得る電力システムの構築も同時に模索する必要がある。その際には系統の安定化や全体最適の視点を疎かにしないことが肝要だ。

【特集1】汎用製品から次世代技術まで 期待高まる蓄電池の最新事情


需要家用から系統接続用、EV用など暮らしや産業のさまざまな場面で活用される蓄電池。技術ごとに、その特性や用途、最新トピックスなどを解説する。

【技術1】大容量化進むNAS電池 海外でも存在感示す

硫黄(S)とナトリウム(Na)イオンの化学反応で充放電を繰り返すNAS電池は、日本ガイシが世界で初めて実用化したMW(1MW=1000kW)級電力貯蔵システムだ。大容量、高密度、長寿命で、応答性にも優れるのが特長だ。

日本での技術開発はサンシャイン計画やムーンライト計画の一環で進み、民間では日本ガイシと東京電力が共同で着手し、2002年に事業化した。初期の10 kW級から大容量化を図り、09年には34 MW級にまで拡大している。

用途も需要家のピークカットから、非常用電源、再生可能エネルギー併設、離島・地域グリッド、送配電系統用などと広がりをみせる。海外でも導入が進み、世界250カ所以上で出力約700MW、容量4900MW時の稼働実績がある(22年2月時点)。

国内では、九州電力が豊前蓄電池変電所に50 MW、300MW時と国内最大級のコンテナ型NAS電池を導入。16年から稼働し、再エネの最大限の受け入れと需給バランス改善を図る。また今夏には、東邦ガスが系統用蓄電池として津LNGステーション跡地への設置工事を開始。自社調整力や各電力市場での取引に使うため、25年度の運用開始を目指す。これは東海3県では初の取り組みだ。

ただ、需要家側のオンサイト用ではリプレース時にリチウムイオン電池(LIB)に置換するケースも出ている。また、11年に発生した大規模な火災事故を受け、日本ガイシが安全対策を強化した。

豊前蓄電池変電所の特大容量NAS電池

【技術2】用途幅広いLIB エネマネでも活躍

エネルギー密度が高く、コンパクト化が可能で、寿命も比較的長いLIB。パソコンなどの家電用から、家庭や産業用蓄電システム、EVなどと、その用途は幅広い。

国内メーカーのLIB生産からの撤退が相次ぐ中、長年生産を続ける数少ない存在であるパナソニックエレクトリックワークス社は目下、V2H(ビークルトゥホーム)の一環でLIBとEVとの連携に注力する。日中にEVを使う場合はLIBで太陽光を充電し、夜はLIBからEVに放電する形がトレンドとして注目され始めている。電気代もガソリン代も高騰する中、EVや蓄電池の費用対効果に期待が高まる。

同社は、「EVの乗り方によって蓄電の仕方が変わる。また、当社製品には天気を予測して賢く自家消費を管理する『AIソーラーチャージ機能』などもある。ほかのエネルギーシステムも含め、海外メーカーにはない強みであるエネマネ技術を活用した付加価値の提供に力を入れており、蓄電池はその中心に位置する」(蓄電池企画課)と説明する。

ただ、電解液が可燃性のため高温下などで発火するケースがある。同社の蓄電システムで事故は発生していないが、不安全な環境下でも事故が起きる前に止めるというコンセプトで二重、三重の安全対策を講じる。また蓄電池の共通課題であるコスト面については、半導体や部材価格の高騰、さらには為替の影響も大きく、足元は厳しい状況にあるという。

パナソニックはLIBとEVの連携に注力

【技術3】最古参技術の鉛蓄電池 コスト面が圧倒的強み

蓄電池の中で最も歴史が古い鉛蓄電池は1895年、二代目・島津源蔵が国内で初めて試作に成功した。以来、自動車や軍艦の無線用電池、ラジオ、炭鉱のトロッコ電車、近年では非常時のバックアップ電源など、時代のニーズに合わせ、さまざまな用途で使われてきた。意外かもしれないが、最近ではEVにも搭載されている。EVには走行用のリチウムイオン電池だけでなく、システム起動などの補機用バッテリーとして鉛蓄電池が必要なのだ。

鉛蓄電池の長所は、何といっても低コストとパワーパフォーマンス。原料の鉛が大量に採れるため、安価に生産することができ、起電力(電流を回路に流す駆動力)が大きい。鉛は再生が比較的容易で、鉛蓄電池ではほぼ100%がリサイクルされている。一方、エネルギー密度が低いため、小型化には向かない。また電解液に希硫酸を使用しているため、破損時に薬品やけどなどの危険性を伴う。

