【電力】負の価格導入を提言 再エネTFのミスリード

【業界スクランブル/電力】

再エネ等規制等総点検タスクフォース(TF)が6月29日、電力市場の下限価格を撤廃、負の価格を導入すべきとの提言を公表した。

負の市場価格は欧米では普通に許容されており、数%程度の頻度で価格はマイナスになる。一般的に、市場による需給調整を機能させるためには、価格の制約がないに越したことはないし、電力需要がそれに反応して増加すれば、再エネの出力抑制は減るだろう。ただし、それ以上の効果を安易に喧伝するのはどうも感心しない。

長期固定電源と通常呼ばれる原子力・流込水力・地熱に石炭火力を加えて「長期固定電源等」と呼び直してまで、石炭火力をやり玉にあげようとするのは、火力・原子力サゲと再エネアゲへ先鋭化したこのチームらしいが、優先給電ルールは書かれているような「電力過剰供給時も含めて、季節を問わず発電を続けさせることによって収益を確保させて、旧式の火力発電機を温存する」ものではない。

石炭火力は、再エネ発電が増えれば出力を抑制する。最低出力まで下げてしまえば、今度は再エネが抑制される。最低出力を維持して運転を継続するのが気に入らないようなのだが、これは太陽光が発電しなくなる夕方の需要ピークに備えるためで、収益を確保するためではない。

負の価格導入後も、需給バランス上必要な電源は最低出力以上の運転を継続するし、そのために必要な再エネの出力抑制は実施される。kW時市場からの収入が負の価格により細るなら、別手段(例えば容量市場)で補完するべきものだ。 今のFITの世界からFIPへ移行、加えて負の価格も解禁とくれば、再エネ発電事業者が直面する市場リスクも高まる。こうしたミスリードで過剰な期待を煽るのはいかがか。(V)

COP28の新たな火種 GST巡り対立激化か

【ワールドワイド/環境】

12月にドバイで開催のCOP28。最大の争点はグローバル・ストックテイク(GST)である。GSTとはパリ協定の目的および長期的な目標の達成に向けた全体の進捗状況評価であり、23年から5年おきに行う。COP28は初のGST実施だ。

GSTの評価対象は緩和、適応(ロス&ダメージを含む)、実施手段(気候資金、技術など)である。野心レベル引き上げにもっぱら関心を有する先進国はIPCC第6次評価報告書を踏まえ、「各国の目標値を足し上げても1・5℃目標が求める削減経路に足りない」というメッセージを打ち出し、25年に予定する各国目標見直しを野心的なものにしようと考えている。他方、途上国は「先進国からの資金援助、技術協力、ロス&ダメージ支援が足りない」というメッセージを打ち出したい。24年は新たな資金援助目標を決定する年にあたり、途上国は先進国が20年の目標数値である年間1000憶ドルすら達成できていないと非難する。事務局は30年までに途上国が緩和・適応に必要とする資金量を約6兆ドルと見積もり、途上国はGSTを使って24年の新資金目標交渉を有利に運びたい考えだ。

先進国としては、IPCC第6次評価報告書はIPCC総会で採択されたから、19年比で25年ピークアウト、30年43%減、35年60%減を盛り込みたいが、ことはそう簡単ではない。途上国の交渉戦略に理論的支柱を与える組織TWNはIPCCについて以下の批判的コメントを出した。

「IPCC第6次評価報告書第3作業部会は、提出された2425のシナリオのうち、1202のシナリオの一部に基づいて、世界の緩和経路の分析を実施している」「IPCCの著者がシナリオを選定しているが、その際、国連気候変動枠組条約の衡平性、共通だが差異ある責任とそれぞれの能力の原則の遵守が考慮されていない」「10地域分類を使用し、パリ協定の気温目標に対応し 、IPCC 第3作業部会で取り上げられたシナリオの衡平性評価を実施すると、全てのシナリオにおいて発展途上国の成長、発展、化石燃料、エネルギー使用を制約し、先進国・途上国間の不平等を永続化させる結果になっている」

途上国はIPCCのシナリオを是とせず、COP28ではGSTを巡り先進国、途上国が激突することになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

太陽光パネルの再利用 米企業で期待も課題は

【ワールドワイド/経営】

米国では、現在約1億4950万kWの太陽光発電が導入されているが、仮にこれが全て一般的な太陽光パネルで構成されているとすると、5億枚以上ものパネルが設置されているという試算になる。また、2022年に成立したインフレ抑制法の後押しもあり、米国内における太陽光の導入は今後も加速することが見込まれている。一方で、太陽光パネルの寿命は通常20~30年といわれており、この先急増する使用済みパネルの廃棄問題への関心も高まりつつある。

将来的な廃棄パネルの増加を見据え、一部の事業者はリサイクルの新規事業に乗り出している。22年に設立された太陽光パネルリサイクル事業者のソーラーサイクルは、設立後間もなく大手事業者との提携を発表しており、23年5月に米大手発電事業者のAESと、さらに6月には世界的な再エネ大手のオーステッドと、太陽光パネルのリサイクル・再利用に関する事業提携を発表した。

ソーラーサイクルは、独自の技術により、太陽光パネルに使用されている銀、シリコン、アルミニウムなどの貴重な材料を95%再資源化することが可能としている。なお同社は、23年4月に米国エネルギー省から150万ドルの助成金を受けており、現在は太陽光パネルに使用される資源をより効率的に回収・分離する技術の研究を進めている。

現状、米国で廃棄される太陽光パネルの約90%は埋立地で処分されているといわれている。これは、リサイクルした場合の資源の再販価格では、輸送を含めたコストを賄うことができず、埋立地で処理した方がはるかに安価であることが背景にある。一方で、米国では太陽光パネルの需要が伸び続ける中、対中貿易摩擦やパンデミックの影響によるサプライチェーンの問題が顕在化しており、新規太陽光パネルの原材料価格の上昇も懸念される。このような中、リサイクル事業はこれら課題の救済策となり得る。

調査会社のライスタッド・エナジーによると、米国内の使用済み太陽光パネルから回収可能な資源の価値は23年時点で1億7000万ドル相当であるのに対し、廃棄パネルの増加に伴い30年に27億ドル、50年には800億ドル規模まで増大することが予想されている。今後、リサイクル技術の向上や政府の支援など、さまざまな要因も相まってリサイクル市場が醸成されることで、埋立地への廃棄処分が縮小されるとともに、国内サプライチェーンの強化が期待される。

