エネルギー危機下で開催 存在意義問われるCOP


ロシアの侵攻開始以降初となる温暖化防止国際会議の COP27が、11月6日からエジプトで始まる。JCM(二国間クレジット制度)などに関する市場メカニズムを巡り、日本主導で国際枠組みを発足する予定などと報じられている。ただ、ロシア有事で世界の分断が進む中、専門家は「削減目標引き上げへのプロセスを詰めたい先進国と、そのためにさらなる資金を引き出したい途上国の対立が一層深まっている」(有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授)と指摘する。

前回のCOPでは、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えることの追求に各国が合意。しかし今年6月の補助機関会合では、両陣営の対立構造が再燃した。西側諸国も途上国もエネルギー安全保障リスクが拡大する中、利他的な機運が削がれている。

「先進国は今も化石燃料増産への投資をブロックしようとするが、これでは途上国の反発を招く。COP27の合意を難しくしている」(有馬氏)。理念の追求にこだわらず、足元の危機を踏まえた現実的な温暖化対策の道を探れるか。COPの存在意義が問われている。

【イニシャルニュース 】LPガスが最も安定!? エネルギー事業に異変


LPガスが最も安定!? エネルギー事業に異変

カーボンニュートラル時代への対応が重要な経営課題になっているはずのエネルギー事業者に異変が起きている。

某地方で都市ガス事業とLPガス事業を運営するA社。2016年の電力小売り全面自由化以降、地域の再エネを活用する目的で新電力事業の展開に力を入れてきた。

「脱炭素化が世界的な課題となる中で、CO2を排出する化石エネルギーの一本足打法ではいずれ行き詰まるに違いない。数十年先の経営を考えれば、ガス会社といえどもカーボンフリーの電力事業を手掛けておくべきだと考えた」(A社幹部Ⅹ氏)

ところが、21年初頭に起きた卸電力市場価格の高騰を受け、電力事業は大幅な赤字に転落。春になり市場価格も落ち着き、収支が改善し始めたところに、今度はウクライナ危機による世界的なエネルギー価格の暴騰が発生した。歴史的な円安進行も相まって、燃料・電力調達価格の急上昇は新電力各社を直撃。事業の休止や撤退を余儀なくされるところが相次ぐ中、A社も事業存続の岐路に立たされている。Ⅹ氏が言う。

電力事業に力を入れたが……

「電力に気を取られているうちに、都市ガスの収支も悪化してきた。むしろ足元で安定しているのはLPガスだ。脱炭素化では劣勢に立たされているLPガスが収益に貢献して、最右翼の電力が窮地に陥るとは。将来を考えると、これでいいのかという気がして仕方がない」

国民生活・経済活動を支える低廉で安定した供給の実現こそエネルギー事業の土台。そこが揺らいでは、脱炭素も何もあったものではない。直面する難局をどう乗り切っていくか。事業者の経営手腕が問われている。

杉森氏に鴇田氏…… 不祥事辞任が相次ぐ

ENEOSの杉森務前会長、そしてTOKAIホールディングスの鴇田勝彦前社長と、エネルギー業界トップの不祥事による辞任が相次いだ。

杉森氏は女性への度を越した不適切行為、鴇田氏は交際費の不適切な使い込みと理由は違うが、共通するのは昭和の慣習から抜け出せない企業体質が現れた点だ。

杉森氏を知る人からすれば、今回の報道はさもありなん。普段はフランクな人柄で新聞記者や部下から慕われる親分肌だが、お酒が入ると態度が一変。東京・銀座の高級クラブでこうした態度を見せることもあったという。

杉森氏は旧日本石油の営業畑の出身。これまでは同じ営業出身で親分格でもあったW元会長の存在が重石になっていたが、W氏が亡くなった後は「タガが外れた」(石油業界関係者)。周囲も杉森氏の行き過ぎた行為を止めることはなかったという。

「旧日石の支店長クラスともなれば特約店を回る際などに過度な接待を受けることは当たり前で、派手にお金を使ってきた。しかし石油業界は今でも昭和の慣習が抜けていないと思われてしまい、甚だしいイメージダウンだ」と石油業界関係者は嘆く。

一方で鴇田氏の場合はというと、会食などで不適切な経費の使い込みが発覚したとして、9月15日の同社取締役会で社長を解職された。経産省OBの鴇田氏が同社社長に就いて17年。「元社長のF氏によるワンマン経営から脱却し、グループ再編や持ち株会社化などで果たした功績は大きいが、あまりにも長く社長をやり過ぎた。社内には不満がうっ積しており、今回の電撃解職は〝5人組の反乱〟と見る向きもある」(事情通)

有能だが遊び好きで豪放磊落なトップが許容されたのも、今は昔。企業経営ではコンプライアンス重視の傾向が一段と強まっていこう。ただ、そこに一抹の寂しさを感じてしまうのは、なぜだろうか。

天下り先決まらず 役人「冬の時代」到来

国家公務員総合職の希望者が減っている。かつては全国のエリートが中央官庁の幹部への道を目指した。だが日本経済が長く低迷する中、官僚たちを取り巻く環境の変化が、優秀な学生たちに霞が関で働くことをためらわせているようだ。

旧科学技術庁出身で文部科学省の幹部を務めたT氏。自他ともに認める「やり手」官僚だったが、今年3月に退官した。以前ならば、文科省の関連団体などに相応しいポストが用意されていたが、「まだ天下り先が決まっていない」(文科省関係者)。

役人に冬の時代が到来しつつある (文科省)

もっとも財務省や経産省のOBには、今も手厚い再就職の斡旋がある。しかし旧科技庁の関連組織は規模を縮小する傾向にあり、「天下り先の確保が難しくなっている」(同)。エリートたちが冬の時代を迎えつつある。

福井で地層処分の動き 業界は「ありがた迷惑」

原子力施設の集中する福井県・嶺南地区で、高レベル放射性廃棄物の地層処分を実現させようという動きが起きている。原子力関連団体が地元政治家を集め、勉強会などを開催。しかし電力業界関係者からは、「ありがた迷惑」「難しい状況で余計なことをしないでほしい」などと活動を警戒する声も聞かれる。

団体はO町、M町を中心に、ここ数年、著名人と地元の政治家と合同でセミナーを開催している。原子力関連の学会、ゼネコンなどが支援し、研究者や電力会社のOBが集まっているが、電力業界と直接の関係はない。団体側が「地層処分の可能性を探るのが真の目的」と周囲に話していることが関係者に伝わり、一部の関係者の不信を強めている。

長く原発と共存してきた嶺南地区では原子力に対する拒絶感は少なく、個人レベルでは地層処分に肯定的な人がいる。それにつられ、団体は北海道寿都町のように地層処分受け入れの窓口を作ろうとしているようだ。しかし、「嶺南地区の原発は再稼働や使用済み燃料の中間貯蔵の問題を抱える。いま地層処分について行うべき行動ではない」(電力業界関係者)。

