【エネルギービジネスのリーダー達】立岩健二/アジャイルエナジーX社長
新たなDERとして仮想通貨マイニングを活用するビジネスモデルが動き始めた。
再エネ大量導入時代の系統安定化を支える新たな切り札となる可能性を秘める。
たていわ・けんじ 1996年京都大学大学院エネルギー応用工学専攻修了。スタンフォード大学MBA取得。96年東京電力入社後、新型原子炉の安全設計などに従事。2011年以降、福島原発事故関連業務や日本原子力発電出向、東電パワーグリッド経営企画室などを経て22年から現職。
東京電力パワーグリッド(PG)傘下に2022年、ユニークなエネルギーベンチャーが誕生した。
GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、そして金融手法も掛け合わせて「アンチ・フラジャイル(反脆弱)なエネルギー基盤構築」を目指すアジャイルエナジーXだ。社名には「エネルギーの変革を俊敏・柔軟・果敢に推進する」との想いを込めている。ビジネスモデルは、分散型エネルギーリソース(DER)としてはなじみが薄い分散コンピューティングを用い、再生可能エネルギー大量導入と系統最適化を目指すもの。社長の立岩健二氏が、東電社員として4年間温め続けた構想だ。
柔軟な需要装置 他のDERと異なる特性
着目したのは仮想通貨(ビットコイン=BTC)マイニング装置。マイニングとは、暗号計算でBTC取引の検証・承認を行うこと。取引に関わらない第三者のマイニング事業者が、世界中の数千万台もの装置で同時計算して改ざんを防ぎ、取引の正当性を担保する。装置のスイッチを入れると自動で計算作業に入り、データを送信。最速で正解を回答した装置に対してBTCで報酬が支払われる。電気代の高い日本では現在マイニング事業者は皆無に近いが、電気代が安い国では事業者が常時装置を稼働させるような状況だという。
マイニング装置は「既存技術で最も柔軟性に富む電力需要装置」(立岩氏)でもあり、再エネ余剰発生時には上げDR(デマンドレスポンス)として活用できる。つまり電気を消費するだけで報酬が得られ、かつ再エネ大量導入を支えるという社会的意義も持つ、「前例のないビジネスになり得る」(同)。DERとしては、運用柔軟性や設置の容易さ、相対契約が不要など、制約の少なさが強みだ。蓄電池や水素製造、データセンタ―などほかのDERと特徴が異なり、補完関係にある。
日本ではBTCマイニングは怪しげに捉えられがちだが、マイニングが盛んな米国などではエネルギーと掛け合わせた事業が既に登場している。例えば再エネが豊富なテキサス州では、マイニング事業者が再エネ電気を購入し、GW(100万kW)級の装置を稼働させて報酬を得ながら、系統運用者にも歓迎されている。
ただ、当然日本とは事情が異なる。日本では安い再エネ電気を潤沢に使えるわけではなく、マイニング報酬獲得を主眼においた常時稼働は非現実的。他方、急速な再エネ拡大が今後も続く中、系統混雑の解消や再エネ出力制御への対応は急務だ。親会社の東電PGからすれば、マイニングがプラスにならなくとも、系統安定化に貢献してくれれば御の字なのだ。
現在、PG木更津支社エリアで装置約1300台での実証が進行中だ。また、埼玉県美里町とは、地域の多様な資源と組み合わせた事業化の検討に向け協定を締結。ほかの地点での計画も続く予定だ。
「50年再エネ5~6割を見据えれば、今もうからなくても時代に乗り遅れないよう、まず始めることが重要。関係各所との調整やマネタイズなどの課題は走りながら『アジャイルに』考える」と立岩氏。とはいえアジャイルエナジーX単体でなるべく早く利益を出せるよう、幅広いDERの価値を取引する新たな市場の整備に期待している。さらにエネ庁や環境省はもとより金融庁まで、同社に興味を示す官僚は少なくないという。
稼ぎ頭創出は福島への責任 さらなる可能性模索へ
立岩氏は「日本のエネルギー問題解決に貢献したい」との思いで原子核工学を専攻し、東電に入社した。さらに技術者もMBA(経営学修士)を取得すべきだと認識し、取得後は社内から変革を起こそうと積極的に新規事業を提案。ことに福島原発事故後は、福島への責任完遂のためにも東電が稼ぐ重要性を強く意識してきた。
そんな中で18年、二つのニュースが目にとまる。BTCバブルがはじけ「マイニングは電気の無駄使い」といった批判の高まり、そして九州で初めて実施された再エネ出力制御だ。「この二つを組み合わせれば環境に良い電気の使い方になる」とひらめいた。幹部にプレゼンしたところ事業化は即決されなかったが、「面白いからプランをもっと練ってみて」との反応があった。自腹で海外に赴くなどし、プランを深化させ、4年後にようやくゴーサインが出た。
マイニング事業を軌道に乗せることが当面のミッションだが、将来的にはDAC(大気中CO2直接回収)や、ダイヤモンド合成の可能性も秘める溶融塩電解など、さまざまな既存技術と組み合わせる私案がある。さらには「洋上・離島発電基地の再エネや小型炉で水素・アンモニアを製造し、マイニングで地産地消する構想、あるいは『バンカブルな原子力』の追求など、各所がウィン・ウィンで夢のあるシステムを模索したい」と志は大きい。