(三上朋絵/海外電力調査会・調査第一部)

サハリン2権益巡る情報戦 今夏の定期改修に注目

【ワールドワイド/資源】

サハリン2を巡っては、英シェルの撤退を受けて、2022年内にシェルが保有する権益を継承するロシア企業が選定されるはずだったが、現在に至るまで遅延している。

ロシア政府の本命は、ヤマルLNGを進める露ノバテクであることはほぼ疑いない。しかし、シェルとしては自身が依然として権益の保有者であり、対価を確実に獲得することに主眼がある。

また昨年6月の大統領令では、外資がもたらした損害に対して賠償を求めるとも読める内容が含まれ、ロシア政府がシェルに対して、罰金を科すような事態になれば、シェルは国際司法に場を移す可能性が高く、ノバテクからすれば、シェルとロシア政府との訴訟に巻き込まれるリスクが発生する。このことがノバテクによるサハリン2参画が遅延している理由と考えられる。

このような中、ノバテクが3月6日にサハリン2におけるシェルの権益取得に向けて、入札書類をロシア政府に申請。「非友好国」の非居住者(法人)に対してはロシアからの海外送金が時限的(現在は2023年9月30日まで)に禁止されている中で、シェルが保有するシェア分の売却対価の海外口座送金については、プーチン大統領が承認する方向にあるという報道が流れた。ノバテクにとってシェルによる国際訴訟を回避できる状況が整いつつあることが示唆された。撤退を志向するシェルにとっては、プーチン大統領が海外への送金を認める判断を下したのであれば、大きな一歩となるはずだった。しかし、現在に至るまで新たな情報は出てきていない。

サハリン2については、今後のオペレーションを占う上で重要なイベントが今夏に予定されている。2年に1度実施されることになる定期改修であり、液化プラント停止に伴って7月から8月にかけてLNG生産量も通常の3分1程度まで低下する。ロシアは昨年、ノルド・ストリーム定期改修時に欧米制裁を理由に供給を削減し、ガス価格高騰を演出した。サハリン2でもシェルの撤退や欧州制裁によってLNG機器が入手できないことを理由に、供給を削減あるいは停止することもできるだろう。ロシア産LNGの最大需要国である日本を揺さぶり、価格高騰によってロシア政府は歳入確保も可能となる。

今夏の改修はガスプロムが独自に行うという点もこれまでにない不確実性リスクであるが、同時にロシア政府がどのように行動するのか注視しなくてはならない。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【視察②】脱炭素への挑戦 資源活用模索の現場

【エネルギーフォーラム主催/北海道視察・団長印象記】

山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長

今回の北海道視察は大変印象的で学ぶことが多かった。北海道には洋上風力を含め莫大な再生可能エネルギー資源があり、原子力や天然ガス活用にも取り組んでいる。特に風力は洋上を含めて大きな資源ポテンシャルがあるが、道内にはそれを受け止めるエネルギー需要が不足している。鍵になるのは莫大な資源ポテンシャルを活用するための、需要側も含めたエネルギーインフラの整備だと感じた。

豊富町内の鉱山設備でガス事業について説明を受ける山地団長

北海道北部風力送電は、風力発電事業者が自ら設立・運用する送電会社で今年4月に操業を開始した。政府補助事業として複数の応募・採択があったが商用操業を達成したのはこの1社のみ。Y字型の約80㎞の送電線を建設して54万kWの陸上風力を北海道電力ネットワーク(NW)に連系する。24万kW×3時間の容量の蓄電池を持ち、風力と蓄電池の合成出力によって電力需給安定化のための「変動緩和要件(北電NWが設定)」を満たす。ビジネスモデルとしては、振替供給サービスとして発電事業者から対価を受け取る。変動性電源である風力を多数束ねて蓄電池と共に運用して安定電源として活用する供給側アグリゲータの一種として注目される。

なお、この送電線に連系する風力発電所の現場2か所も視察した。一つは建設工事中の芦川ウインドファーム、もう一つは操業中の川南ウインドファームである。いずれも4000kW級風車を採用し、芦川は風車31基で13万3000kW、川南は19基で8万2000kWである。工事中の芦川サイトでは、基礎工事段階の現場や85mのタワー、60mのブレードを強大なクレーン車で組み立てている様子を見て4000kW級風車の建設工事の巨大さを実感した。視察当日は快晴で風も強く、操業中の川南サイトでは風車が勢いよく回っている姿を間近で見てその迫力を感じた。

【視察①】課題先進地域・北海道のエネ事情 「脱炭素×ビジネス」の可能性を探る

【エネルギーフォーラム主催/北海道視察】

脱炭素時代に向け、再エネの高い導入ポテンシャルが期待される北海道。

小社は6月下旬「北海道カーボンニュートラル戦略視察団」を主催した。

本誌記者のレポートと団長・山地憲治氏の印象記で、視察の全容を紹介する。

視察団には、団長の山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長のほか、電力、都市ガス、再生可能エネルギー、商社、メーカー、コンサルタント会社などから13人が参加。6月25日から28日までの4日間で、北海道北部地域、石狩市、札幌市のエネルギー施設を視察した。

深度250mの地下坑道へ HLW処分技術を体感

最初に訪れたのは、北海道北部の幌延町に所在する日本原子力研究開発機構(JAEA)「幌延深地層研究センター」だ。高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分に関する最先端の技術研究が行われている話題の施設は、地上施設の研究管理棟や試験棟、来訪者に地下深部での研究内容を紹介する「ゆめ地創館」、そして地下の研究施設とで構成されている。視察団は二グループに分かれ、地下施設とゆめ地創館を見学し、地層処分への理解を深めた。

地下には、140、250、350mの3本の水平坑道が調査坑道として整備されており、2025年度に向けさらに深度500mに新たな調査坑道を整備する計画が進む。今回、視察団が視察したのは深度250mの坑道だ。

10万年間HLWを安全に地下埋設する技術を研究する

20年に北海道寿都町と神恵内村が最終処分地の選定に向けた最初のプロセスである「文献調査」に着手し、今後は「概要調査」「精密調査」が控える。この2町村に続く自治体も出てくる公算が高く、地層処分技術について実感を持って知ることができる同センターの存在は、ますます注目されることになるだろう。

