【火力】「基本方針」の前提 ズレてないか?


【業界スクランブル/火力】

昨年12月22日のGX実行会議で、エネルギーの安定供給とGX推進を両立させるための基本方針が決まった。原子力政策やカーボンプライシング導入などで政策の大転換と報道されているが、GX実行会議に先立って開催された基本政策分科会において「大きな方針転換であり、第6次エネルギー基本計画の見直しにも着手すべき」との委員からの意見に対し、従来から「あらゆる選択肢を追求する」との方針であり、すぐにエネ基を見直す必要はない、というのが政府からの回答だった。

それを聞いた委員の「あらゆる選択肢と言っておけば何でも有りになってしまう」との感想はもっともであり、今後時間軸や定量的なバランスの作り込みをしなければ政策の実現など絵に描いた餅でしかない。エネ基の見直しをする、しないにかかわらず、検討すべき課題は山積みとなっている。

あらゆる選択肢を追求せざるを得ないのは、それだけ不確定要素が多いからではあるが、基本方針の中には、それでもさすがにこれは拙いと思われる記載がいくつか見受けられる。

その一つが、揚水や蓄電池が脱炭素型の供給力・調整力と位置付けられている点だ。再エネ余剰を吸収する機能が期待される揚水・蓄電池ではあるが、現状の運用では、充電原資の大半を火力発電に頼らざるを得ず、今のまま利用拡大すると充電ロスでコストもCO2もむしろ増加することになってしまう。

前提がズレていると正しい答えに行きつくことはできない。今回の方針のベースは安定供給の確保であり、再エネも原子力も一朝一夕で拡大できるわけではないことを考えると、地味ではあるが、火力発電をGXの中でどのように活用していくのかについて時間軸を意識しつつ検討することが不可欠だ。(N)

【コラム/2月22日】東日本大震災から12年、原子力を考える~情報が偏ると政策も偏るか


飯倉 穣/エコノミスト

1,山手線で車内広告を見かけた。「情報ソースが偏ると自分まで偏る気がする」(N新聞)。若い目が貴方は如何と凝視する。原子力を巡る新聞報道やテレビ番組のコメントが頭に浮かんだ。多くの人は報道頼りである。

政策情報や様々な報道は、どの程度原子力利用の賛否に影響を与えるだろうか。原子力利用推進の立場から、今日必要な情報の提供を考える。

2,経済で国内物価上昇と賃上げの話題が続く。海外発なので、現経済の流れは自然である。対策は総需要抑制の下で、節約、エネルギー供給対策、便乗値上げ監視が基本である。当面緊縮的な金融・財政政策で望み、非化石確保で、再エネ推進は当然なので、原子力が鍵となる。  

政府は、「GX実現に向けた基本方針―今後 10 年を見据えたロードマップ(以下GX基本方針という)」を閣議決定した( 23年2月 10 日)。報道は語る。「原発回帰 閣議決定 GX基本方針」「熟慮なき原発回帰 パブコメも説明会も方針案後」(朝日2月11日)、「政府GX方針決定、拡大探る 脱炭素投資米の1/6 原発建て替え明記」(日経同)。公正・公平・中立を旨とする各紙の見出しが原子力の賛否を暗示する。

3, GX基本方針は「原子力は、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有しており・・脱炭素のベースロード電源としての重要な 役割を担う。・・原子力比率 20~22%の確実な達成に向けて、安全最優先で再稼働を進める・・厳格な安全審査が行われることを前提に・・一 定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとする」と述べる。S&B推進、新規建設面で弱さもあるが今後のエネ情勢を考えれば前進である。 

原子力委員会も原子力利用に関する基本的な考え方の改定に向けて意見募集した。又従来から幾つかの原子力発電所の再稼働説明会で、地球温暖化、エネルギー安定供給、脱炭素化の視点から、原子力の必要性を説明している。政府・事業者は、原子力政策関連の広報をしているが、国民はその活動と主張内容にどの程度関心があるか。関係者どまり、マスコミ報道次第の面がある。

4,90年代以降、マスコミは、担当官庁・事業者の原発事故対応を非議してきた。現在も、福島事故の経験から「益なく負では」と伝える。再生エネ信奉者は、再エネで十分エネ確保可能と、原子力利用に首を振る。

故に岸田政権の方針に、メデイアのコメントは批判的である。国民的議論や国会討議が乏しいと報道する。原子力懐疑の立場から見れば、原子力依存復帰に耐えられない。物価高騰に伴う家庭負担を、補助金バラマキ、再エネ推進の国内対策で解決可能という主張を紹介する。その力説と裏腹に、再エネ開発の困難さも浮き彫りになっている。国土利用計画も無い中で、所謂「開発・環境問題」「土地利用問題」が浮上すれば、調整は長期となる。  

5,現在国民の雰囲気は変化している。何故か。東日本大震災・原発事故は、歴史的、政治・社会的、科学的に大衝撃を与えた。当時先行き悲観的な見方が支配した。経済的事案として調査すれば1%問題であった。ショックの影響で直後の実質GDPは減少したが、11年は微減だった。それを菅直人政権の震災対応とりわけ原子力発電停止で、電力供給不足を招来し、生産面から全国に不安を拡散させた。そして10年一昔である。福島原発再構築の夢は放棄されたままだが、物理的復興は一段落である。  

東日本大震災後、原子力停止で約3兆円弱/年(現在燃料費増で5兆円弱)の負担に加え、再エネ料金の加算(3兆円弱)もある。そこに今回のロシア・ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格上昇である。輸入増で年間数十兆円前後の所得移転が生じる。その影響は国民125百万人すべてに及ぶ。石油価格、電力・ガス料金の大幅値上げが負担を強い且つ食品等生活必需品の値上げに波及する。当然給料増は少ない。国民は、マスコミに知恵を求める訳にもいかず、他の選択肢もないので原子力活用やむなし且つ現実的な対策と考える。 

