理念的なG7共同声明 現実世界との乖離広がる


【ワールドワイド/環境】

G7エルマウサミットは6月28日に首脳声明を採択して閉幕した。国内石炭火力の扱いについては「2035年までに電力部門の完全または大宗の脱炭素化の達成にコミット」「国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトの加速に向けた、具体的かつ適時の取り組みにコミット」とされ、フェーズアウトの具体的年限は設定されなかった。

化石燃料プロジェクトへの公的融資については、「国家安全保障と地政学的利益の促進が極めて重要であることを認識した上で、各国が明確に規定する、1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策の講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を22年末までに終了」との文言が盛り込まれた。昨年11月のCOP26で化石燃料セクターへの公的支援を22年末までに終了との有志国による共同声明を踏襲するものだが、「国家安全保障と地政学的利益の促進が重要であることを認識した上で」という枕ことばが入り、1.5℃目標などとの整合性については「各国が明確に規定」とされている。例外となる状況の解釈に各国の国家安全保障上の必要性が考慮されるようになったといえる。

またロシア産天然ガスからの脱却のためにはLNG転換が不可欠であることから、LNG投資については再エネ由来水素開発のための国家戦略への統合などによりロックイン効果を回避すれば「一時的な対応として適当であり得る」との文言が入った。「化石燃料への公的投資の停止」という方針を掲げた中での苦心の作文である。

ドイツの提案する「気候クラブ」は産業部門の野心を向上させ、国際ルールを順守しながら排出集約財のカーボンリーケージのリスクに対処するとされている。具体的内容はいまだ不明確だが、気候クラブに実効性を持たせるためには中国、インドの参加が不可欠だ。しかし彼らがG7共同声明の要請に応じて1.5℃目標と整合的な形で国別貢献目標(NDC)を年内に見直すとは思えない。

ウクライナ戦争によるエネルギー安全保障上の脅威の下でも温暖化アジェンダにコミットするG7であるが、中国、インド、ロシアの入るG20では全く様相が異なる。理念的なG7共同声明と現実世界との乖離がさらに広がっている。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

需要家参加型で関心高まる オームコネクト社のDR事業


【ワールドワイド/経営】

米国では今夏、熱波による記録的な電力需要の高まりによる需給ひっ迫が懸念される地域がある。また、卸電力価格の高騰によって電気料金が上昇し、インフレに苦しむ家庭用需要家の負担がさらに増嵩することが危惧されている。このような中、節電ができ、かつ料金の削減につながる需要家参加型デマンドレスポンス(DR)への期待が高まっている。

この分野で特に注目されているのが、2013年に設立されたスタートアップ事業者のオームコネクト社(カリフォルニア州)だ。同社は、カリフォルニア州やニューヨーク州の主に家庭用需要家向けに電力管理プラットフォームアプリを提供し、需給ひっ迫が予想される時間に使用量の削減やピークシフトを促すDRビジネスを行っている。

同社のDRプログラム「オームアワーズ」は、24時間以内に需給ひっ迫が予測される場合、プログラム発動時間をメールやSMSで顧客に通知し、DRプログラムへの参加を促す。参加した顧客は、使用量の削減量に応じた報酬を得る仕組みとなっている。

また、20年からは需給ひっ迫時にリアルタイムで発動する「オートアワーズ」プログラムも提供している。このプログラムでは、顧客の機器操作なしに、発動時間に自動的にネットワーク化されたサーモスタットや家電製品が15分単位で制御される。このように同社は家電製品とDRプログラムの統合を積極的に進めており、その顧客数は17年の約1万件から、22年には約20万件へと大幅に増加している。

同社は最近、EVや太陽光発電(PV)、蓄電池などの分散型エネルギー資源(DER)を仮想電源として制御するバーチャルパワープラントシステムを活用したDRサービスも手掛け始めた。3月からは、PV設備メーカー・サンパワー社と連携し、ルーフトップPVと蓄電池を保有する顧客に対して、ピーク時に使用量削減だけでなく、蓄電池からの電力を配電網へ逆潮流することで報酬を上積みするDRプログラムを実施中だ。

さらに、今年の夏季(5月30日~9月30日)には、ピーク時に使用量削減に応じた顧客に対し、通常のDR料金にボーナスを加算し、抽選で賞金や豪華景品が当たるMEGAサマーキャンペーンを実施している。同社のデブリースCEOは、料金が最も高いときに使用量を抑えるためのツールとインセンティブを顧客に提供することで顧客自らが節電行動をとるようになると述べている。

(長江 翼/調査第一部米国グループ研究員)

【マーケット情報/8月12日】原油上昇、需要増加の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需要回復の見通しが、供給増加の観測を上回り、買いが優勢となった。

米国では、ガソリン需要が前週比で増加。前年を引き続き下回る水準ではあるが、燃料需要回復の兆しが、価格の支えとなった。また、国際エネルギー機関が、今年の石油需要予測を大幅に上方修正。天然ガス価格の急騰が、発電事業者による石油の代替利用を促すと予想した。

一方、サウジアラムコ社の9月ターム供給は、多くのアジア太平洋、欧州・地中海における買い手の希望通りとなる見通し。また、核合意復帰に向けた米国とイランの会合が進展。米国の対イラン経済制裁の解除、およびイラン産原油の供給増加へ、期待が高まった。さらに、ロシアからハンガリー、スロバキア、チェコ共和国へ原油を輸送するドルジバ・パイプラインの稼働が再開。ウクライナの支払い問題により、4日から停止していたが、供給不安が緩和された。ただ、価格の下方圧力とはならなかった。

