【エネルギーフォーラム賞】第44回受賞作の決定


「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。

各賞および選考委員は以下のとおりです。

<各賞>

エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円

優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円

普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円

特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円

<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>

大橋 弘(東京大学副学長)

神津 カンナ(作家、エッセイスト)

田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)

十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)

山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)

【特集1】首都直下発生前に何をなすべきか 復興を主導した後藤新平に学ぶ


巨大地震の経験を繰り返しているにもかかわらず危機意識が低すぎる日本人。
必ず起こり得る首都直下型地震を前にして作家の江上剛氏が警鐘を鳴らす。

「天災は忘れたころにやってくる」とは、物理学者・寺田寅彦の警句だ。彼は、大正12(1923)年9月1日に発生した関東大震災の被害調査にも当たった防災学者だった。この警句を知っていたとしても天災に備えないのが私たち凡人の悲しき性である。


関東大震災から88年後、平成23(2011)年3月11日には東日本大震災が発生し、この大震災による巨大な津波で多くの人びとが亡くなった。これほどの大震災の経験を繰り返しているにもかかわらず、私たちは首都直下型地震についてあまりにも危機意識が低すぎないか。


私は、関東大震災で壊滅的被害を受けた帝都・東京の復興に尽力した後藤新平を主人公にした『帝都を復興せよ』を平成24(2012)年に上梓した。なぜ東日本大震災の翌年に上梓したのか。そして、なぜ後藤新平だったのか。それは怒りからだ。

当時を思い返してほしい。東日本大震災の復興を巡り国会は機能不全に陥った。与党だった民主党と最大野党の自民党が復興を政争の具にしたからである。


復興担当大臣が創設され、現在まで15人(再任を含む)が就任している。しかし、その在任期間は1年も満たない。最短は被災地知事への不適切発言で退任した松本龍氏の9日間である。政府は、最重要課題として復興に取り組むと言いながら、超軽量級大臣ばかりが次々と交替する事態に、復興への本気度を疑わざるを得なかった。その結果は、明らかに復興の遅れとして表面化している。これが私の怒りの理由である。


東日本大震災から12年もの歳月が経過したにもかかわらず、なぜ復興が期待以上に進まないのか。それはリーダーにふさわしい人がいなかったからではないのかというのが私の思いである。

もし東日本大震災からの復興が国家の最優先事項であるというなら、政府は政治の機能を東北地方に移すことや、復興担当大臣は首相が兼任するなどの措置を検討し、実施するべきだった。


事態を大きく捉えて大きな対策を講じることで、国民全体がわがごととして復興を認識し、力強いベクトルの一致が生まれるに違いない。今からでも遅くない。現在までの復興状況を検証し、復興の最終着地までのロードマップを国民に提示するべきではなかろうか。

帝都復興に挑んだ後藤新平
出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」

欧米や中国が脱炭素の覇権を争う中で日本らしい戦略とは


「デマンド・ドリブン(エネルギー需要起点)」で脱炭素に取り組めば、カーボンニュートラルをめぐる国際覇権争いの中でも十分勝ち残れると考えられます。石油危機時に産業界を挙げて取り組んだ省エネのように、「緻密なオペレーション力」を生かし、巨額資金が必要なインフラを共有する新たな産業・社会構造を再構築するのです。『カーボンニュートラル・プラットフォーマー』の著者である株式会社日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの瀧口信一郎氏が以下のとおり仮説を立てています。

世界に誇れる日本のエネルギーの特徴は「省エネ」である。資源のない国が加工貿易モデルで戦後の経済成長を実現する中で、1973年、1978年の2回にわたる石油危機は、日本の産業界に大きなダメージを与えた。これを乗り越えたのは、電力会社などのエネルギー企業だけではなく、日本の製造業全体の瀬戸際の努力であった。

特に鉄鋼、化学といったエネルギー多消費産業には企業存続の危機に陥る努力が求められたが、結果的にエネルギー効率が高く、しかも生産効率が大幅に高めた素材産業の力は、日本の製造業全体の強化をけん引し、その後浸透していった個別産業の省エネ努力と生産効率の改善は、1980年代の日本製造業の源泉となった。