思えば12年以降毎回国政選挙で、原子力廃止を社説とする新聞等は、常に原子力を選挙の争点に掲げた。選挙民は紙面とは別の反応であった。雇用・経済問題に関心が高く、その延長に世論はある。現下の空気は、財布の中身が軽くなる現実に抗しえない、国民の毎日の生活感覚が支配している。

6,その先の原子力をどう考えるか。発電事業者の原子力推進理由は、燃料安定供給、電力安定供給、発電時CO2非排出、電気料金安定貢献を挙げる。政策サイド(経産省)は、エネルギー政策として世界のエネルギー事情(地政学的不安定)、エネルギー自給率の低さ(資源小国)、環境問題(非化石エネ選択)から説き起こし、安定供給(ウラン資源分布状況、準国産エネルギー、大量供給可能)、安定低廉な電源(変動費を資本費に転嫁、他電源比較)、温室効果ガス排出抑制への貢献(非化石エネ)を利点と述べる。そして福島事故考慮の安全対策の徹底(安全規制の強化)を強調する。

具体例として他電源と原発のコスト比較(21年8月試算)を説明する。原子力約11円/kwh、太陽13円、風力20円、LNG火力11円(現在20円超)である。又エネルギー密度考慮の開発面積比較(100万KW発電所用面積原子力0.6㎢、太陽光発電58㎢、風力214㎢)等も紹介する。暫く政府方針に多くの人は黙諾か渋々であろう。 

7,次の課題は何か。原点に戻る。原子力不承不承の立場なら、政策担当官庁の説明に今は沈黙しても,疑念を消さない。批判的報道と論調も根強い。どうも原子力を必要とする論拠・情報に何か不足がありそうである。その一つに原子力利用への反対派の問題提起・懐疑に対する世間的な意味での回答情報不足がある。原子力反対派・批判派・懐疑派の問題提起を、文献等から拾い上げれば、利用物質、利用施設、放射能汚染、管理時間(人間的時間スケールとの乖離)に係る16項目(字数の関係で省略)で、概括すれば、7つである。①原子力施設の立地条件(自然災害)、②原子力施設の材料・機器・システムの健全性(放射線劣化等)、③原子力施設の運転管理体制(人間の限界)、④核燃料物質と放射能管理・処分(立地問題)、⑤実証による検証不可問題、⑥事故の影響の大きさと未曾有さ、⑦核拡散等の問題に及ぶ。

一般的に言えば知的水準の高い人の言説である。指摘はそれぞれ論者の経験や事実に根ざしており、ある意味で可成り的確な見方を提供している。原子力と縁が薄い人なら頷く見方もある。何故か、あの元首相達も同調した。市民・メデイアの中には、情熱的に問題提起する批判書や報道を好む。それらの情報は容易にアクセス出来る。 

8,これらの疑問に推進サイドは網羅的、的確に答えているだろうか。個別に原子力専門家に問えば、合理的且つ納得出来る回答を得ることは可能である。ただ提起項目について、物理・化学等学問的基礎を踏まえた専門的知識も紹介し且つ一般人にも分かりやすい広報や解説書に接した経験がない。ネット上でも網羅した説明を見かけない。原子力関係科学技術者・政策担当者は、疑問点の説明を専門的過ぎると判断し、あるいは周知のことと考え重ねて説明する意識が希薄な感もする。

今後の原子力展開を考えれば、改めて各論点を平易に情熱的に分かりやすく説明する偏りのない情報が必要である。原子力批判派の情熱的な主張に、それを越える熱意で、丁寧に反論・解説情報を作り、公開情報にしていただきたい。勿論基礎知識のない素人に伝えることはかなり難しい事であるが。

批判派の指摘事項を原子力開発の担い手が止揚することが出来なければ、偏る自分を膨らまし、原子力の展開は厳しくなる。 

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

デジタルで水産業の課題を解決 持続可能な社会づくりに貢献する


【エネルギービジネスのリーダー達】秋田 亮/海幸ゆきのや社長

持続可能な社会の実現に向け、環境やエネルギーとともに大きな課題を抱える農業・食料分野。

「スマート養殖」で水産業に変革を起こそうとしているのが、関西電力系の「海幸ゆきのや」だ。

あきた・りょう 1998年一橋大学商学部商学科卒、関西電力入社。原子力、火力などの資機材調達、コスト構造改革などの業務に従事し、2019年に発足した経営企画室イノベーションラボにて農業・食料分野での新規事業開発を検討。20年に陸上養殖事業(海幸ゆきのや合同会社)を立ち上げ、代表職務執行者に就任。現在に至る。

 「Power to Food~でんきの力を食分野に~」をコンセプトに掲げて、静岡県磐田市でバナメイエビの陸上養殖事業を手掛ける合同会社「海幸ゆきのや」。関西電力発の農業・食料分野のスタートアップ企業として、2020年10月に発足した。

初代社長に就任した経営企画室イノベーションラボの秋田亮・副部長は、「農業・食料分野での事業化は関電として初の取り組み。エネルギーと情報通信の分野で培ってきた技術を掛け合わせることで養殖事業の最適化、高度化を図り、農林水産業・食料・環境を巡る社会問題の解決につなげていきたい」と狙いを語る。

養殖管理をAIで自動化 国産エビの安定供給を実現

事業開始に当たっては、IMTエンジニアリング(新潟県妙高市)の「屋内型エビ生産システム」(Indoor Shrimp Production System:ISPS)を採用。約1万6000㎡の敷地内に40m×12mの水槽を六つ設置し、稚エビから4カ月をかけて育成したバナメイエビを加工し、「幸えび」としてホテルやレストラン、スーパーマーケットなどに卸販売している。

