資源循環の鍵を握る「分離技術」の研究開発を主導する。
目指すのは、生活の利便性や経済性を損なわない循環型社会の実現だ。
SDGs(持続可能な開発目標)達成やカーボンニュートラル社会を実現するには、限りある地球資源の循環利用が欠かせない。製品寿命を終えた廃棄物の再資源化に資する「分離技術」の研究開発を進める早稲田大学理工学術院環境資源工学科の所千晴教授は、「省エネルギー、低環境負荷、低コストで高精度の分離を実現することで循環型社会構築に貢献していきたい」と研究の狙いを語る。
循環型社会を目指す上で、人々は「大量生産・消費型社会」で培われた価値観の大転換を促されることになる。同時に製造現場も、性能と価格のみを重視した製品設計から、より資源の循環に配慮したモノづくりへの移行を強く求められる。所教授は、生産の段階から再資源化を考慮した製品づくりを後押しする技術研究の傍ら、製品の供給から回収して再資源化するまでの社会システム構築に向けた研究にも携わり、これまでも積極的に政策提言を行ってきた。
日本では、「環境対応」といえば自己犠牲やボランティア精神を伴うものだと考えられがち。所教授が志すのは、生活の利便性や経済性を損なわずに循環型社会を実現することで、「well-being(幸福)」な暮らしの実現に貢献することであり、研究指導を通じて学生たちにも環境をビジネスに結び付けることの重要性を伝え続けているという。
「環境」に興味を持つきっかけとなったのは、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」で、当時12歳だった少女が行ったスピーチに感銘を受けたこと。そして、環境問題を解決することで社会に貢献できる人材になりたいと、早大理工学部に進み資源循環工学を専攻しようと決めた。
とはいえ、最初から研究者を目指したわけではなく、「キャリアウーマンになって大手町を闊歩しよう」と、自身の社会人像を思い描いていたことも。転機となったのは、4年生で研究室に入り研究の面白さを知ったことだ。「研究者としての視野を広げるためにも、博士課程に進むのであれば研究室を変えた方がいい」という恩師のアドバイスを受け、修士課程から東京大学大学院工学系研究科に進み、実験やシミュレーション手法など研究者としての基礎を培った。
多岐にわたる社会問題 バランスを考慮し解決を
気候変動問題は、社会が一致して取り組むべき大きな課題だと認識する一方で、「それだけが地球への環境負荷ではないにもかかわらず、政策や企業の取り組みも含めてカーボンニュートラルのみに注力し拙速に進める傾向が強まっているのではないか」と、昨今の風潮に危機感を覚えている様子。
社会問題は、エネルギー安定供給や資源の有限性、環境汚染など多岐にわたる。「さまざまな問題のバランスを図りながら解決していかなければひずみが生まれてしまう。これらを一緒に解決する手法を考えるべきだ」と強調する。

1975年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部(現理工学術院)助手、専任講師、准教授を経て、2015年から現職。