現在、大容量で充放電性能が高いバッテリーの需要が高まっている。車などのアイドリングストップや短距離移動で短時間に何度もエンジンをかけると、バッテリーへの負荷がかかるからだ。GSユアサの福田敦広報課長は、「当面は自動車搭載用のほか、災害など非常時の産業向けバックアップ電源としての需要がメインとなる」と展望する。

島津源蔵が試作に成功してから127年。鉛蓄電池は社会の要望に応え続ける。

北海道寿都町の風力併設の鉛蓄電池

【特集1】国内随一のLIB専業メーカー 優れた安全性など総合力で勝負


インタビュー:小川哲司 エリーパワー社長

国を挙げて蓄電池ビジネスに注力する中国・韓国勢に押され、日本メーカーは劣勢気味だ。国産リチウムイオン電池(LIB)の可能性を追求するエリーパワーの小川社長に現状と展望を聞いた。


―事業の特徴を教えてください。

小川 かつて電力貯蔵用大型LIBの量産化を目指すメーカーが不在の中、原発の夜間電力活用のために国産蓄電池メーカーの必要性を鑑み、2006年に創業しました。筆頭株主の大和ハウスグループの新築住宅向け製品から始まり、他のハウスメーカーにも導入いただけるようになり、今は既築住宅向け、オフィス用、産業用製品も揃えています。

 蓄電池の開発・量産時に最もこだわるのは安全性で、これはハウスメーカーも重視する要素です。業界全体では発火事故やリコールが増加する中、当社はこれまで8万4000台以上を出荷していますが電池起因の重大事故は全く起こしていません。世界的な第三者認証機関であるドイツのテュフラインランドが独自に策定した厳格な安全性認証を大型LIBでは世界で唯一取得した電池セルで、世界一安全な製品だと自負しています。高温時の寿命劣化や低温時の放電ロスの少なさも特徴で、屋外設置でも問題ありません。蓄電池は性能が重要ですが、消費者が現状これらを知る指標が無いため、価格のみで製品を選ぶ傾向にあります。消費者が安心して最適な製品を選択できるような指標・規格作りが必要だと考えます。

―自社製品の価格競争力をどう評価していますか。

小川 蓄電システムは購入から廃棄に至るまでのライフサイクルコストで検討することが重要です。導入時価格が安く一見魅力的でも、長期間使用すると利用可能な蓄電容量が限定される製品があります。一方、当社製品は15年使用しても70%以上の容量を維持できる長寿命を実現しています。蓄電池普及に向け今後も期待される補助金を考慮すれば十分設備コストが回収でき、電力価格高騰局面ではさらなる削減効果も期待できます。

―ビジネス拡大のポイントは。

小川 当社は10年に第一号製品を投入し、ハウスメーカーとともにマーケットを創ってきました。一方ここ数年、日本市場で急速に台頭する中国・韓国のメーカーは、各国政府による資金面や需要創出面での手厚い支援を受けて成長していると想定されます。わが国においても生産効率を上げ製造コストを圧縮するために蓄電池市場の創出は重要で、政府による支援が期待されるところです。


全固体の前に液系追求を 技術改良の余地大きく

小川 政府は30年ごろに次世代全固体LIBの本格実用化を目指す方針ですが、大型全固体LIBの製造は技術的ハードルが高く、当面液系LIBが主流になると考えられ、新たな材料の開発も進んでいます。当社も新バージョンの製品を投入する計画で、不燃性電解液も開発中です。従来の電解液を用いた電池は消防法上の危険物に分類されますが、不燃性になれば適用外となり、より幅広い用途での活用が期待できます。この不燃性電解液に高容量の電極材料を組み合わせ、エネルギー密度のさらなる向上も目指しています。

おがわ・てつじ 1964年上智大学経済学部卒。同年大和ハウス工業入社。常務取締役、専務取締役、代表取締役副社長などを経て、2016年エリーパワー代表取締役副社長。19年から現職。

【特集1】電力高騰で好機到来の蓄電池 国内メーカーの戦略と勝算は?


従来の停電・防災対策に加え、電気料金の高騰対策として需要家側で蓄電池活用のニーズが高まっている。価格競争力や費用対効果について、国内メーカーに聞くと「勝算あり!」の手応えが返ってきた。

脱炭素化の最重要技術・蓄電池市場で日本の存在感を高めるべく、経済産業省が今夏、「蓄電池産業戦略」を策定した。日本はもともと技術開発や実用化段階では世界をリードしていたものの、いつの間にか後塵を拝すように。特に中国・韓国勢が強力な政策支援を受けて躍進し、リチウムイオン電池(LIB)ではEV搭載用も定置用も、日本はたった5年ほどでシェアを大きく奪われた。同戦略ではこれまでの展開を反省しつつ、①液系LIBの製造基盤強化のための大規模投資、②グローバルプレゼンスの確保、③全固体など次世代電池市場の獲得―を掲げる。

