【特集2】最新鋭火力発電をDXで運用 次世代ロールモデル構築へ


【JERA】

JERAは姉崎発電所の新1~3号機にデジタルパワープラントパッケージを導入した。これにより、発電所運用に関わるデータをクラウドに集積し業務の効率化・高度化を図る。

JERAは今年4?8月にかけて、姉崎火力発電所(千葉県)新1?3号機(各65万kW)
を運開した。同発電設備にはガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電設備を採用、燃焼温度の1650℃で高温度化したことにより、発電効率は世界最高水準の約63%(低位発熱量基準)を実現。更新前の設備と比較して1基当たりの年間発電量は約1割増加、CO2排出量は約3割削減した。姉崎発電所の佐賀賢太郎所長は「当社が保有する技術力と改善力の全てを注ぎ込んだ」と強調する。

今年運開した姉崎発電所新1~3号機


DPPでO&Mを効率化 事業環境変化にDXで対応

新1~3号機の運開で、同社がアピールするのが「デジタルパワープラント(DPP)」パッケージの導入だ。DPPは発電所のO&M(運転・保守)におけるリアルタイムデータや、これまで発電所員が保有していた知識や経験・ノウハウなどの情報をクラウド上に集積して共有化し、業務の効率化や高度化に役立てるものだ。
具体的には、三つのテーマで開発を進めている。一つ目は「時を超えてつながる」で、発電所運用に関する過去の膨大なデータを収集して予測に役立てる。二つ目は「空間を超えてつながる」で、発電所にいなくても遠隔地でデータを共有し、課題解決を図る。三つ目は「あいまいさを形にする」で、発電所の運用で熟練作業員の経験を頼りに運用していた技術をしっかり共有できる形にする―。これらに取り組むことによって、新しい価値を生み出していく。
渡部哲也副社長は「当社を取り巻く環境は大きく変化している。ウクライナやイスラエルなどに代表される世界の情勢、国内に目を向ければ少子高齢化、電力全面自由化など市場環境も大きく変わっている。この変化に対応するために、働き方を変えなくてはならない。これがDXに取り組む意義だ。最新鋭の発電所にDPPを導入することで、次世代を担う変革モデルを確立していく」と説明する。
新1?3号機の運転室を見るとDPP導入を推し進める様子が一目で分かる。写真のように、従来の運転室ではたくさん並んだスイッチや計器類が一切ない。運転員はパソコンを操作し、大きな共用モニターに運転状況やさまざまな情報が表示される。

姉崎発電所の運転室。スイッチや計器類は一切ない


DDPの中核を担うのは、同社東日本支社に設置したG―DAC
(Global-Data Analyzing Center)だ。同センターは国内外の発電所をIoTでデータ連携し、24時間遠隔サポートを行う部門で、現在はJERAの国内外発電所64ユニットを遠隔監視している。自社開発のアプリケーションを通して、設備の予兆管理によるトラブル回避、リアルタイムな情報とデータ分析による予知保全のサポートを行い、発電所の稼働率や熱効率の改善につなげている。発電所ではG―DACからデータ分析に基づく技術支援を得ながら、O&M業務を行う。


マイクロソフトと提携 グローバルにビジネス展開

9月にはマイクロソフトと発電所の運用効率向上、環境負荷低減を図るクラウドソリューションの共同開発を行うと発表した。具体的には、マイクロソフトの生成AI
や「Azure Digital Twins」技術、JERAが有する発電所データや知見、発電所の運用ノウハウを活用したO&Mソリューションを共同開発していく。
この一つとして、G―
DACと現場をつなぎ仮想空間(メタバース)を利用してO&M業務のやり取りを行う。G―DACのアナリストと発電所の作業員はアバターを通じて電話やチャットでコミュニケーションを図りながら、課題の解決を図る。海外の発電所の作業員との会話は同時に翻訳される仕組みになっている。
メタバース上では、JERAが長年蓄積してきたデータやノウハウを学習させた生成AI「エンタープライズナレッジアドバイザー(EKA)」が常時使用でき、「ChatGPT」のように自然言語で質問すると、膨大な資料に基づいた回答を得ることができる。これにより、発電所のノウハウを共有していく。

メタバース上のG-DACアナリストと発電所員
VRヘッドセットを装着してメタバースにアクセスする


JERAとマイクロソフトは、発電所運営の高度化、新たなイノベーションとビジネス機会を創出するための共同運営体制「Digital Acceleration Office」を構築する。
さらに、グローバルな顧客基盤を活用し、アジアを中心とした共同セールス・マーケティング活動も展開する予定だ。
DPPに関しては、今後も随時更新を行い、さらに性能を高めていく構えだ。

【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。

【特集2】強みが生きるCCS・CCUS 脱炭素の切り札に技術開発進める


【石油資源開発(JAPEX)】

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、石油資源開発(JAPEX)は「JAPEX2050」を策定し50年までに温室効果ガスネット排出量ゼロを目指す。 具体的には、同社のE&P(探査・生産)事業の知見が生きるCCS(CO2回収・貯留)/CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)による実質排出量の削減を主軸にすすめていき、同分野のトップランナーとして早期実現に向けて注力していく方針だ。


苫小牧と東新潟で調査を受託 生産した油ガス田を活用へ


その代表的な取り組みが、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の23年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の受託だ。JAPEXは苫小牧と東新潟エリアを請け負う。北海道・苫小牧エリアは出光興産と北海道電力、東新潟エリアは三菱ガス化学と東北電力、北越コーポレーション、野村総合研究所をパートナーとしてCCSの実現性調査を実施する。野村総合研究所を除くいずれの企業もCO2を排出源となる発電所や製油所、プラントや工場を持つ企業。しかも、貯留地として有望視されるJAPEXの油ガス田周辺に製造拠点があるため、CO2輸送にコストが掛からないのが大きな特長だ。

