配送・供給体制の整備進む 鍵握るLPガスメーターの技術革新


ガスメーターの技術革新や通信インフラの整備が着々と進んでいる。これらの技術による集中監視が広がれば、レジリエンス向上や業務効率化につながる。積極的に新技術を採用し、業務やサービスに生かす取り組みを行う事業者を取材した。

LPガスのレジリエンス力をさらに高めるアイテムがある。ガスメーターだ。メーターの技術進歩と通信インフラの整備によって、LPガス業務が格段に高度化している。メーターの無線機能(LPWAなど)によって、ガス消費データを低コストで取り出す環境が整ってきているからだ。ニチガスをはじめ各社が次世代メーターの運用に着手している。

一方、こうした技術はLPガスの「集中監視」を推し進めていくことにもつながり、結果的にLPガスのレジリエンス力や業務効率化が進むことになる。

政策的にも集中監視の導入比率に応じて、事業者に対して「ゴールド」「シルバー」の認定制度を設けている。これまでは保安の観点から、事業者はすぐに需要家のもとへ駆け付ける必要があったが、こうした制度によって、政策的な事業拠点数の緩和策を打ち出している。とりわけ過疎化で悩む地方では有効な手段として期待されている。

【伊藤忠エネクス】7万7000件を高度化 業務効率化と営業促進目指す

全国に大口需要家を含めて55万件以上の直売件数を抱える伊藤忠エネクス。同社がLPWAの取り組みに着手したのは2018年夏のことだ。グループのモデル事業所として岩手県内の四つの営業拠点でLPガス販売を手掛ける物産石油ホームライフ岩手(20年10月に伊藤忠エネクスホームライフ東北と経営統合)と連携。ここのユーザーに対して、順次、東洋計器製の「IoT-R」を取り付けていった。ホームライフ岩手の戸建てや集合住宅向けの全需要家を対象に、これまで約4000件の設置を進め運用の高度化に向け準備してきた。

実証のための土台は整った 多様な料金メニューを提供

「ようやく本格実証の土台が整ってきました。これから、どう合理化できるのか、理想的なストーリーを見いだしていきたい」。ホームライフ部門担当者は話す。

同社が掲げる実証の内容は主に次の三つが挙げられる。一つは認定保安に伴う拠点の集約化、二つ目は自動検針による物流・配送の合理化の検討、三つ目が新たな顧客サービスの創出や保安の高度化・差別化だ。とりわけ顧客サービスの創出には期待が寄せられる。LPWAによって毎日検針を行い情報の正確性を高めることで、各ガス器具の使用量を把握できる。「お客さまの時間別・機器別の特性を考慮した多様な料金メニューを提供していけたらと思っています。LPガスだけでなく、電気の契約にもつながれば」(同)と期待を寄せている。

20年9月末現在、同社グループでは、各取り扱いメーカーから導入に関するサポートを受け、すでに全国で7万7000台を取り付けている。今後も増やす方針だ。「検針・配送・保安業務の効率化と営業面の充実を目指し、LPWA導入推進に努めたい」(同)。

【コラム/10月19日】与野党は本格的なエネルギー政策の論戦を


福島 伸享/元衆議院議員

9月16日菅政権が発足し、その前日には「新・立憲民主党」の結党大会が開かれた。菅新総理のエネルギー政策に対する方針は現在のところ明確ではないが、前政権から続投した梶山経済産業大臣に対して、「脱炭素化社会実現のための短期及び中長期のエネルギー政策の推進」という指示が出されたことから、何らかの大きな政策の推進がなされることになるだろう。現にエネルギー業界出身の梶山大臣自身からも、エネルギー政策の大きな展開に力を入れようとする姿勢がみられる。一方、立憲民主党の枝野代表は、「自然エネルギー立国」の旗印を一丁目一番地の政策として高々と掲げている。

 第二次安倍政権の7年8ヶ月の間は、官邸の中枢にエネルギー政策に精通する官邸官僚がいたにもかかわらず、原子力政策をはじめとするエネルギー政策には大きな力を入れてこなかった。支持率を下げる要因にもなりうるとして、逃げ続けてきたとも言われている。拙著『エネルギー政策は国家なり』でも「実は「脱原発」の安倍政権」という項を立てて、政治の不作為によるエネルギー政策への損失について論じさせていただいているので、ご参照いただければ幸いである。

さて、新政権が発足して、政権・与党の「脱炭素化社会の実現」と枝野代表の「自然エネルギー立国」という議論の土俵は整った。これから骨太な政策論争が展開されることを期待したい。その際、大事なのは当然キャッチフレーズではなく、具体的な政策の中身である。梶山経済産業大臣は、前内閣の時から非効率石炭火力のフェードアウトと再エネ主力電源化を掲げ、第6次エネルギー基本計画の策定に向けて意欲を示しているが、再稼働が滞っている原子力をどうするのか、という議論から逃げることはできない。