世界的に水産物の需要が高まる一方で天然物の漁獲量が減少する中、陸上養殖には①適切な水質管理を行うことで、台風や赤潮といった気象条件に左右されない、②フンや残餌を含んだ養殖排水を海に排水することなく、環境への負荷が低い―など、海上養殖が抱える問題を解決しながら安定的に生産できるというメリットがある。実際、同社のプラントの生産効率は高く、一つの水槽に60万尾の稚エビを放流し、約45万尾を出荷することができる。

こだわりは、「安心安全」「美味しさ」「サステナブル」という三つの条件を兼ね備えたエビを育て出荷するということ。これを実現するのが、飼育条件や給餌、清掃計画といった養殖管理をAIで自動化する「スマート養殖」だ。

例えば、従来は育成開始時に、ゴマ粒ほどしかない稚エビを目視で数えなければならなかったが、同社のプラントでは画像を解析することで正確な尾数を把握できるシステムを開発・導入した。労働者の負担を軽減するだけではなく、給餌などの育成計画を精緻化し生産性を向上させることにも貢献している。

エビの育成に最適な養殖の仕組みは作り上げたものの、「当初は本当にうまく育つのか内心ひやひやだった」(秋田社長)。昨年11月に初めての出荷を迎えた時には、商品として自信を持って販売できるエビを育成できたことに胸をなでおろしたという。

テクノロジーの力を駆使 養殖業界に革命を超こす

関電入社後は、火力や原子力発電所の資機材調達に長く携わってきた。美浜発電所3号機の2次系配管破損事故が起こり、原子力安全が揺らぎかねない事態に直面した際には、下請け会社が技術やノウハウを維持できるよう、資金が循環する仕組みを作るなど、保全業務改革に腐心した。

電力マンとしてキャリアを積んできた秋田社長が、突如として農水産業に携わることになったのは、関電が19年3月に策定した中期経営計画の中で、少子高齢化や地域活性化といった社会課題解決に貢献し成長するために取り組む新領域の一つとして、農業・食料分野を掲げたことがきっかけだった。

早速、農業・食料分野に生かせる社内のアセットを探し始め、19年末には環境浄化の研究成果や発電所などを維持管理するためのデジタル技術をエビの養殖に活用できると思い至った。そして、20年2月には社の意思決定にこぎ着け、とんとん拍子に事業化の方向性が固まった。

ところが、いよいよ会社を立ち上げようという矢先に発生したのが新型コロナウイルス禍だ。実は事業化の前提として、年間生産される80tのエビを基本的には航空会社の機内食用に出荷する販路が見込まれていた。

コロナ禍で国際的な人の行き来が止まったことでその思惑は頓挫。そのため、養殖事業を開始する傍ら販路開拓にも苦心することになった。今後は、ECサイトなどを通じた最終消費者への直販を拡大するなど、これまでの水産業の慣例にない新たな販路の開拓にも意欲を見せる。

さらには、養殖業界に革命をもたらすべく、この陸上養殖システムを国内外に普及させることも視野に入れる。自ら事業に取り組まなくとも、関電が持つデジタル技術を含めた養殖システムとして提供することも考えられる。

「目指しているのは、次の社会により良いものを提供すること。テクノロジーの力で水産業の在り方に変革を起こし、やがて訪れるタンパク質クライシス(タンパク質の需要と供給のバランスが崩れること)に対応し、持続可能な地球環境や人々の生活につなげる必要がある」(秋田社長)。磐田市でエビの養殖を手掛けているのは、そのための第一歩なのだ。

【原子力】政府が推進を決断 新たな一歩に期待


【業界スクランブル/原子力】

2022年を振り返ると、エネルギー安定供給の難しさと重要性を強く認識した年だったといえる。そして23年は、日本のエネルギーを安定的に供給させるシステムを再構築し実行に移すべき年といえ、社会の発展と変革に貢献していくことが求められる。

昨年、原子力政策についてGX実行会議で重要な動きがあった。政府が主導し、原子力発電の最大限の活用や、60年超の運転を認めるルールの新設に踏み出した。さらに、これまで「想定していない」としていた原発の建て替えも盛り込んだ。ようやく新たな一歩に踏み出したことは評価できる。

今後、法制化などの国による環境整備が行われる。一方、今春開始予定の福島第一原発のALPS処理水の海洋放出は、確実な工事の遂行と、引き続きの理解活動の推進が喫緊の課題になっている。

現在、わが国の原子力はサイクルに限らずいろいろな点でターニングポイントに立っている。原子力に関する世界に誇る高い技術・人材、強固なサプライチェーンは福島第一原発事故以降、具体的な建設が進まなかったこともあり、強みが急速に失われつつある。官民連携による海外プロジェクト参画の動きも踏まえて、原子力産業界をあげて特に人材育成に注力することが急務である。

日本が原子力政策を大きく転換させたことを米国も高く評価している。SMR(小型モジュール炉)など革新軽水炉の開発協力や、既存の原発の最大限の活用などで合意する方向が示された。日本と米国との間のエネルギー協力の重要性は原子力分野に限らない。再生可能エネルギー、化石燃料の調達など幅広い分野で協力が進み、わが国のエネルギー安全保障がさらに進むことを期待したい。(S)

【検証 原発訴訟】40年超プラントで初の司法判断 規制委の高経年化評価を尊重


【Vol.11 美浜決定】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

運転開始から40年を超えた原子炉の運転差止めに関する初の司法判断が、昨年末に示された。

債権者側は高経年化対策の評価の是非などを指摘したが、司法側は原子力規制委員会の判断を尊重した。

 今回は、関西電力の美浜発電所3号機について運転差止めの仮処分を周辺住民(債権者)が申立てたことに対し、2022年12月20日に大阪地裁が同申立てを却下した決定(美浜決定)を扱う。美浜発電所3号機は1976年12月に運転開始後、2016年10月には設置変更許可処分を、同年11月には36年までの運転期間延長認可処分をそれぞれ受け、21年6月から40年超プラントとして国内で初めて再稼働した加圧水型軽水炉(PWR)である。美浜決定は、運転開始から40年を超えたプラントの運転差止めに関する初めての司法判断である。