同時に、昨年来の電力価格高騰局面を受け、国内の需要家の蓄電池に対する意識が変化し始めた。住宅向けに蓄電池付きで太陽光発電リースサービスを展開するLooopは、「太陽光パネルも蓄電池も自社で調達し、価格面での競争力が高まっている。エンドユーザーからもハウスメーカーからも、蓄電池込みのプランで電気代を限りなくゼロに近づけたいという要望が増えている」と実感を語る。


海外製セルを国内で組み立て ストレージパリティ達成も

国内蓄電池メーカーに話を聞くと、もともと再生可能エネルギー主力化に伴い見込まれていたニーズの拡大が、現在は電力高騰の追い風で一足早く到来した状況にあるという。2021年創業のパワーエックスは、商品第一弾となるバッテリー型EV用超急速充電器と、産業向けの定置用蓄電池の予約注文が好調で、10月末時点で1GW(1GW=1000MW=100万kW)を超えた。家庭用の前に、ある程度の需要が見込める大型の産業用やEV充電用から市場投入したのが奏功した。

海外製セルを使うパワーエックスのEV用充電器

同社の伊藤正裕社長は、電力市場のボラティリティ(変動性)の大きさを背景に、同社製品の価格競争力に勝因があるとして、「定置用の場合、ピークシフトのみで6年程度での投資回収が可能だ。太陽光の自家消費まで組み合わせれば、その費用対効果は一層高まる」と説明する。

経産省は、ストレージパリティ(蓄電池を導入し経済的メリットがある状態)の試算結果から30年度目標価格として業務・産業用は1kW時当たり6万円程度、家庭用は7万円程度と設定。パワーエックスの定置用蓄電池(3MW)はパワーコンディショナー込みでこの産業用の目安を切り、スペックも犠牲にはしていない。為替レートによるが、国内同業他社の3分の1程度の価格に納まる。伊藤氏は会社設立の目的自体が、この価格帯の実現にあったと強調する。

なお、6万円というラインの根拠は電力高騰が起きる前、平時での試算結果だ。つまり足元は、これより高い価格帯でも経済的メリットが生まれる状況にある。

同社はスペック面ではエネルギー密度、フル充放電可能なサイクル数、暴走温度などの観点から、コスト面では、価格が高騰するニッケルやマンガン、コバルトなどの原料を除外した結果、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を選択。海外製セルを大量購入し、それを自社で最終製品に組み立てる戦略だ。

「サイクル数を極端に高めるか、kW時6万円を切れば、蓄電池の需要は爆発的に生まれる。しかしコストが下がらなければニッチ産業のまま。国内に需要をつくることが最優先で、セルの内製にはこだわらない」(伊藤氏)  

同じセルを使っても組み立て方の工夫により、定置用にも、EV用に高出力で急速充電可能に仕上げることも可能で、これも独自の高度なノウハウだ。

電力市場のボラティリティ継続が予想される状況では、産業用蓄電池を市場価格の変動に合わせ充放電したり、調整力として売ったりすることで利益を得る、新たな「蓄電所」ビジネスモデルが広がる可能性も高まる。22年の電気事業法改正で、こうした蓄電池ビジネスに関わる環境整備も進み出した。「今後、蓄電池の費用対効果はアプリケーションで差がつくと見ており、蓄電池ユーザー向けにAIで充放電をコントロールするサービスの構想もある。そこまで見据えて製品スペックを決め、必要な人材もそろえた」(同)

【記者通信/11月1日】大手電力の規制料金 燃調上限なければ1400~3600円の値上げに


大手電力会社の低圧規制料金に設けられている燃料費調整額の上限値(基準燃料価格の1.5倍)によって、平均的な標準家庭(月使用量260kW時)の11月分料金で月額1400~3600円程度の負担が軽減されていることが、本誌の調べで分かった。今後の規制料金改定を通じて基準燃料価格が直近の実績値に見直されると、上限価格が引き上げられ、少なくとも現状軽減分の値上げが発生することになる。

大手電力の規制料金改定の表明が相次ぐ


政府の総合経済対策では、低圧料金で1kW時当たり7円(標準家庭で1820円程度)を補助することを決めたが、今年度決算で数百億~数千億円規模の大幅赤字という大手電力の予想を踏まえれば、値上げ幅はさらに拡大する可能性がある。 本誌が試算した大手電力各社の燃調上限による負担軽減額は次の通り。北海道1583円、東北2366円、東京1765円、中部1476円、北陸2046円、関西2056円、中国2904円、四国2251円、九州1479円、沖縄3640円。いずれも、低圧自由料金の燃調額(上限なし)から規制料金の燃調上限を差し引いた単価に、260kW時を掛けたもので、もし燃調上限がなければ、それだけの値上がりが発生することを意味する。逆に言えば、現状では電力会社の負担となっているわけだ。