9月号の『エネルギーフォーラム』誌のインタビューでは、「(原発再稼働の)理解を得るために当然、国は努力しなければいけません」と語っているが、単に精神論を言っても政策は何も進まないだろう。もんじゅが廃炉される中で、核燃料サイクル路線をどのようにしていくのか、メーカーから電力会社も含めた原子力産業の担い手を発送電分離が実現した新しいエネルギー産業構造の中でどのようにしていくのか、そしてそこにどのように国が関与をし、どのような制度を構築していくのか。このような具体的な原子力政策のリストラクチャリングを行わなければ、国民の本質的な理解や納得が得られることはないだろう。

野党側についても、「原発ゼロ基本法案」程度の政策では、広く国民の支持を得られることはないだろう。現在国会に提出されている法案は、原発ゼロという理念を法律で掲げた上で、その実現の具体的方策はお役所に任せましょうという内容の法案だ。いくら法律で原発ゼロを掲げても、具体的な方策の一切を政府に委ねているのでは、かつての民主党政権時の八ッ場ダムの廃止と同じ結果になることは容易に一般の国民にも想定できるだろう。ましてや、その時のメンバーと同じような人たちが訴えているのだから。実際の政策転換に伴うさまざまな問題点や損失に対して具体的な対応を示せない政策は、キャッチフレーズであって政策とは言えない。 政権・与党、野党ともに、まだ新しい体制が始まったばかりだ。エネルギー政策論議が低調だった第二次安倍政権の7年8ヶ月の時間の遅れを取り戻すような、具体的でワクワクするような政策議論が与野党の間で展開されることを、心から期待したい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【コラム/10月5日】電気事業のデジタル化とイノベーションマネジメント


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

近年、内外の電気事業でデジタル化が進展しているが、covid-19の感染拡大は、その動きに拍車をかけることになるだろう。電気事業のデジタル化としては、デジタル技術を駆使したデジタルプロダクト(バーチャルパワープラントやエネルギー自立支援システムなど)やプロセスの合理化(ロボッティクプロセスオートメ―ション、電力取引の自動化など)について論じられることが多い。しかし、電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化の醸成、およびカスタマーセントリック思考などの様々な観点から論じられなくてはならない。組織については、以前のコラム(2018/07/09)で触れたので、今回は、イノベーションマネジメントについて述べてみたい。

 デジタル化はイノベーションを加速している。電気事業分野でも、デジタル化のスピードは高まっており、イノベーションを生み出すためのイノベーションマネジメントの重要性は増している。デジタル化への対応は、スピードとともに、多くの企業にとっては新しい試みであるため、「実験」が求められている。デジタル企業は、スペックブックの作成はしないし、一定の期間で完成品を開発することもない。むしろ、企業は常に発展途上にあり、常に、誤りを是正し、新たなことに挑戦し、正しいプロダクトを探し求めているといえる。

 デジタルイノベーションのマネジメントためには、プロジェクトマネジメントが重要な意味をもっている。伝統的なウーターフォール型の開発は、開発すべきプロダクトが、最初から完全に分かっており、スペックブックに基づいて実行すればよかった。これに対して、デジタル企業では、プロジェクトの初期段階においては、どのようなプロダクトが開発され、顧客によって利用されるべきかについては、大雑把にしか分かっていない。意識的に、大雑把な目的とガイドラインを伴ったアジャイルなプロセスが設定されているだけである。そのようなプロセスでは、しばしば短期間のうちに変更を行うことが可能である。

デジタル企業では、プロジェクトチームは、高度に自律的で、多分野の人間によって構成され、自ら組織される。プロジェクトに関する情報の閲覧やレポートの作成は、Atlassian のJira やConfluenceのような協業のための特別なソフトウェアにより行われる。仕事を早くまたスムースに進めるために、チームの従業員の時間は100%プロジェクトに投入される。すなわち、プロジェクトの期間中、従業員はラインの仕事から解放される。

 さらに、アジャイルプロセスでは、完全に機能可能なサブシステムが開発され、それを求められるプロダクトの新たなバージョンで用いることが可能である。伝統的な方法では、最終段階で、初めて機能可能なプロダクトが開発される。アジャイルプロセスの決定的な利点は、フレキシビリティと速度である。短期間に反復作業を行うアジャイルプロセスは、創造性を発揮する余地を生み出し、トライアルアンドエラー(trial and error)を許容する。

電気事業におけるプロジェクトマネジメントに関して、このようなアジャイルの手法が、とくにデジタルソリューションの開発に際して、適用されるべきか、またどの程度適用されるべきかが今後検討課題となるだろう。適用されるにしても、すべてのプロジェクトがアジャイルである必要はなく、伝統的なウーターフォール型の開発とアジャイル型のそれとのミックスもありうる。注目すべきは、アジャイルなプロジェクトマネジメントの適用は、企業およびプロジェクトの文化を変える可能性が高いことである。

