【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2023年2月号)


 【JERA・NEC/太陽光+蓄電池活用の電力市場取引実証】

JERAとNECは、需要家側の電力需要を制御するデマンドレスポンス(DR)などを活用した電力市場取引の実証事業を始めた。NECの我孫子実証センター内に設置された太陽光発電設備と蓄電池を利用して、JERAが日本卸電力取引所(JEPX)で取引を行い、事業性を検証する。NECの電力需要予測・太陽光発電予測技術とJERAの需要予測・市場価格予測技術を組み合わせることで、需給への貢献とJEPXからの収益最大化を図り、インバランスリスクの低減を目指す。分散電源の普及が進む中、電力系統網の安定化が難しくなる。同実証を通して、DR活用による需要家側の系統安定化への寄与や、電力市場に参画する事業者の収益性算定やシステム運用の課題解決を目指していく構えだ。

【IHI/インドネシアでメタネーションの事業化検討に着手】

IHIはインドネシアの国営石油ガス会社プルタミナと共同で、同国内でメタネーションの事業化に関する検討に着手した。稼働している既設の液化天然ガスプラント付近でe-メタン(合成メタン)を製造。インドネシアでの利用や輸出を目的に、製造から利用までのe-メタンバリューチェーンの構築を検討する。IHIは主に技術的な検討や事業性の

検討を担当し、プルタミナはプロジェクト候補地の選定を担当する。事業性を評価した後、2030年の商業化を目指す。IHIは22年、同国内でASEAN初となる事業用発電設備での燃料アンモニアの小規模混焼を実施している。今後もさまざまなカーボンソリューション技術を提供し、同国の脱炭素推進に貢献する。

【東北電力・秋田洋上風力発電ほか/能代港洋上風力が運転開始】

東北電力はこのほど、丸紅、大林組、関西電力など13社と共同出資した特別目的会社「秋田洋上風力発電(AOW)」を通じて、能代港洋上風力発電所(秋田県)の商業運転を始めた。能代港では、出力4200kWの着床式洋上風力が20基稼働している。同時にプロジェクトを進めている秋田港洋上風力発電所(出力4200kW×12基)は現在、試運転作業や法定検査を進めており、まもなく商業運転を開始する見込みだ。AOWではFITに基づき、今後20年間、両発電所の運転維持管理を行う。東北電力は、風力発電を主軸とした再生可能エネルギー全般について、200万kWの開発を目指しており、引き続き再エネ事業に積極的に取り組んでいく構えだ。

【愛知時計電機/高機能膜式マイコンメーターを発売】

愛知時計電機は、「都市ガス用高機能膜式マイコンメーターJO」を発売した。表示部が液晶になり、保安機能が働くと遮断・警告がアルファベットで分かりやすく表示される。また地震で遮断した場合、自動的に復帰漏えい確認を行い問題がなければ自動復帰。対応工数を削減できる。計測部は従来の膜式メーターのリユースが可能だ。通信機能は従来のAライン通信に加え、Uバス通信を搭載。遠隔検針や遠隔開閉栓が可能になり、業務効率化や保安の高度化が実現する。

【商船三井・九州電力ほか/LNG燃料フェリーが就航 ローリー4台で供給】

商船三井が発注し、フェリーさんふらわあが運航する国内初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」が、1月から営業航海を開始した。大阪~別府航路で就航し、原則として大分県別府港への寄港時に燃料の供給を受ける。LNGは九州電力のグループ会社、大分エル・エヌ・ジーからタンクローリーで出荷。国内で初めてスキッドと呼ばれる導管装置を用い、タンクローリー4台とフェリーを接続してTruck to Ship方式で同時に供給する。4台同時に接続することで、より短時間での供給が可能になった。

【三井住友建設/東京湾で浮体式太陽光 国内初の実用化目指す】

三井住友建設は、東京都が計画する「東京ベイeSGプロジェクト」の先行プロジェクトに「最先端再生可能エネルギー」として「洋上での浮体式太陽光発電」を提案し採択された。東京ベイeSGプロジェクトではベイエリアの未来を見据えたまちづくりを構想する。先行プロジェクトは東京湾の中央防波堤エリアで実施。同社は海の森水上競技場の指定水面で、洋上浮体式太陽光発電の実装に取り組む。海水域での実用化を目指した取り組みは国内初。同社は水上太陽光発電の普及・適用先拡大を進めていく構えだ。

【積水化学工業/フィルム型ペロブスカイトを東京都と共同研究】

積水化学工業は東京都と共同で、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の研究を開始した。2023年春から、大田区にある都下水局の森ケ崎水再生センターに設置し、発電量のモニタリングや腐食耐久性の確認などを行う。重量などの理由で設置場所が限られるシリコン系太陽電池に対し、軽量かつ柔軟な同製品は壁面や耐荷重の小さな屋根などにも設置可能だ。同社は25年の事業化に向け、技術実証と設置・施工方法の確立を進め、耐久性や発電効率の向上を目指す。

【エア・ウォーター/ボンベのキャップシール 業界初の環境対応】

北海道でLPガス販売を手掛けるエア・ウォーターグループは、LPガスボンベに使用するキャップシールを環境対応型に順次切り替える。このシールは異物の侵入を防ぐために充てん口をカバーするもので、従来はプラスチック製を使用していた。石油由来のプラスチック製に比べてCO2排出量を36%ほど削減し、プラスチックの使用量も50%削減する。

【住友電気工業ほか/送電可能量を測定 システム実証開始】

住友電気工業は11月、北海道電力ネットワークと共同で、再エネ電源導入拡大のため、架空線ダイナミックレーティングシステム導入に向けた実証を開始した。このシステムは、送電可能量に影響する送電線温度と電流値をリアルタイムで測定、動的計算する。システムの導入で、変動する送電可能量に応じた既存の電力系統運用が可能になると見込む。

【理研計器/2022年省エネ大賞受賞 検知器4台分を1台に】

理研計器のスマートタイプマルチガス検知器「GD-84D Series」は、2022年度省エネ大賞を受賞した。同製品は半導体工場向けマルチガス検知器だ。大幅コストダウン、高機能ポンプ、スマート自己診断機能、イーサネット(PoE)対応を特長としている。検知器4台分を1台に集約したことで、配管や消耗部品、設置スペースを削減。また、センサーの自己診断機能を強化し、主要毒性ガスセンサー18種類に加え、可燃性ガスセンサー67種類をラインアップ。同製品の導入で、安心・安全とコストダウンの両立が期待される。

【ヤンマー・パナソニック/分散型エネルギー事業で両社が協業】

ヤンマーエネルギーシステムとパナソニック空質空調社は、分散型エネルギー事業の開発・販売で協業していく。ヤンマーの「マイクロコージェネレーションシステム」で発電する際に発生する廃熱を、パナソニックの業務用空調機「吸収式冷凍機」で空調用途に活用する。また、吸収式冷凍機とマイクロコージェネシステムの連携に必要な専用コントローラーを、業界で初めてメーカーが自社製品仕様に最適化して共同開発した。それぞれの機器でシェアトップクラスの両社が環境経営の姿勢で共鳴し、2022年12月から開始した群馬県大泉町のパナソニックの工場内における実証試験の後、23年4月から受注を開始し、7月の出荷開始を目指していく。

