カザフスタンの石油輸出 トラブルの背後にロシアの圧力


【ワールドワイド/資源】

中央アジアの資源大国カザフスタンは世界の石油の約2%を生産する。輸出される石油の大部分はロシアを経由して出荷され、その最大経路がCPCパイプラインだ。CPCパイプラインは、ロシア、カザフスタンの政府系企業と共にシェブロン、エクソン、シェルなど欧米メジャーがコンソーシアムに名を連ね、2001年の運転開始以来20年間、大きなトラブルなくカザフスタンの石油輸出を支えてきた。だが今年の春以降、同パイプラインは度重なる試練に見舞われている。

最初の試練は3月下旬、ロシアの黒海沿岸にあるパイプラインの終点で起きた。黒海で発生した嵐の影響で海上の出荷装置が故障し、復旧するまでの約2カ月間、出荷能力の一部が削がれた。続いて6月末には、出荷装置周辺で第二次大戦時の機雷が発見されたと発表され、爆破処理を行うため数日間、出荷量が制限された。さらに7月に入ると、ロシアの地元裁判所が1カ月間のパイプライン操業停止命令を下す。これはロシアの輸送分野当局がCPCパイプラインの環境保護対策に関する「書類上の不備」を指摘して裁判所に操業停止判決を要請したことによるものだった。コンソーシアム側はこの命令に猶予を設けるよう申し立て、その結果命令は覆されて、結局20万ルーブル(50万円程度)の罰金という判決に変更された。

そして4回目の試練は8月に発生した。今度も海上の出荷装置に損傷が発見されたとして、3基ある出荷装置のうち2基が使用不能となった。ロシアに対して厳しい制裁が科される中で、故障した部品交換の作業手配が難航することも懸念されたが、10月初旬の時点では10月中には復旧作業が完了し、通常操業に戻る見込みとなっている。4回目の試練もどうにか出口が見えている。

CPCの相次ぐ受難の背後にはロシアからの圧力があるという見方もある。特に裁判所の操業停止命令と撤回という3回目の試練を見ると政治的背景を疑いたくなる。欧米を中心にロシア産石油の取引が縮小する中で、カザフスタン産石油の流通に支障をきたして市場にひっ迫感を煽り、価格を吊り上げようというロシアの狙いも想像できるし、西側とロシアの間で揺れるカザフスタンに対してパイプラインをてこに「ロシア離れ」に警告を発しているとも捉えられる。

カザフスタンはロシアを経由しない石油輸出経路を模索し始めている。微妙な対露関係を保ちながら、自国の利益を守ろうとするカザフスタン外交から目が離せない。

(四津 啓/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

朝鮮日報に「特ダネ」提供? 東京の非科学的トリチウム報道


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

靖国参拝報道を思い出した。9月28日NHK「韓国がIAEAで懸念示す、福島第一原発の処理水、海洋放出方針で」である。政治家の靖国参拝は「韓国や中国が反発」と報じられる。似ている。

記事は「東京電力福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を海に放出する方針をめぐってIAEA(国際原子力機関)の年次総会で韓国代表が『汚染水が海に放出される』と懸念を表明」と伝える。中国も「計画は安全性が確保されていないと批判」とある。

日本側は「放出する方針なのは、韓国の言う『汚染水』ではなく、基準を下回る濃度に薄めた処理水」と説明したという。

映像を見ると会場は閑散。関心が高いとは言い難い。そもそもIAEA自身が科学的見解を表明済みで、「日本の放出方針は技術的に実現可能で国際慣行にも合致する」とサイトにある。年次総会ではさらに、IAEAが独自に放出前の水質を確認する、と重層的な対応も約束している。

印象操作が狙いか。「濃度を薄めた処理水」の一節もそう疑わせる。政府や東電はずっと「放出されるのは、トリチウム以外の放射性物質を徹底的に取り除き、大幅に薄めた処理水」と説明しているが、「取り除く」に触れない。

同日共同「『汚染水』か『処理水』か、中韓と日本の応酬に、IAEA総会」も同様だ。「韓国は放出による『未確認の影響』への懸念があると訴えた。中国は日本側が事実を隠そうとしていると主張した」と伝える。ただ、こちらは「国内外の原子力施設でも、トリチウムを含む水は規制に従って海に放出されている」と、少し公正だ。復興庁の資料では、韓国の古里原発から海洋放出される処理水のトリチウム量は、日本が計画する放出量の4倍にのぼる。それに言及すれば、なお良かった。

科学的、合理的に理解に苦しむのは、10月3日東京一面「東電、処理水安全アピール実演、トリチウム検知できない線量計、セシウム高濃度でないと無反応、『印象操作』批判免れず」だ。

「東京電力が福島第一原発の視察者に、放射性物質のトリチウムが検知できないうえ、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い処理水の安全性を強調する宣伝を繰り返している」との内容だが、東電の反論文を見ると、実態はかなり違う。

実演は、「浄化処理でセシウム137などのガンマ線核種等の62核種が十分に低減したこと」を示す目的。さらに視察者には、「処理できないベータ核種のトリチウムは残るがベータ線は紙1枚で遮られるほど弱く、現場で示すのは難しい」と説明しているという。

問題の記事には、化学者らのコメントとして、「(トリチウムは)ベータ線測定器を当てても、もっと濃度が濃くないと反応は出ない」「ガンマ線はセシウムだと1リットル当たり数千ベクレル入っていなければ線量計は反応しない」とある。つまり、サンプル中の放射性物質濃度は確実に下がっている。東電の言う通り、浄化処理に効果あり。それだけだ。

困るのは、この記事をネタに隣国の朝鮮日報が4日、「東京電力、でたらめ線量計で福島汚染水の安全性を誇張か」と報じていることだ。東京の記事は、風評被害の拡大に加担していないか。

防衛策が必要だ。取材時には現場映像を撮って残す。事実と違う報道には、直ちに映像を公表して反論する。残念だが…。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年11月号)


