ペトロナスが初の説明会 日本側の不信感払拭なるか


昨年9月のサバ・サラワク・ガスパイプライン損傷事故を受け、供給義務を免れる「不可抗力条項」(フォースマジュール)を宣言したマレーシア国営石油会社のペトロナスが3月17日、初のメディア説明会を都内で開催した。

この中で、日本駐在事務所代表のエズハー・ヤジド・ジャーファー氏は、「わが社の昨年の対日LNG輸出量は約1200万tで、日本市場での利益の90%以上がLNGによるものだ」「日本との密接な関係は続いており、1~3月のLNG納品は間違いなくさせていただいた」などと説明。副社長のシャムサイリ・モハマド・イブラヒム氏もオンラインで参加し、「日本の脱炭素に向けた道のりを後押しできると信じている」と、日本企業との関係強化に向けた期待を表明した。

日本のメディア向けに説明するエズハー氏

それにしても、いまこの時期になぜ日本向けの説明会を開催したのか。同社の狙いについて、LNG事情に詳しいエネルギー関係者は「わが国の買い主企業の間で広まっているペトロナス社への不信感を払拭することが、最大の目的ではないか」と話す。

というのも関係筋によれば、前出の不可抗力宣言がマレーシア2(デュア)事業を対象にしたことで、そこから調達する日本のエネルギー事業者、とりわけ調達比率の高い中堅ガスは、割高なスポット購入などの代替策を検討せざるを得ない状況に追い込まれた。結果として供給量に影響はなかったわけだが、某中堅ガス幹部は日本市場を軽視するような売り主側の対応に怒り心頭だったという。

同国のLNG事業を育てた日本企業への感謝に終始した今回の説明会。ただ、失った信頼を取り戻すには時間がかかりそうだ。

柏崎刈羽再稼働の仰天シナリオ 出直し知事選で「現・前」激突!?


今夏以降の再稼働を目指す柏崎刈羽原発。花角英世新潟県知事は県民の意思をどのように確認するのか。

関係者の間で囁かれる「出直し知事選」の可能性―受けて立つのは買春疑惑で辞職した〝あの男〟だ。

東京電力柏崎刈羽原発は再稼働できるのか―。

政府は今夏以降に柏崎刈羽6、7号機を含む7基の原発再稼働を目指し、「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」との方針を示している。東京電力も2022~23年度に再稼働する前提で経営再建計画を立て、1月の家庭向け規制料金の値上げ申請時も10月の7号機再稼働を織り込んだ。

だが、現実は甘くない。再稼働には、①原子力規制委員会による核燃料の移動禁止措置解除、②広域避難計画の策定、③新潟県独自の「三つの検証委員会」の検証結果が出た後、県での議論、④花角英世知事が判断を下し、県民の意思確認―という四つのハードルを乗り越える必要がある。

「東電以外の関与を」 花角知事のマジメさ

柏崎刈羽原発では21年1月、他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室していたことが発覚。同年3月から、規制委による事実上の運転停止命令(核燃料の移動禁止措置)を受け、東電は改善措置計画を実施中だ。5月に規制委の検査報告書がまとまるが、山中伸介委員長は3月8日の記者会見で「1、2カ月で課題解決は難しいと思う」と発言。早期の命令解除の可能性は極めて低い。

こうした不祥事を受け、新潟県では東電への不信感が根強く渦巻いている。それを物語るのが、自民党県連・桜井甚一幹事長の発言だ。桜井氏は2月25日に開かれた自民党全国幹事長会議の席上、「再稼働には東北電力など東電以外の事業主体の関与が必要」との見方を示した。4月9日投開票の新潟県議選を控え、再稼働への慎重姿勢を示すことで争点化を避け、積極姿勢を前面に出す政府と同一視されることを防ぐ狙いが透ける。

しかし、立地する地元の声は異なる。桜井雅浩柏崎市長は3月8日の市議会一般質問で、「県全体の自民党の考えだとは承知していない」との認識を示し、「柏崎市内においても、全国においても原発再稼働を求める声の方が大きい」「(7号機の再稼働について)今年の雪が降る前に何らかの動きがあることを願っている」と期待を語った。

広域避難計画は自治体が策定し、首相が議長を務める原子力防災会議で了承を得る必要がある。ところが、1月の豪雪での立ち往生が記憶に新しい柏崎刈羽地域は、大雪時の対応が課題で避難計画ができていない。三つの検証委員会の一つである避難委員会からは、456点に及ぶ課題や論点が指摘されている。

三つの検証委員会は膠着状態が続いている。花角氏と池内了委員長との間で検証結果をまとめる「検証総括委員会」開催の合意ができず、21年1月以来開かれていないのだ。池内委員長は3月31日に任期を迎えるが、本稿執筆時点(3月17日)では続投するか不明となっている。

そもそも三つの検証委員会は2017年、米山隆一前知事が創設した。再稼働について何か権限を与えられているわけではなく〝無視〟することも可能だが、花角氏は「三つの検証委員会の結果が出た後で議論を始める」という姿勢を崩していない。できる限り池内委員長との折衝を続ける構えだ。

では、検証結果が取りまとめられ、県で議論した後、花角氏が再稼働「容認」の方針を打ち出したとしよう。ここで注目されるのが、県民の意思確認を巡るプロセスだ。次の三つの選択肢が考えられる。

①出直し知事選、②県民投票、③県議会での意見集約―。

このうち、可能性が低いのが②、最も現実的な選択肢が③とされる。③については、柏崎市・刈羽村が再稼働を求める請願を県議会に提出するなど、さまざまな形式が考えられる。議会に諮る際、花角氏が「採択されなければ職を辞す」と表明すれば、それなりの格好は付く。しかし、花角氏が政治的に容易な選択肢を選ぶとも限らないのだ。

というのも、花角氏は「マジメな人」「県知事職に執着していない」との評を多方面から聞くからだ。初当選時の県知事選で、再稼働について「県民の信を問う」と約束した以上、周囲が③を提案しても①を押し通すのではないか、との声が少なくない。

米山氏は新潟県知事の座にこだわっている
提供:時事

米山前知事の執念 ワンイシューの知事選

そんな中、花角氏と対照的に県知事職に対して執念を燃やす男がいる―。再稼働に慎重だった米山前知事だ。18年4月に買春疑惑で辞任した後、20年にタレントの室井佑月さんと結婚。同年の衆院選で新潟5区から無所属で当選し、現在は立憲民主党所属で活動している。

