【特集2】次代を見据えた燃料転換へ船出 大手電力が供給網づくりに注力


火力発電大手JERAがアンモニア燃料利用の有効性を実証した。企業の枠を越えて地域で連携する取り組みも熱を帯び始めた。

脱炭素化につながる水素やアンモニアといった次世代燃料を発電や産業用途で生かす―。大手電力各社がそんな近未来を視野に入れた取り組みで存在感を発揮している。その一社が、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAだ。同社は火力発電で使う燃料の一部を、石炭から燃やしてもCO2を出さないアンモニアに置き換えて発電する大規模な実証試験で有効性を確かめた。多様な業種を巻き込んだ脱炭素燃料のサプライチェーン(供給網)づくりも全国各地で活発化する中、最新動向に迫った。

ゼロエミ火力視野に前進 重工メーカーと強力タッグ

発電時にCO2を排出しない「ゼロエミッション火力発電」の実現に向けた大きな一歩を踏み出したのがJERAだ。同社はIHIと連携し、碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機で発電燃料の20%(熱量比)をアンモニアに転換する試験を、4月から6月にかけて実施。定格出力100万kWで運転を行った結果、転換前との比較で窒素酸化物(NOX)は同等以下、硫黄酸化物(SOX)が約2割減少したことを確認した。

碧南火力発電所のアンモニア貯蔵タンク

試験で良好な結果が得られたことを受けて今後は、ボイラーや周辺機器への影響などを詳細に調べる活動を進め、2025年3月までにアンモニア転換技術を確立することを目指す。

船から荷揚げした液体のアンモニアは、発電所内のパイプラインを経由して専用のタンクに貯蔵。そのアンモニアを気化し、石炭を燃やすボイラーに差し込まれたバーナー(燃焼装置)に送る。そこで生まれた熱で水を沸かして蒸気に変え、タービン発電機を高速で回して電気をつくるという仕組みだ。

早ければ27年度に4号機で商用運転を実施。将来的には国内の石炭火力発電で、アンモニアへの転換率を30年代前半に50%以上、40年代までに100%へと段階的に引き上げていくことを視野に入れている。

火力発電の燃料を石炭から燃焼時のCO2排出量がより少ない液化天然ガス(LNG)へシフトし、さらに石炭やLNGを徐々にアンモニアや水素に転換することで、エネルギーの安定供給を果たしながら脱炭素化を実現していく―。そんなシナリオを描くJERAは、国内で培った技術や経験を海外に展開することも目指す。

【特集2】エネルギーと化学品のシナジー追求 脱炭素化の移行期を強力に後押し


【三井物産】

三井物産は、水素・アンモニア戦略の中で、燃焼時にCO2を排出しない「クリーンアンモニア」を脱炭素社会の実現に役立つ次世代燃料の有望な選択肢の一つと位置付け、国内外で調達先の開拓やサプライチェーン(供給網)づくりに力を入れている。同社は、経済成長が著しいアジア市場などを舞台に約50年にわたりアンモニアの取り扱い実績を積み上げてきた。その間に蓄積した経験や知見を生かしてアンモニアの利用拡大を後押ししたい考えだ。

日本政府は「グリーン成長戦略」の中で、2050年に「世界全体で1億t規模を日本がコントロールできる供給網を構築する」という目標も掲げた。

三井物産はこうした目標の達成を後押ししようと、クリーンアンモニアの製造から輸送・利用・販売にいたる一連のプロセスに参画している。ベーシックマテリアルズ本部メタノール・アンモニア事業部クリーンアンモニア事業開発室長の高谷達也氏は「これまでアンモニアを扱ってきた化学品セグメントと、エネルギーセグメントが連携してシナジー(相乗効果)を発揮し、脱炭素社会への移行期に貢献したい」と意欲を示した。

世界的な視野で市場開拓 協力的な関係で仲間づくり

米国では、窒素系肥料最大手CF Industries Holdings(米イリノイ州)との間で、窒素と化石燃料由来のブルー水素を合成した「ブルーアンモニア」の事業化に向けたFS(実現可能性調査)を進めることで合意し、22年7月に共同開発契約を締結。24年後半のFID(最終投資決断)を目標に準備を進めている。メキシコ湾で年間120万t規模の生産を目指す。

5月には、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)グループや韓国のGSエナジーと連携し、UAEでアンモニア製造プラントの建設を開始。27年に生産を始めるとともに、追加設備を導入して製造過程で排出されるCO2を回収・貯留し、30年までにクリーンアンモニアの製造を開始する予定だ。

三井物産は、国内各地で計画するアンモニア供給事業にも協力している。例えば、三井化学やIHIと手を組み、大阪堺・泉北工業地域にアンモニア供給拠点を設けるとともに、関西・瀬戸内エリアを含めた広域の需要地に供給網を形成。3社はこうした取り組みの実現に向け、経済産業省の「非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(水素等供給基盤整備事業)」に応募し、5月に採択された。

「燃料の生産国と需要国が事業上のリスクをシェアし、協力的な関係で仲間づくりを進めていかなければ、安定成長する新エネルギー市場が育たない」とエネルギーソリューション本部水素ソリューション事業部水素マーケット開発室長の天野功士氏。豪州では、1万kW規模のグリーン水素製造設備の建設を進めている。総合商社の強みを生かし、各国・地域の需要や制度の動向を見極めながら、クリーンアンモニアに加えて水素市場も段階的に攻略する方針だ。