左傾斜加速で経営ピンチ 「闇鍋」下回る東京の発信力


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 一線を越えた記事だと思う。

東京2022年12月30日「原発政策転換、国民の声を」「『60年超運転』など1月下旬まで意見公募」である。「政府は2022年末、原発の運転延長や建て替えの推進を決め、関連する基本方針などについて1月下旬まで意見公募を実施している。東京電力福島第一原発事故から12年を前にわずか5カ月の議論で原子力政策を大きく転換させた岸田文雄政権に対して、意見を突き付ける機会でもある」

意見を突き付ける、ときたか。穏やかではない。

政策決定の具体的内容や決定の理由についてはほとんど記述がない。政治的な扇動を目的とする文書をアジビラと呼ぶが、それと変わらない。こんな記事が掲載されるのはなぜか。同紙元論説委員の長谷川幸洋氏が12月26日配信のネット番組・闇鍋ジャーナル(仮)で内情を語っていた。

きっかけは東日本大震災だという。「原発をどうしようかって会議があった。私は、止めちゃうと経済にも影響があるんじゃないかと言ったが、『それはもういいんだ』と天から降りてきたみたいな感じで走ってみたら(反原子力の)集会の時、東京新聞素晴らしいと人気が出た。これで宝の山だ、掘りに行こうと加速がついた。左傾斜が急に激しくなった」

ただし、人気は長続きしていない様子で、最近会食した後輩に聞いた話として、「経営はピンチ。その人が言うには最近は(部数が)20万部台くらいで、私がいた頃で50万部以上あったけど、もう激減」。この日の配信の視聴回数は20万回超なので、東京の発信力は「闇鍋」と同じか、それを下回る計算だ。事実に基づく公正な報道を放棄した末路か。

朝日も震災後、東京と同じ路線を走る。12月29日「『核のごみ』処分場、町に分断15年、鹿児島・南大隅」は、得意の「分断」モノである。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場を巡り「南大隅町は15年ほど前から揺れ続けてきた。2007年、当時の町長が誘致を検討(中略)。町政は大混乱」とあり、現町長の「もう誰も町の過去を口にしない」との言葉が続く。

そこをわざわざ記者が訪ねて、「人口は約6500人。20年で4割減った」「いま、町の中心部には反対派の看板が一つ見えるだけ」と描写して「分断の傷痕は残る」と書く。朝日はこれまでも、処分場誘致を検討した地域に記者を派遣して「分断の傷痕」を探させている。結果は、毎度この調子で、何が傷痕か分からない。

そもそも、国でも自治体でも、何らかの政策、方針について全員の意見や考えが一致することなどあり得ない。だからこそ、分断が拡大して軋轢、諍いにならないよう冷静に話し合う。

最終処分場問題も長年の議論を経て論点は出尽くしている。国はそれを整理し、合理的な話し合いの手立てを提案すべきだろう。

朝日1月4日「『覚悟』の時代に、分断に向き合う」の政治学者・板橋拓巳氏インタビューは朝日らしくない。「分断したからといって、ただちに対立につながるわけではありません。相手の立場を尊重することが必要です。意見の違う相手はたたきつぶすという態度は有害」「メディアも、行きすぎた言論に対しては抑制的になるべきです。社会が分極化すると、メディアも政治家も極端な方向に走りがちですが、それをいかに自制できるかが課題です」

傾聴に値しよう。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

プラスチックによる海洋汚染 実効性のある国際協定を


【オピニオン】三島 勇/科学ジャーナリスト

 道路に捨てられたペットボトルを見ると、「バタフライエフェクト」という言葉が脳裏をよぎる。ボトルは側溝に落ち、川を流れ、海にたどり着く。ウミガメが飲み込んだり、砕けて海中、海底に落ち、プランクトンや貝が吸収したりする。その小さな生物を魚が食べる。魚を人が食べ、プラスチックを体内に取り込む。

大型海洋生物がプラスチックを誤食し死に至る。微小なプラスチックが、食卓にあがる魚介類や人の体内から見つかっている。人の胎盤からも検出されており、健康被害が懸念されている。

プラスチックは現代文明の利器だ。成型しやすく、軽く、安い。使い捨ての食品包装容器だけでなく、タイヤを含む自動車関連製品や、不織布マスク・ガウンなど医療製品にも幅広く利用されている。一方、プラスチックは推定で年間800万tが海に流れ、たまり続けている。

海はつながっている。日本で投棄されたペットボトルがアメリカや南極の海に流れ、外国で排出されたプラスチックが日本海域を漂っていてもおかしくない。

プラスチック汚染を抑制するキーワードは「削減」「除去」「循環」だ。削減と除去は、プラスチックそのものとそのごみの削減、それに海にあるごみを取り除くこと。循環は、プラスチックを再生して何度も使っていく「サーキュラー・エコノミー」(循環経済)といわれている。

いずれも簡単にできると思える。しかし、単純なことが簡単にできないという、地球温暖化防止策と同じ課題がある。

CO2などの温室効果ガスも、私たちが「豊かな」生活をしていく限り、大量に排出されて地球全体に広がり、蓄積されていく。工場やビル、住宅、自動車など、CO2の排出源は無数にある。しかしながら、防止の革新的な技術・方法は確立されていない。効果的な削減方法は、生活様式や生産活動を、根本的に見直し制限・転換する以外にない。

といっても、気候危機に直面しているにもかかわらず、排出規制の国際協定は不十分なままである。私たちは有効な防止手段を持てず、現状追認の世界観から抜け出せないでいる。

現代生活はプラスチック依存度が高い。プラスチックの原料(主に原油)や製品製造のメーカー、そこに投資するメガバンク、小売業者、消費者、行政などの利害が複雑に絡む。プラスチック汚染の有害性などの科学的知見も不足している。このため世界共通の規制を取れない。

だからといってプラスチック汚染防止の国際協定がなくていいはずはない。国連環境総会(UNEA)は2017年に専門家会合を設け、防止対策を模索し始めた。プラスチックの新規生産は毎年3億7000万tに上り、生産に伴うCO2の排出量も増えている。実効性のある国際協定の成立が遅れればそれだけ汚染防止・解消は困難になる。

地球温暖化問題は、国際協定締結で険しい道を歩み、「反面教師」となっている。海洋プラスチック汚染問題は杣道をたどってはならない。

みしま・いさむ 1984年早稲田大学卒、読売新聞社入社。社会部、科学部、調査研究本部などに所属。法務省関東地方更生保護委員会委員、東京大学大気海洋研究所特任研究員を経て2022年から現職。

ダムAI開発で水力発電量が増加 システム外部提供で地域課題解決へ


【北陸電力】

北陸電力はJFEエンジニアリングと共同で、「ダム最適運用システム」を開発した。

蓄積してきたデータとノウハウを用いて水力発電量を拡大し、カーボンニュートラル達成に寄与する。

 北陸電力の大きな強みである水力発電。全国の大手電力の水力発電比率は1割程度であるのに対し、北陸エリアの豊富な水資源を生かした同社では約3割を占める。

昨年4月には、北陸電力グループの黒部川電力が至近の水力発電所の新規開発案件の中では国内最大級の規模(2万8000kW)となる「新姫川第六発電所」を運開させた。このほか同グループでは、3カ所で新規開発を実施。グループ一体となって水力発電量の拡大を進めている。

脱炭素への関心の高まりから、水力発電の重要性は増す一方、新規開発は極めて難しい状況にある。というのも、すでに多くの場所で開発が進められており、適地が少なくなっているからだ。こうした中、北陸電力は水力発電量の拡大に向けた取り組みの一つとして「ダム最適運用システム」の運用を開始した。