福井では県と地元の政治関係者が一貫して「放射性廃棄物を県外に出す」政策を掲げている。一方、行き場が決まらない使用済み燃料の中間貯蔵は重い問題だ。

福井県で原子力発電を行うK社やN社は現在、再稼働とリプレース問題などで手一杯だ。エネルギー業界関係者も政治家も、高レベル廃棄物の最終処分の話などする余裕はなく、地層処分の議論は逆に原子力批判派に攻撃の材料を与えかねない。

「ありがた迷惑な面もある。活動をやめていただければいいのだが」。電力業界関係者はこう頭を抱える。

BGかプールか 電力市場改革で混乱

バランシンググループ(BG)制度の維持か、パワープール制への移行か―。資源エネルギー庁の有識者会合で議論されている卸電力・需給調整市場改革の方向性を巡り、電力業界が混乱の様相だ。

要因は10月4日の会合でエネ庁が提案した、効率的な電源の運転と最適な供給力(kW時)と調整力(⊿kW)の調達を実現するための「同時市場」を巡る議論にある。

これは、前日市場の入札方法としてThree-Part Offer(ユニット起動費、最低低出力コスト、限界費用カーブでの入札)を導入。この情報を踏まえて一般送配電事業者(TSO)がkW時と⊿kWを含む電源起動(停止)計画を作成し、小売り事業者は自社の調達需要とTSOの予測需要との差分も含めて確保する仕組み。 

エネ庁の提案では相対契約で事前に売り先が決まる「セルフスケジューリング電源」も認めるとしている。だが同日の会合で学識者委員のM教授は、「なぜ、セルフスケジューリング電源などわざわざ設けるのか理屈が示されていない」と述べ、事実上のプール制への移行を主張したのだ。

業界関係者X氏は、同時市場は「BGが計画値同時同量を達成するために必要な量をしっかりと確保するための仕組み」との認識。エネ庁も、あくまで現行のBG制度は維持するというスタンスを変えていない。

別の業界関係者O氏は、「送配電事業者の間でコンセンサスが取れているわけではない」と、この議論を巡るもう一つの問題を指摘する。BGかプールかはともかく、同時市場に移行するとなれば大改革になることは間違いない。機能不全に陥ってしまった現行の電力システムの二の舞にならないよう、より冷静な議論が求められる。

議論続くバイオマスの持続可能性 日欧の制度テーマに講演会


【バイオマス発電事業者協会】

 化石燃料の世界的高騰が続く中、コスト面からも木質バイオマス発電への注目が高まっている。他方、木質バイオマスはライフサイクル全体でみて本当にカーボンニュートラルなのか、エネルギー目的の過度な伐採が行われていないか、といった議論も続く。こうした情勢下でバイオマス発電事業者協会が9月末、木質バイオマスの「持続可能性」をテーマに講演会を開いた。

持続可能性に関する国際動向を専門家が講演

自然エネルギー財団の相川高信上級研究員は、EUを中心に持続可能性に関する制度の国際動向を解説した。EUのRED(再生可能エネルギー指令)では2009年から、液体バイオマス燃料のみを対象にし、持続可能性基準として温暖化ガス排出量(GHG)や原料生産地に関する要件などを設定している。しかし近年、森林系や農業系などの固体バイオマスも対象に加え、持続可能性基準を強化する方向で検討が進む。ただ、欧州議会での議論では環境委員会と産業委員会で意見がぶつかり、21年夏に施行予定だったスケジュールが遅れている状況だ。

改定では、木材を多段的に利用し、最終段階で燃料に活用して材を使いつくす「カスケード利用」を原則として導入し、対象設備の規模やGHG基準などについて検討。EUの木質バイオマスの37%が「一次木質バイオマス(PWB)発電」で、このうち半分程度で丸太を利用するが、環境面からこうした点への批判が強まり、PWB発電への補助金は26年以降原則廃止といった方向性だ。

ただこの解釈をめぐり、従来の論点だった丸太の制限に加え、間伐材や林地残材などの制限に関する議論も浮上している。相川氏は「以前はPWB全体を規制する流れではなかったはずが、この問題がヒートアップしてきている」と説明する。

エネ転換での位置付け発信 国際連携の進展が重要

一方、日本では間伐材の利用を前提に、高い買い取り価格で支援するものの、林野庁ガイドラインが示す「未利用木材」には間伐材だけでなく、主伐材など、EU内で批判されるような内容も含まれる。相川氏は、「日本の状況の考慮が必要な面がある一方、抱える課題は世界共有。国際組織などで各国の状況を共有し、言うべきことを主張していかなければ、エネルギー転換への枠組みの中での位置付けを失う可能性もある」と強調した。

このほか、林野庁木材利用課の小島裕章課長が国内事情について講演し、ライフサイクル全体でのGHG排出基準について政府内で検討中だと説明。さらに燃料材の安定供給、熱利用の拡大、持続可能性への配慮といった課題への対応を検討する必要があるとした。

【コラム/11月8日】電力料金負担緩和策を考える~電力システム改革で低下した対応能力


飯倉 穣/エコノミスト

1,エネルギー価格の高止まりが継続している。米国の金融引締め政策の影響でドル高・円安も懸念材料である。公共料金であった電気・ガス料金の値上げが、消費者物価を押し上げ、国民の不満を募る。政府は、企業・家庭向け電力料金等軽減策に執着し、総合経済対策(22年10月28日)に盛り込んだ。報道は伝える。

「電気代支援1月にも 政府、ガス料金も軽減 財政支出バランス懸念」(日経10月15日)、「家庭電気代2割支援へ 1月以降 財政負担兆円規模」(朝日27日)。「総合経済対策 エネ高騰対策 脱炭素に逆行 歳出膨張 強まる懸念」(日経29日)、補助金は、企業向け3.5円/KWH、家庭向け7円/KWHのようである。

今日不安定な政策が後を絶たない。果たして政府補助金は、今後の日本経済の活性化に寄与するであろうか。改めて電力システム改革後の電気料金軽減策を考える。

2,資源エネルギー輸入価格の上昇は、経済にどんな影響を与えるのか。繰り言だが、マクロ経済的に見れば、輸入エネ価格上昇は、所得の海外移転で当面縮小均衡調整となる。

価格転嫁で諸物価を引上げ、需給調整等を通じて、次の経済均衡点を模索する(数%低下見込み)。価格上昇の原因は国内でなく海外なので、現実を受容せざるを得ない。

働く人(消費者)は、当然生産性向上がなければ賃上げがない。観念して、その価格上昇を受忍せざるを得ない。その状況から脱却するには、当面新価格容認(価格転嫁)、消費量減(所得効果)、中期的に他の安定的な財の開発・生産(代替効果)、生産性向上(成長模索)等である。それが市場経済の自然な姿である。

