【石油】不都合な真実? 製品価格の抑制


【業界スクランブル/石油】

原油価格の先行きは、ますます不透明になってきた。9月5日、OPECプラスは最近の油価軟化に対応して、小幅増産から減産に転じた。

ウクライナ侵攻直前、1バレル当たり92ドルだった原油価格(NY先物)は、経済制裁とその対抗措置で、一時125ドルまで高騰していたが、6月下旬以降は世界的な景気減速懸念で軟化。8月には90ドル割れの日も出てきた。そのため、油価は侵攻以前の水準に戻ったとする見方もあった。しかし、OPECプラスの政策転換で分からなくなってきた。

ところが、この原油価格の高止まりと円安進行にもかかわらず、このところ、ガソリン小売価格(国内平均)はℓ当たり170円前後で落ち着いている。これは、明らかに「燃料油価格激変緩和補助金」の効果である。経済産業省が原油価格・為替水準の変動、小売価格の動向を勘案しつつ、毎週、補助金額を調整している成果である。国内燃料油価格の抑制という当初の目的を達している。

しかし、この事実を国民の大多数は知らない。マスコミが報じないからである。大手新聞の担当記者にどうしてこのことを書かないのかと聞いたら、補助金効果と書いたら、デスクを通らないと答える。どうやら、マスコミにとって「不都合な真実」らしい。時の政権や経産省の功績は書きたくないらしい。

確かに、9月30日(延長検討中)までで1兆8000億円の巨額の予算措置がなされ、市場に直接介入する筋のよくない補助金ではある。しかし、補助金がなければ、200円を超えてているであろうガソリンが170円前後で買える。ドライバーだけでなく、農林水産業や物流業、一般家庭など国民全体が大きく受益している。これを報じないマスコミは怠慢だ。(H)

【検証 原発訴訟】伊方最判から忠実に判断 後付け理論での規制に妥当性なし


【Vol.7 もんじゅ最判②】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

8、9月号で中断していたもんじゅ最高裁判決(最判)に関する考察を再開する。

前回7月号ではもんじゅ最判の概要などを解説。今回は重要論点を取り扱う。

 もんじゅ最判では、2次冷却材漏えい事故に係る安全審査について伊方最判の判断を踏襲し、「規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては……基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」と判断した。さらにどのような事項が原子炉設置許可段階における安全審査の対象となるべき基本設計に該当するかという点も、基準の適合性に関する判断を構成するものとして、主務大臣に専門技術的裁量があることを指摘した。

これを受け、もんじゅ最判では、「2次冷却材漏えい事故が発生した場合に事故の拡大を防止するために、漏えいしたナトリウムとコンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを設置する対策を行う方針」を原子炉設置許可段階における基本設計の対象事項とし、「床ライナの板厚・形状等の細部にわたる事項」は、後続の設計・工事方法の認可(設工認)段階の詳細設計および工事の方法とする判断に合理性を認めた。どのような事項が原子炉設置許可段階での基本設計に該当するか、という点も、専門技術的裁量内との原子炉等規制法の法解釈からすると、妥当な解釈であろう。

その後もトラブルが続いたもんじゅ

ナトリウム漏えいを巡る審査 事故後の知見をどう扱うか

また伊方最判が示した「行政判断の統制の枠組み」を踏襲し、「現在の科学技術水準に照らし、具体的審査基準に不合理な点があるか、判断過程に看過し難い過誤、欠落があった場合には、原子炉設置許可処分が違法となる」との判断基準を示した。すなわち、もんじゅの安全審査(本件安全審査)後の1995年12月のナトリウム漏えい事故原因などの解明過程で判明した、条件次第で床ライナを急速に腐食させる溶融塩型腐食が起こるとの知見(ライナに貫通孔が生ずれば漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触防止という本来の機能が果たされない)を検討した。

具体的には、本件安全審査時点ではこの知見は関係者に知られていなかったため、床ライナの健全性については熱膨張によって機械的に破損するかということに重点を置いた審査がされたことに対して、「本件安全審査後に判明した知見(現在の科学技術水準)に照らして、本件安全審査が不合理といえるか」を検証した。

ここでは、当該知見を前提とした場合でも、漏えいしたナトリウムとコンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを設置する対策を基本設計とすることが不合理といえるか否かを具体的に検討。①ライナに溶融塩型腐食が生じても、板厚などの具体的形状次第では漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を防止することが可能・有効、②板厚などの具体的形状は、後続の設工認以降の段階で対処することが不可能または非現実的であるとは言えないことから、床面への鋼製ライナ設置を基本設計とすることが不合理なものと言うことはできない―と判断した。

さらに、控訴審がライナ板厚の程度などを含む腐食対策、ライナの膨張率を左右する温度が基本設計に含まれることを前提に、本件安全審査に過誤、欠落があると判示したことに対して、いずれも設工認段階における審査対象であることなどを指摘し、控訴審の判断を退けた。

要するにもんじゅ最判は、設置許可段階の基本設計の判断事項と、設工認可段階の判断事項を峻別し、安全審査後の知見によっても床面にライナを設置する対策を行うことを基本設計とした判断は不合理ではないと判断した。

もんじゅ最判は、専門技術的裁量を尊重する原子炉等規制法の趣旨から伊方最判が示した「行政判断の統制手法」に忠実に、「どのような事項を原子炉設置許可段階における基本設計とするかという点に専門技術的裁量がある」との判断や、「具体的審査基準に(積極的に合理的といえるかどうかではなく)不合理な点があるか、判断過程に看過し難い過誤、欠落があるか」という判断基準を踏襲している。