北海道電力・IHI/苫東厚真4号機のボイラー燃焼調整にAI活用

 北海道電力とIHIは、AIによるボイラー燃焼調整最適化支援システムを共同開発した。IHI製のボイラーを導入している苫東厚真発電所4号機(出力70万kW、石炭燃料)で運用を始めている。ボイラーのリアルタイムの運転データと最適な燃焼状態のモデルデータとの差異をAIが自動解析し、燃焼調整に最適な設定を発電所の運転員に通知する仕組みだ。北海道電力が最適な燃焼状態のモデルとなる運転データを取り、IHIがこのデータに基づくシステムを構築した。システムの導入で、ボイラー効率の経時的な低下を抑制し、ボイラー関連機器の運転コストの低減ができる。また、ボイラー内で局所的に高温になる状況を回避し、ボイラーの寿命消費の低減につながる。

九州電力/スマートメーター活用で入居者見守り

九州電力は、9月から不動産会社向けの新サービス「Q-ieまもり」の提供を開始した。スマートメーターで計量された30分単位の電力使用量データを、独自の技術で解析。賃貸物件で一人暮らしをしている入居者の活動状況に変化があった場合、あらかじめ登録した親類などに通知する。同サービスは、明和不動産と明和不動産管理の2社と共同で約1年間の実証実験を行い、明和不動産管理が管理する賃貸物件に導入される。九州電力は高齢化の進行に伴う、孤立死による賃貸物件の価値低下や、高齢者の入居受け入れ拒否などの社会課題に対し、同サービスを通じて、一人暮らしの入居者が安心して賃貸物件で生活できる環境づくりに努める方針だ。

SBエナジー/再エネ向けVPPプラットフォームを開始

ソフトバンクグループの子会社で、自然エネルギー事業などを行う SB エナジーは8月、総合バーチャルパワープラント(VPP)プラットフォームサービス「ReEra®(リエラ)」を提供開始すると発表した。ReEraは、同社が2016年度から取り組んできたVPP構築実証事業で培ったノウハウを生かすサービスだ。蓄電設備や需要家側エネルギーリソースを統合制御してデマンドレスポンスを提供する需要家側アグリゲーターと、フィード・イン・プレミアム制度の下、再エネ設備や蓄電池などを統合制御し発電インバランスの低減や各種電力市場での最適取引などを行う再エネアグリゲーターが双方向で利用できる機能群をSaaS形式で提供する。

伊藤忠商事・伊藤忠エネクスほか/トラック対応の水素ステーションに参画

伊藤忠商事と伊藤忠エネクスは、日本エア・リキードが福島県内に建設する水素ステーション運営事業に参画する。このステーションは、年中無休で運用するトラック対応型としては日本初のもので、2024年にオープンする予定だ。福島県の中通り地域の中部に位置し、東北の玄関口にあたる場所だ。3社は水素バリューチェーンの構築に向けて取り組むこととしており、今後、トラック利用が見込まれる幹線道路沿いで、ステーション建設の検討を続けていく。

荏原冷熱システム/低GWP冷媒を採用 水冷チラーを発売

地球温暖化係数(GWP)の低冷媒に対応する新製品「水冷スクリューチラー モジュラッチ RHSKW型」の発売を開始。従来型の技術をベースに開発したもので、従来型の特長を踏襲した。モジュールタイプのコンパクト設計で、搬出入が容易なため、更新需要にも最適な冷凍機だ。フロン排出抑制法の適用を受けないため、管理の省略化も可能。温暖化防止に向け、冷凍空調機器に使用されているHFC冷媒をGWPの低い、新しい冷媒に転換することが求められており、低GWP冷媒であるR-1234yf(HFO-1234yf)を採用した。

サイサン/ラオスにLPガス充填所 豊かな生活を支援

Gas Oneグループのガスワンラオス社は9月、ラオスの首都ビエンチャンでLPガス充填所開所式を行った。同社はサイサンが2019年4月にラオスで設立したLPガス事業会社。今回完成した充填所は、ラオスでのさらなる事業拡大を目指して建設された。サイセタ特別経済開発工業団地に位置し、50tのLPガス貯槽1基、バルクローリー用充填施設、シリンダー充填棟で構成されている。サイサンは9カ国10拠点で海外事業を展開。国内外で、より豊かで便利な生活様式の一助となる事業を展開していく構えだ。

大阪ガス/エネルギー業界初のアバターでのオンライン相談

大阪ガスとアバター事業を手掛けるAVITAは、オペレーターの表情や動きをリアルタイムに反映するアバターを共同開発した。9月からアバターを活用して、ガス機器やリフォームなどに関するオンライン相談を実施する。今回開発したアバターは、人間そっくりの「デジタルヒューマン」と、アニメのような「キャラクター」の2種類があり、いずれもオペレーターの表情や身体の動きをリアルタイムかつ細やかにアバターに反映することが可能。アバターは簡易的な仕組みでどこからでも簡単に表現力豊かに動かせることが最大の特徴だ。エネルギー業界で、リアルタイムで動作可能なデジタルヒューマンを実用化した事例はこれまでなく、先進的な取り組みとなる。

大林組・岩谷産業/液化水素の冷熱を建物に利用する実証開始

大林組と岩谷産業は共同で、建物の空調エネルギーなどに液化水素冷熱を利用する実証を開始する。日本初の取り組みで、岩谷の中央研究所・岩谷水素技術研究所で行う。マイナス253℃で液化している液化水素は、利用する際に主に気化器を使って常温のガスに戻す。マイナス253℃の冷熱は、現在は大気中に放散している。この冷熱を無駄なく利用する技術開発は、設備機器などの冷却に必要なエネルギー削減を通じ、脱炭素社会の実現を後押しする重要な取り組みになる。

清水建設/世界最大級のSEP船 石狩湾で洋上風力

清水建設は日鉄エンジニアリングとの共同体で、国内最大規模となる「石狩湾新港洋上風力発電施設」の洋上での建設工事を始めた。同社の世界最大級のSEP船を活用し工期を短縮する。場所は新港から約1600m沖合で石狩市と小樽市にまたがる約500haの海域。発電容量は8000kWの風車14基で11万2000kW。2023年12月の商用運転開始を目指す。

