スマートメーターが2024年度末までに全国8000万件に導入される。スマメから取得できるビッグデータにはどのような可能性があるのか。業界関係者が集まり、今後の展望を語り合った。
〈司会〉江田健二/ラウル代表取締役 エネルギー情報センター理事
〈出席者〉
一色正男/神奈川工科大学 創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科教授
平井崇夫/グリッドデータバンク・ラボチーフディレクター
渡邊太郎/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング ユニットマネージャー
江田 エネルギー業界には、デジタル化の波が押し寄せています。皆さんが現在取り組んでいることを教えてください。
平井 私が所属しているグリッドデータバンク・ラボは、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力、NTTデータの4社が出資する有限責任事業組合です。電力データ、特にスマートメーター(スマメ)のデータを活用してさまざまな社会課題解決、あるいは新しいビジネスやサービスの創造に向けた実証をしています。組合の趣旨に賛同する約150の自治体や企業が会員となり、電力データだけでなく、異業種データも組み合わせた実証も進めています。
電力データの利活用に向けたルール整備などに関する会員ニーズについては、適宜、国の審議会などへ提言し、データ活用が促進されるような社会作りへ貢献できるよう取り組んでいます。
一色 2011年末に経済産業省の「スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会」で仕事をしたときに、スマメのBルートをどう処理していくか、電力会社を含め皆さんと議論をしました。また、エコーネットライトという国際標準化機構(ISO)に準拠した通信規格をベースに、スマメが全需要家に導入されることを見据え、準備を進めてきました。メーターからデータをどう取り出し、利用するのかを研究テーマとしています。
また、太陽光発電や蓄電池を組み合わせ、スマメを使った自家消費や逆潮された電力の出し入れといった、需要家内の電力の需給バランスの計測。これについても、電力の売買の議論を支えるために必要なシミュレーターを作り、効率的利用について研究しています。
渡邊 官公庁や自治体向けの環境コンサルティング業務を行っています。直近では愛知県岡崎市の「岡崎さくら電力」の設立や、栃木県宇都宮市の地域新電力設立の事務局支援をしています。再生可能エネルギー由来の水素を活用した実証事業にも取り組んでいます。
実は前職で、電力会社に勤務し、検針業務で実際に現場に足を運んでいたことなどもあります。
素晴らしいインフラの整備 従来検針員の配置転換
江田 スマメデータの公開領域をどこに設定するかなど、課題はあるかと思いますが、私自身はスマメの導入には大きな意義があると思っています。皆さんはどのような意義を感じていますか。
平井 一般論ですがスマメを導入するメリットには三つの視点があると思います。一つは送配電事業者の業務効率化を図れる点、二つ目は小売り事業者が料金メニューを充実させられる点、そして三つ目がまさにグリッドデータバンク・ラボが手掛けている電力分野以外での社会課題の解決や、新しいサービスの創出に向けた電力データの活用といった点です。
業務効率化に関しては、毎月実施していた現地検針や、引っ越し後の負荷開放処理など、現地出向作業の軽減を実現しており、また料金面についても、30分毎の料金メニューなどが、小売り事業者によって既に展開されています。
江田 電力やガス、水道を組み合わせた共同検針はどうですか。
平井 共同検針の実証事例はありますが、以前からハードやソフトを、各業界が別個に作っています。そのため、両者のシステムをどう統一するかが課題かと思います。国の検討会などでいろいろな事業者で知恵を出し合いながら、ベストな共同検針の在り方を検討しているのが今の段階です。
一色 HEMS利用の観点から言うと、スマメのデータは30分に1回送信されるので、ある程度需要家の動きが分かります。ただ、これだけでは足りないなと感じています。実は日本のスマメは非常に優秀で、技術的には1分値を拾うことができますし、そうした値を使うメリットとしては、電力需給のより効率的な運用が可能になるほか、「見守りサービス」なども展開できると期待しています。また、家の周りは「雨が降っている」などの別の状況も推定できます。この辺にデータ活用の新しい世界があります。いずれにせよ、10年にも満たない期間でこうしたインフラを全国にくまなく整備する日本の電力会社はすごいです。
それから水道やガスのデータは、本当は取り出せた方が良い。例えば水データがあれば洗濯なのか、お風呂のお湯を沸かしているのかが分かる。さらにユーティリティーの無駄が分かってくる。今後、省エネやゼロエミの時代を目指していく中で、そうした取り組みは意義を持つと思います。
渡邊 電力会社に勤務した経験から話すと、検針やメーター関連設備作業など、その業務のためだけに片道1時間をかけて現地に向かうことがありました。そうした点を考えると、スマメによる遠隔検針には意義があると思っています。
一方、これまで検針業務を担っていた人材をどう配置転換していくかは課題だと感じています。日常の検針業務は、お客さまと折衝するわけではないため、時間の融通が割と利く仕事です。そのため、例えば日中に家に居なければいけない方々にとっては大事な仕事ではないかと思います。ベストなシナリオとしては、スマメを核とした新規事業、新しいサービスについて、旧来の検針員の方々が担えることではないでしょうか。