脱炭素先行地域に26件 常連組や意外な地域も


2025年度までに100カ所の創出を目指す「脱炭素先行地域」の第一弾が決定した。環境省は4月26日、79件の応募の中から26件を選定したと発表。内容を見ると、再生可能エネルギー先進地として既に有名な自治体もあれば、省内からも珍しいエリアと受け止められるケースも。共同提案者として、大手電力や都市ガス事業者の名も挙がっている。

先行地域では、30年度までに民生部門の電力消費のCO2排出実質ゼロを目指す。同省は再エネ設備や基盤インフラなどの整備に対し、5年程度で原則交付率3分の2という手厚い支援を用意。「脱炭素ドミノの起点となり得る計画で、先進性やモデル性、特に単なるRE100(再エネ100%)でなく地域の課題解決にどう資するかというストーリー性を重視。また実現可能性もチェックした」(近藤貴幸・地域脱炭素事業推進調整官)。地域の偏りよりも内容重視で選んだという。

今秋にも2回目の選定結果を発表予定だ。「地域の脱炭素化加速に向け、できるだけ多くのアイデアを出してほしい」(同)。エネルギー企業にとっても地域とのつながりを深めるチャンス。次回はどんなメンバーが選ばれるのか。

脱炭素化へ本腰の証? 東ガスがLPG事業撤退


東京ガス(TG)は、100%出資子会社であるTGリキットホールディングスが保有する、TGエネルギーとTGLPGターミナルの二つのLPガス関連会社の株式を岩谷産業に譲渡し、同事業から完全撤退する。

TGエネルギーは1960年設立。以来、首都圏を中心とする関東地方でLPガス事業を展開してきた。今後は全国展開する岩谷産業の傘下に入り、両社のガス調達機能や卸機能、物販機能の連携を強め、安定供給や営業の効率化、物流の合理化などでシナジー効果の創出を目指す。

TGがLPガス事業を手放すことについて業界関係者は、「都市ガスとLPガスの両輪でガス体エネルギーの普及拡大を進めてきたこれまでの路線から、脱炭素化へ明確にかじを切った」と分析する。

一方で、「TGのLPガス撤退劇というよりも、岩谷産業の首都圏における事業強化戦略だ」と見る関係者も。ライバルのニチガスが着々と顧客を拡大していく中、首都圏の事業基盤を固める狙いがあるのではないかという。都市ガスのみならず、首都圏のLPガス争奪戦も激しさを増しそうだ。

資金収支が示す大手電力の苦境 燃料高騰より重大な構造問題とは


【論点】電力会社のフリー・キャッシュ・フロー状況/廣瀬和貞 アジアエネルギー研究所代表

2021年度決算で大手電力の損益が軒並み悪化し、半数の5社が最終赤字に陥った。

発電燃料の高騰が主な原因だが、キャッシュ・フロー分析からはさらに大きな問題が浮かび上がる。

旧一般電気事業者の問題の本質は、燃料費高騰で損益が悪化したことにあるのではない。損益計算書よりも、キャッシュ・フロー(CF)計算書を中心に各社の決算を分析すると、損益が赤字だったことよりも重要な、業界全体の構造的な課題が見えてくる。

損益計算書は、経営者の判断で記載内容が左右される。現に20年3月期から減価償却方法を定率法から定額法に変更し、利益をかさ上げして見せている旧一電が多い。昨今の燃料費高騰の前から、既に損益は苦しかったのである。一方CF計算書は現金の入り払いの記録から作成され、経営の恣意的な判断が反映されにくいため、各社の実力を知ることができる。

CF計算書は、営業CF、投資CF、財務CFで構成される。営業CFは事業でどれだけの資金を稼いだか、投資CFは事業継続のためにどれだけの設備投資をしたか、財務CFは前二者の差し引きで資金が不足した場合に、どのように資金を調達したか、反対に足りている場合には、どれだけ債務返済や株主還元をしたかを示す。 営業CFと投資CFの合計、つまり事業で稼得した資金から事業に必要な投資額を差し引いた残りをフリー・キャッシュ・フロー(FCF)と呼ぶ。債務はFCFから返済されるため、FCFが黒字であることが重要だ。ただし、投資額には波があるため、FCFの額は毎年大きく変動し、一時的に赤字となることも多い。従って、単年ではなく何年間かの長期的な傾向を見ることが有効である。

設備投資額も拡大 資金不足が常態化

電力システム改革が進展し、16年4月からは小売り事業が全面自由化された。この期から直近の22年3月期まで6年度の各社のCF状況を分析してみよう。下表に、自由化の例外である沖縄を除く旧一電各社の6期間平均の年間CFを示す。燃料市況や設備投資の変動が均され、各社の実力としてのFCF創出力を見ることができる。

注1:JERAは2018/3期から2022/3期の5期の平均値
注2:中部の投資キャッシュ・フローは、火力資産のJERAへの統合に伴う調整金3,350億円を補正

この間、全社のFCFが赤字である。どの会社も、債務の返済に充てるべき資金を生み出せていないことになる。FCFの赤字に示される不足資金は金融債務の増加で賄われているが、その返済の目途が立たない状況である。

業界全体として見ると、合計で毎年5千億円以上もの資金が不足している。もちろん、以前からこのような窮状にあったわけではない。電力自由化が本格化する前、東日本大震災の直前までの時期においては、平均して全体で年間約7千億円もの黒字のFCFが生み出されていた。業界として健全な姿だったといえる。その時期と比較して、直近の数字では営業CFが全体で約7千億円減少、反対に投資CFは約5千億円増加した結果、FCFは約1兆2千億円も悪化して、約5千億円もの赤字となっているのである。

広がる資金収支の格差 金融環境変化で再編も

各社別に見ると、個社の状況の違いは大きい。企業規模に比して、北海道、北陸、中国、四国、九州のFCFの不足額は大きいと言える。相対的に、東北、東京、中部、関西は、資金不足ではあるがその程度が小さい。なお、JERAの資金不足が巨額なのは、グローバルな燃料トレーディングなど新規事業の拡張に伴うもので、他の旧一電各社とは意味が異なる。

旧一電各社は各地域でエネルギー政策の実現に重要な役割を果たしており、たとえ資金不足の状況にあっても、それを理由に必要な設備投資を削減し、電力安定供給を停滞させることは社会的に許容されない。これをもって、旧一電が経営破綻に至る可能性は極めて低いと見ることもできる。資金の提供者である国内の銀行や社債投資家もそう考えているからこそ、現在でも旧一電各社はどこも不自由なく不足資金を調達できている。

しかし一方で、各社の資金創出力の不足は、現状のままの事業体制・事業構成では、健全な業界として存続できないほど深刻である。何らかの業界再編が行われることが必要となろう。先述のように、各社の資金創出力には格差が見え始めている。事業環境が厳しさを増していることを考慮すると、今まで通りの事業構成で、かつ単独で今後も存続できる会社と、そうでない会社の格差は、広がることはあっても縮小することはない。需要の伸びが期待できない地域では、投資回収がさらに困難になっていくと考えられるからである。

そして、従来は旧一電各社の信用力に懸念を持たずに資金を提供し続けてきた国内の金融機関や投資家が、今後の金融情勢の変化によって投融資の姿勢を変化させることも考えられる。本稿執筆時点で日本銀行は金融緩和政策を変更していないが、既に他の主要国は金融政策を大きく転換し始めており、それは必ず国内の金融環境にも影響を及ぼす。