商船三井/LNGバンカリング事業 苫小牧で「いしん」起用

商船三井は9月、苫小牧港管理組合と石油資源開発が北海道苫小牧港で実施したLNGバンカリングトライアルに協力した。このトライアルは、同社グループの日本栄船が運航するLNG燃料タグボート「いしん」を起用。海事コンサルティングはMOLマリン&エンジニアリング(同社グループ)が行った。「いしん」のLNGバンカリングトライアルは国内3例目。

三菱重工/最新鋭ガスタービン 実稼働8000時間突破

三菱重工業はこのほど、タイ最大の独立系発電事業者であるガルフ・エナジー・デベロップメント社と三井物産の合弁事業会社が運営する天然ガス焚きガスタービンコンバインドサイクル発電所に納入したM701JAC形ガスタービン(50Hz対応モデル)で、実稼働時間8000時間の達成を実現したと発表した。2018年には、60Hz対応モデルのM501JAC形で8000時間の実運転を突破。50Hz地域と60Hz地域の両市場において、最新強制空冷方式のJAC形が、業界内で信頼性の証明とされている指標を打ち立てたといえる。

【マーケット情報/11月11日】原油下落、需要後退の見通しが背景


【アーガスメディア=週刊原油概況】

主要指標は軒並み下落。経済減速を背景とした、石油需要減少の見通しが重荷となった。

中国では、新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、一部地域でのロックダウンが継続。規制はある程度緩和されたものの、経済の停滞や移動制限にともなう石油需要後退の懸念が根強い。加えて、同国では、民間製油所を対象とした来年の原油輸入割当量が今年と横ばいとなったこともあり、需要回復の見込みが一段と弱まった。また、欧州では、製造業における経済活動の縮小が続いていることなどから、景気後退局面へ入り、石油需要が後退するとの見通しが広まった。米国では、エネルギー情報局が今年のガソリンおよびジェット燃料の需要予測と、来年のガソリン需要予想を下方修正。油価に対する下方圧力となった。

供給面では、サウジアラビアの国営石油会社アラムコによるアジア太平洋向けの12月ターム供給が、買い手の希望通りとなる見込み。これを受け、需給緩和の懸念が強まった。

一方で、最新の米消費者物価指数(CPI)が市場の予想を下回ったことを受けて、米金利の上昇ペースが減速に向かうとの観測が広がったものの、経済回復の楽観にはつながらず、油価引き上げには至らなかった。

【11月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=88.96ドル(前週比3.65ドル安)、ブレント先物(ICE)=95.99ドル(前週比2.58ドル安)、オマーン先物(DME)=91.00ドル(前週比1.24ドル安)、ドバイ現物(Argus)=91.35ドル(前週比0.93ドル安)

福島第一の廃炉計画 残された30年にすべきこと


【オピニオン】柳原 敏/原子力デコミッショニング研究会会長

 福島第一原子力発電所(1F)の廃炉は計画通り終了できるのか。

わが国では現在26基の原子力発電所が廃止措置(廃炉)段階にあり、その多くは30年から40年で廃炉を終了する計画である。廃炉では大量の放射性廃棄物が発生する。小規模原子力発電所(BWR、50万kWe級)の場合、1基の解体により約6300tが放射性廃棄物になると試算されている(解体物は約15万t)。放射性廃棄物の廃棄は廃炉終了条件の一つであるが、その行き先は未定である。一方、1F廃炉では2021年12月までに放射性廃棄物約48万㎥の保管が報告されている。原子力の平和利用で発生した放射性廃棄物をどうするのだろうか。

1F廃炉の施設全体が汚染されたことを考慮すると、通常炉と同様に廃炉を終了すると放射性廃棄物の発生量は膨大(通常炉の100倍以上)になる。日本原子力学会の1F廃炉委員会が公開した廃棄物検討分科会の中間報告では、1F廃炉で発生する放射性廃棄物は1~6号機の施設解体だけで約150万t、また、1Fの施設解体と敷地全体を除染して元の状態にする場合は約780万tになる。これだけの放射性廃棄物をどのように処分し、どのような戦略をもって1F廃炉を終了するのか多くの人が抱く疑問である。

1F事故が発生した年の12月、政府と東京電力は1F廃炉に向けた中長期ロードマップを公開し、廃炉終了を30年から40年後とした。また、その工程を第1期、第2期、第3期(燃料デブリ取り出しと施設解体)に分け、第2期終了の目標は10年以内(21年)とした。

しかし、新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けて第3期の開始が1年遅れ、今年8月にはさらに1年の延期(23年開始)が発表された。ただし、廃炉終了の時期に変更はない。東京電力が示す「廃炉中長期実行プラン2022」では、汚染水対策、燃料デブリ取り出しなど近々の活動計画の記載はあるが、第3期の全体工程は分からない。中長期ロードマップ通りに廃炉終了が可能なのか。負の遺産を次世代に引継ぐことに社会は寛容でよいのだろうか。

1F廃炉終了に残された期間は30年。原子力損害賠償・廃炉等支援機構が示す戦略プランでは「時間軸の意識」を基本的考え方の一つとして「遅滞ない廃炉作業の進展」の重要性を述べている。また、「解体廃棄物の処分の見通しが得られていることを確認した上で、解体工事に着手する」との記載も見受けられる。どのような状態で廃炉を終了するのか、発生する放射性廃棄物はどうするのか、廃炉終了後の跡地はどうするのか。廃炉工程の戦略策定にとって重要なことが議論されていない。ロボット開発、燃料デブリの特性評価は重要である。しかし、廃炉の目標は1Fサイトを利用できる状態に戻すことである。残された30年の工程を俯瞰して、燃料デブリ取り出しのみでなく、廃炉終了の姿を想定した具体的工程の策定とそれに向けた取り組み、そして情報公開が求められる。