大手電力6社が値上げの方向 料金の適正化が急務

これまでに、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄の電力6社が値上げの方向を表明。大幅赤字状態の他電力も追随する公算が大きい。「来年4月以降に予想される規制料金改定では、燃料費上昇分プラスアルファの値上げとなる可能性がある。国の補助や経産省の査定で実質的な上げ幅が抑えられるとしても、需要家にとってそれなりの負担増は避けられないだろう。しかし事業者側にとっては、これ以上の赤字が続けば、電気事業の運営そのものが脅かされることになる。省エネ・節電なども絡めて需要家には何とか理解をいただき、料金の適正化を図る必要がある」(市場関係者)

小売り全面自由化による規制緩和の流れを受け、今や電力・ガス事業の規制料金は大手電力10社と東邦ガスなど都市ガス数社に残るのみとなっている。電力以外の石油、LPガス、都市ガスなどエネルギー各社は、燃料・原料調達費の上昇にもかかわらず、軒並みの好業績だ。規制時代の遺物といえる燃調上限規制を今後どうするのか。健全な事業運営体制を確保していく上でも、政府部内の早急な検討が望まれる。

【特集1】最悪シナリオは回避できるか 「サハリン2」巡る日露の攻防


日本のアキレス腱「サハリン2」を巡り、ロシアが出資企業に揺さぶりをかけてきた。新たな枠組みの下では長期契約の見直しはもとより、供給途絶の可能性も否定できない。

ロシアのプーチン大統領が6月30日、サハリン2(S2)の運営主体を「サハリンエナジー」社から新たに設立するロシア企業に移管するとの大統領令に署名し、日本の関係者の間に衝撃が走った。G7(主要7カ国)が共同歩調でロシアへの経済制裁を強める中、ついにロシアが日本の弱点を狙い撃ちした格好だ。

6月末の大統領令を受け、S2の権益を引き継ぐ新事業体「サハリンスカヤ・エネルギヤ」が8月5日付で発足した。ロシアは出資企業に対し、従来比率で新会社に出資するかを9月4日までに通知するよう求めた。

日本はS2から年間約600万tのLNGを長期契約で比較的安価に調達してきた。以前のサハリンエナジー社にはもともと、ガスプロムが約50%、英シェルが約27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資していたが、ロシアの軍事侵攻開始直後の2月下旬にシェルが撤退を表明。一方、日本政府はこの間、S2の権益維持の方針を貫いている。従来の契約条件が維持されるとの見通しが高まる中、日本政府の意向を受け、三菱商事と三井物産は新会社に出資する方針だ(8月22日時点)。

「サハリン2」の行く末に関係者の注目が集まる

ただ、一連のロシア側の対応を巡っては不明瞭な部分が多い。ロシアでは、石油ガス上流開発に関して旧ソ連解体後に制定した地下資源法と、外資企業が参入しやすい事業環境整備を目的としたPSA(生産物分与契約)法があるが、「そもそも当初に事業出資者とロシア政府間で合意された投資条件がロシア政府の思惑で容易に覆されないためにPSA法が整えられた経緯がある。通常は大統領令よりもPSA法が優先するはずだが、現状は不透明なところもある」(日本エネルギー経済研究所の栗田抄苗主任研究員)

従来の大統領令は国内法改正や国家プログラム策定など政府への指令で使う場合が多く、今回のような使われ方自体イレギュラーだ。専門家でもどう理解すべきか悩ましいと言う。

いずれにせよ、今回のロシアの一方的通達は国際的ビジネスルールを完全に無視したものだ。「ロシアの動向は全く楽観視できないが、情報を精査して粘り強く交渉を続ける必要がある」(同)


サハリン2を「人質」に 先行きはロシアのさじ加減一つ


ロシアの日本への対応は、6月下旬のG7サミット(首脳会議)を機に変化したとの見方がある。それ以前のロシアは日本に対し、欧米とはやや異なる対応を見せていた。

ロシアの本音としては戦費がかさむ中、安価なS2の長期契約を見直したいはずだ。既に2000年代後半からロシア国内では「資源ナショナリズム」が高まっていた。石油・ガス収入が増えるにつれ、旧ソ連解体後に技術も資金もない中で外資にある程度有利な形で制定されたPSA法を見直すべきとの声が国内で出始め、プーチン大統領も同様のスタンスだ。そんな背景がありながらも、ロシアはすぐにS2の長契に手を付けようとはしなかった。