本件の主な争点は、①司法審査の在り方(判断枠組み)、②高経年化対策(特に中性子照射脆化評価)、③基準地震動の策定の合理性(特に「震源が敷地に極めて近い場合」、いわゆる極近傍への該当性)、④避難計画の不備による人格権侵害の具体的危険性―であったが、本稿では①を概観した上で各争点への判断を考察する。

中性子照射脆化対策等の是非 従前の判断枠組みで見解

美浜決定は、司法審査の判断枠組みとして「原子力規制委員会が新基準に適合するものとして安全性を認めた発電用原子炉施設は、当該審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点が認められない限り、社会通念上求められる程度の安全性を具備するものというべきである」とした。

その主張立証責任については、他の原発を巡る従前の運転差し止めなどに関する司法判断での主張立証責任の配分と同様に解した。すなわち、21年3月18日の広島高裁決定(22年2月号参照)などとは異なる。

「債務者(関西電力)において、当該具体的審査基準に不合理な点のないこと、及び、本件発電所が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断について、その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないなど、不合理な点がないことを、相当の根拠、資料に基づいて主張、疎明する必要があり、債務者がこの主張疎明を尽くさない場合には、前記の具体的危険が存在することが事実上推認されると解すべき」とした。

なお、「中性子照射脆化」とは、放射線の照射を受けて金属材料がもろくなる現象をいう。債権者は、債務者らが中性子照射脆化の評価において用いた民間規格のモデル式には誤りがあるなどと主張。これに対して美浜決定は、有識者らの議論や規制委における技術評価などを踏まえ「(モデル式など)債務者の行った中性子照射脆化評価及び原子力規制委員会の審査が不合理であったものとは認められない」と評価した。

その上で、「本件発電所が運転開始後40年以上経過していることをもって、新規制基準が定める高経年化対策以上に、本件発電所の安全性を厳格、慎重に判断しなければならないとする事情は認められない」と判断した。規制委が新規制基準に適合するとして安全性を認めた発電用原子炉に対する裁判所の審査態度として妥当なものであろう。

また、新規制基準では、検討用地震の震源が敷地に極めて近い場合において、特別考慮を求める規定(本件特別考慮規定)を設けている(設置許可基準規則の解釈別記2の第4条の5二⑥)。美浜決定は、本件特別考慮規定が設けられた際の規制委での議論状況などやその趣旨を検討した上で、「その適用範囲を画する定量的な定めをしていないことなどからすれば、本件特別考慮規定の適用の有無については、原子力規制委員会が、中立的な立場から、専門的技術知見に基づき(中略)個々の検討用地震の震源と当該原子力発電所の敷地との位置関係等に照らして判断することが前提とされているものと解される」とした。

そして、美浜発電所の東側約1㎞に位置する白木―丹生断層などについて、同発電所は震源から一定の距離があると認められることや、適用範囲について解釈の指針を示すような明確な議論は行われていないことなどを踏まえて、債務者が「震源が敷地に極めて近い場合」に当たると判断しなかったことが不合理であるとまでは言えないと判断した。 

この判断も規制委の見解を尊重したものであり、裁判所の審査態度として妥当なものであろう。

美浜3号機は40年超で再稼働した国内初のプラントだ

避難計画不備を巡る主張 深層防護の考え方に沿い判断

さらに債権者は、「深層防護の第5レベルである避難計画に不備があると言える場合には、直ちに人格権侵害の具体的危険性についての疎明があると認めるべき」と主張した。

これに対して美浜決定は、「深層防護の考え方の基礎である『前段否定(ある防護レベルの安全対策を講ずるに当たっては、その前に存在する防護レベルの対策を前提としない)』『後段否定(その後に存在する防護レベルの対策にも期待しない)』という概念は、あえて各々を独立した対策として捉え、各段階における対策がそれぞれ充実した十分な内容となることを意図したものであることは明らか」であること。また、「人格権侵害による被害が生ずる具体的危険が存在するか否かにおいて、第1から第4までの各防護レベルの存在を捨象して無条件に放射性物質の異常放出が生ずるとの前提を置くことは相当でない」こと。さらには「仮に第5の防護レベルに不備があること自体に基づいて人格権侵害の抽象的なおそれの疎明があると認めるとすれば、放射性物質放出の抽象的・潜在的な危険性のみをもって本件発電所の運転差止めを認めることとなって相当でない」ことなどを指摘した。

そして、「債権者が避難を要するような事態(放射性物質が外部に放出される事態)が発生する具体的危険性について十分な疎明があるとはいえない」ことから、「避難計画に不備があるか否かについて検討するまでもなく、(債権者の主張を認める)理由がないものというほかない」と結論付けた。前回1月号・東海第二判決の回で紹介した深層防護の考え方の基本を正しく捉えた妥当な判断である。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

・【検証 原発訴訟 Vol.9】https://energy-forum.co.jp/online-content/11164/

・【検証 原発訴訟 Vol.10】https://energy-forum.co.jp/online-content/11397/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【石油】2023年の悪夢 一物二価・人民元決済


【業界スクランブル/石油】

ロシアのウクライナ侵攻で世界の分断が顕在化した。権威主義国家と民主主義国家、独裁国と先進国の分断であるが、両陣営とも途上国・産油国の取り込みに必死である。当然、その影響は世界の石油市場にも及んでいる。

ロシア産原油上限価格60ドルとその対抗措置の影響・評価は今後の問題だが、既にG7とEUのロシア産原油禁輸に伴い、仕向け先の中国、インド、トルコなどへのシフトが起こっている。ある意味、ロシア原油を巡る国際石油市場の分断が始まっているのだ。