やなぎはら・さとし 1976年北海道大学大学院工学研究科修士課程修了、日本原子力研究所入所。福井大学客員教授・特命教授などを歴任。

目指すはカーボンニュートラル 需要家が考える「産業電化」の世界


【日本エレクトロヒートセンター】

 脱炭素時代に向けて期待が高まる電化設備。そんな電化技術を産業向けに普及促進する役割を担う日本エレクトロヒートセンター(JEHC、内山洋司会長)が11月1日から30日まで、第17回エレクトロヒートシンポジウムをウェブ上で開催する。

「産業電化が導くカーボンニュートラルの未来」をテーマに、エネルギーを利用する需要家側の講演や、ヒートポンプ(HP)などの電化設備の導入事例・電化技術が紹介される。JEHC担当者は「電化技術への関心の高まりから、毎年聴講者が増えています。3600人近くを集めた前回を上回る5000人の聴講者を目指します」と話す。

今回のプログラムでは経済産業省から「カーボンニュートラルに向けたエネルギー政策:改正省エネ法」をテーマとした講演があり、「需要家側の取り組みにおける電化」に触れる。また、エネルギー多消費産業側の取り組みも紹介される。具体的には日本化学工業協会が「化学産業における循環型社会構築に向けた取組み」や、先般、山梨県内の工場で大規模な「グリーン水素製造装置」の導入を決めたサントリーホールディングスが自社グループの「脱炭素戦略と取り組み事例」を紹介する。

ヒートポンプの導入が省エネ対策に有効だ

さまざまな電化技術 1丁目1番地のHP導入

その他、技術発表では、「抵抗加熱」や家庭のIH調理器でおなじみの「誘導加熱」といった工業用の各種電化技術が発表される。誘導加熱は工場現場の金属熱処理省エネ化の取り組みが紹介される。また、メーカーとして自ら電化技術を手掛ける三菱電機は「廃棄物処理へのマイクロ波加熱技術適用」を講演する。マイクロ波を廃棄物処理へ適用することで、エネルギー消費の低減や廃棄物処理の高効率化、さらに廃棄後の資源循環につなげていく。

また、省エネ対策の1丁目1番地といわれているのがHP導入だ。キリンビールが「効果的なHP導入に向けた検討プロセスの紹介」を発表するほか、他の企業から「CO2削減に最も貢献する熱回収と今後の高温暑熱対策」「CO2排出量最大90%超カット」「トナー生産デジタル工場における廃熱回収HP導入事例」といったテーマの講演がある。

多様な産業や工場群が特殊な生産プロセスを経て、日本のモノづくりは成り立っている。そうした生産プロセスにどのような電化設備を導入することが低炭素や脱炭素へのアンサーになり得るのか。さまざまな需要家側の取り組みや電化技術から、参考になる視点があるだろう。

豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】関口博之 /経済ジャーナリスト

 豪州政府が検討していたLNGの輸出規制が見送りとなった。9月末、キング資源相は国内のガス不足が回避できる見通しになったとして「輸出規制は必要ない」と表明した。日本はLNGの約40%を豪州に依存していて、最大の輸入先だ。関係者はひとまず胸をなで下ろしている。

この輸出規制、ADGSM(豪州国内ガス安全保障メカニズム)という制度に基づいたもので、豪州の競争政策当局が8月に検討を勧告した。NHKニュースでも報じられ、日本政府が日本の輸入に影響が出ないよう要請する事態になっていた。ADGSMは豪州東海岸のガス不足や価格高騰に備えた制度だが、ただし、そのルールは、LNG輸出量が自前の産出ガス量を上回るプロジェクトに対し、輸出数量規制をかけるというもの。つまり「他からガスを買ってきてまで、LNGにして海外輸出するケース」を防ぐというものだ。それによって国内供給責任を課す。しかもこれは東海岸の事業者が対象。日本の輸入は西部・北部エリアが大半で東海岸からは多くない。一報段階での「豪州がLNG輸出規制を検討へ」という見出しのインパクトだけが先走っている感もあった。

そうした中、9月半ば、筆者はLNG基地が多く立地する西オーストラリア州のジョンストン資源相と面会する機会があったが、連邦の輸出規制の行方について彼は、心配は無用とばかりに苦笑まじりにこう答えた。西オーストラリア州にも国内供給を守る保護策はあるが、事業者は当然その義務を承知で、プロジェクト開始前から輸出量・産出量のバランスを見越して操業している。東海岸を含め問題があるとは聞いていない、こういう説明だった。ジョンストン資源相は「西オーストラリア州は、日本とアジアのエネルギー安定供給のパートナーであるという思いを強く持っている」とも明言した。

どうやら今回の問題は日本側の「水鳥の羽音に驚く」的なてん末だったようだ。ただそれも、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、世界的にLNGの安定調達への懸念が拭えていないからだ。日本にとってリスクがいつ、どんな形で襲ってくるかは分からない。

一方で、豪州の重要性はLNG調達に限らない。むしろ脱炭素分野でこそ大きな可能性が開けている。一つは水素戦略だ。ジェトロによれば豪州で日本企業が参画する水素プロジェクトは30以上にのぼる。豪州政府も2040年までに水素輸出額100億豪ドルの目標を掲げる。5月の総選挙で政権交代したアルバニージー首相の労働党政権は、よりグリーンな政策を志向していて、この面での投資機会も大きい。

またCCS(CO2の吸収・貯留)でもポテンシャルがある。枯渇したガス田などをCCSに活用するプロジェクトが各地で検討され、既に商用化もされている。さらには植林によるCO2吸収でも有望だ。資源国であるとともに政治的に安定し、価値観も共有する豪州との関係強化は、常に考えておくべき課題だろう。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

無味乾燥な「所信表明」に思う たそがれの政権を象徴する臨時国会


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 野党・会派が要求していた臨時国会が10月3日にようやく開かれた。同日、岸田文雄首相は所信表明演説を行ったが、体言止めの短文を連ねる演説は政策の具体的な内容に乏しく、現下の日本を取り巻く厳しい情勢を乗り越えようとする気迫も感じられないものだった。代わりに、リスキリング、トランジッション・ファイナンス、スタートアップ・エコシステム、Web3・0サービス、Beyond5Gなどの怪しげな横文字のオンパレード。内容がないときに霞が関が使う常套手段である。30年近く国会での所信表明演説を聞いてきた私にとっても、これだけ無味乾燥なものは記憶にない。