もちろん、もはややることは「単なる省エネ」ではない。脱炭素はCO2排出をゼロにしなければならないため、需要家自ら発電や製造プロセスの見直しに乗り出してあらゆる工夫を積み上げることである。日本の強みは、緻密な運用を行うオペレーション力である。これは、再生可能エネルギーの変動を安定化させる制御のあらゆる工夫に差別性が出てくる。

日本は、ありがたいことに電力・ガス・石油といったエネルギー企業にとどまらない産業や都市、山林、河川の再構築を、電機や自動車、製鉄・金属、化学、建設・土木、不動産、鉄道といった多様な産業で強い企業が残っている。各産業の技術力のある企業が結集してチームプレーで進められるのだ。

瀧口 信一郎(たきぐち しんいちろう)

1969年、福岡県北九州市生まれ。京都大学理学部を経て、1993年に同大大学院人間環境学研究科を修了。テキサス大学MBA(エネルギーファイナンス専攻)。Jリート運用会社、エネルギーアドバイザリーなどを経て、2009年に株式会社日本総合研究所入社。専門はエネルギー政策・エネルギー事業戦略。著書に『ゼロカーボノミクス 脱炭素で変わる世界経済』(共著・日経BP)、『エナジー・トリプル・トランスフォーメーション』(共著・エネルギーフォーラム)、『ソーラー・デジタル・グリッド』(共著・日刊工業新聞社)、『中国が席巻する世界エネルギー市場 リスクとチャンス』(共著・日刊工業新聞社)、『2030年、再エネ大再編』(共著・日刊工業新聞社)など。

激動する国際エネルギー情勢を踏まえた日本の戦略とは


未曽有のコロナ禍において、ロシアによるウクライナ侵略、世界的な脱炭素化の機運の高まりなどエネルギーを取り巻く情勢は激変しています。足元では原油や天然ガスの価格が高騰し、エネルギー安全保障が重要課題となっています。日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員の小山堅氏が著書『激震走る国際エネルギー情勢』で以下のとおり提案しています。

第6次エネルギー基本計画に定められた日本のエネルギー政策目標の実現に向けて、さまざまな課題が山積する中、これから日本では、まさに官民を挙げた総力戦の遂行が必要になっていく。その際には、日本を取り巻く国際情勢を踏まえた総合的・包括的な取り組みが求められていくことになろう。2020年以降、コロナ禍による劇的なエネルギー市場の変化、カーボンニュートラルの潮流の加速化、バイデン政権の発足とその影響、同時多発的エネルギー価格の高騰、ウクライナ危機の深刻化とエネルギー地政学の重要性拡大などの極めて大きな変化と影響要因の下で、世界のエネルギー情勢が劇的な展開を遂げてきた。こうした足下で次々に発生する国際情勢の展開を踏まえ、以下では、日本のエネルギー戦略推進に際した基本概念を示したい。

その1 エネルギー安定供給確保の重要性を再認識せよ

エネルギー輸入依存度が極めて高い日本にとって、今後もエネルギー安定供給確保、エネルギー安全保障強化は、エネルギー政策における「一丁目一番地」の最重要課題であり続ける。現下のエネルギー価格高騰とウクライナ危機の深刻化という地政学情勢で、奇しくもこの問題の重要性が大きくクローズアップされた。日本のエネルギー政策において「S+3E」同時達成を目指していく方向性は今後も変わらない。その時、常に最重要基本要素としてのエネルギー安全保障にしっかり重点を置いた政策が不可欠になる。エネルギーは、空気や水と同様、普段はその重要性や有難みは意識されにくいものである。しかし、日本が国家として今後も生存・繁栄を続けていく上で、決してこの問題の重要性を忘れてはならない。これからのエネルギー政策の議論において、ウクライナ危機を踏まえた、そして、より厳しさを増す地政学環境を意識したエネルギー政策が必要になる。