G7・EU向けは中東原油が埋めている形で、現時点では大きな影響は生じていない。だが、OPECプラスではロシアと協調関係にあるだけに、今後の動向に注意が必要だ。

わが国の原油輸入も、ロシア産の44%が減った分、中東産が増え、中東依存度は95%を超えた。それ以上に懸念されるのは、G7などの上限価格とロシアの値引きを契機とする原油価格の一物二価化である。

途上国は対ロ経済制裁に同調していないだけに、先進国だけ高い原油を買うという分断もあり得る。加えて、原油決済のドルと人民元への分断も考えられる。習近平主席のサウジ訪問・GCC(湾岸協力会議)首脳との会談でも、原油の人民元決済の打診があったとの観測もある。

さらに問題を難しくしているのが気候政策だ。温暖化防止国際会議のCOP27で、先進国は損失・損害の補償で途上国を何とかつなぎとめた。途上国の経済成長への渇望を抑えることはできない。欧米の上から目線の排出削減要請は途上国や産油国を独裁国側に追いやるだけだ。

原油の一物二価、原油の人民元決済、気候政策の空中分解―。そんな悪夢が筆者の初夢であった。(H)

【マーケット情報/2月17日】原油反落、米経済の先行き懸念が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。米経済の先行き不透明感や在庫増が重荷となり、売りが優勢となった。

先週発表された米消費者物価指数や生産者物価指数などの伸びが、市場予測を上回った。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)による金利引き上げ政策が維持されるとの見通しが強まり、景気と原油需要への影響が懸念され、油価を押し下げた。

また、米当局は5~6月にかけて戦略備蓄から最大2,600万バレルを売却する方針を決定。加えて、寒波の影響で国内製油所の稼働率が下がっていたことなどから、原油在庫が2021年6月以来の水準に積み上がったことも材料視された。さらに米エネルギー情報局は、今年の原油生産量が過去最大になるとの見解を示した。

シェルが、欧州最大級のぺルニス製油所の定修を、3~5月にかけて実施すると発表したことも、原油価格の下方圧力となった。

一方で、欧州連合(EU)は2023年の景気見通しを上方修正。また、ロシアは、G7諸国による同国原油価格の上限設定に対抗して、3月の生産を日量50万バレル削減する計画を発表。サウジアラビア石相は、OPECプラスはこの動きに対応せず現状の減産計画を年内維持すると強調した。ただ、足元の油価への影響は限定的だった。

【2月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.34ドル(前週比3.38ドル安)、ブレント先物(ICE)=83.00ドル(前週比3.39ドル安)、オマーン先物(DME)=82.22ドル(前週1.42ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.25ドル(前週比0.95ドル安)

テレメータサービス専業会社を設立 検針データ生かしたサービス展開


【中部電力】

 中部電力グループは2月にテレメータサービス専業会社「中電テレメータリング合同会社」を設立する。中部電力と中部電力パワーグリッドの共同出資により、電力スマートメーターの通信網を活用したさまざまなサービスを行う。

テレメータとは、「テレ=遠方」と「メータ=測定機」を組み合わせた造語で、ある地点のリアルタイムの様子をオンラインで監視できる遠隔自動データ収集装置のこと。労働人口の減少やIoT技術の進展を受け、検針や保安業務の高度化が求められるエネルギーインフラ分野において必要不可欠な技術だ。検針データなどを活用したサービスは時代の要請であり、新会社は旧一般電気事業者で初となるテレメータサービスの専業会社となる。

テレメータサービスの概要

約10万口の自動検針に活用 サービス拡充へ実証中

中部電力は2018年にテレメータサービスの実証をスタートさせ、21年4月から中部エリアのガス・水道事業者向けにサービスの提供を開始。ガス・水道事業者は自動検針や警報情報の取得、メーターの制御を遠隔で実施でき、通信品質の良さや通信方式の長期安定性などが評価され、現在はLPガス15社をはじめ、約10万口のガス・水道の自動検針などに活用されている。この4月からは、これらの事業を新会社へ移管する。

中部電力グループは、①マーケットの拡大、②サービスの拡充―という二つの軸で新会社の事業を展開していく。①では多くの都市ガス・水道事業者への導入を目指すとともに、②では時間帯ごとの検針データを活用した高齢者の見守りやフレイル(心身が虚弱した状態)の検知、スマートフォンアプリなどから電気・ガス・水道の使用量や請求金額を一括して確認できるサービスの開発などに取り組む。サービス利用者数は、25年度に50万口を目指す。

フレイルの検知については、21年7月から水道・電気の使用量を用いて、愛知県豊明市、藤田医科大学病院と実証を開始した。また22年9月には静岡県湖西市や豊橋技術科学大学、サーラエナジーなど6者と検針データの利活用を検討・推進する包括連携協定を締結。フレイル検知のほかAIによる将来需要の予測など、ビッグデータの利活用を展開していく。

新会社の設立に関して、中部電力グループは「ビジネスモデルの変革に挑戦し、エネルギーにとどまらず、社会課題の解決やお客さまのニーズにかなったサービスの提供を進めていく」としている。

【ガス】防衛費だけではない 自給率向上で国を守る


【業界スクランブル/ガス】

ロシアがウクライナに侵攻を開始してから約1年が経ち、戦争は長期化の様相を見せている。連日のニュースなどから戦争は身近な存在になり、中国による台湾侵攻や第三次世界大戦の可能性も取り沙汰される。仮に世界大戦が勃発すれば、西側陣営に属する日本は中ロ陣営との戦争に否応なく巻き込まれるだろう。そうなった時に、日本はどうなるだろうか。

戦争が長期化した場合、勝敗を分ける最大のポイントは軍事力ではなく、エネルギーと食料の自給自足力だ。戦争になればシーレーンは封鎖され、エネルギーや食料の輸入は途絶えることになる。それでも中国やロシアはエネルギーと食料を自給自足できるため、長期の戦争に耐えることができる。

