次代を創る学識者/所 千晴・早稲田大学理工学術院創造理工学部環境資源工学科教授


資源循環の鍵を握る「分離技術」の研究開発を主導する。

目指すのは、生活の利便性や経済性を損なわない循環型社会の実現だ。

 SDGs(持続可能な開発目標)達成やカーボンニュートラル社会を実現するには、限りある地球資源の循環利用が欠かせない。製品寿命を終えた廃棄物の再資源化に資する「分離技術」の研究開発を進める早稲田大学理工学術院環境資源工学科の所千晴教授は、「省エネルギー、低環境負荷、低コストで高精度の分離を実現することで循環型社会構築に貢献していきたい」と研究の狙いを語る。

循環型社会を目指す上で、人々は「大量生産・消費型社会」で培われた価値観の大転換を促されることになる。同時に製造現場も、性能と価格のみを重視した製品設計から、より資源の循環に配慮したモノづくりへの移行を強く求められる。所教授は、生産の段階から再資源化を考慮した製品づくりを後押しする技術研究の傍ら、製品の供給から回収して再資源化するまでの社会システム構築に向けた研究にも携わり、これまでも積極的に政策提言を行ってきた。

日本では、「環境対応」といえば自己犠牲やボランティア精神を伴うものだと考えられがち。所教授が志すのは、生活の利便性や経済性を損なわずに循環型社会を実現することで、「well-being(幸福)」な暮らしの実現に貢献することであり、研究指導を通じて学生たちにも環境をビジネスに結び付けることの重要性を伝え続けているという。

「環境」に興味を持つきっかけとなったのは、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」で、当時12歳だった少女が行ったスピーチに感銘を受けたこと。そして、環境問題を解決することで社会に貢献できる人材になりたいと、早大理工学部に進み資源循環工学を専攻しようと決めた。

とはいえ、最初から研究者を目指したわけではなく、「キャリアウーマンになって大手町を闊歩しよう」と、自身の社会人像を思い描いていたことも。転機となったのは、4年生で研究室に入り研究の面白さを知ったことだ。「研究者としての視野を広げるためにも、博士課程に進むのであれば研究室を変えた方がいい」という恩師のアドバイスを受け、修士課程から東京大学大学院工学系研究科に進み、実験やシミュレーション手法など研究者としての基礎を培った。

多岐にわたる社会問題 バランスを考慮し解決を

気候変動問題は、社会が一致して取り組むべき大きな課題だと認識する一方で、「それだけが地球への環境負荷ではないにもかかわらず、政策や企業の取り組みも含めてカーボンニュートラルのみに注力し拙速に進める傾向が強まっているのではないか」と、昨今の風潮に危機感を覚えている様子。

社会問題は、エネルギー安定供給や資源の有限性、環境汚染など多岐にわたる。「さまざまな問題のバランスを図りながら解決していかなければひずみが生まれてしまう。これらを一緒に解決する手法を考えるべきだ」と強調する。

ところ・ちはる
1975年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部(現理工学術院)助手、専任講師、准教授を経て、2015年から現職。

【メディア放談】電力需給のひっ迫 停電寸前招いた責任者は誰だ


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

3月22日、東北地方と首都圏は電力需給が極端にひっ迫し停電の恐れがあった。

火力発電の停止、悪天候と悪い条件が重なったが、底流には構造的な問題がある。

 ―3月22日に東北地方と首都圏で電力需給がひっ迫して、停電寸前にまで陥った。16日の福島県沖地震で太平洋岸の火力発電所が被害を受け停止したこと、季節外れの寒波に見舞われたことが原因だった。

電力 この日は非常に悪い条件が重なった。需給がひっ迫したこと自体は、仕方がなかったと思う。ただ、問題は国側の対応だ。22日は3連休明けの火曜日。本来ならば、連休に入るころに需要家に実態を説明して、節電を頼むべきだった。

 それがずるずると遅れ、政府はようやく21日の夜に需給ひっ迫警報を出した。企業としては、前日の夜に節電を要請されても、とても対応できるものじゃない。

ガス マスコミ対応も同じだ。連休中は当然、記者の動きも鈍くなる。それを考えて、先手先手で事情を説明するべきだった。22日に萩生田光一経済産業相が緊急会見を開いて節電を要請して、経産省の事務方は午前と午後に2回、記者にレクチャーをした。

 記者としても、急に電力需給について説明を受けても、なかなか理解は難しい。そんなこともあったせいか、節電への需要家の反応はいまひとつだった。

マスコミ 事情に詳しい関係者に聞くと、今回の電力危機の一因として、「人」の問題があったという。電力会社を除くと、需給に責任を負うのは広域機関(電力広域的運営推進機関)と資源エネルギー庁になる。しかし、広域機関に出向していた電気事業に詳しい経産省の幹部が去っていて、エネ庁の担当課も知識や経験が足りなかったらしい。 

石油 週刊ダイヤモンド(電子版)が「電力不足を招いた真犯人は誰だ」との記事で、福島第一原発事故の後、電力会社から電気事業の主導権を奪うことに力を入れた官僚の責任を追及していた。まさにその通りだと思った。

太陽光発電は役に立たず 変わらぬ原発=悪の構図

―新聞各紙が電力危機について振り返っている。

電力 読売、産経は原発再稼働の必要性に触れて、朝日、毎日、東京は原発は論外とする。朝日、毎日、東京の原発=悪、再エネ=善とする構図は、もし停電があっても変わらなかっただろう。

石油 今回、FIT(固定価格買い取り制度)で数兆円も普及拡大に費やした太陽光発電が、悪天候で最大電力の2%ほどしか発電できなかった。何の役にも立たなかったわけで、これにはさすがに再エネ推進の新聞も、居心地が悪かったと思う。

ガス ただ、電力危機は太陽光が発電せず、原発が止まっていることだけが理由ではない。西日本は原発も稼働して電力に余裕があった。しかし、周波数変換所(FC)の制約で60万kWしか東日本に送れなかった。福島原発事故の後、東日本では需給バランスが悪い状態が続いているが、国は手を打ってこなかった。

―もし柏崎刈羽原発6、7号機が稼働していたら、ここまでの電力危機は起こらなかったはずだ。

マスコミ 朝日にHさんという経済担当の編集委員がいる。文章がうまく、財政規律などについて正論を主張する。さすが天声人語で有名な深代惇郎や辰濃和男を生んだ朝日の記者だな、と思ってHさんの記事を読むことが多かった。

 そのHさんが、ウクライナで原子力施設が攻撃されたことを踏まえて、コラムで日本の原発がテロやミサイルで攻撃された場合の危険性を書いている。確かに、そういうリスクはある。だけど、原発が止まったままでは、夏場や次の冬に電力危機や価格高騰が起きるリスク、それに天然ガスなどの価格が高止まりして、円安も加わり膨大な額の貿易赤字になり、国富が海外に流出していくリスクがある。それらと比べてどちらのリスクが大きいだろうか。