そんな幌延町に隣接する豊富町は、油を含む珍しい泉質の温泉で知られる町だ。天然ガスが自噴し、町が公営事業者として町内の公共・民間施設に供給している。輸送費がかからないため、販売価格は1㎥41円程度と安い。ただ、そのほとんどを未利用のまま大気中に放散してしまっているということで、どう売り切りガス事業を黒字化させるかに町は苦心している。「ガスの生産量が多いようで少ない。このため、発電や町内への小売り供給など、費用対効果のある事業になかなか結び付かない」(商工観光課の鈴木優貴主査)のが実情のようだ。

日本は本当に遅れている? LGBTでマスコミ大騒ぎ

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

出羽守とは、「(『では』と『出羽』をかけて)『海外では』のように、他者の例を引き合いに出して語る人」(デジタル大辞泉)である。まさにこれだろう。

6月の国会で成立した「性的少数者(LGBT)への理解増進法」を巡る報道である。読売、産経以外は、5月に広島で開催されたG7サミット(主要7か国首脳会議)のころから成立まで、「日本は遅れている」と大騒ぎした。

5月22日朝日「広島サミット」は、「(20日に発表された)G7サミットの首脳コミュニケ(声明)には、ジェンダーに関する項目が設けられ、『あらゆる人々が性自認、性表現、性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受できる社会を実現する』と明記した」「ジェンダー平等をめぐっては、議長国である日本の遅れが国内外から指摘されている。日本はG7で唯一、国として同性カップルに法的な権利を与えず、LGBTに関する差別禁止規定もない」。

5月9日TBSもG7各国の差別禁止法の表を作り日本だけバツをつけた。他も似たりよったり。

読売6月18日社説「LGBT法成立、社会の混乱をどう防ぐのか」は真逆だ。「先進7か国(G7)で、LGBTに特化した法律を持つ国はない。LGBT法は、国際社会でも極めて特異な立法」と指摘し、「日本は最高法規で『法の下の平等』を定めている。LGBTに特化して差別禁止を定める理由は、見当たらない」と強く批判する。

出羽守たちの言説はどうも怪しい。衆議院法制局は5月、「G7でLGBTに特化した法律を持つ国はない」と自民党に説明。6月15日の参議院内閣委員会でも、外務省が有村治子議員(自民)の質問に同じ答弁をしている。

日本たたきの根拠は一体何だったのだろう。今後、LGBT報道は眉唾もの、と考えざるを得ない。

読売7月1日「OP技術で出典明示、『ネットの健全性高まる』」は、「台北で開かれた『世界ニュースメディア大会』で30日、読売新聞東京本社編集局長が講演。インターネット上の情報発信者を明示するデジタル技術『オリジネーター・プロファイル(OP)』が実用化されれば、『ネット空間の健全性は大いに高まる』と強調した」と書く。ネット記事や広告に発信者の信頼性を確認するための情報を電子的に付与する。

全国紙は全て参加しているという。期待したいが、何より重要なのは、記事の中身だろう。

朝日同日のコラム「石油危機から50年、『脱炭素』の戦略、定まらぬ軸足」は、日本企業が液化天然ガス(LNG)産出国との新規契約に消極的で、「既契約分の輸入が減り始める数年後には国内のガス供給に不安」と警告する。理由は、政府が電源の化石燃料比率を2030年度までに半減させる計画を定め、将来の需要が見込めなくなったためと解説する。

対策として推すのは再生可能エネルギーの普及。加えて化石燃料の開発投資も重要とする専門家の声を紹介する。記事からして軸足が定まらない。そもそも原子力発電に触れないのはなぜか。

トルコ公共放送TRTは6月9日、討論番組「フィンランドの電力価格がゼロ以下に」をユーチューブ配信した。フィンランドでは4月、オルキルオト原子力発電所3号機(出力160万kW)が本格稼働した。ダム水量も多かった。ウクライナ侵攻したロシアに昨年、電力供給を止められたが、原子力の実力を示した。あっ、出羽守……。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

STEAMから見えてくる社会と世界

【オピニオン】浦嶋將年/学びのイノベーション・プラットフォーム理事長

STEAM(Science、Technology、 Engineering、Art、 Mathematics)教育の浸透というテーマに取り組んでいる。その活動母体である一般社団法人学びのイノベーション・プラットフォームについては、本誌6月号に掲載された。ここでは活動の中から見えてくる現代の社会や世界の側面について私見を述べさせていただく。

「現在の教科ごとの教育とSTEAMによる総合性を取り入れた教育を両輪で実施しないと、これからのVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)な世界で必要になる資質が育成されない」。これは、私どものイベントに参加された学校教員と覚しき方からのコメントである。筆者が育った時代とは異なり、これからの時代を生き抜く若者が遭遇する世界は著しくVUCAな世界であり、VUCAに対応できる学びとしてSTEAMの実践は最適ではないだろうか。昨今のエネルギー危機はVUCAの代表例である。

日本財団が2019年9月〜10月に「18歳意識調査」を実施した。インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、英国、米国、ドイツ、そして日本の17~19歳、各1000人を対象に、「国や社会に対する意識」を聞いたものだ。結果は、「将来の夢を持っている」について、他国がすべて80%以上の中で日本は60.1%、「自分で国や社会を変えられると思う」も他国に比して突出して低い18.3%(米国65.7%)というものだった。この要因はどこにあるのか。日本人に共通する「自己肯定感の低さ」を要因とする専門家がいるが、それだけだろうか。日本の若者には、企業活動について肯定的な位置付けができていない可能性はないか。周りの大人たち、特に企業人には、もっと学校に関わって企業活動が社会にどう貢献しているかを語っていただきたいし、未来に夢を持つように励まして欲しい。

「素人のように発想し、実行段階ではプロとして実践する」は、カーネギーメロン大学ワイタカー記念教授の金出武雄先生の名言である。素人のようにとは、過去からのいきさつや常識から解放されて、しなやかなスタンスで課題に向き合うことを指す。この言葉はSTEAMの課題設定における向き合い方に一脈通じ、日本人が国際舞台で不得意といわれるアジェンダ・セッティングの力を向上させるはずである。