しかし、G7サミットで合意したロシア産石油の取引価格に上限を設ける新たな制裁の検討に関して、岸田文雄首相が参院選中に「今の価格の半分程度を上限とする」などと突っ込んで発言。さらに物価高はロシアのせいだと主張し、政府や日銀批判をかわそうとした。こうした動きに対しメドベージェフ前首相は7月上旬、「日本はロシアから石油もガスも買えなくなる。S2への参加もなくなる」と反応して見せた。

日本政府はG7の制裁にやむを得ず追従するという基本スタンスだったはずが、首相の発言はミスリーディングだと言える。「これで怒ったロシアが態度を変えたように見える。G7がロシア産石油への価格上限策を断行すれば、S2の長契見直しに動く可能性は十分ある。つまりS2を人質にしている」(エネルギーアナリスト)というわけだ。

また、日本側の新事業体への参加に関わる提出書類などの審査はロシア当局の判断に委ねることになる。「今回の大統領令によると、受領不可や不承認と判断された場合、4カ月以内にほかの企業に新事業主体の権益を売却し、PSA事業で生じた損害を差し引いた上でロシア国内の口座に留め置かれる」(栗田氏)。今後の展開はロシアのさじ加減一つで変わり得る。


憂慮される供給途絶の可能性 オペレーター不在のリスク大

そして最も警戒すべきは供給途絶の可能性だ。ロシアはG7の経済制裁に対し、さまざまな場面でフォースマジュール(不可抗力条項)を行使している。栗田氏は「S2からの供給途絶があるとすれば、ロシアがノルドストリーム1などの供給削減で持ち出した設備故障などの技術的理由、料金未払いなどの契約不履行、環境対策を理由にストップをかける展開があり得る」と見ている。

特に心配なのは、ロシアの思惑の外で実際にトラブルが生じることだ。日本企業が出資するLNGプロジェクトは基本的に、欧米メジャーがオペレーターとなり、日本勢は資金だけ拠出する格好だ。しかしS2ではシェルが抜け、新たなメジャーが今後参入する可能性はほぼゼロ。そんなケースは前例がなく、液化プロセスを含めオペレーターを務められるのは欧米メジャーだけだ。

オペレーター不在の新会社への出資は、今までの枠組みで出資してきたこととは意味合いが全く異なる。「LNGプラントで仮に制裁対象の部品が故障すればアウトだ。オペレーター不在で誰が交換するのか。ロシアが意図的に供給を絞るよりも憂慮すべき事態だ」(前述のエネルギーアナリスト)

実際、三井物産の安永竜夫会長は7月下旬、メディアの取材に対し、S2の権益維持について「受けられない条件なら断念する」と述べている。8月2日にはS2権益の大幅減損を行っており、資産価値が事実上なくってしまうのなら出資する意味がない。いくら政府に突き上げられようが、これが商社側の率直な本音なのだろう。

「供給途絶の場合にスポット玉で置き換えるのなら、今のS2からの調達コストの100万BTU(英熱量単位)10ドル程度から50ドル程度に跳ね上がる見込みだ。その負担は事業者か、あるいは需要家が電力・ガス料金として背負うことになる」(国際ビジネスコンサルタントの髙井裕之氏)。冬に向けたS2の供給途絶という最悪シナリオを回避することはできるのか。日本の正念場は続く。

【記者通信/8月4日】政府が節電ポイント概要公表 DR効果や公平性はなお不透明


経済産業省は8日3日、需給ひっ迫と物価高対策として節電ポイントを付与する事業の概要を明らかにした。小売り電気事業者などが今冬に実施する節電プログラム(DR・デマンドレスポンス)に参加を表明すると、「節電プログラム参加特典」として低圧契約者に2000円、高圧・特別高圧契約者に1法人あたり20万円を支援する。しかし、実際の節電量に応じて特典を与える制度についての詳細は検討中だとした。節電ポイントについて需要家の間にある効果や公平性に関する懸念を払しょくするには至っていない。

政府が実施を予定する節電ポイント事業は、二つの枠組みから成り立っている。①節電プログラム参加特典、②節電達成特典――だ。財源は新型コロナウイルス・物価対応の予備費から約1800億円を充てる。全国に存在する約9000万の契約口の半数の参加を想定しての予算額だという。

①は小売り電気事業者などが実施する今冬の節電プログラムに参加を表明した需要家に2000円、ないしは20万円のポイントを支援するものだ。8月4日~12月31日までにインターネットなどで参加を表明すると、8月4日~来年1月31日の期間にポイントを付与する。

②は、節電プログラムに沿って、実際に節電を行った家庭や企業に対して特典を与えるものだ。こちらは今冬の実施を予定しており、これまでDRのメニューを持っていなかった事業者にも取り組みを広げることを狙っている。