原発破壊のリスクは 名文家のぎこちない文章

―原発は、沖合に海上保安庁の巡視船が配備されて不審船などから守っているし、サイト内では常に警察官が警備している。

マスコミ 電力会社は特重(特定重大事故等対処施設)までつくっている。原発が破壊されるリスクの方が大きいとはいえない。僕は、実はHさんもそのことが分かっていると思っている。しかし、朝日の編集委員として、原発の負の側面をフォーカスする記事を書かざるを得なかったのではないか。コラムの文章はどこかぎこちなく、名文とはいえないものだった。Hさんとしても、この記事は不本意だったと思う。

電力 急激な円安によって貿易収支の赤字が拡大しているのは、重大な問題だと思っている。1ドル126円台になった4月13日の翌日、日経は1面で貿易赤字の主因は原発停止によるエネルギー輸入の増加として、「円安を止めるために原発を再稼働すべきだという意見は今後、強まる」とみずほ銀行の唐鎌大輔さんのコメントを掲載した。

 ただ、その後で「もっとも再稼働は政治的な合意のハードルが高い」と付け加えている。日経も、まだこの最後の一文を入れなければいけないんだなと思った。

―ウクライナ戦争は長期化しそうな気配だ。エネルギー需給や価格への影響が心配されている。

石油 週刊『エコノミスト』が「世界エネルギー大戦」として特集を組んで解説していた。日本が輸入するLNGプロジェクトと輸入ルートの地図は資料価値も大きい。一方、他の週刊経済誌はなぜか大きく取り上げない。エネルギーや原子力を特集にすると、売り上げが落ちるせいだろう。

―電力危機、価格高騰、国富流出、それに何より戦争。もう言葉も聞きたくない。

変わらない文化からの変革 日印の技術力でDX支援


【リレーコラム】小薗江 隆一/飯野海運 常務執行役員

 船は人類が生み出した最古の乗り物だ。その動力源は、「人の力」、「風の力」と変化してきた。鉄を用いて船が大型化すると化石燃料を利用する「蒸気機関」、「内燃機関」と技術革新をしてきた。そして、船は「より遠く、より早く、より多く」を実現して、時間が読める安定輸送手段として世界の物流を支えてきた。今、その海運にも脱炭素化の波は押し寄せている。グローバル市場における外航海運の脱炭素化の取り組みを紹介していく。

サプライチェーンにおける脱炭素化は重要で、特に運輸部門でのCO2排出量削減が求められている。海上輸送は国際貿易量の90%(重量ベース)を占めており、脱炭素化は避けて通れない。 外航海運のCO2総排出量は年間約7億t。これは全世界のCO2排出量の2・1%で、ドイツ1国の排出量に相当する。国連の国際海事機関が、「2

030年には08年比で40%削減、50年には同じく50%削減」という目標を定めたが、近々「50年はネットゼロ」になる可能性が高いと見られる。

次世代新燃料の台頭が必須

現代の船の構造は貨物の種類によって専用化して積載量を最大化する設計になっており、積載量を犠牲にしない限り、本船でCO2を貯蔵するスペースの余力はない。再生可能エネルギーは補助的な動力として検討されているが、洋上では気象・海象が激しく変わるため動力源としては難しい。つまり、CO2排出量を削減する方法は消費効率が高く、環境に優しい「次世代燃料」が利用だ。燃料の消費量は速力の3乗に正比例する。よって船の速力を遅くする現実的な対応をとりながら次世代燃料への展開を進めることになる。速力を遅くすると物流全般への影響は出るが、サプライチェーンでのCO2削減効果は期待できる。

次世代燃料への展開は、エンジンの対応が必要なため新造船から始まる。既にLNG、LPG、メタノールを燃料とする船は稼働。低炭素化に向けた試みは始まっている。本格的な炭素フリーの燃料としてアンモニアや水素が検討されているが商業運転は26年頃と見られる。次世代燃料の導入には供給能力、価格、インフラ整備が課題だ。

このように脱炭素化は将来の物流にも影響する。外航海運は今、「より遠く、より早く、より多く」を、顧客ともう一度見直す転機を迎えている。海運に従事する者として、船が将来にもわたり人々の暮らしを豊かにして夢と文化を運ぶ安全な輸送手段であり続けるように努力をしていきたい。

おそのえ・りゅういち 1985年飯野海運入社。イイノシンガポール社長、ケミカルタンカーグループチームリーダー、執行役員などを経て2016年から現職。

※次回はアストモスエネルギー国際事業本部長の荒木徹さんです。

【コラム/5月25日】電気事業のノンコアビジネスの可能性


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

内外における電力市場の競争激化で、電力会社の電力販売による利益は減少している。そのような中で、電力会社は、新たな価値創造のために事業分野の拡大を重視している。地域に根差すドイツのユーティリティ企業であるシュタットヴェルケは、その強みを活かして、様々な事業分野への拡大を図っている。2021/11/22のコラム「電気事業のコアビジネスの拡大」では、蓄電池を含む分散型電源、スマートメータリング、エレクトロモビリティの事業分野での活動実態について紹介し、シュタットヴェルケはコアビジネスの延長線上にあるこれらのビジネスに最大のポテンシャルを見出していることを述べた。それでは、エネルギー供給以外のノンコアビジネスの可能性はどうだろうか。本コラムでは、この問題について、業界団体BDEWの調査結果を踏まえて考えてみたい。

シュタットヴェルケは、ノンコアビジネスとしては、電気通信、スマートホーム、スマートシティなどの分野に将来性を見出している。エネルギー供給以外とはいえ、本業への(ある程度の)近さや顧客との地域的近接性ゆえに、シュタットヴェルケは、将来的にはこれらの分野に従事することが自然な流れと受け止めている。しかし、コアとのリンクは小さいため、企業全体の利益に占めるシェアは依然小さく、セクターコンバージェンス(他産業との協調)による利益の増大が課題となっている。

1)電気通信

この分野では、多くのシュタットヴェルケは、現在、光ファイバーケーブルの敷設などインフラの拡充を行っており、その約1/4は、ブロードバンド、デジタルテレビ、インターネットサービスなどに従事している。電気通信サービスは、シュタットヴェルケにとって、長期的に一定の収益をもたらす有望なビジネスとみられている。さらに、同サービスは、スマートメータリング、スマートグリッド、スマートホーム、スマートシティなどの分野におけるさらなるデジタルビジネスの基礎となると考えられている。