ダム最適運用システムが導入された新猪谷ダム

33時間先の流入量を予測 計画的な人員配置も可能

ダム最適運用システムはAIを用いてダムへの水の流入量を予測し、ダム運用上のルールに則った上で、発電電力量が最大となるよう、ダム・発電所のゲート放流のタイミングを提案するものだ。

同システムは「流入量予測AI」と「ダム最適運用AI」の二つのAIで構成されている。流入量予測AIは、上流域の降雨実績と降雨予測からダムへ流れ込む水量を予測する。その結果を基に、ダムからゲート放流するか、発電使用するかの選択肢を提案するのが、ダム最適運用AIだ。

同システムの開発は、北陸電力とJFEエンジニアリングの共同で行われた。2022年10月から神通川水系に位置する五つのダムでの運用を開始。五つのダムは上流から順に浅井田ダム、新猪谷ダム、神一ダム、神二ダム、神三ダムで、合計で10の発電所が帰属する。同一水系で一貫したダム・発電所運用におけるAI操作支援は国内初の取り組みだ。

ダム最適運用システム導入前の5ダムの発電量は、降雨量による年ごとの変動はあるものの、13~14億kW時強だという。同システム導入後は水系全体で1%程度、年間では1500万kW時の発電量増加が可能となった。これは一般家庭約5400世帯の年間使用電力量に相当する。

これまでのダム・発電所の運用は、操作員の知識と経験に基づいてゲート放流などのタイミングを判断していた。システム導入後も、操作員が操作・判断をする点は同じだが、AIのサポートに基づいて行うので無駄な放流を削減できる。同システムの流入量予測は、精度が格段に向上しており、33時間先までの流入量も予測可能となっている。また、ダム放流に対応する人員の配置も、余裕をもって行うことができるようになった。

北陸電力およびJFEエンジニアリングは、23年からダム最適運用システムの販売を予定。さまざまな治水・利水ダムへの適用を想定しており、さらなる精度向上を目指してシステム改善に努めている。ダムを所有する官公庁や水力発電設備を持つ事業者が抱えている、豪雨などによる水害の未然防止や水資源の最大限の有効活用など、地域の課題解決にも貢献していく方針だ。

AIなどの新技術で実現 CN達成・事業領域拡大

ダム最適運用システムの導入は、カーボンニュートラル(CN)の実現に寄与する。

北陸電力は22年4月、CN達成に向けたロードマップ(21年4月策定)の目標を見直し、30年度にCO2排出量を13年度対比で50%以上削減する目標を新規に設定した。具体的には、13年度のCO2排出量1769万tに対し、30年度は約880万t以下に抑えるというもの。同システムの導入で水力発電量の増加が見込まれ、年間約6900tの排出量低減が可能となる。

また、再生可能エネルギー開発については、大幅な上方修正を行った。今回引き上げた目標は設備容量ベースで18年度の約200万kWから約5割増の約300万kW、発電電力量ベースで約70億kW時から約4割増の約100億kW時にする非常に大きなものだ。水力発電所の新設や老朽化施設のリプレース、既設設備の改修などに加え、AIを活用し水力発電量の増加を図る。さらに、北陸エリア以外や海外での案件にも参画し、再エネ開発を拡大し、CN達成を目指していくという。

「水力発電の運用効率を高めることは、自社の収益拡大につながるだけでなく、環境保全や治水の面でも寄与でき、とても意義深い。当社が開発したダム最適運用システムを導入いただくことで、ダム事業者や地域の課題の解決を図り、安定供給や脱炭素につなげていきたい」と、再生可能エネルギー部水力土木チーム統括の武田泰平課長は意気込む。

北陸電力グループはAIなどの新技術を組み合わせ、CNの達成に向けた取り組みを着実に進めるとともに、新たなサービスを提供し需要家や地域の課題解決へ貢献しながら、新たな事業領域の拡大を図っていく構えだ。

AIには蓄積してきたデータやノウハウが組み込まれている

【マーケット情報/2月10日】原油反発、需給逼迫感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急伸。供給減少の予測にともなう需給逼迫見通しで、価格が反発した。

トルコは、同国南東部およびシリア北部で6日に発生した震度7を超える地震を受け、緊急事態を宣言。ジェイハン港からの出荷が一部停止した。また、ロシアは、G7の価格上限への対抗として、3月に産油量を日量50万バレル削減する計画を公表。さらに、英石油メジャーBPの運営する一部洋上生産設備で、労働者ストライキが発生する見通し。これらにより、供給不足の懸念が強まった。

そんななか、米金融会社ゴールドマン・サックスは、今年の石油需要予測に上方修正を加えた。中国需要の回復が、他アジア・太平洋諸国、欧米における消費減少を上回るとの見方が背景にある。また、インドは、同国製油所の原油処理量を80%引き上げて、日量900万バレルにする計画を発表した。

一方で、米連邦準備理事会が金利を一段と引き上げるとの予想が根強い。加えて、米国の週間在庫は増加し、2021年6月中旬以来の最高を記録。国内生産は2020年4月以来の最高を記録した。ただ、油価に対する下方圧力にはならなかった。

【2月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=79.72ドル(前週比6.33ドル高)、ブレント先物(ICE)=86.39ドル(前週比6.45ドル高)、オマーン先物(DME)=83.64ドル(前週4.03ドル高)、ドバイ現物(Argus)=83.20ドル(前週比3.76ドル高)

「みなとみらい」の電力CN化へ 地域外からの再エネ調達を拡大


【地域エネルギー最前線】 神奈川県 横浜市

政府宣言に先駆け脱炭素目標を掲げた横浜市は、実現に向けて一歩ずつ計画を進めてきた。

従前から取り組む再エネ調達の広域連携を強化し、市内需要家との連携も深化している。

日本有数の港湾・商工業都市である横浜市。東京23区を除けば全国最大となる約370万の人口を抱え、現在も新たな再開発ラッシュを迎えている。そんな同市の温暖化政策が注目を集めたのは2018年、2050年までの脱炭素化「Zero Carbon Yokohama」を掲げた際のことだ。当時は政府が脱炭素実現の具体的時期に言及しておらず、菅義偉政権のカーボンニュートラル(CN)宣言や、その後の「ゼロカーボンシティ宣言」ブームが起きる1年以上前の出来事だった。

15地域との再エネ広域連携 ウィンウィンの仕組み目指す

ただ、地域内に閉じた対応での実現は極めて難しい。50年までに市のエネルギー消費量を半減させた上で、全て再生可能エネルギーに置換しようとしても、市のポテンシャルで賄えるのは10%程度だ。「再エネポテンシャルの大きい地域との連携は、横浜の脱炭素化において欠かせない」(市温暖化対策統括本部)との考えから、再エネ資源を豊富に有する自治体との連携による再エネ調達に着手。現在、東北、関東の15市町村と協定を締結し、民間事業者と連携しながら実証事業を実施し、事業強化に取り組んでいる。これまでに、連携先からの再エネ由来電気の利用を希望する横浜市内の86事業所に供給してきた。

具体的な実証事業の取り組みは、地域ビジネス創出を手掛ける「まち未来製作所」がコーディネーターとなり、広域連携先に立地する発電所との間で特定卸供給(系統を介して発電所を特定した電気を卸供給する仕組み)の契約を結び、FIT(固定価格買い取り制度)電気を調達。連携先には、地域活性化資金を還元し、活用方法を協議により決定する。