【8月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=92.09ドル(前週比3.08ドル高)、ブレント先物(ICE)=98.15ドル(前週比3.23ドル高)、オマーン先物(DME)=99.08ドル(前週比4.71ドル高)、ドバイ現物(Argus)=98.03ドル(前週比4.96ドル高)

ウクライナ侵攻で制裁解除も 石油産業復活には課題が山積


【ワールドワイド/資源】

ベネズエラは、3038億バレルと世界第1位の石油確認埋蔵量を誇っている。しかし、チャベス前政権以降の失政で、石油会社や石油サービス会社の一部が同国から撤退したり、事業を縮小したりしたことなどで、石油産業は打撃を受け、ピークの1998年には日量350万バレルほどあった生産量が減少を続けている。

さらに、2018年の大統領選の正当性を巡り米国との関係が悪化、19年初めには米国財務省がベネズエラ国営石油会社PDVSAを制裁対象とした。これにより、ベネズエラは石油輸出先の多くを失うとともに、確認埋蔵量の大宗を占める超重質油を輸送するために必要な軽質原油やコンデンセートなど希釈剤を輸入することが困難となった。この米国による制裁が追い打ちをかけ、生産量は日量50万バレル程度まで落ち込んだ。

21年9月以降、イランからコンデンセートが供給されたことで、ベネズエラの石油生産量は一時、日量100万バレルまで回復した。しかし、停電や事故、火災の発生、部品不足、盗難の頻発、原油輸出の滞りなどから、22年1~5月は日量69~75万バレルとなった。

ロシアのウクライナ侵攻により石油需給ひっ迫懸念が高まったことで、ベネズエラのこの状況に変化が生じる可能性が出てきた。22年3月、米国はベネズエラと、経済制裁の緩和やベネズエラの原油増産に向けて協議を開始した。これについては、反米のマドゥロ政権に対する制裁緩和になるとして、米国議会の与野党議員から反発する意見が表明された。

しかし、5月中旬、米国が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いた(具体的にはシェブロンとマドゥロ政権の協議再開を一時的に認めた)ことから、マドゥロ大統領は米国が支持する野党側との協議を再開することとし、米国は、この協議の進展次第では、制裁を大幅に緩和するとした。とはいえ、本稿執筆の6月末時点で、米国はシェブロンに対して、これまで同様、同国での掘削、生産、輸送、販売などは禁止、資産維持や設備のメンテナンスなどのみを認めている。

一方、米国は6月、ベネズエラで操業中のEni(伊)とRepsol(西)に対してシェブロンと同様に同国産原油を欧州市場向けに輸出することを正式に認めており、状況次第では、引き続き米国が制裁を解除する可能性がある。ただし、米国の制裁が解除されても、ベネズエラの石油産業復活には投資や人材の確保などの課題があり、容易には進まないとの見方も多い。

(舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年8月号)


【東邦ガス/バイオガス由来のCO2でメタネーション実証】

東邦ガスは、知多LNG共同基地内で、バイオガス由来のCO2を活用したメタネーションの実証試験に取り組む。知多市と連携し、2023~26年度に実施する。知多市が南部

浄化センターの下水汚泥処理で発生するバイオガス由来のCO2を提供。東邦ガスはLNGの冷熱を活用した冷熱発電などによる電力を使って水素を製造し、メタネーションを行う。合成されたメタンは都市ガスの原料として利用する。実証では、東邦ガスはメタネーション設備の構築と、システム全体での効率を評価する。メタネーションによって合成されたメタンを都市ガスの原料として利用するのは国内初となる見込みだ。将来はメタネーション設備の社会実装で、ガス自体の脱炭素化を目指す。

【リンナイ/家庭用給湯器で世界初の水素100%燃焼技術を開発】

リンナイは、世界初となる家庭用給湯器での水素100%の燃焼技術開発に成功した。同社はCO2排出削減に取り組む中で、商品使用時に排出されるCO2が約95%を占めることから、高効率給湯器などの省エネ商品開発の先に、CO2を排出しない商品の開発を目標としてきた。水素はCO2排出ゼロのクリーンな燃料として注目される一方、爆発の危険性や不安定な燃焼といった課題がある。こうした課題に対し、同社はガス機器の開発で長年にわたって蓄積してきた燃焼技術や流体制御技術を活用。実用化に向けて、2022年末頃から実証実験をスタートする予定だ。水素給湯器の量産化を目標とし、さらなる技術の確立と信頼性の向上を目指す。

【大阪ガス/エネファームを活用した仮想発電所の実証を開始】

大阪ガスは、エネファームをエネルギーリソースとした仮想発電所(VPP)を構築し、系統需給調整に活用する実証事業を開始した。需要家とVPPサービス契約を直接締結してリソース制御を行う大阪ガスは、昨年度にDER(分散型エネルギーリソース)実証事業に参画し、3600台以上のエネファームによる実証を行い、調整力供出量ベースで1MW以上の供出に成功するなどの一定の成果を得た。今年度は制御方式を変更し、系統需給状況に応じたエネファームの遠隔制御の精度向上、より速い調整力への対応を目指した技術検証を行う。今後、エネファームなどの低圧リソースを活用し、DERと組み合わせたエネルギーネットワークの普及拡大を進める。