その2 脱炭素化への移行を着実に、安定的に進めよ

エネルギー安全保障の重要性を再認識するからといって、脱炭素化の取り組みを緩めることはできない。長期的な最重要課題として、日本は責任ある国家として国際社会の中で脱炭素化を進めていく必要がある。その中で、長期にわたる移行期間の存在を前提にして、いかに安定的にカーボンニュートラルの将来像にまで日本が、そして世界全体がエネルギー転換を果たしていくかという視点が重要になる。不安定で途中段階での大きなコストを伴うような移行過程は、結果的にはカーボンニュートラルの実現にとって妨げになる可能性がある。高い理想を掲げ、その実現にまい進していく際にも、その過程を安定的なものにしていく努力を忘れるべきではない。そのためには、日本の、そして世界の現実に目配りをしたプラグマティックでインクルーシブな(排他的でない)政策を着実に進めていくことが求められる。

その3 日本の政策推進を支える国際エネルギー戦略を強化せよ

日本の国内エネルギー政策を進めていく上でも、世界を意識した政策が不可欠となる。例えば、2022年のドイツG7や2023年の日本G7、今後のG20やCOPにおける議論において、いかに日本の考えを発信し世界に訴求、影響力を維持・強化するかは、日本の国内エネルギー政策に重要な意味を持つからである。その意味において、米国とのエネルギー戦略面における連携強化はますます重要になる。米国自身が激動する国際エネルギー情勢の中で自らの立ち位置をどうすべきかの岐路に立つ中、米国を支える重要な同盟国として、米国が今後も国際エネルギーガバナンスの中心国であり続けるべく、日本として連携強化を図る必要がある。もちろん、エネルギー安全保障及び気候変動対策の両面において、欧州とのエネルギー協力も重要である。同時に、日本にとってアジアや産油国・資源国とのエネルギー面における協力はかつてないほど重要になっている。米欧との議論・対話の中でも、日本がアジアを代表する意見を表明することで日本のプレゼンスは強化される。エネルギー安全保障や化石燃料の脱炭素化を通した気候変動への取り組みなどの面で、資源国との連携強化も日本にとって欠かせない国際エネルギー戦略となる。

その4 危機・挑戦をバネに、日本のプレゼンス拡大を目指せ

現下のエネルギー価格高騰とエネルギー地政学リスクの深刻化といった危機的状況や、2050年のカーボンニュートラル実現といった極めて野心的な挑戦は、日本にとって乗り越えるべき大きな課題である。しかし、克服すべき課題が大きいのは日本だけでなく、これは世界共通であり、克服を通して日本のプレゼンス拡大が可能となるチャンスと見ることもできる。1970年代の石油危機の際には、日本経済はこれで限界を迎えるとの悲観論も内外で見られた。しかし、むしろ、その危機をバネにし、官民挙げての努力で日本経済は生き残りを果たし、成長・発展を続けた。現在の危機・挑戦は決して容易なものでなく、どのように克服できるのか、まだ見通しは定かでない。しかし、これが世界共通課題であることを考えれば、その克服を通して、日本の将来を新たに切り開くことは、決して不可能ではない。イノベーションを巡る競争が激化し、技術覇権が争われる世界において、例えば、現時点では、日本は水素・アンモニアの国際供給チェーンづくりで世界をけん引しようとしている。こうした取り組みを進め、世界のエネルギー転換に貢献していくことを推進するエネルギー政策が極めて重要である。

その5 国際的ルールづくりの世界で積極的な役割・貢献を果たせ

ウクライナ危機下で不安定化する国際エネルギー市場に秩序をもたらすためには、新情勢に対応したGlobal Energy Governanceの機能強化が必要になる。そのためには、秩序維持・強化の国際ルールが必要不可欠になる。また、気候変動対策のためのさまざまな具体的な対応や対策オプションに関しては、個別に国際ルールの策定が必要になる。世界的に適用されるルールなくして、気候変動対策の新しい技術オプションの世界的な推進はうまくいかない。この状況下、前述の世界的なルールづくりにおいて、日本は積極的に発信・参加し、効果的ルールづくりに貢献することが求められる。ルールづくりにおいて、日本の立場やアジアの実情を反映する重要な貢献を行うことは、日本やアジアにとって重要なだけでなく、世界のルールづくりをより公平で透明性の高いものとしていく効用も持つことが期待される。