貯留地として有望視される東新潟ガス田


「油ガス田は生産した原油や天然ガスの貯留実績がある。CO2を圧入後も長期にわたって変化しない安心感がある。ただ、目標とする30年時点で貯留量年間約150万tに対し、規模が適しているかどうかは調査で見極めていきたい」。環境事業推進部・新規事業推進部担当の池野友徳常務執行役員はこう話す。
なお、苫小牧エリアは勇払油ガス田と、海域の新規貯留地の二つ候補地があり、年度内に決定する方針だ。
国のロードマップを見ても、水素やアンモニアなどの次世代燃料が台頭していく一方で、熱源として天然ガスの利用は続くとみている。その中でCO2の処分方法としてCCS・CCUSは必要であると示している。池野常務は「当社のスタンスも同様だ。長期にわたってこの取り組みを続けていく」と強調する。脱炭素の切り札にするべくCCS・CCUSの技術開発に注力していく構えだ。

【特集2】CO検知で火災通報をより早く 安全向上に警報器買い替えを促進


【新コスモス電機】

新コスモス電機の一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」が発売から半年で2万台を突破するなど好調だ。同製品は100ppmの一酸化炭素(CO)を検知すると、音声で注意報を発するとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げ、煙センサーのみの火災警報器より早く発報するなどの特長を持つ。

一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO」


火災実験ラボ開設 多くの来場者で好評

2011年に全ての住宅に火災警報器の設置が義務化され、今年6月時点での設置率は84・3%に達する。設置の普及により、住宅火災による年間死者数は900人と減少したが近年は横ばい状態だ。令和4年版の消防白書によると、建物火災による死因のうち、CO中毒・窒息が4割を占めている。COは血液中のヘモグロビンと結び付きやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭。1分1秒でも早くCOの存在に気付くことが生死を分けることになる。「火災原因のトップはタバコの火の不始末による寝具への着火。布団は不完全燃焼を起こしやすく、炎はほとんど出ない。CO検知での注意喚起が有効」とリビング営業本部開発営業部の大和功部長は説明する。
新コスモス電機は5月に火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。COの危険性と合わせて、プラシオの有効性を伝えるための施設となっている。ラボ内では、寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団に火をつけ、煙式のみの火災警報器よりCOを検知するプラシオの方が早く警報する様子や、天ぷら油を熱して熱感知式より煙感知式の警報機の方が早く発報する様子など、火災と警報器の様子などが体験できる。

連日盛況のプラシオラボ


「開設して数カ月経つ。ガス業界や消防関係などを中心に多くの方に来場していただいている。10月までほぼ毎日予約で埋まっている」(大和部長)と盛況だ。
同社では小中学生を対象に「COとはどのようなガスなのか」といった内容を分かりやすく説明する教育プログラムも実施する予定。さらに、アミューズメント感覚で消費者が火災や警報器について理解できる内容なども目指す方針だ。
警報器は電池駆動で、寿命は約10年程度。前述の火災警報器の義務化の時期に設置した製品がちょうどリプレース時期に当たる。警報器が作動しないと、火災が増える可能性がある。同社では、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、電子商取引(EC)サイトや全国の家電量販店、ホームセンターに拡大するなど、販売活動に力を入れ、リプレースを促していく構えだ。

【特集2】大地震からのガス復旧に貢献 重要施設向け製品が好調


【I・T・O】

ガス供給機器メーカーのI・T・Oが35年にわたり注力するのが移動式ガス発生装置だ。1995年の阪神・淡路大震災、2004年、07年の新潟中越地震と中越沖地震、甚大な被害をもたらした東日本大震災、記憶に新しい16年の熊本地震や18年の大阪北部地震―。いずれの地震においても都市ガス事業者は同装置を携えて被災地で復旧作業を行った。
移動式ガス発生装置の誕生は、90年までさかのぼる。当時、旧通産省では都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画を進めており、日本ガス協会のワーキンググループで13Aに統一するための熱量変換工事用設備として移動式ガス発生装置を取り上げた。しかし︑当時のガス事業法では使用が認められておらず、阪神・淡路大震災の際︑避難所で都市ガスが使えず各方面から指摘された︒﹁移動式を活用できないか﹂との要望で急きょ制度が見直され、同年中に製品化にこぎ着けた。


簡単に操作できる装置 病院など重要施設向けに販売

被災現場では一刻も早い復旧が求められている。特に避難所となる学校や、病院や福祉施設などはエネルギーが不可欠だ。そこで、同社はだれでも簡単にタッチパネルで操作して供給できる液化石油ガスエアー(プロパンエアー)発生装置「New PA」を開発した。現在は、同装置を組み込んだ都市ガスと電気を製造する防災減災システム「BOGETS」として販売している。これはNew PAと、都市ガスとプロパンエアーを切り替えるワンウェイロックバルブ、耐震LPガス容器スタンド、ガス成分とガス臭を吸着するパージユニットなどで構成される。
「医療機関は既設の発電機が医療設備の稼働に利用できると思っているが、実際はスプリンクラーなど消火設備向けなので利用できない。小中学校では体育館の空調設置がこれから進む。そうした施設に向けてガス発電機と合わせてさらに拡販していきたい」と営業本部長の高野克己氏は話す。

防災減災システムの核となる「New PA」


今年も台風が甚大な被害をもたらしている。全国各地の自治体がBOGETSに関心を寄せているという。災害に欠かせない存在として、さらに普及していきそうだ。

【特集2】合成燃料用試作プラントを建設 サプライチェーンの構築を急ぐ


【ENEOS】

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、ENEOSは次世代エネルギー事業に多角的に参入し、合成燃料の開発において、合成燃料やSAF(再生航空燃料)などにも取り組む。2040年までに、合成燃料はプラント規模として日産1万バレル程度、SAFは国内最大の供給体制を確立しシェア50%獲得を目指している。

5月にトヨタと合成燃料の走行試験を実施した

合成燃料の開発は22年にグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として採択されたことを契機に研究を本格化した。GTL(ガス液化油)技術で培ったFT(触媒反応)合成技術やアップグレーディング技術などを活用し、合成粗油を製造、精製することで目的の液体燃料をつくり分けることができる。