アンモニア製造プラントのイメージ

【特集2】米国での低炭素事業を主導 化石資源で磨いた手腕を発揮


【INPEX】

米国テキサス州・ヒューストン港で、低炭素アンモニア事業の本格展開に向け動き出しているのがINPEXだ。

エア・リキード(AL)、LSBインダストリーズ、VMHの計4社でコンソーシアムを組成。天然ガスを原料に水素を製造し、2027年までに年間110万tのアンモニアを商業生産する計画だ。ALの空気分離装置やCO2回収技術を組み合わせながら効率的に水素やアンモニア転換を図り、CO2を地中に埋める。

さらに、VMHが運用している既存のアンモニアターミナルを活用し、LSBの製造ノウハウと販売網を生かす。4社は、すでに事業化調査を終えており、概念設計も間もなく完了する。

同社水素・CCUS事業開発本部事業推進ユニットの神谷剛人ジェネラルマネージャーは、「水素とアンモニアの事業会社をそれぞれ設立する予定で、いずれにも当社が主導的な役割を担う。海外における低炭素事業で日本企業が製造から販売まで主導するユニークな取り組みになる。販売先は、アジアを中心としてエネルギー用途を想定しており、欧州も視野に入れている」と説明する。

国内で初めての一貫実証 ベンチャーの新技術を駆使

同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の協力を得ながら、米国の「ミニチュア版」ともいえる取り組みを国内でも実証事業として行っている。

新潟県柏崎市の自社ガス田を生かして、天然ガスから水素をつくる。その際に出るCO2をEGR(排ガス再循環)としてガス田に注入し、CCUSを行いながら天然ガス生産を促進する。その天然ガスから年間700tの水素を製造し、うち100tをアンモニアに変換する。水素は水素エンジンを通して発電する計画で、規模は小さいが、生産から利用までの「一貫実証」は日本で初めての取り組みとなるという。

この工程で注目すべきことがある。それは新しい技術を使ってアンモニアを生産することだ。ベンチャー企業、つばめBHB社が生み出した新触媒を用いることで、低温低圧での生産が可能になる。「従来のハーバー・ボッシュ法とは異なる手法で、小規模でも効率的な生産が可能になる。新しい製造手法を用いることで国内の技術革新にもつなげていきたい」(同)

25年から生産を始める計画で、実証後はその成果を活用し新潟県内で既存のインフラを活用したブルー水素製造プラントを建設し、30年までに商業化を目指している。

これまで中東やオーストラリアを中心に、石油やLNGの生産・販売をコア事業としてきた同社にとって、「アンモニア」は未知の領域だ。エネルギー利用を目指すなら安定生産と安定供給が至上命題。これまで化石資源で培ってきた知見を生かしながら、アンモニアの安定的なハンドリングに向けて、同社の腕が試される。

柏崎市では国内初の実証が行われる

【特集2】ガスタービンで水素30%混焼に成功 アンモニア燃焼システムも開発中


三菱重工業が水素・アンモニア発電用ガスタービンの開発に注力している。次世代ニーズに対応するため近年中の完了を目指す。

【三菱重工業】

三菱重工はカーボンフリー燃料として水素・アンモニアを利用するガスタービンの開発に注力する。水素ガスタービンの早期商用化に向けては同社高砂製作所内に「高砂水素パーク」を整備、水素の製造から発電までにわたる技術を一貫して検証している。

水素ガスタービン開発では昨年11月、実証発電設備で最新鋭の「M501JAC形」ガスタービンによる水素30%混焼運転に成功した。今後、中小型ガスタービンは25年、大型ガスタービンは30年以降の水素専焼での商用化を目指し、新型燃焼器の開発を進めていく。

水素は天然ガスに比べて燃焼速度は7倍と高く、燃焼器で天然ガスと水素を混焼、または専焼すると、天然ガスのみを燃焼した場合よりも火炎位置が上流に移動し、空気と十分混合する前に高い火炎温度で燃えるため、NOXが増加する。また、燃焼器の上流に火炎が遡り、逆火が発生するリスクも高くなる。そうした課題を解消するため、専焼用のマルチクラスタ燃焼器では混焼用燃焼器より、高流速かつ混合距離が短縮可能で、逆火耐性が高いものを目指す。また、火炎を多数に分散することでNOX低減を図る。

アンモニアでは2方式を検討中 安定した火炎保持が課題

一方、アンモニアは天然ガスに比べて発熱量が3分の1、燃焼速度が5分の1と低いため、燃焼が不安定になりやすく、火炎を安定して保持することが難しい。また、窒素分を含んでいるため、燃焼の過程で発生するフューエルNOX(燃焼由来)が生成されるため、NOXを低減する手法が必須だ。そこで同社はアンモニア燃焼システムとして、直接燃焼GTCC(ガスタービン複合発電)と分解GTCCの2方式を検討中。直接燃焼GTCCはNOX排出量を低減するアンモニア用燃焼器と高効率脱硝装置を組み合わせた。同システムは中小型H-25形ガスタービンで開発を進め、25年以降の実機運転、商用化を目指す。分解GTCCは実用化を検討中だ。