一方、日本の自給率はエネルギー12%、食料38%と、OECD諸国でも最下位クラスに位置する。戦争開始とともに輸入は途絶え、早々に国を支えることが困難となる。ある軍事評論家の話では、日本は戦争を始めたら確実に負けるという。ちなみに、第二次世界大戦直前の日本のエネルギー自給率は軍用石油を除けばほぼ100%、食料自給率は90%前後であった。いかに現代の日本が他力本願で成り立っているかが分かる。

日本は全力で戦争回避の道を探し求めるべきだ。それでも回避できない場合、危機管理の観点でエネルギー確保のために何をすべきか。ウクライナ危機において、ロシア産ガスに比重を置いてきたドイツなど欧州各国は岩盤貯蔵のガスによって、今冬を乗り切ることを可能にしている。例えば、日本においても焼け石に水かもしれないが、枯渇ガス田を備蓄に活用するなど、さまざまな策を積み上げていくしか方法はない。国を守るために国家予算を費やす先は国防費のみではない。(G)

【新電力】電源へのアクセス コストの再定義が必要


【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者(新電力)のビジネスモデルが変革を迫られている。2023年度からは、これまで新電力が個別に交渉を行ってきた相対契約の交渉が、おおむね旧一般電気事業小売り各社が行っている卸電力販売に関わるオークションに変更。その結果が出そろい始めている。

ベースロード電源市場の約定結果と合わせ、見直し後の規制料金単価との料金水準の整合性の検証が追ってなされることを期待するが、新電力からは「卸電力価格の水準を原価とした場合に規制料金単価での販売で利益を確保することは難しく、これをベースに価格での勝負をするビジネスモデルは成立しない」との声が聞こえている。

電力自由化によって実現されるべき国民に対する効用、国益の再定義は何だったか。需要側においては、電力価値の観点での効用向上という意味ではデマンドレスポンスなどが、また別の角度から見た効用向上という意味では複合的なサービスの提供があったはずだ。

各事業者の引き続きの経営努力を促しつつも、適切な価格水準で電源にアクセスできることは事業環境の基盤であり、改善が必要である。安定供給を実現するために、新電力が負担すべき電源のコストを再定義し、それを過不足なく負担できるような仕組みの見直しが必要だ。

電力自由化によって多彩なプレイヤーが参入したことは、カーボンニュートラル実現のための電源の多様化にもつながる。FIPやコーポレートPPA(電力供給契約)の活用は良い例だ。需要側のビジネスモデルの多様化は、供給側の新しいビジネスモデルにもつながる。今起きている課題に向き合いながら、一つひとつ問題を解決していく姿勢を取り続けていくことが必要だ。(K)

ドゥンケルフラウテ=暗天の凪とは


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

最近、欧州の電気事業者の間で“ドゥンケルフラウテ”(Dunkelflaute、暗天の凪)という言葉が注目されている。空は暗く、風も吹かず、太陽光や風力の発電が消える状況のことだ。冬の北ヨーロッパでは毎年150~300時間発生する事象らしい。

英国では、昨年12月初めにこの現象に見舞われたが、冬に向けて積み上がったガスの備蓄で事なきを得た。では、これが「再エネ100%に近い世界で発生したらどうなるか」というのが昨今の話題らしい。「蓄電池があるじゃないか」という声もある。日本でも登録自動車8000万台を全部EVにしたら、国内電力需要1日分相当の蓄電容量(1台当たり40kW時として32億kW時)だ。それでも、「EVの蓄電容量を全部系統運用に利用できるのか」「暗天の凪が2~3日続いたらどうなるか」「コバルトやリチウムなど希少金属を使う蓄電池がそんなに普及するか」など、次々と疑問が湧く。いったい、こういう問題は誰が考えてくれているのだろうか。

世の中では「送電網の充実が再エネ普及の鍵」として熱心に議論されるが、いくら送電線をつくっても電気の余剰・不足が全国で共有されるだけだ。なるほど、冬は日本海側の“暗天”は太平洋側の“晴天”で補われるかもしれないが、日暮れを迎えれば電気が足りなくなるのは同じだ。いま私たちが、貯蔵の難しい電気を何時でも自由に使えているのは、結局のところ、化石燃料の形でエネルギーを貯めているからに他ならない。暗天の凪が注目され始めたのは、変動再エネが増えるにつれて、ようやくそのありがたさが身に染みるようになったという訳だろう。

脱炭素については、世界中ひたすら正義感で突っ走ってきた感もあるが、この辺でリアリティのある議論が必要ではあるまいか。

水道・ガスの自動検針を開始 電力スマメで地域社会の課題解決


【東北電力ネットワーク】

東北電力ネットワークは、水道・ガスの自動検針で地域社会の課題解決と収益拡大を図る。

スマートメーター通信ネットワークを可視化し、現場業務の効率化にも取り組んでいく。

 東北電力ネットワークは3月から電力スマートメーター(スマメ)を活用した「水道・ガスの自動検針サービス」を開始する。水道やガスのメーターに無線端末を接続し、同社のスマメ通信ネットワークを介して水道・ガス事業者に検針値などの情報を提供するものだ。

検針業務の削減や、漏水・ガス漏れの自動検知による安全確保、およびそれに伴う迅速な現場対応が可能となる。ガスの開閉栓の遠隔操作もできるため、水道・ガス事業者の顧客サービス向上が期待されている。

通信エリアが広く、独自回線でセキュリティーが高いという特徴もあり、将来的には電気・水道・ガスの使用量を見える化して、生活パターンを把握することで、効率的な使用を促すなどの活用も見込まれる。

名取市の水道使用量を検針 全国初の共通仕様を採用

2022年12月、東北電力ネットワークは宮城県名取市と「自動検針サービス利用基本契約」を締結した。3月から開始する水道使用量の自動検針事業として第1号の導入事例だ。共同検針インターフェース会議で制定した「IoTルートApplicationインタフェース仕様書」および「共同検針サーバ間インタフェース仕様書」に準拠した自動検針サービスの提供は、全国で初の取り組みとなる。