知事職について、米山氏は「新潟を立て直すために、やりかけたがほっぽり出してしまった仕事。戻る機会があったら戻るのが筋」と熱っぽく語る。この思いは出直し知事選に限らず、任期満了の県知事選でも変わらないという。

〝花角vs米山〟の「現・前」一騎打ち―。「福島を忘れたのか」「東電は信じられない」などと扇動的な言葉が飛び交うだけでなく、室井さんが「夫にもう一度チャンスを」と涙節を披露すれば、一気に「米山優勢」になるかもしれない。

いずれにせよ、新潟県は遠くないうちに再稼働を巡る嵐に巻き込まれる。ここで求められるのが国の役割だ。政府は「国が前面に立って」という方針を示した以上、「県民の理解を得られる努力を徹底してやらなければならない」(小林一大参議院議員)。

また新潟県は東北電力の管内でありながら、柏崎刈羽原発でつくられた電気は首都圏を中心とした東電管内に送られる。原発の話題になると新潟県でよく聞かれるのが、「原発を動かしても、自分たちの電気代が下がるわけじゃない」というフレーズだ。

小林議員が指摘するように、国は再稼働が国民全体にもたらすメリットを訴えなければならない。そうでなければ、再稼働「ワンイシュー」の知事選が行われた場合、「米山勝利」で柏崎刈羽が動き出すのは、遠い先のことになりかねないのだ。

池辺会長が4年目続投 電事連は「まさに重要局面」


「引き続き、私が会長職を引き受けるということで各社社長間で合意に至った。重要な役割を担うことになると承知しているが、(電気事業連合会会長として)この3年間の経験も生かし、業界のため、ひいては安定供給を通して電気を利用する皆さまの役に立てるよう尽力していく」

電事連の池辺和弘会長(九州電力社長)は3月17日の定例会見で、在任4年目に向けた続投を表明した。2000年以降では、東日本大震災・福島原発事故後の11年から5年超にわたり会長を務めた八木誠・関西電力社長(当時)に次ぐ在任期間となる。

今回の会長人事を巡っては、森望・関西電力社長、林欣吾・中部電力社長の有力候補2人が、価格カルテルや顧客情報不正閲覧などで脱落。当初、池辺氏は社内事情などを理由に難色を示していたが、第三候補である樋口康二郎・東北電力社長が固辞したことから、最終的には自らの続投しかないと腹をくくり会見当日に「覚悟を決めた」(池辺氏)ようだ。

「GX基本方針という日本のエネルギー供給の大方針が示され、電力業界がエネルギーの安定供給、原子力再稼働に具体的な行動を伴って取り組む必要がある一方、不正閲覧問題など自らの行動を律し、改革していくことも並行して取り組んでいかなければならないという、業界としてまさに重要局面を迎えている」

原子力の安全対策強化を改めて強調した池辺会長(3月17日)

池辺氏の会見あいさつからは、歴史的な岐路に立たされている電力業界再生への決意がにじむ。不祥事対策はもとより、GX対応、電力安定供給、原発再稼働・安全対策、使用済み燃料対応など重要課題が山積する電事連。存続を賭けた新年度が幕を開ける。

沖縄ならではのエネルギーサービス グループ総力戦でCN実現に挑む


【沖縄電力】

沖縄電力はカーボンニュートラル実現に向け、環境に配慮したエネルギーサービスに取り組む。

リライアンスエナジー沖縄とエネルギーのベストミックスを提案して地域の脱炭素を支援する。

政府が掲げる2030年GHG(温室効果ガス)46%削減の目標値は、原子力発電を持たずゼロエミッション電源が限られる沖縄で換算すると、28%の削減率に相当する。沖縄電力ではその数値からさらに踏み込み、30%の削減を目標に据える。

沖電のカーボンニュートラル(CN)への取り組みは、①再エネ主力化、②火力電源のCO2排出削減―が柱だ。

①では、台風や塩害といった厳しい自然環境下で、メガソーラーの実証研究を実施してきたほか、再エネを主力とした来間島での地域マイクログリッド実証事業などに取り組んでいる。21年に開始した太陽光パネルと蓄電池を無償設置するPV―TPO事業「かりーるーふ」も好評で、順調に契約数を伸ばしている。

②では、クリーン燃料の利用拡大や非効率火力のフェードアウトに取り組む。バイオマス活用も進めており、県内の建築廃材を加工して具志川・金武火力で混焼。水素やアンモニアなどのクリーン燃料の活用に向けた検討にも力を入れ、50年のCNを目指している。

そのほか、吉の浦火力発電所を基点としたLNGの普及拡大を推進している。都市ガス導管網が整備されている那覇市近郊には、吉の浦発電所から県内の都市ガス事業者への卸供給などを通して供給する。導管が整備されていない地域にはタンクローリーでLNGを輸送し、サテライト設備を介して供給するほか、工業団地など複数の需要家には天然ガス供給センターを介した供給を行う。

15年の天然ガス供給開始時には年間で約1.3万tだった販売量も22年には約3万tを超え、利用の拡大が進んでいる。23年度内には、吉の浦発電所から本島中央部を通り本店近傍につながる、全長約14‌km‌のガス導管が完成する予定で、天然ガスのさらなる普及拡大を図っていく考えだ。

ESP事業の推進 需要家ファーストの提案

電気とガスの両方を供給できる強みを生かし、グループが一体となってエネルギーサービスを展開している。

エネルギーコストの低減や省エネ機器の導入といったニーズをヒアリングし、エネルギー診断を行う。新たなエネルギーシステムを検討して、電気とガスの最適な組み合わせを提案。初期投資額などを試算し、補助金申請もサポートする。システムの設計から施工、導入後の効果検証や改善提案までを沖電がワンストップ窓口となり、グループ各社が特性を生かしてフォローする体制だ。

沖電グループの総合エネルギーサービス

さらにサービスの一環として、エネルギーサービスプロバイダー(ESP)事業も開始した。

このESP事業を担うのは沖電グループのリライアンスエナジー沖縄(REO)だ。REOは17年に、沖縄電力と東京都市サービスの合弁で設立。翌18年には大阪ガスも加わって、電気と熱供給にガスのノウハウも活用できるようになった。商業施設や病院など8施設で採用されている。