これまでの行政により独占的に担われてきた「公共」を、これからは市民・事業者・行政の協働によって「公共」を実現する時代になり、これが「新しい公共」の考え方である。また、岸田政権が推進する「新しい資本主義」も同様な趣旨を包摂していると解している。私どもが推進する学びのイノベーション・プラットフォームは、学びの革新に、企業、学校、大学や国研など社会総出で支え合う枠組みであり、「新しい公共」「新しい資本主義」の考え方に沿うチャレンジである。多くの産学官公教の皆様の理解と協力を得るよう、一層の努力を必要としている。

うらしま・まさとし 1972年東京大学工学部卒、通商産業省(当時)入省。工業技術院技術審議官、内閣府大臣官房審議官、鹿島建設専務執行役員などを経て2021年から現職。東京大学総長室アドバイザー。

製造業支援と再開発モデル 二つの施策で脱炭素推進へ

【地域エネルギー最前線】 愛知県 名古屋市

重工業都市の名古屋市では、製造業の脱炭素事業参加や運輸部門のCO2削減が課題だ。

手厚い企業支援策と都市の再開発で、名古屋ならではの脱炭素社会実現を進める。

日本最大の工業地帯である中京工業地帯の中枢を担い、全国的にも大企業の本社や、工場が集まる重工業都市である名古屋市。特にトヨタなど自動車産業・製造業の貢献は大きい。

脱炭素分野においては、工業地帯におけるカーボンニュートラル(CN)の取り組みが急務だ。市の経済局産業労働部の担当者は「産業が集積する名古屋市で、脱炭素戦略の影響は計りしれない」と話す。

2021年には市と名古屋産業振興公社と共同で、県内の製造業者にCNに関するアンケートを実施。その結果、大企業の7割超がCNに向けた取り組みを行う一方、中小企業については8割程度が取り組みの必要性を感じているものの、実施している企業は3割程度にとどまることが分かった。「取り組みに至らない中小企業の中には『何から着手すればよいか分からない』『必要性は感じているが、着手することができない』と回答する企業が多かった」(産業労働部)と現状を分析する。

製造業を支える中小企業を保護し、持続的な発展を図るため、市は22年4月に「名古屋市産業振興ビジョン2028」を策定。その中で「グリーンイノベーションの促進」と題して、①低炭素・脱炭素化に向けた取り組みの支援、②省エネルギー対策への支援、③グリーン化に資する技術支援や情報提供―を掲げ、脱炭素関連事業に取り組む中小企業支援を積極的に進めている。

23年6月には、温暖化対策目標の国際共通基準である「SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)」の認定取得を目指すプログラム「グリーン・イノベーションナゴヤ」を実施。市が中心となって中小企業に対して、情報提供や認定取得支援、脱炭素理念に基づく新商品開発の支援を行う。「この地域は世界有数のものづくり産業が集積する。『名古屋から世界へ』を合言葉に、脱炭素経営に取り組む企業を支援したい」(同)と気合いは十分だ。


市独自の低炭素モデル地区 脱炭素先行地域にも選定

ものづくりを支える中小企業の地道な取り組みを支援する一方で、都市構造の変革にも積極的な姿勢を見せる。市は独自で「低炭素モデル地区」事業を策定しており、「低炭素で快適な都市なごや」を目指す。事業参加以前と比べてCO2排出量を25%以上削減する目標を立てている。

再開発事業に合わせて環境負荷の少ない都市モデルを具現化する計画がスタートしたが、自動車利用率が高い名古屋市では、運輸部門のCO2削減が課題だ。歩いて暮らせる街づくりを目指す観点から、モデル地区は駅から800m圏内が条件となっている。

モデル地区として認定されたのは「みなとアクルス開発事業」と「錦二丁目低炭素地区まちづくりプロジェクト」の2事業。このうち、みなとアクルスの再開発事業は、東邦ガスとの共同提案で行った「再開発地区で実現する脱炭素コンパクトシティモデル」として、環境省による第1回の脱炭素先行地域に選定された。

名古屋市は脱炭素先行地域に選定された

みなとアクルス事業は、東邦ガスの港明工場跡地の再開発が背景にある。この跡地には、かつて水運物流の軸として名古屋の経済・産業を支えてきた中川運河が隣接しており「自然と共生する都市デザイン」として、中川運河を活用する計画も組み込まれている。この運河を景観や観光のみならず、未利用エネルギーとして活用する計画だ。

運河の熱利用だけでなく、水素とCN都市ガスを燃料としたガスコージェネレーションを地域内で構築。集合住宅に家庭用燃料電池を採用し、発電排熱を地域内の冷暖房に利用する。また、太陽光発電、風力発電の追加導入とともに、市内のごみ焼却工場で生まれた再エネ電源およそ1万6700kWを集約。東邦ガスが再エネグリッドアグリゲーターとして「名古屋DER―AI―Grid(でらい~グリッド)」を構築し、電力を供給する。再エネを設置するスペース確保が困難な都市部では、地区内での水素製造を実装。燃料電池車(FCV)への水素供給も行うとしている。

東邦ガスがアグリゲーターとなることで、新規のガスコージェネ設備や太陽光発電のほか、既存のごみ発電など、多様な電源を導入できる取り組みが高い評価を受けた。名古屋市環境局環境企画部の担当者は「みなとアクルス開発事業は、国の地域脱炭素の考えに基づき、50年CNを待たずに目標達成に向けて動いている。この事業が各地域課題の解決に結び付けばうれしい」と都市構造の変革に自信を見せた。


脱炭素で地域防災にも貢献 CNと再開発組み合わせる

このほか、みなとアクルス施設内のエネルギーセンターが、EMS(エネルギー・マネジメント・システム)による再エネのスマート制御を行うことで、効率的にエネルギーを運用。災害時にはガスコージェネや太陽光発電、大型蓄電池といったインフラ網を使い、地区内に電力と熱を供給、地域防災にも貢献する。

「液状化や津波浸水の可能性も考慮し、南海トラフ地震が発生した場合でも対応できるよう、地域の強靭化を図りたい」(環境局環境企画部)。再開発で防災と脱炭素を兼ね備えた街づくりを行い、大都市の脱炭素ロールモデルとしたい考えだ。

名古屋市の杉野みどり副市長は、22年6月の脱炭素先行地域選定証授与式で「名古屋は車社会。運輸部門のCO2削減に向けてEVカーシェアなどに取り組むことで、脱炭素ドミノの力強いピースとなれるようにしたい」と意気込みを語った。

産業界のCN実現と、再開発による都市構造の変化。二つを組み合わせ、名古屋市ならではの脱炭素政策をこれからも進めていく。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年8月号)