また、イノベーションマネジメントの新しい手法として、オープンイノベーション(open innovation)が注目されている。オープンイノベーションとは、イノベーションポテンシャルの拡大のために、組織のイノベーションプロセスをオープンにし、組織外の知識や技術を積極的に利用することである。オープンイノベ―ションが重要なのは、デジタルプロダクトは、自社資源だけでなく、外部の新たな技術や知識も活用するほうが早期にかつ効果的に創りだすことが出来るためである。わが国の電力会社は、すでにオープンイノベーションへの取り組みを始めているが、コロナ禍によるデジタル化の急進展の中で、その動きを一層加速していかなくてはならない。

電力会社にとって、オープンイノベーションは、巨額な自己資源を使うことなく、デジタル化の革新的なアイディアに関与し、新たなデジタルプロダクトを開発できる可能性を提供している。また、異なる企業文化が出会うスタートアップとの協調は、電力会社にとってチャレンジングであり、企業自身の文化にも大きな影響を及ぼす可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【マーケット情報/10月2日】原油続落、需給緩和観一段と強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み続落。需給緩和観が強まり、売りが一段と優勢になった。

生産が再開したリビアの油田からは、10月中に、少なくとも日量24万バレルが輸出される見通し。また、ロシアの10月出荷量も、前月比で増加の見込みとなっている。さらに、2015年から停止していたノルウェーのTor油田が、来月1日から生産再開となり、供給増加の観測を強めた。

一方、新型ウイルスの感染再拡大が続いており、石油需要低迷への懸念が強まっている。9月30日時点で、世界の新型ウイルスによる死者数は100万人を超えた。加えて、10月2日、米大統領の感染が発覚し、エネルギー市場に先行き不透明感が広がった。

【10月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】 WTI先物(NYMEX)=37.05ドル(前週比3.20ドル安)、ブレント先物(ICE)=39.27ドル(前週比2.65ドル安)、オマーン先物(DME)=39.05ドル(前週比3.20ドル安)、ドバイ現物(Argus)=38.70ドル(前週比3.28ドル安)

コロナ禍のエネルギー供給 困難乗り越え責務を果たす


コロナ禍や自然災害など、異常事態が頻発している日本列島。どのような事態が発生したとしてもエネルギー供給を止めるわけにはいかない。

安定供給―。電気事業法、ガス事業法、熱供給事業法とエネルギー供給を取り巻く事業法のなかで、自由化時代になったとしても事業者らが最も重く受け止めている言葉だ。

とりわけ火力発電所やLNG基地、熱供給設備など大型設備を扱う事業者にとって、どのような事態に陥ったとしても安定的に設備を動かし続けることは最重要課題である。大規模な設備になればなるほど、安定的な運用が滞ったときの影響は計り知れないからだ。

そして近年頻発している大型台風やゲリラ豪雨、風水害などの自然災害に加えて、いま新型コロナウイルス災害という異常事態が発生する中、事業者は新たな難題に取り組んでいる。三密回避の設備運用、遠隔監視技術の積極導入、リモート業務の拡充など、新たな勤務体制を整備中だ。

建設中の大型設備も例外ではない。建設工事が滞り、計画していた供給開始年度が遅れてしまえば、長期に、そして安定的に供給し続けるための「供給計画」が瞬時に崩れ落ちてしまう。

既存設備の運用と新規設備の建設―。二つの事柄を同時並行で進めている事業者も存在する。中国電力の三隅発電所(石炭)では、定期的に海外から石炭船を受け入れ100万kWの電源を運用しながら、新たに100万kWの電源の建設を進めている。東京ガスも同様だ。日立基地では既存のLNGタンクを運用し、新たにLNGタンクを建設中だ。さらに、そこを起点に高圧幹線を整備するなど、難易度の高い運用・建設マネジメントを行っている。 われわれの日常のエネルギー利用は、事業者たちのあくなき挑戦によって支えられている。

コロナ禍において安全にそして安定的に運用している中国電力の三隅発電所(石炭)。現在、2号機の建設が進む

【マーケット情報/9月25日】原油下落、需給緩和の観測強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和観の強まりが、売りを促した。

ハリケーンSallyに備えて一時停止していた米国メキシコ湾岸の生産および出荷設備は、順調に復旧している。また、その後発生した台風Betaによる生産への影響は無いもよう。同国の石油ガスサービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内の石油ガス採掘リグ稼働数は、増加を示した。

また、リビアでは、フォースマジュールが解除され、8カ月ぶりに原油の生産が再開。輸出も、近く再開する見込みで、今月末までに最低3カーゴが出荷される予定。加えて、ロシアの10月海上輸出量が、前月から10%程度増加する見通しも弱材料となった。

他方、米国では、新型ウイルスによる死者数が、22日時点で20万人を超え、再度ロックダウンの可能性が台頭。英国、スペイン、フランスでも、感染が再拡大しており、世界経済減速にともなう石油需要後退への懸念が強まっている。

【9月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=40.25ドル(前週比0.86ドル安)、ブレント先物(ICE)=41.92ドル(前週比1.23ドル安)、オマーン先物(DME)=42.25ドル(前週比0.74ドル安)、ドバイ現物(Argus)=41.98ドル(前週比1.09ドル安)