経産省は8月4日から、節電プログラムを実施する小売り電気事業者などからの公募を受け付ける。小売り事業者が具体的なDRメニューを確定していない場合でも申請は可能だ。経産省が10~11月頃にその詳細を確認し、条件を満たす事業者を順次採択する。その後、需要家にプログラムの内容の周知や試行実施を行う。厳しい需給状況が予想される12月~3月の4カ月間の節電を重視するためだ。

節電効果は不透明 一括受電事業者も対象に

政府が7月に節電ポイントを打ち出した際に噴出した疑問点は拭い切れていない。一体、どれほどの節電効果が見込まれるのか。また、各社のDRのベースラインもバラバラだ。「2000円」目的で節電プログラムに参加したとしても、実際に節電に参加する保証はどこにもない。

そもそも2000円支援は、 その場しのぎのバラ撒きとの批判が根強い。政府は当初、一世帯あたりが節電で獲得できるポイントは、金額換算でわずか月数十円程度としていた。すると「安すぎる」「効果がない」などと批判が殺到し、節電プログラムに“参加するだけ”で2000円を支援すると改めたのだ。

NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューションが行ったアンケート調査によると、今夏、節電に取り組む意欲があると回答した人は83.8%に達したが、節電で報酬がもらえればモチベーションが向上すると答えた人は35.9%だった。裏を返せば、6割強の人は報酬をもらったところで節電に取り組みたくなるわけではなく、まして月数十円程度のインセンティブとなれば絵に描いた餅だろう。

ただ、一括受電事業者も対象となることは評価できる。概要の公表前、マンションなどの一括受電事業者は電気事業法で定める小売り事業者ではないため、そこに住む世帯が対象外になるのではないかと懸念する声があった。節電ポイントのすそ野が広がったことになる。

国民への「お願い」の前に 問われる政治決断の覚悟

政府による節電要請は、東日本大震災後に原子力発電所の長期稼働停止を受けて行った2015年以来、7年ぶりのことだ。今冬には、数値目標をつけた節電要請が検討されている。物価高や電気代の高騰で重くのし掛かる家計や企業への負担を軽減しながら、需給ひっ迫にも対応する。一石二鳥を狙った取り組みだろうが、政府にはそれ以上にやるべきことがあるのではないか。

岸田文雄首相は7月27日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の初会合で、「足元の危機の克服が最優先」だとして、電力・ガスの安定供給に向けて「政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と意気込んだ。

ならば、国民に節電をお願いする前にやるべき決断があるだろう。新たな原発再稼働へ向けた原子力規制委員会による審査の効率化、地元の同意を得るための政治力の発揮──その政治決断こそが、足元の危機の克服に直結する。国民にお願いを“聞く力”を求める以上、政府にも最大限の努力を求めたい。

【特集2】ライフサイクルを完結せよ 廃止措置の現場「最前線」報告


多くの原子力発電所が廃止措置を迎える中、既に廃炉工事が進んでいる発電所がある。「ふげん」と美浜発電所1、2号機―。その作業状況を報告する。

2003年に運転を終了し、廃炉作業がすすむ「ふげん」

<ふげん>プルトニウム使用炉としての実績と成果 廃止措置のトップバッターとして技術継承も

新型転換炉(ATR)「ふげん」は2003年3月、運転を終了した。運転期間は約25年。この間、約219億kW時の発電を行い、MOX(混合酸化物)燃料772体を使用するなど、プルトニウム利用技術の実証で貴重な成果を残している。

ふげんは廃止措置においても、最も作業が進展している原子炉の一つである。08年に原子力安全・保安院(当時)が完了までのフルスコープの廃止措置計画を認可。作業を開始し、まず重水・ヘリウム系などの汚染の除去を17年度までに終えている(ちなみに重水は有用資源として、系統から抜き取り海外に輸出され利用されている)。

同時に原子炉周辺設備のうち、隔離冷却系・主蒸気系・空気再循環系設備などの解体・撤去を進めている。タービン設備では、復水器・湿分分離器などの解体と撤去を終えた。今後は原子炉本体の解体撤去を本格化し、33年度の終了を目標に作業に取り組んでいる。

原子炉本体の解体撤去を進めていく


どう効率的に進めるか 地元の協力得て技術開発

日本原子力研究開発機構(JAEA)には、前身の日本原子力研究所によるJPDR廃炉の経験・実績がある。とはいえ、発電実績のある実用規模の原子炉のトップバッターとして、試行錯誤を続けている面もある。廃止措置部の水井宏之部長は「作業を効率的に進めるのに大切なのは、プロジェクトマネジメント」と話す。