【エア・ウォーター/CO2を回収しドライアイスを製造】

エア・ウォーターは、低濃度のCO2(燃焼排ガス中のCO2濃度10%程度)を高効率に回収できる装置「ReCO2 STATION」を開発した。4月から、バイオマス発電所に設置。燃焼排ガスから純度約99%で回収したCO2でドライアイスを製造し、顧客に提供する事業実証を行った。非化石燃料由来のドライアイス製造は、国内初の取り組みだ。同装置の導入で、CO2回収と利用がワンストップで可能になる。将来的に地産地消型のCO2回収・利用モデル構築を目指す。

【丸紅/離島で蓄電池併設型太陽光の実証開始】

丸紅は鹿児島県奄美大島で、蓄電池併設型屋根置き太陽光発電の長期売電事業の実証を開始した。この実証では、複数の施設や駐車場の屋根などに初期費用負担なしで太陽光発電システムを導入。発電した電力を長期売電契約に基づき売電する。また、電力の不足時には、併設の蓄電池を遠隔制御して電力を放電する。この需給調整機能の提供についても事業性の検証・評価を行う。この実証を通じて、離島での分散型電源や蓄電池、需給調整事業を推進していく方針だ。

【四国電力/グリッド/AI活用し需給計画立案 運用の効率化に貢献】

四国電力とグリッド社はAIを活用した電力需給計画立案システムを開発し、7月から運用を開始した。電力需要の想定などからシナリオを複数作成し、シナリオごとに最適な発電計画を作成する。期待収益を分析・評価し、最も経済的な発電計画を採用する。このシステムの導入により、複雑化する電力需給計画の最適化が可能となるという。

【商船三井/次世代石炭船の第2船 「HOKULINK」と命名】

商船三井が建造経験の豊富な国内造船所と、同社のノウハウを結集して設計した次世代型石炭船「EeneX」の第2船が完成した。北陸電力向け専用船で、北陸電力の松田社長が「HOKULINK」と命名した。就航中の「エナジープロメテウス」と共に、北陸電力の石炭火力発電所向け海外炭輸送の一翼を担い、持続的で安定的な電力供給に貢献する。

日本のマスコミの実態 「平和ボケ・不誠実・お花畑」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 原子力は頼りにならない、と思われているせいではないか。

その現状を憂える国際エネルギー機関(IEA)の報告書について報じた国内メディアはごく一部だった。一つが日経7月1日「温暖化ガス、50年にゼロなら…IEA『原子力投資3倍超に』」だ。

報告書は6月30日に公表。「世界のエネルギー供給に占める原子力の割合は2020年で5%。32カ国で413ギガワット」だが、「50年に排出を実質ゼロにするには」「原子力への投資を3倍超に引き上げ」「容量を倍増させる必要がある」と試算したという。

問題は、この記事が触れていない部分だ。報告書は「先進国で稼働中の原子力発電所は30年までに3分の1に縮小する」と見積もり、「2017年以降、世界で建設を始めた31基の原子炉のうち27基はロシアか中国の設計」と指摘したうえで、先進国の技術力の衰退に警鐘を鳴らしている。

ロシアのウクライナ侵略はエネルギー危機をもたらした。原子力でもロ・中の支配が進めば、エネルギー安全保障やセキュリティー上のリスクが増す。報告書の核心はそうした懸念だろう。米CNBCも4日、「ロ・中が原子炉設計を支配、IEA警告」と伝える。

日経は平和ボケか。

こちらも肝心の要素がない。朝日6月24日夕刊「いま聞く、核のごみ処分場、反対の訳は」だ。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場について「日本に適地はない」と主張する札幌管区気象台の予報官を紹介する。「北海道寿都町で最終処分場の議論が始まり2年。寿都の歴史に詳しい気象庁職員」なのだという。

何を根拠に「適地はない」と言うのか。首をひねりながら読むと根拠を示さずに「思います」。処分場は地下深くに建設されるが、この職員は日本列島の地下データをきちんと分析したのか。記者も、裏付け取材をしたのか。記事は不誠実に見える。

同じ朝日系列では、テレビ朝日6月27日「スーパーJチャンネル」がネット炎上した。節電を訴えるニュースで「家庭における電気の使用割合」を円グラフで紹介した際、もとになった資源エネルギー庁の資料から「テレビ・DVD」の8.2%を省いたためだ。

ITmedia ビジネスオンラインテレビ6月30日の検証によれば、テレビ・DVDはエアコン、照明、冷蔵庫に次いで4番目に電力を消費する。節電のためテレビを消そう、では視聴率が下がると心配したのか。不誠実極まりない。

お花畑かと驚いたのは日本テレビ系列の元人気アナウンサーで、今も活躍する辛坊治郎氏だ。

7月初め、太陽光発電を絶賛するネット発信が相次いだ。2日ツイッターで「『原発動かしたら電力不足解消』は間違い。関東の人が熱中症で死なないのは、太陽光パネルのおかげ。土下座して感謝すべき」。4日は「未来の日本のエネルギーは全て太陽光。否定する人がいたら、経産省に洗脳されている。お馬鹿さん!」。

産経4日「電力需給逼迫、再エネ弱点鮮明、太陽光、半日で予測一転」は、「日射は低下するが、まだ気温が高く需要が高止まりしている夕方に、受給が逼迫」と解説する。日射低下時の電源不足を補う有力候補が原子力だ。

「全て太陽光」も、例えば富士山が噴火して、広域で火山灰がパネルに積もったら電力は確保できるのか。冬の豪雪は大丈夫か。

平和ボケ、不誠実、お花畑。メディア情報のうのみは危ない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

迷走する日本 電力需給ひっ迫は大衆迎合の帰結


【オピニオン】品田宏夫/新潟県刈羽村長

 恐れていたことが起きた。安倍晋三元首相が目の前で凶弾に倒れてしまった。数々の功績をたたえるとともにご冥福を衷心より祈り上げたい。凶行に怒り心頭であると同時に何とか警護できなかったものかと今更ながら悔やむ。