調達金利が上がれば、悪化している各社の損益がさらに厳しくなる。資金調達環境の変化が一つのきっかけとなり、旧一電各社の事業別の提携・統合といった再編成、あるいは会社全体の資本提携・経営統合が始まる可能性がある。少なくとも、そのための条件は既に揃ったと見るべきである。

ひろせ・かずさだ 東京大学法学部卒、米デューク大学経営学修士。日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。資源エネルギー庁審議会委員、日本信用格付学会常任理事。近著に「アートとしての信用格付け その技法と現実」(金融財政事情研究会)。

「67年間の成功体験と決別」 ニチガスが16年ぶり社長交代


エネルギー大手のニチガスが16年ぶりに経営陣を刷新した。5月2日付で、和田眞治社長が代表権のない会長執行役員に退き、後任には柏谷邦彦・代表取締役専務執行役員コーポレート本部長が就任した。また東京電力出身の吉田恵一・専務執行役員エネルギー事業本部長が代表取締役に昇格。渡辺大乗・代表取締役専務執行役員営業本部長を加えた3人が代表権を持つ体制となった。

和田会長と柏谷社長は5月6日、記者会見を行い、DXを機軸に地域社会のスマートエネルギー供給を担う、新たなビジネス展開に向けた意気込みを表明した。

会見する柏谷社長(左)と和田会長

「ニチガス67年間の成功体験と決別するという意味だ」。和田会長は、今回の社長交代についてこう言い切った。「私が率いた時代の成功体験が新しい挑戦の足かせになる。代表権を返上して、名実ともに新たな代表取締役3人体制に移行することにした」

新社長の柏谷氏は1997年に一橋大学大学院修了後、外資系コンサルなどで経験を積み、2012年にニチガス入社。51歳の若さで社長に上り詰めた。「地域社会に最適なエネルギーソリューションを提案できる企業へと進化し、新たな挑戦を進めていく」。エネルギーDXを先導する同社のかじ取りに業界内外の視線が集まる。

自由と民主主義のコストか ロシア制裁の大きな「副作用」


【論説室の窓】神子田 章博/NHK解説主幹

西側諸国の原油輸入禁止などの措置は、大きな効果はなく、油価高騰で各国の首を絞めている。

しかし、蛮行は許されるべきではない。価格高騰は「西側」の価値観を守るコストと受け止めるべきだろう。

 ロシアのウクライナ侵攻に対する先進各国による経済制裁。第二次世界大戦に戻ったかのような総力戦をロシア軍が継続するには、巨大な戦費を必要とする。その資金源となるエネルギー収入を断って停戦に追い込もうという戦略だったが、かつてない規模の制裁の包囲網を築く取り組みの効果は早くから疑われていた。

ロシアの原油輸出量は世界第二位の規模。世界最大の産油国であるアメリカは、ロシア産の原油の輸入を禁止する経済制裁を発表。カナダやオーストラリアも輸入の禁止を決めたほか、イギリスも輸入を段階的に減らして年末までに停止するとしている。

しかし、ベルギーの民間調査会社の「KPLER」によると、ロシアから輸出されタンカーで各国に到着する1日当たりの原油の量は、侵攻直後の落ち込みから回復し、4月は26日の時点で、去年の平均をおよそ7%上回ったという。 国別にみると、経済制裁に踏み切った欧米各国で大幅に減っている一方で、インドが8・4倍、トルコが2・4倍と大きく増えたほか、中国も13%増加したという(NHKニュースより)。欧米の先進各国による包囲網は、「この際、割安になったロシア産原油を買いましたい」という思惑を持つ需要国によって、いとも簡単に破られたわけだ。

ロシア産原油の購入は批判を受ける(サハリン2)
提供:時事

中国はロシアと連携 制裁は解決にならず

とりわけ注目されるのが、中国の動きだ。中国は、アメリカが中国との対立を民主主義と専制主義の戦いと規定し、日本やオーストラリアなどと中国包囲網を築こうとする中で、権威主義的な政治体制を持ち、以前から欧米との対立を強めていたロシアとの連携を通じてアメリカと対峙する道を選択。ロシアの軍事行動に賛意こそ示さないものの、対ロ経済制裁については「問題の解決につながらない」として反対を表明している。加えて、世界第二の経済大国は大量のエネルギーを必要としており、欧米がロシアから原油を買わなければ、その分を購入することで、自らの需要を満たすとともに、ロシアへの恩を売る形にもなる。中国という買い手が存在することで、果たして制裁は問題の解決につながらない形となっている。

さらに中国と同様、国連総会の「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」に棄権票を投じたインドも、ロシアからの原油購入に意欲的だ。原油価格が高騰する中、自国の利益になる取引を求めるのは自然なことだと主張し、制裁を強める欧米と一線を画している。かくしてロシア包囲網はいとも簡単に破られ、制裁の効果を薄れさせている。

その一方で、各国のロシア産原油の禁輸措置は、コロナ禍の景気回復で高騰していた原油価格を一段と押し上げた。原油は、サウジアラビアなどに生産余力があり、増産が実施されれば価格を抑える効果が期待される。今回の危機を受けて、欧米や日本は原油の増産を要請しているが、サウジアラビアは応じようとしなかった。背景には、この国の外交や石油政策を事実上決めているムハンマド皇太子とバイデン政権のギクシャクした関係がある。4年前、ムハンマド皇太子を批判するジャーナリストがトルコで殺害された事件で、人権問題に厳しい目を向けるバイデン政権が激しく批判したことが背景にあるとされる。

またサウジアラビアは近年、同じ産油国であるロシアとの関係を深めてきたといわれる。実際にムハンマド皇太子とプーチン大統領は、3月と4月の2度、電話会談を行い、この中でプーチン大統領は、OPEC(石油輸出国機構)に、非加盟のロシアなど10カ国を加えた「OPECプラス」の合意を守るよう要請したもようだ。

サウジアラビアも油価の下落は望んでいなかったようだ。経済的な利益はときに政治的な道義を超越する。OPECプラスは、増産を小規模にとどめる従来の方針を貫き、原油価格を維持する道を選んでいる。

こうしてみると、ロシアに対するエネルギー制裁は大きな効果を期待できない一方で、原油のさらなる高騰を招き西側の先進各国の首をかえって絞める結果となっているようだ。グローバリゼーションが進む中、経済の規模が小さいとは言えないロシアに対する経済制裁によって、制裁をかける側が返り血を浴びるのは全般的に言えることだが、ことエネルギー分野に関しては、その副作用もひときわ大きい。それでも欧米各国が制裁強化を打ち出すのは、経済的な得失を度外視してでも守らなければならないより大事なことがあるからだろう。

ロシア産原油に「血の匂い」 購入継続を厳しく批判

今年3月、イギリスの石油大手シェルが、ロシア・サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると表明した後もロシア産原油の購入を続けていたことに対し、ウクライナのクレバ外相はツイッターに投稿。軍事侵攻によって大勢のウクライナ人が犠牲になっていることを踏まえ、「ロシアの原油にウクライナの血の匂いを感じないのか」と厳しく批判した。ロシア産の購入を拒むことは、西側諸国が価値観を共有する自由と民主主義を守る姿勢を断固として示すことと同義ともとらえられている。

かつて1938年、イギリスのチェンバレン政権はナチス率いるドイツによるチェコスロバキアの一部占拠を認める宥和政策をとった。相手の行為が不当なものだと分かっていても、当面の衝突を避けるために見過ごしたのだ。それが結局はヒトラーを増長させ、ポーランドへの侵攻を招き、第二次世界大戦につながったといわれる。ロシアを巡っても、2014年のクリミア半島の併合に際し、西側諸国による制裁が不十分だったことが、今回のウクライナ侵攻につながっているという指摘もある。