合成燃料は石油由来の製品と同等の性状でありながら、水素とCO2を原料とするため、製品ライフサイクル全体においてCO2排出量を抑えることのできるCN燃料である。

合成燃料の実用化に向けた課題はコストだ。大量の再エネ水素と高濃度のCO2を調達し安価な製造が必須と言われている。経済産業省の試算によると現状の製造コストは1ℓ当たり700円程度で、内訳は水素が634円、CO2が同32円、製造コストが同33円。水素が合成燃料コストの大半を占める。将来、海外の水素価格が政府目標の127円まで下がれば、そのコストは200円程度に下がると予測されている。

早坂和章サステナブル技術研究所長は「製造コストの大半を占める再エネ水素を安価に調達しなければならない。まずは国内でサプライチェーン構築に向けた開発を行う。商用化の製造拠点は決まっていないが、海外での製造も想定している」と説明する。

この目標に向けて、同社では日産1バレルのベンチプラントを24年度上期から運転を開始し、検証を行う。その後、同300バレルのパイロットプラントの運転を通じ、その後できるだけ早い段階での社会実装を目指す。

航空燃料の10%をSAFに 和歌山製油所を製造拠点

SAFでは、政府が国内航空会社や石油元売りに対し、30年までに航空燃料使用量のうち、10%をSAFに置き換えるよう促している。これに対応するため、ENEOSでは、和歌山製油所を活用し製造体制確立に取り組んでいるほか、国内生産開始前の対応として、輸入体制構築を進めている。

SAFの原料調達・製造技術においては、ノウハウと実績を持つ仏エネルギー大手のトタルと協業。将来的に両社は年間30万t(40万㎘)のSAF製造を想定し、製造事業を行う合弁会社を設立予定だ。海外でも、日本への輸出を視野に入れ、豪州Ampol社と製造設備投資に関する初期検討を開始した。

開発や事業化の取り組みが急速に進む合成燃料とSAF。石油元売最大手の取り組みが今後の動向の大きな鍵を握っている。

【特集2】脱炭素化を加速する最先端実証 CCS要素技術の気になる中身


【関西電力舞鶴発電所】

火力発電の脱炭素化に向けた有力技術の一つとして注目されるのがCCSだ。サプライチェーン構築に向けて、関西電力の舞鶴発電所で二つの実証が始まっている。

ベースロードとして、重要な役割を果たす石炭火力。この安定供給維持に欠かせない電源においても、2050年のカーボンニュートラル(CN)達成に向けては、CO2排出量削減を図る取り組みを進めていかなければならない。その有力候補の一つがCCS(CO2の分離・回収)だ。CCSはこの数年でCN達成に必要不可欠な技術であるとの認識が世界的に急速に広がりつつあり、日本においてもさまざまな実証が立ち上がっている。

二つのCCS実証が開始 コスト削減を進める

石炭火力におけるCCSの取り組みは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業「CO2固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」と「CO2船舶輸送に関する技術開発および実証試験」がある。現在、二つの実証は関西電力の舞鶴発電所(出力180万kW)を舞台に展開中だ。

舞鶴発電所の固体吸収材実証プラント建設イメージ


固体吸収材を用いた実証は、川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)が実施する。舞鶴発電所の敷地内に省エネルギー型CO2分離・回収システムのパイロット設備を建設。発電所の燃焼排ガスの一部を利用し、川崎重工の「KCC移動層システム」とRITEのCO2用固体吸収材を用いてCO2を分離・回収する。
分離・回収には、これまでアミン水溶液を用いた吸収法が採用されてきた。ただ、CO2を吸収したアミン水溶液からCO2を分離するには、110℃程度の処理熱が必要になる。これに対し、実証するRITEの固体吸収材では同60℃程度まで低減できる見込みだ。NEDO環境部次世代火力・CCUSグループの布川信主任研究員は「CCSの課題の一つにコスト低減がある。固体吸収材によって熱処理温度を大幅に下げることができればコスト削減につながる」と期待する。
固体吸収材はCO2を吸着する性質を持つアミンを含有した球型多孔質セラミック材料で、これをKCC移動層システムに入れ込む。同システムには三つの工程があり、吸収塔で固体吸収材を用いて排煙からCO2を回収し、再生塔で吸収材に蒸気を流してCO2を分離。乾燥塔で吸収材を乾かした後に吸収塔に戻して再利用する。これを循環させて行う。
今回、舞鶴発電所に建設する実証設備の処理能力は日量40t規模。実証ではシステムの運用性や信頼性の評価、さらに固体吸収材の製造やプロセスシミュレーションなど基盤技術を開発し、固体吸収材の適用性拡大を図る。
CO2船舶輸送実証は、日本CCS調査、エンジニアリング協会、伊藤忠商事、日本製鉄の4者が実施する。舞鶴発電所から排出されたCO2を液化して北海道苫小牧市まで専用船を使って、出荷・輸送から受け入れまで行い、一貫輸送システムの確立、船舶輸送の事業化調査を実施する。年間1万t規模の輸送を行う計画だ。
CO2船舶輸送においても低コスト技術の開発が鍵となる。「液化CO2を低温にすれば、輸送タンクへの圧力を低下でき、タンクの肉厚を薄くしコスト削減を図ることができる。最適な温度・圧力条件を探していく」(布川主任研究員)
輸送船は三菱造船が建造した。エンジニアリング協会が、船主である山友汽船から傭船、研究開発設備である液化CO2の舶用タンクシステムを搭載し運用する。
固体吸収材と輸送船の実証は連携しており、固体吸収材を使って回収したCO2を液化して、ローディングアームで輸送船に搭載して苫小牧市まで運んでいき、降ろして貯蔵タンクに入れる工程までを実証する。

