電力と通信の連携強化へ 「SRN」の狙いに迫る


脱炭素化やレジリエンス強化を目指すスマートレジリエンスネットワーク。特に注目されるのが電力と通信の連携だ。3人のキーマンに狙いを聞いた。

【座談会】山地憲治/地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長、森川博之/東京大学大学院工学系研究科教授、岡本浩/東京電力パワーグリッド取締役副社長

左から岡本氏、山地氏、森川氏

ーー8月上旬、スマートレジリエンスネットワーク(SRN)が設立されました。脱炭素化やレジリエンス強化を目的に、多様な分散型リソースを利活用するための社会共創の場とする狙いですが、まずは設立の背景を教えてください。

山地 DER(分散型エネルギー資源)の活用に向けた流れが出来ていますが、期待先行のように見えます。VPP(仮想発電所)実証やERAB(エネルギーリソースアグリゲーションビジネス)など政府の支援はあるものの、ビジネス展開の面では十分とは言えない。そのテコ入れのためのSRN設立と理解しています。
 DERを使いこなすためのインフラとしては、電力ネットワークと同等かそれ以上に情報通信ネットワークが重要になります。産業界を幅広く巻き込んで、DERを利用したシステムのビジネス化を考えていきたい。①DERの利用、②防災、安全保障という文脈でのレジリエンス強化、③具体的なビジネス展開――の三つについて、ワーキンググループでそれぞれ検討を深めていきます。

岡本 山地先生のお話を補足するならば、当社として大きいのは、昨年の房総半島台風の教訓をどう生かすかという点です。レジリエンスの強化に向けて、電力会社間の協力強化、あるいは自治体や自衛隊との連携強化などを進めていますが、加えて、DERの利活用にもさらに力を入れたい。その上では、電力ネットワーク会社自らが努力すべきことと、むしろDERの所有者が主役となって、ネットワーク会社はその手助けをすることがあると思います。房総半島台風の経験から、これらをうまく組み合わせれば、より良い形でレジリエンスの強化を図れるのではないか、と考えました。

ーー通信の専門家としてはどう捉えましたか。

森川 通信業界からみると、エネルギー業界は通信インフラを使うお客さんです。そのお客さんの業界で今、ゲームチェンジの可能性が出てきた。集中型から分散型へ、という流れが生まれていることを、興味深く見ていました。
 ただ、ゲームチェンジが起こり得るのはエネルギー業界に限った話ではありません。5G(第5世代移動通信システム)サービス開始は、あらゆる分野にインパクトを与えます。しかし、これだけでゲームチェンジが起きるかというと、そうとも言えない。私は多様性がなければ次のステージに進めないと思います。従来どおり身内の間で同じような話をするだけでは、気付きがありません。気付きの場を持つことは、ICT側にとっても切実な課題です。

岡本 現在、電力では北海道から九州までの9送配電会社が加入し、通信関連ではKDDIと楽天モバイル、NTTグループのNTTアノードエナジーにも参加いただいています。商社や金融機関、シンクタンク、気象協会、防災科学技術研究所なども既に名を連ねています。

【KDDI】大手電力との連携土台に小売り拡大 エナリスのノウハウで競争力向上へ


顧客との接点としてエネルギー事業を重視。大手電力との連携を土台に、小売り事業の拡大を図る。さらに、グループ傘下に入ったエナリスのノウハウを生かして、競争力を高めていく方針だ。

【インタビュー】中桐功一朗/KDDI理事サービス統括本部副統括本部長

ーー自由化当初から電力小売り事業に積極的に乗り出しましたが、その方針に変わりはありませんか。

中桐 コンシューマーとの接点としてエネルギー事業の訴求力を重視しており、通信とエネルギー事業の相乗効果に期待しています。電力・ガス小売りを軸とする当社の方針に変わりはありません。
 電気については全国で「auでんき」を販売。関東、中部、関西、北陸、中国では大手電力小売り部門と連携し、代理販売を行っています。「auでんき」の契約件数は、昨年200万件を突破し、さらにUQ、ビッグローブ、じぶん銀行といったグループ企業も「auでんき」をリブランドして取り扱い、グループ全体で電力小売り事業の拡大を目指しています。また、都市ガスについては大手電力中三社の代理販売という形で取り扱っています。約2400万IDのauユーザーに対し、引き続き当社のエネルギーサービスをアピールしていきます。

ーー通信大手他社は小売り以外重視のようですが。

中桐 今の方針を変えるつもりはありません。当社は発電設備を有しておらず、電力調達の原価削減が切実な課題でしたが、そのための環境整備として、Jパワーと連携し、エナリスをグループ傘下に収めました。電源調達、および需給管理を委託しています。Jパワーのノウハウも活用して、小売り事業の競争力向上につながると期待しています。

ーー配電事業への異業種参入も可能になりますが。

中桐 その考えも今のところありません。他方、当社のエネルギー事業がコンシューマー向けであるのに対し、エナリスでは法人向けにさまざまなサービスを展開しています。電力小売りのほか、新電力事業者への卸販売や需給管理受託、さらにVPP(仮想発電所)関連ではアグリゲーターへのプラットフォーム提供なども手掛けています。脱炭素化や再エネ主力化など、これから期待できる事業領域については、エナリスを軸に考えていきたい。