制裁の効果はどうあれ、ロシアの許されざる蛮行に毅然とした態度で応じる。エネルギー価格の上昇は、自由と民主主義を守るためのコストだと受け止めるべきなのだろうか。

オフィスビル「福岡舞鶴スクエア」が完成 持続可能なコミュニティーを共創する


【九州電力】

九電グループ初の開発型SPCを活用した福岡舞鶴スクエアがオープンした。再エネ由来の電力を全館に導入し、脱炭素社会の実現に貢献する。

福岡舞鶴スクエア。コロナ禍にもかかわらずほぼ満床で稼働した。

 九州最大の繁華街、福岡市天神から地下鉄で一駅の「赤坂駅」から徒歩3分。福岡城の本丸跡がある緑豊かな舞鶴公園の近くに今年4月、「福岡舞鶴スクエア」が完成した。

黒田藩主の別邸があった広い敷地に建ち、1階は商業フロア、2階以上がオフィスフロアの9階建てオフィスビルだ。都心部では希少なワンフロア約1800㎡の広さを誇り、天井高2.9mの快適性を備える。敷地内には4階建ての自走式立体駐車場を併設。130台の収容が可能で、EV充電器も備えている。

下は1830㎡のオフィスフロア。120㎡~で分割のフロアもある

2回線受電を採用 再エネ100%の電力導入

福岡舞鶴スクエアは、九電グループでは初の開発型SPC(特別目的会社)による事業だ。投資家の出資や銀行の融資で、不動産の開発・運営を行う不動産証券化手法で事業に取り組む。SPCへの出資者には九州電力、電気ビル、九州メンテナンス、九電不動産のグループ4社に加え、(一財)民間都市開発推進機構、九州リースサービスなどが名を連ねる。

SPCを取りまとめるアセットマネジメントは、玄海キャピタルマネジメントが担い、自社ビルの運営・管理で実績のある電気ビルがプロパティマネジメントを、九州メンテナンスがビルメンテナンスを行う。

福岡舞鶴スクエアはBCP(事業継続計画)対応として、①異なる変電所から電力供給を受ける“2回線受電”で電力の信頼性を強化。本線を引く変電所からの電力供給が万一滞った際には、別の変電所から供給が可能、②非常時に72時間電力を供給できる非常用電源設備(出力225kVA)を設置。非常用エレベーター2基が対応、③制振ダンパーを採用し、地震発生時の揺れを軽減―といった特長を備える。

また、感染症対策として外気取り入れ窓を設置し、壁材やドアハンドル、トイレ機器などを抗菌仕様にした。さらに共用のエレベーター5基は、エレベーター行先予約システムを導入。ゲートにあらかじめ行先階を登録したカードをかざすと、システムがA~Eの各号機の稼働状況やほかの利用者の予約状況を踏まえ、最適な号機を選別し表示。乗車するとエレベーター内の行先ボタンを押さなくても目的のフロアに到着する。

当初、システムの導入は運用の効率化や混雑緩和が目的だった。現在は、ソーシャルディスタンスの確保や分散乗車につながり、感染症対策の役割も果たしている。

ゲートで乗るべきエレベーターを表示

ビル全館に供給する電力が再生可能エネルギー由来ということも大きな特長だ。九電の法人向け料金プラン「再エネECO極(きわみ)」を利用し、水力・地熱など100%再エネ由来の電力を導入する。CO2排出量はゼロとなり、入居するテナントは「RE100」を実現できる。隣接する駐車場に設置したEV普通充電器18台、急速充電器1台にも再エネ100%電力が導入される。

玄海キャピタルマネジメントの友田順也アソシエイトは、「九電が参画する事業なので、再エネ100%電力という付加価値をつけることができました」と話す。アセットマネジメントの立場では最大限の収益向上がミッションだが、カーボンマイナスの実現を目指し、供給側と需要側の両面から脱炭素に取り組む九電から「再エネECO極」の提案があり、環境価値の高いオフィスビルになった。

電気ビルのビル事業本部の田村直敏副長は「SPCで大型案件に参画し、グループのノウハウも培うことができました」と振り返る。

都市のにぎわいも創出 地域とともに発展していく

福岡舞鶴スクエアの建つ赤坂エリアは法務局や裁判所、法律事務所などが多い一方、住宅地も広がる。天神エリアに近いこともあり、職住近接をかなえる場所としても注目を浴びる。そのため、都市のにぎわい創出も意識して、1階には、ドラッグストアやコンビニエンスストア、内科や歯科といった複数のクリニックなど、ビルの利用者や地域の人々の利便性の高い店舗を配置している。

こうした取り組みや建物の環境性能が高く評価され、(一財)住宅・建築SDGs推進センター(現)の「CASBEE福岡(建築環境総合性能評価システム)」で、Aランクを取得している。

新たな事業やサービスによる市場の創出を通じて、電気事業以外での収益拡大を目指すことを戦略の柱とした「九州電力グループ経営ビジョン2030」。九州電力の都市開発事業本部の成田真也副長は、「都市開発事業はその一環です。地域・社会の持続的発展への貢献や、国内のエネルギー関連事業の収益拡大にもつなげたい」と意気込む。

大規模再開発「天神ビッグバン」が進む天神エリアのそばで、環境と地域に配慮したオフィスビルは、脱炭素社会と地域共生を目指すモデル事業として注目を浴びそうだ。

(左から)田村副長、成田副長、友田アソシエイト

【コラム/6月7日】「電力需給逼迫警報を考える~電力システム改革誤謬(電力自由化)の早期是正を」


飯倉 穣/エコノミスト

1,経産省は、3月21日東京電力管内に電力需給逼迫警報を発出した。供給面の応急手当や需要サイドの協力で凌いだ様だが、日本で電力の安定供給懸念が日常化している。

報道は伝える。「夏の電力需給 懸念広がる 火力電源停止響く」(日経22年4月12日)、そして「電力不足 新たに「注意報」経産省方針「警報」基準に至らなくても」(朝日同5月18日)。

経産省は、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(以下小委員会という)で、今後の電力需給対策の事務局案を提示し、委員のご意見拝聴を継続している。どんな立場の有識者か今一不明である。現状、電力の安定供給の責任者の姿も見えず、役所の役割も判然とせず、また過去に頼りとした肝心の電気事業者の声も聞こえず、需要家は戸惑うばかりである。電力需給逼迫から電力システム改革の誤謬と見直しの方向を考える。

2,今回の東日本の需給逼迫は、3月16日の福島沖地震で火力発電所(335万KW)が停止し、その後発電所(134万KW)トラブルが継続し、そこに寒さによる需要の大幅増(想定需要4300~4500万から4840万KW予想)と悪天候による太陽光の出力減(1000万強から175万KW)が重なったと説明される。つまり原因として電力自由化の過誤を連想させず、発電所の停止、連係の運用容量低下、気温、悪天候を述べる。顛末は、追加供給(含む融通)もあったが特に節電要請(結果500万KW減)で需給均衡し、計画停電やブラックアウトを回避できた。

この事態を受け、小委員会は、需給検証、警報発出経緯、逼迫時の対応、節電要請を検証した。対応案は、需要抑制策で警報の発令時期・方法の検討、デイマンドリスポンス(DR)の強化に加え、法的な電力制限、計画停電の準備を挙げ、供給面で実現曖昧なKW公募である。消費者を蔑ろにする策が目立つ。電力システム改革後の所謂「自由化電力市場の歪み」を見直さず、膏薬張りを続けていいのか。