電気通信分野におけるシュタットヴェルケの取り組みは、単独でのアプローチが多かったが、最近、Deutsche Telekomとの協調が増えている。電気通信市場のグローバルな特性と、エネルギー供給市場の地域密着的な特性に鑑みて、電気通信事業と電気事業のコンバージェンスは、追加的な収益を獲得できる新たなビジネスモデルを生みだす可能性があるだろう。

2)スマートホーム

スマートホーム事業では、エネルギーマネジメントやホームオートメーションなどのプロダクトが提供されているが、同事業に意義を見出し、これらのプロダクトを提供するシュタットヴェルケは、1割程度に過ぎない。現在、シュタットヴェルケが提供するスマートホームプロダクトは、主に顧客のロイヤルティを高めることを目的としており、企業の収益性に貢献するものではない。

スマートホームの分野では、これまでのところ、統一されたプラットフォームは市場に定着しておらず、多数の規格や技術があり、それらは、通常は互換性がなく相互運用ができない。この点で、スマートホームのプロダクトを総合的に提供するためのプラットフォームの構築を目指して、エコシステムを開発していく大きな可能性が存在しているといえる。

3)スマートシティ

この事業分野の開発は初期段階にあり、エネルギー業界は、現在のところ、他業界とのシナジー効果をほとんど見出していない。

スマートシティに関連して、シュタットヴェルケが提供しているプロダクトは、インテリジェント街路照明が最も多い。2020年時点で約2割の企業が、このプロダクトを提供している。このプロダクトは、エネルギー供給に近いため、最も多く提供されている。インテリジェント街路照明以外のプロダクトは従来のエネルギー供給から遠ざかっていくことになるが、インテリジェントな駐車場管理、リアルタイムデータを活用した環境監視、新しいモビリティコンセプトなど、将来的にシュタットヴェルケが従事すると思われる分野は多岐に亘る。しかし、それぞれの事業に関与している企業は、2020年時点で1割または1割未満である。企業の大部分は、スマートシティのアプローチは、様々なパートナーとの協力関係がなければ成功しないと考えている。

エネルギー供給事業者にとって、ビジネスのさらなる可能性を高めるためには、プラットフォームの開発とその上でのサービス提供が、異なるコンピテンシーを持つ多数のパートナーと共に推進されることが必要と考えられている。エネルギー供給事業者は、初期の段階からこのようなエコシステムプラットフォーム運営者の役割を担うことが多いと考えられるが、その際参加者全員にとってwin-winの状況を作ることが、成功のための必須条件となるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【石橋通宏 立憲民主党 参議院議員】「エネルギーとICTの融合を」


いしばし・みちひろ 1991年米国アラバマ大学大学院修了。全電通(現・NTT労働組合)、国際労働機関(ILO)を経て2010年参院議員(比例区)。22年から参院経済産業委員長。当選2回。

子供たちが安心して学べる社会を実現するため、ICT利活用の推進に奔走。

平和を次代につなぐため、実直に労働、貧困、差別、教育問題に取り組む。

 父は全日本自治団体労働組合(自治労)出身で衆院議員を4期務めた石橋大吉氏。「労働組合のおやじ」として、働く者のために粉骨砕身する背中を見続け、自身も組合活動に身を投じる。全電通(現NTT労働組合)を経て2001年、国際労働機関(ILO)勤務に。労働問題を「一生涯の仕事にしよう」と各国を回り、労働者の権利確立のために奔走した。

最初の5年3カ月はイタリア・トリノに赴任。その際、欧州の働き方や社会保障制度に衝撃と感銘を受けた。労働時間が短く生産性の高い働き方、育児や教育を社会全体で支える姿を見て、日本との差を痛感した。「なぜこんなにも違うのか」―。バブル崩壊以降30年で日本の国際競争力は低下し、賃金も上がらない。次世代が安心して働いて生活できる環境にしなければ日本に未来はない、と感じるようになった。

06年からの3年はフィリピンを拠点に東南アジアや太平洋諸島地域を担当。労働法制、社会保障制度が整っていない国々の実情を見た。一握りの権力者が政治を牛耳り、貧困がまん延し、子供たちは学校に通えず、労働者は声を上げるだけで命まで狙われる世界。結局、国民のための政治が行われないと、その国の人は幸せにはならない。ILOを含めた国際機関の役割は重要だが、国を良くするのはその国の政治だと痛感。「欧州やアジアでの経験を生かし、人々が安心して暮らしていける社会を取り戻したい」と決意し、一生働くつもりだったILOを辞め国政に挑んだ。

「平和を次代に」走り続けた12年 教育分野でICT利活用進める

10年の参院選で初当選。「平和を次代につなげていく」として、戦争や紛争の潜在的要因となり得る貧困や格差、差別や人権侵害の排除に尽力する。専門分野の労働問題では、非正規雇用の拡大に警鐘を鳴らした。「この国の雇用の安心・安定が失われてきた。何年頑張っても賃金が上がらない。もらえるはずの手当がもらえない、だから安心して暮らしていけない。そんな状況を変えるのが政治の責務だと思っている」。立法府に属する一人として、憲法で保障されている人権の保護、そして平和主義、国際協調主義の実現に走り続けた、と議員生活の12年間を振り返る。

また「資源のない日本で、最大の資源は人材。次代を担う子供たちが、家計の状況に関係なく自ら望む教育を受け、成長していける環境をつくらなければならない」と教育分野の情報通信技術(ICT)利活用を推進する。「当初は一部議員から『教育は紙の教科書と黒板・チョークを使うもの。何がパソコンだ』と反発を受けたこともあった」。それでも超党派の勉強会を立ち上げ、議員連盟に衣替えして実務を担い、19年には「学校教育の情報化の推進に関する法律」を議員立法で成立させた。このような取り組みが、全国の児童生徒に一人1台のデバイス環境とネットワークを整備する「GIGAスクール構想」の展開につながっている。「ICTの利活用が子供たちの可能性を広げ、未来をつくる。今後は、大学授業料の低廉化や無償化、給付型奨学金の拡充、教員の負担軽減も進める」と意気込む。

現在は参院の経済産業委員長として、経済産業省などとの調整、法案の議論に汗を流す。「私たちは、この30年で国際競争力が大きく低下してしまった原因を真摯に総括し、これからどう挽回するか与野党挙げて真剣に議論すべき」と10年後、20年後の日本で暮らす子供たちの未来を見据え「エネルギーとICTの融合」を提唱する。日本が国際的な競争力を取り戻すため、再生可能エネルギーのポテンシャルを評価。「より効率的な再エネの活用や省エネの展開にはICTが不可欠」。スマートグリッド(次世代送電網)やスマートシティなどの都市計画をさらに積極的に展開すべきと説いた。