長期脱炭素電源オークションに参加するうえで、火力発電の次世代燃料への対応は必須条件となる。こうした発電ニーズに三菱重工はさまざまな開発を進めて応えていく構えだ。

高砂水素パークで混熱運転を進める

【特集2/対談】高まる次世代燃料の導入機運 活用促進に不可欠な多様な視点


水素・アンモニアの事業拡大を促す動きが熱を帯び始めた。有識者2人が語り合い、社会に根付かせる方策を探った。

出席者

橘川武郎/国際大学学長(左)

村木 茂/クリーン燃料アンモニア協会会長

橘川 GX(グリーントランスフォーメーション)の基本方針に沿って、今年5月に水素社会推進法とCCS事業法が成立し、制度が着々と整ってきています。そうした中、水産・アンモニア拠点の整備支援の公募が始まり、10件が一次審査を通過しました。一見するとアンモニアと水素がほぼ半々ですが、値差補填の比率を見ると、アンモニアが高くなっていて、そこに若干、e―メタノールが入ってくる流れになっているのが現状です。

村木 グローバルでの水素利用はヨーロッパ、アメリカが中心で、基本的にはグリッドに供給できない域内の再生可能エネルギーの余剰分を水素に転換してパイプラインに入れています。一方、アジアはパイプライン網がなく、再エネと水素需要が結びつきにくい。日本、韓国、シンガポールではアンモニアを輸入して直接利用、もしくはアンモニアをクラッキングして水素供給する動きが出てきています。また、日本と韓国は、石炭火力発電所の燃料転換から始まり、石炭火力のないシンガポールではアンモニアガスタービンを入れる準備が進んでいます。

橘川 水素やアンモニアといった次世代燃料の普及は、オフテイカー(引き取り手)次第ということが明確になってきました。オフテイカーは石炭火力発電所、船、飛行機の3種類です。この中で、都市ガス会社がオフテイカーとなるe―メタンは、都市ガスとして使う場合、熱量を45MJから40MJに下げる必要があります。徐々に下げると多くのコストがかかるので、一気に下げる点が課題です。

村木 旧一般電気事業者、IPP事業者で具体的な動きがあるのは、今回の長期脱炭素電源オークションにおいて、アンモニアへの燃料転換に手を挙げているのが、北海道電力の苫東厚真、コベルコパワー神戸の2基。それからJERAの碧南火力の2基です。中でも、碧南火力の大規模実証の成功は、大きなインパクトでした。

アンモニア転換実証を行った碧南火力発電所

橘川 今でも世界の30%以上の電源が石炭で、天然ガスの約1・5倍あります。碧南火力は、新興国がカーボンニュートラル(CN)化を実現できるモデルになりますね。

インフラ投資は最小限に 戦略的なゼロエミ化が必要

村木 東南アジアでは、稼働年数の少ない石炭火力が多く、地域の雇用にも重要な役割を果たしているので簡単にはやめられません。一方で、天然ガス火力に切り替えると、インフラ整備にコストがかかる上に、水素インフラも作らなければゼロエミッションにはなりません。そこで、われわれは一回のインフラ投資でゼロエミッションが達成できるよう、石炭火力でのアンモニア導入からアンモニアガスタービンによるゼロエミッション化を提案しています。

橘川 アンモニアの世界において、日本は世界のボスになれそうですね。あと、CCS(CO2回収・貯留技術)でのアンモニア利用も考えられます。村木さんにご案内いただいたアメリカのアンモニア工場では、CCSが行われていました。

村木 アメリカのテキサス州、ルイジアナ州では、天然ガスが産出され、アンモニア工場が立地していて、CCSのフィールドもある。近くにインフラが集中しています。日本は、CO2の発生源とCCSを実施するフィールドが離れているケースが多く、インフラ形成を含めたコストが課題です。。

橘川 そうした中、苫小牧では出光興産の製油所の敷地からCO2を海底に直接入れています。このような好条件は、世界中を見てもなかなかありません。

村木 アンモニアの輸入インフラ形成に関して、周南では出光がLPGタンクをアンモニア用に切り替えて利用する計画です。アンモニアの液温度はマイナス33℃と、LPGと同じ温度帯なのでタンクの転用が可能です。三菱商事は波方LPGターミナルでも同様の計画を進めています。JERAは碧南で大型タンクを新設する計画で、日本のLNGタンクに多く採用されているプレストレストコンクリート(PC)で外側を巻き、液漏れのリスクのないタンクを建設する計画です。

【特集2】CNへ必須のエネルギー利用 サプライチェーン構築を支援


国内外の各地で新燃料の供給・活用体制づくりが加速している。政府としての対応を、廣田大輔水素・アンモニア課長に聞いた。

【インタビュー】廣田大輔/資源エネルギー庁 水素・アンモニア課長

ひろた・だいすけ 2005年東京大学大学院電気工学修士を修了、経済産業省入省。原子力・石油ガス政策、新型コロナ下の予算編成・税制改正やGX政策などを担当。24年7月から現職。