REOの仲地毅技術営業部長は、「電力・ガス・熱供給事業者による事業体は全国でも珍しい。一つのエネルギーに偏らず、需要家ファーストで最適なエネルギーを提案できる。これが沖縄らしさ“沖縄Way”で、諸外国の文化を取り入れ独自文化を作り上げた沖縄の姿と重なる。エネルギー事業者の連携が、提案の大きな強みになっている」と胸を張る。

牧港エネセンター建設 省エネ大賞も受賞

22年4月、REOがESP事業者となり、沖電の本店敷地内に「牧港エリアエネルギーセンター」が完成。県内初となるエネルギーの面的供給が始まった。沖電新本館と、隣接するオフィスとホテルの複合型タワービル「ゆがふBizタワー浦添港川」などに電力と空調冷熱を供給している。

沖縄では年間を通して冷房を使用するため、インバーターターボ冷凍機、空冷ヒートポンプ、ジェネリンクを最適に組み合わせて冷熱をつくる。ジェネリンクはBCP(事業継続計画)としてガスだきにも対応している。ガスコージェネレーションシステムや、非常用発電機なども備える。

県内初となる「牧港エリアエネルギーセンター」

REOは今年、浦添市にある沖縄最大級の大型商業施設「サンエー浦添西海岸パルコシティ」でのESP事業において、22年度省エネ大賞の最高賞「経済産業大臣賞」を受賞。県内初の快挙となった。ヒアリングを担当した営業グループの町田智彦マネージャーは、「来店するお客さまの快適性を損なうことなく省エネを実践していかなければならないため、非常にハードルが高かった」と振り返る。

快適性を優先させながら、沖縄の気候や豊かな自然エネルギーを活用し、エネルギーのベストミックスで設備を導入して、一般的な商業施設よりも40%の省エネ、43%の省CO2を達成した。

今後沖縄では、基地の返還跡地を利用した大規模都市開発や、観光客の増加に伴うホテル建設、大型小売店舗の建設などが見込まれる。エネルギー需要の増加で、エネルギーサービスへのニーズも高まる。

沖電はこれからもグループ各社の強みを生かし、総合エネルギー事業者として「地域とともに、地域のために」のスローガンの下、地域一帯のCN実現に向け果敢に挑戦していく。

「サンエー浦添西海岸パルコシティ」で省エネ大賞を受賞

電力市場の健全な競争を阻害 値上げに不当介入する政治の罪


4月から順次、実施されるはずだった大手電力会社の規制料金値上げが先送りされた。

足下の燃料費や為替水準を反映するとの名目だが、政権の都合と見る向きは多い。

世界的な物価高騰に伴い、食品やサービスなどあらゆる分野で値上げが相次いでいる。生活への痛手は大きいが、多くの消費者は「仕方がない」と受け入れざるを得ないのが実情だ。ところが、電気料金に限ってはすんなりと通りそうにない。

昨年末、大手電力7社(北海道、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄)が、4~6月の低圧・規制料金の値上げ改定を目指し経済産業省に申請。査定を経て、先行5社が4月1日にも値上げを実施する予定だった。ところが、2月24日の第7回物価・賃金・生活総合対策本部の会合において、岸田文雄首相が西村康稔経産相に対し、日程ありきではなく、直近の為替や燃料価格の水準も勘案するなど、厳格かつ丁寧な申請を行うよう指示したことを受け、先送りを余儀なくされたのだ。

裏側に政治の思惑? 統一地方選と関連か

「カルテルや情報漏洩など大手電力の不祥事に対する後始末をしないまま値上げだけを認めるわけにはいかない」

値上げ先送りの要因について、日ごろから大手電力会社に厳しい対応を取る大物政治家の周辺からは、〝大手電力の自業自得〟とも取れる声が漏れ聞こえてくる。確かに、カルテルやライバルである新電力の顧客情報を不正に閲覧した問題など、電力事業の公平性・中立性が問われるような不祥事が立て続きに発覚したことについては、大いに責められるべきだろう。

とはいえ、3月14日の記者会見で西村経産相が「電気事業法では、能率的な経営のもとにおける適正な原価に適正な利潤を加えたものであることなどの条件を満たした場合、経産大臣は認可しなければならないとされている」と言及した通り、一連の不適切事案と料金値上げは切り離して考えなければならない。

それにもかかわらず、岸田首相が値上げ実施に待ったをかけたのはなぜか―。その裏は、「値上げを統一地方選がある4月で申請してくるなど、大手電力は本当にセンスがない」という政権関係者の言葉から透けて見えてくる。内閣支持率が低迷する中、電気料金が大幅に値上げされることになれば、国民の不満が募り、自陣営の議席を大きく減らすことにつながりかねない。値上げ先送りは、むしろ政治マターなのだ。

では、現行の為替や燃料費を反映した場合、どれほどの原価圧縮効果を見込めるのだろうか。LNG価格のピークは昨年9月ごろ、為替も10月20日前後に150円台と歴史的な円安水準となっていた。申請時、東北、北陸、中国、四国、沖縄は22年7~9月、東京電力エナジーパートナーは8~10月、北海道は9~11月の貿易統計価格などの価格指標を参照して燃料費を算定し足下は申請時点よりも低い水準にある。

3月15日の電力・ガス取引監視等委員会料金制度専門会合において、全社で直近(22年11月~23年1月)の価格指標を反映する方針が示され、これにより、北海道で225億円、東北で139億円、東京(購入電力料)で2536億円、中国で25億円、四国で32億円、沖縄で27億円と、北陸を除く6社で申請時よりも原価を圧縮される。

燃料価格の再計算で北陸を除く6社で原価が圧縮されるというが

だが、電取委も指摘する通り、燃料価格が高騰している時期の価格を基準として原価に織り込んだ場合にも、その後下落すればマイナスの燃料費調整が自動的に行われるため、燃料価格の採録期間をどのように設定するかは基本的には料金に影響を与えることはない。

半面、値上げ延期が大手電力の経営に与える影響は大きい。自由料金部門の値上げや燃調上限の廃止などで収支改善に努めてきたとはいえ、燃調上限が維持されている規制料金部門の赤字供給状態が経営を圧迫し続けていることに変わりはなく、仮に値上げが1カ月先送りされるだけでも、「収支へのマイナスの影響は相当なものになる」(大手電力関係者)。