さらに、NTTが研究してきた光技術による大容量データ通信ネットワーク「IOWN(アイオン)構想」のICT利活用も訴えている。「アイオン構想が実現すれば、エネルギー消費量を極めて減らした上で超高速、低遅延の大規模ネットワーク環境をICTデバイスにつなぐことが可能。日本の技術を世界に発信できる」として、国産技術のグローバル化に期待を寄せている。

これまで人権や労働、教育と多くの難題解決に取り組んできた。国会議員になってからは、休日も政策勉強用の書類を読み込む時間に充てて、余暇はほとんど取れていないという。それでも「政策の根幹は平和の実現。恒久平和をつくるためには貧困や差別があってはならない」と理念の実現に突き進む。座右の銘は米国16代大統領、エイブラハム・リンカーンが残した「意志あるところに道は開ける」。これからも明確な意志と実直な仕事で道を切り開いていく。

【需要家】省エネ技術の海外移転 今こそ積極推進を


【業界スクランブル/需要家】

世界の石油輸出の11%、天然ガス輸出の25%を占めるロシアに対する制裁は、欧州など各国のエネルギー安全保障に深刻な問題をもたらしている。ロシア産燃料依存からの脱却を進めれば、世界的な供給不足と価格高騰は免れず、化石燃料を輸入に頼る日本をはじめアジア諸国のエネルギーセキュリティーは深刻な事態に陥る。

3月4日にIEA(国際エネルギー機関)は、EUがロシアへの天然ガス依存から脱却するための10の計画を発表。うち三つが、建築物の断熱化、暖房温度の切り下げなど「省エネ」による需要抑制策である。強力な省エネの推進で燃料消費を抑制できれば、EU域内だけでなく、世界的な供給不足の緩和、価格高騰の抑制効果が期待できる。

そこにわが国の出番があるのではないか。日本は世界トップレベルの省エネ技術を持ち、最小限の化石燃料で無駄なくエネルギーを生み出す技術や知恵を持つ。これらを、輸入燃料に依存するアジア諸国に移転・普及させて燃料消費拡大を緩和すれば、価格高騰の抑制につながり、ひいては日本自身のエネルギー安全保障にも返ってくる。

温暖化防止国際会議・COP26では、パリ協定6条で技術協力による削減量の国際移転の仕組みが合意され、日本の二国間クレジット制度の本格運用の基盤も整った。今こそ日本は産業界の省エネ・高効率技術の海外普及を加速し、世界的なエネルギー危機の緩和に貢献するべきだろう。高効率石炭火力発電技術も除外すべきでない。現状石炭に依存するアジア諸国に、高騰局面にあるLNGへの転換を迫ることには無理がある。世界的なガス不足も助長しかねない。できるだけCO2排出を抑制しつつ石炭を使い続けてもらうことが、世界的なエネルギー危機の緩和につながる。(T)

廃炉と不可分の課題 放射性廃棄物処分場の確保


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.14】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

原子炉の廃炉で取り扱うのは全て低レベル廃棄物だが、世界的に嫌われものだ。

廃棄には国・県の了解がいるが、申請が行われず日本の廃炉工事は中断している。

放射性廃棄物の処分問題は廃炉と不可分の課題だが、僕はこの方面の専門でないので、廃炉経験での見聞についてのみ述べる。

原子力が始まったころは、放射性廃棄物は高・中・低の3区分であった。原子力の経験を積むうちに中レベル廃棄物が少ないことが分かり、いま日本では高低の2区分になっている。高レベル廃棄物とは、使用済み燃料と、その再処理過程で発生する高い放射性廃棄物を指し、低レベルはその他全体と考えておけばよい。高低の放射線レベルの差は大きい。目安で百万倍と言っておく。

廃炉工事に先立って、使用済み燃料は再処理工場に運搬されることが定められているから、廃炉で取り扱うものは全て低レベル廃棄物である。低レベル廃棄物は、放射線量の高い物、低い物、極低い物の3種類に分類され、便宜的にL1、L2、L3と呼ばれている。

低レベルといっても、L1には線量の高い物がある。例えば原子炉の内部構造物などは、運転中に中性子を浴びて放射化し続けているので、線量は非常に高い。JPDRの炉内構造物は、運転停止後10年で、10グレイほどの線量があった。ちなみに人間の致死線量は6Svであるから、10グレイといえば30分余りで致死量となる。低レベルだからと油断できない。

廃炉作業では、作業現場の線量からあらかじめ被曝線量を目算して、作業後に線量計の結果と比べる習慣を付けることをお薦めする。

解体を完了した米国発電所 廃棄物は処分場に艀で輸送

世界最初の解体撤去を完了した原子力発電所は、米国東部のペンシルバニア州にあったシッピングポート発電所だ。僕が訪れたのは30年以上の昔で、現場事務所の横手に、箱詰めされた廃棄物がいっぱい置かれていた。聞けば、発電所の建屋は汚染していて狭いので、中で測定すると解体した機器の線量が高く出る。正確を期して、屋外で測定して梱包したという。この話は、汚染度の高い事故炉の廃炉に役立つかもしれない。

廃棄物の送り先は、約3000マイル離れた米国の西海岸、オレゴン州の砂漠にあるハンフォード処分場だが、艀で輸送するという。理由は、TMI事故の余韻が10年経った当時も残り、輸送途中で予想される反対運動によるトラブルを避けるためという。TMI事故後の米国世論は、日本同様に厳しかったのだ。

発電所は名前通り、船着き場近くにある。大きな艀が出入りできるから、船にさえ乗せれば廃棄物は処分場に直行できる。その航路は、船着き場を流れるアレゲニー川からミシシッピー川に入り、カリブ海、パナマ運河を越えて太平洋を北上し、コロンビア川を遡るもので、航程約1万マイルという。

世界初の解体撤去を行ったシッピングポート発電所
提供:米国議会図書館資料

積み荷の大物は、何といっても圧力容器だ。制御棒などの放射線量の高い炉心材料を中に詰め込んで、内外をコンクリートで固めて遮蔽したら、重量が800tを超えたという。これでは重すぎて陸上輸送はできない。蒸気発生器などは、そのまま船積みという。

輸送での問題は、台風で名高いカリブ海を底の浅い艀で乗り切れるかにあった。現代版トム・ソーヤの冒険といえるが、台風に遭遇すれば、積み荷もろとも艀は転覆する。米国がなぜ危険な艀輸送を選んだのか、僕には分からない。

だが、いったん決まれば、米国の開拓者魂は血潮を沸き立たせる。鬼神もこれを避けたのだろう。航海では台風に遭わず、抗議運動もなく、艀輸送は成功した。ただし、天気予報会社の担当者の心労は並大抵でなかったという。