コロナ禍で戦略練り直しも リモート需要を事業機会に

―auショップ来店客に電気の切りかえを訴求する戦略に、コロナ禍の影響が出ているのでは。

中桐 主軸はショップですが、オンラインでの接点強化にも取り組んできました。ただ、電気の切りかえが来店目的でないユーザーにショップ店員がアピールすること自体難しかったのですが、さらにウェブでどうプロモートしていくかは課題となっています。その点、楽天市場などはウェブマーケットに電力小売り事業をうまく絡めており、参考にしたい。当社もエネルギー小売りや物販、金融、オンラインサービスなどで構成する「au経済圏」の拡大を目指し、EC(電子商取引)サービスを拡充しており、この仕組みをうまく生かしたいですね。

ーー一方、コロナ禍で通信とエネルギー事業の重要性が一層高まっています。

中桐 在宅率が上がり電気代が増えるほど、au経済圏内で使えるポイントがたまりやすくなります。さらに、テレワーク需要を見据えたサービスとして、家庭の通信環境の強化に加え、例えば重要な会議中の停電を回避できるようなサービスもニーズがあると思います。まだ具体的に検討している訳ではありませんが、家庭用のバッテリーや、卒FIT電源を活用したビジネスの可能性は探っていきたい。再エネ拡大、エネルギーマネジメント、家庭の電力・通信環境の強靭化。このあたりにビジネスチャンスを見出していきたいと考えています。

再エネ拡大や発送電分離で課題鮮明に 新国家戦略を問う3火力の実像


石炭・ガス・石油火力それぞれの課題が、再エネ拡大や発送電分離で一層顕在化している。しかし今後の火力の役割を見据えた政策議論はなく、火力政策は漂流しているように映る。

なぜ日本は欧州のように脱石炭に踏み切れないのか―。そんな批判は、今や多くのメディアの常套句になりつつある。欧州では石炭はもとより、天然ガスでさえ「持続可能ではない」といった声が拡大中だ。非効率石炭火力フェードアウトに関する検討開始が発表されても、ドイツや英国のスタンスを引き合いに「日本はまだ不十分」との不満が渦巻いている。

欧州の脱石炭は、深刻な老朽化(図1参照)など地球温暖化対策だけが理由ではないのだが、そんな不都合な実情は棚上げ。そもそも日本には経済性やエネルギーセキュリティ、レジリエンスなどもろもろの観点から、欧州の主張を鵜呑みにできない事情がある。東日本大震災後など、原発が長期停止した時期を支えた電源は火力であり、今は変動性再エネの受け皿としての役割が増している。

図1 日英の石炭火力運開年の比較
出典:日英の主要発電事業者のウェブサイトなどより作成

資源を海外に依存する日本では、複数の燃料をベストミックスで活用しなければリスクヘッジできず、バーゲニングパワーも持つことができない状況は変わっていない。そして災害などに伴う大規模停電からの早期復旧には、やはり火力は欠かせない。しかし、脱炭素化や電力の全面自由化により火力事業を巡る厳しさが一層増しているにもかかわらず、今後の方針については縮小する方向以外、議論は深まっていないのが現状だ。

石炭・ガス・石油火力は、それぞれどんな課題を抱えているのか、実像に迫ってみた。

石油火力の退出加速 発送電分離が決断後押し

21世紀に入り、急速に役目を終えつつあるのが石油火力だ。オイルショックを契機に日本は脱石油政策に舵を切り、石油専焼の新設が原則禁止された中、段階的に電力自由化が始まった2000年以降に休廃止が加速した。ただ、2000年代の原子力発電を巡る不祥事、あるいは11年の東日本大震災後の原発ゼロという非常時には老朽石油火力が活躍。その役割が見直される機会もあった。

しかしここ数年、再び休廃止の動きが加速している。JERAの石油火力は今年4月以降、全基が長期計画停止に入った。老朽化が進む中で、ガス火力が石油の替わりにピークを担うようになり、需給上、コストが高い石油(図2参照)を焚く必要性がなくなってきたためで、「廃止まで踏み切るかは容量市場や卸販売の状況次第」(大関忍・JERA事業開発本部副本部長)。さらに「非常時にすぐ燃料調達できるという利点は、ある程度年間調達量を持っていることが前提。その意味でも、バッファーが大きいLNGに役割がシフトしつつある」(同)と続ける。

とはいえ、LNGは実質13日分程度しか民間備蓄がない点がネックだ。国が備蓄に責任を持つのか、あるいは35日程度備蓄できる石炭がその役割を引き継ぐのか、戦略を練り直す必要がある。

図2 火力電源の発電原価の推移
絶滅寸前の石油火力(写真は武豊火力の廃止設備)

そして4月に実施された発送電分離が、石油火力の休廃止にさらなる追い打ちをかけそうだ。「これからは自社エリアの需給バランスに問題さえなければよく、100%自社設備にする必要もない。余裕を持って設備を保有するという志向ではなくなってきた。地元との関係で閉められない地点以外は、容量市場の約定価格が維持費を下回れば廃止することになる」(大手電力関係者)。ごく少数を除き、日本の石油火力が姿を消す日は迫りつつある。

欧州「脱石炭」の最新事情 国内事情に基づく英独の政策


脱石炭が加速する欧州の中でも、特に英国とドイツでは長年石炭火力が供給上重要な役割を果たした。両国ともCO2対策で使用停止を決めたが、国内事情を反映し、政策決定の歩みは大きく異なっている。