液化CO2輸送試験船のイメージ図

90年代から取り組む関電 CCS実用化に期待

実証の場を提供する関西電力もCCS実用化に向けて取り組みを1990年代から進めてきた。CO2回収装置の研究を三菱重工エンジニアリングと共同で実施。南港発電所(大阪市)にパイロット設備を建設して、吸収液「KS1」を開発した。現在までに「KS21」まで更新され、回収設備は商用化されている。
昨年3月には、国の50年CN宣言を受けて「ゼロカーボンロードマップ」を発表。火力発電の脱炭素化に向けた手段として水素・アンモニア発電、CCSを挙げた。CCSは分離・回収、輸送、貯蔵のバリューチェーン全体に関わっていくことも含め検討を進めている。今年1月には、三井物産と貯留に関する事業性調査の覚書を締結。関西電力が運営する火力発電所から排出されるCO2を対象として、関西電力が回収、三井物産が輸送・貯留を主に担当し、バリューチェーンを一気通貫した事業性などを調査・検討する。
加えて、川崎汽船と液化CO2の船舶輸送に関する共同検討について覚書を締結しているほか、CCSバリューチェーンの事業性調査をエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から受託している。
「50年CN達成からバックキャストして検討を行う中で、あらゆる技術の進歩に期待している。CCSは実用化するにはコスト低減など課題はたくさんある。一つひとつ解消して実用化にこぎ着けたい。NEDOの実証では、バックアップする役割を担い、良い成果を上げることを願っている」。関西電力火力開発部門脱炭素技術グループの山本哲生チーフマネジャーはこう話す。
電力事業者から見れば、CCSをはじめとしたCN達成に向けたコストは追加でかかるものであり、前述のように可能な限り低減していく必要がある。元来、発電コストが安い石炭火力で、CCSを実現することへの期待は大きい。

(舞鶴発電所は3月14日に火災事故が発生したが、運用を再開。同社への取材は3月6日に行った)

【特集2】大型車両への大流量充填 技術センター新設で開発加速


【トキコシステムソリューションズ】

国内での水素利用は、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」をはじめとした乗用車がけん引役となって始まり、水素ステーションなど関連施設の整備も進められた。現在、そうした動きに加え、トラックやトレーラーなど大型車両分野の開発・普及に向けた目標が設定されつつある。水素ディスペンサーにおいても、大型車両に合わせた高圧・大流量品の開発が始まっている。


こうした次世代品の開発を加速させるため、トキコシステムソリューションズは昨年9月、水素先端技術センターを開設した。設備には従来比5・5倍の吐出能力を有する圧縮機、同2・4倍の蓄圧器、同5・5倍の模擬充填タンクなどを導入。これにより、従来比3倍以上の大流量充填が実現し、乗用車など小型FCVでは3分程度、大型トラックでは10分程度で済ませる時間短縮技術や、1台のディスペンサーで乗用車とトラックなど異なるサイズの2台の車両に同時に水素を供給する充填技術、圧縮機や蓄圧器などのステーション機器の効率的な運転制御技術などの開発を手掛けている。さらに、出荷前試験の能力も従来の1カ月当たり最大6台から同20台へ引き上げた。
開発テーマのうち、FCVへの2台同時充填は、蓄圧器にためた水素をFCVタンクとの差圧を利用する。従来設備のまま2台同時に充填すると、タンクの圧力が低いFCVの方に水素が流れていき、先に充填しているFCVは待たされてしまう。設計開発本部の榧根尚之担当本部長は「圧縮機、蓄圧器の台数を増やせば解決するが、コスト増を最小限に抑えることが求められる。その解を見つけていく」と話す。


福島県で実施のNEDO事業 大流量ディスペンサー開発

このほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業」にも参画する。昨年度、整備された「福島水素充填技術研究センター」(福島県浪江町)で、大型車両への大流量水素充填技術や計量技術の開発・実証を行っている。ここでも、大型車両への充填時間を短縮することを目指している。
「従来のトラックなどが軽油を給油するのにかかる時間と同等の所要時間がターゲットだ。大型車両向けでは、1台のディスペンサーから2本のノズルで同時充填する開発を進めている。これは従来のトラックが軽油を2本のノズルで給油しているのと同様の考えだ」(榧根氏)
大流量に向けては配管など周辺技術の開発も進める。エンジニアリングも手掛けるトキコならではの取り組みだ。FCVの普及には水素供給を支える設備側の取り組みも不可欠であり、同社から目が離せない。

【特集2】水素燃焼試験サービスを開始 サプライチェーン構築も推進


【東邦ガス】

企業のカーボンニュートラル(CN)への取り組みが活発になってきた。特に製造業では工場のCN化を求められる可能性が高く、対応策を検討する企業が増えている。こうした中、エネルギー事業者にもCNに対応するサービスや製品の展開が求められるようになってきた。


24年に水素供給を開始 知多緑浜工場を一大拠点に


東邦ガスは昨年3月に中期経営計画を発表、この中でCNの推進を掲げた。具体的な施策として、水素をガス・電気と並ぶエネルギーの軸として位置付け、サプライチェーン構築に向けた需要創出と供給体制整備の両面から取り組みを展開し、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立するとしている。

水素サプライチェーンのイメージ図


供給面では、同社の知多緑浜工場内に2024年までに日産1・7tの能力を有するプラントを建設し、水素供給を開始する。その後、同地域の水素需要の拡大に合わせてプラントの規模を同5t程度まで拡充していく計画だ。水素製造時に発生するCO2は、当面はクレジットの活用により相殺しつつ、分離回収・利用することも計画している。
さらに、水素の輸送・供給や消費の分野で知見・ノウハウを持つ企業とのアライアンスを進め、水素の普及拡大に向けた基盤を構築し、将来的には、知多緑浜工場を海外輸入水素の受入拠点とすることを目指す。
需要創出では、21年4月に自動車や機械などの金属部品製造の熱処理工程で利用される都市ガス用シングルエンドラジアントチューブバーナーの水素燃焼技術を開発した。
水素燃焼は都市ガスに比べて火炎温度が高いことから、NOX(窒素酸化物)排出量の増加やバーナー部品の劣化が課題となっている。同製品は水素燃焼時の排ガスを再循環させることで、都市ガス燃焼時と同等のNOX排出量と耐久性を実現した。
さらに、循環する機構とバーナー本体部と脱着交換できる仕様になっており、都市ガスから水素に移行する際に、バーナー一式を交換するよりも手間やコストを抑えることができる。部品コストは同社の標準的なバーナー本体部の10分の1程度で済むとのことだ。