【川崎重工業/水素運搬船用貨物タンクの技術開発を終了】

川崎重工業は6月、大型液化水素運搬船用の貨物タンク(CCS)の技術開発を完了したと発表した。これは、NEDOの助成事業で、大型液化水素運搬船用CCSの性能確認用タンクの設計・製作と性能確認試験を進めてきたものだ。水素の海上輸送には、超低温の液化水素を長期間安定して保冷するタンクが不可欠だ。その実現のため、同社はこのほど新構造のCCS「CC61Hタイプ」を開発した。4基の合計搭載容量16万㎥の実物に近い規模で試験用タンクを製作し、ガス置換・冷却・昇温試験を実施。タンク内の大空間が不活性ガスにより効率良く置換できることや、計画通りの断熱性能が得られることを確認した。同社は今後も、水素エネルギーの普及を目指していく。


【伊藤忠商事・カネカソーラー販売/兵庫県豊岡市で電力サービス事業を開始】

伊藤忠商事とカネカソーラー販売は、豊岡地域エネルギーサービス合同会社を設立し、2023年度から豊岡中核工業団地で蓄電所事業、太陽光PPA事業、地域マイクログリッド事業を組み合わせた電力サービス事業を開始する。伊藤忠商事が展開する商用EVの使用済み蓄電池をリユースした大型蓄電システムを同事業の中心に据え、卸電力市場、需給調整市場、容量市場で活用し電力市場の安定化に資する運用を行う予定。また、同工業団地の入居企業各社の建物の屋根に設置する太陽光発電設備で発電した電力を各社に供給するPPA事業も展開。余剰電力は、伊藤忠グループのアイ・グリッド・ソリューションズが買い取り、周辺地域に電力供給を行う。


【ブルーイノベーション/ドローンポートシステムで世界初の国際標準規格を取得】

ブルーイノベーションが手掛ける物流用ドローンポートシステムの設備用件が、「ISO5491」として国際標準規格化された。150kg以下のドローンを扱うポートが国際規格として採用されたのは世界初。これにより、世界中の物流におけるドローンポートシステムの開発や運用実証、事業化検討などが同規格に基づいて進められるようになり、グローバルな情報共有や技術開発、社会実装の加速に期待が高まる。さらに同社は8月1日、同規格に準拠したドローンポート情報管理システム「BEPポート|VIS」のβ版の提供を開始する。物流事業者や点検事業者、ドローンポートメーカーなどとともに、物流や災害対策、点検、測量などの分野でドローンの利活用を目指す構えだ。


【中国電力/水力発電計画の策定に向けたAI開発】

中国電力は、エクサウィザーズ社と共同で、AIを使用して貯水池式水力発電所の発電計画を最適化するシステムを開発した。従来は、簡易なダム流入予測と熟練者の経験で策定していた。システムの活用でダム流入量の予測精度を高め、より精緻な発電計画を策定して、さらなる水資源の有効活用やCO2排出量低減につなげる。佐々並川ダム(山口県)と周布川ダム(島根県)で試運転済みで、今後は実運用に移行する。改善を加えながらほかのダムへの導入も進める計画だ。


【ジャパンマリンユナイテッド/洋上で浮体を接合 モックアップ試験を実施】

ジャパンマリンユナイテッドは、洋上風車浮体の量産化手法を確立するため、洋上風車浮体の洋上接合のモックアップ試験に着手した。現在、浮体製造に適した幅80m以上の大型ドックは国内に数カ所しかない。風車の大型化に対応し浮体のサイズが大型化すると、ドック内で浮体を完成させられなくなる。このため、同社ではドック内で浮体を一定サイズのブロックまで作成した後、進水させ、洋上で浮体ハーフボディー同士を溶接接合する工法を考案した。国内の多くの造船ドックで製作が可能になる。


【大阪ガス・三井化学/泉北コンビナート CO2を回収し利活用】

大阪ガスと三井化学は、泉北コンビナート(大阪府堺市)から排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、利活用する事業の共同検討を5月末に開始した。三井化学の製造プラントなどの排ガス、およびDaigasグループの泉北天然ガス発電所の排ガスからCO2を分離・回収する。さらにそのCO2を国内外でメタンやメタノールなどの原料として再資源化して利活用(CCU)したり、回収・貯留(CCS)することを想定している。両社は国が主導するカーボンニュートラル燃料の供給拠点の実現を目指して取り組む。


【関西電力/舞鶴発電所向け燃料輸送にLNG船導入】

関西電力は、舞鶴発電所(京都府・石炭火力)向けの燃料輸送で、LNGを燃料とする船舶を導入する。商船三井と輸送契約に関する基本協定書を交わした。船の載貨重量は約9万4900t。2026年7月完成の予定だ。LNG燃料船は、従来の船舶燃料油を燃料とした輸送船に比べ、約25%のCO2削減が見込まれるため、輸送分野での温室効果ガスの総排出量削減を通じて、社会全体の排出量削減に寄与する。窒素化合物(NOX)は約85%、硫黄酸化物(SOX)は100%削減できる。


【日鉄エンジニアリング/第2世代バイオ燃料 生産設備着工】

日鉄エンジニアリングは6月、次世代グリーンCO2燃料技術研究組合から受注した第2世代バイオエタノール生産設備を着工したと発表した。運転開始は来年10月の予定。現状の自動車用バイオエタノール燃料は、可食性バイオマスが原料の第1世代が大半だが、農業残さなどの非可食性バイオマスを原料とする第2世代製造技術の普及が求められている。


【NextDrive/コンソーシアム参加 家庭用蓄電システム制御】

NextDriveはエナリスがリーダーを務めるコンソーシアムに、リソースアグリゲーターとして参加する。国内最大規模となる分散型リソースを導入する、アグリゲーションビジネス拡大のための実証事業だ。蓄電池やデマンド・レスポンスは、調整力として活用される。同社はIoEプラットフォーム「Ecogenie+」をベースに、家庭用蓄電システムの制御を担う。


【JFEエンジニアリング/食品リサイクル発電 プラント本格稼働開始】

愛知県小牧市で、JFEエンジニアリンググループが手掛けた食品リサイクル発電プラントが5月末に稼働した。1日最大120tの食品廃棄物を受け入れ、微生物の力で発酵、発生させるメタンガスを燃料にして発電を行う。発電出力は1100kW、年間の発電量は約9200MW時を想定している。小牧市は、2016年から5年連続で廃棄物リサイクル率が愛知県内で1位となるなど環境への意識が高く、再エネの導入にも積極的な地域だという。JFEグループは処理過程で発生した発酵残さを肥料化して活用することも検討している。