平野学/海外電力調査会調査第一部欧州グループ上席研究員

【英国】CO2排出価格の下支え制度 容量市場で火力の収益改善へ

英国において石炭はエネルギー供給源として基幹的な役割を担い、電力供給でも1990年に構成比65.3%と太宗を占めていた。しかし90年以降は北海のガス田開発が活発化しガス火力への転換が進み、2000年代に入ってガス生産量が減少する中、エネルギー供給の安全保障を確保するため、電力部門で大きな制度改変が進められることになった。

08年に「気候変動法」を定めるなど、英国は気候変動問題に対して世界に先駆けて取り組みを始めた。しかし電力供給構造を見ると、石炭火力を中心に老朽化した発電設備が供給力の多数を占め、その多くが10年以内の閉鎖が想定されるなど脆弱性は否めず、送電運用事業者は、09年に20%あった供給予備力が14年には2〜3%まで低下すると報告していた。

この事態を打開するため英国政府が提案したのが「電力市場改革」(EMR)である。低炭素電源の固定価格買い取り制度を導入する一方、石炭火力の多くが建て替え時期を迎え、石炭のほとんどを輸入に依存していたことから、英国政府が石炭の活用を検討することはなかった。このためEMRではCO2排出量の多い石炭火力の運転抑制を目的に、CO2排出価格の下支え制度(CPS)が導入された。13〜17年にかけてユーロ危機による経済低迷、それに伴うエネルギー需要の伸び悩みなどを背景にEU排出量取引制度(EU‐ETS)の価格がCO21t当たり5ユーロ前後と低迷し、CO2排出削減が思うように進まなかった。13年度から始まったCPSは、英国政府が設定するCO2排出価格の下限値にEU‐ETSの市場価格が届かない場合、その差額を発電用の燃料に課税する仕組みだ。CPS導入により石炭火力の停止が加速することになった。

石炭からバイオマスに燃料転換した英国の発電所
提供:Draxウェブサイト

またEMRでは需給調整に優れたガス火力の収益を確保し、投資を促す仕組みとして容量市場が創設された。14年以降4回の入札が行われ、いずれも目標調達容量を上回る入札容量が集まり、容量確保の役割を果たしている。落札した電源はCCGT(43.1〜47%)、石炭・バイオマス(6〜18.7%)、ガスタービン(4.3〜7.2%)などで、火力発電の収益改善に一定程度寄与すると考えられる。

英国の電力供給に占める石炭火力の割合は19年に2.1%まで減少し、さらに20年4月10日から67日間、石炭火力の発電量がゼロを記録するなど政府が目指す停止期限(24年)を前倒しで達成する情勢である。ガス火力の稼働率も低下し火力発電の事業環境も厳しくなっているが、現時点で電力供給全体として大きな問題とは認識されておらず、現行の政策が継続することになりそうだ。

「数合わせ」の議論から脱却を 火力の将来像を どう描くか


再エネ主力化や石炭火力縮減がフォーカスされる一方、石油火力やガス火力に関する議論は深まっていない。電力事業の市場化や新型コロナ禍の経済悪化、そして将来の脱炭素化を見据え、火力が担う役割とは。

【座談会】荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授、杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹、中澤治久/火力原子力発電技術協会専務理事、山岸尚之/WWFジャパン気候エネルギー・海洋水産室長

右上から時計回りに荻本氏、杉山氏、山岸氏、中澤氏

――非効率石炭火力のフェードアウトばかりが注目を集めていますが、火力政策全体を通じて、どんな課題があるとの認識でしょうか。

杉山 コロナ禍により、3Eの中で安全保障と経済性の重要度が増したと思います。経済性のある石炭火力の重要性が高まりましたし、複合リスク、つまりパンデミックの最中の災害発生時にインフラのオペレーションをどう継続するのか、といった視点も重要です。さらに、国際関係の悪化も大きな要素。中国の一層の強硬姿勢で、日本に対する軍事的攻撃だけでなく、テロやサイバーによるインフラへの攻撃リスクが高まっています。

 これらを鑑みて、電力インフラの強靭化へのテコ入れで、供給源の多様化を進めるべきですが、真剣に検討されていません。能動的に出力制御できる電源の中で特に火力が果たす役割は大きく、東日本大震災でも北海道ブラックアウトでも、復興過程で火力が活躍しました。ただ、LNGは長期間備蓄できないので、やはり石炭に頼る面は大きく、フェードアウトの対象である亜臨界や超臨界も有事の際に役立ちます。今の議論にはそうした視点が欠けています。

荻本 中長期の視点では、将来の電力システムの大きな変化の中で、3E+Sを満たす状態をどう定義すべきか、また、利害を主張する前に「社会コストミニマム」の視点に立つなど、常に基本に立ち返って議論することが重要です。変動性再エネが大量に導入されると、天気次第で発電量が欠乏状態となる時間帯が確実に発生します。現在は変動性再エネを遠隔制御できないので、今後10年ほどは需給を安定化しつつ何でその欠乏を補完するか、よく考えなければなりません。
 

 さらに長期的な視点では、先ほど指摘があったように燃料の輸入が滞った際や電源の想定外停止にどう備えるのか。石油火力の休廃止が加速すれば備蓄石油は使えなくなり、LNGは1カ月分も貯められませんが、石炭は貯炭場の容量に応じ長期に貯蔵できます。火力電源がそれぞれのミッションを果たす中で、再エネを最大限活用することができます。

――環境面から世界的に火力への風当たりが強まっていますが、再エネ拡大を火力が支えるという面についてはどう捉えていますか。

山岸 これからの火力は、再エネのしわ取りにマッチする電源であるかどうかが評価の軸になると思います。特にLNG火力の調整力には期待していますが、例えば汽力発電は調整が不得手な設備もあるといった課題など、LNG火力が一概に良いというわけではありません。また、脱炭素化を考える上で、やはり今から建設する火力設備が40年ほどロックインされるという状態は避けるべきです。