さらには、基準燃料価格が下がることで、自ずとその上限価格(基準価格の1・5倍)も引き下がる。今は、世界的な暖冬や不景気などの影響で燃料価格が低水準で推移しているものの、次の冬に向けて再上昇する可能性は十分にあり、新たな上限に到達すれば再び赤字供給に迫られる可能性がないとも言い切れない。

「不当廉売」の懸念も  適正なコスト反映を

値上げ先送りに落胆を隠せないのは、大手電力のみならず、卸市場価格の高騰で苦しい経営環境に置かれてきた新電力も同様だ。「政府は一体、電力事業をどうしたいのか。よもやの値上げ先送りにはうんざりしている」と憤るのは、ある新電力関係者。

そもそも、新電力からしてみれば、大手電力が申請した値上げ幅でさえ十分と言えるものではなかった。市場連動に完全移行したり、申請に近い料金水準になることを見越し見切り発車で営業を再開したりといった一部の事業者を除き、「多くが新規顧客獲得に向け着々と準備を進めているところだったが、今回の先送りで一斉にその動きにストップがかかった」(別の新電力関係者)という。

値上げにより、現状のコストを適正に反映した規制料金が設定されることで、新電力も赤字供給を解消しつつ大手電力に対して競争力のある新たな料金メニューを設定し営業を再開させることができるはずだったが、その出鼻がくじかれてしまった形だ。

自由競争の足かせとなっている上に、燃料費を料金に反映できなければ、公正取引委員会が厳しく見ると明言している「不当廉売」状態にもつながる。これにより安定供給体制の維持が困難化するのであれば、供給危機をもたらしかねない。それでも、値上げ認可を渋ることは、需要家のためと言えるのだろうか。

来年7月に容量拠出金の支払いが始まれば、新電力はますます難しい経営のかじ取りを迫られ、より一層選別が進む可能性がある。自由化を維持するのであれば、不適切な行為のみを監視しつつ過度な干渉は慎むべきだ。

第7次エネ基への布石に GX関連法案が国会審議入り


GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債発行やカーボンプライシング(CP)導入などを掲げた「GX推進法案」が、3月9日に衆議院本会議で審議入りした。改正原子炉等規制法、電気事業法、再生可能エネルギー特別措置法などを束ね、高経年原子炉の新たな規制などを示した「GX脱炭素電源法案」も予定より遅れつつも、政府が2月28日に国会に提出した。

両法案はいずれも、2月10日閣議決定の「GX実現に向けた基本方針」を踏まえたもの。GXの加速で脱炭素と安定供給、経済成長の同時達成を目指すが、その趣旨通りに機能するかは今後の詳細設計次第だ。例えばCPでは炭素賦課金や排出量取引(ETS)の導入を掲げるが、いつからどの程度の炭素価格が課されるかは不透明だ。さらに同賦課金の徴収や、ETSの有償排出枠割り当てなどは新設の「GX推進機構」が担うが、CPの根幹を受け持つ同組織の体制はまだ明らかではない。

衆院本会議でGX推進法案の趣旨を説明する西村康稔経済産業相(3月9日、提供:朝日新聞社)

原子力に関しても、炉規法改正で「運転期間最長60年」の規定は外れるが、GX基本方針では他にも、東海第二や柏崎刈羽など新規制基準をクリアした原子炉の早期再稼働や、廃炉を決定した原発敷地内での次世代革新炉への建て替えを掲げる。しかしその具体化は、今改正案の範疇ではない。

足元の化石燃料価格は一時の水準と比べれば落ち着いているものの、依然ボラティリティは拡大傾向にある。「安全が大前提ではあるが、原子力を早く再稼働できるような体制を取ることが安定供給に対して一番効果が大きい」(電気事業連合会の池辺和弘会長)など、基本方針の着実な実施を求める声が挙がる。

今後、日本が開催するG7(先進7カ国)サミットや、第7次エネルギー基本計画の議論開始が予定される中、今国会の審議は、これらにつながる第一歩として重要な意味を持つ。放送法の政治的公平性を巡り高市早苗・経済安全保障担当相への追求が激しさを増しているが、これ以上の国会の怠慢を許してはならない。

G7サミットの焦点 欧米が石炭火力全廃迫る?

4月中旬のG7気候・エネルギー・環境大臣会合を巡っては、日本が提案した共同声明原案で石炭火力全廃時期に触れなかったことが、他6カ国の批判を招いたとの一部報道があった。ある政府幹部は「日本は従来の方針を堅持し、欧州のように安易に過大な目標を掲げる考えはない」と強調する。

実際、西村明宏環境相は3月17日の閣議後会見で、共同声明案の内容は調整中としながらも、①2030年に向けた非効率石炭火力フェードアウト、②50年に向けた水素、アンモニア、CCUS(CO2回収・利用・貯留)などを活用した火力の脱炭素化―という従来方針を改めて説明。「G7のみならずG20、そして世界各国と同じ方向を向いていかなければならない」と、現実に即したトランジションの必要性を訴えた。岸田文雄首相が欧米の圧力に屈せず、日本の方針への理解を求める外交に徹することを期待したい。

【マーケット情報/3月31日】原油上昇、減産見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、イラクからの出荷減少の見通しを背景に、主要指標が軒並み上昇。特に米国原油を代表するWTI先物と北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比6.41ドルと4.78ドルの急落となった。

国際商業会議所の国際仲裁裁判所は、イラク政府の承認を得ないまま、イラク北部・クルド人自治区からトルコ・ジェイハン港へ原油を輸出することは違反であると判決。1973年に定められたトルコとイラクの二国間協定に反するものであるとした。これを受け、トルコは、クルド人自治区からの日量40万バレルのパイプライン出荷を停止。同自治区のシャイカン油田における一部生産も停止することとなった。

また、サウジアラビアやイラクなど、OPECプラスの主要生産国8カ国は2日、5月から2023年末にかけて、日量116万バレルを追加で減産すると発表した。 一方、フランスでは労働争議が続いており、複数の製油所で依然稼働が停止している。ただ、価格の下方圧力には至らなかった。

【3月31日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.67ドル(前週比ドル6.41高)、ブレント先物(ICE)=79.77ドル(前週比ドル4.78高)、オマーン先物(DME)=77.79ドル(前週ドル2.61高)、ドバイ現物(Argus)=77.87ドル(前週比ドル2.81高)