【大成建設・デンソー/空調設備でCO2回収の実証を開始】

デンソーと大成建設はこのほど、大成建設技術センター内にある「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」で、デンソーが開発したCO2回収システムを用いてCO2を効率的に回収し、利活用する共同技術検証を今年9月に開始すると発表した。デンソーは、工場などから排出されるCO2だけでなく、日々の生活の中で排出される小規模で低濃度なCO2回収も視野に入れている。この検証では、大成建設の会議室の空調設備にデンソー製のCO2回収システムを組み込み、会議室使用時の排気からCO2を回収。そのCO2を環境配慮コンクリート「T― eConcrete®」に固定する実験などを行う。両社は今後、検証の成果を踏まえながら、脱炭素社会の実現に貢献する構えだ。

対話AI研究は「心の解明」 普及には電力消費量の課題も

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.17】関口博之 /経済ジャーナリスト

今回はチャットGPTで話題沸騰の生成AI、特に対話型AIの話を。モニターに映る「Saya」は表情もリアルな3D・CGのキャラクターだ。アイシンとAIベンチャーなどが取り組むこのプロジェクトに名古屋大学の東中竜一郎教授も参加している。研究室で「Saya」に対面させてもらった。見た目がリアルな分、音声会話がぎこちないと逆に違和感が目立つ。いかに自然な会話をするか、その対話システム開発がテーマだ。

対話AI「Saya」©アイシン
提供:アイシン

以下は私とのやりとりの一部。(AI)「あなたの親友がどんな人なのか教えてください」(私)「本当に困った時に助けてくれる人ですね」「とても大事なお友達ですね。困った時はお互い様ですからね」「ただし、お金を貸したり借りたりはあまりしない方がよいと思いますよ、親友でも」「そうですね、友達が困っていたらまず疑うべきですよね」「疑うのともちょっと違うんだけどね。親切でお金を貸しても、それが元でケンカになることもあるから」「なるほど、人を喜ばせるのも、お金を借りるのも似てますね」「うーん、なかなか意味が深いね……」と最後は当惑。こちらも不慣れだが、AIもまだ“学習”が必要なようだ。

もちろん人間同士でも話がかみ合わないことはある。東中教授によれば、ただそうした時、人は相手に歩み寄るという。「それってどういうこと?」と聞き返して会話を続けようとする。子どもには平易に、老人にはゆっくりと、この感覚で人間とAIも相互に歩み寄るようになればいい、と東中教授は言う。

自然な会話には雑談も大事だが、それが“会話を続けるためのだけの会話”に終わっては意味がない。そこで東中教授が重視するのが、人間とAIが「共同作業をするための対話」だ。研究の題材に選んだのがビデオゲームの「マインクラフト」、ブロックのようなものを積み上げ建物や庭を作っていく。人間とAIがお互いの意図や望むものを言葉で交わしながら、協力し合うシステムを目指している。「君がしたいことはこういうことだね」というのを積み上げたブロックの形で可視化しようというのだ。AIと協力することで“人間の能力の拡張につながる”、東中教授はそう考えている。それにしても実感するのは、対話型AIの研究は人間の思考や心の解明であり、人間関係をどう築いているか、の探究だということ。それだけ人間の知能が奥深いということだ。

こうした研究の一方で、チャットGPTはすでにツールとして利用され、企業や自治体でも導入するところが出始めている。業務の効率化だけでなく、新たな企画のアイデア提示など、今後は生成AIを活用する際のスキルも蓄積されていくことだろう。ただ生成AIはディープラーニングの過程でデータセンターが膨大な電力を消費すると言われる。活用が広がり、より高度になればなるほど消費電力は増える。エネルギー需給上の大きな課題だ。それに比べ人間の脳のパフォーマンスはエネルギー効率上も優れている、とAIなら回答するかもしれない。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.15】メタンの排出削減 LNG輸入国としての責務

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.16】先行するEV技術 どう船に取り込むか

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

電力事業者とドローンの未来 送電線運用の「革命」なるか

【中国電力ネットワーク】

電力業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)といえば、スマート保安が挙げられる。

業務高度化への取り組みからは、保安の枠にとどまらない事業者とドローンの関係が浮かび上がってきた。

中国電力ネットワークは2020年、「経営ビジョン2030」の実現に向けて「DX推進計画」を策定。ドローンの活用など、先進的な取り組みを行ってきた。

ドローンの「航路」を構築 富士通と最先端技術で連携

まずはグリッドスカイウェイ有限責任事業組合の取り組みだ。同組合は、20年に東京電力パワーグリッド、NTTデータ、日立製作所が設立し、同年、中国電力ネットワークも参画。保安だけでなく、物流など新たな事業の創出を目的としている。

一見すると、つながりのなさそうな「電力と物流ドローン」だが、両者の関係は深い。というのも、将来的に物流でドローンが使われるようになったとき、好き勝手に飛び回れば追突などのアクシデントが起きかねない。飛行機と違って航空管制官がいないこともあり、ドローンには安全な「航路」が求められている。

そこでドローン用の航路として有力視されているのが、送電線など電力設備の上空だ。グリッドスカイウェイは全国共通の「航路プラットフォーム」の構築のため、周辺環境の情報収集など必要な要件の整理・検討を行っている。また航路構築や自動飛行、運航管理などのシステムの構築、ドローンの活用が期待される事業者と実証を通じた新たなビジネスモデルの検証を進めており、3月にはこれらの取り組みが経済産業省・デジタルライフライン全国総合整備計画の検討方針で、アーリーハーベストプロジェクトの一つとして取り上げられた。

さらに中国電力ネットワークは、いま課題となっているドローンの飛行時間の延長にも取り組んでいる。ドローンはバッテリーが主流だが、21年からドローンメーカー・ルーチェサーチと連携し、カーボンニュートラルと長時間飛行を実現する「水素燃料電池ドローン」を開発中だ。経産省が公募した「令和2年度(3次補正)産業保安高度化推進事業助成金」にも採択された。すでに機体を開発し飛行実験が行われている。