 一方、石炭火力については、新しい高効率のものは全て認めるという方針は受け入れ難い。3E+Sについても、環境だけを考えれば良いとは思いませんが、結局はどこを強調するのかで意見が分かれます。それぞれ都合良く解釈しているようにも感じます。

中澤 いずれにせよ3E+Sが重要であるということは、どの立場でも共有できていますね。ただ、これからの火力が果たす役割を考えるべきところ、石炭の議論だけに偏っていることには違和感があります。本来は石炭だけでなく、非効率火力のフェードアウトについて考えるべきです。特に石油火力は40〜50年選手が大半で、非効率かつ老朽化が著しい。燃料備蓄の点では使える面もありますが、早急な退出を促すべきです。そしてLNG火力も老朽プラントが結構残っています。最新鋭のコンバインドサイクルと比べると効率の差は1.5倍ほどの開きがあります。LNG火力の設備更新についても忘れずに取り上げてほしい。

電気料金高騰が招く産業疲弊 調達面の予見性向上にも意識を


再エネの拡大や石炭火力縮減が、さらなる電気料金高騰の呼び水となることは避けねばならない。産業競争力をこれ以上低下させないよう、大口需要家は慎重な議論を求めている。

【インタビュー】小野 透/日本経団連 資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行

――非効率石炭火力の縮減に向けた政策検討が始まりましたが、今後の火力の役割をどう考えますか。


小野 現行のエネルギー基本計画の実現に向けた制度検討が始まったという理解です。石炭火力はベースロードとして重要な役割を担っていますが、自然変動電源中心の再エネによる代替は難しく、原子力の再稼働が進まない中では、安定供給に支障が出かねません。加えて石炭火力技術の次世代化を促すことも必要です。


――共同火力や自家発電については、どうですか。


小野 ほとんどの自家発は生産活動と一体的に運用されており、大手電力と同様の規制は、国内の生産活動のフェードアウトを求めることと同義です。自家発も停止せよとなると、まず電気の調達コスト増という問題に直面します。さらに、自家発は事業者のレジリエンス上不可欠で、北海道ブラックアウトの際、自家発を有する工場では停電を回避できました。もし自家発がなければ、大きな被害が生じていた可能性があります。共同火力は特定供給と卸供給を同一設備で担っているため、卸供給分だけ設備を廃止するということはできません。また、IPP(独立系発電事業者)では地域のバイオマス資源の受け入れや、近隣への熱供給を担うなど、地域経済との関係も深く、そうした実情も念頭に入れた判断が必要です。


――基幹送電線の利用ルール見直しも同時並行で進んでいます。


小野 既存設備を最大限使う方向性は良いと思いますが、FIT電気を優先的に流すことはメリットオーダーと言えないのではないでしょうか。コスト負担者の視点からは、40円の太陽光よりも5〜6円の火力が流れる方が経済合理的ということになります。またドイツでは、FITで買い取られた再エネ電気が限界コストゼロで流れ込んだ影響で市場価格が下落してしまい、ガス火力に次いで石炭火力も維持できない水準になりました。ドイツと同じ轍を踏まぬよう、経団連は再エネの市場統合を主張してきましたが、これが実行されないのなら、必要な電源を確保する新たな策を用意すべきです。


――電力多消費産業は、これ以上の電気料金高騰は受け入れ難いと思います。


小野
 震災前から日本の産業用電力価格は国際的に高い水準にありましたが、さらに原発再稼働が進まず、石炭はフェードアウト、FITを巡っても未稼働案件などの課題があります。製造業にとって、国際競争力の低下に直結する電気料金の高騰は深刻な問題。コロナ禍が企業経営を直撃する中、さらなる足かせは許容できません。


 さらに日本企業が国内に生産拠点を残すには、安定供給の予見性も重要になります。すでに日本企業のサプライチェーンもマーケットもグローバル化しており、将来的に安価な電力を安定的に調達できる見込みがなければ、今後国内への投資は躊躇せざるを得ず、エネ基見直しでは、こうした産業界の実情も意識した議論を望みます。

おの・とおる 1958年生まれ。慶応大工学部卒。ペンシルベニア州立大セラミック科学修了。81年新日本製鉄入社。同社技術総括部部長、日鉄住金総研取締役などを経て、現在、日鉄総研常務取締役。日本鉄鋼連盟特別顧問。

コロナ禍が突き付けたこと 排出削減に向けた経済抑制の現実


【気候危機の真相Vol.05】山形浩生/評論家

コロナ禍は、脱炭素化のための経済活動の変革がどの程度の痛みを伴うのか、私たちに突き付けた。「グリーン回復」ではなく、むしろ温暖化対策の現実論を議論する下地ができたと捉えるべきだ。

温暖化防止のための排出削減と経済活動の両立は昔から難問とされていたものの、2005年のスターン報告などを期に、現在の経済活動を完全に変えても温暖化対策を行うことが費用便益面で正当化される、といった論調がますます強まっている。そして費用を少なめに見せかけて被害を膨大に見せるいろいろな議論が積み上がった結果、世間的には壮絶な炭素排出削減が楽に実現できるかのようなイメージすら振りまかれている。