エネルギー政策に関しては、「エネルギー安定供給については……原子力発電の問題に正面から取り組みます」として、「十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示いたしました」としているが、これまで何度も本欄で述べているとおり、原子力規制委員会の審査に合格している十数基の原発の再稼働が、原子力の問題に「正面から取り組」んでいるとは考えられない。何らかの新たな政策への展開を行っているのではなく、単に今進んでいるプロセスを述べているだけだからだ。

岸田首相はまた、「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」とも言っている。ウクライナ危機後、家庭の電気料金は月2000円前後上昇していると言われているが、例えば託送料の値下げ分や燃料費調整分への国費補填といったやり方では、電気料金を十分に下げる効果があるのか、疑問が残る。再エネ賦課金の凍結などの措置もあり得るが、実務的にはさまざまな難しい問題があるだろう。

電気料金対策に悪い予感 国のために必要な政策を

総合経済対策がまとまる10月中には具体的な内容が明らかになっているはずだが、本稿執筆現在、担当部署の官僚は徹夜で対応に追われているという。具体的政策も詰めないままに「前例のない思い切った対策」と言い切っているのは、悪い予感しかしない。検討使と称される岸田首相が「思い切った」決断をした結果がどうなるのかは、国葬問題で実証済みだ。

臨時国会が終わる年末の頃には、岸田政権は青色吐息になっていることだろう。政権末期を感じると、与党内も霞が関も潮を引いたように政権から離れていってしまう。そんな時だからこそ、岸田首相は、虎か猫かはわからないが、「死して皮を留め」てほしい。すなわち、政権を失っても未来に残る何かを残すことが、岸田首相の名を歴史に刻むことになる。それは、真の原子力政策の再構築のような、国民の一時的な人気は得なくとも国のために必要な政策を決断することである。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/11月11日】政府決定の経済対策 日本のエネルギーコストを何%下げるのか


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

政府の経済対策が公表された。

図 経済対策による物価抑制効果(内閣府ホームページより)

特に重点を置いたエネルギー価格対策については「物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガスに集中的な激変緩和措置を講じ、欧米のように10%ものインフレ状態にならないよう国民の生活を守る」と強調。これらの対策は「総額6兆円、平均的な家庭で来年前半に総額4万5000円の支援となる」(日本商工会議所)としている。

日本の人口は1億2570万人だから、平均的な家庭の人数を3人とすると、世帯あたり4万5000円は総額で約2兆円になる。家庭だけでなく企業への補助金も含めると総額6兆円になるということのようだ。

今年のエネルギーコストは13.5兆円増 政府補助はその半分

これはどの程度の規模感なのか? 政府はエネルギーコストの総額を公表していないので分からないが、慶応大学の野村浩二教授が「エネルギーコストモニタリング」として毎月情報を更新しているので、それを見てみよう。

図 エネルギーコストの推移 (慶応大学野村教授「エネルギーコストモニタリング」より)

この推計によると、今年のエネルギーコストは前年に比べて13.5兆円増加の見込み、とのことだ。政府経済対策はこれを6兆円軽減するものだから、だいたい、「この1年に起きたエネルギーコスト増分の半額を軽減する」ものだ、ということになる(正確には6÷13.5=44%)。

経済対策の規模感が分かったところで、このデータの見方について野村教授にいくつか聞いてみた。

Q: このエネルギーコストとは、家庭で支払う電気代を合計したようなものですか?

A: そうです。家庭、企業などが毎月支払う光熱費を積算したものに当たります。企業には電力会社なども入りますが、発電のための天然ガスや石炭も入れると二重計算になってしまいますのでそれを除き、日本全体として最終的に利用されるエネルギーのコスト負担額です。

Q: 税金は含まれているのですか?

A: はい。石炭や石油の輸入時の関税やガソリンにかかる揮発油税など、いわゆる間接税が含まれています。再生可能エネルギー賦課金などの賦課金も含まれています。

Q: 補助金も含まれているのですか?

A: はい。今年はじめに始まった石油価格の激変緩和措置によるコスト低減も含まれています。今回の政府の経済対策も実施されれば、このエネルギーコストを抑制する方向に反映されることになります。

Q: すると図の「エネルギーコスト」は国全体としてのコストとは違うのでしょうか。

A: コストには段階がありまして、ここでのコストは消費者が最終的に負担する水準ですので、エネルギーの生産者による売上げの金額(製品への間接税が賦課される前、補助金によって減額される前の価格は「基本価格」と呼ばれますが、その基本価格によって定義されたもの)とは乖離します。

エネルギーには数兆円もの税が課されていますので、消費者が負担する金額は基本価格による生産の金額をこれまで大きく上回ってきました。もし今後、さらに補助金が拡大すればその乖離は縮小(あるいは逆転)します。

ご指摘のように間接税と補助金の影響は分離できることが望ましいですが、月次速報では難しい面があります。

Q: 図の「エネルギーコスト」の推計の元データはどこにあるのですか?

A: ここでは速報性を重んじていますので、細分化されたエネルギー種ごとに、その消費量と対応するそれぞれの価格の月次推計値に基づいて消費金額を推計し、エネルギー全体の積算値として算定しています。基礎となる統計は、さまざまな政府統計や民間データでして、一部では推計値を含みます。より精度の高い年次の金額データはだいぶ後に公開されますので、それと整合的なものとなるように遡及して改訂しています。

政府経済対策によるエネルギーコスト低減は、過去1年の日本のエネルギーコストの増分をほぼ半減させることが分かった。この意味で、激変緩和措置としては意味のある規模になっていることは分かる。もっとも、その政策としての良し悪しはもちろん別途、議論しなければならないが。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「中露の環境問題工作に騙されるな! 」(共著)など著書多数。最近はYouTube『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』での情報発信にも力を入れる。