世界の頂点を知る男が復帰 勝利目指し経験を還元する


【ENEOS/野球部】田澤純一

2008年の都市対抗野球では、新日本石油(現ENEOS)のエースとして全5試合に登板。1完封を含む4勝を挙げチームを優勝に導き、MVPにあたる橋戸賞を獲得した。その後は米国のMLBに渡り、13年のワールドシリーズ制覇にも貢献した。昨年9月に14年ぶりとなるENEOS復帰が決まり「野球の技術だけでなく、社会人としての立ち振る舞いなど、多くのことを学ばせていただいた」と、ENEOSでの活躍を改めて誓う。

世界を知る自身の経験をチームに還元する(提供:ENEOS)


05年の入社当時は根岸製油所で勤務。MLB挑戦にあたってもENEOSのサポートが大きかったと感謝を述べる。同社の米国拠点が支援を行い、会社関係者の多くがワールドシリーズの応援に駆け付けた。20年の日本球界復帰後、台湾、メキシコと各国のリーグを渡り歩いた際にも、同社とのつながりは続き「台湾やメキシコでも、それぞれの拠点の方にお世話になった。いつもサポートしていただき、私の野球人生になくてはならない存在」と話す。


現役を続ける中で、ENEOSに復帰することになったきっかけは、恩師・大久保秀昭監督の誘いだった。同氏は在籍当時の監督であり、慶応大学野球部監督を経て20年シーズンから再び指揮を取る。「MLBに送り出してくれたENEOSで、もう一度野球ができることは非常にありがたい」と古巣に戻ることを決意。36歳という年齢を感じさせない球威は健在で、若い投手陣の多い野球部でもひときわ大きな存在感を放つ。世界の頂点を知る男は「選手としてしっかり準備を行い、チームメイトから相談された場合はきちんと答えていきたい」と自身の豊富な経験を野球部に還元する。今年の野球部は都市対抗の連覇、日本選手権優勝に向けて貪欲に勝利を狙う。自身も選手として「一球一球を大事に投げて、1アウトをしっかり積み上げて、少しでもチームに貢献したい」と役割を全うする意気込みだ。


現在、同社広報部企業スポーツ室に所属。自身を成長させてくれた社会人野球へ恩返ししたい気持ちも強い。「ユニフォームの胸にある企業名のために頑張り、勝つことで会社の人が喜んでくれる」と企業スポーツの良さを語り、「当事者だけでなく、ベンチ入りがかなわなかったメンバーを含め、チームの皆が集中している雰囲気が魅力」と話す。負けたら次はない一発勝負の世界で、一投一打にかける選手の思いをファンに伝えるため“世界のタズ”が社会人野球全体を盛り上げる。

たざわ・じゅんいち 1986年生まれ。神奈川県出身。2005年新日本石油(現・ENEOS)入社。08年都市対抗野球大会で橋戸賞(MVP)を獲得。09年MLBボストン・レッドソックス入団。13年のワールドシリーズ制覇に貢献し、22年9月、14年ぶりにENEOS野球部に復帰を果たす。

次代を創る学識者/磐田朋子・芝浦工業大学副学長環境システム学科教授


持続可能なエネルギーシステムの在り方を一貫して模索してきた。
ロシア発の危機が続く中、多様なアプローチで研究を深化させていく。

小学生で湾岸戦争のニュースを目の当たりにし、石油を巡り戦争が起きている現実に衝撃を受けた。いつの時代もエネルギーが戦争の発端になり得る中、資源のない日本は持続可能なエネルギーをどう確保すべきか―。磐田朋子・芝浦工業大学教授の研究の根底にはこうした問題意識が流れている。
学生時代、所属研究室の主流は化石燃料分野だったが、再生可能エネルギーの中でも暮らしに身近な廃棄物発電のライフサイクルアセスメントを研究テーマに選択。生ごみの処理から発電利用、メタン発酵の廃液から作る液肥の農業利用など、システム全体の導入可能性を検討した。結果、新システムを実装する上では「特に需要サイドの視点から最終的な利用形態まで考え、全体の最適化を図ることが必要だ」と痛感した。
その後所属した研究機関では、分散型システムを組み合わせて自給率最大化を目指す研究など、民生部門にフォーカス。東日本大震災後の電力需給ひっ迫局面では、独自予測を基に予備率が3%を切った際、約60自治体を対象とした節電要請にも取り組んだ。
現在はデマンドレスポンス(DR)や、行動変容を促すナッジなどにも研究範囲を広げる。「工業大学=技術開発のイメージだが、普及するためには合意形成や心理学の研究も重要。民生分野の課題を広い視点から解決するアプローチが求められている」と指摘する。

屋根上太陽光拡大は急務 「脱炭素先行地域」にも関与

一貫して化石燃料偏重への危機感を持つが、日本でのメガソーラーは景観問題や地域共生、生態系への影響といった面から、将来にわたって持続可能とは言い難い。建物や農地など、管理できる範囲内で再エネを拡大すべきとの立場だ。補助金施策の効果は限定的と捉え、改正建築物省エネ法での新築への省エネ基準適合義務化や、東京都の新築住宅への太陽光設置義務化条例のような規制強化が必要だと説く。「パネル設置では耐震性能の問題が大きく、規制強化で一定の改善が見込める。他方、化石燃料高騰傾向も考えれば、規制強化しにくい既存ストックへのアプローチが喫緊の課題だ」と強調。引き続き心理・行動学的手法とハード対策を駆使し、DRの効果最大化や、開口部の断熱性能向上、家庭にパネル設置を促すための研究などを進めていく。
環境省の「脱炭素先行地域評価委員会」委員も務める。現在第三回を募集中で、回を重ねるごとに、持続的なビジネスを成立させる意識の高まりを感じるという。実は芝浦工大も、さいたま市や埼玉大、東京電力パワーグリッドとの共同計画が先行地域に選ばれた。芝浦工大は実験設備が多く、校舎の新設も予定するが、磐田教授のこれまでの研究成果を生かし、実験などの質を落とさずに電力需要の実質CO2フリー化を目指す。
2月1日には同大初の女性副学長に就任。社会的重要性が増す研究の深化に加え、学内のダイバーシティーけん引への期待もかかる。