─アンモニアや水素など新燃料への取り組みの現状をどう見ていますか。

廣田 カーボンニュートラル(CN)社会を実現する上で、水素やアンモニアを燃料として活用していくことは非常に重要な取り組みです。発電燃料としてはもちろん、輸送や工場のボイラーの熱源といった電化できない工業プロセスの脱炭素化に向け鍵となる燃料であり、既にさまざまな業種の企業がコンソーシアムを組みながら取り組みを始めています。

─エネルギー利用に向けての課題は。

廣田 燃料として活用するためには、水素にせよアンモニアにせよ、膨大な量を必要とします。現段階でそれを賄えるような大規模な製造・生産の事業例はなく、世界中で燃料のスケールに合った技術やシステムの確立を目指し開発が進められています。技術面に加えて、プロジェクトに対し、きちんとファイナンスが付くかどうかも大きな課題です。ファイナンスが付くためには、製造した水素・アンモニアを安定的に買い取る需要家の存在が欠かせません。燃料規模のプロジェクトを立ち上げるには、技術とファイナンスの二つの課題をうまくクリアしていく必要があります。

─そうした課題に対する政府の支援策とは。

廣田 今年5月に水素社会推進法が成立し、施行に向け準備を進めています。この中に、化石燃料との価格差に着目した支援が盛り込まれています。支援期間は15年ですが、その後も10年間供給を継続する計25年間の事業計画を立ててもらうことで、長期的なプロジェクトを成立しやすくする狙いです。また、海外から燃料を受け入れる拠点整備に対しても支援を行います。詳細な制度設計はこれからですが、燃料の供給、拠点整備の双方を支援することで、16年目から経済的に自立可能なサプライチェーンの構築を目指します。

─企業に対しては何を期待しますか。

廣田 今後、CNの実現を目指していくわけですが、同時に、企業は新しいビジネス機会を捉えて成長につなげるという視点を持たなければなりません。CNにより、足元のコストが増える側面はありますが、いかにコストを抑制するかだけではなく、新たな市場に向け、稼げる製品と稼げるサプライチェーンを作ることを両輪で考えていかなければ、取り組みは持続しません。増えるコストは、新しい成長市場に進出するための「投資」であるという考えを持ち、トランスフォ―メーション(X)に挑戦していただきたいと思います。政府としても、Xに挑戦する企業に対しては、思い切った支援を行っていきます。

ひろた・だいすけ 2005年東京大学大学院電気工学修士を修了、経済産業省入省。原子力・石油ガス政策、新型コロナ下の予算編成・税制改正やGX政策などを担当。24年7月から現職。

【特集2】存在感を放つ燃焼技術の先駆者 アンモニア燃料転換を下支え


長年にわたりアンモニア利用技術を追求してきた。碧南火力の実証用バーナー開発に知見を生かす。

【IHI】

IHIは、約10年にわたり磨いてきたアンモニアの燃焼技術を生かし、火力発電の脱炭素化を後押ししている。アンモニアを燃料として活用することで、発電設備から排出されるCO2の削減に貢献したい考えだ。

IHIは持続的な高成長に向けて2023年度に打ち出した「グループ経営方針2023」で、クリーンエネルギー分野を「育成事業」と位置付けた。この方針に沿って、アンモニアの製造から貯蔵・輸送・利用にいたる「バリューチェーン(価値連鎖)」の構築事業に積極的に参画。下流では、「電力」「船舶」「産業」という三つの用途を視野にアンモニア燃料の利用技術開発に力を入れている。

試験でバーナーの実力証明 大気汚染物質の排出抑制

存在感を発揮した舞台の一つが、JERAが運営する碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機だ。両社は燃料である石炭の20%をアンモニア燃料に置き換えて発電する大規模な実証試験を4月から6月にかけて進めてきた。

実証で使うバーナー(燃焼装置)を開発したのがIHIだ。5号機で22年に進めたアンモニア燃料の小規模利用試験で得られた知見を、実証用バーナーの開発に役立てた。実証では、ボイラーに差し込まれた石炭焚きバーナー48本をアンモニア混焼用に改造して実施。同発電所に受け入れた液化アンモニア燃料をガス化した後にボイラーに送り込み、バーナーで石炭と同時に燃焼させる仕組みだ。

実証を通じて,燃焼により発生する窒素酸化物(NOX)や未燃分などの燃焼特性に加えて、硫黄酸化物(SoX)やCO2などの環境特性も確認。アンモニア混焼の有効性を実証したという。

アンモニア転換の量をさらに引き上げると、こうした環境特性と燃焼の安定化を両立するハードルが高まる。IHIは引き続き燃焼技術の高度化を追求し、転換率50%以上の達成に貢献。将来的には、アンモニアのみで燃焼するバーナーを開発し、アンモニアのバリューチェーンづくりに弾みをつける。資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUの難波裕二次長は「日本で先行的に磨いたアンモニアの利用技術を周知し、アジアにも広げていきたい」と意欲を示した。