横浜市内需要家への供給を担う小売り電気事業者は、安価に供給できるよう入札で決定する。落札した事業者は、まち未来製作所からFIT電気を購入し、環境価値を証書で買い戻して需要家に供給する、という流れだ。しかし、昨年来の電力価格高騰の余波で、足元では新規契約獲得が厳しい状況にある。需要家にとって魅力的な再エネ調達手法として確立できるよう、電源の確保や地域活性化の手法など、スキームの再調整も含めて今後対策を検討する方針だ。

今やゼロカーボンシティを表明した自治体は800を超え、どこの自治体も何かしら脱炭素ビジョンを掲げる中、域内での地産地消を優先する場合も多くなっている。ただ横浜市のモデルは、連携先の地産地消を優先しつつ、余剰分を同市に供給するスキームだ。まち未来製作所が電気を分配する役割を果たすことで、地産地消も推進しながら再エネを最大限利用することができるという。地域活性化資金の創出、地産地消の推進にとどまらず、横浜市内での物産展開催など連携を深めながら、同市の脱炭素化を推進していく。

先行地域で民間と連携拡大 地域冷暖房のメリット生かす

そして、これまでの取り組みをベースにCN化をさらに加速させる市の計画が昨年、政府の「脱炭素先行地域」に認定された。都市型モデルとして、みなとみらい21地区にある64施設のうち32施設が参画する。

先行地域では、30年度までに民生部門の電力のCN化が共通ミッション。しかし、数年での実現が求められるため、自治体が取り組みやすいようにCN化の対象の大部分を公営施設とするケースが多い。一方、横浜市の場合、32施設の大半は民間施設で、年間消費電力量は3億kW時にもなる。市は、電力の切り替えや仕組みの紹介などの支援を行い民間施設とともにCNを目指している。「施設での対策を最終決定していただくのは所有企業になる。みなとみらい全体でCNに取り組むことで街の魅力向上、持続的な発展につながることを地域の皆さまと共有し、今後参画施設もさらに募り地域一体での脱炭素化を実現させたい」(同)と強調する。

民間施設の電力脱炭素化に本腰を入れる

供給面では、引き続き再エネ拡大に注力する。広域連携に加え、市や近隣地域での導入量の積み上げも欠かせない。市内でのPPA(電力購入契約)による太陽光設置を中心に検討を進めていく。

加えて重視するのが地域冷暖房の高効率化だ。みなとみらい21熱供給(DHC)が30年以上前に熱供給事業を開始。みなとみらい中央地区の施設は必ず熱供給を取り入れる方針で街づくりを進めており、現在は同社が約60施設に供給する。足元ではガスコージェネレーションの導入や、冷凍機など熱源の高効率化を進め、地域冷暖房のスケールメリットを生かした地域全体の低炭素化を図る。

さらにその脱炭素化も視野に入れる。「DHCによって熱源の低・脱炭素化が進めば、街全体のエネルギー転換も進む。需要家の要望も今後拡大するだろう」(同)。ただ、その場合の代替エネルギーをどうするかは大きな課題だ。メタネーション(合成メタン)など都市ガスのイノベーションへの期待値は大きい。

もう一点、省エネやエネルギーマネジメントの深掘りもポイントとなる。特に、対象施設でのデマンドレスポンス(DR)拡大を図るため、アグリゲーターを介して複数施設を束ねて調整力を創出し、24年スタートの容量市場に参画していく考えだ。容量市場には、全体の期待容量が1000kW以上の供給力を確保できれば参加できる。需要家に対してこうしたDRの経済面でのメリットを提示しつつ、需給ひっ迫時の貢献の見える化なども図り、民間企業をさらに巻き込んでいく考えだ。

再エネ広域連携を軸にしたみなとみらいモデルが奏功すれば、都市部と連携先、両者の脱炭素化という相乗効果が期待できる。足元ではエネルギー価格高騰を起因とした強い向かい風が吹くが、これを乗り越えられればその展望が開けそうだ。

三隅2号運開で今冬の供給力積み増し 非効率石炭火力フェードアウトに貢献


【中国電力】

中国電力の石炭火力・三隅発電所に、最新鋭で発電効率の高い2号機が新たに加わった。

全国的に厳しい需給予想の今冬を前に供給力を積み増すことができ、安定供給への貢献が期待される。

 島根県浜田市三隅町にある中国電力の三隅発電所2号機(石炭、100万kW)が2022年11月1日に営業運転を開始した。2号機の発電方式は最新鋭の超々臨界圧(USC)で、着工から丸4年かけて運転開始に至り、1号機(USC、100万kW)と併せた同発電所の出力は200万kWに達した。他社電源を含めて中国地方最大の発電所になり、同社の需要の3割を賄う電源だ。今冬、全国的に電力の需給ひっ迫が懸念され、経年火力も駆使しての供給力確保が至上命題となる中、最新鋭石炭火力という大きな戦力が加わった格好だ。

新設の石炭火力は貴重な存在だ

河本修一所長は、「建設工事にご理解いただいた地域の皆さま、そして工事従事者の方々のおかげで、予定通り三隅2号の運開を厳寒期に間に合わせることができた。当社として新規の火力発電所を運開するのは、大崎発電所以来22年ぶり。総出力が倍増した三隅発電所が安定供給の中核を担えるよう、所員一丸となって取り組んでいく」と意気込む。

経年火力削減を後押し バイオマス混焼率の拡大も

三隅発電所は1号機が1998年に運開し、当初はそこから間を置かずに2号機を建設する予定だった。しかし当時は原子力ルネサンスの真っただ中。その後、11年3月に東京電力福島第一の事故が発生し、一転して全国的な石炭火力計画ラッシュを迎える。同社も火力電源入札を行い、16年に自社応札での落札が決定。1号機運開から足かけ20年でようやく建設工事に着手した。

着工後もさまざまな苦労があり、中でもコロナ禍での対応は最大の難関となった。新型コロナウイルスの感染が急拡大した21年4~6月ごろには、2号機建設工事に1号機の定期点検も重なり、ピーク時には4000人ほどが構内で作業していた。関係者の間で感染が拡大し、濃厚接触者も含め待機を余儀なくされたため、作業が遅延する局面もあった。また、地元の医療体制に限界もある中、地域に迷惑をかけないよう最大限配慮。作業員には感染防止対策を徹底してきた。

さらに海外のロックダウンにより一部資材調達が遅延したが、工程を調整して工事を進め、無事予定通り運開できた。パリ協定発効以降に石炭火力新設が困難になったことを考えると、エネルギーセキュリティー上、多様な電源が必要な日本にとって、三隅2号は貴重な存在であると言える。

2号機のタービンと発電機

三隅2号の運開は、中国電力のカーボンニュートラル(CN)戦略の一翼を担っている。一つは、非効率石炭火力のフェードアウトへの貢献だ。三隅2号で自社電源が100万kWプラスになったことで、23~24年にかけて瀬戸内側の経年火力4基の廃止を進めていく。エネルギー政策の要請に沿い、火力の新陳代謝を図る形だ。

もう一つの視点が、木質バイオマスの混焼だ。三隅2号では22年秋から木質チップやペレットの混焼試験を開始しており、年平均で混焼率10%を目指す。100万kW級での10%混焼は、機器設計上、かなりチャレンジングな水準になるという。これらにより、年間約50万tのCO2排出量削減につながる計算だ。

