【コラム】「敗戦後81年、経済財政運営を考える~経済敗戦を反省し、自滅を回避しよう」

2026年7月24日

5,官の投資の中身は~無駄遣いか徒労か

気になるのは官民投資における官の投資である。定義が曖昧である。公共インフラ投資を別とし、国営企業的な投資なのか、補助金で投資促進的な投資なのか、投資回収曖昧な研究開発投資なのか。

国防的なものは、民間企業の生産体制に大幅に関与する記事もあったので、民間工場の国営管理を彷彿させる。とても経済成長を押し上げるものでない。戦前の国防国家目的統制経済を目指した陸軍統制派官僚の統制経済をイメージさせる。そのときの陸軍官僚の発想が、狭隘で国を滅ぼすことになった。補助金付き投資は、再生産投資が可能なのか疑問を残す。研究開発投資は、企業が行う場合、一般的には新製品や新技術を開発するための費用をさし、中長期的な競争力向上・成長を目指すものである。故に研究開発向けの歳出であり、投資回収は不確定である。故に成長戦略の官民投資における研究開発投資の実相を明確にする必要がある。

このような視点から17戦略分野の62の主要な製品・技術を分類すれば、どうなるか。その多くは、補助金付き民間投資か研究開発投資ではないのか。370兆円は、歳出増の経済膨張を狙った財政政策に見える。現経済状況から見れば、財政出動の必要性は薄い。

6,頷けない政策~選択肢に疑問

(低成長下の経済運営)

技術革新停滞で成長機会低下となれば、経済運営では、拡大均衡調整で配分や財政赤字等の問題を国民負担なく解決することは困難である。配分問題は理性的な民主主義政治により説得が必要であり、財政赤字問題は、縮小均衡的な調整を余儀なくされる。勿論将来の成長を目指して研究開発等に現生産・所得・支出の下で資源投入することは必要である。その程度は、まさに民的では企業経営の判断であり、公的には予算編成問題である。

つまり財政学は、政治学であり、民主主義政治の国民の知的理性レベルの問題となる。現行の選挙制度は、政策的にポピュリズムの傾向が顕著である。常識的な経済学的な捉え方や政策より、現実離れした強弁が罷り通る傾向が強い。また利欲を求める経済専門家の見方が、とくにポピュリズム政治家に好まれる傾向がある。如何なものか。

(敗戦か自滅か~現実直視・均衡重視・地道な技術革新努力が基本)

過去経済的に困難・困惑状況で、その打開策で失敗した典型的なケースが二つ思い浮かぶ。

一つは現代人には極端な例えとなるが、日米戦争を引き起こした政党政治失敗後の陸軍官

僚(政治家でもあった)の選択である。1941年10月御前会議の議案である。当時3案があった。10月30日国策3案は、①臥薪嘗胆、②開戦決意・政戦略諸施策集中(杉山参謀長)、③戦争決意・作戦準備・外交施策継続・妥協模索(東条首相)だった(佐藤賢了「東条英機と太平洋戦争」1960年6月)。陸軍は、形のみ臥薪嘗胆という縮小均衡案を提示するも歯牙にかけなかった。国力を根本的に見誤っていた。惨めな敗戦となった。

もう一つは日米経済摩擦における日本の対応である。つまり内需拡大政策である。下村治が指摘した日米の縮小均衡論を一顧だにせず、時の政府・役人は、潜在成長率有りの幻想で、前川レポートにのめり込んだ。結果は、バブル形成・崩壊後の今日の姿である。第二の敗戦だった。

今回の経済財政運営の方針は、選択肢に縮小均衡的な発想ゼロである。潜在成長率引上げ可能強弁、官民投資打上げ・財政出動頼り、成長投資期待の拡大均衡発想一辺倒である。この国の金融系エコノミスト・政治家・官僚の科学的精神欠如に溜息をつきたくなる。アベノミクス同様、今回は、第三の敗戦でなく、自滅の可能性を恐れる。

(創造的基盤の模索が必要)

経済の不安定をもたらす事象(エネルギー不足・金融危機・インフレ等)には、その原因に対し一定の政策対応が必要である場合もある。他方経済不安なく低成長状態の時は、徒に膨張策をとる必然性は乏しい。必要なことは地道な努力である。例えば次の技術革新を模索する政策対応として科学技術振興に経済水準の範囲内で可能な限り資源投入することである。ただその効果は、創造の定義「より高い価値の実現を目指して現象に働きかけて、それを変えてゆく力動的現象が創造性(creativity)で、その価値を実現する活動が創造(クリエーション)」(佐々木健一「美学辞典」)から見れば、実際は必ずしも容易でない。過去の大学・国立研究所の独法化を見直すとともに、投資金融家の利欲を阻止し、企業の基礎・応用研究努力を評価する制度的担保(例えば利益の一定率の投入容認)が重要である。いずれにしても国・企業それぞれ創造的活動の基盤をつくる以外に道は無さそうである。これが日本の政治、とりわけポピュリスト政治家に可能か問われている。


【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

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