名取市と契約を締結した(左:山田司郎市長)

事業化に向けて、20年8月から水道・ガス事業者10者と共に、一般住宅やマンション・市営住宅といった集合住宅、工場・公共施設のような広大な敷地を有する個所など、さまざまな場所で実証試験を行ってきた。

これらの試験では、システム面での問題がないことを確認。通信面でも電力スマメが採用するプラチナバンドと呼ばれる920MHz帯の無線方式の有効性を確認した。東北地方特有の課題として積雪による影響を懸念していたが、現在のところ大きな電波減衰は見られていない。

これまでの実証試験においては、ガス漏れ検知や、これに伴うガス開閉栓の実績こそないが、模擬的な検知や制御を行い、いずれも問題がないことを確認。ガスの自動検針サービスの提供についても準備を進めている。

今後のサービス展開として、社内に専門のチームを設置して積極的に自動検針事業のプロモーションやサービス向上に向けた検討を実施している。同社は「多くの事業者さまに活用いただけるよう魅力あるサービスを提供していきたい」と意気込む。

新システムを開発し導入 スマメ保守管理を効率化

同社は、23年度までに供給エリア内の全需要家分として約700万台のスマメを設置し、保守・管理していく。スマメの導入が進むことで検針業務の削減や新たなサービスの提供が可能となる一方、設置に伴い、通信障害などの通信品質確保に関わる新たな保守業務も発生している。

スマメで通信障害などが発生した場合は、発生箇所を特定し改善対策を検討するため、通信経路収集率や地形や建物などの障害物、中継器の設置位置などの情報を、関連する複数のシステムから収集して調査する必要がある。

情報の多くは数値情報であるため、分析には専門的な知識やスキルを要する。だが、実際の通信経路を特定することは難しく、加えて周辺にある、ほかのスマメの通信状況を同時に確認できないため、調査・検討に時間がかかり、非効率な対応になっていた。

そこで21年3月、同社では、誰でも簡単かつ迅速な調査・検討を可能にするため、GIS(地理情報システム)を活用し、電子地図上にスマメや通信経路などを可視化する新たなシステム「スマートメーター通信ネットワーク管理システム」を導入した。

通信経路などの可視化イメージ

主な機能は、①通信経路などの可視化、②通信エリアマップの表示、③衛星写真の表示―であり、一つのシステムで複数の情報を一元的に収集・管理できるようになった。通信障害などが発生した場合は、通信経路に通信エリアマップや衛星写真などを組み合わせる。これにより、机上で地形や建物などの障害物を考慮した原因分析や、改善対策の検討が可能になるといった、効率的な運用にもつながっている。

このシステムは、米国Esri社が主催する「2022年度SAG賞(Special Achievement in GIS Award)」を受賞。スマメ保守業務の負担軽減と通信品質の確保による社会インフラへの貢献が高く評価され、世界からも注目された。

東北電力ネットワークは、今後もスマメの保守業務に係る品質向上と効率化を図るとともに、地域の人々の豊かな暮らしや課題解決につながる新たな価値の提供を行うなど、IoT技術を活用したスマート社会の実現を目指し、取り組んでいく構えだ。

水道・ガスの自動検針サービスの概要

【電力】監視委がガイドライン化 限界費用での玉出し


【業界スクランブル/電力】

 公正取引委員会が昨年末、大手電力4社のカルテル事案に対する処分案を公表した。巨額の課徴金が耳目を集めたが、本誌1月号によると、カルテル合意の成立について電力側に異論もあり、行政訴訟に踏み切る可能性も含めて、処分確定まで紆余曲折がありそうだ。

一般論でいえば、違法が認定されれば断罪されるべきであるし、とはいえ電力側に法の適用に異論があるなら株主利益を背負っている以上、司法に訴えることも当然だ。残念ながら筆者は、この事案の行方を占うほどのこれ以上の情報は持ち合わせていないが、もやもやするのはこの事案に至った背景に競争政策のゆがみがあると思えるところだ。

すなわち、本コーナーで何回か取り上げている限界費用玉出しである。具体的に言うと、2016年に限界費用玉出しをしていないとして東京電力エナジーパートナーに発出された業務改善勧告を、唯々諾々と受容してしまったことが、つまづきの始まりではなかったか。限界費用で価格が形成されることは、競争政策の一面では望ましいが、

それを法制度で強制できるかは別だ。ましてや同質性が高く、同時同量というデリケートな制約を持つ電力で容量市場なしに限界費用価格形成を追求すれば、持続性のない過当競争に陥り、電力不足を招く。まさにそれが今起こっている。この業務改善勧告は適切だったのか。

電力・ガス取引監視等委員会は昨年、限界費用玉出しを適正取引ガイドラインに記載した。監視等委の幹部は限界費用玉出しは独禁法上の要請であると公言していたが、出来上がったガイドラインに独禁法への言及がないのはどうしたわけか。

監視等委の行っていることに根拠の薄弱さを感じてしまうのは筆者だけだろうか。(U)

環境規制の緩い国へ「関税」 貿易摩擦を強め対立激化も


【ワールドワイド/環境】

欧州連合(EU)は2022年12月13日、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける炭素国境調整措置(CBAM)を導入することで合意した。CBAMは21年7月に欧州委員会が素案を提示。その後、欧州議会案、欧州理事会案が出そろい、トリローグと呼ばれる調整プロセスを経てきた。今回は欧州議会とEU加盟国からなる理事会が合意した。欧州委案では、規則案の適用される製品に関して、特にカーボンリーゲージのリスクが高いセメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力としていたが、今回の政治合意では、欧州議会の要求に応じて水素が新たに加えられた。