3,近時の政府は、上記のような見方を国民に知らしめ、節約の協力、価格の容認を求めず、経済変動を軽視し、経済水準維持を声高に叫ぶ。要請等も曖昧なまま、高騰分緩和の補助金給付という政策に走る。昨年決定のガソリン価格激変緩和補助金であり、今回は電力料金等抑制のための補助金となる。その問題点は何か。

4,多くの企業は、急激な変動に戸惑う。屡々企業人は、コスト高対応の調整・期間等を確保する意味で緩和策の導入を叫ぶ。今回も世論意識で電気代軽減という思いつきが浮上した。ポピュリズム的ではなかろうか。

大事なことは新価格体系への迅速な適応である。各企業は、価格高騰となれば、使用するエネルギーの合理化、代替品の導入・開発等の対策を打つ。個人も代替品がなければ、消費量を削減する工夫を行う。ここでは経済の担い手の合理的行動が、改善をもたらす。調整期間は、一般企業の場合、高価格の継続性を睨みながら、1ヶ月(節約)、3ヶ月(代替品か仕入れルート)、半年(合理化)、1~2年(設備投資)程度の対応策を検討するであろう。対応に補助金不要である。補助金は、適応を長引かせ、企業活力を低下する危惧がある。それは市場を歪曲し、人為的コストの嵩上げで経済調整を遅延させる。創意工夫こそ企業の生きる術である。

5,電力業はどうか。エネルギー産業は、原油・LNG価格上昇の直撃で、コスト増となり収支維持のため価格転嫁が必要になる。勿論合理化等でコスト増を吸収する努力を行い、又値上げに伴う需要減も考え、さらに競争力を確保するため値上げ幅も要検討事項である。基本は、企業存続・活動に必要な収支の維持である。企業であれば当然である。私企業であろうと公的企業でも変わりない。

6,電力システムの有様が、電気料金値上げ幅や時期に微妙に関係し、政府の対策を左右する。政策手段として適当か否か議論もあるが、過去の9電力(需給調整・料金規制・総括原価)のような公益事業なら、原価・事業報酬の査定、意見聴取の場(公聴会)もあり、必要な情報公開もあることから、値上げ幅・日程に納得感がでる。又料金引き上げの若干の遅れで生じる収支のずれがあっても、金融サイドは、信用力の評価で、査定の余裕があろう。

一般企業であれば、価格転嫁に伴う原価が必ずしも合理的かわからない。且つ競争下では、合理化もあろうが、価格付けは企業任せである。且つ競争的な市場の一般企業の場合、金融サイドの収支の見方はより厳しくなる。故に早急な価格転嫁が必要となる。

7,値上げは当然でも、業態で需要家の受け止め方も異なる。値上げに対し需要家の理解を腐心せず、私企業の価格面への政府関与はいかがであろうか。公益事業なら、料金値上げの幅や時期の検討で需要家が認容せざるを得ない環境を作りやすい。輸入価格高騰に伴う物価対策なら、国民にとり現行システムより公益事業体制のほうが分かりやすい。

8,既述したように企業・個人の適応軽視、不満対応の政策は、方向を歪め、経済の展開を遅らす。企業は水膨れのまま、消費者は環境適応できない状態を現出する。経済論的には、電気料金引き下げの補助金が、なぜ必要なのか首を傾げる。また中長期的影響も懸念される。まして電力自由化・市場重視の下では、さらに意味不明である。

適切な対応とは何か。縮小均衡調整の下で、企業は、新価格に対応した適応を図る。合理化を進め、創意工夫を行う。個人も消費行動の合理化を模索する。政府のあるべき施策は、一時的な緩和策でなく、スムーズな適正な価格転嫁とその監視であろう。企業・個人の新環境への適応を促進することこそ、経済的ショックへの適切な対応である。また電力システムの在り方として、海外ショックへの対応では、公益事業体制が優れているようである。現システムの見直しこそ必要である。輸入価格高騰というショックは、臥薪嘗胆とまではいかなくとも、資源少なく人多い日本列島の現実を考えて対応すべきである。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

都の太陽光義務化に「反対」 中止撤回求める動き活発化


「新築住宅への義務化の動きは、国際社会の潮流だ」。

東京都の小池百合子知事は9月20日、都議会の所信表明で太陽光パネルの新築住宅設置義務付けに意欲を示した。12月の議会で関連条例案が可決すれば、2025年4月から施行される。小池知事は都内のCO2排出量の7割超が、建物のエネルギーに起因していると説明し、再生可能エネルギー普及を進めたい構えだ。

しかし、制度案のパブリックコメントでは41%が反対し、設置の費用面や太陽光パネルの廃棄による環境破壊の懸念に多くの意見が集まっている。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は「中国政府によるジェノサイドや人権弾圧に加担し、国民都民の負担が巨額に上り、水害時には人命が失われる恐れもある」として、都の太陽光パネル義務付けに反対。条例案の中止撤回を求める請願書を提出した。現在は上田令子都議による請願書への署名活動が行われている。

小池都知事は都議会で「大都市の強みである屋根を最大限活用することで、地産地消のエネルギー源の確保につながる」と意義を強調したが、都民負担や災害時の対策についての言及は控えた。誰のための太陽光義務化なのか。

パネル設置の弊害は語られず……

エネ価格・需給危機で四苦八苦の欧州 エネルギー市場の分断と混乱は続行


【識者の視点】山本隆三/常葉大学名誉教授

ロシアへの経済制裁とその応酬が続き、EU内、さらには世界的にエネルギー市場の分断と混乱が起きている。

この状況は2023年も継続の可能性が高く、天然ガスに加え石炭への影響も注視する必要がある。

 ロシアのウクライナ侵攻前から始まっていた欧州連合(EU)諸国とロシア間のエネルギーを巡る綱引きは続いている。ロシアは制裁に対する報復として、EU向けの天然ガス供給量を昨年同期の10分の1以下にまで削減し、EU諸国が音を上げるのを待っている。

EUにとって、パイプライン経由が主体のロシア産天然ガスの輸入をすぐに断ち切ることは難しいが、ロシア産石炭の禁輸を8月10日から開始し、石油も年内に原則禁輸する。ロシアに渡る戦費縮小に努めているが、2月24日の開戦以来、10月中旬時点で、EUは既に1000億ユーロを超える額(約15兆円)をロシアに化石燃料代金として支払っている。

ロシアは原油・石油製品、天然ガスでは世界一の輸出国だ。BP統計によると2021年の世界貿易に占めるシェアは、それぞれ12%、20%。石炭は世界3位だが輸出市場の寡占化が進み、ロシアが占めるシェアは約20%ある。