JERA碧南火力発電所の実証用バーナー

【特集2】CCSの社会実装へ大きな一歩 官民一体で事業性実証目指す


多様な業種を巻き込み動き出したCO2の貯留事業。脱炭素社会を視野に主導するJOGMECの戦略に迫った。

【インタビュー】北村龍太/エネルギー・金属鉱物資源機構「JOGMEC」エネルギー事業本部CCS事業部長

─CO2を回収して地下に貯留する技術「CCS」がカーボンニュートラル社会づくりで果たす役割について教えてください。

北村 発電分野では、化石燃料から脱炭素化につながるクリーン燃料への転換を進めることでCO2排出量を減らしていく過程で、「つなぎ」の役割を果たすのがCCSです。その転換期には、化石燃料を燃焼して取り出すブルー水素やそれに窒素を合成してつくるブルーアンモニアが発電で必要となりますが、いずれ再エネ由来に置き換わるでしょう。そうなると発電向けCCSの位置付けも変わります。ただ、鉄鋼や化学などエネルギー集約型産業の脱炭素化は難しく、非発電分野向けCCSは将来も使われ続けると見ています。

─日本が脱炭素化に貢献するためには、どの程度のCO2貯留量が必要ですか。

北村 2050年時点で年間約1.2億~2.4億tのCO2貯留が必要という推計があります。それを達成するためには、50年までの20年間、CCS事業を毎年立ち上げ、約600万~1,200万tずつ年間貯留量を増やさなければなりません。そこで政府は環境整備を進め、30年以降にCCS事業を本格展開することを目指しています。JOGMECは政府と緊密に連携し、そうした取り組みを支援します。

─政府の「CCS長期ロードマップ」に沿って力を入れている取り組みは何ですか。

北村 横展開可能なビジネスモデルで規範となる先進プロジェクトを支援する「先進的CCS事業」です。23年度に始めたもので、初年度に7案件を選定しました。24年度も発電や石油精製、化学、鉄鋼など多業種の事業者が参画するプロジェクトとして、9案件を選びました。5月には、CO2を埋める地層の試掘や貯留の許可制度を盛り込んだ「CCS事業法」が成立しており、事業化に向けて大きな一歩を踏み出したと言えます。

─事業化に向けた課題も抱えています。

北村 CCSの実施地域に与える影響を踏まえて、住民理解を得ることが大切です。貯留の適地である枯渇した石油・ガス田は国内では量的に限られることも課題で、日本で回収したCO2を海外に輸送し貯留する手法が解決策となります。今年度の先進的CCS事業の対象案件のうち4案件は海外貯留でした。法制度が進むCO2受け入れ国も限られる中、世界で環境整備や政府間協議が進むことを望んでいます。先進的CCS事業には、地下水で満たされた地層「帯水層」をCO2の大規模貯留に向く貯留先として役立てる調査も含まれており、今後の展開に期待しています。

きたむら・りゅうた 東京大学工学部卒業後、1995年石油資源開発入社。2007年JOGMEC入構。シドニー事務所勤務などを経て、24年から現職。

【特集2】競争力のある供給網で地域貢献 LNG基地の運営経験生かす


【JAPEX】

エネルギー安定供給という使命の下で、石油や天然ガスの探鉱・開発・生産の技術を長年にわたり培ってきた石油資源開発(JAPEX)。そんな同社が挑戦する舞台が広がっている。一つがカーボンニュートラル社会の実現を後押しする取り組みで、アンモニアのサプライチェーン(供給網)づくりに積極的に関与している。

化学や機械の関連企業が集積する福島県相馬地区。太平洋に面する同地区は港湾機能にも恵まれている。その地でJAPEXは三菱ガス化学、IHI、三井物産、商船三井と連携し、アンモニア供給拠点の構築に向けた共同検討に乗り出した。資源エネルギー庁が実施する「非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(水素等供給基盤整備事業)」の公募に参加し、5月に採択された。

共同検討では、海外から輸入した低炭素燃料の「クリーンアンモニア」を相馬地区の拠点に受け入れて貯蔵し供給するための調査を進めるとともに、需要調査にも取り組む計画だ。

アンモンニアを発電用燃料として生かす可能性を探るとともに、化学品原料などの工業用途も想定。こうした取り組みで関東以北の広域圏に「脱炭素の輪」を広げることで、地域経済を活性化する一助を担いたい考えだ。水素社会の本格到来も見据え、アンモニアを「水素を運ぶ手段」として生かす可能性を探索することにも意欲を示している。

30年視野に脱炭素に貢献 長期的な視点で需要を開拓

日本政府は、2030年までに燃料としてのアンモニアを年間300万t導入する目標を掲げている。JAPEX国内カーボンニュートラル事業本部事業一部の山之内芳徳部長は、政府目標の達成に貢献するため、「アンモニアを長期で使ってもらえるよう需要を開拓し、競争力のある価格で届けられるアンモニア供給基地を実現したい」と強調。LNG基地などの輸送・供給インフラを地域密着で運営してきた実績も生かし、30年の操業開始を目指す。

JAPEXは、海外市場での事業展開も狙っている。その一例としてカナダのアルバータ州で、同州政府の投資誘致機関Invest Alberta Corporation(IAC)と協業する覚書を締結。IACの協力を得て、発電や工場などから排出されるCO2を回収・貯留(CCS)して有効利用する技術「CCUS」や、バイオマス発電とCCSを組み合わせた「BECCS」、化石燃料由来の低炭素燃料「ブルー水素・アンモニア」の事業創出を目指す。