それなりに有力な経済学者たちですら、いまやそうした論調の尻馬に乗っているのは嘆かわしいことだ。ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの最新エッセイ集でも、いまや再生可能エネルギーの価格は化石燃料を圧倒的に下回っているから、温暖化対策で発電をすべて再エネにしろ、それに反対する連中はみんな共和党と石油ロビーの走狗、というひどい主張が展開されている。

だが個人的には、このコロナ騒動がこうした論調にかなりの冷水を浴びせるのではと考えるようになっている。

当初は、その逆の不安があった。コロナに乗じて排出削減が乱暴に促進されるのではという懸念だ。コロナ当初の20年初頭、中国は今にして思えば実に素早く重慶のロックダウンに乗り出し、中国国内の工場も物流も激減し、CO2排出も大幅に下がった。

排出削減を訴える人々は、それを歓迎した。炭素排出が大幅に下がった、やればできるじゃないか、というわけだ。コロナは、経済にかまけてグローバル化に邁進し、環境破壊と温暖化促進を続ける人類に対する地球からのメッセージなのです、といったポエム(文字通り)まで出回った。ジョルダーノ著「コロナの時代の僕ら」にそれは典型的に見られる。まだコロナ禍が本格化していなかった欧米では、中国の状況など他人事でしかなく、自分がちょっと我慢しただけでこれだけの削減が実現できたと自画自賛した。そしてリバウンドがないようにグリーン回復すべきだ、と言って欧州議会はグリーンリカバリー・アライアンスなるものを立ち上げてみせた。

ところがその後、中国はそれなりにコロナ抑制に成功し、経済活動は急激に復活し……当然ながら排出量はリバウンドし、5月には昨年実績を超えた。工場は再稼働し、物流は戻り、景気刺激のため公共事業などが積まれたおかげだ。

ESG投資に揺れるみずほ メガバンクは和魂洋才か


6月25日に開かれたみずほフィナンシャルグループの株主総会で、気候変動対策に関する株主提案が提出されるという異例の一幕があった。環境団体の気候ネットワークが、パリ協定の目標に沿った投資に関する経営戦略計画の開示を求めたのだ。

みずほは4月、石炭火力向けの与信残高を2050年度までにゼロにする方針を発表したが、気候ネットワーク側は不十分だと主張。提案は否決されたものの、海外投資家などが支持し、賛成率は約35%に達した。簡単にむげにできるような水準ではない。

ただ、ある市場関係者は「電力会社の株主総会での脱原発提案みたいなもの。一部の幹部は気にするかもしれないが、銀行の経営自体が左右されることはないだろう」と言い切る。同日、みずほは石炭火力の与信残高ゼロ10年前倒しも表明したが、これも自然に残高が減少していくスピードをやや速めたに過ぎず、「金融機関が脱炭素に力を入れているように見える効果はある」(先述の市場関係者)程度だ。

コロナ禍で、経済度外視の温暖化対策の無謀さは証明済み。メガバンクのように〝和魂洋才〟的なしたたかな戦略も重要だ。

【覆面座談会】現実との乖離は進むばかり 待ったなしのエネ政策再構築


テーマ:エネルギー政策の中間評価と課題

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会が7月に再開され、今後エネルギー基本計画の見直しが本格化する。政府はさまざまな課題を先延ばしにしてきたが、次期エネルギーミックスではどんな方針を打ち出すべきなのか。

〈出席者〉 A有識者  Bアナリスト  C電力業界関係者  Dジャーナリスト

原発は9基しか稼働していない上、バックフィットのリスクも抱える

―エネルギーミックスのターゲットイヤーが近づく中、目標と現実の乖離にもはや目をつぶれなくなってきた。まず、これまでのエネルギー政策の評価をそれぞれ聞きたい。

A やはり最大の問題は、3E(経済性、供給安定性、環境性)達成のコアである原子力再稼働が進んでいないことだ。CO2を2050年に80%削減させるのであれば、新増設やリプレースは不可欠なのに、政府は逃げ回ってきた。この問題に向き合わないままで、欧州などの圧力を受けてCO2削減目標を引き上げるなんてことはナンセンスだ。そして原子力の穴埋めで石炭火力比率がなかなか下がらなかったわけだが、石炭火力たたきに力を入れる小泉進次郎環境相には、ぜひそうした現実を直視してほしい。原子力の必要性に言及しないままなら、総理の器ではない。

B エネルギーミックスの基本は3Eの達成だ。第一次基本計画、第二次計画までは3Eを考慮した達成可能な目標だった。そのバランスが崩れたのは第三次計画から。国際的には先進国が50年80%削減にコミットし、国内でも環境目標が最重要視されるようになり、非化石電源比率を7割に上げることを迫られた。環境目標の合理性が議論されないまま、世論が出来上がってしまった。

そして第四次計画では原子力が実態と全くそぐわない内容になり、それが第五次計画にも踏襲された。三次計画以降、ミックスは絵に描いた餅にさえならない状態が続いている。

―ただ、コロナ禍の経済悪化で温暖化対策の勢いが失速するのでは、という見方が多い。

A 特に金融が気候変動にぐっと寄ったスタンスを見せ始めたが、経済悪化に拍車をかけるエネルギーコストを上げるような自殺行為は、金融も避けたいはずだろう。

C ある外資系金融関係者が「金融は訳の分からない仕組みほどもうかる」と言っていたが、本質を突いていると思う。実体経済への投資のリターンで稼ぐ真っ当なビジネスではなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資拡大の流れに取り残されたくない、という心理に付け込むのが彼らの手口。日本のメガバンクも当初はESGの方針では抜け道を残しつつ、現実的な落としどころを探るかに見えたが、最近の動きを見るとそれもあやしい。