ロシア産化石燃料は、EUのエネルギー供給の約2割を占める。エネルギー資源大国ロシアを代替する燃料調達は容易ではないし、大きな価格上昇を招くことになった。エネルギー価格の高騰に直面し天然ガスも十分に使えない欧州市民が厳しい冬を迎える中で、EUは天然ガス消費量節約に力を入れている。例えば、ドイツは閉鎖予定の石炭火力を継続利用し、褐炭火力を再開。船上設置の石油火力設備も準備しており、石炭と石油で天然ガスを代替する構えだ。オーストリア政府は「ミッション・イレブン」と呼ぶ11%のエネルギー節約キャンペーンを行う。

ガス削減に努めるEU 世界市場から露産の大半蒸発

ロシアからの化石燃料が欧州において大きな地位を占めたのは、皮肉なことに欧州諸国が脱炭素を進めた結果だ。欧州では国内炭鉱の生産量が減り石炭消費も減少していたが、パリ協定により脱石炭が加速し、天然ガスの利用量が増えた。EU内では天然ガスの生産量も減少していることから、ロシアからの輸入増とロシア依存度の上昇を引き起こした。

EUではロシア産ガス途絶への懸念が高まる

EU内の化石燃料生産減に伴いロシアからの輸入シェアは上昇し、21年の石炭、天然ガス、石油のシェアはそれぞれ52%、46%、26%に達した。ロシアの侵略開始後、EUはロシア産化石燃料の削減に努め、今年の第2四半期の石炭、天然ガス、石油の輸入に占めるロシアシェアは、それぞれ46%、26%、21%と下落した。削減が困難とみられていた天然ガスの削減が目立っているが、それが可能であったのは、米国産LNGの供給が増えたことが大きい。ロシアからの供給の落ち込み分をLNG供給がほぼ補う形になっている。ただし、ロシアはノルドストリーム1経由の供給を8月末から停止するなど供給減を強化しており、9月以降EUの天然ガス輸入量は昨年同期を下回っている。

EU諸国は天然ガス消費抑制にも努める。今年1~9月の対前年同期比の消費量は、フィンランドの53%減を筆頭に、ドイツ11%減などEU全体では7%減を実現している。そして各国とも冬季に備えた天然ガスの貯蔵量増に努めた結果、10月中旬時点でEU合計貯蔵能力の92%、3・3カ月分のストックを確保している。

欧州諸国は、石炭、石油においてもロシア依存度が高いため、他ソースからの購入量を大きく増やさざるを得なかった。米エネルギー省によると、21年にEUがロシアから購入した原油は日量233万バレル、石炭6250万tだ。この代替は簡単ではない。

一方、ロシアはEU市場に代わる購入者を見つけられていない。中国、インドに値引きして販売するものの、EU市場の代替になる数量ではない。要は、世界の化石燃料市場からロシア産化石燃料供給量のかなりの部分が蒸発する形になり、需給バランスは大きく崩れ、価格上昇が引き起こされた。

エネインフレでドイツに批判 ガス価格23年も上昇の可能性

EU内では、エネルギー問題を巡る分断がみられる。各国が化石燃料調達を競ったため、エネルギー価格は大きく上昇しインフレを引き起こした。多くの国は、ロシア依存度が約30%と高いドイツがエネルギーを買いあさっていると見ている。加えてドイツは2000億ユーロ(29兆円)の資金を調達し、ガス・電気料金の抑制を行う政策を9月末に発表したところ、資金調達能力を持つドイツの産業界のみが不当な競争力を付けると周辺国から非難を浴びた。

また、17カ国以上のEU加盟国は、天然ガス調達価格に上限額を設ける提案を行ったが、ドイツが「EU以外の国が高値で天然ガスを購入し、EUは数量を確保できない。消費削減意欲も削ぐ」と主張し反対したと報じられた。ドイツは天然ガスの共同購入を提案し、この方向でまとまることになりそうだ。EU内での競合を避けることは可能だが、アジアの需要家との競合は残ることになる。EUの天然ガス価格は、ロシアがノルドストリーム1からの供給停止を通告した8月末にはLNG換算1t当たり5000ユーロを超えた。10月中旬時点では多少落ち着いたが、それでも2000ユーロを超えている。アジア市場とは異なる動きを見せている。

EUでは、来年ロシアが天然ガス供給を途絶するとして「天然ガス2023年問題」が注目を浴びているが、石炭にも注意を払う必要がある。代替として石炭の使用量が増える中でロシアからの禁輸が始まったため、EU諸国はロシア炭と品位が似ている豪州、南アフリカなどからの買い付けを増やしているが、脱石炭により投融資が細った石炭の増産能力には限りがある。石炭価格は9月初旬、史上最高値を付け、その後は南アフリカの港湾ストもあり、1t当たり400ドル前後で推移している。

23年、化石燃料価格は高止まりし、物価、世界経済に大きな影響を与える可能性が高いと見た方がよいだろう。EU内の分断が意思決定に与える影響も注視する必要があるが、日本の発電量の3割を占める石炭の価格が日本経済に大きな影響を与える可能性があり、足元の心配もしなくてはならない。

やまもと・りゅうぞう 京都大学工学部卒、住友商事入社。2010年富士常葉大学総合経営学部教授。21年から現職。国際環境経済研究所所長も務める。

【マーケット情報/11月4日】原油混迷、方向感を欠く値動き


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物と、北海原油の指標となるブレント先物の価格が上昇。一方で、中東原油ドバイ現物は下落。経済見通しを背景に、強材料と弱材料が混在し、方向感を欠く値動きとなった。

米国の10月における非農業部門の雇用者数は、市場の想定を上回って増加。ただ、増加幅は2020年12月以来の最低を記録した。また、前月から失業率も上昇している。米連邦準備理事会による金利引き上げの影響とみられており、今後は引き上げのペースが落ちると予測される。これにより、経済の冷え込みに歯止めがかかり、石油需要が回復するとの見方が台頭した。

また、米国では製油所の稼働率が上昇。週間原油在庫の減少につながった。さらに、OPECプラスは2025年の石油需要予測に上方修正を加えた。

一方、中国一部地域における新型コロナウイルスの感染再拡大とロックダウンは、価格に対する下方圧力として働いている。経済減速や移動制限にともなう石油消費の減少が懸念されている。米ゴールドマンサックスは、中国経済の完全開放は来年夏になるとの見通しを公表した。

また、ノルウェー、ヨハン・スベルドラップ油田の出荷は、12月、過去最高となる見込みだ。加えて、米国は戦略備蓄(SPR)1億8,000万バレルの放出を完了。米バイデン大統領は、今後も必要に応じてSPRを放出するとしている。

【11月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=92.61ドル(前週比4.71ドル高)、ブレント先物(ICE)=98.57ドル(前週比2.80ドル高)、オマーン先物(DME)=92.24ドル(前週比0.01ドル安)、ドバイ現物(Argus)=92.28ドル(前週比0.40ドル安)