3,最近の小委員会(4・5月)は、電力・ガス小売全面自由化の進捗状況、直近の卸電力市場の動向、今後の小売政策、22年度の電力需給対策、3月の東日本における電力需給逼迫に係る検証等を紹介・意見交換している。

自由化進捗状況報告は、安定供給強化の度合、効率化によるコスト低下を示さない。小売政策は、事業者リスク管理、料金未払い対応に加え、家庭料金ガイドライン・産業用料金標準メニューと最終保障供給のあり方等を談義する。本来市場任せの話題である。22年度電力需給対策は、予備率の引き上げ、追加供給対策でKW、KWH公募・電源確保、需要対策でデイマンドリスポンス(DR)公募・使用制限令検討等を挙げる。いずれも官の需給関与強化である。

待てよ。各事業者の経営や需要家の問題は、自由市場なら放置だろう。電力自由化は、需給を市場に委ね、価格で調整する姿を夢とした。その実現で電源確保も可能で、且つ需要家の節電も実施され、需給も安定する。そして競争で価格低下という話だった。

需要抑制策や、供給対策(稼働可能な電源の確保、予備電源の確保、燃料調達リスク対応、新規電源投資促進、地域間連携選の増強)を殊更検討する姿は、電力システムが機能麻痺に陥っていることを示す。

4,現電力システムなら、今後も需給ひっ迫は継続する。小委員会の検討内容からも、原因は明らかである。現状の電力需給は、需給見通しの精度と乖離の場合の対処責任不在。電力供給体制で予備率の根拠不明(担当官庁の思惑優先)、予備率確保対策の意志薄弱。将来の供給に対する電源開発見通し不透明、小売り業者の責任曖昧。需要面で電力不足対応需要削減行動依存等の渦中にある。

市場に電力安定供給能力はあるか。市場は、需給変動による価格変化で需給均衡を達成する。需給は、参加者の需給の増減(含む供給者の参入・退出)で調整される。ショック等が起これば、均衡点から離脱し、次の均衡に向かう。自由化論者は、電力も通常の商品と考え 価格変動による需給調整の姿こそ安定的と考えた。それが自由化の罠である。加えて自由化の根拠でもあった分散型電源出現(技術革新)で供給サイドは自由参入可能(電源投資の制約なし)という前提の崩れもある。

現状は電力自由化の行き詰まりで、毎年需給ひっ迫が恒例行事化する様相である。国民が考える安定供給とは異質である。電力は通常の商品と違い、非弾力性(必需品)がある。どうするのか。多くの消費者は、選択自由な電力メニューの幻想より、合理的価格の安定供給希望であろう。今は電力システム改革の見直しが必要であり、それを担当官庁は考えるべきである。

5,電力業は、事業の発生経緯や電磁気学の視点では、発送配電一体が本来合理的なビジネスモデルである。システム統合のメリットで、コスト最小化を目指す限界費用ベースの運営を可能とする。適正予備率確保で、経験値を最大限活用出来、また固定料金と変動料金の組み合わせが、必要電源投資を可能とする。つまり安定性・適正価格の面で発送配電一貫体制が合理的かつ自然である。それを疑似する卸電力市場は機能不全且つ余計である。

発送電分離なら投資の不確実性増大で、投資不足となり、予備力低下を招き(担当官庁・小委員会の瑕疵)、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。又海外調達エネルギーの不確実性、国内自然エネ電源の振幅の大きさ(天気次第)に十分対応・吸収できない副作用も顕在化した。

6,今必要なことは何か。電力需給逼迫は、意味曖昧な電力自由化という制度設計失敗で生起している。その対応として電力自由化を見直さず、その場凌ぎの弥縫策、そして抜本策の先送りでは困る。そこに永遠の市場の存在はない。

電気供給の本質は、電気の性格から、発送配電一貫体制、適正コストを反映した料金規制が現在も妥当である。通常の商品と違う電場の供給に相応しい供給体制は、供給責任の明確化、地域独占、発送配電一体の経営形態、第三者アクセス容認、2部料金制、総括原価、公的なコスト監視の仕組みがより適切である。依然公益事業体制は合理的な解である。この事実を踏まえ、電力システム改革を再検討することが必要である。

その際実業のことは、実業家に任せる。虚業家は静かに見守る。行政は、民間事業に横やりを入れず、介入を最小限にし、調整に徹することが賢明である。市場とは何か。「短期の政策、長期は市場」の言葉のように政策には限界がある。現状は、長期市場の展望なく、短期のやりくり政策に終始している。担当者は粋がるだろうが、国民には迷惑である。電力自由化は、一部担当官僚の情念だったが、欧米物真似の失敗例となっている。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

関電・中国電が社長交代 公取委問題は「関係ない」


4月下旬、関西電力と中国電力が社長交代を発表した。 関電では森本孝社長が特別顧問に退き、後任の森望副社長が昇格する。2020年3月に就任したばかりの森本氏の交代は予想外だっただけに、周辺には驚きの声が聞こえた。会長の榊原定征氏は続投する。森氏は1988年に京都大学大学院電気を修了後、同社に入社。電力需給や再生可能エネルギー事業に携わってきた技術系だ。

関電は大手電力会社の中で唯一、今年度の決算見通しを明らかにしており、連結純損益で750億円の赤字を予想。そんな苦境下での社長就任について、森氏は27日の会見で「タイムリーにできることを総動員する。安定供給、脱炭素化、経済性の課題に対応できる電気を供給する」と述べ、原発稼働の重要性を示唆した。

関電の会見には大勢の報道陣が・・・・・・

中国電は、清水希茂社長が代表権のある会長に退き、瀧本夏彦副社長が社長に昇格する。瀧本氏は81年東京大学経済卒で、同社では経営企画や販売部門を歴任。6年ぶりの社長交代になる。

両社は昨年4月と7月の2回にわたり、価格カルテルの疑いで公正取引委員会の立ち入り調査を受けた。今回の社長交代との関連について、両社の関係者はともに「関係ない」と否定している。

【覆面ホンネ座談会】原発早期再稼働を阻む壁 鍵握る岸田首相の政治判断


テーマ:原子力緊急再稼働の可否

ウクライナ有事、そして3月の東日本の電力需給ひっ迫を受け、原子力の活用を求める声が強まっている。果たして緊急時対応として再稼働を急ぐことは可能なのか、否か。

〈出席者〉  Aマスコミ B元官僚 C電力関係者 

―原子力を取り巻く局面がここ数カ月で一変したが、クリーンエネルギー戦略の中間整理でも再稼働迅速化の具体策は示さなかった。

A ロシア問題や世界的なエネルギー高騰を受け、政治家からは一般論として原子力再稼働を求める発言が相次いでいる。岸田文雄首相は5月上旬の英国金融街・シティーでの講演で、原発1基の再稼働は年100万tのLNGを世界に新規供給するのと同効果、などと強調した。だが、新規制基準適合性審査の効率化などの具体策は述べず、一般論にとどまっている。石炭に続き5月9日にロシア産石油の禁輸を発表したときも、首相からは同様の発言しか出なかった。

B チェルノブイリ原発やザポリージャ原発への攻撃を受けて「核物質飛散のリスクから原子力は危険」との意見が、案の定出ている。だが、原子力の稼働と軍事攻撃は無関係だ。原発のリスクだけを抜き出すのではなく、国防全体としての対応を検討するべきだが、国民やマスコミ、政治家にはそういった認識が希薄だ。