つまり、最新の知見に照らして後付けの理論の追加により基本設計を事後統制するのではなく、具体的な検証により行政の基本的な判断の誤りの是正・改善を行う司法統制の立ち位置を示したものといえよう。

控訴審との判断の違い ほかの事故の審査でも

蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査については、同事故に係る安全評価の解析条件が、伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損(水酸化ナトリウムに起因する隣接伝熱管の破損)が支配的であるという考え方を基に設定されていた。これを受け控訴審では、高温ラプチャ型破損(高温の反応熱に起因する隣接伝熱管の内部圧力破損)の可能性が調査審議の対象とされなかったことや、設計通りの操作によって「絶対的な」高温ラプチャ型破損発生防止の効果が期待できるか疑問があることなどを理由に、本件処分を無効とした。

対してもんじゅ最判は、控訴審判決の認定でも、設計通りの操作が無事に進めば、高温ラプチャ型破損の発生の抑制効果を相当程度期待することができる仕組みとなっていることなどから、先述の解析結果の設定は合理的と判示した。つまり、一連の設計内に高温ラプチャ型破損の発生抑制効果もあるので、司法が行政の判断を否定するまでもないとした。

控訴審判決は、安全評価結果に絶対的な効果を求めるものである点で、そもそも賛同し難い。

1次冷却材流量減少時の反応度制御機能喪失事象に係る安全審査については、控訴審判決が安全審査に看過し難い欠落があるとした判断に反論する形式で、安全審査の不合理性を否定した。これについては紙面の関係上、両判決の違いは、審査基準であった「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」での同事象の位置付け、あるいは評価の違いによるものであることを指摘するにとどめる。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

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もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【ガス】LNG事業の立役者 日本に広まる不透明感


【業界スクランブル/ガス】

 1969年、東京ガスと東京電力が世界で初めてアラスカからのLNG輸入を開始した。LNGプロジェクトは現在価値で2兆円前後と莫大な投資規模が必要で、開発期間も最低でも10年はかかる。そのため、当時はまだLNGビジネスが順調に進むかどうかよく分からない状態だった。そこから日本のエネルギー事業者がコンソーシアムを組んで、20年前後の長期契約をベースに、さまざまな産ガス国のLNGプロジェクトの立ち上げを支えてきた。

89年に供給開始した豪州初のLNGプロジェクト「NWS」も日本の電力・ガス事業者が買い主となって実現されたものだ。その後、豪州内で10プロジェクトが次々と立ち上がり、日本のLNG輸入量の4割を占めるに至っている。ロシア初のLNGプロジェクト「サハリン2」が立ち上がったのも、日本の上流会社・買い主が一丸となって協力したおかげといっても過言ではない。

こうした状況を見るにつけ、LNGを生産する産ガス国は日本に足を向けて寝られないはずだ。ところが現在、日本のLNG買い主は真逆の対応を受けている。サハリン2はいつでもプーチンが供給をストップさせることができる状態にあり、政治的な道具として使われている。そして政治的に安定し最もリスクが少ないと思われていた豪州でさえ、自国需要を優先するため輸出制限を検討している。

さらには中国のLNG需要が急速に伸び、ウクライナ危機にさらされる欧州がロシアパイプラインガス分の補てんをLNGで賄おうとする中、日本向けLNGの不透明感が急速に広がっている。今後、台湾危機も考慮しなければいけない。既に民間企業の力の及ばない環境下にLNGが入り込んでしまったことは残念で仕方ない。(G)

多角化せずLPガス販売に特化 供給網維持へ需要創出に注力


【エネルギービジネスのリーダー達】津田維一/富士瓦斯社長

多くのLPガス販売会社が事業の多角化を進める中で、本業に特化するという独自路線を進めてきた。

2050年もLPガスが活用される社会を目指し、さまざまな挑戦を続けている。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年富士瓦斯に入社、2014年から現職。一橋大学大学院商学研究科でMBA(経営学修士)取得。

 「脱炭素化が加速することに不安はない。電化が進むほどバックアップ電源の重要性が高まるし、昨今のLNG供給懸念もあり、LPガスはいろいろな意味で見直されるタイミングに来ている。当社が持つさまざまなノウハウがそこで生かせるはずだ」

こう語るのは、1954年に東京・世田谷で創業したLPガス販売会社、富士瓦斯(フジガス)の3代目社長である津田維一氏。2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、電化が加速しLPガス市場が縮小することは避けられない。その前に、LPガスの社会的な位置付けを確保しようと果敢に挑戦している。

CNとレジリエンス LPガスの特性を生かす

脱炭素化が実現した社会においても、LPガスが果たすべき役割はある。だが、市場が縮みサプライチェーンが壊れてしまえば元も子もない。サプライチェーンを維持するため、今、同社が取り組んでいるのが、LPガスの低・脱炭素化と、分散型で地震などの災害に強い特性を生かした新たな需要の創出だ。

低・脱炭素化の取り組みとしては、輸入元売り会社のアストモスエネルギーが世界に先駆けて調達したCNLPガスの販売を昨年10月に開始した。本格的な脱炭素化にはプロパネーションの実現が欠かせないが、同社を含め、LPガス販売会社は中小零細企業が多く、多額の費用を必要とする研究開発の担い手がいない。この業界全体の課題に対し津田社長は、「研究開発そのものに携わることができなくても、リテーラーとして応分の費用を負担し関与していきたい」と強調する。 

新たな需要創出の取り組みとしては、災害時などの非常用の電力供給手段としてLPガス発電機の販売に力を入れている。防災体制を強化したい地方自治体からの引き合いは強く、今後の成長の原動力として期待される。