21年には、カーボンニュートラル社会の実現という政府の宣言を踏まえ、総合エネルギー企業としての方向性を示す「JAPEX2050」を策定。カーボンニュートラル社会づくりで果たす責務と注力分野を明確に示した。

CCSとCCUSの早期事業化を目指すことに加えて、ブルー水素など周辺分野への参入を視野に入れる方針も盛り込んだ。JAPEXの展開から今後とも目が離せない。

取材に応じたJAPEXの山之内部長

【特集2】清掃工場由来のCO2を資源に 佐賀市の循環型社会づくりに貢献


力発電所で磨いた技術を転用し実現した。全国に広がる可能性を秘めた先進事例だ。

【東芝エネルギーシステムズ】

佐賀市の清掃工場で発生する排出ガスからCO2を取り出し、地元の農業に生かす―。そうした仕組みが地域の脱炭素化と資源循環を促す取り組みとして、国内外から熱い視線が注がれている。東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)が火力発電所で磨いたCO2分離・回収技術を転用した事例で、全国各地に広がる可能性を秘めている。

市は「バイオマス産業都市構想」を掲げて廃棄物を資源として循環する街づくりを進めている。その一環で、CO2分離・回収事業を推進中だ。

事業のきっかけとなったのが、東芝グループのシグマパワー有明が運営するバイオマス発電所「三川発電所」(福岡県大牟田市)。同発電所は、火力発電所などの排出ガスから放出されるCO2を分離・回収する技術の開発拠点としての役割も担い、実証運転を重ねてきた。その実績に注目した市が清掃工場に役立てるアイデアをひらめき、排出ガスの新たな活用策を模索。16年に清掃工場向けCO2分離・回収設備を東芝から導入した。

積み重ねた設備改良と工夫 吸収液の高性能化も推進

ただ、火力発電向け技術の清掃工場への応用は一筋縄ではいかなかった。工場の排出ガスに含まれるCO2は濃度の変動が大きい上、金属を腐食させる塩化水素も多く含まれているからだ。東芝ESSは、そうした問題に設備の改良や工夫で対処し実用化。現在、ごみ焼却時に発生する排出ガスの一部から1日で最大10tのCO2を分離・回収している。

この技術は約99.9%という高純度のCO2を取り出せることも特徴だ。低温でCO2を吸収し高温になると放出する化学吸収液「アミン」を排出ガスに接触させてCO2を吸収。その後の工程でアミンを加熱することでCO2を放出させる。今春には、耐久性が高く環境にやさしいCO2吸収液を開発した。

市は回収したCO2を、光合成に必要な有価物としてパイプラインで近隣農家などに供給。野菜や微細藻類の育成に生かすことも狙う。東芝ESSパワーシステム事業部の斎藤聡・炭素利活用技師長は「地域で資源循環も促せるシステムの導入事例を増やし、CO2回収コストの低減につなげたい」と述べた。

脱炭素に有効なCO2分離・回収設備

【特集1まとめ】省エネ合戦の変貌 電力vsガス競合を変えた三大要因


1980年代~2010年代前半、電力業界とガス業界は熾烈なエネルギー間競合を繰り広げた。

この競合こそがエネルギーの高効率利用を柱とする技術開発を進展させてきたのだ。

ところが2010年代後半に入ると、両業界を巡る情勢は大きく変化していく。

システム改革を通じた大手エネルギー事業者の分割や相互参入の加速。

再生可能エネルギー大量導入に伴う新たな需給システムの導入。

そうした中で押し寄せてくる世界的なDX・GXの大波。

かつての省エネ合戦は、これらの要因によってどんな変貌を遂げていくのか。

電力vsガス技術競合の変遷をたどりながら、直面する課題や今後の行方に迫った。

【アウトライン】自由化・再エネ・DXで新局面に 利用技術開発競争の往古来今

【レポート】効率HPの技術開発に黄信号 再エネと自由化の影響を読む

【レポート】コージェネを巡る環境変化の深層 時代に即した技術開発が必要に

【対談】変遷から課題までを徹底討論 国内産業の成長に資するか 目指すべき開発の方向性とは

【特集2まとめ】ベースロード再エネの実力 「お天気任せ」解消の切り札に


カーボンニュートラルの切り札として期待が集まる再生可能エネルギー。

話題の太陽光・風力発電は発電量が天候などの自然条件に左右されるため、

制御が難しく、電力システムのあらゆる箇所に与える影響が大きい。

その裏側で開発が進むのが地熱や流れ込み式の小水力、バイオマスなどだ。

基幹電源として稼働しやすく、事業者は安定した発電計画が立てられる。

お天気任せを解消する「ベースロード再エネ」の優位性に注目した。

【アウトライン】 地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化

【レポート】バイナリー発電で町おこしに力 高齢化進む温泉町の期待を背負う

【レポート】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ

【レポート】ごみ発電更新へ市政最大の投資 資源循環社会構築の原動力に

【レポート】国産森林資源で地域振興に貢献 熱電併給で持続可能社会を形成支援

【レポート】コメ産地でもみ殻をエネルギー転換 ホテルや温浴施設への熱供給にトライ

【特集2】地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化


地域資源を生かす多様なベースロード再エネが津々浦々に広がっている。

一段の導入拡大に向けて開発コスト低減など数々の壁も立ちはだかる。

天候などの自然条件に左右されにくく安定的に発電できる―。そんな「ベースロード(基幹)電源」の役割を担える多様な再生可能エネルギーへの期待感が、全国各地で高まっている。脱炭素化にとどまらず、発電設備の建設や運用などを通じて導入地域に経済効果をもたらす可能性を秘めているからだ。一方で導入拡大に向けた課題も抱えており、関係者には持続可能な事業モデルづくりで創意工夫する力量が試されている。

