電気・ガス料金の負担軽減策を巡っては、実際の経済効果を疑問視する声が多い。狙うは支持率回復という岸田政権の本音も垣間見える。業界関係者の本音を聞いた。
〈出席者〉 A大手電力関係者 B大手都市ガス関係者 C新電力関係者
―岸田政権が打ち出した総合経済対策について、どう評価している?
A 経済対策としては、短期的には多少効くのかもしれないが大きくは期待できないだろう。とはいえ、物価高騰で痛む家計の負担軽減につながるという意味では評価できる。エネルギー価格高騰の要因は、燃料市況の高止まりもあるが円安がそれを増幅していることも大きく、根本的には円安を是正しない限りどうにもならない。円買い介入など一時しのぎで効果は限定的。金融政策を大きく転換できるかどうかが問われる。円安対策と言いながら、円安を活用したインバウンドの活性化といったわけの分からないことを言っていて国の政策が定まっているとは思えない。
円安対策と合わせて、エネルギーの構造的な問題を解決する必要もある。燃料市況そのものをコントロールできない以上、LNGへの依存を低減させるしかない。今回の経済対策の中では、原発の再稼働について明示的には触れられていないが、西村康稔経産相が原子力発電所1基が稼働すればLNG100万tの消費削減に寄与すると言及したように、政府は再稼働を進めていかなければならないという方針を明確にしている。再稼働に向けた環境整備に向け国がどうかじ取りをするのか見届けたい。
B 経済対策は、電気・ガス料金の値下げという形で対策がまとまったが、実は4月に「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を創設し地方自治体を通じて6000億円をかけた対策が講じられている。だから、今回の狙いは本当の意味での値下げ対策ではなく、統一地方選挙に向けた票集めなのだろう。とはいえ、都市ガス事業者としては、当初は補助の対象外だったにもかかわらずよくぞ加えてくれたとも思う。家計に与える影響はほとんどないと思うが、産業用はガス代が大きく上昇し原材料費の高騰に苦しめられているので、1㎥当たり30円負担が圧縮されることで需要家は助かるし、ガス事業者側も値上げによる需要家からのクレームをある程度抑えられるのではないかと期待している。
エネルギーを巡る混乱の一番大きな要因は自由化にあると考えている。規制時代は長期契約を多く抱え一部の学識者から批判を受けたが、今となってはより多く長期契約で押さえろと真逆のことを言っている。電力業界が、自由化で需要が不安定になって電力が電源投資できなくなったのと同様に、いつ離脱するか分からない需要のために長期契約はできない。そうは言っても自由化の針を戻すわけにはいかないので、どうするべきなのか答えがなくて悩ましい。先般、ガス事業法の改正案が成立し、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)にLNG調達の機能を持たせることや、需給ひっ迫時にガス使用制限令を発令できるようになった。今より状況が改善することを期待していている。
C 経済対策としては、消費者に直接還元するよりも、電力市場安定化を目指す方がよいと考える。例えば、化石燃料の値上がり分に直接補助金を出して発電コストを安定させるとか。燃料費調整制度の基準価格の上限を撤廃し、その上昇分を一時的に補填するようなことに意味があるとはとても思えないし、これは選挙対策であってエネルギー政策ではないという意見には同感だ。
今、複数の大手電力会社が低圧の経過措置規制料金の見直しを進めているが、燃調の上限を撤廃するだけなのか、約款料金を抜本的に値上げするのか見えていなかったにもかかわらず、4月に家庭用の電気代が2~3割上がることが既定路線であるかのように吹聴されていることは不思議な感じがした。東京電力エナジーパートナーの場合、燃調を廃止しただけで2割上昇すると言われているが、政府と大手電力会社が(燃調上限撤廃のみの実施で)「握った」ということなのかと勘繰りたくなる。
それに、政府としてGX(グリーントランスフォーメーション)推進を強く打ち出しているのに、電気、ガス、ガソリンに補助金を出すことにも違和感を覚える。緊急事態なのでGXという錦の御旗はとりあえず脇に置き、経済対策最優先で行くというメッセージを明確に打ち出すべきではないか。消費者の化石燃料使用が抑制的になっているのだから、脱炭素に資する設備導入に補助金を付けるなど一気にGXに向けた展開を進める好機だったはずなんだけど。