さらに三隅2号は、炭種を拡大し調達先の多様化を図る観点から、瀝青炭より安価で低品位な亜瀝青炭の専焼を可能としている。また、22年はオーストラリアの石炭産出エリアでの水害や、インドネシアでの石炭輸出禁止措置など、産炭国側の供給支障リスクが発生。そして、豪州産一般炭価格が一時1t400ドル超となるなど、空前の高値を記録した。このように調達を巡る情勢が不安定さを増す中、炭種拡大はリスク低減対策として一層重要になっている。

地域共生の意識高く 世界に誇る技術発信へ

「発電所建設の申し入れから現在まで地域とのお付き合いは40年以上になった。これからも地域の方々に親しみを持ってもらえる発電所であり続けたい」と語る河本所長。人口6000人程度の三隅町に、中国地方最大の石炭火力が存在しているインパクトは大きい。地域にとって身近な発電所と受け止められるような取り組みを常に心掛けているという。

例えば、2号機工事に合わせてリニューアルしたPR館「ふれあいホール」は、建物内から発電所建屋の全景がきれいに見える。また、同発電所は粉じんの飛散防止を図るため、日本最大の石炭サイロを採用している。さらに、石炭とバイオマス貯蔵設備の横には、地域住民が利用できる公園を整備中だ。

「2号機建設は地域でも心待ちにされていたプロジェクト。加えて、途上国でのクリーンコール技術へのニーズは引き続き大きく、貴重な技術を世界に発信していくことも重要な使命だ。世界に誇る技術が三隅にはあると喜んでもらえるよう、今後とも発電所全体の運用最適化に向けた対応に努めていく」(河本所長)。1号機は運開から四半世紀を迎える。2号機と共同での運用は始まったばかりであり、まずは今冬、2基態勢で安定稼働を続けることが当面のミッションだ。

電力の安定供給が脅かされる中での貴重なベース電源である三隅発電所には、CN対応やクリーンコール技術を通じた世界全体のCO2削減への貢献など、今後も大きな役割が期待されている。

2号機運開までを振り返る河本所長

高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】関口博之 /経済ジャーナリスト

 まもなく春闘の賃金交渉が本格化する。消費者物価上昇率が4%台をつけ、40年ぶりの高騰となっている中で、例年以上に注目される春闘であることは間違いない。実質賃金も2022年11月は前年同月比3.8%減、8カ月連続の減少だ。「物価高に負けない賃上げ」が実現できるのかどうか。連合は春闘の基本方針でベア3%程度を含め、5%程度の賃上げ要求を掲げている。28年ぶりの高い水準だという。経営側も経団連が賃上げの検討を企業に求める意向を示している。サントリーホールディングスやキヤノンが早々にベアを含めた大幅賃上げを表明するなど、確かに気運は高まっている。それはそれとして期待したい。

例年以上に注目される春闘

一方、成長と分配の好循環を回すため「まずは企業が身を切ってでも賃上げを」「企業は貯め込んだ内部留保を賃上げに回せ」といった主張も、ここ数年繰り返しなされてきた。賃上げは重要だが、この論点は正直言ってしっくりこない。ましてや中小企業には通用しない理屈だ。

この国の雇用者の7割を抱える中小企業、そこでの賃金アップをどう考えるべきか。大企業との賃金格差縮小も究極の課題ではあるが、まずは現実解として賃上げの実現自体を目指すとすれば、その原資の確保が不可欠だ。原材料費をはじめ仕入れ価格の上昇が至るところで起きている中、その価格転嫁をできるようにすることがまず最低限の条件だ。大手企業側にこそ、下請けなどに対する取引価格の適正化が求められる。

さらに賃上げの原資は本来、生産性向上によって生み出されるべきものだが、効率を高める要素の一つになるのが、エネルギーコストの見直しだ。電力料金が2割、3割上がり、しかも高止まりがしばらく続くと覚悟せざるを得ない。一方では脱炭素化を進める中で、中小企業といえどもサプライチェーン全体としてCO2の排出量削減が避けられない命題だ。これを先取りして動くことは、コストの削減と両面で大きな意味を持つ。これまでの延長での節電・省エネのレベルではなく設備の更新投資も含め、抜本的な対策で「攻め」に出ることも考えてほしい。

そして生産性の向上に欠かせないのが、言うまでもなく人への投資。従業員への能力向上のため、再教育・リスキリングの必要性が唱えられている。成長分野への人材移動・転職などを想定して言われることも多いが、これを中小企業的に読み替えれば、一人ひとりが複数の仕事をこなせるようになる「マルチタスク化」や「多能工化」でも十分意義がある。

加えてこの際、中小企業こそ「子育て応援企業」を宣言してはどうだろう。育児休業を取りやすい環境づくり、休業中の在宅での資格取得、短時間勤務など働き方の選択肢の拡大、男性の育児参加の促進、残業の削減など、できるところから取り組んでみればいいだろう。従業員を大事にする姿勢は、優秀な人材の確保にもつながる。ベアとはいかずとも、春闘の機会にこんな一歩を踏み出す勇気を持ちたいと思う。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

福島事故で控訴を棄却 東電元トップに無罪判決


福島第一原発事故を巡り、強制起訴された東京電力の勝俣恒久元会長らの控訴審判決が1月18日にあった。東京高裁は一審の無罪判決を支持し控訴を棄却。二審でも無罪となった。

争点の一つになった巨大津波の予見性では、高裁は国が公表した地震予測「長期評価」について、①前書きに「誤差を含む」「利用に注意が必要」などの記載がある、②中央防災会議の報告などに入らなかった―などと指摘。長期評価の信頼性を否定している。

裁判後、原告側は「あれだけの事故を起こした企業の経営トップの刑事罰を問えないとは」と怒りをあらわにした。しかし争点が高度に技術的なことでありながら、原子力が専門の武黒一郎・武藤栄副社長はともかく、事務系の勝俣氏を刑事罰に問うことには違和感があった。事故当時社長ではなく、会長だった勝俣氏が刑事告発されたのは、「東電の顔と見られていたため」(関係者)といわれる。

もっとも、株主代表訴訟では勝俣氏をはじめ清水正孝社長(当時)の過失も認めている。13兆円の賠償額が、4人の肩に重くのしかかっている。

原子力政策は本当に転換するのか 具体策なき「惰性による復活」も


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 岸田内閣は、12月22日のGX実行会議で脱炭素社会の実現に向けた基本方針をまとめ、各メディアは原子力政策が大きく転換したように報じた。本当に原子力政策は変わるのだろうか。

東日本大震災で明らかになったのは、日本の原子力は適切な規制も、危機管理もできていなかったことだ。かつて資源エネルギー庁や科学技術庁で原子力政策に携わっていた私にとってもそれは一生の痛恨である。結果、国民の信頼を損ない、10年にわたる停滞を続けてきた。確かに独立規制機関として原子力規制委員会はできたが、そこで行われている規制は量的な面で厳重になっただけで、規制の質自体は大して変わっていない。今の規制体系のままでは、次世代革新炉のような新しい炉への適切な規制はできないだろうし、新増設や建て替えなどで地元の理解を得るのは困難だろう。