日中国交正常化後、何年かたった総選挙だったと記憶しているが、お国入りした田中角榮元首相の警護はかなり緊張感を持ったものだった。防弾用の鉄板が仕込まれた演台を大人6人がかりで運搬したことがある。

合計特殊出生率低下を1.57ショックと表し騒動になったのは1990年のことである。以来、少子化対策は今日に至るまでその重要性を増すばかりだ。30年余、子育て支援策に代表されるさまざまな手を打ってきたが出生率は回復する気配すらない。出生数は右肩下がりのまま現在に至っている。30年という長い期間にわたって実践されてきた施策の失敗は明らかだ。それら施策の拡大を試みることが少子化対策に有効であるという考えは根底から改めるべきではないのか。

この世に生まれた尊い命に対し、幼児虐待事案が急増している。抵抗できない幼児に圧倒的な力で暴力を振るうなど、恥ずかしいにも程がある。卑劣というほかない。誰かから大きな力で制止されるまで己の卑劣さに気付かないのか。自分さえ傷つかなければ平穏でいられるなどと、どのアタマで考えているのか想像もつかない。閉鎖的な自己中心社会で安穏と生きられるような社会整備にこの国は熱心だ。自己中心と、欧米に見られるような個人主義は全く異質のものである。

まさか停電するなどとは誰一人思ってもみなかった。奇跡的に回避できたが、冷や汗をかいたのはごく一部の人で大衆は危機的状況を全く理解できなかった。今年3月のことである。6月にも需給がひっ迫した。厳しい夏は何とかなるらしい。正念場は冬で、そのときは万事休すというのが現在の見立てである。節電が大事だそうだが意味が分からない。

無理のない範囲の節電というが、そんなことは既にやっている。不要な電気を使うばかはいない。無駄な電気を使わないのは経費の節約だ。節電とは必要な電気を使わない、使わせないということではないのか。エアコン不使用は命に関わる。工場が生産を止めたら事業が成り立たない。日本はこんな国になってしまったのである。

需給ひっ迫の対処は発電量を増やす以外にない。号令をかければ発電が始まると大衆は考えているが、号令や議論で電力が生まれるはずがない。設備があれば発電できるがそれがない。効率の悪い設備は消えてしまった。儲からないからだ。電力自由化がもたらした弊害がこれだ。

総じてこの国は己の確固たる意志を持てなくなったように感じる。決断ができなくなったと感じる。大衆迎合の結果として停電するなら、不遇を我慢してもらうしかない。勝手気ままに生きられた歴史は人類史に存在しない。わがままが通る……それはただの空想である。

しなだ・ひろお
駒澤大学経済学部卒。1991年刈羽村議会議員。99年刈羽村議会議長。2000年刈羽村長。20年12月6期目就任。

世界に先駆けた脱炭素技術の開発拠点 メタネーション革新技術などを公開


【大阪ガス】

 大阪ガスは、大阪市酉島地区の「カーボンニュートラルリサーチハブ」で、メタネーション(合成メタン)や水素製造・利用、蓄電池などの開発を進めている。6月末のメディア見学会では、初お披露目となるSOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーションのデモ装置など、さまざまな脱炭素技術の開発模様を公開した。

SOECメタネーションのラボスケールデモ装置

メタネーションについて、大ガスでは従来技術のサバティエ反応だけでなく、革新技術のバイオ技術は30年代、SOECは40年代の商用化を目指す。メタネーションは50年に90%導入という高い目標を掲げる。

ことにSOECは燃料電池の逆反応であり、同社の強みのエネファーム技術を生かせる。SOECを使って再生可能エネルギーでCO2と水(H2O)を高温電解し、水素(H2)と一酸化炭素(CO)を生成。そこから触媒反応でメタン(CH4)と酸素(O2)を産出する。メタン合成時の排熱も利用し、約85~90%もの高い変換効率が期待できる。

SOECの従来型は、全体を特殊なセラミックスで構成する高価な「セラミックス支持型」。これに対し同社は独自で、金属板表面を薄いセラミックス層で覆う「金属支持型」を開発。この改良で低コストでのスケールアップが見込める。産業技術総合研究所などと共同で今年度から24年度まで、ラボスケールで実証する。見学会では、1分に50‌ccとごくごく小規模でメタンを合成し、バーナーにかわいらしい炎がともる様子を公開。

「この小さな火が新たな技術の第一歩」(エネルギー技術研究所)となる。25~27年度はベンチスケール(約200戸相当)、28~30年度はパイロットスケール(約1万戸相当)に拡大していく計画だ。

地産地消型のバイオメタン 大阪万博で展示予定

もう一つの革新技術、バイオメタネーションの実証も始動する。地産地消型で、地域の脱炭素化との相性が良い。下水汚泥などから発生させたバイオガス中のCO2と再エネ由来水素を、微生物反応でメタンに合成する技術だ。さらに今後利用増が見込まれるバイオプラスチック廃棄物などからガスを取り出す技術を開発して組み合わせ、バイオガスの総量増を目指す。市の下水処理場で試験を行う。