そのプロジェクトマネジメントで重要な要素となるのが、作業を安全、円滑に進めるための新技術だ。ふげんでは地元福井県の自治体、企業などと積極的に連携、研究開発を進めている。
運転時に燃料体を装荷していた圧力管などが配置される原子炉中心部は、高い放射線量を持つ。今、この圧力管などをロボットアームにより水中でレーザー切断する工法に挑んでいる。国内の原子炉では例がないこの工法は、JAEAの敷地内にある「スマートデコミッショニング技術実証拠点」で実証試験が行われている。

また除染では、金属などの粒をぶつけて放射能を含む汚れを削り取る工法を確立。これには地元企業の技術が大きな役割を果たしている。

制御棒駆動機構支持プラグの撤去作業

現場で続く試行錯誤 厚さ4mの壁を貫通

いかに作業を効率的に進めるか、現場でも試行錯誤が続いている。頭を痛めたことの一つが、スペースの確保だ。限られた空間の格納容器内で設備を解体していけば、どんどん作業に必要な場所が埋まっていく。解決策は、原子炉格納容器とタービン建屋との間に貫通孔を設け、解体物をタービン建屋に運ぶことだった。コンクリートと鉄の壁は厚さ約4m。大掛かりの作業だったが、貫通したことにより作業効率は飛躍的に向上した。

水井氏は、効率化について「不要なものはやめる。大きなものは小さくする」と説明する。例えば、除熱の必要がなくなった使用済み燃料貯蔵プールでは、熱交換器による冷却をせずに貯蔵・管理する方法を申請し認可されている。またクリアランス制度の適用でも一歩先行。年間約150t規模の対象物の測定・評価を実施している。

「ふげんで得た技術やノウハウは、ここで終わりにしない」と水井氏。高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置も視野に入れ、作業をより効率的にと、作業に関わる全員が知恵を絞っている。

【特集1】「規制」と「自由」の逆転現象 新電力が直面する料金戦略の難局


新電力は高圧での「ラストリゾート問題」に続き、低圧での自由料金と規制料金の「逆転現象」に直面。各社が料金戦略の練り直しやDRの取り組みを進める一方、政策の見直しを求める声が高まっている。

全エリアで大手電力会社の経過措置規制料金が残る電力の低圧部門では、自由料金の戦略練り直しが課題となっている。新電力は、料金規制の撤廃や、撤廃までしなくとも燃料費調整制度の上限値を見直さなければ、自由化の進展にブレーキがかかると懸念する。

小売り全面自由化当初から、新電力各社は規制料金を基準に、そこから安値を提示するように料金を設計。営業効率や顧客の分かりやすさを重視した結果、独自燃調などの文字通り「自由」なプランは少なく、大手電力各社の燃調上限をそのまま採用するケースが大勢だ。しかし価格高騰が終息する気配がない中、最近では燃調上限を撤廃する新電力が増えている。


3 月末に燃調上限撤廃を表明した楽天エナジー

燃調上限撤廃か維持か この局面で上限設定も

東急パワーサプライの場合、春頃までは電源の市場調達抑制といった努力で耐えようとしてきたが、同社が供給する東京エリアの平均燃料価格が上限に達したタイミングで、上限を撤廃する方向で検討を進めている。「これ以上の影響は看過できない」(同社電力企画室)との判断だ。同社はもともと安値を強く訴求するわけではなく、電気料金だけではないサービスとのバンドルでの「おトク感」をアピールしてきた。とはいえ、「上限撤廃後の新料金と、いずれはなくなる規制料金が逆転する状況はいびつだ。高圧での最終保障供給約款を巡る状況と似たような構図」(同)と訴える。

上限撤廃後は、「規制料金と比べて誰でもおトク」といった従前の説明はできなくなる。「お客さまに燃調制度を正確に理解してもらうことの難易度が高い点が、新規獲得のブレーキになると懸念する。誤認がないよう営業も守りになる」(同)と課題を挙げる。

逆に上限維持を選択した事業者も、規制料金と自由料金の「逆転現象」の解消、つまり規制料金の在り方の見直しを求めている。ソフトバンク系のSBパワーは、顧客にとっての分かりやすさ、規制料金からの移行のしやすさを追求しており、燃調上限の撤廃は熟考の構えだ。「燃調の上限があることは短期的には需要家保護につながるが、今は需要家が規制料金に逆戻りして競争が起きていない状況。それは将来の需要家の選択肢を狭めることになる」(同社事業戦略部)と指摘する。

日本全体で約半分に規制料金が残る現状を新電力から見ると、燃調上限を突破したエリアでは大手電力が本来の適正価格よりも安値で販売し顧客を獲得していることになり、一般的な商売であれば独占禁止法上の問題も出てこよう。同社は「競争環境のいびつさこそ課題。総括原価からの脱却という電力システム改革本来の目的と逆行する」として、政府に一段踏み込んだ検討を求めている。