国民の理解を得られるか 虻蜂取らずの悲観的な将来

GX実行会議の基本方針では「地元の理解確保に向けて、国が前面に立った対応」を行うとあるが、これは従来言い続けている紋切型の表現である。国自身が行うべき具体的な政策は提示されていないのだ。「具体的には、『安全神話からの脱却』を不断に問い直し、規制の充足にとどまらない自主的な安全性向上……に取り組む」としているが、全く「具体的」ではない。おそらく実現するのは既存原発の運転期間延長くらいで、時間稼ぎにしかならない。

原子力にせよ、かつて私が携わったバイオにせよ、日本の最大の欠点は、革新的な技術を社会で利用する場合に、安全性などを担保するための科学的に合理的な規制や制度を作ることができないことにあると考える。そして、行政が国民にそうした規制の科学的意義を伝えて国民の受容を促すのではなく、国民はゼロリスクを求めて行政に全面的に依存することで、賛成・反対の不毛な二項対立を繰り返してきた。原子力では、こうしたことがこれ以上ないほど如実に表れたのだ。そんな日本の宿痾に対する認識は、GX実行会議の基本方針には微塵もない。

世論調査を見ると原子力に対する国民の意識は10年前からかなり変わってきてはいるが、今提示されている政策体系では具体的な原発立地などで国民の理解を得られることは難しいだろう。私は、この基本方針が政府の「政策の転換」だとは思わない。これまで失敗してきた政策の「惰性による復活」でしかない。その結果、今後日本は脱炭素化社会の実現のために原子力に依存しようとしながらそれも実現せず、新しい技術や産業も発展しないという、虻蜂取らずの悲観的な将来を描かざるを得ないのだ。

科学的思考を欠き、合理的根拠のない決断しかできない無能な政権が続く限り、日本の原子力が世界に冠たるものに復活することはなく、日本の停滞は止まらない。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

大規模金融緩和が終局へ 電力債の発行に暗雲も


昨年12月、日本銀行が発表した大規模金融緩和の〝サプライズ修正〟。市場は事実上の「利上げ」と受け取り、円安・株安に振れた。黒田東彦日銀総裁は「利上げではない」と大規模緩和の継続を誓うが、総裁任期は4月8日まで。2月10日に新正副総裁の人事案が公表予定で、「誰になっても異次元の金融緩和路線は修正されるだろう」(アジアエネルギー研究所・廣瀬和貞氏)

気掛かりなのは、大手電力会社が発行する社債への影響だ。社債は長期国債(10年債)利回りを基準に金利が決まるため、大規模緩和が行われた直近10年の調達環境は低金利で良好だった。特に電力債は市場に出回る国債の量が少なかったこともあり、国債に準じる債券として機能していた。

では〝黒田後〟の調達環境はどうなるのか。電力債の多くは長期固定金利のため、すぐに経営に影響を与えることはないが、起債時の金利は上がる。廣瀬氏は「利上げで円安が是正され燃料調達環境が好転しても、中長期的に見れば金利上昇の悪影響の方が大きい。いずれは経営を不安視され、売れ残る電力債もあるのではないか」と懸念する。大手電力会社の内憂外患は続く。

メタネーションって面白い! GXで変化する産業界


【業界紙の目】石井義庸/ガスエネルギー新聞 編集部長デスク

さまざまな産業分野で製造工程を大きく変更する脱炭素化技術の開発が進められている。

都市ガス業界が推進するメタネーションの歩みは、他の製造業のトランジション(移行)ともからみ面白い。

 「昔はガス工場から隣の製鉄所にベルトコンベアでコークスを売っていた。脱炭素化で製鉄工程が変われば、今度はe―メタンを売ることになるだろう」。大手ガスのベテラン社員が数年前、こう話していた。これには都市ガスがかつて行ったイノベーションと、鉄とガスがこれから行うGX(グリーントランスフォーメーション)が関わる。

日本でのガス事業開始は1872年、原料にLNGを使い始めたのは1969年のことで、約150年の中でLNGの歴史はわずか50年だ。長らく石炭からガスを作っていた。今も全国に200社近いガス事業者があり、その多くが中小企業だ。それらの相当数が自社工場で石炭を蒸し焼きしてガスとコークスを製造し、コークスは製鉄所などに販売していた。このイノベーションにより、ガス業界はコークスを販売しなくなった。

ガス業界のGX戦略の主軸はメタネーションだ。水素とCO2からメタンを合成するプロセスのことで、その合成メタンを天然ガスに含まれる化石燃料のメタンと区別するため「e―メタン」と呼ぶ。再生可能エネルギー電気由来の水素と、一度排出されたとカウント済みのCO2再利用により、e―メタン燃焼時の排出は再カウントしない。ガス業界は、LNGをe―メタンに置き換えることで、ガスのサプライチェーンのほとんどを現状のままとしながら都市ガスをカーボンニュートラル(CN)にする方針だ。

製造業全体の移行に貢献 多様な熱需要をグリーン化

一方、日本の製鉄業で主流の高炉は、石炭からつくるコークスを主な燃料・原料とし、鉄鉱石を高炉と転炉で還元・溶解している。海外で米国のように天然ガスを安く得られる地域では「直接還元炉」を用いて天然ガスで鉄鉱石を還元する。銑鉄を溶解・不純物を除去する後工程がないので、電気炉も必要だ。

鉄鋼業のGX戦略としては、高炉のままコークスの一部を水素やe―メタンなどに代替する方法や、水素直接還元、天然ガスと水素を混合して還元に使う「部分水素直接還元」などが検討されている。GXにより、ガス業界が原燃料としてe―メタンなどを供給し、何十年かぶりにガスと鉄鋼が接近する可能性があるのは興味深い。

鉄鋼以外の多くの製造業のトランジションにメタネーションが絡む点も面白い。日本ガス協会の「カーボンニュートラルチャレンジ2050」では、まず現状の天然ガスのまま産業用熱需要の都市ガス転換を進めることが第一段階。今すぐCO2を減らすことが、世界平均気温上昇を産業革命以前の1・5℃未満に抑える「1・5℃目標」達成に必要だからだ。次にガス原料をe―メタンなどに変え、CN化するシナリオだ。

水素ではなく、将来のガス原料をe―メタンとしたのには理由がある。水素のサプライチェーン構築や、供給・需要両方の設備の開発や普及が立ち上がるまで水素によるCO2削減はできず、天然ガス転換も需要家から避けられる可能性があり、CO2削減の歩みが止まる可能性があるからだ。

バーナーやボイラー、自家発電所の燃料に石油・石炭を使用している工場などはまだまだある。例えば、化学業界のうち石油化学やガラス製造では高温の熱需要があり、無機化学では多量の電気が必要になるため自家発電が多数ある。愛媛県新居浜市や宮崎県延岡市などでは、LNG基地新設により企業城下町全体を燃料転換するプロジェクトが進行中だ。

製紙業界では、もともと原料の木の中から繊維とエネルギーを取り出し、それを基にバージンパルプを作っている。1990年代から古紙利用が広がり、エネルギーを別途調達する必要があったため、製紙業界での石炭利用が広がった。ここに天然ガスへの転換需要の芽がある。

INPEX長岡鉱場に設置されたメタネーション実証設備

クレジット国際取引をけん引 地方ガス会社への期待も

メタネーションは、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づくクレジットの国際取引の初期事例になりそうで、その点も興味深い。例えば、22年11月の経済産業省「メタネーション推進官民協議会」では、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事が米国でメタネーションを行い、日本にe―メタンを輸入する計画を発表した。こうした輸入計画を通じてe―メタンを物理的に持ち込めたとして