その6 日本にとってのエネルギーベストミックスを追求し続けよ

エネルギー安全保障を強化し、脱炭素化を進めていく上で、それぞれに国において国情・エネルギー資源賦存、技術・産業力などの差異や特徴がある。それに応じたベストミックス政策を推進していくことが基本的に重要である。日本にとっては、長き期間にわたる移行期間を支える化石燃料の安定供給確保と、長期を見据えた化石燃料の脱炭素化は、今後も重要であり続ける。再生可能エネルギーの新しい可能性も踏まえつつ、主力電源化を着実に進めることは今後の最大の課題であり、過去の努力で世界のトップランナーと位置付けられたものの、まだ深掘り可能な分野を残す省エネルギーをどう進めるかが今後問われる課題である。また、世界で大きく変化しつつある原子力の問題を今後の政策議論でしっかりと位置付け、再稼働問題だけでなく、より長期を見据えた政策課題を本格的に真正面から議論しなくてはならない。また、水素・アンモニア、そしてネガティブエミッション技術などのイノベーションを進め、国際供給チェーンの構築で世界をリードする取り組みを強化する必要がある。

その7 柔軟な複眼思考を基にした戦略を追求せよ

エネルギー転換には、長期を見据えた戦略と、その遂行が重要になる。他方で、世界のエネルギー情勢にはさまざまな不確実性が存在し、将来を正確に読み切ることは誰にとっても困難である。長期的な理想を掲げて、それを目指して進むことは、エネルギーの将来を考える上で重要な役割を果たすが、それと同時に、変転する現実世界を冷徹に分析し、柔軟で複眼的な思考を働かせた戦略対応を行っていくことも必要である。バックキャストも、フォアキャストも使いこなし、シナリオ分析も十全に活用するなど、あらゆる叡智を最大限活用する戦略が日本の将来のためにどうしても必要である。

小山 堅(こやま けん)

1959年、長野県生まれ。1986年、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、日本エネルギー経済研究所入所。2001年、英国ダンディ大学博士号(PhD)取得。日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員、現職。東京大学公共政策大学院客員教授、東京工業大学科学技術創成研究院特任教授を兼務。その他、国際経済研究所客員シニアフェロー、日本卸電力取引所理事などを務める。経済産業省をはじめ政府審議会・委員会などの委員を多数歴任。

コスト低減と安定供給の両立へ 「スマート保安」を積極展開


【東北電力ネットワーク】

東北電力ネットワークは、AI・IoTなどを活用した設備保守の高度化・効率化を進めている。
激変する事業環境の中、コスト低減と安定供給の両立を実現し、競争力強化を目指す。

東北電力ネットワークの供給エリアである東北6県と新潟県は、国土面積の約2割を占めており、架空送電線路の長さ、送電鉄塔の基数とも、国内の一般送配電事業者の中では最大の設備規模。安定供給を果たしていくためには、この広いエリアに点在する設備について、巡視や点検を通じて劣化状態を把握し、計画的に適切な補修を実施するとともに、必要に応じて設備の更新を進めることが重要となる。


送電鉄塔は、経年による腐食や劣化のレベルに応じて塗装や部材の取り換えを行うなど計画的な補修工事を行う必要があるが、従来、腐食・劣化の度合いの判定については、個人差が生じやすいという課題があった。


また、送電鉄塔の腐食箇所やその程度については、鉄塔1基ごとに管理しており、補修工事の計画策定に多くの時間と労力を要していた。

AIで腐食劣化度診断 経済産業大臣賞受賞

そこで、AIを活用した「腐食劣化度診断システム」を、株式会社SRA東北と共同で開発。2019年11月に電力業界として初めて運用を開始した。


本システムでは、スマートフォンやドローンなどで撮影した画像を基に、AIが送電鉄塔の腐食や劣化の度合いを瞬時に判定。これにより、判定に係る個人差を解消することが可能となった。加えて、画像の撮影時にGPSにより鉄塔の位置情報を自動的に取得し、判定結果とともにデータベースへ送信することで、各鉄塔の腐食・劣化の度合いを一元的に管理することが可能となり、補修工事計画を短時間で策定できるようになった。