不安視されるロシアからの調達 LNG輸入国「日本」の脆弱性


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

三菱商事、三井物産はサハリン2の権益を維持するが、天然ガス供給には不安がつきまとう。

世界的に生産余力が乏しい中、調達先の多様化や節ガス、緊急調達の制度設計が急がれる。

 ウクライナ情勢が一段と長期化する様相を帯びて来た。9月末、ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻によって支配下に置いたウクライナ東・南部の4州を一方的に併合すると宣言。住民投票でロシアへの編入について賛成が多数を占めたと主張し、ウクライナ側に都合よく停戦を求めた。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は絶対に受け入れられないとして、「全領土から占領者を追い出す」と猛反発。今後は、自国のものだとする領土の〝防衛〟に全力を注ぐロシアと、占領された領土を取り返そうというウクライナとの間で戦闘が長期化するのは避けられない情勢だ。

こうした中で不安視されているのが、ロシアからのエネルギー調達だ。とりわけガスの需要が高まる冬を前に、供給不足やエネルギー価格の高騰が懸念されている。

LNGの調達環境は激変している

サハリン2の権益維持 供給停止の可能性は低い

日本は、ロシア極東の天然ガス開発プロジェクト・サハリン2からLNG需要のおよそ9%を輸入している。サハリン2を巡ってロシア政府は、事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立。これに対し旧会社に出資していた三菱商事と三井物産はそれぞれ新会社への出資を表明し、これをロシア政府が承認したことで、権益は維持される方向となった。一安心といったところだが、国際社会からロシアへの批判が高まる中で、ロシアのウクライナ侵攻のための戦費にもつながる巨額の資金を支払って、天然ガスを買い続けてもよいものだろうか。

日本側の理屈はこうだ。日本が苦渋の思いで権益を手放したとしても、契約に規定された代金は支払い続けないといけない。ロシアは日本に天然ガスを売らずに巨額の資金を手にすることができ、さらに日本に売却しないことになった天然ガスをほかの国に売れば、さらに巨額の資金を獲得することになる。いわば敵に塩を送る形となるのだ。

また、権益を第三国の中国が買い取れば、資源獲得の競争相手である中国に漁夫の利を与えることになるともいわれている。実際に各国が対ロシア経済制裁を強める中、中国は漁夫の利を得ている。中国が今年8月、ロシアから輸入した天然ガスは67万tと去年の同じ月に比べて36・7%増加、原油は834万tと27・7%増加した。日本がガソリン価格高騰に苦しむ中、中国では逆に一部の地域でガソリンが値下がりしているところもあるという。

このように、さまざまな情勢を総合的に判断した結果、ロシアからのLNG調達を継続することになった日本だが、それでも今後の日露関係の行方によっては、ロシアが日本向けのガス供給を突如断ち切る可能性も指摘される。

ただ筆者は、その可能性は低いと考えている。ウクライナ侵攻でロシアは、欧米各国から最新兵器の供与を受けるなど全面的な支援を受けるウクライナの反転攻勢にあい、苦戦を続けている。戦況が長引けば戦費も一層かさむ。

その一方で、欧州最大の天然ガス売却の得意先だったドイツとは関係が極度に悪化し、ガスの供給を止めようとしているかのようだ。そうなればドイツにとっても大きな痛手となるが、ロシアにとっても巨額の収入を失うことになる。そのうえ、日本との取引を中止して、財政面で自らクビを絞めることはないのではないか、と考えるからだ。

しかし、天然ガスが世界的にも生産余力に乏しい中で、日本には今後も天然ガスの供給不安がついてまわる。

今年8月には、日本のLNG調達の35・8%と最も多くを依存するオーストラリアを巡ってエネルギー政策担当者が肝を冷やす場面があった。日本の公正取引委員会にあたる「競争・消費者委員会」が、オーストラリア政府に対してLNGの輸出を規制する措置を検討するよう勧告したのだ。LNGの輸出が増加し、来年、国内向けの供給が需要を1割程度下回り、ガス不足に陥る恐れがあることが理由だという。

これを受けて9月2日、西村康稔経済産業大臣は国際会議の機会をとらえてオーストラリアのボーエン気候変動・エネルギー相と会談。日本に対して今後も安定的に供給を続けるよう要請した。結局、オーストラリア政府は、輸出を規制する必要はなくなったとの認識を示すことになったが、この一件は輸出で潤うエネルギー生産国も、いざとなれば自国向けの供給を優先しかねないという現実を突きつけることになった。

こうした中、経産省は9月末、世界有数のLNG生産国で、日本が調達の13・6%を依存するマレーシアの国営企業「ペトロナス」との間で覚書を交わした。この中で、日本がLNGの調達が滞るといった危機的な状況になった場合に、マレーシア側がLNGを融通するなど、日本を最大限支援することで合意したという。

節ガス制度を議論 罰則付き使用制限も

さらに政府は万一、海外から十分なLNGの調達ができなくなり、都市ガスの需給がひっ迫した場合に備えて、ガスの利用者に節約を促す「節ガス」を要請する制度について議論を進めている。まずは無理のない範囲で節約を求め、不十分な場合は数値目標を設定、それでもひっ迫する場合には、企業を対象に罰則付きの使用制限もあり得るという方向で検討が進められている。

また経産省は、調達に必要な制度を整えるために法改正を目指している。価格高騰の中で、都市ガス会社がLNGを調達できなくなった場合に、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が代わりに輸入を行うなど、国が支援できる仕組みづくりを進めようとしている。

ガスは石油と違って長期間の保存が難しい。日本は今後も産ガス国との間で関係を深め、LNGの調達体制を分厚くする。そしていよいよ窮した時のために、節約で急場をしのぐ制度の整備をはかる。ウクライナ戦争がもたらした憂いに対する備えが急がれている。

東電が柏崎再稼働に本腰 鍵握る岸田首相の新潟訪問


東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に向けた動きが加速している。東京電力HDの小早川智明社長は9月30日、原子力発電事業を巡る今後の方向性を発表した。2026年までに職住環境を整備し、本社機能を柏崎市へ移転。既に配置転換は始まっており、5月までに64人が異動した。さらに柏崎刈羽の再稼働を管轄する本社の「原子力・立地本部」から福島第二の廃炉部門を切り離し、福島第一と統合する検討に着手した。