同社はこれまでも、東京の真ん中に所在する利点を最大限に生かした「都心戦略」により、LPガス販売に特化した事業展開を進めてきた。これは、住宅リフォームやウォーターサーバーの販売、太陽光発電設備の設置など、収益機会の拡大のため多角化を進める同業他社とは一線を画した、独自の生き残り策だといえる。

独自路線を進むきっかけとなったのが、1996年ごろに始まったブローカーによる「ビン倒し」。つまり、別の会社の顧客に契約を破棄させ、強引に自社のボンベに切り替えてしまう行為により顧客争奪戦が激化したことだった。

新規に顧客を獲得するには、無償配管や設備の無料提供を迫られ、小さな会社ではとても利益を生み出せない。そこで、家庭用の新規契約の獲得からは距離を置くことを決めた。一方で、都心需要を開拓するために、20㎏、50㎏の容器によるメーター販売にはこだわらず、それまで敬遠されていた小型容器による質量販売を始め、需要を掘り起こし販売量を伸ばしていった。家庭用の直売件数は当時から半減したが、「全く困ることはない」ときっぱり言う。

さらに、自社の配送員を10人から20人に倍増し、配送の受委託を積極的に進めた。他社の配送を請け負うことで配送量を増やす一方、効率が悪い自社の配送については委託に出し合理化を図ったのだ。都市ガス向けの機器販売も手掛け、売り上げを積み上げた。

次期社長とはいえ、当時は入社したばかりの20代。新たに取り組もうとすることに対し、「業界慣習」を理由に業界関係者や社員からさえ否定されるばかりで自信を失うこともあった。「新規の停止を決めた時には、4人いた営業所長全員から辞表が出され、3人が辞めていった」と振り返る。

こうした紆余曲折を経て事業構造を転換してきたわけだが、こだわっているのは、顧客の立場になって本当に求められるものを提供すること。同社がバルク供給やエネファームを手掛けないのはそのためだ。

系列を超えた協議模索 新たなプロジェクトを発足

「2050年にもしっかりとLPガスを販売している事業者とネットワークを作り、供給網の維持につなげていきたい」―。これまで社員とともに孤軍奮闘してきた津田社長。次に見据えているのは、系列を超えた協業によるLPガスサプライチェーン全体の効率化・合理化だ。

9月1日には、災害対応やCNといった課題解決に向けたイノベーションを生み出すプラットフォームとして、「&(アンド)LPG」プロジェクトを発足させた。11月には初めてのイベントを開催する。プロジェクトを通じて、さまざまな業種の企業、自治体、個人と協業し、LPガスの可能性を探っていく。

「早く将来に道筋を付け、社長を後継に譲り別の仕事をしたい」と語るが、まだまだLP業界でやり遂げなければならない職務は山積しているようだ。

【コラム/10月19日】EUの電気料金高騰への対応策


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

ロシアのウクライナ侵攻を契機に、天然ガスをはじめ化石燃料の価格が大きく上昇する中で、EUの電力価格も高騰している。欧州の代表的電力取引所であるEPEXにおける前日市場の取引価格(ドイツ市場)は、今年9月時点で、350€/MWh程度で推移しており、昨年同月の130€/MWh程度と比べて大幅に上昇している。これに伴う電気料金の高騰は、企業や家庭の大きな負担となっており、EUは、9月30日のエネルギー閣僚理事会で採択した規制(「エネルギー価格の高騰に対処するための緊急介入に関する規制」)で、需要削減、電力市場におけるインフラマージンの消費者への再分配など、電気料金高騰への対応策を講じることを加盟国に求めた。以下は、そのポイントである。

まず、需要削減策として、閣僚理事会は、2022年12月1日から2023年3月31日の間に電力需要全体の10%を削減することを自主的な目標とし、価格が最も高い10%の時間帯を特定し、そのピーク時の需要を少なくとも5%削減することを強制的な目標とした。加盟国は、この需要削減を達成するために適切な手段を選択することができる。欧州委員会は、ピーク時の需要を削減することにより、冬季のガス消費量を1.2bcm削減することができるとしている。

つぎに、電力市場におけるインフラマージンの消費者への再分配についてであるが、電力市場では、落札した電源のうち最も高い価格をつけた電源の入札価格で当該時間帯の市場価格が設定される。通常、そのような電源はガス火力発電であり、ガス価格の大幅上昇で、電力価格の高騰がもたらされている。そのため、マージナルな発電プラントの設定する入札価格よりも低いコストで発電し入札する再生可能エネルギー、原子力、褐炭を用いる発電事業者には、巨額なインフラマージンが発生している。今回採択された規制は、そのようなインフラマージンの上限を180€/MWhに設定することを求めている(2022年12月1日から2023年6月30まで適用)。欧州委員会は、この上限の設定で、気候変動対策に関する目標を達成するための投資を損なわず、発電設備の運営コストも賄えるとしている。加盟国の事情により、より高い上限を設定すること、インフラマージンをさらに制限する措置をとること、技術によって上限を変えること、トレーダ―など他の市場関係者の収入にも制限を課すことなど、規制適用にさいしての柔軟性が認めらる。上限を超える収益は加盟国政府が徴収し、エネルギー消費者の支払いの削減のために使用される。

また、EUは、電力以外の石油、ガス、石炭、石油精製部門に対しては、その「過剰収益」の一時的な部分的拠出を求めている。この期限付き拠出金は、2022年1月および(または)2023年1月に始まる会計年度において、利益が2018年1月から始まる4会計年度の平均利益に対して20%を上回る部分に適用される(税率は33%以上)。加盟国は、規制の目的に適合し、少なくとも同等の収益を上げるのであれば、拠出金以外の国内措置をとることができる。加盟国は、その収入をエネルギー消費者、特に支援を必要とする脆弱な家庭、困難な状況にある企業などに使用する。