撮影した画像を基に、AIが腐食劣化度を瞬時に診断
AIを用いた鉄塔腐食劣化度診断のイメージ

システムの導入から1年。「腐食・劣化状況をスピーディかつ的確に把握できるようになりました」と、同社電力システム部送電グループの冨岡敬史さんは、導入の手応えを語る。本システムは、国土交通省および関係6省庁がインフラのメンテナンスにおける優れた取り組みを表彰する「第4回インフラメンテナンス大賞」の「経済産業大臣賞」を受賞。同社は今後、送電鉄塔と似た構造物を持つほかの産業への展開の可能性も探っていく。

さらなる効率化へ 多様なパートナーと連携

このほかにも、同社電力システム部では、多様なパートナーとタッグを組み、新技術を活用したさまざまな検証を並行して展開している。


例えば、送電鉄塔に設置している航空障害灯の点灯状況に係る目視確認の効率化を目的に、省電力で長距離通信が可能な「LPWA」と呼ばれる通信技術を活用し、山間部の送電鉄塔に取付けた現地センサーの動作情報を収集、遠隔監視するIoTシステムの実証試験を、宮城県内で実施している。実証に当たっては、通信大手など複数の企業と連携し、早期の実現を目指すとともに、さらなる活用拡大も模索する。


さらに、レーザーなどの光を対象物に照射し、対象物の座標や輝度を読み取る技術「LiDAR」を活用して、変電所構内の設備の外観異常を遠隔地にいながら自動的に検知する技術の検証を、日本電気株式会社と共同で実施している。「この技術の特長は、異常値に関するデータの学習や蓄積がなくても検知が可能な点です。変電設備の状態把握の高度化と巡視業務の効率化を同時に達成する技術として、将来、人の目に代わる技術となる可能性があります」と、同社電力システム部変電グループの竜野良亮さんは、その効果に期待を寄せる。

LiDARを活用した異常検知のイメージ

同社はこのように、AI・IoTなどの新技術を積極的に取り入れ、設備保守の高度化・効率化を図る「スマート保安」の展開を通じて、引き続き、お客さまや地域社会に安心・安全・快適な暮らしをおくり届けるという使命を果たしていく考えだ。

電力システム部送電グループの冨岡さん(左)と同部変電グループの竜野さん(右)

でんきの科学館リニューアルオープン 「電気の旅」コーナーを刷新


【中部電力】

中部電力のPR施設「でんきの科学館」(名古屋市中区栄、五ヶ山淳館長)が2020年10月31日、リニューアルオープンした。同館3階の「電気の旅」コーナーを刷新。燃料調達から発電所、送電・配電網を経由して消費者のもとに電気が届くまでの流れや、安定供給を支える電力マンの仕事を「旅」に見立て、楽しく学べるようにしている。


でんきの科学館は16年度から順次リニューアルし、今回で完了した。改装した「電気の旅」コーナーは、①ジオラマ②壁面グラフィック・電力設備の展示③きみも電力マンになろう④地上100メートル電気の旅~鉄塔の上から見てみた!~――の各ゾーンで構成されている。

電気の流れを分かりやすく 電力マンの仕事も紹介

ジオラマゾーンは、燃料の調達から電気が家庭やビル、工場に届くまでの流れを全長約16mのジオラマで表現。ジオラマ前にはAR(拡張現実)モニターが設置され、モニターをのぞくと電気の旅を支える電力設備の役割や仕組み、設備の保守・点検や災害対応など電力マンの仕事について詳しく紹介している。