B 東日本大震災後で唯一原発を動かした野田佳彦首相以降、再稼働が進まないのは、電気の安定供給に支障が出ていないからだ。コロナでますます経済が痛む中で、さらに再エネへの転換が進めば、国民もその弊害を実感し、騒ぎ始めるだろう。

安倍政権への期待空振り 電力の財務状況は毀損

D 前回の議論は15年の年初からゴールデンウィーク明けにかけて行われたが、4月の統一地方選が終わるまではガスとか再エネの議論を続け、原発には終盤まで触れなかった。委員の橘川武郎氏は、「原発比率は良くて15%で、新増設を議論すべき」と何度も発言し、最後は「歴史家として訴えている」とまで述べたが、結局反映されなかった。

そして今回議論すべきことは、前回と全く一緒。経産省もいよいよ手を付けざるを得ないのではないかと思っている。

C 電力業界は第二次安倍政権に期待したが、外交や安保のために原子力問題は二の次にされた。官僚も、電力システム改革の推進者となることで原発事故の責任を逃れようとし、結果、戦術に溺れて戦略を見失った。だが今の選挙制度では、いくら政権や官僚を批判しても政策が世論に迎合する状況は変わらない。行き着くところまで行くしかないのかと暗たんたる気持ちになる。このままでは電気料金の高騰か、安定供給の毀損か、電力会社の破綻の三択しかない。

B 正常化のチャンスはまもなく訪れる。政権交代直後は支持率が上がり、時間的な余裕もできる。そのタイミングで原子力問題に手を付ければいい。一時支持率が低下しても、再稼働が進んで経済が回復すればリカバリーできる。第二次安倍政権も発足直後、いったんは原子力の正常化に取り掛かろうとしたが、結局頓挫してしまった。

A 原子力の正常化が進まない一方、ゼロエミッションのために石炭火力を封じれば、再エネのさらなる拡大に伴い電力コストが上がるだけだ。温暖化対策は経済が回っているからこそできるものだ。コスト論を考えない議論はたわ言でしかない。

C 原子力が止まった分を火力が補い、値上げせざるを得なかった会社もあるが、その間に総じて電力は固定費を回収できず、自己資本を食いつぶし、投資余力は残されていない。それほど電力会社の財務状況は毀損している。

D 地方によってはさらに厳しくなるところもある。経産省も、電力の体力が削られ投資が厳しくなる中、5年以内に需給バランスに影響が出かねないと危機感を持っている。朝日新聞や毎日新聞も、一度真剣にミックスの構成を考えてみてほしい。

電力新市場に漂う不穏な空気 システム改革貫徹の行方は


【業界紙の目】木舟辰平/ガスエネルギー新聞編集部記者

3E(経済性、供給安定性、環境性)の最適なバランスの上に進められているはずの電力システム改革。だが、建て前と現実には随分と開きがあるようだ。その割を食っているのは結局、新電力だ。

この原稿を書いている7月13日時点ではまだ発表されていないが、資源エネルギー庁の村瀬佳史電力・ガス事業部長が今夏、異動になることは間違いない。2016年6月からの村瀬氏の在任期間は、異例といえる丸4年に及んでいる。6月の改正電気事業法成立を置き土産に、その座を去るはずだ。

村瀬部長時代の電力政策とは何だったのか。あらためて振り返れば、村瀬氏の部長就任の2カ月前に電力産業は小売り全面自由化という9電力体制発足以来最大の変革を迎えた。一般電気事業者という資格で垂直一貫体制を敷いていた大手電力各社は、電気事業制度上は発電事業者、一般送配電事業者、みなし小売り電気事業者という三者に分かれた。それに伴う関連制度の見直しは多岐にわたった。

こうした全面自由化絡みの一大改革が一息ついたタイミングで、村瀬部長は着任した。就任会見で今後の電力政策について問われ「自由化を進めればすべてがうまくいくわけではない。安定供給や環境対応など事業の公益性が自由化の中で確保されるための課題にしっかりと取り組む」と答えている。その方針を具体的な政策に落とし込むため、9月に新たに立ち上げたのが「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」だった。委員長には山内弘隆一橋大教授(当時)が就任した。

改革貫徹小委は同年12月に中間とりまとめを公表。そこで容量市場、非化石価値取引市場、ベースロード市場といった新市場の創設が提言された。3Eとの対応関係でいうと、容量市場が供給安定性、非化石価値取引市場が環境性だ。両市場とも新電力に追加的な負担を不可避的に強いることから、自由化政策(経済性)とのバランスを取るためベースロード市場が作られることになった。

詳細制度設計の議論を経て、三つの市場はそれぞれ動き出している。ベースロード市場は昨年度に初取引を実施した。容量市場は今まさに初取引の過程にあり、8月末には取引結果が公表される。非化石価値取引市場はFIT電源に付随する価値の取引を先行実施していたが、今年度から非FIT電源付随価値の取引も始まる。

取引低調なベースロード市場 容量市場にも不安要素

各市場とも成否の評価を下すのは時期尚早であろう。とはいえ、いずれも失敗の雰囲気が早くも漂っている。

ベースロード市場は昨年度、今年度1年間の電気が売買されたが、3回合計の約定量は53万4300kWにとどまった。これは新電力全体の前年度の販売電力量実績の4%弱に過ぎない。もちろん、市場創設初年度だったため様子見の新電力も多かったと考えられ、今年度の受け渡しを通して市場参加のメリットが確認できれば、取引量はおのずと増えると期待された。