【コラム/9月23日】新総裁・新首相選びを考える


新井光雄/ジャーナリスト

SNSとかいう手法での情報交換が当然の時代らしい。しかし、その弊害で書き込みとかいうものの誹謗中傷が社会問題になってきているようだ。ほとんどタッチしたことがなく、時にそれらしきものをパソコンで見てしまう時もあり、巷のヘイトスピーチと同じように読むに堪えないような表現にであう。自殺者まで出ているというから大きな社会問題なのだろう。簡単にいえばごく普通の庶民が発言の場を持ったという意味ある側面もあるのだろうが、そのルールが全く未成熟ということなのだろうか。

 そこで長い文筆活動で時々、批判めいた文章を書いた時に、自分にそれを書く資格のありやなしやを問う場合があった。「お前にそれを言われたく」。そんな意見に反論できるかどうかだ。難しい。職業として当然といってしまえばそれまでだが、そうもいかない。個人の受け止め方の側面がある。朝、テレビを見ていて放送局のキャスターとか放送記者が傲慢な社会批判を展開しているのを聴くと、「お前にそれを語る資格があるのか」と問い返したくなる。今はその問返しがSNSで簡単に出来るらしい。やったことはないから、その方法などは知らないのだが、物書きをしていると、時にその種の批判に多少はさらされ嫌な思いをする。根本は無名性の批判で、反論ができない。それを承知で相手は書き込みとかをしているのだろう。手に負えない。規制は言論を自由に注意しつつも必要と思う一人である。

 こんな話しを前提にしたうえで以下の話しだ。自民党の新総裁が決まり、結果、新首相も。総裁選はちょっとした茶番だった。どこかヤクザの親分がそれぞれ一党を率いて蠢いたと感じた。余りに民主的ではない。疑問なのは国会議員がここまで集団化しないといけないのだろうか、という疑問だ。選挙民は国会議員が個性を捨てて集団化することを望んでいるのだろうか。自由に立候補して、自由に投票してみてはどうか。推薦人とかも無用に思える。

なぜそれが出来ないのだろう。議員が個人でないところが余りに日本的。企業の派閥もあそこまで露骨ではない。何となく程度だ。 それが総裁選では露骨も露骨の集団行動。それを当然とする領袖とやらも、言えた義理ではないと承知で当方、品格に欠くと言いたい。大臣の椅子を狙う烏合の衆。気分がよくない。SNSの匿名ならば罵倒したいところだ。SNSの問題のありかが分かる。一挙に領袖の名前を出しての罵詈雑言で批判してしまうのかもしれない。  ともあれウンザリの新首相誕生劇だった。菅新総裁・首相は安倍政治の踏襲というから期待は全くないのだが、救いは「家業」でなく田中首相以来のタタキ上げ派だそうで、そこだけは素直に評価しておこうとは思う。 これも誹謗の書き込みだろうか。

【プロフィール】 元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員などを務めた。 著書に 「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。

【コラム/9月14日】再可エネ開発に伴う環境問題に対応するための法的措置を


福島伸享/前衆議院議員

先日、私の地元の茨城県笠間市の太陽光発電の乱開発の現場に編集部の皆さまに取材に来ていただいた。「百聞は一見に如かず」で、現場の住民の声を聞き、ドローンで上空から撮影をしてみると、問題の深刻さを身をもって理解していただいたことと思う。10月号の『エネルギーフォーラム』にそのルポタージュが掲載される予定とのことなので、ぜひご覧になっていただきたい。合わせて近日中にエネルギーフォーラムのホームページにも、衝撃的な動画がアップされるとのことなので、こちらもご覧いただきたい。

今回取材した地点は、笠間市本戸地区。約4キロ四方の範囲内に集落を取り囲むように3カ所のメガソーラー開発が進められている。そのうちの一つ、地元では「富士山」と呼ばれる山の斜面では、地元には「太陽光発電を作らせてもらいます」と話が来たので、畑の横に作るようなものを想像して同意したら、いつの間に山が丸裸になっていたと言う。最初に説明に来た業者から別の業者へと転売され、「今の事業者は誰なのかもわからない」と地元の人は言っていた。

さらに問題なのは、北半分の土地は当初の開発業者が倒産して放ったらかしにしていて、地肌を出した無残なはげ山のままでいるところである。地肌には雨水が流れてできた筋が何本もできていて、昨年の台風19号の時には滝のように流れて、隣の集落と結ぶ道路を埋めてしまった。今も少しずつ土砂は沢伝いに流れ続けて田んぼ2枚を埋め尽くし、ちょっとした雨でも道路は泥の河になってしまうという。でも、事業者は倒産してしまったため、誰に補償や対応を求めたらいいのかもわからず、道路の復旧も市が公共事業として行っているので、結局市民の負担となる。

もう一つの地点では、山の稜線を挟んで東側を中国系企業(10MW)が、西側を韓国系企業(12MW)が開発している。東側は現在造成中で、笠間市内に入ればどこからでも見えるくらい、大々的に地肌が出て無残な姿を晒している。西側は、数名の地権者が売ったり貸したりした山林を縫ってヘビの抜け殻のように太陽光パネルが広がっている。