全長約16mのジオラマで電気が届くまでの道のりをたどれる

壁面グラフィックゾーンは、電力の一連のバリューチェーンを写真や碍子、電線などの実物の電力設備や模型を使って電力マンが解説する。高所作業車のバケットもあり、疑似乗車体験を通じて作業する電力マンの目線で電柱の設備を見ることができ、設備の大きさ、重さ、高さなどのスケール感をよりリアルに体感できる。


きみも電力マンになろうゾーンは、電力設備の保守・点検作業や訓練の様子を紹介。壁面には、作業に使用する道具の展示や電柱に登る訓練の様子のだまし絵を描いた。それを背景にすると柱に昇っているような写真を撮影でき、このトリックアートは来館者から人気を博している。

ほかにも、地上100m程度から撮影した映像を床に投影し、送電鉄塔の上で作業する電力マンの視点を体験できるコーナーがある。


地下鉄東山線、鶴舞線「伏見」駅の4番出口から東へ徒歩2分という交通アクセスも良い好立地にあり、リニューアルオープン以降、多くの家族連れでにぎわっている。

2050年の日本の在り方 生活・地域とエネルギーの関わり


【羅針盤】小川崇臣/三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部脱炭素ソリューショングループ主任研究員

未来の「生活」の変化はエネルギーの需給構造にも影響を与える。また、未来の「地域」が持つ機能ごとに最適なエネルギー供給を実現することが必要である。

第2回目となる今回は、2050年の日本では人々の「生活」や「地域」の在り方がどう変わるのか、その変化がエネルギー需要にどう影響するのかといった、より具体的な内容に焦点を当てて紹介したい。

仕事・クルマ・住宅・防災 将来のエネルギーとの関わり

50年における「生活」として、ここでは①仕事、②クルマ、③住宅、④防災の四つの視点から、その将来像とエネルギーとの関わりについて考えてみたい。

①仕事:50年に生きる人々はどのような仕事に就き、どのような働き方をしているだろうか。少子高齢化はさらに進展し、高齢者の就労機会が拡大しているだろう。また、コロナ禍によるテレワークの急速な普及のように、デジタル技術により多様なワークスタイルが実現していると考えられる。

こうした変化はエネルギー需要にも影響を与える。例えば、分散居住や分散労働が加速することで、通勤やオフィスでのエネルギー消費量は減少するものの、住宅での消費量は増加することが想定され、さらに需要のピークを迎える時間帯(電力負荷カーブ)が変化することが予測される。

②クルマ:気候変動対策としての脱炭素化の社会的な要請を受け、50年のクルマの多くは電気自動車(EV)に置き換わる。一部、長距離・大型の貨物車などは燃料電池自動車(FCV)が普及していると考えられる。また、MaaSと呼ばれるサービスが普及し、カーシェアリングなどの所有形態の変化、移動需要や物流需要に応じたモビリティとのマッチングサービスなどが実現し、運輸部門のエネルギー消費効率の大幅な向上が予想される。

③住宅:50年には多くの住宅がスマート化され、建物の省エネ性能の向上とともに、太陽光発電と蓄電池(EV含む)によるエネルギーの自給自足が実現しているだろう。

また、発電した電力を自ら消費するだけではなく、余った電力を他者に供給するような「プロシューマー」が多く存在していることが予想される現在は、余った電力は小売り電気事業者に売電しているが、将来的にはP2P取引によって、例えば、お隣さんと直接電力を取引するというようなことも可能になると期待される。

④防災:11年の東日本大震災以降、さまざまな分野で「レジリエンス」がキーワードになった。また、近年の大型台風による大規模な停電への対応という点でも、レジリエントなエネルギーシステムを構築することの重要性はますます高まっている。そのため、50年には、分散したエネルギー源やエネルギー貯蔵設備を備え、平常時・非常時ともに系統電力のみに頼ることのない地域が多く形成されていることが予想される。

将来の各地域の特性 エネルギーの利用方法

三菱総研が19年10月に発表した「未来社会構想2050」では、将来の日本の地域は、中核となる中心都市、固有の強みを有する一芸地域、自立したロハス地域に分かれ、圏域ごとにまとまっていく姿が提示されている。ここでは、その考え方にならい、それぞれについて、具体的な将来像とエネルギーとの関係を考えてみたい。