サステナブルな「良い企業」に光を 非財務情報の比較ツールを提供


【エネルギービジネスのリーダー達】平瀬錬司/サステナブル・ラボ代表取締役CEO

学生時代から一貫して社会課題の解決につながるビジネスの立ち上げに携わる。

現在は非財務情報のデータバンクで持続可能な「良い企業」を照らす仕組みづくりを進める。

ひらせ・れんじ 2008年大阪大学理学部卒。在学中から環境、農業、福祉などサステナビリティ領域のベンチャービジネスに環境エンジニアとして携わる。2社の事業売却を経験した後、19年にサステナブル・ラボ設立。京都大学ESG研究会講師。

 ビジネスでサステナビリティを重要視した対応が、企業価値の向上に直結するようになってきた。ことに日本では気候変動など非財務情報の開示に関する取り組みが進み、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同企業・団体数は世界の中でも群を抜いて多い。トレンドを踏まえて各社が千差万別の取り組みを展開しているわけだが、その情報収集や分析の仕方に悩む投資家も多い。こうしたニーズをくんだサービスを提供するのが、「非財務データサイエンス専門家集団」を称するサステナブル・ラボだ。2019年に同社を設立した平瀬錬司代表取締役CEOは、社会課題解決を目指す若手起業家として多くのメディアに取り上げられている。

いかに「世の中にとって良い取り組み」を行う企業にスポットが当たり、評価される仕組みを作り出すか―。これは大学在学中から起業し、さまざまなベンチャービジネスに関わってきた平瀬氏が持ち続けているポリシーだ。農業や介護、地域活性化、営農型発電などさまざまなビジネスで成功体験も苦い経験も重ねていく中で、ESG(環境・社会・統治)やSDGs(持続可能な開発目標)がこれからの金融のトレンドとなり、企業活動を左右する重要な要素になると確信するように。企業の非財務情報に関するデータプラットフォームを提供するサステナブル・ラボを立ち上げた。

欧米と異なる価値観 多様性を意識

同社が開発した企業の非財務情報データバンク「TERRAST(テラスト)β」は、ビッグデータを解析し、金融機関や機関投資家の判断材料として有用な情報を提供するものだ。国内2000社、海外1000社以上を対象に、約700~800項目もの詳細な個社情報や、取り組みの総合スコアなどを比較できる。同社の事業について平瀬氏は「いわば企業のサステナビリティ健康診断ツールを提供している」と説明する。顧客は、大手金融機関が20社超、自らの取り組みの評価や改善を目指す事業会社は上場企業だけで30社超となっている。

意識するのは、価値観の多様性だ。気候変動のトレンドでは、欧米の理論に基づく価値観が主流派となり、異なる価値観を拾い上げにくい傾向がある。日本もこれまで、欧米主導のルールを受け入れて対応が後手にまわる状況が続いてきた。こうした潮流を巡っては、欧米の一神教文化がその背景にあると指摘する意見もある。

世界的にもまだ珍しい非財務情報のデータバンクビジネスにおいても、海外企業のサービスでは評価の指標は一つになりがちだという。一方、平瀬氏は今必要とされるのは価値観の多様性であるべきだと強調する。「複雑な社会課題を解決するための『良い企業』を判断するためには多種多様な観点が求められるはずで、これは日本の八百万の神々を信仰する文化にも通じる」。多様性に加え、非英語圏の情報を豊富に扱うことで、海外の同業他社との差別化を図っている。

世界エネルギー危機勃発 それでも長期トレンド揺るがず

2月下旬、ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことで、世界情勢は一変した。エネルギーを巡っては、以前から化石燃料投資が急激に先細っていたところにロシア有事が重なった。停戦の見通しはつかず、かなりの長期化の気配が漂う中、天然ガスや石炭の価格高騰や供給不安は高まるばかりだ。

ロシアが経済制裁への報復として化石エネルギーを武器に使い、輸入国の安全保障が脅かされる中、サステナブルな投資活動にブレーキがかかることが懸念されはしないのか。「短期的にマイナスの影響が出ることがあっても、あらゆる投資活動にESGなどの観点が組み込まれていく方向性を疑う余地はない。非財務情報のデータバンクといったサービスは、必ず今後のビジネスに不可欠なインフラになる」。未曽有のエネルギー危機が世界を襲ってもなお、社を立ち上げる原動力となった「将来の金融トレンド」への確信は揺らがないと言い切る。

「これまでの経済学は、環境問題などの外部不経済の要素を排除してきた。しかしこうした古典経済学だけでは社会がうまく回せないことに皆が気付き始め、現代経済学の概念が浸透し始めているように感じている」。そう語る平瀬氏のビジネスのモットーは、「論語と算盤」ならぬ「ロマンと算盤」だ。まずはロマン=社会課題の解決が先に存在し、そのために必要な算盤=データバンクをつくる。それを世に広めることが同社の掲げるビジョンだ。「非財務価値を組み込んだ新たな経済システムへのパラダイムシフトの一翼を担っていきたい」と語る。非財務情報のデータ・ハブを目指し、まずは国内のパイオニアとして、ゆくゆくは海外市場にも食い込むべく、ビジネスのブラッシュアップや人員増強を進める構えだ。

LNGひっ迫回避へ法改正 業界側は効果を疑問視も


LNGの需給ひっ迫回避を目的とした関連法案(ガス事業法改正案と石油天然ガス・金属鉱物資源機構=JOGMEC=法改正案)が10月14日閣議決定され、臨時国会に提出された。

急激な需要の増加や調達のトラブルなどで深刻な需給ひっ迫が発生した際、経済産業相が大口需要家に都市ガス使用制限を発令したり、緊急のLNG調達をJOGMECに要請できるようにする。興味深いのは、業界側から聞こえてくる声の多くが、今回の法改正の効果を疑問視している点だ。

とりわけJOGMECへの調達要請を巡っては「必要量が確保できない民間に代わって、政府が調達を主導しようというわけだが、そんな有事にビジネスにうといJOGMECが力を発揮できるとは思えない」(大手電力関係者)、「実際にはJOGMECの裏で、JERAや大手商社あたりが動くことになるのだろう。結局大変な思いをするのは、われわれ事業者ではないか」(大手都市ガス関係者)などと見る向きがある。

ロシア、米国、豪州、マレーシア―。今、LNG輸出国はさまざまな不安要因を抱えており、供給体制は盤石とは言い難い。改正法が発動されるような事態が起きないことを願うばかりだ。

政府は緊急時のLNG調達に対応できるか

国内最大級の陸上風車14基を有する ノウハウを注いだ一大プロジェクト


【関電工】

 北海道北部で、関電工は複数の風力発電所の建設工事に携わっている。その中の一つ「浜里ウインドファーム建設工事」の工期が残すところ約6カ月となった。北海道稚内市から約40㎞南に位置する天塩郡幌延町浜里地区に、出力4300kWの風車を14基設置し、北海道電力へ売電する計画だ。