住民は、「富士山」のメガソーラーで起きたような環境の破壊を恐れて反対運動を行ってきたが、法的には止める手段はない。FITの期限である20年が過ぎたら、パネルを張ってある場所がその後どうなるかもわからない。地表を削って岩盤まで達している状況では植林も困難だと、地元の造園業者は言っている。両社とも、外国企業の子会社が事業主体となっているので、期間が終われば海外に戻って連絡もつかなくなってしまうのではないか、と地元の人は恐れている。でも、それを止める法的な手立てはない。

 第5次エネルギー基本計画に基づき主力電源化が進められる再生可能エネルギーだが、この笠間市の例のように、外国企業が日本人から土地を買い、県外企業が外国人労働者を使って建設し、外資系企業が運営し、20年間利益を貪り尽くせば撤退する。しかも、その利益の源は、FIT制度に基づいて日本の電気利用者に上乗せされている電気代。地元は、土砂の流入や森林の破壊などの環境問題に苦しみ、一度壊された環境は長い間戻らない。土地を売った人以外に利益は何もなく、むしろ修復工事に地元の人の税金は使われる。これでは、一体誰のため、何のための政策なのか、根本的な再検証が必要となるだろう。

経済産業省はエネルギーの供給が所管なので、関係法令に基づき発電がしっかりと行われるように監督はしても、環境の保護や地元との共生の観点からは、さまざまな政策を講じているとはいうものの、強制力の伴う立法措置は行おうとしない。電力システム改革の前までは、事業許可を受けた一般電気事業者が「公益事業」として発送電も小売りも一体で事業を行ってきたから、地域から利益をむさぼるだけの事業形態は起こりえなかった。一方、発送電分離がされ発電への参入が自由となり、かつFIT制度という一定期間利益が保証された環境の下では、公益性や環境問題などの外部経済を考慮しない短期的な利益獲得だけを目指す事業者の排除はできない。  筆者は、これまでの電力システム改革の流れを否定する者ではないが、新しい電力システムに合わせた、環境問題や地域との共生などの公益的課題を解決するための必要な法制度の整備を行うことは喫緊の課題であろう。縦割り行政の間に紛れて、おざなりになるのは許されることではない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【マーケット情報/9月11日】原油続落、需給緩和で売りが加速


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み続落。需給が緩むとの観測から、売りが優勢となった。

複数の産油国が相次いで、10月積みフォーミュラ価格を引き下げ。スポット需要が減少するとの観測が強まった。また、OPECプラスの8月産油量が、協調減産基準の緩和によって、前月比で増えたことも弱材料となった。

さらに、米国の週間原油在庫統計が増加。ハリケーンで一時停止していたメキシコ湾岸の生産設備および港湾施設の復旧が進み、産油量と輸入が増加した。

ニュージーランドの4〜6月ジェット燃料消費量が前年同期比で減少し、さらに過去最低を記録したことも、価格の重荷となった。また、インドをはじめとした新型ウイルスの感染拡大第二波と、米中関係の悪化も、世界経済減速にともなう石油需要後退の見方を強めた。

【9月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=37.33ドル(前週比2.44ドル安)、ブレント先物(ICE)=39.83ドル(前週比2.83ドル安)、オマーン先物(DME)=39.34ドル(前週比4.58安)、ドバイ現物(Argus)=39.14ドル(前週比4.66ドル安)

【コラム/9月7日】収束なくして回復なし~受忍し、この機に経済運営変更を


飯倉穣/エコノミスト

1、新型コロナが、内外経済に与えた影響が示された。「GDP年27.8%減 戦後最悪 緊急事態宣言経済直撃4~6月期」(朝日夕2020年8月17日)、「GDPマイナス27.8% 戦後最大の下げ 4~6月実質年率 コロナで自粛打撃」(日経夕同)。

四半期ベースでみると、前期比GDP△7.8%(41兆円減)、民間消費△8.2%(23.8兆円減)、輸出△18.5%(16.2兆円減)である。落ち込みは、経済変動論に沿った推移と言える。感染現況から暫くこの低下水準が継続しそうだ。当面受忍を強いられ、適応が課題である。そしてコロナ収束後の脱出の展望が求められる。今後の方向を考える。

2、現経済の状況はどうか。新型コロナという天然現象は、自然リスク最小化模索の人工経済の脆弱性を呼起した。グローバル化や市場重視の新自由主義の取柄を低下させ、弱点を際立たせた。各国は、グローバル化・自由貿易第一でなく、まず自国経済第一を確認した。悪夢から覚めた人々の行動は、浮かれ経済を変えつつある。ある意味で「花見酒」経済の終焉である。収束迄、需要収縮で厳しい状況が継続する。