既存設備を有効利用 特性に合わせた運用法探る


製品開発に加え、21年10月からは水素燃焼試験サービスを開始した。同社技術研究所に顧客が生産現場で使用するバーナーや炉を持ち込んでもらい、水素燃焼試験を行うものだ。
「CNに向けて顧客の関心は高まっているものの、水素試験を自前で行うには、供給施設を新設するなどコストがかかる。従来と異なる火炎のコントロール、安全面への配慮なども必要になるため、これまで水素を取り扱っていない事業者にとってはハードルが高い。そこで、このサービスを利用すれば大きな費用負担なく、水素燃焼試験を実施できる」。産業エネルギー営業部営業推進グループの柘植紀慶係長は同サービスの特長をこう説明する。
試験には燃焼に関するノウハウを持った技術員が立ち会い、使用する供給設備などは水素の特性を考慮した安全対策が実施してある。
試験はまず顧客が持ち込んだバーナーが水素燃焼への対応が可能か不可能か、不明の場合は確認する。そして、①燃焼安定性、②火炎長・火炎温度、③ノズル・ボディ温度、④燃焼前後の外観、⑤排気組成―などを計測・確認していく。

水素を燃焼したサーモグラフィー写真
都市ガスを燃焼したサーモグラフィー写真


水素は燃焼速度が速く、火炎温度が高いという特徴がある。都市ガスバーナーで燃焼温度が12
00℃の場合、水素では1400℃に相当し、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナーの部品が劣化しやすい。さらに燃焼速度が早いため逆火が発生する恐れもある。
サーモグラフィーの写真(図1)は試験時の火炎の様子だ。都市ガスと比較して水素の火炎は中央部が薄い赤色をしている。これは水素が高温で燃焼していることを示す。NOX対策では、空気比(燃焼用の空気の割合)や出力を調整することで最適化を図っていく。
水素の火炎は都市ガスのように目視で確認できない(図2)。都市ガスでは炎を見て燃焼状態の調整が可能だが、水素ではそれができないため、排ガスの酸素濃度などを確認しながら調整する必要があるなど、運用面でも違いが出てくるとのことだ。

水素の火炎。目視で確認できない
都市ガスの火炎


長谷川順一マネジャーは「製造業を中心に10社以上が同サービスを利用している。水素への関心が高い顧客は、製造現場での検証に着手している。新規の問い合わせも増えてきた。今後さらに増えていきそうだ」と、手応えを感じている。
同サービスによって得た結果から、企業は水素導入に向けた具体的なシナリオを描くことができる。こうしたCNに向けたサービスは、一段と関心が高まりそうだ。

産業エネルギー営業部の長谷川氏(左)、柘植氏

【特集2】自治体が推進する水素活用 グリーンP2Gに引き合い多数


【山梨県】

水素への取り組みは企業ばかりではなく、自治体主導で進めているものもある。山梨県のグリーン水素製造の取り組みには国内企業からの引き合いが相次いでいる。

山梨県と東京電力ホールディングス、東レの3者は昨年2月、共同開発を行ってきた再生可能エネルギー由来の水素を製造するパワーtoガス(P2G)システムを扱う事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立した。同システムは再生可能エネルギーを用いて水素を製造することが可能。カーボンニュートラル(CN)を目指す企業を中心に導入の決定が相次いでいる。

米倉山電力貯蔵技術研究サイト


その動きに国も注目。岸田文雄首相、菅義偉元首相、西村康稔経済産業相など、この1年で新旧5人の閣僚が実証拠点である米倉山電力貯蔵技術研究サイト(甲府市)を訪れたという。同地を見学した岸田首相は「国産水素の大規模な供給拠点の整備は我が国にとって重要。政府としても後押しする」とコメントしている。

国内最大規模のP2G サントリー白州工場に導入


昨年9月には、山梨県とサントリーホールディングスがサントリー白州蒸留所と南アルプスの天然水白州工場の脱炭素化に向けて、大容量・モジュール連結式のP2Gシステムを導入する発表した。国内最大級となる1万6000kW規模のシステムを構築し、年間で2200tの水素を製造、これを燃料として利用することで、1万6000tのCO2削減を図るとのことだ。
「海外でも水素実証が進んでいる。2万kWクラスの水素製造設備を入れて実証を進めている拠点が5カ所程度ある。だが、水電解装置に使う膜が異なる。YHCが利用する東レが開発した固体高分子(PEM)型電解質装置の電解質膜は海外製より約2倍の水素を取り出せる。サントリーに導入するシステムの水素製造能力は世界最大になるだろう」。山梨県企業局電気課新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長はこう胸を張る。

P2Gシステムを導入するサントリー白州工場


海外展開も視野に入っている。スズキと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国際実証事業として、インドの工場へのP2Gシステム導入に向け、水素需要やコストなど調査し導入検討に入った。このほか、スコットランドでも導入に向け検討に入っている。

大規模な研究開発施設が稼働 米倉山を水素開発拠点に


今年4月には、P2Gの拠点である米倉山に建設した「次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ」が稼働を開始する。YHCのほか七つの企業や団体が入居し、水素・燃料電池の研究を行う。東京から技術研究組合のFC―Cubicも移転して研究を進める。P2Gシステムからパイプラインを引き、同施設に送りグリーン水素を用いてさまざまな研究が行われる予定だ。
水素利用の面でも注目を集めている。半導体装置のコンポーネント製造や食品加工の分野でもCN達成を見据え、導入検討が進んでいる。昨年3月には、自動車レース「スーパー耐久シリーズ」に参戦するトヨタ自動車の水素エンジンカローラの燃料として、YHCで製造したグリーン水素を提供した。「水素提供はエネルギー関係者以外から反響が大きく、YHCを知ってもらう良い機会になった」(宮崎氏)。

