脱炭素化やレジリエンス強化を目指すスマートレジリエンスネットワーク。特に注目されるのが電力と通信の連携だ。3人のキーマンに狙いを聞いた。
【座談会】山地憲治/地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長、森川博之/東京大学大学院工学系研究科教授、岡本浩/東京電力パワーグリッド取締役副社長
ーー8月上旬、スマートレジリエンスネットワーク(SRN)が設立されました。脱炭素化やレジリエンス強化を目的に、多様な分散型リソースを利活用するための社会共創の場とする狙いですが、まずは設立の背景を教えてください。
山地 DER(分散型エネルギー資源)の活用に向けた流れが出来ていますが、期待先行のように見えます。VPP(仮想発電所)実証やERAB(エネルギーリソースアグリゲーションビジネス)など政府の支援はあるものの、ビジネス展開の面では十分とは言えない。そのテコ入れのためのSRN設立と理解しています。
DERを使いこなすためのインフラとしては、電力ネットワークと同等かそれ以上に情報通信ネットワークが重要になります。産業界を幅広く巻き込んで、DERを利用したシステムのビジネス化を考えていきたい。①DERの利用、②防災、安全保障という文脈でのレジリエンス強化、③具体的なビジネス展開――の三つについて、ワーキンググループでそれぞれ検討を深めていきます。
岡本 山地先生のお話を補足するならば、当社として大きいのは、昨年の房総半島台風の教訓をどう生かすかという点です。レジリエンスの強化に向けて、電力会社間の協力強化、あるいは自治体や自衛隊との連携強化などを進めていますが、加えて、DERの利活用にもさらに力を入れたい。その上では、電力ネットワーク会社自らが努力すべきことと、むしろDERの所有者が主役となって、ネットワーク会社はその手助けをすることがあると思います。房総半島台風の経験から、これらをうまく組み合わせれば、より良い形でレジリエンスの強化を図れるのではないか、と考えました。
ーー通信の専門家としてはどう捉えましたか。
森川 通信業界からみると、エネルギー業界は通信インフラを使うお客さんです。そのお客さんの業界で今、ゲームチェンジの可能性が出てきた。集中型から分散型へ、という流れが生まれていることを、興味深く見ていました。
ただ、ゲームチェンジが起こり得るのはエネルギー業界に限った話ではありません。5G(第5世代移動通信システム)サービス開始は、あらゆる分野にインパクトを与えます。しかし、これだけでゲームチェンジが起きるかというと、そうとも言えない。私は多様性がなければ次のステージに進めないと思います。従来どおり身内の間で同じような話をするだけでは、気付きがありません。気付きの場を持つことは、ICT側にとっても切実な課題です。
岡本 現在、電力では北海道から九州までの9送配電会社が加入し、通信関連ではKDDIと楽天モバイル、NTTグループのNTTアノードエナジーにも参加いただいています。商社や金融機関、シンクタンク、気象協会、防災科学技術研究所なども既に名を連ねています。