C 一方、福島事故以降は原子力に対して厳しい意見を持つ人が多い中、今回のウクライナ有事を機に原子力の稼働を求める具体的な声が上がっているとも感じている。日本維新の会や国民民主党が再稼働の迅速化を訴えていることも前向きな変化だ。しかし両者の意見がある中で、原子力政策をどうしていくかという方向性がよく見えてこない。

岸田氏は観測気球上げたまま? 3月ひっ迫時の対応検証必須

B 与党が率先しなければ物事は動かない。その意味で安倍・菅政権より踏み込んで岸田首相が観測気球を上げたこと自体は良かった。しかし参院選を控えていることから、観測気球のままで終わりそうだ。さらに、首相発言はコロナ禍やウクライナ有事といった外圧によるものだ。日本は相変わらず、国内事情をくんだ積極的な意思決定ができていない。

―他方で自民党の電力安定供給推進議員連盟が3月、特定重大事故等対処施設(特重)の整備待ち施設の緊急稼働を萩生田光一経済産業相らに要請した。だが萩生田氏は原子力規制委員会の所管だとして、前向きな発言はなかった。

A 萩生田氏は安倍晋三元首相の側近としての立ち位置を取っており、ロシア産化石燃料の禁輸には後ろ向きだ。G7(先進7カ国)との協調重視の官邸との間には温度差がある。萩生田氏には政治家として、全体を見渡して国益をどう考えるのか示してほしい。ロシア産資源を調達し続けることは真の国益なのか。省益ではないかと思う点もある。

B 経産省でなく、規制委が原発稼働の権限を持つようになったことで、官僚も首相や官房長官に発言を振り付けるようになっている。

A やはり自民党の路線がはっきりしていないことが問題の根幹だ。昨年の第六次エネルギー基本計画を巡っても、自民党内の反原発派は公明党を巻き込もうと動いた。党内対立が原子力政策を足止めしている。

B 今夏、冬の需給は相当厳しい見通しだ。垂直一貫体制からの転換が全ての原因だと一概には言えないが、構造的問題を含めてこれまでの検証はきちんとすべきだ。

A 3月の需給ひっ迫時も、本来は官邸に本部をつくって対応すべきだった。前日21日夜の経産省担当課長の会見では、記者から「警報発令という理解でいいのか」と問われ、ようやく認める状態。しかも22日当日は、夕方前に萩生田氏が会見して節電を呼びかけたが、実は夜にはパリ出張で日本をたっていた。最も停電の危機が高まった時間帯、国内に責任者が不在だったということだ。危機管理の問題として政府の対応を検証すべきだ。

緊急再稼働の可否 制度・技術面での課題は

―そうした中で求められるのはやはり迅速な原子力再稼働だが、新規制基準対応の一連のプロセスを終えていない段階での早期再稼働は、制度的、技術的に可能なのだろうか。

C 原子炉等規制法において、新規制基準の許可が規定されており、許可が得られていない発電所は再稼働できないルールとなっている。仮に超法規的に再稼働できるようにしたとしても、本来の要求事項を満たさずに再稼働することに対して社会から理解が得られないのではないか。エネルギー問題というよりは、社会的な問題が大きな壁になるのではないかと考えられる。再稼働を達成するためには、やはり政治判断が必要になる。

B ただ、現場の職員に聞くと、規制のプロセス以外の部分については、時間はかかるが技術的に再稼働は可能だと言う。かといって安全をないがしろにしているのではなく、規制とは別に、事業者は稼働前に必ず使用前検査で問題がないか確認している。万が一の際に最も危険な状況になるのは現場の人たちであり、入念な検査は自分の命のためでもある。

 地元の合意については、官邸が対応するしかない。岸田首相が立地地域を行脚して説得などすれば、難色を示す自治体の空気も変わるかもしれない。だが、先日の需給ひっ迫を節電で乗り切れたこともあり、現政権にそこまでのやる気はない。北海道ブラックアウトの検証でも泊原発に一言も言及しなかったことを鑑みれば、停電による損害が生じない限り、事態は動かないのだろう。

A 審査の迅速化については、規制委は三条委員会ではあるが、行政手続法では努力規定として審査期限を明示するよう求めている。そして規制委は審査の標準処理期間を2年としているものの、実態は乖離している。これについて昨年国会で滝波宏文参院議員が更田豊志委員長に見解を求めた際、更田氏からは「2年はあくまで標準的な目安であり、審査では徹底的に安全を確認するよう指示している」といった回答だった。規制委トップが処理期間2年を守ろうとしない以上、首相が具体的に審査の迅速化に動くしかない。

C 審査の短縮化が早期稼働につながることは間違いない。他方、既に設置許可が出ている東海第二、女川2号機、柏崎刈羽6、7号機、島根2号機などは、許認可手続きではなく、安全対策工事に時間がかかっていて稼働できずにいる。こうしたプラントでは、物理的にすぐ稼働することは難しい。安全対策工事では、既設を取り除いて新しい設備を設置する作業が敷地の至るところで進行している。工事途中で稼働できるか否かは、進捗状況と、新設の設置を後回しにしても既設で運転に必要な設備が即動かせる状況かどうか、といったあたりにかかってくる。

B 確かに事業者の中でも、本社の人は「工事が終わっていない段階での稼働は難しい」と言うが、現場の人は「工事を一時中止しての稼働でも問題はない」と答える。地元合意の問題もあるにせよ、まさに緊急時対応なのだから、常時のプロセスにこだわらない対応も排除せず検討すべきではないか。

審査をクリアした女川2号機の早期稼働は東日本の需給改善に貢献するが……(提供:朝日新聞社)

【マーケット情報/6月3日】原油続伸、ロシア産禁輸で逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。欧州連合(EU)がロシア産原油の禁輸措置で合意し、需給逼迫感がさらに強まった。

EUは、ロシアのウクライナ侵攻を受け、加盟国によるロシア産原油と一部石油製品の購入、転売、輸送、およびそれらの海上輸送に対する保険の発行などを、段階的に停止すると決定。ただ、ロシアからのパイプライン供給に頼る一部加盟国は、一時的に例外とすることで、合意を結んだ。

これにより、欧州勢の米国原油に対する買い意欲が強まるとの予想が広がった。さらに、中国・上海では1日、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウンを解除。経済活動の再開にともない、石油需要が回復するとの見込みがさらに広がり、需給が一段と引き締まった。

一方、OPECプラスは7〜8月の増産幅を拡大。月毎に日量64万8,000バレルの追加増産で合意した。当初の計画では9月まで毎月、日量43万2,000バレルの追加増産だった。ロシア産の供給減少をある程度カバーするとの意向が、価格の上昇を幾分か抑制した。

【6月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=118.87ドル(前週比3.80ドル高)、ブレント先物(ICE)=119.72ドル(前週比0.29ドル高)、オマーン先物(DME)=112.10ドル(前週比0.17ドル安)、ドバイ現物(Argus)=112.05ドル(前週比0.37ドル高)

【イニシャルニュース】原子力に積極的立場 I議員を地元は歓迎


原子力に積極的立場 I議員を地元は歓迎

原子力立地県選出の自民党I議員が、以前にも増して原子力発電所の再稼働、リプレース、新型炉の研究開発支援などに意欲を見せている。原子力関連の同党のある議連会長に就いていたが、カーボンニュートラルの方針やウクライナ戦争でさらに積極性を強め、専門家との会合やエネルギー関係議員の会合に意欲的に出席し、陳情を受け付けているという。エネルギー業界や地元から歓迎の声が広がっている。