紹介した事例はこの1年にあった出来事で、話題を呼ぶ内容が目白押しだ。同社の快進撃がうかがえる。今後は、P2Gシステムの導入企業を増やしていくのと並行して、導入が決まったプロジェクトを着実に立ち上げて成果を上げていくことに注力していく方針だ。

自動車レースに参加し水素供給を行った

【特集2】圧倒的な省エネ性能の給湯器 ZEH住宅への採用進む


【リンナイ】

電気とガスの両方を使うハイブリッド給湯器「ECO ONE」が好調だ。エネルギー価格の高騰やカーボンニュートラルなども追い風となっている。

エネルギー価格の高騰が家計に打撃を与えるといったニュースが毎日のように飛び交っている。そんな中、リンナイの家庭用給湯・暖房システム「ECO ONE」が省エネ性能によって注目を集めている。同製品は給湯に電気とガスの二つを利用し、単一のエネルギーに依存しないのが大きな特長だ。

「ECO ONE X5」集合住宅専用モデル


2011年の東日本大震災が発生する以前は、原子力発電が多く稼働し、深夜電力が有効活用できるエコキュートが急速に普及した。震災後はBCPの観点からエネルギー源を複数確保するため、ガスの利用が見直された。その後、電力とガスの小売り全面自由化や、国の50年脱炭素宣言など、エネルギーを巡る動向は日々刻々と変化している。「そうした制度面や社会の変化によって、省エネ強化の流れが加速した。住宅メーカーは脱炭素化への意識が高く、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の家づくりを推進している。ZEHの省エネ基準は数値化されており、省エネに寄与するならば設備採用を検討する。これがECO ONE販売の追い風となっている」。営業本部ハイブリッド営業室の柴田毅課長はこう話す。
最新機種「ECO ONE X5」では、貯湯タンクを70ℓと小型化したモデルをラインアップに加えた。都市部の住宅は貯湯タンクを設置するスペースが確保されておらず、これに対応するためだ。単にタンクを小型化すると省エネ効率は下がる。そこで新制御「ターボヒーティング」を採用した。風呂の湯はりなど、使用量が多い時間帯にヒートポンプの沸き上げ能力を通常の2.3kWから3.9kWに上昇させて運転。これにより、少ないタンク容量でも既存のECO ONEの100ℓタイプと同等の省エネ性能を実現した。エネルギー消費量は、従来のガス給湯暖房器より約39%削減している。
さらに、集合住宅専用モデルの販売を9月から開始する。集合住宅特有の設置環境に対応した省スペース設計で、メンテナンス性にも配慮したものとなる。これにより、マンションのZEHの標準化にも寄与していく構えだ。

電気とガスの利点生かし 負荷平準化・安定供給に貢献

同社では、ECO ONEの電気とガスの両方を利用する特長が、電力需要の平準化に利用できるのではないかと考えている。多くの原発が停止する中、エコキュートの販売台数は800万台を突破し深夜電力の使用量は増えている。一方、昼間は再エネの導入拡大が進み晴天時の供給量は増加傾向だ。「ECO ONEは電力供給量が過多のときは、ヒートポンプでお湯を沸き上げ、ひっ迫時はガスを利用することが可能で、時間とエネルギーの両方をシフトできる。この機能を活用し電力の平準化、安定供給に活用できるのではないか」と、柴田課長は話す。
ECO ONEのDR(デマンドレスポンス)活用――。そのためには一定の台数の普及が必要となる。同社では30年までに30万台の販売を目標に掲げる。この台数達成時にはDR活用が本格化しているだろう。

【特集2】豪雪地帯への太陽光導入 蓄電池併用し光熱費を大幅減


【デルタ電子】

豪雪地帯への太陽光発電導入は設置が難しくなかなか進んでいない状況だ。デルタ電子は独自の設置方法を開発。長野県野沢温泉村の店舗に太陽光と蓄電池を導入した。

長野県野沢温泉村は冬季の積雪が4mにおよぶ豪雪地帯だ。パウダースノーが楽しめる屈指のスキー場として世界的にも有名で、毎年多くのスキーヤーが訪れる。しかし近年は、「年々気温が上昇し、数十年前に6カ月あったスキーシーズンが徐々に短くなっている。名物の雪質にも影響が出始めている。観光が主産業の村には大きな打撃だ」。そう語るのは元プロスキーヤーで、現在は同村議員を務める上野雄大氏だ。

上野氏が運営する店舗と太陽光パネル


そんな状況に対して、上野氏は温暖化緩和に個人で少しでも貢献し、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーで村を活性化できないかと考えた。そこで昨年9月、デルタ電子に依頼して自らが運営するスキー用品などを扱う店舗に、太陽光発電と蓄電池を導入した。
豪雪地帯に太陽光パネルを設置するには工夫が必要となる。屋根に設置すると積雪の重みに耐えられないため、日光が当たる壁面に設置することになる。デルタ電子では金具メーカーのスワロー工業と共同で壁面設置用の架台を開発し実現した。壁面は屋根より設置するパネルが限られるが、悪いことばかりではない。雪が残る地面からの反射光がパネルに当たり発電出力を稼ぐことができるのだ。
デルタ電子エナジーインフラ営業本部の高嶋健マネージャーは「設置設備の定格出力は3・4kWだが、12月に降雪した地面からの反射光で1・2倍の4kWに達した。長年太陽光発電を手掛けているが、ここまでの高い出力は見たことがない」と驚いている。