また、バイオにサバティエ反応を組み合わせる手法も検証する。合わせ技で、生ごみ由来ガスと再エネ由来水素からより多くのメタン製造を狙う。こちらは清掃工場、そして25年の大阪・関西万博で実証する。特に万博期間中は、DACで大気からCO2を直接回収して投入し、さらなるメタン製造量の増大も検討中だ。

世界に先駆けた大阪発の技術開発が着々と進んでいる。

【コラム/8月12日】再生可能エネルギーの普及に欠かせないビジネスとしてのO&M


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

 先日、リアスプ(再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)のとある打ち合わせの中で、「今後、再生可能エネルギーの発電所、特に太陽光発電所が増えていく中で、発電所の運営・維持管理をするO&M(オペレーション&メンテナンス)の重要性が高まっていくのでは」という会話があった。脱炭素社会を目指していく中で再生可能エネルギーの重要性は色んな所で話題になるが、再エネ発電所の運営・維持管理というものはどちらかというと黒子的な役割で余り話題になることはないのではないだろうか?今回はその黒子というか縁の下の力持ち的な役割のO&Mについて触れてみたいと思う。

これまではいわゆる電力会社が、地域毎(北海道なら北海道電力、東北は東北電力…といったように)に発電、送配電、小売とワンストップで電力の安定供給を行い、戦後の日本経済の発展をエネルギーの面で支えてきた。電力会社は発電所を資産として自社保有し(自社BSの固定資産)、自社(グループ会社として)で運営・維持管理をしていた。従い、O&Mというのは、ビジネスとしてというよりは電力会社内の一つの機能として行われてきた。

 しかしながら、電力の自由化に伴わせて発電所が火力発電所といった大規模な電源(バルク電源)から太陽光発電所をはじめとする全国各地に点在する分散型電源としての発電所が増えてきたこと、それらの発電所の保有者が電力会社だけでなく、機関投資家、事業会社、個人等といった様々な方が保有するようになったことで、発電所を運営・維持管理するということが、新たなビジネスチャンスとして広がってきている。固定買い取り制度(FIT制度)が始まり、再エネ発電所による売電収入というビジネスチャンスに様々な業態のよる参入が促されたわけだが、O&Mというビジネスはその派生的なものとして拡大していくだろう。FIT制度初期のころは、FIT単価が高いこともあり、O&MはEPCひも付き、投資家もそのサービスと対価の関係等をそんなに気にしていなかったが、FIT単価が徐々に下がっていくに従って、期待収益が低下する中でO&Mに対しても費用対効果といった、サービスとしてのO&Mという意識が年々高まりつつあると考えている。この動きは今後益々拡大していくであろう。

 こうした中で、手前味噌な話にはなってしまうのだが、私が所属しているリニューアブル・ジャパンのO&M事業について、これまでの取り組みや今後についてご紹介したいと思う。

まず実績として、既に1GW超の太陽光発電所のO&Mを行っている。元々は自社で開発し、自社保有、公募私募ファンド、別の事業者等に発電所を保有していただき、そのO&M受けることからスタートしたが、そこで蓄積したノウハウを活かして、数年前から他社が開発した発電所のO&M部分を受けるということを始めた。その結果として1GW超の発電所を管理するに至ったのである。それを可能としたのは、1つには、全国展開ということであろう。北は北海道から南は九州鹿児島県まで全国約30か所に拠点を構え、可能な限り地元の方を採用している。また、新しいO&M受託する発電所が既存の拠点の近くにあれば、その拠点から管理することになるが、ない場合は、新たに地域拠点を開設して対応している。今後、もちろん地域特化型のO&M事業者もあるとは思うが、保有者が色んな地域に保有しているのであれば、全国展開していることは魅力的に思えるのではないだろうか?

また、特別高圧、高圧といったように様々な規模の発電所にも対応していること、サービスメニューとして遠隔監視業務やサイト管理業務、保安業務、報告書作成といった一般的なものだけでなく、計画策定や地元対応といった幅広いサービスメニューを用意し、顧客のニーズに合わせたサービスを提供できることであろう。体制としても電気主任技術者が多数在籍しているだけでなく、EPCや土木の人材もバックアップ体制として有していることも大きいであろう。そして価格面である。FIT単価が高い頃はO&Mコストはそれほど、議論にならず、EPCとセット、セカンダリーで譲渡する時はO&Mがセットということがよくあることであるが、売電単価が下がるにつれて、O&Mサービスに対する費用対効果の要求はますます高まっているであろう。そうした中、ノウハウを蓄積することによる業務効率の改善、徹底的に内製化を進めることでのコスト削減、高専生を始めとした若手人材を新卒から採用して、現場で実務経験を積み上げながら主任技術者として育成していく「RJアカデミー」育成プログラム、多数の発電所を個別でなく統合的に発電収入等の予実対比といったものを月次レベルでの報告ではなく、リアルタイムでのモニタリングできるウェブサービスシステム「ソーラーバリュー」といったものを将来的に提供していこうと考えている。

今後、太陽光発電所を中心とした再エネ導入量の拡大を通じて、カーボンニュートラルを目指していくうえで、事業規律、地域との共生といったことが叫ばれている中、O&M事業者がそれらのことを意識しながら、お互いに切磋琢磨し、ビジネスとして発電所保有者の期待に応えられるサービスの向上に努めることは、余り語られてはいないことではあるが、実はとても重要なことである。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