も、それが元の排出国でカウント済みと確認できなければ、日本の削減量に貢献できない。そこでパリ協定6条2項の2国間による「協調的アプローチ」が使われる可能性が高い。

一方、メタネーションを国内で実施し利用する事例が出てくるかも注目される。今具体的に検討されているのは、国内の工場などで排出されるCO2の循環利用だ。先述の官民協議会では、アイシン、デンソー、東邦ガスが中部圏に集積する工場でメタネーションによるCO2循環利用に関するケーススタディーを発表している。

再エネは都市部よりも地方に適地が多いため、余剰電力の活用方策としてe―メタンを都市ガス原料とするケースもあり得る。今、多くの地方ガス会社は地方自治体などと組んで地域新電力を立ち上げ、再エネを含めた地産地消電力を具体化している。地産地消電力の電源にもなる下水処理場やごみ発電など、CO2発生源は地方でも豊富だ。実際にごみ発電からCO2を回収してメタネーションに利用する実証試験は、神奈川県小田原市や佐賀市で進行中だ。エネルギー地産地消の試みの将来発展系として、メタネーションが浮上する可能性もある。

10年ほど前、地方ガスのベテラン社員が「昔はうちにも石炭からガスを製造する工場があって、化学に強い技術系の社員がいた。今はパイプラインで大手ガス会社からガスを受けるだけで、自前の技術、ノウハウの層が薄くなり寂しい」と話すのを聞いた。私はこの言葉を思い出しながら、メタネーションにより、地方ガスの工場で再び都市ガス原料をつくるようになる、ということを夢想する。

〈ガスエネルギー新聞〉〇1959年創刊〇購読者数:3万1000部〇読者層:都市ガス事業者、関連メーカー、官公庁など

撮影装置でコンクリート劣化診断 鉄塔基礎点検の負担を軽減


【四国電力送配電】

撮影装置を使い鉄塔の基礎コンクリートの劣化を診断する技術が開発された。

低コストかつ負担軽減の新手法は、開発チームの創意工夫が凝らされている。

四国電力送配電、四国総合研究所、テクノ・サクセスは、鉄塔コンクリート基礎診断にかかる負担を軽減し、手軽に点検できる撮影装置を開発した。従来のような大規模土木工事を伴わず、大幅なコスト削減も実現。この技術は「小口径空洞内撮影装置を用いたコンクリート基礎の劣化診断手法の開発」として、各方面から高い評価を得ている。

鉄塔の基礎部分は通常のコンクリート構造物と同様、コンクリート内のアルカリ成分と骨材中の成分がアルカリシリカ反応(ASR)を起こし、吸水膨張性を持つことでひび割れが発生する。その他にもアルカリ成分と二酸化炭素の反応による中性化、塩害による鉄筋腐食など、さまざまな劣化要因が挙げられる。あらゆる劣化要因に対するコンクリート基礎の状態把握は、設備保守の観点からも重要な要素となっている。

通常の点検では、地上の基礎表面部分からひび割れの進行具合を確認し、場合によっては土砂を掘削して基礎の一部を採取するなどの手法が取られている。しかし土砂掘削による調査では、地山崩壊防止のための大掛かりな土木工事が必要となる。また、一般的な圧縮強度確認のためのコンクリートコア(コア直径10㎝)を採取する場合、鉄塔基礎体に大きな影響を与えかねないなどコスト面、安全面に課題があった。

この問題を解決するため、四国電力送配電では2016年から鉄塔コンクリート劣化診断方法の見直しに着手した。高いボーリング技術を持つ地元企業と連携し、幅約50㎝の地上基礎部分から、コアの直径2・5㎝を、深さ5~7mほどくり抜く手法を取った。しかし、小口径のコアは採取の際に割れやすく、劣化が原因か採取時の破損か判断しにくいという欠点がある。

それを補うのが今回開発した「小口径空洞内撮影装置」だ。前面用と側面用の小型カメラ2台で穴の内部を撮影することで、コアの断面と合わせてひび割れや損傷、腐食による劣化の有無を確認することができる。

壁面を撮影する小口径空洞内撮影装置

装置開発に携わった四国電力送配電送変電部送電グループの藤川真人さんは「従来の技術に比べて、コンクリート基礎への負担が少ない。カメラ映像では0・1mmのひび割れも確認が可能だ」と話す。17年から実際に運用を開始し、現在まで33基の鉄塔基礎の検査に活用している。

創意工夫で編み出した装置 現在も改良を重ねて運用

この撮影装置は特別な機材を使っておらず、四国電力送配電と四国電力グループの四国総合研究所、テクノ・サクセスが協力し、創意工夫で編み出したという点が特徴だ。「カメラは家電量販店のものを使用している。2台のカメラで側面を撮影できるように鏡を内部に取り付けているが、鏡も歯科用ミラーを流用した」(藤川さん)。カメラを束ねるフレームについても、当初はプラスチックなどを代用し試行錯誤を重ね、最終的には軽量で耐久性の高い金属製フレームを使用した。

こうして運用にこぎ着けたが、実際に撮影したところ、掘削時の粉塵や泥水で視界が阻害されるというトラブルに見舞われた。注水して壁面を掃除しても水滴がライトに反射してしまい、撮影時に壁面が鮮明に映らなかったという。「本来なら乾燥させたかったが、孔内は通気が悪く水滴を取るまでに1日単位の手間がかかる」と藤川さんは当時の苦労を語る。

しかしここで「水滴が邪魔なら、水中で撮影してはどうか」と逆転の発想が生まれる。装置に注水する機能を取り付け撮影したところ、より鮮明な映像が撮影できるようになった。映像はパソコンに取り込みパノラマ写真に加工することで、ひび割れの範囲と位置を把握。これにより、発見が難しいとされたコンクリート基礎深部のひび割れを検知できた。

現在は改良を加え、撮影装置にモーターを設置、糸巻きの要領でカメラを等速で引き上げる手法を取っている。人力での引き上げによる速度のムラを抑え、パノラマ画像の合成精度の向上を狙っているという。

撮影装置を使った点検作業

メンテ部門で高い評価 鉄塔設備の早期改修に貢献

これらの技術開発が高い評価を受け、21年12月にインフラメンテナンスの優れた取り組みや技術開発を表彰する、第5回インフラメンテナンス大賞経済産業省部門の優秀賞を受賞した。藤川さんは「光栄なこと。これをきっかけに広くこの技術を紹介していただければ」と話す。

藤川さんは現在、診断結果を蓄積してASRによる基礎地上部のひび割れ状況と基礎構造物の耐力との関連性の評価検討に取り組んでいる。「データを集めていけば、ひび割れを確認することで基礎コンクリート深部の劣化状態を評価する技術につながる」。実現すれば、劣化診断調査の効率的な運用が見込めるという。

四国電力送配電は山の斜面や海岸に近い立地に鉄塔が多い関係上、鉄塔基礎部分の劣化問題に熱心に取り組んできた。今回の診断技術は劣化設備の適切な改修に貢献し、さらなる点検の効率化に寄与すると期待されている。このノウハウを蓄積し、将来的には基礎部分表面のひび割れから内部の劣化状況を推定できる技術開発を目指す。四国電力送配電の創意工夫はこれからも続いていく。