小売り事業者を切り替え 電気料金を約3分の1に


蓄電池の活用においては、電力プランを中部電力ミライズのスマートライフプランに切り替えた。同プランは平日昼間が1kW時当たり38・71円、深夜が同16・3円。格安な深夜帯の電気を蓄電池にフル充電して、太陽光だけでは不足する午前中と夕方の電力消費を補う。これにより、使用電力の90%以上を太陽光と深夜電力で賄い、電気料金を設備導入前から約3分の1に削減した。
「再エネにより年間通して光熱費を削減できそうだ。メリットが確認できたら、村内での普及を目指したい」。上野氏はそう将来を展望する。
日本の国土面積のうち豪雪地帯が占める割合は51%、居住する人口も15%と占める割合は意外と大きい。再エネ未開の地をどのように開拓していくか―。今回の取り組みはその一歩になっていくに違いない。

【特集2】エネルギー危機への対応急ぐ欧州 変貌する家庭用市場の最新事情


欧州では昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー情勢が激変している。これを受けて、家庭用市場も新たな動きが出てきた。国内でも参考となる事例を専門家が解説する。

2022年2月、ロシアによるウクライナへの侵攻で欧州のエネルギー情勢は激変しエネルギー危機をもたらした。ロシアへの制裁措置としての天然ガス調達削減は欧州全体にエネルギー価格高騰による経済的な影響を与えるだけでなく、エネルギー供給途絶に対する心理的不安も与えた。
その後、欧州委員会は同年5月に「省エネ」「エネルギー調達先の多様化」「再エネ移行の加速」の三つを主要施策とするREPowerEU計画を提案。27年に向けてロシア産ガスの依存をゼロにするとともに、50年までに温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「クライメイト・ニュートラル」実現に向けコミットメントを強化している。
その結果、欧州のエネルギー市場においてはさまざまな動きが起きているが、今回家庭用市場にフォーカスし、新たな三つのトレンドと今後の日本市場への示唆について解説していく。

一つ目のトレンドは家庭用市場におけるヒートポンプ(HP)の普及拡大である。欧州の家庭用暖房システムはガスボイラーによる温水循環方式が一般的であり、温室効果ガス削減のためには、本領域における経済性の高い対策実施が重要となっている。従来ガスボイラーから温水循環型HPへの入れ替えは、初期投資およびランニングともにコスト上昇となり経済性が成立しなかった。しかしながら、天然ガス価格の高騰でランニングコスト差が相対的に減少したことにより、HP方式への転換による投資採算性が改善した。
その結果、21年の欧州におけるHPの販売台数は前年比30〜50%以上で急拡大している。今後のHP普及拡大に向けては初期投資コスト低減、工事施工作業者の育成、機器生産能力の確保など課題はあるが、REPowerEU計画においてロシアからのガス依存脱却に向けHPの普及は重要な施策と位置付けられているため、今後HPの普及はさらに拡大が予想される。
二つ目のトレンドはHEM(ホームエネルギーマネジメント)普及拡大だ。「クライメイト・ニュートラル」実現に向け家庭用市場においては、太陽光発電と蓄電池による自家消費比率の拡大、暖房・給湯領域の電化、EV充電設備の導入などが拡大しているが、これらの設備の導入に伴いHEMシステムの導入も拡大している。英国LCP Delta社の分析では、20年にはHEMシステムは欧州全体で年間22万件に導入されていたが、今後30年までに累計1000万件以上が導入されると予想している。
欧州でのHEMとは、家庭内でのエネルギーフロー全体のタイミング、使用量、組み合わせを自律的(自動的)に監視、制御、最適化する仕組みであり、快適性やCO2削減などの需要家の意向を最適化するだけでなく、外部からのエネルギー価格情報との連携により、需要家の経済メリット最大化を同時に実現するシステムである点が最大の特徴である。
また需要家の経済メリットでは、家庭内における自家消費の最大化、TOU(時間帯別料金)に基づく負荷シフトなどにより電力コストを最小化するだけでなく、電力システム(系統)側に需要家アセットを活用したDSF(デマンドサイドフレキシビリティ)を提供することで、TSO(送電管理・系統運用者)におけるアンシラリーサービス、小売り事業者やVPPにおけるインバランス抑制として活用し創出される金銭的価値の一部を需要家が共有することも含まれている点が重要なポイントだ。


欧州におけるHEMシステム全体像イメージ  出典:LCP Delta社資料より抜粋

ヒートポンプ需要拡大 HEMシステム導入進む

三つ目のトレンドは、需要家におけるリスク低減ニーズの拡大である。今回の欧州エネルギー危機の結果、欧州の家庭用需要家においては温室効果ガス排出量やコスト削減のニーズに加え、エネルギー価格高騰におけるリスク回避ニーズも拡大している。その結果、家庭用需要家の初期投資コストと運用コストの両方のリスクをサービス提供事業者が担保するEaaS(Energy as a Service)も新たに誕生している。例えば、オランダe-conic社などでは太陽光発電、HP、蓄電池、EV充電器などを初期投資不要で毎月定額で提供する家庭用向けのEaaSがスタートしている。これまで家庭用におけるEaaSの事例が少なかったが、今回のエネルギー危機で今後同様のモデルは拡大していくと予測されている。
欧州エネルギー危機による家庭用市場における新たな三つのトレンドについて紹介したが、国内市場においても同様なニーズが拡大すると想定される。
つまり家庭用エネルギー消費構造が太陽光発電や蓄電池、HP給湯機、EV充電の普及拡大に伴い電力消費比率が高くなる一方、今後も化石燃料の価格高騰リスクも継続すると想定されるため、欧州同様に家庭用需要家におけるエネルギーリスクへの不安は拡大すると想定される。
そのため、今後の国内家庭用市場でも欧州と同様に需要家宅内の快適性だけでなく、経済メリットを同時に最大化するHEMサービスや、初期投資コスト不要で太陽光発電や蓄電池、HP給湯機などを導入し月額定額で提供する家庭用EaaSビジネスのニーズは拡大すると予測される。
今後の市場環境の変化により、これ以外にもさまざまな新たなニーズが生まれるだろう。継続的な欧州市場の分析に基づく国内市場への事業検討は、今後さらに重要になっていくと見ている。