①中心都市:都市部は、多様な嗜好に合わせた財・サービスの生産・消費が行われる場所であり、それだけでは価値の小さいエネルギーを「創る」のではなく「使う」ことで、高付加価値な商品・サービスを生み出す存在であり続けるだろう。このような都市においては、エネルギーの自給自立は困難であり、引き続き都市外部からエネルギー供給を受けることが経済合理性が高いと考える。ただし、50年の都市は外部から供給されたエネルギーを好きな時に好きなだけ消費するということではなく、蓄電池の活用などにより需給をコントロールする機能を備えていくことが求められる。

②一芸地域:固有の強みを持つ一芸地域として、拙著『三菱総研が描く 2050年エネルギービジョン』では農業地域、工業地域、エネルギー供給地域について言及している。ここでは個別の詳細は割愛するが、どの地域でも電化技術やエネルギー利用の高度化技術などを活用し、「一芸」とする強みをより効率的に生み出すとともに、その生産のために消費するエネルギーを脱炭素化していく流れは必至であると考えられる。

それは、農業機械の電化と再生可能エネルギーの活用、工業におけるエネルギー利用の高度化と再エネ由来水素なども含めた脱炭素化などに代表される。さらに、これらの地域に脱炭素なエネルギーを供給する機能を持ち、それによって収益を上げるエネルギー供給地域の誕生が期待される。

③過疎地域:現在の日本のエネルギーインフラは、ユニバーサルサービスとして広く国民全体で費用を負担して維持されている。しかし、実際には稼働率の高低などによって得られる便益に対してかかるコストに大きな違いがある。今後ますます拡大が予想される過疎地域では、その電力インフラを維持するためのいくつかのシナリオが想定される。例えば、電力の託送料金を一律または過疎地域住民向けに引き上げることで、負担・維持するシナリオが挙げられる。このシナリオでは、引き続き送配電事業者がインフラを維持する役割を負うことになるが、別のシナリオとして送配電事業者が過疎地域の送配電網を維持管理の対象外としてしまうことも考えられる。

このシナリオが実現した場合、過疎地域に住む人々は、移住か住民主導での電力供給網維持といった選択を迫られることになる。どのようなシナリオを目指すべきか、今後議論していく必要がある。

三菱総研が描く2050年エネルギービジョン

おがわ・たかおみ 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了、三菱総合研究所に入社。2009年から現職。19年から政策・経済研究センターを兼務。

第1回】2050年のエネルギーシステム 資源の適切なマネジメントを

2050年のエネルギーシステム 資源の適切なマネジメントを


【羅針盤】井上裕史/三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部 脱炭素ソリューショングループリーダー

需要側から見た理想のエネルギーは、四つのキーワードで表現することができる。分散化されたエネルギー需給の資源を適切にマネジメントすることが重要である。

三菱総研では独自の視点で2050年のエネルギービジョンを検討し、『三菱総研が描く 50年エネルギービジョン』として書籍を刊行した。

今回を含め3回に分けてこの書籍の内容を紹介する。第1回では、日本のエネルギーが今、直面する課題を正しく認識しつつ、三菱総研が考える50年のエネルギーシステムを紹介したい。

日本のエネルギーが直面 多様化・複雑化する課題

日本のエネルギーが今、直面している課題は多様化・複雑化している。ここでは五つの観点で、50年に向けて向き合うべき課題を確認したい。

①脱炭素化=19年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」では、最終到達点として「脱炭素社会」を掲げている。脱炭素社会とは、温室効果ガスの排出に関し、排出量から吸収量や貯留量を差し引いた正味では排出がゼロ以下である状態が持続されている社会と考えられる。こうした社会を実現すると、ほとんどの分野で化石燃料の利用はできないと見るべきだろう。

②少子高齢化=わが国は今後、過去に例のない、極めて急激なスピードでの少子高齢化に直面する。特に地方での急激な人口減少は、エネルギー需要構造に大きな変化を与えるだけでなく、エネルギーインフラの維持管理を難しくさせる可能性がある。