いわた・ともこ 2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻博士取得。同研究科助教、建築研究所、科学技術振興機構低炭素社会戦略センターを経て、17年から芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科に着任。

【マーケット情報/3月24日】原油反発、景気と需要の回復期待が広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。景気の回復期待と金融不安の緩和から、買いが優勢だった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げの終了を示唆したことから、景気と需要の回復期待が広がった。また、米シリコンバレー銀行の破綻に始まった金融不安に対し、主要経済国の中央銀行がドル供給の拡充で合意するなど、緩和策を打ち出したことも強材料となった。欧州では、スイスの大手投資銀行UBSが、経営不安にあったクレディ・スイスの買収で合意に至ったことも、市場は好感した。

他方で、クウェート西部における原油流出も材料視された。国営クウェート石油会社(KOC)は、生産への影響はないとしつつも、非常事態宣言を発した。

一方、米エネルギー省長官は、年内の戦略備蓄への補充は困難との見通しを示した。米政権は補充の方針を示していたが、施設の改修作業が補充開始の障害となっている。また、米原油在庫は2021年5月以来の高水準に至るなど適正水準を上回っているが、油価への影響は限定的だった。また、フランスでは、労働争議の影響で複数の製油所が停止したが、油価の下方圧力には至らなかった。

【3月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.26ドル(前週比ドル2.52高)、ブレント先物(ICE)=74.99ドル(前週比ドル2.02高)、オマーン先物(DME)=75.18ドル(前週ドル0.25高)、ドバイ現物(Argus)=75.06ドル(前週比ドル0.14高)

【メディア放談】続・電力業界の不祥事 問題続出で「最大のピンチ」か


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

大手電力の一連の不祥事問題は収まるどころか拡大する一方だ。

電力システム改革10年の節目に、業界は最大のピンチを迎えるのか。

 ―大手電力の一連の不祥事問題は全く収まる気配がない。むしろ次々に新たな事実が発覚している。

石油 石油業界は電力より早く再編が進み、かつて不正問題でもエネルギー業界内で真っ先に突き上げられた。翻って今、電力は四面楚歌だろう。談合は許されない時代に変わり、特に厳しく追及している読売の記事には記者の怒りを感じる。ただ他紙からは、エネルギー危機ほどの熱量は感じない。

―一連の不祥事が電力業界最大のピンチとなるかもしれない。

ガス というか、自らまいた種だ。電力システム改革第一弾の施行から10年という節目にうみが出た。総括原価時代から見直さなければならなかったことが、経営全体で徹底できていなかった。閲覧した情報を営業に使ったと指摘されたのは今のところ関西電力だけだが、今後他社でも発覚する可能性がある。ただ、強力なライバルが存在しない地方電力がなぜ不正閲覧をしたのかについては、クエスチョンが残る。

石油 システム改革のうみについて、有識者のコメントを用いてビシッと指摘するような記事を期待しているが、これまで政策議論に関わってきた有識者が自らの意見を否定することは難しいのだろう。

電力 電力のコンプライアンスが徹底されてこなかったことは問題だ。他方で自由化以降、大手電力の体力を削るような政策が次々実施され、燃料高騰局面では電気を売れば売るほど赤字でも耐えてきたと言う側面もある。ようやく規制料金値上げを各社が申請したものの、持続的に電気事業を営んでいくために必要な設備投資を行えるような環境整備が必要だ。この点について、政府には不祥事問題とは別の議論として進めて欲しい。

問題の余波どこまで エネ業界全体にも影響か

石油 一方、電力の規制料金値上げ申請に関する公聴会が各地で開催されているが、四国電力の公聴会では意見陳述人がゼロだったね。消費者にとって値上げは腹立たしいはずだが、新聞の投書欄でも批判する内容は意外と見当たらない。

ガス 地域間の電気料金格差を指摘する記事も出てきた。ほかの公共料金と比べて、これまで電力の内外価格差はほぼなかったが、今後は差が拡大していく。一般紙も、電力会社ごとの個別事情を踏まえた分析記事をもっと書くべきだ。

マスコミ 東京電力ホールディングス(HD)にメガバンクが4000億円の緊急融資を実施する件だが、昨年からHDはエナジーパートナー(EP)の増資を計5000億円を引き受けたのだから、この対応は当たり前。EPの経営問題とHDの資金繰りの話について、日経などは冷静に報じるべきだろう。いずれにせよ各電力の資金繰り問題が今後表に出てくる。業界でくくらずに各社の状況を掘り下げることが重要で、中でも東電の経営計画に注目している。

―電力の不祥事問題は、今後どのような展開が予想されるだろうか。エネルギー業界全体への波及もあり得るか。

石油 依然、エネルギー危機は続いている。東洋経済の特集は力が入っていて、国内外のさまざまな著名人にインタビュー。その中でサハリン2の停止リスクとガス危機長期化に警鐘を鳴らす記事がある。そんな状況下で今後、ガスにまで不正問題の影響が飛び火してしまうと、安定供給上のリスクが高まってしまうのではないか。

ガス 電力の不祥事問題の解明は途中経過で、不正閲覧の規模がどこまで広がるか。また中部電力と東邦ガスのカルテル問題も年度が明ければ表に出てくる。ガス業界も無関係ではいられない。

マスコミ 与党議員からはエネ庁にシステム改革の非を認めるよう迫る声も出始めた。電力・ガス事業部長はこれまで電気事業連合会の社長会に出ていたが、カルテル問題発覚後は出席しないようになった。また、アンバンドリングが徹底できていないことや、不祥事があっても電気事業法上の業務改善命令発出しかできないなど、さまざまな問題が表面化した。これらをまとめて検証する場が今後設定されるだろうが、いずれにせよ電力有利の改革とはならなそうだ。

ガス そこで問われるのが業界紙の立ち位置。業界のことを一番知っている。電気新聞の報道は業界に遠慮しすぎ。起きていることについては、忖度せず客観的に報じる姿勢が必要だろう。

―電気新聞にせよガスエネルギー新聞にせよ「プラウダ」や「人民日報」になってはいけないな。小誌も自戒しないと……。

高浜4号の緊急停止 PWR稼働への影響は

―ところで1月末、原子炉格納容器外で中性子の急減を検出したとして、高浜4号が自動停止した。政府の原子力政策のてこ入れに水を差さなければよいが。

電力 関電が原子力規制委員会に今回の理由を報告した後、規制委がどう対応するかによる。悪い言い方をしようと思えばいくらでもできる。現規制委員長らは以前のメンバーほど変な物言いはしない印象だが、どう出るかな。