I氏の選出県は保守王国で、党内で有力議員がしのぎを削っている。原子力推進に積極的な国会議員は主に原発が集中立地する県南部の出身で、「北部を選挙区とするI氏は、どちらかというと原子力を客観的に見ていた」(事情通)と言われている。

しかし、原油・天然ガスの高騰でガソリン価格や電気料金が上昇し、ウクライナ戦争でエネルギー安全保障が大きくクローズアップされる中、原発の再稼働などは、国民生活や経済活動を守る「即効薬」になる。

「I氏が本心からエネルギー問題を憂いていることは確かだ。それに加えて県内の支持、そして全国からの評価のために、原子力政策で成果を出そうとしている」(同)と見る向きもいる。

もともとI氏は政策理解力が高く、手腕も評価されている。元首相のA氏やK氏とも親しい。原子力推進への意欲について、「将来、政権や党の中枢を担う政治家。継続してほしい」(同)との声が出ている。

電源は足りている? TF提言に業界憤り

「火力発電所の現場は、夏・冬の電力不足を何とか回避しようと点検停止の日程調整に苦心している。火力発電への投資も原発の再稼働も解決策になり得ないと言い切るのは的外れ。おかしな言説を流布するのはいかがなものか」

電力業界関係者のX氏が憤慨するのは、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」が4月25日に公表した提言に対してだ。

提言では、3月22日に電力需給が危機的状況に陥り初の需給ひっ迫警報が発出されたことについて、「需要を満たす供給力は十分に存在し、燃料が不足していたわけでもない。全体の設備容量が足りていた以上、過剰に発電所を持つことは経済性を低下させるし、仮に発電所が用意されていたとしても、地震により運転停止していた可能性もある」と断言。安定供給確保に向け、火力発電への投資拡大や、原発の再稼働を急ぐべきだとの主張を真っ向から否定している。

これに対し、大手電力関係者のT氏は「地震の影響がなくても関東地方は電源不足であり、地震の影響が残っていれば、次の夏・冬のピーク時の需給はさらにタイトになりかねない」と反論する。

冬の最大需要発生日である1月6日の例を挙げ、「予備率3%は確保したものの、デマンドレスポンス(DR)の発動、自家発のたき増し要請に加え、火力増出力運転、信頼度低下を伴う連系線マージン利用、供給電圧の低め調整というリスクを伴う対策を実施してかろうじて確保したにすぎない」と実態を語り、再エネTFに対し「影響力を持って提言するからには、もっときちんとした情報源を持つべきだ」と苦言を呈する。

再エネTFの提言に関係者は憤慨(内閣府)

いずれにしても、次の冬に備え計画停電を準備しなければならないほど、東日本エリアの電力需給は危機的状況にある。資源エネルギー庁や電力業界が総力を挙げて対応策を講じている中、難癖を付けるような提言を受け入れて本当に停電したら、再エネTFは責任を取れるのだろうか。

反原発の「著名ペア」 袂を分かった理由は

I氏とO女史。エネルギー業界では有名な反原子力・再生可能エネルギー推進の運動家だ。

東大と双璧をなすK大で原子核工学を学び、卒業後、原子力関連会社に勤めながら後に反原発派に転じたI氏。NPO法人のシンクタンク、「KE政策研究所」を設立し、原発に代わる電源として再エネの普及拡大に向けて、国の審議会委員を務めたり、マスコミへの出演など精力的に活動を続けている。

一方、O女史も筋金入りの反原発・再エネ推進論者。現在は大物財界人、S.M氏が設立したS財団で事務局長の要職を務める。以前は、海外の再エネ普及団体で管理職に就いたり、在日E国大使館のアドバイザーを務めたこともある。

実はI氏とO女史は、共にKE政策研究所の設立に参画した仲間同士。長く机を並べ活動していた。しかしある日、O女史が研究所を去り、袂を分かつことになる。「Iさんが研究所設立当初の気持ちを失ったためではないか」。ある関係者はO女史の心境をこう語る。

FITが導入されてから、膨大な資金が再エネ市場に流入している。「再エネ開発の案件で、Ⅰ氏の名前が出ることが多くなった」(事情通)。巨額マネーを前にI氏が見せ始めた剛腕事業家としての一面。O女史はそれに愛想を尽かしたのかもしれない。

CCS技術は必要か 大手電力幹部が苦言

「X社あたりは前のめりになっている印象だが、これだけ地震が多い日本で、CO2回収・貯留(CCS)は(商業化)できるのだろうか」

こう話すのは、大手電力会社幹部のH氏だ。発電所や工場から排出されるCO2を分離、地中深くに貯留するCCS技術について、国は脱炭素化と産業・エネルギー政策を両立する重要なオプションと位置付ける。2050年カーボンニュートラル(CN)達成の切り札としても関心を集めている。

5月11日には、経産省がCCS長期ロードマップ検討会の中間取りまとめ案を発表した。年間CO2貯留量の目安を1.2~2.4億tと想定。30年までのCCS事業開始や関連法の整備について検討を行い、年内にもロードマップの最終取りまとめ案を示す方針だ。

CCSは商業化できるか(実証プラント)

環境づくりへ躍起となる経産省とは対照的に、現場の反応は冷ややかだ。「CNに取り組んでいる、というパフォーマンスも必要だ」。電力関係者はこう明かす。H氏も「(CCSの)候補地は確かにいくつかある。しかしCO2を貯留する段階になった時、誰が責任を持って管理するのか、誰が住民や社会に理解を得るよう動くのか、国の施策はその部分を欠いている」と苦言を呈する。

そもそも、地震大国の日本と、CCSプロジェクトが盛んな欧州、オーストラリアでは、貯留量のポテンシャルにも差がある。CCSの拙速な推進で地盤の脆弱さを露呈し、貯留したCO2が抜け出しては意味がない。文字通り「気の抜けた」政策にならなければいいが……。

苦境の新電力業界 胡散臭い業者の実態

多くの新電力事業者が厳しい経営状況に陥っている。昨年から新電力の倒産が目立ち始めたが、中にはうさんくさい実態の事業者も存在している。その一例を見てみよう。

17年の設立で昨年10月に破産したF合同会社の場合。法人向けや新電力向けの電力供給に加え、事業プランニングや運営サポートなどを手掛け、年間売り上げ3億円前後で推移していた。しかし21年1月の電力需給ひっ迫に伴う市場高騰が経営を直撃。インバランス分割払いの特例措置を受けたものの、再エネ賦課金の未払いで9月、10月に経済産業省から社名公表されており、資金繰りが危ぶまれていた。その直後に、F社は破産手続きの開始決定を受けていた。

破産直前の時期にF社を訪問しても、社員はほとんどいない状態だったという。なお、F社と同じフロアには、外資系で電力小売り事業者支援サービスを展開するZ合同会社、別の新電力J社が入居していた。3社の関係性は不明だが、仮にF社がZ社に事業委託していたのであれば、小売り事業者登録を受けさえすれば、簡単に電力販売事業をスタートできたことだろう。

結果として、F社は賦課金未払いの末に破産した。今後同様に経営体力のない新電力の倒産・撤退の加速が予想されるが、怪しげな事業者の退出が進むことは良しとして、「立つ鳥後を濁す」状況が続出するようでは困る。