ドローンの運用は風況に大きく左右される。さらなる活用には安全に飛ばせるかどうか、飛行地点の環境データをリアルタイムかつ正確に把握する必要がある。

そこで白羽の矢が立ったのが、富士通の最先端技術「光ファイバーセンシング技術」だ。送電線には、落雷から保護するための架空地線に光ファイバーケーブルを内蔵した光ファイバー複合架空地線(OPGW)が使われている。光ファイバーセンシング技術は、まずOPGWに特定のレーザーパルス光を入力。後方散乱光などの光の変化や成分を測定することで、OPGWがどのように振動しているかを測定できるのだ。

光ファイバーセンシング技術を用いた取り組みの概要

さらに測定した振動データを富士通独自のデータ変換技術で変換し、風況など送電線近傍の環境データを推定する。これにより、変電所に測定装置を設置しておくだけで、70㎞先までの環境データを5mおきに把握できるのだ。中国電力ネットワークは富士通と21年9月から1年間の実証試験を実施。現地の実測データとおおむね一致することが分かった。

この成果はドローンの活用だけでなく、送電線運用に〝革命〟をもたらすかもしれない。それはダイナミックレーティング(送電容量の弾力的な運用)の実現だ。

送電線は外気温や電流によって温められるが、温度が高いほど送電容量が少なくなり、反対に強風などで送電線の温度が低下すれば、より多くの電気を送ることができる。送電線周辺の環境データを動的に把握し、送電線が冷やされそうなら送電容量を上げ、反対に温められそうなら下げる。これがダイナミックレーティングだ。

現状では、さまざまな場所に点在している送電線の温度をリアルタイムに測定することはできていない。このため、送電容量は少なめに固定されている。送電量がオーバーし、温度が上昇して電線の許容温度を超過すると、設備の損傷などで安定供給に支障が生じかねないからだ。

送電線運用の大転換へ 変電所の点検も高度化

しかし、光ファイバーセンシング技術で測定した環境データから送電線の冷却効果を計算できれば、ダイナミックレーティングが可能となる。特に現在の固定容量は、再生可能エネルギーの導入拡大においてネックとなっていた。容量オーバーになるため再エネが接続できなかったり、新たな送電線をつくる必要があるからだ。この点、ダイナミックレーティングの実現は、再エネの導入で現状の送電線を最大活用するために必要不可欠と言える。

ネットワーク設備部技術高度化グループの藤山徹マネージャー(所属は取材当時)は「ダイナミックレーティングが実現すれば、送電容量は最大で1.5倍程度になるのではないか」と期待を寄せる。今後の課題はいかに運用につなげていくかだといい、環境データや送電線温度データの活用に向け、送電線の運用を高度化するためのシステム開発を進めていく。

保安の高度化は、変電所においても進められている。現在、変電所には2カ月に1度、現地に足を運び巡視を行っているが、変電所1カ所の巡視で1日作業となることも。変電所の様子が事務所から把握できれば、変電所に足を運ばずにリアルタイムで異常の有無を確認できる。来年度から変電所にカメラやセンサーを順次設置し、変電所と事務所をつなぐ大容量の通信環境(保全IPネットワーク)の構築も進めていく。

保安、送電線運用、物流、機体開発……。中国電力ネットワークのさまざまな取り組みからは、保安業務が高度化し、ドローンが送電線の上を安全に飛び回る未来が鮮明に映し出されている。

岸田首相は歴史に名を残せるか 問われる重要問題解決への決断力

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会は、防衛財源確保法案や入国管理法改正法案、原子力の復権に道筋をつけるGX関連法案など、世論が分かれ与野党が対立する法案が多くあった。にもかかわらず、国論を二分するような議論には盛り上がらず、会期を延長することなく閉じられた。最大の要因は、岸田首相自らがG7サミットの成功を受けて解散風をあおり、解散を恐れる野党第一党が解散風に踊り、腰を据えた論議が行われなかったことにある。全ての重要法案が成立した後に立憲民主党が提出した内閣不信任案はまさに茶番そのものであり、あまりの情けなさに私はその採決の場にいることができなかった。国会に身を置くものとして、忸怩たる思いである。

私は官僚時代、そして政治家とこれまで30年近く国会の周りで生息してきたが、歴代首相のさまざまな解散の決断の瞬間や解散できなかった無念に立ち会ってきた。

1998年、支持率が低下していた橋本内閣は、6月の中央省庁等改革基本法案の成立の勢いを駆って衆参同日選挙を企図していたが、さまざまな勢力からの抵抗で解散できず、参議院の単独選挙で大きく議席を減らして退陣することとなった。2008年9月に誕生した麻生内閣は高支持率の好調な滑り出しの下、解散総選挙に向けた準備をほぼ終わらせていたが、なぜか麻生首相は解散を決断せず、結果的に翌年の衆院選での民主党政権への交代を招いた。

総裁選が一区切りに 問題山積のエネ政策

私がこれまで見てきた政権では、一度解散のチャンスを逃した政権に二度目の解散のチャンスはやってこない。むしろ、解散できなかったツケは内閣総辞職や選挙の敗北という結果を招くことが多いのだ。とすれば、岸田政権は自らの手で解散できずに退陣する可能性が高いのではないか。

一つの区切りは、自民党総裁選だ。岸田政権がたどる道は二つある。一つ目は、がむしゃらに自らの手で解散して勝利を獲得し、長期政権を目指す道。この道を歩む場合には、選挙の勝利のために財源確保のための増税や原子力政策の推進のようなものは先延ばしにして、北朝鮮の拉致問題の解決などの一発ホームランを狙うことになろう。しかし、こうした権力者の欲望は、得てして国にとっては大きな損失となる場合が多い。

もう一つの道は、任期の間に防衛財源の確保や安定供給に責任を持ったエネルギー政策を決断して、一つの仕事を成し遂げた首相として歴史に名を残すことである。久しぶりの宏池会政権の岸田内閣は、すでに在任期間は大平内閣や宮澤内閣を超え、来年2月には鈴木善幸内閣をも超える。言うまでもなく、岸田首相は誇り高き宏池会内閣として後者の道を歩むことを強く期待したい。原子力を含むエネルギー政策では首相が決断すべき問題が山積しているのだから。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