同社は調達(風車を除く)設計・施工を実施している。建設工事に先立つ設計業務として、地形測量や地質調査、変電所機器の選定などを行った。調査結果を踏まえ、発電機の基礎設計のほか、風車のパーツを陸上輸送するルートの選定や送電のための電線路の電気設計やルート選定、変電設備設計など、全体の設計を行う

国内最大級の陸上風車 蓄積した知見を注いだ施工

浜里ウインドファームの工期は3年2カ月ほどだが、準備・設計期間を含めると、約8年がかりのプロジェクトだ。着工した2020年には造成工事に着手。21年には風車の基礎工事、変電所の基礎や電線路などの工事、現在は風車の据付工事を行っている。23年3月までに試験運転を完了し、4月に竣工する予定だ。

同発電所は中央に管理用道路を設け、その両側に風車を配置する設計となっている。風車は海外製で、タワー(円柱)とナセル、3枚のブレード(羽根)で構成される。ハブ(羽根の中心)の高さは地上から85m、ブレード1本の長さは63mだ。社会インフラ統轄本部再エネプロジェクト部長の久松克也氏は「陸上用風車としては現在、国内で最大級」と話す。

地組したブレードをクレーンで据付

風車はパーツごとに海外から輸送され稚内港に到着し、特殊車両で陸送される。タワーを4分割で組み立てた後ナセルを上架、ブレードを地上で組み合わせる地組を行い、クレーンで据付する。組み立てには1基に7日ほど要する。

巨大な風車を支えるのは、地中に設けられた基礎だ。約20mの長さの基礎杭を打設し、基礎杭の上に鉄筋を組み、コンクリート基礎を構築する。基礎以外にも、地中に建設された設備がある。電線路だ。浜里ウインドファームの14基合計の発電出力は6万200kW。発電した電力は変電所に送電され、売電される。送電ケーブルの長さは33㎞にも及び、電線路は全て地中に埋設。周囲環境とメンテナンス性などを考慮すると、当該エリアではベストな手法だという。

関電工は、同発電所の建設位置に隣接する豊富町に拠点事務所を設置。当該工事を含め、40人強の職員が複数件の発電所建設に従事している。

同社が長年蓄積してきた風力発電所のノウハウと、設計・施工・メンテナンスを一貫したエンジニアリング総合設備企業としての強みを注ぎ込んだ浜里ウインドファーム。その完成に期待が高まる。

原子力の「羅針盤」を刷新 安定供給で果たす役割重視


【インタビュー】上坂 充/原子力委員会委員長

うえさか・みつる 1985年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2005年同大学院工学系研究科原子力専攻教授。20年12月から現職。

原子力利用について「羅針盤」の役割を果たす「基本的な考え方」の策定を行っている。

エネルギー安定供給、温暖化防止などの観点から原子力発電の重要性を明記する考えだ。

 ―原子力委員会が5年ごとに行っている「原子力利用に関する基本的考え方」の策定が今年、行われます。現在、各分野の専門家などからヒアリングを行っている。5年前と比べてエネルギーを巡る国内外の情勢は大きく変化しています。どういう点に留意していますか。

上坂 ウクライナ侵攻により世界規模でエネルギー危機が深刻化し、日本でも電力需給のひっ迫、料金値上げなどが起きています。一方、豪雨などの異常気象が頻繁に起こるようになり、地球温暖化問題への対策も急ぐ必要があります。当然、そういった状況を踏まえて、原子力の果たす役割について議論を深めていきます。

 エネルギー以外の分野での利用にも留意しています。原子力は医療、工業、農業の分野でも重要な役割を果たしています。福島第一原子力発電所の事故で国民の原子力に対する信頼は大きく損なわれました。そういった非エネルギー分野で果たしている役割を示すことは、国民の信頼回復にもつながると考えています。

―8月24日のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議において、岸田文雄首相は安全性の確保を大前提に、①原子炉設置変更許可を取得した原発の再稼働、②運転期間の延長など既設原発の最大限の活用、③次世代革新炉の開発・建設―などについて年末に結論が出るよう検討を加速するよう指示しました。

 指示を受けて経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で具体的な方策について検討が進んでいます。

最大限の活用・運転期間延長は重要 利用と規制それぞれに進言

上坂 8月のGX実行会議での議論については、9月13日の原子力委員会の会合で資源エネルギー庁から報告を受けました。その場で、エネルギーの安定供給、カーボンニュートラルの観点から、既設の原子力発電所の最大限の活用、また運転期間の延長などは重要であると申し上げました。

 しかし、安全性の確保が大前提であることから、原子力の利用と安全規制の側がそれぞれの立場で今後の在り方を検討することも重要であると申し上げています。資源エネルギー庁は原子力利用の立場、原子力規制委員会、原子力規制庁は安全規制の立場でそれぞれ検討していただきたい。

 資源エネルギー庁には、検討した結果を委員会に報告するよう求めています。また、原子力規制委員会とは意見交換の場を持ちます。原子力政策を進めるのに当たり、原子力発電の効率的な利用と安全性の確保は、両立させる「解」を見出さなければなりません。原子力委員会は俯瞰的、中立的な立場から発言ができますから、解を見出すのに調整の役割が果たせると思っています。

―資源エネルギー庁が検討結果をGX実行会議に報告し了承されるのと、原子力委員会の基本的考え方の委員会決定はどちらが先になりますか。

上坂 資源エネルギー庁の検討結果の報告を受けてGX実行会議では決定などがなされると思いますが、当然、原子力委員会の基本的考え方を策定する中での検討、もしくは委員会での取りまとめの結果も踏まえていただけるものと考えています。

 GX実行会議は年内に方向性を決めると聞いています。基本的な考え方もそれに合わせて、年内に取りまとめを行おうと考えています。しかし、どちらが先になるかは決まっていません。

基本法での役割を重く認識 エネ庁の検討結果に意見も

―原子力利用の在り方は、本来は原子力委員会がリードして行うべきものではないですか。

上坂 現行法の中では、エネルギー基本計画の策定など、原子力を含めてエネルギーの利用などは経産省が検討することになっています。そういう役割分担はありますが、原子力基本法で示されている役割も重く認識しています。

 ですから、資源エネルギー庁での検討結果をうのみにする気はありません。意見は申し上げます。原子力委員会の重大な使命は原子力の利用について俯瞰的視点から中立的な立場で議論を行い、意見を述べ必要なことを決定することです。資源エネルギー庁がカバーできない点を指摘していくことは、われわれの役割です。

―具体的には。

上坂 東京電力柏崎刈羽発電所で、所員がIDを不正に使用するなどセキュリティーの面で不祥事が起きています。福島第一原子力発電所の事故から11年がたち、安全文化はかなり醸成されたと思っています。しかし、そういった不祥事が起こり、またロシアのウクライナ侵攻を見て分かるように、海外からのサイバー攻撃などの心配も出ています。