電力市場へのさらなる介入として、EUは、エネルギーコストの上昇に直面する消費者を支援するための「エネルギー価格ツールボックス」を拡大し、規制された電気料金を家庭のみならず中小企業にも適用する。また、コストを下回る規制された電気料金の設定も、消費者の危機的状況を緩和する措置として、加盟国の判断で認める。

EUは、1997年に発効した第1次電力指令以降、市場メカニズムを最大限活用する政策を採用してきた。その意味で、今回採択された規制は、異例である。しかし、EUでは、「欧州連合の機能に関する条約」で、「閣僚理事会は、委員会の提案に基づき、加盟国間の連帯の精神に基づき、特にエネルギーの分野における特定の製品の供給に深刻な困難が生じた場合には、経済状況に適した措置について決定することができる」と定められており、これに依拠して、今回の措置が決定された。

EUにおける従来の電力自由化政策の延長線で考えれば、電気料金が高騰すれば、デマンドレスポンスは促進されるであろうし、膨大なインフラマージンが発生しているなら、再生可能エネルギー電源の拡大や新規開発は積極化するはずだ。しかし、今回は、料金高騰で厳しい状況にある企業や家庭の支援のために、「過剰な」インフラマージンを再分配する政治的な配慮が優先された。支援策では、家庭や中小企業へコスト割れの規制料金の提供も条件付きだが認められた。EUは、これまで競争価格よりも安い規制料金の提供を真っ向から否定してきたことを考えると異例な決定となった。

エネルギー市場の自由化を積極的に推進してきたEUでも、市場メカニズムは万能ではなく、非常時には、規制的手段が必要と考えている点は注目に値する。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【新電力】問われるBGの意義 欧州の議論を注視


【業界スクランブル/新電力】

 資源価格の高騰が止まらない。7月の日本の通関統計価格は2016~19年度平均に比べて、原油・天然ガスは2倍、石炭は4倍の水準となっている。同期間のJEPXスポット価格は2・8倍の水準であり、市場は資源価格を反映しているといえる。他方、小売料金の上昇は限定的だ。

電力・ガス取引監視等委員会が公表した電力取引報から集計したところ、特別高圧1・3倍(託送料金を差し引いた場合は1・4倍程度)、高圧1・2倍(同1・3倍程度)で、上昇が抑えられている。既に一部の電力会社では過去最大の赤字幅を記録しており、今後標準メニュー受け付け再開に向けて日本でも電気料金の本格的な値上げは避けられないと考えられる。

さて、気になるのは欧州における電力市場改革に向けた動きである。欧州ではエネルギー料金上昇に伴うインフレが課題となっており、エネルギー料金抑制が政治的な懸案となっている。現在、Pay as clearと呼ばれる現行のシングルプライスオークションの枠組みを変更するよう求める声が高まっており、8月29日に欧州委員会フォン・デア・ライエン委員長は電力市場への緊急介入を行い、中長期的には電力市場改革を行う方針を明らかにしている。

英国は既に電力市場の見直し(REMA)を公表し、Pay as bidかつセントラルディスパッチを前提に、プール制への移行を検討している。同時同量を果たす役割はバランシンググループ(BG)にあるが、分散電源が大量に導入された電力市場において、BGの在り方が問われている。欧州の電力市場の在り方に関する議論は日本への影響も大きい。小売り電気事業者の役割に直結するイシューであり、英国・欧州委員会の議論は見逃せない。(M)

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年10月号)


 【東京電力パワーグリッド/「でんき予報」と「停電情報」をYahoo! JAPANに掲載】

東京電力パワーグリッド(東電PG)は、ヤフーと連携して二つのコンテンツ配信をスタートする。東電PGエリア内の電力需給状況に関する「でんき予報」と、停電の状況や復旧見通しなどに関する「停電情報」だ。でんき予報は、Yahoo! JAPANの特設ページ「電力需給ひっ迫 使用状況や節電方法」や「Yahoo! ニュース」などを通じて配信。需給ひっ迫注意報などが発令された際に、節電対策などの情報も掲載する。停電情報については今後、災害などでの停電発生時にYahoo! JAPAN上に掲載することで、情報をリアルタイムに発信していく予定だ。両社は密に連携することで、電力に関するタイムリーかつ正確な情報発信に取り組む構えだ。

【東邦ガス/LNGステーション跡地に系統用蓄電池を導入】

東邦ガスは、自社の津LNGステーション跡地(三重県津市)に系統用蓄電池を導入する。東海3県で初の取り組みだ。系統用蓄電池は電力系統に直接接続して充放電を行うもので、電力が余った時には充電し、不足した時には放電する。再エネの出力変動に対する需給を調整して、再エネの普及促進に寄与することが目的だ。太陽光発電などは天候や時間帯などによって発電量が大きく変動し、電力需給に影響を及ぼす可能性があるため、この変動に対応できる調整力として、系統用蓄電池を活用できる。自社の調整力に利用するほか、需給調整市場、日本卸電力取引所、容量市場などでの取り引きを通じ、電力の安定供給に貢献する。8月から工事を開始しており、2025年の運用開始予定だ。