一方で、この局面であえて上限を設定するケースもある。KDDIはこれまで、auでんきで燃調の上限を設定してこなかったが、大手電力の燃料価格が上限を突破したエリアで上限を設定し始めた。「auでんきの料金は、地域電力会社の従量電灯の料金と同等で提供してきた。その趣旨に則り、契約約款も含めて適切な改定を行った」(同社広報部)と説明する。

いずれにせよ、自由料金の設計当時には想像し難かったこの異常事態を乗り切ろうと、それぞれ苦渋の決断を下している。

【記者通信/8月1日】GX会議初会合で首相が指示 原子力政策立て直しにどこまで踏み込むか


政府は7月27日、GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の初会合を開き、今後の論点を確認した。初会合で強調されたのは、足元のエネルギー危機への対応を意識した上でのGX戦略の必要性だ。特に目下最大の懸念事項である今冬以降の電力やガスの安定供給に向けて、岸田文雄首相は、原子力政策で政治決断が求められる項目を具体的に示すよう要請した。岸田政権が参院選後に着手すると見られてきた原子力政策の再構築にどこまで踏み込むのかが注目される。

原子力再稼働への追い風となるのか(写真は島根原発)

会議では、エネルギーの安定供給の再構築に必要な方策を整理した上で、脱炭素に向けた経済、社会、産業構造変革への今後10年のロードマップを策定する。会議の議長は岸田首相、副議長は同日付でGX実行推進担当相に就任した萩生田光一・経済産業相と、松野博一・内閣官房長官が務め、環境相や財務相、外務相も参加。有識者としては、勝野哲・中部電力会長、杉森務・ENEOSホールディングス会長、十倉雅和・日本経済団体連合会会長、岡藤裕治・三菱商事エナジーソリューションズ社長、竹内純子・国際環境経済研究所理事・主席研究員らが議論に加わる。

初会合で岸田首相は、足元のロシア問題やエネルギー価格高騰を踏まえ、「国内における電力やガスの需給ひっ迫の懸念など、1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて緊迫した状況」と強調。足元の危機への対応と、30年、50年に向けたGXの実行を一体的に捉えた議論を行うよう指示した。そして、再生可能エネルギーや蓄電池、省エネの最大限の導入を図りつつ、「原発の再稼働とその先の展開策など具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してほしい」と言及した。

岸田首相は14 日の会見でも、今冬に原発9基を稼働させる方針を表明しており、それに続いて原子力政策のてこ入れに意欲を示した格好だ。

複数の委員からも原子力政策に関する要望する意見が相次ぎ、「再稼働に向けた立て直しが大事」「9基再稼働の表明に加え、既存原発の稼働延長やバックエンド、新増設・リプレース、革新炉の開発も重要」「早期再稼働と、新増設・リプレースに向けた事業環境の整備を進めるべき」といった意見が挙がった。

首相指示の「原子力で政治決断が求められる項目」について、事務局は中身の検討はこれからだと説明する。特に状況が危機的な東日本の需給ひっ迫の改善につながる柏崎刈羽原発などの再稼働、原子力規制委員会による新規制基準適合性審査の効率化、新増設・リプレースの方針明示などは、まさに政治決断なくしては動かない問題だ。ただ、「クリーンエネルギー戦略」(CE戦略)の議論でも、昨年末のスタート当初は「第六次エネルギー基本計画で踏み込めなかった原子力の課題に着手するのでは」などと期待が高まったものの、結局政権は今年7月の参院選まで荒波を立てないことを選択した。此度こそ正念場となるのか、そして岸田政権はどのような決断を示すのか。

GX移行債の償還財源 CP政策も踏まえた議論の行方は

もう一つ注目の論点は、岸田首相が5月下旬のCE戦略に関する有識者懇談会で表明した「GX経済移行債」だ。こちらの制度設計も次回以降本格化することになる。6月7日閣議決定の「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」の中では、「成長志向型カーボンプライシング(CP)構想」を具体化し、最大限活用すると言及。同時に、150兆円超の官民投資を先導するための政府資金を、〝将来の財源の裏付け〟を持った「GX移行債」で先行して調達する政策と一体的に検討するとしている。

ポイントは、この「将来の財源」をどう手当てするのかだ。2023年度から始まるGXリーグでのカーボンクレジット取引を政府主導で有償化してその収入を充てる案、または炭素税を導入してその税収を充てる案などが浮上している。ただ、例えば一口に炭素税といっても、商品段階で消費税的に課税して一般財源化するのか、電力や燃料段階で課税するのか、などその手法はさまざま。さらに既存のエネルギー諸税の整理も必要だろう。なにより、国民が足元の物価高や円安に苦しむ中、どの程度の負担を課すのかは大きな関心事になる。GX移行債を巡る政治決断の行方も焦点となっている。