電気料金の請求額が前の月から一気に3倍に上がった。前の年の同じ月と比べると2倍。電気の使用量は減っているはずなのに」―。1月分の電気料金の請求明細を手に、困惑した表情を浮かべながらこう語るのは、東京都内在住の40代の男性だ。

暖房需要で光熱費が上がる冬に入り、あまりに高額な電気代の請求に家庭の需要家からは悲鳴が上がっている。規制料金であれば、燃料費調整額の上限によってある程度守られているが、上限が廃止されたオール電化住宅の家庭の場合、10万円超の請求もざらだ。
ただ、大手電力会社としても規制部門の赤字供給状態を放置したままでは財務基盤の悪化を招きかねない。昨年末の東北、北陸、中国、四国、沖縄の5社に続き、東京電力エナジーパートナー(東電EP)も1月23日、6月の家庭向け経過措置料金値上げへ経済産業省に料金改定を申請した。
同社の料金改定は、2012年9月に実施して以来。22年9月以降、燃料費調整単価が上限に達し、このままでは23年度は約2500億円の持ち出しになるという。平均値上げ率は29・31%。標準家庭(使用量260kW時)の月額料金は、28・6%値上がりの1万1737円となる。
原価算定に当たっては、柏崎刈羽原発7号機を今年10月、6号機を25年4月に再稼働する運転計画を織り込み、1kW時当たりの値上げ幅を2・1円程度圧縮した。会見した東電ホールディングス(HD)の小早川智明社長は、「国難とも言える状況だからこそ、グループ一丸となってお客さまや地域社会とともにより良い解決策を創造していきたい」と語った。
また、燃料費や卸電力市場価格が引き続き高水準で推移し、23年3月期の東電EPの収支が約5050億円の経常赤字となる見通しであることから、昨年実施した2000億円に続き、3000億円の追加増資をHDが引き受けることを合わせて発表した。これにより、収支の著しい悪化で棄損した、東電EPの財務基盤の立て直しを図る狙いだ。
値上げに世間の厳しい目 迷走する賃上げの扱い
値上げの主な要因が燃料価格高騰と円安とあっては、事業者の努力で圧縮できる余地は少ない。そんな中、既に始まっている先の5社の料金査定で一つの焦点となっているのが賃上げを原価に織り込むかどうかだ。
実を言えば、料金改定で用いられる「審査要領」では、消費者物価や雇用者所得の変動見込み(エスカレーション)の原価参入を認めていない。一方で、河野太郎消費者担当相が昨年8月、「公共料金の改定では、企業の賃上げが適正に見込まれているか検証する」と明言している。
査定を担う専門委員の間でも、政府方針に則り一定の賃上げを容認するか否かで意見が真っ二つに分かれている。物価上昇を受けて経済界全体に賃上げの機運が高まる中、これからのエネルギー業界を担う優秀な人材を確保し続けるためには、「適切な給与水準の維持は欠かせない」(学識者)。