米国の廃棄物は、以降再び陸上輸送に戻る。さすがに米国、ヨーロッパでの激しい廃棄物輸送の反対運動を克服したかと思ったが、早とちりだった。TMIから取り出した溶融炉心の輸送は、反対運動に阻まれて頓挫した(第5回参照)。そういえば、使用済み燃料の処分場ヤッカマウンテンも、州政府の反対でいまだに稼働していない。放射性廃棄物の処分や輸送は米国でも嫌われもので、反対運動が根強い。

米国エネルギー省(DOE)は、こういった国民の気持ちの動きをよくつかんでいる。TMI事故の直後に環境管理計画を策定し、全米に散らばる原爆開発時代の古い研究施設の撤去や除染を行い、後腐れを一掃した。その費用約40兆円という。環境が戻ったことで気持ちが和んだのか、1990年代に起きた原子力ルネサンスは、国民の強い支持があったという。

書いていて、シッピングポートの海上輸送は、米国民の原子力意識を調査するためにDOEが試みたのではないかと、ふと思った。国民の意に沿えば実行し、反対には時の経つのを待つ、だが必須事項は強行を辞さない。米国の政治行政の呼吸は見事だ。

【再エネ】波紋呼んだ洋上風力公募 入札見直しは妥当


【業界スクランブル/再エネ】

昨年末に実施された第1回洋上風力発電占用公募3海域は、商社1社が独占し、これへの反応はマチマチである。政府関係者は、買い取り価格を入札制度に移行させ、予定通り国民負担の軽減となる方向については歓迎。ただ、入札上限価格を大きく下回る落札額になり、事業者の地元貢献策や建設工事が計画通りに進むのか、安定運営に問題はないか、などと危惧する関係者も少なくない。

先日、秋田県主催の洋上風力ロジスティクス講演会を聞いたが、施工体制や作業内容の説明を聞いても、地元請け作業はほとんどなく、対応が難しい潜水作業程度という状況である(数社下請けの作業、コンクリートなどの現場資材調達はある)。本当にこうした進め方がよいのか、かなり疑問が残る。やはり売電価格だけに重点化した入札方式では、地元貢献は難しいと言わざるを得ない。今後、占用公募は第2回、第3回と続く予定だが、入札審査の内容を公表するとともに、事業実現性の評価方式は改善するべきと考える。

他方、100万kW規模の大規模電源立地に伴う地元交付金などは検討されているのだろうか。過去の火力、原子力は電源立地交付金が半永久的に交付される形であり、洋上風力はこれらの政策とは異なるように映る。

もちろん、交付金などの陰に隠れて地元主体の地域活性化支援策が少なく、地元に活気が無いまま箱モノができていく昭和のエネルギー政策に戻ってほしくはない。だが、仮に洋上風力が地元への危険度が少ないと判断されるなら、福島第一原発事故から10年しかたっておらず、かついまだに使用済み燃料対策や最終処分場の方向性も見えない中で、化石燃料価格の高まりに合わせて原子力の再稼働を口にすることはいかがなものかと考える。(S)

【マーケット情報/5月20日】原油上昇、需要回復の見方広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油製品の需要が回復するとの予測が広がり、買いが優勢になった。

北半球は夏季に入り、燃料消費が増える見通し。先週の米国ガソリン在庫は、需要の強まりと輸出増加を背景に、12月初旬以来の最低を記録した。また、欧州では、5月12日までの一週間におけるフライト数が、パンデミック前の水準まで回復している。南半球のニュージーランドでも、国際便に対する規制撤廃の前倒しが計画されており、ジェット燃料の消費が一段と増加するとみられる。

供給面では、ハンガリーの石油会社MOLが、ロシア産原油の調達を停止する準備に入ったと表明。ハンガリーはロシア産への依存率が高く、政府は欧州共同体の禁輸措置に反対していた。供給減少の見込みが、買い意欲をさらに強めた。

一方、中国では4月、製油所の稼働率が、過去2年で最低を記録。5月はさらなる低下が予想されている。上海では16日からロックダウン緩和に向けた動きが始まるも、北京での規制は強化。経済減速にともなう需要後退の観測が、価格上昇を幾分か抑制した。

【5月20日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=113.23ドル(前週比2.74ドル高)、ブレント先物(ICE)=112.55ドル(前週比1.00ドル高)、オマーン先物(DME)=108.51ドル(前週比3.36ドル高)、ドバイ現物(Argus)=108.12ドル(前週比1.34ドル高)

【火力】需給ひっ迫後の検証 本質外れた議論


【業界スクランブル/火力】

去る3月22日、政府は、東京電力と東北電力のエリアに電力需給ひっ迫警報を初めて発令し、広く節電を呼び掛けた。そのおかげで大規模停電を回避することができたが、事後の検証では、警報発出のタイミングが遅いのではないかなどオペレーションに関わる話ばかりで、原因の本質に迫る議論に踏み込まれていないのは残念だ。

今回の需給ひっ迫の直接的原因は、16日の地震の影響で複数の火力発電所が停止したままのところに真冬並みの寒波と悪天候が重なったことだが、それとは別に、主に二つの要因が背景にあるものと考えている。

一つは太陽光など自然変動電源への対応が十分とはいえないことだ。東京電力エリアでの太陽光発電の最大出力は、前日の1256万kWから22日には175万kWへと激減している。この差は地震で停止していた火力335万kWの3倍以上だ。

もう一つは需要想定の難しさ。昨年10月時点の検証で東電エリアの3月の最大需要は、10年に一度の厳寒でも4536万kWとされていたが、直近の想定需要は4840万kWと300万kWも超過していた。

このように、需要想定の誤差が避けられず、さらに日によって供給力が大きく変動するようになった現状では、単に適正予備率を確保するという従来型の考え方だけでは十分な対応が取れていないのではないか。

頼みの揚水発電は、時間的制約があることが明らかとなる一方、火力の補修作業の時期変更で171万kWの供給力を戦力に加えることができた。この分は、時期をずらすだけなので計画時には予備力としてカウントできないが、だからこそいざというときに役に立つ二枚腰の対策となり得る。予備力についても、発電方式ごとの特性を考慮したきめ細かな対応が必要だ。(N)

高まるスタグフレーションの危機 影響免れぬエネルギー業界の打つ手は


【多事争論】話題:スタグフレーションとエネルギー

景気停滞と物価上昇が同時進行するスタグフレーションを警戒する見方が広まっている。

日本経済とエネルギー業界への影響が懸念されるが、専門家はこの状況をどう見るのか。

〈  石油ショックの経験を参考に 現在はアベノミクスのツケ重く 〉

視点A:飯倉 穣 経済地域研究所代表

エネルギー資源が高騰する中、2月以降のロシアの侵略戦争で、原油価格は現在1バレル当たり100ドル超、LNG輸入価格(2月)も100万BTU当たり15ドル(原油換算1バレル当たり約86ドル)である。そして米国金融政策の絡みで円下落となる。資源高騰や円安傾向下の経済運営と、エネルギー産業、とりわけ電力業の料金の姿を考える。