安価で環境性も優良 「E7」ガソリンを販売

名古屋を拠点に石油製品などを販売する中川物産が6月、名古屋市内の名港潮見スタンドで全国に先駆けて「E7」ガソリンの販売を始めた。

E7は飼料向けトウモロコシ(デントコーン)など植物を原料にして作られたエタノール(Eはエタノールの頭文字)を7%混ぜたガソリンのこと。同社は2011年から全国に先駆けて「E3」を販売していたが、E7でもパイオニアぶりを発揮する。

E7の価格は1ℓ当たり157円(7月12日時点)。従来のガソリンより1円安い。価格が安く環境にも良いとあって、6月の販売数量は約4000ℓと順調な滑り出しだ。当面は愛知県内20店舗に販売網を拡大するのが目標という。

エタノールは燃料として使うとCO2を排出するが、そのCO2は植物が光合成で大気中から吸収したものなので、単純計算では差し引きの発生はゼロだ。米国やブラジル、西欧などでは「E10」ガソリンが普通に流通している。ただ、「良いことばかりではない」(業界関係者)との指摘も。いずれにしても今後、関心が高まることは間違いなさそうだ。

電力の未来に魅力を感じて入所 電力系統の運用最適化に貢献する

【電力中央研究所】

花井悠二/電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 上席研究員

大学時代から電力系統の研究を行い、現在は系統の運用最適化やリスク評価の研究に尽力する。

日本の系統運用の未来を見据える花井氏に、これまでのキャリアと今後の目標を聞いた。

少年時代から物理が好きだった。中でも量子力学や半導体の分野に興味を持ち、太陽光発電や半導体レーザーなどのデバイス技術の研究が盛んな福井大学工学部に進んだ。「入学当初は、半導体に関する研究に従事したいと考えていたが、大電力送電に惹かれていった」と当時を振り返る。

福井大学大学院進学後、電力システム研究室に入った。当時指導教員だったのは、現在、早稲田大学のスマート社会技術融合研究機構で機構会長を務める林泰弘教授だ。電力工学の第一人者の下で配電システムや数理最適化の知見を深めた。「福井はのどかで食事もおいしく、研究に取り組むには良い環境だった」と思い出を語る。

大学院では、配電系統の安定化に関する実験を多く行った。2010年には「再エネ電源が連系された配電系統のループ化と、集中型電圧制御の適用効果の実験的検証」と題した研究論文を発表。「当時は太陽光発電の大量導入が予想され、その際に電圧が管理できなくなるという課題をどう解決するか研究を進めていた」。再エネの活用には、需要と供給をマッチングさせる運用が必要不可欠であり、これは永遠の課題だと話す。

11年に博士後期課程を修了すると、電力中央研究所に入所。これまでの研究内容を電力会社などに提案することで、社会に反映できる部分に魅力を感じたという。

基幹系統の最適化を研究 宮古島で実証実験も行う

現在は、グリッドイノベーション研究本部ネットワーク技術研究部門に所属。上席研究員として研究に取り組む。電中研では、電力ネットワークの大動脈である基幹系統、ユニットコミットメント(UC)の研究を進めている。

UCとは、系統に接続した各発電機の起動・停止の組み合わせから、電力の需給バランスで最も経済的な起動停止計画を算出することを指す。この研究は日々の予備力確保や運用計画の策定に必要不可欠だ。このほか、送電能力の限界を考慮したUC(SCUC)の理論を構築し、系統運用をより最適化する研究や電力市場の約定システムへの適用も進めている。

UC研究で需給バランス維持と系統安定化を図る

発電所の出力、系統の電圧や送電容量などの運用上の条件がある中で、発電に伴う燃料費や送電でのエネルギー喪失を最小化する「最適潮流計算」も専門分野だ。

太陽光・風力を活用する上で、高いポテンシャルを持つとされる北海道や東北と、大需要地である関東、関西、中部には地理的な乖離がある。「再エネの電気をどう安定的に需要地に届けるか」。既存設備の活用だけでは、十分でない。天候などの条件によって出力も変動する中でどのように系統増強を図るか。災害時の供給信頼性をどう評価するかが課題だ。

この解決の一助となる実証実験を、沖縄電力の宮古島メガソーラー実証研究設備で行った。実証実験3年目となる12年から参加すると、蓄電池の導入でディーゼル発電、カスタービン発電の燃料コストが最小となる運用計画を作成した。再エネの出力予測と実際の天候の違いで、予測通りの出力が得られないなど、実際の設備ならではの苦労もあったが、当時を「運転員の方々が実際に系統運用の業務を行う姿を間近で見ることができ、勉強になった」と振り返る。

商用系統を用いた実証試験は高い評価を受けた。研究成果を国内外の学会で発表すると、16年の国際電力会議(CIGRE)でもインパクトを残した。再エネ導入で先行する欧州は、各国をまたぐ大きな送電系統を活用して再エネの不安定性を吸収できるが、日本のように周囲から独立した系統では供給信頼性に大きな懸念があった。商用系統で蓄電池を主力電源として活用した系統運用には驚きと深い関心が集まったと話す。

今ある電力を効率的に運用 電力系統の最適化目指す

日本の系統運用の未来について、「基幹系統と、ローカルな二次系統での役割分担が重要だ」と分析する。基幹系統では、産業の需要を満たす役割が求められる。そのためには遠隔地にある洋上風力など大規模発電による電気を効率良く送る技術が必要だと話す。

二次系統では、マイクログリッドの重要性がより高まると予測する。再エネを中心とした分散型電源の活用には需要家の役割が大きい。今後は太陽光発電などの自家設備の普及によって、システムの効率化が進むとみている。一方で「分散型電源を生かすには、化石燃料や原子力発電などによる安定的な供給力の確保も大事だ」とも指摘。石油、天然ガス、原子力発電によって、再エネの弱点を補うことができるという。

今後の研究課題としては、これまでの基幹系統研究を生かした「統合型の系統安定化システム」を挙げる。このシステムでは電力系統の事故を瞬時に検知。必要に応じ高速で制御を実施することで、大規模停電を防止する。また、電中研という組織の強みを生かして他分野の研究者と連携。系統運用の最適化へ、より高度な電力システムの構築を目指す。

「これまでの研究で、電力には、未来を感じている。複雑な分野だが、それ故に研究のしがいがある」。電力と人をつなぐ電力系統研究を続けて、人類の未来もつないでいく。

はない・ゆうじ 2011年福井大学大学院博士後期課程修了、電力中央研究所入所。電力システム、数理最適化を専門とし、電力系統の解析に関する研究を行う。