【Vol.7 もんじゅ最判②】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士
8、9月号で中断していたもんじゅ最高裁判決(最判)に関する考察を再開する。
前回7月号ではもんじゅ最判の概要などを解説。今回は重要論点を取り扱う。
もんじゅ最判では、2次冷却材漏えい事故に係る安全審査について伊方最判の判断を踏襲し、「規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては……基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」と判断した。さらにどのような事項が原子炉設置許可段階における安全審査の対象となるべき基本設計に該当するかという点も、基準の適合性に関する判断を構成するものとして、主務大臣に専門技術的裁量があることを指摘した。
これを受け、もんじゅ最判では、「2次冷却材漏えい事故が発生した場合に事故の拡大を防止するために、漏えいしたナトリウムとコンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを設置する対策を行う方針」を原子炉設置許可段階における基本設計の対象事項とし、「床ライナの板厚・形状等の細部にわたる事項」は、後続の設計・工事方法の認可(設工認)段階の詳細設計および工事の方法とする判断に合理性を認めた。どのような事項が原子炉設置許可段階での基本設計に該当するか、という点も、専門技術的裁量内との原子炉等規制法の法解釈からすると、妥当な解釈であろう。
その後もトラブルが続いたもんじゅ
ナトリウム漏えいを巡る審査 事故後の知見をどう扱うか
また伊方最判が示した「行政判断の統制の枠組み」を踏襲し、「現在の科学技術水準に照らし、具体的審査基準に不合理な点があるか、判断過程に看過し難い過誤、欠落があった場合には、原子炉設置許可処分が違法となる」との判断基準を示した。すなわち、もんじゅの安全審査(本件安全審査)後の1995年12月のナトリウム漏えい事故原因などの解明過程で判明した、条件次第で床ライナを急速に腐食させる溶融塩型腐食が起こるとの知見(ライナに貫通孔が生ずれば漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触防止という本来の機能が果たされない)を検討した。
具体的には、本件安全審査時点ではこの知見は関係者に知られていなかったため、床ライナの健全性については熱膨張によって機械的に破損するかということに重点を置いた審査がされたことに対して、「本件安全審査後に判明した知見(現在の科学技術水準)に照らして、本件安全審査が不合理といえるか」を検証した。
ここでは、当該知見を前提とした場合でも、漏えいしたナトリウムとコンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを設置する対策を基本設計とすることが不合理といえるか否かを具体的に検討。①ライナに溶融塩型腐食が生じても、板厚などの具体的形状次第では漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を防止することが可能・有効、②板厚などの具体的形状は、後続の設工認以降の段階で対処することが不可能または非現実的であるとは言えないことから、床面への鋼製ライナ設置を基本設計とすることが不合理なものと言うことはできない―と判断した。
さらに、控訴審がライナ板厚の程度などを含む腐食対策、ライナの膨張率を左右する温度が基本設計に含まれることを前提に、本件安全審査に過誤、欠落があると判示したことに対して、いずれも設工認段階における審査対象であることなどを指摘し、控訴審の判断を退けた。
要するにもんじゅ最判は、設置許可段階の基本設計の判断事項と、設工認可段階の判断事項を峻別し、安全審査後の知見によっても床面にライナを設置する対策を行うことを基本設計とした判断は不合理ではないと判断した。
もんじゅ最判は、専門技術的裁量を尊重する原子炉等規制法の趣旨から伊方最判が示した「行政判断の統制手法」に忠実に、「どのような事項を原子炉設置許可段階における基本設計とするかという点に専門技術的裁量がある」との判断や、「具体的審査基準に(積極的に合理的といえるかどうかではなく)不合理な点があるか、判断過程に看過し難い過誤、欠落があるか」という判断基準を踏襲している。
つまり、最新の知見に照らして後付けの理論の追加により基本設計を事後統制するのではなく、具体的な検証により行政の基本的な判断の誤りの是正・改善を行う司法統制の立ち位置を示したものといえよう。
控訴審との判断の違い ほかの事故の審査でも
蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査については、同事故に係る安全評価の解析条件が、伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損(水酸化ナトリウムに起因する隣接伝熱管の破損)が支配的であるという考え方を基に設定されていた。これを受け控訴審では、高温ラプチャ型破損(高温の反応熱に起因する隣接伝熱管の内部圧力破損)の可能性が調査審議の対象とされなかったことや、設計通りの操作によって「絶対的な」高温ラプチャ型破損発生防止の効果が期待できるか疑問があることなどを理由に、本件処分を無効とした。
対してもんじゅ最判は、控訴審判決の認定でも、設計通りの操作が無事に進めば、高温ラプチャ型破損の発生の抑制効果を相当程度期待することができる仕組みとなっていることなどから、先述の解析結果の設定は合理的と判示した。つまり、一連の設計内に高温ラプチャ型破損の発生抑制効果もあるので、司法が行政の判断を否定するまでもないとした。
控訴審判決は、安全評価結果に絶対的な効果を求めるものである点で、そもそも賛同し難い。
1次冷却材流量減少時の反応度制御機能喪失事象に係る安全審査については、控訴審判決が安全審査に看過し難い欠落があるとした判断に反論する形式で、安全審査の不合理性を否定した。これについては紙面の関係上、両判決の違いは、審査基準であった「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」での同事象の位置付け、あるいは評価の違いによるものであることを指摘するにとどめる。
・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/
・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/
・ 【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/
・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/
・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/
・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/
もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。