2021年の輸入額(前年比24%増、財務省貿易統計)は、鉱物性燃料(同1・5倍)の他、原料品、化学製品などおしなべて増加だった。為替安以上に単価の上昇がある。特にエネルギー価格は5割以上の値上げで、本年2月も1・8倍の上昇(昨年同月比)だった。輸入物価(指数)は、化石エネ価格の値上げで昨年23%上昇(前年比)し、2月も前年同月比34%アップだ。国内企業物価(指数)は、昨年約5%上昇(前年比)で、2月は約9%上昇(前年同月比)である。消費者物価(指数、2月)は、電気・都市ガス料金などエネルギーが約20%上げ(前年同月比)で、総合指数は0・9%上昇となった。

今後の経済は、エネルギー資源価格の高騰で縮小均衡調整となろう。政策として総需要抑制・金融引締への転換が基本である。わが国は、第一次オイルショック時(1973年)にエネルギー資源価格の上昇に直面した。その経験が参考になる。当時、石油価格の急騰に伴う輸入物価の上昇に加えて、千載一遇のチャンスとばかりドサクサ紛れの価格上乗せで、消費者物価(74年23・2%増)を異常に押し上げた。そして賃金の高騰(ベア73年20・1%増、74年32・9%増)を招いた。当時、経済学者の下村治博士は「原油価格の上昇で輸入物価の高騰はあるものの、消費者物価20%強の上昇は、ほとんどが便乗値上げである(上乗せを除けば本来6%程度)。便乗による物価高騰は、時間がたてば需要縮小で元に戻る。故に賃上げ時期を先延ばし、(生産コスト上昇に伴う)コストプッシュインフレを回避すべき」と指摘した。政府はこの考えに沿って賃上げ交渉時期を繰り延べた。これが功を奏し一時戦後初のマイナス成長ながら、他の欧米諸国が陥ったスタグフレーション突入を回避できた。

価格・供給安定性が脆弱化 自由化の修正必要に

エネルギー資源価格の上昇は、わが国に需給調整能力がないため、甘受せざるを得ない。輸入増額の支払いは、所得の移転であり、国民全体での負担となる。今回も同様の対応が賢明であろう。一方、米欧は物価抑制のため金融引締に動いている。その過程の円安である。国際政治情勢、貿易収支、量的緩和政策、投機などもあろうが、日米金利差拡大が主因のようである。その水準は購買力平価レート(現在100円前後)から乖離している。日本の金融政策(マイナス金利)への固執が影響している。アベノミクスのツケは重く、金利上昇なら財政破綻危機が迫る。為替調整を考慮した金融政策を日銀はできるだろうか。相当の国民負担を覚悟せざるを得ない。

電力産業はどうか。資源価格上昇は収支を直撃する。11年以降、電力業の収支構造は、原子力不稼働で燃料費の影響を強く受ける。また自由化で売り上げは不安定だ。昨年末以降のLNG・石炭価格高騰で、大手電力6社が22年3月期赤字見込みだ。為替が10円下落、原油・LNG・一般炭価格が10%上がれば、1兆円前後の燃料費負担増となる。高騰時の燃料費調整制度の制約もある。基準燃料費価格の概念が時代錯誤である。収支維持のため、燃料費の価格転嫁は当然だ。他方、公益事業体制崩壊で、自由化の下で販売競争もある。コスト削減などの工夫も必要だ。値上げは、当然他社の状況を見て、コスト回収・事業展開・株主還元を考慮し、競争に打ち勝つ水準を目指す。政府に必要な料金政策は、便乗値上げの監視だけである。

日本の電力の安定価格・供給は、福島第一原発への不適切対応と不要な電力自由化の混乱で、極めて脆弱になった。技術革新なき競争の下で、自己資本比率が低下し財政状況も弱体化し、必要な新規投資も抑制的にならざるを得ない。また原子力が展開困難な状況で、再生可能エネルギーだけでは化石エネ高騰対応の戦略を立てにくい。化石エネの国際価格に揺らぐ状況が続く。過去の公益事業体制なら、また原子力発電があったなら、政治の無理でしばらく料金抑制による影響緩和を画策したであろう。自由市場では企業の生き残りがかかっている。裕度のない時代である。消費者サイドは、自由市場ながらコストプラスフィーの考えを基本とする。料金監視と消費者重視の意味で、公益事業体制は合理的な制度であった。その視点でも今後電力自由化の修正が必要であろう。

いいくら・ゆたか  東北大学卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)設備投資研究所長、東北大学、学習院大学非常勤講師などを歴任。

【原子力】電力危機に沈黙 専門家の思考停止


【業界スクランブル/原子力】

ウクライナ侵攻を契機に化石燃料市場の不安定が続いている。特にわが国の天然ガスの8%に上るロシア産ガスに相当するガスを賄う手段が具体化しない。その中でエネルギー安全保障の観点から、与野党内で原発の早期再稼働が声高に叫ばれるようになった。しかし、国内原発36基のうち再稼働したのは10基にすぎない。特重施設の設置期限による停止などで、安定操業の見通しが立たない原発が少なくないのが現状だ。

3月22日、政府が東京電力と東北電力管内に「電力需給ひっ迫警報」を初めて発した。柏崎刈羽原発の再稼働さえ実現すれば、電力需給ひっ迫の懸念など吹き飛んでしまうことを誰もが分かっている。しかし、エネルギー専門家といわれる人や行政当局も、一切口にしない。コロナならぬ「思考停止」という病にほとんどの人が感染し、重病化しているのではあるまいか。

自民党の電力安定供給議連は、萩生田光一経済産業相に原発の緊急稼働と特重施設の期限見直しを提言した。原子力規制委員会の更田豊志委員長は「直ちに何かすることは考えていない」とコメントし、停戦協議を重ねながらも本気では停戦に応ずる気がないロシアのようだ。電力の安定供給に影響を及ぼし得る危機的状況という認識が根本的に欠如している。

現在安全審査中の原発は10基だが、審査が長引いており、合格には年単位の期間がかかりそうだ。直ちになすべきことを忘れ、現状を放置して電力安定供給を放棄することの愚を繰り返してはならない。エネルギー市場の不安定さが国民生活や産業に深刻な影響を与える中、原子力の便益を享受するため、規制の枠組みが適正か否かが改めて問いかけられている。それに適時・的確に応えるのが政府・政治家の使命だ。(S)