【東芝/マイクログリッド安定稼働に寄与する技術開発】

東芝はこのほど、マイクログリッドの安定稼働を実現するGFMインバーターに関する実機検証を行った。マイクログリッドは、電力の出力や需要が急激に変動すると、普段安定している系統周波数が急激に変動し、保護リレーが動作し電力供給が止まり停電につながることがある。特に再エネの割合が高まると系統周波数の変動は大きくなる。今回、系統周波数が急激に変動した際、インバーターから電力を出力することで擬似的な慣性を供給し、配電系統内の系統周波数を維持するGFMインバーターを試作、模擬的に構築したマイクログリッドで利用する太陽光発電にGFMインバーターを搭載した際に、系統周波数の低下が約3割抑制されることを実証した。

【九州電力/系統用蓄電所を開設 リユース蓄電池活用】

九州電力はNExT-e Solutionsと共同で、8月5日から福岡県大牟田市で電力系統に接続した系統用蓄電池「大牟田蓄電所」の運用を開始した。これにより、一般家庭300世帯の1日分の電力使用量に相当する再エネの有効活用や、電力の安定供給に貢献する。また、この蓄電所の蓄電池はすでにフォークリフトで使用したものを再利用しており、資源の有効活用に貢献する取り組みとなっている。九州電力は積極的に電源の低・脱炭素化と電化の推進に取り組み、九州から日本の脱炭素をリードする方針だ。

【大阪ガス韓国へ技術供与 水素インフラ構築に貢献】

Daigasガスアンドパワーソリューションは、韓国のヒュンダイモーターグループ傘下のヒュンダイ・ロテム(HRC)と水素発生装置の製造・販売に関する業務提携を拡大し、HRCによる韓国国外への販売を可能にした。2019年にHRCに対して韓国国内での製造・販売を許諾し、HRCが国内の水素ステーション普及のニーズに対応してきた。今回、韓国国内での製造と運転実績を受けて、HRCによる水素発生装置の国外への販売を可能にして世界展開を図り、グローバルに水素インフラ構築に貢献する。

【SBパワー/エンコアードジャパン/国・都の節電補助金事業に参画】

SBパワーとエンコアードジャパンはこのほど、国・東京都の節電に関する補助金事業に参画すると発表した。「ソフトバンクでんき」契約者向けに提供する家庭向け節電サービス「エコ電気アプリ」で節電ポイントを付与する。今冬の節電チャレンジに参加すると国は2000円、都は500円相当のポイントを付与。また、両社は小売り電気事業者向けに提供中の家庭向け節電サービスを拡充し、汎用型節電サービス「節電チャレンジパッケージ」を新開発し、提供を始めた。

【川崎汽船/今治造船/シップオブザイヤー2021で部門賞受賞】

今治造船グループの多度津造船が建造し川崎汽船が運航する、LNG燃料自動車運搬専用船「CENTURY HIGHWAY GREEN」(7080台積み)が、「シップオブザイヤー2021」の大型貨物船部門賞を受賞した。重油燃料船に比べCO2排出を25~30%、SOX排出をほぼ100%、NOX排出を80~90%削減する。また、国内造船所建造の自動車運搬船で初めて高圧式LNG焚き機関を搭載。さらに船内通信のインフラを構築し、世界初の遠隔検査適応新造船であることなどが評価された。

【鹿島/コンクリを環境配慮型に J-クレジットを取得】

鹿島はコンクリートの製造・運搬に関わるCO2の排出量を、ブロックチェーン技術を使って見える化するプラットフォームを開発した。社有施設の新築工事で、このプラットフォームを活用。通常のコンクリートよりセメントの使用量が少ない環境配慮型コンクリートを使用するなど、CO2排出量を削減し、J-クレジット(181t-CO2)を取得した。このプラットフォームには、J-クレジット取得に必要な「削除活動実績報告リスト」の自動作成機能があり、クレジットの取得手続きをスムーズに行うことができる。

【伊藤忠エネクス/スマートソーラー/非FITソーラー保有へ】

伊藤忠エネクスとスマートソーラーは、スマートソーラーが今後開発予定の事業用太陽光発電所を伊藤忠エネクスが優先的に保有することで基本合意した。スマートソーラーは非FITの発電所を全国19カ所に開発する計画で、発電容量総計は約40万kWを想定。伊藤忠エネクスは、環境性のある自社電源を増やし一層の安定供給を目指す方針だ。

【丸紅/バイオ炭の農地施用 日本初のクレジット認証】

丸紅は日本クルベジ協会から、バイオ炭の農地施用によるJ-クレジットの独占販売代理権を取得した。バイオ炭を農地に撒いた際のCO2排出削減量でJ-クレジットの認証を受けるのは日本初。バイオマスを加熱(炭化)してつくられたバイオ炭は、大気中へのCO2排出を抑えることが可能。今後、日本クルベジ協会と共同で、クレジットを販売していく。

【古河電工/鹿追町と脱炭素社会実現で連携】

古河電工と北海道鹿追町はこのほど、地域資源を最大限利活用した脱炭素社会・循環型社会の実現を目指し、包括連携協定を結んだ。古河電工は、NEDOグリーンイノベーション基金事業として、家畜のふん尿などから出るバイオガスの二酸化炭素とメタンを、LPガスに変換する触媒技術の開発・実証を進めている。その実証候補地に鹿追町が選ばれ、共創を開始した。鹿追町は、カーボンニュートラル実現に向けた活動に積極的で、国内最大級のバイオガスプラントによる発電事業など、一次産業とエネルギー産業の融合に成功している。両者はそれぞれのノウハウを生かし、持続可能なエネルギーの安定供給への貢献に取り組んでいく構えだ。

反原子力の「聖地」での政策転換


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

9月1日、反原子力運動の「聖地」ともいえる米国カリフォルニア州で、州内最後の原子力、ディアブロキャニオン発電所の運転期間を2030年まで5年間延長するという州知事提案が議会承認された。