CE戦略会合が中間整理 原子力など「最大限活用」明記


経済産業省のクリーンエネルギー(CE)戦略検討合同会合は5月13日、脱炭素化社会実現に向けた中間整理を取りまとめた。中間整理では、2030年代半ばまでの10年間で、脱炭素関連の投資を官民合わせて約150兆円必要だと試算。岸田政権の「新しい資本主義」の柱の一つとして、年内にも最終的な戦略をまとめる方針を示している。

笛吹けど踊らずの原発再稼働

注目はロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー問題への危機感だ。「CE戦略(中間整理)の全体像」の中で、エネルギー安定供給の確保を最優先課題に位置付け、脱炭素よりも重視する方針を提起。ウクライナ危機、電力需給ひっ迫を踏まえ、原子力などを「最大限の活用」すると明記した。

12日には、日本商工会議所の広瀬道明特別顧問が資源エネルギー庁の保坂伸長官を訪れ、政府のCE戦略に関して「原発の位置付け明確化と早期再稼働」をはじめエネルギー安全保障や安定供給などを求める意見書を手渡した。原子力活用については16日、自民党の原子力規制に関する特別委員会(鈴木淳司委員長)が提言をまとめ、岸田文雄首相に提出。原発再稼働に向けた規制委員会の審査効率化や40年運転制限ルールの見直しなどを求めている。

一方、萩生田光一経産相は17日の閣議後会見で「(原発再稼働は)引き続き安全最優先で進めていく」「(新増設・リプレースは)現時点で想定していない」などと慎重姿勢を示したが、「エネルギー危機を乗り切るには原発の早期再稼働しかない。岸田さんの決断次第」(自民党重鎮)と政治決断に期待する声が党内から上がる。安定供給と脱炭素化の両立へ原子力活用の流れを加速できるか。

2050年CO2削減へ行程表 企業にゼロカーボンパッケージを提案


【関西電力】

関西電力は社会全体のCO2排出量削減を目指すロードマップを作成した。

業務・産業分野の「ゼロカーボンパッケージ」などを通じて社会のCO2削減に貢献する。

 関西電力は、昨年策定した「ゼロカーボンビジョン2050」実現の具体策として、2030年度時点の目標や道筋を示した「ゼロカーボンロードマップ」を今年3月に発表した。ロードマップには、ゼロカーボンビジョンで書かれた「デマンドサイド(需要側)のゼロカーボン化」「サプライサイド(供給側)のゼロカーボン化」「水素社会への挑戦」の3本柱を「関西電力グループ自ら取り組むこと」「お客さまや社会の皆さまと取り組むこと」に整理し、それぞれどのように取り組みを進めるかを記載。関電グループだけでなく、顧客や事業パートナー、自治体と連携しCO2削減目標を達成する道筋が示されている。

関電が提案する「ゼロカーボンパッケージ」

CO2削減のロードマップ 30年度に向け目標を設定

ロードマップ内の「30年度に向けた削減目標」では、関電として発電によるCO2排出量を25年度時点で13年度比半減、以降削減率トップランナー水準を実現することや全ての社有車の電動化に取り組むと表明。それに加え、顧客に届ける電気のCO2排出量削減に貢献するとした。電力のCO2排出係数をトップランナー水準とすることや各種サービス提供を通じて社会全体の排出量を700万t以上削減する目標を設定。700万tのCO2は、関西エリアの削減想定量の約3割に相当するという。

発電によるCO2排出量削減に向けては「再生可能エネルギー」「原子力」「ゼロカーボン火力」「水素」の各分野で取り組みを推進する。再エネ分野では40年までに洋上風力を中心とした国内1兆円規模の投資を行い、再エネを主力電源化。国内新規500万kw、累計900万kw規模の電源開発を推進する。原子力では、安全安定運転の継続と再稼働の着実な推進、次世代軽水炉や小型モジュール炉(SMR)などのリプレースに取り組むほか、火力ではCCUS(CO2回収・利用・貯留)技術の導入や検討を進め、水素の海外調達・国内製造にも力を入れる。

社会全体の排出量700万t以上削減に向けては、①省エネ(省エネ機器の導入や最適制御でのエネルギー消費量減)、②電化(化石燃料機器から電気機器へ置き換え)、③創エネ・蓄エネ(太陽光などで電気を創る)、④オフセット(CO2フリー電気料金メニューへの置き換え)―に取り組む。

計画策定から具体策の実行まで包括的に手掛ける

「パッケージ」で企業に提案 企業側の選択肢の多さ魅力

特筆されるのが、業務・産業分野の企業向けサービス「ゼロカーボンパッケージ」だ。これまで全国の製造業、物販業など法人企業を相手に、「太陽光発電オンサイトサービス」やエネルギーマネジメント、CO2フリーの電気料金メニューなど脱炭素を支援するサービスを提供。「ゼロカーボンパッケージ」では、企業の脱炭素目標に応じて、計画策定のコンサルティングから各サービスを組み合わせた具体策の実行まで包括的に提供。企業ごとのニーズや取り組みフェーズに合わせて脱炭素化をトータルでサポートする。

「包括的なパッケージにすることで、よりお客さまごとの特性に応じてカスタマイズしたご提案ができるようになります」と、営業部門法人ソリューショングループの中谷和樹課長は話す。

これまで19年の太陽光発電オンサイトサービスをはじめ、21年7月には、関電エネルギーソリューションと共同開発した空調制御サービス「おまかSave-Air」などをリリースしてきた。「脱炭素を支援するサービスのラインアップがそろっていること、電力会社として従来より培ってきた、エネルギーマネジメントに関する知見がわれわれの強みです。全国のお客さまに対し、上流(計画策定)から下流(具体策の実行)までワンストップでご支援させていただくことが可能です」(中谷課長)。CO2削減のポテンシャルを示すことで企業側も取り組みのイメージがしやすい。豊富な知見とノウハウを持つ関電ならではの「選択肢の多さ」が魅力だ。

パッケージの提案は、①現状把握(現在のエネルギー使用量と使用設備、およびそれらの構成比率のヒアリング)、②ロードマップ策定(目標年までの削減のポテンシャル、費用対効果を見える化し、取り組みの優先度を提示)、③具体策の実行(ロードマップに沿った具体的な削減方策を提案)、④効果検証アップデート(削減実績や技術進歩を踏まえロードマップ更新)―の順で進める。営業部門法人ソリューショングループの小出健人副長は「脱炭素に先進的なお客さまを中心に、ご好評をいただいております。お客さまと共にゼロカーボンの実現に取り組んでいきたい思いです」と話す。

国内のみならず、タイやベトナムといった海外に拠点を持つ日本企業に対してもゼロカーボン化のサポートを実施している。脱炭素化待ったなしの世界情勢の中、関電のサービスが日本企業のCO2削減の一翼を担っていく。

天然ガス・LNGに及ぶか 資源巡る対ロ制裁の行方


石炭、石油と拡大してきたG7(主要7か国)による資源エネルギー輸入を巡る対ロシア制裁が、天然ガス・LNGにも及ぶのではないかとの観測が広がっている。

G7首脳会議に臨む岸田首相(提供:共同通信)

G7は5月8日、オンラインで首脳会議を開き、エネルギー分野での脱ロシア依存を進めることで一致。岸田文雄首相は、ロシア産石油の原則禁輸の方針を示した。残るはガスだが、ただでさえ需給が厳しい中、世界の貿易量の25%を占めるロシア産の排除は安定供給の観点で言えば現実的ではない。