農村モデルの脱炭素化 強靱化と耕作放棄地解消の両立へ


【地域エネルギー最前線】 滋賀県米原市

世界情勢が激変する中、日本のエネルギー、食料自給率の低さという弱点が改めて突き付けられた。

「脱炭素先行地域」に選ばれた米原市は、農村モデルの脱炭素化という時宜にかなった事業に挑む。

 かつて日本のTPP(環太平洋連携協定)参加を巡り、国内農業のさらなる衰退を危惧する声に対し、「関税を下げ安い農産品を輸入してくれば問題はない」といった声が一部政治家からも上がった。しかし今はそうした地合いではなくなった。ロシアのウクライナへの軍事侵攻が浮き彫りにした、日本のエネルギーと農業の自給率の低さ、そして安定調達リスクという課題に真剣に向き合うことが求められている。

環境省が4月に発表した「脱炭素先行地域」第一弾では、こうした課題解決の糸口となり得るモデルが選ばれた。農山村の脱炭素と地域活性化を目指す滋賀県米原市の「ECO VILLAGE構想」だ。

先行地域は、2030年度までに民生部門の電力消費のCO2排出実質ゼロに挑む。事業実施期間は5年程度。再生可能エネルギー設備や基盤インフラなどの整備に対し、原則交付率3分の2の助成金で手厚く支援する。

同省はその選定に当たり、脱炭素化だけでなく、地域の課題解決にどう資するかというストーリーを重視した。米原の場合、農山村の人口減・少子高齢化、それに伴う耕作放棄地の拡大、防災対策、系統電力購入に伴う資金の域外流出といった地域課題に対し、農地で太陽光発電しつつパネル下で営農を継続するソーラーシェアリングを柱に脱炭素化を目指す、といった絵姿を描いた。これが他地域のモデルになり得るとして、先行地域に選定された。県とヤンマーホールディングス(HD)と共同で取り組む。

「ECO VILLAGE構想」での取り組みイメージ図

営農型発電を柱に課題解決 再エネで4地点を地産地消

市役所のそばにヤンマー中央研究所が立地することもあり、先行地域に応募する前の21年初頭から両者でカーボンニュートラル(CN)に向けた検討に着手。先行地域の詳細が公表された後は、要件に沿って応募に向け計画を煮詰めた。「市では『気候非常事態宣言』を目指しているが、そのための財源確保が大きな課題だったことから、先行地域を目指した。さらに市では耕作放棄地でのソーラーシェアリングの拡大が課題であり、5年という期間も踏まえて実現可能な計画をヤンマーと組み立てた」(同市自治環境課)。

耕作放棄地での営農型発電については、本来の目的である農業生産を主とした使途ではなく、農業的な優先度は低い。しかし、CNに向け地域外から再エネ電気を調達するより、地域内で農地を再エネ発電に活用することを選択した。

民生部門の脱炭素化については、家庭の需要は含めず、市庁舎1棟、県工業技術センター3棟、ヤンマー中央研究所7棟、民間施設2棟の4地点を対象とする。各地点の駐車場や屋根に、計3000kW程度の太陽光発電を新設。敷地内に自営線を設置して自家消費する。

そして柏原地区の2〜4ha程度の耕作放棄地ではソーラーシェアリングを行う。農地法に基づく一時転用で1600kW程度の太陽光パネルを設置、周辺にはそれに相当する大型蓄電池やパワーコンディショナーを整備する。

ガス空調やガスコージェネレーションなどによるエネルギーサービスを手掛けてきたヤンマーエネルギーシステムが、今回は脱炭素型でのエネルギー管理を担う。同社と各需要家との間でPPA(電力販売契約)を締結し、自家消費に加え、耕作放棄地から系統を通じて4地点に電力を供給する。4地点の電力需要は年間920万kW時程度。積雪地の太陽光の標準稼働率で見て、これらの設備で需要の100%超を賄える計算だ。地域のレジリエンス(強靭性)確保と耕作放棄地の解消という一挙両得を狙う。

最先端ハウスで雇用創出 横展開に向け課題洗い出し

農林水産省がソーラーシェアリングを推進して久しく、導入事例は徐々に増えているものの、全国での19年度までの導入面積は742ha程度。全国の耕地面積(同年度439万7000ha)からすると、まだまだ一般的な取り組みとは言えない。市内でも3件のみで、その背景としては「農地所有者からすれば農地に太陽光を設置する明確な意義が見いだせない。一方、太陽光発電事業者にとっても、農地を一時転用してまで農業を積極的に行う理由が乏しい」(同)。そもそもの担い手が見つかりにくい事情がある。

その点、今回はヤンマーHDのグループ会社がソーラーシェアリングでの農業生産を担う。農業もエネルギー事業も包含するヤンマーHDとの連携で、課題の第一関門をクリアすることができた。

今回、AIやIoTで環境を自動制御する環境配慮型栽培ハウスを導入。農業の低炭素化を進めつつ、地域の女性や若者の雇用を創出し、さらに障がい者らに農業への従事を促す「農福連携」も図っていく。

市は「先行地域に選ばれ、脱炭素化と最先端農業に挑戦する機会を得た。横展開に向けてソーラーシェアリングなどの課題を洗い出していく。農地が農産物だけでなくエネルギーも生産する場を目指し、新しい農村モデルを確立したい」(同)と強調する。ただ、ヤンマーとの連携はスケールメリットを生かして雇用創出を図る大企業モデルだ。「大企業モデルの課題洗い出しも大事だが、市民・小規模農家レベルの課題は違うところにあるだろう。そうしたモデルに今回の成果を落とし込むことも検討していきたい」(同)と続ける。

