エネルギーを巡る市場競争が激しさを増す中、LPガス事業者は顧客ニーズの掘り起こしに奔走している。小規模であるがユニークな取り組みをする事業者から、「ニーズ掘り起し」の真髄を聞き出した。
〈司会〉角田憲司エネルギー事業コンサルタント
津田維一富士瓦斯社長
市川博信北信ガス社長
角田 今回、参加してもらった2社は、自社の事業規模や商圏としている地域の特性を考えながら、常に「ニーズは何であり、どこにあるのか」を突き詰めながらLPガスを供給している会社だと思います。両社のユニークな取り組みは、エネルギー業界全体にさまざまな示唆を与えるのではないでしょうか。まずは北信ガスさんの取り組みを聞かせて下さい。
市川 当社は長野県が商圏で、2万件のお客さまを持つ小規模な販売店です。オール電化や長野都市ガスの都市ガス、あるいは周辺には同業他社というライバルがいます。そうした中、どうやって需要を生み出すか、10年以上前から悩んでいました。このエリアは冬の期間が11月から4月までの6カ月間あり、こうした地域特性を踏まえ、各家庭にファンヒーターを設置して暖房需要の増加につなげようと考えました。
一方、あえて言いますと一般家庭で使うエネルギーとしてはLPガスの価格は高い。ただ、LPガスは素晴らしいエネルギーで、適正な価格ならばこれほど便利なものはない。では、このエリアで適正な価格水準はどれほどか、調べようと思いました。答えは「全国平均30%安」でした。この商圏では、その水準にしないと他のエネルギーに対抗できない、切り替えられてしまうことがはっきりしました。これは10%安い料金、20%安い料金を試した結果、このエリアでたどり着いた結論です。
そこで、ファンヒーターを設置してもらえば「3割安いガス料金にする」と決めました。暖房のプランは他社にもありますが、単価を下げるやり方はあまり見かけないかもしれません。ファンヒーター使用によってガスの年間消費量は180%くらい増えます。割安メニューと消費増によって、従来の料金メニューで得られていた利益とほとんど変わりません。他のエネルギー種の暖房費用をカットできるお客さまにとっても、総負担は変わらないわけです。
角田 同じ長野県には東洋計器という「分計メーター」のパイオニアの会社があります。暖房、給湯など用途に応じてガス消費量を分けて計量できるメーターで、ガス事業者はこのメーターを使うことで用途に応じた料金メニューを消費者に提示できます。ただ、北信ガスさんの取り組みは、分計とは違いますよね。
市川 分計とは違いますが、実はこのモデルは、現在の土田泰秀会長が東洋計器の社長だった時に分計の仕組みの話を聞き、「分計とは異なるやり方で訴求しよう」と思い付いたアイデアなのです。
津田 ファンヒーターを設置すれば自ずと割安メニューにしているということは、仮に使用しなかったとしても割安メニューになるわけですか。