3、今後の展開はどうか。コロナ下の賢明な行動自粛は、サービス産業を直撃している。中小零細の自営業の休・廃業を招来する。大企業も、アベノミクスの財政・金融現象で得た蓄積(全産業純資産比率11年38.6%⇒18年43.5%)を費消し、縮小均衡でリストラを余儀なくされる。適応過程で多くの失業者、失職者を生起する。一般的にはGDP40兆円減なら約400万人以上の雇用調整となる。

影響を受ける業種、働く人は、時間消費関連つまりサービス産業関係である。サービス産業動向調査(18年)で直撃事業を拾うと、運輸業(一般乗用旅客自動車運送業、航空運輸業)、物品賃貸業(自動車賃貸業)、宿泊業・飲食サービス業(宿泊業、飲食店)、生活関連サービス業(その他生活関連サービス業:旅行業・冠婚葬祭業、娯楽業)等である。産業規模は、売上で71兆円、従事者760万人(うち非正規577万人)である。これまで所謂「構造調整・改革」の雇用調整の受け皿であった。これに小売・輸出関連産業等が続く。

市場経済の就業は各人の必死の生き様任せとなる。今新産業創出の雇用増は期待できない。最低賃金でもどこでも稼ぐ姿勢が問われる。縁者を頼るもよし、不本意でも働き口を見つけるのもよし、研修生でも海外でもよしである。

4、コロナ後を見据えた中期はどうか。経済運営の変更が必要である。自然経済時代は、天然・自然現象への備えが何時も課題であった。天災による経済ショック対応は、旧約聖書創世期第41章「エジプト王パロの夢とその実現」が参考となる。自然経済時代の経済変動の姿を伝える。7頭の牝牛と7つの穂の話である。ヨセフは予言する。7年の豊作継続後、7年の飢饉到来である。そして豊作時作物の5分の1を貯えることを進言する。夢解き通りの推移が、備えの大切さを教える。聖書の話は、飢饉終了なくして解決策なし、事前の備えこそ対策と説く。

日本なら二宮尊徳「勤・倹・譲・分度」の倹(蓄えのための倹約)であろう。分限度合に徹した生活と変への備えを大事にする。政府推奨の合言葉「貯蓄から投資・消費へ」は、この精神を軽視する。

5、平成バブル崩壊以降、日本は針路を見いだせず、米国流経済運営の押付・模倣となった。グローバル化の下で、新自由主義(市場崇拝)、資本・株主第一、フロー(利益)重視の企業経営効率化、人件費の変動費化(雇用の流動化・不安定化=非正規)を進めてきた。そして資本の論理を翳した金亡者のゼロサムゲームが横行する。株主利益重視・蓄積資本の社外分配促進は、蓄えや雇用を軽視する。

今回のコロナ異変は、企業存続・雇用維持で含み資産経営や内部留保蓄積が理に適っていることを示している。今後の経済運営は、米中摩擦、温暖化防止、技術革新停滞を念頭に置きつつ、「雇用とセキュリテイ」を理念とすべきである。新自由主義市場経済運営の修正である。雇用第一、企業の低収益・安定容認、株式の確定利付債券的見方が基本である。 コロナ対策と経済の両立が謳われている。収束なくして回復なしである。飢える人への食料供与以外に良策は無く、現代科学が感染を終了させることを期待したい。何時でも合理的・理知的・利潤追求の企業行動こそ脱出への道である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【マーケット情報/9月4日】原油下落、需給緩和感が強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和感が台頭し、売り意欲が戻った。ハリケーンに備えて一時停止していた米国メキシコ湾岸の生産および出荷設備は、徐々に復旧している。加えて、米国でガソリンおよび軽油需要が後退したことで、需給緩和感が強まった。特にガソリン需要は、前週比で、5月中旬以来最大の減少幅を記録した。

一方、米国の週間原油在庫は、悪天候による生産停止を背景に減少。また、米ゴールドマン・サックスは、来年の石油需要予測に上方修正を加えた。さらに、米国および欧州の製造業における8月経済指標は回復を見せたが、価格を持ち上げる要因にならなかった。

【9月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=39.77ドル(前週比3.20ドル安)、ブレント先物(ICE)=42.66ドル(前週比2.39ドル安)、オマーン先物(DME)=43.92ドル(前週比0.54安)、ドバイ現物(Argus)=43.80ドル(前週比0.31ドル安)

ビジネス見据えたVPP実証 多様な事業者と需要家が参画


電力各社が本格的なビジネスを見据えたVPP実証を始めている。既に約700万台が普及したエコキュートにも新たな期待が持たれている。

電力各社が取り組むVPP実証―。東京電力など大手電力が5年ほど前から先陣を切って取り組んできた実証の動きは、昨今は地方の電力会社にも波及している。

北陸電力や四国電力は、関西電力が手掛ける「関西VPPプロジェクト」に昨年から参画し、自らの供給エリア内に存在する需要家のエネルギーリソースを活用しながらリソースアグリゲーターとして参加し始めている。