マスコミ 情報があまり出てこなかったので、メディアも書きにくかった。今後については、規制委は基本横展開させるので、対応が決まった暁にはPWR(加圧水型炉)全てで実施するだろう。下手をすればPが一斉に停止する事態もあり得るよ。

電力 関電は福井県の使用済み核燃料の県外搬出問題も抱えている。今年中にけりをつけなければ、美浜3号、高浜1、2号が停止する。6月の青森県知事選は、むつ市長の宮下宗一郎氏有利との見方もある。もちろんまだ勝敗は読めないが宮下氏が勝った場合、青森の原子力事業はより対応が難しくなる。

―原子力問題は引き続き楽観視できないな。

マーケットの歴史から学ぶ リスクマネジメントの重要性


【リレーコラム】野澤 遼/enechain代表取締役

 新卒で電力会社に入ってから20年近くが経つ。その間、電力会社、トレーダー、コンサルタント、そしてenechainを創業してからはマーケットの運営者として、一貫してマーケットと相対する仕事に携わってきた。

ジェットコースターのような20年だった。歴史を振り返ると、2008年にWTIが最高値を付けたかと思うと、リーマンショックで価格は5分の1近くに急落した。11年の東日本大震災直後にはLNGを買いあさったが、再エネ導入が進むと余剰に苦しんだ。COVID―19以降はJKMが2ドルを割ったが、ロシア侵攻以降は燃料価格が現在進行形で暴騰している。ブラックスワンは思ったよりたくさんいるなというのが率直な感想だ。

マーケットは分からない。だからこそ痛感するのは地に足のついたリスクマネジメントの重要性である。私は米国の資源商社でPJMなどの電力トレードに携わったが、米国の電力実務の現場ではEarnings At Risk(EaR)に代表されるリスクマネジメント手法が驚くほど浸透している。EaRだけでは不安だからモンテカルロなどでストレステストも実施する。ボラタイルな市況では、トレーダーとリスクマネージャーがアカデミックな理論を交えて喧々諤々と議論する。ヘッジの考え方も浸透しており、四半期決算ではCFOが自社のヘッジポリシーやヘッジ状況を資本市場に向けて発信するのが一般的だ。

恒常的なリスクヘッジが必須

翻って日本の電力取引の現場はどうか。20年初のスポット高騰を機にリスクマネジメントの重要性を認識した会社は多いが、喉元すぎれば熱さを忘れるよろしく、足元のスポット価格が下がればヘッジをしなくなる会社はまだ多い。米国時代に聞いて忘れられないのが「アメリカですらリスクマネジメントカルチャーが浸透するには10年かかった」という言葉だ。日本は自由化してまだ日が浅いのだから、こうなるのも当然といえば当然だ。

先日、eScanという自社が抱えるリスク量を捕捉できる、日本では初となるリスクマネジメントシステムをリリースした。加えて、enechainは日本最大のヘッジマーケット運営者として流動性を提供し、ヘッジ取引によりリスクをマネージするところにも強くコミットしている。「日本に真のリスクマネジメントカルチャーを根付かせたい、そのために大きなマーケットをつくりたい」とenechainを創業して4年、カルチャーの浸透に向けてようやく一合目。米国で聞いた言葉を胸に、残りの人生を懸けてこの取り組みを続けていきたい。

のざわ・りょう
東大経済学部卒、ペンシルバニア大経営大学院卒。関西電力、資源商社を経て、ボストンコンサルティンググループでエネルギー企業向けトレーディングやリスク管理などのコンサルティングに従事。2019年にenechainを設立。

※次回は東北電力エナジートレーディングの和泉高宏さんです。

【関 芳弘 衆議院 経済産業委員会 筆頭理事】「原子力、正面から真剣に」


せき・よしひろ 1989年関西学院大学経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入社。2005年9月衆院初当選(兵庫3区)。13年自民党副幹事長、14年経済産業大臣政務官、15年英国国立ウェールズ大学経緯英大学院修了(MBA取得)。16年環境副大臣、18年経産副大臣を経て、22年10月から衆院経済産業委員会筆頭理事。

「人のためになる仕事を」と政治を志し、環境副大臣、経産副大臣などを歴任。

エネルギー問題解決のため、環境対策と経済合理性の両立に奔走する。

徳島県で生まれ育ち、「人のためになる仕事がしたい」と政治を志した。関西学院大学在学中、松下政経塾に合格。卒業後は政治の世界に飛び込もうとしたが、そんな自身を諭したのは、魚市場で長年働き続けた父の言葉だった。「『政治家になりたいのなら、汗を流して働く人の苦しみや涙が分かる人間になってからだ』とカミナリを落とされた」。住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、融資・外回り業務などを経験した。

「銀行に勤めた理由は、経済を一番知ることができる業界だったから。世界経済のひずみから戦争は始まる。経済を安定させる政治家になりたいと思っていた」。企業と対話を重ね、彼らが融資を求めて何をしたいのか、金融的流通の側面から経済の在り方を学んだという。「問題解決のためには、システムの整合性が重要。いかに論理的に競争に勝ち抜く体制を作り上げていくか、それを考えるのが好きだった」と銀行員時代を振り返る。その後は、住友銀行とさくら銀行の合併対応にも奔走。17年間にわたるサラリーマン生活を送ったのち、2005年9月の衆議院選挙に兵庫3区から出馬、初当選を果たした。

13年には自民党副幹事長に就任。以降は経済産業副大臣や環境副大臣などを歴任し、22年10月に衆議院経済産業委員会の筆頭理事に就いた。経済の立て直しや経済安全保障対策で存在感を示し、特にエネルギー問題には「原発の再稼働について、1期生の時から長く力を入れて取り組んできた」と話す。22年12月には、岸田文雄首相がGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、東日本大震災以降停滞していた原発の建て替えや稼働延長について言及した。これを踏まえて、エネルギー全体における原子力の電源比率を、第六次エネルギー基本計画にある目標数値の20~22%まで進める必要があると説く。福島第一原発の事故対応や高レベル放射性廃棄物の最終処分など問題は山積しているが、「原子力発電は、われわれにとって正面から真剣に取り組まなければいけない課題」と解決に全力を尽くす姿勢を示している。