EUでは、電化が難しいセクターにおける脱炭素エネルギー源として水素を重視しており、欧州委はロシアの化石燃料依存から脱却するための「RePower EU」において、域外からの水素の輸入量を抜本的に拡大するとした。水素に加え、前駆体材料の一部や鉄・鉄鋼製ねじやボルトなどを原料とした製品の一部も対象となった。

欧州委案の段階では、対象製品の生産時に排出される直接排出の温室効果ガスを適用対象としていたが、今回の合意では、対象製品の生産に使用される電気などの生産時に排出される間接排出も、特定の条件の下で適用対象となる。さらに欧州議会案に盛り込まれていた有機化学品などを今後対象範囲に含めるか、欧州委員会が26年までに検討するとした。

CBAMはEU域内の企業が規制の緩い他国に工場などの拠点を移して規制を逃れる「カーボンリーケージ」を防ぐべく、域内外の負担を同水準にそろえ、他国にも環境対策の強化を促すことを目的としている。23年10月から対EU輸出企業はその製品の排出量の報告義務を課せられ、26年にはEU排出量取引制度のクレジット価格に基づく課金が開始される。

EUはCOP27において温室効果ガス削減に関する野心的結果が出なかったことに不満を強めており、CBAMを通じて貿易相手国の政策強化を促したいところだが、世界初の炭素関税スキームは貿易摩擦を強める可能性がある。EUのような明示的炭素価格の導入が見込めない米国はCBAMへの警戒心を露わにしており、中国、インド、南アなどもWTO違反の可能性を指摘している。ウクライナ戦争によって分断が進む世界で対立を激化させる可能性もある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/2月17日】ウクライナ危機とドイツのエネルギー・経済安全保障


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

ドイツは、ウクライナ危機を契機に、エネルギーのロシア依存から脱却を図るとともに、エネルギー・経済安全保障政策を再考する必要に迫られている。本コラムでは、この問題について考えてみたい。

ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえて、世界最大の化学会社BASF社のCEOであるマルティン・ブルーダーミュラー氏は、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙のインタビューで、つぎのように述べている。「ロシアのガス供給がこれまで我々の産業の競争力の基礎になってきたのは事実だ。輸入停止は我々の繁栄を破壊する。この競争力のあるエネルギー供給は、ドイツの経済力にとって不可欠な基本的要素だ。」これは、ドイツを世界最強の経済大国であり、また輸出大国にした同国のビジネスモデルを明快に示している。ドイツでは、ロシアから輸入された安価なエネルギーを用いて、高度な技術をもつ国内産業で高付加価値の製品を生産し、世界中に販売することで、巨大な利益を獲得してきた。

また、ドイツは、メルケル前首相の時代に、急成長する中国市場に飛びついていった。ドイツにとって、中国は、重要な部品・原材料の供給国であると同時に、巨大な販売市場にもなった。中国の乗用車市場でドイツの自動車メーカー(フォルクスワーゲン、アウディ、BMW、ダイムラー)の占める販売割合は2020年時点で24.4%であり、これら4社が中国で生産した乗用車は合計480万台に上る。(また、2020年にドイツで生産された乗用車25万3,900台が中国に輸出されている。)さらに、急速に進むグローバリゼーションは、輸出国であるドイツに有利に働いた。以上のように、ドイツのビジネスモデルを構成したのは、ロシアの安価なエネルギー、中国の巨大市場、グローバリゼーション、そして強い国内産業であった。そしてこのビジネスモデルの帰結は、一方では巨大な貿易黒字、他方では極度の依存関係、特にロシアと中国への依存であった。

ドイツのこのようなビジネスモデルにほころびが出始めたのは、新型コロナウィルスの流行である。防護服やマスクが欠乏し、特定製品の内製化の必要性が叫ばれた。さらに、ロシアのウクライナ侵攻で、ドイツのビジネスモデルは崩壊したといえる。ドイツや他のヨーロッパ諸国は、ロシアからのエネルギー輸入をやめることを余儀なくされた。また、現在、中国への依存度が高すぎるという問題が改めて提起されている。中国はロシアサイドだからである。

多くの識者は、ウクライナ戦争は「グローバリゼーションの輝かしい30年の終わり」を意味すると考えている。そのため、ドイツは、これまで成功してきたビジネスモデルの代わりに何か新しいモデルを見つけなければならない。ドイチェヴェレのシニアエディターであるヘンリック・ベーメ氏は、「ドイツ経済は常に高い適応能力を発揮してきたが、今正に、これが求められている。ドイツにおけるエネルギー供給の再編は、経済のエコロジー的転換を加速させるまたとない機会を提供する」と述べている。経済・気候保護大臣ロベルト・ハーベック氏は、2022年4月6日、エネルギー戦略「イースターパッケージ」の発表で、「再生可能エネルギーは『最も重要な公共の利益』である」と述べている。計画通りであれば、2030年には、ドイツの電力供給は、総電力消費量に占める再エネの割合が少なくとも80%になる。ヘンリック・ベーメ氏は「これにより、ドイツの産業界は、再び安価なエネルギーで価値のある製品を製造し続けられる状態になり、そして、将来にわたってドイツの繁栄が確保される」と述べている。ドイツの新たなビジネスモデルが果たして成功するか注目されるところである。

ウクライナ危機で、ドイツでは、エネルギー転換を加速していくことは間違いないだろう。しかし、同国が中国依存から脱却し、新たな経済秩序の構築を目指すかは、現首相の姿勢から疑問が残る。ショルツ首相は、昨年11月4日に、ドイツの代表的企業の社長を率いて中国を訪問し、習近平国家主席と経済関係強化のための会談を行っている。また、今年1月18日には、世界経済フォーラム年次大会で演説し、世界に広がる脱グローバル化のリスクを指摘している。アンナレーナ・ベアボック外務大臣とロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣は、中国依存を大幅に見直すことに賛成だが、ショルツ首相はメルケル前首相のとった同じ道を歩もうとしているようにみえる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。