2016年度から実証を始めている幹事会社の関西電力は、十数分から数時間程度の比較的長時間の負荷変動に対応する調整力の制御について、リソースアグリゲーター自らがエネルギーリソースを制御するためのシステムを開発。実フィールドにおいて高度な制御ができることを確認している。また数秒から数分程度の短周期の制御では約1万台規模の蓄電池を一括制御するシステムを構築するなど、今年度も実証を進めていく方針だ。

参画している北陸電力によると、「地域に分散している需要側のエネルギーリソースの統合制御の精度向上に努めていく」という。

キーワードは「多様化」 需要家巻き込み安定供給

各社の実証の中身はVPPのビジネス展開を見据えたものになっている。中部電力の小売りカンパニーである中部電力ミライズでは、今年度から始めている実証で、①多種多様なエネルギーリソースの調整力への活用を検証、②需給調整市場への参入や幅広いビジネスモデルを検討、③多様な事業者・需要家の参加、④調整力を活用したビジネスへの参入しやすい環境を構築―の四つの特徴を掲げ、主に五つの実証項目に取り組む(表参照)。

中部電力の実証項目と内容

キーワードは「多様化」だろう。エネルギーリソースは照明、空調、自動販売機、発電機、エネファーム、水道ポンプ、蓄電池、電気自動車など実に多様なアイテムが並ぶ。プレイヤーも多様だ。リソースアグリゲーターとして大阪ガス、トヨタエナジーソリューションズ、明電舎など6社が参画する。需要家側も多様である。学術機関、製造業、自動車販売店、植物工場、水道局など需要家自らも協力する体制で臨む。

再エネ普及を支える電化の理想形 新事業モデルの挑戦と価値


座談会:竹内純子/国際環境経済研究所理事・主席研究員
    矢田部隆志/東京電力ホールディングス技術戦略ユニット技術統括室プロデューサー
    比嘉直人/ネクステムズ代表取締役社長
    西川弘記/パナソニックエコソリューションズ社スマートエネルギー営業部主任技師

国が目指す「再エネ主力電源化」への道のりは長い。ヒートポンプ・蓄熱を中心とした電化システムが果たす役割は何か。TPO(第三者保有)などの新しい事業モデルがその道程に貢献しようと動き出している。

竹内純子

竹内 コロナ禍によって社会システムが大きく変わったと言われていますが、エネルギー業界ではどうでしょうか。スピード感やバランスが多少変わることはあったとしても、分散化や低炭素化、デジタル化といった方向性はそれほど変わっていないと私自身は感じています。まず、コロナ禍においての環境変化について、ご意見や感じていることをお聞かせください。

矢田部 7月に総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が開催され、エネルギー情勢の現状と課題が示されました。気になったのが「エネルギー転換」、つまり需要側の電化や水素化の項目です。

 これまでのエネルギー政策は供給側の視点が多かったわけですが、今後は需要側の対策に注力していく必要があるのではないか、と明記されたわけです。東京電力としても需要側の重要性は認識しており、電化や水素化が求められていると感じ始めています。

 コロナ禍の状況変化について触れると、今年度の第1四半期の電力需要・ガス需要が果たしてどうなったのか。関東においては、電力需要は5%、ガス需要は20%くらい落ち込んでいます。家庭用は堅調ですが、特にガスについては産業用・業務用の落ち込みが大きい。エネルギー転換の加速化は、こうした末端の需要構造が変化している点で進んでいく可能性があるのではないかと感じています。

比嘉 コロナ自体、大変に不幸なできごとですが、幸いリモートワークが意外と活用できるなと感じています。リモートワークでは、効率良くいろいろなところとつながって仕事ができる。

 後ほど説明しますが、われわれが宮古島で始めている事業、つまり「TPO(第三者所有)」や、「PPA(電力売買契約)」ですが、住宅側に太陽光パネルや蓄電池、エコキュートなどを普及させようとする事業モデルでは、太陽光発電の自家消費を促すリモートワークは歓迎です。島民にとって、住宅の光熱費への関心が高まれば、われわれの事業にとっては追い風だと思っています。

 これまで宮古島は過剰な観光バブル景気でした。しかし、コロナ禍によって観光客がパタッと止まってしまった。そうした中、住民の皆さんが少し冷静になって自分たちの暮らしに向き合うようになっており、われわれのサービスが注目されるようになってきました。

エネルギーとレジリエンス 個人の対策と全体の対策

西川 モノづくりの企業として気になるのが、雇用システムですね。人手を介さないロボットやAI化が加速するのではないかと感じています。加えて中国一極集中に恩恵を受けてきた製造業界にとって、グローバルチェーンのレジリエンスも考えていかなければと感じています。例えば、太陽光発電のパワコンなども中国製部品が不足すると製品が完成しないなど、リスクと恩恵のバランスを考慮しないといけないと感じています。

竹内 レジリエンスという単語が出てきました。2018年の北海道ブラックアウトや19年に千葉を襲った台風被害をきっかけに、エネルギー業界でもレジリエンスがキーワードになりつつあります。さらに、コロナによって、リスクはものすごく多様だということをわれわれは今、学んでいます。