世界各国と日本のエネルギー事情の違いについては、元銀行勤務の視点から「エネルギー問題に関して、日本ほどオブリゲーションのある国家はない」と指摘。他国へのエネルギー依存度が高い日本の現状を危惧している。他方、欧州のような安定した風力、遠浅の海岸がなく、広大な太陽光適地もない日本が、過度な再生可能エネルギーにかじを切る政策はすでに限界にきていると警鐘を鳴らす。「日本には再エネを生かす環境があまり残っていない。水素や合成メタン技術に目を向けたいが現状は割高で、今後はエネルギー単価をいかに下げていくかが重要だ」。環境問題解決と経済合理性の両立を目指すことで、世界と競争の舞台に立てると主張する。

エネルギーミックスの重要性を実感 原子力活用で踏み込んだ提案を

エネルギー確保の重要性については「日本と資源国が、政治的に親密ではない場合もある」と分析。資源国自身が政情不安定な場合の問題もあり、自国にエネルギー資源がない日本は、電力の安定供給には再エネと火力、原子力のエネルギーミックスが重要だと話す。「エネルギーミックスを達成した後は、S(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)から外れない形で、環境に配慮した比率へと変化させていくのが望ましい」。党内でも再エネと原子力の比率についてはさまざまな意見があり、調整や議論を深めたいという。

一方で、原子力の活用は地域住民の心情などに配慮が不可欠と指摘。使用済み核燃料の最終処分地選定など、自治体側から手を上げにくい政策に関して国が責任をもって主導するべきだと話し、「経済産業委員会の筆頭理事として政府の法案に対応していく。政府には原子力活用に関して一歩踏み込んだ提案をしてほしい」と期待を寄せる。

エネルギー問題解決のために、自民党内や国会で議論を重ねる毎日だが、根底には「愛と緑と商売繁盛」という自身の基本理念がある。人を愛する心と緑を慈しむ気持ちを大事にして、国を豊かにするために、古い制度を改革する必要があると話す。この理念は環境副大臣、経産副大臣の際にも生かされ、自身の政治人生の礎となっている。

現在は職務もあり余暇が取れない状況ではあるが、中国戦国時代に活躍した将軍「楽毅」 についての小説を愛読。考え方に共感を覚えたという。奸計により国を追われた楽毅が、亡命をとがめる王の手紙に対し、国への変わらぬ忠節を示した「報遺燕恵王書」は、三国志の諸葛亮孔明も尊敬する名文と言われている。「責任ある立場になって、国のために自身がどうあるべきかを考えるようになった」。組織の中で責任を持ち、戦略を考え、国を支えるために汗をかき続ける。

【需要家】消費者の行動変容 情報提供進化に期待


【業界スクランブル/需要家】

厳冬期を迎え、各社の節電チャレンジへの取り組みが活発化している。本誌2月号特集「家庭用エネルギーの新潮流」ではゲームや競争原理を生かした情報提供の事例が紹介されており、取り組みの進度は事業者によって濃淡がありそうだ。情報提供の方法、内容、タイミングは消費者の行動変容に与える影響が大きいと感じる。

SNS全盛時代に、メール配信だけでは節電アナウンスに気付いてもらえない懸念がある。また節電行動は金額換算にすると少額で大きなインセンティブになりにくく、社会規範に訴える、またはランキングで競争を促すなど、行動してもらうための工夫も必要である。

将来的にはAI(人工知能)の発展も情報提供の在り方に大きな影響を与えそうだ。「Chat GPT」という話題のAIチャットでは、こちらからのさまざまな問いかけに対し、AIを活用して自然な回答が生成される。例えば、「カーボンニュートラル実現に向けた需要家の役割は?」と聞くと、「環境に配慮した選択をする:需要家は、環境に優しい製品やサービスを選ぶことができます」といったように、違和感のない回答が返ってくる。

今後は消費者に一方通行で情報を提供するだけでなく、節電、設備購入などにおいてAIと双方向でやり取りを行う時代が来るのかもしれない。またAIによる学習機能を活用して、情報提供の内容もより精緻化、パーソナライズ化が進むと思う。

このような情報入手に慣れてしまうと、情報の真偽を疑うことや、自分で考える習慣が希薄化する懸念はあるが、それ以上に技術進歩に対する大きな可能性を感じている。事業者のノウハウ蓄積と技術活用により、エネルギーに関わる情報提供の大きな進化に期待したい。(K)

【再エネ】供給側から需要家側へ 取り組み活発化


【業界スクランブル/再エネ】

最近、企業による再生可能エネルギー活用に関するCMや記事を見る機会が増えてきた。以前は太陽光・風力発電などの製造や設置を行う企業のPRが多かった気がするが、このところ大型ショッピングセンターや大手コンビニチェーン、不動産会社、保険会社など、再エネ使用側の取り組みが目立っている。

現在の再エネ導入に関する動向は、以前の「供給側主導」から「需要側主導」に大きくシフトしてきているように感じる。新エネルギー財団が実施する「新エネ大賞」においても、数年前からイオンや東急不動産、三井不動産、ヒューリックなど需要側企業の再エネを活用した取り組みの受賞が目立っている。具体的には、自社使用電力の100%再エネ化を目指す取り組みはもちろんのこと、FIT(固定価格買い取り制度)終了後の家庭用太陽光発電の電力買い取りやPPA(電力購入契約)による再エネ導入、証書による賃貸ビルの再エネ化など、さまざまな形で再エネの活用に取り組んでいる。

また、世の中でたくさん電気を使用していると思われがちな業界が顕著な取り組みを始めており、代表例の一つが24時間営業のコンビニである。いつも明るい照明、店舗内の大型冷蔵庫などは大量電力消費の象徴のように感じている人も多いと思う。そのコンビニが昨今、非常に頑張り、店舗屋根上への太陽光発電の設置やオフサイトPPAなどによって、店舗電力の100%再エネ化を目指している。 その他にも、大量の電気を使用する鉄道会社などでも、自社の再エネ施設の環境価値を高めるため非化石証書を活用するなど、積極的な再エネ化が進んでいる。今後も需要側企業の工夫を凝らした再エネ導入に期待したい。(K)