小早川社長は柏崎刈羽の再稼働について「どの時期を目指すと申し上げられる段階にない」と述べたが、9月16日には23年度の企業向け電気料金算定について、柏崎刈羽7号機の再稼働を織り込む方針を発表している。同社幹部によると、目標時期は7月だ。

ただ地元同意のハードルは高く、関係者からは「首相が新潟を訪れて再稼働の必要性を説くしかない」との声も。10年前になるが、当時の野田佳彦政権は枝野幸男経産相を福井県に派遣。夏場の電力不足回避のため大飯3・4号機の再稼働を実現させた。来年4月に統一地方選が控える中、果たして岸田首相は重い腰を上げるのか。

ガス・水道事業のDX化を後押し 「IoT―R」が出荷200万台突破


【東洋計器】

 ガスや水道メーターの開発・製造を手掛ける東洋計器。2018年10月に発売した双方向通信端末「IoT―R」が、LPガス業界で急速にシェアを伸ばしている。この6月には、出荷台数が200万台を突破。全国のLPガス利用世帯数は2000万軒で、このうち1割が設置したことになる。

土田泰正社長は、「来年度上期には、300万台を視野に入れている」と語り、「さまざまなコンテンツと合わせ、ガス業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に貢献する」と、一層の普及拡大に意欲を見せる。

IoT―Rは、長距離データ通信、低消費電流の通信規格である「LPWA/LTE cat.M1」に対応し、ガスのマイコンメーターと連動することで検針情報や保安情報をスマートセンターに送信するほか、ボンベの遠隔残量監視による配送の合理化など、事業者の業務効率を飛躍的に向上させることができるのが大きな特徴だ。

LPガス業界では、遠隔検針や残量監視のためのテレメータリングの導入が進んでいるが、高い導入費用や通信費などが障壁となり、導入世帯は600万軒ほど。IoT―Rは、設置工事が容易であるのに加え、通信エリアが広く設置先の通信環境に依存せずに双方向通信が可能であることなどから、テレメータリングの活用の幅が広がり事業者のさらなる業務改善が進むことが期待される。

LPガス集中監視を代行するマルチセンター

業務のDX化を推進する 七つのサービスコンテンツ

同社は、①新料金メニューの導入支援、②器具の劣化予測情報、③ウェブ明細サービス、④高齢者見守りサービス、⑤IoTとAIを活用した配送最適化情報、⑥プリペイドサービス、⑦電子請求・決済―といった七つのコンテンツの提案にも力を入れている。

例えばウェブ明細サービス「ガスるっく」は、携帯電話端末での料金明細や使用量グラフの表示機能、決済機能に対応しており、請求書のペーパーレス化を可能にするコンテンツ。決済機能とIoT―Rによるガス栓の遠隔開閉を組み合わせることで料金請求から回収、督促といった人手がかかる業務のDX化を図ることができ、社員の業務負荷を低減、ひいては将来の労働力不足への備えにつなげることができる。

今後は、IoT―Rを通じて取得される膨大なビッグデータをどう活用して事業者の業務効率改善やサービスの拡充に貢献できるかが課題。土田社長は、「IoT―Rをきっかけに、LPガスのみならず、都市ガスや水道事業に対しても、さらなる業務の合理化に取り組んでいきたい」と意気込む。

【覆面ホンネ座談会】硬直状態を打破できるか! 政権の原発政策に物申す


テーマ:岸田政権の原子力政策

原子力政策が前に進み出した。エネルギー危機が現実味を帯びる中、安定・低廉な電力供給での役割が見直されたのだ。だが、まだ検討は始まったばかり。「原子力復活」に向け克服すべき課題は何か。

〈出席者〉A電力業界関係者 B学識者 C原子力ジャーナリスト

―岸田文雄首相は8月24日のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、①設置許可を取得済みの原発再稼働、②運転期間の延長、③次世代革新炉の開発・建設―について年末に結論が出るよう検討の加速を求めた。発言を受けて総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で具体策の議論が進んでいる。政権トップによる踏み込んだ発言であり、「晴天の霹靂」感があった。

A 唐突という印象は受けていない。GX実行会議では経済産業省の官僚がきちんと根回しをして、首相に何を言わせるかを考えている。経産省は少しずつ原子力回帰の動きを進めている。国民の理解を得るために慎重に行っているが、発言はシナリオ通りだろう。

―電力業界の根回しもあったのでは。

A それはない。原子力が必要なことは官民共通の理解だ。第六次エネルギー基本計画を策定する時から、経産省は少なくとも「可能な限り低減」の文言を取り除きたかった。しかし閣内の政治家がブレーキを掛けて、「必要な量を持続的に活用する」と入れることしかできなかった。ところがウクライナ侵攻が起き、エネルギーの安定供給が危うくなり、電気料金も上がった。「この機を逃すな」と考えたはずだ。

B 首相発言の意味は大きいと思っている。原子力については誰かが何かを言っても、やはり首相が発言しなければ物事は進まない。中でも次世代革新炉の発言を受けて、マスコミが「新増設・リプレースに踏み出した」と報道し始めたことのインパクトは大きい。

A 原子力復活の第一ステップとして、次のエネルギー基本計画で「可能な限り低減」を取り除くために次世代革新炉について言及した。新増設・リプレースは次の第二ステップとして考えていたと思う。しかし、マスコミが反応したので一挙に進んだ感がある。

C 国会の答弁を見て分かるが、首相は役人の書いた文章を読んでいるだけだ。GX実行会議の発言は経産省出身の首相秘書官、嶋田隆さんが指図したものだと思う。電力供給の安定化、電力料金の引き下げは大切だが、嶋田さんは経営が厳しい東京電力を何とかしなければいけないと考えている。それにはまず柏崎刈羽の再稼働が必要になる。

岸田首相の発言で原子力政策が前に進みだした(電力会社首脳との懇談会、10月12日)
提供:首相官邸

―設置許可を得ている原発の再稼働を目指すとしている。そのうち高浜1・2号機、女川2号機、島根2号機はおそらく順調に作業が進むだろう。しかし柏崎刈羽6・7号機は核物質防護で不備があり、原子力規制委員会が改善を命じている。東海2号機は立地する東海村と周辺の5自治体の事前了解を得なければならず、ハードルが高くなっている。