やまもと・ひでお 大手都市ガス会社を経て、2001年入社。エネルギー需要家に対するエネルギー・カーボンマネジメント構築支援や新規エネルギー事業立ち上げ支援などを担当。現在、英国企業と連携し、欧州の海外先進事例に基づき「デジタル」「フレキリビシティ」を活用した新規ビジネスモデル構築に関する支援に携わる。

【特集2】燃料高騰で再エネニーズ急拡大 新ビジネスで開発案件が増加


再生可能エネルギーの需要はこれまでにも増して高まっている。大規模開発には厳しい目が向けられつつも新たなビジネスモデルが続々登場している。

「2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流。以降、世の中の再生可能エネルギーに対する印象が大きく変わった」。開発事業者の幹部がそう語るように、この数年で太陽光や風力に良いイメージを持つ人の割合が大きく減った。代わりに、発電所を建設するための盛り土への懸念、山を切り開く自然破壊、風車が風を切る音の被害など、問題が一気に噴出してきた。制度面ではFIT(固定価格買い取り制度)からFIP(市場連動価格買い取り制度)に移行し市場に統合されることによって、投資インセンティブの確保が難しくなるなど、事業の採算性が厳しくなったともいわれている。

PPAモデルが活況 中小型太陽光の開発進む

そうしたマイナス要因がありつつも、再エネビジネスは50年の脱炭素化に向けて長期にわたり再エネ電気を求めるニーズがこの1年で顕在化しているほか、ウクライナ侵攻によってエネルギー価格が高騰している影響で、需要家側から見て、従来のエネルギーコストと比較しても見合うサービスが登場。導入を前向きに検討する動きが活発になってきている。
太陽光では、PPA(電力購入契約)による自家消費モデルの導入が増えてきた。工場など電力需要の多い企業では屋根を利用して自家消費するオンサイトPPAを採用する。コージェネや自家発電設備を所有する需要家には、再エネの出力変動を吸収しながら安定的に電力を供給するスキームをエネルギーサービス会社が扱う。
都市部など設置スペースがない需要家向けには、遠隔地の中小型太陽光を複数地点まとめて所有し、供給を受けるオフサイトPPAが活況だ。中小型太陽光は低圧から高圧の設備が主流で、系統接続の障壁もメガソーラーに比べると低い。短工期で建設できるため事業者の負担も軽く、需要家もすぐに手に入る。その手軽さが評判だ。

太陽光は中小型の開発が盛んだ


風力では洋上風力への期待が高い。一般海域に設置するための再エネ海域利用法が制定され、事業者の「占用公募制度」が創設された。国が一定の条件を満たした海域を洋上風力の「促進区域」に指定し、その区域であれば、事業者は最大30年間独占して事業ができる。23年度に実施する着床式洋上風力発電事業の入札「ラウンド2」では、秋田県沖など合計4カ所が対象となる。この動向に注目が集まっている。
開発に厳しい目が向けられつつも、再エネニーズはこれまで以上に高まってくるだろう。その要求に応えるように、新規ビジネスが今後さらに登場すると見られる。

【特集2】エネルギービジネスの主流に 系統用蓄電池の未来を占う


【系統用蓄電池編】再生可能エネルギーが普及する中、系統用蓄電池の発展は必然だろう。だが課題も多く、普及拡大にはまず価格の低下が必須になる。

系統用蓄電池が、エネルギービジネスのメインストリームの一つなりつつある。国が今後の「主力電源」と位置付ける再生可能エネルギーには、出力を一定状態に保てないという欠点がある。その欠点を補い再エネの持つ力をフルに活用するには、系統に接続し、必要に応じて充放電を行う蓄電池の存在が不可欠。今後、太陽光発電、風力発電などの普及に拍車が掛かる中、系統用蓄電池ビジネスが大きく進展していくのは必然といえるのだ。
系統用蓄電池に期待されるのは、まず調整力の役割だ。再エネ電源が増えれば、周波数の乱れなどが生じやすくなる。必要に応じて放電することで、周波数を整え系統を安定化させることができる。
限界費用がゼロに近い再エネの電気を使い切り、夏冬のピーク需要時の電力不足を補うためにも欠かせない。需要を超える発電量の時は、その電気を一時的にため、電気が足りない時に放電する。
では、どう具体的にマネーを生み出すのか。系統用蓄電池が参入し、価値を発揮できるのは次の市場だ。①日本卸電力取引所(JEPX)におけるkW時(電力量)、②容量市場におけるkW時(供給力)、③需給調整市場における⊿kW(調整力)―。
系統用蓄電池の市場には、既に大手電力だけでなく、住友商事、ENEOS、オリックス、NTTアノードエナジーなどが参入を表明している。これらの市場でどうビジネスを拡大させていくか、各社は知恵を絞っている。


北海道で申し込みが殺到 系統安定化に貢献せず


とはいえ、まだ課題も多い。今各社が最も力を入れているのは北海道エリアだ。調整力が足らず、需給調整市場で、再エネの出力変動を調整する「三次調整力②」に他エリアよりも高い値段がつくためだ。その弊害が露呈し問題化している。北海道電力ネットワークに対し、各社による系統用蓄電池の接続検討申し込みが殺到。2022年7月時点で61件・160万kWと、エリアの平均需要(約350万kW)の半分近くに達してしまったのである。
また、確実に系統につながり送電できるファーム型接続に申し込みが集中。「系統用蓄電池にはノンファーム型接続により混雑を解消することが期待されていたはず。系統混雑を増やしては本末転倒」(岩船由美子・東京大学特任教授)と批判を浴びている。
経済産業省の審議会はこれらの課題について検討中。いずれ解消されるだろう。だが、最大の課題が残っている。蓄電池が高価であることだ。
「系統用蓄電池の普及拡大を左右するのは、事業者の接続負担金を含めた導入コスト」。ある関係者はこう断言する。メーカー各社は価格を引き下げに努力を重ねているが、まだまだ値段は高い。蓄電池の特性を最大に生かすルール策定と価格の低下―。この二つが系統用蓄電池ビジネスの浮沈のカギを握っている。