③インフラ危機=エネルギーインフラに限らず、多くの社会インフラは高度経済成長期に整備されたものが多く、近年老朽化が懸念されている。さらに、大規模災害に伴うインフラの大きな損傷が問題となっている。気候変動により自然災害の影響は拡大する恐れもあり、50年のエネルギーインフラには、こうした厳しさを増す大規模災害リスクに対するレジリエンスを備えなければならない。

④中東問題=わが国は石油をはじめとする化石燃料の多くを、政情の不安定な中東から輸入している。コロナ禍で原油先物価格がマイナスになるなど、エネルギー資源を巡る状況にも大きな変化が見られたが、エネルギー源を特定地域に依存することがリスクであることは間違いない。

長期的には、再生可能エネルギーを中心とする国産エネルギーを増やすこと、輸入資源の一地域への依存を回避することの必要性は変わらないだろう。

⑤デジタル技術=近年のデジタル技術の進展は著しく、エネルギー業界でもさらなる活用の余地は大きい。50年に向けては、エネルギー供給設備が個別分散化するとともに、エネルギーの供給者と消費者が柔軟に双方向化していくと考えられる。こうした中で、全体として効率的なエネルギー需給の仕組みを確保するためには、デジタルプラットフォームの存在が欠かせないだろう。

ここでは50年やその先に向けて、理想のエネルギーについて考えてみたい。エネルギー政策では、安全性の確保を大前提とし、供給安定性、環境適合性、経済性という3項目を確保することが求められ、これを3E+Sと称して基本的視点とされている。現状、単一のエネルギーで三つのEを同時に確保することは難しく、多様なエネルギー資源をバランスよく利用することが求められている。

こうした3E+Sの考え方は、従来供給側の視点として語られることが多いが、ここではエネルギーを利用する一般の需要家視点から、理想のエネルギーを規定してみたい。具体的には、需要家が理想とするエネルギーについて、四つのキーワードで表現したい。それは「ストレスフリー」「持続可能性」「選択可能」「説明性」である。

①ストレスフリー=通常、エネルギーを利用する需要家がストレスを感じることは多くないと思われるが、例えば、エネルギー価格の上昇、煩雑な利用手続き、利用量制約などはストレスに感じるだろう。需要家から見た理想のエネルギーというのは、このような利用に伴う負担感やストレスから解放されていることが望ましい。

②持続可能性=地球温暖化対策をはじめとする環境問題への対応は社会的な命題であって、需要家としては必須のキーワードであろう。原子力であれば、使用済み燃料の最終処分までクリアになってこそ持続可能であり、再エネでもライフサイクル全体で環境負荷を抑えることが求められる。

③選択可能=電力・ガスの小売り全面自由化によって、需要家には複数の選択肢が示されるになった。現状は選択可能なメニューは限定的であるが、将来は需要家の価値観に応じて多様なメニューが提示されるだろう。電力であれば発電の種類に加え、産地指定という考え方も選択肢に挙がるだろう。

④説明性=今後は、需要家が多様な価値観のもとで自らが消費するエネルギーを選択するようになるだろう。その際、自らが選んだエネルギーがどのような性質のものであるか、一定の根拠をもって説明できることが必要だろう。

エネルギーシステムの要点 供給・需要・運用で変革を

需要家目線を取り入れて検討した理想のエネルギー社会を念頭に、脱炭素化社会の実現や、その他課題に対応するエネルギー需給の姿を考えると、50年のエネルギーシステムの要点は次の3点に集約される。

①供給側では再エネが主力電源となっている。

②需要側では、エネルギーの電化が進展しつつ、多様な選択肢が用意されている。

③分散化されたリソースが適切にマネジメントされ、エネルギーシステムを支えている。

50年の理想のエネルギーシステム構築のためには、供給側と需要側、それをつなぐ運用面それぞれに変革が求められるだろう。

50年エネルギーシステムイメージ

いのうえ・ゆうし 東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了、三菱総合研究所に入社。経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、2005年から現職。