だが、4月に電気の受け渡しが始まって実際に眼前に広がったのは、それとは正反対の状況だった。新型コロナウイルス感染拡大に起因する燃料価格下落や電力需要減により、スポット価格はベースロード市場の約定価格を大きく下回る低水準で推移した。運転停止中の電源の固定費も売り入札価格に含まれるベースロード市場の約定価格は、スポット市場と大差ない水準に落ち着くとの見方は市場創設前からあったが、事態はさらに深刻だ。ベースロード市場の存在意義そのものが問われかねない。

宮崎市の基幹病院にエネサービス導入 コージェネを核に防災対策を充実


東京ガスエンジニアリングソリューションズ、宮崎ガス】

宮崎市郡医師会病院は、移転に伴い、ガスコージェネを核としたエネルギーサービスを導入した。新しいシステムでエネルギーの強靭化を図っている。

宮崎市の中核医療機関として長年地域を支えてきた宮崎市郡医師会病院。もともとは海岸近くに立地し、南海トラフ地震で津波による浸水が想定される地域だったことから、10㎞ほど離れた高台に新築移転することとなった。これを機にエネルギーシステムの強靭化を図り、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、宮崎ガスの両社が提案したエネルギーサービスの導入に踏み切った。九州の病院へのエネルギーサービス導入は、TGESとして初になる。7月上旬に九州は豪雨に襲われたが、新病院に被害は出ず、予定通り8月1日にオープンを迎える。

病院敷地内に設置されたエネルギーセンター

病院の移転先は新たに造成された場所で、ガス導管も未整備だった。宮崎ガスが3.2㎞導管を延伸し、供給契約を結んだ。エネルギーサービスの事業展開についてTGESは、「当社のノウハウを提供しつつ、地元ガス会社と連携するスタンスです。2017年に福岡に開設した九州営業所を拠点に、地元の情報をすくい上げ、提案に力を入れています。特に九州の病院は、熊本地震の経験から、停電対策への意識が高まっています」(都市エネルギーソリューション部の片山敬英副部長)という。

移転先の敷地内に、400kWのガスコージェネレーション(ヤンマー製)を核とした設備を備えたエネルギーセンターを設置。コージェネは、停電時でも発電可能なブラックアウトスタート仕様で、有事の際も中圧導管から供給される天然ガスで稼働を継続する。防災対策としては、ほかにも非常用ディーゼル発電機の導入、油でも動かせるジェネリンク(廃熱投入型吸収冷温水機)、空調には電気とガス両方を使うヒートポンプチラーを採用し、燃料の多重化を図っている。

エネマネシステムも導入 コスト・CO2対策で最適運用

病院側は防災対策に加え、省エネ・省コストに対する要望も強かった。このニーズに対応するため、天候や病院の利用状況を踏まえ、細かく設備を制御するエネルギーマネジメントシステム「ヘリオネットアドバンス」を導入。コージェネの稼働や、料金の変動も考慮し、空調で電気とガスを最適に組み合わせるなど、省エネ・省コストを深掘りする。同規模の施設と比べ、省エネ、省CO2ともに7%程度の削減効果が見込める。

病院建設の最終盤で新型コロナウイルス感染拡大に見舞われ移動が制限されたが、現地入りしていたメンバーで対応し、工事は予定通り行うことができた。またエネルギーセンターの運用は、もともと宮崎ガスの社員が担う段取りだったため影響なく開始できた。

コロナ終息が見通せない中、病院のBCPの重要性は一段と高まっている。地元の宮崎ガスと、実績豊富なTGESによる宮崎市郡医師会病院のエネルギーサービス開始は、まさに時宜にかなった取り組みだ。

その核として停電対応ガスコージェネを導入した

九州や中部で記録的豪雨被害 差し迫る複合災害の危機


今年も記録的豪雨が日本列島を襲い、九州や中部を中心に甚大な被害が発生した。岐阜県や長野県では小規模な地震も頻発。さらに新型コロナウイルス感染拡大という不安要素も付きまとい、複合災害がリアルな危機として突き付けられている。

熊本県球磨村では電柱が折れ曲がる被害が発生した(7月5日)(提供:朝日新聞社)

梅雨前線が長期間停滞したことにより、7月上旬から下旬にかけて発生した「令和2年7月豪雨」は、期間中の降水量の合計値が更新されるなど、記録的な大雨となった。7月20日時点で、全国の人的被害は108人、住宅被害は1万6000棟超となっている。

九州電力管内では期間中、熊本県で最大停電戸数が8840戸に上るなど、各地で停電が発生。変電設備や水力発電所も被害を受けた。停電は17日時点で一部復旧困難地域の290戸を除き解消している。ほかにも、都市ガスでの一時供給停止、SS(サービスステーション)やLPガス充填所などの被害も発生した。

中部電力管内でも一時、岐阜県を中心に最大約2000戸の停電が発生したが、16日までに全面復旧済みだ。ただ、長雨で地盤が緩む中、長野県や岐阜県では県境を震源とする地震がたびたび発生。15日には約30分間で震度1〜2の地震が5回も発生した。

一般送配電事業者各社は9日、先の国会で成立したエネルギー供給強靭化法に基づく「災害時連携計画」を、電力広域的運営推進機関に提出した。昨年の房総半島台風の教訓を踏まえた対応だが、複合災害が対象の備えとして、果たしてそれで十分なのか。発送電分離に続き、2年後には都市ガスの導管分離も予定される中、有事の安定供給を担保する仕組みを模索していくことが求められる。