人材・リスク・技術革新が重要 迫り来る脱炭素社会への取り組み


【羅針盤(第2回)】中井俊裕/カーボンニュートラル・ラボ代表取締役/静岡大学客員教授

駿府城下町・静岡市を舞台に検討が進む「カーボンニュートラル城下町」構想。

その実現に向けて、企業は人材育成、リスク対応、技術革新に力を入れていく必要がある。

第2回となる今回は、より具体的に中井俊裕カーボンニュートラル・ラボ(NCL)が掲げるカーボンニュートラル城下町実現に向けた目標と当面の活動について紹介したい。
まず、前回の繰り返しになるがカーボンニュートラルへの取り組みが難しい理由として、長期的な取り組みであること、地球規模であることを挙げた。しかしながら、さらに事業者の目線を付け加えるならば、自社の事業環境が外部、内部ともに見通しづらいということも考えられる。
企業経営者もVUCA時代での事業計画に悩んでいる。VUCAは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取ったビジネス用語。先行きが不透明で、将来の予想が困難な状況だということだ。つまり、一つの計画に頼るより、複数のプランを状況別に選択できるような戦略的思考が肝要だという結論になる。まさにピーター・ドラッカーが言うところの未来は見通せないということだとつくづく思う。
しかし、事業環境が見通せない中でもカーボンニュートラル社会は確実に近づいてくる。そこで、クライアントと意見交換をする際は、①社員の環境意識の向上と教育、②複数の将来シナリオにおける自社のリスク、③リスクを自分たちの利益に変えることができるプログラムの検討―などをテーマとして挙げている。

人と活躍の場を作る 大学院で環境教育の実践へ

カーボンニュートラル社会がどのような社会になるのかは分からない。しかし、現在とは全く違う、新しい社会システムが構築されるだろう。そうした中で、まず大事なことは人材育成と、その人材が目的に向かって活躍できる場を作り出していくことだ。
各企業でも環境問題に対して意識の高い人材を育てるための取り組みを進めている。教育成果として、求められる姿を「自己で新しいことを考えることができる人材」と設定し、研修などを行っている。ある企業では社長が少人数のメンバーを選抜し、社員同士で意見交換をさせている。気候変動問題の本質について自分の意見を持つこと、現在の日本のエネルギー産業についての知見を深めることなどが目的だ。
しかし、エネルギーや環境という分野にこれまで取り組んでいない参加者にとっては難しいテーマでもあり、なかなか議論が進まない。とりわけ、ゼロ金利時代に社会人としてスタートした年代層は、発想力が乏しいようだ。
そこで、静岡大学に今年度から発足したカーボンニュートラル推進のためのプラットフォーム機能(CNAP)の活用を検討している。大学院生に対してゼミ形式で、カーボンニュートラルに関する制度やエネルギー関連の教育を実施。ある程度の知見を獲得できたところで、企業に長期でインターン研修をさせるというプログラムだ。
環境問題に興味のある学生たちが知識ばかりではなく、実践の場でカーボンニュートラル実現に向けた施策を考える機会になる。また企業側にとっては統計データの収集や制度調査などについて、ある程度の専門性を持った学生たちが担務することで、効率よく情報を取り入れるメリットもある。

カーボンニュートラル推進のためのプラットフォーム機能

製造部分だけでは難しい 技術と制度の対応が重要

一方で、企業内に専門家を育成していくことは必要だ。現在、カーボンニュートラル城下町・静岡の達成に向け、企業の担当者を集めた研修を企画している。やはり、企業内で同じような立場のメンバーが集まって情報の交換ができる場を作ることも、地域全体でのカーボンニュートラル化には欠かせない取り組みではないだろうか。
次に将来的シナリオについてだが、制度関連と新技術の両面からのアプローチを検討している。カーボンニュートラル達成のための必要条件として、新技術の開発と導入。それを受け入れるためには政策対応や制度設計が重要だ。新エネルギーの情報収集や、これからの経済をけん引する電気自動車(EV)や蓄電池の動向も注視しながら、地域企業と情報の共有化を図っている。
また、企業のリスクシナリオについても策定を行っている。これは、東証のプライム市場で求められているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に準じた手法を用いているが、その前提となる2℃/4℃シナリオなどを巡っては、いろいろな情報が複雑に入り交じっており、一般には理解が難しい構図となっている。そこで、まずは具体的かつ直近で導入が検討されているカーボンプライシング(CP)の影響についてクライアントと取り組んでいる。環境関連投資の判断に大きく影響すると思われる環境税や排出量取引などのCP関連制度の行方について、今からシナリオを用意しておくべきである。
さて、それらのリスクに対して自社がどのような対策を講じるべきなのかというのが最大の課題である。まずは、自社で排出しているCO2量を把握することが大事だが、その際に重要なことはカーボンフットプリントという概念だ。一つの製品を消費者に提供するまでの段階で、最もCO2が排出される場所は製造現場である。しかし、製造段階のみに排出責任を負わせては、新たなイノベーションは生まれない。
例えば、国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を各国で比較してみると、以前は欧州各国よりも日本の方が少なかった。ところが現時点では、既に欧州との立場は逆転している。理由は、日本の産業構造転換が遅れ、欧州は観光や金融などの新しい分野に移行したからだ。日本で製造した製品が欧州で使われ消費者の便益を満たすなら、本来公平に負担すべきという意見もある。
これと同じように、国内においても、製造段階のみならず、物流や小売りなどと一体となった対策を施すことが地域全体の脱炭素社会を実現するすべであると思う

なかい・としひろ 1986年宇都宮大学工学部卒、静岡ガス入社。静岡ガス&パワー社長などを経て、2022年3月退社。中井俊裕カーボンニュートラル・ラボを設立し現在に至る。

【羅針盤(第1回)】 駿府城・静岡市の特性を生かす 官学民連携で新たな脱炭素モデルへ https://energy-forum.co.jp/online-content/8491/

【石油】苦境の人々の救済策 脱炭素の棚上げ


【業界スクランブル/石油】

凄惨な展開の中、ウクライナ紛争は長期化予想も出ている。東部が取れない限り、プーチンは引けないだろうし、原油価格高騰が続く限りは、戦費負担を含めロシアの経済的破綻はない。逆にいえば、早期終結を図るには、原油価格を暴落させるのが最善である。バイデンがシェール増産に走ればよい。

そもそもソビエト連邦とベルリンの壁崩壊の最大の原因は、1980年代後半の原油暴落にある。ロシアの国力、プーチンの国民的人気は、原油価格水準に比例する。プーチンが大統領になったのも、98年のアジア危機に伴う原油価格の暴落で、デフォルト寸前のエリツィンが政権を投げ出したからである。逆に、2014年のクリミア侵攻は原油価格が100ドル前後で推移していた時期である。