 原子力委員会には外務省出身の佐野利男委員がいます。原子力セキュリティーには国際的な取り決めがあり、国際原子力機関(IAEA)などの勧告があって、各国が規制を行います。それらについては佐野委員が国内の動向をチェックしています。

 非エネルギーの分野で原子力利用は約4・5兆円の規模の産業になっています。その軸になるのは診断・治療薬など薬剤の開発です。これはエネルギー基本計画を超えた分野であり、原子力委員会が中心になり進めるべきことです。

―基本的な考え方で、原子力発電についてはどういう記載になりますか。

上坂 わが国は50年カーボンニュートラルを目指しますし、同時に豊かな生活も守らなければなりません。そのためには、まずエネルギー基本計画にある30年のエネルギーミックスを堅持することが大切であり、50年を考えた場合は、安全の確保は大前提ですが、運転期間延長、革新型炉などの新増設・リプレースの検討が必要なことは明白だと思います。基本的な考え方の中では、今後の原子力発電の在り方について具体的な内容は記載しませんが、エネルギー安定供給の中での重要性は明記する考えです。

聞き手:佐野 鋭

風雲急告げる革新炉開発 大型を軸に官民の動き加速


革新炉開発を巡り、政府・民間の動きが加速している。

まずは政府―。経産省は7月26日に開催された総合資源エネルギー調査会(経産省の諮問機関)原子力小委員会の革新炉ワーキンググループ(WG)で配布した資料で、革新軽水炉から核融合炉までの技術ロードマップを提示。あくまでたたき台に過ぎないが、同WGの黒崎健座長は本誌の取材に対し、「大きな一歩だ。いろいろな物事が動き出すキッカケになるのではないか」と期待を寄せる。

高温ガス炉も有望視されている(高温工学試験研究炉)

9月26日には経産省が高速炉開発会議の戦略WGを開催し、「戦略ロードマップ」の改定案を提示した。2023年夏には炉概念の仕様と中核企業を選定する。

次に民間―。同月29日、三菱重工が関西電力など電力4社と120万kW級の革新軽水炉「SRZ―1200」の共同開発を発表した。30年代半ばの実用化を見込む。三菱重工はこれまでの加圧水型原子炉(PWR)のプラント技術を基本に、19年から革新軽水炉の検討を開始。概念設計が完了し、基本設計が固まってきたタイミングでの発表となった。担当者は「世界最高水準の安全性に加え、既設炉(新規制基準への対応費を考慮したもの)と同等のコスト実現を目指す」と語る。

専門家は革新炉開発について、革新軽水炉と高温ガス炉が有望とみる。ともに大型で、前者は技術成熟度が高く、後者は700℃以上の熱を取り出し水素製造が可能だ。一方、小型モジュール炉はスケールメリットが小さく、「大規模リプレースが必要な日本には向かない」(大手電力関係者)と見る向きも。やはり現実的なのは、革新軽水炉の建設計画に大手電力が共同出資する形か。

派遣。夏場の電力不足回避のため大飯3・4号機の再稼働を実現させた。来年4月に統一地方選が控える中、果たして岸田首相は重い腰を上げるのか。

日本原子力産業の瀬戸際 規制と利用政策の峻別を


【インタビュー】鈴木淳司/衆議院原子力問題調査特別委員会委員長

すずき・じゅんじ 早稲田大学法学部卒。瀬戸市議会議員を経て2003年衆議院議員(当選6回)。経済産業副大臣、自民党副幹事長、総務副大臣などを歴任。

GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を機に原子力政策の見直しが進み始めた。

原子力問題のキーマンとなる自民党の鈴木淳司衆院議員に直面する課題や今後の展開を聞いた。

 ―岸田文雄首相が原子力で政治決断すべき項目を示すよう指示し議論が動き始めた時機に、衆院原子力問題調査特別委員長に就任しました。

鈴木 首相発言は政策転換と報じられましたが、むしろ決意表明でしょう。ロシアのウクライナ侵攻と世界的なエネルギー危機のインパクトは絶大で、世界も一気に原子力政策の見直しに動き始めました。日本はこの10年間、新規制基準を打ち立てましたが、いまだに再稼働が10基という状況は看過できません。規制と利用は表裏一体ではあるものの、それぞれの役割を正しく認識することがまず重要です。同特別委員会の基本的役割は規制の監視であり利用政策ではありませんので、それを踏まえた安全規制の在り方を論じたいと思います。利用政策も含めた問題としては、福島第一原発事故後、その反省からか日本の原子力は「角を矯めて牛を殺す」ような状況に陥りました。世界的に原子力回帰が進む中、どこも単独で原子力推進の総合力を持ち得ず、日本への期待も示されています。日本では再稼働における規制審査の長期化が課題の一つですが、5月に党の原子力規制に関する特別委員会がまとめた提言でも、規制を緩和すべきとは主張していません。原子力規制の本分は炉を止めることではなく、いかに安全に動かすかであり、長期間稼働しないリスクを考えるべきで、「規制の最適化」の観点が必要です。

運転延長問題に新展開 まずは国家の意思表示から

―原子力規制委員会の10月5日の会合で、経済産業省は利用政策の観点から運転期間延長を検討する方針を表明。これを踏まえ規制委は高経年化した原発の安全性をどう確認していくか、法的な枠組みの検討に入る意向です。

鈴木 2012年に原子炉等規制法を改正し40年・60年ルールなどを設けたのは当時の政治決断でした。条文規定がある以上、法改正は必要ですが、これは原子力の利用政策であり規制側から言うべき話ではありません。かねてわれわれが注目してきた点は、利用政策は経産省、安全規制は規制委と規制庁の所管で、この峻別の重要性です。その上で経産省が利用政策の観点から運転期間などの方針を明示し、規制側は安全性の厳格な審査に徹する。そして原子力委員会は国家的観点から総合調整に務めるべきでしょう。従来この点が曖昧で、ともすれば原子力を巡る諸課題に腹を据えて向き合ってこなかった国に、反省すべき点は多いと思います。個人的には40年・60年という運転期間のタイミングに技術的・本質的な意味はなく、一定期間ごとの検査で合格すればその先も使えばいいし、世界的にも定期的な安全性確認の上で長期運転を進める流れになっています。運転停止期間のカウント問題も、安全規制の観点からは、その間の中性子照射脆化の有無だけではなく、他の経年劣化の状況とともに、検査時点での徹底した安全性判断に置き換え得るものかと思います。

―新規制委員長の山中伸介氏への期待は。

鈴木 山中新委員長は原子力プラントの第一人者ですから、厳格ではあるが安全に動かすための最適な規制の在り方を追求してほしい。特に規制側と事業者側がうまくコミュニケーションを取り、互いに安全性を高め合わなければなりません。事業者側も待ちの姿勢ではだめで「こういう工夫で安全性が高まるのではないか」という提案もしてほしい。自社の炉の特性に一番詳しいのは事業者のはずですから。