この発電所には、着工後、近傍に活断層が発見され、補強工事のうえ運転を始めたという経緯があり、1981年には逮捕者1900人に上る全米史上最大級の反原子力運動が起こった。運開後も反対運動は続き、2016年には所有者のPG&Eが25年での運転終了を表明し、州も承認。ニューサム現知事も脱原子力を支持し、風力・太陽光の積極導入を進めてきたが、20年には熱波による輪番停電が発生するなど、不安定化する電力供給を背景に方針を転換した。

さて、改めて考えると、わが日本も立派な「聖地」である。福島第一の事故以来、世界中で安全基準は強化されたが、審査のために多くの発電所を長期停止している国は他にはない。その日本でも、岸田政権は今冬に9基、来夏以降は7基の発電所の稼働を後押しすると表明した。ただ、これらは既に原子力規制委員会が「合格」を出したユニットだ。再稼働審査を長引かせている規制の在り方を議論しなければ、こちらの聖地は何も変わらない。規制委は内閣から独立した「三条委員会」であり、アンタッチャブルだと思っている人は多いかもしれないが、例えば米国の原子力規制委員会(NRC)は、上下両院の委員会によって定期的に監視を受けている。さらにNRCには、技術、許認可、法律各々の問題について助言を行う組織が存在するのだ。

日本でも、立法府はこうした仕組みを議論すべき責任を負っているはずだ。国会の先生方は宗教法人問題などでお忙しそうだが、エネルギー危機から国民生活を守るための議論は待ったなしだ。

【電力】原子力政策の転換 国内外が歓迎


【業界スクランブル/電力】

 8月24日のGX実行会議で政府は、来年夏以降に原発7基の再稼働を追加で目指す方針を明らかにし、併せて、これまで「想定していない」としてきた原発の新増設についても、次世代原子炉の開発・建設を検討することを表明した。

震災後10年は長かったが、これまで、重要なベース電源と位置付けながら、極力依存度を下げるというどっちつかずの作文を繰り返すばかりだったところから、ようやく脱却できそうになったことは素直に喜びたい。

9月に入ってドイツも、脱原発を党是とする緑の党を含む政権が廃止予定の原発の延命を決めた。気掛かりなのは、ロシア軍がウクライナのザポリージャ原発への攻撃を強めているというニュースだ。日独などの反原発世論を刺激しようとしている節も感じるが、事実ならば許されない蛮行である。

今回の政府の決定は、海外からも歓迎されている。むしろ海外の方が、より評価しているかもしれない。福島第一原発事故以降、世界は脱原発に向かっているという言説は間違いであるが、とはいえ、近年の新増設計画は大半が中国とロシアによるものだ。 

日本は西側諸国の中で原発をほぼ国産化している数少ない国である。西側陣営にとって日本の技術基盤をみすみす失ってしまうことの影響は大きい。

加えて、使用できる電源を使わずに金に飽かせて化石燃料を買い漁ってきたことは、途上国にも少なからぬ迷惑をかけているし、日本の後の世代にもつけの痛みが及ぶだろう。

今回、ロシア軍のウクライナ侵略が原子力政策の正常化を後押ししたわけであるが、世論調査を見ると数年前から若い世代は原子力活用にむしろ前向きだった。やはり、若い世代はもっと投票に行くべきだろう。(U)

主要途上国が先進国に反旗 G20環境相会合で表面化


【ワールドワイド/環境】

8月31日、インドネシア・バリ島で開催されていたG20環境・気候変動大臣会合は共同声明を採択することなく閉幕した。日経新聞などの報道では「ロシアのウクライナ侵攻を巡り、各国の立場の隔たりが大きく共同声明採択を見送った」とされているが、正確ではない。現実には100を超えるパラグラフのうち、各国の意見が収斂したのは半分にも満たず、ウクライナ侵攻以外にも先進国・途上国間で大きな溝があった。

2021年はバイデン政権の誕生から英国主催のCOP26を通じて野心的な取り組みを求める先進国のペースで国際的な議論が進められた。1・5℃目標、50年カーボンニュートラルを目指すことを特筆大書したグラスゴー気候協定の採択はその集大成といえる。本年6月のドイツ主催のG7サミットにおいてはグラスゴー気候協定を踏まえ、電力部門の脱炭素化、国内石炭火力のフェーズアウト、化石燃料部門への公的支援の原則停止、新興国に対する1・5℃目標と整合的な目標改定の要求などの野心的な文言がちりばめられた。

しかしG20では中国、インド、サウジなどの主要途上国が一斉に先進国主導の野心的議論に反旗を翻し、途上国と先進国の共通だが差異のある責任、支援の大幅拡充要求などを主張した。特に注目されるのは主要途上国がグラスゴー気候協定や1・5℃目標への言及にも反対したという点である。

グラスゴー気候協定はCOP26で全会一致で採択されているので、これへの言及に反対することは通常は想定しにくい。しかしグラスゴー気候協定は1・5℃を目指すべく、30年全球45%減、50年全球カーボンニュートラルなど、中国、インドの目標値を考えれば実現可能性が限りなく低い目標数値を掲げていた。おそらく主要途上国はグラスゴーで「譲り過ぎた」という意識を持っているのではないか。

筆者は野心的なグラスゴー気候協定に対する途上国からの押し戻しが起きるという予測を立てたが、それが現実となった形である。さらに現在はウクライナ戦争によって世界的なエネルギー価格、食品価格の高騰が生じており、世界経済の後退が予測されている。こうした中で相変わらず温暖化防止を最優先に掲げる先進国に対して経済成長を優先する新興国が反旗を翻しても驚くにあたらない。11月のCOP27の先行きは厳しいものになることが予想される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【マーケット情報/10月14日】原油下落、需要後退の懸念強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。特に、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比7.03ドルと6.29ドルの急落となった。需要後退の見通しが相次いで公表され、売りが優勢となった。