シェール増産による15年の暴落からの回復は、17年からのロシアとサウジアラビアの石油同盟「OPECプラス」の生産調整の成果である。対イラン関係を除けば、米国はもはやサウジの同盟国とはいえない。したがって、サウジはロシアに好意的中立を保ち、増産には動かない。

加えて、サウジもロシアも、コロナ禍後、増産志向から高価格志向に石油政策を転換した。価格を含めた長期安定供給路線から、脱炭素による化石資源の座礁資産化に備えた、短期的高収益路線への転換である。

需要の回復に伴う原油価格の高騰に昨年12月以降、ウクライナ情勢が拍車を掛けたのは事実だが、その根底には、脱炭素に備えた産油国の増産遅延による需給ひっ迫がある。

国産石炭からロシア産天然ガスへの依存で、有効な経済制裁に動けない欧州諸国と併せて、世界的な脱炭素にウクライナは苦しめられている。苦境の人々を救う最善の方法は、脱炭素の棚上げかもしれない。(H)

【検証 原発訴訟】現在も通用する審理・判断法 施設の安全性判断の焦点は


【Vol.2 伊方最判②】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

前回は、伊方最高裁判決で、行政機関に専門技術的裁量があることを認めた経緯を説明した。

今回は、原子炉施設の安全性についてどう判断したのか、そのポイントを解説する。

 前回に引き続き、伊方発電所に関する最高裁判決を取り扱う。初回は伊方最判が、原子炉設置許可処分の根拠となっている原子炉等規制法の規定について、原子炉施設の安全性に関して行政機関が行う審査に焦点を当てた法律解釈をし、実質的に行政機関に専門技術的裁量を認めたことを確認した。

なお、伊方最判でも「原子炉施設の安全性」との言い回しを使っているが、炉規法の原子炉設置許可基準の規定には「安全」という文言は使わず、「災害の防止上支障がない」ことが求められている。その意味では、原子炉施設が安全か否かという単純な問題ではないが、分かりやすさから本稿でも「原子炉施設の安全性」とする。

伊方最判は、行政機関に専門技術的裁量があることを前提として、原子炉設置許可取消訴訟における裁判所の審査・判断の方法については行政機関の判断を尊重し、行政庁の判断に合理性が積極的に認められるか否かという基準ではなく、「行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべき」と述べた。これは、行政庁の判断が合理的とまで積極的に認定できないが、不合理とまでも積極的に認定できない場合でも違法にならないということになり、行政庁の判断が救済される範囲が広くなる。つまり、裁判所が行政機関の判断に積極的な誤りがあるか否かをチェックするという基準を示した。

設置許可が違法か否か 裁判所が二段階で司法審査

そしてより具体的な判断基準として、伊方最判ではやはり原子炉施設の安全性に関して行政機関が行った審査に焦点を当てて、①現在の科学技術水準に照らし、②当時の原子力委員会もしくは原子炉安全専門委員会の専門技術的な調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点がある場合、または、③当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした当時の原子力委員会もしくは原子炉安全専門審査会の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合―に原子炉設置許可処分が違法となるとした。

まず②と③では、原子炉設置許可処分が違法になるか否かは、第一段階として、原子炉施設の安全性に関する行政機関の審査の際に用いた審査基準に不合理な点があるか否かを検討する。ここで不合理な点がないとしても、第二段階として、この審査基準への当てはめに当たる調査審議や判断過程(原子炉施設の安全性に関する行政機関の審査過程)に看過し難い過誤、欠落があるか否かを検討する、という二段階での司法審査を行うとしたのである。そして②では「調査審議に用いられた具体的審査基準」と指摘しているため、原子炉施設の安全性に関する行政機関の審査で用いられていない審査基準の不合理性は問題にならないということになる。また、③では「看過し難い過誤、欠落」と述べているため、原子炉施設の安全性に関する行政機関の審査過程において、およそ重大な過誤などがなければ、原子力設置許可処分が違法になることはない。

この判断枠組みに従えば、通常であれば行政庁の判断が違法になりにくいことになる。もっとも、これはあくまで判断枠組みであるため、実際に、裁判所が裁判においてどのような証拠からどのような事実を認定するか、また、どの程度裁判所が詳細に判断するのかなどによって、緩やかにも厳しくもなり得る。伊方最判の判断枠組みをその後の多くの原発訴訟で踏襲しながらも、東日本大震災後に原子炉の運転差止めを認める決定が増えているのも、このような事情が影響していると思われる。

伊方最判は、前述の②と③を、①「現在の科学技術水準に照らし」判断するとしている。この点について、最高裁調査官による伊方最判の解説には、「どの時点の科学技術水準により判断するべきかは、科学的経験則の問題であり、従前の科学的知識の誤りが指摘され、従前の科学的知識に誤りのあることが現在の学界における通説的見解になったような場合には、現在の通説的見解(これが当該訴訟において用いられるべき科学的経験則である)により判断すべきであろう」とされている。最高裁調査官は、担当案件の争点や問題点を下調べして整理する存在であり、最高裁調査官による解説は実務上とても重要である。

伊方発電所を巡る訴訟は30年弱続いた

後の知見を用いることも可能 最高裁調査官の解説が指摘

要するに、裁判所が審理する際に、原子炉設置許可処分時までに存在した証拠や知見からしか事実を認定できないのか、その後の証拠や知見を用いて事実を認定することもできるのかという問題について、裁判所が審理する時の証拠や知見を用いて事実を認定することができると捉えると分かりやすいだろう。もっとも、このことは現在(裁判所が審理する時)の科学技術水準と、原子炉設置許可処分時の実際の行政機関の審査過程とがあまりにかけ離れていた場合、行政機関の判断を尊重するとした前提との整合性が問題となり得る。難しい問題を含んでおり、個々の事件で具体的に検討していくしかないと思われる。ちなみに、「最新の科学的、専門技術的知見」ではなく、「科学技術水準」という文言を用いているのは、先ほどの調査官解説にも用いられた「通説的見解」に至った科学的、専門技術的知見を念頭に置いているためと思われる。

伊方最判が出された1992年当時と現在とでは、原子力規制委員会(委員長及び委員は、人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い見識を有する者から任命される)が設置され、炉規法の法改正もなされ、規制委員会規則等が制定されるなどの違いがある。

しかし現在でも、伊方最判が指摘した、原子炉施設の安全性に関して規制委が行う審査の特質には変更がない。炉規法の解釈上、規制委に専門技術的裁量が認められるとの判断には変わりはなく、伊方最判が示した裁判所の審理・判断の方法は現在でも通用すると見られる。だから伊方最判の判断枠組みを、その後の多くの原発訴訟が踏襲しているのである。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。