矢田部隆志

矢田部 レジリエンス対策では、最終的に個人個人が対策を進めないといけないポイントがある中で、再エネを中心とした分散型電源が解の一つになると感じています。

 再エネの自家消費化には、やはり家の中の電化を進める必要があります。普段から再エネ電気を使いこなすことで、非常時でも対処できる。そうすると、エコキュートや太陽光発電を組み合わせた仕組みは今後のレジリエンスのモデルの一つになると思っています。

【コラム/8月31日】再生可能エネルギー電源の増大とスマートメータ導入の効果


矢島正之・電力中央研究所名誉研究アドバイザー

低炭素社会を実現するためには、炭素税や排出量取引の導入のほか、再生可能エネルギー電源の拡大や省エネルギーの促進が鍵を握っている。前者については、FIT(feed-in-tariff )やFIP (feed-in-premium)といった政策支援が講じられている。また、後者については、省エネ法等による規制的手段が採用されてきたが、今後はスマートメータを利用したデマンドレスポンスが期待されている。本コラムでは、低炭素社会実現のための重要な手段である再生可能エネルギー電源の増大がスマートメータの導入により可能となるデマンドレスポンスに与える影響について考えてみたい。

わが国では、スマートメータの導入が進み、電力各社は2022~2024年には全戸に設置を完了させる予定である。スマートメータの導入により、電力消費の「見える化」が可能になるが、これが実際の消費削減行動に結びつくかは疑問である。電力は「普段意識していない財」である。電力消費が「見える化」された当初は、消費行動の変化はあっても、やがては消費削減意識も薄れていく可能性がある。また、ピークシフトやピークカットを動機づけるために、リアルタイム料金を適用し、需要家に電力の使用パターンを変化させるデマンドレスポンスが期待されている。ところが、再生可能エネルギー電源が大量導入された場合、デマンドレスポンスの効果は大きく減ずる可能性がある。

政策的な支援で再生可能エネルギー電源が飛躍的に増大しているドイツでは、卸の価格が低迷する一方で、同電源支援のための公課や系統増強のための費用の増大で、電気料金に占めるエネルギーコスト(電力調達コスト)のシェアが小さくなってきている。同国の2019年における家庭用電気料金の構成は、エネルギーコスト(小売の運営コストと利益を含む)25%、ネットワークコスト23%、租税公課52%である。エネルギーコストの電気料金全体に占める割合は1/4に過ぎず、エネルギーコストが低減しても、電気料金は高止まったままだろう。

ドイツでは、再生可能エネルギー電源からの発電量の総発電電力量に占めるシェアは、2020年1月現在42%であるが、政府目標では2050年には80%を占めることになる。そのような場合には、卸電力の価格は一層下落していくだろう。このことは、電気料金がほとんどエネルギーコスト以外の削減不可能な要素によって占められることを意味している。負荷シフトをしてもエネルギーコスト以外の費用が相変わらず重くのしかかってくるのであれば、負荷シフトのインセンティブは大きく減じることになるのではないか。また、ピークカットにしても、家庭の生活スタイルを大きく変えてまで消費の削減をすることは現実的とは思われない。 以上のことから、とくに再生可能エネルギー電源が大量導入される場合、スマートメータ導入の効果を発揮させるためには、「見える化」やリアルタイム料金だけでは十分でなく、一層革新的なプロダクトが求められているといえるだろう。そのさい鍵を握るのは、スマートメータを利用して太陽光発電や蓄電池などの機器を自動制御するエネルギー自立支援システムではないだろうか。電力会社のイノベーション能力に期待したいところだ。

【プロフィール】国際基督教大学大学院行政学研究科卒。博士(行政学)。1970年、電力中央研究所入所、理事待遇、首席研究員を経て2009年より研究顧問。2010~2011年度、学習院大学経済学部経済学科特別客員教授。2012年度、慶応義塾大学大学院商学研究科特別招聘教授。公益事業学会理事、国際公共経済学会理事。専門分野は公益事業論、電気事業経営論。

【マーケット情報/8月28日】原油上昇、悪天候による供給不安が台頭


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。悪天候に備え、米国での生産および出荷が一時停止したことが、価格を支えた。

ハリケーンLauraの接近を受け、米国メキシコ湾岸の生産設備のうち、84%が一時操業を停止。一部輸出港も閉鎖し、供給が滞るとの見通しから、逼迫感が台頭した。また、米国の週間在庫統計が減少を示したことも、強材料として働いた。

ただ、ハリケーンによる被害は、想定より軽微に留まった。加えて、インドの7月原油処理量が、前年比19%減少。4〜6月の輸入量も、前年比で26%の減少を示した。さらに、インドは、新型ウイルスの感染拡大を背景に、一部地域でロックダウンを1か月延長することを検討しており、価格の上昇が幾分か抑制された。

【8月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=42.97ドル(前週比0.63ドル高)、ブレント先物(ICE)=45.05ドル(前週比0.70ドル高)、オマーン先物(DME)=44.46ドル(前週比0.21安)、ドバイ現物(Argus)=44.11ドル(前週比0.20ドル高)