待ったなしのタイミング 17+19基の再稼働に道筋を

―再稼働では東日本、特に東海第二や柏崎刈羽に関して政府が前面に立つとしています。

鈴木 30㎞圏内のUPZ(緊急防護措置計画範囲)に94万人の住民が住む東海第二に関する一番の課題は避難計画。各市町村任せにせず、計画づくりを含めて国の関与が重要です。もう一つ、法的な決まりではないが、事業者が約束した周辺自治体の事前了解の問題もあります。首相や経産などの担当大臣はもちろん、場合によっては、規制委員長も地元立地地域で審査状況などを丁寧に説明することも必要でしょう。柏崎刈羽については、核物質防護の不備が発覚した東電への地元の不信感がすぐ回復するとは思えませんが、まずは国が再稼働にコミットし、東電の信頼回復に向けたサポートを続けるべきです。また、三つの検証結果が出るまで再稼働を議論しないと言う新潟県に対しても、政府の各責任者が説明を尽くすことが重要です。

 加えて、長年多くの事業者が新規開発に携わっていない事態は憂慮すべきです。新設・増設・リプレースと、それぞれに必要な施策の整理も必要でしょう。ただ、新増設・リプレース、さらには将来的な革新炉開発も重要ではあるものの、喫緊の課題は既設原発の再稼働を着実に進めることです。一部メディアは経年原発を「老朽原発」と称しますが、交換できない圧力容器や格納容器等以外の配管などの設備は適宜交換された、いわば「リニューアル原発」で、そうした概念の浸透も重要です。国民の理解を得て再稼働が進んだ先で、新型炉への転換など将来的な課題に対応できるようになるかと思います。

―ついに諸問題の解決の道筋がつきますか。

鈴木 再稼働済みと設置変更許可済みの17基に加え、それ以外の19基稼働の道筋を付けられなければ、日本は産業がさらに衰退し、国力を失う瀬戸際にいます。厳しいエネルギー制約下であっても、原子力は他国に左右されない貴重な自前電源です。新規制基準により安全性は格段に高まっており、丁寧に説明を重ねていけば多くの国民に理解されるはずです。実際、若い世代を中心に原発の必要性を認める人は確実に増えていると感じます。エネルギー安全保障と脱炭素社会への転換の鍵たる原子力の活用について、今こそ政治はしっかりとメッセージを発して基盤整備に努める。ただしその安全性については、独立した規制当局が厳しくチェックの責任を果たす。原子力の安全確保と利活用に努めていきます。

聞き手:井関 晶

電気・ガス・水道のデータ利活用 自治体のインフラ整備へ連携


【中部電力】

 中部電力は9月26日、静岡県湖西市や豊橋技術科学大学、サーラエナジー、東京設計事務所、第一環境の6者で、電気やガス、水道の検針データ利活用を検討・推進する包括連携協定を結んだ。調印式には6者の代表が参加。産学官の連携としては全国初となる。

中部電力など6者の代表者が調印式に出席した

インターネットとさまざまなものがつながる「IoT」の技術発展に伴い、水道などの検針値がデジタル化され、多くのデータ取得が可能となった。データ利活用による地域基盤の安定や市民生活の安定に、今回の協定が貢献すると期待されている。

湖西市では、市による各種データや地域の課題、市民のニーズなどの情報を提供し、中部電力が電力、サーラエナジーがガス、第一環境が水道と、各分野における検針データを集約する。豊橋技術科学大学が研究成果から助言・提案などを行い、東京設計事務所はコンサルティング、プランニングで協力支援を行う―など6者が協力。提供を受けたビックデータをもとに、AI(人工知能)・IoTの最新技術を活用して、湖西市のサービス向上やインフラ維持の効率化を目指す。将来に向けて産学官の連携協力による「電気ガス水道検針データ等利活用促進会議」を11月にも立ち上げて、データ利活用の施策立案につなげていきたいとしている。

連携期間は25年3月まで 需要予測や見守りに活用へ

連携の期間は調印した9月26日から、2025年3月31日までとなっている。具体的なデータを利活用する方法としては、AIによる電気、ガス、水道の将来需要の予測や、高齢者世帯などの生活パターン推定を行い、見守りやフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)の予防に向けたサービス提供を想定している。情報提供の分野では、検針作業や管工事など、スマートフォンアプリを用いて情報を見える化し、各社共同で一元化するサービスも検討する。10月からは、水道の時間別料金制度を検討する国内初の実証実験も開始した。

地方自治体では、少子高齢化に伴う人口減少が水道事業などの経営に悪影響を及ぼしている。今回のビックデータ利活用の検討は、事業の経営合理化や需要の予測に重要な役割を持つとされる。中部電力ではスマートメーターの普及が進んでおり、通信機能を備えた機器の導入、データ集約に知見を持つ。湖西市と同様の取り組みは今後、全国の自治体でも加速すると言われており、中部電力の経験がこれからのビックデータ利活用を推し進めていく。

原発運転延長ルール見直し 炉規法と電事法束ねで改正へ


原発の運転期間「40年・60年ルール」を巡り動きがあった。10月5日の原子力規制委員会の会合で、経済産業省の松山泰浩電力・ガス事業部長が運転期間の上限見直しや、長期停止期間を運転期間から除外する「カウントストップ」について、利用政策の観点から法的整備を進める考えを説明。これに対し山中伸介・規制委員長は「利用政策側の判断でなされるべきもので、規制委から意見を言うことはない」「(原子炉等規制法の運転期間に関する記述の)その部分は抜け落ちることになるかと思う」と述べた。

経産省が規制委会合で説明した10月5日、記者会見する山中伸介・規制委員長(提供:朝日新聞社)

現行規定は福島事故を受け、2012年に旧民主党政権が炉規法改正を提案し、全会一致で成立。それまでは運転期間の上限はなく、高経年化対策として運転開始30年以降に適宜安全性をチェックする方針だった。

今後の法改正はどう進むのか。「改めて運転期間は安全上の規制で決めるものではなく、利用政策であり、経産省が電気事業法に書き込むと線引きした」(政府関係者)。来年の通常国会で、炉規法と電事法の改正が束ね法案として提出される見通しだ。

焦点は電事法改正の中身。①運転期間は原則40年で、現状1回限りとしている20年延長を複数回できるようにする、②40年、60年ルールは踏襲し、ここにカウントストップの規定を加える―のいずれかになりそうだ。当然①の方が長期運転の可能性が高まり、経産省はこちらの方向で検討を進めると見られる。ただ、「公明党、特に創価学会婦人部に受け入れられない可能性があり、折衷案として②になる可能性もある」(同)。カギを握るのは岸田文雄首相の「政治決断」の本気度か。