30年度導入目標が目前に バイオマスが存在感を発揮

ベースロード再エネの一つが、森林由来の間伐材をはじめとする生物由来の未利用資源を燃焼する際の熱を用いて電気を起こす「バイオマス発電」。発電した後の排熱は、周辺地域の暖房や給湯向けに役立てられる。

資源エネルギー庁によると、バイオマス発電は2012年に固定価格買い取り制度(FIT)が開始されて以降、着々と導入量が拡大し、3月末に約7・5GWに(1GW=100万kW)到達。30年度の導入⽬標8・0GWに近い水準を実現した。

中でも未利用木材を燃やしてタービンを回し発電する「木質バイオマス発電」に目を向けると、国産材を燃料に生かす機運が高まっている。国土の約3分の2が森林に覆われた日本の林業を振興するなど、雇用を含め地域を活性化する効果が見込めるからだ。

これまで外国産の木材を利用した発電施設が増えてきたが、風向きが変わりつつある。背景には、世界最大の木質ペレット製造業者で知られる米エンビバが3月に破産を宣言した動きがあり、輸入材の安定調達が揺らぎ始めている。政府も国産材の活用促進に意欲を示しており、国産材へのシフトが進む可能性がありそうだ。

木質バイオマス発電向け未利用木材 提供:三洋貿易

バイオマス発電の導入促進に向けては、コストの大半を占める燃料費の低減が鍵を握る。さらに燃料需給がひっ迫する傾向にもある中で政府は、燃料安定調達の観点から成長の早い早生樹などを生かす実証事業を後押しする。

一方、河川や農業用水、上下水道などに流れる水のエネルギーで水車を回して発電する「中小水力発電」も各地で存在感を発揮。導入量はバイオマスと同様、直近で30年度の目標10・4GWに迫る10・0GWに達した。

ただ、有望な開発地点から優先的に開発した結果、適地が減少。残された開発可能地点の多くは奥地にあり、開発が長期にわたりコストがかさむという課題に直面している。このため、開発時のコストとリスクの双方を低減しながら地域と共生できる導入スキームを実現する対応が求められている。

地中深くから取り出した蒸気でタービンを回し発電する地熱発電もベースロード再エネの一翼を担う電源で、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援制度を活用した事例が積み上がっている。3月には、JOGMECの開発資金債務保証を活用し、三菱マテリアルと三菱ガス化学、電源開発(Jパワー)が共同出資する「安比地熱」(岩手県八幡平市)の発電所が営業運転を開始。JOGMECは先導的な資源量調査も行っており、20~23年度に全国で延べ約80件を実施したという。

運転を始めた安比地熱発電所 提供:安比地熱

とはいえ足元の導⼊状況を見ると、0・6GWにとどまっているのが現状。地元調整などを含む事業開発に長期間を要すると想定される中、30年度⽬標1・5GWとの間に大きな開きがある。目標達成に向けて政府は水力発電と同様、リスクとコスト面を考慮した地域共生型の導入を促そうとしている。

イノベーションにも熱視線 地熱発電技術が進化へ

地熱発電を巡るイノベーション(技術革新)の行方にも熱い視線が注がれている。政府は、世界有数の地熱資源量を誇る日本で「開発可能な資源量」を増やそうと次世代の地熱発電技術の開発に取り組む方針を、現行の第6次エネルギー基本計画に盛り込んだ。

この中で「高温岩体地熱発電」や「超臨界地熱発電」といった次世代技術にも触れ、「世界に先駆けて技術開発から社会実装、そして世界展開へとつなげていくことで、50年のカーボンニュートラルに貢献していく」と明示した。超臨界地熱発電は、マグマに近い深部にある400〜600℃の熱水を生かして発電する仕組みだ。

地熱発電を利用する可能性を広げる動きは世界規模で活発化し、消費電力が多いデータセンター(DC)の需要増加に対応する切り札としても注目される。米グーグルはスタートアップと組み、ネバダ州のDCにつながる地域送電網へ電力の供給を始めた。「脱炭素化と安定供給の観点から多様なオプションをバランスよく見極めたい」とエネ庁新エネルギー課。日本の電源構成で10%超を占めるベースロード再エネの最前線に迫った。

【特集2】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ


【三峰川電力】

大手商社・丸紅の100%子会社である三峰川電力は小水力発電事業を中心に手掛ける発電事業者だ。同社は1960年に「三峰川総合開発事業」の一環として、長野県伊那市長谷で水力発電所を稼働させたことに始まる。設立当初から小水力発電の原型になる流れ込み式発電に注力してきた。ダムを使わず、環境負荷の少ない再生可能エネルギーである点が特長だ。