OPECは、今年と来年の石油需要予測を、前月時点から大幅に下方修正。今年の消費は、日量46万バレル下方修正の日量264万バレルと予想した。また、来年の見通しは、日量36万バレル下向きに修正し、日量234万バレルとした。背景には、中国におけるゼロコロナ政策の影響等、経済が冷え込んでいくとの見込みがある。また、国際エネルギー機関はOPECプラスの11月減産計画を受け、今年と来年の石油需要予測に下方修正を加えた。

加えて、米国ではインフレ率が一段と上昇。これにより、米連邦準備理事会がさらなる金利引き上げを図り、それにともない経済の減速と石油消費が減少するとの見方が台頭した。

フランスの製油所でストライキが続いていることや、米国の原油在庫の増加も、需給緩和感を強める要因となった。

【10月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.61ドル(前週比7.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=91.63ドル(前週比6.29ドル安)、オマーン先物(DME)=92.06ドル(前週比2.18ドル安)、ドバイ現物(Argus)=91.76ドル(前週比2.38ドル安)

エネルギー価格高騰が直撃 ASEAN諸国の対応は


【ワールドワイド/経営】

ロシアのウクライナ侵攻を契機として、世界中で物価高騰が加速、その影響は、中・低所得国を抱える東南アジア(ASEAN)を直撃している。

顕著な動向として現れているのがエネルギー価格の高騰である。タイでは5~8月期、9~12月期の電気料金が2014年以来の最高値を2期連続で更新。同国では天然ガスの国内生産量の減少に伴い、海外調達への依存度が高まっており、LNGスポット価格の高騰が電気料金の急騰につながった。ベトナムでは輸入炭価格の高騰が引き金となって深刻な石炭不足が生じ、総発電電力量の半分を占める石炭火力が停電を引き起こすリスクが高まっている。インドネシアやマレーシアでは、価格高騰に対して政府がエネルギー資源への補助金を拡大、カンボジアは電気料金に対する補助金を増額し、国家財政を圧迫し始めている。

これに追い打ちをかけているのが、米国のインフレ抑制策(金利引き上げ)に伴うアジア通貨の下落である。ラオスでは、外資の民間発電所からの電力調達が外貨建てであることから、現地通貨安により電力公社の赤字が拡大し、政府の財政負担が増しており、悪循環に陥る懸念が強まっている。フィリピン・タイ・ベトナムでも現地通貨安が続いており、エネルギー価格の高騰に拍車をかけている。コロナ後の行動制限緩和で消費は堅調なものの、中央銀行の急ピッチの利上げが続いており、今後の景気への影響が懸念されている。

このように影響は国によって違いがあるものの、どの国の対応策も限界に近づいており、インフレと景気停滞が同時に発生するスタグフレーションのリスクも指摘される。ウクライナ危機は食料やエネルギー、金融などあらゆる部門に暗い影を落としており、世界的に経済状況が安定化するには長い時間を要するものと見られる。こうした中にあって、今後ASEANが進む方向は、短期的にはエネルギー資源の確保や資源輸出の規制強化、中長期的には「長期ASEANエネルギー見通し」の目標の通り、エネルギー自給率を高めるための再エネ開発やエネルギー効率化の促進だとされている。現在の状況を鑑みるに、この必要性がますます高まっている。

国際協調路線が大きく揺らいでいる現在、ウクライナ戦争が惹起した未曽有の経済危機を乗り越えるために、世界各国が共通に取り組むべき課題は多い。これらの課題にどのようなフレームワークを活用できるのか、今こそ人智が試されているといえよう。

(柳 京子/海外電力調査会・調査第二部)

スタートアップ企業と業務提携 「医療・ヘルスケア」の取り組み加速


【中部電力】

 中部電力が医療・ヘルスケア分野への取り組みを加速させている。ヘルステック・スタートアップ企業のUbieと協業に向けた業務提携で合意。同社が実施した第三者割当増資の一部を引き受け、株式を取得した。

Ubieは、毎月約700万人が利用する症状検索エンジン「ユビー」を展開。ユーザーは人工知能(AI)から生成される質問に答え、症状をチェックするだけで、関連する病名や近隣の医療機関を検索できる。医療機関向けには、患者の問診回答を事前に確認できるサービス「ユビーリンク」などを提供。全国約1万5000件の医療機関が導入している。

症状検索エンジン「ユビー」

8月には『Forbes』が発表した「Forbes Asia 100 To Wa-tch(アジア太平洋地域で注目すべき中小企業100社)」に選出されるなど、勢いのあるスタートアップ企業だ。

中部電力は医療・ヘルスケア分野において2020年9月、メディカルデータカードを連結子会社化した。同社はオンライン診療ツールの提供や、医療機関と個人の検査結果の共有など医療機関と患者をリアルタイムでつなげるサービス「MeDaCa」を開発・展開。医療機関と患者は、診察券、検査データ、処方箋、レントゲン写真、健康診断書などをウェブでいつでも閲覧できる。

問診から結果共有まで オンライン診療を一貫提供

子会社化以降は、慶応大学病院産科外来の「遠隔妊婦健診」を支援するシステムの運用を始めた。こうした遠隔健診サービスによって得たバイタルデータ(体重、血圧、脈拍などの生体情報)は、中部電力がクラウド上で保管。今年9月には、国内の半数を超える検査機関とシステム連携する予定となっている。

