【コラム/5月17日】福島事故の真相探索 第6話

2024年5月17日

3000℃が及ぼした影響

UO2溶融の世界とわれわれの生活との差は1万倍、太陽とUO2溶融の差は16倍だ。UO2が溶ける世界は、われわれの世界より、太陽に近い。こう考えると気持ちが楽になる。常識が違うから、間違えるのは仕方ないと考えればよい。翻って、炉心溶融が起きるような原子力事故を論じる時は、低温世界の常識を正しいとして持ち出すと、間違いを起こす。ご用心を。

3000℃の輻射熱は、ペデスタルのコンクリート壁に対してどのような作用を及ぼしたであろうか? いろいろと考えたが分からない。高温の熱はコンクリート表面を熱して崩すとの専門家の話が、最も素直で妥当に思える。だが、初めて知った破壊現象から、その妥当性を実験で確かめるのが確実で、必須である。

1号機でのジルカロイ燃焼は、円形のペデスタルの水中で起きた。空洞ができたのは、その水を溜めていた円筒形の壁全体で、ほぼ一様に壊れていた。円筒形のペデスタルの壁が受けた輻射熱は、丸い床上の水溜まり全体から発生した高温の水素ガスの熱であるから、その熱量も壁全面にほぼ一様と考えられる。

空洞の高さがほぼ一定であったのは、水中発熱による熱の作用がほぼ一定であったからであろう。いや論理的には逆で、ペデスタル壁の破壊が同一高さであったことが、加熱源が水中発熱と教えている、とも言えよう。

なお、後日の検証を待たねばならないが、壁のコンクリート空洞の奥行きの深さがほぼ同一であるのは、高温の熱で壊されたコンクリート表面の砂利が、発生する水素ガスによって絶えず吹き飛ばされて、熱で照射されるコンコリート表面は常に新しい面であったと考えれば、われわれの持つ常識で理解できる。

以上が、ペデスタル壁の破壊と空洞の説明である。

*『考証、福島原子力事故;炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』(2014年、日本電気協会新聞部)

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島事故の真相探索~はじめに~

・福島事故の真相探索 第1話

・福島事故の真相探索 第2話

・福島事故の真相探索 第3話

・福島事故の真相探索 第4話

・福島事故の真相探索 第5話

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