B 柏崎刈羽の現場は、ほかのプラントと比べてもトップクラスのレベルを維持している。しかし、東電のトップ層はマネジメントに力を入れているが、現場との連携が不足している。それが顕著に現れた例が柏崎刈羽の核物質防護の問題だろう。

―新潟県では地元の同意が得られるかも不透明だ。

B その点は規制委の責任が大きい。規制委が誕生した後、当時の新潟県知事が田中俊一委員長に面会を求めた。福島第一原発と同型のプラントが立地する新潟県としては、事故について説明を求めるのは当然のことだ。しかし、田中委員長は会わなかった。今も規制委は原発立地の地元に行って説明することをしていない。

 原発の安全性を審査して規制基準に適合していると判断したら、規制委はそれを地元に説明する責任がある。まして柏崎刈羽のように根強い不信感がある場所ならばなおさらだ。安全性について地元の理解を得るために、事業者と規制委、それに資源エネルギー庁が連携して対応する仕組みをつくるべきだ。

C 2007年の中越沖地震で柏崎刈羽が全基停止した時、再稼働のために経産省と電力業界は半導体工場を地元に誘致した。おそらく、その時と同じような大掛かりな後押をするのだろう。東海2号機の周辺6自治体の事前了解は、やっかいな問題だと思う。実現させた東海村の村上達也村長の知恵袋になって、関係者と調整したのは文部科学省から出向した官僚の副村長だった。

―そんな役人がいたのか。

C 東海村から離れて霞が関に戻った後、それを自慢げに話していたそうだ。さすがに出世コースには乗らなかったようだが。

「40年」「60年」規制に根拠なし 定期的な技術評価で運転延長を

―運転期間は、今は原子炉等規制法で原則40年、最大20年延長と定められている。その見直しが進んでいる。同時にカウントストップの議論も行われている。

B 原発の高経年化については、原子力安全・保安院がIAEA(国際原子力機関)などとも連携して対策を進めて、1998年に基本的な考え方をとりまとめた。運転開始から30年を目途に機器などの技術評価をして、それ以降の保全計画を策定するものだ。03年からはそれが保安規定での要求になり、10年ごとに技術評価をすることになった。

 福島事故の後、法律で「40年」「60年」と決めたことは技術的にはまったく意味がない。この問題で技術的な議論をする必要はない。運転期間の制限を取り払い、例えば運開から40年を目途にして基準に合致しているか技術評価を行い、それ以降も定期的に技術評価を行っていけばいいだけの話だ。

A Bさんが言うように、技術評価を行って運転延長ができるか号機ごとに判断していくのが最も合理的だ。ただ、技術評価には準備、審査などに大変な手間と時間が掛かる。いま電力会社は再稼働に人や資金を取られている。電力会社によっては、とても技術評価をする余裕はない。すると40年の期限が来るまでに作業が間に合わないことを見越して、「廃炉にしよう」という判断が起きかねない。

―法改正で「40年」「60年」の規制を取り除いても、カウントストップは意味があるのだろうか。

A そう考える。カウントストップがあれば、40年までに技術評価をすると定まっても、その期限を先に延ばせる。そうすると電力会社が廃炉の選択を考える必要もなくなる。

C 要するに、いつまでに廃炉にすると期限を決めないで一定の期間ごとに技術評価を行って、運転継続が可能か決めればいい。Aさんが指摘したのは手続き上の問題だと思う。急な制度変更だったのだから、初めに技術評価をする時期を40年としても、混乱でそれが難しい電力会社があるのなら、規制側が柔軟に対応して40年を先に延ばせいい。

林地開発許可は妥当!? 函南太陽光計画で新疑惑


本誌が報道してきた静岡県函南町軽井沢のメガソーラー計画問題を巡り、新たな動きがあった。林地開発許可の前提となる河川協議について、県河川管理者と事業者の間で適切に行われていなかった問題が浮上しているのだ。

9月26日の静岡県議会で鈴木啓嗣県議は、事業者による河川調査が不十分で、許可要件を満たしているかが明確でないにもかかわらず許可を行ったと指摘。「行政手続き上、瑕疵があった」と県の姿勢を問いただした。

これに対し、県の担当者は事業者側との認識の相違から申請書類に誤りがあったとして、書類を訂正し計画を見直すことで事業を継続する考えを示した。が、鈴木氏は「(県が確認を怠った)許可を追認するために、改めて河川協議を行って事業者に書類を提出させるという対応は適切ではない」と反論。今後の常任委員会で、この問題を徹底追及する構えだ。

全国再エネ問題連絡会の山口雅之・共同代表は「林地開発許可の前提でミスがあったわけだから、まずは許可を取り消すのが筋だ。書類を修正したからよいという話ではない」と主張する。

同計画は中止に追い込まれるのか。今後の行方が注目される。

エネルギー危機下で開催 存在意義問われるCOP


ロシアの侵攻開始以降初となる温暖化防止国際会議の COP27が、11月6日からエジプトで始まる。JCM(二国間クレジット制度)などに関する市場メカニズムを巡り、日本主導で国際枠組みを発足する予定などと報じられている。ただ、ロシア有事で世界の分断が進む中、専門家は「削減目標引き上げへのプロセスを詰めたい先進国と、そのためにさらなる資金を引き出したい途上国の対立が一層深まっている」(有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授)と指摘する。

前回のCOPでは、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えることの追求に各国が合意。しかし今年6月の補助機関会合では、両陣営の対立構造が再燃した。西側諸国も途上国もエネルギー安全保障リスクが拡大する中、利他的な機運が削がれている。

「先進国は今も化石燃料増産への投資をブロックしようとするが、これでは途上国の反発を招く。COP27の合意を難しくしている」(有馬氏)。理念の追求にこだわらず、足元の危機を踏まえた現実的な温暖化対策の道を探れるか。COPの存在意義が問われている。