顧客情報管理問題の深刻度 浮上する資本分離の懸念


中部、関西、中国、九州の大手電力4社によるカルテル問題で大揺れの電力業界に、さらなる激震が走った。関西、東北、九州3社で送配電子会社が持つ競合他社の顧客情報を不正に閲覧した問題が発覚。経済産業省・電力ガス取引監視等委員会が調査に乗り出す事態となった。

一部では営業部門が顧客情報を活用していた疑いも浮上。大手電力会社から送配電部門を法的分離し情報を遮断する「行為規制」が機能していなかった実態が浮かび上がっている。「小売り全面自由化後、送配電会社の情報が本社の営業部門に漏れているのではとの疑惑が出てきたため、電取委に相談を持ち掛けていた。今回の騒動はようやくかといった感じだ」。新電力関係者はこう話す。

また大手電力の幹部は「不正閲覧はある意味、電力カルテルよりも深刻だ。行為規制では不十分と結論付けられたら、抜本対策として資本分離の議論に発展しかねない」と指摘する。卸電力取引の内外無差別問題を公正取引委員会が調査する中で発覚した、送配電の中立性問題。公正競争の在り方が改めて問われそうだ。

熟議なき「原発復権」 数々の疑問に向き合え


【論説室の窓】五郎丸 健一/朝日新聞 論説委員

政権が原発の「復権」にかじを切った。だが、数々の課題が置き去りで、見切り発車の色が濃い。
政策を安定的に進めるには、解決の道筋を示し、社会の理解と合意を得る手順が欠かせない。

 昨年末、政府が「GX実現に向けた基本方針」をまとめた。原発の積極活用策が柱で、再稼働の加速に加え、60年超運転を可能にするルール変更と、新型炉の開発・建設推進が盛り込まれた。

福島第一原発事故の教訓から、エネルギー基本計画は「可能な限り原発依存度を低減」とうたってきたが、新方針は「最大限活用」を明記した。古い原発の運転延長や建て替えが実現すれば、一定の依存が固定化することになる。

安倍政権と菅政権が再稼働推進にとどめてきたことを考えれば、重大な政策転換といえる。経済産業省の幹部は「3・11以降、原発政策を前に進めようといろいろやってきたが、今回は階段を大きく上ることができた」と評する。

風向きを変えたのは、ロシアのウクライナ侵略で深まった世界的なエネルギー危機だ。新方針も原発を積極活用する理由として、気候変動に加え、足元の電力供給不安を強調する。二つの危機への対処が重要なのは当然だが、今回の政策論議では、問題のすり替えや優先順位のずれ、対応の先送りが目についた。新方針が最適解なのか、はなはだ疑問だ。

示された方策と現実の課題は、時間軸がかみ合っていない。原発の再稼働には必要な手順があり、目先の供給力の上積みや二酸化炭素の排出抑制の面で、大きな効果は見込めない。一方、60年超運転や新型炉建設は不透明な要素が多く、実現したとしても効果が表れるのは十数年以上先だ。

「原発積極活用論」は、原発の稼働が安定供給や脱炭素化に直結するとの見方を前提としているが、推進派以外の専門家からは異論も聞かれる。「ベースロード電源である原発の稼働が増えると、火力発電の稼働率が下がり、休廃止がさらに進む可能性もある」「電力会社が経営資源を原発に割けば、再生可能エネルギーへの投資は停滞する」といった指摘だ。

年末のGX実行会議で発言する岸田首相

原発に集中した議論 尽きない方策への疑問

安定供給と脱炭素化の両立は、市場制度改革や再エネ拡大、脱炭素技術の普及など、さまざまな手立てで進める必要があるが、議論は原発推進に集中した。経産省の審議会でも、橘川武郎委員(国際大副学長)が「この国はエネルギー基本計画で再エネの主力電源化を決めた。電力不足になったら、まず再エネをどうするかを話すのが普通だと思うが、ここでは少数。原子力の話から入るのは違和感がある」と指摘したが、黙殺された。

方策自体への疑問も尽きない。

運転延長は、事故の教訓を踏まえ、老朽原発のリスクを減らすために与野党の合意で導入したルールを約10年で変えることを意味する。原子力規制委員会が60年超の安全性を審査する方法の検討はこれからだ。規制委が議論を始める前から、水面下でルール変更の検討が経産省主導で進んでいたことも発覚した。「推進と規制の分離」や「安全最優先」が貫かれるのか、疑念を持たれている。

新型炉建設では、経済性や事業リスクが不安視されている。欧米では近年、建設費が膨らむ例が相次ぐ。政府は電力業界の求めに応じて経済支援策を検討中だが、ある大手電力の社外取締役は「原発支援の国民負担に理解を得るには、運営体制を公共性の高い形に再編することが必須では」と話す。

根源的な課題でも、説得力のある答えは依然示されていない。使用済み核燃料や放射性廃棄物が増え続けるが、核燃料サイクルや最終処分の問題を解決できるのか。事故時に安全に避難できるか。新方針は取り組み強化をうたうだけで、具体性に乏しい。

本来、政策を転換するのであれば、必要性や効果はもちろん、コストやリスク、課題の解決策、ほかの選択肢との比較など、多角的な検討が必要なはずだが、なおざりにされた。つまるところ、エネルギー供給への不安心理が広がる状況を原発復権の好機と考え、「結論ありき」で一気呵成に進めたというのが、実情ではないか。

黙殺された審議会での意見 目につく硬直性・無責任

実は筆者は昨年11月、経産省の審議会のヒアリングに呼ばれ、意見を述べる機会があった。原発政策への疑問を指摘し、「積極推進にかじを切るなら、諸課題を解決する具体的な道筋も示す責務がある。日程・結論ありきを排し、熟議を尽くすことが肝要だ」と訴えた。しかし、その後の質疑でほとんど言及はなかった。

その一カ月後、政府がまとめた新方針には、8月の議論開始時に経産省が検討項目として示したものが、「予定調和」のように並んだ。拙速との批判も相次いだが、西村康稔経産相は「非常に慎重な方々のヒアリングもやった」とかわす。やはり、異論に耳を傾け、丁寧に議論を進めたという形を整えるための「アリバイづくり」だった、と思わざるを得ない。

原発政策には、課題に背を向け、ひたすら推進の旗を振る硬直性や無責任が目につく。そのことは福島の惨事につながり、深刻な原発不信を広げた。多くの人にとって事故の記憶が薄れているのは確かだろうが、政策への信頼や理解が十分回復したとも思えない。

政策の質と信頼性を高める土台は、疑問に向き合い、多様な意見を吸い上げながら中身を練る姿勢だが、それにはほど遠い。昨年7月の参院選で政権は原発活用策を明示せず、選挙後になって検討を急いだ。こんな進め方では、政策は民意の支えを欠き、不安定さを抱えたままではないか。

今回の過程から見えるのは、推進官庁が審議会でお墨付きを得つつ、水面下で首相官邸や与党と調整して政策をまとめる手法の限界と弊害だ。本来なら、原発推進論者ばかりでなく、幅広い分野の識者や国民各層の代表も入る場で、熟議を重ねることが必要だった。

この先、議論の主舞台は国会に移る。野党の中には、エネルギー政策を省庁任せにせず、国会に独立機関を設け、検証や提言の機能を持たせることを目指す議員立法の動きもある。政策転換の中身はもちろん、立案や合意形成のあり方についても、将来への責任を意識した真剣な論戦が望まれる。