歯止めがかからない農業離れは長年の深刻な課題で、脱炭素化も一朝一夕には進まない。だが、両者とも日本にとって重要な課題であるだけに、今回の実証が有意義な成果を示すことに期待したい。

うまく「軟着陸」できるか ガソリン補助金の出口戦略


参議院選挙は与党の圧勝に終わった。これで2兆円に近い予算の燃料油価格激変緩和補助金も、予定通り9月末終了の公算が強くなった。問題は終了方法、いわゆる出口戦略である。補助金がなければ原油価格から見て終了時には1ℓ当たり30~40円の値上げになるだけに、どう軟着陸するか政府、石油業界ともに頭を痛めている。

現在、毎週の補助金は想定価格から基準価格(現行168円)を控除した額だが、政府筋からは、基準価格を段階的に引き上げ、補助金を順次圧縮、終了させるとの案が漏れ聞こえる。これに対しスタンド業界は、段階的引き上げは歓迎だが価格転嫁の観点から、1回の上げ幅は消費者に見える5円程度にしてほしいという。

原油価格上昇に伴う在庫評価益による巨額黒字を批判された元売りからは、補助金はトンネルをしているだけで、「お荷物」との声も出ている。幸いにも最近、原油価格は先進国の利上げによる景気後退懸念で軟化気味、1バレル当たり100ドル割れの日もある。補助金軟着陸のためにも、もう一段の値下がりを期待したい。

物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】関口博之 /経済ジャーナリスト

 参議院議員選挙の最中に信じられない暴挙だった。安倍晋三元首相が遊説中に銃撃され死去した。犯行の動機は今後の取り調べを待つしかないが、テロの蛮行は決して許されるものではない。われわれは言論による民主主義をより強固なものにするしかない。

その意味で今回は、選挙で与野党の争点になった「物価高対策」について考えたい。消費者物価指数は4月、5月と生鮮食品を除く総合で前年比2.1%上昇し、消費税増税の影響を除けば13年半ぶりの高い伸びとなった。ただ、米国や欧州が8%台のCPI上昇率なのに比べればまだ低い。岸田首相が「ロシアの侵略による有事の価格高騰」というのも間違いではない。物価上昇の中身、寄与度を見ると「エネルギー」が約6割、生鮮を含めた「食品」が約4割で、財・サービスに幅広く値上がりが及んでいるわけでもない。

物価・賃金・生活総合対策本部に出席する岸田首相
提供:首相官邸ウェブサイト

それでもにわかに高まった物価高への懸念に、選挙では各党が対策を掲げたが、多くはかなりピント外れだったと言わざるをえない。政府・与党は昨年から実施・拡充してきたガソリンへの補助金などに加え、「2000円相当の節電ポイント」を打ち出した。電力会社の節電プログラムに協力した家庭に上乗せで国がポイントを付与するという。しかしこれは電気代の負担軽減が目的なのか、それとも節電要請が狙いなのかあいまいだ。一石二鳥といえば聞こえがいいが、中途半端でもある。ここはデマンドレスポンス(DR)を定着させるための政策と位置付けるべきだろう。

一方、野党の対策の柱は「消費税の引き下げ・廃止」だった。しかしこちらはいきなり「大ナタ」を振り回し始めたという印象で、目的と手段のバランスがとれていない。社会保障の財源である消費税に正面から切り込むだけの緊迫性が今、物価や消費の現状にあるのだろうか。もちろん生活に欠かせない電気・ガス・食品などの値上がりは低所得層ほど苦しめることになる。対応策は不可欠だが、それなら生活困窮世帯などに的を絞った臨時給付金の方が有効だと思われる。

より本質的にとらえるなら、物価が上がってもそれを上回る賃上げがあればよい、ということにもなる。人々の不満や先行き不安の根底には「上がらぬ賃金」がある。しかし政権側からの賃上げ要請だけで大幅なベースアップなどは実現できない。企業レベルでも産業レベルでも、生産性の向上や付加価値の増大がカギになる。

岸田文雄首相が「新しい資本主義」で掲げる「人への投資」もここに狙いがあるはずだ。人件費はコストではなく投資と考え、働く人の能力開発・スキルアップ、リカレント教育などで生産性をあげる。遠回りなようで、こうした政策の継続こそが、物価上昇に負けない経済を作る“本筋”だ。実はこの人的資本重視の経営に既に動き始めている企業も少なくない。賃上げや教育研修費の増加が中期的な自社の株価上昇につながるという実証研究もある。政治の側の“看板”はむしろ遅れていると考えた方が良い。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

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せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

優しさ持ち人間力あった安倍元首相 エネルギー政策の足跡を振り返る


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 7月8日、安倍晋三元首相は参院選挙の応援演説の最中に、奈良県西大寺駅前で凶弾に倒れた。自らの政治理念を強烈に押し出したリーダーが、政治上の理由ではなく、一個人の宗教上のトラブルの逆恨みで倒されたことは、何とも言えない釈然としない思いが募るばかりだ。

私は、小泉純一郎政権の内閣官房で働いている時に当時の安倍内閣官房副長官と接点を持ち、民主党政権時には勉強会をご一緒する機会などもあった。第二次安倍政権になってからは、2017年2月17日の予算委員会で私が初めて森友学園問題の追及を行い、当時の安倍首相から「私や妻が関係していたら、総理も国会議員も辞める」という答弁を引き出したことが知られている。

このようないきさつはあったが、私が落選した時には他党の候補者であるにもかかわらず慰めの電話を下さるなど、真の優しさを持った人間力のある方だった。安倍元首相のご冥福を心からお祈りする。