とはいえ、当初はあり得ないとされた石炭・石油の禁輸措置に踏み切っており、ガスもこれに加わる可能性は皆無ではない。EUがロシア産ガスの禁輸に踏み切れば当然、日本も同様の措置を取るよう迫られることになるだろう。

実際、ある政府高官は、「支払ったお金がウクライナに残虐非道を行っているロシアに流れていることを国民感情が許さない。いつまでもロシアからLNGを調達できると思わない方がいい」と、もはや時間の問題と見る。だが、西側諸国が輸入を停止したところで、制裁に加わらない中国やインドが安く資源を手に入れるだけで制裁の効果は極めて薄いのが実情だ。

日本が権益を持つサハリン1、2について、政府も企業も維持する方針を変えていないが、「権益を手放すことも含めロシアの資源輸入を止めろ」という世論が高まりつつある。しかし、そうした声に唯々諾々と耳を傾けていたのでは判断を誤る。少なくとも、原子力発電の再稼働、石炭・石油を含む資源の増産、LNG設備の増強といった代替手段を講じた上でなければ、制裁どころか国民生活を苦しめる結果が待つだけだ。

ベースロード再エネの真価 地熱発電で地域振興・共生へ


日本の国情に合い、ベースロード電源で活用できる再エネの一つが地熱発電だ。

「振興」や「共生」を合言葉に、地熱の導入に取り組む地域の事情を追った。

 2050年カーボンニュートラル社会実現の有力手段として脚光を浴びる再生可能エネルギー。だが、代表格の太陽光や風力は天候次第で発電量が大きく変動してしまう短所を抱える。対して、安定した出力で稼働しベースロード電源として活用できる特徴を持つのが地熱や水力だ。「特に地熱発電は火山国で温泉も豊富な日本の国情に合った再エネ。太陽光や風力よりも供給安定性に優れることを考えても、国や自治体は地熱の普及拡大にもっと力を入れるべきではないか」。再エネ業界の関係者はこう指摘する。

事実、日本は世界3位の地熱資源量を誇る。設備利用率で見ても、20%弱の太陽光や、約30%と言われる風力と比べ、地熱発電は約70%と高い。発電方法としては、地下で減圧沸騰した200~300度を超える高温の天然熱水・蒸気でタービンを回すフラッシュ発電が一般的だ。ただ温度が150℃以下だとタービンを回せないため、沸点の低い媒体(水とアンモニアの混合物など)と熱交換し、その蒸気でタービンを回すバイナリー発電が開発された。バイナリー発電は、これまで必要な熱源に届かなかった中小規模の地熱発電の可能性を広げることになった。

スマグリ化狙う土湯温泉 小国町は地域共生を実現

「もし地熱発電に取り組んでいなかったら、この町は大変なことになっていた」

福島県の北部「土湯温泉」のある旅館に勤める従業員は、地熱発電事業についての思いを吐露した。土湯温泉は東日本大震災で大きな被害を受けた町の一つだ。福島第一原発事故による風評被害もあり、観光客が激減する中、起死回生の一手として地熱発電プロジェクトを立ち上げ、温泉協同組合が中心になって挑んだ。

「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」が稼働を始めたのは2015年11月。自然エネルギー財団によると、346日の稼働で売電量は300万kW時を超えた。固定価格買い取り制度(FIT)は1kW時当たり40円で、年間1億2000万円ほどの売電収入が見込まれている。地熱発電の収入で地元温泉設備の費用も捻出。運開以降懸念された熱量や蒸気の減少もないという。

地熱事業が軌道に乗ると、温泉協同組合に収益の一部を還元した。投資した初期費用の回収は稼働から10年程度を見込む。「源泉の状態を考えると、土湯温泉地区の地熱発電の規模拡大は難しい」(自然エネルギー財団)中で、付近の水力発電を加えた分散型電源による供給網構築を目指す。プロジェクトを主導した「元気アップつちゆ」の加藤勝一社長は、「地熱発電の買い取りが終了する30年までに地区内で送配電網と蓄電池を整備したい」と、将来的なスマートグリッド化を視野に入れている。

一方、地元との共生を軸に、粘り強い交渉と信頼関係で地熱発電事業を手掛けたのが、熊本・小国町の「町おこしエネルギー」だ。

町おこしエネルギーは、業務スーパーで知られる神戸物産を立ち上げた沼田昭二氏が設立。小国町の地熱発電事業に17年から携わり、今年3月には設備容量4490kW、年間想定発電量約3449万kW時とする地熱発電所稼働に関する融資契約を締結した。運転開始は24年4月を予定しており、調査開始から7年弱という前例のないスピード開発となった。

町おこしエネルギーの担当者は「このスピードは地元の皆さまや自治体の協力があってこそ」と語る。小国町の地熱発電のポテンシャルは高く、これまで多くの事業者が参入。住民からは根強い反発もあったが、沼田氏自ら説明会に赴き、住民を説得した。「熱水利用の養殖事業や地産馬放牧など、地域の特性に合った事業内容が評価された」と、担当者は話す。

一方、町おこしエネルギーが懸念する地熱発電の課題に「掘削技術者の高齢化、技術の継承」を挙げている。「25年前の技術で現状維持をしていたが、技術の継承・発展ができず、最新の掘削機器は海外製。このままでは日本の技術は完全に失われてしまう」

現在は鉱山産業で有名なモンゴルから技術者を招く傍ら、北海道・白糠町に専門学校を開校し、日本の技術を残そうと奔走。こうした取り組みに共感する自治体も多く、全国から地熱開発の依頼が届いている。純国産の再エネである地熱活用への期待は大きい。

地熱発電の事業が地域に活力もたらす

欧米発の技術を応用 将来的な主力電源化も

大手電力会社も負けてない。九州電力では今年4月に鹿児島・霧島市の烏帽子岳地域で地熱発電所建設を発表。4月14日付で霧島市との合意書が交わされた。設備容量4500kWで24年度末の営業開始を見込んでいる。九電は1998年からこの地域の調査を行っており、完成すれば鹿児島県内4カ所目、九電グループとして9カ所目の地熱発電所となる。

資源エネルギー庁は、地熱発電について「エネルギー基本計画にもあるように、地熱はベースロード電源を担うエネルギー源。エネルギーの多段階活用も期待できるが、中長期的視点を踏まえた開発が必要」と強調する。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)では、地熱導入拡大に向け、地質構造を把握する先導的資源量調査を実施。環境省の協力を得ながら、国立公園を中心に21年、22年度で30地点を超える調査を実施するという。

一方で地熱を巡っては、発電に必要な高温熱水区域「地熱貯留層」の発見が難しいという課題もある。実は、この解決に貢献すると見られているのが、米国系の日本アイパルス(東京・虎ノ門)の資源探査技術と、米国や欧州で実用化が進められている「地熱増産システム(EGS)」だ。

アイパルス社のコア技術「パルスパワー」は、短時間に最大1000万kWの強い電流を流し、エネルギーを瞬間的に集中させるもので、大深度地下構造の調査に活用可能。また関係者によれば、地下の高温の岩体を掘削し配水管などを人工的に造るEGSを導入することで、十分な熱水が存在しなくても熱資源さえあればどこでも発電が可能になるという。日本では現在の地熱発電の70倍に相当する3800万kWの発電が可能との試算もあり、将来の主力電源化につながる可能性を秘めている。

地熱発電のさらなる発展には、地域共生型ベースロードへの投資促進が不可欠だ。日本の将来を見据えたエネルギー戦略において本当に必要なものは一体何なのか。太陽光・風力偏重政策から脱却すべき時が来ている。