今後、中部電力とUbieはMeDaCaとUbieを連携することにより、医療機関を受診する一連の流れを、垣根なく一体的に提供する仕組みを構築する。症状のチェックから医療機関の検索、問診回答の共有、診察・検査、アプリを通じた検査結果の共有―などだ。

23年度には機能のさらなる向上を図る。中部電力グループが提供する連絡網サービス「きずなネット」や電気料金や使用量などをウェブで確認できる「カテエネ」と連携し、より利便性を高めていく方針だ。

両社は「さまざまなデータを活用し、医療・ヘルスケア分野での取り組みをさらに大きく発展させるとともに、暮らしを便利で豊かにするサービスをご提供することで、お客さまや社会とともに持続的な成長を実現していく」と新分野に意欲を見せている。

イランが国際的孤立打開も ウクライナ侵攻と核合意で


【ワールドワイド/資源】

 ロシアのウクライナ侵攻とイラン核合意交渉という二つの動きは、イラン石油ガス産業の国際的孤立を打開するきっかけとなる可能性がある。2018年5月に米国がイラン核合意から離脱して以降、外国企業はイラン石油ガス産業への参画を断念し、イランの油ガス田は引き続き国内企業によって操業されることとなった。制裁によりイランは石油増進回収(EOR)技術やLNG関連技術など、石油ガスの生産・輸出に必要な技術の恩恵を受けることができない。イラン国内企業はそれらの技術を有さず、外国企業の資金や知見も得られないため、石油の増産やガスの域外輸出に制約が生じている。この状況が、二つの世界的な出来事によって変化するかもしれない。

22年2月のウクライナ侵攻は、エネルギー市場を通じてイランにも影響を及ぼしてきた。欧米諸国によるロシアのエネルギー部門への経済制裁が強化されたことで、ロシアとイランは「原油輸出に関する制裁回避方法」に関する協力を進めているといわれる。また、イランが制裁回避を手伝う一方、22年7月に締結されたロシア国営ガスプロムとイラン国営石油会社のエネルギー協力に関する覚書において、ガスプロムはイランのガス田開発やパイプライン建設に協力することを表明した。今後、ともに被制裁国であるロシアとイランが、石油ガス産業で協力を進める可能性が高まっている。

22年9月初旬現在、EUが提出したイラン核合意「最終草案」に対する検討作業が進んでいる。核合意が成立すれば、イランの石油生産量が数カ月から1年以内に日量380万バレルまで回復し、外国企業が制裁を受けずにイランの石油ガス産業に参入可能となることが見込まれる。前回の核合意では、中国のCNPCやフランスのトタルエナジーズらが関心を示し、探鉱開発契約まで至った例もあった。核合意が成立した際には、イランが検討している中国、ロシア、中央アジア諸国、ペルシャ湾岸諸国などとの共同事業が早期に進展する可能性があるほか、EOR技術やLNG関連技術を持つ欧米企業との協力への道も開かれる。

イランはウクライナ侵攻と核合意交渉の行方次第でさまざまなパートナーを得る可能性がある。核合意が成立したとき、イランはロシアと欧米諸国のどちらとの協力を選択するか、または両方のバランスを取りながら協力していくのか。その選択はイラン石油ガス産業にとって、また世界の原油供給にとって重要な岐路になりうる。

(豊田耕平/JOGMEC調査部調査課)

「水素先端技術センター」を新設 次世代ディスペンサー開発を推進


【トキコシステムソリューションズ】

トキコシステムソリューションズはこのほど、静岡事業所(掛川市)内に「水素先端技術センター」を開設した。世界的なカーボンニュートラルの潮流の中で、水素利用はさまざまな用途で拡大していくと見られる。車両分野では燃料電池自動車(FCV)に加え、商用大型トラックなど市場の拡大が見込まれ、バス向けの車体をより大型化した物流向けFCVへの期待が高まっている。同センターでは、そういった次世代車両向けディスペンサーの開発に乗り出す。

開設した水素先端技術センター

次世代ディスペンサーでは、充填時間を小型FCVは3分程度、大型トラックは10分程度で済ませる充填時間短縮技術や、1台のディスペンサーで異なる車体サイズの車両に同時に水素を供給する充填技術、圧縮機や蓄圧器などのステーション機器の効率的な運転制御技術などが求められてくる。

そこで、同センターには従来比5.5倍の吐出能力の圧縮機、同2.4倍の蓄圧器、同5.5倍の模擬充填タンクなどを揃え、充填試験全体で、最高圧力は87.5MPa、最大流量は同3倍以上の流量試験が可能な設備を実現した。これにより、ディスペンサーの出荷前試験の能力を、従来の月当たり最大6台から同20台まで引き上げた。インフラ事業責任者兼静岡事業所長の髙橋太氏は「まずは大型トラックへの充填を目指します。同センターは、さらに大流量の試験にも対応するなど、将来を見据えた設備を揃えます」とアピールする。

最新の評価設備が並ぶ

岩谷産業グループに加わる 技術によるシナジー創出へ

トキコは全国53カ所の水素ステーションにディスペンサーを納入するほか、水素ステーションのエンジニアリングにも携わる。今年4月に岩谷産業グループに加わった背景にはそうした技術力を持つことも要因にあったとのことだ。

輪島勝紀社長&CEOは「今後、岩谷産業グループで創出できる新分野としては、水素ステーション用配管ユニット、各種プラント制御機器、水素サプライチェーンやアンモニアなどの流量計測や制御製品の拡大などが考えられます。グループ全体で目指すCO2フリー水素サプライチェーンの構築を後押したい」と抱負を語った。新たな価値創出に積極的に取り組んでいく構えだ。