同社が手掛ける発電所は開発中を含めて全国に30カ所以上点在する。水力発電は自然の力を利用して発電するため、開発においては地元自治体や住民との関係づくりが欠かせない。「当社のような民間事業者が導入地域の機運醸成、合意形成を円滑に図ることは容易ではない。一方、自治体は発電事業を手がけてみたものの、需要計画や管理運営などが障壁となる。協業することでウィンウィンの関係が構築できる」。指本喜範事業開発部副部長はこう話す。

欠かせない深いつながり 体験学習など交流活発

この取り組みの一つが、山梨県北杜市にある「村山六ヶ村堰ウォーターファーム」だ。元々、同地の水力事業は農業用水路を使った発電設備を自治体が所有していたことに始まる。設備が稼働し始めた2007年当時は、まだ再エネの固定価格買い取り(FIT)制度が開始となる前で、事業採算性の確保が困難だった。そこで、北杜市が行政許認可協議や地域住民との合意を、三峰川電力が発電事業の運営を担うことによって課題を克服した。同発電所にとどまらず、北杜市には現在三つの小水力発電所が稼働し、合計出力970kW規模まで拡大している。

北杜市では4カ所立ち上げた

もう一つが福島県下郷町の「花の郷水力発電所」だ。下郷町の当初の目標は「小水力発電で村全体の電力を賄うこと」であり、三峰川電力と提携した。これにより、花の郷発電所をはじめ、合計3カ所の発電所を設けた。現在では町全体の5分の1程度の電気を賄うまでに拡大した。このつながりによって、地元で体験学習や見学会を実施したり、下郷町の特産品を丸紅本社で販売するなどさまざまな交流も活発に行っている。

下郷町全体の5分の1の電気を賄う

三峰川電力では、今後も全国において有望地点を探し新たな発電所開発を進めていく構えだ。「水力発電開発は地点探しに始まり、地元の交渉、許認可申請、建設工事など稼働開始まで長い道のりだ。ただ、急峻な日本の地形には有望な地点がまだたくさんある。当社の拠点となる長野県を中心に、進出していない四国や九州にも展開していきたい」と指本氏は展望する。

自然負荷の少ない小水力発電は脱炭素化を目指す地域や企業からもニーズが高い。今後さらに注目されるのは間違いない。

【特集2】国産森林資源で地域振興に貢献 熱電併給で持続可能社会を形成支援


【三洋貿易】

地域の森林から生み出された間伐材などの未利用木材「木質バイオマス」を燃料として活用し電力と熱を供給する―。そうした熱電併給システム事業に力を入れているのが、専門商社の三洋貿易(東京都千代田区)だ。脱炭素化を後押しするとともに、地域の循環型社会づくりにも貢献したい考えだ。

同社は、ドイツの熱電併給装置メーカー、Burkhardt(ブルクハルト)の装置を日本市場で取り扱う総代理店。2014年に同社製装置の扱いを始め、約40基をバイオマス発電所に提供してきた。

熱電併給装置は無人運転で、木質ペレットを炭化する際に発生するガスを利用してエンジンを回転させて発電する。ガス化する際に得られた熱は、温水として役立てることが可能だ。

こうした仕組みで地域貢献しようと、三洋貿易と木質バイオマスによる地方創生に取り組む大日本ダイヤコンサルタント(東京都千代田区)は、6月に下川運輸(北海道下川町)が道内に設立した「北の森グリーンエナジー」へ出資した。

北の森グリーンエナジーは、三井物産と北海道電力が共同出資する北海道バイオマスエネルギーの木質バイオマス発電事業を引き継ぎ立ち上げた新会社で、資本金は8050万円。三洋貿易と下川運輸に加えて、大日本ダイヤコンサルタントも出資した。今後の事業では、下川運輸は現場で運営に携わり、大日本ダイヤコンサルタントが経営管理を担う。

ペレットに加工し燃料化 余剰熱の有効活用にも意欲

新会社が3万9254㎡に及ぶ下川町内の広大な敷地に集める木材は、年間で約1万t。それを同敷地内のペレット工場で加工し、燃料として熱電併給装置に供給する。そこで発電した電気は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度「FIT」を活用して売電し、同時に生じる熱の利用も促す。出力の規模は1996・5kWだ。

木質バイオマスの地産地消で鍵を握るのは、地域との間に持続的な協力関係を構築して木材を安定調達する取り組み。木質資源を集める担い手の確保も重要な課題となる。

新会社社長で三洋貿易グリーンテクノロジー事業部の事業部長補佐も務める大藪吉郁氏は、「国産の木質バイオマスを有効活用することで、脱炭素化のみならず、周辺市町村の雇用創出や林業の活性化にも貢献していきたい」と強調する。

また、熱電併給装置で発生する熱はペレット工場で木材を乾燥する際に使われる。余った熱は今後、地域に供給したい考えだ。大藪氏は「地域貢献につながるビジネスを育てていきたい」と力を込める。

三洋貿易は、秋田県産木材を燃料として用いる木質バイオマス発電所の建設計画にも参加。東北電力などが共同出資する会社が運営する発電所で、三洋貿易も出資している。地域活性化の観点から国産材による木質バイオマス発電事業を促す機運が官民の間で高まる中、三洋貿易の挑戦の舞台が広がりそうだ。

熱電併給向けペレット製造装置