問われる政策の実行力 安倍氏への供養に

さて、その安倍政権時代のエネルギー政策はどうだったか。発送電分離・導管分離という歴史的な電力・ガスシステム改革は、民主党政権時に検討が始まり、第二次安倍政権発足直後に決定されたものであるが、そこに安倍元首相の政治的な意思を感じるものはほとんどない。むしろ、政権再交代時の政治不在のドサクサ紛れに経済産業省主導で行われたものと言える。

何よりも、7年8ヶ月もの長期の安定した権力基盤を誇り、エネ政策の専門家である今井尚哉補佐官を擁しながら、中長期的な視点に立って日本のエネルギー安全保障のために、原子力をどのように位置づけ、国民の信頼を大きく失った原子力政策をどのように再構築し、原子力を再起動していくのかという政治決断を避け続けてきた。

プーチン大統領と27回もの会合を重ねた対ロシア外交においても、領土問題解決への期待は高まったものの、エネルギー安全保障上ロシアとどのような関係を持とうとしていたのか、その理念は明らかではなかった。こう振り返ってみると、長期安定していた第二次安倍政権の時にエネルギー政策での何らかの決断をしていてくれれば、差し迫っている日本のエネルギー安定供給の確保や夏冬の電力・ガス需給のひっ迫などへの対応の道が少しでも開けていたかもしれないのに、とも悔やまれる。

岸田政権は、この度の参院選で大勝し、衆議院の解散がなければ3年間は国政選挙がない強い基盤を獲得した。岸田文雄首相は、安倍政権でなし得なかった明確な理念と戦略を持ったエネルギー政策を決断し、実行することこそが、選挙中に倒れた安倍元首相への供養となろう。

私自身、エネルギー政策を軸に、自公政権に対抗し得る野党への再編につながるよう、精進してまいりたい。

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ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

北陸の「セブン」に再エネ電力を供給 オフサイトPPAで地域を脱炭素化へ


【北陸電力】

 福井県坂井市で建設していた「北電BESTテクノポート福井太陽光発電所」(出力6220kW)が営業運転を開始した。北陸3県のセブン‐イレブン303店舗に向けて、この発電所で作った再生可能エネルギー電力を供給する。契約は20年間。北陸電力にとって初めてのオフサイトPPA(電力購入契約)だ。

同社が保有する約6万㎡の未利用地を活用し、約1万1700枚のパネルを設置した。塩害対策を兼ね裏面をガラス面にしたことで、両面で発電が可能。約10%発電量が増える。発電量は年間約673万kW時で、各店舗の電力使用量の1~2割分を賄う。一般家庭約2200世帯の年間使用量に相当する。

北陸電力ビズ・エナジーソリューションが運営する

導入需要家にとってオフサイトPPAのメリットは、①初期投資をせずに太陽光発電所で発電した再エネ電力を使用できる、②施設の脱炭素化を促進できる―などが挙げられる。

セブン&アイ・ホールディングスは、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた取り組みで、「省エネ」「創エネ」「再エネ調達」を3本柱として掲げる。全国約2万2700の店舗運営では、省エネや、店舗の屋根に太陽光パネルを設置するなどの創エネに取り組んできた。

北陸電力は電力自由化を機に、19年から首都圏のセブン―イレブン約1600店舗に電力を販売。セブン&アイの取り組みを知り、自社の未利用地を活用して「再エネ調達」を支援できると考えた。

店舗の脱炭素化を支援 自治体連携でモデル都市へ

21年4月、当時担当常務だった松田光司社長は、セブン&アイの井阪隆一社長と面談する機会があった。「当社は従来より水力発電の開発に力を入れ、再エネへの思いが強い。脱炭素社会に向けた互いの思いが一致した」と、とんとん拍子に話が進み、異例の早さで着工、完成した経緯を振り返る。

井阪社長も「再エネの地産地消にもなる。北陸地域のCNを実現するお手伝いができることを大変うれしく思っている」と話す。

北陸電力は坂井市と地域創生に関する包括連携協定を結んでいる。

坂井市は、福井県内17の市町の中でいち早くゼロカーボンシティーを宣言した自治体だ。北陸電力、セブン&アイ、坂井市が連携し、エネルギーの地産地消のふるさととして全国のモデル都市を目指していく。

完成披露式での松田社長(左)と井阪社長

洋上風力一社総取り阻止 入札評価基準を見直し


結果ありきの評価基準見直しは、果たして日本の洋上風力産業発展に寄与するのか―。

再エネ海域利用法に基づく洋上風力公募制度が見直され、早期の運転開始時期の提案にインセンティブを付けるため「事業計画の迅速性」を評価項目として新設するほか、多数の事業者に参入機会を与える観点から、複数区域で同時に公募する際に「落札制限」を設ける方向性が固まった。

この背景には、昨年12月に公表された秋田県と千葉県の3海域の公募、いわゆる第1ラウンドで、他社の追随を許さない低価格を提示した三菱商事を中心とするコンソーシアムが総取りしたことがある。この結果に、資本力で劣る新興事業者などから「価格偏重」の審査基準に不満が噴出したのだ。

新たな評価基準では、早期運転開始が大きく評価される一方、価格評価のウェートは著しく下がることになる。ただでさえ、2030年度には、電気料金が現行の2倍にまで上昇するとの予想もある中、国民負担を抑制しつつ、再エネを最大限に導入することは最重要課題だ。業界関係者の中には、一部再エネ事業者と政治家への忖度で決まった新たな評価基準を疑問視する向きも多い。