石炭火力の輸出支援は堅持 両大臣の力量の違いあらわに


政府のインフラ輸出戦略の改定案が7月9日にまとまった。小泉進次郎環境相が異議を唱え、注目を集めた石炭火力の輸出支援については要件を厳格化することで決着。内閣官房、経済産業省、環境省の当初の思惑通りに進み、途上国の脱炭素化を後押しするという名目で、石炭火力の輸出支援は堅持された。「原則輸出しない方針」を盛り込むことに最後までこだわっていた小泉氏のもくろみが外れ、閣僚としての力量のなさが浮き彫りになった格好だ。

実績アピールに力を入れる小泉氏だが、空回りは否めない(提供:朝日新聞社)

今回の戦略で示した石炭火力の輸出支援は、対象を高効率の石炭火力に限定し、CO2の排出が多い非効率型の輸出は支援しないことを明確にした。脱炭素に取り組まない国に対しては「原則輸出支援しない」という文言は盛り込まれたが、輸出支援する方針に変更はなかった。

原則輸出しない方針を巡り経産省と環境省が対立したとする報道もあったが、実際は両省とも「原則輸出支援はする」という方向で認識は一致していた。以前は何かと対立していた両省だが「ここ数年は連携が密になってきた」(政府関係者)という見方がもっぱら。小泉氏と彼の取り巻きだけが取り残されたわけだ。

石炭火力の輸出支援に異議を唱え、議論の掘り起こしに成功した小泉氏にとってみれば、打ち上げ花火と化したことには不満があるのだろう。方針発表後の記者会見や海外メディアの取材に「原則支援しない」というコメントを繰り返した。自らの思いを実績だと強調して閣僚としての力量のなさを覆い隠そうとする小泉氏。「理念よりも実効性」を強調した梶山弘志経産相とは対照的な姿が目立つ結果となった。

需給両面を襲うコロナ禍の「劇薬」エネ事業進化の推進力にできるか


コロナ禍は、日本のエネルギー需給の両面で、全面自由化以上のインパクトを与えている。この劇薬をうまく利用できれば、変貌の最中にあるエネルギー事業が進化するきっかけになり得る

コロナショックの初期、世界各国で実施されたロックダウンは、あらゆる経済活動に強力な副作用をもたらした。エネルギーでは消費が消え、商品全般が供給過剰に陥った。専門家は、「日本は先進国の中では需要の落ち込みは相対的に小さかった。ただ、世界的には短期の市場変動から、長期的な構造変化に関心が移ってきている。さまざまな可能性がある中で、エネルギー企業は複線的にシナリオを描き、柔軟に対応する姿勢が重要になる」(日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員)と警鐘を鳴らす。

7月1日に再開された総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)でも、コロナに伴うエネルギー情勢の変化がテーマの一つとなった。

マクロでみると、日本では外出自粛や海外からの観光客の減少などで、交通部門の燃料使用量が減少。また、商業施設も自粛のあおりをくらって来客が減少し、需要が低下した。

一方、テレワークなどで在宅時間が増えたことで、家庭での電力、都市ガスなどの消費量は増加している。

住環境計画研究所の分析によると、4月の消費量は前年同月比で7.7%増加し、光熱費はエネルギー価格の変動を考慮した実質増減率で同6.4%増えている。また、家計に占める光熱費の割合は7.2%と、前年同月より1ポイント増加している。例年より気温が高かったことや、エネルギー価格の低下がなければ、光熱費の増額はさらに大きかった可能性があるという。

同研究所は「コロナ禍が再燃しつつある中、在宅勤務の割合は元の水準には戻らないだろうし、夏にかけてエアコン需要が増えていく。家庭のエネルギー消費に業務の消費が混ざっている状況をどうフォローしていくのかが重要だ。今後、エネルギー消費と家庭での人々の行動の紐づけや、省エネ意識はどうなっているのか、掘り下げていきたい」(岡本洋明主任研究員)と説明する。

電力需要の回復は地域で差 火力維持の困難さも露呈

再エネが火力を押し出す状況が見られるようになった

ではエネルギー別ではどのような傾向が見えてくるのか。

電力は、4月の速報値で系統電力需要が前年同月比3.5%減、5月はさらに拡大し9.2%減となった。ただ、5月末の緊急事態宣言解除を機に、徐々に戻りつつある。この頃から地域ごとの差も出始め、九州や関西は、6月に入り前年比との差が縮まってきた。それに対し、中部では自動車系など産業部門を中心に戻りが鈍く、東京についてはまだ発表されていない。

とりわけ産業・業務用については、活動自粛の影響を大きく受けるため、コロナ禍の終息が遠のいた昨今の情勢を踏まえると、以前の状態に戻るとは考えにくい。みずほ証券の又吉由香上席研究員は「今後気になるのは、契約電力量の変動だ。需要家側での生活や行動の変容が使用量にどう影響するのか、注目される」とみる。

供給面では、火力電源への影響が顕在化している。コロナ禍で火力の経済的なリスクが一足早くあぶり出された格好だ。需要減少を受け、相対的に再エネの比率が上がり、ネットワークへの負荷が高まっている。再エネの出力変動を吸収するため一定量の火力を動かしてはいるものの、石炭もLNGも稼働率は減少。九州のようにメリットオーダーで火力が押し出される状況が、全国的にみられるようになってきたのだ。